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特許7263306マルチモードリガンドを有するマルチモード吸着媒体、その製造方法、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】マルチモードリガンドを有するマルチモード吸着媒体、その製造方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20230417BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20230417BHJP
   B01D 15/38 20060101ALI20230417BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230417BHJP
   B01J 20/289 20060101ALI20230417BHJP
   C07K 1/16 20060101ALN20230417BHJP
【FI】
B01J20/26 L
B01J20/26 H
B01D15/38
B01J20/281 R
B01J20/281 X
G01N30/88 J
G01N30/88 D
B01J20/289
C07K1/16
【請求項の数】 1
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020200579
(22)【出願日】2020-12-02
(62)【分割の表示】P 2018553089の分割
【原出願日】2017-04-05
(65)【公開番号】P2021058882
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2020-12-28
(31)【優先権主張番号】102016004432.2
(32)【優先日】2016-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511034561
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム ビオテック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クプラッツ ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】タフト フローリアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラン ルイ
(72)【発明者】
【氏名】クーパー コルネーリア
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-528966(JP,A)
【文献】特表2014-522479(JP,A)
【文献】特開平01-169355(JP,A)
【文献】特開昭63-048453(JP,A)
【文献】特開2007-145743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
B01D 15/00-15/42
G01N 30/00-30/96
C12N 1/00- 7/08
C07K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー型スペーサー要素が表面に結合したポリマー型担体材料Tを含むマルチモード吸着媒体であって、前記ポリマー型担体材料Tに、以下の-G-(COH)の構造のマルチモードリガンドが-X-(C=O)基を介して共有結合されている、マルチモード吸着媒体:
【化1】
(式中、Tは、前記ポリマー型スペーサー要素が表面に結合した前記ポリマー型担体材料を示し、Xは、前記ポリマー型スペーサー要素中の-NH-を示し、-G-(COH)構造は、以下の(、(4)及び(6)~(15)からなる群より選択される
【化2】
)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチモード吸着媒体、特にマルチモードクロマトグラフィー媒体、その製造方法、及び本発明による吸着媒体又は本発明により製造される吸着媒体の、生体分子の精製のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
用語「吸着媒体」は、流体の或る一定の成分と選択的に結合を形成し得る表面官能基(以下で、「リガンド」及び/又は「クロマトグラフィー活性中心」とも呼ばれる)を有する吸着剤を指す。本発明によれば、1種以上の標的物質及び/又は1種以上の混入物は「吸着物」と呼ばれ、その際、吸着物は、複数の異なる物質を指すこともある。吸着物は、個々の分子、不随物、又は粒子であることができ、その際、これらは、好ましくは生物由来のタンパク質又はその他の物質である。
【0003】
吸着物の吸着剤への結合は、可逆的又は不可逆的であることができ、いずれにせよ、その結合により、例えば水性液体であり得る、以下で「媒体」と呼ばれる流体から上記吸着物を分離することが可能となる。脱着工程及び付随するすすぎ工程等は、用語「溶離」としてまとめられ、溶離のために使用される媒体は「溶離液」である。それらの成分は、1種若しくは複数種の標的物質及び/又は1種若しくは複数種の混入物であり得る。「標的物質」は、上記媒体から濃縮形又は純粋形で得られる有用物質である。例えば、標的物質は、モノクローナル抗体等の組換えタンパク質であり得る。「混入物」は、技術的理由、規制上の理由、又はその他の理由のために存在しないこと若しくは上記流体から除去することが必要であるか、又はそのことが望まれている物質である。例えば、混入物は、ウイルス、タンパク質、アミノ酸、核酸、エンドトキシン、タンパク質凝集物、リガンド、又はそれらの一部であり得る。「負の吸着」と呼ばれるプロセスである混入物の除去のために、吸着は、吸着剤が一度しか使用されるべきでない場合には不可逆的に行われ得る(行われてもよい)。1種以上の標的物質の吸着においては、その方法は可逆的に行われねばならない。単純な濃縮又は複数の標的物質への分離のいずれかを実施することができ、その際、後者の分離の場合には、吸着、脱着、又はその両方が選択的に行われ得る。
【0004】
この方法は、吸着的物質分離又はクロマトグラフィーと呼ばれる。従来のクロマトグラフィー用吸着剤は、粒状であり、カラム中で充填物の形で使用されるか、又は通常メンブレン濾過で使用される形式に相当する形式を有するモジュール(例えば、巻きモジュール、積み重ねモジュール等)内に通常存在する吸着メンブレンの形のいずれかである。可能な限り低い非特異的吸着のための要求は、通常、全ての吸着剤に共通している。
【0005】
数多くの合成リガンド及び天然リガンドは、従来技術において既知である。リガンドの担体への結合に先行して、担体の「活性化」、すなわちリガンドの自発的な結合を可能にする反応性官能基の導入が行われ得る。リガンド自体が反応性基を有することはより稀であり、その際の1つの例は、繊維産業で染料リガンドとして使用される反応性染料である。官能基の結合方法自体は、当業者に既知である(例えば、非特許文献1)。
【0006】
タンパク質、アミノ酸、核酸、ウイルス又はエンドトキシン等の生体分子を液体媒体から濾過、精製又は除去することは、バイオ医薬品産業にとって非常に重要である。混入物除去用途の殆どで、現在、慣例的なクロマトグラフィーゲル又はクロマトグラフィーメンブレンが使用されている。
【0007】
またイオン交換クロマトグラフィーは、生体分子の精製において重要な地位を獲得している。ミックスモードリガンド又はマルチモードリガンドを含むカチオン交換体は、従来技術において長い間知られている。例えば、特許文献1は、ベンジルリガンド等の疎水性リガンドが、第1のサイズ範囲の細孔中に固定されており、その一方で、イオン交換性リガンドが、上記疎水性リガンドとは空間的に隔離された第2のサイズ範囲の細孔中に固定されているマルチモードクロマトグラフィー分離媒体を開示している。同様に、特許文献2は、多孔性材料の細孔サイズ選択的な化学修飾のための方法であって、例えば疎水性リガンドが、第1のサイズ範囲の細孔中に固定されており、その一方で、カチオン交換性リガンドが、上記疎水性リガンドとは空間的に隔離された第2のサイズ範囲の細孔中に固定されている、方法を記載している。特許文献3は、第1の種類の疎水性リガンド及び第2の種類のイオン交換性リガンドの両方が、後者はいわゆるエクステンダーを介してクロマトグラフィーマトリックスへと結合されているクロマトグラフィー分離媒体を開示している。したがって、これらの系においては、異なる官能基が異なる分子鎖に存在し、それらは空間的に隔離されている。
【0008】
既知のカチオン交換体の不利点は、該交換体が比較的低いイオン強度を有する物質としか結合を起こし得ないため、上記媒体を、しばしば吸着前に希釈せねばならないことである。したがって、既知の吸着媒体は、物質の結合にあたり高い塩濃度を許容しないため、こうして追加の希釈工程を必要とし、それに応じて大規模なクロマトグラフィー設備において大きな流体容量を必要とする。
【0009】
特許文献4においては、カチオン交換性官能基及び疎水性官能基を有するマルチモードリガンドが固定されているクロマトグラフィーマトリックスであって、例えばリガンドが、フェニルアラニン又は6-アミノヘキサン酸から出発して担体材料の表面に結合される、クロマトグラフィーマトリックスが開示されている。特許文献5は、多孔性成形体、好ましくは無機ヒドロキシアパタイト又はフルオロアパタイトから得られる多孔性成形体を基礎とするクロマトグラフィーマトリックスであって、そこに疎水性リガンド及びカチオン交換性リガンドの両方が固定されている、クロマトグラフィーマトリックスを開示しており、ここでは、例えばCapto(商標)MMC、いわゆる「ミックスモード」リガンドが述べられている。このCapto(商標)MMCリガンドに匹敵するクロマトグラフィーマトリックスは、特許文献6にも開示されている。上記Capto(商標)MMCリガンドは、ホモシステインチオラクトンと塩化ベンゾイルとを反応させ、引き続きチオラクトンを開環することにより得られる2-ベンゾイルアミノブタン酸残基を含む。Capto(商標)MMCリガンドの固定相への結合は、その後にチオール基を介して求核置換又は開環により行われる。
【0010】
特許文献7は、高い塩濃度でウシ血清アルブミンの高い回収率を可能にするカチオン交換性基及び疎水性基を有するリガンドを含むクロマトグラフィーマトリックスを開示している。これらのマルチモード系は、関連の刊行物である非特許文献2において非常に詳細に記載されており、そこでは、リガンドは、活性化されたSepharose(商標)6
Fast Flow上に2つの別形により固定化されている。多段階の合成法において、メルカプトプロピオン酸が、まず活性化された担体に結合される。次いで、酸官能基が、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化され、そして得られたエステルを、最後にアミノ酸誘導体と反応させることで、それに応じたカチオン交換性官能基が導入される。
【0011】
その結果、従来技術において知られる系に関して、その製造は、一般的に複雑な工程、すなわち、
i)反応性基をクロマトグラフィー担体上に結合させ、それを最適に活性化させる工程と、
ii)こうして製造された修飾された担体を、酸官能基を有するチオール化合物と反応させる工程と、
iii)その固体担体の酸官能基を、適切な試薬(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS))でジクロロヘキシルカルボジイミド(DCC))の存在下にて有機溶剤中で活性化させる工程と、
iv)適切な残基Rを有するアミノ酸誘導体を添加することで、担体に結合された完成したリガンドを生成させる工程と、
を含むこととなる。
【0012】
例えば、従来技術のCapto(商標)MMCマトリックスの合成方法は、工程i)において、例えばSepharoseとアリルグリシジルエーテルとを反応させ、引き続き得られた生成物を臭素で活性化させ、その後に工程ii)においてチオラクトンと反応させることを含む。
【0013】
この方法においては、特に最後の工程の反応は完全には行われず、その結果として、工程(iii)又は(iv)において不成功に終わった反応から生ずる酸官能基を有するチオエーテルリンカーと所望の最終生成物と含む、実際には2つの異なるリガンドを有する生成物が常に得られる。2つの異なるリガンドの混合物からなるクロマトグラフィー担体は、分離法において使用される場合に数多くの問題を引き起こし得る。種々のリガンドの比率はバッチ毎に変動し得るので、このようにして製造されるクロマトグラフィー媒体は、バッチに応じて異なる特性を有し、そのため、開発された分離法は、バッチが変更された場合には再現的ではない。さらに、異なる別々のリガンドの使用は、クロマトグラフィー媒体における種々のリガンドの不均一な分布という不利点をもたらし得る。
【0014】
上記の慣例的な方法と関連したもう1つの問題は、しばしば十分に高いリガンド密度を得ることが不可能であることであり、それは、特に小さなタンパク質の結合能力にとって不利である。この問題は、クロマトグラフィーマトリックスの表面上に固定されるポリマー型スペーサーであって、それを介して追加のリガンドが上記マトリックスに結合され得るポリマー型スペーサーを使用して少なくとも部分的には解決され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第5431807号
【文献】欧州特許第0665867号
【文献】米国特許出願公開第2012/0202976号
【文献】米国特許第8877904号
【文献】米国特許第8017740号
【文献】米国特許出願公開第2013/0109807号
【文献】米国特許第6852230号
【非特許文献】
【0016】
【文献】Greg T. Hermanson, A. Krishna Mallia, Paul K. Smith, Immobilized Affinity Ligand Techniques, Academic Press, Inc., 1992
【文献】B.-L. Johansson et al., Journal of Chromatography A, 1016 (2003), 35-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の課題は、簡単かつ再現的に製造することができるとともに、広い塩濃度範囲にわたり選択的に調節することができる高い結合能力を有するべきである吸着
媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は、特許請求の範囲において特徴が示された本発明の実施形態により解決される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
特に、本発明によれば、ポリマー型担体材料Tを含むマルチモード吸着媒体、特にマルチモードクロマトグラフィー媒体であって、上記ポリマー型担体材料に、以下の-G-(COH)の構造のマルチモードリガンドが-X-(C=O)基を介して共有結合されている、マルチモード吸着媒体、特にマルチモードクロマトグラフィー媒体が提供される:
【化1】
(式中、Xは、-NR-、-O-又は-S-を示し、かつRは、アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール又は水素を示し、Gは、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C20アルキル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つの芳香族置換基とを含み得る)、置換又は非置換のC~C10シクロアルキル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つの芳香族置換基とを含み得る)、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C20アルケニル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つの芳香族置換基とを含み得る)、置換又は非置換のC~C20アリール基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を含み得る)、及び置換又は非置換のC~C20ヘテロアリール基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を含み得る)からなる群から選択される基を示し、ここで、nは1以上の整数である)。
【0020】
上記マルチモード吸着媒体の好ましい実施形態においては、上記G基は、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C20アルキル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つの芳香族置換基とを含み得る)、及び分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C20アルケニル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つの芳香族置換基とを含み得る)からなる群から選択される。
【0021】
本発明の意味の範囲内において、用語「マルチモード」は、リガンドが2つ以上の異なる官能基を含み、そのため異なる化学的メカニズムに基づいて標的分子と相互作用し、それらの標的分子(latter)が吸着媒体に結合されることを意味すると理解される。本発明によれば、マルチモード吸着媒体又はマルチモードリガンドは、少なくともカチオン交換性の酸性基と同時に疎水性基を含む。疎水性のG基の選択により、標的物質との更なる相互作用、例えばチオフィリック相互作用、π-π相互作用、イオン交換相互作用、又は水素架橋結合を起こす更なる官能性が組み込まれ得る。
【0022】
好ましくは、本発明による吸着媒体は、1種類だけのマルチモードリガンドを含み、それは上記構造の同一のリガンドだけがポリマー型担体材料に結合されていることを意味する。該マルチモードリガンド構造物は1種類だけの試薬を使用して製造されるので、以下
で更に詳細に記載されるように、カルボン酸基と、更なる相互作用を可能にするG基との比率は、本発明による吸着媒体では一定に保たれる。この理由のため、2種の異なるリガンドを用いる修飾法又は不完全な反応による修飾法とは異なり、その製造方法の結果は常に再現的である。
【0023】
本発明による吸着媒体の特に好ましい実施形態においては、上記G基は、ファンデルワールス相互作用又はπ-π相互作用を介して標的物質に結合することができる疎水性基である。
【0024】
本発明による吸着媒体の製造は、少なくとも1つの-XH基(ここで、X=-NR-、-O-又は-S-であり、かつR=アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール又はHである)を有し、共有結合-X-(C=O)を形成しつつカルボン酸誘導体と反応可能であるポリマー型担体材料が出発材料として使用される新規の修飾プロトコルを基礎としている。その-XH基はリガンド前駆体と反応するので、得られたリガンドは、担体材料へと共有結合-X-(C=O)を介して結合されるとともに、それぞれ少なくとも1つの遊離のカルボン酸基を有する。好ましくは、上記-XH基は、以下の図:
【化2】
(式中、X、G及びnは、先に定義した通りである)により図解され得るように、無水カルボン酸により官能化される。G基自体が置換基としてカルボン酸基-COOHを有しない場合に、無水カルボン酸の求核基-XHによる開環反応からリガンドG-(COH)中に存在するカルボン酸基が1つだけ得られ、nは1と等しい。
【0025】
G基自体が置換基として少なくとも1つのカルボン酸基-COOHを有する場合には、nは2以上であり、その際、上記カルボン酸基のうちの1つは、無水カルボン酸の求核基-XHによる開環反応から得られる。
【0026】
特に好ましくは、上記G基は、疎水性基である。
【0027】
本発明の実施形態によれば、基-X-(C=O)は、-NH-(C=O)である。つまり、上記基-XHは、第一級アミノ基であるので、得られる-G-(COH)リガンドは、第二級アミド結合-NH-(C=O)を介して担体材料に結合される。
【0028】
本発明によれば、固定相の担体材料としてクロマトグラフィー法に適するあらゆる材料が、ポリマー型担体材料として適している。クロマトグラフィーマトリックスとも呼ぶことができるポリマー型担体材料には、その表面に-XH基(ここで、X=-NR-、-O-又は-S-であり、かつR=アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール又はHである)を有し、その基にマルチモードリガンドが結合し得る又は結合され得る限りは、特に限定は存在しない。これらの基は、担体材料の表面上に既に存在し得るか、又は適切に導入することができる。したがって、本発明によれば、当初から官能基を含むポリマー型担体材料(例えば、ポリエステル繊維)か、又は当業者に既知の表面修飾により適切な官能基が導入されたポリマー型担体材料のいずれかを使用することができる。この関連に
おいて、既知の表面修飾の例には、置換反応及び付加反応、官能性エポキシド、活性化酸若しくは活性エステルとの反応、プラズマ処理、電子線(電子線処理)、ガンマ照射による活性化、コーティング、加水分解、アミノ分解、酸化、還元、官能性カルベン類及び/又はニトレン類との反応等が含まれる。
【0029】
本発明の実施形態によれば、上記ポリマー型担体材料は、天然繊維又は合成繊維、(ポリマー)メンブレン、多孔性ポリマー型モノリス成形体、ポリマーゲル、フィルム、不織布、及び織物からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含む。
【0030】
本発明による吸着媒体のポリマー型担体材料のための材料として使用することができる天然繊維又は合成繊維の例には、ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されたAllasso Industries社製の「Winged Fibers」、又はポリエチレンテレフタレートで構成されたFiber Innovation Technology社製の「4
DG(商標)Fibers」)、並びにセルロース、セルロース誘導体、ナイロン、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、スルホン(PES)、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)及びポリスルホンを構造成分として含む繊維が含まれ、その際、それらの材料は、個別に又は相応の組み合わせで使用することができる。好ましくは、ポリエステル繊維、特にポリエチレンテレフタレート又はポリブチレンテレフタレート(PBT)で構成された繊維及びポリアミド繊維が使用される。
【0031】
本発明による吸着媒体のポリマー型担体材料のための材料として使用することができる(ポリマー)メンブレンの例には、セルロース、セルロース誘導体、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、スルホン(PES)、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)及びポリスルホンを構造成分として含むメンブレンが含まれ、その際、それらの材料は、個別に又は相応の組み合わせで使用することができる。好ましくは、セルロース及びセルロース誘導体を基礎とするメンブレン、特に水和セルロースメンブレン又はポリエチレンメンブレンが使用される。
【0032】
この場合には、精製されるべき溶液に依存して、出発メンブレンとして種々の細孔サイズを有する既知の(ポリマー)メンブレンを使用することができる。本発明によれば、出発メンブレンとして、例えば、0.1μm~20μm、好ましくは0.5μm~15μm、より好ましくは1μm~10μmの細孔サイズを有し、当該技術分野で既知の通常の方法により鹸化されてもよく、任意に架橋されてもよいセルロースエステルメンブレンを使用することができる。その細孔サイズは、通常は、キャピラリーフローポロメトリー試験によってCoulter Capillary Flow Porometer 6.0及びPorous Materials Inc.社製のCAPWINソフトウェアシステムを使用して測定さ
れる。
【0033】
本発明による吸着媒体のポリマー型担体材料のための材料として使用することができるポリマーゲルの例には、アガロース、デキストラン、セルロース、ポリメタクリレート、ポリビニルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、シリカデキストラン、アガロースアクリルアミド、及びデキストランアクリルアミドが含まれる。
【0034】
フィルム及び織物の例には、(ポリマー)メンブレンのために使用することができる上述のポリマー材料で構成されたフィルム及び織物が含まれる。本発明による吸着媒体のポリマー型担体材料のための材料として使用することができる不織布の例には、ポリエステル/ポリプロピレン/ポリアミド不織布(例えば、Freudenberg社製の「Plurate
xx 2317 S」)及び(ポリマー)メンブレンのために使用することができる上記ポリマー材料が含まれる。
【0035】
本発明による吸着媒体において、好ましくは、担体材料の表面にポリマー型スペーサー要素が結合されており、その際、上記担体材料の表面と上記スペーサー要素との間の結合は、好ましくはクロマトグラフィーマトリックスの官能基(当初から存在する又は表面修飾により生成される)を介して行われるか、又は行われている。本発明による吸着媒体において上記クロマトグラフィーマトリックスと上記マルチモードリガンドとの間の結合単位として働くポリマー型スペーサー要素によって、有利には、高いリガンド密度を得ることが可能であり、それにより、小さなタンパク質、例えばリゾチームに関する高い結合能力及び高い耐塩性が可能となる。
【0036】
このようにして、高いリガンド密度及びマルチモード相互作用のため、高められた塩濃度でさえも高いタンパク質結合能力を示す耐塩性媒体を製造することができる。
【0037】
本発明の意味の範囲内では、用語「ポリマー型スペーサー要素」(略して「スペーサー」)は、クロマトグラフィーマトリックスの内側物質及び外側物質をマルチモードリガンドに結合することができるポリマーを指すものと理解される。本発明のポリマー型スペーサー要素には、それらの要素がクロマトグラフィーマトリックスの表面に(好ましくは)化学的に結合することができるが、物理的にも結合することができる限りは、特に限定は存在しない。一般的に、上記ポリマー型スペーサー要素は、ポリアミン、ポリアルコール、ポリチオール、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ-N-アルキル(メタ)アクリルアミド及び上記ポリマーの2種以上のみからなるコポリマー、上記ポリマーの1種以上及び求核性官能基を有しないポリマーのみからなるコポリマーからなる群から選択され得る。
【0038】
好ましい実施形態によれば、上記ポリマー型スペーサー要素は、少なくとも1つの第一級アミノ基を有するポリアミンである。それというのも、これにより更なる反応のためにポリマー型担体材料の表面の更なる官能化は必要とされないからである。第一級アミノ基によって、後にX-(C=O)結合として多官能性リガンドとのアミド結合が形成される。
【0039】
本発明の意味の範囲内のポリアミンの例には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン(分岐状又は線状)、ポリ(4-アミノスチレン)、キトサン、ポリ-L-リジン、ポリ(N-メチルビニルアミン)、ポリ(N-メチルアリルアミン)、及びポリ(オレイルアミン)が含まれる。
【0040】
この場合に、全ての適切なポリアミンを使用することができる。しかしながら、500g/molより大きい、特に800g/mol~1000000g/molのモル質量を有するポリアミンが好ましい。上記ポリマー型スペーサー要素は、特に好ましくは、3000g/mol~150000g/mol、より好ましくは10000g/mol~100000g/molのモル質量を有する。
【0041】
特に好ましい実施形態においては、上記ポリマー型スペーサー要素は、3000g/mol~150000g/mol、より好ましくは10000g/mol~100000g/molのモル質量を有するポリアリルアミンの群から選択される。更に好ましい実施形態においては、上記ポリマー型スペーサー要素は、5000g/mol~500000g/mol、より好ましくは10000g/mol~100000g/molのモル質量を有するポリビニルアミンの群から選択される。
【0042】
本発明によれば、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、及び/又はポリエチレンイミンが特に好ましい。
【0043】
本発明による吸着媒体においては、上記ポリマー型スペーサー要素は、存在するのであれば、クロマトグラフィーマトリックスの表面及びマルチモードリガンドの両方に結合される。マルチモードリガンドへの結合は、(上記クロマトグラフィーマトリックス又は上記スペーサー要素のいずれかの)-XH基の、リガンド前駆体としてのカルボン酸誘導体のカルボニル基への共有結合を介して、-X-(C=O)結合(ここで、X=-NR-、-O-又は-S-であり、かつR=アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール又はHである)を形成しつつ行われる。特に好ましい実施形態においては、マルチモードリガンドへの結合は、第二級アミド結合を介して、すなわち-NH-(C=O)型の結合を介して行われる。
【0044】
本発明による吸着媒体のマルチモードリガンドのリガンド密度は、好ましくは少なくとも25μmol/ml、好ましくは100μmol/ml、より好ましくは少なくとも150μmol/ml、特に好ましくは少なくとも250μmol/mlである。該リガンド密度は、本発明によれば滴定により測定され、それについての詳細は、以下の方法M2において示される。
【0045】
ポリアミン官能化された吸着媒体の特に好ましい実施形態においては、ポリアミン官能化された吸着媒体のリガンド密度に相当する、マルチモードリガンドが固定化される前のアミノ基密度は、少なくとも25μmol/ml、好ましくは少なくとも150μmol/ml、より好ましくは少なくとも200μmol/ml、特に好ましくは少なくとも400μmol/mlである。該アミノ基密度は、本発明によれば滴定により測定され、それについての詳細は、以下の方法M1において示される。
【0046】
本発明によれば、上記マルチモードリガンドは、以下の構造を有する:
【化3】
(式中、Gは、好ましくは、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C10アルキル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つの芳香族置換基とを含み得る)、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C10シクロアルキル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つの芳香族置換基とを含み得る)、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C10アルケニル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つの芳香族置換基とを含み得る)、置換又は非置換のC~C14アリール基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を含み得る)、及び置換又は非置換のC~C14ヘテロアリール基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を含み得る)からなる群から選択される。本発明によるマルチモードリガンドは、上記基Gに結合されている少なくとも1つのカルボン酸基を有する。カルボン酸基の数に対して特に上限は存在しないが、その上限は、好ましくは5(nは、1から5までの整数である)、より好ましくは4(nは、1から4までの整数である)、特に好ましくは3(nは、1から3までの整数である)であるべきである)。
【0047】
吸着媒体の好ましい実施形態においては、上記マルチモードリガンドは、以下の構造を有する:
【化4】
(式中、Gは、置換若しくは非置換のC~Cアルキル基、置換若しくは非置換のC~C10シクロアルキル基、置換若しくは非置換のC~Cアルケニル基、置換若しくは非置換のCアリール基、又は置換若しくは非置換の5員若しくは6員の複素芳香族基であり、ここで、それらの置換基は、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C10アルキル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基、無水カルボン酸置換基又は芳香族置換基とを含み得る)、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C10アルケニル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基、無水カルボン酸置換基又は芳香族置換基とを含み得る)、C~C20アリール基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基又は無水カルボン酸置換基とを含み得る)、C~C20ヘテロアリール基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基又は無水カルボン酸置換基とを含み得る)、及びヒドロキシ基、チオール基又はアミノ基からなる群から選択される)。
【0048】
吸着媒体の特に好ましい実施形態においては、Gは、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C10アルケニル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基、無水カルボン酸置換基又は芳香族置換基とを含み得る)である。
【0049】
特に好ましい実施形態においては、上記マルチモードリガンドは、以下の構造の1つを有する:
【化5】
(式中、各R’は、それぞれ水素、F、Cl、Br、I、-OH、-NH、SH、COH、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C10アルキル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基、無水カルボン酸置換基又は芳香族置換基とを含み得る)、分枝鎖状又は非分枝鎖状のC~C10アルケニル基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基、無水カルボン酸置換基又は芳香族置換基とを含み得る)、C~C20アリール基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基又は無水カルボン酸置換基とを含み得る)、及びC~C20ヘテロアリール基(O、S、N及びハロゲンから選択される1つ又は複数のヘテロ原子と、任意に少なくとも1つのヒドロキシル置換基、カルボニル置換基、カルボキシル置換基又
は無水カルボン酸置換基とを含み得る)からなる群から選択され、ここで、AはCアリール基又は5員若しくは6員の複素芳香族基であり、かつmは1から3までの整数である)。上記マルチモードリガンドは、特に好ましくは、ポリマー型担体材料に結合され得るアミド結合以外の更なるアミド結合を有しない。
【0050】
特に好ましいリガンドとして、以下の構造(1)~(15)を挙げることができる。
【化6】
【0051】
本発明によれば、以下の構造:
【化7】
のマルチモードリガンドは、好ましくはリガンド-G-(COH)に関する上記一般構造に含まれない。
【0052】
さらに、本発明は、本発明による吸着媒体の製造方法を提供する。したがって、本発明による吸着媒体に関する上記特記事項は、本発明による製造方法にも当てはまる。
【0053】
本発明による吸着媒体の製造方法は、以下の工程:
(a)共有結合-X-(C=O)(ここで、Xは、-NR-、-O-又は-S-を示し、かつRは、アルキル、アルケニル、アリール、ヘテロアリール又は水素である)を形成しつつカルボン酸誘導体と反応可能である少なくとも1つの-XH基を有するポリマー型担体材料Tを準備する工程と、
(b)上記ポリマー型担体材料Tの少なくとも1つの-XH基とマルチモードリガンドの前駆体としてのカルボン酸誘導体とを反応させることで、該マルチモードリガンドが該担体材料に結合される共有結合-X-(C=O)を形成する工程と、
を含む。
【0054】
本発明による方法の特に好ましい実施形態においては、上記共有結合-X-(C=O)
は、上記リガンドの前駆体としての無水カルボン酸と上記担体材料のアミン基との反応により形成される第二級アミド結合であり、かつ上記マルチモードリガンドは、少なくとも1つの遊離のカルボン酸基を有する。
【0055】
マルチモードリガンドがポリマー型スペーサー要素を介して担体材料の表面に結合されている好ましい実施形態によれば、該ポリマー型スペーサー要素は、工程(b)の前にクロマトグラフィーマトリックスの表面上に固定化され、次いで工程(b)により、該マルチモードリガンドは、-X-(C=O)結合、特に好ましくは第二級アミド結合を形成しつつ、上記スペーサー要素の-XH基に固定化される。
【0056】
本発明による方法の工程(a)においては、当初から官能基を含む(例えば、ポリエステル繊維)又は官能基が表面修飾により導入された上記のポリマー型担体材料が準備される。好ましくは、本発明による方法の更なる工程(a)においては、ポリマー型スペーサー要素は、クロマトグラフィーマトリックスの表面上に固定化され、すなわち上記スペーサー要素は、該クロマトグラフィーマトリックスの表面にそれらの官能基を介して(好ましくは)化学的に結合されるか、又は物理的にも結合される。本発明による固定化の工程に特に限定は存在せず、当業者に知られるあらゆる固定化法、例えば置換反応又は付加反応、エポキシ開環、アミノ分解、アミドカップリング反応、エステル化、還元的アミノ化、及び挿入反応を使用することができる。
【0057】
本発明による方法の工程(b)においては、任意にスペーサー要素を介して上記担体材料に固定化されている少なくとも1つの-XH基は、-X-(C=O)結合が形成され、その結合を介して上記マルチモードリガンドが該担体材料に結合されるようにマルチモードリガンドの前駆体と反応される。その-X-(C=O)結合は、好ましくは第二級アミド結合である。
【0058】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記第二級アミド基は、無水カルボン酸と、上記担体材料のアミノ基との反応により形成される。これはアミノ基が、好ましくは、以下の図:
【化8】
(式中、G及びnは、先に定義した通りであり、-XHは、NHである)により図解され得るように、無水カルボン酸により官能化されることを意味する。
【0059】
G基自体が置換基としてカルボン酸基-COOHを有しない場合に、無水カルボン酸の求核基-XHによる開環反応からリガンドG-(COH)中に存在するカルボン酸基が1つだけ得られ、nは1と等しい。
【0060】
G基自体が置換基として少なくとも1つのカルボン酸基-COOHを有する場合には、nは2以上であり、その際、上記カルボン酸基のうちの1つは、無水カルボン酸の求核基-XHによる開環反応から得られる。
【0061】
本発明によれば、上記構造のマルチモードリガンドを得ることができる限りは、無水カルボン酸に特に限定は存在しない。適切な無水カルボン酸の例には、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水リンゴ酸(D-異性体及び/又はL-異性体)、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水1,8-ナフタル酸、無水1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、無水キノリン酸、無水トリメリト酸、無水ピロメリト酸、無水ピリジン-3,4-ジカルボン酸、無水(S)-N-アセチル-L-アスパラギン酸(N-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)アセトアミド)、無水N-ベンゾイルアスパラギン酸、無水3-(p-トリルチオ)-コハク酸、4-((2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)チオ)安息香酸、無水N-トリフルオロアセチル-L-アスパラギン酸(N-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド)、無水シス-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、無水1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、無水2,3-チオフェンジカルボン酸、無水3,4-チオフェンジカルボン酸、無水テトラフルオロフタル酸、無水ヘキサフルオログルタル酸、無水アジピン酸、それらの誘導体又はそれらの混合物が含まれ、その際、好ましくはこれらの物質の1種類だけが使用される。
【0062】
溶剤としては、ジメチルスルホキシド、2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン若しくは1,4-ジオキサン、又はその他の極性の、好ましくは非プロトン性の溶剤を使用することができる。
【0063】
さらに、本発明は、本発明による吸着媒体又は本発明の方法により製造される吸着媒体の、生体分子の精製のための使用を提供する。精製されるのに適切な生体分子の例には、タンパク質、例えば抗体、ペプチド、アミノ酸、核酸、ウイルス様粒子、ウイルス、及び/又はエンドトキシンが含まれる。
【0064】
本発明による吸着媒体において上記クロマトグラフィーマトリックスと上記マルチモードリガンドとの間の結合単位として働くポリマー型スペーサー要素により、有利には、特に小さなタンパク質、例えばリゾチームに関する高い結合能力を有するリガンドの高い密度を達成することが可能である。高いリガンド密度及びマルチモード相互作用によって、500mMまでの高められた塩濃度(NaCl濃度)でさえも高いタンパク質結合能力を有する耐塩性吸着媒体を本発明による方法を使用して製造することができる。上記無水物を選択することによって、上記カチオン交換型吸着媒体の最大結合能力を、広い塩濃度範囲にわたり選択的に調節することができる。該マルチモードリガンド構造物は、1種の試薬だけを使用して製造されるので、カルボン酸基と更なる相互作用を可能にする基との比率は、該吸着媒体で一定に保たれる。この理由のため、それぞれが別々に吸着媒体上に固定される2種の異なるリガンドを用いる修飾法又は不完全な反応による修飾法と比べて、その製造方法の結果は常に再現的である。したがって、本発明による吸着媒体は、大きな工業的需要のある生体分子の精製のために極めて適している。
【0065】
以下の非限定的な実施例により、本発明をより詳細に説明する。ここで、図1図3は、得られたメンブレンの結合能力をまとめたグラフを示している。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】実施例で得られたメンブレンの結合能力をまとめたグラフである。
図2】実施例で得られたメンブレンの結合能力をまとめたグラフである。
図3】実施例で得られたメンブレンの結合能力をまとめたグラフである。
【実施例
【0067】
方法:
M1:アミン官能化された吸着媒体のリガンド/電荷密度の測定
3層のメンブレンを、メンブレンホルダー中に張着した。そのメンブレン積層物は、メンブレンホルダー中で15cmのメンブレン面積、5cmの流入面積、及び750μmのベッド高さ(メンブレン積層物の厚さ)を有していた。該メンブレンホルダー中のメンブレンに20mMのTris/HClバッファー(pH=7.4)を注入して、空気を排除し、その後にGeneral Electric Health Care社製のAekta Explorer 100 FPLCユニットに接続した。次いで、上記メンブレン又はメンブレン積層物を、4つの工程を含む試験プログラムを使用して電荷密度について試験した。該試験プログラムの4つの工程を、以下に示す。
【0068】
1. メンブレンを20mMのTris/HCl(pH=7.4)中の1MのNaCl溶液6mlでコンディショニングする工程、
2. メンブレンを逆浸透水中の1MのNaOH溶液6mlで再生する工程、
3. メンブレンを100mlの逆浸透水で洗浄する工程、及び、
4. メンブレンに135mlの10mMのHClをロードする工程。
【0069】
それらの工程の全ては、10mL/分の流速で実施した。それらの工程の全てにおいて、伝導性をメンブレンユニットの後方の検出器において測定した。こうして記録された曲線上の面積を、デッドボリュームを差し引いた後に積分し、そこから電荷密度を計算した。
【0070】
M2:カチオン交換型吸着媒体のリガンド/電荷密度の測定
3層のメンブレンを、メンブレンホルダー中に張着した。そのメンブレン積層物は、メンブレンホルダー中で15cmのメンブレン面積、5cmの流入面積、及び750μmのベッド高さ(メンブレン積層物の厚さ)を有していた。該メンブレンホルダー中のメンブレンに20mMのKPiバッファー(pH=7)を注入して、空気を排除し、その後にGeneral Electric Health Care社製のAekta Explorer 100 FPLCユニットに接続した。次いで、上記メンブレン又はメンブレン積層物を、4つの工程を含む試験プログラムを使用して電荷密度について試験した。該試験プログラムの4つの工程を、以下に示す。
【0071】
1. メンブレンを20mMのKPi(pH=7.0)中の1MのNaCl溶液6mlでコンディショニングする工程、
2. メンブレンを逆浸透水中の1MのHCl溶液6mlで再生する工程、
3. メンブレンを88mlの逆浸透水で洗浄する工程、及び、
4. メンブレンに135mlの10mMのNaOHをロードする工程。
【0072】
それらの工程の全ては、10mL/分の流速で実施した。それらの工程の全てにおいて、伝導性をメンブレンユニットの後方の検出器において測定した。こうして記録された曲線上の面積を、デッドボリュームを差し引いた後に積分し、そこから電荷密度を計算した。
【0073】
M3:破過曲線による修飾されたメンブレンのリゾチームについての結合能力の測定
3層のメンブレンを、メンブレンホルダー中に張着した。そのメンブレン積層物は、該メンブレンホルダー中で15cmのメンブレン面積、5cmの流入面積、及び900μmのベッド高さ(メンブレン積層物の厚さ)を有していた。該メンブレンホルダー中のメンブレンに10mMのKPiバッファー(pH=7)を注入して、空気を排除し、その後にGeneral Electric Health Care社製のAekta Explorer 100 FPLCユニットに接続した。次いで、上記メンブレン又はメンブレン積層物を、3つの工程を含む試験プログラムを使用してリゾチーム結合能力に関して試験した。その試験プログ
ラムの3つの工程を、以下に示す。
【0074】
1. メンブレンを10mMのKPi(pH=7.0)中の1MのNaCl溶液20mlでコンディショニングする工程、
2. メンブレンを20mlの結合バッファー(10mMのKPi、pH=7.0)で平衡化する工程、
3. メンブレンに250mlのリゾチーム溶液(結合バッファー中の0.20%のリゾチーム)をロードする工程。
【0075】
それらの工程の全ては、10mL/分の流速で実施した。それらの工程の全てにおいて、280nmでの吸収をメンブレンユニットの後方の検出器において測定した。こうして記録された曲線上の面積を、デッドボリュームを差し引いた後に積分し、そこから結合されたリゾチームの量を計算した。
【0076】
M4:破過曲線による修飾されたメンブレンのγ-グロブリンについての結合能力の測定
3層のメンブレンを、メンブレンホルダー中に張着した。そのメンブレン積層物は、該メンブレンホルダー中で15cmのメンブレン面積、5cmの流入面積、及び900μmのベッド高さ(メンブレン積層物の厚さ)を有していた。該メンブレンホルダー中のメンブレンに20mMのNaAc溶液(pH=5)を注入して、空気を排除し、その後にGeneral Electric Health Care社製のAekta Explorer 100 FPLCユニットに接続した。次いで、上記メンブレン又はメンブレン積層物を、3つの工程を含む試験プログラムを使用してγ-グロブリン結合能力に関して試験した。その試験プログラムの3つの工程を、以下に示す。
【0077】
1. メンブレンを20mMのNaAc(pH=5.0)中の1MのNaCl溶液20mlでコンディショニングする工程、
2. メンブレンを20mlの結合バッファー(20mMのNaAc中の25mMのNaCl、pH=5.0)で平衡化する工程、
3. メンブレンに結合バッファー中の1mg/mL γ-グロブリン溶液250mlをロードする工程。
【0078】
それらの工程の全ては、10mL/分の流速で実施した。それらの工程の全てにおいて、280nmでの吸収をメンブレンユニットの後方の検出器において測定した。こうして記録された曲線上の面積を、デッドボリュームを差し引いた後に積分し、そこから結合されたγ-グロブリンの量を計算した。その測定を、新しいメンブレン試料を使用して150mMのNaCl及び300mMのNaClで繰り返した。
【0079】
アミン修飾された出発マトリックス上に無水カルボン酸を固定化するための修飾プロトコル
水和セルロースメンブレンの修飾
1. ポリアミン固定化
1a)ポリアリルアミン(PAA)
スペーサーの固定化は、独国特許出願公開第10 2008055 821号(実施例21及び22)に記載された既知のプロトコルに基づくものである。この場合に、15000g/mol~150000g/molのモル質量を有するスペーサーが使用される。典型的な反応において、酢酸セルロース(CA)メンブレン(3μmの細孔サイズ、Sartorius Stedim Biotech GmbH社)を、0.6Mの水酸化ナトリウム水溶液(4g/cm
)中にて室温で30分間にわたり鹸化し、次いで0.25Mの水酸化ナトリウム溶液(0.5g/cm)中で10分間にわたり3回すすいだ。得られたメンブレンを、15%の
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル及び85%の0.25Mの水酸化ナトリウム水溶液からなる溶液(0.5g/cm)で30分間にわたり処理し、次いで密閉された容器内で18時間にわたり室温で貯蔵した。最後に、すすぎを、流水で30分間にわたり実施した。
【0080】
こうして得られたメンブレンを、逆浸透水中のポリアリルアミンの20%溶液(1g/cm)にて50℃で1時間にわたり処理した。次いで、そのメンブレンを、5%の硫酸溶液にて室温で5分間にわたり処理し、最後に流水で10分間にわたりすすいだ。
【0081】
上記メンブレン上のアミノ基密度を、滴定により測定した。
【0082】
【表1】
【0083】
1b)ポリエチレンイミン(PEI)
スペーサーの固定化は、独国特許出願公開第10 2008055 821号(実施例15、16及び17)に記載された既知のプロトコルに基づいて実施する。典型的な反応において、CAメンブレン(3μmの細孔サイズ、Sartorius Stedim Biotech GmbH社)
を、0.6Mの水酸化ナトリウム水溶液(4g/cm)中にて室温で30分間にわたり鹸化し、次いで0.25Mの水酸化ナトリウム溶液(0.5g/cm)中で10分間にわたり3回すすいだ。得られたメンブレンを、15%の1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル及び85%の0.25Mの水酸化ナトリウム水溶液からなる溶液(0.5g/cm)で30分間にわたり処理し、次いで密閉された容器内で18時間にわたり室温で貯蔵した。最後に、すすぎを、流水で30分間にわたり実施した。こうして得られたメンブレンを、逆浸透水中のLupasol WF(BASF AG社製のポリエチレンイミン、
分子量25000g/mol)の30%溶液(1g/cm)にて50℃で2時間にわたり処理した。次いで、そのメンブレンを、流水で30分間にわたりすすぎ、5%の硫酸溶液で10分間にわたり処理し、最後に流水で10分間にわたりすすいだ。
【0084】
上記メンブレン上のアミノ基密度を、滴定により測定した。
【0085】
【表2】
【0086】
2. リガンド固定化
典型的な反応において、16gの無水カルボン酸を64gのDMSO(20重量%)中に溶解させ、その溶液を60℃に加熱した。PAA修飾された水和セルロースメンブレンを、該反応溶液(0.5g/cm)中に入れ、60℃で1時間にわたりかき混ぜた。次いで、該反応溶液を濾別し、そのメンブレンをエタノール(0.5g/cm)及び大過剰の逆浸透水で洗浄した。
【0087】
リガンド構造物:
本明細書に列記されるカチオン交換体は、上記方法に従って以下の無水カルボン酸を使用して製造した。結果は、以下の表1~表3及び図1図3に示されている。
【0088】
【表3】
【0089】
比較として、従来技術において知られる強力なカチオン交換体型のメンブレン吸着体のSartobind S(スルホン酸リガンドを有する水和セルロースの強力なカチオン交換体、Sartorius Stedim Biotech GmbH社)を試験した。結果は、以下の表4及び図1
図3に「参照」として示されている。
【0090】
さらに、無水N-ベンゾイル-L-アスパラギン酸とPAA修飾された水和セルロースメンブレン(PAAのモル質量:15000g/mol)との反応を、比較例1として実施し、こうして2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを有するクロマトグラフィーマトリックスが得られ、従来技術から知られるCapto(商標)MMCリガンドが再現された。
【0091】

【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
【0096】
ポリエチレンメンブレンの修飾
1. リガンド固定化
ポリアリルアミン官能化されたポリエチレンメンブレンのChromasorb(0.65μmの細孔サイズ、EMD Millipore社)を、リガンド固定化のための出発材料として
使用した。典型的な反応において、16gの無水カルボン酸を64gのDMSO(20重量%)中に溶解させ、その溶液を60℃に加熱した。上記ポリアリルアミン官能化されたポリエチレンメンブレンを、該反応溶液(0.5g/cm)中に入れ、60℃で1時間にわたりかき混ぜた。次いで、該反応溶液を濾別し、そのメンブレンをエタノール(0.5g/cm)及び大過剰の逆浸透水で洗浄した。
【0097】
本明細書に列記されるカチオン交換体は、上記方法に従って以下の無水カルボン酸を使用して製造した。結果は、以下の表5に示されている。
【0098】
【表9】
【0099】
【表10】
【0100】
結果の評価
結果は、図1図3にまとめられている。図1に示されるように、比較例1で得られたメンブレンと比較して、本発明によるマルチモードリガンドを有するメンブレンは、驚くべきことに、同等のリガンド密度で、リゾチーム等の小さな分子に対するより大幅に高い結合能力を示す。従来技術において知られる強力なカチオン交換体型のメンブレン吸着体のSartobind Sについても同じことが当てはまる。
【0101】
さらに、実施例の全ては、広い塩範囲(25mM~300mMのNaCl)にわたってグロブリン等のより大きな分子に対して良好な結合特性を示す。この結合能力をより良く説明するために、グロブリンに対する平均結合能力BC(グロブリン):
BC(グロブリン)=(BC(グロブリン、25mM NaCl)+BC(グロブリン、150mM NaCl)+BC(グロブリン、300mM NaCl))/3
が規定される。
【0102】
結果は、図2にまとめられている。
【0103】
数多くの使用に関する個々の実施例の性能についての結果を判定するために、以下で小さな分子(リゾチーム)及び大きな分子(グロブリン)の両方に対する結合能力を考慮する。このために、結合の指標BC(全体):
BC(全体)=(BC(リゾチーム)+BC(グロブリン))/2
が規定される。
【0104】
結果は、図3にまとめられている。驚くべきことに、本発明によるメンブレンは、比較例1で得られたメンブレンと比較して、より大幅に高い結合の指標BC(全体)を示す。従来技術において知られる強力なカチオン交換体型のメンブレン吸着体のSartobind Sについても同じことが当てはまる。
図1
図2
図3