(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】ZC3H12Bの遺伝子又はタンパク質の用途及び肝疾患動物モデルの確立方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230417BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20230417BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20230417BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C12N15/09 110
A01K67/027 ZNA
C12Q1/6886 Z
G01N33/574 Z
(21)【出願番号】P 2021539085
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 CN2020072609
(87)【国際公開番号】W WO2021134842
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】201911399060.4
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516217413
【氏名又は名称】上海海洋大学
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI OCEAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.999, Huchenghuan Rd, Pudong New District, Shanghai 201306 China
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】▲関▼ 桂君
(72)【発明者】
【氏名】常 宇▲陽▼
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/023808(WO,A2)
【文献】国際公開第2010/098429(WO,A1)
【文献】ZC3H12B/MCPIP2, a new active member of the ZC3H12 family, RNA, Epub 2019 Apr 15, vol. 25, no. 7, p. 840-856
【文献】Potential limitations of the Sleeping Beauty transposon use in gene expression studies, Acta Biochim Pol, Epub 2019 July 12, vol. 66, no. 3, p. 263-268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/0-090
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZC3H12B遺伝子の全部又は一部の機能を喪失しており、
肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの症状を有する、メダカである、肝疾患動物モデル。
【請求項2】
メダカのZC3H12Bの遺伝子又はタンパク
質を標的として、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんを治療する薬物をスクリーニングする方法であって、
候補物質で、
メダカのZC3H12B遺伝子又はタンパク質の発現系を処理することと、
前記系における
メダカのZC3H12B遺伝子又はタンパク質の発現を検出することと、を含み、
前記候補物質が
メダカのZC3H12B遺伝子又はタンパク質の発現を向上させることができる場合、その候補物質は必要な潜在物質であることを示し、この逆の場合は、
前記候補物質は不要な潜在物質であることを示すことを特徴とする、方法。
【請求項3】
肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの症状を有する肝疾患動物モデルの確立方法
であって、
メダカにおいて、ZC3H12B遺伝
子をノックアウトするステップを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物医学技術の分野に関し、特に遺伝子やタンパクの新機能及び関連疾患動物モデルの確立に関し、具体的に、ZC3H12Bの遺伝子又はタンパクの用途及び肝疾患をシミュレートする動物モデルの確立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓の病気は非腫瘍性と腫瘍性肝疾患の2種類に分類されているが、非腫瘍性肝疾患(一般的な肝炎ウイルスや寄生虫などの病原性感染、化学やアルコール性肝障害、胆石症、胆管奇形など遺伝発達異常)では、肝類洞内の肝細胞、胆管上皮細胞や幹細胞が存在する微小環境が、常に胆管上皮が分泌する胆汁の刺激を受け、また、肝類洞固有のマクロファージ(クッパー細胞、Kupffer cell、KC)と自己免疫系のリンパ球が分泌するサイトカインの影響によって、肝臓局部損傷部位の肝臓細胞が脂肪性病変、繊維化、さらに肝硬変、ひいては肝臓腫瘍性がんに至る。疫学調査資料によると、肝細胞がん(Hepatocellular Carcinoma、HCC)と肝臓内胆管細胞がん(肝内胆管がん、Intrahepatic Cholangiocarcinoma、ICC)は男性と女性の発症割合が異なり、HCCでは、男性と女性の発症率は、約2:1~4:1であり、ICCでは、発症率は女性が男性よりやや高い(3:2)。ICCは、肝胆管上皮細胞、肝細胞、幹細胞、及び胆管周囲付属腺細胞に由来する胆管腺がんである。その発症率は、肝細胞がん(HCC)の肝臓原発性悪性腫瘍に次いで高い。
【0003】
ICCの病原性因子には、肝炎ウイルスや寄生虫などの病原性感染による胆管炎、化学発がん物質や遺伝などの因子が含まれているが、その発病機構と明確な病因は依然不明である上、近年は世界的に上昇傾向にある。ICCの早期には、明らかな臨床症状がないため、早期診断と適時の治療は重要で特別な意義がある。ICC肝臓がんの性差の解釈については、現在の研究は主に性ホルモンと細胞因子を中心に展開されている。しかし、ここ数年、エストロゲン・アンドロゲン受容体の経路と炎症に対する介入の治療計画は、期待される治療結果が臨床的に得られていない。一方、現在の多くの研究結果は、化学誘導による肝臓がん発生動物モデルに由来するものであり、臨床的なHBVとHCV感染によるICC、特に遺伝的要因によるICCの発生過程を完全にシミュレーションできていない。もう一方で、ICCにおいては、細胞の種類が異なるため、性差に関する原因及び機構は、まだ完全に解明されておらず、ICC動物モデルは薬誘導動物モデルが主流であるため、ゲノムレベルでの詳細な研究は不足している。したがって、遺伝子及びタンパク質のICC動物モデルは、肝臓がん発病機構及び性差についての遺伝子レベルの研究、迅速な診断技術の研究開発、並びに標的薬の設計やスクリーニングなどに対して、重要な基礎科学と臨床応用価値がある。
【0004】
Zc3h12タンパク質ファミリーは、免疫応答や炎症反応に制御するCCCH型ジンクフィンガータンパク質の一種であり、1つのCCCH型ジンクフィンガードメイン(DNA又はRNA結合に関与)、1つのPIN Zc3h12機能ドメイン、1つのRNA酵素活性ドメイン、そして1つの独立したZC3H12ファミリーの保存性が高いユビキチン関連ドメイン(UBA)を有することを特徴としている(
図2-3参照)。Zc3h12タンパク質ファミリーは、ZC3H12A、ZC3H12B、ZC3H12C、ZC3H12Dの4つのメンバーを含む。これら4つのタンパク質は、アミノ酸配列の相同性は高いが、組織分布は大きく異なっている。ZC3H12タンパク質ファミリーの機能は、まだ完全に解明されていない。Zc3h12bについては、Wawro M.ら(Wawro M., Wawro K., Kochan J., Solecka A., Sowinska W.Lichawska-Ciesla A., et al., Zc3h12b/MCPIP2, a new active member of the ZC3H12 family. RNA. 25 (2019) 840-856.)では、ヒトと哺乳動物のZc3h12bが公開され、炎症性インターロイキン6(proinflammatory interleukin-6 (IL-6) mRNA)と結合して細胞質に存在し、微顆粒様構造(granule-like structure)を形成し、mRNAの転写及びタンパク質への翻訳をコントロールし、細胞周期をG2期で停止させる機能を有する。しかし、Zc3h12bと肝疾患との関係、特にICC及びICCに関連する脂肪肝及び肝臓がんとの関係は、本特許出願の出願日までに報告されておらず、また、マウスや他の動物において、Zc3h12bをノックアウトした肝疾患動物モデルの報告もない。
【発明の概要】
【0005】
発明の内容
本発明の目的は、先行技術の不足に対して、ZC3H12Bの遺伝子又はタンパク質の用途を提供し、かつこれに基づいて肝疾患動物モデルの確立方法を提供することである。
【0006】
本発明の第1の態様では、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質、又はそれらのアップレギュレーターが、肝内胆管嚢胞腺腫(biliary cystadenoma、BCA)、肝内胆管嚢胞腺がん(biliary cystadenocarcinoma、BCAC)、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんを治療する薬物の調製における応用を提供する。
【0007】
本発明の好ましい実施形態では、前記アップレギュレーターは、小分子化合物又は生体高分子から選択される。
【0008】
本発明の第2の態様では、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんを治療する医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質のアップレギュレーター、及び薬学的に許容されるキャリアを含む。
【0009】
本発明の第3の態様では、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質を診断マーカーとする、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの診断試薬又は診断キットの調製における応用を提供する。
【0010】
本発明の第4の態様では、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質の量を検出する試薬が、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの診断試薬又は診断キットの調製における応用を提供する。
【0011】
本発明の第5の態様では、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質を標的として、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんを治療する薬物をスクリーニングする方法を提供し、当該方法において、
候補物質で、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質の発現系を処理することと、
前記系におけるZC3H12B遺伝子又はタンパク質の発現を検出することと、を含み、
前記候補物質がZC3H12B遺伝子又はタンパク質の発現を向上させることができる場合、その候補物質は必要な潜在物質であることを示し、この逆の場合は、候補物質は不要な潜在物質であることを示す。
【0012】
本発明の第6の態様では、肝疾患動物モデルの確立方法を提供し、前記方法は、動物のZc3h12b遺伝子又はタンパク質発現をノックダウンするステップを含む。
本発明の好ましい実施形態として、前記肝疾患は肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんから選択される。
本発明の他の好ましい実施形態として、前記動物は、ヒト以外の下等から高等脊椎動物が選択される。
【0013】
本発明の第7の態様では、前記いずれか一つの方法に従って確立された肝疾患動物モデルの用途を提供し、前記用途は、
a)ヒト及び/又は動物のzc3h12bによる、マクロファージが媒介する脂肪肝の発生及び肝臓がん様の変化の調節に関連する分子機構の研究と、
b)ヒト及び/又は動物の肝内胆管嚢胞腺腫、肝臓内胆管嚢胞腺がん又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの分子発病機構の研究と、
c)肝内胆管嚢胞腺腫又は肝内胆管嚢胞腺がんの肝実質の萎縮壊死及び線維化がんの発病メカニズムと機構の研究と、
d)ヒトや動物において、雌雄の肝臓の分化又は発達に及ぼす影響、を及ぼす内因性の雌雄の性差により調節を受ける又は外因性の環境因子により調節を受ける肝内胆管嚢胞腺腫又は肝臓内胆管嚢胞腺がんの発生率への影響に関するスクリーニングと、から選択される。
【0014】
本発明の利点は、以下の通りである。
本発明は、初めて遺伝子編集技術を利用して、メダカのzc3h12bの遺伝子を標的にノックアウトし、zc3h12bが欠失したメダカを樹立し、一連のフレームシフト・突然変異体、及び、Zc3h12bタンパク質生成が欠失したヘテロ接合体及びホモ接合体を作成した。これらのヘテロ接合体及びホモ接合体は、いずれも程度が異なる肝臓の病変を示した。月齢の増加に伴って、局所的な脂肪肝が現れ、胆管増生で線維化し、6か月齢のメダカでは著しい脂肪肝を示し、局部的に嚢腫して壊死していた。zc3h12bノックアウトメダカでは、正常の対照群に対して、肝類洞への顕著なリンパ球浸潤、マクロファージの数の異常な増加、肝胆管増生の融合と肝細胞脂肪病変が見られた。免疫組織化学反応では、平滑筋アクチンSMA陽性細胞だけでなく、GPC3、SMA、CK19などのヒトにおける肝臓および胆管腫瘍細胞マーカー陽性細胞も検出され、MMP9陽性マクロファージの数が有意に増加しており、鉄粒子の沈着などのヒトの肝臓がん様の症状を伴っていた。これに基づき:
1、zc3h12b欠失メダカは、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん又はそれらの病変過程を研究する動物モデルとして、CCC3H型ジンクフィンガータンパク質であるZc3h12bによるマクロファージの炎症反応の活性化の制御、及び、肝臓以外の組織(生殖腺や脳など)固有のリポ多糖代謝-マクロファージ免疫応答についての分子機構を深く研究するための生体動物研究のプラットフォームを提供することができる。中医学(漢方)では、「肝臓がん」は「肥気」病と呼ばれていることから、zc3h12bノックアウトメダカは「肥気メダカ」と命名された。本発明の動物モデルは、従来技術において化学的に誘導した肝臓がん発生動物モデルと比べて、臨床的に肝内胆管嚢胞腺腫又は肝内胆管嚢胞腺がんの発生過程を良好にシミュレート(模擬)することができ、肝内胆管嚢胞腺腫及び肝内胆管嚢胞腺がんの遺伝子レベルの性差を深く探求することにも一層に役立ち、かつ単一遺伝子ノックアウトの方式は簡単で容易に操作できる。
2、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質は、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの治療標的とすることができる。
3、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質は、肝内胆管嚢胞腺腫、肝臓内胆管嚢胞腺がん又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの診断マーカーとすることができる。
4、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質を標的として、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんを治療する薬物をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面の説明
図1:zc3h12bノックアウト型「肥気メダカ」:肝胆管増生の融合、肝細胞の風船様脂肪変性(***);肝類洞内リンパ球浸潤
【0016】
図2-3:メダカZc3h12bタンパク質の分子構造における機能領域は、高い進化的保存性を有している。
図2.メダカZc3h12bタンパク質のアミノ酸配列は、鳥類、哺乳類のマウス及びヒトのZc3h12bの機能構造領域(緑色の枠で最初の枠:ユビキチン関連ドメインUBA、赤い枠で2番目の枠:PIN Zc3h12ドメイン、オレンジ枠で3番目の枠:CCCH型ジンクフィンガードメイン、青枠で4番目の枠:RNA分解酵素活性ドメイン)のアミノ酸配列は、相同性保存が高い。
図3.ソフトウェアMEGAXのMUSCLEのマルチプルシークエンスアラインメントを使用し、且つ、ソフトウェアMEGAXのNeighbor-joining treeを用いて系統樹を作成し、メダカのZc3h12bタンパク質がZc3h12ファミリーメンバーに属するという結論を得た。系統樹解析による、Zc3h12A、-B、-C、-Dの4大Zc3h12ファミリーメンバーを示す。
【0017】
図4-7:CRISPR/CAS9編集システムを利用して、メダカZc3h12bの遺伝子標的をノックアウトする戦略で、5種類の部分的又は完全に欠失したZc3h12bの突然変異型メダカを得た。
図4. メダカのzc3h12bの遺伝子のシーケンス番号と構造。図中の黄色のハイライトはメダカのzc3h12bのエクソン1上の2つの標的部位についてのgRNAシーケンスである。
図5. 野生型及びノックアウト型のPCR法によるジェノタイピング。
図6. 野生型とノックアウト型のゲノミックPCR産物のDNAシークエンシング確認。
図7. N末端のポリペプチドを抗原として作成した抗体を用いて、野生型及びノックアウト型について肝臓のZc3h12bタンパク質についてウエスタンブロット(イムノブロット)分析の結果を示す。ウエスタンブロット分析では、野生型のZc3h12b(OlaX-201、845aa、94.57 kDaの予測; OlaX-202、833aa、93.37 kDaの予測)のバンドが検出され、ノックアウト型肝臓では発現の減少(Mut 3)、又は発現なし(Mut 1)であり、ノックアウト後のZc3h12bタンパク質の部分的又はすべての欠損が確認された。5種類の突然変異型は、いずれも、完全なZc3h2bタンパク質を発現できなかった。
【0018】
図8: 野生型とノックアウト型の肝臓の形態の比較及び組織切片の解析結果を示す。正常な雌雄の肝臓a-b)は、深紅色あるいは褐色を呈しており、組織の質感は柔らかかった。ノックアウト型ホモ接合体の肝臓c-d)は、淡黄色~乳白色を呈しており、組織は厚く、結節があった。正常な雌の肝臓の切片e-e')では、肝類洞が規則的で隙間なく広がっていた。ノックアウト型の肝臓の切片f-f')では、大量の胆管増生及び融合、胆汁のうっ滞が見られ、実体肝臓での胆嚢の顕著な縮小と一致していた。e-f)は低倍,e'-f')は高倍での観察である。
【0019】
図9: 抗ヒトSMA自己免疫抗体の免疫組織化学分析。低倍及び高倍での正常なメス(A-A′)、オス(B-B′)、及びノックアウト型(C-C’)の肝臓の切片におけるの抗SMAの免疫組織化学の結果を示す。ノックアウト型の肝臓では大量の胆管増生の周囲に、SMA陽性細胞が取り囲んでいた。これは、胆汁酸給餌誘導による肝臓がんモデルマウスにおける、SMA陽性細胞が多数の胆管を囲み増生する表現型(P Fickert et al., American Journal of Pathology 2006)に類似している。
【0020】
図10: 抗ヒトサイトケラチン19(CK19)抗体による免疫組織化学分析。正常なメス、ノックアウト型のメス及びノックアウト型のオス(低倍A,B,C;高倍A’,B’,C’)における肝臓切片の抗ヒトCK19による免疫組織化学反応。正常な肝臓では、CK19陽性細胞は少ししか存在せずほぼ検出されないが、ノックアウト型肝臓では、CK19陽性細胞が大量に見られ、増生した胆管及びその周辺組織に集積している。抗ヒトCK19を添加しないネガティブコントロール(陰性対照)では、褐色のシグナルが見られない(B" NC)。これは、胆汁酸給餌誘導による肝臓がんモデルマウスにおける、CK19抗体陽性細胞が胆管を囲み増生する症状(P Fickert et al., American Journal of Pathology 2006)に類似している。
【0021】
図11: 肝臓がんマーカー抗体による多重蛍光免疫組織染色。正常なオスの肝臓では、抗GPC3及び抗MMP9の反応は微弱で検出が困難であったが、zc3h12bをノックアウトしたメダカの肝臓では、多くの抗ヒトGPC3、抗ヒトMMP9、抗ヒトCK19、及び抗ヒトSMAの陽性細胞が存在し、これらの細胞は、がん化した可能性があることを示唆している。抗GPC3(緑、矢印)、抗MMP9、抗CK19、抗SMA(赤、矢先)、細胞核用の4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4’,6-diamidino-2-phenylindole、DAPI)ではネガティブ染色される。
【0022】
図12: zc3h12bノックアウトメダカにおける肝臓中のマクロファージの異常な活性化。プルシアンブルー染色及びエオシンのネガティブ染色によると、正常なオス(低倍A、高倍A’)とメス(低倍B、高倍B’)の肝類洞には、鉄の粒子を含む肝類洞マクロファージ(クッパー細胞、KC)が少量存在し、これらのKCはzc3h12bノックアウトメダカの肝臓(低倍C、高倍C’)においては、異常に増殖していることが明らかとなった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
具体的な実施形態
Zc3h12b
Zc3h12bはZc3h12タンパク質ファミリーのメンバーであり、このタンパクファミリーは免疫応答と炎症反応に作用するCCCH型ジンクフィンガータンパク質である。
本発明において、使用されるZc3h12bタンパク質は天然に存在し得る。例えばそれは、下等から高等脊椎動物まで単離又は精製され得る。また、に分離又は純化され得る前記Zc3h12bタンパク質は、従来の遺伝子工学組換え技術に従って、組換えられたZc3h12bタンパク質を生産するように人工的に調製されてもよい。
【0024】
本発明には、任意の適したZc3h12bタンパク質が使用されてもよい。前記Zc3h12bタンパク質は、全長のZc3h12bタンパク質又はその生物学的活性フラグメントを含む。
【0025】
本発明には、1つ以上のアミノ酸残基の置換、欠落又は添加を経て形成されたZc3h12bタンパク質のアミノ酸配列も含まれる。Zc3h12bタンパク質又はその生物学的活性フラグメントは、一部の保守アミノ酸の置換シーケンスを含み、前記アミノ酸により置換されたシーケンスは、その活性に影響しないか、又はその部分の活性を保持している。アミノ酸を適切に置換することは、当業者に周知の技術であり、この技術は容易に実施され、且つ得られる分子の生物学的活性を変更しないことを保証することができる。これらの技術は、一般的に言えば、ポリペプチドの非必須領域における単一アミノ酸置換が、生物学的活性を実質的に変更しないことを当業者に認識させた。Watsonなど参照、Molecular Biology of The Gene, 第4版, 1987, The Benjamin/Cummings Pub.Co.P244。
【0026】
いずれのZc3h12bタンパク質の生物学的活性フラグメントも本発明に適用できる。ここで、Zc3h12bタンパク質の生物学的活性フラグメントとは、1つのポリペプチドとして、その全長Zc3h12bタンパク質の全部又は一部の機能を依然として維持することができるという意味である。好ましくは、前記生物学的活性フラグメントは少なくとも50%の全長Zc3h12bタンパク質の活性を維持する。より好ましい条件では、前記活性フラグメントは、全長Zc3h12bタンパク質の60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の活性を維持することができる。
【0027】
本発明はまた、その半減期、有効性、代謝、及び/又は蛋白質の効果を促進するために改変又は改良されたZc3h12bタンパク質を採用することもできる。改変又は改良されたZc3h12bタンパク質は、Zc3h12bタンパク質の共役物であってもよく、又は置換された又は人工的なアミノ酸を含んでもよい。
【0028】
すなわち、Zc3h12bタンパク質に影響を及ぼさないいずれの生物学的活性の置換の形式も、本発明において使用されてもよい。
【0029】
同様に、天然に存在する、単離精製された、人工的に調製された、改変又は改良されたがZc3h12bタンパク質をコードする能力を依然として備えているZc3h12b遺伝子又はそのフラグメントは、いずれも本発明に使用されてもよい。
【0030】
アップレギュレーター
本文で使用されるように、前記Zc3h12bのアップレギュレーターは、促進剤、作動薬などを含む。Zc3h12bタンパク質の活性を高め、Zc3h12bタンパク質の安定性を維持し、Zc3h12bタンパク質の発現を促進し、Zc3h12bタンパク質の分泌を促進し、Zc3h12bタンパク質の有効作用時間を延長し、又はZc3h12bの転写と翻訳を促進する物質はいずれも本発明に用いることができる。
【0031】
本発明の好ましい態様として、前記Zc3h12bタンパク質のアップレギュレーターは、細胞に導入された後に、Zc3h12bを発現する(好ましくは過剰発現する)ことができるベクター又は発現構築物(発現コンストラクト)を含むが、これらに限定されない。一般的に、前記発現ベクターは遺伝子カセットを含み、前記遺伝子カセットは、Zc3h12bをコードする遺伝子と、それの操作性に連結された発現制御配列とを含む。「操作性に連結」又は「操作可能に連結された」ということは、線形DNAシーケンスの一部が、同じ線形のDNAシーケンスの他の部分の活性を調節又は制御することができる状況を意味する。例えば、プロモーターが配列の転写を制御する場合、コーディングシーケンスに操作可能に連結されたことになる。
【0032】
応用
本発明は、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質、又はそれらのアップレギュレーターが、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんを治療する薬物の調製における応用を提供する。
【0033】
胆管がん(cholangiocarcinoma)は肝臓の悪性腫瘍であり、原発性と続発性の2種類に分けられる。本発明では、好ましくは、原発性肝内胆管嚢胞腺がん、すなわち肝胆上皮に由来する肝臓の悪性腫瘍を指す。その病因には、B型肝炎ウイルス(HBV)及びC型肝炎ウイルス(HCV)感染、アフラトキシン、飲用水汚染、アルコール、肝硬変、性ホルモン、ニトロソアミン類物質、微量元素、自己免疫性肝疾患などが含まれる。
【0034】
本発明は、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質を診断マーカーとする、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの診断試薬又は診断キットの調製における応用も提供する。本発明によれば、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質の量を検出する試薬が、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞がん、又はそれらに関連する脂肪肝や肝臓がんの診断試薬又は診断キットの調製に用いられることができる。測定対象サンプル(サンプル)のZc3h12bタンパク質又はそのコード遺伝子の発現状況を分析することにより、被験者の病気状況を知ることができ、病気の診断や予後の根拠を提供する。測定対象のサンプル又は測定対象のサンプルは、患者の組織又は体液である。
【0035】
Zc3h12bの発現状況を検出するために様々な技術が使用されてもよく、これらの技術は本発明に含まれる。核酸の検出に利用可能な既存の技術は、例えば、遺伝子チップ技術、プローブハイブリダイゼーション技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、Northern Blotなどの方法を含むが、これらに限定されない。タンパク質の検出は、質量分析器などによって、又はWestern BlotやELISAなどの方法で行うことができる。
【0036】
本発明はまた、ZC3H12B遺伝子又はタンパク質を標的として、肝内胆管嚢胞腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんを治療する薬物をスクリーニングする方法を提供し、当該方法において、
候補物質で、ZC3H12Bの遺伝子又はタンパク質の発現系を処理することと、
前記系におけるZC3H12Bの遺伝子又はタンパク質の発現を検出することと、を含み、
前記候補物質がZC3H12Bの遺伝子又はタンパク質の発現を向上させることができる場合、その候補物質は必要な潜在物質であることを示し、この逆の場合は、候補物質は不要な潜在物質であることを示す。
【0037】
Zc3h12bを発現する前記系は、Zc3h12bを内因的に発現する細胞であってもよく、あるいはZc3h12bを組換え発現する細胞であってもよい。このようなZc3h12bを発現する系は、亜細胞系、溶液系、組織系、器官系又は動物系(例えば、動物モデル。好ましくは魚、ネズミ、ウサギ、ヒツジ、サルなどの低又は高等脊椎動物モデル)であってもよい。本発明の好適な態様では、スクリーニングを行う際に、Zc3h12bの発現の変化をより容易に観察するために、さらに、対照群を設定することができ、前記対照群は、前記候補物質を添加しないZc3h12bの発現系であってもよい。
【0038】
動物モデル
本発明の発見に基づいて、動物のzc3h12b遺伝子又はタンパク質発現をノックダウンするステップを含む肝疾患動物モデルの確立方法が提供される。前記肝疾患は肝臓内胆管嚢腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんであることができる。動物はヒト以外の下等から高等脊椎動物に選ばれ、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、及びネズミ、イヌ、ウサギ、サル、ヒトを含む哺乳類を含む。
【0039】
本発明の動物モデルは、肝臓内胆管嚢腺腫、肝内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの分子機構研究の良好なプラットフォームとすることができる。
【0040】
薬物組成物
本発明の薬物組成物は、本明細書に記載の活性剤及び薬学的に許容されるキャリアを含むことができる。薬学的に許容されるキャリアは通常、安全で無毒であり、広く製薬産業において薬物組成物を調製するためのいかなる公知物質を含むことができ、例えば、充填剤、希釈剤、凝固剤、粘着剤、潤滑剤、流動促進剤、安定化剤、着色剤、湿潤剤、崩壊剤などである。合成ペプチドの送達(デリバリー)に適した賦形剤を選ぶには、主にこの薬物組成物の投与方法を考慮必要があり、当業者はこの技術を熟知している。本発明の薬物における活性剤の含有量は、異なる治療用途に応じて決定することができる。上記の薬物組成物は、すでに知られている薬学プログラムによって調製できる。例えば、「レミトンの製薬科学」(Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Alfonoso R. Gennaro編、マック出版社(Mack Publishing Company)、イーストン、ペンシルバニア(1985))の本に詳細な記載がある。本発明の薬物は、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、丸薬、内服液、注射液などを含むが、これらに限定されない。
【0041】
以下、具体的な実施形態に基づき、本発明をさらに説明する。これらの実施形態は、本発明の範囲を限定することなく本発明を説明するためにのみ使用されることを理解されたい。以下の実施形態では、具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、一般的な条件、例えば、ジョゼフ・サンブルックら著、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第三版、科学出版社、2002に記載された条件、又は製造元によって提案された条件に従う。
【実施例】
【0042】
実施例1
1.zc3h12b遺伝子のノックアウト及び同定
CRISPR/Cas 9システムを利用して、メダカの1細胞期の受精卵をマイクロインジェクションし、zc3h12b遺伝子のノックアウトを行う。具体的な方法は次の通りである。
【0043】
(1)Ensebleのウェブサイト(http://asia.ensembl.org/index.html)からメダカ
(Japanese medaka HdrR,Oryzias latipes)のzc3h12b遺伝子配列を取得する。Crisprscanのウェブサイト(http://crisprscan.org/)で、メダカのzc3h12b遺伝子配列に基づいて、CRISPR/CAS9編集システムの標的ノックアウト部位を検索するとともに、メダカのトランスクリプトームBLASTとの照合検索をすることで、他のいかなる非特異性的結合も予測されない候補部位を選択する。標的部位は、プロモーターの後に最初のATGに近い位置を選択する。標的シーケンスの前にT7プロモーターシーケンスを追加し、後端にgRNA scaffoldシーケンスを追加し、同時に、T7プロモーターの効率を確保するために、標的部位5’の端の最初の二つの塩基はGGであるべきであり、そうでなければCをGに変更する。本プロジェクトの実際の標的部位は以下の通りである。
zc3h12bCrispr1:GCATGCCACTGAGGAGTCGG(SEQ ID NO:1)
zc3h12bCrispr2:GGGAGAAACTAGGCCGGTCG(SEQ ID NO:2)
上海生工会社(Shanghai Biotech Co. Ltd.)によって合成され、合成シーケンスはそれぞれ以下の通りである。
(a)zc3h12bgRNA1:
5’-TAATACGACTCACTATAGGATGCCACTGAGGAGTCGGGTTTTAGAGCTAGAAATAGC(SEQ ID NO:3)
(b)zc3h12bgRNA2:
5’-TAATACGACTCACTATAGGGAGAAACTAGGCCGGTCGGTTTTAGAGCTAGAAATAGC(SEQ ID NO:4)
zc3h12bのgRNA1とzc3h12bのgRNA2は、それぞれPCR(94℃3分1ラウンド、94℃30秒、65℃30秒、72℃1分(34ラウンド)、72℃5 分1ラウンド)を介して、SgRNA-scaffold 5'-AAAAGCACCGACTCGGTGCCACTTTTTCAAGTTGATAACGGACTAGCCTTATTTTAACTTGCTATTTCTAGCTCTAAAAC(SEQ ID NO:5)に連結した。PCR産物をQIAquick PCR Pruification Kitキットにより精製し、その後MAXIscript(登録商標)T7 In Vitro Transcription Kit(Thermo Fisher、USA)キットを用いてin vitroで転写し、gRNAを合成した。Cas 9タンパク質(金斯瑞生物科技、中国)と混合してマイクロインジェクションを行い、胚注射後の標的ノックアウト効率を検出し、最後に上記二つの標的部位に焦点を合わせる。
【0044】
(2)1細胞期の受精卵は、2回に分けてマイクロインジェクションを行った。マイクロインジェクション液の組成:
1) gRNA1(100ng/μl)、Cas9タンパク質(100ng/μl)添加;
2) gRNA1(100ng/μl)とgRNA2(100ng/μl)、Cas9タンパク質(100ng/μl)添加。
【0045】
(3)標的ノックアウト結果の同定
1)プライマー合成
Fw9:5’- GACTTAGACGGAGAAGACCATATTAG(SEQ ID NO:6)
Rv10:5’-CGCACCAATTCAGCAAGAAC(SEQ ID NO:7)
プライマーFw9とRv 10は、野生型とzc3h12bノックアウト型を識別するために、メダカのzc3h12bのエクソン1セグメント断片を特異的に増幅することができる。
【0046】
2)注射5日後の魚卵からDNAを抽出し、プライマーFw9及びRv10を用いてPCRを行い、PCR産物をダイレクトシークエンシングで標的部位の突然変異効率を検出した。正常な野生型(WT)と比較して、胚をノックアウトしたPCRダイレクトシークエンシングの結果によると、標的部位に明らかな重複ピークが現れ、標的位置が編集されていること、すなわちgRNA/Cas 9システムの編集効果が良好であることが示された。
【0047】
3)注射した魚卵を成魚に飼育し、尾びれを切ってDNAを抽出し、FW9及びRV10のプライマーを用いてPCR増幅を行い、PCR産物はDNAシークエンシングで重複ピークの有無を確認し、さらに検出される成魚個体がzc3h12b遺伝子上で遺伝子編集が行われているかどうかを確認した。結果は表1を参照。2回のマイクロインジェクションでは、合計134個の受精卵を注射し、胞胚の生存率は76%、稚魚の孵化率は66%となり、最終的には5匹のF0種魚(Founder:雌1雄2の3匹の単一標的部位の種魚;雌1雄1の2匹の2つの標的部位の生殖細胞を有し子孫に伝わる能力を持つ種魚)を得た。
【0048】
【0049】
2.遺伝子交雑により、選別育種して異なるzc3h12bノックアウトタイプの魚の取得
メダカは26~28℃の水循環系で飼育され、明暗サイクル時間は14/10時間で、上海海洋大学実験動物研究委員会の指導に従って厳重に処理している。gRNA 1とgRNA 2の両方の標的を同時に注射し、遺伝子編集された成魚を種魚として、それぞれ野生型の雌雄とペアにして、発生した子を成魚に飼育し、尾びれを切ってDNAを抽出し、FW9とRV10プライマーを使ってPCRを行ってzc3h12b遺伝子型を同定する。PCR産物はpGEM(登録商標)-T Easy(Promega,USA)ベクターに接続され、プラスミドを抽出し、シークエンシングしてDNAシーケンスを同定した。確認されたヘテロ接合体の雌雄個体を互いにペアにし、子孫遺伝子型の同定によりメンデルの遺伝法則に合致することを示し、最終的にはzc3h12bノックアウトの編集をされたホモ接合体を得る。
【0050】
FW9とRV10プライマーを使用してゲノムDNA中の特異的PCRを行いzc3h12bのエクソン1の局所領域を増幅し、野生型、ヘテロ接合体、ホモ接合体の同定を行う。次の5種類の突然変異型が同定された。Mut 1は214 bpの塩基配列を欠失し、Mut 2は68 bpの塩基配列を欠失し、Mut 3は137 bpの塩基配列を挿入し、Mut 4は1 bpの塩基配列を増加させ、Mut 5は4 bpの塩基配列を増加させた。ノックアウト突然変異型塩基の増加又は減少によって、電気泳動で野生型とノックアウト型のPCRの増幅産物を検出、比較し、野生型と複数の突然変異型個体の遺伝子型を得る(
図4-7)。
【0051】
3.野生型とzc3h12b遺伝子ノックアウトのメダカの肝臓の実体及び組織学的形態観察
性的に成熟したメダカ(3か月齢以上)の解剖と実体観察である。野生型の成魚、雌雄各3匹を準備する。ヘテロ接合体の雄2匹、ホモ接合体5匹で実体解剖を行い、4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて肝臓、生殖腺などの組織を通常の方法で固定し、パラフィンに包埋し組織切片(厚さ6ミクロン)とし(Leica RM 2265自動ミクロトーム、ドイツ)、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色を施し、野生型個体及びzc3h12b遺伝子ノックアウト個体の肝臓などの組織学的形態変化を観察した。
【0052】
その結果を
図8に示す。野生型の雌雄肝臓は、淡褐色(
図8ではaとb)であるのに対して、ノックアウト型のホモ接合体の肝臓はやや淡い黄色や乳白色で、肝臓には明らかな結節と嚢状腫があり(
図8ではc、d、c’とd’)、野生型の緑色の胆嚢に対しては(
図8ではa”とb”)、ノックアウトホモ接合体の胆嚢は著しく萎縮し、胆汁が肝臓にうっ滞する(
図8ではc”とd”)。正常な肝臓切片の中で肝類洞の肝細胞が整然と並んでいて、胆管の中に胆汁のうっ滞がない(
図8ではeとe’)のに対して、ノックアウト型の肝臓の中に明らかな嚢腔があり、高倍率で多くの胆管増生、不規則な融合、胆管の中の胆汁うっ滞、肝細胞の壊死・脱落が見られる(
図8ではfとf’)。
【0053】
4.肝臓がんの表面抗体の免疫組織化学分析
【表2】
【0054】
ウサギ抗ヒトα-SMA(又はウサギ抗ヒトCK 19、ウサギ抗ヒトMMP 3、マウス抗ヒトGPC 3など)抗体を一次抗体(1:100)とし、ヤギ抗ウサギ(又はネズミ)IgG- HRPコンジュゲート(MBL、日本)を二次抗体(2 nd抗体、1:1000)として、正常群とノックアウト群の肝臓切片に対して免疫組織化学又は/及び免疫蛍光分析し、ペルオキシダーゼの発色基質であるジアミノベンジジン(DAB、デンマーク)を用いて化学的に発色させるか、又はチラミド蛍光シグナル増幅技術TSATM Plus Fluorescence System(PerkinElmer Life Science、米国)を用いて、共焦点レーザー顕微鏡(Leica DMi8 TCS SP 8,ドイツ)で観察し、画像を撮影した。
【0055】
野生型の6月齢の正常な肝臓切片には、少量の細胞が微弱なα-SMA陽性反応(
図9ではAとA’)があり、オスの局所脂肪粒子の近くに多くのα-SMA陽性細胞(
図9ではBとB’)があり、6月齢のノックアウト型の肝臓では、胆管増生領域の周囲で、α-SMA陽性細胞の異常増殖が増えている(
図9ではCとC’)。陰性対照の切片には一次抗体を加えないため、上記のシグナルが検出されない(
図9ではA”、B”、C”)。
【0056】
サイトケラチン19(CK 19)は、肝細胞性肝臓がん(HCC)と肝臓内胆管細胞がん(ICC)を鑑別診断する主要な抗体の一つである。3月齢から6月齢のノックアウト型雌雄の肝臓では、胆管の周囲に程度の異なる抗ヒトCK 19陽性細胞(
図10)があり、zc3h12bノックアウトが胆汁うっ滞やICCの原因となる可能性が高いことが示唆された。
【0057】
ヒトにおける肝臓および胆管腫瘍細胞マーカーのマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP 9)とグリピカン3(GPC 3)は、zc3h12bノックアウトメダカの肝臓切片でも、正常な肝臓対照群の発見より明らかに高い(
図11)。分布からは、一部の細胞はGPC 3/MMP 9、GPC 3/CK 19(
図11ではBとC)を同時に発現するが、GPC 3はSMAとは異なる細胞で発現する(
図11ではD-D'、矢印はα-SMA陽性細胞、矢印の三角はα-GPC 3陽性細胞)が分かる。
【0058】
5.zc3h12bノックアウトした肝臓には、大量の鉄が沈着したマクロファージが活性化する
鉄沈着マクロファージのプルシアンブルー染色方法:肝臓のパラフィン切片に対し、キシレンを用いて通常の脱蝋を行い、漸減濃度の一連のアルコールによって再水和し、脱イオン水で3回洗浄した後、新たに調製した20%塩酸+10%フェロシアン化カリウムを1:1で混合し、室温で光を避けて2時間染色し、4度で一晩放置した。翌日は30分室温に戻し、蒸留水で3回(5分/回)洗浄した後、エオシン染色を2~3分し、漸増濃度のアルコールで脱水し、キシレンに還元し、中性樹質で切片を封止した後、顕微鏡で観察し写真(ニコンNI-S-E)を撮影した。
【0059】
肝臓マクロファージはさまざまな炎症誘発性または抗炎症性因子を放出することにより、肝臓の局所的な微小環境を調節および維持し、肝臓の内部の重要な自然免疫細胞である。鉄のプルシアンブルー染色とエオシンのネガティブ染色を組み合わせて使用すると、正常な雌雄の肝臓の中で少量のプルシアンブルー陽性(鉄の粒子を含む)のマクロファージが検出された一方、zc3h12bノックアウト型の肝臓の中で大量の鉄の粒子を含むマクロファージ増殖の活性化が検出された(
図12)。
【0060】
以上より、本発明はzc3h12bをノックアウトすることにより、ヒト肝内胆管嚢胞腺腫、肝臓内胆管嚢胞腺がん、又はそれらに関連する脂肪肝や肝臓がんを模倣する肥気メダカを樹立し、これらのメダカは肝臓に胆汁がうっ滞し、胆管増生が融合し、脂肪炎症やマクロファージが活性化され、ヒトにおける肝臓および胆管腫瘍細胞マーカー陽性細胞が増加するなど肝臓がん化の形状があり、肝内胆管嚢胞腺腫、肝臓内胆管嚢胞腺がん又はそれらに関連する脂肪肝又は肝臓がんの研究に生体動物モデルを提供することができる。
【0061】
上記は本発明の好適な実施形態に過ぎず、当業者であれば、本発明の方法を逸脱することなく、いくつかの改善と補足を行うことができ、これらの改善と補足も本発明の保護範囲と見なすべきことを留意されたい。
【配列表】