(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤、塩化ビニル系樹脂組成物および塩化ビニル系樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08F 257/02 20060101AFI20230417BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20230417BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C08F257/02
C08L27/06
C08L51/06
(21)【出願番号】P 2019061702
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石丸 遼平
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-500469(JP,A)
【文献】特表2007-517105(JP,A)
【文献】国際公開第2007/094208(WO,A1)
【文献】特開平01-004662(JP,A)
【文献】特開平02-175740(JP,A)
【文献】特開平03-134045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 257/00-257/02
C08L 27/06
C08L 51/06
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一重合体と、前記第一重合体を覆う第二重合体とを含み、
前記第一重合体は、重量平均分子量が10,000~100,000であり、当該第一重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物1~28重量%と、芳香族ビニル系化合物32~99重量%と、アルキルメタクリレート0~67重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物0~30重量%とからなり、
前記第二重合体は、Tgが30~110℃であり、当該第二重合体全体を100重量%とし、アルキルメタクリレート30~90重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物10~70重量%とからな
り、
前記シアン化ビニル系化合物は、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記芳香族ビニル系化合物は、スチレン、α-メチルスチレンおよびp-メチルスチレンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記アルキルメタクリレートは、炭素数1~6の直鎖アルキルを有するアルキルメタクリレートおよび炭素数3~6の分枝鎖アルキルを有するアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記その他のビニル系化合物は、炭素数1~6の直鎖アルキルを有するアルキルアクリレートおよび炭素数3~6の分枝鎖アルキルを有するアルキルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である、塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【請求項2】
前記第一重合体を50~95重量%、前記第二重合体を5~50重量%含む、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【請求項3】
前記第一重合体は、当該第一重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~18重量%と、芳香族ビニル系化合物42~66重量%と、アルキルメタクリレート20~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物6~30重量%とからなる、請求項1または2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【請求項4】
前記第一重合体に覆われる、または、前記第一重合体と前記第二重合体との間にある第三重合体をさらに含み、
前記第三重合体は、重量平均分子量が300,000~6,000,000であり、当該第三重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~28重量%と、芳香族ビニル系化合物32~90重量%と、アルキルメタクリレート0~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物0~30重量%とからな
り、
前記シアン化ビニル系化合物は、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記芳香族ビニル系化合物は、スチレン、α-メチルスチレンおよびp-メチルスチレンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記アルキルメタクリレートは、炭素数1~6の直鎖アルキルを有するアルキルメタクリレートおよび炭素数3~6の分枝鎖アルキルを有するアルキルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記その他のビニル系化合物は、炭素数1~6の直鎖アルキルを有するアルキルアクリレートおよび炭素数3~6の分枝鎖アルキルを有するアルキルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【請求項5】
前記第三重合体は、当該第三重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~18重量%と、芳香族ビニル系化合物42~66重量%と、アルキルメタクリレート20~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物6~20重量%とからなる、請求項4に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【請求項6】
塩化ビニル系樹脂100重量部と、請求項1~5のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤0.1~20重量部とを含む、塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項7】
加工助剤をさらに含む、請求項6に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項8】
前記塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤を含まない塩化ビニル系樹脂組成物に比べて、溶融粘度が3%以上低く、且つ得られる成形体のIzod強度の低下が30%未満である、請求項6または7に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物から得られる、塩化ビニル系樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤、塩化ビニル系樹脂組成物および塩化ビニル系樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、溶融粘度が高い、流動性に劣る、熱分解しやすい等の理由から、成形加工時の加工性が良くない場合がある。
【0003】
この問題点を解消する方法として、例えば、特許文献1には、塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂に、(メタ)アクリル酸エステルおよび芳香族ビニル単量体等を含み得る加工助剤を添加する技術が開示されている。また、特許文献2には、シアン化ビニル系化合物および芳香族ビニル系化合物等を含む第一重合体と、第二重合体とを含み、重量平均分子量が100,000~4,000,000である加工助剤を塩化ビニル系樹脂組成物に添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2007/125805号
【文献】国際公開第2016/195013号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度の低下と塩化ビニル系樹脂成形体の機械的強度の維持とを両立するという観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度を低下させ、且つ得られる塩化ビニル系樹脂成形体の機械的強度を維持し得る流動性改良剤を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、特定の組成および重量平均分子量を有する第一重合体とそれを覆う第二重合体とを含む流動性改良剤により、溶融粘度および機械的強度を改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の態様を含む。
【0008】
<1>第一重合体と、前記第一重合体を覆う第二重合体とを含み、前記第一重合体は、重量平均分子量が10,000~100,000であり、当該第一重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物1~28重量%と、芳香族ビニル系化合物32~99重量%と、アルキルメタクリレート0~67重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物0~30重量%とからなり、前記第二重合体は、Tgが30~110℃であり、当該第二重合体全体を100重量%とし、アルキルメタクリレート30~90重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物10~70重量%とからなる、塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【0009】
<2>前記第一重合体を50~95重量%、前記第二重合体を5~50重量%含む、<1>に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【0010】
<3>前記第一重合体は、当該第一重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~18重量%と、芳香族ビニル系化合物42~66重量%と、アルキルメタクリレート20~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物6~30重量%とからなる、<1>または<2>に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【0011】
<4>前記第一重合体に覆われる、または、前記第一重合体と前記第二重合体との間にある第三重合体をさらに含み、前記第三重合体は、重量平均分子量が300,000~6,000,000であり、当該第三重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~28重量%と、芳香族ビニル系化合物32~90重量%と、アルキルメタクリレート0~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物0~30重量%とからなる、<1>~<3>のいずれか1つに記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【0012】
<5>前記第三重合体は、当該第三重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~18重量%と、芳香族ビニル系化合物42~66重量%と、アルキルメタクリレート20~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物6~20重量%とからなる、<4>に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤。
【0013】
<6>塩化ビニル系樹脂100重量部と、請求項1~5のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤0.1~20重量部とを含む、塩化ビニル系樹脂組成物。
【0014】
<7>加工助剤をさらに含む、請求項6に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【0015】
<8>前記塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤を含まない塩化ビニル系樹脂組成物に比べて、溶融粘度が3%以上低く、且つ得られる成形体のIzod強度の低下が30%未満である、<6>または<7>に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【0016】
<9><6>~<8>のいずれか1つに記載の塩化ビニル系樹脂組成物から得られる、塩化ビニル系樹脂成形体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度を低下させ、且つ得られる塩化ビニル系樹脂成形体の機械的強度を維持し得る流動性改良剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0019】
〔1.塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤〕
本発明の一実施形態に係る塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤は、第一重合体と、前記第一重合体を覆う第二重合体とを含み、前記第一重合体は、重量平均分子量が10,000~100,000であり、当該第一重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物1~28重量%と、芳香族ビニル系化合物32~99重量%と、アルキルメタクリレート0~67重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物0~30重量%とからなり、前記第二重合体は、Tgが30~110℃であり、当該第二重合体全体を100重量%とし、アルキルメタクリレート30~90重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物10~70重量%とからなる。
【0020】
本明細書において、「塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤」とは、塩化ビニル系樹脂組成物に添加することにより、溶融粘度を低下させ、その結果、流動性を改善することができる組成物を意図する。これにより、塩化ビニル系樹脂組成物の成形加工時の加工性を改善することができる。以下では、「塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤」を単に「流動性改良剤」とも称する。
【0021】
本発明者は、塩化ビニル系樹脂組成物に対して、第一重合体のみからなる加工助剤を用いた場合、または第一重合体と第二重合体とを含む場合であっても例えば第一重合体がメチルメタクリレートを主成分とする場合は、得られる成形体の機械的強度の維持が難しいという新規な課題を見出した。加えて、本発明者は、第一重合体の重量平均分子量を100,000以下とすることにより、優れた溶融粘度低下効果が得られることを見出した。そして、本発明者は、鋭意研究を行った結果、前記のような特定の組成および重量平均分子量を有する第一重合体とそれを覆う第二重合体とを含む流動性改良剤により、塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度を低下させ、且つ得られる塩化ビニル系樹脂成形体の機械的強度を維持することができることを見出した。
【0022】
なお、本明細書において、「溶融粘度の低下」とは、本発明の一実施形態に係る流動性改良剤を含んでいない塩化ビニル系樹脂組成物に比べて、溶融粘度が低下していることを意図している。また、「機械的強度の維持」とは、本発明の一実施形態に係る流動性改良剤を含んでいない塩化ビニル系樹脂組成物から得られる成形体に比べて、機械的強度の低下が抑えられている、もしくは機械的強度が向上していることを意図している。それらの詳細については後述する。
【0023】
流動性改良剤は、第一重合体と第二重合体とからなってもよく、後述の第三重合体のような他の成分を含んでいてもよい。流動性改良剤が第一重合体と第二重合体とからなる場合、他の成分を含む場合に比べて、芳香族ビニル系化合物を含む重量平均分子量が100,000以下の第一重合体の比率が高いため、溶融粘度低下および機械的強度維持の観点からは好ましい。なお、各重合体が一層構造となっていてもよく、多層構造となっていてもよい。すなわち例えば、第一重合体、第二重合体、第三重合体のそれぞれが一層構造であってもよく、多層構造であってもよい。
【0024】
流動性改良剤は、第一重合体を50~95重量%、第二重合体を5~50重量%含むことが好ましく、第一重合体を60~95重量%、第二重合体を5~40重量%含むことがより好ましく、第一重合体を70~90重量%、第二重合体を10~30重量%含むことがさらに好ましい。第一重合体および第二重合体の割合が前記範囲であれば、溶融粘度低下および機械的強度維持の観点からは好ましい。
【0025】
流動性改良剤全体の重量平均分子量は、溶融粘度低下の観点から、第三重合体を含まない場合は10,000~100,000が好ましく、10,000~50,000がより好ましい。第三重合体を含む場合は100,000~2,000,000が好ましく、100,000~1,000,000がより好ましく、100,000~500,000がさらに好ましい。
【0026】
<第一重合体>
第一重合体は、重量平均分子量が10,000~100,000であり、当該第一重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物1~28重量%と、芳香族ビニル系化合物32~99重量%と、アルキルメタクリレート0~67重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物0~30重量%とからなる。シアン化ビニル系化合物の含有量は、好ましくは3~26重量%であり、より好ましくは5~24重量%であり、さらに好ましくは7~22重量%である。
【0027】
第一重合体の重量平均分子量が100,000以下であることにより、塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度を顕著に低下させることができる。第一重合体の重量平均分子量は、95,000以下であることが好ましく、70,000以下であることがより好ましく、50,000以下であることがさらに好ましい。また、第一重合体の重量平均分子量は、15,000以上であってもよく、20,000以上であってもよい。
【0028】
シアン化ビニル系化合物および芳香族ビニル系化合物を前記割合で含むことにより、溶融粘度の低下と機械的強度の維持とを好適に両立することができる。第一重合体は、当該第一重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~18重量%と、芳香族ビニル系化合物42~66重量%と、アルキルメタクリレート20~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物6~30重量%とからなることが好ましく、シアン化ビニル系化合物10重量%以上16重量%未満と、芳香族ビニル系化合物42重量%以上56重量%未満と、アルキルメタクリレート20重量%超40重量%以下と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物8~30重量%とからなることがより好ましい。
【0029】
シアン化ビニル系化合物としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等が挙げられ、アクリロニトリルが好ましい。これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
第一重合体が芳香族ビニル系化合物を含むことにより、例えばメチルメタクリレートを多く含む流動性改良剤と比較して、塩化ビニル系樹脂との相溶性が低くなるため、塩化ビニル系樹脂の機械的強度を維持したまま溶融粘度を低下させることができる。また、芳香族ビニル系化合物は屈折率が高いため、成形体のヘイズを向上させることができる。芳香族ビニル系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロルスチレン等が挙げられ、スチレンが好ましい。これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
アルキルメタクリレートは、塩化ビニル系樹脂との相溶性に富むため、ゲル化速度を向上させることができる。アルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ウンデシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、ペンタデシルメタクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクデシルメタクリレート等の炭素数1~20の直鎖アルキルメタクリレート;イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、s-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、イソノニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、イソウンデシルメタクリレート、イソドデシルメタクリレート、イソトリデシルメタクリレート、イソテトラデシルメタクリレート、イソペンタデシルメタクリレート、イソヘキサデシルメタクリレート、イソヘプタデシルメタクリレート、イソオクタデシルメタクリレート等の炭素数1~20の分枝鎖アルキルメタクリレート;シクロプロピルメタクリレート、シクロブチルメタクリレート、シクロペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロオクチルメタクリレート、シクロデシルメタクリレート等の炭素数3~20の環状アルキルメタクリレート等が挙げられる。これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
アルキルメタクリレートの炭素数は、好ましくは1~14、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~10、さらにより好ましくは1~8、特に好ましくは1~6である。前記のうち、直鎖アルキルメタクリレートがより好ましく、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートがさらに好ましい。
【0033】
前記の化合物と共重合可能なその他のビニル系化合物としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ウンデシルアクリレート、ドデシルアクリレート、トリデシルアクリレート、テトラデシルアクリレート、ペンタデシルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート等の炭素数1~20の直鎖アルキルアクリレート;イソプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、s-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソウンデシルアクリレート、イソドデシルアクリレート、イソトリデシルアクリレート、イソテトラデシルアクリレート、イソペンタデシルアクリレート、イソヘキサデシルアクリレート、イソヘプタデシルアクリレート、イソオクタデシルアクリレート等の炭素数1~20の分枝鎖アルキルアクリレート;シクロプロピルアクリレート、シクロブチルアクリレート、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロオクチルアクリレート、シクロデシルアクリレート等の炭素数3~20の環状アルキルアクリレート;フェニルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート等のアリールメタクリレート;ベンジルメタクリレート等のアラルキルメタクリレート;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和酸無水物;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和酸;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-(p-メチルフェニル)マレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のα,β-不飽和ジカルボン酸のイミド化合物;グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有不飽和化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和カルボン酸アミド;アクリルアミン、メタクリル酸アミノメチル、メタクリル酸アミノエーテル、メタクリル酸アミノプロピル、アミノスチレン等のアミノ基含有不飽和化合物;3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシスチレン等の水酸基含有不飽和化合物;ビニルオキサゾリン等のオキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
アルキルアクリレートの炭素数は、好ましくは1~14、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~10、さらにより好ましくは1~8、特に好ましくは1~6である。前記のうち、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートが好ましく、ブチルアクリレートがより好ましい。
【0035】
第一重合体のTgは、塩化ビニル系樹脂との成形加工時に樹脂中への分散性を向上させる観点から、5~110℃であることが好ましい。また、第一重合体のTgは、溶融粘度を低下させる効果が高いモノマー組成の観点から、50~105℃であることがより好ましく、70~105℃であることがさらに好ましい。第一重合体のTgが5℃以上110℃以下であれば、樹脂中への分散に必要なせん断をかけることができ、その結果、効果的に溶融粘度を低下できる傾向がある。
【0036】
Tgは、「ポリマーハンドブック 第4版(Polymer Handbook Fourth Edition)」 ジェー・ブランド(J.Brand)著、ワイリー(Wiley)社1998年発行に記載のホモポリマーのTgから各モノマーのTgを算出したものでもよく、示差熱分析または示差走査熱量分析により算出したものであってもよい。
【0037】
<第二重合体>
前記流動性改良剤において、第二重合体は、第一重合体を覆うように存在している。すなわち、第二重合体は、第一重合体と互いに化学結合されずに独立に存在しており、且つ、流動性改良剤中において第一重合体の外側に存在している。それゆえに、第二重合体も塩化ビニル系樹脂への分散に優れたモノマー組成や分子量とすることで、流動性改良剤の溶融粘度低下効果を向上させることができる。
【0038】
第二重合体は、Tgが30~110℃である。それゆえに、流動性改良剤の造粒性を向上させることができる。Tgは、60~100℃であることが好ましく、70~90℃であることがより好ましい。
【0039】
第二重合体は、第二重合体全体を100重量%とし、アルキルメタクリレート30~90重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物10~70重量%とからなる。第二重合体のアルキルメタクリレートの割合が比較的高いことにより、前記のように高いTgを実現できる。第二重合体は、第二重合体全体を100重量%とし、アルキルメタクリレート60~90重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物10~40重量%とからなることが好ましく、アルキルメタクリレート70~90重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物10~30重量%とからなることがより好ましい。アルキルアクリレートおよびその他のビニル系化合物としては、上述の第一重合体において例示した化合物を同様に用いることができる。
【0040】
第二重合体の重量平均分子量は、溶融粘度低下の観点から、20,000~300,000が好ましく、20,000~50,000がより好ましい。
【0041】
<第三重合体>
流動性改良剤は、前記第一重合体に覆われる、または、前記第一重合体と前記第二重合体との間にある第三重合体をさらに含み、前記第三重合体は、重量平均分子量が300,000~6,000,000であり、当該第三重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~28重量%と、芳香族ビニル系化合物32~90重量%と、アルキルメタクリレート0~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物0~30重量%とからなることが好ましい。
【0042】
流動性改良剤が前記組成の第三重合体を含むことにより、加工助剤を用いずとも、塩化ビニル系樹脂組成物の加工性を改善することができる。また、第三重合体の重量平均分子量が300,000~6,000,000であることにより、流動性改良剤全体のTgが高くなり、造粒性が向上する。第三重合体の重量平均分子量は、500,000~3,000,000であることがより好ましく、600,000~1,500,000であることがさらに好ましい。
【0043】
第三重合体は、当該第三重合体全体を100重量%とし、シアン化ビニル系化合物10~18重量%と、芳香族ビニル系化合物42~66重量%と、アルキルメタクリレート20~40重量%と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物6~20重量%とからなることがより好ましく、シアン化ビニル系化合物10重量%以上16重量%未満と、芳香族ビニル系化合物32重量%以上56重量%未満と、アルキルメタクリレート20重量%超40重量%以下と、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物8~20重量%とからなることがさらに好ましい。
【0044】
シアン化ビニル系化合物、芳香族ビニル系化合物、アルキルメタクリレート、その他のビニル系化合物としては、上述の第一重合体において例示した化合物を同様に用いることができる。第三重合体が、高屈折率である芳香族ビニル系化合物を含むことにより、成形体のヘイズを向上させることができる。また、第三重合体が、極性が高いシアン化ビニル系化合物を含むこと、および、塩化ビニル系樹脂との相溶性に富むアルキルメタクリレートを含むことにより、ゲル化速度を向上させることができる。
【0045】
第三重合体のTgは、第一重合体のTgと同様の理由により、5~110℃であることが好ましく、50~105℃であることがより好ましく、70~105℃であることがさらに好ましい。
【0046】
流動性改良剤中に第三重合体を含む場合は、第一重合体を30~80重量%、第二重合体を10~30重量%、第三重合体を10~40重量%含むことが好ましく、第一重合体を35~75重量%、第二重合体を10~30重量%、第三重合体を15~35重量%含むことがより好ましく、第一重合体を40~70重量%、第二重合体を10~30重量%、第三重合体を20~30重量%含むことがさらに好ましい。
【0047】
<塩化ビニル系樹脂組成物用流動性改良剤の製造方法>
流動性改良剤は、例えば、回収の容易性、重合物の低臭気性、ハンドリング性、耐ブロッキング性および経済性等の観点から、乳化重合法、懸濁重合法等の水を媒体とした重合法によって得ることができる。このうち、塩化ビニル系樹脂への分散性の観点から乳化重合法がより好ましい。さらに、粒子構造体を得ることができる乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、滴下懸濁重合法は、二以上の重合体構造を得るのに特に好ましい重合法である。
【0048】
乳化重合法に用いる乳化剤としては、従来公知のものを使用でき、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、スルホコハク酸ジエステル塩などのアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩等のカチオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のノニオン性乳化剤等が挙げられる。なかでも、重合安定性の点で、アニオン性乳化剤が好ましく、脂肪酸塩、スルホコハク酸ジエステル塩がより好ましく、半硬化牛脂脂肪酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムがさらに好ましい。これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、重合の助触媒としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、硫酸第一鉄等、ラテックスの粘度調整剤として硫酸ナトリウム等、pH調整剤として水酸化ナトリウム等を用いてもよい。
【0049】
第一重合体、第二重合体、第三重合体、流動性改良剤の重量平均分子量は、これらに含まれるモノマー比を変更することにより、調節することが可能である。また、これらの重量平均分子量は、ラジカル重合剤および必要に応じて使用される連鎖移動剤の使用量、重合温度、重合時間等を変更することにより、調節することも可能である。
【0050】
乳化重合法に用いるラジカル重合剤としては、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレイト等の有機ハイドロパーオキサイド類;前記有機ハイドロパーオキサイド類からなる酸化剤と、亜硫酸塩、亜硫酸水素、チオ硫酸塩、第一金属塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート等の還元剤との組み合わせによるレドックス系の開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、2-カルバモイルアザイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物等を使用することができる。なかでも、ラジカル重合剤は、有機ハイドロパーオキサイド類であることが好ましく、t-ブチルハイドロパーオキサイドであることがより好ましい。
【0051】
ラジカル重合剤の使用量(好ましくは第一重合体の重合時のラジカル重合剤の使用量)は、使用されるモノマー100重量部に対して、例えば0.01~5.0重量部であり、好ましくは0.1~3.5重量部であり、より好ましくは0.5~3.0重量部である。ラジカル重合剤量が多いと、重量平均分子量が低下する傾向があり、ラジカル重合剤量が少ないと、重量平均分子量が上昇する傾向がある。
【0052】
乳化重合法に用いる連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;テトラエチルチウラムスルフィド、四塩化炭素、臭化エチレン、ペンタンフェニルエタン等の炭化水素塩類;テルペン類、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2-エチルヘキシルチオグリコール、α-メチルスチレンダイマー等が挙げられる。なかでも、連鎖移動剤は、メルカプタン類であることが好ましく、t-ドデシルメルカプタンであることがより好ましい。これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
連鎖移動剤の使用量(好ましくは第一重合体の重合時の連鎖移動剤の使用量)は、モノマー100重量部に対し、通常0~3重量部用いる。連鎖移動剤を使用する場合、連鎖移動剤の使用量は、例えば0.001~3重量部であり、好ましくは0.1~3重量部であり、より好ましくは0.5~2.5重量部である。連鎖移動剤が多いと、光学特性が悪化する虞がある。
【0054】
重合時間は、使用するモノマー、乳化剤、ラジカル重合剤、必要に応じて使用される連鎖移動剤やそれらの量に応じて変更され得るが、例えば1時間~50時間、または5時間~24時間である。重合温度は、使用するモノマー、乳化剤、ラジカル重合剤、必要に応じて使用される連鎖移動剤やそれらの量に応じて調節され得るが、例えば10℃~90℃であり、好ましくは40℃~80℃である。
【0055】
ラテックス中の流動性改良剤の体積平均粒子径は、例えば0.030μm以上0.500μm以下である。体積平均粒子径は、粒度分析計(日機装株式会社製、Nanotracwave)により算出することができる。
【0056】
次に、得られた流動性改良剤を含むラテックスを例えば凝固法により粉末化してもよい。流動性改良剤を粉末化する場合、前記乳化重合法で得られたラテックスに塩凝固、酸凝固等の凝固法で処理する方法、ラテックスを噴霧乾燥によって粉体を得る方法等を用いることができる。塩凝固、酸凝固等の凝固法では、ラテックスを無機塩類(好ましくは2価の無機塩類、より好ましくは塩化カルシウム)、酸類などの凝固剤に接触させる。凝固した後に、更に熱処理、脱水、洗浄、乾燥工程等を行って、流動性改良剤を調製してもよい。
【0057】
〔2.塩化ビニル系樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部と、上述の流動性改良剤0.1~20重量部とを含む。流動性改良剤の量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、好ましくは0.2~18重量部、より好ましくは0.5~15重量部、さらに好ましくは1~12重量部である。
【0058】
塩化ビニル系樹脂としては、ポリオレフィンまたはポリジエンのモノマーユニットの水素の1つ以上を塩素で置き換えた構造を有している樹脂が挙げられる。その具体例としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩素化塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル酢酸ビニルコポリマー、塩化ビニルエチレンコポリマー、クロロプレンゴム等が挙げられる。塩化ビニル系樹脂は、好ましくはポリ塩化ビニルである。
【0059】
塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、300以上7000以下であることが好ましく、400以上3000以下であることがより好ましい。
【0060】
また、塩化ビニル系樹脂組成物は、加工助剤をさらに含んでいてもよい。加工助剤を添加することにより、溶融粘度低下および機械的強度維持を両立しながら、塩化ビニル系樹脂組成物の加工性をさらに改善することができる。加工助剤の量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、好ましくは0.2~10重量部、より好ましくは0.5~7重量部、さらに好ましくは1~5重量部である。なお、加工助剤の量が多いと、加工助剤の塩化ビニル系樹脂への分散性が低下する虞および溶融粘度が上昇する虞がある。
【0061】
加工助剤としては、カネエース(登録商標)PA-20(株式会社カネカ製)、カネエース(登録商標)PA-40(株式会社カネカ製)等が挙げられる。例えば、加工助剤は、上述のシアン化ビニル系化合物、芳香族ビニル系化合物、アルキルメタクリレート、これらと共重合可能なその他のビニル系化合物等を含む重合体であって、重量平均分子量が100,000以上である重合体であってもよい。これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
塩化ビニル系樹脂組成物には、必要により、耐衝撃改良剤、安定剤、滑剤、可塑剤、着色剤、充填剤、発泡剤等を加えてもよい。
【0063】
塩化ビニル系樹脂組成物は、各種成分を混合し、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混練機等を用い、例えば100~200℃で混練することにより得ることができる。
【0064】
塩化ビニル系樹脂組成物は、前記流動性改良剤を含まない塩化ビニル系樹脂組成物に比べて、溶融粘度が3%以上低いことが好ましく、5%以上低いことがより好ましく、10%以上低いことがさらに好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る塩化ビニル系樹脂組成物は、前記流動性改良剤を含まないこと以外は全て同じ条件である塩化ビニル系樹脂組成物に比べて、同じ条件で測定した溶融粘度が前記のように低いことが好ましい。溶融粘度は、例えばJIS K-7199に記載の方法に準拠して、東洋精機社製キャピログラフ1Dを使用し、せん断速度:60.8~121.6sec-1、シリンダ温度170~200℃の条件で測定される。
【0065】
また、塩化ビニル系樹脂組成物は、前記流動性改良剤を含まない塩化ビニル系樹脂組成物に比べて、後述のように得られる成形体のIzod強度の低下が30%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、10%未満であることがさらに好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る塩化ビニル系樹脂組成物は、前記流動性改良剤を含まないこと以外は全て同じ条件である塩化ビニル系樹脂組成物に比べて、同じ条件で得られた成形体について同じ条件で測定したIzod強度の低下が前記の範囲であることが好ましい。勿論、流動性改良剤を含まない場合に比べて成形体のIzod強度が向上していれば、特に好ましい。Izod強度(単位:kJ/m2)は、JIS K7110規定の測定方法に則り、温度23℃、相対湿度50%の状態で測定される。
【0066】
〔3.塩化ビニル系樹脂成形体〕
本発明の一実施形態に係る塩化ビニル系樹脂成形体は、上述の塩化ビニル系樹脂組成物から得られる。例えば、混練した塩化ビニル系樹脂組成物を、押出し成形、ブロー成形、射出成形、カレンダー成形、真空成形等により、適切な形状に成形することにより、塩化ビニル系樹脂成形体を得ることができる。なお、本明細書において、塩化ビニル系樹脂成形体を単に「成形体」とも称する。
【0067】
成形体は、前記流動性改良剤を含まない塩化ビニル系樹脂組成物から得られる成形体に比べて、ヘイズ(23℃)の上昇が、50%未満であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る成形体は、前記流動性改良剤を含まないこと以外は全て同じ条件である塩化ビニル系樹脂組成物から同じ条件で得られた成形体に比べて、同じ条件で測定したヘイズの上昇が前記の範囲であることが好ましい。勿論、流動性改良剤を含まない場合に比べて成形体のヘイズが低下していれば、特に好ましい。ヘイズは、例えばJIS K 7136「プラスチック-透明材料のHAZEの求め方」に従って評価することができる。
【0068】
成形体は、前記流動性改良剤を含まない塩化ビニル系樹脂組成物から得られる成形体に比べて、全光線透過率(23℃)の上昇が、2%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることがさらに好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る成形体は、前記流動性改良剤を含まないこと以外は全て同じ条件である塩化ビニル系樹脂組成物から同じ条件で得られた成形体に比べて、同じ条件で測定した全光線透過率の上昇が前記の範囲であることが好ましい。全光線透過率は、例えばJIS K 7475「プラスチック-全光線透過率及び全光線反射率の求め方」に従って評価することができる。
【0069】
また、当該成形体は、上述のように前記流動性改良剤を含まない塩化ビニル系樹脂組成物から得られた成形体に比べて、Izod強度の低下が30%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、10%未満であることがさらに好ましい。
【0070】
塩化ビニル系樹脂組成物および成形体は、溶融粘度または機械的強度が改善されていることから、例えば、壁材、床材、窓枠、壁材、波板等の建材;自動車用内外装材;パッキン、ガスケット、ホース、パイプ、継ぎ手、シート、電線、ケーブル等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
〔略称〕
AN:アクリロニトリル
St:スチレン
BA:ブチルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
t-DM:t-ドデシルメルカプタン
〔測定方法〕
実施例および比較例に係る流動性改良剤等について、以下の手法に従って物性等を測定した。
【0073】
<第一重合体、第二重合体、第三重合体のTg>
「ポリマーハンドブック 第4版(Polymer Handbook Fourth Edition)」 ジェー・ブランド(J.Brand)著、ワイリー(Wiley)社1998年発行に記載のホモポリマーのTgから各モノマーのTgを算出し、これに基づき第一重合体、第二重合体、第三重合体のTgを算出した。
【0074】
<第一重合体、第二重合体、第三重合体、流動性改良剤の重量平均分子量>
第一重合体、第二重合体、第三重合体または流動性改良剤をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、その可溶分に対して、ポリスチレンを基準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製、HLC-8220GPC)を使用することにより、重量平均分子量を求めた(試料溶液:試料20mg/THF10mL、測定温度:25℃、検出器:示差屈折系、注入量:1mL)。
【0075】
<流動性改良剤の体積平均粒子径>
流動性改良剤の体積平均粒子径は、ラテックスの状態にて、粒度分析計(日機装株式会社製、Nanotracwave)を使用して546nmの波長の光散乱を用いて測定した。
【0076】
<塩化ビニル系樹脂成形体の透明性試験>
後述の塩化ビニル系樹脂および流動性改良剤の合計100重量部に、加工助剤1重量部(株式会社カネカ製 商品名:カネエース(登録商標)PA-20)、ブチル錫メルカプト系安定剤(日東化成株式会社製:TVS#1360)1.0重量部、内部滑剤(Emery OleoChemicals社製 商品名:GH4)0.5重量部、外部滑剤(Emery OleoChemicals社製 商品名:G70S)0.4重量部および耐衝撃性改良剤(株式会社カネカ製 商品名:カネエース(登録商標)B-625)7.0重量部を粉体状態で混合した。
【0077】
得られた混合物を、8インチテストロール(関西ロール株式会社製、テストロール)を用い、回転数17rpm、後述の温度および時間にて混練りした。その後、後述の温度および時間にてプレスで加圧することにより成形して、厚さ1.0mmのプレス板を作製した。このプレス板より厚さ5.0mm、長さ30mm、幅40mmの透明性試験用テストピースを作製した。
【0078】
得られたテストピースを用いてJIS K 7136規格「プラスチック-透明材料のHAZEの求め方」に従い、23℃で透明性の指標としてヘイズを測定した(Haze)。
【0079】
また、得られたテストピースを用いてJIS K 7375規格「プラスチック-全光線透過率及び全光線反射率の求め方」に従い、23℃で透明性の指標として全光線透過率を測定した(T%)。
【0080】
<塩化ビニル系樹脂成形体のIzod強度試験>
透明性試験用テストピースと同様にして、Izod強度試験用テストピースを作製した。得られたテストピースを用いて、JIS K7110規定の測定方法に従い、2号試験片(Bノッチ)を用いて温度23℃、相対湿度50%の状態でIzod強度を測定した(単位:kJ/m2)。
【0081】
<塩化ビニル系樹脂組成物の溶融粘度試験>
プレスで加圧しなかったこと以外は透明性試験用テストピースと同様にして、溶融粘度試験用テストピースを作製した。得られたテストピースを用いて、JIS K-7199に記載の方法に準拠して、東洋精機社製キャピログラフ1Dを使用し、せん断速度:60.8~121.6sec-1、シリンダ温度170~200℃の条件で溶融粘度を測定した。
【0082】
〔モノマー種が異なる流動性改良剤の比較〕
<実施例1>
あらかじめ水に溶解した半硬化牛脂脂肪酸カリウム1.0部(重量部、以下同様)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0050部および硫酸第一鉄0.0025部を攪拌機付き反応器に入れ、さらに水を加えて水の全量を200部とした。
【0083】
反応器内を窒素置換して空間部および水中の酸素を除去した。その後、撹拌するとともに、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.4部を撹拌機付き反応器に入れ、内容物を75℃まで昇温した後に、アクリロニトリル12.6部、スチレン43.4部、ブチルアクリレート6.0部、メチルメタクリレート18.0部、t-ドデシルメルカプタン2部、t-ブチルハイドロパーオキサイド2.5部の混合物を200分かけて連続追加しながら重合を行った。連続追加の50分の時点と100分の時点とにそれぞれ半硬化牛脂脂肪酸カリウム0.3部を追加した。また、連続追加の100分の時点で、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.15部を追加した。
【0084】
重合終了後、そこに更にブチルアクリレート2部、メチルメタクリレート18部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.3部の混合物を50分かけて連続追加して重合を行った。連続追加の終了後にホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.2部を追加した。
【0085】
共重合成分の追加終了後も内容物を75℃に保ったまま攪拌を1時間以上続けることにより重合を完結させた。その後、内容物を冷却し、流動性改良剤のラテックスを得た。
【0086】
45℃の温度条件で、濃度1重量%に希釈した塩化カルシウム水溶液5部に、得られた流動性改良剤のラテックスを加えて凝固を行った。次いで熱処理、脱水、洗浄および乾燥を行ない、流動性改良剤の粉末を得た。得られた流動性改良剤の粉末を用いて、前記の塩化ビニル系樹脂組成物または成形体としての評価を行った。
【0087】
<比較例1>
表1に示すように組成を変更したこと以外は、実施例1と同様に流動性改良剤の粉末を得た。得られた流動性改良剤の粉末を用いて、前記の塩化ビニル系樹脂組成物または成形体としての評価を行った。
【0088】
<評価結果>
実施例1および比較例1の流動性改良剤の組成等を表1に示す。また、評価結果を表2に示す。なお、塩化ビニル系樹脂としては、株式会社カネカ製の商品名:カネビニール(登録商標)S-1008(K値:61、平均重合度:800)、商品名:カネビニール(登録商標)S-1001(K値:67、平均重合度:1050)、または商品名:カネビニール(登録商標)S-1003(K値:71、平均重合度:1300)を用いた。また、成形条件(1)は、テストロールによる混練りを160℃で5分、プレスを180℃で15分行った。成形条件(2)は、テストロールによる混練りを170℃で5分、プレスを180℃で15分行った。溶融粘度試験における温度は190℃、せん断速度は60.8sec-1とした。
【0089】
【0090】
【0091】
表2に示すように、第一重合体がメチルメタクリレートからなる比較例1は、溶融粘度低下効果が低く、また、Izod強度の著しい低下を伴う。実施例1は、比較例1に比べて溶融粘度低下効果が高い。また、実施例1においても流動性改良剤の添加量の増加に伴ってIzod強度は低下するが、高水準を維持できている。
【0092】
〔第三重合体の有無による流動性改良剤の比較〕
<実施例2-1>
あらかじめ水に溶解したジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.5部および硫酸ナトリウム0.05部を攪拌機付き反応器に入れ、さらに水を加えて水の全量を200部とした。
【0093】
反応器内を窒素置換して空間部および水中の酸素を除去した。その後、撹拌するとともに内容物を75℃まで昇温した後に、アクリロニトリル3.8部、スチレン13.0部、ブチルアクリレート1.8部、メチルメタクリレート5.4部の混合物を60分かけて連続追加しながら重合を行った。
【0094】
そこに更に、半硬化牛脂脂肪酸カリウム0.5部と水酸化ナトリウム0.09部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0050部、硫酸第一鉄0.0025部およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.4部を加えた。更に、アクリロニトリル8.8部、スチレン30.4部、ブチルアクリレート4.2部、メチルメタクリレート12.6部、t-ドデシルメルカプタン1.2部およびt-ブチルハイドロパーオキサイド1部の混合物(b2)を180分かけて連続追加して重合を行った。この180分の連続追加において、40分の時点と100分の時点と160分の時点にそれぞれ半硬化牛脂脂肪酸カリウム0.3部を追加した。また、連続追加の100分の時点で、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.15部を追加した。
【0095】
重合終了後、そこに更にブチルアクリレート6部、メチルメタクリレート14部、t-ブチルハイドロパーオキサイド0.3部の混合物を50分かけて連続追加して重合を行った。連続追加の終了後にホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.2部を追加した。
【0096】
共重合成分の追加終了後も内容物を75℃に保ったまま攪拌を1時間以上続けることにより重合を完結させた。その後、内容物を冷却し、流動性改良剤のラテックスを得た。
【0097】
そして、実施例1と同様に得られた流動性改良剤の粉末を用いて、前記の塩化ビニル系樹脂組成物または成形体としての評価を行った。ただし、実施例2-1においては加工助剤を添加しなかった。
【0098】
<評価結果>
実施例2-1の流動性改良剤の組成等を、実施例1とともに表3に示す。また、実施例2-1の評価結果も実施例1とともに表4に示す。なお、塩化ビニル系樹脂としては、株式会社カネカ製の商品名:カネビニール(登録商標)S-400(K値:51、平均重合度:480)、または商品名:カネビニール(登録商標)S-1001(K値:67、平均重合度:1050)を用いた。また、成形条件(1)は、テストロールによる混練りを150℃で5分、プレスを165℃で15分行った。成形条件(2)は、テストロールによる混練りを170℃で5分、プレスを180℃で15分行った。成形条件(3)は、テストロールによる混練りを160℃で5分、プレスを180℃で15分行った。溶融粘度試験における温度は170℃または190℃、せん断速度は121.6sec-1とした。
【0099】
【0100】
【0101】
実施例2-1に比べ、実施例1の方が、溶融粘度低下効果が高かった。これは、実施例1は低分子量成分、すなわち第一重合体の比率が高いためであると考えられる。なお、実施例2-1は、加工助剤を用いずとも成形することが可能であった。
【0102】
〔重量平均分子量が異なる流動性改良剤の比較〕
<実施例2-2~2-4>
表5に示すように組成を変更したこと以外は、実施例2-1と同様に流動性改良剤の粉末を得た。得られた流動性改良剤の粉末を用いて、前記の塩化ビニル系樹脂組成物または成形体としての評価を行った。なお、実施例2-2~2-4においても加工助剤を添加しなかった。
【0103】
<比較例2>
表5に示すように組成を変更したこと以外は、実施例1と同様に流動性改良剤の粉末を得た。得られた流動性改良剤の粉末を用いて、前記の塩化ビニル系樹脂組成物または成形体としての評価を行った。
【0104】
<比較例3>
上述の透明性試験、Izod強度試験、溶融粘度試験において、流動性改善剤を用いずにテストピースを作製し、前記の塩化ビニル系樹脂組成物または成形体としての評価を行った。
【0105】
<評価結果>
実施例2-2~2-4、比較例2の流動性改良剤の組成等を、実施例2-1とともに表5に示す。また、実施例2-2~2-4、比較例2、3の評価結果も実施例2-1とともに表6に示す。なお、塩化ビニル系樹脂としては、株式会社カネカ製の商品名:カネビニール(登録商標)S-1007(K値:58、平均重合度:700)を用いた。また、成形条件(1)は、テストロールによる混練りを155℃で5分、プレスを165℃で15分行った。溶融粘度試験における温度は195℃、せん断速度は121.6sec-1とした。
【0106】
【0107】
【0108】
なお、表6における低分子量成分の重量平均分子量とは、実施例2-2~2-4、比較例2については第一重合体の重量平均分子量を意味し、比較例3については加工助剤の重量平均分子量を意味する。
【0109】
第一重合体の重量平均分子量が100,000以下である実施例2-1~2-4は、比較例2、3に比べて溶融粘度低下効果が高く、且つIzod強度は維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の一態様は、溶融粘度が改善された塩化ビニル系樹脂組成物および機械的強度が改善された成形体の製造に好適に利用することができる。