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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】クロック分配共振器システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 1/10 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
G06F1/10 511
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021554394
(86)(22)【出願日】2020-02-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-06
(86)【国際出願番号】 US2020017701
(87)【国際公開番号】W WO2020185341
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】16/352,558
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520128820
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ストロング、ジョシュア エイ.
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン、マックス イー.
(72)【発明者】
【氏名】タラノフ、ウラジミール ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】オグニカ、テミトペ オルムイワ
【審査官】松浦 かおり
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06098176(US,A)
【文献】特開2007-005959(JP,A)
【文献】特開2007-272796(JP,A)
【文献】米国特許第06184736(US,B1)
【文献】特開平08-054957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 1/04 - 1/14
H03K 3/00 - 3/86
H03K 5/00 - 5/02
H03K 5/08 - 5/1254
H03K 5/15 - 5/26
H03K 19/098-19/23
H03K 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロック分配共振器システムであって、
所定の波長を有するクロック信号を生成するように構成されたクロックソースと、
前記クロック信号の波長に応じて規定された第1の所定の長さを有し、前記クロックソースに結合されて前記クロック信号を伝搬する主伝送ラインと、
前記クロック信号の波長に応じて規定された、前記第1の所定の長さとは異なる第2の所定の長さを各々有し、前記主伝送ラインに各々結合されて前記クロック信号を伝搬する複数の伝送ライン分岐と、
前記複数の伝送ライン分岐にそれぞれ結合された複数のクロック分配ネットワークと、を備え、前記複数のクロック分配ネットワークの各々は複数の並列な定在波共振器を含み、前記複数の並列な定在波共振器の各々に複数の回路が結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークは、前記複数の回路の各々に前記クロック信号を供給して当該関連する複数の回路をクロック同期させるように構成されている、クロック分配共振器システム。
【請求項2】
前記クロック信号が正弦波クロック信号である、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項3】
前記第1の所定の長さが、前記クロック信号の前記所定の波長の1/4周期の奇数倍である、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項4】
前記第2の所定の長さが、前記クロック信号の前記所定の波長の半周期の倍数である、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項5】
前記複数のクロック分配ネットワークの各々が、前記複数の伝送ライン分岐を介して他の複数のクロック分配ネットワークの各々から前記所定の波長の整数倍で分離されている、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項6】
前記主伝送ラインおよび前記複数の伝送ライン分岐は、前記クロックソースと各前記クロック分配ネットワークとの間の総インピーダンスが略50Ω以下となるように配置されている、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項7】
前記複数の伝送ライン分岐が複数の第1の伝送ライン分岐であり、前記クロック分配共振器システムはさらに第2の伝送ライン分岐の複数のセットを備えており、前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットの各々が前記複数の第1の伝送ライン分岐の1つに結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークの各々が前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットのうちの対応する1つに関連する伝送ライン分岐に結合されて伝送ライン分岐の樹枝状ネットワークを形成している、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項8】
前記複数の第1の伝送ライン分岐の各々および前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットの各々の各伝送ライン分岐が、前記第2の所定の長さを有している、請求項に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項9】
前記複数の回路の第1の部分が第1の集積回路(IC)チップ上に配置されており、前記複数の回路の第2の部分が第2のICチップ上に配置されている、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項10】
前記複数の回路の第1の部分が第1のプリント回路基板(PCB)上に配置されており、前記複数の回路の第2の部分が第2のPCB上に配置されている、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項11】
前記複数のクロック分配ネットワークの各々は、前記複数の回路の各々に前記クロック信号を結合するように構成された動的ゼロ次共振器(DynaZOR)として配置されている、請求項1に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項12】
クロック分配共振器システムであって、
所定の波長を有する正弦波クロック信号を生成するように構成されたクロックソースと、
前記正弦波クロック信号の前記所定の波長の1/4周期の奇数倍として規定された長さを有し、前記クロックソースに結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する主伝送ラインと、
前記正弦波クロック信号の前記所定の波長の半周期の倍数として規定された長さを各々有し、前記主伝送ラインに各々結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する複数の伝送ライン分岐と、
前記複数の伝送ライン分岐にそれぞれ結合された複数のクロック分配ネットワークと、を備え、前記複数のクロック分配ネットワークの各々は複数の並列な定在波共振器を含み、前記複数の並列な定在波共振器の各々に複数の回路が結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークは、前記複数の回路の各々に前記正弦波クロック信号を供給して当該関連する複数の回路をクロック同期させるように構成されている、クロック分配共振器システム。
【請求項13】
前記主伝送ラインおよび前記複数の伝送ライン分岐は、前記クロックソースと各前記クロック分配ネットワークとの間の総インピーダンスが略50Ω以下となるように配置されている、請求項12に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項14】
前記複数の伝送ライン分岐が複数の第1の伝送ライン分岐であり、前記クロック分配共振器システムはさらに第2の伝送ライン分岐の複数のセットを備えており、前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットの各々が前記複数の第1の伝送ライン分岐の1つに結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークの各々が前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットのうちの対応する1つに関連する伝送ライン分岐に結合されて伝送ライン分岐の樹枝状ネットワークを形成している、請求項12に記載のクロック分配共振器システム。
【請求項15】
前記複数のクロック分配ネットワークの各々は、前記複数の回路の各々に前記正弦波クロック信号を誘導結合するように構成された動的ゼロ次共振器(DynaZOR)として配置されている、請求項12に記載のクロック分配共振器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してコンピュータシステム、具体的には、クロック分配共振器システムに関する。本出願は、2019年3月13日に出願された米国特許出願第16/352,558号の優先権を主張し、その全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
論理機能を実装する典型的な回路は、データを同期させるためおよび/または論理機能の時間ベースフローを提供するためにクロックに基づいて動作し得る。相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術に基づく回路は、所与の論理回路またはゲートが1つまたは複数の入力でデータをキャプチャしてデータを処理したり他の論理機能に転送したりするタイミングを示すのにクロックを使用し得る。したがって、所与のクロックは、回路内の種々のデバイスにクロック信号を供給して必要なタイミング情報を供給することによりデータ転送およびタイミング機能を実質的に同期させることができる。また、レシプロカル量子論理(RQL)回路などの他の種類の回路はクロック信号を使用し得る。RQL回路は、例えば、実質的に安定した周波数を有する正弦波信号として供給されるクロックに基づくタイミング情報を使用し得る。
【発明の概要】
【0003】
一実施形態は、クロック分配共振器システムを含む。当該システムは、所定の波長を有するクロック信号を生成するように構成されたクロックソースと、前記クロック信号の波長に応じて規定された第1の所定の長さを有し、前記クロックソースに結合されて前記クロック信号を伝搬する主伝送ラインとを含む。また、当該システムは、前記主伝送ラインに各々結合されて前記クロック信号を伝搬する複数の伝送ライン分岐を含む。前記複数の伝送ライン分岐の各々は、前記第1の所定の長さとは異なる第2の所定の長さを有する。当該システムはさらに、前記複数の伝送ライン分岐にそれぞれ結合され、前記クロック信号を複数の回路の各々に供給して当該関連する複数の回路をクロック同期させるように構成された複数のクロック分配ネットワークを含む。
【0004】
別の実施形態は、クロック分配共振器システムを含む。当該システムは、所定の波長を有する正弦波クロック信号を生成するように構成されたクロックソースと、前記正弦波クロック信号の前記所定の波長の1/4周期の奇数倍として規定された長さを有し、前記クロックソースに結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する主伝送ラインとを含む。また、当該システムは、前記主伝送ラインに各々結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する複数の伝送ライン分岐を含む。前記複数の伝送ライン分岐の各々は、前記正弦波クロック信号の前記所定の波長の半周期の倍数として規定された長さを有する。当該システムはさらに、前記複数の伝送ライン分岐にそれぞれ結合され、前記正弦波クロック信号を複数の回路の各々に供給して当該関連する複数の回路をクロック同期させるように構成された複数のクロック分配ネットワークを含む。
【0005】
別の実施形態は、クロック分配共振器システムを含む。当該システムは、所定の波長を有する正弦波クロック信号を生成するように構成されたクロックソースと、前記正弦波クロック信号の波長に応じて規定された第1の所定の長さを有し、前記クロックソースに結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する主伝送ラインとを含む。また、当該システムは、前記主伝送ラインに各々結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する複数の伝送ライン分岐を含む。前記複数の伝送ライン分岐の各々は、前記正弦波クロック信号の波長に応じて規定された第2の所定の長さを有する。前記第2の所定の長さは、前記第1の所定の長さとは異なり得る。前記主伝送ラインおよび前記複数の伝送ライン分岐は、前記クロックソースと各前記クロック分配ネットワークとの間の総インピーダンスが略50Ω以下となるように配置され得る。当該システムはさらに、前記複数の伝送ライン分岐にそれぞれ結合され、前記正弦波クロック信号を複数の回路の各々に供給して当該関連する複数の回路をクロック同期させるように構成された複数のクロック分配ネットワークを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】クロック分配共振器システムの一例を示す図。
図2】クロック分配共振器システムの一例を示す図。
図3】クロック分配共振器システムの別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、概してコンピュータシステム、具体的には、クロック分配共振器システムに関する。クロック分配共振器システムは、正弦波クロック信号などのクロック信号を複数のクロック分配ネットワークに分配するように実装され得る。複数のクロック分配ネットワークは、単一の集積回路(IC)チップ、複数のICチップ間、あるいは、1つまたは複数のプリント回路基板(PCB)間に関連付けられる回路などのような1つまたは複数の個別の回路にクロック信号を供給するように構成されている。例えば、複数のクロック分配ネットワークは、米国特許出願第15/816,518号に記載されその全体が参照によって本明細書に組み込まれる共振器「スパイン」(spine)および「リブ」(rib)構成を実装する動的ゼロ次共振器(dynamic zeroth-order resonator)(「DynaZOR」)として配置され得る。したがって、複数のクロック分配ネットワークは各々、関連する回路にクロック信号を誘導結合するなどのために超伝導環境で実装され得る。その結果、クロック分配共振器システムは、空間的に分離された多数の回路、または極めて大きな回路にクロック信号を供給して、当該回路の機能の極めて高速な(例えば、10GHz以上の)同期を容易にすることができる。
【0008】
一例として、クロック分配共振器システムは、クロック信号を生成するためのクロック生成器を含み得るとともに、クロック信号を複数の伝送ライン分岐に伝搬するように構成された主伝送ラインを含み得る。例えば、主伝送ラインおよび伝送ライン分岐は、樹枝状ネットワーク(dendritic network)として配置されて、樹枝状ネットワークの複数の層に沿った複数の伝送ライン分岐に、クロック信号の複数の分割を供給し得る。主伝送ラインは、クロック信号の所定の波長に関連する所定の長さを有し得る。例えば、主伝送ラインは、クロック信号の所定の波長λの1/4周期の奇数倍(例えば、λ/4)の長さを有し得る。主伝送ラインから分岐する各伝送ライン分岐も同様に、クロック信号の所定の波長に関連する所定の長さを有し得るが、伝送ライン分岐の長さは、主伝送ラインの長さとは異なる。例えば、伝送ライン分岐は、クロック信号の所定の波長の半周期の倍数(例えば、λ/2)の長さを有し得る。したがって、各2つのクロック分配ネットワークは、クロック信号の波長λの整数倍で互いに分離され得る。主伝送ラインおよび伝送ライン分岐の長さを適切に選択することにより、ゼロ次モードでいくつかのクロック分配ネットワークの各々に均一な位相および振幅のクロック信号を供給することができる。また、主伝送ラインおよび伝送ライン分岐のインピーダンスを適切に選択することにより、高次周波数モードの影響を軽減して、クロック分配共振器システムにより各回路に供給されるクロック信号の均一性を維持することができる。
【0009】
図1は、クロック分配共振器システム10の例示的な図を示す。クロック分配共振器システム10は、レシプロカル量子論理(RQL)回路設計などの種々の用途に実装され得る。例えば、クロック分配共振器システム10は、集積回路(IC)チップ、プリント回路基板(PCB)、あるいは、複数のICチップおよび/または複数のPCBに実装され得るか、もしくは、ICチップの一部、PCBの一部、あるいは複数のICチップおよび/または複数のPCBの一部として実装され得る。
【0010】
クロック分配共振器システム10は、クロックソース12を含む。クロックソース12は、所定の周波数(例えば、1~20GHz)で正弦波クロック信号などのクロック信号CLKを生成するように構成され得る。一例として、クロックソース12は、本明細書に記載されるように、クロック分配共振器システム10が実装されるICチップおよび/またはPCBに亘って分布し得る1つまたは複数の回路14の各々に安定した周波数基準を提供するように構成された種々の発振器のいずれかとして構成され得る。図1の例では、クロックソース12は、クロック信号CLKを複数の伝送ライン分岐18に伝搬するように構成された主伝送ライン16に結合されている。伝送ライン分岐18は、主伝送ライン16と伝送ライン分岐18とによる樹枝状配置を形成するように、主伝送ライン16から分岐し得る。本明細書に記載されるように、樹枝状配置は複数の層を含むことで、所与の層における伝送ライン分岐18の第1の部分の各々が次の層の伝送ライン分岐18の別個のセットに分岐され得る。
【0011】
一例として、主伝送ライン16は、クロック信号CLKの所定の波長λに関連する所定の長さを有し得る。例えば、主伝送ライン16は、クロック信号CLKの所定の波長λの1/4周期の奇数倍(例えば、λ/4、3λ/4、5λ/4など)の長さを有し得る。結果として、クロック信号CLKは、クロック信号CLKの最大振幅を伝送ライン分岐18に供給し得る波腹(anti-node)で主伝送ライン16の端部に供給され得る。別の例として、主伝送ライン16から分岐する伝送ライン分岐18の各々は、同様にクロック信号CLKの所定の波長λに関連する所定の長さを有し得るが、伝送ライン分岐18の長さは、主伝送ライン16の長さとは異なる。例えば、伝送ライン分岐18は、クロック信号CLKの所定の波長λの半周期の倍数(例えば、λ/2、λ、3λ/2、2λなど)の長さを有し得る。例えば、樹枝状配置の各層における各伝送ライン分岐18は、同一の所定の長さを有し得る。このため、各伝送ライン分岐18の各端部は、クロック信号CLKの波腹に関連付けられて主伝送ライン16に対する遠位端で最大振幅を提供し得る。
【0012】
図1の例では、伝送ライン分岐18は、複数のクロック分配ネットワーク20の各々にクロック信号CLKを供給する。本明細書に記載されるように、「クロック分配ネットワーク」という用語は、クロック信号CLKを回路14の1つに供給するように構成された回路または物理的共振器構成に対応する。一例として、各クロック分配ネットワーク20は、共振器「スパイン」および「リブ」構成を実装する動的ゼロ次共振器(「DynaZOR」)に対応し得る。したがって、各クロック分配ネットワーク20は、関連する回路14にクロック信号CLKを誘導結合するなどのために超伝導環境で実装され得る。クロック分配ネットワーク20は、例えば、樹枝状配置の最も低い階層において伝送ライン分岐18の各々に関連付けられ得る。また、伝送ライン分岐18はクロック信号CLKの所定の波長λの半周期の倍数の長さを有し得るので、各2つのクロック分配ネットワークは、クロック信号CLKの波長λの整数倍で互いに分離され得る。したがって、主伝送ライン16および伝送ライン分岐18の長さを適切に選択することにより、ゼロ次モードでいくつかのクロック分配ネットワーク20の各々に均一な位相および振幅のクロック信号CLKを供給することができる。また、主伝送ライン16および伝送ライン分岐18のインピーダンスを適切に選択することにより、高次周波数モードの影響を軽減して、クロック分配共振器システム10により各回路14に供給されるクロック信号CLKの均一性を維持することができる。
【0013】
図2は、クロック分配共振器システム50の一例を示す。クロック分配共振器システム50は、図1の例におけるクロック分配共振器システム10に対応し得る。したがって、以下の図2の例の説明では、図1の例を参照する。上記と同様に、クロック分配共振器システム50は種々の用途に実装されて、ICチップ、PCB、あるいは、複数のICチップおよび/または複数のPCBに亘り分布し得る種々の異なる回路にクロック信号CLKを供給し得る。
【0014】
クロック分配共振器システム50は、所定の周波数(例えば、10GHz以上)で正弦波クロック信号などのクロック信号CLKを生成するように構成されたクロックソース52を含む。クロックソース52は、複数(N個)の伝送ライン分岐56(「TL_1」~「TL_N」で示されており、Nは1よりも大きい正の整数である)にクロック信号CLKを伝搬するように構成された主伝送ライン54に結合されている。図2の例では、主伝送ライン54および伝送ライン分岐56は樹枝状配置で構成されており、伝送ライン分岐56が主伝送ライン54から分岐して複数(N個)のクロック分配ネットワーク58(「CN_1」~「CN_N」で示されている)の各々にクロック信号CLKを供給する。したがって、クロック分配ネットワーク58は、1つまたは複数の関連する回路(図2の例には示されていない)の各々にクロック信号CLKを供給して、当該回路にタイミングおよび他の機能を提供するように構成されている。本明細書に記載されるように、このクロック分配共振器システム50の配置に基づいて、クロック信号CLKは、各回路に均一にかつ同期して供給され得る。
【0015】
一例として、主伝送ライン54は、クロック信号CLKの所定の波長λに関連する所定の長さを有し得る。例えば、主伝送ライン54は、クロック信号CLKの所定の波長λの1/4周期の奇数倍(例えば、λ/4、3λ/4、5λ/4など)の長さを有し得る。結果として、クロック信号CLKは、クロック信号CLKの最大振幅を伝送ライン分岐56に供給し得る波腹で主伝送ライン54の端部に供給され得る。また、主伝送ライン54はクロック信号CLKの所定の波長λの1/4周期の奇数倍の長さを有し得るので、主伝送ライン54は、クロック分配ネットワーク58からクロックソース52までの間で極めて高いインピーダンスをもたらす。
【0016】
別の例として、主伝送ライン54から分岐する伝送ライン分岐56の各々は、同様にクロック信号CLKの所定の波長λに関連する所定の長さを有し得るが、伝送ライン分岐56の長さは主伝送ライン54の長さとは異なる。例えば、伝送ライン分岐56は、クロック信号CLKの所定の波長λの半周期の倍数(例えば、λ/2、λ、3λ/2、2λなど)の長さを有し得る。例えば、樹枝状配置の各層における各伝送ライン分岐56は、同一の所定の長さを有し得る。このため、各伝送ライン分岐56の各端部は、クロック信号CLKの波腹に関連付けられて主伝送ライン54に対する遠位端で最大振幅を提供し得る。
【0017】
上記と同様に、各クロック分配ネットワーク58は、共振器「スパイン」および「リブ」構成を実装するDynaZORに対応し得る。したがって、各クロック分配ネットワーク58は、関連する回路にクロック信号CLKを誘導結合するなどのために超伝導環境で実装され得る。上記のように、伝送ライン分岐56はクロック信号CLKの所定の波長λの半周期の倍数の長さを有し得るので、各2つのクロック分配ネットワークは、クロック信号CLKの波長λの整数倍で互いに分離され得る。結果として、各クロック分配ネットワーク58間のインピーダンスは実質的に軽減されて各クロック分配ネットワーク58間で略50Ω以下のインピーダンスを提供し得る。したがって、主伝送ライン54および伝送ライン分岐56の長さを適切に選択することにより、ゼロ次モードでいくつかのクロック分配ネットワーク58の各々に均一な位相および振幅のクロック信号CLKを供給することができる。また、主伝送ライン54および伝送ライン分岐56のインピーダンスを適切に選択することにより、高次周波数モードの影響を軽減して、クロック分配共振器システム50により各回路に供給されるクロック信号CLKの均一性を維持することができる。また、クロック分配共振器システム50は能動部品を有さない受動回路として実装されており、したがって、クロック分配共振器システム50を超伝導回路における実装に適したものとすることができる。
【0018】
図3は、クロック分配共振器システム100の一例を示す。クロック分配共振器システム100は、図1の例におけるクロック分配共振器システム10に対応し得る。したがって、以下の図3の例の説明では、図1の例を参照する。上記と同様に、クロック分配共振器システム100は種々の用途に実装されて、ICチップ、PCB、あるいは、複数のICチップおよび/または複数のPCBに亘り分布し得る種々の異なる回路にクロック信号CLKを供給し得る。クロック分配共振器システム100は、伝送ライン分岐の複数の層によるクロック分配共振器システム100の樹枝状配置の例を示している。
【0019】
クロック分配共振器システム100は、所定の周波数(例えば、10GHz以上)で正弦波クロック信号などのクロック信号CLKを生成するように構成されたクロックソース102を含む。クロックソース102は、複数(N個)の第1の伝送ライン分岐106(「TL_1」~「TL_N」で示されており、Nは1よりも大きい正の整数である)にクロック信号CLKを伝搬するように構成された主伝送ライン104に結合されている。第1の伝送ライン分岐106は、図3の例では108で示された第1の層に配置されている。したがって、伝送ライン分岐106は主伝送ライン104から分岐して、第2の伝送ライン分岐110の各セットにクロック信号CLKを供給する。第2の伝送ライン分岐110は、図3の例では112で示された第2の層に配置されている。
【0020】
図3の例において、第2の伝送ライン分岐110の各セットは、クロック信号CLKが供給される各第1の伝送ライン分岐106に対して同じまたは異なる数を有し得る。図3の例では、第1の伝送ライン「TL_1」からもたらされる第2の伝送ライン分岐110の第1のセットは、「TL_1_1」~「TL_1_M」として示されたM個の第2の伝送ライン分岐110を有する。同様に、N番目の伝送ライン「TL_N」からもたらされる第2の伝送ライン分岐110の最後のセットは、「TL_1_1」~「TL_1_X」として示されたX個の第2の伝送ライン分岐110を有する。したがって、数Mおよび数X、ならびに第1の伝送ライン106の1番目とN番目との間の第2の伝送ライン分岐110の複数のセットのうちいずれかのセットの数は、所与のセットと同じまたは異なる数の第2の伝送ライン110を有し得る。
【0021】
第2の伝送ライン分岐110の各々は、クロック分配ネットワーク114の対応する1つにクロック信号CLKを供給するように構成されている。各クロック分配ネットワーク114が第2の層112における第2の伝送ライン分岐110の対応する1つに関連付けられており、クロック分配共振器システム100が、1番目の第1の伝送ライン分岐104から第1のクロック信号CLKが供給されるX個のクロック分配ネットワーク114と、N番目の第1の伝送ライン分岐104からクロック信号CLKが供給されるY個のクロック分配ネットワーク114とを含み得る。したがって、クロック分配ネットワーク114は、1つまたは複数の関連する回路(図3の例には示されていない)の各々にクロック信号CLKを供給して当該回路にタイミングおよび他の機能を提供するように構成されている。本明細書に記載されるように、このクロック分配共振器システム100の配置に基づいて、クロック信号CLKは、各回路に均一にかつ同期して供給され得る。
【0022】
上記と同様に、主伝送ライン104は、クロック信号CLKの所定の波長λの1/4周期の奇数倍の所定の長さを有し得る。結果として、クロック信号CLKは、クロック信号CLKの最大振幅を伝送ライン分岐106に供給し得る波腹で主伝送ライン104の端部に供給され得る。上記と同様に、第1および第2の伝送ライン分岐106,110の各々は、クロック信号CLKの所定の波長λの半周期の倍数の長さを有し得る。第1の伝送ライン分岐106と第2の伝送ライン分岐110はすべて同じ所定の長さを有し得るが、それぞれ第1および第2の行108,112に関連付けられた第1および第2の伝送ライン分岐106,110に関して同じ所定の長さを有することに限定されない。
【0023】
したがって、主伝送ライン104はクロック信号CLKの所定の波長λの1/4周期の奇数倍の長さを有し得るので、主伝送ライン104は、クロック分配ネットワーク114からクロックソース102までの間で極めて高いインピーダンスをもたらす。したがって、各伝送ライン分岐106の各端部は、クロック信号CLKの波腹に関連付けられてクロック分配ネットワーク114に最大振幅を提供し得る。上記と同様に、各クロック分配ネットワーク114は、共振器「スパイン」および「リブ」構成を実装するDynaZORに対応し得る。したがって、各クロック分配ネットワーク108は、関連する回路にクロック信号CLKを誘導結合するなどのために超伝導環境で実装され得る。クロック分配共振器システム100は、伝送ライン分岐108,112の樹枝状配置の2つの行108,112のみを示しているが、主伝送ライン104とクロック分配ネットワーク114とを相互接続する追加の行が存在し得ることが理解され得る。例えば、各第2の伝送ライン分岐110は、第3の行またはそれ以上の行で、第2の伝送ライン分岐110とクロック分配ネットワーク114とを相互接続する別のセットの第3の伝送ライン分岐を有し得る。伝送ライン分岐の所定の長さを維持し、超伝導環境における動作のために実質的に低いインピーダンスを維持することにより、クロック分配共振器システム100は、多数の行の伝送ライン分岐に配置されて、多数のクロック分配ネットワーク114にクロック信号CLKを供給し、これにより、大きなICチップ、複数のICチップ、および/または、1つまたは複数のPCBに亘り分布し得る関連する回路にクロック信号CLKを供給することができる。このように、クロック分配共振器システム100は、種々の方法のうち任意の方法で配置され得る。
【0024】
以上の説明は本発明の例示である。本開示を説明する目的のために構成要素または方法のあらゆる考えられる組み合わせを記載することは勿論不可能であり、当業者は本開示のさらなる多くの組み合わせおよび置換が可能であることを認識し得る。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲を含む本出願の範囲内に含まれるすべてのそのような代替、変形、および変更を包含することが意図される。また、本開示または請求項が「1つの~」、「第1の~」、または「別の~」という要素を列挙するかまたはそれらの同等物を列挙する場合には、1つまたは2つ以上のそのような要素を含むと解釈されるべきであり、2つ以上のそのような要素を必須とするものでも、2つ以上のそのような要素を除外するものでもない。本明細書において使用される「含む」という用語は、含むがそれに限定されないことを意味する。「~に基づく」という用語は、少なくとも部分的に基づくことを意味する。
本開示に含まれる技術的思想を以下に記載する。
(付記1)
クロック分配共振器システムであって、
所定の波長を有するクロック信号を生成するように構成されたクロックソースと、
前記クロック信号の波長に応じて規定された第1の所定の長さを有し、前記クロックソースに結合されて前記クロック信号を伝搬する主伝送ラインと、
前記クロック信号の波長に応じて規定された、前記第1の所定の長さとは異なる第2の所定の長さを各々有し、前記主伝送ラインに各々結合されて前記クロック信号を伝搬する複数の伝送ライン分岐と、
前記複数の伝送ライン分岐にそれぞれ結合された複数のクロック分配ネットワークと、を備え、前記複数のクロック分配ネットワークの各々は複数の並列な定在波共振器を含み、前記複数の並列な定在波共振器の各々に複数の回路が結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークは、前記複数の回路の各々に前記クロック信号を供給して当該関連する複数の回路をクロック同期させるように構成されている、クロック分配共振器システム。
(付記2)
前記クロック信号が正弦波クロック信号である、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記3)
前記第1の所定の長さが、前記クロック信号の前記所定の波長の1/4周期の奇数倍である、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記4)
前記第2の所定の長さが、前記クロック信号の前記所定の波長の半周期の倍数である、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記5)
前記複数のクロック分配ネットワークの各々が、前記複数の伝送ライン分岐を介して他の複数のクロック分配ネットワークの各々から前記所定の波長の整数倍で分離されている、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記6)
前記主伝送ラインおよび前記複数の伝送ライン分岐は、前記クロックソースと各前記クロック分配ネットワークとの間の総インピーダンスが略50Ω以下となるように配置されている、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記7)
前記複数の伝送ライン分岐が複数の第1の伝送ライン分岐であり、前記クロック分配共振器システムはさらに第2の伝送ライン分岐の複数のセットを備えており、前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットの各々が前記複数の第1の伝送ライン分岐の1つに結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークの各々が前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットのうちの対応する1つに関連する伝送ライン分岐に結合されて伝送ライン分岐の樹枝状ネットワークを形成している、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記8)
前記複数の第1の伝送ライン分岐の各々および前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットの各々の各伝送ライン分岐が、前記第2の所定の長さを有している、付記7に記載のクロック分配共振器システム。
(付記9)
前記複数の回路の第1の部分が第1の集積回路(IC)チップ上に配置されており、前記複数の回路の第2の部分が第2のICチップ上に配置されている、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記10)
前記複数の回路の第1の部分が第1のプリント回路基板(PCB)上に配置されており、前記複数の回路の第2の部分が第2のPCB上に配置されている、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記11)
前記複数のクロック分配ネットワークの各々は、前記複数の回路の各々に前記クロック信号を結合するように構成された動的ゼロ次共振器(DynaZOR)として配置されている、付記1に記載のクロック分配共振器システム。
(付記12)
クロック分配共振器システムであって、
所定の波長を有する正弦波クロック信号を生成するように構成されたクロックソースと、
前記正弦波クロック信号の前記所定の波長の1/4周期の奇数倍として規定された長さを有し、前記クロックソースに結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する主伝送ラインと、
前記正弦波クロック信号の前記所定の波長の半周期の倍数として規定された長さを各々有し、前記主伝送ラインに各々結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する複数の伝送ライン分岐と、
前記複数の伝送ライン分岐にそれぞれ結合された複数のクロック分配ネットワークと、を備え、前記複数のクロック分配ネットワークの各々は複数の並列な定在波共振器を含み、前記複数の並列な定在波共振器の各々に複数の回路が結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークは、前記複数の回路の各々に前記正弦波クロック信号を供給して当該関連する複数の回路をクロック同期させるように構成されている、クロック分配共振器システム。
(付記13)
前記主伝送ラインおよび前記複数の伝送ライン分岐は、前記クロックソースと各前記クロック分配ネットワークとの間の総インピーダンスが略50Ω以下となるように配置されている、付記12に記載のクロック分配共振器システム。
(付記14)
前記複数の伝送ライン分岐が複数の第1の伝送ライン分岐であり、前記クロック分配共振器システムはさらに第2の伝送ライン分岐の複数のセットを備えており、前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットの各々が前記複数の第1の伝送ライン分岐の1つに結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークの各々が前記第2の伝送ライン分岐の複数のセットのうちの対応する1つに関連する伝送ライン分岐に結合されて伝送ライン分岐の樹枝状ネットワークを形成している、付記12に記載のクロック分配共振器システム。
(付記15)
前記複数のクロック分配ネットワークの各々は、前記複数の回路の各々に前記正弦波クロック信号を誘導結合するように構成された動的ゼロ次共振器(DynaZOR)として配置されている、付記12に記載のクロック分配共振器システム。
(付記16)
クロック分配共振器システムであって、
所定の波長を有する正弦波クロック信号を生成するように構成されたクロックソースと、
前記正弦波クロック信号の波長に応じて規定された第1の所定の長さを有し、前記クロックソースに結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する主伝送ラインと、
前記正弦波クロック信号の波長に応じて規定された、前記第1の所定の長さとは異なる第2の所定の長さを各々有し、前記主伝送ラインに各々結合されて前記正弦波クロック信号を伝搬する複数の伝送ライン分岐と、
前記複数の伝送ライン分岐にそれぞれ結合された複数のクロック分配ネットワークと、を備え、前記クロックソースと各前記クロック分配ネットワークとの間の総インピーダンスが略50Ω以下となるように前記主伝送ラインおよび前記複数の伝送ライン分岐が配置されており、前記複数のクロック分配ネットワークの各々は複数の並列な定在波共振器を含み、前記複数の並列な定在波共振器の各々に複数の回路が結合されており、前記複数のクロック分配ネットワークは、前記複数の回路の各々に前記正弦波クロック信号を供給して当該関連する複数の回路をクロック同期させるように構成されている、クロック分配共振器システム。
(付記17)
前記第1の所定の長さが、前記正弦波クロック信号の前記所定の波長の1/4周期の奇数倍である、付記16に記載のクロック分配共振器システム。
(付記18)
前記第2の所定の長さが、前記正弦波クロック信号の前記所定の波長の半周期の倍数である、付記16に記載のクロック分配共振器システム。
(付記19)
前記複数のクロック分配ネットワークの各々は、前記複数の伝送ライン分岐を介して他の複数のクロック分配ネットワークの各々から前記所定の波長の整数倍で分離されている、付記16に記載のクロック分配共振器システム。
(付記20)
前記複数のクロック分配ネットワークの各々は、前記複数の回路の各々に前記クロック信号を結合するように構成された動的ゼロ次共振器(DynaZOR)として配置されている、付記16に記載のクロック分配共振器システム。
図1
図2
図3