(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】残留圧縮応力を有する光学コーティングを備えた被覆物品
(51)【国際特許分類】
G02B 1/113 20150101AFI20230417BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20230417BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20230417BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
G02B1/113
B32B7/023
C03C17/34 Z
C23C14/34
(21)【出願番号】P 2019535306
(86)(22)【出願日】2017-12-19
(86)【国際出願番号】 US2017067332
(87)【国際公開番号】W WO2018125676
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-21
(32)【優先日】2016-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ハート,シャンドン ディー
(72)【発明者】
【氏名】フゥ,グアンリー
(72)【発明者】
【氏名】ポールソン,チャールズ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】プライス,ジェイムズ ジョセフ
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535731(JP,A)
【文献】特開平02-143918(JP,A)
【文献】特開2008-147053(JP,A)
【文献】特開平05-051237(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0287309(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆物品において、
主面を有する基板と、
前記基板の主面上に配置され、空気側の表面を形成する光学コーティングであって、堆積材料の1つ以上の層を含む光学コーティングと、
を備え、
前記光学コーティングの少なくとも一部は、50MPa超の残留圧縮応力を有し、
前記被覆物品は、80%以上の平均明所視透過率を有し、
前記堆積材料の1つ以上の層は、1つ以上の接触した連続層を含
み、
(i)前記光学コーティングが、350nmから600nm未満の厚さ、リング・オン・リング引張試験手順で測定して
0.65%超の破壊歪み、および50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により前記空気側の表面で測定して
14GPa以上の最大硬度を有する;および
(ii)前記光学コーティングが、600nm以上の厚さ、リング・オン・リング引張試験手順で測定して
0.4%超のコーティング破壊歪み、および50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により前記空気側の表面で測定して
13GPa以上の最大硬度を有する;
の内の一方である、被覆物品。
【請求項2】
前記残留圧縮応力を有する前記光学コーティングの一部が、複数のイオン交換可能な金属イオンおよび複数のイオン交換された金属イオンをさらに含み、該イオン交換された金属イオンは、該イオン交換可能な金属イオンの原子半径より大きい原子半径を有する、請求項
1記載の被覆物品。
【請求項3】
前記残留圧縮応力が、機械的ブラスト技法によって前記光学コーティングに与えられる、請求項
1記載の被覆物品。
【請求項4】
前記光学コーティングの前記少なくとも一部が熱膨張係数を有し、前記基板が熱膨張係数を有し、該基板が、該光学コーティングの該少なくとも一部が有するよりも大きい熱膨張係数を有し、該熱膨張係数は、20℃から300℃の温度範囲に亘り測定される、請求項
1記載の被覆物品。
【請求項5】
前記光学コーティングの前記少なくとも一部の熱膨張係数に対する前記基板の熱膨張係数の比が、1.2:1以上である、請求項
4記載の被覆物品。
【請求項6】
前記基板が、ガラス、またはガラスセラミックを含む、あるいは化学強化されている、請求項1から
5いずれか1項記載の被覆物品。
【請求項7】
消費家電製品において、
前面、背面および側面を有する筐体;
前記筐体の少なくとも部分的に内部に設けられた電気部品であって、少なくとも制御装置、メモリ、およびディスプレイであって、該筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品;および
前記ディスプレイ上に配置されたカバーガラス;
を備え、
前記筐体の一部または前記カバーガラスの少なくとも一方が、請求項1から
6いずれか1項記載の被覆物品から作られている、消費家電製品。
【請求項8】
被覆物品において、
主面を有する基板と、
前記基板の主面上に配置され、空気側の表面を形成する光学コーティングであって、堆積材料の1つ以上の層を含む光学コーティングと、
を備え、
前記光学コーティングの少なくとも一部は、100MPa超の残留圧縮応力を有し、
前記被覆物品は、リング・オン・リング引張試験手順で測定して0.4%以上の破壊歪みを有し、
前記光学コーティングは、50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により前記空気側の表面で測定して8GPa以上の最大硬度を有し、
前記被覆物品は、50%以上の平均明所視透過率を有し、
前記堆積材料の1つ以上の層は、1つ以上の接触した連続層を含む、被覆物品。
【請求項9】
前記基板が、ガラス、またはガラスセラミックを含む、あるいは化学強化されている、請求項
8記載の被覆物品。
【請求項10】
前記光学コーティングが勾配層を含み、該勾配層は組成、屈折率、あるいは組成と屈折率の両方において変動する、請求項
8または9記載の被覆物品。
【請求項11】
前記光学コーティングが耐引掻性層を含み、前記勾配層が前記基板と前記耐引掻性層との間に設けられている、請求項
10記載の被覆物品。
【請求項12】
前記光学コーティングがSiO
xN
yを含む、請求項
8から11いずれか1項記載の被覆物品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2016年12月30日に出願された米国仮特許出願第62/440682号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、耐久性および/または耐引掻性物品およびその製造方法に関し、より詳しくは、透明基板上の耐久性および/または耐引掻性光学コーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
電気製品内の装置を保護するために、入力のためのユーザ・インターフェースおよび/またはディスプレイを提供するために、および/または多くの他の機能を提供するために、カバー物品がしばしば使用される。そのような製品としては、スマートフォン、ウェアラブル物品(例えば、腕時計)、mp3プレーヤー、およびタブレット型コンピュータなどの携帯型機器が挙げられる。カバー物品は、建築物品、輸送物品(例えば、自動車用途、列車、航空機、船舶などに使用される物品)、電気器具物品、またはある程度の透明性、耐引掻性、耐摩耗性、またはその組合せから恩恵を受ける任意の物品も含む。これらの用途は、しばしば、耐引掻性、並びに最大の光透過率および最小の反射率に関する強力な光学性能特徴を要求する。さらに、いくつかのカバー用途は、視角が変えられたときに感知できるほどは変わらない、反射および/または透過における、示されるまたは知覚される色の恩恵を受ける。ディスプレイ用途において、これは、反射色または透過色が視角により、認識できる程度に変化する場合、その製品の使用者は、ディスプレイの色または輝度の変化を知覚し、これにより、ディスプレイの知覚品質が低下し得るからである。他の用途において、色の変化は、その装置の美的外観または他の機能にマイナスの影響を及ぼすことがある。
【0004】
カバー物品の光学性能は、様々な反射防止コーティングを使用することにより改善することができる;しかしながら、公知の反射防止コーティングは、損耗や摩耗を受けやすい。そのような摩耗により、反射防止コーティングにより達成されるどのような光学性能の改善も損なわれ得る。摩耗損傷は、対向物体(例えば、指)の往復滑り接触を含み得る。それに加え、摩耗損傷は熱を生じ得、その熱は、膜材料中の化学結合を分解し、剥離およびカバーガラスに対する別のタイプの損傷を生じ得る。摩耗損傷は、大抵、引っ掻き傷を生じる単事象よりも長期間に亘り経験されるので、摩耗損傷を経験する被覆材料は、酸化もすることがあり、これによって、コーティングの耐久性がさらに低下し得る。
【0005】
公知の反射防止コーティングは、引っ掻き損傷も受けやすく、大抵、そのようなコーティングが上に配置される下層の基板よりも、引っ掻き損傷を一層受けやすい。ある場合には、そのような引っ掻き損傷のかなりの部分は微小延性引っ掻き傷を含み、これは典型的に、約100nmから約500nmの範囲の深さを持つ、長い長さを有する材料の単一溝を含む。微小延性引っ掻き傷は、表面下亀裂、摩擦亀裂、剥離および/または摩損などの他のタイプの目に見える損傷を伴うことがある。証拠により、そのような引っ掻き傷および他の目に見える損傷の大半は、1つの接触事象で起こる急な接触により生じることが示唆されている。カバー基板上に著しい引っ掻き傷が一旦現れたら、その引っ掻き傷により光散乱が増加し、これにより、ディスプレイ上の画像の輝度、明瞭さおよびコントラストが著しく低下することがあるので、その物品の外観は劣化する。著しい引っ掻き傷は、タッチセンサー式ディスプレイを含む物品の精度および信頼性にも影響し得る。単事象の引っ掻き損傷は、摩耗損傷と対比され得る。単事象の引っ掻き損傷は、硬い対向物体(例えば、砂、砂利および紙やすり)からの往復滑り接触などの多数の接触事象により生じず、また、膜材料中の化学結合を分解し、剥離および他のタイプの損傷を生じ得る熱を典型的に生じない。その上、単事象の引っ掻きは、典型的に、酸化を生じず、または摩耗損傷を生じる同じ条件を含まず、したがって、摩耗損傷を防ぐためにしばしば利用される解決策は、引っ掻き傷を防ぐこともできないであろう。さらに、公知の引っ掻き損傷および摩耗損傷の解決策は、しばしば、光学的性質を損なう。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの実施の形態によれば、被覆物品は、主面を有する基板、およびその基板の主面上に配置され、空気側の表面を形成する光学コーティングを備えることがある。その光学コーティングは、堆積材料の1つ以上の層を含むことがある。その光学コーティングの少なくとも一部は、約50MPa以上の残留圧縮応力を含むことがある。その被覆物品は、リング・オン・リング引張試験手順で測定して約0.5%以上の破壊歪みを有することがある。その被覆物品は、約80%以上の平均明所視透過率を有することがある。
【0007】
いくつかの実施の形態によれば、被覆物品を製造する方法は、透明基板の主面上に光学コーティングを堆積させる工程を有してなることがある。その光学コーティングは、空気側の表面を形成し、堆積材料の1つ以上の層を備えることがある。その光学コーティングの少なくとも一部は、約50MPa以上の残留圧縮応力を含むことがある。その被覆物品は、リング・オン・リング引張試験手順で測定して約0.5%以上の破壊歪みを有することがある。その被覆物品は、約80%以上の平均明所視透過率を有することがある。
【0008】
実施の形態1.
被覆物品において、
主面を有する基板と、
その基板の主面上に配置され、空気側の表面を形成する光学コーティングであって、堆積材料の1つ以上の層を含む光学コーティングと、
を備え、
その光学コーティングの少なくとも一部は、約50MPa超の残留圧縮応力を有し、
その光学コーティングは、リング・オン・リング引張試験手順で測定して約0.4%以上の破壊歪みを有し、
その光学コーティングは、約50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により空気側の表面で測定して12GPa以上の最大硬度を有し、
その被覆物品は、約80%以上の平均明所視透過率を有する、被覆物品。
【0009】
実施の形態2.
(i)その光学コーティングが、約350nmから約600nm未満の厚さ、約0.65%超の破壊歪み、および14GPa以上の最大硬度を有する;および
(ii)その光学コーティングが、約600nm以上の厚さ、約0.4%超のコーティング破壊歪み、および13GPa以上の最大硬度を有する;
の内の一方である、実施の形態1の被覆物品。
【0010】
実施の形態3.
その残留圧縮応力を有する光学コーティングの一部が、複数のイオン交換可能な金属イオンおよび複数のイオン交換された金属イオンをさらに含み、そのイオン交換された金属イオンは、イオン交換可能な金属イオンの原子半径より大きい原子半径を有する、実施の形態1または実施の形態2の被覆物品。
【0011】
実施の形態4.
その残留圧縮応力が、機械的ブラスト技法によって光学コーティングに与えられる、実施の形態1または実施の形態2の被覆物品。
【0012】
実施の形態5.
その光学コーティングの少なくとも一部が熱膨張係数を有し、その基板が熱膨張係数を有し、その基板が、光学コーティングの少なくとも一部が有するよりも大きい熱膨張係数を有し、その熱膨張係数は、約20℃から約300℃の温度範囲に亘り測定される、実施の形態1または実施の形態2の被覆物品。
【0013】
実施の形態6.
その光学コーティングの少なくとも一部の熱膨張係数に対する基板の熱膨張係数の比が、約1.2:1以上である、実施の形態5の被覆物品。
【0014】
実施の形態7.
その被覆物品が、約50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により空気側の表面で測定して約14GPa以上の最大硬度を示す、実施の形態1から6いずれか1つの被覆物品。
【0015】
実施の形態8.
その基板が非晶質基板または結晶質基板を含む、実施の形態1から7いずれか1つの被覆物品。
【0016】
実施の形態9.
被覆物品を製造する方法において、
空気側の表面を形成し、堆積材料の1つ以上の層を備える光学コーティングを基板の主面上に堆積させる工程、
を有してなり、
その光学コーティングの少なくとも一部は、約50MPa超の残留圧縮応力を有し、
その光学コーティングは、リング・オン・リング引張試験手順で測定して約0.4%以上の破壊歪みを有し、
その光学コーティングは、約50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により空気側の表面で測定して12GPa以上の最大硬度を有し、
その被覆物品は、約80%以上の平均明所視透過率を有する、方法。
【0017】
実施の形態10.
(i)その光学コーティングが、約350nmから約600nm未満の厚さ、約0.65%超の破壊歪み、および14GPa以上の最大硬度を有する;および
(ii)その光学コーティングが、約600nm以上の厚さ、約0.4%超のコーティング破壊歪み、および13GPa以上の最大硬度を有する;
の内の一方である、実施の形態9の方法。
【0018】
実施の形態11.
堆積された光学コーティングをイオン交換処理することによって、その光学コーティング上に残留圧縮応力を与える工程をさらに含む、実施の形態9または実施の形態10の方法。
【0019】
実施の形態12.
そのイオン交換処理が、その光学コーティングをイオン性塩浴と接触させる工程を含む、実施の形態11の方法。
【0020】
実施の形態13.
そのイオン交換処理が、電界イオン交換を含む、実施の形態11または実施の形態12の方法。
【0021】
実施の形態14.
機械的ブラスト技法により光学コーティング上に残留圧縮応力を与える工程をさらに含む、実施の形態9または実施の形態10の方法。
【0022】
実施の形態15.
その光学コーティングの堆積前に、物理的応力下で基板を変形させる工程、および
光学コーティングの堆積後に、変形した基板にそれ自体を再形成させる工程、
をさらに含み、
その光学コーティングは、変形した上に堆積されている、実施の形態9または実施の形態10の方法。
【0023】
実施の形態16.
その基板上に光学コーティングの一部を堆積させ、その基板を加熱し、その基板を、その上に堆積されたコーティングと共に冷ます工程をさらに含む、実施の形態9または実施の形態10の方法。
【0024】
実施の形態17.
その被覆物品が、約50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により空気側の表面で測定して約14GPa以上の最大硬度を示す、実施の形態9から16のいずれか1つの方法。
【0025】
実施の形態18.
消費家電製品において、前面、背面および側面を有する筐体;その筐体の少なくとも部分的に内部に設けられた電気部品であって、少なくとも制御装置、メモリ、およびディスプレイであって、その筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品;およびそのディスプレイ上に配置されたカバーガラスを有し、その筐体の一部またはカバーガラスの少なくとも一方が、実施の形態1から8いずれか1つの被覆物品から作られている、消費家電製品。
【0026】
追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載されたような実施の形態を実施することによって認識されるであろう。本明細書および図面に開示された様々な特徴は、任意の組合せと全ての組合せで使用できることが理解されよう。
【0027】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、例示に過ぎず、請求項の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供することが意図されているのが理解されよう。添付図面は、さらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、1つ以上の実施の形態を示しており、説明と共に、様々な実施の形態の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、被覆物品の概略断面側面図
【
図2】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、被覆物品の概略断面側面図
【
図3】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、被覆物品の概略断面側面図
【
図4】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、光学コーティングの厚さの関数としての屈折率を示すグラフ
【
図5】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、被覆物品の破壊歪みを測定するために利用されるリング・オン・リング機械的試験装置の断面側面図
【
図6】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、光学コーティング損傷を有する、リング・オン・リング引張試験手順後の被覆物品の画像
【
図7A】ここに開示された物品のいずれかを組み込んだ例示の電子機器の平面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここで、その例が添付図面に示されている、様々な実施の形態を詳しく参照する。基板と、比較的高い硬度を有し、所望の光学的性質を有し、曲げ荷重に曝されたときに、比較的高い破壊歪み値を有する光学コーティングとを備えた被覆物品の実施の形態が、ここに記載されている。摩耗または引っ掻き損傷から基板の表面を保護するために、基板(例えば、透明基板、またはガラス基板;ここに用いられているように、「ガラス」という用語は、ガラスおよびガラスセラミックを含む、少なくとも部分的にガラスから作られた任意の材料を含むことを意味する)上に高硬度を有する光学コーティングが堆積されることがある。しかしながら、曲げ荷重(例えば、透明基板の曲げ)下では、いくつかの透明基板はそのような曲げ荷重に耐えるのに適しているであろうが、光学コーティングは、亀裂などの損傷を受けやすいであろう。例えば、被覆物品は、曲げ荷重下に置かれた(すなわち、何らかの方法で物理的に変形された)ときに、比較的脆いコーティングに亀裂を示すことがある一方で、その基板は大部分が無傷のままである。硬質光学コーティングに対する損傷は、約500nm超の厚さ、または1マイクロメートル以上の厚さを有するものなど、比較的厚い光学コーティングに特によく見られるであろう。この損傷は、特により厚いコーティングにとって、容易に見え、基板が無傷のままである場合でさえ、その機器の外観および/または機能を台無しにし得る。ある場合には、そのコーティングの損傷は、基板の損傷と同時に生じ得、これは、両方の破損値が同じであることを意味する。いずれの場合でも、コーティングの破壊歪みの値が高いことが望ましい。したがって、曲げ荷重下で損傷していないだけでなく、良好な光学特性および高硬度を有する光学コーティングを利用することが望ましい。被覆基板、または基板上のコーティングに対する損傷は、破壊歪み値により特徴付けることができ、その破壊歪み値は、ここに詳しく述べられている。1つ以上の実施の形態において、被覆物品は、12GPa以上(例えば、13GPa以上、14GPa以上、15GPa以上、16GPa以上、17GPa以上、18GPa以上、19GPa以上、20GPa以上、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲)など、比較的高い硬度および0.5%以上(例えば、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲)など、比較的高い破壊歪みを示しつつ、低い反射率などの良好な光学特性を有することがある。
【0030】
1つ以上の実施の形態において、光学コーティング、または光学コーティングの少なくとも一部(例えば、光学コーティングの1つ以上の層)は、比較的高い残留応力を有することがある。ここに用いられているように、「残留圧縮応力」は、光学コーティングの製造後にそのコーティング内に残っている圧縮応力を称する。ここに用いられているように、その残留圧縮応力は、以下のように測定される。所望のコーティングを基板上に堆積させる。表面プロファイラを使用して、コーティングにより誘発された試料の曲率を測定する。次に、当該技術分野で公知のストーニーの式を使用して、試料の曲率(または反り)を応力値に変換する。理論で束縛するものではないが、コーティングの少なくとも一部に導入された残留圧縮応力は、そのコーティングまたは被覆物品の破壊歪みを増加させるであろうと考えられる。その残留圧縮応力は、ここに開示された様々な方法によって光学コーティングに導入することができる。例えば、理論で束縛するものではないが、残留圧縮応力は、特定の堆積パラメータ(例えば、圧力、速度、イオン支援)を使用することにより、イオン交換過程を使用することにより、イオン注入過程を使用することにより、機械的ブラスト過程を使用することにより、物理的応力下で変形した基板上に光学コーティングを堆積させ、次いで、変形した基板にそれ自体の再成形により応力を除去させることにより(それゆえ、光学コーティングに応力を導入することにより)、または被覆物品が室温に冷めるときに残留圧縮応力が増加するように、光学コーティングと基板との間の線形熱膨張係数(「CTE」)の差を増加させることにより、光学コーティング、または光学コーティングの一部に導入できると考えられる。20℃から300℃の温度範囲に亘るCTEは、ppm/Kで表され、ASTM E228-11にしたがって、プッシュロッド膨張計を使用して決定した。これらの過程および構成は、被覆物品に関して、ここにより詳しく説明される。被覆物品のこの実施の形態は、ここに開示された特定の方法および構成により製造されたものに限定されず、むしろ、高レベルの圧縮応力を生じるためのここに開示された方法および構成は、比較的高い破壊歪み値を有するであろう、高い残留圧縮応力のコーティングを得るための適切な技法の例であることを理解すべきである。例えば、1つ以上の実施の形態において、その光学コーティングの1つ以上の層の少なくとも一部は、約50MPa以上、約75MPa以上、約100MPa以上、約200MPa以上、約500MPa以上、またさらには約1000MPa以上、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の残留圧縮応力を有することがある。
【0031】
図1を参照すると、1つ以上の実施の形態による被覆物品100は、基板110および基板110上に配置された光学コーティング120を備えることがある。基板110は、互いに反対の主面112、114および互いに反対の副面116、118を備える。光学コーティング120は、
図1に、第1の主面112上に配置されていると示されている;しかしながら、光学コーティング120は、第1の主面112上に配置されることに加え、またはその代わりに、第2の主面114および/または互いに反対の副面116、118の一方または両方に配置されてもよい。光学コーティング120は、空気側の表面122を形成する。
【0032】
光学コーティング120は、少なくとも1種類の材料の少なくとも1つの層を含む。「層」という用語は、単層を含んでも、1つ以上の副層を含んでもよい。そのような副層は、互いに直接接触していてよい。その副層は、同じ材料または2種類以上の異なる材料から形成されてもよい。1つ以上の代わりの実施の形態において、そのような副層は、それらの間に配置された異なる材料の介在層を有することがある。1つ以上の実施の形態において、層は、1つ以上の接触した連続層および/または1つ以上の不連続の断続層(すなわち、互いに隣接して形成された異なる材料を有する層)を含むことがある。層または副層は、個別堆積過程または連続堆積過程を含む、当該技術分野で公知のどの方法により形成されてもよい。1つ以上の実施の形態において、その層は、連続堆積過程のみ、または、あるいは、個別堆積過程のみを使用して形成されてもよい。
【0033】
ここに用いられているように、「配置する」という用語は、当該技術分野で公知の任意の方法またはまだ開発されていない方法を使用して、表面上に材料を被覆する過程、堆積する過程、および/または形成する過程を含む。配置された材料は、ここに定義されるような、層を構成することができる。ここに用いられているように、「上に配置された」という句は、材料が表面と直接接触しているように表面上に材料を形成する過程を含む、またあるいは、材料が表面上に、その材料と表面との間に1種類以上の介在材料が配置されて形成される実施の形態を含む。その介在材料は、ここに定義されるような、層を構成することができる。
【0034】
光学コーティング120は、約100nmから約10マイクロメートルの厚さを有することがある。例えば、その光学コーティングは、約200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上、800nm以上、900nm以上、1マイクロメートル以上、2マイクロメートル以上、3マイクロメートル以上、4マイクロメートル以上、5マイクロメートル以上、6マイクロメートル以上、7マイクロメートル以上、またさらには8マイクロメートル以上、および約10マイクロメートル以下、並びに先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の厚さを有することがある。
【0035】
1つ以上の実施の形態において、光学コーティング120は、耐引掻性層150を含む、またはそれからなることがある。
図1は、耐引掻性層からなる光学コーティングを示している。しかしながら、他の実施の形態において、ここに記載されるように、追加の層が光学コーティング内に設けられてもよい。いくつかの実施の形態によれば、耐引掻性層150は、Si
uAl
vO
xN
y、Ta
2O
5、Nb
2O
5、AlN、Si
3N
4、AlO
xN
y、SiO
xN
y、SiN
x、SiN
x:H
y、HfO
2、TiO
2、ZrO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、MoO
3、ダイヤモンド状炭素、またはその組合せから選択される1種類以上の材料から作ることができる。耐引掻性層150に使用される例示の材料としては、無機炭化物、窒化物、酸化物、ダイヤモンド状材料、またはその組合せが挙げられる。耐引掻性層150に適した材料の例としては、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属炭化物、金属酸炭化物、および/またはその組合せが挙げられる。例示の金属としては、B、Al、Si、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Sn、Hf、TaおよびWが挙げられる。耐引掻性層150に利用できる材料の特別な例としては、Al
2O
3、AlN、AlO
xN
y、Si
3N
4、SiO
xN
y、Si
uAl
vO
xN
y、ダイヤモンド、ダイヤモンド状炭素、Si
xC
y、Si
xO
yC
z、ZrO
2、TiO
xN
y、およびその組合せが挙げられる。耐引掻性層150は、硬度、靭性、または耐摩耗性/摩耗抵抗を改善するために、ナノ複合材料、または微細構造が制御された材料も含むことがある。例えば、耐引掻性層150は、約5nmから約30nmのサイズ範囲のナノ微結晶を含むことがある。実施の形態において、耐引掻性層150は、転移強化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、またはジルコニア強化アルミナを含むことがある。いくつかの実施の形態において、耐引掻性層150は、約1MPa√m超の破壊靭性を示すと同時に、約8GPa超の硬度値を示す。
【0036】
1つ以上の実施の形態において、耐引掻性層150は、組成勾配を含むことがある。例えば、耐引掻性層150は、SiuAlvOxNyの組成勾配を含むことがあり、ここで、Si、Al、OおよびNのいずれか1つ以上の濃度は、屈折率を増減するように変えられている。その屈折率勾配は、気孔率を使用して形成してもよい。そのような勾配は、ここに全て引用される、2014年4月28日に出願された、「Scratch-Resistant Articles with a Gradient Layer」と題する米国特許出願第14/262224号明細書により詳しく記載されている。
【0037】
図2に示されるような、1つ以上の実施の形態において、光学コーティング120は、複数の層(130A、130B)を含むことがある反射防止コーティング130を含むことがある。1つ以上の実施の形態において、反射防止コーティング130は、低RI層130Aおよび高RI層130Bなどの2つの層からなる周期132を含むことがある。
図2に示されるように、反射防止コーティング130は、複数の周期132を含むことがある。他の実施の形態において、一周期が、低RI層、中RI層、および高RI層などの3層を含むことがある。本開示の全体に亘り、
図2は、複数の周期132を有する光学コーティング120のいくつかの実施の形態の一例であり、ここに記載された光学コーティング120の性質(例えば、色、硬度など)および材料は、
図1または
図2の実施の形態に限定されるべきではないことを理解すべきである。
【0038】
ここに用いられているように、「低RI」、「高RI」および「中RI」という用語は、互いに対する屈折率(「RI」)の相対値を称する(すなわち、低RI<中RI<高RI)。1つ以上の実施の形態において、「低RI」という用語は、低RI層と共に使用された場合、約1.3から約1.7または1.75の範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲を含む。1つ以上の実施の形態において、「高RI」という用語は、高RI層と共に使用された場合、約1.7から約2.5(例えば、約1.85以上)の範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲を含む。1つ以上の実施の形態において、「中RI」という用語は、周期の第3層と共に使用された場合、約1.55から約1.8の範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲を含む。いくつかの実施の形態において、低RI、高RI、および/または中RIの範囲は重複することがある;しかしながら、ほとんどの場合、反射防止コーティング130の層は、低RI<中RI<高RI(ここで、「中RI」は、3層周期の場合に適用できる)のRIに関する一般的関係を有する。1つ以上の実施の形態において、低RI層および高RI層の屈折率の差は、約0.01以上、約0.05以上、約0.1以上、またさらには約0.2以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲であることがある。
【0039】
例えば、
図2において、周期132は、低RI層130Aおよび高RI層130Bを含むことがある。光学コーティング120に複数の周期が含まれる場合、低RI層130A(「L」と示される)および高RI層130B(「H」と示される)は、低RI層および高RI層が光学コーティング120の物理的厚さに沿って交互になるように、以下の層の配列:L/H/L/H・・・またはH/L/H/L・・・で交互になる。
図2に示された実施の形態において、反射防止コーティング130は、4つの周期132を含み、ここで、各周期132は、低RI層130Aおよび高RI層130Bを含む。いくつかの実施の形態において、反射防止コーティング130は、25までの周期を含んでよい。例えば、反射防止コーティング130は、約2から約20の周期、約2から約15の周期、約2から約10の周期、約2から約12の周期、約3から約8の周期、または約3から約6の周期、例えば、3周期、4周期、5周期、6周期、7周期、8周期、9周期、10周期、11周期、12周期、13周期、14周期、15周期、16周期、17周期、18周期、19周期、20周期、21周期、22周期、23周期、24周期、25周期、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲を含むことがある。
【0040】
反射防止コーティング130に使用するのに適した例示の材料としては、制限なく、SiO2、Al2O3、GeO2、SiO、AlOxNy、AlN、SiNx、SiOxNy、SiuAlvOxNy、Ta2O5、Nb2O5、TiO2、ZrO2、TiN、MgO、MgF2、BaF2、CaF2、SnO2、HfO2、Y2O3、MoO3、DyF3、YbF3、YF3、CeF3、高分子、フルオロポリマー、プラズマ重合高分子、シロキサン高分子、シルセスキオキサン、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル高分子、ウレタン高分子、ポリメチルメタクリレート、耐引掻性層に使用するのに適したものとして下記に挙げられる他の材料、および当該技術分野に公知の他の材料が挙げられる。低RI層130Aに使用するのに適した材料のいくつかの例として、制限なく、SiO2、Al2O3、GeO2、SiO、AlOxNy、SiOxNy、SiuAlvOxNy、MgO、MgAl2O4、MgF2、BaF2、CaF2、DyF3、YbF3、YF3、およびCeF3が挙げられる。低RI層130Aに使用するための材料の窒素含有量は最小にされることがある(例えば、Al2O3およびMgAl2O4などの材料において)。高RI層130Bに使用するのに適した材料のいくつかの例としては、制限なく、SiuAlvOxNy、Ta2O5、Nb2O5、AlN、Si3N4、AlOxNy、SiOxNy、SiNx、SiNx:Hy、HfO2、TiO2、ZrO2、Y2O3、Al2O3、MoO3、およびダイヤモンド状炭素が挙げられる。1つ以上の実施の形態において、高RI層130Bは、高硬度(例えば、8GPa超の硬度)を有することがあり、先に列挙された高RI材料は、高硬度および/または耐引掻性を有することがある。高RI層130Bの材料の酸素含有量は、特に、SiNxまたはAlNx材料において、最小にされることがある。AlOxNy材料は、酸素ドープAlNxであると考えられる(すなわち、それらは、AlNx結晶構造(例えば、ウルツ鉱)を有することができ、AlON結晶構造を有する必要はないことがある)。例示のAlOxNy高RI材料は、30原子%から約50原子%、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の窒素を含みつつ、約0原子%から約20原子%の酸素、または約5原子%から約15原子%の酸素、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の酸素を含むことがある。例示のSiuAlvOxNy高RI材料は、約10原子%から約30原子%または約15原子%から約25原子%のケイ素、約20原子%から約40原子%または約25原子%から約35原子%のアルミニウム、約0原子%から約20原子%または約1原子%から約20原子%の酸素、および約30原子%から約50原子%の窒素を含むことがある。先の材料は、約30質量%まで水素化されてもよい。中位の屈折率を有する材料が望ましい場合、いくつかの実施の形態は、AlNおよび/またはSiOxNyを利用することができる。耐引掻性層150は、高RI層に使用するのに適していると開示された材料のいずれから作られてもよいことを理解すべきである。
【0041】
図2に示されるように、1つ以上の実施の形態において、光学コーティング120は、高RI層として組み込まれた耐引掻性層150を含むことがあり、1つ以上の低RI層130Aおよび高RI層130Bが、耐引掻性層150の上に位置することがある。その耐引掻性層は、代わりに、光学コーティング120全体または被覆物品100全体において最も厚い高RI層として定義されることがある。理論で束縛するものではないが、耐引掻性層150の上に比較的薄い量の材料が配置されている場合、被覆物品100は、圧痕深さで増加した高度を示すであろうと考えられる。さらに、耐引掻性層150の上に低RI層と高RI層を含ませると、被覆物品100の光学的性質が向上することがある。いくつかの実施の形態において、比較的少ない層(例えば、1、2、3、4、または5層)が耐引掻性層150の上に位置することがあり、これらの層の各々が比較的薄い(例えば、100nm未満、75nm未満、50nm未満、またさらには25nm未満、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲)ことがある。
【0042】
耐引掻性層150は、約300nm以上、400nm以上、500nm以上、600nm以上、700nm以上、800nm以上、900nm以上、1マイクロメートル以上、2マイクロメートル以上、3マイクロメートル以上、4マイクロメートル以上、5マイクロメートル以上、6マイクロメートル以上、7マイクロメートル以上、またさらには8マイクロメートル以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲など、他の層と比べて比較的厚いことがある。例えば、耐引掻性層は、約300nmから約10マイクロメートルの厚さを有することがある。
【0043】
1つ以上の実施の形態において、光学コーティング120は、
図2に示されるように、反射防止光学コーティング120上に配置された1つ以上の追加の上面コーティング140を含むことがある。1つ以上の実施の形態において、追加の上面コーティング140は、洗浄し易いコーティングを含むことがある。適切な洗浄し易いコーティングの例が、ここに全て引用される、2012年11月30日に出願された、「PROCESS FOR MAKING OF GLASS ARTICLES WITH OPTICAL AND EASY-TO-CLEAN COATINGS」と題する米国特許出願第13/690904号に記載されている。この洗浄し易いコーティングは、約1nmから約50nmの範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の厚さを有することがあり、フッ素化シランなどの公知の材料を含むことがある。この洗浄し易いコーティングは、代わりにまたは追加に低摩擦コーティングまたは表面処理を含むことがある。例示の低摩擦コーティング材料としては、ダイヤモンド状炭素、シラン(例えば、フルオロシラン)、ホスホネート、アルケン、およびアルキンが挙げられる。いくつかの実施の形態において、その洗浄し易いコーティングは、約1nmから約40nm、約1nmから約30nm、約1nmから約25nm、約1nmから約20nm、約1nmから約15nm、約1nmから約10nm、約5nmから約50nm、約10nmから約50nm、約15nmから約50nm、約7nmから約20nm、約7nmから約15nm、約7nmから約12nm、または約7nmから約10nmの範囲、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の厚さを有することがある。
【0044】
上面コーティング140は、耐引掻性層、または耐引掻性層150に使用するのに適していると開示された材料のいずれかから作られた層を含むことがある。いくつかの実施の形態において、追加の上面コーティング140は、洗浄し易い材料と耐引掻性材料の組合せを含む。一例において、その組合せは、洗浄し易い材料とダイヤモンド状炭素を含む。そのような追加の上面コーティング140は、約1nmから約50nmの範囲の厚さを有することがある。追加の上面コーティング140の成分は、別々の層で設けられることがある。例えば、そのダイヤモンド状炭素は第1の層として配置されることがあり、洗浄し易い材料は、ダイヤモンド状炭素の第1の層上の第2の層として配置することができる。第1の層および第2の層の厚さは、追加の上面コーティングについて先に与えられた範囲内にあることがある。例えば、ダイヤモンド状炭素の第1の層は、約1nmから約20nmまたは約4nmから約15nm(またはより詳しくは約10nm)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の厚さを有することがあり、洗浄し易い材料の第2の層は、約1nmから約10nm(またはより詳しくは約6nm)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の厚さを有することがある。そのダイヤモンド状コーティングは、四面体非晶質炭素(Ta-C)、Ta-C:H、および/または-C-Hを含むことがある。
【0045】
1つ以上の実施の形態において、反射防止コーティング130の層(低RI層130Aまたは高RI層130Bなどの)の少なくとも1つは、特定の光学的厚さ(または光学的厚さ範囲)を有することがある。ここに用いられているように、「光学的厚さ」という用語は、層の物理的厚さと屈折率の積を称する。1つ以上の実施の形態において、反射防止コーティング130の層の少なくとも1つは、約2nmから約200nm、約10nmから約100nm、約15nmから約100nm、約15から約500nm、または約15から約5000nmの範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の光学的厚さを有することがある。いくつかの実施の形態において、反射防止コーティング130の層の全ては、各々、約2nmから約200nm、約10nmから約100nm、約15nmから約100nm、約15から約500nm、または約15から約5000nmの範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の光学的厚さを有することがある。いくつかの実施の形態において、反射防止コーティング130の少なくとも1つの層は、約50nm以上の光学的厚さを有する。いくつかの実施の形態において、低RI層130Aの各々は、約2nmから約200nm、約10nmから約100nm、約15nmから約100nm、約15から約500nm、または約15から約5000nmの範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の光学的厚さを有する。いくつかの実施の形態において、高RI層130Bの各々は、約2nmから約200nm、約10nmから約100nm、約15nmから約100nm、約15から約500nm、または約15から約5000nmの範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の光学的厚さを有する。3層周期の実施の形態において、中RI層の各々は、約2nmから約200nm、約10nmから約100nm、約15nmから約100nm、約15から約500nm、または約15から約5000nmの範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の光学的厚さを有する。
【0046】
1つ以上の実施の形態において、前記光学コーティングは、
図3に示されるように、1つ以上の勾配層を含むことがあり、その各々は、それぞれの厚さに沿って組成勾配を含むことがある。いくつかの実施の形態において、光学コーティング120は、底部勾配層170、耐引掻性層150(先に述べたような)、および上部勾配層160を含むことがある。
図4は、
図3の光学コーティング120の例示の屈折率プロファイルを示す。基板110、底部勾配層170、耐引掻性層150、および上部勾配層160が、
図4の屈折率プロファイル上の対応する部分に印されている。底部勾配層170は、基板110と直接接触して位置することがある。耐引掻性層150は、底部勾配層170の上にあることがあり、上部勾配層160は、耐引掻性層150の上に直接接触していることがある。耐引掻性層150は、SiN
xなど、屈折率の高い比較的硬質の材料を1つ以上含むことがある。実施の形態において、耐引掻性層150の厚さは、他の実施の形態における耐引掻性層150を参照して記載されているように、約300nmから数マイクロメートルであることがある。底部勾配層170は、基板110と接触する部分における基板の屈折率(比較的低いことがある)から、耐引掻性層150と接触する部分における耐引掻性層150の屈折率(比較的高いことがある)まで変動する屈折率を有することがある。底部勾配層170は、50nmから1000nm、100nmから1000nm、または500nmから1000nm、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲など、約10nmから数マイクロメートルの厚さを有することがある。上部勾配層160は、耐引掻性層150と接触する部分での耐引掻性層150の屈折率(高いことがある)から、空気側の表面122での空気界面での比較的低い屈折率まで変動する屈折率を有することがある。上部勾配層160の最も上の部分(空気側の表面122での)は、以下に限られないが、ケイ酸塩ガラス、シリカ、リンガラス、またはフッ化マグネシウムなどの、1.38から1.55の屈折率を有する材料から作られることがある。
【0047】
1つ以上の実施の形態において、基板での底部勾配層170の屈折率は、基板110の屈折率の0.2以内(0.15以内、0.1以内、0.05以内、0.02以内、または0.01以内、および先の値の間の任意の範囲内と部分的範囲内など)にあることがある。耐引掻性層150での底部勾配層170の屈折率は、耐引掻性層150の屈折率の0.2以内(0.15以内、0.1以内、0.05以内、0.02以内、または0.01以内、および先の値の間の任意の範囲内と部分的範囲内など)にあることがある。耐引掻性層150での上部勾配層160の屈折率は、耐引掻性層150の屈折率の0.2以内(0.15以内、0.1以内、0.05以内、0.02以内、または0.01以内、および先の値の間の任意の範囲内と部分的範囲内など)にあることがある。空気側の表面122での上部勾配層160の屈折率は、約1.38から約1.55であることがある。実施の形態において、その耐引掻性層の屈折率は、約1.75以上、例えば、1.8、またさらには1.9、もしくは先の値の間の任意の範囲と部分的範囲であることがある。
【0048】
1つ以上の実施の形態において、光学コーティング120の単層または多層は、例えば、化学的気相成長法(「CVD」)(例えば、プラズマCVD(PECVD)、低圧CVD、大気圧CVD、およびプラズマ支援大気圧CVD)、物理的気相成長法(「PVD」)(例えば、反応性または非反応性スパッタリング、もしくはレーザアブレーション)、熱蒸発または電子ビーム蒸着および/または原子層堆積などの真空蒸着技術によって、基板110上に堆積されることがある。吹き付け塗り、浸漬、回転塗布、またはスロット・コーティング(例えば、ゾルゲル材料を使用した)などの液体に基づく方法も使用してよい。一般に、蒸着技術は、薄膜を生成するために使用できる様々な真空蒸着方法を含むであろう。例えば、物理的気相成長法では、材料の蒸気を生成するために物理的過程(加熱またはスパッタリングなど)を使用し、次いで、その蒸気が、被覆される物体上に堆積される。
【0049】
1つ以上の実施の形態において、光学コーティング120、または光学コーティング120の1つ以上の層は、特定の真空蒸着過程パラメータを使用することによって導入された残留圧縮応力を有することがある。堆積圧、材料の組成、堆積温度、基板のバイアス、およびイオン銃電流などのパラメータは、堆積された層の残留圧縮応力に影響を与えることのあるパラメータとして考えられる。様々な堆積材料は、様々な堆積過程パラメータに異なって反応するであろうし、工程パラメータは、異なる堆積材料について異なるであろうことを理解すべきである。
【0050】
1つ以上の実施の形態によれば、堆積中の圧力は、コーティングにおける残留応力に影響するであろう。いくつかの実施の形態において、より高い圧力は、より大きい引張応力を生じるであろうし、堆積中のより低い圧力は、残留圧縮応力を生じるであろう。1つ以上の実施の形態において、堆積中に使用される圧力が、比較的低い残留応力を有するコーティングを形成するために通常利用されるよりも、約1%以上、例えば、2%、3%、4%、5%、10%、15%、またさらには20%、もしくは先の値の間の任意の範囲と部分的範囲である場合、残留圧縮応力および/または破壊歪みは増加するであろう。
【0051】
いくつかの実施の形態において、前記コーティングの材料組成は、そのコーティングの残留応力に影響を与えるであろう。例えば、AlNは、典型的に、ここに記載されたいくつかの実施の形態において適切ではない引張応力を有するであろう。しかしながら、Al2O3は、一般に、実施の形態に適した残留圧縮応力を有するであろう。AlONは、N対Oの化学量論比に基づいて、残留圧縮応力のために調整されることがある。
【0052】
追加の実施の形態において、堆積中の基板のバイアスが残留応力に影響することがある。例えば、基板上の負のDCバイアスは、残留圧縮応力を有するコーティングの形成を促進することがあり、基板上の正のDCバイアスは、コーティング内の引張応力の発生を促進することがある。それに加え、RFバイアスは、残留圧縮応力を有するコーティングの形成を促進することがある。
【0053】
追加の実施の形態において、高温での堆積は、基板とコーティングのCTEの差に基づいて、残留圧縮応力の発生を促進することがある。例えば、基板とコーティングが、上昇温度での堆積後に冷却されるときに、それらは、基板とコーティングとの間のCTE不一致の程度および冷却の量に応じて、残留応力を生じる。
【0054】
追加の実施の形態において、堆積の速度が残留応力に影響することがある。例えば、特定の材料が、ある速度で堆積された場合、残留圧縮応力を生じることがあり、別の速度で堆積された場合、異なる残留応力を有することがある。
【0055】
追加の実施の形態において、イオン銃を使用すると、コーティングに残留圧縮応力が生じることがある。それに加え、利用されるイオン銃の電流が、残留応力に影響することがある。例えば、イオン銃の電流が高いほど、コーティング内の残留圧縮応力が増加するであろう。
【0056】
1つ以上の実施の形態において、前記残留圧縮応力が、イオン交換過程を利用することによって、光学コーティングに導入されることがある。光学コーティングの堆積後、その光学コーティングは、高温塩浴などのイオン交換浴と接触させることができる。ときには、イオン交換は、化学強化と称されることがある。イオン交換過程において、光学コーティング中のより小さいイオンが、光学コーティングの表面内でより大きいイオンと置換される。1つ以上の実施の形態において、光学コーティングの表面層内のイオンが、同じ価数または酸化状態を有するより大きいイオンにより置換-すなわち、交換-される。イオン交換過程は、典型的に、基板内のより小さいイオンと交換されるべきより大きいイオンを含有する溶融塩浴中に、被覆物品100を浸漬することによって行われる。以下に限られないが、浴の組成と温度、浸漬時間、1つの塩浴(または複数の塩浴)中の基板の浸漬回数、多数の塩浴の使用、徐冷、洗浄などの追加の工程を含む、イオン交換過程のパラメータは、一般に、光学コーティング120の組成および所望の残留圧縮応力(CS)、強化操作により生じる光学コーティング120の残留圧縮応力層の深さ(または層の深さ)により決定されることが当業者に認識されるであろう。一例として、アルカリ金属を含有する光学コーティング120のイオン交換は、以下に限られないが、より大きいアルカリ金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、および塩化物などの塩を含有する少なくとも1つの溶融浴中の浸漬により行うことができる。溶融塩浴の温度は、典型的に、約380℃から約450℃まで、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲など、約100℃から約1000℃の範囲にある一方で、浸漬時間は、約15分から約40時間まで、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲に及ぶ。しかしながら、先に記載したものと異なる温度および浸漬時間も使用してよい。基板110は、別の工程でイオン交換されても、または光学コーティング120がイオン交換されるのと同じ工程段階でイオン交換されてもよいことを理解すべきである。
【0057】
いくつかの実施の形態によれば、光学コーティング120は、光学コーティング120の構造内でより小さいイオンのより大きいイオンによるイオン交換を行うために、堆積膜に電界イオン交換過程を行うことによってイオン交換することができる。溶融塩浴との接触によるイオン交換のように、電界イオン交換過程は、光学コーティング120内に残留圧縮応力を誘発させるであろう。電界イオン交換過程は、イオン交換過程を支援するために、イオン交換が行われている基板に電界を印加する工程を含む。電界イオン交換過程の例が、Saxon Glass Technologies,Inc.の米国特許出願公開第2015/0166407号明細書に記載されている。
【0058】
1つ以上の実施の形態において、残留圧縮応力は、イオン注入過程を利用することによって、光学コーティング120に導入することができる。イオン注入過程は、それによって、材料のイオンが電界内で加速され、光学コーティング120などの固体に衝突して入れられる方法を称する。そのイオンは、光学コーティング120内で停止し、そこに留まることによって、その光学コーティングの元素組成を変える(そのイオンが、光学コーティング120からの組成と異なる場合)。標的と衝突するイオンは、光学コーティング120の材料の電子および原子核にそのエネルギーおよびモーメントを移動させることによって、その標的内の化学的変化および物理的変化も生じる。
【0059】
1つ以上の実施の形態において、残留圧縮応力は、機械的ブラスト過程を利用することによつて、光学コーティング120に導入することができる。いくつかの実施の形態において、その機械的ブラスト過程は、ビード・ブラスト過程またはグリット・ブラスト過程を含む。しかしながら、湿式研磨ブラスト法、ホイール・ブラスト法、水ブラスト法、微細研磨ブラスト法、およびブリストル・ブラスト法など、他の機械的ブラスト過程が本明細書において考えられる。1つ以上の実施の形態によれば、ビード・ブラスト過程は、サイズが約100nmを超える亀裂または傷を作らずに、表面の圧縮を生じることができる。
【0060】
1つ以上の実施の形態において、残留圧縮応力は、物理的応力下で変形した基板上に光学コーティングを堆積させ、次に、変形した基板にそれ自体を再形成させることによって、応力を除去させ(それゆえ、光学コーティングに応力を導入す)ることによって、光学コーティング120に導入することができる。基板110は、光学コーティング120の堆積の前および最中に、物理的力によって変形させられるであろう。例えば、ガラスシートは、ガラスシートを曲げることによって、変形させることができる。次に、光学コーティングを、変形した基板110、例えば、曲げられたガラスシート上に堆積させる。光学コーティング120の堆積後、基板110に元の変形前の形状(例えば、平ら)に戻らせ、よって、光学コーティング120に応力を導入する。実施の形態において、その基板は、基板110の堆積面に対して凸面または凹面形状に曲げることができ、それによって、凸面または凹面に光学コーティング120が堆積される。基板110の凸面または凹面形状が除かれると(すなわち、基板110が平らなシートに戻ると)、光学コーティング120に応力が導入される。
【0061】
1つ以上の実施の形態において、残留圧縮応力は、光学コーティングと基板との間のCTEの差を増加させることによって、またはコーティング堆積過程の温度を上昇させ、よって、被覆物品が室温に冷めるときに残留圧縮応力が増加することによって、光学コーティングに導入することができる。いくつかの実施の形態において、光学コーティング120のCTEは、基板110のCTEよりも小さいことがある。例えば、1つ以上の実施の形態において、光学コーティングの少なくとも一部のCTEに対する基板110のCTEの非は、約1.2以上、例えば、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、3、4、またさらには約5以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲にある。1つ以上の実施の形態において、光学コーティング120は、高温(すなわち、室温より高い温度)で基板110上に堆積されることがある。被覆物品100が室温に冷めるときに、光学コーティング120上に残留圧縮応力が与えられる。光学コーティング120と基板110のCTE不一致により、光学コーティング120内に残留圧縮応力を生じさせられる。いくつかの実施の形態において、光学コーティング120の一部(1つ以上の層など)は、比較的低いCTEを有することがあり、したがって、残留圧縮応力が光学コーティング120の一部に与えられることがある。基板110に対して比較的大きいCTE不一致を有する光学コーティング120の部分は、より高レベルの残留圧縮応力を有するであろう。
【0062】
光学コーティングにおいて高い残留圧縮応力および/または破壊歪みを達成するために、ここに開示された複数の技術を利用することができる。例えば、特定の堆積パラメータ(例えば、圧力、速度、イオン支援)の使用、イオン交換過程の使用、イオン注入過程の使用、機械的ブラスト過程の使用、物理的応力下で変形した基板上に光学コーティングの堆積と、次いで、変形した基板の、それ自体の再形成による応力の除去(それゆえ、光学コーティングへの応力の導入)、または被覆物品が室温に冷めるときに(高温から)残留圧縮応力が増加するように、光学コーティングと基板との間のCTEの差の増加の1つ以上を組合せで使用することができる。
【0063】
基板110は、無機材料を含むことがあり、非晶質基板、結晶質基板、またはその組合せを含むことがある。基板110は、人工材料および/または天然型材料(例えば、石英および高分子)から形成してよい。例えば、ある場合には、基板110は、有機と特徴付けることができ、具体的に、高分子であることがある。適切な高分子の例としては、制限なく、ポリスチレン(PS)(スチレン共重合体およびブレンドを含む)、ポリカーボネート(PC)(共重合体およびブレンドを含む)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート共重合体を含む、共重合体およびブレンドを含む)、ポリオレフィン(PO)と環状ポリオレフィン(環状-PO)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むアクリル高分子(共重合体およびブレンドを含む)、熱可塑性ウレタン(TPU)、ポリエーテルイミド(PEI)およびこれらの高分子の互いとのブレンドを含む熱可塑性プラスチックが挙げられる。他の例示の高分子としては、エポキシ樹脂、スチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、およびシリコーン樹脂が挙げられる。
【0064】
いくつかの特別な実施の形態において、基板110は、具体的に、高分子基板、プラスチック基板および/または金属基板を除くことがある。基板110は、アルカリ含有基板(すなわち、基板は1種類以上のアルカリを含む)として特徴付けられることがある。1つ以上の実施の形態において、その基板は、約1.45から約1.55の範囲の屈折率を示す。特別な実施の形態において、基板110は、5つのサンプルを使用し、リング・オン・リング引張試験を使用して測定し、その5つのサンプルからの値を平均して、0.5%以上、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.9%以上、1%以上、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上、1.5%以上、またさらには2%以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲にある、1つ以上の互いに反対の主面の表面での平均破壊歪みを示すことがある。同期ビデオカメラを使用して、亀裂開始歪みレベル並びに破滅的ガラス破損レベルをとらえた。特別な実施の形態において、基板110は、約1.2%、約1.4%、約1.6%、約1.8%、約2.2%、約2.4%、約2.6%、約2.8%、または約3%以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲にある、1つ以上の互いに反対の主面の表面での平均破壊歪みを示すことがある。
【0065】
適切な基板110は、約30GPaから約120GPaの範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲にある弾性率(またはヤング率)を示すことがある。ある場合には、その基板の弾性率は、約30GPaから約110GPa、約30GPaから約100GPa、約30GPaから約90GPa、約30GPaから約80GPa、約30GPaから約70GPa、約40GPaから約120GPa、約50GPaから約120GPa、約60GPaから約120GPa、約70GPaから約120GPa、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲にあることがある。
【0066】
1つ以上の実施の形態において、非晶質基板はガラスを含むことがあり、そのガラスは、強化されていても、されていなくてもよい。適切なガラスの例としては、ソーダ石灰ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラス、およびアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラスが挙げられる。いくつかの変種において、そのガラスはチリアを含まないことがある。1つ以上の代わりの実施の形態において、基板110は、ガラスセラミック基板(強化されていても、されていなくてもよい)などの結晶質基板を含むことがある、またはサファイアなどの単結晶構造を含むことがあ。1つ以上の特別な実施の形態において、基板110は、非晶質ベース(例えば、ガラス)および結晶質クラッド(例えば、サファイア層、多結晶アルミナ層および/またはスピネル(MgAl2O4)層)を含む。
【0067】
1つ以上の実施の形態の基板110は、前記物品の硬度より低い強度を有することがある(ここに記載されたバーコビッチ圧子硬度試験により測定して)。
【0068】
基板110は、透き通っているまたは実質的に光学的に透明であることがある、すなわち、基板110は、約85%以上、約86%以上、約87%以上、約88%以上、約89%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の光学波長領域に亘る平均光透過率を示すことがある。1つ以上の代わりの実施の形態において、基板110は、不透明であることがある、または約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、約1%未満、または約0.5%未満、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の光学波長領域に亘る平均光透過率を示すことがある。いくつかの実施の形態において、これらの光透過率値は、全透過率(基板の両主面を通る光の透過率を考慮する)であることがある。いくつかの実施の形態において、これらの光反射率値は、全反射率(基板の両主面からの反射率を考慮する)であることがある、または基板の片面で観察されることがある(すなわち、反対の面を考慮せずに、空気側の表面122のみについて)。特に明記のない限り、基板のみの、または被覆された場合、物品の、平均反射率または透過率が、基板の両主面を通る透過率を使用し、コーティングおよび基板の被覆側のみからの反射率を使用して、特定される。また、特に明記のない限り、基板のみの、または被覆された場合、物品の、平均反射率または透過率は、基板の表面122に対して0度の入射照明角度で測定される(しかしながら、そのような測定は、45度または60度の入射照明角度で行われてもよい)。基板110は、白、黒、赤、青、緑、黄、オレンジなどの色を必要に応じて示してよい。
【0069】
それに加え、またはそれに代えて、基板110の物理的厚さは、審美的および/または機能的理由のために、その寸法の1つ以上に沿って変動してもよい。例えば、基板110のエッジが、基板110のより中央の領域と比べて、より厚くてもよい。基板110の長さ、幅および物理的厚さも、物品の用途または使途にしたがって変動してもよい。
【0070】
基板110は、様々な異なる過程を使用して提供してもよい。例えば、基板110が、ガラスなどの非晶質基板を含む場合、様々な成形方法としては、フロートガラス法、並びにフュージョンドロー法およびスロットドロー法などのダウンドロー法、アップドロー法、およびプレス圧延法が挙げられる。
【0071】
基板110は、一旦形成されたら、強化基板を形成するために強化されてもよい。ここに用いられているように、「強化基板」という用語は、例えば、基板の表面内にあるより小さいイオンのより大きいイオンによるイオン交換によって、化学強化された基板を称することがある。しかしながら、熱強化、または圧縮応力領域と中央張力領域を作り出すための基板の複数の部分の間のCTEの不一致の使用など、当該技術分野で公知の他の強か方法を使用して、強化基板を形成してもよい。
【0072】
基板110がイオン交換過程により化学強化される場合、基板の表面層内のイオンは、同じ価数または酸化状態を有するより大きいイオンにより置換-すなわち、交換-される。イオン交換過程は、典型的に、基板内のより小さいイオンと交換されるべきより大きいイオンを含有する溶融塩浴中に、基板を浸漬することによって行われる。以下に限られないが、浴の組成と温度、浸漬時間、1つの塩浴(または複数の塩浴)中の基板の浸漬回数、多数の塩浴の使用、徐冷、洗浄などの追加の工程を含む、イオン交換過程のパラメータは、一般に、基板の組成および所望の圧縮応力(CS)、強化操作により生じる基板の圧縮応力層の深さ(または圧縮深さ、DOC)により決定されることが当業者に認識されるであろう。一例として、アルカリ金属を含有するガラス基板のイオン交換は、以下に限られないが、より大きいアルカリ金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、および塩化物などの塩を含有する少なくとも1つの溶融浴中の浸漬により行うことができる。溶融塩浴の温度は、典型的に、約380℃から約450℃までの範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲にある一方で、浸漬時間は、約15分から約40時間まで、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲に及ぶ。しかしながら、先に記載したものと異なる温度および浸漬時間も使用してよい。
【0073】
それに加え、複数の浸漬の間に洗浄工程および/または徐冷工程が行われる、多数のイオン交換浴中にガラス基板が浸漬されるイオン交換過程の非限定例が、「Glass with Compressive Surface for Consumer Applications」と題する、Douglas C. Allan等により2009年7月10日に出願され、異なる濃度の複数の塩浴中の浸漬を含む多数の連続したイオン交換処理によって、ガラス基板が強化される、2008年7月11日に出願された米国仮特許出願第61/079995号からの優先権を主張する、米国特許出願第12/500650号明細書、およびガラス基板が、流出イオンにより希釈された第1の浴中のイオン交換と、その後の、第1の浴より小さい濃度の流出イオンを有する第2の浴中の浸漬とにより強化される、「Dual Stage Ion Exchange for Chemical Strengthening of Glass」と題し、2008年7月29日に出願された米国仮特許出願第61/084398号からの優先権を主張する、2012年11月20日に発行された、Christopher M. Lee等による米国特許第8312739号明細書に記載されている。米国特許出願第12/500650号明細書、および米国特許第8312739号明細書が、ここに全て引用される。
【0074】
イオン交換により達成される化学強化の程度は、中央張力(CT)、表面CS、および圧縮深さ(DOC)のパラメータに基づいて、定量化することができる。表面CSは、表面近く、または様々な深さでの強化ガラス内で測定してよい。最大CS値は、強化基板の表面での測定CS(CSS)を含むことがある。最大CT値は、当該技術分野で公知の散乱光偏光器(SCALP)技術を使用して測定される。
【0075】
圧縮応力(ガラスの表面での)は、有限会社折原製作所(日本国)により製造されているFSM-6000などの市販の計器を使用して、表面応力計(FSM)により測定される。表面応力測定は、ガラスの複屈折に関連する、応力光学係数(SOC)の精密測定に依存する。次に、SOCは、その内容がここに全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題する、ASTM基準C770-16に記載されている、手順C(ガラスディスク法)にしたがって測定される。
【0076】
ここに用いられているように、圧縮深さ(DOC)は、ここに記載された化学強化されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス中の応力が圧縮から引張に変化する深さを意味する。DOCは、イオン交換処理に応じて、FSMにより、またはSCALPにより測定することができる。ガラス物品中の応力が、ガラス物品中へのカリウムイオンの交換により生じている場合、DOCを測定するために、FSMが使用される。応力が、ガラス物品中へのナトリウムイオンの交換により生じている場合、DOCを測定するために、SCALPが使用される。ガラス物品中の応力が、ガラス中にカリウムイオンとナトリウムイオンの両方を交換することによって生じる場合、DOCはSCALPにより測定される。何故ならば、ナトリウムイオンの交換深さはDOCを表し、カリウムイオンの交換深さは、圧縮応力の大きさの変化(圧縮から引張への応力の変化ではない)を表すと考えられるからである;そのようなガラス物品におけるカリウムイオンの交換深さは、FSMにより測定される。
【0077】
いくつかの実施の形態において、強化基板110は、250MPa以上、300MPa以上、例えば、400MPa以上、450MPa以上、500MPa以上、550MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、700MPa以上、750MPa以上、または800MPa以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の表面CSを有し得る。その強化基板は、10μm以上、15μm以上、20μm以上(例えば、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μm以上)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲のDOC、および/または10MPa以上、20MPa以上、30MPa以上、40MPa以上(例えば、42MPa、45MPa、または50MPa以上)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲であるが、100MPa未満(例えば、95、90、85、80、75、70、65、60、55MPa以下)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲のCTを有することがある。1つ以上の特別な実施の形態において、その強化基板は、以下の1つ以上を有する:500MPa超の表面CS、15μm超のDOC、および18MPa超のCT。
【0078】
基板110に使用できる例示のガラスとしては、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物またはアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラス組成物が挙げられるが、他のガラス組成物も考えられる。そのようなガラス組成物は、イオン交換過程によって化学強化することができる。1つの例示のガラス組成物は、SiO2、B2O3およびNa2Oを含み、ここで、(SiO2+B2O3)≧66モル%およびNa2O≧9モル%。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、6質量%以上の酸化アルミニウムを含む。さらなる実施の形態において、基板110は、アルカリ土類酸化物の含有量が5質量%以上であるように、1種類以上のアルカリ土類酸化物を有するガラス組成物を含む。いくつかの実施の形態において、適切なガラス組成物は、K2O、MgO、およびCaOの少なくとも1つをさらに含む。いくつかの実施の形態において、その基板に使用されるガラス組成物は、61~75モル%のSiO2、7~15モル%のAl2O3、0~12モル%のB2O3、9~21モル%のNa2O、0~4モル%のK2O、0~7モル%のMgO、および0~3モル%のCaOを含み得る。
【0079】
前記基板に適したさらなる例示のガラス組成物は、60~70モル%のSiO2、6~14モル%のAl2O3、0~15モル%のB2O3、0~15モル%のLi2O、0~20モル%のNa2O、0~10モル%のK2O、0~8モル%のMgO、0~10モル%のCaO、0~5モル%のZrO2、0~1モル%のSnO2、0~1モル%のCeO2、50ppm未満のAs2O3、および50ppm未満のSb2O3を含み、ここで、12モル%≦(Li2O+Na2O+K2O)≦20モル%、および0モル%≦(MgO+CaO)≦10モル%である。
【0080】
前記基板に適したさらに別の例示のガラス組成物は、63.5~66.5モル%のSiO2、8~12モル%のAl2O3、0~3モル%のB2O3、0~5モル%のLi2O、8~18モル%のNa2O、0~5モル%のK2O、1~7モル%のMgO、0~2.5モル%のCaO、0~3モル%のZrO2、0.05~0.25モル%のSnO2、0.05~0.5モル%のCeO2、50ppm未満のAs2O3、および50ppm未満のSb2O3を含み、ここで、14モル%≦(Li2O+Na2O+K2O)≦18モル%、および2モル%≦(MgO+CaO)≦7モル%である。
【0081】
いくつかの実施の形態において、基板110に適したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物は、アルミナ、少なくとも1種類のアルカリ金属、およびいくつかの実施の形態において、50モル%超のSiO2、他の実施の形態において、58モル%以上のSiO2、およびさらに他の実施の形態において、60モル%以上のSiO2を含み、ここで、比(Al2O3+B2O3)/Σ改質剤(すなわち、改質剤の合計)は1より大きく、この比において、成分はモル%で表され、改質剤はアルカリ金属酸化物である。特別な実施の形態において、このガラス組成物は、58~72モル%のSiO2、9~17モル%のAl2O3、2~12モル%のB2O3、8~16モル%のNa2O、および0~4モル%のK2Oを含み、ここで、比(Al2O3+B2O3)/Σ改質剤(すなわち、改質剤の合計)は1より大きい。
【0082】
いくつかの実施の形態において、前記基板は、64~68モル%のSiO2、12~16モル%のNa2O、8~12モル%のAl2O3、0~3モル%のB2O3、2~5モル%のK2O、4~6モル%のMgO、および0~5モル%のCaOを含み、66モル%≦SiO2+B2O3+CaO≦69モル%、Na2O+K2O+B2O3+MgO+CaO+SrO>10モル%、5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%、(Na2O+B2O3)-Al2O3≦2モル%、2モル%≦Na2O-Al2O3≦6モル%、および4モル%≦(Na2O+K2O)-Al2O3≦10モル%である、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物を含むことがある。
【0083】
いくつかの実施の形態において、基板110は、2モル%以上のAl2O3および/またはZrO2、または4モル%以上のAl2O3および/またはZrO2を含むアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物を含むことがある。
【0084】
基板110が結晶質基板を含む場合、その基板は単結晶を含むことがあり、その単結晶はAl2O3を含むことがある。そのような単結晶基板は、サファイアと呼ばれる。結晶質基板のための他の適切な材料としては、多結晶アルミナ層および/またはスピネル(MgAl2O4)が挙げられる。
【0085】
必要に応じて、基板110は、ガラスセラミック基板を含むことがあり、この基板は、強化されていてもされていなくてもよい。「ガラスセラミック」は、ガラスの制御された結晶化により製造された材料を含む。実施の形態において、ガラスセラミックは、約30%から約90%の結晶化度を有する。適切なガラスセラミックの例としては、Li2O・Al2O3・SiO2系(すなわち、LAS系)ガラスセラミック、MgO・Al2O3・SiO2系(すなわち、MAS系)ガラスセラミック、および/またはβ-石英固溶体、β-スポジュメン、コージエライト、および二ケイ酸リチウムを含む主結晶相を有するガラスセラミックが挙げられる。そのガラスセラミック基板は、ここに開示された化学強化過程を使用して強化されることがある。1つ以上の実施の形態において、MAS系のガラスセラミック基板は、Li2SO4溶融塩中で強化することができ、それによって、2Li+のMg2+との交換が起こり得る。
【0086】
1つ以上の実施の形態による基板110は、基板110の様々な部分において、約100μmから約5mmに及ぶ範囲内、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲内の物理的厚さを有し得る。いくつかの実施の形態において、基板110の物理的厚さは、約100μmから約500μm(例えば、100、200、300、400または500μm)に及ぶ。いくつかの実施の形態において、基板110の物理的厚さは、約500μmから約1000μm(例えば、500、600、700、800、900または1000μm)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲に及ぶ。いくつかの実施の形態において、基板110は、約1mm超(例えば、約2、3、4、または5mm)の物理的厚さを有することがある。基板110は、表面傷の影響をなくすまたは低下させるために、酸磨きまたは他の方法で処理することができる。
【0087】
ここに記載された1つ以上の実施の形態によれば、被覆物品100、光学コーティング120、または光学コーティング120の個々の層は、約0.4%以上、約0.5%以上、約0.6%以上、約0.7%以上、約0.8%以上、約0.9%以上、約1.0%以上、約1.5%以上、またさらには約2.0%以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の破壊歪み(すなわち、亀裂開始歪み)を有することがある。「破壊歪み」という用語は、追加の荷重を印加せずに、光学コーティング120、基板110、またはその両方に同時に、亀裂が伝播し、典型的に、ここに記載されたような、所定の材料、層または膜内に壊滅的な破損をもたらし、ことによると、別の材料、層、または膜に橋渡しさえする歪みを称する。すなわち、基板が破壊されない光学コーティング120の破壊は破損に相当し、基板110の破壊も破損に相当する。「平均」という用語は、平均破壊歪みまたは任意の他の性質に関して使用される場合、5つのサンプルについてのそのような性質の測定値の数学的平均に基づく。典型的に、亀裂開始歪みの測定は、通常の実験室条件下で反復可能であり、多数のサンプルにおいて測定された亀裂開始歪みの標準偏差は、観察された歪みの0.01%ほど小さいことがある。ここに用いられているような平均破壊歪みは、リング・オン・リング引張試験を使用して測定した。しかしながら、特に明記のない限り、ここに記載された破壊歪みの測定値は、下記に記載されるリング・オン・リング試験装置からの測定値を称する。
【0088】
図5は、被覆物品100の破壊歪みを測定するために使用されるリング・オン・リング機械式試験装置300の断面図を概略示している。リング・オン・リング引張試験手順によれば、被覆物品100は、底部リング302と上部リング304との間に置かれる。上部リング304および底部リング302は異なる直径を有し、上部リング304の直径は点線308で表され、底部リング302の直径は点線306で表される。ここに用いられているように、上部リング304の直径308は12.7mmであり、底部リング302の直径306は25.4mmである。被覆物品100と接触する上部リング304および底部リング302の部分は、断面が円形であり、各々が1.6mmの半径を有する。上部リング304および底部リング302は鋼鉄から作られている。試験は、約22℃および45%~55%の相対湿度の環境で行われる。試験に使用される被覆物品のサイズは、50mm×50mmの正方形である。
【0089】
被覆物品100の破壊歪みを決定するために、力が、向きが
図5に示され場合で、上部リング304に下向き方向に、および/または底部リング302に上向き方向に印加される。上部リング304または底部リング302への力を増加させて、基板110および光学コーティング120の一方または両方の壊滅的な破損が生じるまで、被覆物品100に歪みを生じさせる。試験中の壊滅的な破損を記録するために、底部リング302の下に、ライトとカメラ(
図5に示されていない)が設けられる。壊滅的な損傷がカメラにより観察されたときの荷重を決定するために、カメラの画像を印加荷重と協調するように、Dewetron収集システムなどの電子制御装置が設けられる。
図6は、リング・オン・リング引張試験手順における例示の破損の画像を示す。破壊歪みを決定するために、Dewetronシステムによりカメラの画像と荷重信号を同期させ、よって、コーティングが破損を示す荷重を決定することができる。次に、「Hu, G.,等、Dynamic fracturing of strengthened glass under biaxial tensile loading. Journal of Non-Crystalline Solids, 2014. 405(0): p.153-158」に見られるような、有限要素解析を使用して、この荷重でサンプルが経験している歪みレベルを解析する。要素のサイズは、荷重リングの下の応力集中を表すのに十分に細いように選択することができる。歪みレベルは、荷重リングの下で30節点以上で平均される。
【0090】
光学コーティング120および/または物品100を、バーコビッチ圧子硬度試験により測定される硬度および/またはヤング率に関して記載することができる。ここに用いられているように、「バーコビッチ圧子硬度試験」は、代用層上の薄膜要素のヤング率を測定することを含む。この代用層は、そのコーティングを生成するのに使用したのと同じ材料から作られ、同じ過程によって堆積されたが、Gorilla(登録商標)Glass基板上に300nm厚で堆積された。薄膜コーティングの硬度およびヤング率は、広く受け入れられているナノインデンテーション手法を使用して決定される。Fischer-Cripps, A.C., Critical Review of Analysis and Interpretation of Nanoindentation Test Data, Surface & Coatings Technology, 200, 4153-4165 (2006)(以後、「Fischer-Cripps」)、およびHay, J., Agee, P, and Herbert, E., Continuous Stiffness measurement During Instrumented Indentation Testing, Experimental Techniques, 34 (3) 86-94 (2010)(以後、「Hay」)を参照のこと。コーティングについて、圧痕深さの関数として硬度およびモジュラスを測定するのが、一般的である。コーティングが十分な厚さのものである限り、得られた応答プロファイルからコーティングの性質を分離することが可能である。コーティングが薄すぎる(例えば、約500nm未満)である場合、コーティングの性質は、異なる機械的性質を有することのある基板の近傍から影響を受け得るので、コーティングの性質を完全に分離することは可能ではないであろうことを認識すべきである。Hay参照。ここに性質を報告するために使用される方法は、コーティング自体を表す。その過程は、1000nmに到達する深さまでの圧痕深さに対して硬度およびモジュラスを測定することにある。より軟質のガラス上の硬質コーティングの場合、応答曲線は、比較的小さい圧痕深さ(</=約200nm)での最大レベルの硬度およびモジュラスを示
す。より深い圧痕深さでは、硬度とモジュラスの両方が、応答がより軟質のガラス基板の影響を受けるので、徐々に減少する。この場合、コーティングの硬度およびモジュラスは、最大硬度およびモジュラスを示す領域に関連するものと解釈される。より硬質のガラス基板上の軟質コーティングの場合、コーティングの性質は、比較的小さい圧痕深さで生じる最低の高度およびモジュラスレベルにより示される。より深い圧痕深さでは、硬度およびモジュラスは、より硬質のガラスの影響のために、徐々に増加する。深さに対する硬度およびモジュラスのこれらのプロファイルは、従来のOliverおよびPharrの手法(Fischer-Crippsに記載されたような)、またはより効率的な連続剛性手法(Hay参照)のいずれかを使用して得ることができる。信頼できるナノインデンテーションデータの抽出には、確立したプロトコルにしたがう必要がある。そうでなければ、これらの評価指標は、著しい誤差に曝され得る。これらの弾性率値および硬度値は、上述したような、公知のダイヤモンドナノインデンテーション方法を使用して、バーコビッチダイヤモンド圧子の先端で、そのような薄膜について測定される。
【0091】
典型的に、コーティングが、下層の基板よりも硬いナノインデンテーション測定方法(バーコビッチ圧子の使用などによる)において、測定される硬度は、最初に浅い圧痕深さ(例えば、25nm未満または50nm未満)での塑性領域の発生のために増加するようであり、次いで、増加し、より深い圧痕深さ(例えば、50nmから約500nmまたは1000nm)で最大値または平坦域に到達する。その後、硬度は、基板がコーティングより軟質である場合、下層の基板の効果のために、さらにより深い圧痕深さで減少し始める。コーティングと比べてより大きい硬度を有する基板を使用する場合、同じ効果が見られる;しかしながら、硬度は、下層の基板の効果のために、より深い圧痕深さで増加する。
【0092】
圧痕深さ範囲および特定の圧痕深さ範囲での硬度値は、下層の基板110の効果がなく、ここに記載された光学コーティング120およびその層の特定の硬度応答を特定するために選択することができる。バーコビッチ圧子で光学コーティング120(基板110上に配置されたときの)の硬度を測定する場合、材料の永久変形の領域(塑性領域)が材料の硬度に関連する。圧入中、弾性応力場は、この永久変形の領域をはるかに超えて延在する。圧痕深さが増加するにつれて、見掛け硬度およびモジュラスは、下層の基板110との応力場の相互作用により影響を受ける。硬度に対する基板の影響は、より深い圧痕深さ(すなわち、典型的に、光学コーティング120の約10%を超える深さ)で生じる。その上、さらなる複雑な状態は、硬度応答は、圧入過程中に完全塑性を生じる特定の最小荷重により示されることである。その特定の最小荷重の前に、硬度は、一般に増加する傾向を示す。
【0093】
小さい圧痕深さ(小荷重と特徴付けることもできる)(例えば、約50nmまで)では、材料の見掛け硬度は、圧痕深さに対して劇的に増加する。この小さい圧痕深さ領域は、硬度の真の評価指標を表さず、その代わりに、上述した塑性領域の発生を反映し、これは、圧子の曲率の有限半径に関連する。中間の圧痕深さでは、見掛け硬度は最大レベルに到達する。より深い圧痕深さでは、基板の影響は、圧痕深さが増加するにつれて、より著しくなる。圧痕深さが光学コーティングの厚さの約30%を一旦超えると、硬度は劇的に減少し始めるであろう。
【0094】
1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、バーコビッチ圧子硬度試験により、空気側の表面122で測定して、約5GPa以上、約8GPa以上、約10GPa以上、または約12GPa以上(例えば、14GPa以上、16GPa以上、18GPa以上、またさらには20GPa以上)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の硬度を示すことがある。1つ以上の実施の形態において、光学コーティング120は、バーコビッチ圧子硬度試験により、空気側の表面122で測定して、約8GPa以上、約10GPa以上、または約12GPa以上(例えば、14GPa以上、16GPa以上、18GPa以上、またさらには20GPa以上)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の最大硬度を示すことがある。いくつかの実施の形態において、バーコビッチ圧子硬度試験により測定して、高RI層および/または耐引掻性層150の最大硬度は、約8GPa以上、約10GPa以上、約12GPa以上、15GPa以上、18GPa以上、またさらには20GPa以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲であることがある。単層の測定は、物品にその単層を施し、最大バーコビッチ硬度を試験することによって、行うことができる。そのような硬度の測定値は、約50nm以上、または約100nm以上(例えば、約100nmから約300nm、約100nmから約400nm、約100nmから約500nm、約100nmから約600nm、約200nmから約300nm、約200nmから約400nm、約200nmから約500nm、または約200nmから約600nm)、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の圧痕深さに沿って、被覆物品100、光学コーティング120、高RI層130B、および/または耐引掻性層150により示されることがある。1つ以上の実施の形態において、その物品は、基板の硬度(空気側の表面122と反対の表面で測定しても差し支えない)より大きい硬度を示す。
【0095】
光学コーティング120/空気界面および光学コーティング120/基板110界面からの反射波間の光学干渉は、物品100に見掛けの色を作り出すスペクトル反射率および/または透過率振幅をもたらし得る。ここに用いられているように、「透過率」という用語は、材料(例えば、物品、基板または光学膜またはその部分)を透過する所定の波長範囲内の入射光学パワーの百分率と定義される。「反射率」という用語は、同様に、材料(例えば、物品、基板または光学膜またはその部分)から反射する所定の波長範囲内の入射光学パワーの百分率と定義される。ここに用いられているように、「平均透過率」は、規定の光学波長領域に亘る材料を透過する入射光学パワーの平均量を称する。ここに用いられているように、「平均反射率」は、材料が反射する入射光学パワーの平均量を称する。反射率は、空気側の表面122のみで測定された場合(例えば、吸収体に結合した背面上の屈折率一致油の使用、または他の公知の方法などにより、被覆物品100の未被覆背面(例えば、
図1の114)からの反射を除く場合)、片面反射率として測定されることがある。1つ以上の実施の形態において、透過率および反射率の特徴付けのスペクトル分解能は、5nmまたは0.02eV未満である。色は、反射においてより著しいであろう。角度色は、入射照明角度によるスペクトル反射率振幅におけるずれのために、視角により反射でずれるであろう。視角による透過率における角度色のずれも、入射照明角度によるスペクトル透過率振幅における同じずれによる。観測色および入射照明角度による角度色ずれは、しばしば、特に蛍光照明およびいくつかのLED照明などの鋭いスペクトル特性を持つ照明下で、機器のユーザにとって気を逸らすまたは好ましくない。透過における角度色ずれも、反射における色ずれにおいてある要因も果たすことがあり、その逆も同様であろう。透過および/または反射における角度色ずれの要因は、特定の光源または試験システムにより定義される材料吸収(角度とはいくぶん関係ない)により生じることがある特定の白色点から離れた角度色ずれまたは視角による角度色ずれも含むことがある。
【0096】
ここに記載された物品は、可視スペクトルにおけるまたはその近くの特定の波長範囲に亘り平均光透過率および片面平均光反射率を示す。それに加え、ここに記載された物品は、可視スペクトルにおける特定の波長範囲に亘り平均可視明所視透過率および平均可視明所視反射率を示す。実施の形態において、平均光透過率、片面平均光反射率、平均可視明所視透過率、および平均可視明所視反射率を測定するための波長範囲(ここに「光学波長領域」と称されることもある)は、約450nmから約650nm、約420nmから約680nm、約420nmから約700nm、約420nmから約740nm、約420nmから約850nm、約420nmから約950nm、または好ましくは約350nmから約850nmである。特に明記のない限り、平均光透過率、片面平均光反射率、平均可視明所視透過率、および平均可視明所視反射率は、約0度から約10度の入射角など、反射防止表面122に対して垂直に使い入射照明角度で測定される(しかしながら、そのような測定値は、例えば、30度、45度、または60度などの他の入射照明角度で収集してもよい)。
【0097】
1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、空気側の表面122のみで測定された場合(例えば、吸収体に結合した背面上の屈折率一致油の使用などにより、物品の未被覆背面からの反射を除く場合)、前記光学波長領域に亘り、約50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、またさらには約2%以下、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の平均片面平均光反射率を示すことがある。いくつかの実施の形態において、その平均片面光反射率は、約0.4%から約9%、約0.4%から約8%、約0.4%から約7%、約0.4%から約6%、または約0.4%から約5%の範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲にあることがある。1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、光学波長領域に亘り、約50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、または99%以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の平均光透過率を示す。実施の形態において、被覆物品100は、約99.5から約90%、92%、94%、96%、98%、または99%の範囲、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の光透過率を示すことがある。
【0098】
いくつかの実施の形態において、被覆物品100は、光学波長領域に亘り、約50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、約1%以下、またさらには約0.8%以下、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の平均可視明所視反射率を示すことがある。ここに用いられているように、明所視反射率は、人の目の感度により波長スペクトルに対する反射率を重み付けすることによって、人の目の応答に似ている。明所視反射率は、CIE色空間の慣例などの公知の慣例にしたがって、反射光の三刺激Y値、または輝度として定義することもできる。平均明所視反射率は、目のスペクトル反応に関連する、光源スペクトルI(λ)およびCIEの等色関数
【0099】
に乗じられたスペクトル反射率R(λ)として下記の式に定義されている:
【0100】
【0101】
いくつかの実施の形態において、物品100は、光学波長領域に亘り、約50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、約85%以上、約90%以上、約92%以上、約94%以上、約96%以上、またさらには約98%以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の平均可視明所視透過率を示すことがある。同様に、明所視透過率は、式:
【0102】
【0103】
により決定することができる。
【0104】
1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、CIE L*a*b*測色系(ここでは「色座標」と称される)における反射率および透過率の測定可能な色(またはその欠如)を示す。透過率色座標は、透過率において観察されたL*a*b*色座標を称し、反射率色座標は、反射率において観察されたL*a*b*色座標を称する。透過率色座標または反射率色座標は、様々な光源の光タイプの下で測定することができ、その例としては、A光源(タングステン・フィラメント照明を表す)、B光源(昼光シミュレーション光源)、C光源(昼光シミュレーション光源)、D類光源(自然照明を表す)、およびF類光源(様々な種類の蛍光照明を表す)を含む、CIEにより決定されたような標準光源が挙げられる。具体的な光源としては、CIEにより規定されたような、F2、F10、F11、F12またはD65が挙げられる。それに加え、反射率色座標および透過率色座標は、垂直(0度)、5度、10度、15度、30度、45度、または60度などの異なる観察入射角で測定してよい。
【0105】
1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、垂直な入射角、または5度、10度、15度、30度、45度、または60度の入射角で見たときに、透過率および/または反射率において、約10以下、8以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下、またさらには1以下、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲のa*を有する。1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、垂直な入射角、または5度、10度、15度、30度、45度、または60度の入射角で見たときに、透過率および/または反射率において、約10以下、8以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下、またさらには1以下、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲のb*を有する。1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、垂直な入射角、または5度、10度、15度、30度、45度、または60度の入射角で見たときに、透過率および/または反射率において、約-10以上、-8以上、-6以上、-5以上、-4以上、-3以上、-2以上、またさらには-1以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲のa*を有する。1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、垂直な入射角、または5度、10度、15度、30度、45度、または60度の入射角で見たときに、透過率および/または反射率において、約-10以上、-8以上、-6以上、-5以上、-4以上、-3以上、-2以上、またさらには-1以上、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲のb*を有する。
【0106】
1つ以上の実施の形態において、基準点色ずれは、基準点と、透過率色座標または反射率色座標との間で測定することができる。この基準点色ずれは、基準点の色座標と観察された色座標(反射または透過のいずれか)との間の色の差を測定する。反射率基準点色ずれ(反射率における基準点色ずれと称されることもある)は、反射色座標と基準点との間の差を称する。透過率基準点色ずれ(透過率における基準点色ずれと称されることもある)は、透過色座標と基準点との間の差を称する。基準点色ずれを決定するために、基準点を選択する。ここに記載された実施の形態によれば、基準点は、CIE L
*a
*b
*測色系における基点(色座標a
*=0、b
*=0)、座標(a
*=-2、b
*=-2)、または基板の透過率または反射率色座標であってよい。特に明記のない限り、ここに記載された物品のL
*座標は、基準点と同じであり、色ずれに影響しないことを理解すべきである。その物品の基準点色ずれが基板に対して定義される場合、その物品の透過率色座標は、基板の透過率色座標と比較され、物品の反射率色座標は、基板の反射率色座標と比較される。特に明記のない限り、基準点色ずれは、被覆物品100の空気側の表面122に対して垂直角で測定される、透過率または反射率における色座標と基準点との間で測定されるずれを称する。しかしながら、基準点色ずれは、5度、10度、15度、30度、45度、または60度などの非垂直な入射角に基づいて決定してもよいことを理解すべきである。それに加え、特に明記のない限り、反射率色座標は、その物品の空気側の表面122のみで測定される。しかしながら、ここに記載された反射率色座標は、2面測定(物品の両面からの反射が両方とも含まれる)または1面測定(物品の空気側の表面122のみからの反射が測定される)のいずれかを使用して、物品の空気側の表面122およびその物品の反対側(すなわち、
図1の主面114)の両方で測定することができる。もちろん、1面反射率測定は、典型的に、反射防止コーティングの低い基準点色ずれ値を達成するためのより困難な評価指標であり、これは、物品の背面が、黒色インクなどの光吸収媒体もしくはLCDまたはOLED装置に結合されている用途(スマートフォンなど)に関連する。
【0107】
基準点が色座標a*=0、b*=0(基点)である場合、基準点色ずれは、以下の式:基準点色ずれ=√((a*
物品)2+(b*
物品)2)により計算される。
【0108】
基準点が色座標a*=-2、b*=-2である場合、基準点色ずれは、以下の式:基準点色ずれ=√((a*
物品+2)2+(b*
物品+2)2)により計算される。
【0109】
基準点が基板の色座標である場合、基準点色ずれは、以下の式:基準点色ずれ=√((a*
物品-a*
基板)2+(b*
物品-b*
基板)2)により計算される。
【0110】
1つ以上の実施の形態において、反射率および/または透過率における基準点色ずれは、開示の基準点の内の1つに対して測定して、約10未満、約9未満、約8未満、約7未満、約6未満、約5未満、約4未満、約3未満、約2.5未満、約2未満、約1.8未満、約1.6未満、約1.4未満、約1.2未満、約1未満、約0.8未満、約0.6未満、約0.4未満、またさらには約0.25未満、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲にある。
【0111】
本開示のいくつかの実施の形態は、光源下で非垂直な入射角で見たときでさえ、反射率および/または透過率において無色を示す被覆物品100に関する。1つ以上の実施の形態において、ここに記載された被覆物品100は、視角が変えられたときに、反射率および/または透過率において目に見える色の変化が最小であることがある。それは、反射率または透過率における被覆物品100の角度色ずれにより特徴付けることができる。角度色ずれは、以下の式:角度色ずれ=√((a*
2-a*
1)2+(b*
2-b*
1)2)を使用して決定できる。この角度色ずれの式において、入射照明角度が基準照明角度と異なり、ある場合には、約1度以上、例えば、2度または約5度基準照明角度から異なるという条件で、a*
1およびb*
1は、基準入射照明角度(垂直入射を含むことがある)で見たときの物品のa*およびb*座標を表し、a*
2およびb*
2は、入射照明角度で見たときの物品のa*およびb*座標を表す。特に明記のない限り、ここに記載された物品のL*座標は、任意の角度または基準点で同じであり、色ずれに影響しないことを理解すべきである。
【0112】
基準照明角度は、垂直入射(すなわち、0度)、または例えば、垂直入射から5度、10度、15度、30度、45度、または60度を含んでよい。しかしながら、特に明記のない限り、基準照明角度は、垂直入射角である。入射照明角度は、例えば、基準照明角度から5度、10度、15度、30度、45度、または60度であってもよい。
【0113】
1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、ある光源下で、基準照明角度と異なる特定の入射照明角度で見たときに、約10以下(例えば、5以下、4以下、3以下、または2以下、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲)の反射率および/または透過率における角度色ずれを有する。いくつかの実施の形態において、反射率および/または透過率における角度色ずれは、約1.9以下、1.8以下、1.7以下、1.6以下、1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下、1以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、または0.1以下、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲である。いくつかの実施の形態において、その角度色ずれは約0であることがある。光源としては、A光源(タングステン・フィラメント照明を表す)、B光源(昼光シミュレーション光源)、C光源(昼光シミュレーション光源)、D類光源(自然照明を表す)、およびF類光源(様々な種類の蛍光照明を表す)を含む、CIEにより決定されたような標準光源が挙げられる。具体例として、その物品は、CIE F2、F10、F11、F12またはD65光源下、またはより詳しくは、CIE F2光源下で、基準照明角度から、入射照明角度で見たときに、約2以下の反射率および/または透過率における角度色ずれを示す。
【0114】
1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、基準照明角度に対して所定の範囲内の全ての入射照明角度で、約10以下(例えば、5以下、4以下、3以下、または2以下)の反射率および/または透過率における角度色ずれを有する。例えば、被覆物品100は、基準照明角度から、その基準照明角度から約5度、10度、15度、30度、45度、または60度までの範囲内の全ての入射照明角度で、約10以下、5以下、4以下、3以下、または2以下の角度色ずれを有することがある。追加の実施の形態において、被覆物品100は、基準照明角度から、その基準照明角度から約5度、10度、15度、30度、45度、または60度までの範囲内の全ての入射照明角度で、約1.9以下、1.8以下、1.7以下、1.6以下、1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下、1以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、または0.1以下、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲の角度色ずれを有することがある。
【0115】
1つ以上の実施の形態において、被覆物品100は、光源ポートの上の、直径8mmの開口を使用して、商標名Haze-Gard plus(登録商標)でBYK Gardnerにより供給されるヘイズメーターを使用して、研磨側で測定して、約10%以下のヘイズ値を示す。いくつかの実施の形態において、ヘイズは、約50%以下、約25%以下、約20%以下、約15%以下、約10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、約1%以下、約0.5%以下、または約0.3%以下、および先の値の間の任意の範囲と部分的範囲にあることがある。いくつかの特定の実施の形態において、物品100は、約0.1%から約10%、約0.1%から約9%、約0.1%から約8%、約0.1%から約7%、約0.1%から約6%、約0.1%から約5%、約0.1%から約4%、約0.1%から約3%、約0.1%から約2%、約0.1%から約1%、約0.3%から約10%、約0.5%から約10%、約1%から約10%、約2%から約10%、約3%から約10%、約4%から約10%、約5%から約10%、約6%から約10%、約7%から約10%、約1%から約8%、約2%から約6%、約3%から約5%の範囲、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲のヘイズを示す。
【0116】
ここに開示された被覆物品は、ディスプレイを備えた物品(またはディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステム、ウェアラブル機器(例えば、腕時計)などを含む家庭用電化製品)、建築物品、輸送物品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、電化製品、またはある程度の透明性、耐引掻性、耐摩耗性またはその組合せを必要とする任意の物品などの別の物品に組み込まれることがある。ここに開示された被覆物品のいずれかを組み込んだ例示の物品が、
図7Aおよび7Bに示されている。詳しくは、
図7Aおよび7Bは、前面704、背面706、および側面708を有する筐体702;その筐体内に少なくとも部分的に内部にあるまたは完全に中にある電気部品(図示せず)であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にまたはそれに隣接したディスプレイ710を含む電気部品;およびディスプレイ上にあるように、筐体の前面またはその上にあるカバー基板712を備えた家庭用電子機器700を示している。いくつかの実施の形態において、カバー基板712は、ここに開示された被覆物品のいずれを含んでもよい。いくつかの実施の形態において、その筐体の一部またはカバーガラスの少なくとも一方は、ここに開示された被覆物品を含む。
【実施例】
【0117】
被覆物品の様々な実施の形態を、以下の実施例によってさらに明白にする。それらの実施例は、事実上、説明であり、本開示の主題を限定すると理解すべきではない。
【0118】
実施例1
プラズマ蒸着によって、ガラス基板上に膜を堆積させた。膜は、反応性スパッタリング堆積を使用して、「Gorilla」Glass(約850MPaのCS、約40マイクロメートルのDOC、および1.0ミリメートル(mm)の厚さを有するCorningコード#5318)上に膜を堆積させた。スパッタリング標的は、シリコンおよびアルミニウムの直径3インチ(約7.5cm)の標的であった。各標的は、シャッターが閉じたときに、スパッタ物質の堆積を防ぐ、またはシャッターが開いたときに基板上にスパッタ物質の堆積を可能にすることができる空気圧駆動シャッターを有した。サンプルは、スパッタリング標的の上に位置している。チャンバ内のスパッタリング発射距離は約100mmであった。均一性を改善するために、サンプルをスパッタリング標的上で回転させた。基板近く(約1mm離れた)の温度をモニタするために、基板ホルダの近くに配置した熱電対を使用した。サンプルを、堆積の前と最中に、チャンバ内で加熱し、200℃に保持するように制御した。このチャンバに、圧力を制御するために可変角度仕切弁を使用した。この可変角度弁は、便利なものであるが、ここに開示された膜特性を達成するためには必要ない。堆積チャンバでは、チャンバ中にサンプルを輸送するためにロードロックを使用した。このチャンバは、ターボ分子ポンプにより引いた。このチャンバの基準圧力は、約0.1マイクロトール(すなわち、10-7トール(約13×10-6Pa))であった。
【0119】
堆積の実施は、サンプルをロードロックに装填し、ロードロックをポンプで引き、次に、サンプルを堆積チャンバに移送することによって開始した。堆積チャンバ内でアルゴンガスの流れを開始し、可変角度仕切弁を使用して、圧力を約30ミリトール(約4Pa)に制御した。約30ミリトール(約4Pa)の圧力が安定化された後、次に、被覆の実施に使用する目的のスパッタリング標的の各々にプラズマを開始した。このプラズマは、DCおよびRF(13.56MHz)の電力のいずれかまたは両方で駆動した。典型的に、99.99%純粋なアルミニウム標的に、200ワットのRFが重畳された300ワットのDCを使用し、pドープSi標的に500ワットのDCを使用したが、バリエーションが表1に示されている。その後の実験により、Alは、RFを重畳せずに、500ワットのDCのみでも駆動できることが分かった。約1分に亘りプラズマを安定化した後、可変角度仕切弁を使用して、圧力を堆積圧に減少させた。
【0120】
堆積圧でプラズマが安定化された後、酸化剤の窒素および酸素ガスを導入した。典型的に、毎分30標準状態立方センチメートル(sccm)のN2流および約0.5sccmの酸素流を使用した。これらの値は、表1に示されるように、ある堆積の実施から別のもので変わった。いくつかの堆積の実施では酸素を使用せず、いくつかでは3sccmまでの酸素を使用した。酸化剤ガスを導入すると、マグネトロンに供給される電力で電圧の減少により見られるように、スパッタリング標的の表面が窒素と酸素で部分的に汚染された。汚染の正確な程度は分からなかった。約1分の短い安定化時間後、マグネトロン標的へのシャッターを開いて、スパッタ物質をサンプル上に堆積させた。
【0121】
表1は、実施例1の様々なサンプルの堆積条件を示している。
【0122】
【0123】
表2は、実施例1において製造されたコーティングの組成を示している。
【0124】
【0125】
表3は、実施例1のコーティングに測定された性質を示している。詳しくは、表3は、コーティング厚、コーティング(基板上に存在するコーティングについて)の破壊歪み、基板(その上にコーティングが存在する状態で試験された基板について)の破壊歪み、基板上に存在するコーティングについて測定したモジュラス(E)、基板上に存在するコーティングについて測定した硬度(H)、および先に記載された技術を使用して測定した膜応力(膜内の残留応力)を示す。下記の表4に報告された結果についても、表3に関して上述した注釈および同じ慣例を使用した。
【0126】
【0127】
表3に示されるように、残留圧縮応力(例えば、5MPa以上、50MPa超、100MPa超、150MPa超、200MPa超、400MPa超、500MPa以上、800MPa超、および900MPa超、ここで、表における負号は、圧縮応力を示す)を有する膜は、基板の破損前に亀裂を生じなかった。すなわち、コーティングおよび基板は、同じ破壊歪みを有した、すなわち、それらは、同じ荷重下で破損した。関与する材料は脆いので、また基板の厚さはコーティングのものよりずっと厚いので、基板が破損するときに、コーティングはそれと共に破損する。それゆえ、コーティングの破壊歪みが基板の破壊歪みと等しい場合、コーティングは少なくとも基板と同じくらい頑強である。ある場合には、コーティングおよび基板が同様の頑強性のものである、すなわち、同様の破壊歪みで破損することが有益である。しかしながら、ある場合には、コーティングおよび基板が互いに同様ではない場合でさえ、それらの各々について、高い破壊歪みを達成することが、コーティングおよび基板の間で同様の破壊歪みを達成することよりも望ましい。すなわち、基板およびコーティングの両方が高い破壊歪みを有する場合、そのような被覆基板を含む製品は、破壊歪みがコーティングおよび基板の間で同様であるが低い、被覆基板を含む製品よりも、印加荷重および曲げに関して、より耐久性になる。また、破壊歪みは、コーティングの厚さおよび基板の厚さに依存する。表3および4において、全体に亘り、同じ基板の厚さを使用した。
【0128】
それゆえ、例えば、同様のコーティング厚を有する(それぞれ、726nmおよび720nm)、比較サンプルDとサンプル6を比較すると、比較サンプルDにおけるコーティングの破壊歪みが基板のものと同様である(各々について0.38%)のに対し、サンプル6のコーティングの破壊歪みが基板のものより低い(それぞれ、0.61%対0.78%)場合でさえ、コーティングの破壊歪みは比較サンプルDにおけるものより高いので(それぞれ、0.61%対0.38%)、サンプル6のほうがより望ましい。これらのサンプルをさらに比較すると、サンプル6における残留圧縮応力(約200MPa)は、比較サンプルDにおけるもの(約5MPa)よりも高く、これにより、コーティングのより高い破壊歪み、およびより望ましい被覆基板がもたらされる。すなわち、コーティングの残留応力を制御すること、詳しくは、残留応力を圧縮に制御すること、より詳しくは、残留応力を十分なレベルの圧縮に制御することが、コーティングの破壊歪みを増加させる上で望ましい。
【0129】
例えば、サンプル2および比較サンプルCは、ほぼ同じ、厚さ(1160nm対1152nm)、モジュラス(228GPa対229GPa)、および硬度(19.8GPa対20.9GPa)を有するが、サンプル2の残留圧縮応力が高い(960MPa対比較サンプルCにおける479MPaの引張残留応力)ために、サンプル2のコーティングの破壊歪みは、比較サンプルCのものよりずっと高い(0.72%対0.31%)。
【0130】
同様に、サンプル4は比較サンプルDよりも、コーティングおよび基板の両方についてより高い破壊歪みを有するので(0.73%対0.38%)、好ましく、ここで、これらのサンプルは、同様の硬度(それぞれ、17.4GPa対17.5GPa)、および同様のモジュラス(それぞれ、200GPaおよび198GPa)を有する。重ねて、サンプル4におけるより高い圧縮応力(828MPa対比較サンプルDについての5MPa)により、より高い破壊歪みがもたらされる(0.73%対比較サンプルDの0.38%)ことが分かる。サンプル4は、比較サンプルDのものよりいくぶく大きい厚さを有したが(それぞれ、855nm対726nm)、実施例2の表4に示されるように、より薄いコーティングがより高い破壊歪みを生じるであろう(コーティングの残留圧縮応力が同じ場合)と予測されるであろう。
【0131】
実施例2
Tecport Symphony堆積装置を使用したイオンアシストプラズマ蒸着を利用して、「Gorilla」Glass(約850MPaのCS、約40マイクロメートルのDOC、および1.0mmの厚さを有するCorningコード#5318)上にコーティングを堆積させた。表4は、堆積の条件を示している。実施例2の全てのコーティングは、AlONから形成した。堆積中にAlマグネトロンに印加した電力は、4kWであった。堆積時間は、表4に示されるように、変えた。マグネトロンに供給したアルゴン流は40sccmであり、イオン銃に供給したアルゴン流は25sccmであった。イオン銃に供給した窒素流は45sccmであり、イオン銃に供給した酸素流は2.5sccmであった。堆積のポンピングには、1.39mT(約0.19Pa)のチャンバ圧のために2つのクライオポンプを使用した。サンプルは、20rpmで回転させた。表4は、サンプルのモジュラスおよび硬度、並びに被覆基板の破壊歪みも示している。
【0132】
【0133】
実施例2のサンプル5~7から、所定の残留圧縮応力(例えば、約200MPa)について、コーティングの厚さが約1000nmから約700nmから約350nmに減少するにつれて、コーティングの破壊歪みが、約0.4%から約0.6%から約0.8%に増加したことが分かる。
【0134】
先の実施例1および2から、(i)所定のコーティングの厚さ、硬度、およびモジュラスについて、膜の残留圧縮応力がより高いと、膜の破壊歪みが望ましくより高くなること、(ii)膜における所定の量の残留圧縮応力について、より薄い膜は、膜におけるより高い破壊歪みをもたらすこと、および(iii)膜の望ましいレベルの破壊歪みは、様々な硬度およびモジュラスを有するコーティングにより達成することができ、それゆえ、望ましい程度の耐引掻性が提供されるであろうことが分かる。すなわち、一般に、コーティングのモジュラスが高いほど、また硬度が高いほど、耐引掻性がより良好になる。しかしながら、モジュラスが高いほど、また硬度が高いほど、材料がより脆くなり、それゆえ、破壊歪みが低くなる。それゆえ、本開示の概念を使用して、望ましい耐引掻性(高い硬度および/またはモジュラス)および耐久性(高い破壊歪み、例えば、コーティングの高い破壊歪み)を有するコーティングを設計するために、コーティングの性質(例えば、厚さ、硬度、モジュラス、および残留応力)のバランスを適切にとることができる。
【0135】
例えば、5MPa超、または50MPa超、または100MPa超(例えば、150MPa超、200MPa超、800MPa超、および900MPa超-それぞれ、サンプル6、5、4、および2を参照のこと)の残留圧縮応力と共に、約600nmから約1160nm(例えば、約700nmから約900nm-サンプル2、4、5、および6を参照のこと)の厚さ、約12GPa超(例えば、約13GPa以上、約15GPa以上、約17GPa以上、または約19GPa以上-それぞれ、サンプル5、6、4、および2を参照のこと)の硬度、および約0.42%以上(例えば、約0.42%以上、約0.6%以上、約0.7%以上-それぞれ、サンプル5、6、および2&4を参照)のコーティングの破壊歪みを有するコーティングを得ることができる。同様に、例えば、5MPa超、または50MPa超、または75MPa超、、または100MPa超(例えば、200MPa以上、400MPa超、および500MPa以上-それぞれ、サンプル7、3、および1を参照のこと)の残留圧縮応力と共に、約300nmから約600nm(例えば、約350nm以上、400nm以上、または約550nm以上-それぞれ、サンプル7、3、および1を参照のこと)の厚さ、約14GPa以上(例えば、約14GPa以上、約17GPa以上、または約18GPa以上-それぞれ、サンプル7、3、および1を参照のこと)の硬度、および約0.65%超(例えば、約0.7超、約0.74以上、約0.8以上-それぞれ、サンプル3、1、および7を参照)のコーティングの破壊歪みを有するコーティングを得ることができる。
【0136】
表3から分かるように、1μm以上の厚さおよび12、14、16、または18GPa超の(コーティングまたは物品)硬度を有するコーティングを持つ被覆物品について、膜応力が注意深く制御されていない場合、すなわち、残留膜応力が十分には圧縮でない場合、コーティングの破壊歪みが0.31ほどと望ましくなく低いことがある(比較サンプルC参照)。この同じコーティングの厚さおよび硬度の範囲について、そのコーティングの破壊歪みは、膜応力がうまく制御された場合、すなわち、残留膜応力が、圧縮であるように、例えば、5MPa超、または50MPa超、または100MPa超、または150MPa超、または200MPa超、または250MPa超、または300MPa超、または350MPa超、または400MPa超、または450MPa超、または500MPa超、または550MPa超、または600MPa超、または650MPa超、または700MPa超、または750MPa超、または800MPa超、または850MPa超、または900MPa超、または950MPa超の残留圧縮応力を有するように制御された場合、0.4超、0.5超、0.6超、または0.7超であり得る。
【0137】
それに加え、12、14、または16GPa超の硬度と共に、600~1000nmまたは700~900nmの厚さ範囲のコーティングを有する被覆物品について、そのコーティングの破壊歪みは、膜応力がうまく制御されていない場合、すなわち、残留膜応力が十分には圧縮でない場合、0.38ほど低くなり得る(比較サンプルDに示されるように)が、膜応力がうまく制御された場合、すなわち、残留膜応力が、圧縮であるように、例えば、5MPa超、または50MPa超、または100MPa超、または150MPa超、または200MPa超、または250MPa超、または300MPa超、または350MPa超、または400MPa超、または450MPa超、または500MPa超、または550MPa超、または600MPa超、または650MPa超、または700MPa超、または750MPa超、または800MPa超、または850MPa超、または900MPa超、または950MPa超の残留圧縮応力を有するように制御された場合、破壊歪みは、0.45超、0.55超、0.65超、または0.7超であり得る。
【0138】
12、14、または16GPa超の硬度と共に、400~600nmの厚さ範囲のコーティングを有する被覆物品について、そのコーティングの破壊歪みは、膜応力がうまく制御されていない場合、0.59ほど低くなり得る(比較サンプルA参照)が、膜応力がうまく制御された場合、すなわち、残留膜応力が、圧縮であるように、例えば、5MPa超、または50MPa超、または100MPa超、または150MPa超、または200MPa超、または250MPa超、または300MPa超、または350MPa超、または400MPa超、または450MPa超、または約500MPa以上の残留圧縮応力を有するように制御された場合、コーティングの破壊歪みは、0.65超、または0.7超であり得る。
【0139】
ここに用いられているように、「約」という用語は、量、サイズ、配合物、パラメータ、および他の数量と特徴が、正確ではなく、正確である必要はないが、許容誤差、変換係数、丸め、測定誤差など、および当業者に公知の他の要因を反映して、必要に応じて、近似および/または大きいまたは小さいことがあることを意味する。値または範囲の端点を記載する上で、「約」という用語が使用されている場合、本開示は、称されている特定の値または端点を含むと理解すべきである。本明細書における数値または範囲の端点に「約」が付いていようとなかろうと、その数値または範囲の端点は、「約」で修飾されたもの、および「約」で修飾されていないものの2つの実施の形態を含むことが意図されている。それらの範囲の各々の端点は、他方の端点に関してと、他方の端点とは関係なくの両方で有意であることがさらに理解されよう。
【0140】
ここに用いられている「実質的」、「実質的に」という用語、およびその変形は、記載された特徴が、ある値または記載と等しいまたはほぼ等しいことを指摘する意図がある。例えば、「実質的に平らな」表面は、平らまたはほぼ平らである表面を示す意図がある。さらに、「実質的に」は、2つの値が等しいまたはほぼ等しいことを示す意図がある。いくつかの実施の形態において、「実質的に」は、互いの約5%以内、または互いの約2%以内など、互いの約10%以内の値を示すことがある。
【0141】
ここに用いられている方向の用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部-は、描かれた図面に関してのみで使用され、絶対的な向きを暗示する意図はない。
【0142】
ここに用いられているように、名詞は、「少なくとも1つ」の対象を指し、そうではないと明白に示されていない限り、「ただ1つ」に限定されるべきではない。それゆえ、例えば、「成分」への言及は、そうではないと明白に示されていない限り、そのような成分を2つ以上有する実施の形態を含む。
【0143】
様々な改変および変更が、本開示の精神および範囲から逸脱せずに、本開示に行えることが当業者に明白であろう。それゆえ、本開示は、そのような改変および変更を、それらが、付随の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内に入るという条件で、包含することが意図されている。
【0144】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0145】
実施形態1
被覆物品において、
主面を有する基板と、
前記基板の主面上に配置され、空気側の表面を形成する光学コーティングであって、堆積材料の1つ以上の層を含む光学コーティングと、
を備え、
前記光学コーティングの少なくとも一部は、約50MPa超の残留圧縮応力を有し、
前記光学コーティングは、リング・オン・リング引張試験手順で測定して約0.4%以上の破壊歪みを有し、
前記光学コーティングは、約50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により前記空気側の表面で測定して12GPa以上の最大硬度を有し、
前記被覆物品は、約80%以上の平均明所視透過率を有する、被覆物品。
【0146】
実施形態2
(i)前記光学コーティングが、約350nmから約600nm未満の厚さ、約0.65%超の破壊歪み、および14GPa以上の最大硬度を有する;および
(ii)前記光学コーティングが、約600nm以上の厚さ、約0.4%超のコーティング破壊歪み、および13GPa以上の最大硬度を有する;
の内の一方である、実施形態1に記載の被覆物品。
【0147】
実施形態3
前記残留圧縮応力を有する前記光学コーティングの一部が、複数のイオン交換可能な金属イオンおよび複数のイオン交換された金属イオンをさらに含み、該イオン交換された金属イオンは、該イオン交換可能な金属イオンの原子半径より大きい原子半径を有する、実施形態1または2に記載の被覆物品。
【0148】
実施形態4
前記残留圧縮応力が、機械的ブラスト技法によって前記光学コーティングに与えられる、実施形態1または2に記載の被覆物品。
【0149】
実施形態5
前記光学コーティングの前記少なくとも一部が熱膨張係数を有し、前記基板が熱膨張係数を有し、該基板が、該光学コーティングの該少なくとも一部が有するよりも大きい熱膨張係数を有し、該熱膨張係数は、約20℃から約300℃の温度範囲に亘り測定される、実施形態1または2に記載の被覆物品。
【0150】
実施形態6
前記光学コーティングの前記少なくとも一部の熱膨張係数に対する前記基板の熱膨張係数の比が、約1.2:1以上である、実施形態5に記載の被覆物品。
【0151】
実施形態7
前記光学コーティングが、約14GPa以上の最大硬度を示す、実施形態1から6いずれか1つに記載の被覆物品。
【0152】
実施形態8
前記基板が非晶質基板または結晶質基板を含む、実施形態1から7いずれか1つに記載の被覆物品。
【0153】
実施形態9
消費家電製品において、
前面、背面および側面を有する筐体;
前記筐体の少なくとも部分的に内部に設けられた電気部品であって、少なくとも制御装置、メモリ、およびディスプレイであって、該筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電気部品;および
前記ディスプレイ上に配置されたカバーガラス;
を備え、
前記筐体の一部または前記カバーガラスの少なくとも一方が、実施形態1から8いずれか1つに記載の被覆物品から作られている、消費家電製品。
【0154】
実施形態10
被覆物品を製造する方法において、
空気側の表面を形成し、堆積材料の1つ以上の層を備える光学コーティングを基板の主面上に堆積させる工程、
を有してなり、
前記光学コーティングの少なくとも一部は、約50MPa超の残留圧縮応力を有し、
前記光学コーティングは、リング・オン・リング引張試験手順で測定して約0.4%以上の破壊歪みを有し、
前記光学コーティングは、約50nm以上の圧痕深さに沿って、バーコビッチ圧子硬度試験により前記空気側の表面で測定して12GPa以上の最大硬度を有し、
前記被覆物品は、約80%以上の平均明所視透過率を有する、方法。
【0155】
実施形態11
(i)前記光学コーティングが、約350nmから約600nm未満の厚さ、約0.65%超の破壊歪み、および14GPa以上の最大硬度を有する;および
(ii)前記光学コーティングが、約600nm以上の厚さ、約0.4%超のコーティング破壊歪み、および13GPa以上の最大硬度を有する;
の内の一方である、実施形態10に記載の方法。
【0156】
実施形態12
堆積された前記光学コーティングをイオン交換処理することによって、該光学コーティング上に残留圧縮応力を与える工程をさらに含む、実施形態10または実施形態11に記載の方法。
【0157】
実施形態13
前記イオン交換処理が、前記光学コーティングをイオン性塩浴と接触させる工程を含む、実施形態12に記載の方法。
【0158】
実施形態14
前記イオン交換処理が、電界イオン交換を含む、実施形態12または13に記載の方法。
【0159】
実施形態15
機械的ブラスト技法により前記光学コーティング上に残留圧縮応力を与える工程をさらに含む、実施形態10または11に記載の方法。
【0160】
実施形態16
前記光学コーティングの堆積前に、物理的応力下で前記基板を変形させる工程、および
前記光学コーティングの堆積後に、変形した前記基板にそれ自体を再形成させる工程、
をさらに含み、
前記光学コーティングは、前記変形した基板上に堆積されている、実施形態10または11に記載の方法。
【0161】
実施形態17
前記基板上に前記光学コーティングの前記少なくとも一部を堆積させ、該基板を加熱し、該基板を、その上に堆積されたコーティングと共に冷ます工程をさらに含む、実施形態10または11に記載の方法。
【0162】
実施形態18
前記被覆物品が、約14GPa以上の最大硬度を示す、実施形態10から17のいずれか1つに記載の方法。
【符号の説明】
【0163】
100 被覆物品
110 基板
112、114 主面
116、118 副面
120 光学コーティング
122 空気側の表面
130 反射防止コーティング
130A、130B 複数の層
132 周期
140 上面コーティング
150 耐引掻性層
160 上部勾配層
170 底部勾配層
300 リング・オン・リング機械式試験装置
302 底部リング
304 上部リング
700 家庭用電子機器
702 筐体
704 前面
706 背面
708 側面
710 ディスプレイ
712 カバー基板