(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】皮膚での活性型PAR-2を指標とした皮膚状態評価方法、PAR-2活性化促進剤又は抑制剤のスクリーニング方法及びPAR-2活性化抑制剤
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230417BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230417BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230417BHJP
A61K 8/42 20060101ALI20230417BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230417BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20230417BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230417BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230417BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230417BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230417BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230417BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230417BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20230417BHJP
【FI】
G01N33/50 Q ZNA
G01N33/53 D
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
A61K8/42
A61Q19/00
A61K31/16
A61P17/00
A61P29/00
A61P37/08
A61P17/06
A61P43/00 111
C07K16/28
C07K14/705
(21)【出願番号】P 2021554044
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043162
(87)【国際公開番号】W WO2021084760
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】傳田 澄美子
(72)【発明者】
【氏名】傳田 光洋
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-170323(JP,A)
【文献】特開平09-227367(JP,A)
【文献】安東嗣修,痒みにおける表皮ケラチノサイトの重要性,薬学雑誌,2006年,Vol.126,No.6,PP.403-408
【文献】川端篤史,プロテアーゼ受容体PAR-2(protease-activated receptor-2)の生理機能,日本薬理学雑誌,2003年,Vol.121,PP.411-420
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
A61K 31/16
A61P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する抗活性型PAR-2抗体を用いて、皮膚試料における表皮の活性型PAR-2を検出することを含む、表皮状態の評価方法。
【請求項2】
前記抗活性型PAR-2抗体が、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断された活性型PAR-2に結合する一方で、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断されていない非活性型PAR-2には結合しない、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記非活性型PAR-2が、配列番号1の26~36位のN末端アミノ酸を含む、請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記活性型PAR-2が、配列番号1の少なくとも36位までのN末端のアミノ酸を欠如する、請求項1~3のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記活性型PAR-2の検出量が高い場合に、表皮が荒れ状態であると評価する、請求項1~4のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項6】
表皮の荒れ状態とは、炎症状態、肌荒れ、バリア機能低下、かゆみ、赤み、乾燥からなる群から選ばれる少なくとも1の表皮状態を決定する、請求項5に記載の評価方法。
【請求項7】
活性型PAR-2の検出が、以下の:
前記皮膚試料を前記抗活性型PAR-2抗体と接触させる工程、
標識付きの二次抗体を皮膚試料と接触させる工程、及び
皮膚試料において標識の検出強度を決定する工程
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項8】
皮膚試料において候補物質を適用する工程、
候補物質が適用された皮膚試料において、活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する抗活性型PAR-2抗体により、活性型PAR-2を検出する工程、及び
活性型PAR-2の検出強度を低下させる候補物質をPAR-2活性化抑制剤と決定する工程
を含む、PAR-2活性化抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
皮膚試料において、スクラッチ処理を行う工程をさらに含み、スクラッチ処理がされた皮膚試料に候補物質が適用される、請求項8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記PAR-2活性化抑制剤が、表皮状態改善剤である、請求項8又は9に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
皮膚試料において候補物質を適用する工程、
候補物質が適用された皮膚試料において、活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する抗活性型PAR-2抗体により、活性型PAR-2を検出する工程、及び
活性型PAR-2の検出強度を増加させる候補物質をPAR-2活性化促進剤と決定する工程
を含む、PAR-2活性化促進剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記PAR-2活性化促進剤が、表皮状態悪化物質である、請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
活性型PAR-2を検出する工程が、
皮膚試料を前記抗活性型PAR-2抗体と接触させる工程、及び
標識付き二次抗体を接触させ、標識を検出する工程、
を含む、請求項8~12のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記抗活性型PAR-2抗体が、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断された活性型PAR-2に結合する一方で、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断されていない非活性型PAR-2には結合しない、請求項8~13のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記非活性型PAR-2が、配列番号1の26~36位のN末端アミノ酸を有する、請求項14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
前記活性型されたPAR-2が、配列番号1の少なくとも36位までのN末端のアミノ酸を欠如している、請求項8~15のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
以下の:
【化1】
{式中、R
1およびR
2は同一または異なり、水素原子、炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記式:
【化2】
(但し、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子を示し、n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物、又はその塩を含む、PAR-2活性化抑制剤。
【請求項18】
N-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミド又はその塩を含む、請求項17に記載のPAR-2活性化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚での活性型PAR-2を指標とした皮膚状態評価方法、並びにPAR-2活性を指標としたPAR-2活性化剤又は抑制剤のスクリーニング方法に関する。さらに、本発明に係るスクリーニング方法により選択されたPAR-2活性化抑制剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼ受容体(PAR:Protease Activated Receptor)は、特定のプロテアーゼにより活性化されるGタンパク共役7回膜貫通型受容体の一種である。現在までに4つのPARファミリー(PAR-1~4)が同定されている。PAR-1、3及び4は、トロンビン受容体である一方で、PAR-2はトロンビンでは活性化されない。PAR-2は、トリプシン、トリプターゼ、第VIIa因子、第Xa因子などにより活性化されることが知られている。PAR-2は、PAR-2のN末端の部分ペプチドがこれらのプロテアーゼにより切断され、新たなN末端が生成し、この新たなN末端を含むペプチドがリガンドとして作用することにより活性化される。また、切断により生じる新たなN末端のペプチドの配列に基づく合成ペプチドが、PAR-2を活性化できることが報告されている。PAR-2は、内皮性の組織に広く分布し、特に消化器、循環器、呼吸器、神経、皮膚などで高度に発現していることが知られている。
【0003】
表皮ケラチノサイトのPAR-2(Protease Activated Receptor-2)は、アトピーや乾癬の病態、皮膚バリアの恒常性・痒み・炎症に関与している。PAR-2はプロテアーゼにより切断され活性化すると、Gタンパク質を介してイノシトール三リン酸(IP3)を産生し、細胞内カルシウムを上昇させ、NF-κB(Nuclear Factor-kappa B)などの転写因子を動員させ、TSLP(Thymic Stromal Lymphopoietin)など炎症性サイトカインの産生を増加させる。表皮の顆粒層における細胞外カルシウムの上昇は、ラメラ顆粒の放出を抑制し、バリア回復を遅らせる。TSLPなどの炎症性サイトカインは皮膚内の感覚神経を刺激し、痒みを起こすと考えられている。
【0004】
このように生理的に重要な役割を担うPAR-2に関し、特定の化合物についてPAR-2抑制作用を評価する方法や、スクリーニング方法が開発されている(特許文献1:特許第4728248号、特許文献2:特表2012-519735号、特許文献3:特開2004-170323号)。これまでのPAR-2抑制剤のスクリーニング法は、PAR-2を発現する培養細胞を用いて、PAR-2活性化以降に起こる細胞内の反応、例えばカルシウム濃度変化やサイトカインの放出量などを測定し、指標とするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4728248号公報
【文献】特表2012-519735号公報
【文献】特開2004-170323号公報
【文献】特開平9-227367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来行われているPAR-2活性化以降に起こる細胞内の反応を指標としたPAR-2抑制作用の評価方法やスクリーニング方法は、PAR-2活性化を間接的に評価することに基づいている。これらの評価方法は、PAR-2活性化を直接測定しているわけではないことから、試験物質の他の生理作用に基づく反応をPAR-2への作用と誤認する可能性がある。また、従来の方法では培養細胞においてスクリーニングがされることから、実際の組織、例えば皮膚で生じているPAR-2活性化を反映した結果が得られないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らが、鋭意研究を行ったところ、PAR-2タンパク質のN末端の切断を検知する抗体を用いることで、PAR-2の切断状態に基づいてPAR-2活性化の評価が可能になることを見出した。抗体を用いることにより、表皮においてPAR-2活性化が生じる部位を明らかにすることができ、かかる部位に着目することで、PAR-2活性化抑制剤又はPAR-2活性化促進剤をスクリーニングする方法を発明するに至った。さらに当該スクリーニング方法を用いることで、新たなPAR-2活性化抑制剤を見出した。そこで本発明は、以下のものに関する:
【0008】
[1] 活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する抗活性型PAR-2抗体を用いて、皮膚試料における表皮の活性型PAR-2を検出することを含む、表皮状態の評価方法。
[2] 前記抗活性型PAR-2抗体が、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位で切断された活性型PAR-2に結合する一方で、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断されていない非活性型PAR-2には結合しない、項目1に記載の評価方法。
[3] 前記非活性型PAR-2が、配列番号1の第26位~第36位のN末端アミノ酸を含む、項目2に記載の評価方法。
[4] 前記活性型PAR-2が、配列番号1の少なくとも第36位までのN末端のアミノ酸を欠如する、項目1~3のいずれか一項に記載の評価方法。
[5] 前記活性型PAR-2の検出量が高い場合に、表皮が荒れ状態であると評価する、項目1~4のいずれか一項に記載の評価方法。
[6] 表皮の荒れ状態であると評価するとは、炎症状態、肌荒れ、バリア機能低下、かゆみ、赤み、乾燥からなる群から選ばれる少なくとも1の表皮状態を決定することである、項目5に記載の評価方法。
[7] 活性型PAR-2の検出が、以下の:
前記皮膚試料を前記抗活性型PAR-2抗体と接触させる工程、
標識付きの二次抗体を皮膚試料と接触させる工程、及び
皮膚試料において標識の検出強度を決定する工程
を含む、項目1~6のいずれか一項に記載の評価方法。
[8] 皮膚試料において候補物質を適用する工程、
候補物質が適用された皮膚試料において、活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する抗活性型PAR-2抗体により、活性型PAR-2を検出する工程、及び
活性型PAR-2の検出強度を低下させる候補物質をPAR-2活性化抑制剤と決定する工程
を含む、PAR-2活性化抑制剤のスクリーニング方法。
[9] 皮膚試料において、スクラッチ処理を行う工程をさらに含み、スクラッチ処理がされた皮膚試料に候補物質が適用される、項目8に記載のスクリーニング方法。
[10] 前記PAR-2活性化抑制剤が、表皮状態改善剤である、項目8又は9に記載のスクリーニング方法。
[11] 皮膚試料において候補物質を適用する工程、
候補物質が適用された皮膚試料において、活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する抗活性型PAR-2抗体により、活性型PAR-2を検出する工程、及び
活性型PAR-2の検出強度を増加させる候補物質をPAR-2活性化促進剤と決定する工程
を含む、PAR-2活性化促進剤のスクリーニング方法。
[12] 前記PAR-2活性化促進剤が、表皮状態悪化物質である、項目11に記載のスクリーニング方法。
[13] 活性型PAR-2を検出する工程が、
皮膚試料を前記抗活性型PAR-2抗体と接触させる工程、及び
標識付き二次抗体を接触させ、標識を検出する工程、
を含む、項目8~12のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[14] 前記抗活性型PAR-2抗体が、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断された活性型PAR-2に結合する一方で、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断されていない非活性型PAR-2には結合しない、項目8~13のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[15] 前記非活性型PAR-2が、配列番号1の26~36位のN末端アミノ酸を有する、項目14に記載のスクリーニング方法。
[16] 前記活性型されたPAR-2が、配列番号1の少なくとも36位までのN末端のアミノ酸を欠如している、項目8~15のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[17] 以下の:
【化1】
{式中、R
1およびR
2は同一または異なり、水素原子、炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記式:
【化2】
(但し、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子を示し、n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物、又はその塩を含む、PAR-2活性化抑制剤。
[18] PAR-2活性化の抑制を必要とする対象に、以下の:
【化3】
{式中、R
1およびR
2は同一または異なり、水素原子、炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記式:
【化4】
(但し、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子を示し、n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物、又はその塩を投与することを含む、炎症性皮膚疾患、皮膚の炎症状態、肌荒れ、バリア機能低下、かゆみ、赤み、乾燥の治療方法又は美容方法。
[19] PAR-2活性化抑制を介して、炎症性皮膚疾患、皮膚の炎症状態、肌荒れ、バリア機能低下、かゆみ、赤み、乾燥の治療において使用するための、以下の:
【化5】
{式中、R
1およびR
2は同一または異なり、水素原子、炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記式:
【化6】
(但し、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子を示し、n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物、又はその塩。
[20] PAR-2活性化抑制剤の製造のための、以下の:
【化7】
{式中、R
1およびR
2は同一または異なり、水素原子、炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記式:
【化8】
(但し、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子を示し、n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物、又はその塩の使用。
[21] N-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミド又はその塩を含む、項目17に記載のPAR-2活性化抑制剤、項目18に記載の方法、項目19に記載の化合物又はその塩、又は項目20に記載の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、活性型PAR-2の検出強度を指標とすることで、実際の皮膚において生じるPAR-2活性化に即してPAR-2活性化を検出することができ、より正確に表皮状態の評価が可能となり、またスクリーニング方法において、皮膚において作用するPAR-2活性化抑制剤及び/又はPAR-2活性化促進剤の選択が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、抗PAR-2抗体と抗活性型PAR-2抗体とを用いて、皮膚試料を蛍光染色して蛍光顕微鏡で撮影された写真を示す。
【
図2】
図2は、抗活性型PAR-2抗体と抗フィラグリン抗体とを用いて、皮膚試料を蛍光染色して蛍光顕微鏡で撮影された写真を示す。
【
図3】
図3は、抗活性型PAR-2抗体と抗ZO-1抗体とを用いて、皮膚試料を蛍光染色して蛍光顕微鏡で撮影された写真を示す。
【
図4】
図4は、抗PAR-2抗体と抗活性型PAR-2抗体を用いて、皮膚試料を蛍光染色する際に、抗活性型PAR-2抗体の抗原ペプチドを添加した場合の、蛍光の変化を蛍光顕微鏡で撮影した写真を示す。
【
図5】
図5は、皮膚試料を、水(Water)、ダイズトリプシン阻害剤(SBTI)、50μMトリプシン及びダイズトリプシン阻害剤(Try 50μM+SBTI)、10μMトリプシン(Try 10μM)、100μMトリプシン(Try 100μM)で処理した後に、抗活性型PAR-2抗体を用いて蛍光染色を行い、蛍光顕微鏡で撮影された写真から蛍光強度を数値化したグラフ示す。
【
図6】
図6Aは、皮膚試料に対してスクラッチ処理を行い、スクラッチ直後の皮膚試料(After scratch before incubation)、スクラッチ処理後水を1時間適用した皮膚試料(Water)、スクラッチ処理後トラネキサム酸を1時間適用した皮膚試料(Tranexamic Acid)、スクラッチ処理後N-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミドを1時間適用した皮膚試料について、抗活性型PAR-2抗体を用いて蛍光染色して蛍光顕微鏡で撮影された写真を示す。
図6Bは、
図6Aの写真において、蛍光強度を数値化したグラフ示す。
【
図7】
図7Aは、ヒトPAR-2の全長アミノ酸配列を示し、
図7Bは、マウスPAR-2の全長アミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の1の態様は、活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する、抗活性型PAR-2抗体を用いた表皮状態の評価方法に関する。本発明により評価される表皮状態として、PAR-2の活性化により引き起こされる表皮状態である表皮の荒れの状態を評価することができる。表皮の荒れ状態としては、さらに具体的に炎症状態、肌荒れ、バリア機能低下、かゆみ、赤み、乾燥などが挙げられる。本発明に係る評価方法は、活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する、抗活性型PAR-2抗体を用いて、皮膚試料における表皮の活性型PAR-2を検出することを含む。
【0012】
PAR-2とは、プロテアーゼ受容体2(Protease activated receptor-2)を指す。PAR-2のアミノ酸配列は、ヒトでは例えば配列番号1により表され(
図7A)、マウスについては配列番号2で表される(
図7B)。図中、活性化PAR-2において切断して生じる新たなN末端を含むペプチド(ヒト:SLIGKV、マウス:SLIGRL)に下線を付して示す。PAR-2の由来生物は任意の生物であってよいが、哺乳動物、例えばヒトが好ましい。PAR-2は、上記のアミノ酸配列を有するものだけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体、成熟体及びアミノ酸修飾体などが包含されうる。
【0013】
活性型PAR-2とは、PAR-2の細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位で切断されたPAR-2を指す。一方、PAR-2の細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断されていないPAR-2を非活性型PAR-2と呼ぶ。ヒトの場合、PAR-2の細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位は、配列番号1の第36位と第37位との間であり、少なくとも36位までのN末端のアミノ酸が切断されることで配列番号1の37位のS(セリン)が新たなN末端として露出する。新たなN末端を含むペプチド(
図7A及びB、下線部)が細胞外第2ループに結合することで、細胞内シグナルが誘起される。PAR-2のN末領域に存在するプロテアーゼ切断部位は、トリプシン、トリプターゼなどの酵素により切断されることが知られているが、これらに限定されることを意図しない。活性型PAR-2と、非活性型PAR-2は、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位で切断されている点を除き同一であることから、活性型PAR-2を抗体で検出を行う場合、活性型PAR-2のN末端を識別できる抗体を使用する必要がある。活性型PAR-2のN末端を識別できる抗体は、活性型PAR-2のN末端の抗原ペプチドに結合することができる。このような抗原ペプチドは、ヒトの場合SLIGKV(配列番号3)を含むペプチドを意味し、好ましくはN末端部分がSLIGKVであるペプチドである。マウスの場合、SLIGRL(配列番号4)を含むペプチドを意味し、好ましくはN末端部分がSLIGRLであるペプチドである。
【0014】
本発明において用いられる抗活性型PAR-2抗体は、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位で切断された活性型PAR-2に結合する一方で、細胞外N末領域に存在するプロテアーゼ切断部位が切断されていない非活性型PAR-2には結合しない抗体を指す。このような抗体は、SLIGKVを含む抗原ペプチドを用いて、定法に従い製造することができる。SLIGKVを含む抗原ペプチドとしては、一例として配列番号1の配列のうち、SLIGKVから始まる10~20残基のペプチドを使用することができる。抗活性型PAR-2抗体の一例として、Santa Cruz社から販売される、ヤギ抗PAR-2N19抗体(sc-8206)が挙げられる。また、非活性型PAR-2を検出する目的で、抗非活性型PAR-2抗体を使用することができる。抗非活性型PAR-2抗体は、非活性型PAR-2のN末領域、例えば配列番号1の第26位~第36位のペプチドを抗原として生成することができる。また、活性型PAR-2と非活性型PAR-2とを識別せずに検出する目的で、抗PAR-2抗体を使用することができる。抗PAR-2抗体としては、細胞外N末領域以外の領域を抗原ペプチドとして用いることで生成することができる。抗PAR-2抗体の一例として、Santa Cruz社から販売される、ウサギ抗PAR-2H99抗体(sc-5597)が挙げられる。
【0015】
本発明において抗体は、最も広い意味で使用するものとし、所望の特異的結合性が示される限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びその改変抗体も含まれるものとする。本発明における抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、任意の動物由来の抗体であってもよい。改変抗体としては、例えば抗体の一部分を含む蛋白質であり、抗原に結合できる抗体のフラグメントが挙げられる。抗体のフラグメントの例としては、Fabフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、またはscFvが挙げられる。
【0016】
皮膚試料における表皮の活性型PAR-2の検出は、抗活性型PAR-2抗体を用いて検出されうる。より具体的には、抗活性型PAR-2抗体を用いて、免疫学的検出を行うことにより、皮膚試料中で活性型PAR-2の存在場所を検出することができる。免疫学的検出は、定法に基づいて行うことができる。免疫学的検出として、免疫組織染色や免疫ブロッティングなどが挙げられるが、組織上での活性型PAR-2の存在部位を検出する観点から、免疫組織化学染色が好ましい。免疫組織染色としては、蛍光標識又は色素標識を用いた手法を用いることができる。免疫組織染色を行うにあたり、例えば抗体に直接標識を付して検出する直接法、抗体を認識する二次抗体に標識を付して検出する間接法、複合体形成物質、例えばビオチン-アビジンを利用した増幅法を利用することができる。増幅法では、一例として抗体をビオチン化し、標識化されたアビジンやストレプトアビジンを用いることで検出が可能になる。
【0017】
本発明において活性型PAR-2の検出は、皮膚試料に対して行われうる。皮膚試料としては、皮膚から採取した皮膚試料又は3次元皮膚モデルにより取得された皮膚試料であってもよい。表皮細胞は基底層で増殖し、有棘層、顆粒層を経て角層へと分化し、最終的に皮膚表面から脱落する。角層への分化過程で脱核し、死んだ細胞となる。活性型PAR-2は、表皮のうち生きている表皮細胞が存在している最外層、すなわち顆粒層~角層にかけて、より好ましくは顆粒層の外層において発現している。顆粒層は、外部から内部に向けてSG1~SG3という三層に分類することができる。顆粒層のSG2層においてタイトジャンクションが形成しているとされている。活性型PAR-2の発現パターンは、タイトジャンクションを構成するZO-1の発現パターンとも一致する。したがって、免疫組織染色において、皮膚で活性型PAR-2の検出にあたり、場所を特定する観点から、ZO-1などの場所を確定できるタンパク質などとの共染色や、脱核を判別する核染色と共染色を行うことが好ましい。これにより皮膚試料における部位、例えば表皮、さらにより具体的に表皮の顆粒層~角層、特に顆粒層の外層を特定して、活性型PAR-2の検出が可能になる。
【0018】
本発明の表皮状態の評価方法は、活性型PAR-2の存在量に応じて、表皮状態を評価することができる。より具体的に、活性型PAR-2の存在量が高いほど、表皮状態が悪いと評価することができる。より好ましくは、表皮の顆粒層~角層の領域において、活性型PAR-2の存在量が多い場合に、表皮状態が悪いと評価することができる。表皮の顆粒層~角層の領域における活性型PAR-2の存在量を測定するために、顆粒層~角層の領域の活性型PAR-2の染色量を、画像処理ソフト(例えばニコン社製 NIS-elements、フリーソフトImageJ)などにより決定することができる。評価には、適宜設定された閾値と比較することで、表皮状態を決定することができる。さらに別の態様では、活性型PAR-2と非活性型PAR-2との存在比又は活性型PAR-2の存在割合により表皮状態を評価してもよい。活性型PAR-2と非活性型PAR-2との存在比は、例えば、活性型PAR-2に結合する一方で、非活性型PAR-2には結合しない抗体と、活性型PAR-2に結合しない一方で、非活性型PAR-2には結合する抗体とを用いて、存在比を決定してもよい。活性型PAR-2の存在割合は、例えば活性型PAR-2に結合する一方で、非活性型PAR-2には結合しない抗体と、活性型PAR-2と非活性型PAR-2の両方に結合可能な抗体とを用いて、決定することができる。
【0019】
本発明のさらなる態様は、PAR-2活性化抑制剤又はPAR-2活性化促進剤のスクリーニング方法に関する。このスクリーニング方法は、具体的に以下の工程:
皮膚試料において候補物質を適用する工程、
候補物質が適用された皮膚試料において、活性型PAR-2のN末端抗原ペプチドに結合する抗活性型PAR-2抗体により、活性型PAR-2を検出する工程、及び
活性型PAR-2の検出強度を低下させる候補物質をPAR-2活性化抑制剤と決定し、又は活性型PAR-2の検出強度を増加させる候補物質をPAR-2活性化促進剤と決定する工程
を含む。候補物質は、任意のものが挙げられるが、例えば医薬品又は化粧料探索用の化合物ライブラリーや、動植物の抽出物ライブラリーを使用することができる。さらには、化粧品素材ライブラリーなどを選択することができる。候補物質を適用されていない点でのみ異なる皮膚試料における活性型PAR-2を検出し、対照として用いることができる。対照については、同時並行で実験されていてもよいし、予め実験されていてもよい。
【0020】
本発明のスクリーニング方法において、皮膚試料にスクラッチ処理を行う工程を含んでもよい。スクラッチ処理とは、指の爪で皮膚をひっかくことを模す処理であり、スパチュラなどを皮膚試料に接触させて、1~複数回、例えば50回往復させることにより行われうる。スクラッチ処理を行うことにより、皮膚試料の表皮に目に見えない損傷を与えることができる。スクラッチ処理を行うと、PAR-2活性化が起こることが見いだされている。したがって、PAR-2活性化抑制剤のスクリーニング方法において、スクラッチ処理を行うことで、皮膚試料におけるPAR-2を活性化することができ、PAR-2活性化抑制剤のスクリーニングに有用である。また、スクラッチ処理を行った後にPAR-2活性化抑制剤としてスクリーニングされた候補物質は、スクラッチ処理直後のPAR-2活性化を抑制することができる物質であり、掻傷時において即効性のあるPAR-2活性化抑制剤として使用することができる。このようなPAR-2活性化抑制剤は、掻傷時において適用するバリア回復機能促進剤、炎症抑制剤、痒み抑制剤として使用しうる。
【0021】
本発明の評価方法及びスクリーニング方法の両方において、活性型PAR-2の検出は、より具体的に、下記の工程:
皮膚試料を前記抗活性型PAR-2抗体と接触させる工程、
標識付きの二次抗体を皮膚試料と接触させる工程、及び
皮膚試料において標識の検出強度を決定する工程
を行うことにより行われうる。皮膚試料を前記抗活性型PAR-2抗体と接触させる工程において、皮膚試料は、抗活性型PAR-2抗体と一例として1~20時間、室温又は冷却下で接触されうる。この接触工程の前に、予め皮膚試料を固定する工程が行われてもよい。皮膚試料の固定は、任意の手法で行われてよいが、一例としてエタノール又はパラホルムアルデヒド含有溶液中で皮膚試料を16~24時間、室温又は冷却下でインキュベートすることにより実施できる固定されうる。二次抗体は、抗活性型PAR-2抗体に結合する抗体であり、一次抗体である抗活性型PAR-2抗体の由来生物に応じて選択することができる。標識は任意の標識であってよいが、一例として蛍光標識が用いられうる。蛍光標識を用いる場合、二次抗体との接触工程は暗所で行われ、一例として1時間、室温で接触されうる。接触は一例として各抗体を含む溶液中でインキュベートすることで行われる。皮膚試料において標識の検出強度を決定する工程は、標識に応じて適宜機器を選択して検出強度を決定することができる。蛍光標識を用いた場合には、蛍光顕微鏡を利用することができ、蛍光標識に合わせた励起光及びフィルターを用いて蛍光を検出することができる。一次抗体又は二次抗体との接触工程の前後には、さらに洗浄工程がふくまれてもよい。
【0022】
本発明のスクリーニング方法により、N-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミドが、PAR-2活性化抑制剤としてスクリーニングされた。したがって、本発明のさらに別の態様は、下記の式:
【化9】
{式中、R
1およびR
2は同一または異なり、水素原子、炭素数1~18の直鎖状または分岐状アルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、ベンジル基または下記式:
【化10】
(但し、Xは低級アルキル基、低級アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子を示し、n=0~3である)をそれぞれ示す}
で表される化合物、又はその塩を含む、PAR-2活性化抑制剤に関する。特に好ましくは、PAR-2活性化抑制剤は、N-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミド又はその塩を含む。上述の化合物については、特許文献4(特開平9-227367号)を参照することで製造することができる。
【0023】
本発明のスクリーニング方法においてスクリーニングされたPAR-2活性化抑制剤は、肌荒れ抑制剤、例えば炎症抑制剤、肌荒れ抑制剤、バリア機能亢進剤、かゆみ抑制剤として使用することができる。本発明のPAR-2活性化抑制剤は、掻傷に対し、炎症を抑制する作用を有することから、炎症性皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎、乾癬、接触皮膚炎などの治療又は予防用医薬又は美容組成物として使用することができ、PAR-2活性化の抑制を必要とする対象に投与されうる。PAR-2活性化の抑制を必要とする対象とは、一例として炎症や掻傷によりかゆみが誘発された対象である。皮膚外用剤として製剤化することが好ましいが、他の任意の剤形に製剤化することもできる。PAR-2活性化抑制剤は、化粧料、医薬部外品、医薬品に配合されうる。本発明のPAR-2活性化抑制剤が配合される化粧料として、例えば化粧水、乳液、美容液、クリーム、ファンデーションなどが挙げられるが、これらに限定されず、皮膚の改善を直接の目的とするものではないが、皮膚に塗布されるもの全てを含むことを意図し、例えば、日焼け止め剤、虫除け剤、脱毛剤、育毛剤、シェービングローション、アフターシェービングローションなども包含するものとする。
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、種々の態様をとることができる。本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【実施例】
【0025】
実施例1:皮膚におけるPAR-2及び活性型PAR-2の免疫組織染色
KAC社から入手したヒト腹部皮膚を4%パラホルムアルデヒド含有PBS中で、4℃で24時間インキュベートし、試料を固定した。PBSで洗浄後、30%スクロース含有PBSに置換し、OCTコンパウンドとともに凍結ブロックを作製した。これをミクロトームで薄切し、6μm厚さの皮膚切片を作製し、染色に使用した。切片をブロッキング溶液(10%ロバ血清及び0.4%TritonX―100を含むPBS)で1時間インキュベートした後、一次抗体として、300倍希釈ヤギ抗PAR-2N19抗体(Santa Cruz, sc-8206)及び300倍希釈ウサギ抗PAR-2H99抗体(Santa Cruz, sc-5597)を含むブロッキング溶液で、16時間インキュベートした。PBST(0.05%Tween20含有PBS)で洗浄後、二次抗体として、1000倍希釈のAlexa488標識抗ヤギIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック, A11055)及び1000倍希釈のAlexa594標識抗ウサギIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック, A21207)を含むブロッキング溶液で、暗室下で1時間インキュベートを行った。PBST溶液で洗浄後、蛍光顕微鏡(カールツァイス社)で撮影を行った(
図1)。活性型PAR-2(N19)は、表皮の最外層に局在しているのに対し、PAR-2は、表皮の有棘層~顆粒層に広く分布し、特に顆粒層に多く存在した。
【0026】
実施例2:活性型PAR-2の局在領域の特定
実施例1と同様に、一次抗体としてヤギ抗PAR-2N19抗体(Santa Cruz, sc-8206)を用いて、活性型PAR-2を検出するとともに、ウサギ抗PAR-2H99抗体に代えてウサギ抗フィラグリン抗体(Santa Cruz, sc-30229)を用い、二次抗体は同じものを使用して、フィラグリンとの局在を調べた(
図2)。フィラグリンは、未脱核細胞の最外層から角層において存在している一方で、活性型PAR-2は、未脱核細胞の最外層にのみ局在しており、フィラグリンの局在と完全には一致しなかった。
【0027】
実施例1と同様に一次抗体としてヤギ抗PAR-2N19抗体(Santa Cruz, sc-8206)を用いて、活性型PAR-2を検出するとともに、ウサギ抗PAR-2H99抗体に代えて500倍希釈マウス抗ZO1-1抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック, 339100)を用い、二次抗体はAlexa488標識抗マウスIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して、タイトジャンクションとの局在を調べた。活性型PAR-2は、タイトジャンクションの層を含めてその外側に局在することが示された。
【0028】
実施例3:抗活性型PAR-2抗体の特異性の検討
実施例1と同様に、一次抗体として、ヤギ抗PAR-2N19抗体(Santa Cruz, sc-8206)及びウサギ抗PAR-2H99抗体(Santa Cruz, sc-5597)を用い、二次抗体は同じものを使用して、皮膚切片を染色した。ヤギ抗PAR-2N19抗体をその5倍重量の抗原ペプチド(配列:SLIGKV(配列番号3)を含むN末端部分)(Santa Cruz, sc-8206P)と混合し室温で30分間処理し、その後遠心した上清をウサギ抗PAR-2H99抗体と一緒に皮膚切片に添加してインキュベートを行った。撮影結果を
図3に示す。抗原ペプチドとインキュベートすることにより、ヤギ抗PAR-2N19抗体由来の蛍光は消失する一方で、ウサギ抗PAR-2H99抗体由来の蛍光に変化はなかった(
図4)。
【0029】
実施例4:トリプシン処理による表皮のPAR-2抗体の活性化
KAC社から入手した51歳女性の腹部皮膚(手術後4℃保存で7日目)を、ヒト皮膚組織維持用培地(Biopredic社, MIL218)に真皮部分を浸して37℃で1日器官培養を行った。皮膚上にシリコン接着剤をリング状に形成して、リング内に下記の溶液を適用した:水(Water)、0.05%ダイズトリプシン阻害剤(SBTI)、50μMトリプシン+0.05%ダイズトリプシン阻害剤(Try 50μM+SBTI)、10μMトリプシン(Try10μM)、100μMトリプシン(Try 100μM)。トリプシンはSigma社製(T-0303)を用い、ダイズトリプシン阻害剤はSigma社製(T6522)を用いた。皮膚上面に培地がかからないようにして、37℃5%CO
2雰囲気下で、30分インキュベートした。水で表面を洗浄し、実施例1と同様に4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定、30%スクロースに置換後、OCTブロックを作成し、マイクロトームで6μm厚さの切片を作成した。切片を、一次抗体として、300倍希釈ヤギ抗PAR-2N19抗体(Santa Cruz, sc-8206)及び300倍希釈ウサギ抗PAR-2H99抗体(Santa Cruz, sc-5597)のブロッキング溶液中で、16時間インキュベートした。PBSTで洗浄後、二次抗体として、1000倍希釈のAlexa647標識抗ヤギIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック, A21447)及び1000倍希釈のAlexa488標識抗ウサギIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック, A21206)のブロッキング溶液で、暗室下で1時間インキュベートを行った。PBST溶液で洗浄後、共焦点レーザー顕微鏡(ニコン社)で撮影を行った。活性型PAR-2(N19)の染色強度をNIS-elementsソフトウェアを用いて測定し、グラフ化して示した(
図5)。非活性型PAR-2(H99)について蛍光強度に変化は見られなかった一方で、活性型PAR-2(N19)はトリプシン処理(10μM、100μM)で用量依存的に蛍光強度が増加する一方、ダイズトリプシン阻害剤の添加により、トリプシンにより増加した蛍光強度が低下した。
【0030】
実施例5:スクラッチ処理後の皮膚試料における活性型PAR-2の抑制
KAC社から入手した40歳女性の腹部皮膚(手術後7日目)を、ヒト皮膚組織維持用培地(Biopredic社)培地中で37℃で1日間培養を行った。皮膚に対し、金属スパチュラを皮膚に当てて、50往復のスクラッチ処理を行った。スクラッチ処理を行った領域上にシリコン接着剤をリング状に形成して、リング内に下記の溶液を適用した:水(Water)、1%トラネキサム酸(Tranexamic acid: LKT Laboratories社)、0.7%N-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミド(N-methyl-trans-4-aminomethylcyclohexanecarboxamide hydrochloride;CAS No. 38697-94-8)。皮膚上面に培地がかからないようにして、37℃5%CO
2雰囲気下で1時間インキュベートし、水で表面を洗浄して試料を得た。スクラッチ処理直後の試料及び溶液を適用した試料を、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定、30%スクロースに置換後、OCTブロックを作成し、マイクロトームで6μm厚さの切片を作成した。切片を、一次抗体として、300倍希釈ヤギ抗PAR-2N19抗体(Santa Cruz, sc-8206)及び300倍希釈ウサギ抗PAR-2H99抗体(Santa Cruz, sc-5597)のブロッキング溶液中で、16時間インキュベートした。PBSTで洗浄後、二次抗体として、1000倍希釈のAlexa647標識抗ヤギIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック, A21447)及び1000倍希釈のAlexa488標識抗ウサギIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック, A21447)のブロッキング溶液で、暗室下で1時間インキュベートを行った。PBST溶液で洗浄後、共焦点レーザー顕微鏡(ニコン社)で撮影を行った。活性型PAR-2(N19)の蛍光画像を撮影した(
図6A)。染色画像について、活性型PAR-2(N19)の蛍光強度をNIS-elementsソフトウェア(ニコン社製)を用いて測定し、グラフ化して示した(
図6B)。非活性型PAR-2(H99)について蛍光強度に変化は見られなかった。スクラッチ処理の直後は、活性型PAR-2の蛍光強度は低いものの、スクラッチ処理後1時間で蛍光強度が大幅に増加した。一方で、トラネキサム酸及びN-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミドを適用した場合、スクラッチ処理により増加する活性型PAR-2を抑えることができ、特にN-メチル-トランス-4-(アミノメチル)シクロヘキサンカルボキサミドでは、スクラッチ処理直後のレベルまで抑制することができ、これらの成分をPAR-2活性化抑制剤としてスクリーニングできた。
【配列表】