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特許7263089薄膜ウエブの切込形成装置及び切込付きの薄膜ウエブの製造方法。
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  • 特許-薄膜ウエブの切込形成装置及び切込付きの薄膜ウエブの製造方法。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】薄膜ウエブの切込形成装置及び切込付きの薄膜ウエブの製造方法。
(51)【国際特許分類】
   B26D 3/08 20060101AFI20230417BHJP
   B26D 7/26 20060101ALI20230417BHJP
   B26D 7/14 20060101ALI20230417BHJP
   B65H 27/00 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
B26D3/08 Z
B26D7/26
B26D7/14
B65H27/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019076234
(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2020172004
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000234122
【氏名又は名称】萩原工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】有角 幸三
(72)【発明者】
【氏名】加納 章好
(72)【発明者】
【氏名】藤井 仁史
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 尚
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-245607(JP,A)
【文献】特開2010-082756(JP,A)
【文献】特開2017-131999(JP,A)
【文献】特開2003-200388(JP,A)
【文献】特開2011-190062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 3/08
B26D 7/26
B26D 7/14
B65H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送される薄膜ウエブを受材と曲線刃部を備えたカッタとの間で切断する薄膜ウエブの切込形成装置であって、
前記受材と前記カッタとの間の離間距離を所定距離に保つアクチュエータを備え、
前記薄膜ウエブを前記受材によって反らされながら、かつ前記受材の外周面の一部に沿って摺動させながら、前記曲線刃部の定位置に前記薄膜ウエブを連続して当てることで、前記薄膜ウエブの厚さ方向において前記薄膜ウエブの一部を切断し、
前記薄膜ウエブと前記受材の接触状態が角度調節ロールの配置位置の調整によって前記薄膜ウエブの傾斜角度が変化することで調節されることを特徴とする薄膜ウエブの切込形成装置。
【請求項2】
前記所定距離の基点は、前記受材の外周面と前記カッタの刃部とを接触させて前記接触を検知したときの検知情報、又は前記受材の外周面と前記カッタの刃部との間に介在させた厚さ既知のスペーサと前記カッタとの接触を検知したときの検知情報に基づいて定める請求項1に記載の薄膜ウエブの切込形成装置。
【請求項3】
前記受材が固定され、前記カッタが前記アクチュエータによって前記受材から離間する請求項1又は2に記載の薄膜ウエブの切込形成装置。
【請求項4】
切断された前記薄膜ウエブは手切れ性を有する請求項1からのいずれかに記載の薄膜ウエブの切込形成装置。
【請求項5】
移送される薄膜ウエブを受材と曲線刃部を備えたカッタとの間で切断して切込付きのウエブを製造する薄膜ウエブの製造方法であって、
アクチュエータを用いて前記受材と前記カッタとの間の離間距離を所定距離に保ち、
前記薄膜ウエブを前記受材によって反らされながら、かつ前記受材の外周面の一部に沿って摺動させながら、前記曲線刃部の定位置に前記薄膜ウエブを連続して当てることで、前記薄膜ウエブの厚さ方向において前記ウエブの一部を切断し、
前記薄膜ウエブと前記受材の接触状態が角度調節ロールの配置位置の調整によって前記薄膜ウエブの傾斜角度が変化することで調節されることを特徴とする切込付きの薄膜ウエブの製造方法。
【請求項6】
前記所定距離の基点は、前記受材の外周面と前記カッタの刃部とのを接触させて前記接触を検知したときの検知情報、又は前記受材の外周面と前記カッタの刃部との間に介在させた厚さ既知のスペーサと前記カッタとの接触を検知したときの検知情報に基づいて定める請求項に記載の切込付きの薄膜ウエブの製造方法。
【請求項7】
前記受材が固定され、前記カッタが前記アクチュエータによって前記受材から離間する請求項又はに記載の切込付きの薄膜ウエブの製造方法。
【請求項8】
切断された前記薄膜ウエブは手切れ性を有する請求項からのいずれかに記載の切込付きの薄膜ウエブの製造方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜ウエブに切込を形成する薄膜ウエブの切込形成装置及び切込付きの薄膜ウエブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム、紙、不織布などのウエブを切り取り線や図柄などの切断線に沿って手で切り取り易くするための加工方法として、ウエブに断続的に貫通孔を設けるミシン目加工と呼ばれる加工が従来から知られている。しかしながら、ミシン目を利用して切り取ったウエブは、切り口に凹凸が生じ、切り取られたものが美麗といえない場合があった。
【0003】
手で切り取ったウエブの切り口を美麗にするための加工方法として、ウエブの厚さ方向の一部にウエブを貫通しない程度の切込みを入れるハーフカット加工と呼ばれる加工が知られている。例えば特許文献1に開示されたハーフカット加工は、印刷シート及び粘着剤層を所定の形状に切り込み、かつ剥離台紙は完全には切断しない加工である。
【0004】
また、ハーフカット加工は、比較的厚手のシートの加工に用いられることが多く、この場合は、切断線に沿って手で切り取り易くすることとは別の目的で用いられることが多い。例えば、箱材料の厚手シートに加工を行うことで箱状に折り曲げやすくするために利用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000‐254891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハーフカット加工により、切断線に沿って手で切り取り易くすること自体は可能にはなるが、切込み深さが一定でなければ、意図しないときにも切り離されてしまったり、切り離そうとしたときに容易に切断できなくなる等の問題があった。
【0007】
これらの問題を防ぐには、ウエブの厚みに対する切込み深さの比率を一定に保つことが必要になる。つまり、厚みが薄くなるほど、切込み深さの精度が要求される。例えば厚みが100μmに満たないような薄膜ウエブは、切込み深さの精度をミクロン単位で一定に保つ必要があった。
【0008】
また、薄膜ウエブは、厚手のシートに比べ柔軟でウエブ自体が変形しやすく、切断時にウエブが上下(ウエブ厚さ方向)にぶれて動き易く、カッタ位置の調整をするだけでは、切込み深さを高精度に保つことが難しいという問題があった。
【0009】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、薄膜ウエブの切込み深さを高精度に保つことができる薄膜ウエブの切込形成装置及び切込付きの薄膜ウエブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の薄膜ウエブの切込形成装置は、移送される薄膜ウエブを受材とカッタとの間で切断する薄膜ウエブの切込形成装置であって、前記受材と前記カッタとの間の離間距離を所定距離に保つアクチュエータを備え、前記受材の外周面の一部に沿って前記薄膜ウエブを摺動させながら、前記カッタの刃部に前記薄膜ウエブを当てることで、前記薄膜ウエブの厚さ方向において前記薄膜ウエブの一部を切断することを特徴とする。
【0011】
本発明の切込付きの薄膜ウエブの製造方法は、移送される薄膜ウエブを受材とカッタとの間で切断して切込付きのウエブを製造する薄膜ウエブの製造方法であって、アクチュエータを用いて前記受材と前記カッタとの間の離間距離を所定距離に保ち、前記受材の外周面の一部に沿って前記薄膜ウエブを摺動させながら、前記カッタの刃部に前記薄膜ウエブを当てることで、前記薄膜ウエブの厚さ方向において前記ウエブの一部を切断することを特徴とする。
【0012】
前記本発明の薄膜ウエブの切込形成装置及び切込付きの薄膜ウエブの製造方法によれば、受材とカッタとの間の離間距離の調整にアクチュエータを利用することにより、この離間距離を容易かつ精度よく保つことができる。また、受材の外周面の一部に沿って薄膜ウエブを摺動させることで、薄膜ウエブの位置が正確に定まるため、カッタの切込み深さの精度が高まりかつ精度が安定する。
【0013】
前記本発明の薄膜ウエブの切込形成装置及び切込付きの薄膜ウエブの製造方法においては、以下の各構成とすることが好ましい。前記所定距離の基点は、前記受材の外周面と前記カッタの刃部とを接触させて前記接触を検知したときの検知情報、又は前記受材の外周面と前記カッタの刃部との間に介在させた厚さ既知のスペーサと前記カッタとの接触を検知したときの検知情報に基づいて定めることが好ましい。この構成によれば、既設又は厚さ既知の物体を活用して基点を定めるので、基点の校正を確実、短時間、容易かつ正確に行うことができる。
【0014】
前記受材が固定され、前記カッタが前記アクチュエータによって前記受材から離間することが好ましい。この構成によれば、受材が固定されていることにより、受材の位置が安定するので、薄膜ウエブに、よりシワが生じにくく受材と薄膜ウエブとの摩擦状態が変化しにくくなり、カッタの切込み深さの精度の安定化に有利になる。また、受材を固定することで、薄膜ウエブに対し、複数のカッタで同時に複数加工する場合には、それぞれのカッタで切込み深さを任意に変えることもできる。
【0015】
前記カッタが曲線刃部を備え、前記薄膜ウエブが前記受材によって反らされながら前記曲線刃部の所定箇所に連続して当てられることが好ましい。この構成によれば、切先が鋭利なカッタを用いたときに比べ、刃先のぶれを抑えることができ、かつカッタが薄膜ウエブを撫でるように接するために、カッタと薄膜ウエブとの摩擦が小さくなり、あわせて摩擦よるぶれも少なくなり、刃部のほころびも生じにくくなり、カッタの寿命が長くなる。
【0016】
前記薄膜ウエブと前記受材の接触状態が角度調節ロールによって調節されることが好ましい。この構成によれば、受材とカッタとの間の距離を維持した状態で、薄膜ウエブと受材との間で生じる摩擦抵抗の調整をすることができる。これにより受材上で薄膜ウエブのシワが伸ばされて、シワによる切断不良を防ぐとともに薄膜ウエブを同時に複数加工する場合に薄膜ウエブの加工間隔の精度を高めることができる。また、薄膜ウエブの状態、厚み、材質に応じて摩擦抵抗を最適にすることができる。
【0017】
切断された前記薄膜ウエブは手切れ性を有することが好ましい。本発明によれば、前記のとおりカッタの切込み深さの精度が高まりかつ精度が安定するので、手で切り取り易くするために必要な切込み深さを維持しながら切断することができ、手切れ性を有する薄膜ウエブを安定して得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の効果は前記のとおりであり、受材とカッタとの間の離間距離の調整にアクチュエータを利用することにより、この離間距離を容易かつ精度よく保つことができる。また、受材の外周面の一部に沿って薄膜ウエブを摺動させることで、薄膜ウエブの位置が正確に定まるため、カッタの切込み深さの精度が高まりかつ精度が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る薄膜ウエブの切込形成装置の概略構成図。
図2】本発明の一実施形態に係るカッタの基点校正を含む位置制御の一例を示すフローチャート。
図3】本発明の一実施形態において、カッタの位置制御の開始時の切込形成装置の概略構成図。
図4】本発明の一実施形態において、カッタの基点補正時の切込形成装置の概略構成図。
図5】本発明の一実施形態において、カッタの位置制御の終了時の切込形成装置の概略構成図。
図6図5の状態から切込形成装置に薄膜ウエブを装着した状態の切込形成装置の概略構成図。
図7】本発明の一実施形態において、カッタが薄膜ウエブを切込可能な位置まで上昇した状態の切込形成装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、薄膜ウエブに切込を形成する技術に関するものであり、薄膜ウエブは、フィルム、紙、不織布、金属薄膜などの平膜状のものをいう。本実施形態において、切込を形成するとは、薄膜ウエブの厚さ方向において薄膜ウエブの一部を切断することである。以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係る薄膜ウエブの切込形成装置1の概略構成図を示している。本図は、切込みの対象物である薄膜ウエブ10を装着した状態を示している。詳細は後に説明するとおり、薄膜ウエブ10は、その長手方向に沿って切込形成装置1の内部を移送されながら、カッタ5により切込が形成されていく。本実施形態では、薄膜ウエブ10が移送されていく側を下流側といい、その反対側を上流側という。
【0022】
図1において、切込形成装置は、上流側から順に、薄膜ウエブ10の長手方向に沿って、角度調節ロール2、受材である受けロール3、ガイドロール4が配置されており、それぞれの外周面の一部に薄膜ウエブ10が接触している。
【0023】
受けロール3の役割は、薄膜ウエブ10にカッタ5を当てたときに、薄膜ウエブ10がカッタ5で押されて動くことを防ぐ役割と、受けロール3の外周面と薄膜ウエブ10との接触部分で摩擦を生じさせ、薄膜ウエブ10に適度に張力を付与してシワを伸ばす役割とがある。本実施形態では、円筒面である受けロール3の外周面に薄膜ウエブ10を沿わせて薄膜ウエブ10を反らせながら、かつ受けロール3の外周面と薄膜ウエブ10との間で摩擦を生じさせながら、薄膜ウエブ10を摺動させている。
【0024】
また、受けロール3の外周面の一部に沿って薄膜ウエブ10を摺動させることで、薄膜ウエブ10の位置が正確に定まるため、カッタ5の切込み深さの精度が高まりかつ精度が安定する。より具体的には、薄膜ウエブ10は受けロール3に支持されて上下動が抑えられることに加え、受けロール3の摩擦抵抗によって薄膜ウエブ10に適度な張力が加わることによっても上下動が抑えられるので、薄膜ウエブ10の位置が正確に定まることになる。
【0025】
受けロール3は回転させてもよいが、回転すると薄膜ウエブ10を受けロール3上で摺動させることが難しくなるため、本実施形態では受けロール3は回転させないようにしている。受けロール3を回転させないようにすることで、回転軸の歪み、回転軸の真円度ムラ、及び回転に用いるベアリングのクリアランスや剛性不足による揺れや振動等により、受けロール3の位置が僅かながらも変化することで生じる切込み深さのムラを抑えることができる。
【0026】
ここで、薄膜ウエブ10と受けロール3との間の摩擦抵抗が大き過ぎると、薄膜ウエブ10に過度な負荷が加わり、この負荷は薄膜ウエブ10表面にキズを生じさせたり、薄膜ウエブ10の物性値に影響を与えかねない。逆に、この摩擦抵抗が小さ過ぎると、薄膜ウエブ10に適度な張力が加わらず、薄膜ウエブ10にシワが生じるおそれがある。
【0027】
このため、移送される薄膜ウエブ10の状態によっては、摩擦抵抗の調整が必要になるが、本実施形態では、角度調節ロール2の配置位置の調整により、受けロール3とカッタ5との間の距離を維持した状態で、薄膜ウエブ10と受けロール3との間で生じる摩擦抵抗の調整をすることができる。
【0028】
また、角度調節ロール2を設けることにより、薄膜ウエブ10のシワを防ぐことができるので、薄膜ウエブ10を走行させ、同時に複数個所加工する場合には、薄膜ウエブ10の加工間隔の精度を高めることができる。
【0029】
受けロール3と角度調節ロール2との間の位置関係の調整は、受けロール3の配置位置を調整してもよいが、角度調節ロール2の配置位置を調整する方が好ましい。これは、精度の高い切込みを行うには、受けロール3とカッタ5との間の位置関係が正確であることが求められ、切断時にその位置関係を変更すべきではないためである。
【0030】
前記のような切込形成装置1の構成において、薄膜ウエブ10に切込を形成するには、受けロール3の外周面の一部に沿って摺動するウエブ10にカッタ5を当てる。この際カッタ5は薄膜ウエブ10の移送方向に沿って当たるので、薄膜ウエブ10の長手方向に沿って切込が形成されていく。
【0031】
カッタ5の種類や形状は特に制限はなく、材質についても特に制限はなく、鋼製でもよく、刃部の寿命を考慮すれば超硬合金やセラミック等が好ましい。図1に示したカッタ5は、円周に沿って刃部を備えた円形刃を用いている。円形刃は、刃部が円弧状の曲線刃部になっており、切先が鋭利な刃に比べ、振動による刃先のぶれを抑えることができる。
【0032】
また、曲線刃部で切断すると、直線状の刃部に比べ薄膜ウエブ10との接触範囲が小さくなり、カッタ5が薄膜ウエブ10を撫でるように接するので、カッタ5と薄膜ウエブ10との摩擦が小さくなり、かつ摩擦よるカッタ5のぶれも少なくなる。このことにより、カッタ5の刃部のほころびも生じにくくなり、カッタ5の寿命が長くなる。特に、本実施形態では受けロール3によって薄膜ウエブ10を反らせながら薄膜ウエブ10を摺動させているので、カッタ5と薄膜ウエブ10との間の摩擦がより抑えられ、カッタ5の寿命延長に有利になる。
【0033】
仮に薄膜ウエブ10を平面と接触させ、薄膜ウエブ10を反らせずに薄膜ウエブ10にカッタ5に当てた場合には、薄膜ウエブ10の中腹部が中弛みし、薄膜ウエブ10が平面に沿わず浮き易くなり、これにより切込み深さにムラが生じるおそれがある。本実施形態では薄膜ウエブ10を受けロール3によって反らせているので、薄膜ウエブ10の浮きが抑えられ、薄膜ウエブ10を受けロール3の外周面に確実に沿わせることができ、切込み深さのムラを防止することができる。
【0034】
一方、円形刃を用いる場合に円形刃を回転可能にすると、円形刃又はその軸の真円度ムラ、円形刃の軸に対する取付誤差及び回転に用いるベアリングのクリアランスや剛性不足に起因する揺れや振動等が生じてしまい、これらは切込み深さのムラを引き起こす原因になる。このため、円形刃は回転させないことが好ましく、曲線刃部の定位置に薄膜ウエブが当たり続ける状態を保つことが好ましい。
【0035】
図1において、カッタ5はアクチュエータ6に接続されている。図1のアクチュエータ6は送りねじ式の直動アクチュエータであり、筒状で内部にガイド(図示せず)を有するアクチュエータ本体7、アクチュエータ本体7からの送り戻しが可能でその先端にカッタ5を取り付け可能なアクチュエータ可動部8及びステッピングモータ9を備えている。この構成において、ステッピングモータ9の回転動作に応じ、アクチュエータ本体7からアクチュエータ可動部8の送り戻しが行われることで、アクチュエータ可動部8先端に取り付けられたカッタ5の位置が変位する。このことにより、受けロール3とカッタ5との間の離間距離を調整することができる。図1の例では、位置制御の駆動源としてステッピングモータ9を用いているが、これに限るものではなく、位置制御が可能な電動機であればよい。アクチュエータ6の送り戻しの方式も送りねじ方式に限らず、他の方式のものを用いてよい。
【0036】
本実施形態のように、受けロール3とカッタ5との間の離間距離の調整にアクチュエータ6を利用することにより、この離間距離を容易かつ精度よく保つことができる。より具体的には、薄膜ウエブ10の切込形成においては、受けロール3とカッタ5との間の離間距離がミクロン単位で一定になっていることが求められる。そのためには、カッタ5が目標位置に正確に動作して配置され、そのままの配置を保つことが必要になる。また、運転時に摩耗や各部の微小な変位によって受けロール3とカッタ5との間の離間距離が僅に変化したときには、これを補正することが好ましい。この正確な動作や補正を手作業で行うことは困難であり、アクチュエータ6を利用することにより、受けロール3とカッタ5との間の離間距離を容易かつ正確に保つことができる。
【0037】
カッタ5の位置制御は特に制限はないが、一旦受けロール3の外周面にカッタ5を接触させ、この接触を検知して基点を定めた後、受けロール3からカッタ5を離間させて、カッタ5を基点から目標距離だけ離れた位置に配置できるように位置制御することが好ましい。以下、図2~5を参照しながら、カッタ5の位置制御について具体的に説明する。
【0038】
図2はカッタ5の基点校正を含む位置制御の一例を示すフローチャートを示している。図3は、カッタ5の位置制御の開始時の切込形成装置1の概略構成図を示している。図4は、カッタ5の基点補正時の切込形成装置1の概略構成図を示しており、図5は、カッタ5の位置制御の終了時の切込形成装置1の概略構成図を示している。図3に示したようにカッタ5が受けロール3から離間した状態において、制御手段20(コンピュータ)による制御をスタートさせると(図2のステップ100)、ホルダ7からアクチュエータ可動部8の送り出しにより、カッタ5が上昇する(図2のステップ101)。この上昇後、図4に示したようにカッタ5が受けロール3の外周面に接触する(図2のステップ102)。
【0039】
図示はしていないが、受けロール3とカッタ5には金属線を接続しており、受けロール3とカッタ5との間の電気抵抗を検知できるようにしており、受けロール3とカッタ5との接触を検知することができる。受けロール3とカッタ5との接触が検知されると、制御手段20は、アクチュエータ6によるアクチュエータ可動部8の送り出しを停止し、基点補正を行い(図2のステップ103)、基点として距離をゼロに校正する。その後は、操作者が目的の距離を入力することにより(図2のステップ104)、アクチュエータ本体7にアクチュエータ可動部8が戻りカッタ5が下降し(図2のステップ105)、カッタ5が目標位置に移動してカッタ5の位置制御が停止する(図2のステップ106)。
【0040】
カッタ5を移動させる場合、どこから移動させるかの基点情報が正確でなければ、目標位置に正確に移動させることができない。一方、基点を手作業で調整・設定するには緻密な作業を要し、特に複数のカッタ5を使用する場合は作業量も膨大になる。本実施形態では、前記のとおり、カッタ5の基点の校正は既設の受けロール3との接触位置を基準としているので、基点の校正を確実、短時間、容易かつ正確に行うことができる。基点が正確に校正されていれば、カッタ5を受けロール3から離間させるときに、校正された基点を基準に、カッタ5の離間位置を設定すればよく、カッタ5の離間位置の調整・設定も確実、短時間、容易かつ正確になる。
【0041】
本実施形態では、カッタ5を移動させて基点校正を行っているが、受けロール3を移動させて基点校正を行ってもよい。ただし、受けロール3の位置を移動させると、薄膜ウエブ10と受けロール3との間の摩擦状態が変わるため、受けロール3の位置はなるべく移動させない方が好ましい。より具体的には、受けロール3が固定されていることにより、受けロール3の位置が安定するので、薄膜ウエブ10に、よりシワが生じにくく受けロール3と薄膜ウエブ10との摩擦状態が変化しにくくなり、カッタ5の切込み深さの精度の安定化に有利になる。
【0042】
また、薄膜ウエブ10に対し、同時に複数加工する場合には、受けロール3と対応するカッタ5の間隔を個々に調整する必要あるが、この場合、受けロール3を移動させると調整が困難になるため、受けロール3の位置はなるべく動かさない方が好ましく、一つの受けロール3に対し、複数のカッタ5を対応させることが好ましい。これにより、それぞれのカッタ5で切込み深さを任意に変えることもできる。
【0043】
また、図3~5は、切込形成装置1に薄膜ウエブ10を装着していない状態で基点校正を行う場合の図示であるが、切込形成装置1に薄膜ウエブ10を装着した状態で、基点校正を行ってもよい。例えば、受けロール3が薄膜ウエブ10を受けている状態でカッタ5を上昇させ、カッタ5が薄膜ウエブ10を切断してカッタ5が受けロール3の外周面に接触した状態で基点校正を行うこともできる。
【0044】
さらに、基点校正は、受けロール3の外周面とカッタ5の刃部との間に介在させた厚さ既知のスペーサとカッタ5との接触を検知したときの検知情報に基づいて行ってもよい。このとき、当該検知が可能で厚さが明確に分かるものであれば薄膜ウエブ10を既知のスペーサとして、又は既知のスペーサの一部として使用してもよい。
【0045】
基点補正を終えると、薄膜ウエブ10の切込形成工程に移行する。図6図5の状態から切込形成装置1に薄膜ウエブ10を装着した状態を示している。図6の状態では、受けロール3とカッタ5との間の離間距離が大きく、カッタ5は薄膜ウエブ10に当接していないが、切込形成工程においては、受けロール3とカッタ5との間の離間距離がカッタ5による薄膜ウエブ10の切込可能な所定距離に保たれる。
【0046】
所定距離の基点は前記の基点校正で定められた校正点であり、ゼロに設定されるべき基準となる点である。制御手段20は、受けロール3とカッタ5との間の離間距離が校正点を基準とした所定距離になるように、アクチュエータ6によりアクチュエータ可動部8を移動させる。図7はカッタ5が薄膜ウエブ10を切込可能な位置まで上昇した状態を示しており、本図の状態で薄膜ウエブ10を下流側に移送させることにより、カッタ5により薄膜ウエブ10に切込が形成されていく。
【0047】
前記のとおり、本実施形態では、角度調節ロール2の配置位置の調整により、受けロール3とカッタ5との間の距離を維持した状態で、薄膜ウエブ10と受けロール3との間で生じる摩擦抵抗の調整をすることができる。図7は角度調節ロール2の配置位置を調整し、薄膜ウエブ10と受けロール3の接触状態を調節した状態を示している。図7の角度調節ロール2の配置位置は図6に比べ上側に移動しており、これに伴い角度調節ロール2と受けロール3との間において、薄膜ウエブ10の傾斜角度も大きくなっている。
【0048】
本実施形態によれば、前記のとおりカッタ5の切込み深さの精度が高まりかつ精度が安定するので、手で切り取り易くするために必要な切込み深さを維持しながら切断することができ、手切れ性を有する薄膜ウエブ10を安定して得ることができる。
【0049】
本願発明者らは、図1に示した構成の切込形成装置1を運転させ、30μmのポリプロピレンに対し、切込み深さ25μmで連続して切断を行い、これを巻き取ったところ、30,000m切断し続けても安定して切断でき、切込みが深すぎてフィルムに穴が開くこともなかった。巻き取ったフィルムは切込み部分に沿って手で裂くことができ、切り取った面も直線的で美麗であった。
【0050】
以上、本発明について説明したが、本発明は、包装袋やボトルラベルなどの包装用フィルムに切り取り線を付与する技術として特に有用である。本発明に係る切断機構は、巻返機、製膜機、印刷機、スリッター等の薄膜ウエブを移送する機構を有する設備の一部に組み入れてもよい。
【0051】
また、前記実施形態は一例であり、適宜変更したものであってもよい。例えば図1において、アクチュエーター6が受けロール3の下部に位置しているが、その位置はこれに限るものではなく、上下位置を置き換えても、アクチュエータ6が受けロール3に対し、横方向、斜め方向に位置しても差し支えない。また角度調節ロール2の位置も図示された位置に限るものではなく、ガイドロール4の位置と置き換えても、ガイドロール4を角度調節ロール2に置き換えて2ヶ所に配置しても差し支えない。
【符号の説明】
【0052】
1 切込形成装置
2 角度調節ロール
3 受けロール(受材)
4 ガイドロール
5 カッタ
6 アクチュエータ
7 アクチュエータ本体
8 アクチュエータ可動部
9 ステッピングモータ
10 薄膜ウエブ
20 制御手段

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7