(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】セレンの除去方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/70 20230101AFI20230417BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20230417BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C02F1/70 Z ZAB
C02F1/58 H
B09C1/08
(21)【出願番号】P 2019083697
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】飯島 勝之
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106348419(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106277274(CN,A)
【文献】特開2009-082818(JP,A)
【文献】特開2003-340465(JP,A)
【文献】特開2015-127049(JP,A)
【文献】特開2004-074051(JP,A)
【文献】特開2017-159237(JP,A)
【文献】米国特許第04910010(US,A)
【文献】米国特許第05514279(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-1/78
B09C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンを含む汚染水または汚染土壌と、鉄粉83~50質量%およびFeS粉17~50質量%を混合した混合粉とを接触させることを含
み、
前記FeS粉の平均粒径が20μm以下である、セレンの除去方法。
【請求項2】
前記鉄粉がアトマイズ鉄粉である、請求項1に記載の除去方法。
【請求項3】
前記鉄粉が硫黄を含む、請求項1または2に記載の除去方法。
【請求項4】
前記鉄粉中の硫黄含有量が0.3~5質量%である、請求項3に記載の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染水や汚染土壌などから主にセレンを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレン、ヒ素、鉛、カドミウムおよびクロム等の重金属類、フッ素等の汚染物質は、人体に対して有害であり、健康障害をもたらすことから、これらの汚染物質による環境汚染が問題となっている。これら重金属類は、地下水、河川水、湖沼水、各種工業排水等に含まれており、環境基準、排水基準が定められている。水中の重金属類がこれらの水質基準を超える場合には、水中からこれらの重金属類を除去する必要がある。
【0003】
これらの汚染物質のうち、特に、セレンに汚染された水(以下、「汚染水」と呼ぶことがある)を浄化処理する方法としては、これまでにもいくつか報告されている。例えば、セレン及び重金属類を含む排水、地下水または土壌浸出水を、FeSの他に少なくともFeを含有する純度30~80%の硫化鉄粉末を接触させることによって浄化する方法がある(特許文献1)。
【0004】
また、硫化鉄ろ材(FeS系)を使用して排水を所定の酸濃度で通水し、還元、沈殿剤溶出を同時に行わしめる排水処理法が知られている(特許文献2)。さらに、同じような方法として、セレン含有水に銅、鉄または亜鉛の金属またはこれらの金属の化合物を添加した後、H2S、NaSHまたはNa2Sを供給することにより硫化して沈殿物を生成させることによりセレン含有水を処理する方法も報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4264226号公報
【文献】特開昭48-25966号公報
【文献】特開2006-116469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載の技術で使用する、純度を調整した硫化鉄粉末は、指定濃度における製造が容易でない。これは、仮にFe粉末とFeS粉末を粉末状態のままで混合して液化/混合しても、比重の違いにより分離してしまうため、均一な成分の混合粉を作る事が難しいためである。よって、あらかじめ設定した純度の硫化鉄粉末で汚染水等を浄化する事は煩雑であり、かつ、かなり困難であると考えられる。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の方法は、硫化鉄ろ材と微酸性液の反応で生成する硫酸第一鉄、硫化水素、金属鉄、硫黄などの還元性と沈殿凝集性を有する物質を発生させ、重金属類を除去する方法である。しかし、硫化鉄と微酸を反応させても金属鉄はできず硫化水素が発生するだけであるため、この技術において浄化が進む機構では、主に還元性は硫化水素によって発現していると考えられ、金属鉄の還元を利用する技術ではない。
【0008】
さらに、特許文献3記載の方法では、銅等の金属または金属化合物を添加した後、別の工程としてH2Sガス等を吹き込むことにより供給して硫化を行う必要があり、工程が煩雑となり、その分、設備などのコストもかかると考えられる。
【0009】
本発明は、上記の様な問題点に着目してなされたものであって、その目的は、簡易かつ効率良く、汚染水または汚染土壌からセレンやセレンを含む重金属類などの汚染物質を除去できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討を重ね、下記構成によって上記課題が解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の一局面に係るセレンの除去方法は、セレンを含む汚染水または汚染土壌と、鉄粉98~20質量%および硫化鉄粉2~70質量%を混合した混合粉とを接触させることを含むことを特徴とする。
【0012】
また、前記除去方法において、前記混合粉における混合割合が、鉄粉83~50質量%および硫化鉄粉17~50質量%であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記鉄粉がアトマイズ鉄粉であることが好ましい。
【0014】
また、前記鉄粉が硫黄を含むことが好ましく、さらには、前記鉄粉中の硫黄含有量が0.3~5質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡易かつ効率良く、汚染水または汚染土壌からセレンやセレンを含む重金属類などの汚染物質を除去できる方法を提供できる。さらに、汚染水や汚染土壌がセレンに加えて、他の重金属などを含んでいる場合、それらもまた効率良く除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例における、鉄粉単独条件と鉄粉+FeS粉条件との比較をまとめたグラフである。
【
図2】
図2は、実施例における、FeS粉単独条件と鉄粉+FeS粉条件との比較をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、少なくともセレンに汚染され、さらに場合によってヒ素、鉛、カドミウム、フッ素およびクロムの重金属類に汚染された、地下水、河川水、湖沼水、各種工業排水等から前記汚染物質を効率よく除去する方法に関する。尚、本発明において「セレン、ヒ素、鉛、カドミウムおよびクロムの重金属類」とは、セレン、ヒ素、鉛、カドミウムおよびクロムの単体金属、化合物(特に酸化物)、塩およびイオンを含む趣旨である。
【0018】
本発明者は、鋭意検討した結果、セレンを含む汚染水または汚染土壌と、鉄粉98~20質量%および硫化鉄粉2~70質量%を混合した混合粉とを接触させることにより、煩雑な工程を経ることなく、汚染水や汚染土壌中のセレン濃度を大きく低下させることができることを見出した。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、より具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0020】
(混合粉)
本実施形態において、セレンを除去するために使用する混合粉は、鉄(Fe)粉および硫化鉄(FeS)粉を混合した混合粉である。
【0021】
本実施形態で使用する鉄粉は、その種類に特に限定は無く、工業的に入手可能なあらゆる鉄粉を用いることができる。鉄粉の種類としては、例えば、アトマイズ鉄粉、鋳鉄粉およびスポンジ鉄粉、並びにこれらの鉄基完全合金粉および部分合金化粉などが挙げられる。これらの中でも、大量生産が可能であり、成分や粒径を揃えることができるアトマイズ法によって製造されたアトマイズ鉄粉が好ましい。
【0022】
本実施形態で用いる鉄粉は、その粒径(平均粒径)が小さければ小さいほど表面積(比表面積)が増大し、重金属類の除去性能が増大する。一方、鉄粉の粒径が大きいほど、歩留まりが高くなって取り扱い性も向上するのであるが、重金属類の除去速度が低下することになる。こうしたことから、原料の鉄粉の好ましい平均粒径は、1000μm以下(より好ましくは100μm以下)である。なお、本明細書における「鉄粉の平均粒径」とは、JIS Z 8801(2006年)に規定されるふるい(篩)を用いた乾式ふるい分け試験によって得られた粒度分布において、累積ふるい上百分率、もしくは累積ふるい下百分率が50質量%となる粒子径をいう。
【0023】
前記鉄粉は、硫黄(S)を含んでいてもよい。その理由としては、まず汚染水からヒ素やセレン等の重金属類を除去する性能を向上させる上で有用である。即ち、鉄粉に所定量のSを含有させることによって、汚染水からセレン等の重金属類を除去する性能が向上することを見出し、その技術的意義が認められたので、同一出願人によって先に出願している(特開2006-312163号公報、同2008一43921号公報、同2009-82818号公報)。こうした鉄粉を処理剤の原料として用いることによって、重金属類への除去性能がより向上することになる。
【0024】
セレン、ヒ素、鉛、カドミウムおよびクロム等の重金属類を除去する観点から、本実施形態の混合粉に含まれる鉄粉中の硫黄含有量は、0.3質量%以上とすることが好ましい。さらには、前記硫黄含有量は、より好ましくは0.6質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上とすることが望ましい。一方で、硫黄を鉄粉中で安定して含有させることが難しいため、前記硫黄含有量は、5質量%以下とすることが好ましい。より好ましい上限値は、3質量%以下である。なお、本実施形態において「硫黄含有量」とは、燃焼法による炭素・硫黄分析装置を用いて測定される値である。
【0025】
鉄粉に硫黄を含有させることによって、重金属類の除去性能が向上する理由としては、まず、鉄粉中に含まれる硫黄の作用で、鉄粉表面の酸化が促進される(鉄のアノード反応:Fe→Fe2++2e-)。そして、該鉄粉表面で効率良く生成する鉄イオン、急速に成長する鉄の酸化物や水酸化物によって、汚染中に金属イオンや化合物イオンの形態で存在する重金属類の鉄粉への吸着が促進され、それに伴って重金属類の除去が効率良く進行するためと考えられる。
【0026】
さらに本実施形態の鉄粉は、リン(P)を含んでいてもよい。適量のリン(P)を含有する鉄粉を利用することによって、汚染水や汚染土壌中のセレン、ヒ素、カドミウム、鉛およびクロムの重金属類を効率よく除去することができると考えられる。リンを含有する鉄粉を使用することによって、重金属類の除去性能が向上する理由は、上述した硫黄を添加した場合と同様であると考えられる(同一出願人による特許第5046853号公報など参照)。
【0027】
前記鉄粉がリンを含む場合、セレン、ヒ素、鉛、カドミウムおよびクロム等の重金属類を除去する観点から、その含有量は、0.1質量%以上とすることが好ましい。さらには、前記リン含有量は、より好ましくは3質量%以上とすることが望ましい。一方で、リンを鉄粉中に安定して含有させることが難しいため、前記リン含有量は、5質量%以下とすることが好ましい。より好ましい上限値は、3質量%以下である。
【0028】
次に、本実施形態の混合粉に使用される硫化鉄粉としては、その種類に特に限定は無く、工業的に入手可能な硫化鉄粉や、反応性を向上させるために硫化鉄を粉砕して比表面積を高めた硫化鉄粉等を使用することが可能である。
【0029】
硫化鉄粉のサイズ(平均粒径)についても特に限定はされないが、例えば、比表面積を高めて反応性を高めるという観点から、原料の硫化鉄粉の好ましい平均粒径は、20μm以下(より好ましくは10.3μm以下)である。
【0030】
なお、上記平均粒径は、フェレ径平均の値を意味し、後述の実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0031】
本実施形態では、鉄粉と硫化鉄粉を別々の粉体として混合した混合粉を使用することが大きな特徴の一つである。この点、上記特許文献1記載の技術では、Feなどを不純物として含むFeS粉末を使用することでセレンが浄化できる事を示している。FeおよびFeSは還元性を有するため、液中のセレンが4価もしくは単体セレン(0価)まで還元され、生成された水酸化鉄のコロイド中に4価のセレンもしくは単体セレンが取り込まれ共沈され水中から分離されるためである。しかし、この技術ではFeとFeSが永続的に接触しているため、水溶液中に投入された段階で既に一種の電池を形成している。つまり、FeとFeSは溶けて一体化されていると考えられる。このような状態でFeを含むFeS粉末において純度を指定濃度に調整することは容易ではない。
【0032】
しかし、本実施形態では、FeとFeSは一体化されず混合物として添加されているため、永続的に接触しているわけではない。そのため、セレン汚染水中に添加され、そこで互いに接触して初めて電子の授受が容易となるはずである。しかし、本発明者が研究を重ねたところ、永続的な接触がないFeとFeSの混合粉体を添加したとしても、それぞれを単体で用いるよりも高いセレン浄化性能を示すことが明らかになった。加えてさらなる検討で、FeとFeSの混合割合も重要である事を見いだし、これにより、従来の方法と比べて、容易かつ設計の自由度の高いセレン浄化が可能となった。
【0033】
すなわち、本実施形態の混合粉は、上述したような鉄粉および硫化鉄粉を、鉄粉98~20質量%および硫化鉄粉2~70質量%の混合割合で混合させた混合粉である。このような割合で鉄粉および硫化鉄粉を混合させた混合粉を使用することによって、効率よく、浄化対照とする汚染水や汚染土壌中のセレン濃度を低下させることができる。
【0034】
さらに、コストや安全性を考慮すると、より好ましい前記混合割合は、鉄粉83~50質量%および硫化鉄粉17~50質量%である。コスト面では、仮にFeSとFeを混合して繰り返し使用する場合、Feは磁石で回収して繰り返し利用しやすいが、FeSは繰り返しのたびに添加しなければならず、FeS使用量が多くなるとコストが高くなると考えられるためである。安全性については、燃焼する場合に、酸化硫黄(SOx)を発生させ有害となるため、使用量は制限することが好ましい。
【0035】
(汚染水および汚染土壌)
本実施形態で浄化する(セレンを除去する)汚染水又は汚染土壌は少なくともセレンを含む。また、セレンに加えて、重金属や重金属含有化合物をさらに含んでもよい。ここで、「重金属」とは、25℃における比重が4.5以上の金属種である。具体的には、セレン以外に、鉛、ヒ素、クロム、フッ素などが挙げられる。前記重金属化合物としては、例えば、硝酸カドミウム、ヒ酸水素ナトリウム、セレン酸ナトリウム、二クロム酸カリウム等が挙げられる。上記重金属イオン又は重金属化合物としては、例えばカドミウムイオン(Cd2+)、ヒ酸イオン(AsO4
3-)、セレン酸イオン(SeO4
2-)、鉛イオン(Pb2+)、クロムイオン(Cr6+)等が挙げられる。
【0036】
本実施形態において汚染水とは、上述したようなセレン等に汚染されている水や地下水等をさす。これらはそのまま浄化処理に供してもよいし、浄化処理を行う前に、必要に応じてフィルターろ過などを行ってもよい。
【0037】
(セレンの除去処理)
本実施形態のセレン除去方法は、上述したような混合粉を、セレンの除去を所望する汚染水、または、汚染土壌に接触させる工程(接触工程)を含む。
【0038】
混合粉を接触させる手段については特に限定はない。例えば、汚染水の場合は、セレン除去対象とする汚染水へ本実施形態の混合粉を投入し攪拌を行うこと等によって接触させて、汚染水に含まれるセレンを除去することができる。当該汚染水における処理開始時のpHは、特に限定はされないが、例えば、pH3~9.5程度に調整することが好ましい。pHが3より小さいと酸と鉄粉が反応し水素が発生する。発生した水素は鉄表面の重金属類をはがしてしまうので、適切でない。一方で、アルカリ濃度が高くなる(ph>9.5)と鉄表面に水酸化鉄の膜ができるため、Feによる重金属類浄化性能が失われるおそれがあるため好ましくない。
【0039】
汚染土壌の場合は、土壌中に存在する水分(化学水、吸湿水、毛管水、重力水、雨水等)へ土壌中のセレン等が溶出するので、この土壌に含まれる溶出液を抽出して、その溶液について、前記汚染水と同様に処理することができる。なお、汚染土壌が水分を含まない場合は、汚染土壌に水を添加し汚染土壌中の水溶性成分を溶出した溶液を作ることで同様に処理ができる。
【0040】
なお、汚染水や汚染土壌からの溶出液に投入する混合粉の量には特に制限はなく、汚染水や汚染土壌の量や汚染の程度等によって適宜設定すればよい。通常、混合粉を基準とした接触量の下限としては、汚染水又は汚染土壌溶出液1000mLに対し、0.1gが好ましく、0.2gがより好ましい。一方、上記接触量の上限としては、100gが好ましく、10gがより好ましく、1gがさらに好ましい。上記接触量が0.1g以上であれば、混合粉の性能のバラツキによる除去効果のバラツキを抑制できる。一方、上記接触量が10g以下であれば、効果が飽和することもなく混合粉の量に見合った効果が得られる(コストパフォーマンスの向上)。
【0041】
また、前記接触工程は、0~60℃の温度および大気圧下で行われる。接触工程の温度の好ましい下限値は5℃以上であり、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、さらに22℃以上であることがより好ましい。また、好ましい上限値は40℃以下であり、より好ましくは35℃以下、さらに好ましくは30℃以下であり、さらに27℃以下であることがより好ましい。気圧については、天候(晴れ/雨;高気圧/低気圧)等によって多少変動はするが、これらによる気圧変化も本明細書における「大気圧」に含まれる。
【0042】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0043】
本発明の一局面に係るセレンの除去方法は、セレンを含む汚染水または汚染土壌と、鉄粉98~20質量%および硫化鉄粉2~70質量%を混合した混合粉とを接触させることを含むことを特徴とする。このような構成により、簡易かつ効率良く、汚染水または汚染土壌からセレンやセレンを含む重金属類などの汚染物質を除去できる方法を提供することができる。
【0044】
また、前記除去方法において、前記混合粉における混合割合が、鉄粉83~50質量%および硫化鉄粉17~50質量%であることがより好ましい。それにより、上述したような効果をより確実に得ることができると考えられる。
【0045】
さらに、前記鉄粉がアトマイズ鉄粉であることが好ましい。それにより、鉄粉の成分や粒径を揃えることがより容易になるという利点がある。そして、成分や粒度の安定化は、浄化性能の安定化につながる。
【0046】
また、前記鉄粉が硫黄を含むことが好ましく、さらには、前記鉄粉中の硫黄含有量が0.3~5質量%であることが好ましい。それにより、セレン等の重金属除去機能がより向上すると考えられる。
【0047】
以下では、本発明を、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
【実施例】
【0048】
まず、本試験で使用した各材料は以下の通りである:
〈鉄粉〉
原料鉄粉として、水アトマイズ法で製造した下記鉄粉A~Cを使用した。
・鉄粉A:鉄合金粉(アトマイズ鉄粉、平均粒径70μm、硫黄含有量1質量%)
・鉄粉B:鉄合金粉(アトマイズ鉄粉、平均粒径70μm、硫黄含有量0.3質量%)
・鉄粉C:純鉄粉(アトマイズ鉄粉、平均粒径70μm、硫黄含有量0.009質量%)
【0049】
〈硫化鉄〉
硫化鉄源は、和光純薬(株)より試薬グレードの硫化鉄を購入し、それを乳鉢で粉砕した硫化鉄粉を使用した。
【0050】
本試験で用いた硫化鉄の粒径は次の通りである。プレパラートに少量の硫化鉄をとり、ヘキサンを数滴滴下しスパチュラ等で粒子が均等になるように分散させた後にヘキサンを乾燥させて観察試料を作製し、NIKON OPTIPHOT/WRAYCAM(CCDカメラつき光学顕微鏡)で透過観察した結果をフリーソフトImageJで粒子径を観察すると、フェレ径平均=10.3μm、面積半径平均=6.3μmであった。
【0051】
〈硫黄〉
細井化学工業(株)より微粉硫黄「S 200メッシュ」を購入し、それを硫黄源として使用した。
【0052】
〈セレン〉
セレン源としては、和光純薬(株)より購入したセレン酸ナトリウムを用いた。
【0053】
(試験例1~38)
内容積500mLのポリエチレン製容器に、1mg/Lに調整したセレン酸ナトリウム溶液(脱イオン水で調整)250mLを分取し、表1に示す割合で鉄粉、または鉄粉とFeSとの混合粉を添加した。なお、pHは特に調整せずに成り行きとした。pH測定には、株式会社堀場製作所製のpH計(本体型式=D-52、pH電極型式=9615S)を用いた。
【0054】
その後、25℃の室温下で水平振とう機により、回転数140rpm、振とう巾4cmで24時間振とうを行った。その後、攪拌を止め、pH測定の後、試験水は、孔径0.45μmのメンブレンフィルタで吸引濾過し、溶液中の残留セレン濃度(mg/L)を水素化合物発生原子吸光法にて測定した。
【0055】
結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
(試験例39~43)
表2に示す割合で鉄粉、または鉄粉とSとの混合粉を添加した以外は、試験例1と同様にして試験を行った。結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
(考察)
表1および表2の結果より、FeS粉を添加していない鉄粉単独の条件(試験例8、16、24、34および37)や鉄粉を添加していないFeS粉単独の条件(試験例25~30)に対し、FeS粉と鉄粉を両方混ぜて混合粉として添加する事でSe濃度が低下する傾向があることが確認できた。これは、鉄粉単独条件と鉄粉+FeS粉条件との比較をまとめた
図1、FeS粉単独条件と鉄粉+FeS粉条件との比較をまとめた
図2のグラフからも明らかである。
【0060】
一方、FeSのかわりに類似化合物であるSを添加した条件(試験例39~43)ではSe残留濃度が高く、Sに比べてFeSの優秀性が示された。
【0061】
また、鉄粉種(鉄粉A~C)が代わっても、それぞれの鉄粉種においてFeSを添加する事で残留Se濃度をより低下できることが可能であることも確認できた。