(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】カーボンブラック、カーボンブラックの製造方法およびゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20230417BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230417BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230417BHJP
B60C 1/00 20060101ALN20230417BHJP
【FI】
C09C1/48
C08L21/00
C08K3/04
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2019076243
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 研吾
(72)【発明者】
【氏名】高▲橋▼ 卓也
(72)【発明者】
【氏名】秋山 祐樹
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146097(JP,A)
【文献】特開2003-292821(JP,A)
【文献】特開昭64-004659(JP,A)
【文献】特開平04-108837(JP,A)
【文献】特開2007-112879(JP,A)
【文献】特開平10-036703(JP,A)
【文献】特開2003-261795(JP,A)
【文献】特開2017-008223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00-3/12
C09D 15/00-17/00
C08L 21/00
C08K 3/00-3/40
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックであって、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm
-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅
が200~330cm
-1
であるとともに、窒素ガスを吸着させたときの比表面積が110~410m
2
/gであり、前記半値全幅と、窒素ガスを吸着させたときの比表面積との積で表される総活性点が3.60×10
4~8.20×10
4(cm
-1・m
2/g)であり、
ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が50.0~250.0(/g)である
ことを特徴とするカーボンブラック。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンブラックを製造する方法であって、
水素の質量に対する炭素の質量の比が10.0~20.0である原料油と燃焼ガスとを接触させて一次反応物を生成する一次反応工程と、
前記一次反応物に対し、水素の質量に対する炭素の質量の比が5.0以上10.0未満である添加油を、前記原料油の質量の0.20~1.00倍の量反応させる二次反応工程とを
順次施すことを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
【請求項3】
ガス流路の上流から下流方向に向かって燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記一次反応工程として、前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し、混合、燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に前記高温燃焼ガス流を導入しながら前記原料油を導入して一次反応物を生成した後、
前記二次反応工程として、添加油導入帯域で添加油を導入する
請求項2に記載のカーボンブラックの製造方法。
【請求項4】
ゴム成分100質量部に対して請求項1に記載のカーボンブラックを20~150質量部含むことを特徴とするゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック、カーボンブラックの製造方法およびゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム補強用のカーボンブラックとしては、具備特性に応じた多様な品種があり、これらの具備特性がゴムの諸性能を決定付けるための主要な因子となるため、ゴム組成物への配合にあたっては、部材用途に適合する特性を有するカーボンブラックが選定されている。
【0003】
例えば、タイヤトレッド部のような高度の補強性が要求されるゴム部材には、従来よりSAF(N110)、ISAF(N220)などの、一次粒子径が小さく、比表面積が大きい、高ストラクチャーなハード系カーボンブラックが使用されている。
【0004】
また、このようなタイヤトレッド部用ゴム部材のうち、高性能乗用車やレース用乗用車向けに操縦安定性や耐摩耗性を向上させたタイヤトレッド用ゴム部材として、CTAB比表面積および24M4DBP吸収量が特定範囲内にあり、24M4DBP吸収量とカーボンブラックの凝集体密度とが特定の関係にあるものが提案されるようになっている(特許文献1(特開2005-8877号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、省エネルギー化の要請の下、低燃費タイヤの開発が強く求められるようになっており、低燃費タイヤ向けの発熱性を抑制したゴム組成物の開発が求められるようになっているが、上記補強性や耐摩耗性を向上させたゴム部材をタイヤトレッド部に使用した場合、一般に発熱特性を増大させ易いという技術課題が存在していた。
【0007】
一方、バスやトラック等の大型車輛は、一般に車輛重量が大きくまた走行距離も長いことからタイヤトレッド部に対する負担も大きくなり、このためにタイヤトレッド部用ゴム組成物に配合したときに、より一層耐摩耗性を向上させ得るカーボンブラックが求められるようになっていた。
【0008】
このような状況下、本発明は、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、発熱性を抑制しつつより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを提供するとともに、カーボンブラックの製造方法およびゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術課題を解決するために本発明者が鋭意検討した結果、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅と、窒素ガスを吸着させたときの比表面積との積で表される総活性点が所定範囲内にあり、ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が所定範囲内にあるカーボンブラックにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)カーボンブラックであって、
励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅が200~330cm
-1
であるとともに、窒素ガスを吸着させたときの比表面積が110~410m
2
/gであり、前記半値全幅と、窒素ガスを吸着させたときの比表面積との積で表される総活性点が3.60×104~8.20×104(cm-1・m2/g)であり、
ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が50.0~250.0(/g)である
ことを特徴とするカーボンブラック、
(2)上記(1)に記載のカーボンブラックを製造する方法であって、
水素の質量に対する炭素の質量の比が10.0~20.0である原料油と燃焼ガスとを接触させて一次反応物を生成する一次反応工程と、
前記一次反応物に対し、水素の質量に対する炭素の質量の比が5.0以上10.0未満である添加油を、前記原料油の質量の0.20~1.00倍の量反応させる二次反応工程とを
順次施すことを特徴とするカーボンブラックの製造方法、
(3)ガス流路の上流から下流方向に向かって燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油
導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記一次反応工程として、前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し、混合、燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に前記高温燃焼ガス流を導入しながら前記原料油を導入して一次反応物を生成した後、
前記二次反応工程として、添加油導入帯域で添加油を導入する
上記(2)に記載のカーボンブラックの製造方法、
(4)ゴム成分100質量部に対して上記(1)に記載のカーボンブラックを20~150質量部含むことを特徴とするゴム組成物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、発熱性を抑制しつつより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを提供するとともに、カーボンブラックの製造方法およびゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るカーボンブラックにおける、半値全幅の算出方法を示す説明図である。
【
図2】本発明に係るカーボンブラックにおいて、ラマンスペクトルの測定方法を説明するための図である。
【
図3】本発明に係るカーボンブラックにおいて、パルス核磁気共鳴装置を用いスピン-スピン緩和時間T
2を測定したときに得られるT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)の例を示す図である。
【
図4】
図3に示すT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)のフィッティング曲線を示す図である。
【
図5】本発明に係るカーボンブラックの製造に使用される反応炉の形態例を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の実施例および比較例で得られたカーボンブラックにおいて、損失係数(tanδ)に対する摩耗量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、本発明に係るカーボンブラックについて説明する。
本発明に係るカーボンブラックは、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅と、窒素ガスを吸着させたときの比表面積との積で表される総活性点が3.60×104~8.20×104(cm-1・m2/g)であり、
ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が50.0~250.0(/g)である
ことを特徴とするものである。
本発明に係るカーボンブラックは、より詳細には、下記式(I)
ΔD×N2SA (I)
(ただし、ΔDは、レーザーラマン分光装置を用いて励起波長532nmで測定したときに得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークの半値全幅(cm-1)であり、N2SAは、窒素吸着法により測定される窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
で表される総活性点が3.60×104~8.20×104(cm-1・m2/g)であり、
パルス核磁気共鳴装置を用い、ソリッドエコー法により観測核を1Hとしてスピン-スピン緩和時間T2を測定したときに得られるT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を、下記式f(t)
f(t)=A(1)exp(-t/T2(1)) + A(2)exp(-t/T2(2))
(ただし、T2(1)は緩和時間の短い成分の緩和時間、T2(2)は緩和時間の長い成分の緩和時間であり、A(1)は緩和時間の短い成分のt=0における信号強度、A(2)は緩和時間の長い成分のt=0における信号強度である)
により表したときに、
下記式(II)
A(1)/w (II)
(ただし、wは測定試料の質量(g)である。)
で表される水素量が50.0~250.0(/g)である
ことを特徴とするものである。
【0014】
本発明に係るカーボンブラックにおいて、半値全幅(半値全幅ΔD)は、レーザーラマン分光装置を用いて励起波長532nmで測定したときに得られるラマンスペクトルにおいて、1340~1360cm-1(1350±10cm-1)の範囲にピークトップを有するピークの半値全幅(cm-1)である。
【0015】
半値全幅(半値全幅ΔD)は、カーボンブラック表面とゴムとの適度な結合力(親和性)を確保する観点から、200~330cm-1であることが好ましく、安定した結合力(親和性)を確保する観点からは、210~310cm-1であることがより好ましく、強固な結合力(親和性)を確保する観点から、215~295cm-1であることがさらに好ましい。
本発明に係るカーボンブラックにおいて、半値全幅(半値全幅ΔD)が上記範囲内にあることにより、カーボンブラック表面の活性点数を所望範囲に制御して、後述する半値全幅と窒素吸着比表面積との積(ΔD×N2SA)を所望範囲内に容易に制御することができる。
【0016】
図1は、本発明に係るカーボンブラックにおける、半値全幅(半値全幅ΔD)の算出方法を示す図である。
図1に示すように、本発明に係るカーボンブラックは、レーザーラマン分光法により、励起波長532nmで測定することで得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm
-1の範囲にピークトップを有するピークが検出される。
そして、上記ピークトップ位置における測定波長をDmax(cm
-1)とし、得られたスペクトルにおいて、上記Dmaxにおけるピーク強度の半分の検出強度を有する低波長(低ラマンシフト)側の検出位置をD50(cm
-1)としたときに、下記式により算出される値を、本出願における半値全幅ΔD(cm
-1)とする。
ΔD=(Dmax-D50)×2
【0017】
上記ラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークはラマンスペクトルのDバンドにおけるピークに相当する。
本発明者等の検討によれば、上記Dバンドのピークの半値全幅ΔDはカーボンブラック表面における結晶構造の乱雑さの程度を表し、この為に本発明においてΔDが所望範囲内にあることはカーボンブラック表面におけるエッジ、すなわちゴム成分に対して親和性を示す官能基の形成箇所(活性点)が多数存在することを意味する。
【0018】
本発明において、半値全幅ΔD(cm
-1)は、以下の(1)の測定条件で測定した後、(2)のデータ処理を施して得られるラマンスペクトルから算出される値を意味する。
(1)レーザーラマン分光装置として(株)堀場製作所製 HR-800を用い、測定対象となるカーボンブラック試料を数粒スライドグラス上に載置し、スパチュラで数回こすり表面を平らにした状態のものを、以下の測定条件で測定する。
YAGレーザー(励起波長):532nm
刻線数 :600gr/mm
フィルター :D0.6
対物レンズ倍率 :100倍
露光時間 :150秒
積算回数 :2回
このとき得られるスペクトル例を
図2に示す。
(2)得られたスペクトルの測定波長(Raman Shift)2100cm
-1における信号強度を0とし、スペクトルを構成するデータ点のうち、隣接する39点毎に平均値を求め、次いでスムージング処理して上記各平均値を結ぶスペクトル曲線を得る。次いで、各サンプル毎の比較を容易にするために、測定波長1350±10cm
-1の範囲に観察されるピークトップ強度を100とする。
このとき得られるラマンスぺクトル例が、
図1に例示するようなラマンスペクトルである。
【0019】
本発明に係るカーボンブラックにおいて、窒素ガスを吸着させたときの比表面積とは、窒素吸着法により測定されるカーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SA(m2/g)を意味する。
【0020】
本発明に係るカーボンブラックにおいて、窒素吸着比表面積N2SAは、適度なゴム組成物の硬さ(加工性)を確保する観点から110~410m2/gであることが好ましく、安定したゴム組成物の硬さ(加工性)を確保する観点から120~400m2/gであることがより好ましく、生産効率に優れたゴム組成物の硬さ(加工性)を確保する観点から125~395m2/gであることがさらに好ましい。
【0021】
本発明に係るカーボンブラックにおいて、窒素吸着比表面積N2SAが上記範囲内にあることにより、適度なゴム組成物の硬さ(加工性)を確保すると共にカーボンブラック表面の活性点数を所望範囲に制御して、後述する半値全幅と窒素吸着比表面積との積(ΔD×N2SA)を所望範囲内に容易に制御することができる。
【0022】
なお、本出願書類において、窒素吸着比表面積N2SAは、JIS K6217-2 2001「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験方法」に規定される方法に準拠して、窒素吸着量により測定される値を意味する。
【0023】
本発明に係るカーボンブラックは、励起波長を532nmとしたときに1340~1360cm-1の範囲に出現するラマン散乱ピークの半値全幅と、窒素ガスを吸着させたときの比表面積との積で表される総活性点が3.60×104~8.20×104(cm-1・m2/g)であるものである。
より詳細には、本発明に係るカーボンブラックは、下記式(I)
ΔD×N2SA (I)
(ただし、ΔDは、レーザーラマン分光装置を用いて励起波長532nmで測定したときに得られるラマンスペクトルにおいて、1350±10cm-1の範囲にピークトップを有するピークの半値全幅(cm-1)であり、N2SAは、窒素吸着法により測定される窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
で表される総活性点が3.60×104~8.20×104(cm-1・m2/g)であるものである。
【0024】
上記総活性点(上記式(I)で表される総活性点)は、カーボンブラック表面とゴムとの適度な結合力(親和性)および適度なゴム組成物の硬さ(加工性)を同時に確保するためには3.60×104~8.20×104(cm-1・m2/g)であり、安定した親和性と加工性を同時に確保するためには3.70×104~7.20×104(cm-1・m2/g)が好ましく、親和性と加工性の最適なバランスを確保するためには3.90×104~6.80×104(cm-1・m2/g)がより好ましい。
【0025】
本発明に係るカーボンブラックにおいて、上記総活性点(上記式(I)で表される総活性点)が上記範囲内にあることにより、カーボンブラックとゴム成分との適度な結合力(親和性)を得ることができるとともにゴム成分として使用したときに適度なゴム組成物の硬さ(加工性)を容易に達成することができる。
【0026】
本発明に係るカーボンブラックは、ソリッドエコー法により観測されるスピン‐スピン緩和過程の核磁気共鳴シグナルが第1のシグナルと前記第1のシグナルよりも時定数が大きい第2のシグナルとの和で表されるとき、前記第1のシグナルの時間0における単位質量当たりのシグナル強度で表される水素量が50.0~250.0(/g)であるものである。
より詳細には、本発明に係るカーボンブラックは、パルス核磁気共鳴装置を用い、ソリッドエコー法により観測核を1Hとしてスピン-スピン緩和時間T2を測定したときに得られるT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を、下記式f(t)
f(t)=A(1)exp(-t/T2(1)) + A(2)exp(-t/T2(2))
(ただし、T2(1)は緩和時間の短い成分の緩和時間、T2(2)は緩和時間の長い成分の緩和時間であり、A(1)は緩和時間の短い成分のt=0における信号強度、A(2)は緩和時間の長い成分のt=0における信号強度である)
により表したときに、
下記式(II)
A(1)/w (II)
(ただし、wは測定試料の質量(g)である。)
で表される水素量が50.0~250.0(/g)であるものである。
【0027】
上記水素量(上記式(II)で表される水素量)は、ゴムへの練りこみ時に良好な分散性と損失係数の低いゴム組成物(低発熱性)を同時に確保するためには50.0~250.0(/g)であり、安定した分散性と低発熱性を同時に確保するためには90.0~225.0(/g)であることが好ましく、分散性と低発熱性の最適なバランスを確保するためには100.0~215.0(/g)であることがより好ましい。
【0028】
本発明に係るカーボンブラックにおいて、上記水素量(上記式(II)で表される水素量)が上記範囲内にあることにより、ゴムへの練りこみ時に良好な分散性を発揮しつつ損失係数の低い(発熱性の低い)ゴム組成物を容易に調製することができる。
【0029】
一方、上述したように、本発明に係るカーボンブラックは、上記総活性点(上記式(I)で表される総活性点)が所定範囲内にあることにより、カーボンブラックとゴム成分との適度な結合力(親和性)を得ることができるとともにゴム成分として使用したときに適度なゴム組成物の硬さ(加工性)を容易に達成することができる。
このため、上記総活性点(上記式(I)で表される総活性点)および上記水素量(上記式(II)で表される水素量)が各々所定範囲内にある本発明に係るカーボンブラックは、ゴム組成物の構成成分として使用したときに、損失係数が低く(発熱性が低く)低燃費性能を容易に発揮することができるとともに、ゴム成分と適度な結合力(親和性)を有し優れた耐摩耗性を容易に発揮することができる。
【0030】
本発明において、水素量(上記式(II)で表される水素量)は、以下の方法により求められる。
(1)パルス核磁気共鳴装置としてブルカー・バイオスピン(株)Minispec mq20を用い、測定対象となるカーボンブラックを110℃で30分間乾燥した後、ガラス製サンプル管に0.2g充填したものを測定試料とし、以下の測定条件によりスピン-スピン緩和時間(横緩和時間)T2を測定して、T2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を得る。
<測定条件>
測定核種 :1H
パルスモード :ソリッドエコー法(90°×-τ-90°y)
90°パルス幅:2.7μs
測定時間 :2ms
待ち時間 :500ms
積算回数 :52回
測定温度 :40℃
Gain :90
カーボンブラックの質量は0.2gで一定であり、装置関数も一定(Gainn=90)であるため、得られるT2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)の信号強度は測定対象の1H濃度に比例して増減することになる。
(2)得られた自由誘導減衰曲線を、上記パルス核磁気共鳴装置(ブルカー・バイオスピン(株)Minispec mq20)付属のフィッティングソフト(TD-NMR-A for Windows7)を用いた線形最小二乗法によるフィッティングにより、下記式f(t)
f(t)=A(1)exp(-t/T2(1)) + A(2)exp(-t/T2(2))
(ただし、T2(1)は緩和時間の短い成分の緩和時間、T2(2)は緩和時間の長い成分の緩和時間であり、A(1)は緩和時間の短い成分のt=0における信号強度、A(2)は緩和時間の長い成分のt=0における信号強度である)
で表される近似曲線を得る。
(3)上記信号強度A(1)を測定試料の質量w(g)で割る。
【0031】
図3に、上記方法で得られるT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)の例を示す。
図3に示すように、90°パルスにより励起した時間をt=0とすると、y軸方向の磁化(信号強度)が時間とともに減衰するシグナルが得られることが分かる。
図4は、
図3に示すT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)を線形最小二乗法によりフィッティングした場合のフィッティング曲線を実線で示すものであり、
図4に示すように、得られたT
2緩和曲線(自由誘導減衰曲線)は、フィッティングにより2つの指数関数の和として表することができる。
ここで、時定数の違いにより液体と固体とを区別できるので、緩和時間の短い成分に係る指数関数においてt=0(90°パルスによる励起時)における信号強度A(1)はカーボンブラック表面の水素原子(-COOH、-OH、表面の-H、炭素骨格中の-H等)と特定できる。同様に、緩和時間の短い成分に係る指数関数においてt=0(90°パルスによる励起時)における信号強度A(2)はカーボンブラック表面に吸着した水分や液状の多環芳香族炭化水素化合物等と特定できる。
上記信号強度A(1)(a.u.)を測定に供したカーボンブラックの質量w(0.2g)で割ることにより、カーボンブラック単位質量当たりの水素量「A(1)/w」を求めることができる。
本発明者等の検討によれば、上記式(II)(A(1)/w)で表される水素量は、従来カーボンブラック表面の水素量を測定する方法として知られていた熱分解法により得られる水素量と高い相関性を示すことが見出されており、このためにカーボンブラック表面の水素量を表す指標として好適に使用することができる。
【0032】
本発明に係るカーボンブラックは、DBP(Dibutylphthalate)吸収量が、60~200cm3/100gであるものが好ましく、70~195cm3/100gであるものがより好ましく、80~190cm3/100gであるものがさらに好ましい。
【0033】
上記DBP吸収量は、ストラクチャーの発達度合い、すなわちアグリゲート構造の複雑さの程度を表す指標となる。
DBP吸収量が60ml/100g未満であると、ゴム組成物に配合した際にカーボンブラックの分散性が悪化して得られるゴムの補強性が低下し易くなり、200ml/100gを超えるとゴム組成物に配合した際に得られるゴムの加工性が低下する場合がある。
【0034】
なお、本出願書類において、DBP吸収量は、JISK6217-4「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部、DBP吸収量の求め方」に規定された方法により測定される値を意味する。
【0035】
本発明に係るカーボンブラックは、後述する本発明に係る製造方法により、好適に製造することができる。
【0036】
本発明によれば、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、発熱性を抑制しつつより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを提供することができる。
【0037】
次に、本発明に係るカーボンブラックの製造方法について説明する。
本発明に係るカーボンブラックの製造方法は、本発明に係るカーボンブラックを製造する方法であって、水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)が10.0~20.0である原料油と燃焼ガスとを接触させて一次反応物を生成する一次反応工程と、前記一次反応物に対し、水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)が5.0以上10.0未満である添加油を、前記原料油の質量の0.20~1.00倍の量反応させる二次反応工程とを順次施すことを特徴とするものである。
【0038】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、原料油を構成する水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)は、10.0~20.0であり、10.0~18.0であることが好ましく、11.0~17.0であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、原料油を構成する水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)が上記範囲内にあることにより、安定した反応を維持しつつ高い収率でカーボンブラックを製造することができる。
【0040】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)は、JIS M 8813に従って測定した炭素および水素の質量に基づいて算出される値(質量比)を意味する。
【0041】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、原料油としては、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、クレオソート油、カルボン酸油等の石炭系炭化水素、エチレンボトム油(エチレンヘビーエンドオイル)、FCC残渣油等の石油系重質油、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタンやヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素などから選ばれる一種以上を挙げることができる。
本発明において、原料油は、上記炭化水素等を二種以上混合したものであってもよい。
【0042】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)が10.0~20.0である原料油と燃焼ガスとを接触させる一次反応を行って一次反応物を生成する。
【0043】
燃焼ガスとしては、酸素含有ガスと燃料との混合燃焼ガスであることが好ましい。上記酸素含有ガスとしては酸素、空気またはこれらの混合物からなるガスを挙げることができ、燃料としては、水素、一酸化炭素、天然ガス、石油ガス、FCC残渣油等、重油等の石油系液体燃料、クレオソート油等の石炭系液体燃料を挙げることができる。
【0044】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、酸素含有ガスとして空気を用いる場合、原料油供給量1kgに対して空気供給量が3.5~6.0Nm3であることが好ましく、原料油供給量1kgに対して空気供給量が4.0~5.3Nm3であることがより好ましく、原料油供給量1kgに対して空気供給量が4.2~5.3m3であることがことがさらに好ましい。
【0045】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、一次反応に供給する原料油と酸素含有ガスとは、原料油供給量1kgあたり酸素含有ガス中の酸素量が0.74~1.26Nm3となるように接触させることが好ましく、原料油供給量1kgあたり酸素含有ガス中の酸素量が0.84~1.11Nm3となるように接触させることがより好ましく、原料油供給量1kgあたり酸素含有ガス中の酸素量が0.88~1.11Nm3となるように接触させることがさらに好ましい。
【0046】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、原料油と燃焼ガスとを接触させる一次反応を行って一次反応物を生成した後、得られた一次反応物に対し、水素の質量に対する炭素の質量の比が5.0以上10.0未満である添加油を、原料油の質量の0.20~1.00倍の量反応させる(添加油の質量/原料油の質量で表される比が0.20~1.00になるように反応させる)二次反応工程を施す。
上記二次反応工程で行う二次反応は、一次反応物に添加油を作用させて一次生成物に所定量の水素を付加する反応である。なお、本明細書において、上記一次反応物に対して添加油を作用させるとは一次反応物に対して添加油を反応させることと同義である。
【0047】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、添加油を構成する水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)は、5.0以上10.0未満であり、5.5~9.5であることが好ましく、6.0~9.0であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、添加油を構成する水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)が上記範囲内にあることにより、表面に水素官能基を有するカーボンブラックを容易に調製することができる。
【0049】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、水素の質量に対する炭素の質量の比(炭素の質量/水素の質量)は、JIS M 8813に従って測定した炭素および水素の質量に基づいて算出される値(質量比)を意味する。
【0050】
上記添加油としては、水素原子を含む油状物質であれば特に制限されないが、炭化水素油が好ましく、炭化水素油としては、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、アセチレン系不飽和炭化水素、エチレン系炭化水素、ペンタンやヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0051】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、一次反応物に対する添加油の添加量が、原料油の0.20~1.00質量倍となる量反応させて二次反応を行い、原料油の0.22~0.90質量倍となる量反応させて二次反応を行うことが好ましく、原料油の0.23~0.80質量倍となる量反応させて二次反応を行うことがより好ましい。
【0052】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、添加油の添加量が上記範囲内にあることにより、安定した反応を維持しつつ表面に水素官能基を有するカーボンブラックを高い収率で製造することができる。
【0053】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、一次反応物に添加油を導入、反応させることにより、表面に活性点となるエッジを所定数形成しつつ、所望量の水素原子が結合したカーボンブラックを容易に調製することができる。
【0054】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法において、一次反応工程および二次反応工程の2つの工程は、反応炉内で行うことが好ましい。
上記反応炉としては、ガスの流れに沿って設けられるガス流路を備えたものが好ましく、上記ガス流路は、上流から下流側に向かってガスの流れが略一方向となるものが好ましい。
また、上記反応炉としては、ガス流路の上流から下流方向に向かって、燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられたものが好ましい。
【0055】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法の実施形態としては、ガス流路の上流から下流方向に向かって燃料燃焼帯域、原料導入帯域および添加油導入帯域が順次設けられた反応炉を用い、
前記一次反応工程として、前記燃料燃焼帯域に酸素含有ガスと燃料とを導入し、混合、燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させ、前記原料導入帯域に前記高温燃焼ガス流を導入しながら前記原料油を導入して一次反応物を生成した後、
前記二次反応工程として、添加油導入帯域で添加油を導入する形態を挙げることができる。
【0056】
図5は、上記反応炉の好適な形態である広径円筒反応炉を模式的に示したものである。
以下、本発明のカーボンブラックの製造方法を、
図5に示す反応炉を適宜例にとって説明する。
【0057】
図5に示す反応炉には、炉内に形成されたガス流路の上流から下流方向に向かって連通する、燃料燃焼帯域3、原料導入および一次反応帯域5、添加油導入帯域8および二次反応帯域9が順次設けられている。
【0058】
すなわち、
図5に示す反応炉において、燃料燃焼帯域3は、炉軸方向に垂直な方向から空気等の酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入口1と、炉軸方向に燃料を供給する燃焼用バーナー2とを備えている。また、原料導入および一次反応帯域5は、炉軸方向に垂直な方向から原料油を供給する原料油導入ノズル4を備え、燃料燃焼帯域3と同軸的に連通して設けられている。さらに、添加油導入帯域8は、炉軸方向に垂直な方向から添加油を供給する添加油導入ノズル6を備え、原料導入および一次反応帯域5に同軸的に連通して設けられている。二次反応帯域9は、添加油導入帯域8に同軸的に連通して設けられている。
図5に示す反応炉においては、二次反応帯域9に同軸的に連通して反応停止帯域も設けられており、同反応停止帯域には、炉軸方向に垂直な方向から冷却液を噴霧する冷却液導入ノズル7が設けられている。
【0059】
図5に示す反応炉は、燃料燃焼帯域3から原料導入および一次反応帯域5に向かって縮管するとともに、原料導入および一次反応帯域5から添加油導入帯域8に向かって拡管する鼓状形状を有しているが、反応炉形状はこのような形状に限定されず、種々の形状を採ることができる。
【0060】
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、燃料燃焼帯域3に酸素含有ガスと燃料を導入し混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させる。
酸素含有ガスとしては、酸素、空気またはこれらの混合物からなるガスを挙げることができ、燃料としては、水素、一酸化炭素、天然ガス、石油ガス、FCC残渣油等、重油等の石油系液体燃料、クレオソート油等の石炭系液体燃料を挙げることができる。
燃焼ガスの生成源となる燃料としては、上述した燃焼ガスを生成し得るものと同様のものを挙げることができる。
【0061】
燃料燃焼帯域3における酸素含有ガスの供給量は、2000Nm3/h~5500Nm3/hであることが好ましく、2500Nm3/h~5000Nm3/hであることがより好ましく、3000Nm3/h~4500Nm3/hであることがさらに好ましい。また、燃料燃焼帯域3における燃料の供給量は、50kg/h~400kg/hであることが好ましく、100kg/h~350kg/hであることがより好ましく、150kg/h~300kg/hであることがさらに好ましい。
燃料燃焼帯域3においては、例えば、400℃~600℃に予熱した酸素含有ガスを供給しつつ燃料を供給することにより、両者を混合燃焼させて高温燃焼ガス流を発生させることができる。
【0062】
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、上記高温燃焼ガス流を原料導入および一次反応帯域5に導入しつつ、当該原料導入および一次反応帯域5に原料油導入ノズル4から原料油を導入する。
【0063】
原料導入および一次反応帯域5で供給する原料油としては、上述したものを挙げることができる。
また、上記原料油導入ノズルとしては一流体ノズルを挙げることができる。
【0064】
原料油の導入量は、特に制限されないが、100kg/時間~2000kg/時間であることが好ましく、150kg/時間~1500kg/時間であることがより好ましく、200kg/時間~1400kg/時間であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明に係るカーボンブラックの製造方法においては、上記原料導入および一次反応帯域5に原料油を導入して一次反応を行った後、添加油導入帯域8に添加油を導入して二次反応を行う。
【0066】
添加油としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0067】
添加油導入帯域における添加油の導入量は、50~1500kg/時間であることが好ましく、100~1200kg/時間であることがより好ましく、150~1000kg/時間であることがさらに好ましい。
添加油導入帯域における添加油の導入量が上記範囲内にあることにより、得られるカーボンブラック表面における水素量を所望範囲に制御することができる。
【0068】
本発明のカーボンブラックの製造方法において、
図5に示す反応炉を用いた場合、原料導入および一次反応帯域5で一次反応を行った後、添加油導入帯域8で添加油を導入し、添加油導入帯域8や二次反応帯域9に導入において二次反応させることにより、目的とするカーボンブラックを容易に調製することができる。
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、二次反応帯域9を有さない反応炉を用いてもよい。
【0069】
図5に示す反応炉においては、上記カーボンブラック含有ガスが反応停止帯域に導入され、冷却液が噴霧される。
冷却液としては水等を挙げることができ、冷却液を噴霧することにより、高温燃焼ガス中に浮遊懸濁したカーボンブラック粒子が冷却される。冷却液の噴霧は、例えば
図5に示す冷却液導入ノズル7から冷却液を噴霧することにより行うことができる。
【0070】
次いで、冷却されたカーボンブラック粒子は、煙道等を経て、サイクロンやバッグフィルター等の捕集系(分離捕集装置)により分離捕集することにより、目的とするカーボンブラックを回収することができる。
【0071】
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、一次反応物と反応させる添加油の種類や量を変えることにより、総活性点数や水素量を所望範囲に容易に調整することができる。
【0072】
本発明の製造方法により得られるカーボンブラックとしては、本発明のカーボンブラックの説明で詳述したものと同様のものを挙げることができる。
【0073】
本発明によれば、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、発熱性を抑制しつつより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを簡便に製造する方法を提供することができる。
【0074】
次に、本発明に係るゴム組成物について説明する。
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して本発明に係るカーボンブラックを20~150質量部含むことを特徴とするものである。
【0075】
本発明に係るゴム組成物において、ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴムなどのジエン系ゴムから選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。
【0076】
本発明に係るゴム組成物は、本発明に係るカーボンブラックを含むものであり、ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックの詳細については上述したとおりである。
そして、本発明に係るカーボンブラックは、所定の総活性点および水素量を有するものであるために、カーボンブラック表面に所定量の官能基を有し、ゴム組成物に優れた低発熱特性と耐摩耗性を付与することができると考えられる。
【0077】
本発明に係るゴム組成物において、本発明に係るカーボンブラックの含有割合は、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部であり、ゴム成分100質量部に対して25~145質量部であることが好ましく、ゴム成分100質量部に対して30~140質量部であることがより好ましい。
本発明に係るゴム組成物において、本発明に係るカーボンブラックの含有割合が上記範囲内にあることにより、耐摩耗性および発熱特性等に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0078】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分および本発明に係るカーボンブラックを、合計で、60~100質量%含むものであることが好ましく、60~99質量%含むものであることが好ましく、70~98質量%含むものであることがより好ましく、75~97質量%含むものであることがさらに好ましい。
【0079】
また、本発明に係るゴム組成物は、常用される、無機補強材、シランカップリング剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、加硫助剤、軟化剤、可塑剤などの必要成分を含んでもよい。
本発明に係るゴム組成物は、これ等の成分を、合計で、1~40質量%含むものであることが好ましく、2~30質量%含むものであることがより好ましく、3~25質量%含むものであることがさらに好ましい。
【0080】
本発明に係るゴム組成物は、上記カーボンブラックの所望量と、必要に応じ、無機補強材、シランカップリング剤、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、加硫助剤、軟化剤、可塑剤等の所望量とを、ゴム成分と混練することにより得ることができる。上記混練は、公知のミキサーやミル等の混練機を用いて行うことができる。
【0081】
本発明に係るゴム組成物は、所定形状に成形した後、適宜、130~180℃で加温して硬化することにより、所望のゴム成形体を得ることができる。
【0082】
本発明に係るゴム組成物は、発熱特性を向上させることができ、補強性および発熱性がバランスよく改良されていることから、タイヤトレッド用のゴム組成物として好適に使用することができる。
【0083】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0084】
(実施例1~実施例13、比較例1~比較例7)
(実施例1)
図5に示すような概略円筒形状を有する反応炉を用いてカーボンブラックを作製した。
図5に示す反応炉には、炉内に形成されたガス流路の上流から下流方向に向かって連通する、燃料燃焼帯域3、原料導入および一次反応帯域5、添加油導入帯域8、二次反応帯域9および反応停止帯域が順次設けられている。
【0085】
図5に示す反応炉において、燃料燃焼帯域3は、炉軸方向に垂直な方向から空気等の酸素含有ガスを導入する酸素含有ガス導入口1と、炉軸方向に燃料を供給する燃焼用バーナー2とを備えている。また、原料導入および一次反応帯域5は、炉軸方向に垂直な方向から原料油を供給する原料油導入ノズル4である一流体ノズルを備え、燃料燃焼帯域3と同軸的に連通して設けられている。
添加油導入帯域8は、炉軸方向に垂直な方向から添加油を供給する添加油導入ノズル6である一流体ノズルを備え、原料導入および一次反応帯域5と同軸的に連通して設けられており、さらに、二次反応帯域9は、添加油導入帯域8に同軸的に連通して設けられている。また、反応停止帯域は、炉軸方向に垂直な方向から冷却水を供給する図の上下方向に位置変更可能な冷却液導入ノズル7(水冷クエンチ)を備え、二次反応帯域9に同軸的に連通して設けられている。
【0086】
図5に示すように、上記反応炉は、原料導入および一次反応帯域5の前後において、燃料燃焼帯域3から原料導入および一次反応帯域5に向かって緩やかに縮管するとともに、原料導入および一次反応帯域5から添加油導入帯域8に向かってテーパー状に拡管する鼓状絞り形状を成している。
【0087】
燃料燃焼帯域3においては、酸素含有ガス導入口1から、500℃に予熱した空気(酸素含有割合21体積%)を4000Nm3/hを供給するとともに、燃焼用バーナー2から燃料油としてFCC残渣油(石油系残渣油)250kg/hを噴射供給し、混合燃焼させて、炉軸方向に流通する高温燃焼ガス流を形成した。
【0088】
原料導入および一次反応帯域5に上記高温燃焼ガス流を導入しつつ、原料油導入ノズル4である一流体ノズルから、原料油として炭素/水素の質量比が12.0であるエチレンボトム油850kg/hを供給し、次いで、添加油導入帯域において、添加油導入ノズル6から炭素/水素の質量比が6.0であるシクロヘキサンを210kg/h供給し、順次反応させることにより、カーボンブラック含有ガスを生成した。
【0089】
次いで、原料導入および一次反応帯域5を経て添加油導入帯域8で生成したカーボンブラック含有ガスを二次反応帯域9に導入してさらに十分に反応させた後、反応停止帯域に導入して、冷却液導入ノズル7から冷却水を噴霧した。冷却されたカーボンブラック粒子は、煙道等を経て、図示しない分離捕集装置により捕集され、目的とするカーボンブラックを回収した。
【0090】
上記反応において、使用した原料油と添加油の種類および炭素/水素の質量比、原料油に対する添加油の使用量を表1に示すとともに、空気供給量、燃料供給量、原料油供給量、添加油供給量を表2に示す。
また、得られたカーボンブラックにおける、ΔD、窒素吸着比表面積N2SA(m2/g)、総活性点(ΔD×N2SA)および水素量(A(1)/w)を表3に示す。
【0091】
(実施例2~実施例13、比較例1~比較例7)
実施例1において、反応条件を表1および表2に記載するとおり各々変更した以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラックを調製した。
得られたカーボンブラックにおける、ΔD、窒素吸着比表面積N2SA(m2/g)、総活性点(ΔD×N2SA)および水素量(A(1)/w)を表3に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
(ゴム組成物の製造例)
表4に示すように、ゴム成分である天然ゴム(RSS#1)100質量部、上記実施例および比較例で得られた何れかのカーボンブラック45質量部、ステアリン酸3質量部、老化防止剤(川口化学(株)製 アンテージ6C)1質量部、亜鉛華4質量部とを、密閉型ミキサー(神戸製鋼(株)製MIXTRON BB-2)で混練した後、得られた混練物に対し、加硫促進剤(川口化学工業(株)製アクセルNS)0.5質量部と、硫黄1.5質量部とをオープンロールで混練することにより、各々表4に示す組成を有するゴム組成物を得た。
【0096】
【0097】
次いで、得られた各ゴム組成物を145℃の温度条件下、45分間加硫して加硫ゴムを形成した。
得られた加硫ゴムを用い、以下に示す方法により、摩耗量および損失係数(tanδ)を測定した。結果を表5に示す。
なお、表5においては、使用した各カーボンブラックが得られた実施例および比較例毎に摩耗量および損失係数(tanδ)の結果を示している。
【0098】
<摩耗量>
ランボーン摩耗試験機(機械スリップ機構、(株)上島製作所製AB-1152)を用い、JIS K6264「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐摩耗性の求め方-」に規定される方法に準拠し、以下の測定条件で測定した。
試験片 :厚さ10mm、外径48mm
研磨紙 :粒度A80
スリップ率 :10%
試験片表面速度:72m/min
試験荷重 :3kg
なお、摩耗量は、値が小さい程耐摩耗性に優れることを示している。
【0099】
<損失係数(tanδ)>
得られた各加硫ゴムから切り出した、厚さ2mm、長さ40mm、幅4mmの試験片を用い、粘弾性スペクトロメータ((株)上島製作所製VR-7110)を用い、周波数50Hz、動的歪率1.26%、測定温度60℃の測定条件で、損失係数(tanδ)を測定した。
なお、損失係数(tanδ)は、値が小さいほど発熱性が低いことを示している。
【0100】
また、実施例1~実施例13および比較例1~比較例7で得られたカーボンブラックを各々用いて作製された加硫ゴムの摩耗量に対する損失係数(tanδ)を
図6に示す。
【0101】
【0102】
表3、表5および
図6の結果から、実施例1~実施例13で得られたカーボンブラックを各々用いて作製された加硫ゴムは、ΔD×N
2SAで表される総活性点およびA(1)/wで表される水素量が各々所定範囲内にあるカーボンブラックを用いていることから、損失係数tanδが小さく発熱性を抑制し得るとともに摩耗量が少なく耐摩耗性を発揮し得る(低発熱性および耐摩耗性を両立し得る)ものであることが分かる。
【0103】
一方、表3、表5および
図6の結果から、比較例1~比較例7で得られた比較カーボンブラックを各々用いて作製された加硫ゴムは、カーボンブラックとして、ΔD×N
2SAで表される総活性点またはA(1)/wで表される水素量が所定範囲外にあることから、ゴム組成物に配合したときに、損失係数tanδが大きく発熱量が高かったり摩耗量が多く耐摩耗性に劣る(低発熱性および耐摩耗性を両立し得ない)ものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、タイヤトレッドゴム組成物等のゴム組成物に配合したときに、発熱性を抑制しつつより一層優れた耐摩耗性を発揮し得る新規なカーボンブラックを提供するとともに、カーボンブラックの製造方法およびゴム組成物を提供することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 酸素含有ガス導入口
2 燃焼用バーナー
3 燃料燃焼帯域
4 原料油導入ノズル
5 原料導入および一次反応帯域
6 添加油導入ノズル
7 冷却液導入ノズル
8 添加油導入帯域
9 二次反応帯域