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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】繊維機械、及びティーチング方法
(51)【国際特許分類】
   D01D 7/00 20060101AFI20230417BHJP
   B65H 57/16 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
D01D7/00 C
B65H57/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019049445
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020153020
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】杉山 研志
(72)【発明者】
【氏名】利山 裕介
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-188784(JP,A)
【文献】特開昭53-061736(JP,A)
【文献】実開昭57-172073(JP,U)
【文献】実開昭53-083727(JP,U)
【文献】実開昭53-090641(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00-13/02
B65H54/00-54/88
57/00-57/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビン軸方向に並べて配置された複数のボビンを支持するボビンホルダと、前記ボビン軸方向に並べて配置され、各ボビンに巻き取られる糸が綾振りされる際の支点となる複数の支点ガイドと、を有し、前記複数のボビンに複数の糸を巻き取る巻取装置と、
前記複数の糸を一時的に保持するための糸掛補助部材と、前記糸掛補助部材を移動駆動する駆動機構と、を有し、前記駆動機構が前記糸掛補助部材を動かすことにより前記複数の支点ガイドに前記複数の糸を掛ける糸掛作業を行う自動糸掛装置と、を備える繊維機械であって、
前記巻取装置は、
前記ボビン軸方向の成分を有する案内方向に前記糸掛補助部材を案内する案内面、が形成された補助部材案内部を有し、
前記自動糸掛装置は、
前記糸掛補助部材とは別に設けられ、前記案内面から前記糸掛補助部材に加えられる反発力を吸収するクッション部を有することを特徴とする繊維機械。
【請求項2】
前記クッション部は、
弾性復元力により、前記糸掛補助部材を前記案内方向と交差する交差方向における前記案内面側に付勢する弾性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の繊維機械。
【請求項3】
前記クッション部は、
前記糸掛補助部材が取り付けられ、前記交差方向に回動自在に構成された回動部材を有し、
前記弾性部材は、
前記回動部材を前記交差方向における前記案内面側に付勢することを特徴とする請求項2に記載の繊維機械。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記回動部材の回動中心部を囲うように設けられたねじりバネであることを特徴とする請求項3に記載の繊維機械。
【請求項5】
前記駆動機構を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記糸掛補助部材が前記案内面に常に接触している状態で移動するように前記駆動機構を制御することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の繊維機械。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の繊維機械において、前記駆動機構を制御する制御部に前記糸掛作業に関する動作情報を記憶させるティーチングを行うティーチング方法であって、
前記糸掛作業の開始時から終了時まで前記糸掛補助部材が前記案内面に常に接触するように、前記動作情報を前記制御部に記憶させることを特徴とするティーチング方法。
【請求項7】
請求項5に記載の繊維機械において、前記制御部に前記糸掛作業に関する動作情報を記憶させるティーチングを行うティーチング方法であって、
前記糸掛作業の開始時から終了時まで前記糸掛補助部材が前記案内面に常に接触するように、前記動作情報を前記制御部に記憶させることを特徴とするティーチング方法。
【請求項8】
前記糸掛補助部材に糸を保持させていない状態でティーチングを行うことを特徴とする請求項6又は7に記載のティーチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維機械、及び繊維機械におけるティーチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の糸を綾振りしつつ複数のボビンにそれぞれ巻き取る糸巻取機が開示されている。糸巻取機は、複数のボビンに対応して設けられた複数の支点ガイドと、複数の支点ガイドに糸を一度に掛けるための糸掛補助具(糸掛補助部材)を所定方向に案内する補助具案内部(補助部材案内部)とを有する。支点ガイドへの糸掛作業時には、オペレータが糸掛補助部材を操作して複数の糸を保持し、糸掛補助部材を補助部材案内部に当てた状態でスライドさせる。これにより、複数の支点ガイドに複数の糸を短時間で容易に掛けることができる。
【0003】
また、特許文献2には、上記支点ガイドへの糸掛作業等を自動化するための自動糸掛装置が開示されている。自動糸掛装置は、上述した糸掛補助部材(特許文献2では糸分けガイドと記載されている)を有する糸掛ユニットが取り付けられたロボットアームと、ロボットアームを駆動制御する糸掛制御装置(制御部)と、を有する。制御部がロボットアームを駆動制御することにより、糸掛補助部材を移動させ、複数の支点ガイドに糸を自動的に掛けることができる。ここで、特許文献2には、補助部材案内部に関する記載はない。すなわち、上記自動糸掛装置は、補助部材案内部を用いずに糸掛補助部材を移動させる。また、糸掛ユニットがロボットアームにどのように取り付けられているかに関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-164875号公報
【文献】特開2017-82379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の自動糸掛装置において、補助部材案内部を用いずに糸掛作業を正常に行うためには、糸掛補助部材が所望の軌道を描くように、ロボットアームの動作に関する情報を制御部に記憶させるティーチングを厳密に行う必要がある。このため、ティーチングに膨大な手間がかかる等の問題がある。そこで、上記自動糸掛装置においても、特許文献1に記載の補助部材案内部に沿って糸掛補助部材を動かすことにより糸掛作業を行いたいという要望がある。しかしながら、糸掛ユニットがロボットアームに単に取り付けられている(すなわち、糸掛ユニットがロボットアームに固定されている)のでは、以下のような問題がある。すなわち、糸掛補助部材を補助部材案内部に当てたときに、補助部材案内部による反発力が糸掛補助部材に過剰に加えられて、装置が破損する等のおそれがある。そこで、糸掛補助部材を補助部材案内部に適切に当てるための厳密な動力制御を行うことが考えられるが、複雑な制御が必要となるだけでなくコストアップも避けられず、現実的には極めて困難である。
【0006】
本発明の1つ目の目的は、繊維機械において、自動糸掛装置に設けられた糸掛補助部材が補助部材案内部に当たっているときに、複雑な制御を必要とすることなく、糸掛補助部材に過剰な力が加わることを抑制し、糸掛作業を正常に行うことである。本発明の2つ目の目的は、糸掛作業に関する動作情報を制御部に記憶させるティーチング方法において、ティーチングに要する時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の繊維機械は、ボビン軸方向に並べて配置された複数のボビンを支持するボビンホルダと、前記ボビン軸方向に並べて配置され、各ボビンに巻き取られる糸が綾振りされる際の支点となる複数の支点ガイドと、を有し、前記複数のボビンに複数の糸を巻き取る巻取装置と、前記複数の糸を一時的に保持するための糸掛補助部材と、前記糸掛補助部材を移動駆動する駆動機構と、を有し、前記駆動機構が前記糸掛補助部材を動かすことにより前記複数の支点ガイドに前記複数の糸を掛ける糸掛作業を行う自動糸掛装置と、を備える繊維機械であって、前記巻取装置は、前記ボビン軸方向の成分を有する案内方向に前記糸掛補助部材を案内する案内面、が形成された補助部材案内部を有し、前記自動糸掛装置は、前記案内面から前記糸掛補助部材に加えられる反発力を吸収するクッション部を有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明では、糸掛補助部材が案内面に当てられたときに、糸掛補助部材が案内面から受ける反発力をクッション部によって吸収できる。したがって、自動糸掛装置に設けられた糸掛補助部材が補助部材案内部に当たっているときに、複雑な制御を必要とすることなく、糸掛補助部材に過剰な力が加わることを抑制でき、糸掛作業を正常に行うことができる。
【0009】
第2の発明の繊維機械は、前記第1の発明において、前記クッション部は、弾性復元力により、前記糸掛補助部材を前記案内方向と交差する交差方向における前記案内面側に付勢する弾性部材を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、弾性部材の弾性変形可能な範囲内で糸掛補助部材を案内面に積極的に当てることができる。したがって、糸掛補助部材の厳密な位置制御を行わなくても、糸掛補助部材を案内面に容易に当てることができる。
【0011】
第3の発明の繊維機械は、前記第2の発明において、前記クッション部は、前記糸掛補助部材が取り付けられ、前記交差方向に回動自在に構成された回動部材を有し、前記弾性部材は、前記回動部材を前記交差方向における前記案内面側に付勢することを特徴とするものである。
【0012】
弾性部材を糸掛補助部材に直接取り付けても良いが、この場合、糸掛補助部材の可動範囲を広くしにくいという問題がある。本発明では、回動部材が付勢されるので、例えば回動部材の先端部に糸掛補助部材を取り付けることで、糸掛補助部材の可動範囲を広くすることができる。
【0013】
第4の発明の繊維機械は、前記第3の発明において、前記弾性部材は、前記回動部材の回動中心部を囲うように設けられたねじりバネであることを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、簡易な構成で回動部材を付勢することができる。したがって、付勢力の調整も容易に行うことができる。
【0015】
第5の発明の繊維機械は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記駆動機構を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記糸掛補助部材が前記案内面に常に接触している状態で移動するように前記駆動機構を制御することを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、糸掛作業において、糸掛補助部材を案内面に常に当てた状態で移動させることにより、複数の支点ガイドに糸を確実に掛けることができる。したがって、駆動機構を厳密に制御しなくても糸掛作業を正常に行うことができる。
【0017】
第6の発明のティーチング方法は、前記第1~第5のいずれかの発明の繊維機械において、前記駆動機構を制御する制御部に前記糸掛作業に関する動作情報を記憶させるティーチングを行うティーチング方法であって、前記糸掛作業の開始時から終了時まで前記糸掛補助部材が前記案内面に常に接触するように、前記動作情報を前記制御部に記憶させることを特徴とするものである。
【0018】
補助部材案内部を用いずにティーチングを行う場合、複数の糸を複数の支点ガイドに確実に掛けることができるよう、自動糸掛装置の動作確認を繰り返し、試行錯誤によって糸掛補助部材の移動経路を決定する必要がある。本発明では、補助部材案内部の案内面によって糸掛補助部材の移動経路を予め規定できるので、補助部材案内部を用いずに糸掛作業を行う場合と比べて、動作確認を行う回数を大きく減らすことができる。したがって、ティーチングに要する時間を飛躍的に短縮させることができる。
【0019】
第7の発明のティーチング方法は、前記第6の発明において、前記糸掛補助部材に糸を保持させていない状態でティーチングを行うことを特徴とするものである。
【0020】
補助部材案内部を用いずにティーチングを行う場合、糸掛補助部材に糸を実際に保持させた状態で自動糸掛装置を動作させ、複数の糸が実際に複数の支点ガイドに掛かるかどうか確認する必要がある。このため、ティーチング中に糸掛けに失敗した場合、糸掛補助部材に糸を再び保持させてティーチングをやり直す必要があるため、ティーチングに膨大な時間がかかってしまう。本発明では、糸掛補助部材が案内面に沿って移動するように動作情報を制御部に記憶させることにより、糸掛補助部材に正しい経路を通らせることができる。このため、糸掛補助部材に糸を保持させていない状態でも、ティーチングを正確に行うことができる。したがって、ティーチング中に、糸掛補助部材に糸を保持させる手間を省くことができ、ティーチングに要する時間を劇的に短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る紡糸引取機の正面図である。
図2】引取ユニットの側面図である。
図3】(a)、(b)は、支点ガイド及び案内レールを示す説明図である。
図4】(a)、(b)は、糸掛ユニットの斜視図である。
図5】紡糸引取機の電気的構成を示すブロック図である。
図6】(a)~(d)は、ロボットアームと糸掛ユニットとの接続箇所を示す説明図である。
図7】(a)、(b)は、糸掛補助部材の動きを示す説明図である。
図8】(a)、(b)は、ゴデットローラへの糸掛けの動作を示す説明図である。
図9】(a)、(b)は、糸掛補助部材に糸を保持させる動作を示す説明図である。
図10】複数の支点ガイドへの糸掛けの動作を示す説明図である。
図11】ティーチングの手順を示すフローチャートである。
図12】ティーチング中の糸掛ユニットの動作を示す説明図である。
図13】変形例に係る糸掛ユニットを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明の便宜上、図1及び図2に示す方向を前後左右上下方向とする。
【0023】
(紡糸引取機の概略構成)
図1は、本実施形態に係る紡糸引取機1(本発明の繊維機械)の正面図である。紡糸引取機1は、複数の引取ユニット3と、糸掛ロボット4(本発明の自動糸掛装置)とを備える。複数の引取ユニット3は、左右方向に配列され、各々が、上方に配置された不図示の紡糸装置から紡出される糸Yを引き取り、複数のボビンBに巻き取ってパッケージPを形成する。糸掛ロボット4は、左右方向に移動可能に構成され、各引取ユニット3を構成する部材に糸Yを掛けるための動作を行う。
【0024】
(引取ユニット)
次に、引取ユニット3の構成について、図2を参照しつつ説明する。図2は、引取ユニット3の側面図である。
【0025】
図2に示すように、引取ユニット3は、第1ゴデットローラ12と、第2ゴデットローラ13と、巻取装置14とを備える。第1ゴデットローラ12は、軸方向が左右方向と略平行なローラであり、巻取装置14の前端部の上方に配置されている。第1ゴデットローラ12は、第1ゴデットモータ111(図5参照)によって回転駆動される。第2ゴデットローラ13は、軸方向が左右方向と略平行なローラであり、第1ゴデットローラ12よりも上方且つ後方に配置されている。第2ゴデットローラ13は、第2ゴデットモータ112(図5参照)によって回転駆動される。
【0026】
第2ゴデットローラ13は、ガイドレール15に移動可能に支持されている。ガイドレール15は、上方且つ後方に向かって斜めに延びている。第2ゴデットローラ13は、例えば、モータ113(図5参照)、不図示のプーリ対及びベルトやエアー機器等によって、ガイドレール15に沿って移動可能に構成されている。これにより、第2ゴデットローラ13は、糸Yの巻取りを行うときの位置(図2の実線参照)と、第1ゴデットローラ12に近接して配置される、糸掛けを行うときの位置(図2の一点鎖線参照)との間で移動可能となっている。
【0027】
巻取装置14について、図2及び図3を参照しつつ説明する。図3(a)は、糸Yの巻取りを行うときの支点ガイド21(後述)の位置を示す説明図である。図3(b)は、糸掛けを行うときの支点ガイド21の位置を示す説明図である。
【0028】
巻取装置14は、複数の糸Yを複数のボビンBに巻き取ってパッケージPを形成する巻取動作を行うように構成されている。巻取装置14は、第1ゴデットローラ12及び第2ゴデットローラ13の下方に配置されている。図2に示すように、巻取装置14は、複数の支点ガイド21と、複数のトラバースガイド22と、ターレット23と、2本のボビンホルダ24と、コンタクトローラ25とを備える。
【0029】
複数の支点ガイド21は、糸Yが各トラバースガイド22によって綾振りされる際の支点となるガイドである。図2図3(a)、(b)に示すように、複数の支点ガイド21は、複数の糸Yに対して個別に設けられ、前後方向(ボビン軸方向)に配列されている。各支点ガイド21は、後側に開口した溝21aを有し、後側から溝21aに糸Yを挿入することによって糸Yを収容可能となっている。図3(a)、(b)に示すように、複数の支点ガイド21は、複数のスライダ26にそれぞれ取り付けられている。複数のスライダ26は、前後方向に延びたガイドレール27に沿って移動可能に支持されている。複数のスライダ26は、シリンダ114(図5参照)に接続されている。シリンダ114を駆動させると、複数のスライダ26は、ガイドレール27に沿って前後方向に移動する。これにより、複数の支点ガイド21は、前後方向に互いに離れて配置される、糸Yを巻き取るときの巻取位置(図3(a)参照)と、ガイドレール27の前側に集まるように配置される、糸掛けを行うときの糸掛位置(図3(b)参照)との間で移動可能となっている。
【0030】
ガイドレール27の下側には、前後方向に延びた支持部材28が配置されている。支持部材28は、機台フレーム20(図2参照)に取り付けられ、ガイドレール27を支持している。また、支持部材28には、後述する糸掛補助部材47(図4(a)等参照)を案内するための補助部材案内部29(図3(b)参照)が取り付けられている。補助部材案内部29には、少なくとも前後方向に延びた、糸掛補助部材47の側面を当接させるための案内面29aが形成されている。補助部材案内部29は、支持部材28と平行に配置される退避姿勢と、支持部材28に対して左右方向に傾いている案内姿勢(図3(b)参照)との間で姿勢を切換可能に構成されている。補助部材案内部29は、例えばシリンダ115(図5参照)によって駆動されることにより、姿勢を切り換えられる。補助部材案内部29の姿勢が案内姿勢であるときの案内面29aの延在方向を案内方向とする。案内方向は、前後方向(ボビン軸方向)の成分及び左右方向の成分を有する。案内面29aの前側且つ左側を手前側とし、案内面29aの後側且つ右側を奥側とする(図3(b)参照)。
【0031】
図2に戻って、複数のトラバースガイド22は、複数の糸Yに対して個別に設けられ、前後方向に並べて配置されている。各トラバースガイド22は、トラバースモータ116(図5参照)によって駆動され、前後方向に往復移動する。これにより、トラバースガイド22に掛けられた糸Yが、支点ガイド21を中心に綾振りされる。
【0032】
ターレット23は、軸方向が前後方向と平行な円板状の部材である。ターレット23は、不図示のターレットモータによって回転駆動される。2本のボビンホルダ24は、それぞれ、軸方向が前後方向と平行であり、ターレット23の上端部及び下端部に回転自在に支持されている。各ボビンホルダ24は、前後方向(ボビン軸方向)に並べて配置された複数のボビンBを支持する。2つのボビンホルダ24は、それぞれ、個別の巻取モータ117(図5参照)によって回転駆動される。
【0033】
コンタクトローラ25は、軸方向が前後方向と略平行なローラであり、上側のボビンホルダ24のすぐ上方に配置されている。コンタクトローラ25は、上側のボビンホルダ24に支持された複数のパッケージPの表面に接触することで、巻取中のパッケージPの表面に接圧を付与して、パッケージPの形状を整える。
【0034】
以上の構成を有する巻取装置14において、上側のボビンホルダ24が回転駆動されると、トラバースガイド22によって綾振りされた糸YがボビンBに巻き取られて、パッケージPが形成される(巻取動作)。また、パッケージPが満巻きになった場合、ターレット23が回転させられることにより、2本のボビンホルダ24の上下の位置が入れ換わる。これにより、下側に位置していたボビンホルダ24が上側に移動し、このボビンホルダ24に装着されたボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPを形成することができる。また、満巻きになったパッケージPが装着されたボビンホルダ24は下側に移動し、例えば不図示のパッケージ回収装置によってパッケージPが回収される。
【0035】
(糸掛ロボット)
次に、糸掛ロボット4について図2図4(a)、(b)を参照しつつ説明する。図4(a)、(b)は、後述する糸掛ユニット33の斜視図である。糸掛ロボット4は、引取ユニット3による巻取動作の前に、第1ゴデットローラ12、第2ゴデットローラ13、複数の支点ガイド21等に糸Yを掛けるように構成されている。図2に示すように、糸掛ロボット4は、本体部31と、ロボットアーム32(本発明の駆動機構)と、糸掛ユニット33とを備える。
【0036】
本体部31は、略直方体形状に構成された部材である。本体部31の内部には、ロボットアーム32等の動作を制御する糸掛制御装置102(本発明の制御部。図5参照)が設けられている。ここで、複数の引取ユニット3の前側には、左右方向に延びたレール部材35が配置されている。本体部31は、レール部材35に吊り下げられており、本体移動装置121(図5参照)によって、レール部材35に沿って左右方向に移動駆動される。
【0037】
ロボットアーム32は、本体部31の下面に取り付けられている。ロボットアーム32は、複数のアーム32aと、アーム32a同士を連結する複数の関節部32bとを有する。各関節部32bには、アームモータ122(図5参照)が内蔵されている。アームモータ122(図5参照)が駆動されると、アーム32aが関節部32bを中心に揺動する。
【0038】
糸掛ユニット33は、ロボットアーム32の先端部に取り付けられている。糸掛ユニット33は、図4(a)、(b)に示すように、一方向(以下、第1方向とする)に長尺に構成されている。糸掛ユニット33は、第1方向における片側(以下、第1方向の基端側とする)の端部において、ロボットアーム32のうち最も先端側に配置されたアーム32a(アーム64)と接続されている。なお、第1方向における基端側と反対側を先端側とする。
【0039】
本実施形態では、ロボットアーム32を駆動させると、ロボットアーム32の先端部に取り付けられた糸掛ユニット33が移動する。このとき、糸掛ユニット33の向きを変えることもできる。但し、糸掛ユニット33は、後述するように、糸掛け時には、主に、図4(a)、(b)の紙面上下方向が鉛直方向と略平行で、且つ、図4(a)、(b)の紙面上側が鉛直方向の上側、図4(a)、(b)の紙面下側が鉛直方向の下側となるような向きで使用される。そこで、以下では、糸掛ユニット33の、図4(a)、(b)における紙面上下方向を第2方向とし、図4(a)、(b)の紙面上側を第2方向の上側とし、図4(a)、(b)の紙面下側を第2方向の下側とする。また、第1方向及び第2方向の両方と直交する方向を第3方向とする。また、図4(a)、(b)に示すように、第3方向の一方側及び他方側を定義して説明を行う。
【0040】
図4(a)、(b)に示すように、糸掛ユニット33は、フレーム41と、サクション42と、カッター44と、スライド部材45と、押当ローラ46と、糸掛補助部材47とを備える。
【0041】
フレーム41は、第1方向に延びた長尺部材である。フレーム41の第1方向における基端部(基端部材41a)は、ロボットアーム32の最も先端側に配置されたアーム32a(アーム64)と接続されている(詳細については後述する)。サクション42は、第1方向に延び、その先端部において糸Yを吸引保持可能となっている。サクション42は、フレーム41の第3方向における一方側の部分に取り付けられている。カッター44は、フレーム41に取り付けられ、サクション42の第2方向における下側に位置している。カッター44は、例えば、サクション42が糸Yを吸引保持する際に、糸Yの不要部分を切断するためのものである。
【0042】
スライド部材45は、サクション42の第3方向における他方側に配置されている。スライド部材45は、シリンダ51を介してフレーム41に取り付けられている。シリンダ51を駆動させると、スライド部材45がフレーム41に対して第1方向に移動する。ここで、フレーム41及びスライド部材45は、いずれも第1方向に延在している。以下では、フレーム41及びスライド部材45を併せて延在部材61とも呼ぶ。
【0043】
スライド部材45の第1方向における先端部には、スライド部材45を第2方向に貫通する円筒状のシャフト52が設けられている。シャフト52は、押当ローラ46を回動可能に支持するためのものである。また、シャフト52の径方向における内側には、シャフト52に対して相対回転可能な円柱状のシャフト54が設けられている。シャフト54は、糸掛補助部材47を回動可能に支持するためのものである。
【0044】
押当ローラ46は、第2方向と直交するシャフト46aに回転自在に支持されている。押当ローラ46は、スライド部材45の第2方向における上側に配置されている。シャフト46aの片側の端部は、シャフト52に取り付けられている。押当ローラ46は、ローラ回動装置53によって、シャフト52を回動中心として回動駆動される。ローラ回動装置53は、押当ローラの姿勢を、第1方向と略平行な初期姿勢(図4(a)参照)と、第3方向と略平行な押当姿勢(図9(a)参照)との間で変更させることが可能である。
【0045】
糸掛補助部材47は、複数の支点ガイド21に糸Yを掛ける際に、糸Yを一時的に保持するためのものである。糸掛補助部材47は、押当ローラ46の第2方向における上側に配置されている。図4(a)に示すように、糸掛補助部材47には、その長手方向に沿って並んだ複数の溝47aが形成されている。複数の溝47aは片側の端が開口しており、開口部分から離れるほど溝47a同士の間隔が広くなっている。糸掛補助部材47の長手方向における片側の端部は、シャフト54に取り付けられている。糸掛補助部材47は、補助部材回動装置55によって、シャフト54を回動中心として回動駆動される。補助部材回動装置55は、糸掛補助部材47の姿勢を、第1方向と略平行な初期姿勢(図4(a)参照)と、第3方向と略平行な糸掛姿勢(図9(b)参照)との間で変更させることが可能である。
【0046】
(紡糸引取機の電気的構成)
次に、紡糸引取機1の電気的構成について、図5のブロック図を参照しつつ説明する。図5に示すように、紡糸引取機1では、各引取ユニット3に引取ユニット制御装置101が設けられている。引取ユニット制御装置101は、第1ゴデットモータ111、第2ゴデットモータ112、モータ113、シリンダ114、シリンダ115、トラバースモータ116、巻取モータ117等の動作を制御する。なお、各引取ユニット3は、巻取モータ117を2つ備えているが、図5では、巻取モータ117を1つだけ図示している。また、図5では、トラバースモータ116を1つだけ図示しているが、各引取ユニット3は、トラバースモータ116を複数備えていても良い。
【0047】
また、紡糸引取機1では、糸掛ロボット4に糸掛制御装置102が設けられている。糸掛制御装置102は、本体移動装置121、アームモータ122、サクション42、カッター44、シリンダ51、ローラ回動装置53、補助部材回動装置55等の動作を制御する。糸掛制御装置102は、上記のような構成要素の動作に関する動作情報を記憶する記憶部102aを有する。なお、ロボットアーム32は、複数の関節部32bを有し、複数の関節部32bに対応する複数のアームモータ122を有しているが、図5では、アームモータ122を1つだけ図示している。
【0048】
糸掛制御装置102には、糸掛ロボット4の動作情報を記憶部102aに記憶させるティーチングを行うための機器であるティーチングペンダント103が、電気的に接続される。ティーチングペンダント103は、例えば、ロボットアーム32の姿勢及び動作に関する情報をオペレータが入力可能に構成されている。また、ティーチングペンダント103は、入力された情報に基づいて糸掛ロボット4が動作を実行するための信号や、入力された情報を糸掛制御装置102が記憶するための信号を糸掛制御装置102に送信可能に構成されている。なお、ティーチングペンダント103は、糸掛制御装置102に常に接続されている必要はなく、オペレータによるティーチング時にのみ糸掛制御装置102に接続されても良い。
【0049】
また、紡糸引取機1は、装置全体の制御を行うための制御装置100を備えている。制御装置100は、複数の引取ユニット3に設けられた複数の引取ユニット制御装置101、及び、糸掛制御装置102と電気的に接続されている。制御装置100は、複数の引取ユニット制御装置101及び糸掛制御装置102の動作を制御することによって、紡糸引取機1全体の動作を制御する。
【0050】
ここで、従来の糸掛ロボットでは、糸掛制御装置102がロボットアーム32を厳密に動作制御することにより複数の支点ガイド21への糸掛けが行われていた。しかしながら、このような方法では、ロボットアーム32の動作に関する情報を糸掛制御装置102に記憶させるティーチングに膨大な時間がかかるという問題があった。このため、糸掛ロボットにおいても補助部材案内部29に沿って糸掛補助部材47を動かすことにより糸掛作業を行いたいという要望が従来からあった。しかしながら、従来の糸掛けロボットでは、糸掛ユニット33がロボットアーム32に単に取り付けられていた。より具体的には、糸掛補助部材47を支持するフレーム41(延在部材61)が、ロボットアーム32に固定的に接続されていた。このため、糸掛補助部材47を補助部材案内部29に当てたときに、補助部材案内部29による反発力が糸掛補助部材47に過剰に加えられて、装置が破損する等のおそれがあった。そこで、糸掛補助部材47を補助部材案内部29に適切に当てるための厳密な動力制御を行うことが考えられるが、複雑な制御が必要となるだけで無くコストアップも避けられず、現実的には極めて困難であった。
【0051】
そこで、本実施形態では、糸掛補助部材47が補助部材案内部29に当たっているときに、糸掛補助部材47に過剰な力が加わることを抑制するため、糸掛ロボット4が以下のようなクッション部60を有する。
【0052】
(クッション部)
クッション部60の構成について、図6(a)~(d)を参照しつつ説明する。図6(a)は、糸掛ユニット33を第2方向における上側から見た図である。図6(b)は、糸掛ユニット33を第3方向における一方側から見た図である。図6(c)は、基端部材41a及びその近傍を第2方向における上側から見た図である。図6(d)は、図6(c)のVId-VId線断面図である。
【0053】
クッション部60は、糸掛ユニット33に設けられた糸掛補助部材47に外力が作用したときに、その外力を吸収するためのものである。図6(a)~(d)に示すように、クッション部60は、上述した延在部材61(本発明の回動部材)と、回動軸62と、ねじりバネ63(本発明の弾性部材)とを有する。
【0054】
延在部材61は、第1方向に延びており、先端部に糸掛補助部材47が取り付けられている。延在部材61の第1方向における基端部(基端部材41a)は、第2方向に延びた回動軸62を介して、ロボットアーム32の最も先端側に配置されたアーム32a(以下、アーム64とする)の下部に取り付けられている。
【0055】
回動軸62は、例えば基端部材41aの上面に固定され、アーム64の下端部に回動可能に取り付けられている(図6(d)参照)。これにより、延在部材61は、外力が加えられたときに、回動軸62を回動中心として、アーム64に対して従動的に回動自在となっている。
【0056】
ねじりバネ63は、回動軸62(すなわち、延在部材61の回動中心部)を囲うように設けられている。図6(d)に示すように、ねじりバネ63の一端部63aは、第2方向における上側へ延び、アーム64の下面に形成された挿通孔65に挿通されている。ねじりバネ63の他端部63bは、第2方向における下側へ延び、基端部材41aの上面に形成された挿通孔66に挿通されている。ねじりバネ63は、延在部材61が従動的に回動したときにねじられて弾性変形し、弾性復元力によって延在部材61及び糸掛補助部材47を元の位置に戻すように付勢する。
【0057】
(糸掛補助部材の動作)
次に、糸掛補助部材47の動作について、図7(a)、(b)を参照しつつ説明する。図7(a)は、糸掛補助部材47の姿勢の変化を示す説明図である。図7(b)は、糸掛補助部材47に外力が加えられたときの糸掛補助部材47及び延在部材61の動きを示す説明図である。なお、図7(a)、(b)においては、延在部材61を模式的に図示している。
【0058】
図7(a)に示すように、糸掛補助部材47は、補助部材回動装置55によって、第1方向と略平行な初期姿勢(図7(a)の実線参照)と、第3方向と略平行な糸掛姿勢(図7(a)の二点鎖線参照)との間で姿勢を変更させられる。
【0059】
また、図7(b)に示すように、糸掛補助部材47は、回動軸62を回動中心として、延在部材61と一体的に回動可能である(図7(b)の二点鎖線参照)。より具体的には、延在部材61の回動する方向は、補助部材案内部29の姿勢が案内姿勢であるときの案内面29aの延びる方向(すなわち、案内方向)と交差する。以下、延在部材61の回動する方向を交差方向とする。また、糸掛補助部材47が補助部材案内部29の右側に位置しているとき、糸掛補助部材47の先端部は、交差方向において案内面29aに近い側に配置され、糸掛補助部材47の基端部は、交差方向において案内面29aから遠い側に配置される。交差方向において、案内面29aに近い側(案内面29a側)を一方側とし、案内面29aから遠い側を他方側とする。
【0060】
交差方向において糸掛補助部材47に外力が作用したとき、ねじりバネ63がねじられることにより上記外力が吸収される。また、ねじりバネ63がねじられることにより弾性復元力が生じ、糸掛補助部材47は、回動した向きと逆向きに付勢される。図7(b)では、糸掛補助部材47は、交差方向における他方側に回動させられたとき(図7(b)の二点鎖線参照)、交差方向における一方側(案内面29a側)に付勢されている。
【0061】
(糸掛けの方法)
次に、糸掛ロボット4に第1ゴデットローラ12、第2ゴデットローラ13及び複数の支点ガイド21への糸掛けを行わせる方法について、図8(a)、(b)、図9(a)、(b)及び図10を参照しつつ説明する。図8(a)、(b)は、第1ゴデットローラ12及び第2ゴデットローラ13への糸掛けの動作を示す説明図である。図9(a)、(b)は、糸掛補助部材47に糸を保持させる動作を示す説明図である。図10は、複数の支点ガイド21への糸掛けの動作を示す説明図である。複数の支点ガイド21に糸掛けを行う作業が、本発明の糸掛作業に相当する。
【0062】
糸掛けを開始する前に、糸掛制御装置102は、糸掛ユニット33の押当ローラ46及び糸掛補助部材47の姿勢を、それぞれ初期姿勢にさせておく。また、糸掛けの対象となっている引取ユニット3の引取ユニット制御装置101は、モータ113(図5参照)を制御して、第2ゴデットローラ13をガイドレール15に沿って移動させ、第1ゴデットローラ12に近接させておく(図2の一点鎖線参照)。また、上記引取ユニット制御装置101は、シリンダ114(図5参照)を駆動させて複数の支点ガイド21を前側に集め、互いに近接させておく(図3(b)参照)。さらに、上記引取ユニット制御装置101は、シリンダ115(図5参照)を駆動させて、補助部材案内部29の姿勢を初期姿勢から案内姿勢に切り換えておく。
【0063】
そして、糸掛制御装置102は、本体移動装置121を制御して、糸掛けの対象となっている引取ユニット3と前後方向に重なる位置まで糸掛ロボット4を移動させる。次に、糸掛制御装置102は、アームモータ122、サクション42等を制御し、紡糸装置から紡出された複数の糸Yをサクション42に吸引保持させる。さらに、糸掛制御装置102は、アームモータ122を制御してロボットアーム32を駆動させ、糸掛ユニット33を移動させる。具体的には、糸掛制御装置102は、糸掛ユニット33を、第1方向が前後方向と略平行で、第2方向が鉛直方向と略平行で、且つ、第3方向が左右方向と略平行となるような姿勢に維持させつつ移動させる。これにより、糸掛制御装置102は、まず第1ゴデットローラ12への糸掛け(図8(a)参照)を糸掛ユニット33に行わせ、次に第2ゴデットローラ13への糸掛け(図8(b)参照)を糸掛ユニット33に行わせる。
【0064】
次に、糸掛制御装置102は、ローラ回動装置53を制御して、押当ローラ46の姿勢を初期姿勢から押当姿勢に切り換える(図9(a)の二点鎖線参照)。すると、押当ローラ46が複数の糸Yに押し当てられ、複数の糸Yとの間の摩擦力によって回転する。これにより、複数の糸Yの、押当ローラ46が押し当てられた部分の間隔が広げられ、複数の糸Yの間隔が、糸掛補助部材47の複数の溝47aの開口部における間隔とほぼ同じとなる。さらに、糸掛制御装置102は、シリンダ51を駆動させて、スライド部材45を第1方向の先端側にスライドさせる(図9(a)の矢印A1参照)。すると、複数の糸Yに押し当てられた押当ローラ46が、スライド部材45とともに第1方向の先端側にスライドしてサクション42から離れる(図9(a)の実線参照)。これにより、押当ローラ46からサクション42へ向かう糸Yの第1方向に対する傾斜角度が小さくなり、糸Yが押当ローラ46から離れる位置のばらつきが抑制され、糸揺れが抑制される。
【0065】
次に、糸掛制御装置102は、補助部材回動装置55を制御して、糸掛補助部材47の姿勢を初期姿勢から糸掛姿勢に切り換える(図9(b)の矢印A2参照)。これにより、糸掛補助部材47の複数の溝47aが、押当ローラ46が押し当てられた複数の糸Yとそれぞれ対向する。続いて、糸掛制御装置102は、ローラ回動装置53を制御して、押当ローラ46の姿勢を押当姿勢から初期姿勢に戻す。すると、押当ローラ46が複数の糸Yから離れ、複数の糸Yが、複数の溝47aにそれぞれ挿入される。このようにして、複数の糸Yが糸掛補助部材47によって一時的に保持される。
【0066】
次に、糸掛制御装置102は、ロボットアーム32を駆動させ、糸掛補助部材47を複数の支点ガイド21の下側に位置させた状態、且つ、糸掛補助部材47を補助部材案内部29に接触させていない状態で、糸掛補助部材47を後方へ移動させる。具体的には、糸掛制御装置102は、糸掛補助部材47を、最も後側に位置している支点ガイド21よりも後側(つまり、案内方向における最も奥側に位置している支点ガイド21よりも奥側)へ移動させる。そして、図10に示すように、糸掛制御装置102は、ロボットアーム32を駆動させ、糸掛補助部材47の先端部を補助部材案内部29の案内面29aに当接させる(図10の二点鎖線参照)。
【0067】
ここで、糸掛ロボット4には上述したクッション部60が設けられているので、糸掛補助部材47の先端部が補助部材案内部29の案内面29aに当たったときに、糸掛補助部材47が案内面29aから受ける反発力をクッション部60によって吸収できる。具体的には、糸掛補助部材47が取り付けられた延在部材61が回動軸62を回動中心として回動し、ねじりバネ63が弾性変形することによって、案内面29aから糸掛補助部材47に加えられる反発力が吸収される。このため、糸掛補助部材47に過剰な力が加わることを抑制できる。また、このとき、ねじりバネ63に発生している弾性復元力によって、延在部材61及び糸掛補助部材47が、交差方向における一方側(案内面29a側)に付勢されている。これにより、糸掛補助部材47を案内面29aに確実に当てることができる。
【0068】
次に、糸掛制御装置102は、ロボットアーム32を駆動させ、糸掛補助部材47を案内面29aに常に当てた状態で、少なくとも案内方向における手前側へ糸掛ユニット33を移動させる(図10の実線及び矢印A3参照)。これにより、複数の溝47aに挿入された複数の糸Yが、それぞれ対応する支点ガイド21に掛けられる(糸掛作業)。ここで、糸掛ユニット33を移動させる方向は、案内方向と略平行であることが最も好ましいが、これに限定されるものではない。すなわち、糸掛ユニット33を移動させる方向は、案内方向に対して左方又は右方に傾いていても良い。一例として、糸掛制御装置102は、アーム64を前後方向と平行に真っ直ぐ後方へ移動させても良い。或いは、糸掛制御装置102は、糸掛補助部材47の交差方向における必要な移動量より、アーム64の交差方向における移動量を少なくしても良い。このような場合であっても、複数の支点ガイド21への糸掛作業中に、糸掛補助部材47が案内面29aに常に当たるように制御が行われれば良い。このように、補助部材案内部29が設けられていない構成と比べて、糸掛ユニット33の移動方向を厳密に制御しなくても、複数の糸Yをそれぞれ対応する支点ガイド21に掛けることができる。
【0069】
そして、複数の支点ガイド21への糸掛けが完了した後、引取ユニット制御装置101は、第2ゴデットローラ13及び複数の支点ガイド21を巻取動作時の位置に移動させる。また、糸掛制御装置102は、糸掛補助部材47を糸掛姿勢から初期姿勢に戻す。
【0070】
(糸掛ロボットのティーチング方法)
次に、糸掛作業に関する動作情報を糸掛ロボット4の糸掛制御装置102に記憶させるティーチング方法について、図11及び図12を参照しつつ説明する。図11は、ティーチングの手順を示すフローチャートである。図12は、ティーチング中の糸掛ユニット33の動作を示す説明図である。
【0071】
本実施形態では、オペレータがティーチングペンダント103(図5参照)を操作することによりティーチングを行う。なお、第1ゴデットローラ12及び第2ゴデットローラ13への糸掛けに関するティーチングは予め行われたものとする。また、本実施形態では、オペレータは、糸掛補助部材47に糸Yを保持させていない状態でティーチングを行う。
【0072】
まず、オペレータは、ティーチングペンダント103を操作し、ある引取ユニット3における複数の支点ガイド21への糸掛作業の開始位置及び終了位置を仮設定する(S101)。ここで、開始位置とは、例えば、複数の支点ガイド21への糸掛作業の開始時における延在部材61(図12参照)の先端部の位置である。同様に、終了位置とは、例えば、糸掛作業の終了時における延在部材61の先端部の位置である。もちろん、アーム64等、他の部材の位置に関する情報を開始位置及び終了位置としてティーチングペンダント103に入力しても良い。
【0073】
次に、オペレータは、ティーチングペンダント103を操作し、糸掛補助部材47に糸Yを保持させていない状態で、糸掛ロボット4の動作確認を行う(S102)。具体的には、ステップS101において入力した動作情報に基づき、糸掛ロボット4を実際に動作させる(図12の矢印A4参照)。
【0074】
上記動作確認において、オペレータは、動作開始時から終了時まで糸掛補助部材47が常に案内面29aに接触していたか否か、例えば目視により判断する(S103)。動作開始時から終了時まで、糸掛補助部材47が常に案内面29aに接触していた場合(S103:Yes)、オペレータは、ティーチングペンダント103を操作し、開始位置及び終了位置に関する情報(動作情報)を糸掛制御装置102の記憶部102aに記憶させる(S104)。これにより、糸掛作業の開始時から終了時まで糸掛補助部材47の案内面29aに対する接触が維持されるように、動作情報が記憶される。なお、動作開始時から終了時までの間に糸掛補助部材47が案内面29aから離れた場合(S103:No)、オペレータは、ステップS101に戻り、開始位置及び終了位置の仮設定を再び行う。この場合でも、動作確認時に糸掛補助部材47の先端部と案内面29aとの距離を目測することにより、開始位置及び終了位置に関する情報を容易に修正できる。
【0075】
さらに、糸掛制御装置102に記憶された上記動作情報を、他の引取ユニット3に対する糸掛作業に関する動作情報として展開(複製)しても良い。一般的に、各引取ユニット3において糸掛ロボット4と支点ガイド21との相対位置は微妙に異なりうるため、従来のように糸掛ロボット4の厳密な動作制御を行う場合は、糸掛けの対象となる全ての引取ユニット3に関してティーチングを行う必要があった。この点、本実施形態の構成では、糸掛作業の開始時から終了時まで糸掛補助部材47の案内面29aに対する接触が維持されれば良い。したがって、ティーチングの回数を減らすことができ、ティーチングに要する時間をさらに短縮できる。
【0076】
以上のように、糸掛作業において糸掛補助部材47が案内面29aに当てられたときに、糸掛補助部材47が案内面29aから受ける反発力をクッション部60によって吸収できる。したがって、糸掛ロボット4に設けられた糸掛補助部材47が補助部材案内部29に当たっているときに、糸掛補助部材47に過剰な力が加わることを抑制できる。
【0077】
また、糸掛作業中に糸掛補助部材47がねじりバネ63によって案内面29a側に付勢されるので、ねじりバネ63の弾性変形可能な範囲内で糸掛補助部材47を案内面29aに積極的に当てることができる。したがって、糸掛補助部材47の厳密な位置制御を行わなくても、糸掛補助部材47を案内面29aに容易に当てることができる。
【0078】
また、糸掛補助部材47が取り付けられた回動可能な延在部材61が付勢されるので、本実施形態のように延在部材61の先端部に糸掛補助部材47を取り付けることで、糸掛補助部材47の可動範囲を広くすることができる。
【0079】
また、ねじりバネ63を用いた簡易な構成で延在部材61を付勢することができる。したがって、付勢力の調整も容易に行うことができる。
【0080】
また、糸掛作業において、糸掛補助部材47を案内面29aに常に当てた状態で移動させることにより、複数の支点ガイド21に糸Yを確実に掛けることができる。したがって、ロボットアーム32及びアームモータ122を厳密に制御しなくても糸掛作業を正常に行うことができる。
【0081】
また、補助部材案内部29の案内面29aによって糸掛補助部材47の移動経路を予め規定できるので、補助部材案内部29を用いずに糸掛作業を行う場合と比べて、動作確認を行う回数を大きく減らすことができる。したがって、ティーチングに要する時間を飛躍的に短縮させることができる。
【0082】
また、糸掛補助部材47が案内面29aに沿って移動するように動作情報を制御部に記憶させることにより、糸掛補助部材47に正しい経路を通らせることができる。このため、糸掛補助部材47に糸を保持させていない状態でも、ティーチングを正確に行うことができる。したがって、ティーチング中に、糸掛補助部材47に糸Yを保持させる手間を省くことができ、ティーチングに要する時間を劇的に短縮させることができる。
【0083】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0084】
(1)前記実施形態においては、延在部材61及び糸掛補助部材47をねじりバネ63によって付勢するものとしたが、これには限られない。例えば、図13に示すように、延在部材61とアーム64とが引張コイルバネ71によって接続されていても良い。これにより、糸掛補助部材47が補助部材案内部29に当てられたときに、糸掛補助部材47が案内面29aから受ける反発力を引張コイルバネ71によって吸収できる。
【0085】
(2)前記までの実施形態においては、延在部材61及び糸掛補助部材47の両方が付勢されるものとしたが、これには限られない。例えば、延在部材61がアーム64に固定され、糸掛補助部材47が延在部材61に直交する方向に移動可能に構成されていても良い。その上で、糸掛補助部材47を、例えば圧縮コイルバネ或いはゴム等の弾性部材によって、交差方向における案内面29a側へ付勢しても良い。
【0086】
(3)前記までの実施形態において、クッション部60が、ばねやゴム等の弾性部材を有するものとしたが、これには限られない。例えば、低反発のウレタン等の可撓部材によって、案内面29aからの反発力を吸収しても良い。なお、この場合、糸掛補助部材47は必ずしも案内面29a側へ付勢されないおそれがあるので、糸掛作業において、アーム64が交差方向において案内面29aに徐々に近づくようにロボットアーム32を制御することが好ましい。また、たわんだ可撓部材をたわむ前の状態に戻すための駆動装置が設けられていても良い。そして、糸掛作業の終了後に、駆動装置によって可撓部材をたわむ前の状態に確実に戻しても良い。
【0087】
(4)前記までの実施形態において、糸掛補助部材47に糸Yを掛けていない状態でティーチングを行うものとしたが、これには限られない。糸掛補助部材47に糸Yを掛けた状態でティーチングを行っても良い。
【0088】
(5)前記までの実施形態において、第2ゴデットローラ13は、糸Yの糸掛けを行うときの位置と糸Yの巻取りを行うときの位置との間を移動可能であるものとしたが、これに限られない。第2ゴデットローラ13は、必ずしも移動可能に構成されていなくても良い。
【0089】
(6)前記までの実施形態において、紡糸引取機1は複数の引取ユニット3を備えるものとしたが、これには限られない。引取ユニット3は、1つだけ設けられていても良い。
【0090】
(7)前記までの実施形態において、糸掛制御装置102が糸掛ロボット4の動作を制御するものとしたが、これには限られない。例えば、制御装置100が糸掛ロボット4の動作を制御しても良い。
【0091】
(8)前記までの実施形態において、複数の支点ガイド21は、前方に集まるように移動可能であるものとしたが、これには限られない。複数の支点ガイド21は、必ずしも移動可能に構成されていなくても良い。
【0092】
(9)本発明は、紡糸引取機1に限られず、糸掛ロボット4のような自動糸掛装置を備える様々な繊維機械に適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 紡糸引取機(繊維機械)
4 糸掛ロボット(自動糸掛装置)
14 巻取装置
21 支点ガイド
24 ボビンホルダ
29 補助部材案内部
29a 案内面
32 ロボットアーム(駆動機構)
47 糸掛補助部材
60 クッション部
61 延在部材(回動部材)
63 ねじりバネ(弾性部材)
102 糸掛制御装置(制御部)
B ボビン
Y 糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13