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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】油分抽出剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/10 20060101AFI20230417BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20230417BHJP
【FI】
G01N1/10 F
G01N21/3577
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019106884
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020003480
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018121394
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】高坂 亮太
(72)【発明者】
【氏名】江原 克信
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-071683(JP,A)
【文献】特開2006-145498(JP,A)
【文献】特開昭50-144867(JP,A)
【文献】特開昭54-023586(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199611(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0314383(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G01N 21/00-21/01,21/16-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロトリフルオロエチレンの3量体及び4量体以上のオリゴマーを含有し、前記3量体及び4量体以上のオリゴマーの合計含有量が35重量%より多く100重量%以下の範囲であることを特徴とする油分抽出剤。
【請求項2】
クロロトリフルオロエチレンの3量体及び4量体以上のオリゴマーを主成分とし、
25℃における粘度が1.30cSt以上3.00cSt以下であることを特徴とする油分抽出剤。
【請求項3】
前記オリゴマーが3量体及び4量体であることを特徴とする請求項1又は2記載の油分抽出剤。
【請求項4】
試料に油分抽出剤を加えて油分を抽出した後の前記油分抽出剤の油分濃度を測定する方法であって、
前記油分抽出剤として、クロロトリフルオロエチレンの3量体及び4量体以上のオリゴマーを含有し、前記3量体及び4量体以上のオリゴマーの合計含有量が、35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有する油分抽出剤を使用することを特徴とする油分濃度測定方法。
【請求項5】
前記油分濃度を、赤外吸光法を用いて測定することを特徴とする請求項4記載の油分濃度測定方法。
【請求項6】
試料に油分抽出剤を加えて油分を抽出した後の前記油分抽出剤の油分濃度を測定する油分濃度測定装置であって、
前記油分抽出剤としてクロロトリフルオロエチレンの3量体及び4量体以上のオリゴマーを含有し、前記3量体及び4量体以上のオリゴマーの合計含有量が、35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有する油分抽出剤を用いることを特徴とする油分濃度測定装置。
【請求項7】
油分を抽出した後の前記油分抽出剤が供給されるセルと、該セルの一端側に配置された赤外光源と、該セルの他端側に配置された光学フィルタ及び赤外光検出器とを備えたことを特徴とする請求項6記載の油分濃度測定装置。
【請求項8】
クロロトリフルオロエチレンを重合させ、油分抽出を妨害する物質を除去し、クロロトリフルオロエチレンの3量体及び4量体以上のオリゴマーを含有し、前記3量体及び4量体以上のオリゴマーの合計含有量が、35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有されるように調整することを特徴とする油分抽出剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料から油分を抽出する油分抽出剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる油分を抽出する油分抽出剤として使用されている四塩化炭素やテトラクロロエチレン等について、環境や人体に対する影響が懸念される薬品であるとして製造が規制されることとなった。
【0003】
一方、同様に前記油分抽出剤として使用されているクロロトリフルオロエチレンの2量体以上の重合体については規制がされていない。
特に、クロロトリフルオロエチレンの2量体については、特許文献1に記載されているように、油分抽出効率が高いことが知られているので、従来は、油分抽出剤としてクロロトリフルオロエチレンの2量体を主成分とするものが用いられている。
【0004】
しかしながら、クロロトリフルオロエチレンの単量体を重合して得られる2量体の収率が低いので、油分抽出剤の製造コストが高くなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-145498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述したような課題に鑑みてなされたものであり、製造コストを低く抑えることができ、油分抽出効率が高く、従来よりもさらに環境負荷の小さい油分抽出剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る油分抽出剤は、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有することを特徴とするものである。
【0008】
このような油分抽出剤であれば、クロロトリフルオロエチレンの単量体を重合反応させたときの3量体以上のオリゴマーの収率が、2量体の収率よりも高いので、従来よりも油分抽出剤の製造コストを低減することができる。
また、3量体以上のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有することで、従来の油分抽出剤よりもさらに油分の抽出効率を向上させることができる。
さらに、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有するので、従来の油分抽出剤よりも、さらに大気中に拡散しにくく、環境負荷をより低減することができる。
【0009】
クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とし、25℃における粘度が1.30cSt以上3.00cSt以下であることを特徴とする油分抽出剤によっても、前述したような本発明の効果を奏することができる。
本明細書において、主成分とは、油分抽出剤を構成する化合物のうち最も含有量が高い成分を意味する。そのため、3量体以上のオリゴマーを主成分とする油分抽出剤とは、3量体や4量体などの1種類のオリゴマーの含有量が最も高い油分抽出剤だけでなく、3量体以上のオリゴマー全体の合計含有量が1量体及び2量体の含有量に比べて高い油分抽出剤をも指すことは言うまでもない。
【0010】
具体的な実施態様としては、前記オリゴマーが3量体であるものを挙げることができる。
【0011】
試料に油分抽出剤を加えて油分を抽出した後の前記油分抽出剤の油分濃度を測定する方法であって、前記油分抽出剤として、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有する油分抽出剤を使用することを特徴とする方法又は装置によれば、環境負荷を従来よりもさらに抑えながら、低コストで試料中の油分濃度を測定することができる。
【0012】
具体的な実施態様としては、前記油分濃度を、赤外吸光法を用いて測定することを特徴とするものを挙げることができる。
【0013】
クロロトリフルオロエチレンを重合させ、油分抽出を妨害する物質を除去し、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーが35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有されるように調整することを特徴とする油分抽出剤の製造方法によっても、前述した本発明の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低コストで、油分抽出効率が高く、従来よりもさらに大気中に拡散しにくく、環境負荷の小さい油分抽出剤を提供することができる。
また、従来の油分抽出剤よりもさらに大気中に拡散しにくいので、蒸発によるロスをなくし、使用コストを抑えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る油分測定装置を示す模式図。
図2】本実施形態における油分濃度計を示す摸式図。
図3】本発明の実施例における実験結果を示す図。
図4】本実施例における実験結果を示す図。
図5】油分抽出剤の成分濃度と粘度との関係を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る油分抽出剤は、試料中に含まれる油分を抽出するものであり、例えば、自然水、工場や下水処理場等からの廃水、または土壌などの試料に含まれる油分濃度を測定する場合等に使用されるものである。
【0017】
前記油分とは、例えば、重油、灯油、ガソリン、軽油などの石油製品や、動物油、植物油、機械油、疎水性の有機溶媒等である。
【0018】
前記油分抽出剤は、クロロトリフルオロエチレンの2量体、クロロトリフルオロエチレンのオリゴマー、クロロトリフルオロエチレンのポリマー等を含有するものであり、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有するものである。
前記3量体以上のオリゴマーとは、クロロトリフルオロエチレンの単量体が3個重合した3量体から20個重合した20量体程度のものまでを含むものである。
【0019】
前記油分抽出剤を製造する方法を、以下に説明する。
まず、クロロトリフルオロエチレンの単量体を濃度、圧力、温度、反応時間をコントロールし重合反応させる。
このようにして得た重合反応物中には重合反応時に生成した親水性官能基を持つ物質が含まれ界面活性作用を示し油分抽出を妨害する可能性があるため、例えば、活性アルミナを担体とするカラム等を用いて精製し、親水性官能基を有する物質を除去する。
【0020】
前記親水性官能基を除去した前記重合反応物を、例えば、蒸留して、反応残渣であるクロロトリフルオロエチレンの単量体や20量体以上のポリマーなどを取り除くことにより3量体以上のオリゴマーの含有量が35重量%より多く100重量%以下になるように調製する。
【0021】
次に、このようにして製造した前記油分抽出剤を用いて、試料に含まれる油分濃度を測定する油分濃度測定装置100について説明する。
該油分濃度測定装置100は、例えば、前記油分抽出剤と試料とを収容し内部で試料中の油分を抽出する抽出槽2と、該抽出槽2に収容された前記油分抽出剤と前記試料とを攪拌する攪拌部材3と、前記抽出槽2で抽出された油分の濃度を赤外吸収法により検出する油分濃度計1と、前記抽出槽2と前記油分濃度計とを接続する流路4とを具備するものである。
前記抽出槽2は、例えば、円筒状のものであり、その上部に前記油分抽出剤と試料とが注入される注入口21が形成されている。
前記攪拌部材3は、例えば、適切な電源により駆動されるバイブレータ31と、該バイブレータ31に連結された攪拌棒32と、該攪拌棒32に取り付けられた攪拌羽根板33とを備えたものである。
前記流路4上には、前記抽出槽2から前記油分濃度計1に供給される液体の流れを制御する電磁弁5や、前記油分濃度計1に供給される液体から異物や水分を除去するためのフィルタ6等が配置されている。
前記フィルタ6は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの素材で形成されたメッシュ状のフィルタである。
前記油分濃度計1は、例えば、油分を抽出した後の前記油分抽出剤が供給されるセル11と、該セル11の一端側に配置される光源12と、該セル11の他端側に配置されたフィルタ部13及び検出部14と、該検出部14からの出力値に基づいて油分濃度を算出する算出部15と、該算出部15によって算出された油分濃度を表示する表示部(不図示)などを備えている。
【0022】
前記セル11は、例えば、ステンレス鋼などの耐腐食性に優れた素材からなる円筒形状のものであり、その両端部に形成された開口が、例えば、石英ガラスなどの赤外線透過性を有する円盤状の窓部材11A、11Bによって封止されているものである。
前記セル11の側周面には、前記油分抽出剤を供給する供給口Sと、前記油分抽出剤を排出するための排出口Dが設けられている。
【0023】
前記光源12は、前記セル11の一方の窓部材11Aに対して、前記セル11の軸方向に沿った赤外光を照射するものである。
【0024】
前記フィルタ部13は、前記セル11の前記光源12とは反対側の端側に配置されたものであり、前記セル11の軸方向に対して垂直に、互いに隣り合うように並べられた測定用光学フィルタ13Aと比較用光学フィルタ13Bとを備えている。
これら測定用光学フィルタ13A及び比較用光学フィルタ13Bはいずれも、前記セル11と前記検出器との間に配置される干渉フィルタ(バンドパスフィルタ)であり、波数領域が、例えば、2800~3100cm-1の赤外光のみを通過させる一方でそれ以外の波数領域の赤外光は透過させないように構成されたものである。
【0025】
前記検出部14は、前記フィルタ部13の前記セル11とは反対側に配置されるものであり、測定用検出器14Aと比較用検出器14Bとを備えている。
これら測定用検出器14A及び比較用検出器14Bはいずれも、例えば、焦電型赤外線センサであり、前記測定用光学フィルタ13Aの下流には前記測定用検出器14Aが、また前記比較用光学フィルタ13Bの下流には前記比較用検出器14Bが配置されている。
【0026】
前記油分濃度計1は、前述した測定用検出器14Aと比較用検出器14Bとを切り替える切替機構16をさらに備えている。
この切替機構16は、例えば、前記セル11と前記フィルタ部13との間に設けられた光チョッパー16Aと、該光チョッパー16Aを駆動するモータ16Bとを備えている。
前記光チョッパー16Aは、前記モータ16Bによって駆動されることにより、前記セル11を通過した赤外光を所定の周期で断続するものである。
【0027】
前記算出部15は、前記測定用検出器14A及び前記比較用検出器14Bからの出力値に基づいて、油分濃度を算出するものであり、例えば、増幅器と、A/Dコンバータと、CPU、メモリ、通信ポート、ディスプレイなどを備えたコンピュータが所定のプログラムに従って動作することで、その機能を発揮するものである。
【0028】
前記油分抽出剤と、前記油分濃度測定装置100とを用いて、試料に含まれる油分濃度を測定する方法は以下のようなものである。
まず、測定対象となる試料と前記油分抽出剤とをそれぞれ所定量ずつ計量する。
次に、これらを前記注入口から前記攪拌層に注入し、前記攪拌部材3によって十分に攪拌して混合する。
混合液を静置して、油分を含む溶媒層と水層とに分離させた後、前記溶媒層のみを分取して、前記流路を経由させて前記セル11に供給する。
【0029】
試料に含まれる油分には、C-H結合特有の吸収があるのでこの性質を利用して、前記光源12から前記セル11に赤外光を照射し、前記セル11を透過した赤外光を前記測定用検出器14A及び比較用検出器14Bで検出する。
このようにして得られた測定用検出器14A及び比較用検出器14Bからの出力値に基づいて、前記算出部15が油分濃度を算出し、例えば、前記油分濃度測定装置1に備えられた表示部に対して出力する。
【0030】
このように構成された油分抽出剤及びこれを使用した油分濃度測定方法又は油分濃度測定装置1によれば、以下のような効果を奏することができる。
クロロトリフルオロエチレンの単量体を重合反応させたときのクロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーの収率が、2量体の収率よりも高いので、前記油分抽出剤の製造コストを低減することができる。
【0031】
より詳しく説明すると、クロロトリフルオロエチレンの単量体を重合反応させた場合、前記2量体の収率が20%前後であるのに対して、3量体以上のオリゴマーは残りのおよそ80%を占めている。
そのため、クロロトリフルオロエチレンの2量体を主成分とする従来の油分抽出剤を製造する場合に比べて、蒸留等によって3量体以上のオリゴマーの含有量を高める手間を大幅に省くことができる。
【0032】
また、従来油分抽出剤を製造するときに捨てていたクロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマー画分を再利用することも可能であり、試薬を無駄にすることがなく、環境への負荷を減らすことも可能である。
【0033】
クロロトリフルオロエチレンの2量体においても蒸気圧が低かったが、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマー画分は、クロロトリフルオロエチレンの2量体よりもさらに蒸気圧が低いため、本油分抽出剤の使用時の大気中への拡散をより軽減することができ、さらなる環境負荷の低減につながる。
【0034】
活性アルミナを担体とするカラムによって、親水性官能基を持つ物質を除去しているので、クロロトリフルオロエチレンの単量体を重合反応させたときに副生成物として生じてしまう界面活性剤様の物質などを除去することができる。
その結果、試料の油分を抽出する際に水溶性の画分と試料液中の油分を含んだ油分抽出剤層とを効率よく分離することができる。
【0035】
従来のクロロトリフルオロエチレンの2量体の油分抽出効率も十分に高いものであったが、3量体以上のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下含有するものとすることで、さらに油分抽出効率を向上させることができたことは、薬品の使用規制により新たな油分抽出剤の開発が困難な状況においては非常に大きな功績である。
【0036】
また、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下含有する油分抽出剤と、クロロトリフルオロエチレンの2量体を主成分とする従来の油分抽出剤とでは、油分濃度測定に使用するC-H結合特有の吸収帯(例えば、2941cm-1、すなわち3.4μm付近)における吸光度が同じ程度低いので、赤外吸光法によって精度良く油分濃度を測定することができる。
【0037】
クロロトリフルオロエチレンの2量体以上の重合体については、2017年12月時点で、製造規制や使用規制等がされていないので、問題なく使用することができる。
前記フィルタ6に、メッシュ状のフィルタを用いているので、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とする従来よりも粘度の高い油分抽出剤を使用したとしても、前記フィルタ6が目詰まりしにくい。
【0038】
本発明は前記実施形態に限られたものではない。
例えば、前記油分抽出剤は、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーのうち3量体以上10量体以下のオリゴマーを35重量%以より多く100重量%以下の範囲で含有することが好ましく、3量体以上5量体以下のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下含有するものであればより好ましい。
また、前記3量体以上のオリゴマーの含有割合の範囲は上記のものに限らず、35.00重量%より多く51.25重量%以下、35.00重量%より多く67.50重量%以下、35.00重量%より多く83.75重量%以下、51.25重量%以上67.50重量%以下、51.25重量%以上83.75重量%以下、51.25重量%以上100.00重量%以下、67.50重量%以上83.75重量%以下、67.50重量%以上100.00重量%以下、83.75重量%以上100.00重量%以下等としても良い。
クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーの含有量が前述したような範囲のものに限らず、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とし、油分抽出剤の25℃における粘度が1.300cSt以上3.00cSt以下、より好ましくは1.40cSt以上2.80cSt以下である油分抽出剤とすれば、前述したものと同様の効果を奏することができる。
クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを使用すると、2量体のオリゴマーを使用する場合に比べて粘度が高くなってしまう。特に、本実施形態で説明したように油分を抽出した後の油分抽出剤をセルに流路を介して供給する流路型の油分濃度測定装置では、油分抽出剤の粘度が高いと応答が遅くなってしまうことが考えられる。
そのため、クロロトリフルオロエチレンの3量体を65重量%以上含有するようにすれば、前述したような流路型の油分濃度測定装置でも応答を早くすることができるので好ましい。
【0039】
前記実施形態では、赤外光を使用して油分濃度を測定する方法や装置を紹介したが、これに限らず、重量法やマイクロバランス法等を用いて油分を測定するものとしても良い。
【0040】
前記親水性官能基を有する物質を除去する方法としては、活性アルミナを担体とするカラムを用いる方法だけでなく、水や飽和塩化ナトリウム水溶液と混合して水溶性不純物の溶解や塩析効果による不純物を取り除く方法や、活性アルミナやシリカゲルを用いたろ過、蒸留などでも良い。
【0041】
また、前記油分抽出剤は、試料に含まれる油分濃度を測定する場合に使用されるだけでなく、例えば、さまざまな装置に使用される部品や配管等から油分を取り去る洗浄プロセス等にも使用することができる。
【0042】
前記実施形態では、前記油分濃度測定装置100が抽出槽2等を備えるものとしたが、前記油分濃度測定装置100は、例えば、前記油分濃度計1を備えるものであればよく、使用環境や液体以外の試料から油分を抽出する場合など試料の形態等によって、前記油分濃度計1以外の構成要素の全部又は一部を除いても良いし、他の構成要素をさらに加えても良い。
例えば、前記油分濃度測定装置100が、前記抽出槽2を備えたものでなく、別に用意した分液漏斗や蓋付きの瓶などの容器に前記油分抽出剤と試料を入れて振とう器で振り混ぜて試料中の油分を抽出しても良いし、振とう器などを使用せずに分液漏斗などの容器を手に持って振り混ぜるような方法で試料中の油分を抽出しても良い。
このような場合には、前記フィルタのかわりに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの素材で形成されたメッシュ状のろ紙を用いて、異物や水分を取り除いてもよい。
油分を抽出した後の前記油分抽出剤を前記セル11に供給する方法についても、流路を介して供給しても良いし、直接セル11に油分を抽出した後の前記油分抽出剤を注入してもよい。
前記セル11に形成された前記供給口Sと、前記排出口Dを別々に設けず、1つの同じ開口として構成しても良い。
本発明に係る油分抽出剤は、前述したような様々な種類の油分以外にも、例えば、ベンゼンやアミンなどの炭化水素基を持つ有機化合物や、分子として無極性の化合物、例えば、ヨウ素や四塩化炭素、テトラクロレチレン等を抽出することもできる。
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【実施例
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明に係る油分抽出剤についてさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。
この実施例では、従来の油分抽出剤とクロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーの含有量を変化させた油分抽出剤とを用いて、これらの油分抽出効率を比較した。
【0044】
従来の油分抽出剤としては、クロロトリフルオロエチレンの2量体を65重量%以上75重量%以下、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを25重量%以上35重量%以下の範囲で含有する油分抽出剤Aを使用した。
【0045】
クロロトリフルオロエチレンの単量体を重合反応させ、活性アルミナカラムで不純物を除去した後、クロロトリフルオロエチレンの3量体のみ又は4量体を蒸留により99.9%まで精製した。
このクロロトリフルオロエチレン3量体又は4量体と、油分抽出剤Aとを以下の表1記載の割合で混合して、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーの含有量を変化させた油分抽出剤S1~S8を作成した。
【0046】
【表1】
【0047】
これら油分抽出剤8種類について、それぞれ以下のように油分抽出効率を測定した。
油分抽出の対象としては、100mg/Lの油分(B重油)を含有する模擬油水を使用した。
この模擬油水に対して、前記実施形態で説明したものと同様に、この実施例においては前記油分濃度測定装置100に付属の前記抽出槽2において、一定容量の模擬油水と油分抽出剤とを、混合時間を40秒として撹拌し油分抽出を行った。
【0048】
なお、測定誤差や作業時間のずれによる誤差をできるだけ小さくするために、従来の油分抽出剤である油分抽出剤AのみのRと他のサンプルを同時に操作した。
その後、それぞれの油分抽出剤によって抽出された油分濃度を測定し、前記模擬油水の実際の油分濃度との整合性を調べた結果が以下の表2、表3、図3及び図4である。
以下の表2及び図3は、従来の油分抽出剤であるRの油分抽出効率を100%とした場合の、S1~S4の各油分抽出効率を表している。
【0049】
【表2】
【0050】
また、以下の表3及び図4は、従来の油分抽出剤であるRの油分抽出効率を100%とした場合の、S5~S8の各油分抽出効率を表している。
【0051】
【表3】
【0052】
これら表2、表3、図3及び図4の結果から、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを35重量%より多く100重量%以下の範囲で含有している油分抽出剤であれば、従来の油分抽出剤に比べて油分抽出効率が大きく向上することが分かった。
なお、前述した3量体、4量体に限らず、クロロトリフルオロエチレンの5量体や6量体等を従来の油分抽出剤Aと混合した場合にも、3量体以上のオリゴマーの含有量が35重量%より多く100重量%以下とした場合には、従来の油分抽出剤に比べて油分抽出効率が大きく向上することができる。
クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを67.85重量%以上83.75重量%以下の範囲で含有する油分抽出剤の抽出効率は従来の油分抽出剤に比べて、特に高い抽出効率を示すことが分かった。
このように、3量体以上のオリゴマーの含有量が従来よりも多い油分抽出剤で抽出効率が向上するのは、様々な分子構造を含んでいる方が油分抽出能が高くなるからではないかと考えられる。
【0053】
また、この実施例の結果から、クロロトリフルオロエチレンの3量体又は4量体のオリゴマーの含有量を65重量%以上とすることで、従来の油分抽出剤との比較で十分に高い油分抽出効率を得ることができることが分かった。そのため、クロロトリフルオロエチレンの3量体又は4量体のオリゴマーの含有量を65重量%以上とすることで、製品のロット毎に油分抽出性能に±10%~20%程度の差が生じることを考慮しても、従来の2量体を主成分とする油分濃度抽出剤に比べて油分抽出効率を十分高く保つことができる。
【0054】
従来は、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーの含有量が高くなると、重合反応の副生成物として生じる界面活性剤様の物質などの不純物の含有量も高くなると思われていた。
その理由は、重合度が高いと環状や分岐をもった化合物が生成されやすく、またそれらの中には親水基、疎水基の両方を持つ物質が生成されやすくなるためであると考えられる。
前述したような不純物の含有量が高くなると、試料と油分抽出剤との層分離が遅くなるので、分析に時間がかかる。例えば、前記不純物の含有量が10mg/L以上になってしまうと、層分離に10分以上かかってしまう。
また、前記不純物が混じることで、油分抽出剤に水分が混入しやすくなり、その結果、前記油分濃度測定装置による赤外吸収の測定値がぶれやすくなってしまうという問題もある。
【0055】
しかしながら、前述したような従来の技術常識に反して、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とする本実施例のS1~S8の各油分抽出剤では、前記不純物の含有量は層分離や赤外吸収の測定に全く問題がない範囲であった。
これは、活性アルミナでのろ過といった前記不純物を除去する方法により、前記不純物の濃度を十分に低く抑えることができたからであると考えられる。
【0056】
さらに、従来は、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを使用すると、赤外吸収のピークがブロードになることで吸光度のベースラインが高くなり、油分濃度が正確に測定できないと思われていた。
しかし、S1~S8の油分抽出剤では、赤外吸収のピークは、油分濃度の測定に十分使用できるものであることが分かった。また、油分抽出剤の沸点が高い方が赤外吸収の誤差が小さいことからも、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーの含有量が高い方が有利であることが分かった。
【0057】
さらに、油分抽出剤のクロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーの含有量による赤外光の吸収を詳しく調べたところ、クロロトリフルオロエチレンの6量体以上のオリゴマーを含有するものであっても、油分濃度測定に十分に使用でき、5量体、4量体、3量体と重合度が低くなるにつれて、赤外光の透過率が高くなり、赤外吸収のベースラインがきれいに引けることが分かった。赤外光の透過率は、5量体のものと3量体のもので、およそ5%程度の違いがあることが分かった。
ところで、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とする油分抽出剤は、その3量体以上のオリゴマーの含有量の増加に伴って、油分抽出剤の粘度が高くなる傾向がある。
例えば、図5に示すように、クロロトリフルオロエチレンの3量体の含有量と粘度とは比例関係にあることが分かっている。
この図5によれば、クロロトリフルオロエチレンの3量体の含有量が35%のときの粘度は、25℃でおよそ1.55cStであり、クロロトリフルオロエチレンの3量体の含有量が100%のときの粘度は、25℃でおよそ2.55cStであることがわかる。
前述したように製品のロット毎に製造される油分抽出剤の性質は変動することが考えられるので、この変動が±20%程度あるものとすると、クロロトリフルオロエチレンの3量体の含有量が35%以上100%以下となるように製造した場合の油分抽出剤の粘度は、25℃で1.30cSt以上3.00cSt以下の範囲になると考えられる。
そのため、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とし、かつ粘度が、25℃で1.30cSt以上3.00cSt以下の範囲である油分抽出剤によっても、前記表2及び図3に示したものと同様に、従来よりも高い油分抽出能を発揮することができると考えられる。
このことを実験によって確かめた結果を表4に示す。この表4は、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とし、粘度が前述した範囲内のものである油分抽出剤2種類を使用して、様々な種類の油分を抽出した結果を示す。
【0058】
【表4】
【0059】
この実験では、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とし、かつ粘度が25℃でおよそ2.6cSt又はおよそ2.0cStである油分抽出剤を使用し前述した表2、表3の場合と同じ手順で模擬油水中の油分を抽出した。 表4中の各数字は、100mg/Lの濃度で各油を含有する模擬油水から油分抽出剤によって抽出された油分濃度(単位:mg/L)を示している。表4中のOCBは、オクタン、セタン、ベンゼンの混合物を指す。なお、粘度が25℃でおよそ2.6cStの油分抽出剤は、表1及び表2で示した、従来よりも油分抽出能が高いS4に相当するものである。
この表4の結果から、クロロトリフルオロエチレンの3量体以上のオリゴマーを主成分とし、かつ25℃で1.30cSt以上3.00cSt以下の範囲内である油分抽出剤であれば、様々な種類の油分に対して、十分に高い油分抽出能を発揮することが分かる。
【符号の説明】
【0060】
100・・・油分濃度測定装置
1・・・油分濃度計
11・・・セル
12・・・光源
13・・・フィルタ部
14・・・検出部

図1
図2
図3
図4
図5