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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】ブラスト加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24C 9/00 20060101AFI20230417BHJP
   B24C 5/04 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
B24C9/00 J
B24C5/04 Z
B24C9/00 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019180041
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021053759
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】金原 和哉
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-193020(JP,A)
【文献】特開2002-219682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 9/00
B24C 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転軸を有する多軸ロボットと、
前記多軸ロボットのツール取付け部に設けられ、ワークを保持するチャック部と、
研掃材を前方に向かって噴出する噴出口と、
前記チャック部に保持された前記ワークが前記噴出口の前方に配置されるように前記多軸ロボットの駆動を制御するロボット制御部と、
を備え、
前記ロボット制御部は、前記ワークの姿勢及び三次元位置を変えることにより、前記噴出口と対峙して前記研掃材が投射される被投射領域が変更されるようにし、さらに、前記被投射領域ごとに所定の被投射条件で前記研掃材が当たるように、前記多軸ロボットの駆動を制御し、
前記チャック部は、
当該チャック部を貫通する貫通孔と、
前記貫通孔を形成する内面において前記貫通孔の延びる方向に対して直交方向に移動可能に設けられ、ワークを把持する把持位置と当該把持位置から退避した退避位置とに配置される複数のチャック爪と、
前記内面に設けられ、前記チャック爪を収容する爪収容孔と、
前記チャック爪と前記爪収容孔との間の隙間にエアを供給して前記貫通孔へ排出させるエア流通路と、
を備え、
前記貫通孔は、前記チャック爪によって把持された前記ワークに向けて前記研掃材が投射された際、前記貫通孔の一方の開口から流入した前記研掃材を他方の開口から排出するものであることを特徴とするブラスト加工装置。
【請求項2】
前記被投射条件は、前記噴出口と前記被投射領域との距離、前記被投射領域に研掃材が当たる角度、前記被投射領域に研掃材が当たる時間の各要素を少なくとも一つ含む条件であることを特徴とする請求項1に記載のブラスト加工装置。
【請求項3】
前記噴出口は、前記多軸ロボットの設置面よりも下方において、水平方向に向けて前記研掃材が噴出するように設けられていることを特徴とする請求項2に記載のブラスト加工装置。
【請求項4】
前記多軸ロボットが前記ワークを持ち替える際に、当該ワークを仮置きする仮置き台をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のブラスト加工装置。
【請求項5】
前記貫通孔の内面は、耐摩耗性能を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のブラスト加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラスト加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
素形材の表面に付着した鋳物砂やスケール(酸化被膜)等の異物を除去するブラスト加工装置として、従来、インペラの回転に伴う遠心力を利用して研掃材をワークに向けて投射することにより、当該ワークをブラスト加工するショットブラスト装置が知られている(例えば特許文献1参照)。ショットブラスト装置では、ワークが治具に所定の姿勢で保持されており、ワークの姿勢を変更することなく当該ワークに対して、投射口から所定の投射角度で広範囲に研掃材が投射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-167826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ショットブラスト装置によるブラスト加工では、ワークの形状によっては、研掃材が当たりやすい箇所と研掃材が当たりづらい箇所とが生じる。それでも、姿勢が固定されたワークに対して広範囲に研掃材が投射されるため、後者における研掃品質を確保すべく投射時間や研掃材の投射密度等を調整すると、前者において過剰なブラスト加工がなされる。また、ワークによっては、表面に除去対象の異物が付着する程度が不均一となっている場合もある。その場合、異物の付着程度が高い部分に合わせて投射時間や研掃材の投射密度等を調整すると、広範囲に高い加工程度でブラスト加工されるため、異物の付着程度が低い部分で過剰なブラスト加工がなされる。
【0005】
このように、ブラスト加工の程度が不均一となると、ブラスト加工によってワークに生じた残留応力も不均一となってしまい、その不均一な残留応力が開放されて変形が生じやすくなる。特に、ワークが自動車部品である場合、近年では燃費改善を得るべく部品の軽量化をもたらす薄肉化が求められている。また、部品形状も複雑化しつつあり、その形状複雑化によって研掃材が当たりやすい箇所と研掃材が当たりづらい箇所とが形成される。そのため、残留応力の不均一化によって変形が生じやすくなることの問題は、より顕著なものとなっている。
【0006】
そこで、本発明は、ワークに対して均一なブラスト加工を施して、残留応力による変形量を低減できるブラスト加工装置を得ることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、第1の発明のブラスト加工装置では、
複数の回転軸を有する多軸ロボットと、
前記多軸ロボットのツール取付け部に設けられ、ワークを保持するチャック部と、
研掃材を前方に向かって噴出する噴出口と、
前記チャック部に保持された前記ワークが前記噴出口の前方に配置されるように前記多軸ロボットの駆動を制御するロボット制御部と、
を備え、
前記ロボット制御部は、前記ワークの姿勢及び三次元位置を変えることにより、前記噴出口と対峙して前記研掃材が投射される被投射領域が変更されるようにし、さらに、前記被投射領域ごとに所定の被投射条件で前記研掃材が当たるように、前記多軸ロボットの駆動を制御することを特徴とする。
【0008】
第2の発明では、前記被投射条件は、前記噴出口と前記被投射領域との距離、前記被投射領域に研掃材が当たる角度、前記被投射領域に研掃材が当たる時間の各要素を少なくとも一つ含む条件であることを特徴とする。
【0009】
第3の発明では、前記噴出口は、前記多軸ロボットの設置面よりも下方において、水平方向に向けて前記研掃材が噴出するように設けられていることを特徴とする。
【0010】
第4の発明では、前記多軸ロボットが前記ワークを持ち替える際に、当該ワークを仮置きする仮置き台をさらに備えていることを特徴とする。
【0011】
第5の発明では、前記チャック部は、
当該チャック部を貫通する貫通孔と、
前記貫通孔を形成する内面において前記貫通孔の延びる方向に対して直交方向に移動可能に設けられ、ワークを把持する把持位置と当該把持位置から退避した退避位置とに配置される複数のチャック爪と、
前記内面に設けられ、前記チャック爪を収容する爪収容孔と、
前記チャック爪と前記爪収容孔との間の隙間にエアを供給して前記貫通孔へ排出させるエア流通路と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、噴出口の前方において、噴出口から噴出する研掃材が投射されるワーク上の被投射領域が、多軸ロボットにより自由に変更されるため、ブラスト加工を所望する部位を被投射領域とすることができる。また、被投射領域ごとに所定の被投射条件で研掃材が当たるように多軸ロボットの駆動が制御されるため、除去対象の異物の付着状況に応じた研掃材の当て方で異物を除去することができる。そのため、従来のショットブラスト装置と異なり、ワークに対して均一なブラスト加工を施し、残留応力による変形量を低減できる。
【0013】
第2の発明によれば、ワーク上において被投射領域が存在する箇所の状況(表面か、孔や凹部の内面か等)、被投射領域における異物の付着状態に応じて、距離、角度及び当たる時間の少なくともいずれかの要素によって研掃材の当たり方を変えることができる。これにより、多彩なブラスト加工が行える。
【0014】
第3の発明によれば、噴出口から噴出する研掃材が多軸ロボットに降りかかり、多軸ロボットが損傷することを抑制できる。
【0015】
第4の発明によれば、仮置き台にワークを仮置きし、多軸ロボットがワークを把持する箇所を変えて、当該ワークを持ち替えることが可能となる。ワーク上の被投射領域を多軸ロボットによって自由に変更できるとしても、チャック部によるワークの把持部分やチャック部と対峙する箇所等、研掃材が当たりづらい箇所が存在し得る。その場合に、ワークが持ち替えられることにより、当初、研掃材が当たりづらかった箇所も被投射領域としてブラスト加工を施すことできる。これにより、ワーク全体にブラスト加工を施すことができる。
【0016】
第5の発明によれば、チャック部は、貫通孔の内面からチャック爪が出入りすることにより、当該貫通孔に挿入されたワークの被把持部がチャック爪によって把持されたり、解放されたりする。少なくとも研掃材の投射時には、チャック爪の周囲から貫通孔に向けてエアが常時排出されるようにすれば、研掃材や除去された異物等がチャック爪の可動部分に入り込んで、当該可動部分が摩耗したり劣化したりすることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ブラスト加工装置の全体像を示す図。
図2】チャック部を示す断面図。
図3図2において、給排通路の周辺を拡大して示す断面図。
図4】ブラスト加工装置の電気的構成を示すブロック図。
図5】ブラスト加工時における多軸ロボットの動作を示す図。
図6】チャック部に把持されたワークに対するブラスト加工を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態のブラスト加工装置(エアブラスト装置)について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1に示すように、ブラスト加工装置10は、多軸ロボット20と、チャック部30とを備えている。これらは、キャビネット11内部のブラスト加工室12に設けられている。キャビネット11には、ワークW(図5及び図6参照)をブラスト加工室12に取り込むためのワーク取込口13が設けられている。ワーク取込口13は、シャッタ14によって開閉される。シャッタ14は、モータ等の開閉駆動部52によって駆動される。
【0020】
多軸ロボット20は垂直多関節型のロボットであり、より具体的には、6つの関節K1~K6を有する6軸ロボットである。各関節K1~K6は、その回転軸(関節軸)として、第1軸~第6軸A1~A6を有している。本実施形態では、第1軸A1が鉛直方向に延び、多軸ロボット20がブラスト加工室12に設けられた基台15の設置面15aに設置されている。
【0021】
多軸ロボット20の回動基部21は、第1軸A1を回動中心として回動可能とされ、基台15に設置されている。回動基部21には、第1アーム22が連結されている。第1アーム22は、水平方向に延びる第2軸A2(図1では点として示されている。)を回動中心として回動基部21に対して回動可能とされている。第1アーム22には、第2アーム23が連結されている。第2アーム23は、水平方向に延びる第3軸A3(図1では点として示されている。)を回動中心として、第1アーム22に対して回動可能とされている。第2アーム23には、第3アーム24が連結されている。第3アーム24は、第2アーム23との連結方向に延びる第4軸A4を回動中心として第2アーム23に対して回動可能とされている。
【0022】
第3アーム24の先端部には、手首部25が設けられている。手首部25は、水平方向に延びる第5軸A5(図1では点として示されている。)を回動中心として、第3アーム24に対して回動可能とされている。手首部25には、ツール等を取り付けるためのハンド部26が設けられている。ハンド部26は、ツール取付け部に相当する。ハンド部26は、その中心線である第6軸A6を回動中心として手首部25に対してねじり方向に回動可能とされている。
【0023】
各関節K1~K6には、それぞれモータ(サーボモータ、図示略)が設けられている。モータは正逆両方向の回転が可能であり、モータの駆動により原点位置を基準として各関節K1~K6が回転駆動され、それにより6つの各構成要素(回動基部21、第1アーム22、第2アーム23、第3アーム24、手首部25、ハンド部26)が回動する。
【0024】
チャック部30は、ブラスト加工対象となるワークW(後述する図6参照)をチャックして保持するものである。チャック部30は、図2に示すように、多軸ロボット20のハンド部26に設けられている。
【0025】
チャック部30は、チャック支持板部31と、チャック装置40とを備えている。チャック支持板部31は、多軸ロボット20のハンド部26に設けられている。チャック支持板部31は、ハンド部26の先端面26aに対し垂直に起立している。チャック支持板部31が有する一対の平面31a,31bのうち一方の平面31aに、チャック装置40が取付けられている。
【0026】
チャック装置40は、筒状をなすチャック本体部41を有している。チャック本体部41の内側は、本体貫通孔42とされている。本体貫通孔42は、チャック支持板部31においてチャック本体部41が取付けられた平面31aに対して直交する方向に延び、チャック本体部41の全体を貫通している。本体貫通孔42を形成する内面は、研掃材に対する耐摩耗性を有する素材によって形成されたり、当該素材によって保護層が設けられたりして、耐摩耗性能が付与されている。なお、以下では、本体貫通孔42が延びる方向のうち、チャック支持板部31の側を奥側とし、その反対側を入口側とする。
【0027】
チャック本体部41の奥側には、環状をなすピストン室43が設けられている。図3に拡大して示すように、ピストン室43は、本体貫通孔42が延びる方向に沿って延び、当該方向へ移動可能な環状ピストン44が収容されている。環状ピストン44が収容されることにより、ピストン室43は、第1室43aと第2室43bとに区画されている。第1室43aは奥側に配置され、第2室43bは入口側に配置されている。
【0028】
図2及び図3に示すように、チャック本体部41には、第1室43a及び第2室43bにそれぞれエアを給排する給排通路Pa,Pbが設けられている。給排通路Pa,Pbは、チャック支持板部31に設けられたエア通路(図示略)を介してエア給排装置51と接続され、エア給排装置51によってエアが給排される。エア給排装置51は、エア供給とエア排出とを切り換える切換弁やコンプレッサ等のエア供給源とを備えている。
【0029】
環状ピストン44とピストン室43の内面との間はシールリングSによってシールされ、第1室43a及び第2室43bの一方から他方へエアが漏れることが防止されている。そのため、第1室43a及び第2室43bへのエア給排が切り替えられることにより、環状ピストン44が本体貫通孔42の延びる方向に沿って奥側へ移動したり、入口側へ移動したりする。
【0030】
図2に戻り、ピストン室43の入口側には、環状をなす収容空間45が設けられている。収容空間45には、環状をなすリング部材46が設けられている。収容空間45は、本体貫通孔42が延びる方向に沿って延び、リング部材46は同方向に沿って移動可能とされている。リング部材46は、環状ピストン44から収容空間45の側へ突出する環状突出部44aを介して、当該環状ピストン44と連結されている。そのため、環状ピストン44の移動に伴って、リング部材46も本体貫通孔42が延びる方向に沿って移動する。環状突出部44aの周囲もシールリングSによってシールされて、エアが漏れることが防止されている。
【0031】
チャック本体部41の入口側端部には、複数(本実施形態では3つ)のチャック爪47が設けられている。各チャック爪47は、周方向において等間隔に設けられている。なお、図2は断面図であるため、1つのチャック爪47が図示されていない。各チャック爪47は、隙間が1mm以下となるような状態で、爪収容孔48に収容されている。爪収容孔48は、本体貫通孔42を形成する内面に設けられ、本体貫通孔42と収容空間45との間を本体貫通孔42が延びる方向と直交する方向に貫通している。爪収容孔48に収容されたチャック爪47は、当該直交方向に移動可能とされている。
【0032】
各チャック爪47には、その移動方向における反内面側(本体貫通孔42の内面側とは反対側)に、傾斜面47aが形成されている。傾斜面47aは入口側から奥側へ向かって広がるように傾斜している。リング部材46には、当該傾斜面47aと当接する傾斜面46aが形成されている。リング部材46が本体貫通孔42の延びる方向に沿って移動すると、リング部材46の傾斜面46aとチャック爪47の傾斜面47aとの当接作用により、チャック爪47は当該方向に直交する方向に沿って移動する。環状ピストン44が奥側の移動端まで移動すると、チャック爪47は本体貫通孔42の内面から突出する位置に配置される。環状ピストン44が入口側の移動端まで移動すると、チャック爪47は突出位置から内面側へ退避した位置に配置される。
【0033】
図2には、エア給排装置51により、第1室43a(図3参照)にエアが供給されるとともに第2室43b(図3参照)からエアが排出される状態に切り換えられ、環状ピストン44が入口側の移動端に移動して各チャック爪47が退避位置に配置された状態を示している。チャック部30によってブラスト加工対象のワークWをチャックする場合には、この状態で、本体貫通孔42にその入口側からワークWの被把持部を挿入する。図6に示すように、ワークWに筒状部Wa,Wbが設けられている場合では、その筒状部Wa,Wbが被把持部とされる。
【0034】
ワークWの被把持部を本体貫通孔42に挿入した後、エアの給排を切り換え、第1室43aからエアが排出され、第2室43bにエアを供給する。すると、図6に示すように、環状ピストン44は奥側の移動端に移動し、各チャック爪47が突出位置に配置される。これにより、ワークWの被把持部(第1筒状部Wa)が各チャック爪47によって把持される。チャック爪47の突出位置は把持位置に相当する。
【0035】
図2に戻り、チャック本体部41には、収容空間45にエアを供給するエア供給通路Pcが設けられている。エア供給通路Pcには、ブラスト加工中において、チャック支持板部31に設けられたエア通路(図示略)を介して、エア給排装置51によってエアが常時供給される。収容空間45にエアが供給されると、収容空間45に開口する爪収容孔48とチャック爪47との間の隙間から本体貫通孔42に向けてエアが排出される。エア流通路は、エア供給通路Pc、チャック支持板部31に設けられたエア通路(図示略)及び収容空間45を含んで構成されている。
【0036】
チャック部30において、チャック支持板部31には、本体貫通孔42の奥側と対峙する箇所に、板部貫通孔32が設けられている。板部貫通孔32は、本体貫通孔42が延びる方向に沿って形成され、一対の平面31a,31bを貫通している。板部貫通孔32は、本体貫通孔42と連通している。本体貫通孔42には、研掃材による摩耗防止用の保護筒体33が設けられている。保護筒体33は、チャック支持板部31においてチャック装置40が設けられた平面31aとは反対側の平面31bから突出している。
【0037】
チャック装置40、チャック支持板部31及び保護筒体33は、多軸ロボット20のハンド部26とともに、耐摩耗用の保護カバー34によって覆われている。保護カバー34は、一対の開口部35,36を有している。第1開口部35は、チャック装置40の本体貫通孔42の入口側開口と対峙する箇所で開口している。第1開口部35には、図6に示すように、チャック部30がワークWを把持すべく被把持部(第1筒状部Wa)が本体貫通孔42に挿入される際に、当該被把持部が挿入される。第2開口部36は、本体貫通孔42の延びる方向において第1開口部35とは反対側に設けられ、保護筒体33の開口と対峙する箇所で開口している。そのため、チャック部30には、第1開口部35、本体貫通孔42、保護筒体33の筒内及び第2開口部36の各要素によって、一方向に沿ったチャック部貫通孔37が形成されている。
【0038】
図1に戻り、ブラスト加工装置10は、多軸ロボット20及びチャック部30の他に、研掃材噴出ノズル16と、研掃材搬出装置17と、仮置き台18とを備えている。これらは、キャビネット11内のブラスト加工室12に設けられている。
【0039】
研掃材噴出ノズル16は、供給管Tを介して研掃材供給装置53と接続されている。研掃材供給装置53から排出され、圧縮エアによって輸送された研掃材は、研掃材噴出ノズル16の開口部である噴出口16aから噴出する。研掃材は、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ等の金属粒、ガラス粒、砂、合成樹脂やクルミ等を粉砕した粒等を素材としており、その種類を問わない。研掃材には、水等の液体を混合させてもよい(湿式ブラスト)。研掃材噴出ノズル16は、多軸ロボット20を設置する基台15において、多軸ロボット20の設置面15aよりも下方の所定位置に設けられている。研掃材噴出ノズル16は、多軸ロボット20の基本姿勢(図1に示す状態)において、第6軸A6が伸びる方向であって、かつ水平方向に向けて研掃材が噴出するように、位置決めされた状態で固定されている。そのため、噴出口16aから噴出する研掃材は、水平方向にのみ噴出するようになっている。
【0040】
研掃材搬出装置17は、例えばスクリュー式コンベア等である。ただ、研掃材を搬出する機能を有するものであればその構成は任意である。研掃材搬出装置17は、ブラスト加工室12の下端部に設けられ、噴出口16aから噴出してブラスト加工室12の下端部に溜まった研掃材を室外に搬出する。
【0041】
仮置き台18は、ブラスト加工時に、ワークWの持ち替えのために当該ワークWが仮置きされる。例えば、図6に示すように、チャック部30によって把持された場合において、チャック部30と対峙する平面Wcを有するワークWは、当該平面Wcに研掃材を当てることが困難となる。チャック部貫通孔37に挿入されてチャック爪47によって把持されている第1筒状部Waの表面についても、同様に研掃材を当てることは困難である。そのような場合に、チャック部30によって把持する被把持部を、当初の被把持部(第1筒状部Wa)と異なる箇所に持ち替えるために、ワークWが仮置き台18に仮置きされる。
【0042】
次に、ブラスト加工装置10の電気的構成を、図4を参照して説明する。図4に示すように、ブラスト加工装置10は、コントローラ54を有している。コントローラ54は、CPU等を有する周知のマイクロコンピュータを主体に構成され、動作プログラムを記憶する記憶部55を備えている。コントローラ54は、予め設定された動作プログラムによって、ブラスト加工装置10の全体を制御する。
【0043】
コントローラ54は、多軸ロボット20の動作を制御するロボット制御部56を有している。ロボット制御部56は、動作プログラムに基づいて、多軸ロボット20の各関節K1~K6に設けられたモータ(図示略)の駆動を制御する。これにより、多軸ロボット20は、ワークWに対するブラスト加工を施すために必要な各種ハンドリング動作を行う。例えば、ブラスト加工室12にワークWを取り込んだり、取り込んだワークWにおける研掃材の被投射領域(例えば図6に示す被投射領域R参照)を様々に変更したり、ワークWを持ち替えたり、ブラスト加工が終了したワークWをブラスト加工室12の外へ排出したりする。被投射領域Rを変更する場合は、ワークWの姿勢や三次元位置が多軸ロボット20によって変えられることによって行われる。
【0044】
なお、被投射領域Rとは、ワークW上のブラスト加工対象部位(例えば表面全域、表面の一部領域、筒状部分や凹部等の内面)のうち、噴出口16aから水平方向に噴出する研掃材が当たる局所領域を意味する。被投射領域Rは、基本的には、ブラスト加工対象部位よりも狭いが、所望するブラスト加工の内容によっては、両者が同じとなる場合もある。
【0045】
多軸ロボット20の動作プログラムは、上記の各種動作を行うものとして予め設定されたり、ロボット制御部56に接続されたティーチングペンダント(図示略)を用いて設定されたりする。この場合、ワークWの形状、ブラスト加工対象部位における個々の被投射領域Rにおける異物I(図6参照)の堆積状態(厚さのばらつき度合い等)を踏まえ、所望するブラスト加工がされるような研掃材の被投射条件で研掃材が当たるように設定される。
【0046】
被投射条件とは、例えば、噴出口16aとワークW上の想定された被投射領域Rとの距離、被投射領域Rに研掃材が当たる角度、被投射領域Rに研掃材が当たる時間の各要素を少なくとも一つ含む条件である。距離が短ければその分だけ被投射領域Rは狭くかつ研掃材が強く当たり、距離が長ければその分だけ被投射領域Rは広範囲となりかつ研掃材が弱く当たる。高い角度で研掃材が被投射領域Rに当たることは、より厚い層の異物Iを除去したり、平面部分に付着した異物Iを除去したりすることに適している。低角度で研掃材が被投射領域Rに当たることは、より薄い層の異物Iを除去したり、筒状部分や凹部等の内面に付着した異物Iを除去したりすることに適している。研掃材が被投射領域Rに当たる時間が長ければ、その分だけ異物Iが除去される程度も高まり、当たる時間が短ければ、その分だけ異物Iが除去される程度も低減する。
【0047】
コントローラ54は、エア給排装置51と接続されている。コントローラ54により、給排通路Pa,Pbへのエア給排が制御される。コントローラ54は、チャック爪47を退避位置に配置してワークWを非把持状態とする場合は、ピストン室43の第1室43aにエアが供給されるように、給排通路Pa,Pbへのエア給排を切り換える。逆に、チャック爪47を把持位置に配置してワークWを把持する場合は、第2室43bにエアが供給されるように、給排通路Pa,Pbへのエア給排を切り換える。
【0048】
コントローラ54は、シャッタ14の開閉駆動部52と接続されている。コントローラ54により、シャッタ14の開閉が制御される。コントローラ54は、ブラスト加工開始時にワークWをブラスト加工室12に取り込んだり、加工終了時にワークWをブラスト加工室12から排出したりする場合には、シャッタ14が開く。また、噴出口16aから研掃材を噴出してワークWをブラスト加工する際には、シャッタ14を閉じる。
【0049】
コントローラ54は、研掃材供給装置53と接続されている。コントローラ54により、研掃材供給装置53からの研掃材の供給の開始、停止が制御される。コントローラ54は、ワークWがブラスト加工室12に取り込まれ、シャッタ14が閉じられた後、当該ワークWにブラスト加工を施すべく、研掃材供給装置53を駆動して研掃材の供給を開始する。これにより、研掃材噴出ノズル16の噴出口16aから研掃材が噴出する。ワークWに対してブラスト加工が終了すると、研掃材供給装置53の駆動を停止して、研掃材の噴出を停止する。
【0050】
次に、以上のように構成されたブラスト加工装置10を使用してワークWに対してブラスト加工を行う場合の動作について、図5及び図6を参照して説明する。ブラスト加工装置10の動作制御の主体は、特に説明しない限りコントローラ54である。
【0051】
ここでは、ブラスト加工の対象となるワークWの一例として、鋳造によって形成され、脱型(型ばらし)後の素形材を想定する。その形状は、図6に示すように、互いに反対方向へ突出する一対の筒状部Wa,Wbを有し、両筒状部Wa,Wbの筒内部が連通しているものとする。このワークWでは、表面全域及び筒内面に鋳物砂やスケール(酸化被膜)等の異物Iが存在しているため、表面全域及び筒内面がブラスト加工対象部位とされ、当該部位の異物Iを除去する。
【0052】
図5に示すように、作業員は、脱型後のワークWを、ブラスト加工室12の外に設置されたワーク載置台19に載置する。その後、作業員がブラスト加工装置10に対して動作開始を指令する操作を行うと、キャビネット11のシャッタ14が開かれ、ワーク取込工程を実行する。ワーク取込工程では、基本姿勢で待機中の多軸ロボット20Aは、図5に多軸ロボット20Bとして示すように、チャック部30をワーク取込口13から外に出し、ワークWを把持して持ち上げる。その後、多軸ロボット20がワークWをブラスト加工室12に取り込むみ、シャッタ14を閉じる。
【0053】
続いて、ワーク研掃工程を実行する。ワーク研掃工程では、研掃材を噴出口16aから噴出させる。それと合わせて、多軸ロボット20は、図5に多軸ロボット20Cとして示すように、ワークWを噴出口16aの前方に配置し、そのハンドリングにより、噴出する研掃材を予め設定された被投射領域Rを変更しつつ、個々の被投射領域Rについてそれぞれの被投射条件にしたがってワークWに当てる。ワークWの筒内に研掃材を当てる場合には、図6に示すように、噴出口16aから噴出する研掃材が、ワークWの筒状部Wa,Wbに入り込み、想定した被投射領域Rに、設定された被投射条件で当たるように多軸ロボット20が駆動する。これにより、ワークWの表面や筒内に研掃材が当たって異物Iが除去される。ワークWの筒状部Wa,Wb内に入り込んだ研掃材は、チャック部貫通孔37を通過して、第2開口部36から排出される。
【0054】
この時、チャック部30は保護カバー34によって覆われているため、チャック部30が研掃材による摩耗から保護される。筒内に入り込んだ研掃材は、チャック部貫通孔37を通過してチャック部30から排出される。本体貫通孔42を形成する内面には耐摩耗性が付与され、チャック部貫通孔37の第2開口部36の側には保護筒体33が設けられている。そのため、チャック部貫通孔37の内面が研掃材による摩耗から保護され、また、保護カバー34内に研掃材が入り込むことも防止されている。
【0055】
また、ワーク研掃工程において、チャック部貫通孔37に挿入されてチャック爪47によって把持された第1筒状部Wa、チャック部30と対峙する平面Wcに研掃材を当てることは、投射条件を調整しても困難である。そのため、これらの部位にもブラスト加工を施す場合には、チャック部30によって把持する被把持部を、当初の第1筒状部Waから第2筒状部Wbへ変更して持ち替える。多軸ロボット20は、その持ち替え時に、図5に多軸ロボット20Dとして示すように、ワークWをいったん仮置き台18に仮置きする。その後、仮置き台18の下方に突出した第2筒状部Wbを把持することで、ワークWを持ち替え、当該ワークWを噴出口16aの前方に配置して、噴出する研掃材をワークWに当てる。
【0056】
ワークWに対してあらかじめ設定されたブラスト加工が終了すると、研掃材供給装置53の駆動を停止し、研掃材の噴出を停止する。次いで、ワーク排出工程を実行する。ワーク排出工程では、シャッタ14を開き、多軸ロボット20は、ブラスト加工済みのワークWを把持したチャック部30をワーク取込口13から外に出し、ワーク載置台19に置く。これら一連の工程(ワーク取込工程、ワーク研掃工程、ワーク排出工程)を経ることにより、ワークWに対するブラスト加工が実施される。
【0057】
以上詳述したように、本実施形態のブラスト加工装置10によれば、次のような作用効果を得ることができる。
【0058】
(1)噴出口16aの前方において、噴出口16aから噴出する研掃材が投射されるワークW上の被投射領域Rが、多軸ロボット20により自由に変更されるため、ブラスト加工を所望する部位を被投射領域Rとすることができる。また、被投射領域Rごとに所定の被投射条件で研掃材が投射されるため、除去対象の異物Iの付着状況に応じた研掃材の当て方で異物Iを除去することができる。例えば、ブラスト加工対象部位における異物Iの堆積状況が不均一な場合は、異物Iの堆積が多い箇所では、投射距離を短くしたり投射時間を長くしたりしてより強く研掃材が当たるようにし、異物Iの堆積が少ない箇所は、逆に、研掃材がより弱く当たるように投射を調整できる。そのため、従来のショットブラスト装置と異なり、ワークWに対して均一なブラスト加工を施し、残留応力による変形量を低減できる。
【0059】
(2)ワークW上において被投射領域Rが存在する箇所の状況(表面か、孔や凹部の内面か等)、被投射領域Rにおける異物Iの付着状態に応じて、被投射条件の要素を変えることによって研掃材の当たり方を変えることができる。噴出口16aとの距離によって被投射領域Rの範囲や当たる強度を変えたり、研掃材が当たる角度によって孔の奥に研掃材を当てたり、研掃材が当たる時間によって異物除去の程度を変えたりして、多彩なブラスト加工を行うことができる。
【0060】
(3)研掃材噴出ノズル16を多軸ロボット20の上に配置したり、多軸ロボット20の側に向けて噴出するように配置したりすると、噴出した研掃材が多軸ロボット20に降りかかり、多軸ロボット20を損傷するおそれがある。多軸ロボット20の設置面15aよりも下方において、水平方向に向けて研掃材が噴出することにより、多軸ロボット20に研掃材が降りかかることが防止され、その損傷を抑制できる。
【0061】
(4)ブラスト加工において、仮置き台18にワークWを仮置きし、多軸ロボット20がワークWを把持する箇所を変えて、当該ワークWを持ち替えることが可能となる。ワークW上の被投射領域Rを多軸ロボット20によって自由に変更できるとしても、チャック部30によるワークWの把持部分やチャック部30と対峙する平面Wc等、ワークWには研掃材が当たりづらい箇所が存在し得る。その場合に、ワークWが持ち替えられることにより、当初、研掃材が当たりづらかった箇所も被投射領域Rとしてブラスト加工を施すことできる。これにより、ワークW全体にブラスト加工を施すことができる。
【0062】
(5)チャック部30は、本体貫通孔42の内面からチャック爪47が出入りすることにより、当該本体貫通孔42に挿入されたワークWの被把持部(第1筒状部Wa)がチャック爪47によって把持されたり、解放されたりする。研掃材の投射時には、チャック爪47の周囲から本体貫通孔42に向けてエアが常時排出されている。そのため、研掃材や除去された異物等がチャック爪47の可動部分(チャック爪47と爪収容孔48との間の隙間)に入り込んで、当該可動部分が摩耗したり劣化したりすることを抑制できる。
【0063】
(6)チャック部30では、チャック装置40、チャック支持板部31及び保護筒体33が、多軸ロボット20のハンド部26とともに、保護カバー34によって覆われている。これにより、ブラスト加工時に、これら各部位に研掃材が当たることから保護され、損傷したり劣化したりすることを抑制できる。
【0064】
(7)多軸ロボット20により、ワークW上のブラスト加工を所望する部位を被投射領域Rとすることができるため、チャック部30のチャック爪47によって把持可能な箇所があるワークWであれば、その形状を問わず、ブラスト加工することができる。従来のショットブラスト装置では、ワークWの形状に応じた治具を準備し、異なる形状のワークWをブラスト加工する場合には、治具も交換する必要があった。本実施形態のブラスト加工装置10では、ワークWの形状に応じた治具は不要であるし、治具の交換も不要であるため、構成部品の数を減らすことができるとともに、治具交換という作業も不要となって作業効率も高まる。
【0065】
なお、本発明のブラスト加工装置は、上記実施形態のブラスト加工装置10の他、例えば次のような別の構成を採用することもできる。
【0066】
(a)上記実施の形態では、チャック部30として、チャック爪47が本体貫通孔42の内面において出入りすることによりワークWを把持したり、解放したりする構成を採用した。これに代えて、例えば、複数指のグリッパでワークWを掴んだり、吸着グリッパでワークWを吸着したりして、ワークWをチャックする構成としてもよい。
【0067】
(b)上記実施の形態では、筒状部Wa,Wbを有するワークWの筒内面をブラスト加工の対象部位とすべく、チャック部30にチャック部貫通孔37が形成され、研掃材の導入側とは反対側から研掃材が排出される構成を採用している。これに代えて、チャック装置40の本体貫通孔42を有底の孔としてもよい。
【0068】
(c)上記実施の形態では、多軸ロボット20として6軸ロボットが用いられている。多軸ロボット20が有する回転軸(関節K)の数は任意であり、例えば、5軸ロボット、7軸ロボット等であってもよい。
【0069】
(d)上記実施の形態では、ブラスト加工装置10によってブラスト加工される対象となるワークWは、互いに反対方向へ突出する一対の筒状部Wa,Wbを有し、両筒状部Wa,Wbの筒内部が連通しているものとした。ワークWの種類や形状はこれに限定されるものではなく任意である。例えば、筒状部Wa,Wbが一つであったり、筒状部Wa,Wbを有していなかったりする形状の素形材、プレス加工された素形材などであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…ブラスト加工装置、15a…設置面、16a…噴出口、18…仮置き台、20…多軸ロボット、26…ハンド部(ツール取付け部)、30…チャック部、42…本体貫通孔(貫通孔)、45…収容空間(エア流通路)、47…チャック爪、48…爪収容孔、56…ロボット制御部、A1~A6…回転軸、Pc…エア供給通路(エア流通路)、R…被投射領域、W…ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6