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  • 特許-ナノダイヤモンド粒子分散液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】ナノダイヤモンド粒子分散液
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/28 20170101AFI20230417BHJP
   C01B 32/26 20170101ALI20230417BHJP
【FI】
C01B32/28
C01B32/26
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019567011
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2019000969
(87)【国際公開番号】W WO2019146453
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018012137
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】梅本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀一
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-012803(JP,A)
【文献】特開2017-128482(JP,A)
【文献】特開2017-186234(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170251(WO,A1)
【文献】特表2003-527285(JP,A)
【文献】KRUEGER, Anke, et al.,Biotinylated Nanodiamond: Simple and Efficient Functionalization of Detonation Diamond,Langmuir,2008年,Vol.24, No.8,p.4200-4204,特にp.4200-4201
【文献】AN, X., et al.,SURFACE FUNCTIONALIZED OF NANODIAMONDS.,Chinese Journal of Reactive Polymers,2012年,Vol.11, No.2,p.152-156,特にp.152-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SP値が8.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒中に、下記式(1)
【化1】
[式(1)中、R 4 は、炭素数1~8のアルキル基を示す。R 1 ’、R 2 ’は同一又は異なって、水素原子、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、又は下記式(a)
【化2】
(式(a)中、R 4 は前記に同じ。R 3 、R 5 は同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を示す。m、nは同一又は異なって、0以上の整数を示す。尚、ケイ素原子から左に伸びる結合手が酸素原子に結合する。また、波線が付された結合手はナノダイヤモンド粒子の表面に結合する)
で表される基である。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する]
で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子が、粒径(D50)が2~100nmの範囲で分散した、ナノダイヤモンド粒子分散液。
【請求項2】
SP値が8.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒が、ケトン類、エーテル類、アルコール類、及びカーボネート類から選択される少なくとも1種の有機溶媒である、請求項1に記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
【請求項3】
前記ナノダイヤモンド粒子が、前記式(1)で表される基と、下記式(2)で表される基で表面修飾された構造を有する、請求項1又は2に記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
【化3】
[式(2)中、R 6 は、炭素数9以上のアルキル基を示す。R 1 ’、R 2 ’は前記に同じ。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性有機溶媒中にナノダイヤモンド粒子を高分散状態で含有する、ナノダイヤモンド粒子分散液に関する。本願は、2018年1月29日に日本に出願した、特願2018-012137号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの微細な物質は、バルク状態では発現し得ない新しい特性を有することが知られている。例えば、ナノダイヤモンド粒子(=ナノサイズのダイヤモンド粒子)は、機械的強度、高屈折率、熱伝導性、絶縁性、酸化防止性、樹脂等の結晶化を促進する作用等を有する。しかし、ナノダイヤモンド粒子は、一般に、表面原子の割合が大きいので、隣接粒子の表面原子間で作用し得るファンデルワールス力の総和が大きく、凝集(aggregation)しやすい。これに加えて、ナノダイヤモンド粒子の場合、隣接結晶子の結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成する凝着(agglutination)という現象が生じ得る。そのため、ナノダイヤモンド粒子を一次粒子の状態で極性有機溶媒や樹脂中に分散させることは非常に困難であった。そこで、ナノダイヤモンド粒子の表面を修飾することによりナノダイヤモンド粒子に分散性を付与し、凝集を抑制することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カチオン界面活性剤のカチオンによって表面修飾されたナノダイヤモンド粒子はトルエンへの分散性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-128482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、カチオン界面活性剤のカチオンによって表面修飾されたナノダイヤモンド粒子はメチルエチルケトン等の極性有機溶媒中においては分散せず、凝集することが分かった。
【0006】
従って、本発明の目的は、ナノダイヤモンド粒子(本明細書においては、「ND粒子」と称する場合がある)が有機溶媒中に高分散されてなるナノダイヤモンド粒子分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、シラン化合物が表面に結合したND粒子は、前記シラン化合物が立体障害として作用するため、極性有機溶媒中において凝集すること無く、高分散性を発揮することを見いだした。本発明は前記知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、SP値が8.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒中に、シラン化合物((メタ)アクリロイル基を有するものは除く)が表面に結合したナノダイヤモンド粒子が、粒径(D50)が2~100nmの範囲で分散した、ナノダイヤモンド粒子分散液を提供する。
【0009】
本発明は、また、シラン化合物((メタ)アクリロイル基を有するものは除く)が表面に結合したナノダイヤモンド粒子が、下記式(1)
【化1】
[式(1)中、R4は、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基を示す。R1’、R2’は同一又は異なって、水素原子、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、又は下記式(a)
【化2】
(式(a)中、R4は前記に同じ。R3、R5は同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を示す。m、nは同一又は異なって、0以上の整数を示す。尚、ケイ素原子から左に伸びる結合手が酸素原子に結合する。また、波線が付された結合手はナノダイヤモンド粒子の表面に結合する)
で表される基である。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する]
で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子である、請求項1に記載のナノダイヤモンド粒子分散液を提供する。
【0010】
本発明は、また、SP値が8.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒が、ケトン類、エーテル類、アルコール類、及びカーボネート類から選択される少なくとも1種の有機溶媒である前記のナノダイヤモンド粒子分散液を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のND粒子分散液は、含有するND粒子の表面がシラン化合物により修飾された構成を有し、前記表面修飾部が立体障害となることにより、ND粒子の凝集が抑制されるため、高分散性を有する。
そのため、本発明のND粒子分散液は、微細なND粒子が有する特性(例えば、機械的強度、高屈折率、熱伝導性、絶縁性、酸化防止性、結晶化促進作用など)を樹脂等に付与する添加剤(例えば、機械的強度付与剤、高屈折率付与材、熱伝導性付与材、絶縁性付与材、酸化防止剤、結晶化促進剤、デンドライト抑制剤等)や、機械部品(例えば、自動車や航空機等)の摺動部等に適用する減摩剤又は潤滑剤として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明における表面修飾ND粒子の一例を示す拡大模式図であり、表面修飾ND粒子(1)は、ND粒子(部分)(2)の表面に、表面修飾基(3)として短鎖脂肪族炭化水素基(4)と長鎖脂肪族炭化水素基(4’)とを有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ナノダイヤモンド粒子分散液]
本発明のナノダイヤモンド粒子分散液(ND粒子分散液)は、SP値が8.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒(本明細書においては、「極性有機溶媒」と称する場合がある)中に、シラン化合物((メタ)アクリロイル基を有するものは除く)が表面に結合したND粒子(本明細書では、「表面修飾ND粒子」と称する場合がある)が分散した構成を有する。
【0014】
本発明のND粒子分散液中における、前記表面修飾ND粒子の粒径(D50、メディアン径)は2~100nmであり、好ましくは2~50nm、より好ましくは2~40nm、更に好ましくは2~30nm、特に好ましくは2~20nm、最も好ましくは2~15nmである。尚、本発明における表面修飾ND粒子の粒径(D50)は、動的光散乱法によって測定することができる。
【0015】
ND粒子分散液中の表面修飾ND粒子の濃度(固形分濃度)は、例えば0.0001~10質量%である。
【0016】
従って、ND粒子分散液中の溶媒の含有量は、例えば90~99.9999質量%であり、前記溶媒全量における極性有機溶媒(2種以上含有する場合はその総量)の占める割合は、例えば60質量%以上、好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0017】
ND粒子分散液中の表面修飾ND粒子の含有量は、極性有機溶媒100質量部に対して、例えば0.0001~10質量部、好ましくは0.01~8質量部、特に好ましくは1~5質量部である。
【0018】
本発明のND粒子分散液は、上述の表面修飾ND粒子と極性有機溶媒のみからなるものであっても良く、上述の表面修飾ND粒子と極性有機溶媒以外に他の成分を1種又は2種以上含有していても良いが、他の成分の含有量(2種以上含有する場合はその総量)はND粒子分散液全量の例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下、最も好ましくは5質量%以下、とりわけ好ましくは1質量%以下である。従って、上述の表面修飾ND粒子と極性有機溶媒の合計含有量はND粒子分散液全量の例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上、とりわけ好ましくは99質量%以上である。
【0019】
本発明のND粒子分散液は、例えば、微細なND粒子が有する特性(例えば、機械的強度、高屈折率、熱伝導性、絶縁性、酸化防止性、結晶化促進作用、デンドライト抑制作用など)を樹脂等(例えば、熱若しくは光硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等)に付与する添加剤として好適に使用することができる。そして、本発明のND粒子分散液を樹脂に添加して得られる組成物は、例えば、機能性ハイブリッド材料、熱的機能(耐熱、蓄熱、熱電導、断熱等)材料、フォトニクス(有機EL素子、LED、液晶ディスプレイ、光ディスク等)材料、バイオ・生体適合性材料、コーティング材料、フィルム(タッチパネルや各種ディスプレイ等のハードコートフィルム、遮熱フィルム等)材料、シート材料、スクリーン(透過型透明スクリーン等)材料、フィラー(放熱用フィラー、機械特性向上用フィラー等)材料、耐熱性プラスチック基板(フレキシブルディスプレイ用基板等)材料、リチウムイオン電池等材料として好適に使用することができる。
【0020】
本発明のND粒子分散液は、その他、機械部品(例えば、自動車や航空機等)の摺動部等に適用する減摩剤又は潤滑剤として好適に使用できる。
【0021】
(表面修飾ND粒子)
本発明における表面修飾ND粒子は、シラン化合物((メタ)アクリロイル基を有するものは除く)が表面に結合したND粒子である。
【0022】
前記シラン化合物としては、加水分解性基、脂肪族炭化水素基を有し、且つ(メタ)アクリロイル基(=アクリロイル基又はメタクリロイル基)を有さない化合物が好ましい。シラン化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
前記シラン化合物としては、なかでも下記式(1-1)
【化3】
(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を示し、R4は炭素数1~8の脂肪族炭化水素基を示す)
で表される化合物を少なくとも含有することが好ましい。
【0024】
前記R1、R2、R3における炭素数1~3の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等が挙げられる。本発明においては、なかでも、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0025】
前記R4は炭素数1~8の脂肪族炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル、1-ブテニル基等の炭素数2~8のアルケニル基;エチニル、プロピニル基等の炭素数2~8のアルキニル基等が挙げられる。本発明においては、なかでも、極性有機溶媒に対する親和性に優れる点で、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、特に好ましくは炭素数2~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、最も好ましくは炭素数3~6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である。
【0026】
従って、本発明における表面修飾ND粒子としては、例えば、下記式(1)
【化4】
[式(1)中、R4は、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基を示す。R1’、R2’は同一又は異なって、水素原子、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基、又は下記式(a)
【化5】
(式(a)中、R4は前記に同じ。R3、R5は同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1~3の脂肪族炭化水素基を示す。m、nは同一又は異なって、0以上の整数を示す。尚、ケイ素原子から左に伸びる結合手が酸素原子に結合する。また、波線が付された結合手はナノダイヤモンド粒子の表面に結合する)
で表される基である。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する]
で表される基で表面修飾された構造を有するND粒子が挙げられる。
【0027】
上記式(1)中のR4は炭素数1~8の脂肪族炭化水素基を示し、式(1-1)中のR4に対応する。
【0028】
上記式(1)中のR1’、R2’、R3、R5における炭素数1~3の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;ビニル、アリル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等が挙げられる。本発明においては、なかでも、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0029】
m、nは括弧内に示される構成単位の数であり、同一又は異なって0以上の整数を示す。m、nが2以上である場合、2個以上の構成単位の結合方法としては、ランダム、交互、ブロックの何れであってもよい。
【0030】
また、前記シラン化合物としては、上記式(1-1)で表される化合物と共に、下記式(2-1)
【化6】
(式(2-1)中、R6は、炭素数9以上の脂肪族炭化水素基を示す。R1、R2、R3は前記に同じ)
で表される化合物を含有することが、更に極性有機溶媒中において優れた分散性を発揮できる点で好ましい。
【0031】
前記R6は炭素数9以上の脂肪族炭化水素基であり、例えば、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ラウリル、ミリスチル、イソミリスチル、ブチルオクチル、イソセチル、ヘキシルデシル、ステアリル、イソステアリル、オクチルデシル、オクチルドデシル、イソベヘニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;8-ノネニル、9-デセニル、11-ドデセニル、オレイル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基;デシニル、ペンタデシニル、オクタデシニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキニル基等が挙げられる。本発明においては、なかでも、より大きな立体障害となり得ることから凝集抑制効果に優れ、より高度の分散性を付与することができる点で、炭素数10以上の脂肪族炭化水素基が好ましく、特に好ましくは炭素数14以上の脂肪族炭化水素基である。尚、脂肪族炭化水素基の炭素数の上限は、例えば25、好ましくは20である。また、脂肪族炭化水素基としては、なかでも直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基若しくはアルケニル基が好ましく、特に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である。
【0032】
従って、本発明における表面修飾ND粒子には、上記式(1)で表される基と共に、下記式(2)で表される基で表面修飾された構造を有するND粒子も含まれる。
【化7】
[式(2)中、R6は、炭素数9以上の脂肪族炭化水素基を示す。R1’、R2’は前記に同じ。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する]
【0033】
上記式(2)中のR6は炭素数9以上の脂肪族炭化水素基を示し、式(2-1)中のR6に対応する。
【0034】
また、本発明における表面修飾ND粒子は、上記式(1)で表される基や、式(2)で表される基以外にも、例えば下記式(1’)で表される基、式(2’)で表される基、及びその他の表面官能基(例えば、アミノ基、水酸基、カルボキシル基等)から選択される1種又は2種以上を有していてもよい。
【化8】
(式中、R1’、R4、R6は上記に同じ。式中の波線が付された結合手がナノダイヤモンド粒子の表面に結合する)
【0035】
本発明における表面修飾ND粒子としては、なかでも下記[1]~[3]の表面修飾ND粒子が極性有機溶媒中において特に優れた分散性を発揮することができる点で好ましい。
[1]上記式(1)で表され、式中のR4が炭素数1~3である基で表面修飾された構造を有するND粒子(=短鎖脂肪族炭化水素基で表面修飾されたND粒子[1])
[2]上記式(1)で表され、式中のR4が炭素数4~8である基(特に好ましくは炭素数4~7である基)で表面修飾された構造を有するND粒子(=中鎖脂肪族炭化水素基で表面修飾されたND粒子[2])
[3]上記式(1)で表され、式中のR4が炭素数1~3である基と、上記式(2)で表される基で表面修飾された構造を有するND粒子(=短鎖脂肪族炭化水素基と長鎖脂肪族炭化水素基で表面修飾されたND粒子[3])
【0036】
例えば極性有機溶媒が、SP値が10.0~14.0の有機溶媒である場合、表面修飾ND粒子としてはND粒子[1]を使用することが好ましい。前記極性有機溶媒中において、ND粒子[1]の短鎖脂肪族炭化水素基(R4基の炭素数は、例えば炭素数1~3)は極性有機溶媒に対する親和性を示すと共に立体障害として作用し、且つ酸素原子を含む基(式(1)中のOR1’基とOR2’基)が極性有機溶媒に対する親和性を示すため、極性有機溶媒に対する親和性に優れ、極性有機溶媒中において優れた分散性を発揮することができる。
【0037】
例えば極性有機溶媒が、SP値が8.0(cal/cm31/2以上、10.0(cal/cm31/2未満の有機溶媒である場合、表面修飾ND粒子としてはND粒子[2]及び/又はND[3]を使用することが好ましい。
前記極性有機溶媒中において、ND粒子[2]の中鎖脂肪族炭化水素基(R4基の炭素数は、例えば炭素数4~8、好ましくは4~7)は極性有機溶媒に対する親和性を示すと共に立体障害として作用し、且つ酸素原子を含む基(式(1)中のOR1’基とOR2’基)が極性有機溶媒に対する親和性を示すため、極性有機溶媒に対する親和性に優れ、極性有機溶媒中において優れた分散性を発揮することができる。
また、前記極性有機溶媒中において、ND粒子[3]の短鎖脂肪族炭化水素基(R4基の炭素数は、例えば炭素数1~3)は極性有機溶媒に対する親和性を示し、長鎖脂肪族炭化水素基(R6基)は立体障害として作用し、酸素原子を含む基(式(1)、(2)中のOR1’基とOR2’基)が極性有機溶媒に対する親和性を示すため、極性有機溶媒に対する親和性に優れ、極性有機溶媒中において優れた分散性を発揮することができる。
【0038】
本発明における表面修飾ND粒子は、親水的なND粒子の表面にシラン化合物が結合することによって形成される表面修飾基を有する。そのため、前記表面修飾基を有しないND粒子よりも、前記表面修飾基が立体障害となることによりND粒子同士の凝集が抑制される。
【0039】
(極性有機溶媒)
本発明における極性有機溶媒は、SP値[ヒルデブラントによる溶解性パラメーター(δ)、25℃における、単位:(cal/cm31/2]が8.0~14.0(好ましくは8.4~12.5、特に好ましくは9.0~12.0)である有機溶媒である。極性有機溶媒は、1種の有機溶媒を単独で含むものでもよいし、2種以上の有機溶媒を組み合わせて含むものでもよい。尚、2種以上の有機溶媒を含む場合、2種以上の有機溶媒の混合物のSP値が上記範囲であれば、それに含まれる各有機溶媒のSP値は上記範囲を外れていてもよい。
【0040】
前記極性有機溶媒としては、例えば、アセトン(SP:10.0)、メチルエチルケトン(MEK、SP:9.3)、メチルイソブチルケトン(MIBK、SP:8.4)等のケトン類;ジオキサン(SP:9.8)、テトラヒドロフラン(SP:9.1)等のエーテル類;n-プロパノール(SP:11.9)、イソプロパノール(IPA、SP:11.5)、ヘキサノール(SP:10.7)、シクロヘキサノール(SP:11.4)等のアルコール類;酢酸エチル(SP:9.1)等のエステル類;クロロホルム(SP:9.3)、塩化メチレン(SP:9.7)、二塩化エチレン(SP:9.8)等のハロゲン化炭化水素;エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(EC/DEC=1/1:体積比)混合溶媒(SP:11.75)、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート(1/1/1:体積比)混合溶媒(SP:10.97)等のカーボネート類;酢酸(SP:12.4)、アセトニトリル(SP:11.8)などが挙げられる。
【0041】
前記極性有機溶媒としては、なかでも、本発明のND粒子分散液を樹脂の添加剤として使用する場合に、樹脂と容易に混和若しくは相溶させることができる点で、ケトン類、エーテル類、アルコール類、及びカーボネート類から選択される少なくとも1種の有機溶媒であって、SP値が8.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒が好ましい。
【0042】
(ナノダイヤモンド粒子分散液の製造方法)
本発明のND粒子分散液は、例えば、上記極性有機溶媒中において、ND粒子にシラン化合物((メタ)アクリロイル基を有するものは除く)を反応させる工程(修飾化工程)を経て製造することができる。
【0043】
例えば、式(1)で表される基で表面修飾された構造を有するND粒子の分散液は、極性有機溶媒中において、シラン化合物としての、式(1-1)で表される化合物をND粒子に反応させる工程を経て製造することができる。
【0044】
シラン化合物として上記式(1-1)で表される化合物を使用した場合、前記化合物は、式中のOR1基、OR2基、及びOR3基が容易に加水分解してシラノール基を形成するため、例えばシラノール基のうちの1個がND粒子の表面に存在する水酸基と脱水縮合して共有結合を形成すると共に、残りの2個のシラノール基に、他のシラン化合物のシラノール基が縮合してシロキサン結合(Si-O-Si)を形成することができる。そのため、前記化合物は、ND粒子に極性有機溶媒に対する親和性を付与することができ、ND粒子を極性有機溶媒中において高分散させることができる。
【0045】
また、式(1)で表される基と式(2)で表される基で表面修飾された構造を有するND粒子の分散液は、極性有機溶媒中において、シラン化合物としての、式(1-1)で表される化合物と式(2-1)で表される化合物をND粒子に反応させる工程を経て製造することができる。
【0046】
また、本発明では前記極性有機溶媒と共に非極性有機溶媒(例えば、SP値が8.0(cal/cm31/2未満である有機溶媒等)を使用することができるが、本発明において使用する溶媒全量における極性有機溶媒の占める割合は、例えば60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0047】
ND粒子中にND粒子が凝着してなるND粒子凝集体が含まれる場合には、ND粒子凝集体を解砕若しくは分散化してから、又は解砕若しくは分散化しつつ、シラン化合物と反応させることが好ましい。これにより、ND一次粒子の表面を修飾することができ、ND粒子分散液中のナノダイヤモンド粒子の分散性を向上することが可能となるためである。
【0048】
ND粒子凝集体を解砕若しくは分散化する方法としては、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ジェットミル等により処理する方法が挙げられるが、本発明においては、なかでも、解砕メディア(例えば、ジルコニアビーズ等)の存在下で超音波処理を施すことが好ましい。
【0049】
前記解砕メディア(例えば、ジルコニアビーズ等)の直径は、例えば15~500μm、好ましくは15~300μm、特に好ましくは15~100μmである。
【0050】
反応に供するND粒子とシラン化合物(2種以上を使用する場合はその総量)との比率(前者:後者、質量比)は、例えば2:1~1:20である。また、前記極性有機溶媒中におけるND粒子の濃度は、例えば0.5~10質量%であり、前記極性有機溶媒中におけるシラン化合物の濃度は、例えば5~40質量%である。
【0051】
シラン化合物として、上記式(1-1)で表される化合物と上記式(2-1)で表される化合物を使用する場合、上記式(1-1)で表される化合物/上記式(2-1)で表される化合物(質量比)は、例えば30/70~70/30、好ましくは40/60~60/40、特に好ましくは45/55~55/45である。
【0052】
反応時間は、例えば4~20時間である。また、前記反応は、発生する熱を氷水などを用いて冷却しながら行うことが好ましい。
【0053】
以上のような反応により表面修飾ND粒子が極性有機溶媒中に分散してなるND粒子分散液が得られる。
【0054】
上記修飾化工程において、シラン化合物との反応に付すND粒子は、例えば爆轟法によって製造することができる。
【0055】
前記爆轟法には、空冷式爆轟法と水冷式爆轟法が含まれる。本発明においては、なかでも、空冷式爆轟法が水冷式爆轟法よりも一次粒子が小さいND粒子を得ることができる点で好ましい。
【0056】
また、爆轟は大気雰囲気下で行っても良く、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、二酸化炭素雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行っても良い。
【0057】
ND粒子の製造方法の一例を以下に説明するが、本発明で使用するND粒子は以下の製造方法によって得られるものに限定されない。
【0058】
(生成工程)
成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は例えば0.5~40m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60~60/40の範囲である。
【0059】
生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってND粒子が生成する。生成したND粒子は、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体を成す。
【0060】
生成工程では、次に、室温において24時間程度放置することにより放冷し、容器およびその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているND粒子粗生成物(ND粒子の凝着体および煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ND粒子粗生成物を回収する。以上のような方法によって、ND粒子の粗生成物を得ることができる。
【0061】
(酸処理工程)
酸処理工程は、得られたND粒子粗生成物に例えば水溶媒中で強酸を作用させて金属酸化物を除去する工程である。爆轟法で得られるND粒子粗生成物には金属酸化物が含まれやすく、この金属酸化物は爆轟法に使用される容器等に由来するFe、Co、Ni等の酸化物である。例えば水溶媒中で所定の強酸を作用させることにより、ND粒子粗生成物から金属酸化物を溶解・除去することができる。この酸処理に用いる強酸としては鉱酸が好ましく、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。酸処理で使用する強酸の濃度は例えば1~50質量%である。酸処理温度は例えば70~150℃である。酸処理時間は例えば0.1~24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。このような酸処理の後は、例えばデカンテーションにより、沈殿液のpHが例えば2~3に至るまで、固形分(ND凝着体を含む)の水洗を行うことが好ましい。ND粒子粗生成物中の金属酸化物の含有量が少ない場合には、以上のような酸処理は省略してもよい。
【0062】
(酸化処理工程)
酸化処理工程は、酸化剤を用いてND粒子粗生成物からグラファイトを除去する工程である。爆轟法で得られるND粒子粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれるが、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちND粒子結晶を形成しなかった炭素に由来する。ND粒子粗生成物に、水溶媒中で所定の酸化剤を作用させることにより、ND粒子粗生成物からグラファイトを除去することができる。また、酸化剤を作用させることにより、ND粒子表面にカルボキシル基や水酸基などの酸素含有基を導入することができる。
【0063】
この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、硝酸、及びこれらの混合物や、これらから選択される少なくとも1種の酸と他の酸(例えば硫酸等)との混酸、及びこれらの塩が挙げられる。本発明においては、なかでも、混酸(特に、硫酸と硝酸との混酸)を使用することが、環境に優しく、且つグラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましい。
【0064】
前記混酸における硫酸と硝酸との混合割合(前者/後者;質量比)は、例えば60/40~95/5であることが、常圧付近の圧力(例えば、0.5~2atm)の下でも、例えば130℃以上(特に好ましくは150℃以上。尚、上限は、例えば200℃)の温度で、効率よくグラファイトを酸化して除去することができる点で好ましい。下限は、好ましくは65/35、特に好ましくは70/30である。また、上限は、好ましくは90/10、特に好ましくは85/15、最も好ましくは80/20である。
【0065】
前記混酸における硝酸の割合が上記範囲を上回ると、高沸点を有する硫酸の含有量が少なくなるため、常圧付近の圧力下では、反応温度が例えば120℃以下となり、グラファイトの除去効率が低下する傾向がある。一方、混酸における硝酸の割合が上記範囲を下回ると、グラファイトの酸化に大きく貢献するのは硝酸であるため、グラファイトの除去効率が低下する傾向がある。
【0066】
酸化剤(特に、前記混酸)の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して、例えば10~50質量部、好ましくは15~40質量部、特に好ましくは20~40質量部である。また、前記混酸中の硫酸の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して、例えば5~48質量部、好ましくは10~35質量部、特に好ましくは15~30質量部であり、前記混酸中の硝酸の使用量は、ND粒子粗生成物1質量部に対して、例えば2~20質量部、好ましくは4~10質量部、特に好ましくは5~8質量部である。
【0067】
また、酸化剤として前記混酸を使用する場合、混酸と共に触媒を使用しても良い。触媒を使用することにより、グラファイトの除去効率を一層向上することができる。前記触媒としては、例えば、炭酸銅(II)等を挙げることができる。触媒の使用量は、ND粒子粗生成物100質量部に対して例えば0.01~10質量部程度である。
【0068】
酸化処理温度は例えば100~200℃である。酸化処理時間は例えば1~24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。
【0069】
このような酸化処理の後、例えばデカンテーションにより上澄みを除去することが好ましい。また、デカンテーションの際には、固形分の水洗を行うことが好ましい。水洗当初の上澄み液は着色しているが、上澄み液が目視で透明になるまで、当該固形分の水洗を反復して行うことが好ましい。
【0070】
また、酸化処理後のND粒子には、必要に応じて、気相にて酸化処理や還元処理を施しても良い。気相にて酸化処理を施すことにより、表面にC=O基を多く有するND粒子が得られる。また、気相にて還元処理を施すことにより、表面にC-H基を多く有するND粒子が得られる。
【0071】
更に、酸化処理後のND粒子には、必要に応じて、解砕処理を施してもよい。解砕処理には、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル等を使用することができる。尚、解砕処理は湿式(例えば、水等に懸濁した状態での解砕処理)で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。乾式で行う場合は、解砕処理前に乾燥工程を設けることが好ましい。
【0072】
(乾燥工程)
本方法では、次に、乾燥工程を設けることが好ましく、例えば、上記工程を経て得られたND粒子含有溶液から噴霧乾燥装置やエバポレーター等を使用して液分を蒸発させた後、これによって生じる残留固形分を、例えば乾燥用オーブンを用いて加熱乾燥する。加熱乾燥温度は、例えば40~150℃である。このような乾燥工程を経てND粒子が得られる。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0074】
実施例1
下記工程を経て、ND粒子分散液、及び表面修飾ND粒子を製造した。
(生成工程)
まず、爆轟法によるナノダイヤモンドの生成工程を行った。本工程では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置して容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物0.50kgを使用した。この爆薬におけるTNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、50/50である。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた(爆轟法によるナノダイヤモンドの生成)。次に、室温で24時間放置して容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上記爆轟法で生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取って、ナノダイヤモンド粗生成物を回収した。
【0075】
(酸処理工程)
上述のような生成工程を複数回行うことによって得られたナノダイヤモンド粗生成物に対し、次に、酸処理を行った。具体的には、当該ナノダイヤモンド粗生成物200gに6Lの10質量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この酸処理における加熱温度は85~100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0076】
(酸化処理工程)
次に、酸化処理を行った。具体的には、酸処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ナノダイヤモンド凝着体を含む)に、6Lの98質量%硫酸と1Lの69質量%硝酸とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で48時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は140~160℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0077】
(乾燥工程)
次に、酸化処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ナノダイヤモンド凝着体を含む)を乾燥処理に付して、乾燥粉体としてのND粒子を得た。乾燥処理の手法としては、エバポレーターを使用して行う蒸発乾固を採用した。
【0078】
(修飾化工程)
上記乾燥工程で得られたND粒子0.3gを反応容器にはかり取り、極性有機溶媒としてMIBK(SP:8.4)16mL、シラン化合物としてメチルトリメトキシシラン1.2gを添加し10分間撹拌した。
【0079】
撹拌後、ジルコニアビーズ(東ソー(株)製、登録商標「YTZ」、直径30μm)36gを添加した。添加後、氷水中で冷やしながら超音波分散機((株)エスエムテー製、型式「UH-600S」)を用い、超音波分散機の振動子の先端を反応容器内の溶液に浸けた状態で8時間超音波処理して、ND粒子とシラン化合物を反応させた。最初は灰色であったが、徐々にND粒子は小粒径化されて分散性が向上し、最後には均一で黒い液体となった。これは、ND粒子凝集体から順次にND粒子が解かれ(解砕)、解離状態にあるND粒子にシラン化合物が作用して結合し、表面修飾されたND粒子がMIBK中で分散安定化しているためであると考えられる。このようにしてND粒子分散液が得られた。
得られたND粒子分散液中の表面修飾ND粒子の粒度分布を、Malvern社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、動的光散乱法(非接触後方散乱法)により測定し、前記表面修飾ND粒子の粒径(D50)をもとめた。
【0080】
実施例2
修飾化工程において、シラン化合物としてメチルトリメトキシシラン0.6gとヘキサデシルトリメトキシシラン0.6gを使用した以外は実施例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0081】
実施例3
修飾化工程において、シラン化合物としてプロピルトリメトキシシラン1.2gを使用した以外は実施例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0082】
実施例4
修飾化工程において、シラン化合物としてプロピルトリメトキシシラン0.6gとヘキサデシルトリメトキシシラン0.6gを使用した以外は実施例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0083】
実施例5
修飾化工程において、シラン化合物としてイソブチルトリメトキシシラン1.2gを使用し、超音波処理時間を20時間とした以外は実施例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0084】
実施例6
修飾化工程において、シラン化合物としてヘキシルトリメトキシシラン1.2gを使用し、超音波処理時間を20時間とした以外は実施例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0085】
実施例7
修飾化工程において、シラン化合物としてオクチルトリメトキシシラン1.2gを使用し、超音波処理時間を20時間とした以外は実施例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0086】
比較例1
修飾化工程において、シラン化合物としてヘキサデシルトリメトキシシラン1.2gを使用した以外は実施例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0087】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0088】
実施例8
修飾化工程において、極性有機溶媒としてMEK(SP:9.3)を使用した以外は実施例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0089】
実施例9
修飾化工程において、極性有機溶媒としてMEK(SP:9.3)を使用した以外は実施例2と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0090】
実施例10
修飾化工程において、極性有機溶媒としてMEK(SP:9.3)を使用した以外は実施例6と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0091】
比較例2
修飾化工程において、極性有機溶媒としてMEK(SP:9.3)を使用した以外は比較例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0092】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表2】
【0093】
実施例11
修飾化工程において、極性有機溶媒としてTHF(SP:9.1)を使用した以外は実施例3と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0094】
実施例12
修飾化工程において、極性有機溶媒としてTHF(SP:9.1)を使用した以外は実施例4と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0095】
実施例13
修飾化工程において、極性有機溶媒としてTHF(SP:9.1)を使用した以外は実施例6と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0096】
比較例3
修飾化工程において、極性有機溶媒としてTHF(SP:9.1)を使用した以外は比較例1と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0097】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表3】
【0098】
実施例14
実施例3で得たND粒子分散液を一昼夜静置した後に採取した上澄み液2gを、ヘキサン4gに滴下し、滴下後の混合溶媒を遠心分離処理(遠心力20000×g、遠心時間10分間)に付して沈降した固形分(表面修飾されたND粒子を含む)を回収した。このようにして回収した固形分にIPA(SP:11.5)2gを加え、超音波処理装置(商品名「ASU-10」、アズワン(株)製)を使用して10分間の超音波処理を行いND粒子分散液を得た。
【0099】
実施例15
実施例3で得たND粒子分散液に代えて実施例4で得たND粒子分散液を使用した以外は実施例14と同様にして、ND粒子分散液を得た。
【0100】
比較例4
実施例3で得たND粒子分散液に代えて比較例1で得たND粒子分散液を使用した以外は実施例14と同様にして、ND粒子分散液を得たが、ND粒子が完全に沈降してしまい、粒度分布は測定できなかった。
【0101】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表4】
【0102】
実施例16
ロータリーエバポレーター(BUCHI社製、R-124)のフラスコの中に、実施例14で得たND粒子分散液2gを入れ、さらにEC/DEC(1/1)混合溶媒(SP:11.75)2gを入れた。
次いで、ロータリーエバポレーターを駆動して、温度50℃、圧力0.035MPaの減圧条件下で、前記フラスコを50rpmの速度で回転させると、上記で使用されたIPAが蒸発してきたので、これを冷却して系外に排出した。この操作を1時間続けて、前記ND粒子分散液中に含まれるIPAをEC/DEC混合溶媒に置換した。
【0103】
比較例5
実施例14で得たND粒子分散液に代えて比較例4で得たND粒子分散液を使用した以外は実施例16と同様にして、ND粒子分散液を得たが、ND粒子が完全に沈降してしまい、粒度分布は測定できなかった。
【0104】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表5】
【0105】
以上のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記する。
[1] SP値が8.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒中に、シラン化合物((メタ)アクリロイル基を有するものは除く)が表面に結合したナノダイヤモンド粒子が、粒径(D50)が2~100nmの範囲で分散したナノダイヤモンド粒子分散液。
[2] 前記シラン化合物が表面に結合したナノダイヤモンド粒子が、式(1)で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子である、[1]に記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
[3] 前記シラン化合物が表面に結合したナノダイヤモンド粒子が、式(1)(式中のR4は炭素数1~3のアルキル基)で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子である、[1]に記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
[4] 前記シラン化合物が表面に結合したナノダイヤモンド粒子が、式(1)(式中のR4は炭素数4~8のアルキル基(好ましくは、炭素数4~7のアルキル基))で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子である、[1]に記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
[5] 前記シラン化合物が表面に結合したナノダイヤモンド粒子が、式(1)(式中のR4は炭素数1~3のアルキル基)で表される基と、式(2)で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子である、[1]に記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
[6] 前記シラン化合物が表面に結合したナノダイヤモンド粒子が、式(1)(式中のR4は炭素数1~3のアルキル基)で表される基と、式(2)(式中のR6は炭素数10~25のアルキル基(特に好ましくは、炭素数14~20のアルキル基))で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子である、[1]に記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
[7] SP値が8.0(cal/cm31/2未満である有機溶媒の含有量が、ナノダイヤモンド粒子分散液に含まれる溶媒全量の40質量%以下(好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下)である、[1]~[6]の何れか1つに記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
[8] SP値が8.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒が、ケトン、エーテル、アルコール、及びカーボネートから選択される少なくとも1種の有機溶媒である有機溶媒である、[1]~[7]の何れか1つに記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
[9] SP値が10.0~14.0(cal/cm31/2である有機溶媒中に、式(1)で表され、式中のR4が炭素数1~3である基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子が、粒径(D50)が2~100nmの範囲で分散した、ナノダイヤモンド粒子分散液。
[10] SP値が8.0(cal/cm31/2以上、10.0(cal/cm31/2未満である有機溶媒中に、式(1)で表され、式中のR4が炭素数4~8である基(特に好ましくは、炭素数4~7である基)で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子、及び/又は式(1)で表され、式中のR4が炭素数1~3である基と、式(2)で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子が、粒径(D50)が2~100nmの範囲で分散した、ナノダイヤモンド粒子分散液。
[11] SP値が8.0(cal/cm31/2以上、10.0(cal/cm31/2未満である有機溶媒中に、式(1)で表され、式中のR4が炭素数4~8である基(特に好ましくは、炭素数4~7である基)で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子、及び/又は式(1)で表され、式中のR4が炭素数1~3である基と、式(2)(式中のR6は炭素数10~25のアルキル基(特に好ましくは、炭素数14~20のアルキル基))で表される基で表面修飾された構造を有するナノダイヤモンド粒子が、粒径(D50)が2~100nmの範囲で分散した、ナノダイヤモンド粒子分散液。
[12] 前記シラン化合物が表面に結合したナノダイヤモンド粒子の含有量が0.0001~10質量%である、[1]~[11]の何れか1つに記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
[13] 前記シラン化合物が表面に結合したナノダイヤモンド粒子の含有量が、極性有機溶媒100質量部に対して0.0001~10質量部(好ましくは0.01~8質量部、特に好ましくは1~5質量部)である、[1]~[12]の何れか1つに記載のナノダイヤモンド粒子分散液。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明のND粒子分散液はND粒子の凝集が抑制され、高分散性を有する。そのため、微細なND粒子が有する特性を樹脂等に付与する添加剤や、機械部品の摺動部等に適用する減摩剤又は潤滑剤として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0107】
1 表面修飾ナノダイヤモンド粒子
2 ナノダイヤモンド粒子(部分)
3 表面修飾基
4、4’ 脂肪族炭化水素基
図1