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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】開放型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20230417BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
F04C18/02 311E
F04C29/00 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019049513
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020153240
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 善彰
(72)【発明者】
【氏名】野口 章浩
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀作
(72)【発明者】
【氏名】横山 将樹
(72)【発明者】
【氏名】水野 尚夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】後藤 利行
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156310(JP,A)
【文献】特開平08-042475(JP,A)
【文献】実開平02-139387(JP,U)
【文献】特開2003-202030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/12
F04B 39/00
F04C 29/00
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転する駆動軸により駆動されるとともに吸入口から流入する流体を圧縮して吐出口から吐出する圧縮機構と、
前記駆動軸を支持する軸受部と、
前記圧縮機構を収容するとともに筒状に形成された第1ハウジングと、
前記第1ハウジングの開口部を閉塞するように取り付けられるとともに前記軸受部を前記軸線上に保持するための凹所が前記圧縮機構側の端部に形成された第2ハウジングと、
前記凹所に前記軸受部が保持された状態で前記第2ハウジングの前記圧縮機構側の端部に取り付けられた抜け防止部材と、を備え、
前記凹所は、前記軸線を中心とした第1直径を有する円筒状の第1内周面を備え、
前記抜け防止部材は、前記軸線を中心とした前記第1直径よりも小さい第2直径を有する円筒状の第2内周面を備え、
前記軸受部は、前記第2直径よりも大きい第3直径を有する円筒状の外周面を備え、
前記圧縮機構は、前記第1ハウジングに固定された固定スクロールと、前記駆動軸に対して偏心したクランクピンに連結される旋回スクロールと、を有し、前記固定スクロールに噛み合わされた前記旋回スクロールを公転旋回駆動させることにより流体を圧縮する機構であり、
前記旋回スクロールが前記クランクピンに対して回転することを阻止する自転防止機構を備え、
前記自転防止機構は、
前記旋回スクロールの前記第2ハウジング側の端部に取り付けられるとともに前記軸線に沿って突出する複数の自転防止ピンと、
前記抜け防止部材に形成されるとともに前記自転防止ピンの先端部を収容するための円筒状の内周面を有する複数の自転防止穴と、を有する開放型圧縮機。
【請求項2】
軸線回りに回転する駆動軸により駆動されるとともに吸入口から流入する流体を圧縮して吐出口から吐出する圧縮機構と、
前記駆動軸を支持する軸受部と、
前記圧縮機構を収容するとともに筒状に形成された第1ハウジングと、
前記第1ハウジングの開口部を閉塞するように取り付けられるとともに前記軸受部を前記軸線上に保持するための凹所が前記圧縮機構側の端部に形成された第2ハウジングと、
前記凹所に前記軸受部が保持された状態で前記第2ハウジングの前記圧縮機構側の端部に取り付けられた抜け防止部材と、を備え、
前記凹所は、前記軸線を中心とした第1直径を有する円筒状の第1内周面を備え、
前記抜け防止部材は、前記軸線を中心とした前記第1直径よりも小さい第2直径を有する円筒状の第2内周面を備え、
前記軸受部は、前記第2直径よりも大きい第3直径を有する円筒状の外周面を備え、
前記圧縮機構は、前記第1ハウジングに固定された固定スクロールと、前記駆動軸に対して偏心したクランクピンに連結される旋回スクロールと、を有し、前記固定スクロールに噛み合わされた前記旋回スクロールを公転旋回駆動させることにより流体を圧縮する機構であり、
前記旋回スクロールが前記クランクピンに対して回転することを阻止する自転防止機構を備え、
前記自転防止機構は、
前記抜け防止部材の前記旋回スクロール側の端部に取り付けられるとともに前記軸線に沿って突出する複数の自転防止ピンと、
前記旋回スクロールに形成されるとともに前記自転防止ピンの先端部を収容するための円筒状の内周面を有する複数の自転防止穴と、を有する開放型圧縮機。
【請求項3】
前記旋回スクロールは、アルミニウム合金により形成されており、
前記自転防止ピンは、鋳鉄または鉄鋼材により形成されており、
前記自転防止機構は、前記自転防止穴の内周面に保持されるとともに鋳鉄または鉄鋼材により形成された円環状部材を有する請求項に記載の開放型圧縮機。
【請求項4】
前記抜け防止部材が取り付けられる前記第2ハウジングの第1取付面には、前記軸線に沿って延びるとともに断面視が円形の棒状部材を挿入可能な第1位置決め穴が形成されており、
前記第2ハウジングに取り付けられる前記抜け防止部材の第2取付面には、前記棒状部材を挿入可能な第2位置決め穴が形成されている請求項1から請求項のいずれか一項に記載の開放型圧縮機。
【請求項5】
軸線回りに回転する駆動軸により駆動されるとともに吸入口から流入する流体を圧縮して吐出口から吐出する圧縮機構と、
前記駆動軸を支持する軸受部と、
前記圧縮機構を収容するとともに筒状に形成された第1ハウジングと、
前記第1ハウジングの開口部を閉塞するように取り付けられるとともに前記軸受部を前記軸線上に保持するための凹所が前記圧縮機構側の端部に形成された第2ハウジングと、
前記凹所に前記軸受部が保持された状態で前記第2ハウジングの前記圧縮機構側の端部に取り付けられた抜け防止部材と、を備え、
前記凹所は、前記軸線を中心とした第1直径を有する円筒状の第1内周面を備え、
前記抜け防止部材は、前記軸線を中心とした前記第1直径よりも小さい第2直径を有する円筒状の第2内周面を備え、
前記軸受部は、前記第2直径よりも大きい第3直径を有する円筒状の外周面を備え、
前記圧縮機構は、前記第1ハウジングに固定された固定スクロールと、前記駆動軸に対して偏心したクランクピンに連結される旋回スクロールと、を有し、前記固定スクロールに噛み合わされた前記旋回スクロールを公転旋回駆動させることにより流体を圧縮する機構であり、
前記旋回スクロールが前記クランクピンに対して回転することを阻止する自転防止機構を備え、
前記抜け防止部材は、
前記軸線に直交するとともに前記軸受部の前記圧縮機構側の接触面と接触または近接する抜け止め面と、
前記軸線に直交するとともに前記旋回スクロールの前記第2ハウジング側の端面と接触または近接する摺動面と、を有する開放型圧縮機。
【請求項6】
前記抜け防止部材には、前記圧縮機構側へ開口するとともに前記抜け防止部材を前記第2ハウジングに締結する締結ボルトが挿入される挿入穴が形成されており、
前記摺動面は、前記締結ボルトの頭部よりも前記軸線に沿って前記圧縮機構側に配置されている請求項に記載の開放型圧縮機。
【請求項7】
前記抜け防止部材は、鋳鉄または鉄鋼材により形成されている請求項に記載の開放型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開放型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングの内部に軸受を介して回転自在に支持している駆動軸の一端部をハウジングの外部に突出させ、外部から動力を得て駆動される開放型圧縮機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の開放型圧縮機は、旋回スクロールを駆動するクランクシャフトをメイン軸受およびサブ軸受で回転自在に支持している。メイン軸受は、フロントハウジングのスクロール圧縮機構側の端部に圧入された状態で、フロントハウジングによって保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-156310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の開放型圧縮機は、フロントハウジングのスクロール圧縮機構側の開口からメイン軸受をフロントハウジングへ圧入してフロントハウジングに保持させている。メイン軸受をフロントハウジングへ圧入するために、フロントハウジングのスクロール圧縮機構側の開口は、メイン軸受の外径よりも大きくなっている。メイン軸受を大型化する場合、それに応じてフロントハウジングの開口径を大きくする必要があるため、圧縮機全体が大型化してしまう。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、軸受部を保持するハウジングを大型化することなく、大型化した軸受部を内部に保持することが可能な開放型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、本発明の一態様に係る開放型圧縮機は、以下の手段を採用している。
本発明の一態様に係る開放型圧縮機は、軸線回りに回転する駆動軸により駆動されるとともに吸入口から流入する流体を圧縮して吐出口から吐出する圧縮機構と、前記駆動軸を支持する軸受部と、前記圧縮機構を収容するとともに筒状に形成された第1ハウジングと、前記第1ハウジングの開口部を閉塞するように取り付けられるとともに前記軸受部を前記軸線上に保持するための凹所が前記圧縮機構側の端部に形成された第2ハウジングと、前記凹所に前記軸受部が保持された状態で前記第2ハウジングの前記圧縮機構側の端部に取り付けられた抜け防止部材と、を備え、前記凹所は、前記軸線を中心とした第1直径を有する円筒状の第1内周面を備え、前記抜け防止部材は、前記軸線を中心とした前記第1直径よりも小さい第2直径を有する円筒状の第2内周面を備え、前記軸受部は、前記第2直径よりも大きい第3直径を有する円筒状の外周面を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る開放型圧縮機によれば、軸受部が保持される第2ハウジングの凹所の第1内周面の第1直径よりも、抜け防止部材の第2内周面の第2直径が小さい。第1直径よりも第2直径を小さくすることで、それに伴って抜け防止部材の外周面および第2ハウジングの外周面の直径を小さくすることができる。そのため、軸受部が大型化した場合に、それに伴って第2ハウジングが大型化することを避けることができる。
【0008】
また、抜け防止部材の第2内周面の第2直径よりも、軸受部の外周面の第3直径が大きい。第2直径よりも第3直径を大きくすることで、軸受部が第2ハウジングから抜けることが抜け防止部材により防止される。このように、本発明の一態様に係る開放型圧縮機によれば、軸受部を保持するハウジングを大型化することなく、大型化した軸受部を内部に保持することが可能となる。
【0009】
本発明の一態様に係る開放型圧縮機において、前記圧縮機構は、前記第1ハウジングに固定された固定スクロールと、前記駆動軸に対して偏心したクランクピンに連結される旋回スクロールと、を有し、前記固定スクロールに噛み合わされた前記旋回スクロールを公転旋回駆動させることにより流体を圧縮する機構であり、前記旋回スクロールが前記クランクピンに対して回転することを阻止する自転防止機構を備える構成であってよい。
【0010】
本構成の開放型圧縮機によれば、第1ハウジングに固定される固定スクロールに対して駆動軸に連結される旋回スクロールを公転旋回駆動することにより、固定スクロールと旋回スクロールの間に形成される圧縮室において流体が圧縮される。自転防止機構により、旋回スクロールがクランクピンに対して回転することが阻止されるため、圧縮室により適切に流体を圧縮することができる。
【0011】
上記構成の開放型圧縮機において、前記自転防止機構は、前記旋回スクロールの前記第2ハウジング側の端部に取り付けられるとともに前記軸線に沿って突出する複数の自転防止ピンと、前記抜け防止部材に形成されるとともに前記自転防止ピンの先端部を収容するための円筒状の内周面を有する複数の自転防止穴と、を有してもよい。
旋回スクロールに取り付けられる複数の自転防止ピンを抜け防止部材に形成される複数の自転防止穴に挿入することで、旋回スクロールがクランクピンに対して回転することを阻止し、圧縮室により適切に流体を圧縮することができる。
【0012】
上記構成の開放型圧縮機において、前記自転防止機構は、前記抜け防止部材の前記旋回スクロール側の端部に取り付けられるとともに前記軸線に沿って突出する複数の自転防止ピンと、前記旋回スクロールに形成されるとともに前記自転防止ピンの先端部を収容するための円筒状の内周面を有する複数の自転防止穴と、を有してもよい。
抜け防止部材に取り付けられる複数の自転防止ピンを旋回スクロールに形成される複数の自転防止穴に挿入することで、旋回スクロールがクランクピンに対して回転することを阻止し、圧縮室により適切に流体を圧縮することができる。
【0013】
上記構成の開放型圧縮機において、前記旋回スクロールは、アルミニウムまたはアルミニウム合金により形成されており、前記自転防止ピンは、鋳鉄または鉄鋼材により形成されており、前記自転防止機構は、前記自転防止穴の内周面に保持されるとともに鉄または鉄を含む鋼材により形成された円環状部材を有してもよい。
【0014】
旋回スクロールをアルミニウム合金により形成し、自転防止ピンを鋳鉄または鉄鋼材により形成した場合、アルミニウム合金の硬度が低い。そのため、これらが直接接触すると旋回スクロールが摩耗してしまう。上記構成の開放型圧縮機においては、自転防止穴の内周面に、鋳鉄または鉄鋼材により形成された円環状部材が保持されるため、旋回スクロールの摩耗を抑制することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る開放型圧縮機において、前記抜け防止部材が取り付けられる前記第2ハウジングの第1取付面には、前記軸線に沿って延びるとともに断面視が円形の棒状部材を挿入可能な第1位置決め穴が形成されており、前記第2ハウジングに取り付けられる前記抜け防止部材の第2取付面には、前記棒状部材を挿入可能な第2位置決め穴が形成されていてもよい。
【0016】
第2ハウジングの第1取付面に形成された第1位置決め穴に棒状部材の一端を挿入し、抜け防止部材の第2取付面に形成された第2位置決め穴に棒状部材の他端を挿入することにより、抜け防止部材が第2ハウジングに対して位置決めされる。そのため、抜け防止部材が第2ハウジングに対して位置決めされた状態で抜け防止部材を第2ハウジングに固定することができる。
【0017】
本発明の一態様に係る開放型圧縮機において、前記抜け防止部材は、前記軸線に直交するとともに前記軸受部の前記圧縮機構側の接触面と接触または近接する抜け止め面と、前記軸線に直交するとともに前記旋回スクロールの前記第2ハウジング側の端面と接触または近接する摺動面と、を有する構成としてもよい。
抜け防止部材は、抜け止め面を軸受部の圧縮機構側の接触面と接触させることにより、軸受部が第2ハウジングから抜けることを防止することができる。また、抜け防止部材は、摺動面を旋回スクロールの第2ハウジング側の端面と接触させることにより、別途のスラストプレートを設けることなく、旋回スクロールを駆動軸の軸線に沿った方向(スラスト方向)に支持することができる。
【0018】
上記構成の開放型圧縮機において、前記抜け防止部材には、前記圧縮機構側へ開口するとともに締結ボルトが挿入される挿入穴が形成されており、前記摺動面は、前記締結ボルトの頭部よりも前記軸線に沿って前記圧縮機構側に配置されていてもよい。
このような開放型圧縮機によれば、摺動面が締結ボルトの頭部よりも圧縮機側に配置されるため、締結ボルトを用いて抜け防止部材を第2ハウジングに締結し、かつ抜け防止部材の摺動面を用いて旋回スクロールを駆動軸の軸線に沿った方向(スラスト方向)に支持することができる。
【0019】
本発明の一態様に係る開放型圧縮機において、前記抜け防止部材は、鋳鉄または鉄鋼材により形成されており、前記旋回スクロールは、アルミニウムまたはアルミニウム合金により形成されていてもよい。
抜け防止部材が鋳鉄または鉄鋼材により形成されているため、アルミニウムまたはアルミニウム合金に比べ、抜け防止部材と旋回スクロールとが直接的に接触する場合に抜け防止部材が摩耗することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軸受部を保持するハウジングを大型化することなく、大型化した軸受部を内部に保持することが可能な開放型圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1実施形態の開放型圧縮機を示す縦断面図である。
図2図1に示す開放型圧縮機のフロントハウジングおよび抜け防止部材を駆動軸の軸線に沿ってみた図である。
図3図1に示す開放型圧縮機のフロントハウジングにメイン軸受が圧入された状態を示す縦断面図である。
図4】本発明の第2実施形態の開放型圧縮機を示す縦断面図である。
図5図4に示す開放型圧縮機のフロントハウジングおよび抜け防止部材を駆動軸の軸線に沿ってみた図である。
図6】本発明の第3実施形態の開放型圧縮機を示す縦断面図である。
図7図6に示す開放型圧縮機のフロントハウジングおよび抜け防止部材を駆動軸の軸線に沿ってみた図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態の開放型圧縮機1について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の開放型圧縮機1を示す縦断面図である。図2は、図1に示す開放型圧縮機1のフロントハウジング3および抜け防止部材31を駆動軸6の軸線Xに沿ってみた図である。図2は、図1の矢印Hの方向から開放型圧縮機1を視認した図であり、スクロール圧縮機構5およびリアハウジング2を取り外した状態を示している。図1に示す縦断面図は、図2のA-X-A矢視断面図である。図3は、図1に示す開放型圧縮機1のフロントハウジング3にメイン軸受7が圧入された状態を示す縦断面図である。図3は、スクロール圧縮機構5、リアハウジング2、および抜け防止部材31を取り外した状態を示している。
【0023】
本実施形態の開放型スクロール圧縮機(開放型圧縮機)1は、図1に示されるように、軸線X回りの周方向に延在する円筒状のリアハウジング2(第1ハウジング)と、リアハウジング2の前端側に設けられる開口部2aを閉塞するように取り付けられるフロントハウジング3(第2ハウジング)とを備えている。
【0024】
また、本実施形態の開放型圧縮機1は、スクロール圧縮機構5と、駆動軸6と、メイン軸受(軸受部)7と、サブ軸受8と、リップシール9と、軸受10と、プーリ11と、電磁クラッチ12と、クランクピン13と、可変旋回半径機構14と、固定スクロール15と、旋回スクロール16と、バランスウェイト30と、抜け防止部材31と、オルダムリンク32を備える。
【0025】
リアハウジング2は、後端側が閉塞した形状となっており、前端側の開口部2aにフロントハウジング3がボルト(図示略)によって固定される。リアハウジング2にフロントハウジング3が固定された状態で内部に密閉空間が形成され、その密閉空間にスクロール圧縮機構5および駆動軸6が収容される。リアハウジング2の外周面には、流体(冷媒ガス)を密閉空間に流入させる吸入口INと、スクロール圧縮機構5により圧縮された流体を密閉空間から外部へ吐出する吐出口(図示略)とが形成されている。
【0026】
フロントハウジング3は、メイン軸受7を軸線X上に保持するための凹所3aと、サブ軸受8を軸線X上に保持するための凹所3bとが内部に形成され、リアハウジング2側が開口した略筒状の部材である。凹所3bは、スクロール圧縮機構5側の端部に形成されている。
【0027】
駆動軸6は、フロントハウジング3にメイン軸受7およびサブ軸受8を介して回転自在に支持されている。また、フロントハウジング3からリップシール9を介して外部に突出した駆動軸6の前端部には、フロントハウジング3の外周部に軸受10を介して回転自在に設置されたプーリ11が電磁クラッチ12を介して連結されている。このように、駆動軸6は、電磁クラッチ12を介してプーリ11を駆動する外部からの動力が伝達され、図1に示す軸線X回りに回転するようになっている。
【0028】
駆動軸6の後端には、所定寸法だけ偏心したクランクピン13が一体に設けられている。また、駆動軸6の後端は、後述するスクロール圧縮機構5の旋回スクロール16と、その旋回半径を可変とするドライブブッシュを含む公知の可変旋回半径機構14を介して連結されている。可変旋回半径機構14には、駆動軸6に対して偏心して取り付けられる旋回スクロール16との重量バランスをとるためのバランスウェイト30が取り付けられている。
【0029】
スクロール圧縮機構5は、軸線X回りに回転する駆動軸6により駆動されるとともにリアハウジング2の外周面に形成される吸入口INから流入する流体(冷媒ガス)を圧縮してリアハウジング2に形成される吐出口(図示略)から吐出する機構である。スクロール圧縮機構5は、例えば、アルミニウム合金により形成される固定スクロール15と旋回スクロール16を備える。
【0030】
スクロール圧縮機構5は、一対の固定スクロール15と旋回スクロール16とを180度位相をずらして噛み合わせ、旋回スクロール16を軸線X回りに公転旋回運動させる。スクロール圧縮機構5は、固定スクロール15と旋回スクロール16との間に一対の圧縮室を形成し、外周位置から中心位置へと容積を漸次減じながら流体を移動させることにより流体(冷媒ガス)を圧縮する。
【0031】
固定スクロール15は、中心部位に圧縮した流体を吐出する吐出ポート(図示略)を備えており、リアハウジング2の底壁面にボルト(図示略)を介して固定されている。また、旋回スクロール16は、駆動軸6のクランクピン13に可変旋回半径機構14を介して連結され、フロントハウジング3の抜け防止部材31のスクロール圧縮機構5側の面にオルダムリンク32を介して公転旋回駆動自在に支持されている。クランクピン13は、駆動軸6の軸線Xに対して偏心した位置に配置されている。
【0032】
また、固定スクロール15と旋回スクロール16は、それぞれ軸線Xに直交する面上に配置される端板上に渦巻き状ラップが立設された構成である。固定スクロール15と旋回スクロール16との間に、それぞれの端板とそれぞれの渦巻き状ラップとで仕切られる一対の圧縮室が、スクロール中心に対して対称に形成される。また、旋回スクロール16が固定スクロール15周りにスムーズに公転旋回駆動するようになっている。
【0033】
メイン軸受7は、駆動軸6を軸線X上に支持するものであり、内輪7aが駆動軸6に圧入されるとともに外輪7bがフロントハウジング3のスクロール圧縮機構5側の端部に圧入されている。メイン軸受7は、フロントハウジング3によって軸線X上に保持されている。メイン軸受7は、サブ軸受8よりもスクロール圧縮機構5側に配置されるとともにサブ軸受8よりも外径が大きいラジアル玉軸受である。メイン軸受7の外輪7bのスクロール圧縮機構5側の端面は、抜け防止部材31と接触または近接する接触面を形成している。接触面は、軸線Xに直交する面となっている。
【0034】
サブ軸受8は、メイン軸受7とともに駆動軸6を軸線X上に支持するものであり、内輪が駆動軸6に圧入されるとともに外輪がフロントハウジング3に圧入されている。サブ軸受8は、フロントハウジング3によって軸線X上に保持されている。サブ軸受8は、リップシール9よりもスクロール圧縮機構5側に配置されるとともにメイン軸受7よりも外径が小さいニードル軸受である。
【0035】
リップシール9(シール部)は、駆動軸6の外周面に接触するとともに駆動軸6に沿った流体の漏出を防止する部材である。リップシール9は、フロントハウジング3の内周面に取り付けられるとともに軸線X上に保持されている。
【0036】
抜け防止部材31は、フロントハウジング3の凹所3aにメイン軸受7が圧入により保持された状態で、フロントハウジング3のスクロール圧縮機構5側の端部に取り付けられる円環状の部材である。抜け防止部材31は、例えば、鋳鉄または鋼材により形成されている。
【0037】
抜け防止部材31のフロントハウジング3と接触または近接する端面は、軸線Xに直交するとともにメイン軸受7の接触面と接触または近接する抜け止め面31aとなっている。抜け止め面31aは、メイン軸受7の接触面と接触もしくは近接することにより、メイン軸受7が凹所3aから抜けることを防止する。
【0038】
図1に示すように、抜け防止部材31のスクロール圧縮機構5側の端面は、軸線Xに直交するとともに旋回スクロール16のフロントハウジング3側の端面16aと接触または近接する摺動面31bとなっている。例えば、摺動面31bは、抜け防止部材31の素材(例えば、鋳鉄または鉄鋼材)により形成されている。また、例えば、摺動面31bは、抜け防止部材31の端面に被膜されたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂材料により形成されている。
【0039】
図1および図2に示すように、抜け防止部材31には、スクロール圧縮機構5側へ開口するとともに抜け防止部材31をフロントハウジング3に締結する締結ボルト40が挿入される複数の挿入穴31cが形成されている。図1に示すように、抜け防止部材31の摺動面31bは、フロントハウジング3に締結された締結ボルトの頭部よりも軸線Xに沿ってスクロール圧縮機構5側に配置されている。
【0040】
オルダムリンク32は、旋回スクロール16がクランクピン13に対して回転することを阻止する自転防止機構を構成する部材である。図3に仮想線で示すように、オルダムリンク32は、軸線Xに直交する軸線Y上に配置される一対の突起部32aと、軸線Xおよび軸線Yに直交する軸線Z上に配置される一対の突起部32bと、を備える。
【0041】
図2に示すように、一対の突起部32aは、抜け防止部材31側に突出しており、抜け防止部材31に形成された軸線Y方向に延びる一対の溝部31dと係合している。図1に示すように、一対の突起部32bは、旋回スクロール16側に突出しており、旋回スクロール16に形成された軸線Z方向に延びる一対の溝部16bと係合している。
【0042】
オルダムリンク32は、一対の突起部32aが抜け防止部材31の一対の溝部31dと係合しているため、抜け防止部材31に対して軸線Y方向にのみ移動するように移動方向が制限される。また、旋回スクロール16は、一対の溝部16bにオルダムリンク32の一対の突起部32bが係合しているため、オルダムリンク32に対して軸線Z方向にのみ移動するように移動方向が制限される。これにより、旋回スクロール16は、抜け防止部材31に対して軸線Y方向の移動と軸線Z方向の移動を組み合わせた方向にのみ移動が制限され、クランクピン13に対して回転することが阻止される。
【0043】
次に、図3を参照して、抜け防止部材31により、メイン軸受7が凹所3aから抜けることが防止される仕組みについて説明する。図3に示すように、本実施形態の開放型圧縮機1を組み立てる際には、仮想線で示す抜け防止部材31をフロントハウジング3に取り付ける前に、フロントハウジング3の凹所3aにメイン軸受7が取り付けられる。
【0044】
図3に示すように、フロントハウジング3の凹所3aは、軸線Xを中心とした第1直径D1を有する円筒状の内周面(第1内周面)3cを備える。抜け防止部材31は、軸線Xを中心とした第2直径D2を有する円筒状の内周面(第2内周面)31eを備える。メイン軸受7の外周面7dの直径は、凹所3aに取り付けられる前は、第1直径D1よりも微小に大きい。メイン軸受7を圧入により凹所3aに取り付けることにより、メイン軸受7の外周面が有する第3直径D3は、凹所3aの内周面3cの第1直径D1と同一となる。
【0045】
抜け防止部材31は、凹所3aにメイン軸受7を圧入により取り付けた後、図3に仮想線で示す位置に取り付けられる。図3に示すように、抜け防止部材31の第2直径D2は、凹所3aの内周面3cの第1直径D1よりも小さく、かつメイン軸受7の内輪7aの外周面の直径よりも大きい。また、メイン軸受7の外周面7dが有する第3直径D3は、抜け防止部材31の第2直径D2よりも大きい。これにより、抜け防止部材31の抜け止め面31aがメイン軸受7の接触面と接触する状態となり、メイン軸受7が凹所3aから抜けることが防止される。
【0046】
以上説明した本実施形態の開放型圧縮機1が奏する作用および効果について説明する。
本実施形態の開放型圧縮機1によれば、メイン軸受7が保持されるフロントハウジング3の凹所3aの内周面3cの第1直径D1よりも、抜け防止部材31の内周面31eの第2直径D2が小さい。第1直径D1よりも第2直径D2を小さくすることで、それに伴って抜け防止部材31の外周面およびフロントハウジング3の外周面の直径を小さくすることができる。そのため、メイン軸受7が大型化した場合に、それに伴ってフロントハウジング3が大型化することを避けることができる。また、第2直径D2を第1直径D1よりも小さくすることで、抜け防止部材31にて兼用している旋回スクロール16を支持するスラスト部分の面積を広くとることができ、耐摩耗性を向上することができる。
【0047】
また、抜け防止部材31の内周面31eの第2直径D2よりも、メイン軸受7の外周面7dの第3直径D3が大きい。第2直径D2よりも第3直径D3を大きくすることで、メイン軸受7がフロントハウジング3から抜けることが抜け防止部材31により防止される。このように、本実施形態の開放型圧縮機1によれば、メイン軸受7を保持するフロントハウジング3を大型化することなく、大型化したメイン軸受7を内部に保持することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態の開放型圧縮機1によれば、抜け防止部材31は、抜け止め面31aをメイン軸受7のスクロール圧縮機構5側の接触面と接触させることにより、メイン軸受7がフロントハウジング3から抜けることを防止することができる。また、抜け防止部材31は、摺動面31bを旋回スクロール16のフロントハウジング3側の端面16aと接触させることにより、別途のスラストプレートを設けることなく、旋回スクロール16を駆動軸6の軸線Xに沿った方向(スラスト方向)に支持することができる。
【0049】
また、本実施形態の開放型圧縮機1によれば、抜け防止部材31の摺動面31bが締結ボルト40の頭部よりもスクロール圧縮機構5側に配置される。そのため、締結ボルト40を用いて抜け防止部材31をフロントハウジング3に締結し、かつ抜け防止部材31の摺動面31bを用いて旋回スクロール16を駆動軸6の軸線Xに沿った方向(スラスト方向)に支持することができる。
【0050】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態の開放型圧縮機1Aについて、図面を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態の変形例であり、以下で特に説明する場合を除き、第1実施形態と同様であるものとし、以下での説明を省略する。
【0051】
第1実施形態の開放型圧縮機1は、旋回スクロール16がクランクピン13に対して回転することを阻止する自転防止機構として、オルダムリンク32を用いたものであった。それに対して、本実施形態の開放型圧縮機1Aは、旋回スクロール16に取り付けられる自転防止ピン50と抜け防止部材31に形成される自転防止穴31fを自転防止機構として機能させるものである。
【0052】
図4は、本実施形態の開放型圧縮機1Aを示す縦断面図である。図5は、図4に示す開放型圧縮機1Aのフロントハウジング3および抜け防止部材31を駆動軸6の軸線Xに沿ってみた図である。図5は、図4の矢印Iの方向から開放型圧縮機1Aを視認した図であり、スクロール圧縮機構5およびリアハウジング2を取り外した状態を示している。図4に示す縦断面図は、図5のB-B矢視断面図である。
【0053】
図4に示すように、旋回スクロール16のフロントハウジング3側の端部には、軸線Xに沿って突出する複数の自転防止ピン50が取り付けられている。自転防止ピン50は、例えば、鋳鉄または鉄鋼材により形成される円柱形状の部材である。図5に仮想線で示すように、自転防止ピン50は、クランクピン13の中心軸回りに90度の間隔で旋回スクロール16の4か所に取り付けられている。
【0054】
図4に示すように、抜け防止部材31の旋回スクロール16側の端面には、自転防止ピン50の先端部を収容するための円筒状の内周面を有する複数の自転防止穴31fが形成されている。自転防止穴31fは、自転防止ピン50の外径よりも大きい内径を有し、軸線Xに直交する断面形状が円形となっている。図5に示すように、自転防止穴31fは、軸線X回りに90度の間隔で抜け防止部材31の4か所に形成されている。
【0055】
図4に示すように、抜け防止部材31の摺動面31bと旋回スクロール16の端面16aが接触する状態において、自転防止ピン50の先端部は、自転防止穴31fに挿入された状態となる。そのため、自転防止ピン50の移動範囲は、自転防止穴31fにより規制される。これにより、旋回スクロール16は、自転防止穴31fの範囲に移動が制限され、クランクピン13に対して回転することが阻止される。
【0056】
図4に示すように、本実施形態の抜け防止部材31の内周面31eの直径は、抜け防止部材31側が第1実施形態と同様の第2直径D2であるのに対し、旋回スクロール16側が第2直径D2よりも小さい第4直径D4となっている。これは、自転防止機構として、第1実施形態のオルダムリンク32に変えて自転防止ピン50および自転防止穴31fを採用したため、オルダムリンク32が存在していた領域を抜け防止部材31が存在する領域としたためである。旋回スクロール16側が第2直径D2よりも小さい第4直径D4とすることで、旋回スクロール16の端面16aと抜け防止部材31の摺動面31bの接触面積が増大し、旋回スクロール16のスラスト力を抜け防止部材31によりさらに確実に支持することができる。
【0057】
以上説明した本実施形態の開放型圧縮機1Aによれば、旋回スクロール16に取り付けられる複数の自転防止ピン50を抜け防止部材31に形成される複数の自転防止穴31fに挿入することで、旋回スクロール16がクランクピン13に対して回転することを阻止し、圧縮室により適切に流体を圧縮することができる。
【0058】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態の開放型圧縮機1Bについて、図面を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態の変形例であり、以下で特に説明する場合を除き、第1実施形態と同様であるものとし、以下での説明を省略する。
【0059】
第1実施形態の開放型圧縮機1は、旋回スクロール16がクランクピン13に対して回転することを阻止する自転防止機構として、オルダムリンク32を用いたものであった。それに対して、本実施形態の開放型圧縮機1Bは、抜け防止部材31に取り付けられる自転防止ピン60と旋回スクロール16に形成される自転防止穴16cを自転防止機構として機能させるものである。
【0060】
図6は、本実施形態の開放型圧縮機1Bを示す縦断面図である。図7は、図6に示す開放型圧縮機1Bのフロントハウジング3および抜け防止部材31を駆動軸6の軸線Xに沿ってみた図である。図7は、図6の矢印Jの方向から開放型圧縮機1Bを視認した図であり、スクロール圧縮機構5およびリアハウジング2を取り外した状態を示している。図6に示す縦断面図は、図7のC-X-C矢視断面図である。
【0061】
図6に示すように、抜け防止部材31の旋回スクロール16側の端部には、軸線Xに沿って突出する複数の自転防止ピン60が取り付けられている。自転防止ピン60は、例えば、鋳鉄または鉄鋼材により形成される円柱形状の部材である。図7に示すように、自転防止ピン60は、軸線X回りに90度の間隔で抜け防止部材31の4か所に取り付けられている。
【0062】
図6に示すように、旋回スクロール16の抜け防止部材31側の端面16aには、自転防止ピン60の先端部を収容するための円筒状の内周面を有する複数の自転防止穴16cが形成されている。自転防止穴16cは、自転防止ピン60の外径よりも大きい内径を有し、軸線Xに直交する断面形状が円形となっている。図7に仮想線で示すように、自転防止穴16cは、軸線X回りに90度の間隔で旋回スクロール16の4か所に形成されている。
【0063】
旋回スクロール16の自転防止穴16cの内周面には、軸線Xに直交する断面が円環状の保護リング(円環状部材)16dが保持されている。保護リング16dは、例えば、鋳鉄または鉄鋼材により形成されている。一方、旋回スクロール16は、アルミニウムまたはアルミニウム合金により形成されている。保護リング16dは、鋳鉄または鉄鋼材により形成された自転防止ピン60がアルミニウムまたはアルミニウム合金により形成される旋回スクロール16に接触し、旋回スクロール16の自転防止穴16cが摩耗することから保護するものである。
【0064】
図6に示すように、抜け防止部材31の摺動面31bと旋回スクロール16の端面16aが接触または近接する状態において、自転防止ピン60の先端部は、自転防止穴16cに挿入された状態となる。そのため、自転防止ピン60の移動範囲は、自転防止穴16cにより規制される。これにより、旋回スクロール16は、自転防止穴16cの範囲に移動が制限され、クランクピン13に対して回転することが阻止される。
【0065】
図6に示すように、本実施形態の抜け防止部材31の内周面31eの直径は、抜け防止部材31側が第1実施形態と同様の第2直径D2であるのに対し、旋回スクロール16側が第2直径D2よりも小さい第4直径D4となっている。これは、自転防止機構として、第1実施形態のオルダムリンク32に変えて自転防止ピン60および自転防止穴16cを採用したため、オルダムリンク32が存在していた領域を抜け防止部材31が存在する領域としたためである。旋回スクロール16側が第2直径D2よりも小さい第4直径D4とすることで、旋回スクロール16の端面16aと抜け防止部材31の摺動面31bの接触面積が増大し、旋回スクロール16のスラスト力を抜け防止部材31によりさらに確実に支持することができる。
【0066】
次に、フロントハウジング3に抜け防止部材31を取り付ける際に、フロントハウジング3および抜け防止部材31が同一の軸線X上に配置されるように位置決めする機構について説明する。この位置決め機構は、フロントハウジング3に形成される第1位置決め穴3eと、抜け防止部材31に形成される第2位置決め穴31hにより構成される。
【0067】
図6に示すように、抜け防止部材31が取り付けられるフロントハウジング3の取付面(第1取付面)3dには、軸線Xに沿って延びる第1位置決め穴3eが形成されている。図7に示すように、第1位置決め穴3eは、軸線Xに直交する断面が円形の有底穴であり、軸線X回りに180度の間隔で2か所に形成されている。第1位置決め穴3eには、穴径と略同径で断面視が円形の位置決めピン(棒状部材)70が挿入可能である。
【0068】
図6に示すように、フロントハウジング3に取り付けられる抜け防止部材31の取付面(第2取付面)31gには、軸線Xに沿って延びる第2位置決め穴31hが形成されている。図6に示すように、第2位置決め穴31hは、軸線Xに直交する断面が円形の有底穴であり、軸線X回りに180度の間隔で2か所に形成されている。第2位置決め穴31hには、位置決めピン70が挿入可能である。
【0069】
開放型圧縮機1Bを組み立てる作業者は、フロントハウジング3に抜け防止部材31を取り付ける前に、2か所の第1位置決め穴3eのそれぞれに位置決めピン70を挿入する。その後、作業者は、取付面3dから突出する位置決めピン70が抜け防止部材31の第2位置決め穴31hに挿入されるように位置合わせの作業を行う。作業者は、位置決めピン70が第1位置決め穴3eと第2位置決め穴31hの双方に挿入された状態で、挿入穴31cに締結ボルト40を挿入し、抜け防止部材31をフロントハウジング3に固定する。これにより、組立作業性の向上が図れるとともに、使用時の回転方向の位置ずれをより防止することができる。
【0070】
以上説明した本実施形態の開放型圧縮機1Bによれば、抜け防止部材31に取り付けられる複数の自転防止ピン60を旋回スクロール16に形成される複数の自転防止穴16cに挿入することで、旋回スクロール16がクランクピン13に対して回転することを阻止し、圧縮室により適切に流体を圧縮することができる。
【0071】
また、本実施形態の開放型圧縮機1Bによれば、フロントハウジング3の取付面3dに形成された第1位置決め穴3eに位置決めピン70の一端を挿入し、抜け防止部材31の取付面31gに形成された第2位置決め穴31hに位置決めピン70の他端を挿入することにより、抜け防止部材31がフロントハウジング3に対して位置決めされる。そのため、抜け防止部材31がフロントハウジング3に対して位置決めされた状態で抜け防止部材31をフロントハウジング3に固定することができる。
【0072】
本実施形態において、抜け防止部材31に形成する第2位置決め穴31hは有底穴であるものとしたが、貫通穴としてもよい。この場合、位置決めピン70を第2位置決め穴31hから突出する長さとし、抜け防止部材31をフロントハウジング3に固定した後に位置決めピン70を抜くようにしてもよい。このようにすることで、位置決めのために用いた位置決めピン70を、最終製品から取り除くことができる。
【符号の説明】
【0073】
1,1A,1B 開放型圧縮機
2 リアハウジング(第1ハウジング)
3 フロントハウジング(第2ハウジング)
3a 凹所
3b 凹所
3c 内周面(第1内周面)
3d 取付面(第1取付面)
3e 第1位置決め穴
5 スクロール圧縮機構
6 駆動軸
7 メイン軸受(軸受部)
7a 内輪
7b 外輪
7d 外周面
13 クランクピン
15 固定スクロール
16 旋回スクロール
16a 端面
16b 溝部
16c 自転防止穴
16d 保護リング(円環状部材)
31 抜け防止部材
31a 抜け止め面
31b 摺動面
31c 挿入穴
31d 溝部
31e 内周面(第2内周面)
31f 自転防止穴
31g 取付面(第2取付面)
31h 第2位置決め穴
32 オルダムリンク(自転防止機構)
40 締結ボルト
50 自転防止ピン
60 自転防止ピン
70 位置決めピン
D1 第1直径
D2 第2直径
D3 第3直径
IN 吸入口
X,Y,Z 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7