(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】トリアセトンアミンの改良製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 211/74 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
C07D211/74
(21)【出願番号】P 2021078760
(22)【出願日】2021-05-06
【審査請求日】2021-05-26
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】カタリーナ ミンケ
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー グラースカンプ
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-160561(JP,A)
【文献】特開2000-239257(JP,A)
【文献】特開平05-140104(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108383704(CN,A)
【文献】西独国特許出願公開第02807172(DE,A1)
【文献】特開2014-051493(JP,A)
【文献】公益社団法人 日本化学会,化学便覧 応用化学編 第7版,2014年,第270,271頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアセトンアミンを
連続的に製造する方法であって、次の工程:
(a)アセトン流S
Ac1及びアンモニア流S
Am1を、触媒K1の存在下で反応させて、トリアセトンアミンと、アセトンとを含む粗生成物流S
RP1を得る工程、
(b)アセトンをS
RP1から少なくとも部分的に蒸留により除去して、アセトンを含むガス流S
Ac2を得る工程、
(c)前記ガス流S
Ac2を、液体アセトン流S
Ac3中へ向流で少なくとも部分的に吸収させて、液体アセトン流S
Ac4を得る工程、
(d)工程(a)を繰り返す工程を含み、ここで、前記アセトン流S
Ac4が、アセトン流S
Ac1として使用される、前記方法。
【請求項2】
工程(b)において行われるS
RP1からのアセトンの少なくとも部分的な蒸留による除去を、蒸留塔中で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)における蒸留において使用される温度範囲が、トリアセトンアミンの沸点を下回る、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)に関して粗生成物流S
RP1からのアセトンの蒸留による除去の前及び/又は最中に、水を粗生成物流S
RP1に添加し、かつホロン、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、及びイソホロンからなる群から選択される、粗生成物流S
RP1中の前記副生物のうち少なくとも1種を、水と少なくとも部分的に反応させて、粗生成物流S
RP1中の前記副生物のうち少なくとも1種を、少なくとも部分的にアセトンへと開裂させる、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)を20℃~180℃の温度で実施する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)において使用されるアセトンの、工程(a)において使用されるアンモニアに対するモル比が、3:1~20:1である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
K1が不均一系触媒である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(c)において、工程(b)において得られたガス流S
Ac2中のアセトンの一部を前記液体アセトン流S
Ac3中へ吸収させ、かつ残りの部分を凝縮させる、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアセトンアミンの改良製造方法に関する。該方法は、吸収工程を実施することを包含し、その際に、粗生成物中に存在するアセトンが、トリアセトンアミンから蒸留により除去され、かつガスの形態で、ついで、新しい液体アセトン中へ向流で吸収される。こうして得られるアセトン流は、ついで、トリアセトンアミンにさらに変換される。この方法は、トリアセトンアミンの合成において使用される未反応反応物のよりエネルギー効率的な再利用を可能にし、ひいては、反応物の使用とエネルギー消費量の双方ともを全体的に低下させる。
【背景技術】
【0002】
トリアセトンアミン(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノン;CAS番号:826-36-8;以下、“TAA”)は、多数の誘導体製品、例えば光安定剤(ヒンダードアミン系光安定剤;[HALS])、酸化剤及び重合調節剤(例えばニトロキシルラジカル)の合成に使用される、重要な化学中間体である。
【0003】
アセトンとアンモニアとからのトリアセトンアミンの製造は、多様な方法の形で文献に記載されている。これは、次の製造方法を含む:TAAの、その反応物からの直接(1段)合成、例えば西独国特許出願公開第2429937号明細書(DE 24 29 937 A1)、米国特許第4536581号明細書(US 4,536,581 A)、特開昭54-88275号公報(JPS54-88275 A)又はZeitschrift fuer Naturforschung 1976, 328 - 337及び338 - 345に記載された方法、並びにアセトニン(2,2,4,4,6-ペンタメチル-1,2,5,6-テトラヒドロピリミジン)を経る間接(2段)合成、例えば西独国特許出願公開第2429935号明細書(DE 24 29 935 A1)又は西独国特許出願公開第2429936号明細書(DE 24 29 936 A1)に記載された方法、又はホロン(2,6-ジメチル-2,5-ヘプタジエン-4-オン)を経る間接(2段)合成、例えば西独国特許出願公開第2352127号明細書(DE 2 352 127 A1)に記載された方法。アセトニンを経る2段TAA合成において、アセトニンは、アセトン及びアンモニアからまず最初に形成され、ついで、その後の工程において、アンモニア1当量の脱離を伴いさらに反応して、TAAが得られる。しかしながら、アセトニンを経る合成方法の場合に、双方の種(TAA及びアセトニン)は、常に同時に形成されるが、それにもかかわらず、アセトニン形成は、TAA形成に比べて速度論的に大いに有利である。該“1段”TAA合成において、アセトニンは単離されないに過ぎない。
【0004】
TAAの製造は、原則的に、均一系触媒によって(主にアンモニウム塩により)又は不均一系触媒によって(例えば酸性イオン交換体上)も、同様に可能である。
【0005】
従来技術からの大抵の文献は、均一系触媒による反応に関する。この場合に最も普通に挙げられるのは、塩化カルシウム(例えばChemical Industries 2003, 89, 559-564; Zeitschrift fuer Naturforschung 1976, 328 - 337及び338 - 345において)、塩化アンモニウム(例えば特開2003-206277号公報(JP 2003-206277 A);特開2001-31651号公報(JP 2001-31651 A);特開平4-154762号公報(JPH4-154762 A)において)及びヒドラジン誘導体(例えば特開昭54-88275号公報(JPS54-88275 A)、特開昭54-112873号公報(JPS54-112873 A)において)である。しかしながら、これらの触媒を用いる際に問題が起こる。例えば、塩化カルシウムの使用は、極めてゆっくりとした反応が行われるという欠点を有する。塩化アンモニウムの場合に、その反応速度はより高いが、しかし、使用される塩化物は、鋼に関して高い腐食性を示す。他方では、ヒドラジン誘導体は、極めて高い毒性を示す。
【0006】
これらの他にも、不均一系触媒上の反応は、例えば中国特許出願公開第108383704号明細書(CN108 383 704 A)、欧州特許出願公開第3663284号明細書(EP 3 663 284 A1)、西独国特許出願公開第2807172号明細書(DE 28 07 172 A1)及び中国特許出願公開第103224465号明細書(CN 103224465 A)にも、記載されている。
【0007】
TAAは、一般にマトリックス中で製造され、該マトリックス中に該アセトンは、大過剰量で存在し、かつ反応相手と溶剤の双方として利用される。したがって、該反応の終了時に、TAAに加えて、大きな割合のアセトンと、未反応のアンモニアと、その縮合により形成される水と、均一系触媒法においてその触媒とを含有する粗生成物が生じる。そのうえ、さらなる副成分、例えば非環状縮合生成物(例えばジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、メシチルオキシド、ホロン等)、環状縮合生成物[例えばアセトニン、2,2,4,6-テトラメチル-2,3-ジヒドロピリジン(以下、“TMDH-ピリジン”)]又はより高分子量の縮合生成物(“高沸成分”)も、存在する。
【0008】
一部の非環状の付加及び縮合生成物(例えばジアセトンアルコール[4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オン]、ジアセトンアミン[4-アミノ-4-メチルペンタン-2-オン]、メシチルオキシド[4-メチルペンタ-3-エン-2-オン]、ホロン等)は、それらに関しては、反応物としてのアセトンの代わりにアンモニアと反応してTAAを得ることができ、該TAAは、例えば、内部の再循環流を含むプロセスにおいて利用される。
【0009】
そのようなプロセス内部の再循環流は、例えば西独国特許出願公開第2807172号明細書(DE 28 07 172 A1)に記載されている。西独国特許出願公開第2807172号明細書(DE 28 07 172 A1)の例5a及び6aに記載されているように、このためには、そのTAA粗生成物の個々の成分は、蒸留により分離され、かつ反応性成分であるアセトン及びメシチルオキシドは、ついで、反応物として再使用される。
【0010】
このためには、該TAA合成からの粗生成物は、加熱され、かつ前記の個々の成分は、除去されるか、もしくは凝縮され、かつ再循環に戻される。これは、高いエネルギー消費量を包含し、並びにアセトンの損失をまねき、該損失は、新しいアセトンをその系に添加することにより補償しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】西独国特許出願公開第2429937号明細書
【文献】米国特許第4536581号明細書
【文献】特開昭54-88275号公報
【文献】西独国特許出願公開第2429935号明細書
【文献】西独国特許出願公開第2429936号明細書
【文献】西独国特許出願公開第2352127号明細書
【文献】特開2003-206277号公報
【文献】特開2001-31651号公報
【文献】特開平4-154762号公報
【文献】特開昭54-112873号公報
【文献】中国特許出願公開第108383704号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3663284号明細書
【文献】西独国特許出願公開第2807172号明細書
【文献】中国特許出願公開第103224465号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2706056号明細書
【文献】独国特許出願公開第102010062804号明細書
【文献】カナダ国特許発明第772201号明細書
【文献】米国特許第4831146号明細書
【非特許文献】
【0012】
【文献】Zeitschrift fuer Naturforschung 1976, 328 - 337及び338 - 345
【文献】Chemical Industries 2003, 89, 559-564
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、上記の問題を有しておらず、かつ特に、該TAA反応中に反応しなかったアセトンの、単純でエネルギー集約的ではなく、ひいては効率的な再利用を可能にする、TAAの効率的な合成方法への需要があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を達成する方法は、目下驚くべきことに見出された。
【0015】
TAAの特に効率的な製造方法が、該TAA製造の粗生成物から除去される過剰のアセトンを、新しいアセトンと一緒に該方法へ返送することによって可能になることが、驚くべきことに見出された。このためには、該アセトンは、該粗生成物から除去され、かつガスの形態で向流で、前記の新しいアセトン中へ吸収される。この方法は、複雑な除去工程、特に前記のアセトンのエネルギー集約的な凝縮を回避し、ひいては従来の方法に比べてより低いエネルギー消費量で過剰のアセトンの再利用を可能にする。
【0016】
それに応じて、本発明による方法は、トリアセトンアミンを製造するための、好ましくは連続的な、方法であって、次の工程を含む:
(a)アセトン流SAc1及びアンモニア流SAm1を、触媒K1の存在下で反応させて、トリアセトンアミンと、アセトンとを含む粗生成物流SRP1を得る工程、
(b)アセトンをSRP1から少なくとも部分的に蒸留により除去して、アセトンを含むガス流SAc2を得る工程、
(c)該ガス流SAc2を、液体アセトン流SAc3中へ向流で少なくとも部分的に吸収させて、液体アセトン流SAc4を得る工程、
(d)工程(a)を繰り返す工程、ここで、該アセトン流SAc4が、該アセトン流SAc1として使用される。
【0017】
1.工程(a)
本発明による方法の工程(a)において、アセトン流SAc1及びアンモニア流SAm1は、触媒K1の存在下で反応して、トリアセトンアミンと、アセトンとを含む粗生成物流SRP1が得られる。
【0018】
トリアセトンアミンと、アセトンとを含む粗生成物流SRP1は、前記方法において得られる。したがって、これは、所望の生成物であるTAAに加えて、未反応のアセトンも含む。該粗生成物流SRP1は場合により、未反応のアンモニア及び副生物も含む。考えられる副生物は、特にメシチルオキシドである。メシチルオキシドは、TAAを得るためのアンモニア及びアセトンの反応においてアセトン2分子のアルドール縮合により、少なくとも少量で、常に形成される最も単純な縮合生成物である。アセトンとアセトン又はアンモニアとのより高分子量の縮合生成物は、工程(a)における反応においても形成され、それに応じて、特に該粗生成物流SRP1中に含まれる。これらは主に、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、ホロン、及びイソホロンからなる群から選択される、好ましくはジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン及びイソホロンからなる群から選択される、副生物である。
【0019】
工程(a)における反応は、本発明の方法全体のように、好ましくは連続的に実施される。
【0020】
連続操作において、全ての化学物質は、好ましくは、同時にその反応温度で配量される。連続操作において、当業者に公知のあらゆる反応器、例えば連続流通管、連続撹拌槽、撹拌槽カスケード、並びにこれらの個々の要素の考えられる組合せを使用することができる。この場合に好ましいのは、1つ以上の反応器と内部又は外部の回路との組合せ、続いて流通管特性を有する後反応器を使用することである。
【0021】
連続操作における工程(a)における反応時間は、該反応器中の反応物の全滞留時間によって与えられ、かつ1~15時間の範囲内、好ましくは3~9時間の範囲内、特に好ましくは5~7時間の範囲内である。
【0022】
連続操作におけるアンモニアについての“体積空間速度”は、工程(a)において、特に0.01~124.20h-1、好ましくは0.03~5.25h-1、最も好ましくは0.06h-1である(これは、この反応器を、1時間あたりかつ該反応器の体積あたり流れるアンモニアの体積に相当し、“LHSV”と略称される)。
【0023】
連続操作におけるアセトンについての“体積空間速度”は、工程(a)において、特に0.15~1.33h-1、好ましくは0.66~1.17h-1である(これは、この反応器を、1時間あたりかつ該反応器の体積あたり流れるアセトンの体積に相当する)。
【0024】
工程(a)における反応は、さらなる溶剤の存在下で又は単にアセトン中で、すなわちさらなる溶剤を添加せずに、行うことができる。溶剤が工程(a)において使用される場合に、該反応を妨げない全ての溶剤を使用することができる。特に、可能な溶剤は、脂肪族溶剤、好ましくはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、テトラメチルシラン;芳香族溶剤、好ましくはベンゼン、トルエン、キシレン;エーテル化合物、好ましくはジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル;ハロゲン化溶剤、好ましくはジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン;アルコール、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール;エステル、好ましくは酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルである。特に好ましくは、工程(a)における反応は、アセトン中で、さらなる溶剤を添加せずに行われる。
【0025】
工程(a)における反応は、好ましくは、高められた温度で、特に、20℃~180℃の範囲内、好ましくは40℃~100℃の範囲内、より好ましくは55℃~90℃の範囲内、よりいっそう好ましくは60℃~90℃の範囲内の温度で、最も好ましくは75℃で、実施される。
【0026】
工程(a)における反応は、特に、前記成分の自生圧力又は高められた圧力でのいずれかで、実施される。したがって、工程(a)における反応は、好ましくは、1~16barの範囲内の圧力で、より好ましくは1~15barの範囲内の圧力で、よりいっそう好ましくは7~14barの範囲内の圧力で、さらによりいっそう好ましくは12barで、実施される。
【0027】
アンモニアは、好ましくは、純物質として、すなわちガスとして、本発明による方法の工程(a)において、配量され、特に、該反応中に、アセトン中に溶解して又は該反応混合物中に溶解して存在する。
【0028】
アセトンは、好ましくは、工程(a)において純物質として配量される。あるいは、好ましいのは、本発明による方法の先行して実施される工程において、工程(b)において除去されたアセトンを使用し、かつ工程(c)において記載されるように再循環することである。
【0029】
そのうえ、アセトン及びアンモニアだけでなく、該アセトンとアセトン又はアンモニアとの縮合生成物も、工程(a)におけるアセトン流SAc1中に存在することが可能である。これらの縮合生成物は、TAAを得るためのアンモニア及びアセトンの反応の先行する工程に由来していてよい。
【0030】
本発明による方法の工程(a)は、触媒K1の存在下で実施される。有用な触媒K1は、このタイプの反応のために従来技術において挙げられた全ての触媒である。該触媒K1はここでは、均一系又は不均一系であってよいが、しかし、好ましくは不均一系である。
【0031】
適した均一系触媒K1は、このタイプの反応のために従来技術に記載された全ての均一系触媒、例えば、欧州特許出願公開第2706056号明細書(EP 2 706 056 A1)に記載されたような、ブレンステッド酸、ブレンステッド酸の塩又はルイス酸である。
【0032】
本発明の意味で“ブレンステッド酸”という用語は、特に塩酸、硫酸、硝酸、有機酸(RCOOH)又はスルホン酸(RSO3H)を含み、ここで、Rは、飽和、不飽和、分岐状、非分岐状、閉環、開鎖の脂肪族、芳香族の、置換された又は非置換の炭化水素基からなる群から選択される。本発明の意味で置換された炭化水素基は、ヘテロ原子で置換された炭化水素基、殊に1個以上の-OH、-NH、-CN、アルコキシ及び/又はハロゲン基で置換された、好ましくは1個以上のハロゲン基で置換された、特に好ましくはF、Cl、Br及びIから選択される1個以上の基で置換された、極めて特に好ましくはF及びClから選択される1個以上の基で置換された、炭化水素基である。
【0033】
本発明の意味で“ブレンステッド酸の塩”は、特に、アンモニウム塩(すなわちアンモニア、アミン類、ヒドラジン類、ヒドロキシルアミン類との塩)又はホスホニウム塩(すなわちホスファン類との塩)である。本発明の意味でルイス酸は、特に、周期表の第4族又は第13族からの化合物、好ましくはハロゲン化物(AlCl3、BF3、TiCl4)、アルコキシド[Al(OR*)3、B(OR*)3、Ti(OR*)4]又はアルキル化合物(例えばAlR*
3)であり、ここで、R*は、飽和、不飽和、分岐状、非分岐状、閉環、開鎖の脂肪族、芳香族の、置換された又は非置換の炭化水素基からなる群から選択される。
【0034】
本発明の意味でルイス酸は、ルイス酸性のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩(例えばCaCl2、MgCl2、LiCl)でもある。
【0035】
K1が均一系触媒である場合に好ましいのは、前記触媒が、アンモニウム塩の群から、殊にアンモニア及び強ブレンステッド酸[例えば塩酸、硫酸、硝酸、有機酸(R**COOH)又はスルホン酸(R**SO3H)、ここで、R**は、飽和、不飽和、分岐状、非分岐状、閉環、開鎖の脂肪族、芳香族の、置換された又は非置換の炭化水素基からなる群から選択される]の塩を含む群から、選択されることである。
【0036】
K1が均一系触媒である場合に好ましいのは、前記触媒が、硝酸アンモニウムであることである。硝酸アンモニウムは、安価で、無毒で、ハロゲン化物不含であり、ひいてはあまり腐食性でないという利点を有する。
【0037】
しかしながら、使用される触媒K1は、好ましくは不均一系触媒、特に、例えば西独国特許出願公開第2807172号明細書(DE 28 07 172 A1)、中国特許出願公開第103224465号明細書(CN 103224465 A)又は独国特許出願公開第102010062804号明細書(DE 10 2010 062 804 A1)に記載されたような、固体酸触媒である。これらは、その反応媒体にほとんど不溶である触媒である。このために好ましいのは、無機又は有機であり、かつ活性酸基、好ましくはスルホン酸エステル基又はリン酸エステル基を有する触媒を使用することである。“スルホン酸エステル基”及び“リン酸エステル基”という用語はそれぞれ、その硫黄又はリン原子の、それぞれの担体への酸素原子を介した結合をいう。本発明の意味で、スルホン酸エステル基は、酸性“-OS(O)OH”基を有し、かつリン酸エステル基は、酸性“-OP(O)(OH)2”基を有し、該基は、それぞれ“-OS(O)O-”基又は“-OP(O)(O-)2”基に脱プロトン化されてよいことは言うまでもない。
【0038】
それに応じて、K1は、殊に、ベントナイト及び/又はモンモリロナイト型のアルミニウムヒドロシリケート、ゼオライト型、モルデナイト型、エリオナイト型のケイ酸アルミニウムをベースとする無機のイオン交換体又はカナダ国特許発明第772201号明細書(CA 772 201)に記載されたような、リン酸で700~1100℃で処理されたけいそう土からなる群から選択される。
【0039】
K1にとって特に好ましい不均一系触媒は、イオン交換樹脂、殊にカチオン交換樹脂である。これらは、好ましくは酸性のものである。
【0040】
K1に適したイオン交換樹脂は、特に、無機系(例えば二酸化ケイ素)又は有機系(例えばポリスチレン又はポリスチレンコポリマー、例えばスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー)のもの、好ましくは有機系のもの、及びプロトン酸基、殊にアルキルスルホン酸エステル基、スルホン酸エステル基(-SO3
-)、リン酸エステル基、殊にスルホン酸エステル基を有するものを含む。
【0041】
K1にとって特に好ましい不均一系触媒は、次の群から選択される:
- ポリマー樹脂、殊にポリスチレン又はスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、好ましくはポリスチレンを有し、かつプロトン酸、殊に-SO3
-基を、官能基として有する触媒(Amberlyst(登録商標) 15、Amberlite(登録商標) 200、Lewatit(登録商標) SP 120又はLewatit(登録商標) K2621として商業的に入手可能);CAS番号:28210-41-5を有するポリスチレンスルホネートがそのうえ使用されてもよい;
- プロトン酸、殊にポリマー形のスルホン酸を有し、かつペルフルオロ化されていてよい触媒(独国特許出願公開第102010062804号明細書(DE 10 2010 062 804 A1)、米国特許第4831146号明細書(US 4,831,146)に記載される)。これは、例えば、スルホン化テトラフルオロエチレン(CAS番号:31175-20-9)又は二酸化ケイ素を担体材料として有するポリマー形の固体担持ペルフルオロ化スルホン酸であってよい。そのような触媒は、とりわけ、商品名Nafion(登録商標)、Aciplex(登録商標) F、Femion(登録商標)、Neosepta(登録商標)、Fumion(登録商標) Fで入手可能である。好ましい触媒は、Nafion(登録商標) SAC-13である。Nafion(登録商標) SAC-13は、Nafion(登録商標)が約13質量%の担持量で吸着された多孔質二酸化ケイ素粒子を含む;
- ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、LubrizolからPolyAMPS(登録商標)として市販されている。
【0042】
最も好ましくは使用される触媒K1は、ポリマー樹脂、殊にポリスチレン又はスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、好ましくはポリスチレンを有し、かつプロトン酸、殊に-SO3
-基を、官能基として有する不均一系触媒である(Amberlyst(登録商標) 15、Amberlite(登録商標) 200、Lewatit(登録商標) SP 120及びLewatit(登録商標) K2621として商業的に入手可能)。
【0043】
本発明による方法の工程(a)における反応物の使用比は、幅広い範囲内で選択することができ;アセトンは、特に、アンモニアに対して過剰量で使用される。好ましくは、工程(a)において使用されるアセトンの、工程(a)において使用されるアンモニアに対するモル比は、3:1~20:1であり、ここで、6:1~10:1の比が好ましく、かつ7:1の比が特に好ましい。
【0044】
使用される触媒K1の量は、特に限定されず、かつ当業者により決定することができる。典型的には、該触媒が、ブレンステッド酸、ブレンステッド酸の塩又はルイス酸、好ましくはアンモニウム塩の群からの均一系触媒であり、よりいっそう好ましくは硝酸アンモニウムである場合に、1:0.8~1:0.02の範囲内の、アンモニアの、触媒、好ましくは硝酸アンモニウムに対するモル比で使用することができる。極めて特に好ましくは、アセトン:アンモニア:硝酸アンモニウムのモル比は、7~8:0.9~1.1:0.085~0.098の範囲内である。
【0045】
固体の酸性イオン交換体がK1に使用される好ましい実施態様において、後者は、固定床として、例えば、工程(a)において使用されるアセトン及び―使用された場合には―メシチルオキシドの全量を基準として10体積%~20体積%の量で、使用することができる。
【0046】
本発明による方法の工程(a)に続いて、粗生成物流SRP1がついで得られ、該粗生成物流SRP1は、所望の生成物であるトリアセトンアミンに加えて、当初に使用される反応物であるアセトン、並びに場合によりアンモニア及び場合により副生物としてのメシチルオキシド及び場合により、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、ホロン、及びイソホロンからなる群から選択される、好ましくはジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、ホロン、及びイソホロンからなる群から選択される少なくとも1種の副生物も含む。
【0047】
前記のTAA、アセトン、メシチルオキシド、水及びRP1中の挙げた副生物の割合は、さらに限定されず、かつその化学量論及び特定の反応条件から生じる。それぞれの化合物の割合は、GCにより決定することができる。例えば、該反応後に、混合物は、55質量%~60質量%のアセトン、10質量%のメシチルオキシド、5質量%~6質量%のTMDH-ピリジン、4質量%~6質量%のジアセトンアミン、ジアセトンアルコール及びホロンの和、14質量%~16質量%のTAA、及び3質量%~4質量%のTAAよりも高い沸点の成分(例えばイソホロン)の含有率を有し、かつ水の割合は、7質量%である。
【0048】
2.工程(b)
本発明による方法の工程(b)において、アセトンは、SRP1から少なくとも部分的に除去される。これは、蒸留により、好ましくは蒸留塔中で、実施される。
【0049】
これは、アセトンを含むガス流SAc2を生じる。SAc2は場合により、アンモニア及び/又はメシチルオキシドも含む。該粗生成物流SRP1がアンモニアを含む場合には、SAc2は好ましくはアンモニアも含む。
【0050】
該触媒K1の除去も任意に、工程(b)中又は工程(b)の前、好ましくは工程(b)の前に、行われる。これは、塩基の添加により行われてよい。例えば、NaOHは、K1がアンモニウム塩である場合に添加され、ついで沈殿析出する硝酸ナトリウムが続いて除去される。
【0051】
不均一系触媒を使用する場合に、別個の精製工程は、不要になるか又は少なくともはるかに単純である、それというのも、例えば固定床触媒を使用する場合に、この触媒は、その反応器中に残留するか、又は他の場合にその反応槽中に残留しうる及び/又はろ過により除去することができるからである。この理由のためにも、K1のために不均一系触媒の使用が好まれる。
【0052】
工程(b)は特に、0.5~2barの圧力で、好ましくは標準圧力で、実施される。
【0053】
工程(b)は、好ましくは、アセトン及びメシチルオキシドの沸点を上回るが、しかし、典型的な副生物の沸点を下回る、これは通常の副生物のうち最も低い沸点であるジアセトンアルコールの沸点を下回る場合である、温度で実施される。
【0054】
よりいっそう好ましくは、工程(b)は、アセトンの沸点を上回るが、しかしメシチルオキシドの沸点を下回る(ひいてはジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、TMDH-ピリジン、アセトニン、ホロン、トリアセトンアミン及びイソホロンの沸点も下回る)温度で実施される。
【0055】
典型的な副生物の沸点、ジアセトンアルコール(CAS番号123-42-2;標準圧力での沸点:166℃)、アセトニン(CAS番号556-72-9;沸点 約170℃)、ジアセトンアミン(CAS番号625-04-7、沸点 約180℃)、ホロン(CAS番号504-20-1;標準圧力での沸点:197℃)の沸点は、アセトン(CAS番号67-64-1;標準圧力での沸点:56℃)又はメシチルオキシド(CAS番号141-79-7;標準圧力での沸点:130℃)及びTAA(標準圧力での沸点:205℃)の沸点の間にあり、かつイソホロン(CAS番号78-59-1;標準圧力での沸点:215℃)の場合には、これらよりもいっそう高い。
【0056】
アンモニアの沸点は、アセトンの沸点を下回るので、工程(b)において、場合により該粗生成物流SRP1中に存在するアンモニアは、アセトンと一緒に除去されることも可能である。この実施態様において、得られるガス流SAc2も、アセトンに加えてアンモニアを含む。しかしながら、これは有利である、それというのも、続く工程(c)において、アンモニアは、該液体アセトン流SAc3中へも吸収され、ひいてはより多くの新しいアンモニアがこの系中へ供給されることを必要としないからである。
【0057】
本発明の好ましい実施態様において、工程(b)に関して粗生成物流SRP1からの該アセトンの蒸留による除去の前及び/又は最中に、水は、粗生成物流SRP1に添加され、かつホロン、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、及びイソホロンからなる群から選択される、好ましくはジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン及びイソホロンからなる群から選択される、粗生成物流SRP1中の副生物のうち少なくとも1種は、水と少なくとも部分的に反応されるので、粗生成物流SRP1中の該副生物のうち少なくとも1種は、少なくとも部分的にアセトンへと開裂される。このことは、本発明による方法の効率をさらにいっそう増加させる、それというのも、除去するのがより容易であるより多くのアセトンが、こうして得られるからである。
【0058】
水は、前記の好ましい実施態様において、工程(b)において行われるSRP1からのアセトンの蒸留による除去の前及び/又は最中に、SRP1に添加される。前記の“SRP1からのアセトンの除去の前”の水の添加は、この時点が工程(a)と(b)との間であることを意味することは言うまでもない、それというのも、工程(a)の後にのみ、該粗生成物SRP1が得られるからである。
【0059】
前記の水の添加は、その平衡を該副生物の側から、これらの同じ副生物の開裂生成物、すなわちアセトンの他に主にメシチルオキシドの側へ移動させる。工程(a)における反応から生じ、かつ場合により依然としてSRP1中に少なくともある程度存在する水は、該平衡のこの移動を適切に保証するのに十分ではない。次の反応における平衡を所望の生成物であるアセトンの側へ移動させるために、代わりに、少なくともある程度の量の付加的な水をSRP1に添加することが必要である。
【0060】
特に、本発明による方法のこの好ましい実施態様において、水は、SRP1中に含まれるホロン、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン及びイソホロンの質量の総計をそれぞれ基準として、≧0.1質量%、好ましくは≧0.5質量%、より好ましくは≧1質量%、よりいっそう好ましくは≧5質量%、さらにより好ましくは5質量%~40質量%の範囲内、さらによりいっそう好ましくは10質量%~20質量%の範囲内の量で添加される。この割合は、ガスクロマトグラフィーを用いて当業者により決定することができる。SRP1の全質量は、連続法において、その流量を決定すること(質量流量計)により、決定することができる。
【0061】
あるいは、本発明による方法のこの好ましい実施態様において、水は、本発明による方法の工程(a)において使用されるアセトンの量の全質量をそれぞれ基準として、≧1質量%、好ましくは≧3質量%、より好ましくは≧4質量%、よりいっそう好ましくは≧5質量%、さらにより好ましくは5質量%~40質量%の範囲内、さらによりいっそう好ましくは10質量%~20質量%の範囲内の量で、添加することができる。
【0062】
前記の好ましい実施態様において添加される水と、ホロン、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、及びイソホロンからなる群から選択される、好ましくはジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン及びイソホロンからなる群から選択される、SRP1中の該副生物のうち少なくとも1種との、アセトンを得るための反応は、ついで、当業者に周知の条件下で実施することができる。これは、該副生物の、アセトンへの加水分解を包含する。このために使用される温度範囲は、特に<205℃、好ましくは<204℃であり、より好ましくは30℃~200℃の範囲内であり、よりいっそう好ましくは70℃~185℃の範囲内である。
【0063】
好ましくは、本発明による方法の前記の好ましい実施態様によれば、水は、SRP1に添加されるのに対して、工程(b)においてアセトンは、SRP1から蒸留により少なくとも部分的に除去される。
【0064】
この実施態様は、工程(b)におけるSRP1からのアセトンの少なくとも部分的な蒸留による除去が蒸留塔中で実施される場合に、よりいっそう好ましい。
【0065】
さらによりいっそう好ましくは、この好ましい実施態様において添加される水と、ホロン、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、及びイソホロンからなる群から選択される、好ましくはジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、及びイソホロンからなる群から選択される、SRP1中の該副生物のうち少なくとも1種との、アセトンを得るための反応は、ついでその気相中で実施される。
【0066】
この場合に、該水は、特に、該蒸留塔に、蒸留による除去中に、例えば該蒸留塔中への水の供給によるか又は該蒸留塔への蒸気の添加により、供給される。副生物であるジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、ホロン、及びイソホロン、好ましくはジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン及びイソホロンからなる群から選択される副生物のうち少なくとも1種と、水との、アセトンを得るための反応は、ついで該蒸留塔中で行われる。
【0067】
この実施態様は、特に有利であると判明している、それというのも、この実施態様は、その副成分が、制御された方法で分解され、かつ該TAAの望ましくない逆反応が抑制されることを特に良好に保証するからである。このことは、特に良好に保証され、それに応じて、工程(b)における蒸留において使用される温度範囲が、TAAの沸点を下回り、ここで、その圧力は特に標準圧力である場合が好ましく、好ましくは、標準圧力で<205℃であり、より好ましくは、標準圧力で<204℃であり、よりいっそう好ましくは、標準圧力で30℃~200℃の範囲内であり、さらによりいっそう好ましくは、標準圧力で70℃~185℃の範囲内である。
【0068】
本発明による方法の工程(b)の蒸留残留物からのTAAの除去は、他の方法では、結晶化、蒸留により、好ましくは蒸留で、行うことができ、これはよりいっそう好ましくは下流の蒸留塔中で行われる。
【0069】
3.工程(c)
本発明は、ついで、工程(b)において得られるガス流SAc2を液体アセトン流SAc3中へ向流で少なくとも部分的に吸収させることを包含する。
【0070】
本発明の意味で、“少なくとも部分的に”は、工程(c)において、工程(b)において得られるガス流SAc2中のアセトンの全部又は一部分のみのいずれかが、液体アセトン流SAc3中へ向流で吸収されることを意味する。好ましくは、工程(c)において、工程(b)において得られるガス流SAc2中のアセトンの一部分のみが、液体アセトン流SAc3中へ吸収され、かつその残りの部分は、凝縮される。この好ましい実施態様において、工程(c)において、工程(b)において得られるガス流SAc2中のアセトンの、より好ましくは1質量%~99質量%、より好ましくは20質量%~90質量%、よりいっそう好ましくは30質量%~80質量%、さらによりいっそう好ましくは50%~70質量%が凝縮され、かつ工程(b)において得られるガス流SAc2中のアセトンの残部は、該液体アセトン流SAc3中へ向流で吸収される。
【0071】
該アセトン流SAc3は、典型的にはアセトンであり、これは、TAAを得るための反応における消費のためにこの系に添加されなければならない。
【0072】
該粗生成物から蒸留されるアセトンが凝縮され、ついで場合により方法へ返送される従来の方法とは対照的に、これは、該アセトンの回収が容易に可能であり、かつ該粗生成物流SRP1から単離されるアセトンの凝縮及び再循環のためのエネルギーが適用される必要がないという利点を有する。
【0073】
工程(c)は、好ましくは、当業者に公知のガススクラバー(ガスストリッパー)中で実施される。
【0074】
工程(c)において、特に液体アセトン流SAc3は、典型的には頂部から底部へ導かれるのに対して、該ガス流SAc2は、少なくとも一部が反対方向に導かれ、かつ該液体アセトン流SAc3と接触するので、該液体アセトン流SAc3は少なくとも部分的に、該ガス流SAc2を吸収する。
【0075】
工程(c)において、該ガス流SAc2は好ましくは、それぞれの圧力で該アセトンの沸点を少なくとも1℃上回る、したがって標準圧力で特に57℃~100℃の範囲内、好ましくは58℃~80℃の範囲内、より好ましくは59℃~70℃の範囲内、よりいっそう好ましくは60℃~65℃の範囲内の、温度を有する。
【0076】
工程(c)において、該液体アセトン流SAc3は好ましくは、それぞれの圧力で該アセトンの沸点を少なくとも10℃下回る、したがって標準圧力で特に-10℃~40℃の範囲内、より好ましくは0℃~30℃の範囲内、より好ましくは5℃~25℃の範囲内、よりいっそう好ましくは8℃~20℃の範囲内、よりいっそう好ましくは10℃~15℃の範囲内、最も好ましくは12℃の、温度を有する。
【0077】
これは、工程(c)の後に得られるアセトン流SAc4が、液体であり、かつ同時に、該蒸留後のガス流SAc2が、より高いエネルギー消費量を必要にしうるほど大いに冷却される必要がないことを最良に保証する。
【0078】
本発明による方法の工程(c)に続いて、該液体アセトン流SAc3及び該ガス流SAc2から吸収されるアセトンから構成される液体アセトン流SAc4が、ついで得られる。
【0079】
4.工程(d)
本発明による方法の工程(d)において、該液体アセトン流SAc4はついで、工程(a)に記載されるようなアンモニア流SAm1とのさらなる反応において再び反応される。
【0080】
次の例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0081】
例1(本発明による)
直列に接続された2つの円筒型反応器に、Lewatit K2621(官能基として-SO3
-を有するポリスチレン触媒、Lanxess製)を、この触媒材料が、上下にスクリーンにより区切られて配置されるように充填した。該触媒の床体積は、水で湿った状態でそれぞれ600mlであった。該反応器に、アセトン630g/h及びアンモニア25g/hを連続的に装入した。75℃の温度及び14barの圧力に調節した。その供給量は、全部でアセトン961.83g(16.58mol)であった。そのLHSV(液時空間速度、すなわち該反応器体積に対する1時間あたり添加される反応物の体積)は、該アンモニアについては0.03~0.06h-1及び該アセトンについては0.66~1.33h-1であった。
【0082】
その反応器流出物1kgを、使用されるアセトンの量を基準として水3質量%~5質量%と混合し、続いて精留塔での標準圧力での蒸留により後処理した。
【0083】
蒸留をここでは、全ての低沸成分(アセトン、メシチルオキシド、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン)が除去されるのに十分な時間にわたって実施したが;しかしながら、TMDH-ピリジン及びTAA及び形成されたさらなる高沸成分を、その底部から廃棄物又は有用生成物として除去した。中沸成分、例えばアセトニン及びホロンは、最大限に加水分解して、低沸点成分にし、かつ結果として除去できた。
【0084】
該蒸留塔中で除去されたアセトンをガスの形態で、12℃の温度を有する新しいアセトンの液体流を有するガスストリッパー中で、向流で通過させた。前記のガス状のアセトンを、前記方法における液体アセトン中へ吸収させ、その後に得られる液体の混合流を、TAAへのさらなる変換のために該反応器中へ導入した。
【0085】
この手順は、除去されたアセトンの別個の凝縮及び付加的な新しいアセトンとの混合に比べて、エネルギー消費量における著しい減少を生じた。
【0086】
このエネルギー節約は、該方法の効率の著しい増加を可能にした。
【0087】
比較例
(本発明によらない、西独国特許出願公開第2807172号明細書(DE 28 07 172 A1)の出願公開明細書からの例5/5aに相当)。
【0088】
円筒型反応器に、Lewatit (登録商標) SP 120を、この触媒材料が、粘土ラシヒリングの2つの層の間にスクリーンにより分離して配置されるように充填した。該触媒のかさ体積は、湿った状態で650mlであったが、アセトンでの処理後に500mlに収縮した。該反応器を、電気加熱により反応温度100℃にし、ついでアセトン1000ml/h及びアンモニア50ml/hを、リザーバーから液体の形態の双方の反応物を下部の反応器区間中へ圧送することにより、連続的に装入した。該反応生成物を、液体の形態で上部の反応器区間からセパレーター中へ通過させ、かつ後者から連続的に引き抜き;この系を、不活性ガス(Hp)で70barの圧力下で維持した。
【0089】
該粗生成物の蒸留による後処理を、西独国特許出願公開第2807172号明細書(DE 28 07 172 A1)のp.12に記載されたように、該粗生成物の蒸留による分離により、実施した。アセトン、メシチルオキシド及びアンモニア(該ジアセトンアミンの分解生成物として)を含む最初の3つの留分を、反応物として新しいアセトンと一緒に使用した。
【0090】
連続操作中に確立された得られた粗生成物の組成は、西独国特許出願公開第2807172号明細書(DE 28 07 172 A1)に記載されたとおりであった:アセトン64.5質量%、メシチルオキシド4.6質量%、ジアセトンアミン4.0質量%、含窒素中間留分7.6質量%、トリアセトンアミン18.8質量%及びより高沸点の化合物0.5質量%。
【0091】
連続的に実施して、69.9%のTAA収率が、この実施態様により得られた(全部で使用されたアセトンの量及び変換率を基準として)。
【0092】
例2(本発明による)
該比較例に記載された手順を繰り返したが、次の点で相違する:
最初の3つの留分に相当する留出物流を、新しい冷却したアセトンと向流で混合し、ついで反応物として再使用した。この方法を連続的に実施する際に、アセトン63.5質量%、メシチルオキシド10.4質量%、ジアセトンアミン6.3質量%、含窒素中間留分4.9質量%、トリアセトンアミン13.7質量%及びより高沸点の化合物1.2%の粗生成物組成が確立される。
【0093】
したがって、該粗生成物中のTAA濃度が、該比較例による粗生成物中よりも低下されるのに対し、TAAの(全部で使用されるアセトンの量及び変換率を基準とした)全収率は、73.6%に増加したことが驚くべきことに見出された。
【0094】
この理由は、例2の粗生成物が、該比較例の粗生成物と比較して、反応物として再使用することができる生成物、例えばメシチルオキシド、アセトン及びジアセトンアミンのより高い割合を有することであることが考えられる。そのうえ、例2による粗生成物中の含窒素中間留分の割合は、該比較例において得られる粗生成物の割合よりも低い。これらの含窒素中間体(すなわちより高分子量の生成物、例えばTMDH-ピリジン)は、反応物として再び使用されることができず、それに応じてさらなる反応にとって損失である。
【0095】
本発明による方法において、従来技術の方法、特に西独国特許出願公開第2807172号明細書(DE 28 07 172 A1)の方法に比べて、副生物の有利な範囲はそれに応じて、該粗生成物中で得られる。同時に、再利用可能な副生物のより高い割合が、結果として、単純なエネルギー効率的な方法で該反応に再供給することができる。このことは、全部で使用されるアセトンの量を基準として、より高いTAA収率をもたらす。
【0096】
本発明の実施態様は次のとおりである:
1. トリアセトンアミンを製造する方法であって、次の工程:
(a)アセトン流SAc1及びアンモニア流SAm1を、触媒K1の存在下で反応させて、トリアセトンアミンと、アセトンとを含む粗生成物流SRP1を得る工程、
(b)アセトンをSRP1から少なくとも部分的に蒸留により除去して、アセトンを含むガス流SAc2を得る工程、
(c)前記ガス流SAc2を、液体アセトン流SAc3中へ向流で少なくとも部分的に吸収させて、液体アセトン流SAc4を得る工程、
(d)工程(a)を繰り返す工程を含み、ここで、前記アセトン流SAc4が、アセトン流SAc1として使用される、前記方法。
2. 工程(b)において行われるSRP1からのアセトンの少なくとも部分的な蒸留による除去を、蒸留塔中で実施する、前記1.に記載の方法。
3. 工程(b)における蒸留において使用される温度範囲が、トリアセトンアミンの沸点を下回る、前記1.又は2.に記載の方法。
4. 工程(b)に関して粗生成物流SRP1からのアセトンの蒸留による除去の前及び/又は最中に、水を粗生成物流SRP1に添加し、かつホロン、ジアセトンアルコール、ジアセトンアミン、アセトニン、及びイソホロンからなる群から選択される、粗生成物流SRP1中の前記副生物のうち少なくとも1種を、水と少なくとも部分的に反応させて、粗生成物流SRP1中の前記副生物のうち少なくとも1種を、少なくとも部分的にアセトンへと開裂させる、前記1.~3.のいずれかに記載の方法。
5. 工程(a)を20℃~180℃の温度で実施する、前記1.~4.のいずれかに記載の方法。
6. 工程(a)において使用されるアセトンの、工程(a)において使用されるアンモニアに対するモル比が、3:1~20:1である、前記1.~5.のいずれかに記載の方法。
7. K1が不均一系触媒である、前記1.~6.のいずれかに記載の方法。
8. 工程(c)において、工程(b)において得られたガス流SAc2中のアセトンの一部を前記液体アセトン流SAc3中へ吸収させ、かつ残りの部分を凝縮させる、前記1.~7.のいずれかに記載の方法。
9. 前記方法を連続的に実施する、前記1.~8.のいずれかに記載の方法。