(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20230417BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20230417BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20230417BHJP
C02F 3/08 20230101ALI20230417BHJP
【FI】
C02F3/34 101D
C02F3/28 B
C02F3/10 Z
C02F3/08 B
(21)【出願番号】P 2019056124
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 太一
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 吉昭
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-263689(JP,A)
【文献】特開2017-119253(JP,A)
【文献】特開2008-279383(JP,A)
【文献】特開2002-018479(JP,A)
【文献】特開2017-119248(JP,A)
【文献】特開2015-077534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/02- 3/10
C02F 3/28- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性流動床式水処理の立ち上げにおいて、生物膜が付着していない担体と嫌気性微生物を含有する汚泥とを投入された反応槽に、脱窒微生物の電子受容体
として硝酸態窒素を添加しながら有機物含有水を通水することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の水処理方法であって、
前記脱窒微生物の電子受容体の添加量が、生成するバイオガス中のメタン濃度55vol%以上となる条件において、前記有機物含有水のCODcr濃度の重量比で0.008gN/gCODcr以上であることを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の水処理方法であって、
前記反応槽は、前記担体を撹拌する撹拌装置を有することを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の水処理方法であって、
前記担体が、ゲル状担体であることを特徴とする水処理方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の水処理方法であって、
さらに処理回復時において、反応槽に、脱窒微生物の電子受容体を添加しながら有機物含有水を通水することを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体を用いて嫌気性流動床式処理を行う水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嫌気性流動床式水処理は、担体に微生物を固着させ、流動により被処理水との接触効率を高めることで、安定かつ高効率な処理が実現できる処理方法である。しかし、担体への微生物の付着に時間を要し、結果として装置の立ち上げに多大な時間を要するという問題がある。また、担体からの微生物の剥離等により処理が低下した場合に処理を回復させるのにも多大な時間を要するという問題もある。
【0003】
特許文献1には嫌気性微生物培養液を遠心処理することで微生物を担体に付着させ、固定床として用いる方法が提案されているが、培養液を遠心処理させただけでは、嫌気性微生物が担体から剥がれ易く、かつ流動床の場合は担体が大きく流動するため、剥離がより進行し、処理が低下する可能性がある。また、遠心処理する方法では、処理が低下した場合に処理を回復させるのは困難である。
【0004】
特許文献2,3には担体と嫌気性グラニュールとを共存させて通水を開始し、嫌気性グラニュールの一部を解体、分散化させる方法が提案されているが、嫌気性グラニュールが解体、分散化、流出することで、反応槽に保持される嫌気性微生物量が変化し、適切な負荷の設定が困難となる。負荷設定が適切でない場合、過負荷となり、嫌気性微生物へ阻害を与え、立上げ期間が長期化する可能性がある。
【0005】
特許文献4には馴致担体と新規担体とを混在させる方法が提案されているが、馴致担体の確保が難しく、かつ更なる立上げ期間の短縮が求められている。
【0006】
このように、嫌気性流動床式水処理の立ち上げや処理回復時に長期間を有するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-190985号公報
【文献】特開2012-110821号公報
【文献】特開2014-100680号公報
【文献】特開2018-015691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、嫌気性流動床式水処理の立ち上げを短期間で行うことができる水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、嫌気性流動床式水処理の立ち上げにおいて、生物膜が付着していない担体と嫌気性微生物を含有する汚泥とを投入された反応槽に、脱窒微生物の電子受容体として硝酸態窒素を添加しながら有機物含有水を通水する、水処理方法である。
【0011】
前記水処理方法において、前記脱窒微生物の電子受容体の添加量が、生成するバイオガス中のメタン濃度55vol%以上となる条件において、前記有機物含有水のCODcr濃度の重量比で0.008gN/gCODcr以上であることが好ましい。
【0012】
前記水処理方法において、前記反応槽は、前記担体を撹拌する撹拌装置を有することが好ましい。
【0013】
前記水処理方法において、前記担体が、ゲル状担体であることが好ましい。
【0014】
前記水処理方法において、さらに処理回復時において、反応槽に、脱窒微生物の電子受容体を添加しながら有機物含有水を通水することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、嫌気性流動床式水処理の立ち上げを短期間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】実施例1、比較例1,2,3におけるCODcr負荷(kg/m
3/day)の経時変化を示すグラフである。
【
図3】実施例2におけるCODcr負荷(kg/m
3/day)の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の実施形態に係る水処理装置の一例の概略を
図1に示し、その構成について説明する。
【0019】
図1に示す水処理装置1は、有機物含有水について嫌気性流動床式水処理を行うための反応槽10を備える。反応槽10は、撹拌手段としてモータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌装置12を備えてもよい。
【0020】
水処理装置1において、反応槽10の有機物含有水入口には、有機物含有水配管16が接続され、処理水出口には、処理水配管18が接続されている。反応槽10には、撹拌装置12が設置され、電子受容体を供給する電子受容体供給手段として電子受容体供給配管14が接続されている。反応槽10には、担体20が投入されている。反応槽10は、担体20の処理水配管18への流出を抑制するためのスクリーン22を備えてもよい。
【0021】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1の動作について説明する。
【0022】
被処理水である、有機物を含有する有機物含有水は、有機物含有水配管16を通して、反応槽10へ送液される。この有機物含有水の反応槽10への通水開始前、通水開始時または通水開始後において、反応槽10に、担体20と嫌気性微生物を含有する汚泥とが投入される。反応槽10内では、撹拌装置12によって担体20および有機物含有水が撹拌され、電子受容体供給配管14を通して脱窒微生物の電子受容体が供給されながら、嫌気条件で生物処理が行われる(生物処理工程)。反応槽10で生物処理された処理水は、処理水配管18を通して排出される。このような処理を継続して、予め設定した負荷(例えば、CODcr負荷10kg/m3/day)に達した段階で、生物処理の立ち上げを終了し、以降、例えば、生物処理の立ち上げ期間で到達した負荷を維持しながら、有機物含有水の生物処理(本処理)が実行される。
【0023】
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1では、嫌気性流動床式水処理の立ち上げにおいて、担体20と嫌気性微生物を含有する汚泥とを投入された反応槽10に、脱窒微生物の電子受容体を添加しながら有機物含有水を通水する。本発明者らは、この方法により、嫌気性流動床式水処理の立ち上げを短期間で行うことができることを見出した。これは、脱窒微生物の電子受容体を添加することで嫌気性微生物の担体への付着性が向上するためと考えられる。このメカニズムとしては、嫌気性微生物に比べて、脱窒微生物は菌体外ポリマ(EPS:Extracellular Polymeric Substances)等を多く産出し、担体への付着性がよいことが考えられる。
【0024】
また、本実施形態に係る水処理方法および水処理装置1では、立ち上げまたは本処理において嫌気性流動床式水処理の処理が低下した場合の処理回復時において、担体20と嫌気性微生物を含有する汚泥とを投入された反応槽10に、脱窒微生物の電子受容体を添加しながら有機物含有水を通水する。本発明者らは、この方法により、嫌気性流動床式水処理の処理回復を短期間で行うことができることを見出した。
【0025】
本明細書において「処理が低下した場合」とは、(1)安定時の有機物除去率と比較して30%以上有機物除去率が低下した状態、(2)安定時の処理水水質と比較して30%以上処理水水質が低下した状態、(3)処理水の有機酸濃度が200mg/L以上となった状態、(4)有機物含有水のpHが6.5~7.5の範囲外となった状態の少なくとも1つの状態を指す。また、「処理安定時」とは、(1)有機物除去率が70%以上の状態、(2)処理水水質が原水濃度の30%未満の状態、(3)処理水の有機酸濃度が200mg/L未満の状態の少なくとも1つの状態、(4)有機物含有水のpHが6.5~7.5の範囲内の状態を指す。例えば、処理水水質測定装置等により測定された処理水のTOC、COD、pH等の水質の測定値に基づき、「処理低下時」および「処理安定時」を判断すればよい。
【0026】
脱窒微生物の電子受容体としては、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素等が挙げられ、硝酸態窒素が好ましい。硝酸態窒素としては、硝酸、硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等)等が挙げられ、亜硝酸態窒素としては、亜硝酸塩(亜硝酸ナトリウム等)等が挙げられる。嫌気性の反応槽内では有機酸が生成されることから苛性ソーダ等のアルカリ剤を添加することが好ましいが、脱窒微生物の電子受容体として硝酸を添加した場合には、通常よりも多くのアルカリ剤を添加する場合がある。また、硝酸アンモニウムは硝酸態窒素を脱窒により窒素ガスとして水中から除去することができるが、アンモニア態窒素が処理水に残存することがあるため、放流窒素濃度規制に注意が必要となる場合がある。亜硝酸塩は低pH条件において微生物に毒性を示す可能性がある。以上のことから、脱窒微生物の電子受容体としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムを用いることが好ましい。
【0027】
脱窒微生物の電子受容体を添加した場合、脱窒微生物が有機物含有水中の有機成分を消費しながら窒素ガスを生成するため、生物処理で生成するバイオガス中のメタン濃度が低下することがある。嫌気性処理におけるバイオガス中のメタン濃度は通常60~90vol%であり、バイオガスをガスエンジン等に導入して利用する場合、安定運転等の観点からメタン濃度を55vol%以上に維持することが好ましい。脱窒微生物の電子受容体1g/Lあたり、有機物含有水のCODcrは概ね4.5g/L消費される。したがって、生成するバイオガス中のメタン濃度が60vol%と想定される場合、脱窒微生物の電子受容体は0.02gN/gCODcr以下とすることが好ましい(0.02gN/gCODcr添加した場合、脱窒微生物によるCODcr消費が0.09g/Lとなり、メタンガス濃度の低下は概ね1割となる)。メタンガス濃度が90vol%と想定される場合、脱窒微生物の電子受容体は0.08gN/gCODcr以下とすることが好ましい。以上のことから、脱窒微生物の電子受容体の添加量は、生成するバイオガス中のメタン濃度55vol%以上となるように維持した条件において、有機物含有水のCODcr濃度の重量比で0.008gN/gCODcr以上であることが好ましく、0.016gN/gCODcr以上であることがより好ましい。脱窒微生物の電子受容体の添加量が有機物含有水のCODcr濃度の重量比で0.008gN/gCODcr未満の場合、脱窒微生物の存在比が低下し、嫌気性微生物を含む汚泥の担体への付着性が低下する場合がある。
【0028】
嫌気性微生物を含む汚泥(嫌気性グラニュール、消化汚泥等)には脱窒微生物も一部含まれている場合があるが、脱窒微生物を多く含む硝化脱窒汚泥や一般的な活性汚泥等を、嫌気性微生物を含む汚泥と共に添加してもよい。
【0029】
[嫌気性流動床式排水処理の反応槽形態]
流動床式の反応槽10としては、上向流型、撹拌型のいずれでもよいが、撹拌型は有機物含有水と担体20との接触効率が高いことや、高い油脂濃度や懸濁物質(SS)濃度を有する有機物含有水でも処理が可能であることから、撹拌型が好ましい。流動床式の反応槽10は、上向流型、撹拌型に制限されるものではなく、担体が流動する形式のものであればよく、特に制限されるものではない。
【0030】
撹拌装置12は、流動床式の反応槽10内の担体20を撹拌することが可能な装置構成であればよく、特に制限されるものではない。撹拌装置12としては、例えば、モータ、撹拌翼、モータと撹拌翼を接続するシャフト等を有する撹拌装置が挙げられる。反応槽10が、担体20を撹拌する撹拌装置を有することにより、反応槽10からの担体20の取り出し時、および反応槽10への取り込み時に反応槽10内にできるだけ偏りなく(できるだけ均一に)担体を取り出し、取り込みできる。
【0031】
担体20の流動性を向上させる等の点で、撹拌型の反応槽10の内部に、ドラフトチューブを設置してもよい。ドラフトチューブは、反応槽10内に略垂直に設置され、上下が開口した円筒状等の筒状の管である。撹拌装置12の撹拌翼をドラフトチューブ内に配置することにより、撹拌装置12による撹拌によってドラフトチューブ内に下向流が形成され、ドラフトチューブの外壁面と反応槽10の内壁面との間に上向流が形成される。
【0032】
水処理装置1は、例えば、流動床式の反応槽10の処理水出口を囲むように設置されるスクリーン22を備えることが好ましい。このスクリーン22により、流動床式の反応槽10からの担体20の流出を抑制することが可能となる。スクリーン22としては、例えば、ウエッジワイヤースクリーン、金網、パンチングメタル等が挙げられる。
【0033】
必要に応じて備えてもよい処理水水質測定装置としては、処理水の水質を測定できるものであればよく、特に制限はないが、例えば、TOC(全有機炭素)測定装置、COD(化学的酸素要求量)測定装置、pH測定装置等が挙げられる。
【0034】
[担体]
嫌気性微生物を生物膜状に付着させる担体としては、嫌気性生物処理で従来使用される担体であればよく、特に制限されるものではない。担体としては、例えば、プラスチック製担体、スポンジ状担体、ゲル状担体等が挙げられる。特に、ゲル状担体を用いることで、高分子ポリマを産出しないメタン発酵菌が、ゲル状担体の3次元の網目構造の孔に入り込む、またはゲル状担体の形状、荷電等の関係で付着しやすく、生物膜の保持に有効であり、また、撹拌による担体の流動性も高いため、プラスチック製担体、スポンジ状担体と比較して、高負荷処理が可能となる。ゲル状担体としては、特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリウレタン等を含んでなる吸水性高分子ゲル状担体等が挙げられる。
【0035】
担体20の形状は、特に限定されるものではないが、0.5mm~20mm程度の径の球状または立方体状(キューブ状)、長方体、円筒状等のものが好ましい。特に、3~8mm程度の径の球状、または円筒状のゲル状担体が好ましい。
【0036】
反応槽10内部に流動状態を形成するために、担体20の比重は、少なくとも1.0より大きく、真比重として、1.1以上、あるいは見かけ比重として1.01以上のものが好ましい。
【0037】
反応槽10への担体20の投入量は、反応槽10の容積に対して10~50%の範囲が好ましい。担体20の投入量が反応槽10の容積に対して10%未満であると反応速度が小さくなる場合があり、50%を超えると担体20が流動しにくくなり、長期運転において汚泥による閉塞等で被処理水がショートパスして処理水質が悪くなる場合がある。
【0038】
担体20の沈降速度は、100~200m/hrであることが好ましい。担体20の沈降速度が100m/hr未満であると、担体20が浮上し、反応槽10から流出しやすくなり、200m/hrを超えると、流動状態が悪くなり、被処理水がショートパスしたり、撹拌のエネルギーが大きくなったりする場合がある。
【0039】
[嫌気性微生物付着担体]
生物膜とは、嫌気性微生物と、嫌気性微生物が産出する菌体外多糖等の生産物等が集合した膜状構造体であって、少なくとも10μm以上の膜厚、好ましくは20μm以上の膜厚を有するものである。上記膜厚は、担体20表面上からの厚みであり、10個~20個の担体20の平均値である。なお、菌体外多糖等の生産物は、アルカリを用いて生物膜から多糖類を抽出し、抽出液中の糖濃度をAnthrone法により測定することが可能である。菌体外多糖等の生産物は粘着性を有し、生物膜の付着性に影響を与えるものであると考えられ、例えば、生物膜中に20ppm以上存在していることが好ましく、50ppm以上存在していることがより好ましい。
【0040】
[反応槽の運転条件]
本実施形態では、有機物含有水を生物処理するに当たり、有機物含有水のpHは6.0~8.0の範囲が好ましく、6.5~7.5の範囲がより好ましい。有機物含有水のpH調整は、例えば、pH調整剤供給配管(図示せず)から、有機物含有水を貯留した原水槽(図示せず)にpH調整剤を供給することにより行われる。有機物含有水のpHが上記範囲外であると、生物処理による有機物の分解反応速度が低下する場合がある。
【0041】
pH調整剤としては、塩酸等の酸剤、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤等が挙げられ、特に制限されるものではない。また、pH調整剤は、例えば、緩衝作用を持つ重炭酸ナトリウム、燐酸緩衝液等であってもよい。
【0042】
本実施形態では、有機物含有水を生物処理するに当たり、嫌気性微生物の分解活性を良好に維持する等の点から、例えば、有機物含有水に栄養剤を添加することが好ましい。栄養剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素源、窒素源、燐源、その他無機塩類(Ni,Co,Fe等の塩類)等が挙げられる。
【0043】
本実施形態では、流動床式の反応槽10の水温を20℃以上となるように温度調整することが好ましい。通常、20℃未満であると、分解反応速度が低下する傾向にある。反応槽10内の水温の温度調整方法は、特に制限されるものではないが、例えば、反応槽10にヒータ等の加熱装置等を設置して、ヒータ等の熱により反応槽10内の水温を調整する方法等が挙げられる。
【0044】
[有機物含有排水]
本実施形態に係る水処理方法および水処理装置における処理対象である有機物含有水は、例えば、食品製造工場、電子産業工場、パルプ製造工場、化学工場等から排出される有機物(油脂、懸濁物質、ならびに油脂および懸濁物質以外の有機物)を含有する排水である。
【0045】
撹拌型の処理装置は、高い油脂濃度やSS濃度を有する有機物含有水でも処理が可能であるが、対象とする有機物含有水のノルマルヘキサン抽出物質濃度(油脂濃度)は、例えば、100mg/L以上であり、好ましくは150mg/L以上である。また、SS濃度は、例えば、100mg/L以上であり、好ましくは200mg/L以上である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
容積600mLのアクリル製反応槽に、球状のポリビニルアルコール製ゲル状担体(細孔径4~20μm、直径4mm、比重1.025、沈降速度4cm/sec)を反応槽の容積に対して30%投入し、嫌気性微生物を含む汚泥を反応槽の容積に対して10%投入した。反応槽内を撹拌装置で撹拌することで担体および嫌気汚泥を流動させた。処理対象の有機物含有水としては、スクロース、カツオエキスを主成分とした食品工場模擬排水(CODcr=2500~3000mg/L)とした。また、脱窒微生物の電子受容体として、硝酸ナトリウムを0.016gN/g-CODcrとなるように有機物含有水に添加した。実施例1におけるCODcr負荷(kg/m
3/day)の経時変化を
図2に示す。
【0048】
実施例1では、運転32日目でCODcr負荷10kg/m3/day以上に到達し、最終的に運転46日目でCODcr負荷25kg/m3/dayに到達した。CODcr除去率は80~90%であった。
【0049】
<比較例1>
硝酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件とした。結果を
図2に示す。
【0050】
比較例1では、運転40日目以降、負荷の上昇が停滞し、最終的に運転80日目の到達負荷は約6kg/m3/dayであった。
【0051】
<比較例2>
嫌気性微生物が担体内部および表層に付着した担体を、新品と付着済み担体の総量に対して20%、新品の担体を80%投入し(反応槽容積に対して担体は30%投入)、嫌気性微生物を含む汚泥は投入しなかった。前記以外の条件は比較例1と同じ条件とした。結果を
図2に示す。
【0052】
比較例2では、CODcr負荷10kg/m3/day以上に到達するのに64日を要し、かつ最終的に運転72日目の到達CODcr負荷は18.6kg/m3/dayであった。
【0053】
<比較例3>
脱窒微生物が担体内部および表層に生物膜状となって付着した担体を反応槽の容積に対して30%投入した。前記以外の条件は実施例1と同じ条件とした。比較例3におけるCODcr負荷(kg/m
3/day)の経時変化を
図2に示す。
【0054】
比較例3では、CODcr負荷10kg/m3/day以上に到達するのに69日を要し、かつ最終的に運転78日目の到達CODcr負荷は19.2kg/m3/dayであった。樹脂製担体の細孔部分が脱窒微生物で覆われていたことにより、嫌気性微生物の担体への付着性が低下した可能性が考えられる。したがって、脱窒微生物が産出する菌体外ポリマ等を活用しながら嫌気性微生物を樹脂製担体へ付着させる条件が最も有効と考えられる。
【0055】
<実施例2>
嫌気性微生物が担体内部および表層に生物膜状となって付着した担体を反応槽の容積に対して30%投入した。前記以外の条件は実施例1と同じ条件とした。実施例2におけるCODcr負荷(kg/m
3/day)の経時変化を
図3に示す。
【0056】
実施例2では、運転約60日でCODcr負荷50kg/m3/day以上に装置を立上げることが可能であった。CODcr除去率は70~80%であった。
【0057】
このように、実施例の方法により、嫌気性流動床式水処理の立ち上げを短期間で行うことができた。
【符号の説明】
【0058】
1 水処理装置、10 反応槽、12 撹拌装置、14 電子受容体供給配管、16 有機物含有水配管、18 処理水配管、20 担体、22 スクリーン。