(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】チェーン伸び測定装置
(51)【国際特許分類】
F16H 7/00 20060101AFI20230417BHJP
B66B 23/02 20060101ALI20230417BHJP
B66B 29/00 20060101ALI20230417BHJP
F16H 7/06 20060101ALI20230417BHJP
F16G 13/02 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
F16H7/00 A
B66B23/02 B
B66B29/00 B
F16H7/06
F16G13/02 A
F16G13/02 Z
(21)【出願番号】P 2021208221
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】弁理士法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 正昭
(72)【発明者】
【氏名】首藤 正志
(72)【発明者】
【氏名】司馬 寛之
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-028324(JP,A)
【文献】特開2017-019616(JP,A)
【文献】特開2018-039636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/00
B66B 23/02
B66B 29/00
F16H 7/06
F16G 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の連結されたリンクを有し、第1及び第2のスプロケット間に掛け渡された無端状のチェーンの伸びを検出するチェーンの伸び測定装置であって、
前記第1及び第2のスプロケットに対応して設けられ、これら第1及び第2のスプロケットの回転により周回送りされる前記チェーンの1リンクごとの送り量に相当する前記第1及び第2のスプロケットの回動タイミングを検出する第1及び第2の検出部と、
これら第1及び第2の検出部により検出される前記第1及び第2のスプロケットの前記回動タイミングのズレ量を、前記チェーンの1リンクずつ移動する測定区間ごとに前記チェーンの複数周回分保持し、これら複数周回分の平均値から各区間の伸び量を求める各区間の伸び量算出部と、
この各区間の伸び量から、前記チェーンの全区間の伸び量を求めるチェーン伸び量算出部と、
を備えたチェーンの伸び測定装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の検出部は、
前記第1及び第2のスプロケットの近くに設けられ、これらスプロケットの回転に伴う、対応するスプロケットの歯の通過ごとに信号を出力する第1及び第2のセンサーを有する
ことを特徴とする請求項1に記載のチェーンの伸び測定装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の検出部は、
前記第1及び第2のスプロケットと同数の歯を有し、対応する前記第1及び第2のスプロケットと同期して回転する第1及び第2の回転板を有し、
これら第1及び第2の回転板の近くに設けられ、これら回転板の回転に伴う、対応する回転板の歯の通過ごとに信号を出力する第1及び第2のセンサーをそれぞれ有する
ことを特徴とする請求項1に記載のチェーンの伸び測定装置。
【請求項4】
前記各区間の伸び量算出部は、
前記チェーンの1リンクずつ移動した区間ごとの回動タイミングのズレ量を区間別に記録するメモリを、前記チェーンの予め設定した周回数分有し、これらメモリに記録された値の、前記周回数分の平均値をそれぞれ算出する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のチェーンの伸び測定装置。
【請求項5】
前記各区間の伸び量算出部は、
前記チェーンの1リンクずつ移動した区間ごとの回動タイミングのズレ量を区間別に記録するメモリを前記チェーンの1周分有し、前記チェーンの周回に伴い前記各区ごとの前記ズレ量を、対応する前記区間別のメモリへ累積させ、これら各区間別のメモリに累積された値を前記チェーンの周回数で除算することにより、前記周回数分の平均値をそれぞれ算出する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のチェーンの伸び測定装置。
【請求項6】
前記第1のスプロケットの歯数をS1、前記第2のスプロケットの歯数をS2、前記チェーンの1周のリンク数をN、前記チェーンの
実際の測定周回数をZとした場合、前記
実際の測定周回数Zを下式により求められた値とすることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のチェーンの伸び測定装置。
Z = 最少公倍数(S1,N,S2)/N × k
ただし、kは1以上の整数とする
【請求項7】
前記チェーンの全区間の伸び量の測定値を、チェーン交換用の規定値と比較してチェーン交換の要否を判定する判定部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のチェーンの伸び測定装置。
【請求項8】
前記チェーン伸び量算出部は、前記第1及び第2のスプロケット間に、所定の伸び量を設定した評価用チェーンを架け渡した評価測定により得られた前記評価用チェーンの1周分の伸び量の実測波形と、この実測波形に含まれる誤差成分を取り除いた理想波形との差分から求められた補正係数を用いて、測定対象チェーンの伸び量測定値を補正することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のチェーンの伸び測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、チェーンの伸びを検出可能なチェーン伸び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエスカレータやオートロードなどの搬送装置では、乗客や物を乗せる踏み段や、乗客が把持する移動手摺を設けており、これらは駆動装置により回転駆動される無端状のチェーンと同期して循環移動する。チェーンは、周知のようにピン、ブッシュ、及びローラからなる軸部を所定ピッチで配列し、これら軸部間をリンクにより連結して構成される。
【0003】
このような構造のチェーンは、上述した軸部の摩耗などにより経時的に伸びが生じる。この伸びが大きくなるとスプロケットとうまく噛み合わず、スプロケットの歯を乗り越える歯飛びを起こすことがある。このような問題が生じないように、チェーンの伸びを計測し、これを監視することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
チェーンの伸びを測定するための新たな技術として、チェーンを周回駆動する駆動と従動のスプロケットの歯部近くに、それぞれ近接スイッチを設置して、走行中に回転するスプロケットの各歯の通過タイミングを検出して、その信号から伸びを測定する技術が、本願出願人により特願2020-131993として提案されている。この方式(以下、スプロケット方式と呼ぶ)では、その特性上、スプロケットの歯の数やチェーンのリンク数の影響により、チェーンの周回毎に測定値が変化することがある。このため、安定した正確な測定結果を得るためには、ある必要な周回数、測定を行わなければならない等、スプロケット方式に特有の制約条件がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようにスプロケット方式では、上述したような所定の制約条件を守らずに測定すると、間違った測定が為される可能性があった。
本発明は、複数の周回数で測定を行うことにより、スプロケット方式の原理的に生じる測定誤差を最小化し、最良の測定精度にてチェーン伸び量を測定可能とするチェーンの伸び測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の形態に係るチェーンの伸び測定装置は、複数の連結されたリンクを有し、第1及び第2のスプロケット間に掛け渡された無端状のチェーンの伸びを検出するチェーンの伸び測定装置であって、前記第1及び第2のスプロケットに対応して設けられ、これら第1及び第2のスプロケットの回転により周回送りされる前記チェーンの1リンクごとの送り量に相当する前記第1及び第2のスプロケットの回動タイミングを検出する第1及び第2の検出部と、これら第1及び第2の検出部により検出される前記第1及び第2のスプロケットの前記回動タイミングのズレ量を、前記チェーンの1リンクずつ移動する測定区間ごとに前記チェーンの複数周回分保持し、これら複数周回分の平均値から各区間の伸び量を求める各区間の伸び量算出部と、この各区間の伸び量から、前記チェーンの全区間の伸び量を求めるチェーン伸び量算出部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、スプロケット方式により、チェーンの伸びを的確に検出でき、測定誤差を最小化し、最良の測定精度にてチェーン伸び量を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るチェーンの伸び検出装置の構成図である。
【
図2】
図1における演算装置の処理内容を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図2における時刻差記憶部による記憶内容のイメージを示す図である。
【
図4】
図1で示した第1及び第2のセンサーの信号波形を示しており(a)は伸びの無いチェーンの信号波形、(b)は伸びのあるチェーンの信号波形を示している。
【
図5】一実施の形態により複数周回分測定された、チェーン1周分の伸び測定値の例を周回毎に示す波形図である。
【
図6】一実施の形態により各測定区間について測定値を指定週平均化した測定結果をチェーンの1周分について示す波形図である。
【
図7】
図2における時刻差記憶部による記憶内容の他のイメージを示す図である。
【
図8】
図6で示した各測定区間について測定値を指定周平均化したチェーンの1周分測定結果の実測値と理想的な測定波形とを対比して示す図である。
【
図9】スプロケット方式にてチェーン全体が伸びたチェーンを測定した場合の測定誤差を含む実測値と真の測定値との大小関係を示す棒グラフである。
【
図10】スプロケット方式にて一部が伸びた評価用チェーンの伸びを測定したチェーン1周分の測定結果を用いて、測定誤差を含む領域と正しい測定値との領域との比率から補正係数を求める手法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
図1に、本発明の一実施の形態に係るチェーンの伸び測定装置を示す。測定対象のチェーンとしては、例えば、エスカレータの駆動チェーンとする。エスカレータには駆動チェーン、手すり駆動チェーン、踏段チェーンなどがあるが、この実施の形態では伸び測定対象のチェーン10は駆動チェーンとする。
【0012】
チェーン10は、軸部101を所定ピッチで配列し、隣り合うこれら軸部101間をリンク102で連結しており、長さ方向両端部が連結された無端状に形成され、駆動用の第1のスプロケット12と、従動用の第2のスプロケット13間に掛け渡されている。第1のスプロケット12は、図示しないエスカレータ駆動用モータの減速機に設けられ、第2のスプロケット13は、図示しない無端状の踏み段や手摺ベルトを駆動するために用いられる。チェーン10は、第1のスプロケット12及び第2のスプロケット13との噛み合いにより駆動され、長さ方向に沿って周回走行する。
【0013】
チェーン10が架け渡されている第1のスプロケット12及び第2のスプロケット13の近くには、これらスプロケット12,13の回動タイミングを検出する第1の検出部15及び第2の検出部16が設けられる。第1の検出部15及び第2の検出部16は、対応するスプロケット12,13の回転に伴う歯の通過ごとに信号を出力する第1のセンサー151及び第2のセンサー161を有する。これらセンサー151,161としては、例えば近接スイッチや光電センサー等、歯の通過を検出できるものであればよい。以下、近接スイッチを用いたものとして説明する。
【0014】
上述したスプロケット12,13の回動タイミングは、センサーである近接スイッチ151,161からの信号により検出される。ここで、回動タイミングとは、スプロケット12,13の回転により周回送りされるチェーン10の、1リンクごとの送り量に相当するスプロケット12,13の回動角ごとのタイミングである。
【0015】
第1の検出部15及び第2の検出部16の出力は、演算装置18に入力される。この演算装置18はマイクロコンピュータなどにより構成され、第1のスプロケット12及び第2のスプロケット13の歯の通過タイミング(回動タイミング)のズレ量に基づきチェーン10の伸びを算出する。そして、例えば、チェーン10の1周分の平均伸び量(全体伸び量)が規定値(例えば、伸び量1%)を超えた場合、監視センター19に知らせる。監視センター19側では信号を受けることで、チェーン交換の準備が実施できる。
【0016】
前述のように、チェーンに駆動力を与える第1スプロケット12と従動して負荷を駆動する第2スプロケット13のそれぞれの歯先には、第1のセンサー151及び第2のセンサー161として、近接スイッチがそれぞれ配置されている。エスカレータ運転中、両スプロケット12,13は一定方向に一定の角速度で回転していく。この際、歯が近接スイッチ151,161の前を順に通過する。近接スイッチ151,161は、各スプロケット12,13の歯が通過する度に、歯を検出して信号がオンし、歯が抜けるとオフするので、パルス信号が生成される。
【0017】
図4は近接スイッチ151,161の検出信号の時間波形を示す。近接スイッチ151,161ともに、スプロット12,13の各歯が通過するたびに信号がオンする。このため、エスカレータ運転中、多数のパルスi,i+1,i+2,・・・が検出される。
図4(a)は、チェーン10が伸びる前の新品段階におけるセンサー信号、
図4(b)はエスカレータが長期間走行し、チェーンが伸びた後の波形を示す。
【0018】
図4(a)で示すチェーンが伸びる前は、近接スイッチ151と161は、同時にセンサー信号がオンするようにセンサー位置を調整している。チェーン10は新品のため、どのリンクも伸び量が0であるので、全てのパルスについて、信号がオンするタイミングは一致しており、時間差はない。
【0019】
一方、
図4(b)は、チェーン10の各リンク102間が長期間の運転によって、軸部101部分の摩耗が進み、全体的に一様に伸びた場合を示している。チェーン10が伸びたことによって、駆動スプロット12と従動スプロケット13の相対角度に変化が生じる。このため、近接スイッチ151と161の信号の立ち上がり(アップエッジ)時刻t1、t2に、時刻差tdが生じるようになる。
【0020】
この時刻差は、
図1における第1のスプロケット12及び第2のスプロケット13との間(区間L)に位置するリンク数全体の伸び量に比例する。上述の区間Lはチェーン伸び量の測定範囲を表し、この測定区間Lにはk個のリンク102が位置しているものとする。すなわち、この時刻差は、測定区間L内に位置するk個のリンク102の合計の伸び量に比例する。したがって、演算装置18は、
図4における時刻差tdを測定することで、チェーンの伸び量を算出できる。
【0021】
なお、スプロケット12及び13が1歯移動する度に、測定しているチェーン番号も1リンクずつズレていく。そのたびに時刻差td(i)が測定されるので、連続測定すると、チェーン1周分について、1リンクずつずらして測定したチェーンリンクk個の合計伸び量値が測定される。この測定を、1周で止めずに、複数周連続測定すると、1つのリンクセット(リンクi~リンクkまで)の伸び量について、複数回の測定を行うことになる。
【0022】
演算装置18は、
図2で示すように、第1のアップエッジ検出部21及び第2のアップエッジ検出部22を有し、第1の近接スイッチ151及び第2の近接スイッチ161から入力される信号の立ち上がりエッジの検出時刻t1、t2をそれぞれ出力する。これら検出時刻t1、t2はエッジ時刻差計算部23に入力され、時刻差tdが算出される。この時刻差tdは、第1のスプロケット12及び第2のスプロケット13の回動タイミングのズレ量を意味し、前述のように第1のスプロケット12及び第2のスプロケット13との間(区間L)に位置するリンク数k全体の伸び量に比例する。
【0023】
チェーン10はスプロケット12,13により長さ方向に周回送りされるので、測定範囲L内のk個のリンク102は1リンクずつ周方向に移動する。したがって、このk個のリンク102からなる区間Lは、チェーン1周のリンク102の数だけ生じ、エッジ時刻差計算部23は、これら区間L毎に時刻差tdを算出する。算出された各区間Lの時刻差tdは時刻差記憶部24に入力され、記憶される。チェーン10は連続的に周回駆動されているので、時刻差記憶部24は上述した各区間Lの時刻差tdを予め設定した複数周回分記憶する。
【0024】
上述した時刻差記憶部24に記憶される具体的な記憶データのイメージを
図3に示す。
図3では、横軸の項目として、「測定周」、「データ番号」、「時刻差」、「近接スイッチ151 歯の番号」、「近接スイッチ161 歯の番号」、「測定リンク範囲」を規定し、縦軸にそれらのデータを記している。
【0025】
「測定周」は、何周目の測定データかを表している。すなわち、時刻差測定は、周回移動するチェーン10について連続的に測定されるので、測定された周が何周目かを表している。
図3の例では1周から23周までの測定データが示されている。
【0026】
「データ番号」は、
図4で示した1パルスごとのデータ番号を表している。例えば、チェーンの1周のリンク数NをN=178とすると、
図3では1周分のデータ番号iは1~178までであり データ番号iが179で、2周目の測定となる。21周目の測定に入ると、データ番号iは3561となる。
【0027】
「時刻差」は、エッジ時刻差計算部23で算出された、2つのアップエッジ時刻t1,t2の差td(i)である。すなわち、近接スイッチ151と161のアップエッジ発生時刻をそれぞれt1(i)、t2(i)とすると、1パルスずつ、
図4(b)で説明した測定値(時刻差)td(i)=t2(i)-t1(i)が得られ、順に記憶されていく。
【0028】
「近接スイッチ151 歯の番号」、「近接スイッチ161 歯の番号」は、近接スイッチ151,161がアップ信号を検出した対応するスプロケット12,13の歯の番号である。
【0029】
「測定リンク範囲」は、
図1で示した測定区間L内におけるリンク102の範囲を表している。すなわち、スプロケット12,13間Lのリンク数kを70リンクとすると、1パルスごとのそれぞれの測定が、データ番号iごとに、リンク1~リンク70、リンク2~リンク71、リンク3~リンク72、・・・・リンク178~リンク69の測定リンク範囲となる。測定値(時刻差)td(i)=t2(i)-t1(i)は、この測定リンク範囲のリンク数(k=70)の合計の伸び量(区間伸び量)に比例した値である。データ番号1(1周目)とデータ番号179(2周目),データ番号357(3周目),・・・では、同じ測定範囲(リンク1~リンク70)の伸び量が測定される。同様に他の測定範囲についても、何度も測定が繰り返されることになる。
【0030】
図2に戻って、前述した第1のアップエッジ検出部21の検出時刻t1のデータは、平均チェーン速度算出部25にも入力される。チェーン10のリンク102の長さ(チェーンピッチ)は決まっているので、平均チェーン速度算出部25は、あるエッジの発生時刻と、そこから時間がたったエッジとの時刻差から、チェーン10の平均の通過速度を算出する。算出されたチェーン10の平均の通過速度と、前述した各区間の時刻差は、各区間の伸び量算出部26に入力される。
【0031】
伸び量算出部26では、各区間Lの時刻差と平均通過速度から、各区間Lの伸び量を算出する。前述のように各区間Lの時刻差はチェーンの複数周回分記憶されているので、この各区間Lの複数周回の時刻差の平均値を区間L毎に算出し、算出された各区間Lの平均値を各区間Lの伸び量とする。
【0032】
この算出された各区間Lの伸び量は全区間の平均値算出部27に入力され、チェーン全区間の伸び量が算出される。算出されたチェーン10の全区間の伸び量は、チェーン1周全体の伸び量でありチェーン交換要否判定部28に入力され、予め設定された規定値との比較によりチェーン10の交換要否が判定される。すなわち、得られたチェーン1周全体の伸び量が、新品状態を基準として、そこから1%伸びたかどうかを判定する。全体の伸び量が1%を超えていたら、チェーン交換の依頼信号が外部の
図1で示した監視センター19へ出力される。
【0033】
このように、演算装置18は、
図1で示された第1及び第2の検出部15,16のセンサー信号から測定されるスプロケット12,13の回動タイミングのズレ量(時刻差td(i))を、チェーンの1リンクずつ移動する測定区間Lごとに、チェーンの複数周回分保持し、これら複数周回分の平均値から各区間の伸び量を求め、この各区間の伸び量から、チェーンの全区間の伸び量を求めている。
【0034】
上記構成においてチェーン10は、スプロケット12,13の回転により、周回駆動される。このとき、第1の検出部15及び第2の検出部16は、対応するスプロケット12,13の回転に伴い、その歯の通過を検出して所定の回動角ごとにパルス状の信号を出力する。チェーン10に伸びがあると、
図4(b)で示すように、第1の検出部15及び第2の検出部16からのパルスに時刻差(回動タイミングのズレ)td(i)が生じる。
【0035】
この時刻差td(i)は、
図1で示したスプロケット12,13間の測定区間Lに存在するk個(この実施例では70個)のリンク(測定リンク範囲)の合計伸び量に比例する。言い換えると、伸びたリンクを含む測定リンク範囲の時刻差である。測定リンク範囲は、スプロケット12,13の回転に伴い1リンクずつ進んでいき、各測定リンク範囲の時刻差td(i)は、
図3で示したようにデータ番号の順に記憶されていく。すなわち、データ番号1~178がチェーン1周分の各測定区間Lの時刻差のデータであり、これらを複数周分記憶している。
【0036】
実際に測定を実施した結果の一例を
図5に示す。
図5は横軸にリンク番号(測定区間Lの先頭リンクの番号)、縦軸にチェーン伸び量の測定値を採って、各段ごとにチェーン1周分測定した値を示している。
図5では、横軸の中央部分の測定値が高い値を維持して推移している。これは一部の伸びたリンクが、測定区間Lを通過していることを意味している。
図5を見ると、各段で示す毎周ごとの測定値が微妙に変化していることが分かる。ただし、複数周、測定を続けると、ある周で、もとの測定値と同じ測定値に戻り、以降、測定値は繰り返しとなることが分かる。
図5の例では第1周目と第21周目は同じ波形となり、第2周目と第22周目も同じ波形となる。
【0037】
したがって、測定値が元にもどる測定周回数Xを最低限の測定周回数とし、実際の測定周回数ZをZ=X×kで求める。ただしkは1以上の整数とする。
図6は、測定周Z=X×2として、最低必要周回数Xの2倍の周回数の測定値の平均値をチェーン1周の伸び量として測定した結果を示しており、
図5と同様に横軸にリンク番号、縦軸にチェーン伸び量の測定値を採っている。
図5で示した1周ごとの測定値では、図示三角歯状の測定ノイズが混入していたが、
図6の指定周回数の平均測定値は、測定ノイズが除去され、実際の伸び量を、精度良く測定できていることが分かる。
【0038】
このように、各測定周の誤差が平均化により軽減され、真の測定値に近い値が得られ、チェーン伸びの測定精度を最大化することができる。
【0039】
上述した理由から、最低限の測定周回数Xが大きな意味を持つが、以下、このX周の求め方を説明する。
図1で示した、第1のスプロケット12は、S1個の歯を持つとする。また、第2のスプロケット13は、S2個の歯を持つとする。チェーン10は、N個のリンクを持つとする。
【0040】
ここで、実際にはスプロケット12,13及びチェーン10のリンク102には、歯の形やチェーン10の軸部101の状態に、製作誤差などによって非常に僅かだが、形状に差異がある。チェーン10の各リンク102は、スプロット12,13の歯との噛み合いが、スプロケット12,13が1歯回るごとにズレていくので、その組み合わせ方の微小な違いが、
図5で示した1周測定ごとの測定値のわずかなズレになると考えられる。
【0041】
したがって、第1スプロケット12の全歯と、チェーン10の全リンク、および第2スプロケット13の全歯との組み合わせパターンが1順する周回数が、測定の最低周回数Xになると考えられる。これらのことから最低限必要な周回数Xは次式から求められる。
X(周)=最小公倍数(S1,N、S2)/N
きっかりX周を測定することによって、各歯の形やチェーンリンクのわずかな形状の誤差などに起因する測定ノイズや測定誤差が、きれいに平滑化される。
【0042】
ただし、上述した測定誤差以外に、センサーを使うシステムの一般的な問題として、センサーノイズによる測定誤差も確率的に起こり得る。このセンサーノイズによる測定誤差は、測定周回数を増やすほど、その影響を低減できる。したがって、X(周)を基本周回数とし、その整数倍の周回数Zを下式により求めることにより、さらに、センサーノイズを低減できる。
Z(周)=X(周)×k ただしkは1以上の整数、できれば2以上が好ましい。
これらの結果、スプロケット方式において、最大限、測定精度を高めることが可能となる。
【0043】
前述の実施形態では、演算装置18の時刻差記憶部24として、
図3で示すように、チェーンの測定リンク範囲毎の時刻差td(i)を複周数分、夫々記憶していたが、この方式ではメモリ数がデータ番号の数、必要となる。例えば、第1スプロケットと第2スプロケットの歯の数がそれぞれ40、チェーンのリンク数が178の場合、スプロケットの歯数40,40とリンク数178の最小公倍数は3560であり、これをリンク数178で割ると20(周)となる。そして、このチェーンを40周測定する場合、7120個の配列メモリが必要となる。
【0044】
そこで、上述のように1周ごとの測定値を記憶せず、
図7のように、チェーンの測定区間ごとに、測定値を毎周累積しておく。すなわち、新しい測定周において、時刻差td(i)が新たに測定されると、これを累積値に足しこみ、所定周回数mの累積値を得る。このようにすると、メモリ数はチェーン1周のリンク数N(ここでは178とする)だけで良いため、
図3の方式に比べメモリ数が7120から178となり、大幅にメモリを節約できる。
【0045】
次に、本発明の別の実施形態を説明する。この実施の形態は、実際の測定量に補正を加えて、より高精度の測定結果を得るものである。
【0046】
図8は、一部のリンクが伸びたチェーンの伸び量を1周に渡って測定した一例を示しており、
図6と同様に、伸びたリンクが測定区間Lを通過している横軸中央部の測定値が高い値で推移している。この場合、理想的には、破線
βで示す直線的な形で測定されるのが望ましい。しかし、チェーン10の伸び量を、スプロケット12,13を介して測定するという構造的な特徴によって、伸びた部分が測定範囲Lに入る前から、スプロケット12,13の動きにチェーン10伸びの影響が徐々に混入し、チェーン伸び量の測定値が、破線
βのようには急激に立ち上がらず、図示実線で示すように、徐々に伸び量が立ち上がるような測定波形
αとなる。同様に、伸びた部分がスプロケット12,13間を抜けていく際にも、同様の事が起き、伸び量が急激に0に戻らず、徐々に0になるような測定値が得られる。ただし、本来の測定範囲における測定値は、正しい測定値が得られている。
【0047】
図8は、ある一部のリンクだけが伸びたチェーンを測定したケースであるが、チェーン全体が一様に伸びたチェーンを測定した場合の影響を示したのが
図9である。理想的な測定に対して、測定の立ち上がり、立下りがだらだらと変化する領域がある影響で、全体が伸びたチェーンを測定した場合には、伸び量の測定値は
図9のように、やや真値よりも大きめに測定されることとなる。
【0048】
これは、
図10で示すように、本来の測定値の面積aに対する余分な部分bの面積比で決まることとなる。すなわち、余分な部分b(測定の立ち上がり、立下りがだらだらと変化する領域)の面積が大きいほど、測定誤差も増加する。だいたい1.2倍程度以下ぐらいの値になる。
【0049】
この余分な立ち上がり、立下り部bの面積は、チェーンのスプロケット歯数とスプロケット間距離などによって一意に決まる。そこで、1リンクだけ既知の値伸びた評価用チェーンを装着して、1回だけチェーン伸び量を測定する。このようにすれば、
図10の測定波形が得られるため、本来の測定範囲と、それに付随するだらだらと立ち上がり、立ち下がる部分の面積比が測定で得られる。従って、その影響によって測定値をどの程度、補正すればよいかの補正係数を容易に計算できる。
【0050】
全体が伸びたチェーンについても、この補正係数を用いて測定値を補正することにより、立ち上がり、立下りの遅さというスプロケット方式固有の影響を受けず、正しい平均伸び量を算出することができ、チェーン交換時期も正しい判定が実施できる。
【0051】
以上、2個のスプロケットにセンサーを設置してチェーン伸び量を測定する場合に生じる誤差を効率的に除去し、本来の精度良いチェーン伸び量測定が可能となる。
【0052】
上述のいずれの実施形態でも、第1及び第2のスプロケットの回動タイミングを検出する第1及び第2の検出部として、スプロケット12,13の歯の通過を、近接スイッチのようなセンサー151,161により検出していたが、このような構成に限定されるものではない。例えば、スプロケット12,13と同数の歯を有する回転板を、対応するスプロケット12,13の回転軸と同軸に設けるなどして、これらスプロケット12,13と同期して回転するように構成し、これら円板の歯の通過をセンサーにより検出するようにしてもよい。構造上からスプロケット近くにセンサー151,161を設置することが難しい場合に有効である。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10…チェーン
101…軸部
102…リンク
12、13…スプロケット
15,16…伸びの検出部
151,161…センサー
18…演算装置
19…監視センター
21,22…アップエッジ検出部
23…エッジ時刻差計算部(回動タイミングのズレ検出部)
24…時刻差記憶部
25…平均チェーン速度算出部
26…各区間の伸び量算出部
28…チェーン交換要否判定部
【要約】
【課題】複数の周回数で測定を行うことにより、スプロケット方式の原理的に生じる測定誤差を最小化し、最良の測定精度にてチェーン伸び量を測定可能とする。
【解決手段】これら第1及び第2のスプロケットの回転により周回送りされるチェーンの1リンクごとの送り量に相当する第1及び第2のスプロケットの回動タイミングを検出し、この回動タイミングのズレ量から、チェーンの、第1及び第2のスプロケット間に位置するリンク数全体の伸び量を、チェーンの1リンクずつ移動した各区間伸び量としてチェーン1周分求め、これら各区間伸び量を、チェーンの複数周回分保持し、複数周回分の平均値を各区間の最終伸び量として求め、この各区間の最終伸び量から、チェーンの1周分の伸び量を求める。
【選択図】
図1