(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】潤滑剤の分布状態測定システム及び潤滑剤の分布状態測定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20230417BHJP
【FI】
G01M13/04
(21)【出願番号】P 2019046144
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】遠山 護
(72)【発明者】
【氏名】大宮 康裕
(72)【発明者】
【氏名】村田 順司
(72)【発明者】
【氏名】春山 朋彦
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-196760(JP,A)
【文献】国際公開第2014/030555(WO,A1)
【文献】特開2009-288007(JP,A)
【文献】特開2017-227502(JP,A)
【文献】特表2011-507001(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185943(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/142057(WO,A1)
【文献】特開2019-144196(JP,A)
【文献】春山朋彦 他,”蛍光粒子を利用したグリース流動可視化の研究-第2報:グリース特性の影響”,日本トライポロジー学会トライポロジー会議2017春東京予稿集,2022年05月15日,361~364頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪及び外輪を備え、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方が光を透過する転がり軸受部であって、前記内輪及び前記外輪の間に、励起光により蛍光を発光する量子ドットを分散させた潤滑剤を貯留する貯留部を備えた転がり軸受部と、
前記転がり軸受部を回転させながら前記貯留部に、前記励起光を照射する照射部と、
前記貯留部を撮影する撮影部により撮影した撮影画像から前記量子ドットの蛍光強度を2次元測定する測定部と、
前記測定部により測定された蛍光強度に基づいて、回転する前記転がり軸受内部の潤滑剤の分布状態を導出する導出部と、
を備え
、
前記量子ドットの表面に親油性基が配位されている
潤滑剤の分布状態測定システム。
【請求項2】
前記転がり軸受部の軸受及び回転軸の少なくとも一方に対して回転軸と交差する方向に荷重を付与する付与部をさらに備えた
請求項1に記載の潤滑剤の分布状態測定システム。
【請求項3】
前記量子ドットが発光する蛍光の波長は、450nmから680nmである
請求項1
又は請求項2に記載の潤滑剤の分布状態測定システム。
【請求項4】
前記照射部は、前記量子ドットが発光する蛍光の波長未満の光を照射し、
前記内輪及び前記外輪と前記撮影部との間に、前記量子ドットが発光する蛍光の波長以上のバンドパスフィルターを更に備える
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の潤滑剤の分布状態測定システム。
【請求項5】
前記照射部は、照射時間が1ミリ秒以下の光を、前記転がり軸受の回転周期に同期して照射する
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の潤滑剤の分布状態測定システム。
【請求項6】
内輪及び外輪を備え、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方が光を透過する転がり軸受部であって、前記内輪及び前記外輪の間に、励起光により蛍光を発光する量子ドットを分散させた潤滑剤を貯留する貯留部を備えた転がり軸受部を、回転させながら前記貯留部に、前記励起光を照射し、
前記貯留部を撮影する撮影部により撮影した撮影画像から前記量子ドットの蛍光強度を2次元測定し、
測定された蛍光強度に基づいて、回転する前記転がり軸受内部の潤滑剤の分布状態を導出する
方法であって、
前記量子ドットの表面に親油性基が配位されている、
潤滑剤の分布状態測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤の分布状態測定システム及び潤滑剤の分布状態測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レシプロ型内燃機関の摩擦損失及びオイル等の消費量の低減には、実働運転時におけるピストン周辺の油膜挙動を把握することが重要である。このような油膜挙動を把握する方法として、レーザ蛍光油膜厚さ測定方法が挙げられる。レーザ蛍光油膜厚さ測定方法は、蛍光物質を含有させた潤滑油膜に短波長のレーザ光を照射したとき、励起される蛍光の強度が油膜厚さに比例することを利用した計測方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、シリンダと該シリンダ内に配設されるピストンとの間に介在する潤滑油に、蛍光物質を混入し、レーザ光をシリンダの内部に入射すると共に該レーザ光により励起された蛍光強度を光センサで検出し、検出された蛍光強度に基づいてレーザ光が入射された部位における潤滑油の厚さを測定する油膜厚さ測定装置が開示されている。また、特許文献1では、蛍光物質として有機系の色素化合物であるクマリン6を用いることが開示されている。油膜厚さを測定する場合、クマリン6以外に有機系の色素化合物であるローダミンBが一般的に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、蛍光物質としてクマリン6、ローダミンB等の有機系の色素化合物を用いたレーザ蛍光油膜厚さ測定方法が広く適用されている。
【0006】
しかしながら、有機系の色素化合物を用いて油膜の厚さを測定する場合、有機系の色素化合物自身の遮光の影響により、膜厚の大きい油膜の厚さの測定は困難である。具体的には、有機系の色素化合物としてクマリンを用いた場合、油膜の厚さ測定は100μm程度が限界である。
また、励起光により、有機系の色素化合物の退色が生じるため、連続的又は長期的に安定した計測が困難である。
また、温度による有機系の色素化合物の光学特性の変化が大きく、温度が変化する条件では、正確な油膜厚さを測定することが困難である。
また、有機系の色素化合物は、蛍光強度が小さく、かつ油に対する溶解性が低い。そのため、充分な蛍光強度を得るために多量の有機系の色素化合物を油に添加した場合、有機系の色素化合物の析出が生じてしまい、高いS/N比(信号雑音比)を得ることが困難である。
【0007】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、転がり軸受部の回転中に内部に分散された潤滑剤の分布状態を安定的に測定可能な潤滑剤の分布状態測定システム及び潤滑剤の分布状態測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様は、内輪及び外輪を備え、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方が光を透過する転がり軸受部であって、前記内輪及び前記外輪の間に、励起光により蛍光を発光する量子ドットを分散させた潤滑剤を貯留する貯留部を備えた転がり軸受部と、前記転がり軸受部を回転させながら前記貯留部に、前記励起光を照射する照射部と、前記貯留部を撮影する撮影部により撮影した撮影画像から前記量子ドットの蛍光強度を2次元測定する測定部と、前記測定部により測定された蛍光強度に基づいて、回転する前記転がり軸受内部の潤滑剤の分布状態を導出する導出部と、を備え、前記量子ドットの表面に親油性基が配位されている、潤滑剤の分布状態測定システムである。
【0009】
本開示の第2態様は、第1態様に記載の潤滑剤の分布状態測定システムにおいて、前記転がり軸受部の軸受及び回転軸の少なくとも一方に対して回転軸と交差する方向に荷重を付与する付与部をさらに備える。
【0011】
本開示の第3態様は、第1態様又は第2態様に記載の潤滑剤の分布状態測定システムにおいて、前記量子ドットが発光する蛍光の波長は、450nmから680nmである。
【0012】
本開示の第4態様は、第1態様から第3態様の何れか1態様に記載の潤滑剤の分布状態測定システムにおいて、前記照射部は、前記量子ドットが発光する蛍光の波長未満の光を照射し、前記内輪及び前記外輪と前記撮影部との間に、前記量子ドットが発光する蛍光の波長以上のバンドパスフィルターを更に備える。
【0013】
本開示の第5態様は、第1態様から第4態様の何れか1態様に記載の潤滑剤の分布状態測定システムにおいて、前記照射部は、照射時間が1ミリ秒以下の光を、前記転がり軸受の回転周期に同期して照射する。
【0014】
本開示の第6態様は、内輪及び外輪を備え、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方が光を透過する転がり軸受部であって、前記内輪及び前記外輪の間に、励起光により蛍光を発光する量子ドットを分散させた潤滑剤を貯留する貯留部を備えた転がり軸受部を、回転させながら前記貯留部に、前記励起光を照射し、前記貯留部を撮影する撮影部により撮影した撮影画像から前記量子ドットの蛍光強度を2次元測定し、測定された蛍光強度に基づいて、回転する前記転がり軸受内部の潤滑剤の分布状態を導出する方法であって、前記量子ドットの表面に親油性基が配位されている、潤滑剤の分布状態測定方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、転がり軸受部の回転中に内部に分散された潤滑剤の分布状態を安定的に測定可能な潤滑剤の分布状態測定システム及び潤滑剤の分布状態測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る潤滑剤分布状態測定システムの概略構成の一例を示す図である。
【
図3】演算制御装置の機能別の構成の一例を示す図である。
【
図4】液状潤滑剤の蛍光強度と厚さ(膜厚)との関係の一例を示す図である。
【
図5】量子ドットの蛍光強度と液状潤滑剤の厚さとの関係の一例を示す図である。
【
図6】演算制御装置をコンピュータを含む構成で実現した一例を示す図である。
【
図7】潤滑剤分布演算プログラム77Pの処理の流れの一例を示す図である。
【
図8】白色光の照射による観察部位の撮影画像の一例を示す図である。
【
図10】回転状態における蛍光像の一例を示す図である。
【
図11】回転状態でUV光を連続照射した際の蛍光像の一例を示す図である。
【
図12】白色光の照射による観察部位の撮影画像の一例を示す図である。
【
図13】回転状態での蛍光像の一例を示す図である。
【
図14】玉軸受の内輪側を測定可能な回転機構部の一例を示す図である。
【
図15】玉軸受の内輪側をさらに測定可能な回転機構部の一例を示す図である。
【
図16】第2実施形態に係る潤滑剤分布状態測定システムの概略構成の一例を示す図である。
【
図17】ニードル軸受の外観の一例を示す図である。
【
図18】静止状態での蛍光像の一例を示す図である。
【
図19】低回転状態のニードル軸受における蛍光像の一例を示す図である。
【
図20】高回転状態のニードル軸受における蛍光像の一例を示す図である。
【
図21】静止状態における観察領域の蛍光像に関して3次元表示した画像の一例を示す図である。
【
図22】低回転状態における観察領域の蛍光像に関して3次元表示した画像の一例を示す図である。
【
図23】高回転状態における観察領域の蛍光像に関して3次元表示した画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の技術を実現する実施形態の一例を詳細に説明する。本開示では、転がり軸受の回転状態において、転がり軸受内部に与えられた潤滑剤の分布状態を測定する潤滑剤分布状態測定システムに、本開示の技術を適用した場合を一例として説明する。
【0018】
[潤滑剤分布状態測定システム]
本開示の潤滑剤分布状態測定システムは、内輪及び外輪を備え、前記内輪及び前記外輪の少なくとも一方が光を透過する転がり軸受部であって、前記内輪及び前記外輪の間に、励起光により蛍光を発光する量子ドットを分散させた潤滑剤を貯留する貯留部を備えた転がり軸受部と、前記転がり軸受部を回転させながら前記貯留部に、前記励起光を照射する照射部と、前記貯留部を撮影する撮影部により撮影した撮影画像から前記量子ドットの蛍光強度を2次元測定する測定部と、前記測定部により測定された蛍光強度に基づいて、回転する前記転がり軸受内部の潤滑剤の分布状態を導出する導出部と、を備える。
【0019】
量子ドットは、有機系の色素化合物と比較して励起光の照射により劣化しにくく、蛍光強度に優れ、かつ液状潤滑剤に対する溶解性に優れる傾向にある。このため、本開示の潤滑剤分布状態測定システムは、例えば液状の潤滑剤の分布状態を長期間にわたって安定的に測定可能である。
【0020】
また、量子ドットは有機系の色素化合物と比較して自身の遮光の影響を抑制でき、膜厚が大きい潤滑剤の厚さを測定することができる。例えば、本開示の潤滑剤分布状態測定システムでは、サブμmからmmオーダまでの広範囲の潤滑剤の厚さ、例えば、0.1μmから5mmオーダまでの潤滑剤の厚さを精度良く測定できる。
【0021】
また、量子ドットは有機系の色素化合物と比較して温度による蛍光波長、蛍光強度等の変化が小さく、温度が変化する条件においても精度良く潤滑剤の厚さを測定できる。
【0022】
なお、本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施形態に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。潤滑剤中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、潤滑剤中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0023】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る潤滑剤分布状態測定システムは、玉軸受を本開示の転がり軸受の一例として用いて、転がり軸受の回転状態において、玉軸受内部に与えられた潤滑剤の分布状態を測定する。
【0024】
図1に、第1実施形態に係る潤滑剤分布状態測定システム100の概略構成の一例を示す。
図1に示すように、潤滑剤分布状態測定システム100は、照射部1、1A、本開示の測定部の一例である画像測定部2、2A、及び本開示の転がり軸受部の一例である玉軸受3Aが回転可能に取り付けられた回転機構部3を備えている。また、潤滑剤分布状態測定システム100は、本開示の導出部の一例である演算制御装置7を備えている。
【0025】
潤滑剤分布状態測定システム100は、回転機構部3における玉軸受3Aの側部(
図1では左側)と径方向の上部(
図1では上側)との各々の部位を観察するために画像測定部2、2A(詳細は後述)が設置されている。以降、玉軸受3Aの径方向の上部(
図1では上側)を観察する場合を主として説明する。
回転機構部3は回転部36を備えており、回転部36の中心軸は、弾性カップリング5を介して、モータ等の回転駆動部6に連結されている。回転機構部3と回転駆動部6の間には、軸を上下方向に変位することで玉軸受3Aに荷重を付加する軸荷重付与部4が設けられている。
【0026】
<回転機構部>
本開示の転がり軸受部の一例である玉軸受3Aは、光透過型深溝玉軸受を用いており、内輪31及び外輪32を備え、内輪31及び外輪32の少なくとも一方が光を透過する。また、玉軸受3Aは、内輪31及び外輪32の間に玉33を備えており、その内輪31及び外輪32の間の領域に、励起光により蛍光を発光する量子ドットを分散させた液体状の潤滑剤(以下、液状潤滑剤という。)を貯留する貯留部35を備える。
【0027】
また、回転機構部3は、正面にはガラス窓37を設け、液状潤滑剤を封じ込めると共に、玉軸受3Aを観察可能としている。断面図において、ガラス窓部以外には、玉軸受3Aに供給する液状潤滑剤を循環もしくは密封可能とする密封容器部38を設けている。
【0028】
<貯留部>
貯留部35は、液状潤滑剤の厚さを測定する位置にて量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光を透過可能であればよい。また、貯留部35は、量子ドットを分散させた液状潤滑剤が貯留された状態であってもよい。
【0029】
液状潤滑剤としては、量子ドットを分散可能であれば特に限定されない。液状潤滑剤としては、水系潤滑剤、シリコーン系潤滑剤、油性潤滑剤等が挙げられ、中でも、油性潤滑剤が好ましい。油性潤滑剤としては、炭化水素系油、エステル油等を基油とした、オイル、グリースなどが挙げられ、より具体的には、エンジンオイル、オートマチックトランスミッションフルード等の潤滑油などであってもよい。
なお、液状潤滑剤としては、使用環境下において流動性を有する潤滑剤であればよく、例えば常温にて流動性を有しないものであってもよい。
【0030】
(量子ドット)
量子ドットとしては特に制限されず、CdSe、CdTe、CdS、ZnS、ZnSe、ZnTe、ZnO、HgS、HgSe、HgTe、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、HgZnTe、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe、ZnCuInS、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InN、InP、InAs、InSb、GaNP、GaNAs、GaNSb、GaPAs、GaPSb、AlNP、AlNAs、AlNSb、AlPAs、AlPSb、InNP、InNAs、InNSb、InPAs、InPSb、GaAlNP、GaAlNAs、GaAlNSb、GaAlPAs、GaAlPSb、GaInNP、GaInNAs、GaInNSb、GaInPAs、GaInPSb、InAlNP、InAlNAs、InAlNSb、InAlPAs、InAlPSb、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe、SnSeS、SnSeTe、SnSTe、PbSeS、PbSeTe、PbSTe、SnPbS、SnPbSe、SnPbTe、SnPbSSe、SnPbSeTe、SnPbSTe、Si、Ge、SiC、SiGe等が挙げられる。
【0031】
量子ドットとしては、コアシェル構造を有していてもよい。コア及びシェルの組み合わせ(コア/シェル)としては、CdSeS/ZnS、CdS/ZnS、CdSe/ZnS、CdSe/CdS、InP/ZnS、ZnCuInS/ZnS、PbSe/PbS、CdTe/CdS、CdTe/ZnS等が挙げられる。
また、量子ドットとしては、カーボン量子ドット,炭素量子ドット,グラフェン量子ドット等も挙げられる。
なお、人体及び環境への悪影響を抑える観点から、鉛(Pb)を含む量子ドットは使用しないことが好ましい。
【0032】
量子ドットはその表面に配位子が配位していることが好ましい。これにより、液状潤滑剤中における量子ドットの分散性が向上し、液状潤滑剤中での量子ドットの凝集、沈殿等を抑制できる傾向にある。その結果、液状潤滑剤中にて均一性高く量子ドットを長期間にわたって分散させることができ、精度良く液状潤滑剤の厚さを測定できる傾向にある。
【0033】
配位子としては、炭化水素基とともに、アミノ基、カルボキシ基、メルカプト基、ホスフィン基及びホスフィンオキシド基の少なくともいずれか1つの置換基を有する化合物が好ましく、炭素数10以上の炭化水素基とともに、前述の置換基を有する化合物がより好ましい。
【0034】
配位子の具体例としては、ヘキシルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン、オレイン酸、メルカプトプロピオン酸、トリオクチルホスフィン及びトリオクチルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0035】
量子ドットの蛍光波長(蛍光ピーク波長)は、450nm~680nmであることが好ましい。また、量子ドットとして、蛍光波長が450nm~680nmである量子ドットを1種用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0036】
2種以上の量子ドットを用いる場合、2種以上の量子ドットは、量子ドットの蛍光強度の面積に対する当該量子ドットと他の量子ドットとの蛍光強度の重複面積との比率がそれぞれ10%以下であることが好ましい。
なお、前述の比率は0%であることが好ましく、すなわち、ある量子ドットの蛍光強度と、他の量子ドットの蛍光強度とが重複する領域が存在していないことが好ましい。
【0037】
3種の量子ドットを用いる場合、3種の量子ドットは、量子ドットの蛍光強度の面積に対する当該量子ドットと他の量子ドットとの蛍光強度の重複面積との比率がそれぞれ10%以下であることが好ましく、量子ドットの蛍光波長はそれぞれ400nm~500nm、500nm~570nm及び570nm~680nmであることが好ましい。
【0038】
液状潤滑剤における量子ドットの含有率は、0.0001質量%~0.1質量%であることが好ましく、0.0003質量%~0.1質量%であることがより好ましく、0.0005質量%~0.05質量%であることが更に好ましく、0.001質量%~0.01質量%であることが特に好ましい。なお、液状潤滑剤における量子ドットの含有率は、液状潤滑剤の想定される厚さに応じて適宜調整すればよい。例えば、液状潤滑剤の想定される厚さが比較的小さい場合には、前述の含有率を高くし、液状潤滑剤の想定される厚さが比較的大きい場合には、前述の含有率を小さくすることが好ましい。
【0039】
なお、蛍光物質としてクマリン6を用いた場合、液状潤滑剤におけるクマリン6の含有量は、0.14g/L~0.28g/Lとすることが好ましいとされている。ここで、エンジン液状潤滑剤の密度が0.85g/cm3程度であることから含有率に換算すると、0.016質量%~0.032質量%となる。有機系の色素化合物は、液状潤滑剤への溶解性が悪く析出しやすく、例えば、クマリン6は液状潤滑剤における含有率が0.032質量%超になると析出しやすくなると考えられる。
【0040】
一方、量子ドットは液状潤滑剤における含有率が高濃度であっても析出が抑制され、液状潤滑剤に安定的に分散できる傾向にある。したがって、量子ドットを蛍光物質として用いた場合、高い蛍光強度が得られ、かつ高いS/N比が得られる傾向にある。
【0041】
3種の量子ドットを用いる場合、量子ドットの蛍光波長はそれぞれ400nm~500nm、500nm~570nm及び570nm~680nmであり、かつ、量子ドットの含有率はそれぞれ独立に0.0001質量%~0.033質量%であることが好ましく、0.0005質量%~0.01質量%であることが更に好ましく、0.001質量%~0.01質量%であることが特に好ましい。
【0042】
量子ドットの粒径は、1nm~50nmであることが好ましく、1nm~20nmであることがより好ましく、3nm~10nmであることが更に好ましい。
【0043】
使用する量子ドットは、カメラ等の受光器の分光特性や波長帯域感度に応じて選定することが好ましい。例えば、カメラ等の受光器の受光感度が高い波長帯域の発光特性を有するものが好ましく、具体的には、受光器の相対感度が0.8以上の波長帯域に、発光輝度が最大となる波長から±50nm帯域の蛍光特性を有するものが好ましく、波長±30nmの帯域を有するものが更に好ましい。
【0044】
(液状潤滑剤)
次に、液状潤滑剤の具体的な一例を説明する。量子ドットとして、オレイン酸基(炭素数18)で表面修飾されかつ、蛍光スペクトル波長(中央値)が450nm、540nm、575nm、630nm、665nmである粒径6nmのCdSeS/ZnS合金型量子ドットの1mg/mLトルエン溶液(シグマアルドリッチ社製)あるいは、蛍光スペクトル波長(中央値)が620nmである粒径5nmのInP/ZnS系の5mg/mLトルエン溶液(シグマアルドリッチ社製)の計6種類を用いた。
【0045】
量子ドット含有量がオイルに対して、それぞれ0.000010wt%~0.10wt%となるよう、トルエン溶液を炭化水素系ベースオイルであるYUBASE-8(SKコーポレーション社製)あるいは市販のオートマチックトランスミッションフルードのトヨタ オートフルードWSに、各量子ドットを含有させた混合液を作製した。
【0046】
次いで、混合液を80℃で28時間加熱し、トルエンを除去して、量子ドット含有オイルを調製した。
CdSeS/ZnS合金型量子ドット含有オイル(量子ドット濃度0.10wt%)の外観および紫外線照射時の発光の様子を
図1に示す。量子ドットの蛍光スペクトル波長に応じて、青~赤の様々な蛍光特性を示すことが分かる。また、本手法で作製した量子ドット含有オイルでは、量子ドットが安定的にオイルに均一分散しており、1ヶ月間放置後も、沈殿や分離を生じなかった。InP/ZnS量子ドット含有油も同様に安定した分散特性、蛍光特性を示した。In/ZnS系のものは、CdSeS/ZnS系に対して、Cdフリーである点で、安全上の取扱性が良好となる。
【0047】
<照射部>
照射部1は、玉軸受3Aを回転させながら玉軸受内部に形成された貯留部35に、励起光を照射する。具体的には、照射部1は、回転機構部3における径方向の上部(
図1では上側)の部位を観察するための励起光を照射する。
照射部1は、回転状態での玉軸受内部の液状潤滑剤の分布挙動を測定可能に、発光時間と発光周期をそれぞれ1発光/μs~1発光/s(連続発光)まで、発光周期を最大1kHzまで制御可能になっている。この発光周期は演算制御装置7などの外部システムからのトリガー信号によって任意に制御可能としている。
【0048】
照射部1は、量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光を照射可能であればよく、例えば、紫外線を照射可能であればよい。また、照射部は、量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光と共に、量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光以外の光、例えば、可視光を照射するものであってもよい。
【0049】
照射部1の照射光波長は、100nm以上でかつ450nm未満(100≦λ<450)であることが好ましい。照射部1は発する照射光は、照射光波長が100nm以上でかつ450nm未満である光源を1種用いてもよく、2種以上用いてもよい。
特に、照射部1は、450nm以上(λ≦450)の光の発光強度割合が全体の光強度の0.01%未満であることが好ましい。
【0050】
より具体的には、照射部1は、発光ダイオード(LED)、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ディープ紫外線ランプ、紫外線レーザ、キセノンランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。また、照射部がレーザ光を照射する紫外線レーザ等である場合、照射部と貯留部との間に貯留部におけるレーザ光の照射位置を変更する可動ミラーが配置されていてもよい。
【0051】
例えば、照射部1が、量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光である紫外線と、量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光以外の光である可視光とが混ざった光を照射する場合、照射部1と貯留部35との間に紫外線透過可視吸収フィルターを配置することが好ましい。これにより、可視光が紫外線透過可視吸収フィルターに吸収され、紫外線のみが貯留部に貯留される量子ドットを含む液状潤滑剤に照射される。
【0052】
貯留部35に量子ドットを含む液状潤滑剤が貯留されている場合、量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光が貯留部35を透過し、液状潤滑剤に照射される。液状潤滑剤に含まれる量子ドットに、量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光が照射されることにより、量子ドットが励起され、量子ドットは所定波長の蛍光を発光する。次に、量子ドットの蛍光強度は、画像測定部2によって2次元測定される。
【0053】
液状潤滑剤に含まれる量子ドットの含有率が一定の場合、量子ドットの蛍光強度は液状潤滑剤の厚さに比例する。この性質を利用することにより、液状潤滑剤の厚さを測定することができる。
また、照射部1Aは、玉軸受3Aの側部(
図1では左側部)の部位を観察するための励起光を照射する。なお、照射部1Aは、照射部1と同様の構成のため、説明を省略する。
【0054】
<画像測定部>
本開示の潤滑剤分布状態測定システムは、画像測定部2を備える。画像測定部2は、玉軸受3Aの内部に封入した量子ドット含有の液状潤滑剤から発光する蛍光を観察するために蛍光を撮影する測定装置である。すなわち、画像測定部2は、貯留部35を撮影する撮影部により撮影した撮影画像から量子ドットの蛍光強度を2次元測定する。画像測定部2は、例えば、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサを利用したCCDカメラ及び3CCDカメラ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを利用したCMOSカメラ及び3CMOSカメラが挙げられる。
【0055】
<バンドパスフィルター>
本開示の潤滑剤分布状態測定システムは、照射部が波長λnm(100≦λ≦400)の光を照射する場合、貯留部と画像測定部との間に、波長λnm超のバンドパスフィルターを備えていてもよい。例えば、照射部が量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光として波長λnmの光を照射する場合、波長λnm超のバンドパスフィルターを備えることにより、波長λnmの光(量子ドットの蛍光波長未満の波長帯域の光)が画像測定部に照射されることが抑制され、波長λnm超の光(例えば、量子ドットの蛍光)が画像測定部に選択的に照射される。これにより、量子ドットの蛍光強度を精度良く2次元測定できる。
【0056】
バンドパスフィルターは、波長450nm~470nm、波長520nm~570nm及び波長600nm~680nmの光を90%以上透過するものであることが好ましい。これにより、青色、緑色及び赤色の光が画像測定部に選択的に照射され、これにより、特に3種の量子ドットを用いた場合に、それぞれの量子ドットの蛍光強度を精度良く2次元測定でき、より精度良く液状潤滑剤の厚さを2次元的に演算できる。
【0057】
図2に、画像測定部2の構成の一例を示す。
図2に示す画像測定部2は、照射部1から照射される励起光を撮影光軸に合波する構成になっている。
画像測定部2は、対物レンズ22、及びカメラ23を備えており、回転状態での玉軸受内部の液状潤滑剤の分布挙動を測定するために、励起された蛍光を撮影、すなわち2次元測定する。画像測定部2は、ビームスプリッタ15を内蔵しており、ライトガイド14により案内される光源11からの励起光がカメラ23の光軸と同軸に案内される。また、画像測定部2は、カメラ23と対物レンズ22の間に、UVカットフィルタを備えている。従って、光源11から照射された励起光がビームスプリッタ15を介して測定対象である玉軸受上部の貯留部に照射される。玉軸受上部の貯留部では、励起光によって量子ドットが励起され蛍光を発する。その蛍光をカメラ23が撮影する。
【0058】
光源11には、波長405nmのLED光源(エルイージェイ(Leistungselektronik JENA GmbH)社製)を用いることができる。光源11は、回転状態での玉軸受内部の液状潤滑剤の分布挙動を測定可能に、発光時間と発光周期をそれぞれ1発光/μs~1発光/s(連続発光)まで、発光周期を最大1kHzまで制御される。この発光周期は後述する演算制御装置7からのトリガー信号によって任意に制御される。フィルタ13には、紫外線透過可視吸収フィルター(シグマ光機社製)を用いることができ、ライトガイド14には、UV透過型のライトガイド(ルマテック社製)を用いることができる。ビームスプリッタ15には、プレート型のビームスプリッタ(エドモンド社製)を用いることができる。アダプタ21には、透過帯域波長508-1650nmのロングパスフィルタ(エドモンド社製)24を内蔵したアダプタ(エドモンド社製)を用いることができる。対物レンズ22には、物体テレセントリックレンズ(オプトアート社製)を用いることができる。カメラ23には、3CMOSカメラ(ジェイエイアイコーポレーション社製)を用いることができる。なお、3CMOSカメラは、単板式カメラを用いてもよい。
これらの構成による画像測定部2は、例えば、蛍光波長540nm量子ドットを含有した潤滑剤の計測に適するように設定した一例であり、本開示はこの構成に限定されるものではない。
【0059】
なお、
図2では、回転機構部3における径方向の上部(
図1では上側)の部位を観察するための画像測定部2を一例として示している。玉軸受3Aの側部(
図1では左側の)の部位を観察するための画像測定部2Aは、画像測定部2と同様の構成のため、説明を省略する。
【0060】
<演算制御装置>
演算制御装置7は、画像測定部2で2次元測定された蛍光強度に基づいて、回転する玉軸受3A内部の液状潤滑剤の分布状態(厚さ)を2次元的に導出する。例えば、画像測定部2に照射された蛍光はその強度に対応した電気信号に変換され、変換された電気信号が演算制御装置7に送信され、液状潤滑剤の厚さの分布が導出される。
【0061】
図3に、演算制御装置7の機能別の構成の一例を示す。
演算制御装置7は、厚さ分布演算部72を有する画像処理部71、同期駆動制御部73、状態制御部74、表示部75、及び操作入力部76を備えている。状態制御部74は、操作入力部76により入力された荷重を玉軸受3Aに付加するように、軸荷重付与部4を制御する。同期駆動制御部73は、回転状態での玉軸受3A内部の液状潤滑剤の分布挙動を測定可能とするために、操作入力部76により入力された発光時間と発光周期とにより照射部1の光源が発光するように制御すると共に、玉軸受3Aが回転状態となるように回転駆動部6を制御する。画像処理部71は、画像測定部2で測定された蛍光画像に基づいて、厚さ分布演算部72を用いて玉軸受3A内部に与えられた液状潤滑剤の分布状態を導出する。
【0062】
なお、
図3に示す例では、演算制御装置7の状態制御部74によって、玉軸受3Aに荷重を付加するように軸荷重付与部4を制御する場合を示すが、本開示の技術は、これに限定されるものではなく、軸荷重付与部4が自律的又は機械的に玉軸受3Aに荷重を付加してもよい。この場合、状態制御部74は不要であり、演算制御装置7への軸荷重付与部4の接続も不要である。玉軸受3Aに付加される荷重の値を用いる場合には、付加される荷重を、ロードセル等のセンサによって検出して、検出されたセンサ値を、手動又は自動で演算制御装置7に入力すればよい。
【0063】
また、
図3に示す例では、同期駆動制御部73によって、照射部1の光源の発光時間と発光周期とを制御し、かつ玉軸受3Aを回転状態とするように回転駆動部6を制御する場合を示すが、本開示の技術は、これに限定されるものではない。すなわち、照射部1において設定された発光時間と発光周期とによって自律的又は機械的に発光するようにしてもよい。また、回転駆動部6は、玉軸受3Aが回転状態となるように自律的又は機械的に玉軸受3Aを回転させる独立した回転駆動装置を用いてもよい。この場合、同期駆動制御部73は不要であり、演算制御装置7への照射部1及び回転駆動部6の接続も不要である。光源の発光時間及び発光周期、そして回転速度の値を用いる場合には、各々の設定値又はセンサにより検出されたセンサ値を、手動又は自動で演算制御装置7に入力すればよい。
【0064】
ここで、液状潤滑剤に含まれる量子ドットの含有率が一定の場合、量子ドットの蛍光強度は液状潤滑剤の厚さに比例する。そのため、液状潤滑剤に含まれる量子ドットの含有率が特定の値の場合での、量子ドットの蛍光強度と液状潤滑剤の厚さとの対応関係(例えば、検量線)を予め作成しておき、その検量線のデータを用いることによって、画像測定部2にて2次元測定された蛍光強度に基づいて液状潤滑剤の厚さを2次元的に導出することができる。
【0065】
(検量線)
次に、量子ドットの蛍光強度と液状潤滑剤の厚さとの対応関係を示す検量線について説明する。
図4に、連続的に変化する液状潤滑剤の厚さ(膜厚)の位置に対する液状潤滑剤の蛍光強度と厚さ(膜厚)との関係の一例を示す。
図4は、液状潤滑剤の厚さ(膜厚)が連続的に変化する状態を治具によって作成した場合における、励起光を照射した場合における液状潤滑剤の蛍光強度の測定結果を示す。
図4に示す例では、液状潤滑剤の厚さ(膜厚)が最小の部位(例えば、試験片の頂点部位)における蛍光強度を0としている。
【0066】
この測定では、曲率半径50mmの球面を有する試験片の表面に平面形状の無蛍光石英を設置し、試験片の表面と無蛍光石英との間に液状潤滑剤を封入した治具で、液状潤滑剤の厚さが球面状に変化する状態を作製した。液状潤滑剤は、蛍光波長540nmを発光する量子ドットをベースオイル(SKコーポレーション社製、YUBASE4)中に0.1mass%含有したオイルを作製して用いた。本測定では、上述の画像測定部2を用いている。なお、2次元測定は、画像8bit、画素数2064×1544、フレームレート20fpsで行い、UV光を発光時間3ms/1ショット、周期20Hzで照射した場合を測定した。
【0067】
図4に示すように、球面形状に対応するように、液状潤滑剤の厚さが厚くなるのにしたがって蛍光強度が高くなる。
図5に、
図4に示す測定結果を元にして、量子ドットの蛍光強度と液状潤滑剤の厚さとの対応関係を導出した結果を示す。
図5に示すように、量子ドットの蛍光強度と液状潤滑剤の厚さとの対応関係は、良好な直線関係となり、測定される蛍光強度から液状潤滑剤の厚さを導出できる。
【0068】
厚さ分布演算部72は、量子ドットの蛍光強度と液状潤滑剤の厚さとの対応関係(例えば、
図5に示す検量線)を予め記憶しておき、画像測定部2で2次元測定された画素ごとに、蛍光強度に対応する液状潤滑剤の厚さを導出することで、液状潤滑剤の厚さを2次元的に導出することができる。
【0069】
(コンピュータ構成)
上述の演算制御装置7は、上述の機能を実現する処理を実行する実行装置としてコンピュータを含む構成により実現可能である。
図6に、演算制御装置7をコンピュータを含む構成により実現した一例を示す。
演算制御装置7は、コンピュータ本体77を備えている。コンピュータ本体77は、CPU77A、RAM77B、ROM77C、及び入出力インターフェース(I/O)77Dを備えている。これらのCPU77A、RAM77B、ROM77C、及び入出力I/O77Dは、相互にデータ及びコマンドを授受可能にバス77Eを介して接続された構成である。また、I/O77Dには、照射部1、画像測定部2、軸荷重付与部4、回転駆動部6、表示部75、及び操作入力部76が接続されている。
【0070】
なお、上述のように、軸荷重付与部4が自律的又は機械的に玉軸受3Aに荷重を付加する構成の場合は軸荷重付与部4の接続は不要である。また、照射部1において自律的又は機械的に発光する構成、及び、自律的又は機械的に玉軸受3Aを回転状態となるように構成した場合は、照射部1及び回転駆動部6の接続も不要である。
【0071】
ROM77Cには、コンピュータを演算制御装置7として機能させるための潤滑剤分布演算プログラム77Pが記憶される。CPU77Aは、潤滑剤分布演算プログラム77PをROM77Cから読み出してRAM77Bに展開して処理を実行する。これにより、潤滑剤分布演算プログラム77Pを実行したコンピュータは画像測定装置として動作する。なお、ROM77Cには、量子ドットの蛍光強度と液状潤滑剤の厚さとの対応関係(検量線)を示す情報がテーブルとして記憶される。潤滑剤分布演算プログラム77P及びテーブルは、CD-ROM等の記録媒体により提供するようにしても良い。
【0072】
図7に、潤滑剤分布演算プログラム77Pの処理の流れの一例を示す。潤滑剤分布演算プログラム77Pは、本開示の潤滑剤の分布状態測定方法の一例である。
【0073】
まず、ステップS100では、回転状態での玉軸受内部の液状潤滑剤の分布挙動を測定するための初期設定を行う。初期設定の一例には、画素数、フレームレート、照射部1における発光時間、周期、及び液状潤滑剤に対応する検量線が挙げられる。
次のステップS102では、回転駆動部6を制御することにより、玉軸受3Aを回転状態に移行させ、次のステップS104で、照射部1を制御することにより、玉軸受3Aの回転に同期して同期照射させる。次のステップS106では照射部1の励起光の照射による蛍光を撮影することにより蛍光強度を2次元測定し、次のステップS108で、液状潤滑剤の分布状態を導出し、次のステップS110で、表示する。次のステップS112では、潤滑剤分布演算処理を終了するか否かを判断し、否定された場合は、ステップS12へ処理を戻し、肯定された場合は本処理ルーチンを終了する。
【0074】
図8から
図11に、本開示の潤滑剤分布状態測定システムを用いて、玉軸受3Aにおける径方向の上部(
図1では上側)を観察部位として観察した観察像の一例を示す。
図8は、白色光の照射による観察部位を撮影した撮影画像を示す。
図9は、静止状態で、UV光を照射した際の液状潤滑剤からの蛍光像を撮影した撮影画像を示す。
図10は、回転状態の玉軸受3Aの観察部位にUV光をフラッシュ照射した際の液状潤滑剤からの蛍光像を撮影した撮影画像を示す。
図11は、回転状態の玉軸受3Aの観察部位にUV光を連続照射した際の液状潤滑剤からの蛍光像を撮影した撮影画像を示す。なお、周期的な短時間のUV光の照射は、波長405nmの光を、周波数20Hzで、照射時間500μs/1ショットで行った。液状潤滑剤は軸心高さの半分まで浸漬させた状態で回転試験を行った。
【0075】
図9に示すように、静止時における液状潤滑剤の蛍光像は、
図8に示す白色光像における液状潤滑剤の境界と類似した画面縦方向(軸受の幅方向)に長丸状に分布した液状潤滑剤の存在状態が明瞭になっている。すなわち、蛍光強度の差に対応する液状潤滑剤の厚さの差になっており、蛍光強度に対応する液状潤滑剤の厚さを導出することで、液状潤滑剤の厚さを2次元的に導出することができる。また、
図10に示すように、回転状態における周期的な短時間のUV光の照射では、回転に伴って液状潤滑剤の分布が変化している状態が明瞭になっている。一方、
図11に示すように、UV光を連続照射して撮影した場合には、蛍光像が流れており、液状潤滑剤の分布を正確に捉えることが困難であった。このように、周期的な短時間のUV光の照射が、回転状態で液状潤滑剤の分布を測定する場合に有効であることが理解される。
【0076】
図12及び
図13に、本開示の潤滑剤分布状態測定システムを用いて、回転機構部3における玉軸受3Aの側部(
図1では左側の)を観察部位として観察した観察像の一例を示す。
図12は、白色光の照射による観察部位を撮影した撮影画像を示す。
図13は、回転状態で、周期的な短時間のUV光を照射した際の液状潤滑剤からの蛍光像を撮影した撮影画像を示す。なお、ここでは、玉軸受3Aの側面から液状潤滑剤の分布挙動を詳細測定可能とするために、画像測定部2におけるカメラの撮影倍率が0.75となるように、固定焦点マシンビジョンレンズ(オプトアート社製)と紫外アクロマティック集光レンズ(シグマ光機社製)を組合わせて撮影した。
図13に示すように、玉軸受3Aの球部分が明るくなっており、液状潤滑剤の供給量が少ない場合にも、玉軸受3Aの球表面に液状潤滑剤が付着して回転している様子を測定できた。
【0077】
なお、上記潤滑剤分布状態測定システム100は、画像測定部2、及び画像測定部2Aを備え、回転機構部3における径方向の上部(
図1では上側)、及び側部(
図1では左側の)の各々の部位を観察する場合を説明したが、本開示の技術は、これに限定されるものではない。例えば、画像測定部2、及び画像測定部2Aの何れか一方を備え、回転機構部3における径方向の上部、及び側部の何れか一方の部位を観察するようにしてもよい。
【0078】
<変形例>
上記の潤滑剤分布状態測定システム100は、径方向の上部(
図1では上側)の部位を観察部位として、外輪側の転動面における液状潤滑剤の分布を測定する画像測定部2を備えた場合を説明した。本開示の技術は、これに限定されるものではなく、内輪側の転動面における液状潤滑剤の分布を測定してもよく、内輪側の転動面における液状潤滑剤の分布をさらに測定してもよい。
【0079】
図14に、玉軸受3Aにおける内輪側の転動面31Aにおける液状潤滑剤の分布を測定可能な回転機構部3の一例を示す。
図14に示すように、軸中心部に所定角度(例えば45度)で傾斜したミラー39を設置する。そして、画像測定部2Aを、内輪側の転動面31Aにおける液状潤滑剤の分布を測定するようにすることで、玉軸受3Aの内輪側の転動面31Aを観察(測定)可能になる。
【0080】
図15に、内輪側の転動面における液状潤滑剤の分布をさらに測定可能な回転機構部3の一例を示す。
図15に示すように、
図1に示す潤滑剤分布状態測定システム100に、軸中心部に所定角度(例えば45度)で傾斜したミラー39を設置する。そして、画像測定部2Aを、内輪側の転動面31Aにおける液状潤滑剤の分布を測定するようにすることで、玉軸受3Aの外輪側の転動面32A及び内輪側の転動面31Aの両者を観察(測定)可能になる。
【0081】
このように、本実施形態によれば、量子ドットが励起された蛍光の蛍光強度を測定し、液状潤滑剤の厚さに関する分布を測定することで、回転状態の玉軸受の転動面付近における液状潤滑剤の分布を測定でき、時系列に測定された液状潤滑剤の分布から液状潤滑剤の挙動を測定できる。
【0082】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態を説明する。
第2実施形態に係る潤滑剤分布状態測定システムは、ニードル軸受、すなわち針状ころ軸受を、本開示の転がり軸受の一例として用いて、転がり軸受の回転状態において、ニードル軸受内部に与えられた潤滑剤の分布状態を測定する。なお、第2実施形態は、第1実施形態と同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0083】
図16に、第2実施形態に係る潤滑剤分布状態測定システム200の概略構成の一例を示す。
図16に示すように、潤滑剤分布状態測定システム200は、本開示の転がり軸受部の一例であるニードル軸受3Bが回転可能に取り付けられた回転機構部3を備えている。また、潤滑剤分布状態測定システム200は、ニードル軸受として、オイルが軸心給油される変速機等の潤滑剤供給状態を再現可能にするため、軸心にオイルを供給する供給部8を備えている。第2実施形態では、供給部8を備えることで、回転機構部3は、側面のガラス窓37と画像測定部2Aを除外する構成としているが、その他の構成は第1実施形態に係る潤滑剤分布状態測定システム100と同様であり、ニードル軸受の軸受部に荷重を付与しながら軸を回転できる機構である。
【0084】
図17から
図23に、第2実施形態に係る潤滑剤分布状態測定システムを用いて、ニードル軸受3Bにおける観察像に関連するイメージの一例を示す。本実施形態では、軸受外輪とニードルの転動面を観察する場合を一例として説明する。
なお、第2実施形態では、UV光の照射条件は第1実施形態と同様に、20Hz、500μs/1ショットである。また、オイルは軸心から5mL/minで供給した場合を説明する。
【0085】
図17はニードル軸受3Bの外観を示し、一部の領域(
図17では中央付近の四角で囲った部位)が、量子ドットによる蛍光を観察するための観察領域として示されている。
図18は、静止状態で、UV光を照射した際の観察領域における液状潤滑剤からの蛍光像を撮影した撮影画像を示す。
図18に示すように、回転方向中央付近(
図18では上下方向の中央付近)のニードル部では外輪との空間が少なく、油膜が薄くなっている一方で、その前後(
図18では上下)では、液状潤滑剤が厚くなっている。この状態は、ニードルを保持する保持器凹部ではその形状に対応するように、液状潤滑剤が厚く存在すると考えられる。
【0086】
図19は、低回転状態(例えば、295rpm)のニードル軸受3BにUV光をフラッシュ照射した際の観察領域における蛍光像を撮影した撮影画像を示す。
図20は、
図19に示す回転状態より高い高回転状態(例えば、1480rpm)におけるニードル軸受3Bの観察領域の蛍光像を撮影した撮影画像を示す。
図19に示すように、低回転状態における液状潤滑剤の分布状態は、
図18に示す静止時と概ね同様の分布状態であり、低回転状態のニードル軸受3Bに、十分に液状潤滑剤が提供され、その液状潤滑剤が流動している。一方、
図20に示すように、高回転状態における液状潤滑剤の分布状態では、回転方向でニードル出口側に画面縦方向に縦すじ状の明暗部が認められ、すじ状に液状潤滑剤が少ない部位が生じている。これは高速回転するニードル出口で負圧が生ずることに起因したキャビテーション現象と考えられる。
【0087】
本実施形態では、画像測定部2で2次元測定された蛍光強度の分布から、演算制御装置7において、液状潤滑剤の分布状態、すなわち厚さの分布を導出可能である。演算制御装置7は、導出された蛍光強度に応じて液状潤滑剤の分布状態を3次元表示することができる。
【0088】
図21から
図23は、観察領域における蛍光強度を3次元表示した画像の一例を示している。
図21は、
図18に示す静止状態における観察領域の蛍光像(蛍光強度)に基づいて、液状潤滑剤の分布を3次元表示した画像を示す。
図22は、
図19に対応し、低回転状態における液状潤滑剤の分布を3次元表示した画像を示す。
図23は、
図19に対応し、高回転状態における液状潤滑剤の分布を3次元表示した画像を示す。
図21から
図23では、下方(図のz軸方向、0-z方向)になるにしたがって、液状潤滑剤が厚く存在することを示している。また、Y軸中央付近ではニードル形状に対応するように円筒状に液状潤滑剤の分布が変化していること、ニードル前後では保持器凹部に対応して液状潤滑剤が厚く存在していることが理解される。このように、本潤滑剤分布状態測定システムでは、形状像として液状潤滑剤の分布を確認することができる。
【0089】
以上説明したように、本実施形態によれば、量子ドットが励起された蛍光の蛍光強度を測定し、液状潤滑剤の厚さに関する分布を測定することで、回転状態の玉軸受の転動面付近における液状潤滑剤の分布を測定でき、時系列に測定された液状潤滑剤の分布から液状潤滑剤の挙動を測定できる。また、形状像として液状潤滑剤の分布を確認することができる。
【0090】
以上、各実施の形態を用いて説明したが、開示の技術の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も開示の技術の技術的範囲に含まれる。
【0091】
また、上記実施形態では、フローチャートを用いた処理によるソフトウエア構成によって実現した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ハードウェア構成により実現する形態としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 照射部
2、2A 画像測定部
3 回転機構部
3A 玉軸受
3B ニードル軸受
4 軸荷重付与部
5 弾性カップリング
6 回転駆動部
7 演算制御装置
8 供給部
11 光源
13 フィルタ
14 ライトガイド
15 ビームスプリッタ
21 アダプタ
22 対物レンズ
23 カメラ
31 内輪
31A 転動面
32 外輪
32A 転動面
33 玉
35 貯留部
36 回転部
37 ガラス窓
38 密封容器部
39 ミラー
71 画像処理部
72 厚さ分布演算部
73 同期駆動制御部
74 状態制御部
75 表示部
76 操作入力部
77P 潤滑剤分布演算プログラム
100 潤滑剤分布状態測定システム
200 潤滑剤分布状態測定システム