(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】データ収集方法、学習方法、データ収集システムおよび学習システム
(51)【国際特許分類】
H04Q 9/00 20060101AFI20230417BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20230417BHJP
G03F 7/20 20060101ALN20230417BHJP
H01L 21/677 20060101ALN20230417BHJP
【FI】
H04Q9/00 311K
H04Q9/00 301Z
H01L21/02 Z
G03F7/20 521
G03F7/20 505
H01L21/68 A
(21)【出願番号】P 2019097648
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】臼本 宏昭
【審査官】木村 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-147612(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092258(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04Q 9/00
H01L 21/02
G03F 7/20
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の状態を検知したセンシングデータを
複数の前記装置から収集
し、収集した前記センシングデータに基づいて学習モデルを構築する学習方法であって、
複数の前記装置において、
a)前記装置から入力される複数の前記センシングデータを監視し、前記センシングデータに変化があるか否かを判断する工程と、
b)前記工程a)において変化があると判断された場合に、所定期間における前記センシングデータを保存する工程と、
を行うとともに、
複数の前記装置と通信可能な学習部において、
p)複数の前記装置から、前記工程b)により保存された前記センシングデータを収集する工程と、
q)前記工程p)において収集した前記センシングデータを用いて機械学習を行い、前記学習モデルを構築する工程と、
を行い、
前記所定期間は、変化発生時点直前の一定期間、前記変化発生時点直後の一定期間、あるいは、前記変化発生時点の前後を含む一定期間のいずれかであ
り、
前記学習モデルは、前記センシングデータを入力とし、エラー発生確率またはエラー発生原因を出力とする、学習方法。
【請求項2】
請求項1に記載の
学習方法であって、
前記工程a)において監視する前記センシングデータは、前記工程a)において入力される前記センシングデータの種類の一部または全部である、
学習方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の
学習方法であって、
前記工程a)において監視する前記センシングデータは、前記装置の音または振動に関する前記センシングデータを含む、
学習方法。
【請求項4】
装置の状態変化に関するセンシングデータを収集し、収集した前記センシングデータに基づいて学習モデルを構築する学習システムであって、
複数のデータ収集システムと、
前記データ収集システムが収集した前記センシングデータに基づいて機械学習を行い、前記学習モデルを構築する学習部と、
を有し、
前記学習部は、複数の前記データ収集システムとネットワークを介して通信可能であり、
前記データ収集システムは、それぞれ、
前記装置と、
前記装置の状態変化に関するセンシングデータを収集するデータ収集部と、
を有し、
前記データ収集部は、
前記装置から入力された前記センシングデータを監視し、前記センシングデータに所定の変化があるか否かを判断する監視部と、
前記監視部が前記所定の変化があると判断した場合に、所定期間における前記センシングデータを保存する記憶部と、
を有し、
前記所定期間は、変化発生時点直前の一定期間、前記変化発生時点直後の一定期間、あるいは、前記変化発生時点の前後を含む一定期間のいずれかであり、
前記学習モデルは、前記センシングデータを入力とし、エラー発生確率またはエラー発生原因を出力とする、学習システム。
【請求項5】
請求項4に記載の学習システムであって、
前記監視部が監視する前記センシングデータは、前記データ収集部に入力される前記センシングデータの種類の一部または全部である、学習システム。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の学習システムであって、
前記監視部が監視する前記センシングデータは、前記装置の音または振動に関する前記センシングデータを含む、学習システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な装置におけるセンシングデータを用いて、異常発生の予防または検知を行うためのデータ収集方法、学習方法、データ収集システムおよび学習システムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な装置において、装置を長期使用すると、部品の経年劣化や、粉塵や異物の侵入等の原因によって装置の一部に異常が発生する。また、その他の原因で装置に故障が生じる場合もある。これらのような異常が発生した場合、装置のパフォーマンスの大幅な低下が生じる虞がある。
【0003】
発生した異常の種類によって、異常発生前後における装置の各部の挙動はおおよそ決まったものとなる。
【0004】
例えば、特許文献1には、描画対象である基板を移動させつつ、感光材料が塗布された基板の主面に対して空間変調された光を照射してパターンを描画する描画装置が記載されている。特許文献1に記載の描画装置は、基板を水平姿勢で保持するステージと、ステージを移動方向に沿って案内する一対の移動機構(リニアモータおよびガイドレール)とを有している。
【0005】
このような装置において、例えば、ガイドレール周辺に粉塵が蓄積した場合、移動機構において振動が発生する。また、例えば、リニアモータが故障した場合、同様に、移動機構において振動が発生する。いずれの場合にも振動が発生するが、振動の発生する場所や振動の仕方(波形、周波数、大きさ等)が異なる。
【0006】
これらの例では、生じる現象(振動)は同じであるものの、認知可能な異常の態様(振動の仕方)が異なるため、原因と結果の紐付けを行うことができれば、発生した振動の状態から、異常が生じた箇所を特定することができる。したがって、振動センサの検出データ等のセンシングデータと異常の原因との関係を学習すれば、異常の発生を早期に検出したり、異常の原因を容易に発見したりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、経年劣化や故障は滅多に起きないため、異常の発生頻度は非常に低い。したがって、原因と結果の紐付けを行うためのデータを収集するために、データの記録を行うと、異常が発生しない期間の方が異常発生に関わる期間よりも長いため、データの記憶に多くの記憶容量を必要とする。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、装置の状態変化に関するセンシングデータを効率よく収集するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、装置の状態を検知したセンシングデータを複数の前記装置から収集し、収集した前記センシングデータに基づいて学習モデルを構築する学習方法であって、複数の前記装置において、a)前記装置から入力される複数の前記センシングデータを監視し、前記センシングデータに変化があるか否かを判断する工程と、b)前記工程a)において変化があると判断された場合に、所定期間における前記センシングデータを保存する工程と、を行うとともに、複数の前記装置と通信可能な学習部において、p)複数の前記装置から、前記工程b)により保存された前記センシングデータを収集する工程と、q)前記工程p)において収集した前記センシングデータを用いて機械学習を行い、前記学習モデルを構築する工程と、を行い、前記所定期間は、変化発生時点直前の一定期間、前記変化発生時点直後の一定期間、あるいは、前記変化発生時点の前後を含む一定期間のいずれかであり、前記学習モデルは、前記センシングデータを入力とし、エラー発生確率またはエラー発生原因を出力とする。
【0011】
本願の第2発明は、第1発明の学習方法であって、前記工程a)において監視する前記センシングデータは、前記工程a)において入力される前記センシングデータの種類の一部または全部である。
【0012】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の学習方法であって、前記工程a)において監視する前記センシングデータは、前記装置の音または振動に関する前記センシングデータを含む。
【0013】
本願の第4発明は、装置の状態変化に関するセンシングデータを収集し、収集した前記センシングデータに基づいて学習モデルを構築する学習システムであって、複数のデータ収集システムと、前記データ収集システムが収集した前記センシングデータに基づいて機械学習を行い、前記学習モデルを構築する学習部と、を有し、前記学習部は、複数の前記データ収集システムとネットワークを介して通信可能であり、前記データ収集システムは、それぞれ、前記装置と、前記装置の状態変化に関するセンシングデータを収集するデータ収集部と、を有し、前記データ収集部は、前記装置から入力された前記センシングデータを監視し、前記センシングデータに所定の変化があるか否かを判断する監視部と、前記監視部が前記所定の変化があると判断した場合に、所定期間における前記センシングデータを保存する記憶部と、を有し、前記所定期間は、変化発生時点直前の一定期間、前記変化発生時点直後の一定期間、あるいは、前記変化発生時点の前後を含む一定期間のいずれかであり、前記学習モデルは、前記センシングデータを入力とし、エラー発生確率またはエラー発生原因を出力とする。
【0014】
本願の第5発明は、第4発明の学習システムであって、前記監視部が監視する前記センシングデータは、前記データ収集部に入力される前記センシングデータの種類の一部または全部である。
【0015】
本願の第6発明は、第4発明または第5発明の学習システムであって、前記監視部が監視する前記センシングデータは、前記装置の音または振動に関する前記センシングデータを含む。
【発明の効果】
【0019】
本願の第1発明から第6発明によれば、センシングデータを変化発生時点の前後の所定の記録期間のみ一時的に保存し、当該変化の原因の解明に用いることができる。また、複数の装置と学習部とをネットワークを介して通信可能とすることにより、複数の装置におけるセンシングデータが学習部に集約される。したがって、装置における異常の発生頻度が低い場合であっても、装置の状態変化に関するセンシングデータを効率よく収集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る学習システムの構成を示したブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る描画装置の斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る描画装置の構成を示した概略上面図である。
【
図4】第1実施形態に係る学習システムの電気的接続を示したブロック図である。
【
図5】第1実施形態に係るデータ収集システムにおける学習処理の流れを示したフローチャートである。
【
図6】第1実施形態に係る学習装置における学習処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
<1.学習システムの構成>
本発明の一実施形態に係るデータ収集システム1を有する学習システム2について、
図1を参照しつつ説明する。
図1は、学習システム2の構成を示したブロック図である。このデータ収集システム1は、各装置3の状態を検知したセンシングデータを収集するためのシステムである。また、学習システム2は、データ収集システム1によって収集したセンシングデータに基づいて学習モデルMを構築するためのシステムである。
【0025】
学習システム2は、複数の描画装置3と、学習装置4とを有する。本実施形態における描画装置3は、センシングデータを収集する対象としての対象装置の一例である。また、同時に、描画装置3は、対象装置と、後述のデータ収集部31とを含むデータ収集システム1を構成している。
【0026】
図1に示すように、複数の描画装置3は、複数のセンサ70と、制御部30と、通信部300と、とを有する。
【0027】
複数のセンサ70は、描画装置3の各部に設けられ、描画装置3の各部の圧力、加速度、音、振動等の状態をモニタリングするためのセンサである。各センサ70において検出された検出信号(以下では、「センシングデータ」と称する)は、制御部30に入力される。
【0028】
制御部30は、描画装置3の各部を制御するとともに、各センサ70が検出した描画装置3の状態変化に関するセンシングデータを収集するデータ収集システムの役割を果たす。制御部30は、データ収集部31、エラー検知部32および動作制御部33を有する。データ収集部31は、描画装置3の状態変化に関するセンシングデータを収集する。エラー検知部32は、センシングデータに基づいてエラー発生確率またはエラー発生原因を出力する。動作制御部33は、描画装置3の各部を制御する。制御部30を含めた描画装置3の詳細な構成については、後述する。
【0029】
通信部300は、制御部30をインターネット100と通信する。この学習システム2では、通信部300は、インターネット100を介して、制御部30と学習装置4との間でデータの送受信を行う。
【0030】
学習装置4は、通信部41、データ記憶部42および学習部43を有する。通信部41は、インターネット100を介して複数の描画装置3のそれぞれとデータの送受信を行う。データ記憶部42は、描画装置3から送信され、通信部41を介して受信したセンシングデータを一時的に記憶する。学習部43は、センシングデータに基づいて機械学習を行い、学習モデルMを構築する。学習装置4の詳細な構成については、後述する。
【0031】
<2.描画装置および学習装置の詳細な構成>
次に、描画装置3について、
図2ないし
図5を参照しつつ説明する。
図2は、描画装置3の斜視図である。
図3は、描画装置3の構成を示した概略上面図である。
図4は、描画装置3の制御ブロック図である。
【0032】
描画装置3は、感光材料が表面に塗布された半導体基板やガラス基板等の基板Wの表面に対して、空間変調された光を照射してパターンを描画する、直接描画装置である。なお、基板Wは、基層のみからなる単層基板であってもよく、基層の少なくとも一方側の表面に機能層が積層された積層基板であってもよい。以下では、描画装置3が積層基板である基板Wの表面にパターンを描画する場合について説明する。
【0033】
描画装置3は、
図1に示すように、基台51と、ステージ移動機構52と、フレーム53と、描画処理部54と、制御部30とを有する。
【0034】
基台51は、ステージ移動機構52、フレーム53および描画処理部54を安定的に保持するための台である。基台51の下面には、4つの脚部511および2つのダンパ512が設けられている。なお、
図2中、脚部511のうち2つと、ダンパ512のうちの1つのみが図示されている。脚部511およびダンパ512の長さは調節可能である。このため、基台51を水平に設置することができる。
【0035】
ステージ移動機構52は、基板Wを水平姿勢で保持するステージ60の水平方向(主走査方向および副走査方向)の位置を移動させる装置である。ステージ移動機構52は、ステージ60と、ベースプレート61と、主走査機構62と、支持プレート63と、副走査機構64と、回転機構65とを有する。
【0036】
ステージ60は、その上面に基板Wを載置する。本実施形態のステージ60は、平板状であり、上面が基板Wを保持する保持面となっている。ステージ60の保持面には、基板Wを保持するために、例えば、基板Wの端部を保持するチャックピンや、基板Wの裏面を吸着保持する真空吸引孔等の保持機構が設けられる。
【0037】
ベースプレート61は、基台51上において、主走査機構62によって主走査方向に移動可能に支持されている。主走査機構62は、一対のリニアモータ621と、一対のエアガイド622とを有する。
【0038】
一対のリニアモータ621はそれぞれ、固定子621aおよび移動子621bを有する。固定子621aは、基台51の上面に敷設され、主走査方向に延びる。2つの固定子621aはそれぞれ、基台51の副走査方向の両端部付近に配置される。移動子621bは、エアガイド622の後述するエアベアリング622bを介してベースプレート61に固定される。これにより、移動子621bは、ベースプレート61とともに主走査方向に移動する。
【0039】
一対のエアガイド622はそれぞれ、ガイドレール622aおよびエアベアリング622bを有する。ガイドレール622aは、基台51の上面に敷設され、主走査方向に延びる。1対のガイドレール622aはそれぞれ、一対の固定子621aの副走査方向内側に沿って配置される。
【0040】
一対のエアベアリング622bはそれぞれ、ベースプレート61の副走査方向の両端部に固定されている。また、一対の移動子621bがそれぞれ、一対のエアベアリング622bに固定されている。エアベアリング622bは、ガイドレール622aの上方に配置される。エアベアリング622bの下面には、ガイドレール622aの上面に向かって気体を吐出するためのエア供給孔が設けられている。ステージ移動機構52の駆動時には、ユーティリティ設備からエアベアリング622bに常時エアが供給される。これにより、エアベアリング622bの下面に設けられたエア供給孔からガイドレール622aに向けて加圧気体が供給される。その結果、エアベアリング622bは、ガイドレール622a上に非接触で浮上支持される。このような構成により、リニアモータ621を動作させると、ベースプレート61は、エアガイド622に非接触で案内された状態で主走査方向に沿って低摩擦で滑らかに移動することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、移動子621bおよびエアベアリング622bはベースプレート61の側方に配置されているが、本発明はこの限りではない。移動子621bおよびエアベアリング622bは、ベースプレート61の下面に配置されていてもよい。
【0042】
支持プレート63は、ベースプレート61上において、副走査機構64によって副走査方向に移動可能に支持されている。副走査機構64は、リニアモータ641と、一対のガイド642とを有する。
【0043】
リニアモータ641は、固定子641aおよび移動子641bを有する。固定子641aは、ベースプレート61の上面に敷設され、副走査方向に延びる。固定子641aは、ベースプレート61の主走査方向の略中央に配置される。移動子641bは、支持プレート63の下面に固定され、支持プレート63とともに副走査方向に移動する。
【0044】
一対のガイド642はそれぞれ、ガイドレール642aおよびボールベアリング642bを有する。ガイドレール642aは、ベースプレート61の上面に敷設され、副走査方向に延びる。一対のガイドレール642aは、固定子641aの主走査方向の両側に配置される。一対のボールベアリング642bは、支持プレート63の下面に固定される。一対のボールベアリング642bは、ガイドレール642aに沿って移動可能に配置される。これにより、支持プレート63がガイドレール642aに沿って副走査方向に案内される。なお、本実施形態のガイド642には、ボールベアリングを用いたが、その他のベアリング機構が用いられてもよい。このような構成により、リニアモータ641を動作させると、支持プレート63は、ガイド642に案内された状態で副走査方向に沿って移動することができる。
【0045】
回転機構65は、支持プレート63上にステージ60を回転可能に支持する。回転機構65には、例えば、モータが用いられる。
【0046】
このように、ステージ60は、主走査機構62、副走査機構64および回転機構65によって、主走査方向および副走査方向に移動可能であるとともに、その回転角度を調整可能である。
【0047】
フレーム53は、描画処理部54を基台51の上方において保持する。フレーム53は、2つの脚部531と、ヘッド固定部532とを有する。2つの脚部531はそれぞれ、基台51の副走査方向の端部から上方へ向かって柱状に延びる。ヘッド固定部532は、1つの脚部531の上端部同士を副走査方向に繋ぐ。
【0048】
図3に示すように、描画処理部54は、2つの光学ヘッド541と、照明光学系542と、レーザ発振器543と、レーザ駆動部544とを有する。2つの光学ヘッド541は、ヘッド固定部532に固定される。照明光学系542、レーザ発振器543およびレーザ駆動部544は、例えば、フレーム53のヘッド固定部532の内部の空間に収容される。
【0049】
光学ヘッド541は、照明光学系542を介してレーザ発振器543に接続されている。また、レーザ発振器543には、レーザ発振器543の駆動を行うレーザ駆動部544が接続されている。レーザ駆動部544を動作させると、レーザ発振器543からパルス光が出射され、当該パルス光が照明光学系542を介して光学ヘッド541の内部に導入される。
【0050】
光学ヘッド541の内部には、光を空間変調する空間光変調器や、光学ヘッド541の内部に導入されたパルス光を空間光変調器を介して基板Wの上面に照射する光学系などが設けられている。空間光変調器としては、たとえば、回折格子型の空間光変調器であるGLV(登録商標:Grating Light Valve)等が採用される。光学ヘッド541の内部に導入されたパルス光は、空間光変調器等によって所定のパターン形状に成形された光束として基板Wの上面に照射される。これにより、基板W上のレジスト等の感光層を露光し、基板Wの表面にパターンが描画される。
【0051】
描画処理を行う際には、光学ヘッド541による露光と、ステージ移動機構52による基板Wの移動とを繰り返して行う。具体的には、露光と、露光幅分の基板Wの副走査方向の移動とを繰り返して副走査方向に延びる領域の描画を行った後、ステージ移動機構52が基板Wを主走査方向へと移動する。このように、副走査方向に延びる領域の描画と、主走査方向の移動とを繰り返して、基板Wの描画領域全体にパターンを形成する。
【0052】
また、描画装置3は、
図4に示すように、描画装置3の各部に設けられ、描画装置3の状態変化に関するセンシングデータを収集する複数のセンサ70を有する。複数のセンサ70には、一対の圧力センサ71、一対のトルク検出センサ72、一対の加速度センサ73、音センサ74および複数の振動センサ75が含まれる。
【0053】
圧力センサ71は、ガイドレール622aとエアベアリング622bとの上下方向の間隙における気圧を計測する。なお、圧力センサ71は、エアベアリング622bの内部において気体供給孔付近の気圧を計測するものであってもよい。トルク検出センサ72は、リニアモータ621におけるモータトルクを計測する。加速度センサ73は、リニアモータ621の移動子621bの加速度を計測する。音センサ74は、例えば、フレーム53のヘッド固定部532の下面に取り付けられ、描画装置3の周囲における音データを取得する。振動センサ75は、描画装置3の各部における振動量を計測する。振動センサ75は、例えば、基台51の上面と、ベースプレート61と、フレーム53のヘッド固定部532との3箇所に設けられる。
【0054】
制御部30は、
図2および
図4に示すように、描画装置3の各部と電気的に接続される。
図2中に概念的に示したように、制御部30は、CPU等の演算処理部301、RAM等のメモリ302、およびハードディスクドライブ等の記憶部303を有するコンピュータにより構成されている。制御部30は、記憶部303に記憶されたコンピュータプログラムPやデータDを、メモリ302に読み出し、当該コンピュータプログラムPおよびデータDに基づいて、演算処理部301が演算処理を行うことにより、描画装置3内の各部の動作を制御したり、データ収集処理を行ったりする。
【0055】
図1および
図4に示すように、制御部30は、ソフトウェア上で実現される処理部として、データ収集部31、エラー検知部32および動作制御部33を有する。また、制御部30は、データ入力部34を備える。データ入力部34は、各センサ70からのセンシングデータが入力される入力ポートである。制御部30の各部は、通信部300を介して外部とデータの送受信を行うことができる。
【0056】
センサ70から入力されるセンシングデータには、圧力センサ71が検出した圧力データS71、トルク検出センサ72が検出したトルクデータS72、加速度センサ73が検出した加速度データS73、音センサ74が検出した音データS74、および振動センサ75が検出した振動データS75を含む。
【0057】
データ収集部31は、描画装置3の状態変化に関するセンシングデータを収集する。具体的には、データ収集部31は、監視部311と、記憶部312とを有する。データ収集部31には、データ入力部34を介して各センサ70において検出されたセンシングデータが入力される。
【0058】
監視部311は、入力されたセンシングデータの少なくとも1つを監視し、監視したデータに所定の変化があるか否かを判断する。本実施形態では、監視部311は、音データS74および振動データS75を監視し、変化が発生したか否かを判断する。例えば、監視部311は、音データS74に含まれる音の周波数を解析し、通常状態に含まれる周波数以外の周波数成分が所定の閾値よりも大きい場合に異常状態が生じたと判断する。また、監視部311は、振動データS75の振動量が所定の閾値よりも大きい場合や、振動データS75において振動量が急に変動した場合などに、変化が発生したと判断する。なお、監視部311は、入力されたセンシングデータの一部のみを監視してもよいし、入力されたセンシングデータのすべてを監視してもよい。
【0059】
記憶部312は、各センサ70から入力されたセンシングデータを一定の期間記憶する。ここで、以下では、監視部311が変化を発生したと判断した変化発生時点の直前または直後を含む当該一定の期間を、記録期間と称する。本実施形態では、記憶部312は、監視部311が変化が発生したと判断した変化発生時点の前後を含む一定期間におけるセンシングデータを記憶する。
【0060】
本実施形態では、記録期間は、変化発生時点の前後を含む一定期間であるが、本発明はこの限りではない。記録期間は、変化発生時点直前の一定期間であってもよいし、変化発生時点直後の一定期間であってもよい。
【0061】
記憶部312は、通常、一定期間分のセンシングデータを順次更新しながら記憶している。当該一定期間が例えば30分である場合、記憶部312は、現在よりも30分前の時点から、現在までの30分間のセンシングデータを、常に更新しながら記憶する。そして、監視部311が変化が発生したと判断すると、変化発生前30分前から変化発生時点までのセンシングデータの更新を停止し、別途、変化発生時点から、変化発生後10分後までの期間のセンシングデータを記憶する。このようにして、記憶部312は、変化発生時点を含む40分間の記録期間のセンシングデータを記憶する。
【0062】
監視部311が変化が発生したと判断した後、記憶部312による記録期間のセンシングデータの記憶が完了すると、データ収集部31は、記録期間のセンシングデータを通信部300からインターネット100を介して学習装置4へと送信する。
【0063】
エラー検知部32は、学習済みの学習モデルMを有する。エラー検知部32は、各センサ70から入力されたセンシングデータを学習モデルMに入力し、描画装置3の各部に変化が生じる可能性や、変化の生じる可能性のある箇所等を推測する。エラー検知部32には、インターネット100および通信部300を介して、学習装置4において更新された学習モデルMが入力される。新たな学習モデルMを受信すると、エラー検知部32は、学習モデルMを新たな学習モデルMに更新する。
【0064】
本実施形態では、データ収集対象の装置そのものである描画装置3が、データ収集部31を有する。このため、描画装置3が、データ収集対象の装置と、データ収集部31とを有する「データ収集システム1」を構成している。なお、データ収集部31は、描画装置3および学習装置4のいずれとも別個の装置であってもよい。また、データ収集部31が、描画装置3とはインターネット100を介して通信可能な学習装置4と同じコンピュータによって構成されていてもよい。
【0065】
続いて、学習装置4の各部の詳細な構成について説明を行う。学習装置4には、通信部41を介して、描画装置3のデータ収集部31から、記録期間のセンシングデータが入力される。データ記憶部42は、入力された記録期間のセンシングデータを一時的に記憶する。
【0066】
学習部43は、データ記憶部42に記憶されたセンシングデータに基づいて、機械学習を行い、学習モデルMを構築する。学習部43において学習が完了したセンシングデータについては、データ記憶部42から順次削除される。学習部43は、学習装置4に新たなセンシングデータが送信される度に、学習モデルMに対してさらに機械学習を行わせて、学習モデルMを更新する。
【0067】
なお、監視部311において変化の発生が検知された場合に、オペレータが入力部(図示なし)から制御部30へと、当該変化の原因を入力してもよい。このようにすれば、後の学習処理において、センシングデータのみの解析では変化の原因を判断するのが困難な場合であっても、変化の原因を明確に特定することができる。
【0068】
<3.データ収集および学習の流れ>
続いて、データ収集処理および学習処理の流れについて、
図5および
図6を参照しつつ説明する。
図5は、本実施形態のデータ収集システム1である描画装置3におけるデータ収集処理の流れを示したフローチャートである。
図6は、本実施形態の学習装置4における学習処理の流れを示したフローチャートである。
【0069】
まず、
図5を参照しつつ、描画装置3におけるデータ収集処理の流れを説明する。描画装置3の駆動開始とともに、各センサ70におけるセンシングが開始される。同時に、データ収集部31では、記憶部312によるセンシングデータの記録および更新が開始されるとともに、監視部311によるセンシングデータの監視が開始される(ステップST11)。
【0070】
そして、監視部311は、センシングデータに所定の変化があるか否かを判断する(ステップST12)。監視部311は、所定の変化がないと判断した場合、ステップST12を引き続き行う(ステップST12:No)。
【0071】
一方、所定の変化があると判断した場合(ステップST12:Yes)、監視部311は、予め決められた記録期間が完了するまで、センシングデータの取得および記憶部312への記憶を行う(ステップST13)。
【0072】
また、監視部311が発見した変化の原因が明確である場合、オペレータによって、当該原因の入力が行われる(ステップST14)。なお、当該ステップは省略してもよい。
【0073】
そして最後に、データ収集部31から通信部300およびインターネット100を介して、記録期間のセンシングデータが学習装置4へと送信される(ステップST15)。
【0074】
次に、
図6を参照しつつ、学習装置4における学習処理の流れを説明する。学習装置4には、複数の描画装置3のデータ収集部31から、不定期にセンシングデータが送信されてくる。学習装置4は、センシングデータを受信すると、まず、データ記憶部42にセンシングデータを一時的に記憶する(ステップST21)。
【0075】
続いて、学習部43は、データ記憶部42に記憶されたセンシングデータに基づいて、機械学習を行って、学習モデルMを構築、あるいは更新する(ステップST22)。
【0076】
ステップST22における学習モデルMの構築または更新が完了すると、学習装置4は、インターネット100を介して通信可能な複数の描画装置3のそれぞれに対して、当該学習モデルMを送信する(ステップST23)。新たな学習モデルMを受信した各描画装置3は、エラー検知部32の学習モデルMを新たなものへと更新する。
【0077】
学習モデルMの構築および更新のために用いられる機械学習アルゴリズムには、例えば、一層ニューラルネットワークやディープラーニング等を含むニューラルネットワーク、ランダムフォレストや勾配ブースティング等を含む決定木系アルゴリズム、サポートベクトルマシンといった教師あり機械学習アルゴリズムが用いられる。
【0078】
このように教師あり機械学習アルゴリズムが用いられる場合、教師データとして、変化が発見されたセンシングデータの種類や、オペレータが入力した変化の原因が用いられる。
【0079】
学習モデルMは、描画装置3の各センサ70から検出されたセンシングデータを入力とし、変化が生じる可能性のある箇所や、変化の発生確率を出力とすることが好ましい。例えば、データ収集部31の監視部311で発見される変化が、描画装置3における描画処理に影響を与えるエラーである場合、学習モデルMの出力は、例えば、エラー発生確率やエラー原因とする。
【0080】
上述の通り、描画装置3における経年劣化や故障は滅多に起きないため、異常の発生頻度は非常に低い。したがって、原因と結果の紐付けを行うためのセンシングデータを収集するために、センシングデータの記録を恒常的に行うと、異常が発生しない期間の方が異常発生に関わる期間よりも長いため、データの記憶に多くの記憶容量を必要とする。
【0081】
そこで、このデータ収集システム1では、センシングデータを変化発生時点の前後の所定の記録期間のみ一時的に保存し、当該変化の原因の解明に用いることができる。すなわち、描画装置3の状態変化に関するセンシングデータを効率よく収集することができる。
【0082】
また、この学習システム2では、複数の描画装置3と学習装置4とをネットワークを介して通信可能とすることにより、複数の描画装置3におけるセンシングデータが学習装置4に集約される。したがって、各描画装置3における異常の発生頻度が非常に低い場合であっても、描画装置3の状態変化に関するセンシングデータを効率よく収集することができる。
【0083】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0084】
上記の実施形態に係るデータ収集システムおよび学習システムでは、センシングデータを取得する対象装置が描画装置であったが、本発明はこれに限られない。データを収集する対象装置は、例えば、印刷装置、基板や基材等の搬送装置、基材に対して処理液を塗布する塗布装置、または、その他のいかなる装置であってもよい。
【0085】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 データ収集システム
2 学習システム
3 描画装置
4 学習装置
30 制御部
31 データ収集部
42 データ記憶部
43 学習部
70 センサ
71 圧力センサ
72 トルク検出センサ
73 加速度センサ
74 音センサ
75 振動センサ
100 インターネット
311 監視部
312 記憶部