(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】巻線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/073 20160101AFI20230417BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
H01F41/073
H01F41/04 F
(21)【出願番号】P 2019176488
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100166811
【氏名又は名称】白鹿 剛
(72)【発明者】
【氏名】小松原 毅伺
(72)【発明者】
【氏名】林 弘樹
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-070155(JP,A)
【文献】特開2001-093767(JP,A)
【文献】実開平01-127227(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/073
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻枠に導線を巻き付ける巻線装置を用いて実現される、口出線を有する巻線の製造方法であって、
前記巻線装置は、
前記巻枠が取り付けられる部位を有し、回転可能である主軸と、
前記導線を前記主軸に取り付けられている巻枠に送り出すヘッド部と、
前記主軸とともに回転するように、前記主軸に平行なトラバース方向において常に前記巻枠が取り付けられる部位の外側となる位置に配置されており、前記主軸に垂直な方向である径方向に露出する部分に前記ヘッド部から送り出される導線を掛けることができるように構成されている線掛部とを備え、
前記巻枠が取り付けられている主軸を回転させるとともに、トラバース方向において前記巻枠と前記ヘッド部との相対的な位置関係を変化させることにより当該巻枠の巻回範囲に前記導線を巻き付け可能に構成されており、
前記巻線の製造方法は、
前記主軸に取り付けられている前記巻枠に前記導線を巻き付けている途中で、トラバース方向において
前記巻回範囲よりも外側にある引出位置に前記ヘッド部を位置させる第1のステップと、
前記第1のステップが行われた後に、前記主軸を回転させて前記線掛部に前記導線を掛ける
ことにより前記口出線となる部位を作成する第2のステップと、
前記第2のステップが行われた後に、トラバース方向において前記巻回範囲の内側に前記線掛部に掛けられた導線が引き入れられるように前記第1のステップとは相対的に反対の方向に前記ヘッド部を変位させる第3のステップと、
前記第3のステップが行われた後に、前記主軸を回転させて前記巻枠への前記導線の巻き付けを再開する第4のステップとを含む、巻線の製造方法。
【請求項2】
前記線掛部は、前記導線が掛けられる外周面から内側に凹んでいる凹部を有する、請求項1に記載の巻線
の製造方法。
【請求項3】
前記巻線装置は、トラバース方向において前記巻枠の外側に配置されており、前記巻枠を主軸に固定する端部部材をさらに備え、
前記線掛部は、前記端部部材に設けられている、請求項1又は2に記載の巻線
の製造方法。
【請求項4】
前記巻線装置は、前記ヘッド部に搬送される導線の一部分の被膜を除去する被膜除去装置をさらに備え、
前記巻線の製造方法は、前記導線の線上において前記口出線となる部位が前記被膜除去装置に到達した段階で、当該部分の被膜を除去する被膜除去ステップをさらに含み、
前記第2のステップにおいて前記被膜除去ステップにより被膜が除去された部位が前記線掛部の前記径方向に露出する部分に位置するように構成されている、請求項1から3のいずれか1つに記載の巻線の製造方法。
【請求項5】
前記巻枠は、トラバース方向において前記線掛部に近い方の端部に、周方向において隣り合うように配置された、径方向において他の部分よりも突出する2以上の突出部を有し、前記第1のステップは、周方向において前記2以上の突出部の間にある引出部を通して前記導線が前記巻回範囲の外側に引き出されるように、前記ヘッド部を前記引出位置に位置させる、請求項
1から4
のいずれか1つに記載の巻線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、口出線(タップと呼ばれることもある)を有する巻線(コイル)の製造に用いられる巻線装置及び巻線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば変圧器などに用いられる巻線を製造するために用いられる、巻線装置がある(例えば、下記特許文献1参照)。このような巻線装置は、主軸とともに回転する巻枠に対してトラバース機構を用いて導線を送り出すことができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の巻線装置を用いる場合においては、口出線を有する巻線を製造するのには手間がかかるという課題がある。
【0005】
例えば、巻線の製造時において口出線を設けるためには、作業者が手作業を行う必要がある。すなわち、作業者は、例えば、巻枠に導線を巻回する途中で巻線装置を停止させ、巻枠から外枠に導線を引き出して導線を切断することで、口出線の一端を形成する。そして、切断した導線の他端を同様に巻枠から外に保持した状態で、巻線装置によりその導線を巻枠に巻き付ける動作を再開する。
【0006】
このように、巻線の巻回を開始してから終了するまでに手作業が必要となる場合、作業者は巻線装置に付き添う必要がある。また、規定されている長さに口出線を揃えるためには、巻枠から引き出した導線の長さを測定しながら口出線を設ける作業を行う必要があり、より手間がかかり、また、巻線の個体間の長さのばらつきも生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本第一の発明の巻線装置は、巻枠が取り付けられている主軸を回転させるとともに、主軸に平行なトラバース方向において、巻枠と導線を巻枠に送り出すヘッド部との相対的な位置関係を変化させることにより、巻枠に導線を巻き付ける巻線装置であって、トラバース方向において巻枠の外側に設けられており、主軸と共に回転する線掛部を備え、線掛部は、主軸に垂直な方向である径方向に露出する部分を有し、部分にヘッド部から送り出される導線を掛けることができるように構成されている、巻線装置である。
【0008】
かかる構成により、線掛部に導線を掛けることにより、口出線を有する巻線を容易に製造することができる。
【0009】
また、本第二の発明の巻線装置は、第一の発明に対して、線掛部は、導線が掛けられる外周面から内側に凹んでいる凹部を有する、巻線装置である。
【0010】
かかる構成により、線掛部に掛けられている導線を凹部において容易に切断して口出線とすることができる。
【0011】
また、本第三の発明の巻線装置は、第一又は二の発明に対して、トラバース方向において巻枠の外側に配置されており、巻枠を主軸に固定する端部部材をさらに備え、線掛部は、端部部材に設けられている、巻線装置である。
【0012】
かかる構成により、線掛部に掛けられた導線を利用して容易に口出線を作成することができる。
【0013】
また、本第四の発明の巻線の製造方法は、第一から三のいずれか1つの発明に係る巻線装置を用いて実現される、口出線を有する巻線の製造方法であって、巻枠に導線を巻き付けている途中で、トラバース方向において導線が巻枠に巻回される巻回範囲よりも外側にある引出位置にヘッド部を位置させる第1のステップと、第1のステップが行われた後に、主軸を回転させて線掛部に導線を掛ける第2のステップと、第2のステップが行われた後に、トラバース方向において巻回範囲の内側に線掛部に掛けられた導線が引き入れられるように第1のステップとは相対的に反対の方向にヘッド部を変位させて、第3のステップと、第3のステップが行われた後に、主軸を回転させて巻枠への導線の巻き付けを再開する第4のステップとを含む、巻線の製造方法である。
【0014】
かかる構成により、線掛部に導線を掛けることができ、口出線を有する巻線を容易に製造することができる。
【0015】
また、本第五の発明の巻線の製造方法は、第四の発明に対して、巻枠は、トラバース方向において線掛部に近い方の端部に、周方向において隣り合うように配置された、径方向において他の部分よりも突出する2以上の突出部を有し、第1のステップは、周方向において2以上の突出部の間にある引出部を通して導線が巻回範囲の外側に引き出されるように、ヘッド部を引出位置に位置させる、巻線の製造方法である。
【0016】
かかる構成により、巻枠に確実に導線を巻回した状態で、導線を引き出して線掛部に導線を掛けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明による巻線装置及び巻線の製造方法によれば、口出線を有する巻線を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る巻線装置の側面図
【
図3】同主軸に取り付けられる巻枠及びヘッドローラについて説明する斜視図
【
図4】同巻線装置を用いた巻線の製造方法の一例を示すフローチャート
【
図5】同巻線装置の動作の一例を平面視にて説明する第1の図
【
図6】同巻線装置の動作の一例を平面視にて説明する第2の図
【
図7】同巻線装置の動作の一例を側面視にて説明する第1の図
【
図8】同巻線装置の動作の一例を側面視にて説明する第2の図
【
図9】同線掛部に引出ループ部が掛けられている状態の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、巻線装置及び巻線の製造方法等の実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
なお、以下において、巻線装置の巻回部の主軸の回転軸を主軸ということがあり、当該回転軸に沿う方向を「軸方向(トラバース方向ということもある)」、回転軸に直交する方向を「径方向」、回転軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称することがある。また、以下において、軸方向を前後向(
図1における手前側が「前」)とし、径方向のうち水平面に垂直な方向を上下方向(
図1における上側が「上」)として、各部の形状や位置関係を説明する。また、巻線装置のトラバース部について、一の基点に対して導線の供給源から離れる側(下流側)にある点を「後段」と称することがある。なお、これらの呼び方は、実施の形態における巻線装置自体の構成を説明の便宜のために定義したものにすぎず、本発明に係る巻線装置の使用態様などについて、何ら限定するものではない。
【0021】
(実施の形態1)
【0022】
実施の形態1において、巻線装置は、トラバース方向において、巻枠の外側に、主軸と共に回転する線掛部が設けられているものである。線掛部は、例えば、巻枠の外側に配置されており巻枠を主軸に固定するための端部部材に設けられているが、これに限られない。また、本実施の形態において、線掛部は、外周面から内側に凹んでいる凹部を有するが、これに限られない。
【0023】
本実施の形態に係る巻線装置は、巻枠が取り付けられている主軸を回転させるとともに、主軸に平行なトラバース方向において、巻枠と導線を巻枠に送り出すヘッド部との相対的な位置関係を変化させることにより、巻枠に導線を巻き付けるように構成されている。以下、このように構成されている巻線装置について説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態1に係る巻線装置1の側面図である。
図2は、同巻線装置1の平面図である。
【0025】
図1において、前から見た巻線装置1が示されている。
図1及び
図2の右端から、巻線装置1に、例えばドラム等に巻回された導線Lが巻線装置1に供給されるが、その部位の図示は省略されている。なお、導線Lとしては、絶縁被膜を有する銅線が用いられるが、これに限られるものではない。
【0026】
図1に示されるように、巻線装置1は、大まかに、制御部2と、操作入力部6と、巻回部10と、トラバース部40とを備える。
【0027】
巻回部10は、後述のように導線部25を巻き付けるための巻枠21を回転させて導線Lを巻き上げる(巻回する、巻き回すなどということもある。)部位である。トラバース部40は、巻枠21に導線を送り出す部位であって、巻回部10に連動して動作する。
【0028】
制御部2は、後述のように、操作入力部6により受け付けられた作業者による操作やその他の取得した情報に基づいて、巻回部10及びトラバース部40等の動作を制御する。
【0029】
操作入力部6は、例えば種々の操作ボタンやスイッチ等が配置された操作パネルであり、作業者による操作が入力される部位である。なお、操作入力部6は、テンキーやキーボードやマウスやタッチパネル等を利用して構成されているものなど、何でもよい。操作入力部6に入力された操作は、例えば、制御部2により受け付けられる。なお、巻線装置1に通信可能に接続された他の装置において受け付けられた操作に基づく信号等を受信することにより、制御部2が当該操作を受け付けることができるように構成されていてもよい。
【0030】
制御部2は、格納部3を備える。
【0031】
格納部3は、不揮発性の記録媒体が好適であるが、揮発性の記録媒体でも実現可能である。格納部3には、所定の設定情報が格納されている。所定の設定情報は、例えば、一の巻線20を製造する場合の巻回部10及びトラバース部40のそれぞれを同期させてシーケンス制御を行うための制御プログラムであるが、これに限られない。また、制御プログラムにより利用されるパラメータ(例えば、巻線の回転数(巻数)や、導線Lの径寸法や、後述のようなヘッド部90を変位させる位置や主軸の回転角などであるが、これに限られない)等が設定情報として格納されていてもよい。
【0032】
なお、格納部3に設定情報が記憶される過程は問わない。例えば、記録媒体を介して設定情報が格納部3で記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信された設定情報が格納部3で記憶されるようになってもよく、あるいは、入力デバイスを介して入力された設定情報が格納部3で記憶されるようになってもよい。
【0033】
制御部2は、例えば、プログラマブルロジックコントローラであるが、これに限られない。制御部2は、その他のMPUやメモリ等から実現されうるコンピュータ等であってもよい。制御部2の処理手順は、ソフトウェアで実現され、当該ソフトウェアはROM等の記録媒体に記録されていてもよいし、ハードウェア(専用回路)で実現されていてもよい。
【0034】
制御部2は、例えば、格納部3から読み出した設定情報に基づいてシーケンス制御を行うことにより、主軸11を回転させる制御と、巻枠21とヘッド部90との相対的な位置関係を変化させる制御とを行う。
【0035】
巻回部10は、主軸11と、端部部材12とを備える。
【0036】
本実施の形態において、主軸11は、後端部において巻回部10の本体に支持されている。主軸11は、前方に突出する片持ち梁状に構成されている。主軸11は、例えば、巻回部10に設けられているモータ(図示せず)の駆動力により、径方向に回転する。本実施の形態においては、主軸11は、導線Lを巻き上げる際には、
図1に矢印R1で示される方向に回転するが、これに限られない。
【0037】
主軸11には、巻線20の巻枠21が取り付けられる。巻枠21は、導線Lが巻き付けられる部分であり、例えば樹脂等の絶縁体で構成されている。巻枠21は、主軸11の前方から主軸11の前端部近傍に配置された状態で、主軸11に対して回転しないようにして固定される。すなわち、巻枠21は、主軸11と共に回転する。
【0038】
端部部材12は、トラバース方向において巻枠21の外側(例えば、前側)に配置されている。端部部材12は、主軸11に配置された巻枠21の端部に接触し、トラバース方向において反対側(例えば、後側)にある部位との間で巻枠21を挟み込み、巻枠21を主軸11に固定する。端部部材12は、例えば、主軸11に対して回転しないように固定されており、巻枠21及び主軸11と共に回転する。なお、端部部材12は、巻枠21の後側に配置されている部材であってもよい。
【0039】
トラバース部40は、移動フレーム41と、ボールねじ43と、支持台45と、矯正装置50と、被膜除去装置60と、切断装置80と、ヘッド部90とを備える。トラバース部40は、巻枠21に巻き上げられる導線Lをヘッド部90に向けて導く。本実施の形態において、トラバース部40は、トラバース方向において巻枠21に対するヘッド部90を変位させる。トラバース部40の動作は、制御部2によって、巻回部10の動作と同期して行われるように制御される。
【0040】
移動フレーム41は、例えば、略水平の板状部を有している。移動フレーム41は、支持台45の上方に配置されており、支持台45に対してトラバース方向に変位可能である。移動フレーム41は、レールを介して、支持台45に対してトラバース方向にスライド可能である。本実施の形態においては、トラバース方向が移動方向となるように配置されたボールねじ43によって、移動フレーム41がトラバース方向に変位するように構成されている。なお、ボールねじ43は、制御部2による制御動作(駆動電流の供給など)に従って動作する図示しないモータ等により駆動されるが、これに限られない。
【0041】
移動フレーム41には、矯正装置50と、被膜除去装置60と、切断装置80と、ヘッド部90とが、導線Lの搬送経路に沿ってこの順に配置されている。矯正装置50と、被膜除去装置60と、切断装置80と、ヘッド部90とは、移動フレーム41とともに、トラバース方向に変位可能に配置されている。すなわち、トラバース部40は、巻回部10に対して、ヘッド部90をトラバース方向に変位させることができるように構成されている。
【0042】
なお、本実施の形態において、導線Lは、2本(導線L1,L2)ずつまとめてヘッド部90から巻枠21に送り出される。他方、導線L1,L2の供給源(例えば、導線L1,L2が巻回されたドラムなど)からトラバース部40には、2本の導線L1,L2がそれぞれ引き込まれる。トラバース部40では、2本の導線L1,L2をまとめてヘッド部90から送り出すことができるように設けられている。なお、本実施の形態において、矯正装置50及び被膜除去装置60は、導線L1と導線L2とをそれぞれ別の搬送経路において処理するように構成されており、切断装置80及びヘッド部90は、1つの搬送経路を通る2本の導線Lをまとめて処理するように構成されている。
【0043】
矯正装置50は、移動フレーム41上において最も導線L1,L2の供給源に近い位置(上流側)に配置されている。矯正装置50は、例えば、搬送経路上の導線L1について接触するように配置された複数のローラと、導線L2について接触するように配置された複数のローラとにより、導線L1,L2の巻癖をそれぞれ矯正する。
【0044】
被膜除去装置60は、矯正装置50の後段に配置されている。被膜除去装置60は、除去工具駆動機構61と、ブラシ63と、挟持部65と、中央ローラ69と、除去工具70とを備える。
【0045】
除去工具70は、導線L1,L2のそれぞれの搬送路に沿って設けられている。本実施の形態において、除去工具70は、搬送される導線L1,L2の外周面に除去刃を接触させながら回転することで、導線L1,L2の外周面を覆っている絶縁性のある被膜を除去する。なお、除去工具70の構成はこれに限られるものではない。
【0046】
除去工具駆動機構61は、例えばモータ及びギアなどの駆動力伝達機構を有し、除去工具70を回転させる。
【0047】
ブラシ63は、除去工具70の後段に配置されている。ブラシ63は、搬送される導線L1,L2に接触するように配置されている。導線L1,L2の搬送に伴って、導線L1,L2に沿ってブラシ63が相対的に移動することとなり、導線L1,L2に付着した被膜の削りかす等が除去される。
【0048】
挟持部65は、ブラシ63の後段に配置されている。挟持部65は、例えば搬送経路上の導線L1,L2を挟み込んだまま保持することが可能である。
【0049】
中央ローラ69は、挟持部65の後段に配置されている。中央ローラ69は、挟持部65を経由した導線L1,L2を1つの搬送経路にまとめて(1本に揃えて)後段に送る。
【0050】
被膜除去装置60は、挟持部65により導線L1,L2のそれぞれを挟み込んで保持した状態で、除去工具70を駆動させながら除去工具70を上流側に変位させることにより、搬送される導線L1,L2の一部分の被膜を除去することができる。なお、被膜の除去を行わない部位が搬送される場合には、導線L1,L2に各部がほとんど接触しないように構成されているが、これに限られない。
【0051】
切断装置80は、被膜除去装置60よりも後段側に設けられている。切断装置80は、クランプローラ81と、カッター85とを備える。切断装置80は、導線Lを切断する機能を有する。
【0052】
クランプローラ81は、上下に配置された2つのローラで導線Lを挟むことができるように構成されている。クランプローラ81は、2つのローラにより導線Lを挟んだ状態で、少なくとも一方のローラを回転しないようにロックすることにより、導線Lが搬送経路上で移動しないように固定することが可能である。なお、クランプローラ81は、導線Lにローラを接触させたり導線Lからローラを離間させたりすることができるように構成されており、導線Lを巻き上げている最中には2つのローラを離間させておくように構成されているが、これに限られるものではない。
【0053】
本実施の形態において、クランプローラ81は、導線Lをローラで挟持した状態でそのローラを駆動することにより、導線Lを巻枠21に向けて送り出すことができるように構成されている。例えば、巻き始めとなる導線Lの端部を巻枠21に送り出すために、クランプローラ81が用いられる。なお、これに限られず、クランプローラ81のローラはロックされているかフリーローラとなって従動するかのいずれかの状態をとるように構成されていてもよい。
【0054】
カッター85は、切断刃により搬送経路上の導線Lを挟み切ることができるように構成されている。
【0055】
切断装置80は、導線Lの切断時などに、クランプローラ81で導線Lを挟んで固定する。そして、その状態で、カッター85により導線Lを切断する。これにより、確実に、所定の位置で導線Lを切断することができる。
【0056】
ヘッド部90は、切断装置80の後段に配置されている。ヘッド部90は、ヘッドローラ91と、アクチュエータ95とを備える。ヘッドローラ91は、2本の導線L1,L2が1本に揃えられてなる導線Lを巻枠21に向けて送り出す。
【0057】
本実施の形態において、ヘッドローラ91は、移動フレーム41に軸支された腕部により支持されている。腕部と移動フレーム41との間には、例えば油圧を利用したアクチュエータ95が取り付けられている。すなわち、ヘッドローラ91の位置は、アクチュエータ95により変更可能となっている。本実施の形態においては、アクチュエータ95によりヘッドローラ91の上下方向の位置を変位させることができるように構成されている。アクチュエータ95は、通常の巻回範囲内に導線Lを巻回するとき、巻枠21に供給される導線Lのテンショナーとして機能するといえるが、このような機能を有していなくてもよい。なお、アクチュエータ95としては、例えば、空気圧により作動するエアシリンダが用いられるが、油圧により作動するもの、電磁力により作動するものなど、種々のものを用いることができる。
【0058】
図3は、同主軸11に取り付けられる巻枠21及びヘッドローラ91について説明する斜視図である。
【0059】
本実施の形態において、巻枠21は、トラバース方向において前側にある端部部材12と後端側にある端部板13との間に配置される。巻枠21は、前後両側にある端部間の巻回範囲に導線Lが巻回されるように構成されており、ここに巻回された導線Lが、導線部25となる。すなわち、巻線装置1を用いて製造される巻線20は、巻枠21と、巻枠21の巻回範囲に導線Lを巻き回すことにより形成された導線部25とを有しているものである。
【0060】
巻枠21の前側の端部には、径方向において他の部分よりも突出する2つの突出部22が設けられている。換言すると、2つの突出部22は、例えば、トラバース方向において、端部部材12に近い方の端部に設けられている。2つの突出部22は、周方向において隣り合うように配置されている。突出部22の数は3以上であってもよい。
【0061】
周方向において、2つの突出部22の間には、引出部23が設けられている。引出部23は、端部部材12の外周部の一部であり、突出部22よりも径方向に凹んだ部分である。引出部23は、後述のように引出ループ部27を形成する際に巻回範囲から引き出されたり巻回範囲に引き込まれる導線Lが通過する部位となる。
【0062】
端部部材12は、巻枠21の端部を覆うような板状部材である。なお、端部部材12の形状は、これに限られない。端部部材12の前側の面には、線掛部14と、傾斜部17と、ガイド18とが設けられている。
【0063】
線掛部14は、トラバース方向において巻枠21の外側に設けられており、主軸11と共に回転する。本実施の形態において、線掛部14は、例えば、主軸11の回転軸付近に設けられている。線掛部14は、例えば、トラバース方向が高さ方向となる円柱形状に形成されているが、これに限られない。線掛部14は、径方向に露出する外周面を有し、当該外周面にヘッド部90から送り出される導線Lを掛けることができるように構成されている。すなわち、線掛部14の外周面のうち、前面から見て、引出部23から離れた位置にある部位(
図3において下側にある部位)は、径方向に露出している。径方向において、当該部位と引出部23との距離は、引出部23と主軸11の回転軸との距離よりも大きくなっている。
【0064】
なお、本実施の形態において、線掛部14の外周面には、周方向に並ぶ複数の凹部15が形成されている。それぞれの凹部15は、導線Lが掛けられる外周面から内側(主軸11の回転軸に近い側)に凹んでいる。なお、凹部15は、導線Lを切断可能な工具等(例えば、ニッパなど)を差し込んで線掛部14に掛けられている導線Lを切断することができるような大きさ、深さ、又は形状を有していればよい。
【0065】
傾斜部17は、引出部23の近くであって、径方向において引出部23と線掛部14との間に位置している。傾斜部17は、径方向において引出部23から線掛部14に近づくにつれて、トラバース方向において巻線20の巻回範囲から離れるような傾斜面を有している。
【0066】
また、本実施の形態において、ガイド18は、傾斜部17の傾斜面の一部から、トラバース方向に突出する形状を有している。すなわち、ガイド18は、傾斜面の一部から、巻線20の巻回範囲から離れる方向に突出している。ガイド18は、引出部23の近傍に設けられている。
【0067】
傾斜部17は、後述のように引出ループ部27を形成する際に巻回範囲から引き出されたり巻回範囲に引き込まれる導線Lと擦れ合う部位となる。傾斜部17が引出ループ部27を形成する導線Lと擦れ合うので、導線Lの外周面が損傷を受けにくくなる。ガイド18は、傾斜部17の傾斜面との間で、巻回範囲から引き出されたり巻回範囲に引き込まれる導線Lが所定の位置を通過するように規制し、引出ループ部27が形成されるときに導線Lが傾斜面や導線L同士と擦れ合う量を少なくする。したがって、導線Lの外周面が損傷を受けにくくなる。
【0068】
なお、線掛部14、傾斜部17、及びガイド18は、例えば樹脂で構成されており、導線Lに損傷が生じにくいようになっているが、これに限られるものではない。
【0069】
なお、傾斜部17やガイド18は、必ずしも設けられていなくてもよい。また、線掛部14の形状は円柱状に限られるものではなく、凹部15の数は1つであってもよいし、凹部15が設けられていなくてもよい。傾斜部17やガイド18の形状、線掛部14の形状、大きさ等は、必要とされる口出線の長さなどに応じて適宜設定すればよい。例えば、長い口出線を形成する必要があるときには、線掛部14を大径化したり、導線Lが掛けられる位置を径方向において離れた位置としたりすればよい。
【0070】
図4は、同巻線装置1を用いた巻線の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図5は、同巻線装置1の動作の一例を平面視にて説明する第1の図である。
図6は、同巻線装置1の動作の一例を平面視にて説明する第2の図である。
図7は、同巻線装置1の動作の一例を側面視にて説明する第1の図である。
図8は、同巻線装置1の動作の一例を側面視にて説明する第2の図である。
【0071】
次に、このような巻線装置1を用いた巻線の製造方法の一例について説明する。
図5から
図8において示されている、
図4に示されるいくつかのステップのそれぞれと同一のステップの符号が付されている図は、当該ステップにおける巻線装置1の状態を示すものである。なお、
図4におけるステップS1は、
図5及び
図7のそれぞれにおいて、ステップS1A,S1Bに対応する。
【0072】
図5及び
図6において、それぞれの状態におけるトラバース方向におけるヘッド部90の位置(ヘッド部90から送り出される導線Lの位置)を、支持台45の後端部との距離で示す。
【0073】
なお、本実施の形態において、巻線装置1により巻線20が製造される場合行われる以下のような巻線装置1の動作は、制御部2の制御に基づいて自動的に行われる。このとき、制御部2は、予め設定された、導線部25の巻数(導線Lの長さなどであってもよい)等の設定情報を用いて制御を行う。このような設定情報は、例えば、上述のように、予め格納部3に格納されているものであり、所定のスペックどおりの巻線20が製造されるように設定されたものであるが、これに限られない。本実施の形態において、制御部2は、巻線20の導線部25の長さに関する制御を、主軸11の回転回数(又は、回転角度の積算値などであってもよい)及び導線部25の径方向の大きさなどに基づいて行うが、これに限られるものではない。
【0074】
(ステップS1)まず、巻回部10に巻枠21及び端部部材12が取り付けられて、導線Lの巻き上げが開始される。このとき、導線Lの巻き上げが開始される前には、例えば、作業者による作業が行われる。すなわち、導線部25の端部となる導線Lの端部を例えば巻枠21の後側の端部の近傍に固定させる作業や、主軸21に導線Lを巻き付けて、導線部25の巻き始め部分を作成する作業などが行われる。
【0075】
本実施の形態において、導線Lの巻き上げは、トラバース部40のヘッド部90を巻回範囲に対応する幅で変位させながら、主軸11を回転させることにより行われる。
図5において、巻枠21における巻回範囲は、寸法d0で示されている。すなわち、ステップS1においては、
図5の上段の図(ステップS1A)及び中段の図(ステップS1B)に示されるように、ヘッド部90が、巻回範囲d0内において最も後方となる寸法D1で示される位置と、巻回範囲d0内において最も前方となる寸法D2で示される位置との間で、主軸11の回転に伴って変位する。寸法D1と寸法D2との差は、寸法d0である。このようにトラバース方向においてヘッド部90を変位させながら導線Lが巻枠21に巻き付けられることにより、トラバース方向に沿って巻き厚が均一となる導線部25が形成される。
【0076】
なお、ステップS1において、巻き始めからの主軸11の回転数(回転した回数)が第1の所定量に達した場合に、被膜除去動作が実行される。換言すると、制御部2は、主軸11の回転数が所定量に達したことを検知した場合に、被膜除去動作を実行させる。具体的には、導線Lの線上において巻線20の口出線の端部となるべき部分が被膜除去装置60に到達した段階で、被膜除去動作が実行される。被膜除去動作が行われるとき、主軸11は停止され、挟持部65により導線L1,L2のそれぞれを挟み込んで保持した状態で除去工具70によって被膜が除去される。被膜を除去する範囲は、適宜設定されればよい。被膜除去動作が行われると、主軸11の回転が再開され、導線Lの巻き上げが行われる。
【0077】
(ステップS2)その後、主軸11の回転数が第2の所定量に達した場合に、引出ループ部27の形成が行われる。すなわち、まず、
図7の中段に示されているように主軸11の回転が停止された後、トラバース部40が変位する。トラバース部40は、ヘッド部90が、
図5の中段に示されているような巻回位置から
図5の下段に示されているような第1引出位置に位置するように、変位する。本実施の形態において、主軸11の回転が停止された状態でヘッド部90が第1引出位置に移動するように構成されているが、これに限られるものではない。
【0078】
すなわち、主軸11の回転数が第2の所定量に達した場合には、主軸11は、巻回されている導線Lがヘッド部90の変位に伴って引出部23を通るように、引出部23がヘッド部90の方を向くような姿勢で停止する。そして、トラバース方向において、ヘッド部90を巻回範囲d0の最前部に導線Lを送り出すための位置(寸法D2で示される位置)から、
図5の下段において示される第1引出位置(寸法D3で示される位置)まで、距離d1(D3からD2を引いた距離)だけ移動させる。そうすると、導線Lが、引出部23を通り、巻回範囲d0から外側(前方)に引き出される。その後、主軸11の回転が再開される。
【0079】
なお、第2の所定量は、およそ、第1の所定量から、被膜除去装置60から巻線20までの導線Lの搬送路上の長さから引出ループ部27の長さの半分を引いた長さに対応する量を加えた量である。第2の所定量は、巻き始めから引出線までの巻線の巻数に対応する量であるといえる。
【0080】
(ステップS3)次に、主軸11の回転数が第3の所定量に達した場合に、トラバース部40のヘッド部90が巻回範囲d0よりも外側にある第2引出位置に変位する。第2引出位置は、トラバース方向において第1引出位置よりも巻枠21に近い位置である。本実施の形態において、主軸11の回転が停止された状態でヘッド部90が移動するように構成されているが、これに限られるものではない。
【0081】
すなわち、主軸11の回転数が第3の所定量に達した場合には、
図8の上段において示されるように、主軸11は、引出部23がヘッド部90がある向きとは反対の側(
図8において左方向)を向くような姿勢で停止する。そして、トラバース方向において、ヘッド部90を、第1引出位置から、
図6の上段において示される第2引出位置(寸法D4で示される位置)まで移動させる。第2引出位置は、トラバース方向において、線掛部14の前端よりも巻枠21に近い位置であって、線掛部14の外周面が径方向に露出している位置にある。第2引出位置は、巻回範囲d0から外側(前側)に距離d2だけ離れた位置である。換言すると、ステップS3では、距離d1から距離d2を引いた距離だけ、ヘッド部90が後方に変位する。このようにヘッド部90が変位するのに伴って、巻回範囲d0から外側に引き出された導線Lは、傾斜部17の表面に接触しながら線掛部14に寄っていく。
【0082】
このようにヘッド部90が第2引出位置に変位した後に、主軸11が回転する。そうすると、主軸11の回転に伴って、導線Lが、線掛部14の外周面に巻き付けられていく。
【0083】
なお、第3の所定量と第2の所定量との差は半回転未満であり、例えば、4分の1回転程度であるが、これに限られない。すなわち、このように巻回範囲d0から外側に導線Lを引き出して線掛部14に導線Lを巻き付ける局面において、引出部23を通して導線Lを引き出すために第1引出位置までヘッド部90を変位させた後は、速やかに、第2引出位置までヘッド部90の位置を戻して、導線Lが線掛部14に掛かるようにすればよい。
【0084】
(ステップS4)ヘッド部90が第2引出位置にある状態で、主軸11の回転数が第4の所定量に達した場合に、トラバース部40のヘッド部90が、引入位置まで変位する。引入位置は、巻回範囲d0の前端よりも後方の位置、すなわち巻枠21のうち端部部材12に近い側にある端部よりも、他方の端部に向かう方向に離れている位置である。本実施の形態において、主軸11の回転が停止された状態でヘッド部90が引入位置に移動するように構成されているが、これに限られるものではない。
【0085】
すなわち、主軸11の回転数が第4の所定量に達した場合には、
図8の中段において示されるように、主軸11は、巻回されている導線Lがヘッド部90の変位に伴って引出部23を通るように、引出部23がヘッド部90の方を向くような姿勢で停止する。そして、トラバース方向において、ヘッド部90を、第2引出位置から、
図6の中段において示される引入位置(寸法D5で示される位置)まで移動させる。本実施の形態において、引入位置は、トラバース方向において、巻回範囲d0の前端から後側に距離d3だけ離れた位置である。換言すると、ステップS4では、寸法D4から寸法D5を引いた距離d3だけ、ヘッド部90が後方に変位する。距離d3は、例えば巻回範囲の幅d0よりも大きいが、これに限られるものではない。このようにヘッド部90が変位するのに伴って、線掛部14に掛けられた導線Lは、傾斜部17の表面に接触しながら引出部23に寄せられ、引出部23を通って巻回範囲d0に引き入れられる。その後、主軸11の回転が再開される。
【0086】
なお、第4の所定量は、およそ、第2の所定量に1回転が加えられた量である。第4の所定量は、引出部23から外側に引き出されて端部部材12に巻き付けられた後、引出部23から内側に引き入れられる導線Lにより構成される引出ループ部27の長さ(端部部材12の形状にも対応する)に対応する量であるといえる。
【0087】
(ステップS5)主軸11の回転数が第5の所定量に達した場合に、トラバース部40のヘッド部90が巻回範囲d0よりの内側の巻回位置に変位する。巻回位置は、例えば、トラバース方向において前側にある巻枠21の端部に近い位置である。本実施の形態において、主軸11の回転が停止された状態でヘッド部90が移動するように構成されているが、これに限られるものではない。
【0088】
すなわち、主軸11の回転数が第5の所定量に達した場合には、
図8の下段において示されるように、主軸11は、引出部23がヘッド部90がある向きとは反対の側(
図8において左方向)を向くような姿勢で停止する。なお、引出部23が上方を向くような姿勢で停止するようにしてもよい。そして、トラバース方向において、ヘッド部90を、引入位置から、
図6の下段において示される巻回位置(寸法D2で示される位置)まで移動させる。巻回位置は、例えば、トラバース方向において巻回範囲d0の一端側に導線Lを巻き付けることができる位置である。このようにヘッド部90が巻回位置に変位した後に、主軸11が回転する。そうすると、主軸11の回転に伴って、新たな巻線が巻枠21の端部から巻き始められる。
【0089】
なお、第5の所定量と第4の所定量との差は半回転未満であり、例えば、4分の1回転程度であるが、これに限られない。すなわち、このように引出部23を通して巻回範囲d0の内側に導線Lを引き入れた後は、速やかに、引入位置から巻回位置までヘッド部90の位置を戻して、巻き上げを再開するようにすればよい。
【0090】
(ステップS6)引出ループ部27を形成した後に、巻き上げが再開される。ステップS1と同様に、主軸11の回転に伴って、トラバース部40のヘッド部90が巻回範囲d0に対応する幅で変位されることで、導線部25が形成される。
【0091】
なお、ステップS6において、巻き始めからの主軸11の回転数が第6の所定量に達した場合に、被膜除去動作が実行される。具体的には、導線Lの線上において巻線20の巻き終わりの端部となるべき部分が被膜除去装置60に到達した段階で、被膜除去動作が実行される。被膜除去動作は、ステップS1と同様に行われるようにしてもよいし、異なっていてもよい。被膜除去動作が行われると、主軸11の回転が再開され、導線Lの巻き上げが行われる。
【0092】
(ステップS7)主軸11の回転数が第7の所定量に達した場合には、切断装置80により、導線Lの切断(カット動作)が行われる。具体的には、ステップS6において被膜が除去された部分の中央部がカッター85に到達した段階で、カット動作が行われる。換言すると、第7の所定量は、第6の所定量に、被膜除去装置60からカッター85までの導線Lの搬送路上の長さに対応する主軸11の回転数を加えた量である。カット動作が実行されると、主軸11の回転が再開される。カッター85よりも下流側にある導線Lが巻き終わる(作業者による巻き終わりの作業を行うことができるようになる)まで(例えば、主軸11の回転数が第8の所定量に達するまで)、主軸11が回転する。
【0093】
このように導線Lが巻き終わるまで主軸11が回転すると、主軸11が停止する。作業者は、導線Lの巻き終わりの端部を引き出す作業などを行う。また、作業者は、引出ループ部27を途中で切断する。これにより、巻き上げ開始時の端部と、巻き上げ途中の口出線と、巻き終わりの端部とのそれぞれを有する巻線20が完成する。
【0094】
図9は、同線掛部14に引出ループ部27が掛けられている状態の一例を示す図である。
【0095】
本実施の形態において、線掛部14の外周面のうち、引出ループ部27を形成する導線Lが掛けられる部位には、線掛部14の周方向に沿って5箇所に凹部15が形成されている。作業者は、線掛部14に掛けられた導線Lを、いずれかの凹部15において切断工具を用いて切断する作業を容易に行うことができる。
【0096】
また、上述のような巻線20の製造時において、被膜除去動作が行われた被膜除去部位28(
図7においてハッチングを付して示す部位)は、線掛部14の外周面に位置するようになっている。換言すると、被膜除去部位28が当該場所に巻き付けられるように、主軸11が巻き始めから第1の所定量だけ回転した時点で被膜除去装置60による被膜除去動作が行われるように設定されている。これにより、引出ループ部27を切断することにより生じる2つの引出線の端部は、すでに被膜が除去された被膜除去部位28となるため、別の工程においてそれぞれの被膜除去動作を行う手間を省略することができる。
【0097】
このように、本実施の形態においては、巻枠21が取り付けられている主軸11を回転させるとともに、トラバース方向において、巻枠21とヘッド部90との相対的な位置関係を変化させることにより、巻枠21に導線Lを巻き付ける巻線装置1を、以下のように動作させることができる。すなわち、巻枠21に導線Lを巻き付けている途中で、トラバース方向において導線Lが巻枠21に巻回される巻回範囲d0よりも外側にある第1引出位置にヘッド部90が位置する。なお、周方向において2以上の突出部22の間にある引出部23を通して導線Lが巻回範囲d0の外側に引き出されるように、ヘッド部90が第1引出位置に位置するように構成されているが、これに限られない。その後、主軸11が回転し、線掛部14に導線Lが掛けられる。そして、トラバース方向において巻回範囲d0の内側に線掛部14に掛けられた導線Lが引き入れられるように、引入位置にヘッド部90が位置する。その後、主軸11を回転させて巻枠21への導線Lの巻き付けが再開される。
【0098】
巻線装置1が上記のように動作するので、口出線を有する巻線20の製造時において、巻始めから巻終わりまで、導線Lを切断することなく巻回することができる。すなわち、巻き終わりまで導線Lを巻回した後に、途中で形成された引出ループ部27を切断することで、口出線を形成することができる。巻き上げ途中における引出ループ部27の形成は、巻線装置1本体の主軸11及びトラバース部40により、巻回範囲d0の外側のスペースに導線Lを巻き付けることで、自動的に行われる。巻始めから巻終わりまで一貫して導線Lを巻き上げることができるので、作業者が常に付き添う必要はなくなる。そのため、作業者は、例えば、他の作業と並列に作業を進めることができるようになる。したがって、製造装置1を用いることにより、容易に、口出線を有する巻線20を製造することができる。
【0099】
口出線は、引出ループ部27を切断することにより、容易に形成することができる。形成される引出ループ部27の長さを予め設定しておき、常に所定の位置で引出ループ部27を切断することにより、個々の引出線の長さを測定することなく、所定の長さの口出線を容易に作成することができる。また、手作業による計測作業を行うことなく適切な長さの口出線を設けることができるので、製造される巻線20のスペックの個体間のばらつきも小さくなる。
【0100】
口出線を、長さの測定などに用いられる特殊な治工具を必要とせずに形成することができる。したがって、より容易に巻線20を製造することができる。
【0101】
(その他)
【0102】
なお、本実施の形態における制御動作は、ソフトウェアで実現してもよい。そして、このソフトウェアをソフトウェアダウンロード等により配布してもよい。また、このソフトウェアをCD-ROMなどの記録媒体に記録して流布してもよい。なお、本実施の形態における、口出線を有する巻線の製造時に巻線装置1を動作させるために用いられるソフトウェアは、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、巻線装置1のコンピュータで実行されるプログラムであって、巻線装置1のコンピュータに、巻枠に導線を巻き付けている途中で、トラバース方向において導線が巻枠に巻回される巻回範囲よりも外側にある引出位置にヘッド部を位置させる第1のステップと、線掛部に導線を掛ける第2のステップと、第2のステップが行われた後に、トラバース方向において巻回範囲の内側に線掛部に掛けられた導線が引き入れられるように第1のステップとは相対的に反対の方向にヘッド部を変位させる第3のステップと、第3のステップが行われた後に、主軸を回転させて巻枠への導線の巻き付けを再開する第4のステップとを実行させるための、プログラムである。
【0103】
なお、以上の実施の形態では、トラバース方向において巻枠の位置が固定されており、ヘッド部が変位することによって巻枠とヘッド部との相対的な位置関係が変化するように構成されているが、これに限られない。例えば、トラバース方向において、ヘッド部の位置が固定されており、巻枠が変位することにより、巻枠とヘッド部との相対的な位置関係が変化するように構成されていてもよいし、巻枠とヘッド部との両方がトラバース方向において変位可能になっていてもよい。
【0104】
線掛部は、必ずしも端部部材に設けられていなくてもよい。例えば、主軸の構成部材の一部分が線掛部となっていてもよい。すなわち、トラバース方向において巻線の巻回範囲の外側に引き出された導線が、主軸の回転に伴って掛かる部位を、広く線掛部と呼ぶことができる。
【0105】
このような構成を有する巻線装置や巻線の製造方法は、変圧器において用いられる巻線の製造に用いられるものに限られない。すなわち、材質を問わず、巻枠に線材を巻き付ける作業を必要とする製品を製造するために広く適用可能である。
【0106】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、又は長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、又は、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、又は、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0107】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、又は、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0108】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、又は、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現されうる。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。また、そのプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。また、そのプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、又は分散処理を行ってもよい。
【0109】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものである。
【0110】
上述の実施の形態の構成そのものに限られず、上述の実施の形態のそれぞれの構成要素について、適宜、他の構成要素と置換したり組み合わせたりしてもよい。また、上述の実施の形態のうち、一部の構成要素や機能が省略されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上のように、本発明にかかる巻線装置及び巻線の製造方法は、口出線を有する巻線を容易に製造することができるという効果を有し、巻線装置及び巻線の製造方法等として有用である。
【符号の説明】
【0112】
1 巻線装置、10 巻回部、11 主軸、12 端部部材、14 線掛部、15 凹部、20 巻線、21 巻枠、22 突出部、23 引出部、90 ヘッド部、L 導線