(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】トリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の分離方法及び分析方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/56 20060101AFI20230417BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20230417BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20230417BHJP
C07B 63/00 20060101ALI20230417BHJP
C07C 69/58 20060101ALI20230417BHJP
C07C 69/587 20060101ALI20230417BHJP
C07C 69/52 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C07C67/56
G01N30/88 C
B01J20/281 X
B01J20/281 G
G01N30/88 W
C07B63/00 F
C07C69/58
C07C69/587
C07C69/52
(21)【出願番号】P 2021198856
(22)【出願日】2021-12-07
(62)【分割の表示】P 2017172849の分割
【原出願日】2017-09-08
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】永井 利治
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直宏
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0277303(US,A1)
【文献】特開2019-049428(JP,A)
【文献】永井利治ほか,キラルHPLCによる食用油脂のトリアシルグリセロール位置異性体・鏡像異性体の同時分離,日本油化学第54回年会講演要旨集,日本,2015年09月08日,第211頁
【文献】株式会社ダイセル,耐溶剤型キラルカラム iCHIRAL SERIES,耐溶剤型キラルカラム iCHIRAL SERIES,2016年,https://www.daicelchiral.com/img/mainpage/column/pdf/ichiral_series.pdf
【文献】深津 誠,トリアシルグリセロールの分析法の実際,日本油化学会誌,第47巻、第10号,p.947-952
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の脂肪酸A及びBとグリセロールからなる、AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体を含む試料溶液を、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径4μm以下の分離剤が充填されたカラムを通過させる工程を含む、上記AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の高速液体クロマトグラフィーによる分離方法
であって、
前記試料溶液を通過させる前に、前記カラムに少なくとも以下の1)~4)のいずれか1つの処理を施す工程をさらに含み、
1)エタノールを通液した後、N,N-ジメチルホルムアミドを通液する;
2)エタノールを通液した後、テトラヒドロフランを通液する;
3)イソプロピルアルコールを通液する;
4)イソプロピルアルコールとテトラヒドロフランの混合液を通液する;かつ、
前記試料溶液が、(a)2種の脂肪酸A及びBとグリセロールのエステル化反応、(b)2種の脂肪酸A及びBを含むトリグリセリドのエステル交換反応、(c)脂肪酸A及び/又はBを構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール及び/又はジアシルグリセロールと脂肪酸A及び/又はBのエステル化反応、あるいは、(d)脂肪酸A及び/又はBのエステルとトリグリセリドのエステル交換反応で得られたものであるか、(e)天然の脂質から得られたものである、前記分離方法。
【請求項2】
試料溶液が、AAB型及びBAA型トリアシルグリセロールの混合物である、請求項1
に記載された分離方法。
【請求項3】
脂肪酸が、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸から選択される2種である、請求項1
又は2に記載された分離方法。
【請求項4】
2種の脂肪酸A及びBとグリセロールからなる、AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体を含む試料溶液を、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径4μm以下の分離剤が充填されたカラムを通過させる工程を含む、前記AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の高速液体クロマトグラフィーによる分析方法
であって、
前記試料溶液を通過させる前に、前記カラムに少なくとも以下の1)~4)のいずれか1つの処理を施す工程をさらに含み、
1)エタノールを通液した後、N,N-ジメチルホルムアミドを通液する;
2)エタノールを通液した後、テトラヒドロフランを通液する;
3)イソプロピルアルコールを通液する;
4)イソプロピルアルコールとテトラヒドロフランの混合液を通液する;かつ、
前記試料溶液が、(a)2種の脂肪酸A及びBとグリセロールのエステル化反応、(b)2種の脂肪酸A及びBを含むトリグリセリドのエステル交換反応、(c)脂肪酸A及び/又はBを構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール及び/又はジアシルグリセロールと脂肪酸A及び/又はBのエステル化反応、あるいは、(d)脂肪酸A及び/又はBのエステルとトリグリセリドのエステル交換反応で得られたものであるか、(e)天然の脂質から得られたものである、前記分析方法。
【請求項5】
カラムを通過させたトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体を質量分析法で検出する工程をさらに含む、請求項
4に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速液体クロマトグラフィーによるトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の分離工程を含む当該位置異性体及び/又は鏡像異性体の製造方法に関する。更に詳細には、2種の脂肪酸A及びBとグリセロールからなる、AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の原材料混合物を、特定のカラムを使用して高速液体クロマトグラフィーにより分取する工程を含む当該位置異性体及び/又は鏡像異性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三大栄養素の1つである脂質の中で、トリアシルグリセロール(TAG)は天然界に最も多く存在する脂質の形態である。TAGは、グリセロールのsn-1位(α位)、sn-2位(β位)及びsn-3位(α位)に3つの脂肪酸がエステル結合する構造を有し、食用油脂の主成分である。食用油脂の物理的性質及び栄養学的性質は、グリセロールにエステル結合している脂肪酸の種類とその結合位置に影響される。
【0003】
2種の脂肪酸とグリセロールから構成されるTAGのsn-2位の炭素が不斉炭素である場合、当該TAGには鏡像異性体が存在する。例えば、1つのエイコサペンタエン酸(E)と2つのカプリル酸(C)がグリセロールにエステル結合しているTAGには、エイコサペンタエン酸(E)がグリセロールのsn-3位にエステル結合し、2つのカプリル酸(C)がグリセロールのsn-1位及びsn-2位にエステル結合しているTAG(以下、「sn-CCE」と表記する。)と、エイコサペンタエン酸(E)がグリセロールのsn-1位にエステル結合し、2つのカプリル酸(C)がグリセロールのsn-2位及びsn-3位にエステル結合しているTAG(以下、「sn-ECC」と表記する。)がある。また、1つのドコサヘキサエン酸(D)と2つのカプリル酸(C)がグリセロールにエステル結合しているTAGには、ドコサヘキサエン酸(D)がグリセロールのsn-3位にエステル結合し、2つのカプリル酸(C)がグリセロールのsn-1位及びsn-2位にエステル結合しているTAG(以下、「sn-CCD」と表記する。)と、ドコサヘキサエン酸(D)がグリセロールのsn-1位にエステル結合し、2つのカプリル酸(C)がグリセロールのsn-2位及びsn-3位にエステル結合しているTAG(以下、「sn-DCC」と表記する。)がある。sn-CCEとsn-ECC、sn-CCDとsn-DCCは、それぞれ、鏡像異性体として区別される。sn-CCEとsn-ECCの分離、sn-CCDとsn-DCCの分離が、それぞれ、セルロース誘導体がシリカゲルに担持された分離剤が充填されたカラムを利用する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により検討された(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
本発明者らは、食用油脂に含まれる鏡像異性体であるsn-PPO(パルミチン酸(P)がグリセロールのsn-1位及びsn-2位にエステル結合し、オレイン酸(O)がグリセロールのsn-3位に結合しているTAG)とsn-OPP(パルミチン酸(P)がグリセロールのsn-2位及びsn-3位にエステル結合し、オレイン酸(O)がグリセロールのsn-1位に結合しているTAG)の上記分離方法による分離を検討したが、sn-PPOとsn-OPPを分離できなかったため、sn-PPOとsn-OPPのリサイクルHPLCによる分離方法を検討した(例えば、非特許文献2参照)。リサイクルHPLCは、UV検出器の出口の流路をポンプの入口に戻し、移動相を循環させる機能を有するHPLCである。
【0005】
食用油脂には、sn-PPOとsn-OPPの位置異性体として、sn-POP(パルミチン酸(P)がグリセロールのsn-1位及びsn-3位にエステル結合し、オレイン酸(O)がグリセロールのsn-2位に結合しているTAG)も含まれている。従来のキラルカラムとリサイクルHPLCだけでは、これらの位置・鏡像異性体を同時に分離することは不可能だったため、sn-PPO、sn-OPP及びsn-POPを同時に分離するため、アミロース トリス(3-クロロフェニルカルバメート)がシリカゲルに担持された、粒子径3μmの分離剤が充填されたカラム、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに担持された、粒子径5μmの分離剤が充填されたカラムを、それぞれ、使用するHPLCによる分離方法が検討された(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
一方、TAGを含む試料を超臨界流体を含む移動相が送液される流路中に注入し、アミロース トリス(3-クロロフェニルカルバメート)がシリカゲルに担持された、粒子径3μmの分離剤が充填されたカラムに通液させてTAG鏡像異性体を分離する方法が検討された(例えば、特許文献1参照)。しかし、当該TAG鏡像異性体の分離方法によるTAG位置異性体とTAG鏡像異性体の同時分離は検討されていなかった。さらに、超臨界流体を移動相とするクロマトグラフィーシステムは、従来のHPLCシステムよりかなり高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Y. Iwasaki, M. Yasui, T. Ishikawa, R. Irimescu, K. Hata, T. Yamane. J. Chromatogr. A 905,111-118(2001)
【文献】T. Nagai,H. Mizobe, I. Otake, K. Ichioka, K. Kojima, Y. Matsumoto, N. Gotoh, I. Kuroda, S. Wada. Enantiomeric separation of asymmetric triacylglycerol by recycle high-performance liquid chromatography with chiral column.J. Chromatogr. A 1218, 2880-2886(2011).
【文献】永井利治 外7名、日本油化学会第54回年会講演要旨集、第211頁、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
食用油脂の物理的性質及び栄養学的性質の検討のため、従来のHPLCシステムを利用する、2種の脂肪酸とグリセロールから構成されるTAG位置異性体及び鏡像異性体の分離能が更に向上した分離方法が期待されていたが、そのような分離方法は提供されていなかった。本発明の課題は、かかる2種の脂肪酸とグリセロールから構成されるTAG位置異性体及び/又は鏡像異性体をHPLCにより分離する工程を含むこれら異性体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、リサイクルシステムを用いない従来のHPLCシステムを利用する、TAG位置異性体及び鏡像異性体の分離能が向上した分離方法を鋭意検討した結果、特定のカラム、特に特定の有機溶媒が通液されて処理された特定のカラムを使用してHPLCを実施すると、2種の脂肪酸とグリセロールから構成されるTAG位置異性体及び/又は鏡像異性体の分離能が向上することを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の製造方法に関する。
[1]以下の工程A及びBを含む、任意の脂肪酸A、及び脂肪酸Aとは異なる任意の脂肪酸Bを構成脂肪酸とする、AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の製造方法。
A)上記AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体を含む原料混合物を準備する工程A;
B)工程Aで準備した原料混合物から、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径4μm以下の固定相が充填された分離カラムを使用する高速液体クロマトグラフィーにより、上記位置異性体及び/又は鏡像異性体を分取する工程B;
[2]以下の工程Cを更に含む[1]に記載の位置異性体及び/又は鏡像異性体の製造方法。
C)前記原料混合物から、逆相高速液体クロマトグラフィーにより、AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される2種以上の位置異性体及び/又は鏡像異性体を濃縮する工程C
[3]工程Bの前に、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径4μm以下の固定相が充填された分離カラムに、少なくとも以下の1)~4)のいずれか1つの処理を施す工程Dを更に含む、[1]又は[2]に記載された位置異性体及び/又は鏡像異性体の製造方法。
1)エタノールを通液した後、N,N-ジメチルホルムアミドを通液する;
2)エタノールを通液した後、テトラヒドロフランを通液する;
3)イソプロピルアルコールを通液する;
4)イソプロピルアルコールとテトラヒドロフランの混合液を通液する;
[4]脂肪酸が、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸からなる群から選択される2種である、[1]~[3]のいずれかに記載された位置異性体及び/又は鏡像異性体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法においては、キラルHPLCによりTAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体を短時間で同時に分離でき、その分離能は非常に高いことから、本発明のTAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体を製造する方法によると、高純度のTAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体を短時間で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸とグリセロールを反応させて得られるTAGの異性体をHPLCで分離して作成された抽出イオンクロマトグラム
【
図2】パルミチン酸、オレイン酸及びステアリン酸とグリセロールを反応させて得られるTAGの異性体をHPLCで分離して作成された抽出イオンクロマトグラム
【
図3】リノール酸、オレイン酸及びステアリン酸とグリセロールを反応させて得られるTAGの異性体をHPLCで分離して作成された抽出イオンクロマトグラム
【
図4】パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸とグリセロールを反応させて得られるTAGの異性体をHPLCで分離して作成された抽出イオンクロマトグラム
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の製造方法で製造されるTAGは2種の脂肪酸A及びBとグリセロールから構成される。当該TAGを構成するグリセロールのsn-1位及びsn-3位に脂肪酸Aがエステル結合し、sn-2位に脂肪酸Bがエステル結合しているTAGをABA型、当該グリセロールのsn-1位及びsn-2位に脂肪酸Aがエステル結合し、sn-3位に脂肪酸Bがエステル結合しているTAGをAAB型、当該グリセロールのsn-1位に脂肪酸Bがエステル結合し、sn-2位及びsn-3位に脂肪酸Aがエステル結合しているTAGをBAA型と表記する(以下、2種の脂肪酸とグリセロールから構成されるTAGを同様に表記する。)。AAB型とBAA型は鏡像異性体である。これら2つのTAG(AAB型及びBAA型)とABA型は位置異性体である。
【0015】
本発明の製造方法で製造されるTAGを構成する脂肪酸は、特定の脂肪酸に限定されない。当該脂肪酸は、食用油脂に含まれるグリセロールエステルを構成する飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸からなる群から選択される2種であり得る。飽和脂肪酸の具体例は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等である。不飽和脂肪酸の具体例は、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等である。好ましい脂肪酸はパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸である。
【0016】
本発明の製造方法は、任意の脂肪酸A、及び脂肪酸Aとは異なる任意の脂肪酸Bを構成脂肪酸とする、AAB型、ABA型及びBAA型TAGからなる群から選択される2種以上のTAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体を含む原材料混合物を準備する工程Aを含む。当該混合物の調製方法は、特定の方法に限定されない。当該混合物の調製方法の1つの具体例は、(a)2種の脂肪酸A及びBとグリセロールのエステル化反応、(b)2種の脂肪酸A及びBを含むトリグリセリドのエステル交換反応、(c)脂肪酸A及び/又はBを構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール及び/又はジアシルグリセロールと脂肪酸A及び/又はBのエステル化反応、あるいは、(d)脂肪酸A及び/又はBのメチルエステル、エチルエステル等のエステルとトリグリセリドのエステル交換反応であり、当該混合物の調製方法の別の具体例は、(e)上記TAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体を含む天然の脂質の利用、(f)市販されているAAB型及びBAA型TAGの混合物の利用である。
【0017】
本発明の製造方法は、上記混合物から、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに担持された固定相が充填された分離カラムを使用する高速液体クロマトグラフィーにより、上記位置異性体及び/又は鏡像異性体を分取する工程Bを含む。当該固定相の粒径は4μm以下であり、好ましい当該粒径は3.5μm以下であり、更に好ましい当該粒径は3μm以下である。当該粒径が大きすぎると、固定相が充填されるカラムの分離能が低下し、2種の脂肪酸A及びBとグリセロールから構成されるTAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体を分離できなくなる。
【0018】
アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径4μm以下の固定相が充填された分離カラムは市販されている。当該市販品の具体例は、株式会社ダイセル製CHIRALPAK IF-3である。
【0019】
分離対象となる構成脂肪酸によって分離カラムの設定温度は多少異なるが、本発明の製造方法で使用される分離カラムの好ましい設定温度は、15~40℃である。より好ましい設定温度は20~30℃、更に好ましい当該設定温度は23~27℃である。分離カラムの設定温度が低すぎたり高すぎたりすると、分離カラムの分離能が低下する。
【0020】
本発明の製造方法で採用されるHPLCシステムで使用される好ましい移動相は、アセトニトリルとメタノールが10:0~5:5(体積比)の範囲の割合で構成される。アセトニトリルとメタノールの好ましい構成比は、10:0~8:2、更に好ましい当該構成比は10:0~9:1である。アセトニトリル及びメタノールからなる移動相のメタノールの含有割合が高すぎると、分離カラムの分離能が低下する。
【0021】
本発明の製造方法で採用されるHPLCシステムで使用される移動相の好ましい線速度は2~12mL/min・cm2である。より好ましい当該線速度は4~9mL/min・cm2、更に好ましい当該線速度は5~7mL/min・cm2である。当該線速度が小さすぎると、分離カラムの分離能が低下する。当該線速度の上限は技術的な制約を受ける。
上記TAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体の混合物は、分離カラムの通過により、上記TAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体毎に分離される。
本発明の製造方法は、工程Aの後に、工程Aで準備した原料混合物から、逆相高速液体クロマトグラフィーにより、上記AAB型、ABA型及びBAA型TAGからなる群から選択される1種又は2種以上のTAGの濃縮工程Cを更に備えていてもよい。つまり、工程Aで準備した原料混合物中の上記TAGが濃縮された原料混合物が、工程Bに付され得る。
【0022】
好ましくは、本発明の製造方法は、工程Bの前に、上記分離カラムに少なくとも以下の1)~4)のいずれか1つの処理を施す工程Dを更に含む。
1);エタノールを通液した後、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を通液する。2);エタノールを通液した後、テトラヒドロフラン(THF)を通液する。
3);イソプロピルアルコール(IPA)を通液する。
4);IPAとTHFの混合液を通液する。
【0023】
上記処理1)におけるDMF、上記処理2)におけるTHF、上記処理3)におけるIPA及び上記処理4)におけるIPAとTHFの混合液の好ましい線速度は0.6~4.
2mL/min・cm2であり、より好ましい線速度は1.2~2.7mL/min・c
m2であり、更に好ましい線速度は1.5~2.0mL/min・cm2である。
【0024】
上記処理1)におけるDMF及び上記処理2)におけるTHFの好ましい通液時間は3時間~3日間、より好ましい通液時間は6時間~2日間、更に好ましい通液時間は12時間~1.5日間である。上記処理3)におけるIPAの好ましい通液時間は12時間~6日間、より好ましい通液時間は1日間~5日間、更に好ましい通液時間は2日間~4日間である。上記処理4)におけるIPAとTHFの混合液の好ましい通液時間は30分~5時間、より好ましい通液時間は1時間~4時間、更に好ましい通液時間は1.5時間~3時間である。
【0025】
上記処理4)におけるIPAとTHFの混合液の好ましい混合体積比は、IPA:THF=1:20~20:1、より好ましい混合体積比はIPA:THF=1:15~15:1、更に好ましい混合体積比はIPA:THF=1:10~10:1である。
【0026】
本発明の製造方法で製造されたTAGの位置異性体及び/又は鏡像異性体を標準品として用い、大気圧イオン化質量分析装置により位置異性体及び/又は鏡像異性体のマスクロマトグラムを利用し、天然油脂、および、加工油脂製品等に含まれるトリアシルグリセロール異性体の定量分析ができる。
【0027】
本発明のその他の態様として、以下に示すトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の分離方法がある。
[1]2種の脂肪酸A及びBとグリセロールからなる、AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体を含む試料溶液を、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径4μm以下の分離剤が充填されたカラムを通過させる工程を含む、上記AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の高速液体クロマトグラフィーによる分離方法。
[2]試料溶液が、(a)2種の脂肪酸A及びBとグリセロールをエステル化反応、(b)2種の脂肪酸A及びBを含むトリグリセリドのエステル交換反応、(c)脂肪酸A及び/又はBを構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール及び/又はジアシルグリセロールと脂肪酸A及び/又はBのエステル化反応、あるいは、(d)脂肪酸A及び/又はBのメチルエステル、エチルエステル等のエステルとトリグリセリドのエステル交換反応で得られた、[1]に記載された分離方法。
[3]試料溶液が、天然の脂質から得られた、[1]に記載された分離方法。
[4]試料溶液が、AAB型及びBAA型トリアシルグリセロールの混合物である、[1]に記載された分離方法。
[5]試料溶液を通過させる前に、分離カラムに少なくとも以下の1)~4)のいずれか1つの処理を施す工程を更に含む、[1]~[4]のいずれかに記載された分離方法。
1)エタノールを通液した後、N,N-ジメチルホルムアミドを通液する;
2)エタノールを通液した後、テトラヒドロフランを通液する;
3)イソプロピルアルコールを通液する;
4)イソプロピルアルコールとテトラヒドロフランの混合液を通液する;
[6]脂肪酸が、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸からなる群から選択される2種である、[1]~[5]のいずれかに記載された分離方法。
【0028】
本発明のその他の態様としては、以下に示すトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の分析方法が挙げられる。
[7]2種の脂肪酸A及びBとグリセロールからなる、AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体を含む試料溶液を、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径4μm以下の分離剤が充填されたカラムを通過させる工程を含む、上記AAB型、ABA型及びBAA型トリアシルグリセロールからなる群から選択される1種又は2種以上のトリアシルグリセロールの位置異性体及び/又は鏡像異性体の高速液体クロマトグラフィーによる分析方法。
上記分析方法は、分離された上記位置異性体及び/又は鏡像異性体を検出する工程を含み得る。上記検出工程における検出法として使用され得るものは質量分析法である。
【0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されない。
実施例1
TAGの合成
グリセロール1モル等量に対して、パルミチン酸(P)1モル等量、オレイン酸(O)1モル等量及びリノール酸(L)1モル等量を混合し、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)3モル等量、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)3モル等量、N-エチルジイソプロピルアミン3モル等量を触媒とし、クロロホルム中で12時間反応させ、TAG混合物を得た。
【0030】
HPLCによるTAG異性体の分離
上記TAG混合物をアセトニトリルで希釈(濃度100μg/mL)し、TAG試料を得た。当該TAG試料10μLをキラルカラムを付したHPLCシステム(ウォーターズ社製Alliance e2695)に注入し、TAG位置異性体及び鏡像異性体を分離、検出した。上記HPLCシステムの設定条件は以下のとおりであった。
カラム:株式会社ダイセル製CHIRALPAK IF-3(4.6×250mm、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径3μmの分離剤が充填されている)
カラム温度:25℃
流量:1.0 mL/min
移動相:アセトニトリル(和光純薬工業株式会社製LC/MS用)
【0031】
エレクトロスプレーイオン化-マススペクトロメトリー(ESI-MS)法によるTAG異性体の検出
上記HPLCシステムから流出する流量の半分をドレインに廃棄し、残りの流量(0.5mL/min)に、100mMのギ酸アンモニウムメタノール溶液を0.1mL/minの流量で合流させ、上記TAG位置異性体及び鏡像異性体をポジティブモードでイオン化し、ESI-MSシステム(ウォーターズ社製Quattro micro API)でピークを検出した。上記ESI-MSシステムの設定条件は以下のとおりであった。
ソースブロック温度:120℃
脱溶媒温度:450℃
脱溶媒ガス:窒素(ガス流量:800L/h)
キャピラリー電圧:3kV
コーン電圧:40V
検出モード:Full Scan m/z 200-1200
【0032】
結果を
図1に示す。トータルイオンクロマトグラム(TIC)から、2つのリノール酸及び1つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(LPL、LLP及びPLL)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、3つのピーク成分が観察された(
図1a)。TICから、1つのリノール酸及び2つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(LPP、PPL及びPLP;
図1b)、2つのオレイン酸及び1つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(OPO、OOP及びPOO;
図1c)、1つのオレイン酸及び2つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(OPP、PPO及びPOP;
図1d)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、それぞれ、3つのピーク成分が観察された。したがって、上記12種類の位置異性体及び鏡像異性体を含むTAG混合物から、上記12種類の位置異性体及び鏡像異性体が上記HPLCシステムによって分離され、上記ESI-MSシステムによって検出されたことが確認された。
【0033】
実施例2
グリセロール1モル等量に対して、パルミチン酸(P)1モル等量、オレイン酸(O)1モル等量及びリノール酸(L)1モル等量を混合する代わりに、グリセロール1モル等量に対して、パルミチン酸(P)1モル等量、オレイン酸(O)1モル等量及びステアリン酸(S)1モル等量を混合した以外、実施例1と同様の操作が行われた。結果を
図2に示す。
P、O及びSが1分子ずつグリセロール1分子にエステル結合しているTAGの位置異性体、鏡像異性体(P+O+S)は、上記HPLCシステムで十分に分離されなかった(
図2a)。いっぽう、TICから、2つのオレイン酸及び1つのステアリン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(OSO、OOS及びSOO;
図2b)、1つのオレイン酸及び2つのステアリン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(SSO、OSS及びSOS;
図2c)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、それぞれ、3つのピーク成分が観察され、上記6種類の位置異性体及び鏡像異性体を含むTAG混合物から、上記6種類の位置異性体及び鏡像異性体が上記HPLCシステムによって分離され、上記ESI-MSシステムによって検出されたことが確認された。
【0034】
実施例3
グリセロール1モル等量に対して、パルミチン酸(P)1モル等量、オレイン酸(O)1モル等量及びリノール酸(L)1モル等量を混合する代わりに、グリセロール1モル等量に対して、リノール酸(L)1モル等量、オレイン酸(O)1モル等量及びステアリン酸(S)1モル等量を混合した以外、実施例1と同様の操作が行われた。結果を
図3に示す。TICから、2分子のオレイン酸及び1分子のステアリン酸がグリセロール1分子にエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(OSO、OOS及びSOO;
図3a)、2分子のリノール酸及び1分子のステアリン酸がグリセロール1分子にエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(LSS、SSL及びSLS;
図3a)、2分子のリノール酸及び1分子のステアリン酸がグリセロール1分子にエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(LSL、LLS及びSLL;
図3b)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、それぞれ、3つのピーク成分が観察され、上記9種類の位置異性体及び鏡像異性体を含むTAG混合物から、上記9種類の位置異性体及び鏡像異性体が上記HPLCシステムによって分離され、上記ESI-MSシステムによって検出されたことが確認された。
【0035】
実施例4
実施例1同様に、グリセロール1モル等量に対して、パルミチン酸(P)1モル等量、オレイン酸(O)1モル等量及びリノール酸(L)1モル等量を混合し、TAG混合物を得た。HPLC条件は、以下の通りとした。
カラム:株式会社ダイセル製CHIRALPAK IF-3(2.0×250mm、アミロース トリス(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)がシリカゲルに結合した、粒径3μmの分離剤が充填されている)
カラム温度:25℃
流量:0.2 mL/min
移動相:アセトニトリル(和光純薬工業株式会社製LC/MS用)
結果を
図4aに示す。2つのオレイン酸及び1つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(26.40のピークはOPO、27.48のピークはOOP、28.68のピークはPOO;
図4a)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、それぞれ、3つのピーク成分が観察され、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体を含むTAG混合物から、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体が上記HPLCシステムによって分離され、上記ESI-MSシステムによって検出されたことが確認された。
【0036】
実施例5
HPLCによるTAG異性体の分離の前に上記カラムにエタノールを線速度で2mL/min・cm
2で3時間通液し、次いで、DMFを線速度2mL/min・cm
2で1日間通液して前処理した以外、実施例1と同様の操作が行われた。結果を
図4bに示す。TICから、2つのオレイン酸及び1つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(25.37のピークはOPO、26.18のピークはOOP、27.44のピークはPOO;
図4b)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、それぞれ、3つのピーク成分が観察され、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体を含むTAG混合物から、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体が上記HPLCシステムによって分離され、上記ESI-MSシステムによって検出されたことが確認された。
【0037】
実施例6
HPLCによるTAG異性体の分離の前に上記カラムにエタノールを線速度で2mL/min・cm
2で3時間通液し、次いで、THFを線速度2mL/min・cm
2で1日間通液して前処理した以外、実施例1と同様の操作が行われた。結果を
図4cに示す。TICから、2つのオレイン酸及び1つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(29.45のピークはOPO、30.23のピークはOOP、31.68のピークはPOO;
図4c)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、それぞれ、3つのピーク成分が観察され、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体を含むTAG混合物から、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体が、実施例4における有機溶媒により前処理されなかったカラムが使用される上記HPLCシステムよりもより明確に分離され、上記ESI-MSシステムによって検出されたことが確認された。さらに、カラムにエタノールを通液した後、THFを通液する前処理が、カラムの分離能の向上に寄与することがわかった。
【0038】
実施例7
HPLCによるTAG異性体の分離の前に上記カラムにIPAを線速度2mL/min・cm
2で1日間通液して前処理した以外、実施例1と同様の操作が行われた。結果を
図4dに示す。TICから、2つのオレイン酸及び1つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(29.61のピークはOPO、30.70のピークはOOP、32.22のピークはPOO;
図4d)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、それぞれ、3つのピーク成分が観察され、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体を含むTAG混合物から、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体が、実施例4における有機溶媒により前処理されなかったカラムが使用される上記HPLCシステムよりもより明確に分離され、上記ESI-MSシステムによって検出されたことが確認された。さらに、カラムにIPAを通液する前処理が、カラムの分離能の向上に寄与することがわかった。
【0039】
実施例8
HPLCによるTAG異性体の分離の前に上記カラムにIPAとTHFの混合液(混合体積比IPA:THF=9:1)を線速度2mL/min・cm
2で2時間通液して前処理した以外、実施例1と同様の操作が行われた。結果を
図4eに示す。TICから、2つのオレイン酸及び1つのパルミチン酸がグリセロールにエステル結合しているTAGの位置異性体及び鏡像異性体(29.96のピークはOPO、31.14のピークはOOP、32.69のピークはPOO;
図4e)に相当する抽出イオンクロマトグラムを作成すると、それぞれ、3つのピーク成分が観察され、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体を含むTAG混合物から、上記3種類の位置異性体及び鏡像異性体が、実施例4における有機溶媒により前処理されなかったカラムが使用される上記HPLCシステムよりも更に明確に分離され、上記ESI-MSシステムによって検出されたことが確認された。さらに、カラムにIPAとTHFの混合液(混合体積比9:1)を通液する前処理が、カラムの分離能の向上に寄与することがわかった。
【0040】
実施例9
TAG混合物の合成
グリセロール1モル等量に対して、パルミチン酸(P)2モル等量及びオレイン酸(O)1モル等量を混合し、EDC3モル等量、DMAP3モル等量、N-エチルジイソプロピルアミン3モル等量を触媒とし、ジクロロメタン中で12時間反応させ、TAG混合物を得た。当該TAG混合物を、ヘキサンと酢酸エチルの混合液(混合体積比95:5)を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画し、トリパルミチン、ジパルミトイルオレオイルグリセロール、ジオレオイルパルミトイルグリセロール及びトリオレインを含むTAG混合物660mgを得た。
【0041】
HPLCによるジパルミトイルオレオイルグリセロール画分の分画
上記TAG混合物660mgを13mLのアセトンに溶解してTAG試料を作製し、当該TAG試料を3回に分けて分取HPLCシステムに注入し、POP、PPO及びOPPを含むジパルミトイルオレオイルグリセロール画分200mgを分画した。上記HPLCシステムの設定条件は以下のとおりであった。
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製Inertsil ODS-3(50×250mm)
カラム温度:40℃
移動相の流量:120mL/min
移動相:アセトン/アセトニトリル(50/50、v/v)
検出器:UV205nm
【0042】
HPLCによるジパルトイルオレオイルグリセロール異性体の分離
上記ジパルトイルオレオイルグリセロール画分をアセトン/アセトニトリル(50/50)で希釈(濃度10mg/mL)し、ジパルミトイルオレオイルグリセロール試料を得た。当該ジパルミチルオレイルグリセロール試料20μLをHPLCシステム(ウォーターズ社製Alliance e2695)に注入し、POP、PPO及びOPPを分離した。上記HPLCシステムの設定条件は以下のとおりであった。
カラム:株式会社ダイセル製CHIRALPAK IF-3(4.6×250mm)
カラム温度:25℃
移動相の流量:1.0mL/min
移動相:アセトニトリル(和光純薬工業株式会社製LC/MS用)
検出器:UV205nm
【0043】
上記HPLCによるジパルミチルオレイルグリセロール異性体の分離操作を100回繰り返し、POP、PPO及びOPPを、それぞれ4mgずつ得た。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法における、2種の脂肪酸とグリセロールから構成されるTAG異性体の位置異性体及び/又は鏡像異性体の分離能は高い。当該分離能の向上により、食用油脂に含まれる当該TAG異性体の定性及び定量分析の精度も向上し、食用油脂の物理的性質及び栄養学的性質に関する研究の進展が期待される。