(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】化成処理剤、化成皮膜を有する金属材料の製造方法、および化成皮膜を有する金属材料
(51)【国際特許分類】
C23C 22/34 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
C23C22/34
(21)【出願番号】P 2021504080
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008697
(87)【国際公開番号】W WO2020179734
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2019039882
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 弘資
(72)【発明者】
【氏名】對木 雄悟
(72)【発明者】
【氏名】安 玄洙
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111898(JP,A)
【文献】特開2013-185235(JP,A)
【文献】国際公開第2010/001861(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム、チタンおよびハフニウムから選ばれる金属元素を含むイオン(A)と、クロム、鉄、コバルト、バナジウムおよび銅から選ばれる金属元素を含むイオン(B)と、フッ素を含むイオン(C)と、酸性染料(D)とを含有し、
前記イオン(C)のモル濃度は、前記イオン(A)のモル濃度に対して6倍以上であ
り、
前記酸性染料(D)は、酸性基を有する水溶性染料および該酸性基が反応して塩を構成しうる水溶性染料である、化成処理剤。
【請求項2】
前記酸性基がスルホ基、カルボキシ基、及びリン酸基から選択される1種以上である、請求項1に記載の化成処理剤。
【請求項3】
金属材料の表面又は表面上に請求項1又は2に記載の化成処理剤を接触させる工程を含む、化成皮膜を有する金属材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により得られる、化成皮膜を有する金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造する化成処理剤、該化成処理剤を用いた化成皮膜を有する金属材料の製造方法、該製造方法により製造された化成皮膜を有する金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐食性に優れた化成皮膜を形成することが可能な化成処理剤が開発されている。例えば、特許文献1には、(A)三価クロム、(B)ジルコニウムイオン、(C)塩素イオン、硫酸イオン及び硝酸イオンからなる群のうちの1種以上、(D)芳香族スルホン、及び、(E)フッ素イオンを含有する液体組成物を含む処理液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐食性に優れ、着色した化成皮膜を金属材料の表面又は表面上に形成可能な化成処理剤等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムから選ばれる金属元素を含むイオン(A)と、クロム、鉄、コバルト、バナジウムおよび銅から選ばれる金属元素を含むイオン(B)と、フッ素を含むイオン(C)と、酸性染料(D)とを含有し、前記イオン(C)のモル濃度は、前記イオン(A)のモル濃度に対して6倍以上である化成処理剤が、耐食性に優れ、着色した化成皮膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下のものを含む。
[1]ジルコニウム、チタンおよびハフニウムから選ばれる金属元素を含むイオン(A)と、クロム、鉄、コバルト、バナジウムおよび銅から選ばれる金属元素を含むイオン(B)と、フッ素を含むイオン(C)と、酸性染料(D)とを含有し、前記イオン(C)のモル濃度は、前記イオン(A)のモル濃度に対して6倍以上である、化成処理剤。
[2]金属材料の表面又は表面上に上記[1]に記載の化成処理剤を接触させる工程を含む、化成皮膜を有する金属材料の製造方法。
[3]上記[2]に記載の製造方法により得られる、化成皮膜を有する金属材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐食性に優れ、着色した化成皮膜を金属材料の表面又は表面上に形成することができる化成処理剤を提供することができる。また、該化成処理剤を用いて金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を形成し、化成皮膜を有する金属材料を製造する方法、該製造方法により製造された化成皮膜を有する金属材料も提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態に係る化成処理剤は、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムから選ばれる金属元素を含むイオン(A)と、クロム、鉄、コバルト、バナジウムおよび銅から選ばれる金属元素を含むイオン(B)と、フッ素を含むイオン(C)と、酸性染料(D)とを含有し、前記イオン(C)のモル濃度は、前記イオン(A)のモル濃度に対して6倍以上である。このような化成処理剤を用いることにより、金属材料の表面又は表面上に、耐食性に優れ、着色した化成皮膜を製造することができる。なお、本実施形態に係る化成処理剤は、水性媒体に、イオン(A)の供給源、イオン(B)の供給源、イオン(C)の供給源、酸性染料(D)のみが配合されたものであってもよいし、その他の成分がさらに配合されたものであってもよい。本実施形態に係る化成処理剤は、リンを含む化合物を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0009】
<イオン(A)>
本実施形態に係る化成処理剤は、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムから選ばれる金属元素を含むイオン(A)(以下、単にイオン(A)ともいう)を含有する。イオン(A)としては、例えば、ジルコニウム、チタン又はハフニウムの金属イオン;ジルコニウム、チタン又はハフニウムを含む錯体イオン;ジルコニウム、チタン又はハフニウムの酸化物イオン;等を挙げることができる。これらのイオンは、化成処理剤に1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0010】
化成処理剤中のイオン(A)の濃度は特に制限されるものではないが、金属換算質量濃度(2種以上のイオン(A)を含む場合には、合計金属換算質量濃度を意味する。)として、通常5mg/L以上であり、好ましくは20mg/L以上であり、また、通常2000mg/L以下であり、好ましくは1000mg/L以下である。
【0011】
イオン(A)の供給源としては、水性媒体に混合した際に、イオン(A)を提供できる化合物であれば特に制限されるものではない。例えば、ヘキサフルオロジルコニウム酸、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、酢酸ジルコニル、乳酸ジルコニル、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、テトラノルマルプロポキシジルコニウム硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ヘキサフルオロチタン酸、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、硝酸チタニル、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、水酸化チタン、酸化チタン、チタンフッ化アンモニウム、ヘキサフルオロハフニウム酸、硝酸ハフニウム、酸化ハフニウム等が挙げられる。これらが塩の形態をとり得る場合にはその塩であってもよい。なお、これら供給源は、1種のみ用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。
【0012】
<酸性染料(D)>
本実施形態に係る化成処理剤は、酸性染料(D)を含有する。本明細書において「酸性染料」とは、酸性基を有する水溶性染料および該酸性基が反応して塩を構成しうる水溶性染料を意味する。該酸性基としては、例えば、スルホ基、カルボキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、リン酸基等が挙げられる。酸性染料は、1種又は2種以上の酸性基を有するものを用いてもよい。また、塩としては、例えば、アルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;アルミニウム、スズ、クロム、銅、コバルト、ニッケル、鉄等の金属元素との塩等が挙げられる。なお、上記「水溶性染料」とは、20℃の水100gに0.01g以上溶解する染料であることを意味する。また、20℃の水100gに0.02g以上溶解する染料であることが好ましく、0.2g以上溶解する染料であることがより好ましい。酸性染料は、水性媒体中においてどのような形態で溶解していてもよく、例えば、イオン化していない形態であってもよく、一部又は全部の官能基がイオン化した形態であってもよく、錯体イオン化した形態であってもよく、その他の形態であってもよい。これらは、化成処理剤に1種又は2種以上含まれていてもよい。
酸性染料(D)を化成処理剤に配合することで、着色した化成皮膜を金属材料の表面又は表面上に形成できる。また、該化成皮膜は、酸性染料(D)を含まない化成処理剤により形成された化成皮膜よりも、優れた耐食性を有する。
【0013】
化成処理剤における酸性染料(D)の配合量(濃度)は、特に制限されるものではないが、通常200mg/L以上であり、また、通常30000mg/L以下であり、10000mg/L以下であることが好ましく、2000mg以下であることがより好ましい。
【0014】
酸性染料(D)としては、公知の酸性染料であれば特に制限されるものではない。例えば、アゾ酸性染料、トリアリールメタン酸性染料、インジゴイド酸性染料、アントラキノン酸性染料、キサンテン酸性染料、キノリン酸性染料、ニトロ酸性染料、シアニン酸性染料等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することが可能であり、2種以上を併用する場合、任意に組み合わせることもできる。酸性染料(D)の具体例として、カラーインデックス名で、フードレッド1、フードレッド6、アシッドレッド1、アシッドレッド2、アシッドレッド9、アシッドレッド13、アシッドレッド18、アシッドレッド26、アシッドレッド27、アシッドレッド29、アシッドレッド33、アシッドレッド51、アシッドレッド52、アシッドレッド60、アシッドレッド73、アシッドレッド87、アシッドレッド88、アシッドレッド91、アシッドレッド92、アシッドレッド94、アシッドレッド95、アシッドレッド112、アシッドレッド114、アシッドレッド289、アシッドバイオレット9、アシッドバイオレット43、アシッドオレンジ7、アシッドオレンジ20、アシッドオレンジ24、アシッドイエロー1、アシッドイエロー3、アシッドイエロー11、アシッドイエロー23、アシッドイエロー36、アシッドイエロー40、アシッドイエロー73、フードイエロー3、フードグリーン、アシッドグリーン25、アシッドグリーン5、アシッドグリーン1、アシッドグリーン3、フードブルー2、アシッドブルー3、アシッドブルー5、アシッドブルー9、アシッドブルー74、ダイレクトブルー1、ダイレクトブルー2、ダイレクトブルー6、ダイレクトブルー14、リアクティブブルー21、アシッドブラック1等が挙げられる。
【0015】
<イオン(B)>
本実施形態に係る化成処理剤は、クロム、鉄、コバルト、バナジウムおよび銅から選ばれる金属元素を含むイオン(B)(以下、単にイオン(B)ともいう)を含有する。イオン(B)としては、例えば、クロム、鉄、コバルト、バナジウム又は銅の金属イオン;クロム、鉄、コバルト、バナジウム又は銅を含む錯体イオン;バナジウムの酸化物イオン;等が挙げられる。これらのイオンは、化成処理剤に1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0016】
化成処理剤におけるイオン(B)の濃度は、特に制限されるものではないが、金属換算質量濃度(2種以上のイオン(B)を含む場合には、合計金属換算質量濃度を意味する。)として、通常5mg/L以上であり、好ましくは20mg/L以上であり、また、通常2000mg/L以下であり、好ましくは1000mg/L以下である。
【0017】
イオン(B)の供給源としては、水性媒体に混合した際に、イオン(B)を提供できる化合物であれば特に制限されるものではない。例えば、フッ化クロム(III)、リン酸クロム(III)、硝酸クロム(III)、硫酸クロム(III)、塩化クロム(III)、酢酸クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、コハク酸クロム(III);フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、鉄(III)アセチルアセトナート、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、クエン酸鉄(III)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、ヘキサシアノ鉄(II)、ヘキサシアノ鉄(III)、ヘキサシアノ鉄(II)酸、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、硫酸アンモニウム鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)、リン酸鉄(II);フッ化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、炭酸コバルト、リン酸コバルト、塩化コバルト;酸化バナジウム(II)、酸化バナジウム(IV)、酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム、バナジウムビスアセチルアセトナト、バナジルジアセチルアセトナト、フッ化バナジウム、リン酸バナジウム、硫酸バナジル、硫化バナジウム、シュウ酸バナジル、バナジウムオキシトリイソプロポキシド、バナジウムオキシトリブトキシド、バナジウムオキシトリエトキシド、バナジウムオキシトリイソブトキシド、バナジウムオキシトリエタノールアミネート、バナジウムオキシクエン酸アンモニウム、バナジウムトリブトキシステアレート、バナジルアセチルアセトナト、テトラプロポキシバナジウム、テトラブトキシバナジウム;硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、酸化銅、フッ化銅等が挙げられる。これらが塩の形態をとり得る場合にはその塩であってもよい。なお、これら供給源は、1種のみ用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。ただし、イオン(B)の供給源は、酸性染料(D)とは異なる化合物である。
【0018】
<フッ素を含むイオン(C)>
本実施形態に係る化成処理剤は、フッ素を含むイオン(C)(以下、単にイオン(C)ともいう)を含有する。イオン(C)としては、例えば、フッ化物イオン;化成処理剤中に存在する金属イオンに結合又は配位したイオン;等が挙げられる。これらのイオンは、化成処理剤に1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0019】
化成処理剤におけるイオン(C)の濃度は、フッ素換算モル濃度としてジルコニウム、チタンおよびハフニウムの合計金属換算モル濃度の6倍以上であればよく、上限値は200倍以下であることが好ましい。
【0020】
イオン(C)の供給源としては、水性媒体に混合した際に、イオン(C)を提供できる化合物であれば特に制限されるものではない。例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化ゲルマニウム、フッ化アルミニウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等のフッ素含有化合物が挙げられる。また、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロハフニウム酸等の、イオン(A)の供給源のみ(フッ素含有化合物にも該当する)によって供給されてもよいし、フッ化クロム(III)、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、フッ化コバルト、フッ化バナジウム、フッ化銅等の、イオン(B)の供給源のみ(フッ素含有化合物にも該当する)によって供給されてもよいし、イオン(A)の供給源およびイオン(B)の供給源によって供給されてもよいし、イオン(A)の供給源およびイオン(B)の供給源以外のフッ素含有化合物によって供給されてもよいし、イオン(A)の供給源および/又はイオン(B)の供給源とそれ以外のフッ素含有化合物とを配合することによって供給されてもよい。なお、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロハフニウム酸等の、ジルコニウム、チタン又はハフニウムと、フッ素とを含有する化合物を用いて化成処理剤を調製する場合には、イオン(A)と、イオン(C)とを供給することができる。また、フッ化クロム(III)、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、フッ化コバルト、フッ化バナジウム、フッ化銅等の、クロム、鉄、コバルト、バナジウム、又は銅と、フッ素とを含有する化合物を用いて化成処理剤を調製する場合には、イオン(B)と、イオン(C)とを供給することができる。なお、各種フッ素含有化合物は1種のみを用いてもよいが、2種以上を併用してもよい。
【0021】
<水性媒体>
水性媒体としては、水又は水と水混和性有機溶媒との混合物(水性媒体の体積を基準として50体積%以上の水を含有するもの)であれば特に制限されるものではない。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。これらの水混和性有機溶媒は1種を水と混合させてもよいし、2種以上を水に混合させてもよい。
【0022】
<その他の成分>
その他の成分としては、例えば、アルミニウム、マグネシウムおよび亜鉛から選ばれる金属を含有するイオンの供給源(E)、硝酸イオンの供給源(F)、被処理物の濡れ性を調整する界面活性剤、消泡剤と称される界面活性剤などの添加剤、pH調整剤等の、化成処理剤に用いられる公知の添加剤、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂等の公知の水溶性樹脂や水分散性樹脂等を挙げることができるが、これらに制限されるものではない。なお、これらの他の成分は、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。
【0023】
<化成処理剤のpH>
本実施形態に係る化成処理剤のpHは特に制限されないが、通常酸性~中性の領域であり、具体的にはpHが1.0~7.0の範囲内であることが好ましく、1.5~6.0の範囲内であることがより好ましく、2.0~5.5の範囲内であることが特に好ましい。ここで、本明細書における化成処理剤のpH値は、pHメーターを用いて50℃で測定した値を意味する。
化成処理剤のpHは、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、ホウ酸、有機酸等の酸成分;水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アルカリ金属塩、アンモニア、アンモニウム塩、アミン類等のアルカリ成分;等のpH調整剤を用いて調整することができるが、これらの成分に制限されるものではない。なお、pH調整剤は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0024】
<化成処理剤の製造方法>
本実施形態に係る化成処理剤は、イオン(A)の供給源と、イオン(B)の供給源と、イオン(C)の供給源と、酸性染料(D)と、を原料として、水性媒体に所定量配合することにより製造可能である。上記の各原料を、例えば、上記の順序で水性媒体に配合することで本実施形態に係る化成処理剤を製造できる。なお、その他の成分を配合する場合には、例えば、上記の各原料を水性媒体に配合した後、その他の成分を配合することにより製造できる。
【0025】
<化成皮膜の製造方法>
本実施形態に係る化成皮膜の製造方法は、金属材料の表面又は表面上に本実施形態に係る化成処理剤を接触させる接触工程を含む。これにより、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成される。化成処理剤の金属材料への接触方法としては、従来からある接触方法、例えば、浸漬処理法、あるいは、スプレー処理法、流しかけ処理法等の処理法、又はこれらの組み合わせ等の方法が挙げられるがこれらに制限されるものではない。
【0026】
上記接触工程は、所定の温度範囲で一定時間行うことが好ましい。接触温度は10℃以上90℃以下の範囲内であることが好ましく、20℃以上85℃以下の範囲内であることがより好ましいが、これらの温度範囲に制限されるものではない。また、接触時間は20~700秒間の範囲内であることが好ましく、30~600秒間の範囲内であることがより好ましいが、これらの時間に制限されるものではない。
【0027】
また、接触工程前に、前処理工程を行ってもよい。前処理工程としては、例えば、酸洗工程;脱脂工程;アルカリ洗浄工程;クロメート化成処理工程;リン酸亜鉛、リン酸鉄等のリン酸塩を用いたリン酸塩化成処理工程;ビスマス置換めっき工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、バナジウム化成処理工程等が挙げられる。これらの中でも少なくとも脱脂工程を行うことが好ましい。なお、これらの前処理工程は、1の工程を行ってもよいが、2以上の工程を組み合わせて順次行ってもよい。2以上の工程の組み合わせとしては、リン酸塩化成処理工程と、クロメート化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程又はバナジウム化成処理工程との組み合わせを挙げることができる。前処理工程として実施されるジルコニウム化成処理工程は、本実施形態に係る化成処理剤を用いてもよいし、本実施形態に係る化成処理剤とは異なる化成処理剤を用いてもよい。なお、上記各種前処理工程を行う場合は、各種前処理工程後に水洗処理工程を行ってもよい。各種前処理工程を複数行う場合には、それぞれの工程後、あるいは、一部の工程後に水洗処理工程を行ってもよい。また、水洗処理工程を行った場合には、その後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0028】
また、本実施形態に係る化成皮膜の製造方法において、接触工程後に、例えば、アルカリ洗浄工程、水洗工程、クロメート化成処理、リン酸亜鉛化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、リン鉄化成処理工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、乾燥工程などの後処理工程を行ってもよい。これら後処理工程としては、1の工程を単独で行ってもよいし、2以上の工程を組み合わせて順次行ってもよい。後処理工程として実施されるジルコニウム化成処理工程は、本実施形態に係る化成処理剤を用いてもよいし、本実施形態に係る化成処理剤とは異なる化成処理剤を用いてもよい。なお、上記各種後処理工程を行う場合は、各種後処理工程後に水洗処理工程を行ってもよい。各種後処理工程を複数行う場合には、それぞれの工程後、あるいは、一部の工程後に水洗処理工程を行ってもよい。また、水洗処理工程を行った場合には、その後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。乾燥工程は、通常50~180℃、好ましくは80~150℃で、通常5~20分間、好ましくは10~15分間行ってもよい。
【0029】
金属材料としては、例えば、鉄鋼材料(例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、高張力鋼板、工具鋼、合金工具鋼、球状化黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄等);めっき材料、例えば、亜鉛めっき材(例えば、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき等)、亜鉛合金めっき材(例えば、合金化溶融亜鉛めっき、Zn-Al合金めっき、Zn-Al-Mg合金めっき、電気亜鉛合金めっき等)、アルミめっき材等;アルミニウム材又はアルミニウム合金材(例えば、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系、アルミニウム鋳物、アルミニウム合金鋳物、ダイキャスト材等);マグネシウム材又はマグネシウム合金材;亜鉛材又は亜鉛合金材;銅材又は銅合金材;クロム材又はクロム合金材;ニッケル材又はニッケル合金材;錫材又は錫合金材等が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料は、金属材料の表面又は表面上に、本実施形態に係る化成処理剤を接触させて、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造することで得られる。製造された化成皮膜は、該化成皮膜に含有される、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、クロム、鉄、コバルト、バナジウムおよび銅の全合計質量が、単位面積あたり5mg/m2以上であることが好ましく、10mg/m2以上であることがより好ましく、20mg/m2以上であることが特に好ましい。なお、上限値としては、特に制限はないが、200mg/m2以下であることが好ましい。なお、この化成皮膜における、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、クロム、鉄、コバルト、バナジウムおよび銅の質量は、例えば、蛍光X線分析装置を用いることにより測定することができる。
【0031】
製造された化成皮膜は、該化成皮膜に含有される、酸性染料の合計炭素換算質量(以下、単に染料付着量ともいう)が、単位面積あたり10mg/m2以上であることが好ましく、20mg/m2以上であることがより好ましく、50mg/m2以上であることが特に好ましい。なお、上限値としては、特に制限はないが、200mg/m2以下であることが好ましい。なお、この化成皮膜における、酸性染料の質量は、例えば、TOC(全有機炭素計)を用いることにより測定することができる。
【0032】
本実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料は、本実施形態に係る化成処理剤を接触させることにより得られた化成皮膜の上あるいは下に、1又は2以上の上記各種皮膜(例えば、クロメート化成皮膜、リン酸塩化成皮膜、ビスマス置換めっき皮膜等)を有していてもよい。
【0033】
本実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料の表面上に、塗料を用いて塗装することにより塗膜を形成させることで、化成皮膜および塗膜を有する塗装金属材料を製造することができる。塗料としては、特に制限されないが、有色の塗料を用いてもよいし、酸性染料(D)により付与された色を変えないように、透明の塗料を用いてもよい。塗装方法としては、特に制限はないが、ロールコート法、流動浸漬塗装法、静電粉体塗装法、電着塗装法、溶剤塗装法等、公知の方法を適用することができる。また、ドライラミネート法や押出ラミネート法等により、ラミネートフィルムを貼り付けてもよい。塗装金属材料は、本実施形態に係る、化成皮膜を有する金属材料の表面上に塗膜を有するものであってもよいし、該化成皮膜上に更に形成された、1又は2以上の上記各種皮膜(例えば、クロメート化成皮膜、リン酸塩化成皮膜、ビスマス置換めっき皮膜、バナジウム化成皮膜等)の表面上に塗膜を有するものであってもよい。なお、塗膜は1層からなるものであっても、2層以上からなるものであってもよい。塗膜の厚さは、特に制限されるものではなく、塗装金属材料の使用用途に応じて適宜設定される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
<金属材料>
金属材料として、JIS H 4000:2014で規格されたアルミニウム板(A1050:厚さ:0.8mm)、JIS G 3302:2010で規格された溶融亜鉛めっき鋼板(GI:厚さ:0.6mm、めっき付着量:片面50g/m2)、JIS G 3321:2012で規格された溶融アルミニウム-亜鉛めっき鋼板(GL:厚さ:0.4mm、めっき付着量:片面75g/m2)、JIS G3313:2010で規格された電気亜鉛めっき鋼板(EG:厚さ0.8mm、めっき付着量:片面45g/m2)を、それぞれ縦150mm×横70mmのサイズに切断した。
【0035】
<化成処理剤の調製に用いた各成分>
化成処理剤の調製においては、イオン(A)の供給源として、A1:ヘキサフルオロジルコニウム酸(森田化学工業(株))、A2:硫酸ジルコニウム(日本軽金属(株))、又はA3:チタンフッ化アンモニウム(森田化学工業(株))を;イオン(B)の供給源として、B1:硝酸クロム(日本化学工業(株))、B2:硫酸クロム(日本化学工業(株))、B3:硝酸鉄(富士フイルム和光純薬(株))、B4:硫酸銅(富士フイルム和光純薬(株))を;イオン(C)の供給源として、C1:フッ化水素酸(森田化学工業(株))、C2:フッ化アルミニウム(森田化学工業(株))を;染料(D)として、D1:フードイエローNo.5(東京化成工業(株);フードイエロー3)、D2:アシッドイエロー23(東京化成工業(株))、D3:アシッドレッド27(東京化成工業(株))、D4:アシッドブルー74(東京化成工業(株))、D5:アシッドブルー9(東京化成工業(株))、D6:スミフィックスターコイズブルーG(N)(住友化学(株);リアクティブブルー21)の酸性染料、D7:ベーシックブルー9(富士フイルム和光純薬(株))、D8:ベーシックバイオレット10(富士フイルム和光純薬(株))、D9:ベーシックバイオレット3(富士フイルム和光純薬(株))の塩基性染料を;それぞれ用いた。なお、上記A1およびA3は、イオン(C)の供給源としても用いた。
【0036】
<化成処理剤の調製>
表1に示すとおり、各成分の所定量を水に配合した後、アンモニアで所定のpHに調整することにより、実施例1~21および比較例1~8の化成処理剤を調製した。
【0037】
<化成皮膜を有する金属材料の製造>
各種金属材料(A1050、GI、GLおよびEG)を、50℃に調整した脱脂剤(FC-4424;日本パーカライジング株式会社;20g/Lの濃度となるように水に溶解した水溶液を使用)に120秒間浸漬することにより脱脂した。その後、30秒間スプレー水洗した。続いて、各種化成処理剤(実施例1~21および比較例1~8の化成処理剤)に、表1に示す条件で金属材料を浸漬させ、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜を製造した。得られた化成皮膜を有する金属材料の表面上を水道水、脱イオン水の順で洗浄し、150℃で10分間乾燥して、試験板を得た。
【0038】
【0039】
<性能評価>
作製した試験板を用いて以下の性能評価を行った。結果を表2に示す。
(1)付着量
作製した試験板の化成皮膜の付着量(全金属合計付着量)について、化成皮膜に含まれるジルコニウム、チタン、クロム、鉄および銅の全合計質量を、株式会社リガク製走査型蛍光X線分析装置ZSX primusIIを用いて測定した。また、染料付着量を、株式会社島津製作所製全有機炭素計TOC-LCSHを用いて測定した全有機炭素量から換算して求めた。
【0040】
(2)着色性
作製した試験板の着色を目視判定した。
<判定基準>
Y・・・着色が認められる。
N・・・着色が認められない。
【0041】
(3)耐食性
各試験板の耐食性は、JIS Z 2371:2015に準じた中性塩水噴霧試験を行い、化成皮膜を有する評価に対して、発生したさび面積が10%に達するまでの時間を測定した。なお、化成皮膜を有する評価面におけるさび面積は、目視でさびを確認した箇所の合計面積として測定した。
【0042】
(4)耐酸性
各試験板をpH2に調整した硝酸水溶液(25℃)に5分間浸漬し、化成皮膜の色落ちの有無を目視し、以下の評価基準に従って耐酸性(硝酸水溶液)を評価した。
<評価基準>
Y・・・色落ちしていない
N・・・色落ちしている
【0043】
また、実施例4又は15の化成処理剤を用いて上述のように化成皮膜を形成させた各試験板を、5%若しくは10%の酢酸水溶液、又は5%若しくは10%のクエン酸水溶液(各25℃)に5分間浸漬し、化成皮膜の色落ちの有無を目視し、同様の評価基準に従って評価した。その結果、いずれの水溶液においても色落ちしないことが明らかになった。なお、酢酸及びクエン酸を用いた耐酸性評価結果は、表2には示していない。
【0044】
(5)耐アルカリ性
各試験板をpH12に調整した水酸化ナトリウム水溶液(25℃)に5分間浸漬し、化成皮膜の色落ちの有無を目視にて評価した。
<評価基準>
Y・・・色落ちしていない
N・・・色落ちしている
【0045】
【0046】
表2に示すように、実施例(実施例1~21)の化成処理剤を用いた場合、比較例(比較例1~8)の化成処理剤を用いた場合と比べて、より優れた耐食性を有し、着色した化成皮膜を金属材料の表面又は表面上に形成することができる。また、該化成皮膜は、耐酸性および耐アルカリ性に優れる。さらに、本実施形態の化成処理剤を用いた場合、化成皮膜の色味(化成皮膜を形成する前の金属材料の色味と、化成皮膜を形成した後の金属材料の色味との差:色差)と該化成皮膜の付着量とが相関を示す。すなわち、化成皮膜の色味を目視で確認することで、該化成皮膜の付着量を管理することができる。また、金属材料の表面又は表面上に、色ムラがなく付着量が均一な化成皮膜を形成することができる。
【0047】
なお、本発明については、具体的な実施例を参照して詳細に説明されるが、本発明の趣旨及び範囲から離れることなく、種々の変更、改変を施すことができることは当業者には明らかである。