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特許7263397長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法及び該材料を含むリチウムイオン電池
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  • 特許-長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法及び該材料を含むリチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法及び該材料を含むリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20230417BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230417BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20230417BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 D
H01M4/36 C
C01B32/21
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020563627
(86)(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 CN2019075334
(87)【国際公開番号】W WO2019237758
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-11-10
(31)【優先権主張番号】201810594938.9
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520417045
【氏名又は名称】貝特瑞新材料集団股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BTR NEW MATERIAL GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7A, 7B, and 8, High-Tech Industrial Park, Xitian Community, Gongming Office, Guangming New District Shenzhen, Guangdong 518106 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】潘 修軍
(72)【発明者】
【氏名】李 東東
(72)【発明者】
【氏名】周 海輝
(72)【発明者】
【氏名】任 建国
(72)【発明者】
【氏名】黄 友元
(72)【発明者】
【氏名】岳 敏
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106169584(CN,A)
【文献】特開2004-253379(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106252596(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108063229(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108832091(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/1399
H01M 4/36- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C01B 32/20-32/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛材料と被覆変性剤を質量比100:(1~30)で混合する工程(1)と、
工程(1)で得られた混合物を自己加圧反応装置に投入し、次に、前記自己加圧反応装置を加熱装置に移して自己加圧浸漬実験を行い、前記自己加圧浸漬実験において、加熱装置を1℃/min~15℃/minの昇温速度で被覆変性剤の軟化点よりも高い温度に昇温させて30~180min保温する工程(2)と、
工程(2)で得られた混合物を降温し、降温過程中に黒鉛材料の表面に分布している被覆変性剤が黒鉛材料の表面に再硬化する工程(3)と、
工程(3)で得られた材料を不活性雰囲気中、800~2200℃で熱処理を行い、変性黒鉛系複合材料を得る工程(4)と、を含み、
前記被覆変性剤は、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、メソフェーズピッチ、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、石油樹脂、コールタール及び重質油から選ばれたいずれか1つ又は少なくとも2つの混合物であり、
前記工程(2)において、被覆変性剤が軟化点に達すると徐々に液化し、自己加圧力の作用下で黒鉛材料を十分に浸漬して黒鉛材料の表面に分布することを特徴とする長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項2】
工程(1)において、前記黒鉛材料は球状黒鉛である、請求項1に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記黒鉛材料は、鱗片状黒鉛から加工された球状天然黒鉛である、請求項2に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項4】
工程(1)において、前記黒鉛材料の平均粒径の範囲が5μm~30μmである、請求項2に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項5】
工程(1)において、前記被覆変性剤は、軟化点が20℃~300℃である、請求項1~4のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項6】
工程(1)において、前記黒鉛材料と被覆変性剤との質量比が100:(15~30)である、請求項1~5のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項7】
工程(1)において、前記混合は物理的混合である、請求項1~6のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記工程(2)において、前記自己加圧反応装置は、高圧反応釜であり、
前記加熱装置は、箱型炉及びオーブンから選ばれたいずれか一つを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項9】
工程(2)の前記自己加圧浸漬実験において、加熱装置の温度は、50℃~1200℃である、請求項1~8のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項10】
工程(2)の前記自己加圧浸漬実験において、加熱装置の温度は、50℃~400℃である、請求項1~9のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項11】
工程(2)の前記自己加圧浸漬実験において、加熱装置の温度及び保温時間を、圧力が0.01MPa~0.05MPaとなるように制御する、請求項1~10のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項12】
工程(3)において、前記降温は、空冷降温システム及び液冷急速降温システムから選ばれたいずれか1つ又は少なくとも2つの組み合わせを採用する、請求項1~11のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項13】
工程(4)において、
前記不活性雰囲気は、ヘリウムガス雰囲気、ネオンガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気及びクリプトンガス雰囲気から選ばれたいずれか1つ又は少なくとも2つの雰囲気の組み合わせであり、
前記熱処理の処理時間は1h~10hである、請求項1~12のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項14】
黒鉛材料と被覆変性剤を100:(1~30)の質量比で物理的に混合する工程(1)と、
工程(1)で得られた混合物を自己加圧反応装置に投入し、次に、前記自己加圧反応装置を加熱装置に移して自己加圧浸漬実験を行い、前記自己加圧浸漬実験において、昇温速度を1℃/min~15℃/minに制御して温度を50℃~1200℃に上昇して30~180min保温する工程(2)と、
工程(2)で得られた混合物を空冷降温システム又は液冷急速降温システムを用いて降温し、降温過程中に黒鉛材料の表面に均一に分布している被覆変性剤は黒鉛材料の表面に再硬化する工程(3)と、
工程(3)で得られた材料を不活性雰囲気中、800℃~2200℃で熱処理を1時間~10時間行い、変性黒鉛系複合材料を得る工程(4)と、を含み、
前記被覆変性剤は、軟化点が20℃~300℃であり、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、メソフェーズピッチ、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、石油樹脂、コールタール及び重質油から選ばれたいずれか1つ又は少なくとも2つの混合物であり、
前記工程(2)において、被覆変性剤が軟化点に達すると徐々に液化し、自己加圧力の作用下で黒鉛材料を十分に浸漬して黒鉛材料の表面に均一に分布する、請求項1~13のいずれか1項に記載の長期サイクル用変性黒鉛系複合材料の製造方法。
【請求項15】
前記変性黒鉛系複合材料は、負極材料である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記負極材料は、リチウムイオン電池に用いられる、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はリチウムイオン電池負極材料の技術分野に関し、長期サイクル用変性黒鉛系複合材料、その製造方法及び該材料を含むリチウムイオン電池、例えば、天然黒鉛が変性してなる、長期サイクル用リチウムイオン電池用黒鉛系複合負極材料、その製造方法及び該材料を含むリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、長期サイクル安定性や記憶効果無しなどの利点を有するため、電気自動車のパワーバッテリーとして最適であると考えられ、各電気自動車メーカーに注目されており、大いに普及されている。各国政府の減税や補助金などの多くの政策の支援により、電気自動車はいよいよ多くの家庭に利用されているが、本格的な市場化には至っていない。その原因は、主に価格が高いからである。パワーバッテリーは電気自動車の重要な構成要素であり、その価格が総価格に占める割合は30%を超えるため、パワーバッテリーの価格をいかに引き下げるかはパワーバッテリーの発展における重要な課題となっている。
【0003】
負極材料はリチウムイオン電池の重要な構成要素であり、パワーバッテリーの性能と価格を直接決定している。現在、黒鉛は負極材料の主流となる材料であり、由来によっては人造黒鉛と天然黒鉛に分けられる。中でも、人造黒鉛はその良好なサイクル安定性のため、ほとんどのパワーバッテリーの市場を占めている。人造黒鉛の製造過程では、高価な黒鉛化過程が必要となるだけでなく、原材料の価格が上昇し続けることにより、人造黒鉛の価格が下がるどころか、むしろ上がり続けることになる。負極材料のコストをさらに引き下げるために、天然黒鉛は、改めて注目されてきた。天然黒鉛の最大の利点として、黒鉛化過程が必要でなく、価格が低いが、パワーバッテリーに用いられる場合、サイクル安定性が劣ったため、その価格上の優位性がそれほど魅力的ではなくなり、したがって、そのサイクル安定性をどのように改善するかは研究の重要な課題となっている。
【0004】
いわゆる天然黒鉛は、主に鱗片状黒鉛を加工することにより得られた球状天然黒鉛を言い、このような材料のサイクル性能が悪いのは、主にリチウムイオンの吸蔵において、電解液中の有機分子の共吸蔵が発生し、材料構造へダメージをもたらすためである。現在、表面被覆法で表面を非晶質炭素で被覆して電解液と天然黒鉛とを分離することにより、その性能を向上させるのが一般的である。
【0005】
現在、主に固相被覆方法が採用されている。固相被覆方法としては、まず天然黒鉛と被覆変性剤を物理的混合方式で混合し、その後、炭化過程中で、被覆変性剤の液化能力を利用し、それを流動させて自己被覆を行う。このような方法は操作が簡単で、コストが安く、天然黒鉛負極材料の変性に広く適用されているが、その過程中で変性剤中の小分子物質が絶えず揮発し、液化過程が比較的短くかつ時間を制御できないため、液状被覆剤は天然黒鉛の外面、特に球状黒鉛内部の鱗片状黒鉛の表面を完全に被覆することができず、その結果、サイクル過程中において、電解液がこれら被覆されていない天然黒鉛の表面に徐々に浸透し、固体電解質界面(SEI)膜を生成し続け、電解液が天然黒鉛層構造に絶えず吸蔵され、大量の活性リチウムを消耗し、天然黒鉛構造を破壊し、それにより、容量の持続的な低減を招く。そのため、新規な天然黒鉛に対する変性被覆方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下は本明細書に詳しく説明される主題の概要である。本概要は特許請求の範囲を制限するためのものではない。
【0007】
本願は、長期サイクル用変性黒鉛系複合材料、その製造方法及び該材料を含むリチウムイオン電池を提供することを目的とする。前記方法は、プロセスが簡単で、生産コストが低く、天然黒鉛の表面を完全に被覆することができるだけでなく、被覆変性剤の黒鉛材料内部への成長や充填を実現することができ、それにより、変性された天然黒鉛系負極材料のタップ密度を向上させ、そして電解液による副作用を効果的に回避し、電解液の適応性を向上させ、サイクル安定性を改善することができる。
【0008】
本願に記載の「長期サイクル用変性黒鉛系複合材料」における「長期サイクル」とは、この変性黒鉛系複合材料を負極材料として製造された完成品電池の常温で300サイクル目の容量維持率が、未変性の黒鉛材料の容量維持率よりも高く、90.2%以上に至ったことができることを指す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願は以下の技術案を採用する。
本願の第1の態様において、自己加圧浸漬による黒鉛材料の変性方法であって、
黒鉛材料と被覆変性剤とを混合する工程(1)と、
工程(1)で得られた混合物を自己加圧反応装置に投入し、次に、この装置を加熱装置に移して自己加圧浸漬実験を行い、前記自己加圧浸漬実験において、温度の上昇を制御し、被覆変性剤が軟化点に達すると徐々に液化し、自己加圧力の作用下で黒鉛材料を十分に浸漬して黒鉛材料の表面に分布する工程(2)と、
降温し、降温過程中に黒鉛材料の表面に分布している被覆変性剤が黒鉛材料の表面に再硬化する工程(3)と、
不活性雰囲気中で熱処理を行い、変性黒鉛系複合材料を得る工程(4)と、を含む、黒鉛材料の変性方法を提供する。
【0010】
本願の方法は、プロセスが簡単で、生産コストが低く、自己加圧反応装置及び加熱装置の併用により、被覆変性剤を液化させて、自己加圧力の作用下で黒鉛材料を浸漬して浸漬効果を十分に実現でき、かつ液化した被覆変性剤が黒鉛材料の表面に均一かつ完全に分布し、降温後で再硬化した被覆変性剤が黒鉛材料の表面を均一かつ完全に被覆しうる。このような完全で均一な被覆効果は、電極材料と電解液との副反応をより効果的に回避し、電解液の適応性を向上させ、電極材料のサイクル安定性を大幅に改善することができる。さらに、被覆変性剤は黒鉛材料の内部にも入り込んで成長し、黒鉛材料の内部への被覆変性剤の成長、充填は、材料のタップ密度の向上、電気化学的性能の改善に寄与する。
【0011】
本願に係る方法の好適な技術案として、工程(1)において、前記黒鉛材料は、球状黒鉛であり、好ましくは、鱗片状黒鉛から加工された球状天然黒鉛である。
【0012】
好ましくは、工程(1)において、前記黒鉛材料は、平均粒径の範囲が5μm~30μmであり、例えば、5μm、6μm、8μm、10μm、15μm、17.5μm、20μm、22μm、25μm、26μm、28μm又は30μmなどであってもよい。
【0013】
好ましくは、工程(1)において、前記被覆変性剤は、軟化点が20℃~300℃である、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、メソフェーズピッチ、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、石油樹脂、コールタール及び重質油から選ばれたいずれか1つ又は少なくとも2つの混合物を含む。前記軟化点は、例えば、20℃、30℃、32℃、40℃、45℃、50℃、60℃、65℃、80℃、90℃、100℃、125℃、150℃、180℃、220℃、235℃、270℃又は300℃などであってもよい。
【0014】
好ましくは、工程(1)において、前記黒鉛材料と被覆変性剤との質量比は、100:(1~100)であり、例えば、100:1、100:5、100:10、100:15、100:18、100:20、100:30、100:35、100:40、100:50、100:60、100:70、100:80、100:85、又は100:100であってもよく、好ましくは100:(2~10である。
【0015】
好ましくは、工程(1)において、前記混合は物理的混合である。
【0016】
本願に係る方法の好適な技術案として、工程(2)において、前記自己加圧反応装置は、高圧反応釜である。
【0017】
好ましくは、工程(2)において、前記加熱装置としては、箱型炉又はオーブンなどの加熱装置が挙げられる。
【0018】
好ましくは、工程(2)の前記自己加圧浸漬実験において、加熱装置の温度を、被覆変性剤の軟化点よりも高くなるように制御し、50℃~1200℃であってもよく、例えば、50℃、80℃、120℃、150℃、200℃、225℃、300℃、350℃、400℃、500℃、550℃、580℃、650℃、700℃、750℃、800℃、850℃、900℃、1000℃、1050℃、1100℃又は1200℃などであってもよく、好ましくは、50℃~400℃である。
【0019】
好ましくは、工程(2)の前記自己加圧浸漬実験において、昇温速度が1℃/min~15℃/minであり、例えば、1℃/min、2℃/min、3℃/min、5℃/min、7℃/min、8℃/min、10℃/min、12℃/min、13℃/min又は15℃/minなどであってもよい。
【0020】
好ましくは、工程(2)の前記自己加圧浸漬実験において、保温時間は、0~300minであり、例えば、0、10min、20min、30min、45min、60min、90min、120min、135min、155min、180min、200min、210min、240min、260min、280min、又は300minなどであってもよく、好ましくは、30min~180minである。
【0021】
好ましくは、工程(2)の前記自己加圧浸漬実験において、加熱装置の温度及び保温時間を、圧力が0.01MPa~0.05MPa、例えば、0.01MPa、0.02MPa、0.03MPa、0.04MPa又は0.05MPaなどになるように制御する。
【0022】
本願に係る方法の好適な技術案として、工程(3)において、前記降温は、生産サイクルを短縮するために、空冷降温システム及び液冷急速降温システムから選ばれたいずれか1つ又は少なくとも2つの組み合わせを採用する。
【0023】
好ましくは、工程(4)において、前記不活性雰囲気は、ヘリウムガス雰囲気、ネオンガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気及びクリプトンガス雰囲気から選ばれたいずれか1つ又は少なくとも2つの雰囲気の組み合わせである。
【0024】
本願の工程(4)において、前記熱処理は高温処理であり、熱処理の温度は800℃~2200℃であってもよく、例えば800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃、1300℃、1400℃、1500℃、1600℃、1750℃、1850℃、2000℃、2100℃又は2200℃などであってもよい。
【0025】
好ましくは、工程(4)において、前記熱処理の処理時間は、1h~10hであり、例えば、1h、2h、3h、4h、5h、6.5h、7h、8h、9h又は10hなどであってもよい。
【0026】
本明細書に係る方法の好適な技術案として、前記方法は、
黒鉛材料と被覆変性剤とを質量比100:(1~100)で物理的に混合する工程(1)と、
工程(1)で得られた混合物を自己加圧反応装置に投入し、次に、この装置を加熱装置に移して自己加圧浸漬実験を行い、前記自己加圧浸漬実験において、昇温速度を1℃/min~15℃/minに制御して温度を50℃~1200℃までに上昇し、被覆変性剤が軟化点に達すると徐々に液化し、自己加圧力の作用下で黒鉛材料を十分に浸漬し、黒鉛材料の表面に均一に分布する工程(2)と、
空冷降温システム又は液冷急速降温システムを用いて降温し、降温過程中に黒鉛材料の表面に均一に分布している被覆変性剤が黒鉛材料の表面に再硬化する工程(3)と、
不活性雰囲気中で熱処理を800℃~2200℃で1時間~10時間行い、変性黒鉛系複合材料を得る工程(4)と、を含み、
前記被覆変性剤は、軟化点が20℃~300℃であり、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、メソフェーズピッチ、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、石油樹脂、コールタール及び重質油のうちのいずれか1つ又は少なくとも2つの混合物を含む。
【0027】
本願の第2の態様において、第1の態様に係る方法によって製造された変性黒鉛系複合材料である負極材料を提供する。この負極材料において、被覆変性剤は完全に硬化して黒鉛材料の表面を被覆するだけでなく、黒鉛材料の内部にも入り込んで成長し、表面が電解液を完全に効果的に隔離でき、電解液の副作用を回避し、電解液の適応性を向上し、サイクル安定性を大幅に改善することができる。黒鉛材料の内部への被覆変性剤の成長、充填は、材料のタップ密度の向上、電気化学的性能の改善に寄与する。
【0028】
本願の第3の態様において、第2の態様に係る負極材料を含むリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0029】
従来技術に比べて、本発明は以下の有益な効果を奏する。
(1)本願は、自己加圧反応装置及び加熱装置の併用により、被覆変性剤を液化させて黒鉛材料を自己加圧力の作用下で十分に浸漬し、加熱により液化した被覆変性剤が黒鉛材料の表面に均一かつ完全に分布し、さらに降温後で再硬化した被覆変性剤が黒鉛材料の表面を均一かつ完全に被覆する。
本願の変性黒鉛系複合材料について、黒鉛材料の表面に対する被覆変性剤の完全かつ均一な被覆効果は、電極材料と電解液との副反応をより効果的に回避し、電解液の適応性を向上することによって、電極材料のサイクル安定性を大幅に改善することができ、常温で300サイクル後の容量保持率が8%以上向上することができる。さらに、被覆変性剤は黒鉛材料の内部にも入り込んで成長する。黒鉛材料の内部への被覆変性剤の成長、充填は、材料のタップ密度の向上、電気化学的性能の改善に寄与する。
(2)本願の方法は、プロセスが簡単で、生産コストが安く、工業的生産に適する。
【0030】
詳細な説明及び図面を読んで理解した後、本発明の他の態様も明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は本願実施例1における変性黒鉛系複合負極材料の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、特定の実施形態にて本願の技術案についてさらに説明する。
当業者にとって、本願発明が様々な変更及び変化することが可能である。
【0033】
以下の実施例における方法は、特に断りのない限り通常の方法であり、使用した実験材料は、特に断りのない限り、一般的な生化学試薬メーカーから購入し、いかなる精製も行わずにそのまま使用したものである。
【0034】
実施例1~8及び比較例1の負極材料について、以下の方法でテストを行った。なお、実施例3及び8は参考例である。
【0035】
マルバーンレーザー粒度測定装置MS2000を用いて材料の粒径範囲及び原料粒子の平均粒径を測定した。
【0036】
S4800走査型電子顕微鏡(日立社製)を用いてサンプルの表面形態、粒子の大きさなどを観察した。
【0037】
電池テストシステム(中国広東省深セン市新威爾電子有限公司製)を用いて、組み立てられたボタン電池の容量、初回効果及び全電池のサイクル性能を測定した。具体的な測定条件は、以下の電気化学テストの内容を参照する(各実施例を参照)。
【0038】
タップ密度テストには、タップ密度計(米国カンタクローム・インスツルメンツ社製)を使用し、振動回数は1000回であった。
【0039】
[実施例1]
天然黒鉛(平均粒径15μm)とエポキシ樹脂とを1:0.3の割合で機械的物理的に混合した後、混合物を自己加圧装置に入れ、自己加圧装置を箱型炉に入れて自己加圧浸漬過程を行った。具体的には、箱型炉は、昇温速度10℃/minで昇温し、保温温度200℃で3時間保温し、その後、液冷急速降温システムを用いて降温した。処理後のサンプルを、アルゴンガス雰囲気中、1200℃で熱処理した。処理後のサンプルを粉砕して分級し、性能に優れた負極材料として、変性黒鉛系複合材料を得た。
【0040】
<電気化学的性能テスト>
実施例1で得られた被覆変性天然黒鉛を負極活物質として、活物質:CMC:SBR=96.5:1.5:2の質量比で均一に混合した後、銅箔集電体上に塗布し、乾燥後に負極片を得て後述のように使用した。
まず、得られた極片に対してボタン電池テストを行った。金属リチウムシートを負極とし、1mol/LのLiPF+エチレンカーボネート+エチルメチルカーボネート(LiPF+EC+EMC)を電解液とし、ポリエチレン/ポリプロピレン複合微多孔膜をセパレータとして、アルゴンガス雰囲気のグローブボックスでボタン電池を組み立てた。該ボタン電池に対する電気化学的性能テストは、前記電池テストシステムを用いて行い、充放電電圧0.01~1.5V、充放電レート0.1Cで、初回容量と効率を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
<完成品電池テスト>
実施例1で得られた天然黒鉛系複合材料、導電剤、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)を95:1.5:1.5:2の質量比で混合し、銅箔に塗布して負極片を得た。正極活物質のLiCoO、導電剤、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を96.5:2:1.5の質量比で均一に混合し、アルミニウム箔に塗布して正極片を得た。1mol/LのLiPF+EC+EMCを電解液とし、ポリエチレン/ポリプロピレン複合微多孔膜をセパレータとして、1Cのレート、3.0~4.2Vの電圧範囲で常温で充放電を行い、サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
図1は、本願実施例1における変性黒鉛系複合負極材料の断面の走査型電子顕微鏡写真である。この写真から明らかなように、本願発明に使用された自己加圧浸漬変性方法は、球状天然黒鉛の表面を完全に被覆することができるだけでなく、内部に充填された樹脂やピッチを球状黒鉛の内部に成長させることができ、材料のタップ密度の向上に寄与した。
【0043】
[実施例2]
天然黒鉛(平均粒径10μm)と石炭系硬ピッチ(軟化点170℃)とを1:0.2の割合で機械的物理的に混合した後、混合物を自己加圧装置に入れ、自己加圧装置を箱型炉に入れて自己加圧浸漬過程を行った。具体的には、箱型炉は、昇温速度10℃/minで昇温し、保温温度250℃で1時間保温し、その後、液冷急速降温システムを用いて降温した。処理後のサンプルをアルゴンガス雰囲気中、950℃で熱処理した。処理後のサンプルを粉砕して分級し、負極材料を得た。
実施例1と同様の方法で負極を作製し、ボタン電池、全電池を組み立て、性能テストを行って半電池容量、初回効率及び全電池サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
天然黒鉛(平均粒径10μm)と石油系ピッチ(軟化点120℃)とを1:0.8の割合で機械的物理的に混合した後、混合物を自己加圧装置に入れ、自己加圧装置を箱型炉に入れて自己加圧浸漬過程を行った。具体的に、箱型炉は、昇温速度5℃/minで昇温し、保温温度180℃で1.5時間保温し、その後、液冷急速降温システムを用いて降温を行った。処理後のサンプルを、アルゴンガス雰囲気中、1150℃で熱処理した。処理後のサンプルを粉砕して分級し、負極材料を得た。
実施例1と同様の方法で負極を作製し、ボタン電池、全電池を組み立て、性能テストを行って半電池容量、初回効率及び全電池サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
天然黒鉛(平均粒径20μm)と石油系ピッチ(軟化点120℃)とを1:0.2の割合で機械的物理的に混合した後、混合物を自己加圧装置に入れ、自己加圧装置を箱型炉に入れて自己加圧浸漬過程を行った。具体的には、箱型炉は、昇温速度10℃/minで昇温し、保温温度220℃で2時間保温し、その後、液冷急速降温システムを用いて降温した。処理後のサンプルを、アルゴンガス雰囲気中、1200℃で熱処理した。処理後のサンプルを粉砕して分級し、負極材料を得た。
実施例1と同様の方法で負極を作製し、ボタン電池、全電池を組み立て、性能テストを行って半電池容量、初回効率及び全電池サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例5]
天然黒鉛(平均粒径20μm)とフェノール樹脂とを1:0.3の割合で機械的物理的に混合した後、混合物を自己加圧装置に入れ、自己加圧装置を箱型炉に入れて自己加圧浸漬過程を行った。具体的には、箱型炉は、昇温速度1℃/minで昇温し、保温温度180℃で2時間保温し、その後、液冷急速降温システムを用いて降温した。処理後のサンプルを、アルゴンガス雰囲気中、1100℃で熱処理した。処理後のサンプルを粉砕して分級し、負極材料を得た。
実施例1と同様の方法で負極を作製し、ボタン電池、全電池を組み立て、性能テストを行って半電池容量、初回効率及び全電池サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例6]
天然黒鉛(平均粒径15μm)と被覆変性剤(フェノール樹脂:石油系ピッチ=1:1)とを1:0.2の割合で機械的物理的に混合した後、混合物を自己加圧装置に入れ、自己加圧装置を箱型炉に入れて自己加圧浸漬過程を行った。具体的に、箱型炉は、昇温速度5℃/minで昇温し、保温温度200℃で3時間保温し、その後、液冷急速降温システムを用いて降温した。処理後のサンプルを、アルゴンガス雰囲気中、1100℃で熱処理した。処理後のサンプルを粉砕して分級し、負極材料を得た。
実施例1と同様の方法で負極を作製し、ボタン電池、全電池を組み立て、性能テストを行って半電池容量、初回効率及び全電池サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例7]
天然黒鉛(平均粒径17μm)と被覆変性剤(エポキシ樹脂:石油系ピッチ=1:1)とを1:0.2の割合で機械的物理的に混合した後、混合物を自己加圧装置に入れ、自己加圧装置を箱型炉に入れて自己加圧浸漬過程を行った。具体的には、箱型炉は、昇温速度2℃/minで昇温し、保温温度200℃で2時間保温し、その後、液冷急速降温システムを用いて降温した。処理後のサンプルを、窒素ガス雰囲気中、2000℃で熱処理した。処理後のサンプルを粉砕して分級し、負極材料を得た。
実施例1と同様の方法で負極を作製し、ボタン電池、全電池を組み立て、性能テストを行って半電池容量、初回効率及び全電池サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例8]
天然黒鉛(平均粒径17μm)と被覆変性剤(石炭系ピッチ:石油系ピッチ=1:1)とを1:0.4の割合で機械的物理的に混合した後、混合物を自己加圧装置に入れ、自己加圧装置を箱型炉に入れて自己加圧浸漬過程を行った。具体的には、箱型炉は、昇温速度1℃/minで昇温し、保温温度240℃で3時間保温し、その後、液冷急速降温システムを用いて降温した。処理後のサンプルを、窒素ガス雰囲気中、2200℃で熱処理した。処理後のサンプルを粉砕して分級し、負極材料を得た。
実施例1と同様の方法で負極を作製し、ボタン電池、全電池を組み立て、性能テストを行って半電池容量、初回効率及び全電池サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
比較例1
天然黒鉛系複合材料を調製するための原料である球状天然黒鉛は、平均粒径が約15μmであった。
実施例1と同様の方法で負極を作製し、ボタン電池、全電池を組み立て、性能テストを行って半電池容量、初回効率及び全電池サイクル性能を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示される実施例1~8と比較例1との初回リチウム放出容量を比較すると、本願の方法を用いて被覆変性剤で被覆した材料は、いずれも、被覆していないものより小さい単位重量(g)当たりの容量を有することがわかった。その原因は、被覆過程で導入されたハードカーボン又はソフトカーボンの容量が低いからである。しかし、本願の方法を用いて被覆変性剤で被覆した材料は、いずれも、被覆していないものより高い初回効率を示している。その原因は、主に被覆後の材料の表面が改善されたためである。以上のボタン電池、全電池の常温サイクルテストで測定された300サイクル目の容量維持率を表1に示している。これら容量維持率から、被覆変性後の材料のサイクル性能は大きく改善されており、300サイクル目の容量維持率は90.2%以上に向上したことがわかった。
【0053】
上記実施例により本願発明の詳細な方法を説明したが、上記詳細な方法に限定されるものではなく、すなわち、上記詳細な方法でなければ本願発明を実施できないわけではない。当業者にとって明らかなように、本願に対するいかなる改良、本願の製品の各原料の同等置換や補助成分の追加、具体的な方式の選択肢なども、本願の特許請求の範囲及び開示範囲内に入っている。
図1