IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジヤトコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-動力伝達装置 図1
  • 特許-動力伝達装置 図2
  • 特許-動力伝達装置 図3
  • 特許-動力伝達装置 図4
  • 特許-動力伝達装置 図5
  • 特許-動力伝達装置 図6
  • 特許-動力伝達装置 図7
  • 特許-動力伝達装置 図8
  • 特許-動力伝達装置 図9
  • 特許-動力伝達装置 図10
  • 特許-動力伝達装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/54 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
F16H3/54
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020570382
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2019046055
(87)【国際公開番号】W WO2020161996
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2019022145
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】上原 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】藤川 真澄
(72)【発明者】
【氏名】忍足 俊一
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-263883(JP,A)
【文献】実公昭49-011788(JP,Y1)
【文献】米国特許第4479404(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に設けられた遊星歯車組と、第1係合要素と、第2係合要素と、を有する変速機構を有し、
前記第1係合要素は、前記変速機構が低速段のときに係合されるバンドブレーキであり、
前記第2係合要素は、前記変速機構が高速段のときに係合される多板式摩擦クラッチであり、
前記バンドブレーキは、前記多板式摩擦クラッチのドリブンプレート及びドライブプレートと径方向においてオーバーラップし、
前記バンドブレーキは、前記遊星歯車組と径方向においてオーバーラップする、動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記変速機構は二段変速機構である、動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記バンドブレーキは、前記多板式摩擦クラッチのピストンと径方向においてオーバーラップする、動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記多板式摩擦クラッチのドリブンプレート、ドライブプレート及びピストンは、前記バンドブレーキ及び前記遊星歯車組と径方向にオーバーラップする、動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
モータを有し、
前記変速機構は前記モータの下流に接続されている、動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記低速段と前記高速段とは同一回転方向であり、且つ、前記変速機構の上流のモータにより前後進を切り替える、動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
前記変速機構の上流にモータを有し、
前記変速機構の下流に差動装置を有し、
前記差動装置の下流にシャフトを有し、
前記モータと前記変速機構と前記差動装置とは軸方向においてオーバーラップし、且つ、前記シャフトは前記モータと前記変速機構とを貫通している、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、低速段と高速段との切替を、噛み合い式係合装置で切り替える有段変速機構が開示されている。
【0003】
特許文献1の有段変速機構では、例えば高速段が選択されているときに有段変速機を搭載した車両が停車すると、車両の発進に備えて、変速段を低速段に切り替える必要がある。
しかしながら、停車した時点において、高速段側のスプラインの位相と低速段側のスプライン位相とがズレていると、高速段側のスプラインに係合している伝達切替部材の係合先を、低速段側のスプラインに切り替えることができないことがある。
かかる場合、車両の停車中に、変速段の低速段への切替ができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-118616号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、車両の停車中に変速段を高速段から低速段に適切に切り替えることができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は
同軸上に設けられた遊星歯車組と、第1係合要素と、第2係合要素と、を有する変速機構を有し、
前記第1係合要素は、前記変速機構が低速段のときに係合されるバンドブレーキであり、
前記第2係合要素は、前記変速機構が高速段のときに係合される多板式摩擦クラッチであり、
前記バンドブレーキは、前記多板式摩擦クラッチのドリブンプレート及びドライブプレートと径方向においてオーバーラップし、
前記バンドブレーキは、前記遊星歯車組と径方向においてオーバーラップする構成の動力伝達装置とした。
【0007】
本発明によれば、動力伝達装置を搭載した車両の停車中に、変速段を高速段から低速段に適切に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る動力伝達装置を説明する図である。
図2】動力伝達装置のモータからカウンタギアまでの範囲の拡大図である。
図3】動力伝達装置の変速機構を説明する図である。
図4】動力伝達装置の差動装置周りの拡大図である。
図5】第2実施形態に係る動力伝達装置を説明する図である。
図6】第2実施形態に係る動力伝達装置の変速機構を説明する図である。
図7】変速機構の構成を模式的に示したスケルトン図である。
図8】変速機構の変形例を説明するスケルトン図である。
図9】変速機構の変形例を説明するスケルトン図である。
図10】変速機構の変形例を説明するスケルトン図である。
図11】変速機構の変形例を説明するスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を説明する。
図1は、第1実施形態に係る動力伝達装置1を説明する図である。
図2は、動力伝達装置1のカウンタギア5周りの拡大図である。
【0010】
図1に示すように動力伝達装置1は、モータ2と、変速機構3と、変速機構3の出力回転を差動装置6に伝達するカウンタギア5と、伝達された回転をドライブシャフト8(8A、8B)に伝達する差動装置6と、を有している。
【0011】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、変速機構3と、カウンタギア5と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
モータ2の出力回転は、変速機構3で変速されたのち、カウンタギア5で減速されて差動装置6に伝達される。差動装置6では、伝達された回転が、ドライブシャフト8(8A、8B)を介して、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。図1では、ドライブシャフト8Aが、動力伝達装置1を搭載した車両の左輪に回転伝達可能に接続されていると共に、ドライブシャフト8Bが、右輪に回転伝達可能に接続されている。
【0012】
ここで、変速機構3は、モータ2の下流に接続されており、カウンタギア5は、変速機構3の下流に接続されており、差動装置6は、カウンタギア5の下流に接続されており、ドライブシャフト8(8A、8B)は、差動装置6の下流に接続されている。
【0013】
本実施形態では、モータハウジング10と、外側カバー11と、内側カバー12と、外側ケース13と、内側ケース14で、動力伝達装置1の本体ケース9を構成している。
そして、モータハウジング10と、外側カバー11と、内側カバー12で、モータ2のケース(第1ケース部材)を構成している。
外側ケース13と内側ケース14で、カウンタギア5と差動装置6を収容するケース(第2ケース部材)を構成している。
【0014】
ここで、モータハウジング10の内径側で、外側カバー11と内側カバー12との間に形成される空間Saは、モータ2を収容するモータ室となっている。
【0015】
図2に示すように、外側ケース13と内側ケース14の間に形成される空間は、内側ケース14に設けた仕切壁142により、カウンタギア5と差動装置6を収容する空間Sbと、変速機構3を収容する空間Scとに区画されている。
よって、空間Sbは、カウンタギア5と差動装置6を収容する第1ギア室となっており、空間Scは、変速機構3を収容する第2ギア室となっている。
【0016】
図1に示すように、モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むステータコア25とを、有している。
【0017】
モータシャフト20は、ドライブシャフト8Bの挿通孔200を有する筒状部材であり、モータシャフト20は、ドライブシャフト8Bに外挿されている。
モータシャフト20の挿通孔200は、長手方向の一端20a側の連結部201と、他端20b側の被支持部202が、回転軸X方向における連結部201と被支持部202との間の中間領域203よりも大きい内径で形成されている。
【0018】
連結部201の内周および被支持部202の内周は、ドライブシャフト8Bに外挿され
たニードルベアリングNB、NBで支持されている。
この状態において、モータシャフト20は、ドライブシャフト8Bに対して相対回転可能に設けられている。
【0019】
図2に示すように、モータシャフト20では、一端20aから他端20b側(図中、左側)に離れた位置の外周に、ベアリングB1が外挿されて固定されている。
ベアリングB1は、モータシャフト20の外周に設けた段部205により、ロータコア21側(図中、左側)への移動が規制されている。
【0020】
ベアリングB1の外周は、内側カバー12の内径側に位置するモータ支持部121で支持されている。この状態においてベアリングB1は、モータ支持部121の内周に設けた段部121aで、ロータコア21とは反対側(図中、右側)への移動が規制されている。
そのため、モータシャフト20では、ロータコア21から見て一端20a側に離れた位置の外周が、ベアリングB1を介して、内側カバー12の円筒状のモータ支持部121で回転可能に支持されている。
【0021】
図1に示すように、モータシャフト20では、他端20b側の被支持部202の外周に、ベアリングB1が外挿されて固定されている。
モータシャフト20の他端20b側は、ベアリングB1を介して、外側カバー11の円筒状のモータ支持部111で回転可能に支持されている。
【0022】
ロータコア21の外周を所定間隔で囲むモータハウジング10では、回転軸X方向の一端10aと他端10bに、シールリングSL、SLが設けられている。モータハウジング10の一端10aは、当該一端10aに設けたシールリングSLにより、内側カバー12の環状の接合部120に隙間なく接合されている。
モータハウジング10の他端10bは、当該他端10bに設けたシールリングSLにより、外側カバー11の環状の接合部110に隙間なく接合されている。
【0023】
この状態において、内側カバー12側のモータ支持部121は、後記するコイルエンド253aの内径側で、ロータコア21の一端部21aに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される。
そして、外側カバー11側のモータ支持部111は、後記するコイルエンド253bの内径側で、ロータコア21の他端部21bに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置される。
【0024】
モータハウジング10の内側では、外側カバー11側のモータ支持部111と、内側カバー12側のモータ支持部121との間に、ロータコア21が配置されている。
【0025】
ロータコア21は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものであり、珪素鋼板の各々は、モータシャフト20との相対回転が規制された状態で、モータシャフト20に外挿されている。
モータシャフト20の回転軸X方向から見て、珪素鋼板はリング状を成しており、珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X周りの周方向に交互に設けられている。
【0026】
回転軸X方向におけるロータコア21の一端部21aは、モータシャフト20の大径部204で位置決めされている。ロータコア21の他端部21bは、モータシャフト20に圧入されたストッパ23で位置決めされている。
【0027】
ステータコア25は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものであり、電磁鋼板の各々
は、モータハウジング10の内周に固定されたリング状のヨーク部251と、ヨーク部251の内周からロータコア21側に突出するティース部252を、有している。
本実施形態では、巻線253を、複数のティース部252に跨がって分布巻きした構成のステータコア25を採用しており、ステータコア25は、回転軸X方向に突出するコイルエンド253a、253bの分だけ、ロータコア21よりも回転軸X方向の長さが長くなっている。
【0028】
なお、ロータコア21側に突出する複数のティース部252の各々に、巻線を集中巻きした構成のステータコアを採用しても良い。
【0029】
図2に示すように、モータシャフト20の一端20aは、内側カバー12のモータ支持部121を、変速機構3側(図中、右側)に貫通して空間Sc内に位置している。
【0030】
モータ支持部121の内周には、リップシールRSが設置されている。
リップシールRSは、モータ支持部121の内周と、モータシャフト20の外周との隙間を封止している。
リップシールRSは、モータハウジング10の内径側の空間Saと、内側ケース14の内径側の空間Scとを区画して、空間Sc側から空間Sa内へのオイルOLの進入を阻止するために設けられている。
【0031】
図3は、変速機構3を説明する図である。
空間Sc内には、変速機構3が配置されている。
変速機構3は、遊星歯車組4と、クラッチ47と、バンドブレーキ49と、を有している。
遊星歯車組4は、サンギア41と、リングギア42と、ピニオンギア43と、ピニオン軸44と、キャリア45と、を有している。
遊星歯車組4の構成要素(サンギア41、リングギア42、ピニオンギア43、ピニオン軸44、キャリア45)は、クラッチドラム48の外壁部481の内径側に設けられている。
クラッチ47は、リングギア42の外周にスプライン嵌合したドライブプレート471(内径側摩擦板)と、クラッチドラム48の外壁部481の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート472(外径側摩擦板)と、回転軸方向に移動可能に設けられたピストン475と、を有している。
【0032】
クラッチドラム48は、外壁部481と、円板部480と、内壁部482と、連結部483と、を有している。
外壁部481は、回転軸Xを所定間隔で囲む筒状を成している。円板部480は、外壁部481の差動装置6側(図中、右側)の端部から内径側に延びている。円板部480の内径側の領域は、遊星歯車組4から離れる方向に窪んだ凹部480aとなっている。
【0033】
内壁部482は、回転軸Xを所定間隔で囲む筒状に形成されている。内壁部482は、円板部480の内径側の端部から遊星歯車組4側(図中、左側)に延びており、内壁部482の先端は、サンギア41とピニオンギア43との噛み合い部分に、回転軸X方向の隙間をあけて対向している。
【0034】
連結部483は、回転軸Xを所定間隔で囲む円筒状を成している。連結部483は、長手方向の基端部483aが、内壁部482の先端側の内周に連結されている。
連結部483は、前記したモータシャフト20の連結部201の延長上を、モータ2に近づく方向(図中、左方向)に直線状に延びている。連結部483の先端483bは、外壁部481よりもモータ2側に位置している。
【0035】
外壁部481と、円板部480と、内壁部482と、連結部483と、から構成されるクラッチドラム48は、開口をモータ2側に向けて設けられており、内径側に位置する連結部483の外周に、遊星歯車組4のサンギア41がスプライン嵌合している。
【0036】
遊星歯車組4では、サンギア41の外径側にリングギア42が位置している。リングギア42は、サンギア41の外周を所定間隔で囲む周壁部421と、周壁部421のモータ2側の端部から内径側に延びる円板部422と、円板部422の内径側の端部からモータ2側に延びる連結部423と、を有している。
連結部423は、回転軸Xを所定間隔で囲むリング状を成しており、連結部423の内周には、モータシャフト20の一端20a側の連結部201がスプライン嵌合している。
【0037】
連結部423よりも外径側に位置する周壁部421では、サンギア41の外径側に位置する領域の内周に、ピニオンギア43の外周が噛合している。
ピニオンギア43は、リングギア42側の周壁部421の内周と、サンギア41の外周に噛合している。
【0038】
ピニオンギア43を支持するピニオン軸44は、回転軸Xに平行な軸線X3に沿う向きで設けられている。ピニオン軸44の一端と他端は、キャリア45を構成する一対の側板部451、452で支持されている。
側板部451、452は、軸線X3方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
【0039】
モータ2側に位置する一方の側板部452は、他方の側板部451よりも回転軸X側まで延びている。側板部452の内径側の端部452aには、回転軸Xを所定間隔で囲む筒状の連結部453が一体に形成されている。
連結部453は、モータシャフト20の連結部201よりも回転軸X側(内径側)を、回転軸Xに沿ってモータ2から離れる方向に延びている。
【0040】
連結部453は、サンギア41の内径側をモータ2側から差動装置6側に横切って設けられており、連結部453は、クラッチドラム48の内壁部482の内径側で、中空軸50の連結部501の内周にスプライン嵌合している。
【0041】
クラッチドラム48の外壁部481の内周には、クラッチ47のドリブンプレート472がスプライン嵌合している。クラッチ47のドライブプレート471は、リングギア42の周壁部421の外周にスプライン嵌合している。
リングギア42の周壁部421と、クラッチドラム48の外壁部481との間では、ドライブプレート471とドリブンプレート472とが交互に設けられている。
【0042】
ドライブプレート471とドリブンプレート472とが交互に設けられた領域のモータ2側には、スナップリング474で位置決めされたリテーニングプレート473が位置しており、差動装置6側には、ピストン475の押圧部475aが位置している。
【0043】
ピストン475の内径側の基部475bは、外径側の押圧部475aよりも遊星歯車組4から離れた位置に設けられている。ピストン475の内径側の基部475bは、回転軸X方向で隣接する円板部480の内径側の凹部480aに内挿されている。
【0044】
基部475bのモータ2側(図中、左側)の面には、スプリングリテーナ476で支持されたスプリングSpが、回転軸X方向から圧接している。
ピストン475は、スプリングSpから作用する付勢力で差動装置6側に付勢されている。
【0045】
クラッチドラム48では、凹部480aと内壁部482との境界部に、差動装置6側に突出する突出部484が設けられている。突出部484は、ベアリングB3の第1支持部141の内周に挿入されている。第1支持部141の内周にはオイルOLの供給路141aが開口している。
突出部484の内部には、第1支持部141側から供給されるオイルOLを、クラッチドラム48の凹部480a内に導くための油路484aが設けられている。
【0046】
油路484a介して供給されるオイルOLは、ピストン475の基部475bと凹部480aとの間の油室に供給されて、ピストン475をモータ2側に変位させる。
ピストン475がモータ2側に変位すると、クラッチ47のドライブプレート471とドリブンプレート472とが、ピストン475の押圧部475aとリテーニングプレート473との間で把持される。
これにより、ドライブプレート471がスプライン嵌合したリングギア42と、ドリブンプレート472がスプライン嵌合したクラッチドラム48との相対回転が、供給されるオイルOLの圧力に応じて規制されて、最終的に相対回転が規制される。
【0047】
さらに、クラッチドラム48の外壁部481の外周には、バンドブレーキ49が巻き掛けられている。図示しないアクチュエータによりバンドブレーキ49の巻き掛け半径が狭められると、クラッチドラム48の回転軸X回りの回転が規制される。
【0048】
変速機構3では、バンドブレーキ49の内径側に、遊星歯車組4と、クラッチ47が位置している。バンドブレーキ49と、遊星歯車組4と、クラッチ47は、回転軸Xの径方向でオーバーラップしており、回転軸Xの径方向外側から見ると、バンドブレーキ49と、遊星歯車組4と、クラッチ47とが、重なる位置関係で設けられている。
【0049】
本実施形態の変速機構3では、遊星歯車組4のリングギア42がモータ2の出力回転の入力部、キャリア45が、入力された回転の出力部となっている。
【0050】
変速機構3では、低速段と高速段との間での切替を、クラッチ47の締結/解放、バンドブレーキ49の作動の組み合わせの変更により行う仕様となっている。
変速機構3は、低速段と高速段の間での切り替えが可能である。
【0051】
変速機構3では、以下の条件(a)で低速段が実現し、条件(b)で高速段が実現する。
(a)バンドブレーキ49:作動、クラッチ47:解放
(b)バンドブレーキ49:非作動、クラッチ47:締結
ここで、変速機構3は、二段変速機構であり、低速段、高速段は同一回転方向(前進段又は後進段)である。モータ2の正逆転により前後進の切替えが可能である。
【0052】
モータ2の出力回転は、変速機構3で変速された後、キャリア45の連結部453が連結された中空軸50に出力される。
【0053】
図2に示すように、変速機構3で変速された回転が入力される中空軸50は、長手方向の一端50aが、デフケース60の支持部601を支持するベアリングB5に、回転軸X方向の隙間を空けて設けられている。中空軸50の他端50bが、遊星歯車組4との連結部501となっている。
連結部501の外周は、クラッチドラム48の内壁部482との間に介在するニードルベアリングNBで支持されている。
【0054】
中空軸50の一端50a側の外周には、ギア部502が一体に形成されている。ギア部502の両側には、ベアリングB3、B3が外挿されている。
一端50a側のベアリングB3は、内側ケース14側の支持部151で支持されており、他端50b側のベアリングB3は、内側ケース14の第1支持部141で支持されている。
【0055】
ギア部502の外周には、カウンタギア5の大径歯車52が、回転伝達可能に噛合している。カウンタギア5において大径歯車52は、円筒状の中空軸部51の外周にスプライン嵌合している。
【0056】
中空軸部51の長手方向の一端部51aと他端部51bには、ベアリングB4が外挿されている。中空軸部51の一端部51aに外挿されたベアリングB4は、外側ケース13の円筒状の第2支持部135に挿入されている。中空軸部51の一端部51aは、ベアリングB4を介して、外側ケース13の第2支持部135で回転可能に支持されている。
【0057】
中空軸部51の他端部51bに外挿されたベアリングB4は、内側ケース14の円筒状の第2支持部145に挿入されている。中空軸部51の他端部51bは、ベアリングB4を介して、内側ケース14の第2支持部145で回転可能に支持されている。
【0058】
この状態において、カウンタギア5の中空軸部51は、回転軸Xに平行な軸線X1に沿って設けられている。
中空軸部51では、大径歯車52から見て一端部51a側(図中、左側)に隣接して、パークギア53が設けられている。
【0059】
中空軸部51では、パークギア53から見て一端部51a側(図中、右側)に離れた位置に、小径歯車部511が設けられている。小径歯車部511は、中空軸部51と一体に形成されていると共に、大径歯車52の外径R1よりも小さい外径R2で形成されている(図4参照:R1>R2)。
【0060】
小径歯車部511は、差動装置6のデフケース60に固定されたファイナルギアFGに回転伝達可能に噛合している。
図4は、動力伝達装置1の差動装置6周りの拡大図である。
【0061】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転が、変速機構3を介して中空軸50に入力される。中空軸50に入力された回転は、ギア部502に噛合した大径歯車52を介して、カウンタギア5に入力される。
【0062】
カウンタギア5では、大径歯車52とパークギア53が中空軸部51の外周にスプライン嵌合していると共に、小径歯車部511が中空軸部51と一体に形成されている。
そのため、モータ2の出力回転がカウンタギア5に入力されると、パークギア53と小径歯車部511とが、大径歯車52と共に軸線X1回りに回転する。
【0063】
そうすると、小径歯車部511が回転伝達可能に噛合するファイナルギアFGが、デフケース60に固定されているので、カウンタギア5の軸線X1回りの回転に連動して、デフケース60が回転軸X回りに回転する。
【0064】
ここで、カウンタギア5では、小径歯車部511の外径R2が大径歯車52の外径R1よりも小さくなっている(図4参照)。
そして、カウンタギア5では、大径歯車52が、モータ2側から伝達される回転の入力部となっており、小径歯車部511が、伝達された回転の出力部となっている。
そうすると、カウンタギア5に入力された回転は、大きく減速されたのちに、デフケース60に出力される。
【0065】
図4に示すように、デフケース60は、シャフト61と、かさ歯車62A、62Bと、サイドギア63A、63Bとを、内部に収納する中空状に形成されている。
デフケース60では、回転軸X方向(図中、左右方向)の両側部に、筒状の支持部601、602が設けられている。支持部601、602は、シャフト61から離れる方向に、回転軸Xに沿って延出している。
【0066】
デフケース60の支持部602には、ベアリングB5が外挿されている。支持部602に外挿されたベアリングB5は、外側ケース13のリング状の第1支持部131で保持されている。
【0067】
支持部602には、外側ケース13の開口部130を貫通したドライブシャフト8Aが、回転軸X方向から挿入されており、ドライブシャフト8Aは、支持部602で回転可能に支持されている。
開口部130の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Aの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Aの外周と開口部130の内周との隙間が封止されている。
【0068】
デフケース60の支持部601には、ベアリングB5が外挿されている。
デフケース60の支持部601は、ベアリングB5を介して、内側ケース14に固定された支持部材15の支持部151で回転可能に支持されている。
支持部601に外挿されたベアリングB5は、支持部材15のリング状の支持部151で保持されている。
【0069】
図1に示すように、支持部材15は、支持部151の外周から、モータ2側(図中、右側)に延びる筒状部152と、筒状部152の先端側の開口を全周に亘って囲むフランジ部153とを有している。支持部材15のフランジ部153は、当該フランジ部153を貫通したボルトBにより、内側ケース14の第1支持部141に固定されている。
【0070】
デフケース60の支持部601は、ベアリングB5を介して、支持部材15で回転可能に支持されている。本実施形態では、支持部材15が内側ケース14に固定されている。そのため、デフケース60の支持部601は、ベアリングB5と支持部材15を介して、固定側部材である内側ケース14で支持されている。
【0071】
図1に示すように、デフケース60の支持部601には、外側カバー11の開口部114を貫通したドライブシャフト8Bが、回転軸X方向から挿入されている。
ドライブシャフト8Bは、モータ2のモータシャフト20と、遊星歯車組4と、中空軸50の内径側を、回転軸X方向に横切って設けられており、ドライブシャフト8Bの先端側が、支持部601で回転可能に支持されている。
【0072】
外側カバー11の開口部114の内周には、リップシールRSが固定されており、リップシールRSの図示しないリップ部が、ドライブシャフト8Bの外周に弾発的に接触することで、ドライブシャフト8Bの外周と開口部114の内周との隙間が封止されている。
【0073】
図4に示すように、デフケース60の内部では、ドライブシャフト8(8A、8B)の先端部の外周に、サイドギア63A、63Bがスプライン嵌合しており、サイドギア63A、63Bとドライブシャフト8(8A、8B)とが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0074】
デフケース60には、回転軸Xに直交する方向に貫通した軸孔60a、60bが、回転軸Xを挟んで対称となる位置に設けられている。
軸孔60a、60bは、回転軸Xに直交する軸線Y上に位置しており、軸孔60a、60bには、シャフト61が挿入されている。
【0075】
シャフト61は、ピンPでデフケース60に固定されており、シャフト61は、軸線Y周りの自転が禁止されている。
【0076】
シャフト61は、デフケース60内において、サイドギア63A、63Bの間に位置しており、軸線Yに沿って配置されている。
【0077】
デフケース60内においてシャフト61には、かさ歯車62A、62Bが外挿して回転可能に支持されている。
かさ歯車62A、62Bは、シャフト61の長手方向(軸線Yの軸方向)で間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bは、互いの歯部を対向させた状態で配置されている。
シャフト61においてかさ歯車62A、62Bは、当該かさ歯車62A、62Bの軸心を、シャフト61の軸心と一致させて設けられている。
デフケース60内において、回転軸Xの軸方向におけるかさ歯車62A、62Bの両側には、サイドギア63A、63Bが位置している。
サイドギア63A、63Bは、互いの歯部を対向させた状態で、回転軸Xの軸方向に間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bとサイドギア63A、63Bとは、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0078】
かかる構成の動力伝達装置1の作用を説明する。
図1に示すように、動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、変速機構3と、カウンタギア5と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
【0079】
図2に示すようにモータ2の駆動により、ロータコア21が回転軸X回りに回転すると、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20を介して、変速機構3に回転が入力される。
変速機構3では、遊星歯車組4のリングギア42が回転の入力部、キャリア45が入力された回転の出力部となっている。
【0080】
そして、変速機構3では、バンドブレーキ49の作動によりクラッチドラム48の回転が規制されている状態のほうが、クラッチ47の作動により、リングギア42とクラッチドラム48十が一体に回転する状態よりも、高い変速比となるように設定されている。
すなわち、変速機構3では、バンドブレーキ49が作動している状態で低速段、クラッチ47が作動している状態で高速段が実現する。
【0081】
そのため、変速機構3に入力された回転は、変速された後にキャリア45の連結部453から中空軸50に出力される。そして、中空軸50に入力された回転は、中空軸50のギア部502に噛合した大径歯車52を介して、カウンタギア5に入力される。
【0082】
カウンタギア5では、中空軸50のギア部502に噛合する大径歯車52が、モータ2の出力回転の入力部となっており、デフケース60のファイナルギアFGに噛合する小径歯車部511が、入力された回転の出力部となっている。
【0083】
ここで、カウンタギア5では、小径歯車部511の外径R2が大径歯車52の外径R1よりも小さくなっている(図4参照)。
そのため、カウンタギア5に入力された回転は、大きく減速されたのちに、小径歯車部511が噛合するファイナルギアFGを介して、デフケース60(差動装置6)に出力される。
【0084】
そして、デフケース60が入力された回転で回転軸X回りに回転することにより、ドライブシャフト8(8A、8B)が回転軸X回りに回転する。これにより、モータ2の出力回転が、動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0085】
ここで、動力伝達装置1では、遊星歯車組4と、クラッチ47と、バンドブレーキ49とを備える変速機構3を採用して、モータ2の出力回転を変速機構3で変速して、カウンタギア5に伝達している。
【0086】
ここで、噛み合い式の係合装置の場合には、変速段の切り替えが、伝達切替部材を用いて行われる。そのため、変更前の変速段のスプラインの位相と変更後の変速段のスプライン位相とが一致していないと、変速段の切り替えを行うことができない。伝達切替部材が、変更先の変速段のスプラインに係合できないためである。
【0087】
これに対して、本実施形態の変速機構3では、低速段と高速段との間での切替を、クラッチ47の締結/解放、バンドブレーキ49の作動の組み合わせの変更により行う仕様となっている。そのため、噛み合い式の係合装置のように、変速段の切替を行えなくなる事態が生じないようになっている。
【0088】
さらに、変速機構3では、バンドブレーキ49が、クラッチ47および遊星歯車組4に対して、回転軸Xの径方向でオーバーラップしており、回転軸Xの径方向から見ると、バンドブレーキ49が、クラッチ47および遊星歯車組4と重なる位置関係で設けられている。そのため、動力伝達装置1では、変速機構3の部分の回転軸X方向の長さを短縮できるようになっている。
【0089】
そして、動力伝達装置1では、ロータコア21のモータシャフト20と、カウンタギア5と、ドライブシャフト8(8A、8B)とが、モータ2の出力回転の伝達経路上で、直列に配置されている。
そして、ドライブシャフト8Bが、モータシャフト20の内径側を回転軸X方向に貫通して設けられており、ドライブシャフト8Bとモータシャフト20とが、共通の回転軸X上で相対回転可能に設けられている。
そのため、モータシャフトと、カウンタギアと、ドライブシャフトと、が互いに平行な異なる回転軸上に設けられた動力伝達装置、すなわち、いわゆる3軸タイプの動力伝達装置に比べて、回転軸の径方向の大きさを抑えることができるようになっている。
【0090】
以上の通り、本実施形態に係る動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(1)動力伝達装置1は、遊星歯車組4と、第1係合要素と、第2係合要素と、を有する変速機構3を有する。
第1係合要素は、変速機構が低速段のときに係合されるバンドブレーキ49である。
第2係合要素は、変速機構が高速段のときに係合されるクラッチ47(多板式摩擦クラッチ)である。
【0091】
2つの係合要素(第1係合要素、第2係合要素)が、ともに摩擦式の係合要素であるので、変速段の変更が自在となる。
特許文献1の有段変速機構では、伝達切替部材が、低速段を実現する要素と、高速段を
実現する要素のうちの一方にスプライン係合して、低速段または高速段を実現する仕様となっている。
そのため、高速段を実現する要素のスプラインの位相と、低速段を実現する要素のスプラインの位相とがズレていると、伝達切替部材の係合先を切り替えることができないので、スプラインの位相合わせが必要となる。
これに対して、本件発明では、摩擦式の係合要素を採用しているので、スプラインの位相合わせは不要である。そのため、本件発明では、動力伝達装置を搭載した車両の停車中に、高速段と低速段との間での変速段の切り替えに支障が生じない。
【0092】
ここで、バンドブレーキ49は、クラッチ47と比較してドラグトルクが少ない。そのため、変速機構3が低速段のときにバンドブレーキ49を係合し、高速段のときにクラッチ47を係合すると、高速段の時に生じるドラグトルクが少なくて済む。これにより、動力伝達装置1を搭載した車両の電費の向上が期待できる。
【0093】
また、クラッチ47は、バンドブレーキ49と比較して、伝達トルク容量の制御がしやすいので、動力伝達装置1を搭載した車両の走行中、低速段から高速段への切替の時に生ずる変速ショックを低減できる。
このように、変速機構3が備える2つの係合要素を、異なる摩擦式の係合要素とすることで、走行中における変速ショックを低減できると共に、高速段での走行中のフリクションを低減できる。
【0094】
本実施形態に係る動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(2)バンドブレーキ49は、遊星歯車組4と回転軸Xの径方向においてオーバーラップしている。
回転軸Xの径方向から見て、バンドブレーキ49と遊星歯車組4が重なるように配置されている。
【0095】
このように構成すると、動力伝達装置1の回転軸方向の短縮が可能になる。
【0096】
本実施形態に係る動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(3)バンドブレーキ49は、クラッチ47(多板式摩擦クラッチ)のドリブンプレート472およびドライブプレート471と、回転軸Xの径方向においてオーバーラップしている。
回転軸Xの径方向から見て、バンドブレーキ49と、ドリブンプレート472およびドライブプレート471とが重なるように配置されている。
【0097】
このように構成すると、動力伝達装置1の回転軸方向の短縮が可能になる。
【0098】
本実施形態に係る動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(4)バンドブレーキ49は、クラッチ47のピストン475と回転軸Xの径方向においてオーバーラップしている。
回転軸Xの径方向から見て、バンドブレーキ49と、ピストン475とが重なるように配置されている。
【0099】
このように構成すると、動力伝達装置1の回転軸方向の短縮が可能になる。
【0100】
本実施形態に係る動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(5)クラッチ47(多板式摩擦クラッチ)のドリブンプレート472、ドライブプレート471及びピストン475は、バンドブレーキ49及び遊星歯車組4と回転軸Xの径方向においてオーバーラップしている。
回転軸Xの径方向から見て、クラッチ47の構成要素(ドリブンプレート472、ドライブプレート471、ピストン475)は、バンドブレーキ49および遊星歯車組4と、重なるように配置されている。
【0101】
このように構成すると、動力伝達装置1の回転軸方向の短縮が可能になる。
【0102】
本実施形態に係る動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(6)動力伝達装置1は、モータ2を有する。
変速機構3は、モータ2の下流に接続されている。
【0103】
モータ2は高回転になるほど出力トルクが減少していく傾向にあることから、高速段のときのフリクションを低減できる当該構成はモータを駆動源とする動力伝達装置にとって特に好適である。
【0104】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
以下の説明においては、前記した第1実施形態と共通する部分については、同一の符号を付して示すと共に、可能な限り説明を省略する。
【0105】
図5は、第2実施形態に係る動力伝達装置1Aを説明する図である。
図6は、動力伝達装置1Aの変速機構3A周りの拡大図である。
【0106】
図5に示すように動力伝達装置1Aは、モータ2と、変速機構3Aと、変速機構3Aの出力回転を差動装置6に伝達するカウンタギア5と、伝達された回転をドライブシャフト8(8A、8B)に伝達する差動装置6と、を有している。
【0107】
動力伝達装置1Aでは、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、変速機構3Aと、カウンタギア5と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
モータ2の出力回転は、変速機構3Aで変速されたのち、カウンタギア5で減速されて差動装置6に伝達される。差動装置6では、伝達された回転が、ドライブシャフト8(8A、8B)を介して、動力伝達装置1Aが搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0108】
ここで、変速機構3Aは、モータ2の下流に接続されており、カウンタギア5は、変速機構3Aの下流に接続されており、差動装置6は、カウンタギア5の下流に接続されており、ドライブシャフト8(8A、8B)は、差動装置6の下流に接続されている。
【0109】
動力伝達装置1Aでは、モータ2と変速機構3Aとが、共通の回転軸Xa上で同軸に配置されている。回転軸Xaの径方向外側では、カウンタギア5の回転軸Xbと、差動装置6およびドライブシャフト8(8A、8B)の回転軸Xcが、回転軸Xaに対して平行に設けられている。
動力伝達装置1Aは、回転の伝達に関与する回転軸Xa、Xb、Xcが、互い平行となるように配置された、いわゆる3軸タイプの動力伝達装置である。
【0110】
第2実施形態に係る動力伝達装置1Aにおいても、モータハウジング10と、外側カバー11と、内側カバー12と、外側ケース13と、内側ケース14で、動力伝達装置1Aの本体ケース9を構成している。
そして、モータハウジング10と、外側カバー11と、内側カバー12で、モータ2のケース(第1ケース部材)を構成している。
外側ケース13と内側ケース14で、変速機構3Aと、カウンタギア5と、差動装置6と、を収容するケース(第2ケース部材)を構成している。
【0111】
図5に示すように、モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を所定間隔で囲むステータコア25とを、有している。
【0112】
モータシャフト20では、ロータコア21の両側にベアリングB1、B1が外挿されている。モータシャフト20は、外側カバー11のモータ支持部111と、内側カバー12のモータ支持部121に、ベアリングB1、B1を介して回転可能に支持されている。
【0113】
図6に示すように、モータシャフト20の一端20a側には、他端20b側の大径部208よりも外径が小さい連結部201が設けられている。
モータシャフト20の連結部201は、内側ケース14のリング状の第3支持部147内で、変速機構3A側の連結部423の内周にスプライン嵌合している。
【0114】
変速機構3Aは、遊星歯車組4と、クラッチ47と、バンドブレーキ49と、を有している。
遊星歯車組4は、サンギア41と、リングギア42と、ピニオンギア43と、ピニオン軸44と、キャリア45と、を有している。
遊星歯車組4の構成要素(サンギア41、リングギア42、ピニオンギア43、ピニオン軸44、キャリア45)は、クラッチドラム48の外壁部481の内径側に設けられている。
クラッチ47は、リングギア42の外周にスプライン嵌合したドライブプレート471(内径側摩擦板)と、クラッチドラム48の外壁部481の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート472(外径側摩擦板)と、回転軸Xa方向に移動可能に設けられたピストン475と、を有している。
【0115】
クラッチドラム48は、外壁部481と、円板部480と、内壁部482と、連結部483と、を有している。
外壁部481は、回転軸Xaを所定間隔で囲む筒状を成している。円板部480は、外壁部481のモータ2とは反対側(図中、左側)の端部から内径側に延びている。円板部480の内径側の端部には、内壁部482が設けられている。
【0116】
内壁部482は、回転軸Xaを所定間隔で囲む筒状に形成されている。内壁部482は、円板部480の内径側の端部からモータ2側(図中、右側)に延びており、内壁部482の先端は、バンドブレーキ49の内径側に位置している。
【0117】
連結部483は、回転軸Xaを所定間隔で囲む円筒状を成している。連結部483は、長手方向の基端部483aが、内壁部482の先端側の内周に連結されている。
連結部483は、モータ2に近づく方向(図中、右方向)に直線状に延びている。
【0118】
外壁部481と、円板部480と、内壁部482と、連結部483と、から構成されるクラッチドラム48は、開口をモータ2側に向けて設けられている。
【0119】
内壁部482の内周は、ニードルベアリングNBを介して、支持軸30の外周で支持されている。
図5に示すように、支持軸30は、小径部301と大径部302とが、回転軸Xa方向に並んで一体に形成された軸状部材であり、回転軸Xaに沿う向きで配置されている。
【0120】
支持軸30は、モータシャフト20と同軸に配置されている。図6に示すように、支持軸30においてモータ2側(図中、右側)に位置する大径部302では、モータシャフト20との対向部に、モータシャフト20を受け入れ可能な収容穴302aが開口している。
【0121】
収容穴302aには、モータシャフト20の先端に設けた軸部424が挿入されている。収容穴302aの内周には、軸部424に外挿されたニードルベアリングNBが接しており、支持軸30とモータシャフト20は、収容穴302aの部分で相対回転可能に係合している。
【0122】
大径部302のモータ2側の端部には、円板状のフランジ部303が一体に形成されている。フランジ部303は、回転軸Xaに直交する向きで設けられており、フランジ部303の外周は、クラッチドラム48の連結部483の側方まで及んでいる。
【0123】
連結部483の外周には、遊星歯車組4のサンギア41がスプライン嵌合している。
遊星歯車組4では、サンギア41の外径側にリングギア42が位置している。リングギア42は、サンギア41の外周を所定間隔で囲む周壁部421と、周壁部421のモータ2側の端部から内径側に延びる円板部422と、円板部422の内径側からモータ2側に延びる連結部423と、円板部422の内径側の端部からモータ2とは反対側に延びる軸部424と、を有している。
【0124】
軸部424よりも外径側に位置する周壁部421では、サンギア41の外径側に位置する領域の内周に、ピニオンギア43の外周が噛合している。
ピニオンギア43は、リングギア42側の周壁部421の内周と、サンギア41の外周に噛合している。
【0125】
ピニオンギア43を支持するピニオン軸44は、モータ2の回転軸Xaに平行な軸線X3に沿う向きで設けられている。ピニオン軸44の一端と他端は、キャリア45を構成する一対の側板部451、452で支持されている。
側板部451、452は、軸線X3方向に間隔をあけて互いに平行に設けられている。
【0126】
モータ2側に位置する一方の側板部452は、他方の側板部451よりも回転軸Xa側まで延びている。側板部452の内径側の端部452aは、支持軸30側のフランジ部303の外周に連結されている。
【0127】
リングギア42の周壁部421は、回転軸Xaを所定間隔で囲むリング状を成しており、周壁部421の外周には、クラッチ47のドライブプレート471がスプライン嵌合している。クラッチ47のドリブンプレート472は、クラッチドラム48の外壁部481の内周にスプライン嵌合している。
リングギア42の周壁部421と、クラッチドラム48の外壁部481との間では、ドライブプレート471とドリブンプレート472とが交互に設けられている。
【0128】
ドライブプレート471とドリブンプレート472とが交互に設けられた領域のモータ2側には、スナップリング474で位置決めされたリテーニングプレート473が位置しており、モータ2とは反対側には、ピストン475の押圧部475aが位置している。
【0129】
ピストン475は、回転軸Xaに直交する向きで設けられた基部475bを有している。回転軸Xaの径方向における基部475bの略中央部には、モータ2側(図中、右側)に延びる筒壁部475cが設けられている。
【0130】
ピストン475の基部475bでは、筒壁部475cが設けられた領域に、クラッチドラム48の円板部480から離れる方向(図中、右方向)に窪んだスリット475dが設けられている。
スリット475dには、クラッチドラム48の円板部480からモータ2側に延びるガイド片480bが挿入されている。
【0131】
基部475bにおける筒壁部475cよりも内径側の領域では、基部475bのモータ2側の面に、スプリングリテーナ476で支持されたスプリングSpが、回転軸X方向から圧接している。
ピストン475は、スプリングSpから作用する付勢力でクラッチドラム48の円板部480側(図中、左側)に付勢されている。
【0132】
クラッチドラム48では、円板部480と内壁部482との境界部に、モータ2とは反対側に突出する突出部484が設けられている。突出部484は、ベアリングB2の支持部151の内周に挿入されている。支持部151の内周にはオイルOLの供給路151aが開口している。
突出部484の内部には、支持部151側から供給されるオイルOLを、クラッチドラム48の円板部480とピストン475の基部475bとの間の油室に導くための油路484aが設けられている。
【0133】
油路484a介して油室に供給されるオイルOLは、ピストン475をモータ2側(図中、右側)に変位させる。この際に、円板部480に設けたガイド片480bと、ガイド片480bが挿入されたピストン475側のスリット475dにより、ピストン475の回転軸X方向の変位がガイドされる。
【0134】
ピストン475がモータ2側に変位すると、クラッチ47のドライブプレート471とドリブンプレート472とが、ピストン475の押圧部475aとリテーニングプレート473との間で把持される。
これにより、ドライブプレート471がスプライン嵌合したリングギア42と、ドリブンプレート472がスプライン嵌合したクラッチドラム48との相対回転が、供給されるオイルOLの圧力に応じて規制されて、最終的に相対回転が規制される。
【0135】
さらに、クラッチドラム48の外壁部481外周には、バンドブレーキ49が巻き掛けられている。図示しないアクチュエータによりバンドブレーキ49の巻き掛け半径が狭められると、クラッチドラム48の回転軸X回りの回転が規制される。
【0136】
変速機構3Aでは、バンドブレーキ49の内径側に、遊星歯車組4と、クラッチ47が位置している。バンドブレーキ49と、遊星歯車組4と、クラッチ47は、回転軸Xの径方向でオーバーラップしており、回転軸Xの径方向外側から見ると、バンドブレーキ49と、遊星歯車組4と、クラッチ47とが、重なる位置関係で設けられている。
【0137】
本実施形態の変速機構3Aでは、遊星歯車組4のリングギア42がモータ2の出力回転の入力部、キャリア45が、入力された回転の出力部となっている。
【0138】
変速機構3では、以下の条件(a)で低速段が実現し、条件(b)で高速段が実現する。
(a)バンドブレーキ49:作動、クラッチ47:解放
(b)バンドブレーキ49:非作動、クラッチ47:締結
ここで、変速機構3は、二段変速機構であり、低速段、高速段は同一回転方向(前進段又は後進段)である。モータ2の正逆転により前後進の切替えが可能である。
【0139】
すなわち、変速機構3Aでは、バンドブレーキ49の作動によりクラッチドラム48の回転が規制されると、低速段が実現する。クラッチ47が締結されて、リングギア42とクラッチドラム48とが相対回転不能に連結されると、高速段が実現する。
【0140】
モータ2の出力回転は、変速機構3Aで変速された後、キャリア45の側板部452から、支持軸30に出力される。
【0141】
図5に示すように、支持軸30は、回転軸Xaに沿ってモータ2から離れる方向に延びている。支持軸30では、小径部301の外周に中空軸31がスプライン嵌合している。
中空軸31では、回転軸Xa方向の両側に、ベアリングB2、B2が外挿されている。
中空軸31は、ベアリングB2、B2を介して、外側ケース13側の第3支持部137と、支持部材15側の支持部151で支持されている。そのため、支持軸30は、中空軸31を介して、外側ケース13側の第3支持部147と、内側ケース14側の第3支持部147で支持されている。
【0142】
中空軸31では、ベアリングB2、B2の間の領域の外周に、ギア部311が一体に形成されている。
【0143】
ギア部311の外周には、カウンタギア5の大径歯車52が、回転伝達可能に噛合している。カウンタギア5において大径歯車52は、円筒状の中空軸部51の外周にスプライン嵌合している。
【0144】
中空軸部51の長手方向の一端部51aと他端部51bには、ベアリングB3、B3が外挿されている。
中空軸部51の一端部51aは、ベアリングB3を介して、外側ケース13の第2支持部135で回転可能に支持されている。
中空軸部51の他端部51bは、ベアリングB3を介して、内側ケース14の第2支持部145で回転可能に支持されている。
【0145】
この状態において、カウンタギア5の中空軸部51は、回転軸Xaに平行な回転軸Xbに沿って設けられている。
中空軸部51では、大径歯車52から見て他端部51b側(図中、右側)に隣接して、小径歯車部511が設けられている。小径歯車部511は、中空軸部51と一体に形成されていると共に、大径歯車52の外径R1よりも小さい外径R2で形成されている(図5参照:R1>R2)。
【0146】
小径歯車部511は、差動装置6のデフケース60に固定されたファイナルギアFGに回転伝達可能に噛合している。
デフケース60では、回転軸Xc方向(図中、左右方向)の両側部に、筒状の支持部601、602が設けられている。支持部601、602は、回転軸Xaに平行な回転軸Xcに沿って延出している。
デフケース60の支持部601、602には、ベアリングB4、B4が外挿されている。
支持部602は、ベアリングB4を介して、外側ケース13のリング状の第1支持部131で保持されている。
支持部602は、ベアリングB4を介して、内側ケース14のリング状の第1支持部141で保持されている。
【0147】
デフケース60の支持部601には、内側ケース14の開口部140を貫通したドライブシャフト8Bが、回転軸Xc方向から挿入されている。
デフケース60の支持部602には、外側ケース13の開口部130を貫通したドライブシャフト8Aが、回転軸Xc方向から挿入されている。
【0148】
デフケース60の内部では、ドライブシャフト8(8A、8B)の先端部の外周に、サイドギア63A、63Bがスプライン嵌合している。
デフケース60の内部では、円柱状のシャフト61が、回転軸Xに直交する軸線Yに沿って設けられており、サイドギア63A、63Bは、シャフト61を間に挟んで、回転軸Xc方向で対向している。
【0149】
シャフト61には、かさ歯車62A、62Bが外挿して回転可能に支持されている。
かさ歯車62A、62Bは、シャフト61の長手方向(軸線Yの軸方向)で間隔を空けて2つ設けられており、かさ歯車62A、62Bは、互いの歯部を対向させた状態で配置されている。
【0150】
デフケース60内では、回転軸X方向におけるかさ歯車62A、62Bの両側にサイドギア63A、63Bが位置しており、かさ歯車62A、62Bとサイドギア63A、63Bとは、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0151】
かかる構成の動力伝達装置1Aの作用を説明する。
図5に示すように、動力伝達装置1Aでは、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、変速機構3Aと、カウンタギア5と、差動装置6と、ドライブシャフト8(8A、8B)と、が設けられている。
【0152】
モータ2の駆動により、ロータコア21が回転軸Xa回りに回転すると、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20を介して、変速機構3Aに回転が入力される。
変速機構3Aでは、遊星歯車組4のリングギア42が回転の入力部、キャリア45が入力された回転の出力部となっている。
【0153】
変速機構3Aでは、バンドブレーキ49が作動している状態で低速段、クラッチ47が作動している状態で高速段が実現する。
そのため、変速機構3Aに入力された回転は、変速された後にキャリア45の連結部453から中空軸50に出力される。そして、中空軸50に入力された回転は、中空軸50のギア部311に噛合した大径歯車52を介して、カウンタギア5に入力される。
【0154】
カウンタギア5では、小径歯車部511の外径R2が大径歯車52の外径R1よりも小さくなっている(図4参照)。
そのため、カウンタギア5に入力された回転は、大きく減速されたのちに、小径歯車部511が噛合するファイナルギアFGを介して、デフケース60(差動装置6)に出力される。
【0155】
そして、デフケース60が入力された回転で回転軸Xc回りに回転することにより、ドライブシャフト8(8A、8B)が回転軸Xc回りに回転する。これにより、モータ2の出力回転が、動力伝達装置1Aが搭載された車両の左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0156】
動力伝達装置1Aでは、遊星歯車組4と、クラッチ47と、バンドブレーキ49とを備える変速機構3Aを採用して、モータ2の出力回転を変速機構3Aで変速して、カウンタギア5に伝達している。
変速機構3Aでは、低速段と高速段との間での切替を、クラッチ47の締結/解放、バンドブレーキ49の作動の組み合わせの変更により行う仕様となっている。そのため、噛み合い式の係合装置のように、変速段の切替を行えなくなる事態が生じないようになっている。
【0157】
変速機構3では、バンドブレーキ49が、クラッチ47および遊星歯車組4に対して、回転軸Xの径方向でオーバーラップしており、回転軸Xの径方向から見ると、バンドブレーキ49が、クラッチ47および遊星歯車組4と重なる位置関係で設けられている。そのため、動力伝達装置1では、変速機構3の部分の回転軸X方向の長さを短縮できるようになっている。
【0158】
以上の通り、本実施形態に係る動力伝達装置1Aは、以下の構成を有している。
(7)動力伝達装置1Aは、遊星歯車組4と、第1係合要素と、第2係合要素と、を有する変速機構3Aを有する。
第1係合要素は、変速機構が低速段のときに係合されるバンドブレーキ49である。
第2係合要素は、変速機構が高速段のときに係合されるクラッチ47(多板式摩擦クラッチ)である。
【0159】
このように構成すると、変速機構3Aでは、低速段と高速段との間での切替を、クラッチ47の締結/解放、バンドブレーキ49の作動の組み合わせの変更により行う。そのため、噛み合い式の係合装置のように、変速段の切替を行えなくなることがない。
さらに、変速機構3Aが備える2つの係合要素を、異なる摩擦式の係合要素とすることで、走行中における変速ショックを低減できると共に、高速段での走行中のフリクションを低減できる。さらに、
【0160】
本実施形態に係る動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(8)バンドブレーキ49は、遊星歯車組4と回転軸Xaの径方向においてオーバーラップしている。
バンドブレーキ49は、クラッチ47(多板式摩擦クラッチ)のドリブンプレート472およびドライブプレート471と、回転軸Xaの径方向においてオーバーラップしている。
バンドブレーキ49は、クラッチ47のピストン475と回転軸Xaの径方向においてオーバーラップしている。
クラッチ47(多板式摩擦クラッチ)のドリブンプレート472、ドライブプレート471及びピストン475は、バンドブレーキ49及び遊星歯車組4と回転軸Xaの径方向においてオーバーラップしている。
【0161】
このように構成すると、動力伝達装置1Aの回転軸方向の短縮が可能になる。
【0162】
本実施形態に係る動力伝達装置1は、以下の構成を有している。
(9)動力伝達装置1Aは、モータ2を有する。
変速機構3Aは、モータ2の下流に接続されている。
【0163】
モータ2は高回転になるほど出力トルクが減少していく傾向にあることから、高速段のときのフリクションを低減できる当該構成はモータを駆動源とする動力伝達装置にとって特に好適である。
【0164】
図7は、変速機構3、3Aの構成を模式的に示したスケルトン図である。
図8から図11は、変速機構の変形例を説明するスケルトン図である。
なお、以下の説明では、符号「S」が、遊星歯車組4のサンギア41を意味し、符号「R」が、リングギア42を意味し、符号「C」が、キャリア45を意味している。
また、符号「BB」が、バンドブレーキ49を意味し、符号「CL」が、クラッチ47を意味し、符号「P」が、ピストン475を意味し、符号「DR」が、クラッチドラム48を意味し、符号「HB」が、ハブを意味している。
【0165】
前記した変速機構3、3Aは、図7のように示すことができる。
前記した変速機構3、3Aでは、遊星歯車組4が、ひとつのピニオンギア43を有するシングルピニオンである場合を例示した。
この変速機構3、3Aでは、遊星歯車組4のリングギア42(R)が、回転の入力部、キャリア45(C)が出力部である。そして、クラッチ47(CL)が、リングギア42(R)とサンギア(S)とを相対回転不能に締結し、バンドブレーキ49(BB)が、クラッチドラム48(DR)に連結されたサンギア41(S)を固定する。
【0166】
本件発明に係る動力伝達装置に適用可能な変速機構は、この態様にのみ限定されない。
以下に、適用可能な変速機構の態様を、図8から図11を用いて列挙する。
【0167】
例えば、シングルピニオンで、サンギアSの回転をバンドブレーキBBで固定する場合、図8の(a)、(b)に示す態様でも良い。
図8の(a)の態様では、遊星歯車組のリングギアRが回転の入力部であり、キャリアCが出力部であり、バンドブレーキBBが、クラッチドラムDRに連結されたサンギアSを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたサンギアSと、ハブHBに連結されたキャリアCとを相対回転不能に締結する。
【0168】
図8の(b)の態様では、遊星歯車組のリングギアRが回転の入力部であり、キャリアCが出力部であり、バンドブレーキBBが、ハブHBに連結されたサンギアSを固定する。クラッチCLが、リングギアRと、クラッチドラムDRに連結されたキャリアCとを相対回転不能に締結する。
【0169】
また、シングルピニオンで、キャリアCの回転をバンドブレーキBBで固定する場合、図9の(a)、(b)、(c)に示す態様でも良い。
図9の(a)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、ハブHBに連結されたキャリアCを固定する。クラッチCLが、サンギアSと、クラッチドラムDRに連結されたリングギアRとを相対回転不能に締結する。
【0170】
図9の(b)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、ハブHBに連結されたキャリアCを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたサンギアSと、ハブHBに連結されたキャリアCとを相対回転不能に締結する。
図9の(c)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、クラッチドラムDRに連結されたキャリアCを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたキャリアCと、リングギアRとを相対回転不能に締結する。
【0171】
また、シングルピニオンで、リングギアRの回転をバンドブレーキBBで固定する場合、図9の(d)、(e)、(f)に示す態様でも良い。
図9の(d)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、キャリアCが出力部であり、バンドブレーキBBが、リングギアRを固定する。クラッチCLが、サンギアSと、クラッチドラムDRに連結されたリングギアRとを相対回転不能に締結する
【0172】
図9の(e)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、キャリアCが出力部であり、バンドブレーキBBが、リングギアRを固定する。クラッチCLが、サンギアSと、クラッチドラムDRに連結されたキャリアCとを相対回転不能に締結する。
図9の(f)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、キャリアCが出力部であり、バンドブレーキBBが、リングギアRを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたリングギアRと、ハブHBに連結されたキャリアCとを相対回転不能に締結する。
【0173】
また、ダブルピニオンで、サンギアSの回転をバンドブレーキBBで固定する場合には、図10の(a)、(b)、(c)に示す態様でも良い。
図10の(a)の態様では、遊星歯車組のキャリアCが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、クラッチドラムDRに連結されたサンギアSを固定する。クラッチCLが、リングギアRと、クラッチドラムDRに連結されたサンギアSとを相対回転不能に締結する。
【0174】
図10の(b)の態様では、遊星歯車組のキャリアCが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、クラッチドラムDRに連結されたサンギアSを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたサンギアSと、ハブHBに連結されたキャリアCとを相対回転不能に締結する。
図10の(c)の態様では、遊星歯車組のキャリアCが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、ハブHBに連結されたサンギアSを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたキャリアCと、リングギアRとを相対回転不能に締結する。
【0175】
また、ダブルピニオンで、キャリアCの回転をバンドブレーキBBで固定する場合、図10の(d)、(e)、(f)に示す態様でも良い。
図10の(d)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、ハブHBに連結されたキャリアCを固定する。クラッチCLが、サンギアSと、クラッチドラムDRに連結されたリングギアRとを相対回転不能に締結する。
【0176】
図10の(e)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、ハブHBに連結されたキャリアCを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたサンギアSと、ハブHBに連結されたキャリアCとを相対回転不能に締結する。
図10の(f)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、リングギアRが出力部であり、バンドブレーキBBが、クラッチドラムDRに連結されたキャリアCを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたキャリアCと、リングギアRとを相対回転不能に締結する。
【0177】
また、ダブルピニオンで、リングギアRの回転をバンドブレーキBBで固定する場合、図11の(a)、(b)、(c)に示す態様でも良い。
図11の(a)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、キャリアCが出力部であり、バンドブレーキBBが、リングギアRを固定する。クラッチCLが、サンギアSと、クラッチドラムDRに連結されたリングギアRとを相対回転不能に締結する。
【0178】
図11の(b)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、キャリア
Cが出力部であり、バンドブレーキBBが、リングギアRを固定する。クラッチCLが、クラッチドラムDRに連結されたキャリアCと、サンギアSとを相対回転不能に締結する。
図11の(c)の態様では、遊星歯車組のサンギアSが回転の入力部であり、キャリアCが出力部であり、バンドブレーキBBが、リングギアRを固定する。クラッチCLが、ハブHBに連結されたキャリアCと、クラッチドラムDRに連結されたリングギアRとを相対回転不能に締結する。
【0179】
以上、図7から図11に、変速機構の取り得る態様を全18パターン例示した。
これら全18パターンのうち、図7に示す態様、図9の(e)に示す態様、図10の(a)に示す態様、図10の(f)に示す態様では、モータ2の出力回転を正回転方向に維持したままで、低速段と高速段との切り替えが可能である。
そして、図7に示す態様、図10の(a)の態様は、クラッチドラムDRの外径が最も大きくなるので、クラッチCLを、余裕を持って締結状態にできる。
【0180】
また、遊星歯車組の構成要素(サンギアS、リングギアR、キャリアC)のうちの2つの要素を締結するクラッチCLは、変速機構においてどこに設けても良い。
例えば、図8の(a)、(b)、図9の(c)に示す態様のように、バンドブレーキBBとリングギアRの間に、クラッチCLを設けても良い。
【0181】
図8の(a)に示すクラッチCLでは、バンドブレーキBBとリングギアRの間で、サンギアSに連結されたクラッチドラムDRを外径側に設けると共に、キャリアCに連結されたハブHBを内径側に設けて、キャリアCとサンギアSとを締結する。
【0182】
図8の(b)に示すクラッチCLでは、バンドブレーキBBとリングギアRの間で、サンギアSに連結されたハブHBを外径側に設けると共に、キャリアCに連結されたクラッチドラムDRを内径側に設けて、キャリアCとリングギアRとを締結する。
【0183】
図9の(c)に示すクラッチCLでは、バンドブレーキBBとリングギアRの間で、リングギアRの外径側に、キャリアCに固定されたクラッチドラムDRを設けて、キャリアCとリングギアRとを締結する。
【0184】
さらに、例えば図9の(a)、(b)、(d)~(f)に示す態様のように、サンギアSの内径側にクラッチを設けても良い。
【0185】
図9の(a)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側に、リングギアRに連結されたクラッチドラムDRを設けて、サンギアSとリングギアRとを締結する。
図9の(b)に示すクラッチCLでは、サンギアSに連結されたクラッチドラムDRの外径側に、キャリアCに連結されたハブHBを設けて、サンギアSとキャリアCとを連結する。
【0186】
図9の(d)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側に、リングギアRに連結されたクラッチドラムDRを設けて、サンギアSとリングギアRとを連結する。
図9の(e)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側に、キャリアCに連結されたクラッチドラムDRを設けて、サンギアSとキャリアCとを連結する。
図9の(f)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側に、キャリアCに連結されたハブHBを設けると共に、ハブHBの内径側にリングギアRに連結されたクラッチドラムDRを設けて、キャリアCとリングギアRを連結する。
【0187】
このように、クラッチCLは、リングギアRの外径側と、サンギアSの内径側の何れに
設けても良い。
【0188】
なお、ピニオンギアを2つ有するダブルピニオンにおいても同様である。
図10の(a)、(b)、(c)、(f)に示すように、リングギアRの外径側にクラッチCLを設けても良い。
【0189】
図10の(a)に示すクラッチCLでは、サンギアSに連結されたクラッチドラムDRを、リングギアRの外径側に設けて、サンギアSとリングギアRとを締結する。
図10の(b)に示すクラッチCLでは、リングギアRの外径側に、キャリアCに連結されたハブHBを設けると共に、サンギアSに連結されたクラッチドラムDRを、ハブHBの外径側に設けて、サンギアSとキャリアCとを連結する。
【0190】
図10の(c)に示すクラッチCLでは、リングギアRの外径側に、キャリアCに連結されたクラッチドラムDRを設けると共に、サンギアSに連結されたハブHBを、クラッチドラムDRの外径側に設けて、サンギアSとキャリアCとを連結する
図10の(f)に示すクラッチCLでは、リングギアRの外径側に、キャリアCに連結されたクラッチドラムDRを設けて、リングギアRとキャリアCとを連結する
【0191】
図10の(d)、(e)、図11の(a)、(b)、(c)に示すように、サンギアSの内径側にクラッチCLを設けても良い。
図10の(d)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側にリングギアRに連結されたクラッチドラムDRを設けて、サンギアSとリングギアRとを連結する。
図10の(e)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側に、サンギアSに連結されたクラッチドラムDRを内径側に設けると共に、キャリアCに連結されたハブHBを、クラッチドラムDRの外径側に設けて、サンギアSとキャリアCとを連結する。
【0192】
図11の(a)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側に、リングギアRに連結されたクラッチドラムDRを設けて、サンギアSとリングギアRとを連結する。
図11の(b)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側に、キャリアCに連結されたクラッチドラムDRを設けて、サンギアSとキャリアCとを連結する。
図11の(c)に示すクラッチCLでは、サンギアSの内径側に、キャリアCに連結されたハブHBを外径側に設けると共に、リングギアRに連結されたクラッチドラムDRをハブHBの内径側に設けて、キャリアCとリングギアRとを連結する。
【0193】
なお、図9の(c)に示す態様と、図11の(b)に示す態様では、低速段と高速段の切り替えにあたり、モータ2の出力改訂の方向を逆転させる必要がある。
【0194】
ここで、本明細書における用語「下流に接続」とは、上流に配置された部品から下流に配置された部品へと動力が伝達される接続関係にあることを意味する。
例えば、モータ2の下流に接続され変速機構3という場合は、モータ2から変速機構3へと動力が伝達されることを意味する。
また、本明細書における用語「直接接続」とは、他の減速機構、増速機構、変速機構などの減速比が変換される部材を介さずに部材同士が動力伝達可能に接続されていることを意味する。
【0195】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11