(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】機能性ミトコンドリアで富化された哺乳動物細胞
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230417BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20230417BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230417BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230417BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230417BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230417BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20230417BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230417BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230417BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230417BHJP
C12N 5/077 20100101ALN20230417BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20230417BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K38/43
A61P7/06
A61P9/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/28
A61P27/02
A61P43/00 111
C12N5/077
C12N5/0789
(21)【出願番号】P 2021142214
(22)【出願日】2021-09-01
(62)【分割の表示】P 2017544332の分割
【原出願日】2016-02-24
【審査請求日】2021-09-30
(32)【優先日】2015-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517287615
【氏名又は名称】ミノヴィア セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】イヴジ-オハナ,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】ハラヴィー,ウリエル
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0107285(US,A1)
【文献】Food Funct,2015年,6,401-408
【文献】Nature medicine,2012年05月,18,759-766
【文献】Nature,1982年03月,295,605-607
【文献】PNAS,2006年,Vol. 103, No. 5,pp. 1283-1288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/28
A61K 38/43
A61P 7/06
A61P 9/00
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 25/08
A61P 25/28
A61P 27/02
A61P 43/00
C12N 5/077
C12N 5/0789
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とするヒト患者のミトコンドリア疾患の治療に使用するための、ミトコンドリアで富化されたヒトCD34
+骨髄細胞を含む医薬組成物であって、
前記ヒトCD34
+骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者またはミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取または誘導されており、
前記ミトコンドリアは、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取された単離されたヒトミトコンドリアであり、
ミトコンドリアで富化された前記ヒトCD34
+骨髄細胞のミトコンドリア含有量が、富化される前のミトコンドリア含有量と比べて増加している、医薬組成物。
【請求項2】
クエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを求めることによって、前記CD34
+骨髄細胞のミトコンドリア含有量を求める、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
患者から採取または誘導された前記CD34
+骨髄細胞が、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の骨髄から採取されるか末梢血へ動員されるものであるか、またはミトコンドリア疾患に罹患していない対象の骨髄から採取されるか末梢血へ動員されるものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記CD34
+骨髄細胞が、ミトコンドリア疾患に罹患している患者から採取されるものであり、
(i)正常未満の酸素(O
2)消費速度、
(ii)正常未満のクエン酸シンターゼの含有量または活性レベル、
(iii)正常未満のアデノシン三リン酸(ATP)産生速度、または
(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せ
を示す、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記CD34
+骨髄細胞が、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取されるものであり、
(i)正常な酸素(O
2)消費速度、
(ii)正常なクエン酸シンターゼの含有量または活性レベル、
(iii)正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生速度、または
(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せ
を示す、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記単離ヒトミトコンドリアが、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取されるものであり、
(i)正常な酸素(O
2)消費速度、
(ii)正常なクエン酸シンターゼの含有量または活性レベル、
(iii)正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生速度、または
(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せ
を示す、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ミトコンドリアで富化された前記CD34
+骨髄細胞が、
(i)正常を上回る酸素(O
2)消費速度、
(ii)正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量または活性レベル、
(iii)正常を上回るアデノシン三リン酸(ATP)産生速度、または
(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せ
を示す、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
総ミトコンドリアタンパク質量が、試料中の総細胞タンパク質量の20%~80%である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ミトコンドリアで富化された前記CD34
+骨髄細胞が、シトクロームC還元酵素もシトクロームC還元酵素の活性もミトコンドリアで富化されていない前記CD34
+骨髄細胞に比して富化されていない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記CD34
+骨髄細胞が造血幹細胞である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記CD34
+骨髄細胞が、前記ミトコンドリア疾患に罹患している前記患者に対して自己のものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記CD34
+骨髄細胞が、前記ミトコンドリア疾患に罹患している前記患者に対して外来性のものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ミトコンドリア疾患がミトコンドリア呼吸鎖障害(MRCD)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ミトコンドリア疾患が、LHON(レーバー遺伝性視神経症)、MELAS(ミトコンドリア性ミオパチー、脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症状)、ピアソン症候群、リー症候群、NARP(ニューロパチー、運動失調、網膜色素変性および眼瞼下垂)、MERRF(赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん)、KSS(カーンズ・セイヤー症候群)、MNGIE(筋神経原性の胃腸脳症)、フリードライヒ運動失調症およびアルパース病からなる群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記ミトコンドリア疾患が、LHON、MELAS、ピアソン症候群、リー症候群、NARP、MERRF、およびKSSからなる群より選択される、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ミトコンドリア疾患がLHONである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記ミトコンドリア疾患がMELASである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記ミトコンドリア疾患が、ミトコンドリアDNAの変異を原因とするものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記ミトコンドリア疾患が、核DNAの変異を原因とするものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト骨髄から誘導され機能性ミトコンドリアで富化された細胞、その作製法および上記の細胞を用いる治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、膜で囲まれた直径0.5~1.0μmの細胞小器官の1つであり、ほとんどの真核細胞にみられる。ミトコンドリアはほとんどあらゆる真核細胞にみられ、細胞型によって数および位置が異なる。ミトコンドリアには、それ独自のDNA(mtDNA)が含まれているほか、RNAおよびタンパク質を合成する独自の機構がある。mtDNAに含まれる遺伝子はわずか37種類であり、したがって、哺乳動物体内の遺伝子産物のほとんどは核DNAがコードしている。
【0003】
ミトコンドリアは、真核細胞に不可欠なピルビン酸酸化、アミノ酸、脂肪酸およびステロイドのクレブス回路/代謝などの多数の役割を担っている。しかし、ミトコンドリアの主要な機能は、電子伝達鎖および酸化的リン酸化系(「呼吸鎖」)によってエネルギーをアデノシン三リン酸(ATP)の形で発生させることである。ミトコンドリアが関与する過程としてはほかにも、熱産生、カルシウムイオンの貯蔵、カルシウムシグナル伝達、プログラムされた細胞死(アポトーシス)および細胞増殖が挙げられる。このため、ミトコンドリアの機能不全または機能障害を原因とし治療を必要とする当該技術分野で公知の疾患および障害が多数存在する。
【0004】
細胞内のATP濃度は通常、1~10mMである。ATPは、単純な糖および複雑な糖(炭水化物)または脂質をエネルギー源として利用する酸化還元反応によって産生され得る。複雑な燃料からATPを合成するには、最初にそれを分子量の小さい単純な分子に分解する必要がある。複雑な炭水化物はグルコースおよびフルクトースなどの単純な糖に加水分解される。脂肪(トリグリセリド)は代謝されて脂肪酸とグリセロールになる。
【0005】
グルコースを酸化して二酸化炭素にする過程全体は細胞呼吸として知られ、単一のグルコース分子からATP分子が約30個産生され得る。ATPはいくつかの異なる細胞過程によって産生され得る。真核生物のエネルギー生成に用いられる3つの主な経路は、解糖およびクエン酸回路/酸化的リン酸化(ともに細胞呼吸の構成要素である)ならびにベータ酸化である。好気性の非光合成真核生物によるこのATP産生の大部分は、典型的な細胞の総体積の25%前後を占めることもあるミトコンドリアで起こる。
【0006】
ミトコンドリア疾患は、機能障害を起こしたミトコンドリアを原因とする障害群である。ミトコンドリア疾患には、ミトコンドリア機能に影響を及ぼすミトコンドリアDNAの変異を原因とするものがある。ミトコンドリア疾患のその他の原因として、核DNAの遺伝子のうち産物がミトコンドリア(ミトコンドリアタンパク質)内に輸送されるものに起こる変異のほか、後天性のミトコンドリア病態がある。ミトコンドリア疾患には固有の特徴があり、これは、疾患が遺伝性である場合が多いことおよびミトコンドリアが細胞機能に極めて重要であることの両方が理由となっている。上記の疾患のうち神経筋の症状を呈するサブクラスは多くの場合、ミトコンドリア性ミオパチーと呼ばれる。
【0007】
ミトコンドリア障害には、後天性、遺伝性を問わず、ミトコンドリアDNA(mtDNA)またはミトコンドリア構成要素をコードする核遺伝子に起こる変異を原因とするものがある。このほか、薬物の有害作用、感染症をはじめとする環境的な原因による後天的なミトコンドリア機能障害に起因するものもある。罹患したミトコンドリアの数がある一定のレベルに達したときにミトコンドリア疾患が臨床的に明らかになることもあり、この現象は「閾値発現」と呼ばれる。ミトコンドリアDNAにはエラーをチェックする能力がないため、変異の起こる頻度が高い。つまり、ミトコンドリアDNAの障害は自発的に比較的高い頻度で起こり得るということである。このほか、ミトコンドリアDNAの複製を制御する酵素(いずれも核DNAの遺伝子がコードしている)の欠損がミトコンドリアDNAの変異を引き起こすことがある。ミトコンドリアの機能および生合成の大部分は核DNAによって制御されている。ヒトミトコンドリアDNAがコードする呼吸鎖のタンパク質は13種類にすぎず、ミトコンドリアに向けたものである推定1,500種類のタンパク質および構成要素ほとんどは核にコードされている。核にコードされるミトコンドリア遺伝子の欠損は、貧血、認知症、高血圧症、リンパ腫、網膜症、痙攣および神経発達障害を含めた数百にのぼる臨床的な疾患表現型を引き起こす。
【0008】
レーバー遺伝性視神経症(LHON)またはレーバー視神経萎縮は、網膜神経節細胞(RGC)およびその軸索のミトコンドリア遺伝性(母親から子孫に伝わる)の変性であり、主として若年成人男性にみられ、中心視野が急性または亜急性に失われる。ただし、LHONの主な原因は(核ではなく)ミトコンドリアのゲノムの変異であり、胚にミトコンドリアを与えるのは卵子のみであるため、LHONは母親のみを通じて伝わる。LHONは通常、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の病原性の点変異3種類のうちの1つに起因する。この3種類の変異は、ミトコンドリアの酸化的リン酸化鎖の複合体IのND4サブユニット、ND1サブユニットおよびND6サブユニットの遺伝子で、それぞれ11778位のヌクレオチドがGからAに、3460位のヌクレオチドがGからAに、14484位のヌクレオチドがTからCに変異したものである。これらの変異は、細胞のエネルギー産生量を減少させ、これが特定の視神経細胞に細胞損傷および細胞死を引き起こし得る。LHON変異があると、男性の平均50%、女性の平均15%が生涯のうちに視力を失うことになるが、現時点では、家族の誰が症状を発現するのかは専門化にもわからない。
【0009】
ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様発作(MELASと略される)は、ミトコンドリア細胞症のファミリーの1つであり、MERRFおよびレーバー遺伝性視神経症も同ファミリーに含まれる。この疾患は男女とも発症する可能性がある。MELASはミトコンドリアDNAの遺伝子の変異を原因とする。MELASで影響を受ける遺伝子の一部(MT-ND1、MT-ND5)は、酸素および単純な糖からエネルギーへの変換を促すミトコンドリアのNADHデヒドロゲナーゼ(複合体Iとも呼ばれる)の一部をなすタンパク質をコードする。これ以外の遺伝子(MT-TH、MT-TL1およびMT-TV)はミトコンドリア特異的転移RNA(tRNA)をコードする。MELASの全症例のうちMT-TL1の変異を原因とするものは80%を超える。この変異によって、ミトコンドリアがタンパク質を生成し、酸素を利用し、エネルギーを産生する能力が損なわれる。
【0010】
国際公開第2013/002880号には、妊娠促進法に使用し、成熟卵母細胞の質を回復させたり、卵原幹細胞を増強したり、その派生物(例えば、細胞質または単離ミトコンドリア)を改善したりする生体エネルギー物質を含む組成物および方法が記載されている。
【0011】
本発明者らの国際公開第2013/035101号は、ミトコンドリア組成物およびそれを用いる治療法に関するものであり、部分的に精製した機能性ミトコンドリアの組成物のほか、必要とする対象に同組成物を投与することによってミトコンドリア機能を増大させることから利益が得られる病態の治療に同組成物を使用する方法が開示されている。
【0012】
ミトコンドリア疾患に対する治療選択肢については研究が進められているものの、その数は限られており、多くの場合、ビタミン類が処方されるが、その有効性を示す証拠は少ない。このほか、膜透過性抗酸化剤、ピルビン酸塩およびN-アセチルシステインがミトコンドリア機能障害の改善に何らかの役割を果たすことが示唆されている。さらに、図面を参照しながら、慣例的な方法および従来の方法と、本願の残りの部分に記載される本発明のいくつかの態様とを比較することにより、上記のシステムの限界および不利な点が当業者に明らかになるであろう。ミトコンドリア疾患に対して効力の高い短期間および長期間の治療法の必要性は未だ満たされていない。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、様々なミトコンドリア疾患を治療するための細胞および方法を提供する。本発明は特に、健常ドナーから採取され機能性ミトコンドリアで富化された骨髄細胞を含む、組成物を提供する。本発明はさらに、患者の治療に異種または自己の「ミトコンドリア富化」骨髄細胞を使用する方法を提供する。ミトコンドリア疾患に罹患している患者の骨髄細胞を準備し、ex-vivoで処理し、同じ患者に戻すことにより、同種細胞療法を含む他の方法よりも大きな利益がもたらされる。例えば、集団をスクリーニングして患者とヒト白血球抗原(HLA)が一致したドナーを見つけるのは時間もコストもかかる過程であり、必ずしも成功するとは限らないものであるが、提供される方法によってその必要がなくなる。この方法はさらに、患者の身体が同種細胞集団を拒絶しないよう長期間にわたる免疫抑制療法を実施する必要がなくなるという点で有利である。このように、本発明は、患者の身体から欠陥のあるヒト細胞を取り出し、ex-vivoで処理し、同じ患者に戻すという独自のex-vivo是正療法の方法論を提供する点で有利である。さらに、本発明は、いかなる理論にも機序にも束縛されるものではないが、体全体の様々な組織に分布し、富化された健常なミトコンドリアを患者の損傷細胞に移行させる骨髄細胞の投与に関する。
【0014】
本発明は、部分的には、単離機能性ミトコンドリアがインタクトの線維芽細胞および骨髄細胞に侵入することが可能であり、欠陥のあるミトコンドリアを有する線維芽細胞および骨髄細胞を機能性ミトコンドリアで処理することによってミトコンドリア含有量、細胞生存能およびATP産生量が増大するという驚くべき発見に基づくものである。
【0015】
さらには、驚くべきことに、骨髄細胞の方が線維芽細胞よりもミトコンドリアの富化を受けやすく、ヒト骨髄細胞の方がマウス骨髄細胞よりもミトコンドリアの富化を受けやすいことがわかった。さらには、驚くべきことに、骨髄細胞が機能性ミトコンドリアで富化される程度は、その濃度または相対的接近度に依存するため、これを操作し得ることがわかった。
【0016】
さらに、本発明は、部分的には、最初に骨髄細胞に含まれていた機能性ミトコンドリアが、骨髄細胞を眼球などの器官に直接注射した後、in vivoで自発的に器官全体に分布し得るという驚くべき発見に基づくものである。このような発見は、機能性ミトコンドリアを送達するための様々な細胞プラットフォームおよびミトコンドリア疾患の治療へのその使用の土台となる。
【0017】
いかなる理論にも機序にも束縛されるものではないが、骨髄細胞と単離機能性ミトコンドリアとの共インキュベーションにより、インタクトの機能性ミトコンドリアの骨髄細胞内への移行が促進されるとする仮説が立てられる。さらに、本明細書で初めて示される有益な効果をもたらすのは、是正成分、すなわち、単離機能性ミトコンドリアにみられ、ミトコンドリア疾患を有する患者の骨髄細胞のミトコンドリアには欠けている、または欠陥がある成分の移行であるとする仮説が立てられる。上記の仮説に束縛されるものではないが、本発明は、ミトコンドリア疾患の患者の骨髄細胞であって、病的でないミトコンドリア活性を十分に有する骨髄細胞を初めて提供するものである。
【0018】
同じく、いかなる理論にも機序にも束縛されるものではないが、本発明が提供する組成物および方法は「置換療法」の一形態であると考えられる。本発明の原理によれば、変異遺伝子および/またはその欠損タンパク質もしくは非機能性タンパク質産物が野生型の機能性ミトコンドリアの遺伝子および/または機能性タンパク質に置き換わる(またはそれによって問題のないものになる)。インタクトの機能性ミトコンドリアをミトコンドリア疾患患者の骨髄細胞に融合または移行させることによって、野生型ミトコンドリア遺伝子および機能性ミトコンドリアタンパク質がともにもたらされる。
【0019】
本発明は、一態様では、ヒト骨髄細胞を機能性ミトコンドリアで富化するex vivoの方法を提供し、この方法は、(i)ミトコンドリア疾患に罹患している患者またはミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取または誘導された複数のヒト骨髄細胞を含む第一の組成物を準備する段階と;(ii)ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取された複数の単離ヒト機能性ミトコンドリアを含む第二の組成物を準備する段階と;(iii)第一の組成物のヒト骨髄細胞と、第二の組成物のヒト機能性ミトコンドリアとを接触させて、第三の組成物を作製する段階と;(iv)ヒト機能性ミトコンドリアがヒト骨髄細胞に侵入できる条件下で第三の組成物をインキュベートすることにより、前記ヒト骨髄細胞を前記ヒト機能性ミトコンドリアで富化して、第四の組成物を作製する段階とを含み;第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量が、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも50%高い。
【0020】
ある特定の実施形態では、クエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを求めることによって、第一の組成物中または第四の組成物中の骨髄細胞のミトコンドリア含有量を求める。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0021】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は骨髄造血細胞を含む。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は赤血球生成細胞を含む。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は多能性造血幹細胞(HSC)を含む。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、骨髄系共通前駆細胞、リンパ球系共通前駆細胞またはその任意の組合せを含む。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、巨核球、赤血球、肥満細胞、筋芽細胞,好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞またはその任意の組合せを含む。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は間葉系幹細胞を含む。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0022】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は骨髄前駆細胞抗原CD34発現する(CD34+)。
【0023】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の骨髄から採取されるか、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の骨髄から採取されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の骨髄から動員されるか、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の骨髄から動員されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の骨髄から直接採取されるか、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の骨髄から直接採取されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の骨髄から間接的に採取されるか、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の骨髄から間接的に採取されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の末梢血から採取されるか、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の末梢血から採取されるものである。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0024】
ある特定の実施形態では、上記の方法は前段階をさらに含み、この段階は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者またはミトコンドリア疾患に罹患していない対象に骨髄細胞の末梢血への動員を誘導する薬剤を投与することを含む。ある特定の実施形態では、薬剤は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、1,1’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]-ビス[1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン](プレリキサフォル)、その塩およびその任意の組合せからなる群より選択される。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、上記の方法は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の末梢血またはミトコンドリア疾患に罹患していない対象の末梢血から骨髄細胞を単離する段階をさらに含む。ある特定の実施形態では、単離をアフェレーシスにより実施する。
【0025】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、インキュベーション前またはインキュベーション時に第三の組成物中の骨髄細胞および機能性ミトコンドリアを濃縮することをさらに含む。ある特定の実施形態では、上記の方法は、インキュベーション前、インキュベーション時またはインキュベーション後に第三の組成物を遠心分離することをさらに含む。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0026】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者から採取されるものであり、(i)正常未満の酸素(O2)消費速度;(ii)正常未満のクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)正常未満のアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルが、第一の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルよりも少なくとも50%低い。
【0027】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取されるものであり、(i)正常な酸素(O2)消費速度;(ii)正常なクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0028】
ある特定の実施形態では、第二の組成物中の単離ヒト機能性ミトコンドリアは、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取されるものであり、(i)正常な酸素(O2)消費速度;(ii)正常なクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0029】
ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞は、(i)正常を上回る酸素(O2)消費速度;(ii)正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)正常を上回るアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0030】
ある特定の実施形態では、第二の組成物中の総ミトコンドリアタンパク質量は、試料中の総細胞タンパク質量の20%~80%である。
【0031】
ある特定の実施形態では、第四の組成物は、シトクロームC還元酵素もシトクロームC還元酵素の活性も第一の組成物に比して富化されていない。
【0032】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はミトコンドリア呼吸鎖疾患(MRCD)である。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、LHON(レーバー遺伝性視神経症);MELAS(ミトコンドリア性ミオパチー、脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症状);ピアソン症候群;リー症候群;NARP(ニューロパチー、運動失調、網膜色素変性および眼瞼下垂);MERRF(赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん);KSS(カーンズ・セイヤー症候群);MNGIE(筋神経原性の筋神経原性の胃腸脳症);フリードライヒ運動失調症;およびアルパース病からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、LHON、MELAS、ピアソン症候群、リー症候群、NARP、MERRFおよびKSSからなる群より選択される。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はLHONである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はMELASである。
【0033】
本発明は、別の態様では、上記の方法のいずれか1つの実施形態によって得られる、機能性ミトコンドリアで富化された複数のヒト骨髄細胞をさらに提供する。
【0034】
本発明は、別の態様では、複数のヒト骨髄細胞をさらに提供し、骨髄細胞は、(a)正常を上回るミトコンドリア含有量を示すか;(b)正常を上回る酸素(O2)消費速度を示すか;(c)正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを示すか;(d)CD34+であるか;(e)その任意の組合せである。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0035】
ある特定の実施形態では、上記の複数のヒト骨髄細胞は、正常を上回るミトコンドリア含有量を示し;正常を上回る酸素(O2)消費速度を示し;正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを示し;かつCD34+である。
【0036】
本発明は、別の態様では、複数の上記のヒト骨髄細胞を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0037】
本発明は、別の態様では、ヒト患者のミトコンドリア疾患を治療する方法に使用する上記の医薬組成物をさらに提供する。
【0038】
本発明は、別の態様では、治療を必要とするヒト患者のミトコンドリア疾患を治療する方法であって、患者に上記の医薬組成物を投与する段階を含む方法をさらに提供する。
【0039】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者に対して自己のものである。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者に対して外来性のものである。ある特定の実施形態では、上記の方法は、患者にミトコンドリア生合成を促進する薬剤を投与する段階をさらに含む。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア生合成を促進する薬剤は、エリスロポエチン(EPO)またはその塩である。ある特定の実施形態では、上記の方法は、患者に患者と骨髄細胞との間の有害な免疫原性反応を防ぐ、遅らせる、最小限に抑える、または消失させる薬剤を投与する段階をさらに含む。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、有害な免疫原性反応は移植片対宿主病(GvHD)である。ある特定の実施形態では、上記の方法は、医薬組成物の投与の前に患者に移植前処置剤を投与する段階をさらに含む。
【0040】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はミトコンドリアDNAの変異を原因とするものである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は核DNAの変異を原因とするものである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はMRCDである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、LHON;MELAS;ピアソン症候群;リー症候群;NARP;MERRF;KSS;MNGIE;フリードライヒ運動失調症;およびアルパース病からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、LHON、MELAS、ピアソン症候群、リー症候群、NARP、MERRFおよびKSSからなる群より選択される。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はLHONである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はMELASである。
【0041】
以下に記載する詳細な説明から、本発明のさらなる実施形態および適用性の全範囲が明らかになるであろう。ただし、この詳細な説明から、本発明の趣旨と範囲に含まれる様々な変更および修正が当業者に明らかになるため、詳細な説明および具体例は本発明の好ましい実施形態を示すものであるが、単に説明を目的に記載されるものであることを理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】ヒト胎盤細胞から単離したミトコンドリアを加えて(Mito)または加えず(対照)にインキュベートしたヒト肝細胞のクエン酸シンターゼ(CS)活性の比較を示す棒グラフである。
【
図2】蛍光共焦点顕微鏡法によって得た3つの顕微鏡像であり、ミトコンドリアのGFPを発現するマウス線維芽細胞(左パネル)、単離したRFP標識ミトコンドリアとのインキュベーション(中央パネル)および重ね合せ(右パネル)を示している。
【
図3】未処置マウス線維芽細胞(対照)、ミトコンドリア複合体Iの不可逆的阻害剤で処置したマウス線維芽細胞(ロテノン)またはロテノンおよびマウス胎盤ミトコンドリアで処置したマウス線維芽細胞(ロテノン+ミトコンドリア)のATPレベルの比較を示す棒グラフである。データは平均値±SEMで表されており、(*)p値<0.05である。RLUは相対発光量を表す。
【
図4】蛍光共焦点顕微鏡法によって得た4つの顕微鏡像であり、マウスメラノーマ細胞から単離したGFP標識ミトコンドリアとインキュベートしたマウス骨髄細胞を示している。
【
図5】マウスメラノーマ細胞から単離したGFP標識ミトコンドリアの量を変えて、遠心分離を実施するか実施せずにインキュベートしたマウス骨髄(BM)細胞のクエン酸シンターゼ(CS)活性の比較を示す棒グラフである。
【
図6A】GFP標識ミトコンドリアの量を漸増させて富化した後のマウスBM細胞のCS活性の比較を示す棒グラフである。
【
図6B】上記の細胞(黒色のバー)のシトクロームc還元酵素活性とGFP標識ミトコンドリアの活性(灰色のバー)との比較を示す棒グラフである。
【
図7A】対照である未処置マウス眼球のGFP染色の結果を示す図である。
【
図7B】GFP標識ミトコンドリアと遠心分離した後にインキュベートしたマウスBM細胞を注射したマウス眼球のGFP染色の結果を示す図である。(*)網膜神経節細胞層の血管の内側のGFP標識細胞。(→)血管壁を裏打ちする細胞。
【
図8A】mtDNA含有細胞(ミトコンドリア、下の3つのパネル)から単離したミトコンドリアによるミトコンドリアDNA(mtDNA)欠損ヒト143B骨肉腫細胞(対照、上の3つのパネル)の生存能の増大を示す図である。
【
図8B】
図8Aに示される細胞のATPレベルの比較を示す棒グラフである。
【
図9A】対照の未処置ヒトBM細胞およびヒト胎盤細胞から単離したGFP標識ミトコンドリアと遠心分離を実施するか実施せずにインキュベートしたヒトBM細胞のCS活性の比較を示す棒グラフである。
【
図9B】対照の未処置ヒトBM細胞およびヒト胎盤細胞から単離したGFP標識ミトコンドリアと遠心分離を実施してインキュベートしたヒトBM細胞のATPレベルの比較を示す棒グラフである。
【
図10A】GFP標識ミトコンドリアとインキュベートしていないヒトBM細胞のFACS解析の結果を示す図である。
【
図10B】GFP標識ミトコンドリアと遠心分離した後にインキュベートしたヒトBM細胞のFACS解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(発明の詳細な説明)
本発明は、細胞プラットフォーム、より具体的には、治療上意味のある量の完全に機能する健常なミトコンドリアを標的化送達および全身送達するための骨髄由来細胞プラットフォームを提供する。本発明はさらに、このような細胞プラットフォームを作製する方法およびミトコンドリア疾患の治療にそれを用いる方法を提供する。
【0044】
機能性ミトコンドリアで高度に富化された骨髄細胞を提供することにより、これまで用いることができなかったミトコンドリア疾患の特定の治療法が可能になる。例えば、機能性ミトコンドリアを疾患細胞内に移植することによって、LHON(レーバー遺伝性視神経症)およびMELAS(ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様発作)などのミトコンドリアDNAの変異(欠失/挿入を含む)を原因とするトコンドリア疾患を治療し、疾患を長期間、可能性としては生涯にわって解消することがこれで可能になる。罹患細胞が骨髄細胞であるか、骨髄細胞から誘導されたものである場合はほかにも、投与した骨髄細胞が罹患細胞と置き換わり、同じく長期間、可能性としては生涯にわたって疾患が解消され得る。ほかの例では、MNGIEおよびフリードライヒ運動失調症のように、ミトコンドリア疾患が核DNAの変異(欠失/挿入を含む)を原因とするものであり、罹患細胞が骨髄細胞であるか、骨髄細胞から誘導されたものである場合、投与した骨髄細胞が罹患細胞と置き換わり、同じく長期間、可能性としては生涯にわたって疾患が解消され得る。本発明は、ミトコンドリア疾患の病理学的状態の是正を持続させ、その結果、これらの疾患を解消する手段および方法を初めて提供するものであることが強調されるべきである。
【0045】
本発明は、いくつかの驚くべき発見、とりわけ、(i)骨髄細胞がインタクトの機能性ミトコンドリアで富化される程度はその濃度に依存するため、これを操作し得る、(ii)骨髄細胞は線維芽細胞よりもミトコンドリアの富化を受けやすい、(iii)ヒト骨髄細胞はマウス骨髄細胞よりもミトコンドリアの富化を受けやすく、その天然状態のミトコンドリア含有量の8倍超に達する、(iv)正常な機能性ミトコンドリアで富化された骨髄細胞はそのようなミトコンドリアを患者の細胞に移行させることが可能であるという発見に基づくものである。
【0046】
本発明は、一態様では、ヒト骨髄細胞を機能性ミトコンドリアで富化するex vivoの方法を提供し、この方法は、(i)ミトコンドリア疾患に罹患している患者またはミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取または誘導された複数のヒト骨髄細胞を含む第一の組成物を準備する段階と;(ii)ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取された複数の単離ヒト機能性ミトコンドリアを含む第二の組成物を準備する段階と;(iii)第一の組成物のヒト骨髄細胞と、第二の組成物のヒト機能性ミトコンドリアとを接触させて、第三の組成物を作製する段階と;(iv)ヒト機能性ミトコンドリアがヒト骨髄細胞に侵入できる条件下で第三の組成物をインキュベートすることにより、前記ヒト骨髄細胞を前記ヒト機能性ミトコンドリアで富化して、第四の組成物を作製する段階とを含み;第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量が、第一の組成物中のヒト骨髄細胞ミトコンドリア含有量よりも少なくとも50%高い。
【0047】
本明細書で使用される「ex vivoの方法」という用語は、もっぱらヒト体外で実施する段階を含む任意の方法を指す。
【0048】
本明細書で使用される「富化」という用語は、ヒト細胞のミトコンドリア含有量、例えばインタクトのミトコンドリアの数を増大させることを目的とする任意の操作を指す。
【0049】
本明細書で使用される「ヒト骨髄細胞」という用語は一般に、ヒト骨髄に天然に存在するあらゆるヒト細胞およびヒト骨髄に天然に存在するあらゆる細胞集団を指す。
【0050】
本明細書で使用される「機能性ミトコンドリア」という用語は、病的でない正常なレベルの活性を示すミトコンドリアを指す。ミトコンドリアの活性は、O2消費量、ATP産生量およびCS活性レベルなどの当該技術分野で周知の様々な方法によって測定することができる。
【0051】
本明細書で使用される「ミトコンドリア疾患に罹患している患者またはミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取された骨髄細胞」という語句は、患者または対象から単離する時点で骨髄細胞であった細胞を指す。
【0052】
本明細書で使用される「ミトコンドリア疾患に罹患している患者またはミトコンドリア疾患に罹患していない対象から誘導された骨髄細胞」という語句は、患者または対象の体内では骨髄細胞ではなく、操作されて骨髄細胞になった細胞を指す。本明細書で使用される「操作」という用語は、体細胞を未分化状態に再プログラム化して人工多能性幹細胞(iPS)にし、任意選択でiPSをさらに再プログラム化して所望の系列または集団の細胞(Chen M.ら,IOVS,2010,Vol.51(11),p.5970-5978)、例えば骨髄細胞(Xu Y.ら,2012,PLoS ONE,Vol.7(4),page e34321)などにする方法として当該分野で知られているもの(Yu J.ら,Science,2007,Vol.318(5858),p.1917-1920)をいずれか1つ用いることを指す。
【0053】
本明細書で使用される「ミトコンドリア疾患に罹患している患者」という用語は、ミトコンドリア疾患であると診断されたヒト対象、ミトコンドリア疾患を有することが疑われるヒト対象またはミトコンドリア疾患を発症するリスクのあるグループに含まれるヒト対象を指す。特定のミトコンドリア疾患は遺伝性であることから、ミトコンドリア疾患であると診断された対象の子孫は、ミトコンドリア疾患を発症するリスクのあるグループと見なされる。
【0054】
本明細書で使用される「ミトコンドリア疾患に罹患していない対象」という用語は、ミトコンドリア疾患であると診断されていないヒト対象、ミトコンドリア疾患を有することが疑われないヒト対象および/またはミトコンドリア疾患を発症するリスクのあるグループに含まれないヒト対象を指す。
【0055】
本明細書で使用される「人工多能性幹細胞(iPS)」という用語は、成人細胞から作製したヒト多能性幹細胞を指す。
【0056】
本明細書で使用される「単離ヒト機能性ミトコンドリア」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取された細胞から単離されたインタクトのミトコンドリアを指す。
【0057】
本明細書で使用される「ヒト機能性ミトコンドリアがヒト骨髄細胞に侵入できる条件」という用語は一般に、時間、温度およびミトコンドリアと骨髄細胞との間の接近度などのパラメータを指す。上記の条件を特定することは当業者の能力の範囲内にあり、そのような条件が本発明により提供される。例えば、ヒト細胞およびヒト細胞系を液体培地中でインキュベートし、組織培養恒温器などの無菌環境中、37℃、5%CO2雰囲気下で維持するのが慣例的なものとなっている。
【0058】
本明細書で使用される「ミトコンドリア含有量」という用語は、細胞内の機能性ミトコンドリアの量を指す。
【0059】
ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも100%、150%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、550%、600%、650%、700%、750%、800%、850%、900%、950%または1000%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも100%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも200%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも300%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも400%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも500%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも600%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも700%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも750%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも少なくとも800%高い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量は、第一の組成物中のヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量よりも100%~7900%、200%~6900%、300%~5900%、400%~4900%、500%~3900%、600%~2900%、700%~1900%または800%~1400%高い。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0060】
ある特定の実施形態では、第一の組成物は新鮮なものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物は、凍結させたのち解凍したものである。ある特定の実施形態では、第二の組成物は新鮮なものである。ある特定の実施形態では、第二の組成物は、凍結させたのち解凍したものである。
【0061】
クエン酸シンターゼ(CS)は、ミトコンドリアのマトリックスに局在するが、核DNAによってコードされている。クエン酸シンターゼは、クレブス回路の第一段階に関与し、インタクトのミトコンドリアの存在を示す定量的酵素マーカーとしてよく用いられる(Larsen S.ら,2012,J.Physiol.,Vol.590(14),p.3349-3360;Cook G.A.ら,Biochim.Biophys.Acta.,1983,Vol.763(4),p.356-367)。ある特定の実施形態では、クエン酸シンターゼの含有量を求めることによって、第一の組成物中または第四の組成物中の骨髄細胞のミトコンドリア含有量を求める。ある特定の実施形態では、クエン酸シンターゼの活性レベルを求めることによって、第一の組成物中または第四の組成物中の骨髄細胞のミトコンドリア含有量を求める。ある特定の実施形態では、第一の組成物中または第四の組成物中の骨髄細胞のミトコンドリア含有量はクエン酸シンターゼの含有量と相関する。ある特定の実施形態では、第一の組成物中または第四の組成物中の骨髄細胞のミトコンドリア含有量はクエン酸シンターゼの活性レベルと相関する。
【0062】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は骨髄造血細胞を含む。本明細書で使用される「骨髄造血細胞」という用語は、骨髄造血、例えば骨髄およびそれから生じるあらゆる細胞、すなわち全血液細胞の産生に関与する細胞を指す。
【0063】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は赤血球生成細胞を含む。本明細書で使用される「赤血球生成細胞」という用語は、赤血球生成、例えば赤血球の産生に関与する細胞を指す。
【0064】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は多能性造血幹細胞(HSC)を含む。本明細書で使用される「多能性造血幹細胞」または「血球芽細胞」という用語は、造血過程を経てほかのあらゆる血液細胞を生じる幹細胞を指す。
【0065】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、骨髄系共通前駆細胞、リンパ球系共通前駆細胞またはその任意の組合せを含む。本明細書で使用される「骨髄系共通前駆細胞」という用語は、骨髄系細胞を生じる細胞を指す。本明細書で使用される「リンパ球系共通前駆細胞」という用語は、リンパ球を生じる細胞を指す。
【0066】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、巨核球、赤血球、肥満細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞またはその任意の組合せを含む。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0067】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は間葉系幹細胞を含む。本明細書で使用される「間葉系幹細胞」という用語は、骨芽細胞(骨細胞)、軟骨細胞、筋細胞および脂肪細胞を含めた様々な細胞型に分化することができる多能性間質細胞を指す。
【0068】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は骨髄造血細胞からなる。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は赤血球生成細胞からなる。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は多能性造血幹細胞(HSC)からなる。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、骨髄系共通前駆細胞、リンパ球系共通前駆細胞またはその任意の組合せからなる。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、巨核球、赤血球、肥満細胞、筋芽細胞、好塩基球、好中球、好酸球、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、Tリンパ球、Bリンパ球、形質細胞、細網細胞またはその任意の組合せからなる。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は間葉系幹細胞からなる。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0069】
CD34抗原としても知られる造血前駆細胞抗原CD34は、ヒトではCD34遺伝子によってコードされるタンパク質である。CD34は、細胞表面糖タンパク質の分化クラスターの1つであり、細胞間接着因子として機能する。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は骨髄前駆細胞抗原CD34を発現する(CD34+である)。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、その外膜に骨髄前駆細胞抗原CD34を提示する。
【0070】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者から直接誘導されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から直接誘導されるものである。本明細書で使用される「直接誘導される(もの)」という用語は、ほかの細胞から直接誘導された骨髄細胞を指す。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は造血幹細胞(HS)から誘導されたものである。
【0071】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者から間接的に誘導されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から間接的に誘導されるものである。本明細書で使用される「間接的に誘導される(もの)」という用語は、非骨髄細胞から誘導された骨髄細胞を指す。ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、操作されて人工多能性幹細胞(iPS)になった体細胞から誘導されたものである。
【0072】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の骨髄から直接採取されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の骨髄から直接採取されるものである。本明細書で使用される「直接採取される(もの)」という用語は、例えば外科手術またはシリンジによる針からの吸引などの手段によって、骨髄自体から採取された骨髄細胞を指す。
【0073】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の骨髄から間接的に採取されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の骨髄から間接的に採取されるものである。本明細書で使用される「間接的に採取される(もの)」という用語は、骨髄自体以外の位置から採取された骨髄細胞を指す。
【0074】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の末梢血から採取されるものである。ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の末梢血から採取されるものである。本明細書で使用される「末梢血」は、血液系を循環している血液を指す。
【0075】
ある特定の実施形態では、上記の方法は前段階をさらに含み、前段階は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者に骨髄細胞の末梢血への動員を誘導する薬剤を投与することを含む。ある特定の実施形態では、上記の方法は前段階をさらに含み、前段階は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象に骨髄細胞の末梢血への動員を誘導する薬剤を投与することを含む。
【0076】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞の末梢血への動員を誘導する薬剤は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、1,1’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ビス[1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン](プレリキサフォル、CAS番号155148-31-5)、その塩およびその任意の組合せからなる群より選択される。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0077】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者の末梢血から骨髄細胞を単離する段階をさらに含む。ある特定の実施形態では、上記の方法は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象の末梢血から骨髄細胞を単離する段階をさらに含む。本明細書で使用される「末梢血から単離する」という用語は、血液のほかの成分から骨髄細胞を単離することを指す。
【0078】
アフェレーシスでは、1つの特定の成分を分離し残りの成分を循環中に戻す装置にドナーまたは患者の血液を通過させる。したがって、アフェレーシスは体外で実施する医学的処置の1つである。ある特定の実施形態では、単離をアフェレーシスにより実施する。
【0079】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、インキュベーション前に第三の組成物中の骨髄細胞および機能性ミトコンドリアを濃縮することをさらに含む。ある特定の実施形態では、上記の方法は、インキュベーション時に第三の組成物中の骨髄細胞および機能性ミトコンドリアを濃縮することをさらに含む。
【0080】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、インキュベーション前に第三の組成物を遠心分離することをさらに含む。ある特定の実施形態では、上記の方法は、インキュベーション時に第三の組成物を遠心分離することをさらに含む。ある特定の実施形態では、上記の方法は、インキュベーション後に第三の組成物を遠心分離することをさらに含む。
【0081】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者から採取されるものであり、(i)正常未満の酸素(O2)消費速度;(ii)正常未満のクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)正常未満のアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0082】
本明細書で使用される「正常未満の酸素(O2)消費速度」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられる酸素(O2)消費速度から導かれるか、これに対応する対照酸素(O2)消費速度よりも実質的に小さい酸素(O2)消費速度を指す。
【0083】
本明細書で使用される「正常未満のクエン酸シンターゼの含有量または活性レベル」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象のクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルから導かれるか、これに対応するクエン酸シンターゼの対照含有量値または活性レベルよりも実質的に低いクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを指す。
【0084】
本明細書で使用される「正常未満のアデノシン三リン酸(ATP)産生速度」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられるアデノシン三リン酸(ATP)産生速度から導かれるか、これに対応する対照アデノシン三リン酸(ATP)産生速度よりも実質的に小さいアデノシン三リン酸(ATP)産生速度を指す。
【0085】
ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「実質的に小さい(低い)」という用語は、正常値と正常値未満との間の統計的に有意な減少を指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「実質的に小さい(低い)」という用語は、病的減少、すなわち、実質的に小さい(低い)値を原因とする少なくとも1つの病的症状が明らかになるレベルを指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「正常未満」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられる対応する値の2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、6分の1、7分の1、8分の1、9分の1または10分の1の値を指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「正常未満」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられる対応する値の少なくとも2分の1、少なくとも3分の1、少なくとも4分の1、少なくとも5分の1、少なくとも6分の1、少なくとも7分の1、少なくとも8分の1、少なくとも9分の1または少なくとも10分の1の値を指す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0086】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者から採取されるものであり、(i)ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象から採取された骨髄細胞の酸素(O2)消費速度と比較して正常未満の酸素(O2)消費速度;(ii)ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象から採取された骨髄細胞のクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベルと比較して正常未満のクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象から採取された骨髄細胞のアデノシン三リン酸(ATP)産生速度と比較して正常未満のアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。
【0087】
複数の細胞またはミトコンドリアに関する任意の測定可能な特徴、特性または態様への言及はいずれも、その複数の細胞またはミトコンドリアの測定可能な特徴、特性または態様の平均値に関するものであることが強調されるべきである。
【0088】
ヘテロプラスミーとは、1つの細胞または個体に2種類以上(野生型/機能性対変異型/非機能性)のミトコンドリアDNAが存在することであり、ミトコンドリア疾患の重症度を考慮する際に重要な因子となる。健常な表現型ではヘテロプラスミーのレベルが低く(機能性のミトコンドリアの量が十分である)、病的状態ではヘテロプラスミーのレベルが高い(機能性のミトコンドリアの量が不十分である)。ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルが、第一の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルよりも少なくとも50%低い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルが、第一の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルよりも少なくとも66%低い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルが、第一の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルよりも少なくとも75%低い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルが、第一の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルよりも少なくとも80%低い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルが、第一の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルよりも少なくとも87%低い。ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルが、第一の組成物中の骨髄細胞のヘテロプラスミーのレベルよりも少なくとも90%低い。
【0089】
ある特定の実施形態では、第一の組成物中の骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取されるものであり、(i)正常な酸素(O2)消費速度;(ii)正常なクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0090】
本明細書で使用される「正常な酸素(O2)消費速度」および「対照酸素(O2)消費速度」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の細胞またはミトコンドリアにみられる酸素(O2)消費速度を指す。
【0091】
本明細書で使用される「正常なクエン酸シンターゼの含有量または活性レベル」および「対照クエン酸シンターゼの含有量または活性レベル」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象のクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを指す。
【0092】
本明細書で使用される「正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生速度」および「対照アデノシン三リン酸(ATP)産生速度」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の細胞またはミトコンドリアにみられるアデノシン三リン酸(ATP)産生速度を指す。
【0093】
ある特定の実施形態では、第二の組成物中の単離ヒト機能性ミトコンドリアは、ミトコンドリア疾患に罹患していない対象から採取されるものであり、(i)正常な酸素(O2)消費速度;(ii)正常なクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)正常なアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0094】
ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞は、(i)正常を上回る酸素(O2)消費速度;(ii)正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)正常を上回るアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0095】
本明細書で使用される「正常を上回る酸素(O2)消費速度」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられる酸素(O2)消費速度から導かれるか、これに対応する対照酸素(O2)消費速度よりも実質的に大きい酸素(O2)消費速度を指す。
【0096】
本明細書で使用される「正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量または活性レベル」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象のクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルから導かれるか、これに対応するクエン酸シンターゼの対照含有量値または活性レベルよりも実質的に高いクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを指す。
【0097】
本明細書で使用される「正常を上回るアデノシン三リン酸(ATP)産生速度」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられるアデノシン三リン酸(ATP)産生速度から導かれるか、これに対応する対照アデノシン三リン酸(ATP)産生速度よりも実質的に大きいアデノシン三リン酸(ATP)産生速度を指す。
【0098】
ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「実質的に高い(大きい)」という用語は、正常値と正常を上回る値との間の統計的に有意な増大を指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「実質的に高い(大きい)」という用語は、病的でない増大、すなわち、実質的に高い(大きい)値を原因とする病的症状が全くみられないレベルを指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「正常を上回る」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられる対応する値の2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、8.5倍、9倍または10倍の値を指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「正常を上回る」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられる対応する値の少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも8.5倍、少なくとも9倍または少なくとも10倍の値を指す。ある特定の実施形態では、本明細書で使用される「正常を上回る」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞または対応するミトコンドリアにみられる対応する値の2~80倍、3~70倍、4~60倍、5~50倍、6~40倍、7~30倍、8~20倍、8.5~20倍または9~15倍の値を指す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0099】
ある特定の実施形態では、第四の組成物中の骨髄細胞は、(i)ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象から採取された骨髄細胞の酸素(O2)消費速度と比較して正常を上回る酸素(O2)消費速度;(ii)ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象から採取された骨髄細胞クエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベルと比較して正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量もしくは活性レベル;(iii)ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象から採取された骨髄細胞のアデノシン三リン酸(ATP)産生速度と比較して正常を上回るアデノシン三リン酸(ATP)産生速度;または(iv)(i)、(ii)および(iii)の任意の組合せを示す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0100】
ある特定の実施形態では、第二の組成物中の総ミトコンドリアタンパク質量は、試料中の総細胞タンパク質量の20%~80%である。
【0101】
真核生物のNADPH-シトクロームC還元酵素(シトクロームC還元酵素)は、小胞体に局在するフラボタンパク質である。この酵素はNADPHから数種類のオキシゲナーゼに電子を伝達するものであり、そのうち最も重要なのは、生体異物の解毒作用を担うシトクロームP450ファミリーの酵素である。シトクロームC還元酵素は小胞体マーカーとして広く用いられている。ある特定の実施形態では、第二の組成物には、シトクロームC還元酵素もシトクロームC還元酵素の活性も実質的にみられない。ある特定の実施形態では、第四の組成物は、第一の組成物と比較してシトクロームC還元酵素もシトクロームC還元酵素の活性も富化されていない。
【0102】
ミトコンドリア呼吸鎖障害(MRCD)は、分子の欠損がミトコンドリアの酸化的リン酸化系(OXPHOS)に影響を及ぼすことによって細胞の生体エネルギー機構が影響を受ける点で共通する異質な障害群である。臨床的には通常、複数の組織に及ぶものであるが、主に神経系および骨格筋が影響を受ける傾向がみられる。肥大型心筋症または拡張型心筋症および心伝導障害を含めた心臓病の症状の頻度が高く、成人または小児の多系ミトコンドリア障害の一部であったり、頻度は低いが孤発性の臨床病態として発現したりする。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はミトコンドリア呼吸鎖疾患(MRCD)である。
【0103】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、LHON(レーバー遺伝性視神経症);MELAS(ミトコンドリア性ミオパチー、脳筋症、乳酸アシドーシス、脳卒中様症状);ピアソン症候群;リー症候群;NARP(ニューロパチー、運動失調、網膜色素変性および眼瞼下垂);MERRF(赤色ぼろ線維を伴うミオクローヌスてんかん);KSS(カーンズ・セイヤー症候群);MNGIE(筋神経原性の胃腸脳症);フリードライヒ運動失調症;およびアルパース病からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、LHON、MELAS、ピアソン症候群、リー症候群、NARP、MERRFおよびKSSからなる群より選択される。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はLHONである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はMELASである。
【0104】
ある特定の実施形態では、方法は、第四の組成物を凍結させることをさらに含む。ある特定の実施形態では、方法は、第四の組成物を凍結させたのちに解凍することをさらに含む。
【0105】
本発明は、別の態様では、上記の方法によって採取された機能性ミトコンドリアで富化された複数のヒト骨髄細胞をさらに提供する。
【0106】
ある特定の実施形態では、複数のヒト骨髄細胞を凍結させる。ある特定の実施形態では、複数のヒト骨髄細胞を凍結させたのちに解凍する。
【0107】
本発明は、別の態様では、複数のヒト骨髄細胞をさらに提供し、この骨髄細胞は、(a)正常を上回るミトコンドリア含有量を示すか;(b)正常を上回る酸素(O2)消費速度を示すか;(c)正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを示すか;(d)CD34+であるか;(v)(a)、(b)、(c)および(d)の任意の組合せである。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0108】
本明細書で使用される「正常を上回るミトコンドリア含有量」という用語は、ミトコンドリア疾患に罹患していない1例または複数例の対象の対応する細胞にみられるミトコンドリア含有量から導かれるか、これに対応する対照ミトコンドリア含有量よりも実質的に高いミトコンドリア含有量を指す。
【0109】
ある特定の実施形態では、複数のヒト骨髄細胞を凍結させる。ある特定の実施形態では、複数のヒト骨髄細胞を凍結させたのち解凍する。
【0110】
ある特定の実施形態では、上記の複数のヒト骨髄細胞は、正常を上回るミトコンドリア含有量を示し;正常を上回る酸素(O2)消費速度を示し;正常を上回るクエン酸シンターゼの含有量または活性レベルを示し;かつCD34+である。
【0111】
本発明は、別の態様では、上記の複数のヒト骨髄細胞を含む医薬組成物をさらに提供する。
【0112】
本明細書で使用される「医薬組成物」という用語は、少なくとも1つの生物学的に活性な作用因子を含む任意の組成物を指す。
【0113】
本明細書で使用される「生物学的に活性な作用因子」という用語は、生体系、例えば生きている細胞(1つまたは複数)、組織(1つまたは複数)、器官(1つまたは複数)および生体(1つまたは複数)に応答を引き起こすことが可能な任意の分子を指す。本発明による生物学的に活性な薬剤の非限定的な例としては、細胞、インタクトのミトコンドリア、ミトコンドリアDNAおよびミトコンドリアタンパク質が挙げられる。
【0114】
ある特定の実施形態では、医薬組成物を凍結させる。ある特定の実施形態では、医薬組成物を凍結させたのち解凍する。
【0115】
ある特定の実施形態では、上記の医薬組成物は、ヒト患者のミトコンドリア疾患を治療する方法に使用するものである。本明細書で使用される「治療」という用語は、疾患または病態を原因とするか、これによって引き起こされる少なくとも1つの症状の消失、緩和または改善を包含する。本明細書で使用される「治療」という用語はほかにも、予防的治療、対症的治療および根治的治療を包含する。
【0116】
本発明は、別の態様では、治療を必要とするヒト患者のミトコンドリア疾患を治療する方法であって、患者に上記の医薬組成物を投与する段階を含む方法をさらに提供する。
【0117】
本明細書で使用される「方法」という用語は一般に、所与の課題を遂行する仕方、手段、手技および手順を指し、特に限定されないが、化学、薬理学、生化学および医学の当業者が知っているか、既知のものから容易に開発できる仕方、手段、手技および手順がこれに包含される。
【0118】
ある特定の実施形態では、医薬組成物を凍結させ、上記の方法は、凍結させた医薬組成物を解凍することをさらに含む。
【0119】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者に対して自己のものである。本明細書で使用される「患者に対して自己のもの」という用語は、HLAが一致する患者の骨髄細胞をはじめとする細胞を指す。
【0120】
ある特定の実施形態では、骨髄細胞は、ミトコンドリア疾患に罹患している患者に対して外来性のものである。本明細書で使用される「患者に対して外来性のもの」という用語は、HLAが一致しない患者の骨髄細胞をはじめとする細胞を指す。
【0121】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、患者にミトコンドリア生合成を促進する薬剤を投与する段階をさらに含む。本明細書で使用される「ミトコンドリア生合成」という用語は、ミトコンドリアの成長および分裂を指す。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア生合成を促進する薬剤は、エリスロポエチン(EPO)またはその塩である。ある特定の実施形態では、薬剤は、組換えヒトエリスロポエチンおよび単離ヒトエリスロポエチンからなる群より選択される。
【0122】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、患者に患者と骨髄細胞との間の有害な免疫原性反応を防ぐ、遅らせる、最小限に抑える、または消失させる薬剤を投与する段階をさらに含む。ある特定の実施形態では、有害な免疫原性反応は移植片対宿主病(GvHD)である。ある特定の実施形態では、GvHDは急性型の疾患(aGvHD)である。ある特定の実施形態では、GvHDは慢性型の疾患(cGvHD)である。
【0123】
ある特定の実施形態では、上記の方法は、医薬組成物の投与の前に患者に移植前処置剤を投与する前段階をさらに含む。本明細書で使用される「移植前処置剤」という用語は、ヒト対象の骨髄内の骨髄細胞を死滅させることが可能な任意の薬剤を指す。ある特定の実施形態では、移植前処置剤はブスルファンである。
【0124】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はミトコンドリアDNAの変異を原因とするものである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は核DNAの変異を原因とするものである。本明細書で使用される「変異」という用語は、ミトコンドリアDNAまたは核DNAの少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失または置換を指す。
【0125】
ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はMRCDである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、LHON;MELAS;ピアソン症候群;リー症候群;NARP;MERRF;KSS;MNGIE;フリードライヒ運動失調症;およびアルパース病からなる群より選択される。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患は、LHON、MELAS、ピアソン症候群、リー症候群、NARP、MERRFおよびKSSからなる群より選択される。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はLHONである。ある特定の実施形態では、ミトコンドリア疾患はMELASである。
【0126】
ある特定の実施形態では、医薬組成物を局所投与する。ある特定の実施形態では、対象への医薬組成物の投与は、対象の骨髄への直接投与によるものである。ある特定の実施形態では、対象への医薬組成物の投与は、組織または器官への投与である。ある特定の実施形態では、対象への医薬組成物の投与は、眼球への投与である。硝子体液は、眼球の水晶体と網膜の間の空間を満たす無色透明のゼラチン状の塊である。ある特定の実施形態では、対象への医薬組成物の投与は、眼球の硝子体液への投与である。ある特定の実施形態では、対象への医薬組成物の投与は、筋肉内への直接注射によるものである。ある特定の実施形態では、医薬組成物を全身投与する。ある特定の実施形態では、対象への医薬組成物の投与は、静脈内注射、動脈内注射、筋肉内注射、皮下注射および組織または器官への直接注射からなる群より選択される経路によるものである。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0127】
ある特定の実施形態では、機能性ミトコンドリアは、胎盤、培養した胎盤細胞および血液細胞からなる群より選択されるヒト細胞またはヒト組織から採取されるものである。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0128】
ある特定の実施形態では、機能性ミトコンドリアは凍結融解サイクルを経たものである。いかなる理論にも機序にも束縛されることを望むものではないが、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、融解後も凍結融解サイクルを経ていない対照ミトコンドリアと同等の酸素消費速度を示す。
【0129】
いくつかの実施形態では、凍結融解サイクルは、前記機能性ミトコンドリアを融解前に少なくとも24時間凍結させることを含む。いくつかの実施形態では、凍結融解サイクルは、前記機能性ミトコンドリアを融解前に少なくとも1か月、融解前に数か月、またはそれ以上の間凍結させることを含む。別の実施形態では、凍結融解サイクル後の機能性ミトコンドリアの酸素消費は、凍結融解サイクル前の機能性ミトコンドリアの酸素消費と同等かそれ以上である。
【0130】
本明細書で使用される「凍結融解サイクル」という用語は、機能性ミトコンドリアを0℃未満の温度まで凍結させ、0℃未満の温度で定められた期間の間ミトコンドリアを維持し、室温もしくは体温またはそのミトコンドリアで造血細胞を処理することが可能な0℃超の任意の温度までミトコンドリアを融解させることを指す。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。本明細書で使用される「室温」という用語は、18℃~25℃の温度を指す。本明細書で使用される「体温」という用語は、35.5℃~37.5℃、好ましくは37℃の温度を指す。別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは機能性ミトコンドリアである。
【0131】
別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、-70℃以下の温度で凍結させたものである。別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、-20℃以下の温度で凍結させたものである。別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、-4℃以下の温度で凍結させたものである。別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、0℃以下の温度で凍結させたものである。別の実施形態では、ミトコンドリアの凍結は緩徐なものである。いくつかの実施形態では、ミトコンドリアの凍結は瞬間凍結によるものである。本明細書で使用される「瞬間凍結」という用語は、ミトコンドリアを極低温に曝露することによって急速に凍結させることを指す。
【0132】
別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、融解前に少なくとも30分間凍結させたものである。別の実施形態では、凍結融解サイクルは、機能性ミトコンドリアを融解前に少なくとも30分間、60分間、90分間、120分間、180分間、210分間凍結させることを含む。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、融解前に少なくとも1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、24時間、48時間、72時間、96時間または120時間凍結させたものである。それぞれの凍結時間が本発明の個々の実施形態を表す。別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、融解前に少なくとも4日間、5日間、6日間、7日間、30日間、60日間、120日間、365日間凍結させたものである。それぞれの凍結時間が本発明の個々の実施形態を表す。別の実施形態では、凍結融解サイクルは、機能性ミトコンドリアを融解前に少なくとも1週間、2週間、3週間凍結させることを含む。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。別の実施形態では、凍結融解サイクルは、機能性ミトコンドリアを融解前に少なくとも1か月間、2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間凍結させることを含む。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。
【0133】
別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、融解前に-70℃で少なくとも30分間凍結させたものである。いかなる理論にも機序にも束縛されることを望むものではないが、ミトコンドリアを凍結させ、長期間経た後にそれを融解させることが可能なことにより、ミトコンドリアの保管および使用が容易になり、長期間の保管後でも再現可能な結果が得られる。
【0134】
別の実施形態では、融解を室温で実施する。別の実施形態では、融解を体温で実施する。別の実施形態では、本発明の方法によるミトコンドリアの投与が可能な温度で融解を実施する。別の実施形態では、融解を緩徐に実施する。
【0135】
別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、凍結用緩衝液中で凍結させたものである。別の実施形態では、凍結融解サイクルを経たミトコンドリアは、単離用緩衝液中で凍結させたものである。本明細書で使用される「単離用緩衝液」という用語は、本発明のミトコンドリアを単離した緩衝液を指す。非限定的な例では、単離用緩衝液はスクロース緩衝液である。いかなる機序にも理論にも束縛されることを望むものではないが、単離用緩衝液中でミトコンドリアを凍結させれば、凍結前に単離用緩衝液を凍結用緩衝液に交換したり、融解時に凍結用緩衝液を交換したりする必要がなくなるため、時間および単離の諸段階が省かれる。
【0136】
別の実施形態では、凍結用緩衝液は凍結保護物質を含む。いくつかの実施形態では、凍結保護物質は、糖、オリゴ糖または多糖である。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。別の実施形態では、凍結用緩衝液の糖濃度は、ミトコンドリアの機能を保護するよう作用するのに十分な糖濃度である。別の実施形態では、単離用緩衝液は糖を含む。別の実施形態では、単離用緩衝液の糖濃度は、ミトコンドリアの機能を保護するよう作用するのに十分な糖濃度である。別の実施形態では、糖はスクロースである。
【0137】
別の実施形態では、当該技術分野で公知の任意の方法によってミトコンドリア膜のインタクト性を判定し得る。非限定的な例では、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)蛍光プローブまたはテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)蛍光プローブを用いてミトコンドリアの膜のインタクト性を測定する。それぞれの可能性が本発明の個々の実施形態を表す。顕微鏡下で観察しTMRMまたはTMREの染色が認めら得たミトコンドリアは、インタクトのミトコンドリア外膜を有する。本明細書で使用される「ミトコンドリアの膜」という用語は、ミトコンドリア内膜、ミトコンドリア外膜およびその両方からなる群より選択されるミトコンドリア膜を指す。
【0138】
ここまで特定の実施形態に関して本発明を説明してきたが、当業者には、本発明の範囲を逸脱せずに様々な変更を施し、等価物に置き換え得ることが理解されよう。さらに、本発明の教示に特定の状況または材料を適合させるため、本発明の範囲を逸脱せずに多数の修正を施し得る。したがって、本発明は、開示される特定の実施形態に限定されることはなく、添付の請求項の範囲内に収まるあらゆる実施形態を包含するものとする。
【0139】
以下の実施例は、本発明のより完全な理解をもたらすために記載するものである。本発明の原理を説明するために記載される具体的な技術、条件、材料、割合および報告データは例示的なものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0140】
実施例1.単離ミトコンドリアはヒト肝細胞に侵入することはできない。
ヒトHepG2細胞(10
5個、ATCC HB-8065)を未処置(対照)とするか、ヒト胎盤細胞から単離したミトコンドリアと24時間インキュベートした。細胞を播種する前、ミトコンドリアと細胞とを混合し、8000gで遠心分離し、再懸濁させた。インキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、CS0720 Sigmaキットを用いてCS活性を測定した(
図1)。
【0141】
図1に示される結果から、ミトコンドリアはヒト肝細胞と一緒に遠心分離しても同細胞に侵入することができないことがわかる。
【0142】
実施例2.単離ミトコンドリアは線維芽細胞に侵入することができる。
ミトコンドリア内で緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するマウス線維芽細胞(3T3)(左パネル)と、ミトコンドリア内で赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現するマウス線維芽細胞(3T3)(中央パネル)から単離したRFP標識ミトコンドリアとを24時間インキュベートした。蛍光共焦点顕微鏡法を用いて、GFPおよびRFPの両方で標識され黄色に見える線維芽細胞(右パネル)を確認した(
図2)。
【0143】
図2に示される結果から、ミトコンドリアは線維芽細胞に侵入することができることがわかる。
【0144】
実施例3.ミトコンドリアはミトコンドリア活性が抑制された細胞のATP産生を増大させる。
マウス線維芽細胞(10
4個、3T3)を未処置(対照)とするか、0.5μMのロテノン(ロテノン、ミトコンドリア複合体Iの不可逆的阻害剤、CAS番号83-79-4)で4時間処置し、洗浄し、さらに0.02mg/mlのマウス胎盤ミトコンドリア(ロテノン+ミトコンドリア)で3時間処置した。細胞を洗浄し、Perkin Elmer ATPliteキットを用いてATPレベルを求めた(
図3)。
図3からわかるように、ミトコンドリアとインキュベートした細胞は、対照と比較してATP産生が完全にレスキューされている。
【0145】
図3に示される結果から、ロテノン単独ではATPレベルが約50%低下したが、ミトコンドリアの添加により、ロテノンの阻害作用を実質的に打ち消し、対照細胞のATPレベルまで到達させることができたことが明らかにわかる。この実験から、ミトコンドリアはミトコンドリア活性が抑制された細胞のミトコンドリアのATP産生を増大させることが可能であることを示す証拠が得られる。
【0146】
実施例4.ミトコンドリアはマウス骨髄細胞に侵入することができる。
マウス骨髄細胞(10
5個)をマウスメラノーマ細胞から単離したGFP標識ミトコンドリアと24時間インキュベートした。蛍光共焦点顕微鏡法を用いて、骨髄細胞内のGFP標識ミトコンドリアを確認した(
図4)。
【0147】
図4に示される結果から、ミトコンドリアが骨髄細胞に侵入することができることがわかる。
【0148】
実施例5.ミトコンドリアは濃度依存性に骨髄細胞に侵入する。
マウス骨髄細胞(10
6)を未処置とするか、マウスメラノーマ細胞から単離したGFP標識ミトコンドリアの量を変えて一緒に15時間インキュベートした。細胞を播種する前、ミトコンドリアと細胞とを混合し、室温で5分間静置する((-)Cent)か、40℃にて5分間、8,000gで遠心分離したC((+)Cent)。次いで細胞を24ウェルに播種した(10
6細胞/ウェル)。15分間インキュベートした後、細胞を2回洗浄して、細胞に侵入していないミトコンドリアを除去した。CS0720 Sigmaキットを用いてクエン酸シンターゼ活性を求めた(
図5)。上に明記した条件下で測定したCS活性レベルを表1にまとめる。
【0149】
【0150】
図5に示される結果から、ミトコンドリアの添加により細胞内CS活性が用量依存性に増大し、濃度の増大、したがって僭越にも、例えば遠心分離によるミトコンドリアと細胞との間の接触によりCS活性が増大したことがわかる。
【0151】
実施例6.ERが混入しない特異的ミトコンドリア富化。
マウス骨髄細胞(10
6個)を未処置とするか、マウスメラノーマ細胞から単離したGFP標識ミトコンドリア(17Uまたは34U、ミトコンドリア含有量のマーカーとしてクエン酸シンターゼ活性のレベルを示す)と24時間インキュベートした。細胞とミトコンドリアとを混合し、8000gで遠心分離し、再懸濁させた。24時間インキュベートした後、細胞をPBSで2回洗浄し、CS0720キットおよびCY0100キット(Sigma社)を用いてクエン酸シンターゼ(CS)活性(
図6A)およびシトクロームc還元酵素活性(
図6B)のレベルをそれぞれ測定した。
【0152】
図6に示される結果から、上の実験に用いた機能性ミトコンドリアの組成物が、骨髄細胞のミトコンドリアは富化させるが、ERは富化させないことが明らかにわかる。
【0153】
実施例7.ミトコンドリアで富化されたマウス骨髄細胞はLHONのin vivoモデルでミトコンドリアを分配する。
マウス骨髄細胞(10
5)を未処置にするか、マウスメラノーマ細胞から単離したGFP標識ミトコンドリアと24時間インキュベートした。細胞とミトコンドリアとを混合し、8000gで遠心分離し、再懸濁させた。24時間インキュベートした後、細胞をPBSで2回洗浄し、ロテノン(25mM)を注射してから4時間後に硝子体内に注射した。免疫組織化学法を用いてパラフィン切片を抗GFP抗体で染色した。
図7Aに、対照1(細胞もミトコンドリアも注射していない、左パネル)および対照2(ミトコンドリアを搭載した細胞を注射したが染色に抗GFPを使用していない、右パネル)のスライスの染色を示す。
図7Bに、注射した眼球のスライスの染色を示す。網膜神経節細胞(RGC)層(上のパネル2つ)、血管(*)および血管壁を裏打ちする細胞(矢印)にGFP陽性細胞が観察された。
【0154】
図7に示される結果から、骨髄細胞がミトコンドリアの運搬体の役割を果たし、標的とする器官または組織に機能性ミトコンドリアを分配することが可能であることが明らかにわかる。この能力をさらにほかの様々なミトコンドリア疾患の治療に利用することができる。
【0155】
実施例8.ミトコンドリアはヒトmtDNA欠乏細胞の増殖を増大させる。
143B Rho0細胞(ヒト骨肉腫、ミトコンドリアDNA欠損(mtDNA
-)を96ウェルに播種し(3×10
4細胞/ウェル)、ピルビン酸塩とウリジンとを含有する培地で培養した。143B TK細胞(ヒト骨肉腫、チミジンキナーゼ陽性(TK
+)、mtDNA
+、2×10
6細胞/ウェル)からミトコンドリアを単離し、143B Rho0細胞とインキュベートした。24時間後、培地を交換し、細胞をガンシクロビルで処理して143B TK
+細胞を除去した。残った細胞をさらに3日間培養した後、培地をピルビン酸塩もウリジンも含まないものに交換した。24時間後、細胞をトリプシンで処理し、10cmのディッシュに移した。その後9日間、培地を3日毎に交換した。1組のディッシュ(対照細胞およびミトコンドリア処置細胞)をメタノールで固定し、ギムザで染色した(
図8A)。2組目をトリプシンで処理し、細胞数およびミトコンドリア活性の指標としてATPレベルとアッセイした(
図8B)。
図8Bからわかるように、ミトコンドリアとインキュベートした細胞のATPレベルは対照の約5.3倍上昇した。
【0156】
図8に示される結果から、単離mtDNA
+ミトコンドリアはヒト骨mtDNA
-細胞と相互作用し、その生存能、増殖およびATP産生を増大させることが明らかにわかる。
【0157】
実施例9.ミトコンドリアはヒト骨髄細胞に侵入することができる。
ヒトCD34
+細胞(1.4×10
5個、ATCC PCS-800-012)を未処置とするか、ヒト胎盤細胞から単離したGFP標識ミトコンドリアと20時間インキュベートした。細胞を播種する前、ミトコンドリアと細胞とを混合し、8000gで遠心分離し、再懸濁させた。インキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、CS0720 Sigmaキットを用いてCS活性を測定した(
図9A)。ATPlite(Perkin Elmer社)を用いてATP含有量を測定した(
図9B)。上に明記した条件下で測定したCS活性レベル(
図9A)を表2にまとめる。
【0158】
【0159】
図9に示される結果(表2を参照されたい)から、単離ヒトミトコンドリアとの相互作用および共インキュベーションによって、ヒト骨髄細胞のミトコンドリア含有量がヒト線維芽細胞、マウス線維芽細胞またはマウス骨髄細胞のいずれかの能力を上回る程度まで何倍も増大し得ることが明らかにわかる。
【0160】
図9Bに示される細胞集団をFACS解析によってさらに評価した。GFP標識ミトコンドリアとインキュベートしなかったCD34
+細胞のうち蛍光を発した細胞の割合はごくわずか(0.9%)であった(
図10A)が、GFP標識ミトコンドリアと遠心分離した後にインキュベートしたCD34
+細胞では相当数(28.4%)のものが蛍光を発した(
図10B)。
【0161】
実施例10.マウスミトコンドリア疾患モデル。
WTマウス胎盤からマウスミトコンドリアを採取し、これを用いてミトコンドリア疾患(mtDNA tRNA-Alaに変異がみられる疾患など)のマウスモデルの骨髄を処置する。簡潔に述べれば、疾患骨髄細胞をex vivoでマウス胎盤ミトコンドリアの濃度およびインキュベーション時間を変えて処置し、別の疾患マウスに注射する。比較のため、健常マウスから疾患マウスへの健常骨髄の移植も実施する。効果をみるアッセイを様々な時点で実施する(移植前:ATPレベル、O2消費量、クエン酸シンターゼ(CS)活性;移植後:ATP合成量、O2消費量、mtDNAのヘテロプラスミー、CS活性および血中の乳酸の有無)。注射から1日後、1週間後および1か月後、様々な組織(主として骨髄、心臓、骨格筋、肝臓および脳)の変異型ミトコンドリアtRNA遺伝子と野生型ミトコンドリアtRNA遺伝子とをPCRで比較解析することにより、ミトコンドリアの生体内分布を調べる。
【0162】
実施例11.ヒト患者の線維芽細胞の処置。
三次元培養で培養した高純度の活性なヒト胎盤ミトコンドリアを単離し、CS活性およびO2消費量に関して特徴を明らかにする。mtDNAの変異または欠失があるミトコンドリア疾患(LHON、MELAS、リー症候群、ピアソン病、アルパース症候群)の患者の皮膚生検から線維芽細胞を単離する。患者の線維芽細胞および(患者から骨髄を吸引する必要がないように)線維芽細胞をin vitroで人工多能性幹(iPS)細胞に変換し造血系統に再プログラム化したものの両方でミトコンドリア増強およびミトコンドリアレスキューの能力を調べる。細胞をヒトミトコンドリアで処置し、ミトコンドリアとインキュベートした後の様々な時点(3時間後、24時間後および48時間後)でmtDNAヘテロプラスミー、CS活性、ATP含有量およびO2消費量を調べる。
【0163】
実施例12.ミトコンドリアで富化された骨髄細胞の全身体内分布。
2つの異なるバックグランドに由来する対照健常マウスの骨髄細胞内にミトコンドリアを導入する。これにより、ミトコンドリアの入手源はmtDNA配列の異なるマウス由来になる(Jenuth JPら,Nature Genetics,1996,Vol.14,p.146-151)。
【0164】
この方法の各段階は、(1)Balb/Cマウスの胎盤/肝臓からミトコンドリアを単離し、-80で凍結させ解凍するか、新鮮な状態で使用する段階;(2)例えばNZB系統から骨髄を単離する段階;(3)ミトコンドリアと骨髄とを混合し、8000gで5分間遠心分離し、再懸濁させ、24時間インキュベートする段階;(4)骨髄細胞をPBSで2回洗浄し、マウスの尾静脈に注射する段階である。移植から24時間後、1週間後、1か月後および3か月後、組織(血液、骨髄、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、脾臓、骨格筋、眼球)を採取し、DNAを抽出して、のちの配列解析に供する。
【0165】
実施例13.ミトコンドリアで富化された骨髄細胞による全身療法。
健常なミトコンドリアがLHONに類似したミトコンドリア疾患マウスモデルであるND6(Chun Shi Linら,PNAS,2012,Vol.109(49),p.20065-20070)の表現型を部分的にレスキューし得ることを明らかにするため、ND6マウスモデルの骨髄細胞内にミトコンドリアを導入する。
【0166】
この方法の各段階は、(1)B6MEマウス(WT系統のND6マウス)の胎盤/肝臓からミトコンドリアを単離し、-80で凍結させ解凍するか、新鮮な状態で使用する段階;(2)1A1B6MEマウス(B6MEをバックグランドとするND6変異マウス)から骨髄を単離する段階;(3)ミトコンドリアと骨髄とを混合し、8000gで5分間遠心分離し、再懸濁させ、24時間インキュベートする段階;(4)骨髄細胞をPBSで2回洗浄し、1A1B6MEマウスの尾静脈に注射する段階である。移植から24時間後、1週間後、1か月後および3か月後、組織(血液、骨髄、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、脾臓、骨格筋、眼球)を採取し、DNAを抽出して、のちの配列解析に供する。期間全体にわたって摂餌量、体重、乳酸アシドーシス、血球数および生化学的血液マーカーの変化を評価する。
【0167】
実施例14.安全性試験および体内分布試験。
安全性試験および体内分布のため、ヒト血中ミトコンドリアをマウス骨髄細胞内に導入する。
【0168】
この方法の各段階は、(1)ヒトの白血球および血小板からミトコンドリアを単離し、-80で凍結させ解凍するか、新鮮な状態で使用する段階;(2)例えばC57/blマウスから骨髄を単離する段階;(3)ミトコンドリアと骨髄とを混合し、8000gで5分間遠心分離し、再懸濁させ、24時間インキュベートする段階;(4)骨髄細胞をPBSで2回洗浄し、例えばC57/blマウスの尾静脈に注射する段階である。移植から24時間後、1週間後、1か月後および3か月後、組織(血液、骨髄、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、脾臓、骨格筋、眼球)を採取し、DNAを抽出して、のちの配列解析に供する。期間全体にわたって摂餌量、体重、乳酸アシドーシス、血球数および生化学的血液マーカーの変化を評価する。
【0169】
実施例15.ミトコンドリア疾患に罹患しているヒト患者の治療法。
ミトコンドリア疾患に罹患しているヒト患者を治療する方法の各段階は、(1)ミトコンドリア疾患、例えばLHON、MELASまたはピアソン症候群に罹患している患者にG-CSFを用量10~16μg/kgで5日間投与する段階;(2)第6日、患者の血液にアフェレーシスを実施して骨髄細胞を採取する段階;(3)これと並行して、健常ドナーの血液試料から機能性ミトコンドリアを単離する段階;(4)骨髄細胞を機能性ミトコンドリアと24時間インキュベートする段階;(5)骨髄細胞を洗浄する段階;および(6)ミトコンドリアを搭載した骨髄細胞を患者に注入する段階である。期間全体にわたって患者の摂食量、体重、乳酸アシドーシス、血球数および生化学的血液マーカーの変化を評価する。
【0170】
具体的な実施形態に関する上の記載から、本発明の全般的な性質が十分に明らかになるため、この知識を応用することにより、過度の実験を実施せず、一般的概念から逸脱することもなく、上記の具体的な実施形態を様々な用途に合わせて容易に修正し、かつ/または適応させることが可能であり、したがって、そのような適応および修正は、本開示の実施形態の均等物の意味および範囲に含まれるものであることが理解されるべきであり、また理解されることを意図する。本明細書で使用される表現または用語は、説明を目的とするものであって、限定を目的とするものではないことが理解されるべきである。開示される様々な機能を遂行する手段、材料および段階は、本発明から逸脱することなく様々な代替的形態をとり得る。