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特許7263547ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230417BHJP
   C08G 71/04 20060101ALI20230417BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20230417BHJP
   C08L 3/02 20060101ALI20230417BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20230417BHJP
   C09D 103/02 20060101ALI20230417BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230417BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20230417BHJP
   C08J 7/048 20200101ALI20230417BHJP
【FI】
C08J5/18 CEP
C08J5/18 CFF
C08G71/04
C08L75/04
C08L3/02
C09D175/04
C09D103/02
B32B27/18 Z
B32B27/40
C08J7/048 CFD
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021558266
(86)(22)【出願日】2020-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2020041110
(87)【国際公開番号】W WO2021100453
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019209975
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019209976
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-194029(JP,A)
【文献】特開2016-204592(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084102(WO,A1)
【文献】特開2001-187857(JP,A)
【文献】特開2003-053909(JP,A)
【文献】特開平05-092507(JP,A)
【文献】特開昭60-188402(JP,A)
【文献】特開2006-198842(JP,A)
【文献】特開平07-266441(JP,A)
【文献】特開平08-041218(JP,A)
【文献】特開平10-237180(JP,A)
【文献】国際公開第2008/026672(WO,A1)
【文献】特開2003-292713(JP,A)
【文献】特開2019-127548(JP,A)
【文献】特開2019-127574(JP,A)
【文献】特開2020-122056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C09D 1/00-201/10
C08J 3/00- 7/18
C08G 71/00- 71/04
B32B 1/00- 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合樹脂製のガスバリア性フィルムであって、
前記複合樹脂は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、下記一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋した金属キレート化合物(C)を含有し、かつ、
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する含有量として、前記澱粉系化合物(B)の含有量が50~300質量部であり、前記金属キレート化合物(C)の含有量が10~50質量部であり、
前記澱粉系化合物(B)は、澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた難消化性グルカンであり、
前記金属キレート化合物(C)は、チタントリエタノールアミネート及びジルコニウムラクテートアンモニウム塩の少なくとも一方である、ガスバリア性フィルム。
(前記一般式(1.1)中、Xは、前記化合物(a1)に由来する2価の基であって、炭素原子及び水素原子以外の原子を含んでいてもよい炭化水素基を表すか、又は直接結合を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、下記一般式(2)~(5)のいずれかで表される2価の基を表し、かつ、それらのうちの2以上が前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の分子中に混在していてもよい。Zは、下記一般式(6.1)で表される2価の基を表す。)
(前記一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、*は、前記一般式(1.1)中のXとの結合手を表し、*は前記一般式(1.1)中のOとの結合手を表す。)
(前記一般式(6.1)中、Rは、その構造中に酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。R、R、及びRは、それぞれ独立に、その構造中にエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキレン基を表す。Mはそれぞれ独立に、水素原子又は塩構造となるための対イオンを表す。aは0~3の整数を表し、bは1~5の整数を表す。*は前記一般式(1.1)中のZにおけるNとの結合手を表し、*はZにおける他方の結合手を表す。)
【請求項2】
前記化合物(a2)は、下記一般式(a2-1)で表される化合物を含む請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
(前記一般式(a2-1)中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、その構造中にエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキレン基を表し、aは0~3の整数を表し、bは1~5の整数を表す。)
【請求項3】
複合樹脂製のガスバリア性フィルムであって、
前記複合樹脂は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、下記一般式(1.2)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋した金属キレート化合物(C)を含有し、かつ、
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する含有量として、前記澱粉系化合物(B)の含有量が50~300質量部であり、前記金属キレート化合物(C)の含有量が10~50質量部であり、
前記澱粉系化合物(B)は、澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた難消化性グルカンであり、
前記金属キレート化合物(C)は、チタントリエタノールアミネート及びジルコニウムラクテートアンモニウム塩の少なくとも一方である、ガスバリア性フィルム。
(前記一般式(1.2)中、Xは、前記化合物(a1)に由来する2価の基であって、炭素原子及び水素原子以外の原子を含んでいてもよい炭化水素基を表すか、又は直接結合を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、下記一般式(2)~(5)のいずれかで表される2価の基を表し、かつ、それらのうちの2以上が前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の分子中に混在していてもよい。Zは、前記化合物(a2)に由来する構造を含む、下記一般式(6.2)で表される2価の基を表す。)
(前記一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、*は、前記一般式(1.2)中のXとの結合手を表し、*は前記一般式(1.2)中のOとの結合手を表す。)
(前記一般式(6.2)中、Rは、その構造中に酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。Rは、それぞれ独立に、2価の、炭素数1~15の脂肪族炭化水素基、炭素数4~15の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~15の芳香族炭化水素基を表し、これらの基の構造中に、エーテル結合、スルホニル結合、水酸基及びハロゲン原子を含んでいてもよい。Wは、2価の、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数4~40の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~40の芳香族炭化水素基を表し、これらの基の構造中に、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、水酸基、及びハロゲン原子、並びにアルキレン基の炭素数が2~6であり、かつ、繰り返し単位が1~30であるポリアルキレングリコール鎖を含んでいてもよい。Mはそれぞれ独立に、水素原子又は塩構造となるための対イオンを表す。*は前記一般式(1.2)中のZにおけるNとの結合手を表し、*はZにおける他方の結合手を表す。)
【請求項4】
前記化合物(a2)は、下記一般式(a2-2)で表される化合物を含む請求項3に記載のガスバリア性フィルム。
(前記一般式(a2-2)中、R及びWは、それぞれ、前記一般式(6.2)中のR及びWと同義である。)
【請求項5】
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)は、前記一般式(1.2)で表される構造単位とともに、下記一般式(1.3)で表される構造単位をさらに含む請求項3又は4に記載のガスバリア性フィルム。
(前記一般式(1.3)中、X、Y、及びYは、それぞれ、前記一般式(1.2)中のX、Y、及びYと同義であり、Rは、前記一般式(6.2)中のRと同義である。)
【請求項6】
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が50~200質量部である請求項1~5のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記金属キレート化合物(C)の含有量が10~30質量部である請求項1~6のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
厚さが0.1~100μmの範囲であり、かつ、温度23℃及び相対湿度65%RHにおける酸素透過度が50mL/m・day・atm以下である請求項1~7のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
ガスバリア性フィルム形成用の複合樹脂組成物であって、
少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、下記一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、
澱粉系化合物(B)、並びに
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋可能な金属キレート化合物(C)を含有し、
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する含有量として、前記澱粉系化合物(B)の含有量が50~300質量部であり、前記金属キレート化合物(C)の含有量が10~50質量部であり、
前記澱粉系化合物(B)は、澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた難消化性グルカンであり、
前記金属キレート化合物(C)は、チタントリエタノールアミネート及びジルコニウムラクテートアンモニウム塩の少なくとも一方である、複合樹脂組成物。
(前記一般式(1.1)中、Xは、前記化合物(a1)に由来する2価の基であって、炭素原子及び水素原子以外の原子を含んでいてもよい炭化水素基を表すか、又は直接結合を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、下記一般式(2)~(5)のいずれかで表される2価の基を表し、かつ、それらのうちの2以上が前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の分子中に混在していてもよい。Zは、下記一般式(6.1)で表される2価の基を表す。)
(前記一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、*は、前記一般式(1.1)中のXとの結合手を表し、*は前記一般式(1.1)中のOとの結合手を表す。)
(前記一般式(6.1)中、Rは、その構造中に酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。R、R、及びRは、それぞれ独立に、その構造中にエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキレン基を表す。Mはそれぞれ独立に、水素原子又は塩構造となるための対イオンを表す。aは0~3の整数を表し、bは1~5の整数を表す。*は前記一般式(1.1)中のZにおけるNとの結合手を表し、*はZにおける他方の結合手を表す。)
【請求項10】
前記化合物(a2)は、下記一般式(a2-1)で表される化合物を含む請求項9に記載の複合樹脂組成物。
(前記一般式(a2-1)中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、その構造中にエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキレン基を表し、aは0~3の整数を表し、bは1~5の整数を表す。)
【請求項11】
ガスバリア性フィルム形成用の複合樹脂組成物であって、
少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、下記一般式(1.2)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、
澱粉系化合物(B)、並びに
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋可能な金属キレート化合物(C)を含有し、
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する含有量として、前記澱粉系化合物(B)の含有量が50~300質量部であり、前記金属キレート化合物(C)の含有量が10~50質量部であり、
前記澱粉系化合物(B)は、澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた難消化性グルカンであり、
前記金属キレート化合物(C)は、チタントリエタノールアミネート及びジルコニウムラクテートアンモニウム塩の少なくとも一方である、複合樹脂組成物。
(前記一般式(1.2)中、Xは、前記化合物(a1)に由来する2価の基であって、炭素原子及び水素原子以外の原子を含んでいてもよい炭化水素基を表すか、又は直接結合を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、下記一般式(2)~(5)のいずれかで表される2価の基を表し、かつ、それらのうちの2以上が前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の分子中に混在していてもよい。Zは、前記化合物(a2)に由来する構造を含む、下記一般式(6.2)で表される2価の基を表す。)
(前記一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、*は、前記一般式(1.2)中のXとの結合手を表し、*は前記一般式(1.2)中のOとの結合手を表す。)
(前記一般式(6.2)中、Rは、その構造中に酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。Rは、それぞれ独立に、2価の、炭素数1~15の脂肪族炭化水素基、炭素数4~15の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~15の芳香族炭化水素基を表し、これらの基の構造中に、エーテル結合、スルホニル結合、水酸基及びハロゲン原子を含んでいてもよい。Wは、2価の、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数4~40の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~40の芳香族炭化水素基を表し、これらの基の構造中に、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、水酸基、及びハロゲン原子、並びにアルキレン基の炭素数が2~6であり、かつ、繰り返し単位が1~30であるポリアルキレングリコール鎖を含んでいてもよい。Mはそれぞれ独立に、水素原子又は塩構造となるための対イオンを表す。*は前記一般式(1.2)中のZにおけるNとの結合手を表し、*はZにおける他方の結合手を表す。)
【請求項12】
前記化合物(a2)は、下記一般式(a2-2)で表される化合物を含む請求項11に記載の複合樹脂組成物。
(前記一般式(a2-2)中、R及びWは、それぞれ、前記一般式(6.2)中のR及びWと同義である。)
【請求項13】
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)は、前記一般式(1.2)で表される構造単位とともに、下記一般式(1.3)で表される構造単位をさらに含む請求項11又は12に記載の複合樹脂組成物。
(前記一般式(1.3)中、X、Y、及びYは、それぞれ、前記一般式(1.2)中のX、Y、及びYと同義であり、Rは、前記一般式(6.2)中のRと同義である。)
【請求項14】
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が50~200質量部である請求項9~13のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【請求項15】
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記金属キレート化合物(C)の含有量が10~30質量部である請求項9~14のいずれか1項に記載の複合樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルム、及び複合樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性を有するフィルム(以下、「ガスバリア性フィルム」という)は、主に内容物を保護する目的で使用されており、食品用や医薬品用などの包装材料としての使用を中心に、工業材料分野において幅広く使用されている。ガスバリア層の形成材料には、形成した皮膜がガスバリア性を示すガスバリア性フィルム用の樹脂が使用されている。そのような樹脂として、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(以下、EVOHと略記)や塩化ビニリデン樹脂(以下、PVDCと略記)が挙げられる。これらのガスバリア性を有する樹脂は、単独でも使用可能である。一般的には、以下に述べるように、他の樹脂材料を用いて多層フィルムを構成し、その中のガスバリア層の形成材料に使用されている。
【0003】
例えば、EVOHは、ポリプロピレン(以下、PPと略記)などの樹脂と共押出し成形などを行うことで、複合フィルムに使用されているが、EVOHは、有機溶剤への溶解性に劣るため、コーティング法によるフィルムや塗膜の作製には不向きである。一方、PVDCは、コーティング法による成形が可能であり、各種基材に塗布することができるため、コートフィルムとして食品包装用などに使用されている。しかし、PVDCは、塩素の含有率が高いため、廃棄(焼却)する際にダイオキシンが発生するといった点が指摘されている。
【0004】
一方、近年、地球温暖化問題の対応として、石油由来の材料の使用を削減し、バイオマス由来材料(本明細書において、資源を指して単に「バイオマス」と記載することがある。)をポリマーの原材料に使用する検討が進んでいる。例えば、包装材に使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)では、バイオマスを用いた製造方法がほぼ確立されるに至っており、また、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)においても、バイオマスを使用する検討が行われている。しかしながら、前述したガスバリア層の形成材料として広く使用されているEVOHやPVDCのような樹脂については、化学構造上、バイオマス由来成分への置き換えが難しく、検討が進んでいないのが現状である。
【0005】
その中、水溶性澱粉や水溶性セルロース誘導体をはじめとする多糖類のガスバリア性のコーティング剤も開発されている。これらは天然由来のため、環境的にも安全上の観点からも優れているといえる。しかし、水溶性多糖類のコーティング材料においては、充分な耐水性を有する塗工膜が得られず、実用に耐えられるものではない。
【0006】
その一方で、上記したEVOHやPVDCとは化学構造が全く異なる新規な環境対応型のガスバリア性材料として、特許文献1には、ポリヒドロキシウレタン樹脂を、ガスバリア層の形成材料に使用することが提案されている。特許文献1に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素由来の-O-CO-結合を樹脂の化学構造中に有する構成にできる点で、環境問題に対応しうる樹脂である。さらに、この樹脂は、ウレタン結合の近接部位に水酸基を有する化学構造に特徴があり、この水酸基を有する化学構造部位によって、従来のポリウレタン樹脂にはないガスバリア性が発現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-172144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、バイオマスを使用した環境対応型の材料でありながら、耐水性を損ない難いガスバリア性フィルムを提供しようとするものである。また、本発明は、そのようなガスバリア性フィルムを製造可能な樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、複合樹脂製のガスバリア性フィルムであって、前記複合樹脂は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、下記一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋した金属キレート化合物(C)を含有し、かつ、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が10~300質量部である、ガスバリア性フィルムを提供する。
【0010】
また、本発明は、ガスバリア性フィルム形成用の複合樹脂組成物であって、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、下記一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋可能な金属キレート化合物(C)を含有し、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が、10~300質量部である複合樹脂組成物を提供する。
【0011】
(前記一般式(1.1)中、Xは、前記化合物(a1)に由来する2価の有機基又は直接結合を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、下記一般式(2)~(5)のいずれかで表される2価の有機基を表し、かつ、それらのうちの2以上が前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の分子中に混在していてもよい。Zは、下記一般式(6.1)で表される2価の有機基を表す。)
【0012】
(前記一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、*は、前記一般式(1.1)中のXとの結合手又はXが直接結合の場合は他方のYとの結合手を表し、*は前記一般式(1.1)中のOとの結合手を表す。)
【0013】
(前記一般式(6.1)中、Rは、その構造中に酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。R、R、及びRは、それぞれ独立に、その構造中にエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキレン基を表す。Mはそれぞれ独立に、水素原子又は塩構造となるための対イオンを表す。aは0~3の整数を表し、bは1~5の整数を表す。*は前記一般式(1.1)中のZにおけるNとの結合手を表し、*はZにおける他方の結合手を表す。)
【0014】
さらに、本発明は、複合樹脂製のガスバリア性フィルムであって、前記複合樹脂は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、下記一般式(1.2)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋した金属キレート化合物(C)を含有し、かつ、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が10~300質量部である、ガスバリア性フィルムを提供する。
【0015】
また、本発明は、ガスバリア性フィルム形成用の複合樹脂組成物であって、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、下記一般式(1.2)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋可能な金属キレート化合物(C)を含有し、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が10~300質量部である、複合樹脂組成物を提供する。
【0016】
(前記一般式(1.2)中、Xは、前記化合物(a1)に由来する2価の有機基又は直接結合を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、下記一般式(2)~(5)のいずれかで表される2価の有機基を表し、かつ、それらのうちの2以上が前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の分子中に混在していてもよい。Zは、前記化合物(a2)に由来する構造を含む、下記一般式(6.2)で表される2価の有機基を表す。)
【0017】
(前記一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、*は、前記一般式(1.2)中のXとの結合手又はXが直接結合の場合は他方のYとの結合手を表し、*は前記一般式(1.2)中のOとの結合手を表す。)
【0018】
(前記一般式(6.2)中、Rは、その構造中に酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。Rは、それぞれ独立に、2価の、炭素数1~15の脂肪族炭化水素基、炭素数4~15の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~15芳香族炭化水素基を表し、これらの基の構造中に、エーテル結合、スルホニル結合、水酸基及びハロゲン原子を含んでいてもよい。Wは、2価の、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数4~40の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~40の芳香族炭化水素基を表し、これらの基の構造中に、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、水酸基、及びハロゲン原子、並びにアルキレン基の炭素数が2~6であり、かつ、繰り返し単位が1~30であるポリアルキレングリコール鎖を含んでいてもよい。Mはそれぞれ独立に、水素原子又は塩構造となるための対イオンを表す。*は前記一般式(1.2)中のZにおけるNとの結合手を表し、*はZにおける他方の結合手を表す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、バイオマスを使用した環境対応型の材料でありながら、耐水性を損ない難いガスバリア性フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、そのようなガスバリア性フィルムを製造可能な複合樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0021】
<ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物>
本発明者らは、耐水性を有し、かつ、バイオマス度を高めやすい環境対応型のガスバリア性フィルムの提供を目的として鋭意検討を重ねた。その結果、特定のポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部と、植物由来の材料である澱粉系化合物(B)10~300質量部と、金属キレート化合物(C)とを含有する複合樹脂組成物を用いることによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0022】
ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)には、後述する通り、二酸化炭素を原料の一つとすることができる環境対応型のものを用いることができる。また、これと併用する澱粉系化合物(B)は植物の澱粉に由来する材料であり、生分解性を有する。そのため、上記複合樹脂組成物は、その原材料の脱石油資源率が向上し、しかも、澱粉系化合物(B)をポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対して10~300質量部含有することから、高いバイオマス度を達成し得る環境対応型のフィルムを提供することが可能になる。
【0023】
さらに、ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物である上記複合樹脂組成物で形成した上記環境対応型のフィルムは、良好なガスバリア性を有し、また、耐水性を有する。その理由について、本発明者らは次のように考えている。まず、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)は、その構造中に多くの水酸基を有するため、その水素結合によってガスバリア性を示す。また、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び澱粉系化合物(B)は、金属キレート化合物(C)によって架橋される。具体的には、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)における水酸基と、澱粉系化合物(B)の構造中に存在する水酸基が、金属キレート化合物(C)によって架橋されて、一部、共有結合を形成及び水素結合すると考えられる。これにより、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)と澱粉系化合物(B)とを金属キレート化合物(C)で良好な状態に複合化させた構成のフィルムを形成することが可能となる。そのため、上記(A)~(C)を含有する複合樹脂組成物で形成したフィルムは、良好なガスバリア性を有し、また、澱粉系化合物(B)における水溶性や湿気を呼び込み膨潤するなどの性質が低減されることで、澱粉系化合物(B)を使用しない場合のフィルムと比べても遜色のないレベルの耐水性を有すると考えられる。
【0024】
上述の通り、本発明の一実施形態のガスバリア性フィルムは、複合樹脂製である。この複合樹脂は、特定のポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びにポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び澱粉系化合物(B)に架橋した金属キレート化合物(C)を含有する。上記複合樹脂は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する澱粉系化合物(B)の含有量が10~300質量部である。この複合樹脂製のガスバリア性フィルムは、以下の複合樹脂組成物から容易に形成することができる。
【0025】
すなわち、本発明の一実施形態のガスバリア性フィルム形成用の複合樹脂組成物は、特定のポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びにポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び澱粉系化合物(B)に架橋可能な金属キレート化合物(C)を含有する。そして、この複合樹脂組成物では、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する澱粉系化合物(B)の含有量が10~300質量部である。
【0026】
次に、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、及び金属キレート化合物(C)のそれぞれについて説明し、上記ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物の好ましい構成などについて説明する。
【0027】
[ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)]
上記の特定のポリヒドロキシウレタン樹脂(A)には、以下に述べる第一の態様及び第二の態様の少なくとも一方を用いることができる。第一の態様は、後述する一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)である(以下、これを「ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)」と記載することがある。)。第二の態様は、後述する一般式(1.2)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)である(以下、これを「ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)」と記載することがある。)。ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)及びポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)のいずれか一方又は両方を含むことができる。本明細書において、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)とポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)とを区別することなく、それらに共通する説明事項を「ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)」と記載することがある。
【0028】
・ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)
ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)は、下記一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含む。この繰り返し単位は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)(以下、単に「化合物(a1)」と記載することがある。)と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)(以下、単に「化合物(a2)」と記載することがある。)とが重合した構造単位を基本構造とする。ここで、一般式(1.1)で表される繰り返し単位が、化合物(a1)と化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とするとは、一般式(1.1)で表される繰り返し単位が、上記基本構造に、別の化学構造が導入されたものであることを意味する。ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)においては、上記化合物(a2)が、少なくとも後述する化合物(a2-1)を含むことが好ましい。
【0029】
【0030】
一般式(1.1)中、Xは、化合物(a1)に由来する2価の有機基又は直接結合を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、下記一般式(2)~(5)のいずれかで表される2価の有機基を表し、かつ、それらのうちの2以上がポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の分子中に混在していてもよい。Zは、下記一般式(6.1)で表される2価の有機基を表す。
【0031】
【0032】
一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、*は、一般式(1.1)中のXとの結合手又はXが直接結合の場合は他方のYとの結合手を表し、*は一般式(1.1)中のOとの結合手を表す。
【0033】
【0034】
一般式(6.1)中、Rは、その構造中に酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。R、R、及びRは、それぞれ独立に、その構造中にエーテル結合を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキレン基を表す。Mはそれぞれ独立に、水素原子又は塩構造となるための対イオンを表す。aは0~3の整数を表し、bは1~5の整数を表す。*は一般式(1.1)中のZにおけるNとの結合手を表し、*はZにおける他方の結合手を表す。
【0035】
一般式(1.1)中のXは、直接結合又は2価の有機基でも、化合物(a1)に由来する。Xで表される、化合物(a1)に由来する2価の有機基は、化合物(a1)に起因して、様々な基をとり得る。その好適な2価の有機基の例としては、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数4~40の脂環式炭化水素基、及び炭素数6~40の芳香族炭化水素基を挙げることができ、これらの炭化水素基は、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、水酸基、及びハロゲン原子、並びにアルキレン基の炭素数が2~6であり、かつ、繰り返し単位が1~30であるポリアルキレングリコール鎖を含んでいてもよい。
【0036】
本明細書において、化合物「に由来する」基であるとは、当該化合物が有していた基、又はそれから誘導された基をいう。また、「有機基」とは、少なくとも炭素原子を含む基であって、炭素原子及び水素原子以外の原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子など)を含んでいてもよい炭化水素基をいう。
【0037】
一般式(1.1)中のY及びYも、化合物(a1)に由来する基であり、一般式(2)~(5)で示されるように、水酸基を含む2価の有機基である。ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)は、一般式(1.1)で表される繰り返し単位中に水酸基を含むため、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)を含む複合樹脂製のフィルムに、ガスバリア性の機能をもたらすことが可能となる。
【0038】
一般式(6.1)中のRで表される、酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい好適な2価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基を挙げることができ、これらの炭化水素基は、酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい。これらのなかでも、Rは、酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表すことがより好ましい。
【0039】
一般式(6.1)中のR、R、及びRで表される、エーテル結合を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキレン基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。アルキレン基としては、炭素数1~6の直鎖のアルキレン基が好ましく、炭素数1~4の直鎖のアルキレン基がより好ましく、エチレン基、n-プロピレン基、及びn-ブチレン基がさらに好ましい。
【0040】
一般式(6.1)中のMで表される、塩構造となるための好適な対イオンとしては、ナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属;アンモニウム;並びにメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、n-プロピルアンモニウム、n-ブチルアンモニウム、モノエタノールアンモニウム、及びトリエタノールアンモニウムなどの有機アンモニウムを挙げることができる。
【0041】
ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)は、一般式(1.1)で表される繰り返し単位中のZとして、一般式(6.1)で表される2価の有機基を含むため、カルボキシ基、又はその陰イオン若しくはその塩(以下、これらをまとめて単に「カルボキシ基」と記載することがある。)を含む化学構造を有する。Z(一般式(6.1)で表される2価の有機基)は、化合物(a2)(より好ましくは後述する化合物(a2-1))に由来する2価の有機基に、カルボキシ基が導入されたものであることが好ましい。ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)は、一般式(1.1)で表される繰り返し単位中に、親水性基としてアニオン性基であるカルボキシ基を含むため、水などの水性媒体に自己乳化することが可能である。そのため、前述の複合樹脂組成物を水分散体(エマルジョン)の形態として好適に用いることができる。
【0042】
・ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)
次にポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)について説明する。ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)は、下記一般式(1.2)で表される構造単位を含む。この構造単位は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)(以下、単に「化合物(a1)」と記載することがある。)と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする。ここで、一般式(1.2)で表される構造単位が、化合物(a1)と化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とするとは、一般式(1.2)で表される構造単位が、上記基本構造に、別の化学構造が導入されたものであることを意味する。ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)においては、上記化合物(a2)が、少なくとも後述する化合物(a2-2)を含むことが好ましい。
【0043】
【0044】
一般式(1.2)中、Xは、化合物(a1)に由来する2価の有機基又は直接結合を表す。Y及びYは、それぞれ独立に、下記一般式(2)~(5)のいずれかで表される2価の有機基を表し、かつ、それらのうちの2以上がポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の分子中に混在していてもよい。Zは、化合物(a2)に由来する構造を含む、下記一般式(6.2)で表される2価の有機基を表す。
【0045】
【0046】
一般式(2)~(5)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、*は、一般式(1.2)中のXとの結合手又はXが直接結合の場合は他方のYとの結合手を表し、*は一般式(1.2)中のOとの結合手を表す。
【0047】
【0048】
一般式(6.2)中、Rは、その構造中に酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。Rは、それぞれ独立に、2価の、炭素数1~15の脂肪族炭化水素基、炭素数4~15の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~15芳香族炭化水素基を表し、これらの基の構造中に、エーテル結合、スルホニル結合、水酸基及びハロゲン原子を含んでいてもよい。Wは、2価の、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数4~40の脂環式炭化水素基、又は炭素数6~40の芳香族炭化水素基を表し、これらの基の構造中に、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、水酸基、及びハロゲン原子、並びにアルキレン基の炭素数が2~6であり、かつ、繰り返し単位が1~30であるポリアルキレングリコール鎖を含んでいてもよい。Mはそれぞれ独立に、水素原子又は塩構造となるための対イオンを表す。*は一般式(1.2)中のZにおけるNとの結合手を表し、*はZにおける他方の結合手を表す。
【0049】
一般式(1.2)中のXは、直接結合又は2価の有機基でも、化合物(a1)に由来する。Xで表される、化合物(a1)に由来する2価の有機基は、化合物(a1)に起因して、様々な基をとり得る。その好適な2価の有機基の例としては、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基、炭素数4~40の脂環式炭化水素基、及び炭素数6~40の芳香族炭化水素基を挙げることができ、これらの炭化水素基は、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合、水酸基、及びハロゲン原子、並びにアルキレン基の炭素数が2~6であり、かつ、繰り返し単位が1~30であるポリアルキレングリコール鎖を含んでいてもよい。
【0050】
一般式(1.2)中のY及びYも、化合物(a1)に由来する基であり、一般式(2)~(5)で示されるように、水酸基を含む2価の有機基である。ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)は、一般式(1.2)で表される構造単位中に水酸基を含むため、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を含む複合樹脂製のフィルムに、ガスバリア性の機能をもたらすことが可能となる。
【0051】
一般式(6.2)中のRで表される、酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい好適な2価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基を挙げることができ、これらの炭化水素基は、酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい。これらのなかでも、Rは、酸素原子及び窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表すことがより好ましい。
【0052】
一般式(6.2)中のRで表される2価の基の中でも、エーテル結合、スルホニル結合、水酸基及びハロゲン原子を含んでいてもよい、2価の炭素数1~15(より好ましくは炭素数2~12)の脂肪族炭化水素基が好ましい。なかでも、炭素数1~15の直鎖状アルキレン基がより好ましく、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、及びドデカメチレン基などの炭素数2~12の直鎖状アルキレン基がさらに好ましい。
【0053】
一般式(6.2)中のMで表される、塩構造となるための好適な対イオンとしては、ナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属;アンモニウム;並びにメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、n-プロピルアンモニウム、n-ブチルアンモニウム、モノエタノールアンモニウム、及びトリエタノールアンモニウムなどの有機アンモニウムを挙げることができる。
【0054】
ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)は、一般式(1.2)で表される構造単位中のZとして、一般式(6.2)で表される2価の有機基を含むため、カルボキシ基、又はその陰イオン若しくはその塩(以下、これらをまとめて単に「カルボキシ基」と記載することがある。)を含む化学構造を有する。Z(一般式(6.2)で表される2価の有機基)は、化合物(a2)(より好ましくは後述する化合物(a2-2))に由来する2価の有機基に、カルボキシ基が導入されたものであることが好ましい。ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)は、一般式(1.2)で表される構造単位中に、親水性基としてアニオン性基であるカルボキシ基を含むため、水などの水性媒体に自己乳化することが可能である。そのため、前述の複合樹脂組成物を水分散体(エマルジョン)の形態として好適に用いることができる。
【0055】
(ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)における基本構造)
ここで、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)及びポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)に共通する説明として、まず、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)における基本構造について、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の製造方法の観点から説明する。ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)における基本構造は、上述の通り、1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)との重付加反応により得られる。
【0056】
まず、五員環環状カーボネート(以下、単に「環状カーボネート」と記載することがある。)構造を有する化合物と、アミンとの反応においては、下記の一般反応式(R-i)で表されるモデル反応のように、環状カーボネートの開裂が2種ある。このため、2種類の構造の生成物が得られる。
【0057】
【0058】
したがって、例えば、2官能同士の化合物を反応させた場合、すなわち、2つの環状カーボネート構造を有する化合物と、2つのアミノ基を有する化合物とを反応させた場合には、4種類の構造の生成物が得られる。
【0059】
例えば、化合物(a1)として、下記一般式(a1-1)で表される2つの環状カーボネート構造を有する化合物と、化合物(a2)として、下記一般式(a2)で表される化合物との重付加反応により得られる高分子は、下記一般式(I)~(IV)で表される4種類の化学構造が生じ、これらはランダム位に存在すると考えられる。なお、この反応モデルの例で得られる下記一般式(I)~(IV)で表される繰り返し単位を含む樹脂は、一般式(2)又は(3)で表される2価の有機基に対応する構造を有する。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
一般式(a1-1)及び一般式(I)~(IV)中のXは直接結合又は2価の有機基を表す。一般式(a1-1)及び一般式(I)~(IV)中のRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。一般式(a2)及び一般式(I)~(IV)中のZは2価の有機基を表す。X及びZが表す2価の有機基としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基(脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基)をとることができる。Zは、少なくとも窒素原子を含む2価の有機基であることが好ましく、分子内に少なくとも1つの第二級アミノ基(-NH-;イミノ基と称してもよい。)を含む2価の有機基であることがより好ましい。
【0066】
また、例えば、化合物(a1)として、下記一般式(a1-2)で表される2つの環状カーボネート構造を有する化合物と、化合物(a2)として、一般式(a2)で表される化合物との重付加反応により得られる高分子は、下記一般式(V)~(VIII)で表される4種類の化学構造が生じ、これらはランダム位に存在すると考えられる。なお、この反応モデルの例で得られる下記一般式(V)~(VIII)で表される繰り返し単位を含む樹脂は、一般式(4)又は(5)で表される2価の有機基に対応する構造を有する。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
一般式(a1-2)及び一般式(V)~(VIII)中のXは直接結合又は2価の有機基を表す。一般式(a1-2)及び一般式(V)~(VIII)中のRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。一般式(V)~(VIII)中のZは2価の有機基を表す。X及びZが表す2価の有機基としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基(脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基)をとることができる。Zは、少なくとも窒素原子を含む2価の有機基であることが好ましく、分子内に少なくとも1つの第二級アミノ基(-NH-;イミノ基と称してもよい。)を含む2価の有機基であることがより好ましい。
【0073】
(少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1))
ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の原料成分の1つである、1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)は、下記一般反応式(R-ii)で表されるモデル反応のように、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得ることができる。例えば、原材料であるエポキシ化合物(エポキシ基を2以上有する化合物)を、触媒の存在下、0~160℃の温度にて、大気圧~1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4~24時間反応させる。この結果、二酸化炭素をエステル部位に固定化した化合物(五員環環状カーボネート構造を2以上有する化合物)を得ることができる。なお、一般反応式(R-ii)中のXは、2価の有機基を表し、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基(脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基)をとることができる。
【0074】
【0075】
二酸化炭素を原料として合成された化合物(a1)を使用することによって得られた樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された-O-CO-結合を有したものとなる。ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)中の二酸化炭素由来の-O-CO-結合の含有量(二酸化炭素の固定化量)は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよい。例えば、二酸化炭素を原料として合成された化合物(a1)を用いることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の構造中に1~30質量%(より好ましくは1~20質量%)の範囲で、二酸化炭素を含有させることができる。すなわち、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)は、その質量のうちの1~30質量%(より好ましくは1~20質量%)を原料の二酸化炭素由来の-O-CO-結合が占める樹脂であることが好ましい。
【0076】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、化合物(a1)の合成に使用可能な公知の触媒(例えば、ハロゲン化塩類及び4級アンモニウム塩など)の1種又は2種以上を用いることができる。触媒の使用量も公知の範囲から適宜決めることができる。また、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであれば使用可能であり、化合物(a1)の合成に使用可能な公知の有機溶剤(例えば、アミド系溶剤、アルコール系溶剤、及びエーテル系溶剤など)の1種又は2種以上を用いることができる。
【0077】
上述した化合物(a1)の構造は、1分子中に2以上の五員環環状カーボネート構造を有していれば、特に制限されない。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれの環状カーボネート構造を有する化合物も使用可能である。以下に使用可能な化合物を例示する。
【0078】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を有する化合物(a1)としては、以下に示す構造式(a1.1)~(a1.6)でそれぞれ表される構造のものを例示することができる。なお、下記構造式(a1.3)及び(a1.4)中のRは、H又はCHを表す。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
脂肪族系や脂環式系の構造を有する化合物(a1)としては、以下に示す構造式(a1.7)~(a1.14)でそれぞれ表される構造のものを例示することができる。なお、下記構造式(a1.7)、(a1.10)及び(a1.11)中のRは、H又はCHを表す。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
上述した化合物(a1)のなかでも、下記一般式(a1-3)で表される化合物がさらに好ましい。この一般式(a1-3)で表される化合物は、上述の一般式(a1-1)で表される化合物において、一般式(a1-1)中のXが2つのエーテル結合を含む2価の有機基を表し、一般式(a1-1)中のRが水素原子を表す化合物であるといえる。下記一般式(a1-3)中のRは2価の有機基を表す。その2価の有機基としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子などのヘテロ原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基(脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基)をとることができる。
【0095】
【0096】
化合物(a1)として一般式(a1-3)で表される化合物と、化合物(a2)として上述の一般式(a2)で表される化合物との重付加反応により得られる高分子は、下記一般式(I-1)~(IV-1)で表される4種類の化学構造が生じ、これらはランダム位に存在すると考えられる。下記一般式(I-1)~(IV-1)中のRは、一般式(a1-3)で表される化合物に由来する2価の有機基を表す。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
(少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2))
次に、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の原料成分の1つである、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)について、第一の態様及び第二の態様のそれぞれの場合に分けて説明する。
【0102】
・第一の態様において好適な化合物(a2)
第一の態様のポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)を得るために使用される化合物(a2)には、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)における一般式(1.1)で表される繰り返し単位中のZ(すなわち、一般式(6.1)で表される2価の有機基)の基本骨格を与えるものを少なくとも用いる。そのような化合物(a2)としては、下記一般式(a2-1)で表されるように、1分子中に2つのアミノ基(-NH)及び少なくとも1つのイミノ基(-NH-)を有する化合物(本明細書において、単に「化合物(a2-1)」と記載することがある。)が好ましい。下記一般式(a2-1)中、R、R、R、a、及びbはいずれも、上述の一般式(6.1)中のものと同義である。
【0103】
【0104】
一般式(a2-1)で表される化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,3-プロピレンジアミン、及びN,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,4-ブチレンジアミンなどを挙げることができる。これらの化合物の1種又は2種類以上を使用することが可能である。
【0105】
一般式(a2-1)で表される化合物中の上記イミノ基は、上述の少なくとも2つの環状カーボネート構造を有する化合物(a1)との反応が起こらず、当該イミノ基を主鎖に含んだポリヒドロキシウレタンを合成することができる。このイミノ基を含むポリヒドロキシウレタンを中間体として、後述する次反応に用いることで、カルボキシ基を有する一般式(6.1)で表される構造を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)を得ることができる。上述の一般式(a1-3)で表される化合物などの化合物(a1)と、一般式(a2-1)で表される化合物との反応条件は、例えば、両者を混合し、40~200℃の温度で4~24時間反応させればよい。
【0106】
化合物(a1)と、一般式(a2-1)で表される化合物との反応は、無溶剤で行うことも可能であるが、親水性溶剤中で行うことが好ましい。好適な親水性溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及びジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。上記に列挙した溶剤の中でも、好ましい溶剤としては、転相乳化後の蒸発留去が容易な沸点を有するものであるテトラヒドロフランが挙げられる。
【0107】
化合物(a1)と、一般式(a2-1)で表される化合物との反応は、反応を促進させるために、触媒の存在下で行うことも可能である。好適な触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO);ピリジン及びヒドロキシピリジンなどの塩基性触媒;テトラブチル錫及びジブチル錫ジラウレートなどのルイス酸触媒;などを挙げることができる。触媒の使用量は、化合物(a1)及び一般式(a2-1)で表される化合物の総量100質量部に当たり、0.01~10質量部であることが好ましい。
【0108】
・一般式(6.1)中のカルボキシ基の導入
次に、上述したイミノ基を主鎖に含んだポリヒドロキシウレタン(中間体)に、カルボキシ基を有する化学構造を導入する。例えば、中間体と環状酸無水物とを反応させ、中間体におけるイミノ基と環状酸無水物との反応によって、カルボキシ基を含む一般式(6.1)で表される化学構造部位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)を得ることができる。
【0109】
上記の反応に使用可能な環状酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、カロン酸無水物、シトラコン酸無水物、グルタル酸無水物、ジグリコール酸無水物、及び1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族酸無水物;無水フタル酸、トリメリット酸無水物、1,8-ナフタル酸無水物、及びピロメリット酸無水物などの芳香族酸無水物;1,1-シクロヘキサン二酢酸無水物、1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、1,1-シクロペンタン二酢酸無水物、及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物などの脂環族酸無水物;並びにそれらの誘導体などを挙げることができる。これらの環状酸無水物の1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、分子量の低い化合物が、少量の使用で乳化安定性を示すことから、例えば、無水コハク酸や無水マレイン酸が好ましい。
【0110】
導入されたカルボキシ基は、そのままの状態であってもよいが、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の水分散体を得る際には、水中でのイオン化を促進するために、カルボキシ基の一部又は全部(好ましくは全部)を中和して、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)を中和塩の形態としておくことが好ましい。中和に使用する塩基性化合物としては、例えば、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールなどの有機アミン;リチウム、カリウム、及びナトリウムなどのアルカリ金属;並びに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、及びアンモニアなどの無機塩基などを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これら塩基性化合物のなかでも、塗膜(フィルム)形成時に揮発可能なものが、塗膜(フィルム)の耐水性が向上するため好ましく、例えば、トリエチルアミンが好ましい。
【0111】
カルボキシ基を有する化学構造が導入されることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の水分散体を容易に得ることもできる。カルボキシ基が導入されたポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)を、上述した親水性溶剤中で合成して、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の溶液を得る場合には、その溶液に水を徐々に添加することで転相させることが好ましい。これにより、水中油型(O/W型)のエマルジョンを得ることができる。転相させる際に添加する水の使用量は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の合成の際に使用した溶剤の種類、樹脂濃度、及び粘度などに応じて適宜決定することが可能であるが、樹脂溶液の樹脂(固形分)100質量部当たり、概ね50~200質量部程度であることが好ましい。転相乳化して得られたO/W型エマルジョンを減圧条件下で加熱して溶剤を揮発させることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の水分散体を得ることができる。このポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の水分散体について、動的光散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準のメディアン径(d50)は、0.01~100μm程度であることが好ましい。
【0112】
以上述べた通り、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)は、前述の一般式(1.1)で表される繰り返し単位中に、前述の一般式(2)~(5)で表される構造による水酸基を含むため、一般にイソシアネート化合物とポリオール化合物とを付加反応して得られるポリウレタン樹脂とは異なり、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)を含む複合樹脂製のフィルムに、ガスバリア性の機能をもたらすことが可能となる。このガスバリア性の観点及びフィルム適性の観点などから、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の水酸基価は、150~300mgKOH/gの範囲であることが好ましい。本明細書における水酸基価(mgKOH/g)は、JIS K1557-1の規定に準拠して測定される値である。
【0113】
また、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)は、前述の一般式(1.1)で表される繰り返し単位中にカルボキシ基を含むため、前述の複合樹脂組成物を水分散体(エマルジョン)の形態として好適に用いることができる。ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)におけるカルボキシ基の量は、上記エマルジョンとした場合の乳化安定性と、複合樹脂組成物で形成したフィルムの耐水性に影響を及ぼす。上記の乳化安定性及びフィルムの耐水性の観点から、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)におけるカルボキシ基の量は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の酸価が10~100mgKOH/gの範囲となる量とすることが好ましい。また、乳化粒子の安定度は、樹脂の分子量にも影響を受けるため、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)の重量平均分子量は、10000~100000の範囲であることが好ましい。
【0114】
本明細書における酸価(mgKOH/g)は、JIS K1557-5の規定に準拠して測定される値である。また、本明細書における重量平均分子量は、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を移動相としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、GPC装置(商品名「GPC-8220」、東ソー製;カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000)を用いて、標準ポリスチレン換算値として測定される値である。
【0115】
・第二の態様において好適な化合物(a2)
第二の態様のポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を得るために使用される化合物(a2)には、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)における一般式(1.2)で表される構造単位中のZ(一般式(6.2)で表される2価の有機基)の基本骨格を与える化合物を少なくとも用いる。そのような化合物(a2)としては、下記一般式(a2-2)で表される化合物(a2-2)が好ましい。下記一般式(a2-2)中、R及びWは、それぞれ、上述の一般式(6.2)中のR及びWと同義である。
【0116】
【0117】
一般式(a2-2)で表される化合物(a2-2)は、化合物(a2)としても用いることが可能な1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2-3)と、1分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物(a3)とを反応させる工程(以下、「第1の反応工程」と記載することがある。)を行うことで得られる。
【0118】
上記第1の反応工程は、化合物(a2-2)が得られやすい観点から、アミノ基がエポキシ基に対して過剰量となる条件下で行い、化合物(a2-3)が未反応の状態で残るように行うことが好ましい。アミノ基の過剰量条件としては、例えば、アミノ基とエポキシ基の当量比がアミノ基/エポキシ基=4/1以上の条件が好ましい。これにより、上記当量比が4/1の場合についての下記一般反応式(R-iii)で表されるモデル反応に例示するように、上記化合物(a2-2)と、未反応で残った化合物(a2-3)との混合物を得ることができる。下記一般反応式(R-iii)中のRは、化合物(a2-3)に由来する2価の有機基であり、Wは、少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物に由来する2価の有機基であり、それぞれ、一般式(6.2)中のR及びWと同義である。
【0119】
【0120】
化合物(a2-2)の原料として用いることが可能な化合物(a2-3)には、従来公知のいずれのものも使用できる。好適な化合物(a2-3)としては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノへキサン(別名:ヘキサメチレンジアミン)、1,8-ジアミノオクタン、1,10-ジアミノデカン、及び1,12-ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6-シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、及び2,5-ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン;キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン;メタフェニレンジアミン、及びジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、鎖状脂肪族ポリアミンが好ましい。
【0121】
また、化合物(a2-2)の原料として用いることが可能なエポキシ化合物(a3)には、前述の少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)の原料成分に使用したエポキシ化合物と同様の構造を有する化合物を用いることが好ましい。具体的には、一般反応式(R-iii)におけるエポキシ化合物(a3)中のW(一般式(6.2)中のW)が、上述の一般式(1.2)中のXと同じ構造をとるエポキシ化合物を用いることがより好ましい。エポキシ化合物(a3)としては、下記一般式(a3-1)で表される化合物が好ましく、下記一般式(a3-1)中のRは、前述の一般式(a1-3)中のRで述べた2価の有機基をとることができ、Rと同じ基であることがさらに好ましい。
【0122】
【0123】
上述のように第1の反応工程で得られた一般式(a2-2)で表される化合物(a2-2)は、その原料に用いた化合物(a2-3)と同様、前述の少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と重付加反応することが可能である。化合物(a2-2)中のイミノ基(-NH-)は、化合物(a1)との反応が起こらず、当該イミノ基を主鎖に含んだポリヒドロキシウレタンを合成することができる。このイミノ基を含むポリヒドロキシウレタンを中間体として、後述する次反応(導入工程)に用いることで、カルボキシ基を有する一般式(6.2)で表される構造を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を得ることができる。
【0124】
すなわち、少なくとも化合物(a2-2)と、化合物(a1)とを重付加反応させる工程(以下、「第2の反応工程」と記載することがある。)を行うことにより、一般式(1.2)中のZが下記一般式(Z)で表される構造を有する、一般式(1.2)に対応した構造単位を含むポリヒドロキシウレタン中間体を得ることができる。このポリヒドロキシウレタン中間体におけるイミノ基(-NH-)に、後述する導入工程によって、カルボキシ基を有する化学構造を導入することで、一般式(1.2)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を得ることができる。下記一般式(Z)中のR及びWは、それぞれ、一般式(6.2)中のR及びWと同義である。
【0125】
【0126】
上記のポリヒドロキシウレタン中間体を得る第2の反応工程においては、第1の反応工程に次いで、第1の反応工程の生成物(化合物(a2-2)と化合物(a2-3)の混合物)に対して、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)を重付加反応させることがより好ましい。第1の反応工程の生成物を用いれば、化合物(a2-2)を単離する作業などを省略でき、生産効率を高めることが可能であるとともに、カルボキシ基を適度な量で導入することができる。この方法により、化合物(a2-2)と化合物(a1)とが重合した構造単位(上述したZが一般式(Z)で表されるところの一般式(1.2)に対応した構造単位)と、化合物(a2-3)と化合物(a1)とが重合した、下記一般式(1.3)で表される構造単位とを含むポリヒドロキシウレタン中間体を得ることができる。このポリヒドロキシウレタン中間体におけるイミノ基(-NH-)に、後述する導入工程を行うことで、一般式(1.2)で表される構造単位とともに、一般式(1.3)で表される構造単位をさらに含むポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を得ることができる。この場合、上述の通り、化合物(a2-2)を得るには化合物(a2-3)の過剰量条件が好ましいことから、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)中、一般式(1.3)で表される構造単位の含有割合の方が、一般式(1.2)で表される構造単位の含有割合よりも多いことが好ましい。
【0127】
【0128】
一般式(1.3)中のX、Y、及びYは、それぞれ、一般式(1.2)中のX、Y、及びYと同義であり、Rは、一般式(6.2)中のRと同義である。
【0129】
上記第1の反応工程及び第2の反応工程における反応条件はいずれも、例えば、40~200℃の温度で4~24時間程度の条件とすることができる。第1の反応工程及び第2の反応工程における反応は、いずれも無溶剤で行うことも可能であるが、次工程の反応及び乳化工程を考慮して、親水性溶剤中で行うことが好ましい。好適な親水性溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及びジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。上記に列挙した溶剤の中でも、好ましい溶剤としては、転相乳化後の蒸発留去が容易な沸点を有するものであるテトラヒドロフランが挙げられる。
【0130】
第1の反応工程及び第2の反応工程では、反応を促進させるために、触媒の存在下で行うことも可能である。好適な触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO);ピリジン及びヒドロキシピリジンなどの塩基性触媒;テトラブチル錫及びジブチル錫ジラウレートなどのルイス酸触媒;などを挙げることができる。
【0131】
・一般式(6.2)中のカルボキシ基の導入
次に、上述のようにして得られるポリヒドロキシウレタン中間体に、カルボキシ基を有する化学構造を導入する工程(導入工程)を行う。この導入工程では、ポリヒドロキシウレタン中間体と環状酸無水物とを反応させて、ポリヒドロキシウレタン中間体におけるイミノ基と環状酸無水物との反応によって、カルボキシ基を含む一般式(6.2)で表される化学構造部位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を得ることができる。
【0132】
導入工程で使用可能な環状酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、カロン酸無水物、シトラコン酸無水物、グルタル酸無水物、ジグリコール酸無水物、及び1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族酸無水物;無水フタル酸、トリメリット酸無水物、1,8-ナフタル酸無水物、及びピロメリット酸無水物などの芳香族酸無水物;1,1-シクロヘキサン二酢酸無水物、1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、1,1-シクロペンタン二酢酸無水物、及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物などの脂環族酸無水物;並びにそれらの誘導体などを挙げることができる。これらの環状酸無水物の1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、分子量の低い化合物が、少量の使用で乳化安定性を示すことから、例えば、無水コハク酸や無水マレイン酸が好ましい。
【0133】
導入されたカルボキシ基は、そのままの状態であってもよいが、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の水分散体を得る際には、水中でのイオン化を促進するために、カルボキシ基の一部又は全部(好ましくは全部)を中和して、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を中和塩の形態としておくことが好ましい。中和に使用する塩基性化合物としては、例えば、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールなどの有機アミン;リチウム、カリウム、及びナトリウムなどのアルカリ金属;並びに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、及びアンモニアなどの無機塩基などを挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これら塩基性化合物のなかでも、塗膜(フィルム)形成時に揮発可能なものが、塗膜(フィルム)の耐水性が向上するため好ましく、例えば、トリエチルアミンが好ましい。
【0134】
カルボキシ基を有する化学構造が導入されることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の水分散体を容易に得ることもできる。すなわち、カルボキシ基を有する化学構造が導入されたポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を、上述した親水性溶剤中で合成して、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の溶液を得る場合には、その溶液に水を徐々に添加することで転相させることが好ましい。これにより、水中油型(O/W型)のエマルジョンを得ることができる。転相させる際に添加する水の使用量は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の合成の際に使用した溶剤の種類、樹脂濃度、及び粘度などに応じて適宜決定することが可能であるが、樹脂溶液の樹脂(固形分)100質量部当たり、概ね50~200質量部程度であることが好ましい。転相乳化して得られたO/W型エマルジョンを減圧条件下で加熱して溶剤を揮発させることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の水分散体を得ることができる。このポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の水分散体について、動的光散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準のメディアン径(d50)は、0.001~10μm程度であることが好ましい。
【0135】
なお、カルボキシ基が導入されるイミノ基を有する化合物(a2)として、上述の化合物(a2-2)に加えて、それ以外の、両末端にアミノ基(1分子中に2つの末端アミノ基;-NH)と、内部にイミノ基(-NH-)を有する化合物を用いてもよい。そのような化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,3-プロピレンジアミン、及びN,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,4-ブチレンジアミンなどを挙げることができる。
【0136】
以上述べた通り、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)は、前述の一般式(1.2)で表される構造単位中に、前述の一般式(2)~(5)で表される構造による水酸基を含むため、一般にイソシアネート化合物とポリオール化合物とを付加反応して得られるポリウレタン樹脂とは異なり、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)を含む複合樹脂製のフィルムに、ガスバリア性の機能をもたらすことが可能となる。このガスバリア性の観点及びフィルム適性の観点などから、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の水酸基価は、150~300mgKOH/gの範囲であることが好ましい。本明細書における水酸基価(mgKOH/g)は、JIS K1557-1の規定に準拠して測定される値である。
【0137】
また、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)は、前述の一般式(6.2)で表されるカルボキシ基を有する化学構造部位を含むため、前述の複合樹脂組成物を水分散体(エマルジョン)の形態として好適に用いることができる。ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)におけるカルボキシ基の量は、上記エマルジョンとした場合の乳化安定性と、複合樹脂組成物で形成したフィルムの耐水性に影響を及ぼす。上記の乳化安定性及びフィルムの耐水性の観点から、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)におけるカルボキシ基の量は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の酸価が15~50mgKOH/gの範囲となる量とすることが好ましい。また、乳化粒子の安定度は、樹脂の分子量にも影響を受けるため、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)の重量平均分子量は、10000~100000の範囲であることが好ましい。
【0138】
[澱粉系化合物(B)]
本発明の一実施形態のガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物は、前述のポリヒドロキシウレタン樹脂(A)とともに、澱粉系化合物(B)を含有する。澱粉系化合物(B)の水酸基価は、30~1500mgKOH/gであることが好ましい。澱粉系化合物(B)としては、例えば、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ハイアミロース小麦澱粉、米澱粉、及びデキストリン、並びにこれらの原料を化学的、物理的、又は酵素的に加工(分解)した加工澱粉などを挙げることができる。これらの澱粉系化合物(B)の1種又は2種以上を用いることができる。
【0139】
澱粉は、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子であり、水酸基を有することから、澱粉系化合物(B)もまた、水酸基を有する。澱粉系化合物(B)に含まれる水酸基は、前述のポリヒドロキシウレタン樹脂(A)に含まれる水酸基と同様、後述する金属キレート化合物(C)で架橋する。そのため、ガスバリア性フィルムを構成する複合樹脂では、金属キレート化合物(C)による架橋によって、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)と澱粉系化合物(B)とが良好な状態で複合化している。
【0140】
澱粉系化合物(B)としては、溶解性や反応性の高さから、澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた難消化性グルカン及びその処理物の少なくとも一方を用いることが好ましい。難消化性グルカン及びその処理物は、例えば、特開2016-050173号公報に記載されているように、澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させることで得られる糖縮合物からなる。ここで、「DE(Dextrose Equivalent)」とは、澱粉分解物の分解度合いの指標であり、試料中の還元糖をブドウ糖として固形分に対する百分率で示した値である。難消化性グルカンは、難消化性のグルカン(グルコースポリマー)を意味し、水溶性食物繊維画分を豊富に有していることが知られている。その化学構造が樹状構造を有した化合物であり、結合パターンによって、種々の呼び名がある。市販品としては、例えば、商品名「フィットファイバー#80」(日本食品化工社製)などがある。この製品は、DE87の澱粉分解物を、活性炭を触媒として加熱縮合させることで得られた糖縮合物である。
【0141】
本発明の一実施形態のガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物では、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する澱粉系化合物(B)の含有量は、10~300質量部である。澱粉系化合物(B)による生分解性の十分な効果が得られやすい観点、及びガスバリア性フィルムのバイオマス度が高まる観点から、上記澱粉系化合物(B)の含有量は、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることがさらに好ましい。一方、ガスバリア性フィルムの耐水性及び強度の観点から、上記澱粉系化合物(B)の含有量は、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましい。
【0142】
[金属キレート化合物(C)]
本発明の一実施形態のガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物は、前述のポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び澱粉系化合物(B)とともに、金属キレート化合物(C)を含有する。金属キレート化合物(C)は、前述の通り、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び澱粉系化合物(B)に架橋可能であり、架橋剤として機能するものである。したがって、複合樹脂製のガスバリア性フィルムには、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び澱粉系化合物(B)に架橋した金属キレート化合物(C)が含有されている。
【0143】
金属キレート化合物(C)における好適な金属としては、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムなどを挙げることができる。好適な金属キレート化合物(C)としては、例えば、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジエタノールアミネート、チタントリエタノールアミネート(例えばチタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)など)、チタンアミノエチルアミノエタノレート、チタンアセチルアセトネート(例えばチタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)など)、チタンオクチレングリコレート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート(例えばチタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)など)、及びドデシルベンゼンスルホン酸チタン化合物などのチタンキレート化合物;塩化ジルコニル化合物、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、及びジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネートなどのジルコニウムキレート化合物;並びにアルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトネート、及びアルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)などのアルミニウムキレート化合物などを挙げることができる。
【0144】
上記に挙げた金属キレート化合物のなかでも、チタンキレート化合物及びジルコニウムキレート化合物が好ましく、水溶性チタンキレート化合物(例えば、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジエタノールアミネート、チタントリエタノールアミネート、及びチタンアミノエチルアミノエタノレートなど)、並びに水溶性ジルコニウムキレート化合物(例えば、塩化ジルコニル化合物及びジルコニウムラクテートアンモニウム塩など)の少なくとも一方を用いることがより好ましい。それらのなかでも、チタントリエタノールアミネート及びジルコニウムラクテートアンモニウム塩の少なくとも一方を用いることがさらに好ましい。上記に挙げた金属キレート化合物の1種又は2種以上を用いることができる。
【0145】
金属キレート化合物(C)による、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の水酸基の架橋や、澱粉系化合物(B)の水酸基の架橋は、架橋間の距離が短く、特にポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の結晶性を阻害しない。このことから、ガスバリア性を低下させずに、金属キレート化合物(C)による架橋を生じさせることができる。本明細書において、金属キレート化合物(C)による架橋には、金属キレート化合物(C)と、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)又は澱粉系化合物(B)との間の単独の架橋、並びにポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び澱粉系化合物(B)のそれぞれの分子間と金属キレート化合物(C)との架橋のいずれも含む。
【0146】
本発明の一実施形態の複合樹脂組成物は、金属キレート化合物(C)を含有するため、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)と澱粉系化合物(B)の架橋による均一皮膜を形成することができる。したがって、その複合樹脂組成物を用いることによって、均一皮膜のガスバリア性フィルムを形成することが可能である。一方、金属キレート化合物(C)を用いずに、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)と澱粉系化合物(B)とを単に混合させた樹脂組成物を用いると、水に溶解し易い澱粉系化合物(B)を使用しているために、得られるフィルムの耐水性は低いものとなる。これに対し、さらに金属キレート化合物(C)を含有する上記複合樹脂組成物を用いれば、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)と澱粉系化合物(B)が金属キレート化合物(C)を介して架橋結合することで、耐水性を有する均一皮膜のガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0147】
金属キレート化合物(C)の使用量としては、形成したフィルムのガスバリア性を低下させないために、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)のもつ水酸基を一定量残す量であることが好ましい。この観点から、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)のもつ水酸基に対して50%以下で架橋する量で使用することが好ましい。そのような観点から、ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物中の金属キレート化合物(C)の含有量は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることがさらに好ましい。一方、フィルムのガスバリア性及び強度(靱性)を高める観点から、金属キレート化合物(C)の上記含有量は、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがさらに好ましい。
【0148】
[その他の成分]
なお、本発明の一実施形態のガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物においては、本発明の目的を損なわない範囲で、金属キレート化合物(C)とともに、水酸基と反応するその他の架橋剤を用いてもよい。その他の架橋剤としては、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート、酸無水物、シランカップリング剤、及びチタンなどの金属架橋剤などを挙げることができる。
【0149】
また、本発明の一実施形態のガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物は、層状粘土鉱物を含有してもよい。ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物に層状粘土鉱物を含有させることで、ガスバリア性のさらなる向上が期待できる。層状粘土鉱物は、層状珪酸塩鉱物(フィロケイ酸塩鉱物)を主成分とする、層状構造を有する鉱物である。層状粘土鉱物としては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト、及びマイカなどを挙げることができる。これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を併用してもよく、天然物でも合成物でも用いることができる。これらのなかでも、モンモリロナイト、サポナイト、及びマイカが好ましい。さらに、ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物は、上記層状粘土鉱物以外の無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、及びガラス繊維などを挙げることができ、1種又は2種以上の無機フィラーを用いることができる。
【0150】
[ガスバリア性フィルムの製造方法]
本発明の一実施形態のガスバリア性フィルムは、前述の複合樹脂組成物を塗布することで容易に製造することができる。このガスバリア性フィルムの製造方法においては、まず、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)を含有する樹脂組成物として、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)の水分散体(エマルジョン)を用意することが好ましい。そして、その水分散体に、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)(水分散体の固形分)100質量部に対し、澱粉系化合物(B)10~300質量部、及び所定量の金属キレート化合物(C)を配合し、複合樹脂組成物(塗工液)を得ることが好ましい。この水分散体の形態の複合樹脂組成物を塗布し、乾燥させることで、複合樹脂組成物の塗膜(コーティングフィルム)からなるガスバリア性フィルムを製造することができる。
【0151】
上記の複合樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、ポリエステルフィルム(例えばPETフィルム)などの基材に、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、及びスリットコーターなどによって、複合樹脂組成物を塗布し、水及び残存している溶剤を揮発させることが挙げられる。このようにして、基材と、基材の少なくとも一方の表面に複合樹脂組成物で形成された塗膜(ガスバリアフィルム)とを備えるラミネートフィルムを得ることができる。また、上記基材から、複合樹脂組成物で形成された塗膜を剥離することで、複合樹脂組成物で形成されたガスバリア性フィルムを得ることもできる。
【0152】
塗布した複合樹脂組成物を乾燥させる際には、金属キレート化合物(C)による架橋反応が十分に生じる条件とすることが好ましい。例えば、金属キレート化合物(C)として好適な水溶性チタンキレート化合物を用いる場合、ガスバリア性フィルムの生産性を高める観点から、80~140℃程度の温度で、10~120分程度の時間、乾燥を行うことが好ましい。
【0153】
ガスバリア性フィルムの厚さは、0.1~100μmの範囲であることが好ましく、1~100μmの範囲であることがより好ましく、10~100μmの範囲であることがさらに好ましい。ガスバリア性フィルムの酸素透過度は、温度23℃及び相対湿度65%RHにおいて、50mL/m・day・atm以下であることが好ましく、40mL/m・day・atm以下であることがより好ましい。本明細書における酸素透過度(mL/m・day・atm)は、JIS K7126-1の規定に準拠して、ガスとして酸素を用いて測定される値である。
【0154】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態のガスバリア性フィルムは、特定のポリヒドロキシウレタン樹脂(A)と澱粉系化合物(B)とを特定の割合で含有するとともに、それらに架橋した金属キレート化合物(C)を含有する。そのため、このガスバリア性フィルムは、バイオマスである澱粉系化合物(B)を使用した、バイオマス度をより高めることが可能な環境対応型の材料でありながら、耐水性を損ない難く、良好なガスバリア性を有する。
【0155】
なお、本発明の一実施形態のガスバリア性フィルムは、以下の構成を採ることが可能である。
[1]複合樹脂製のガスバリア性フィルムであって、前記複合樹脂は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、上記一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋した金属キレート化合物(C)を含有し、かつ、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が10~300質量部である、ガスバリア性フィルム。
[2]前記化合物(a2)は、上記一般式(a2-1)で表される化合物を含む上記[1]に記載のガスバリア性フィルム。
[3]複合樹脂製のガスバリア性フィルムであって、前記複合樹脂は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、上記一般式(1.2)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋した金属キレート化合物(C)を含有し、かつ、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が10~300質量部である、ガスバリア性フィルム。
[4]前記化合物(a2)は、上記一般式(a2-2)で表される化合物を含む上記[3]に記載のガスバリア性フィルム。
[5]前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)は、上記一般式(1.2)で表される構造単位とともに、上記一般式(1.3)で表される構造単位をさらに含む上記[3]又は[4]に記載のガスバリア性フィルム。
[6]前記澱粉系化合物(B)は、水酸基価が30~1500mgKOH/gの範囲である澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた難消化性グルカン、及びその処理物の少なくとも一方を含む上記[1]~[5]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[7]前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記金属キレート化合物(C)の含有量が1~50質量部である上記[1]~[6]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[8]前記金属キレート化合物(C)は、水溶性チタンキレート化合物及び水溶性ジルコニウムキレート化合物の少なくとも一方を含む上記[1]~[7]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[9]前記金属キレート化合物(C)は、チタントリエタノールアミネート及びジルコニウムラクテートアンモニウム塩の少なくとも一方を含む上記[1]~[8]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[10]厚さが0.1~100μmの範囲であり、かつ、温度23℃及び相対湿度65%RHにおける酸素透過度が50mL/m・day・atm以下である上記[1]~[9]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【0156】
また、本発明の一実施形態の複合樹脂組成物は、以下の構成を採ることが可能である。
[11]ガスバリア性フィルム形成用の複合樹脂組成物であって、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、上記一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋可能な金属キレート化合物(C)を含有し、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が、10~300質量部である複合樹脂組成物。
[12]前記化合物(a2)は、上記一般式(a2-1)で表される化合物を含む上記[11]に記載の複合樹脂組成物。
[13]ガスバリア性フィルム形成用の複合樹脂組成物であって、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a1)と少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(a2)とが重合した構造単位を基本構造とする、上記一般式(1.2)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(A)、澱粉系化合物(B)、並びに前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)及び前記澱粉系化合物(B)に架橋可能な金属キレート化合物(C)を含有し、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記澱粉系化合物(B)の含有量が10~300質量部である、複合樹脂組成物。
[14]前記化合物(a2)は、上記一般式(a2-2)で表される化合物を含む上記[13]に記載の複合樹脂組成物。
[15]前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)は、上記一般式(1.2)で表される構造単位とともに、上記一般式(1.3)で表される構造単位をさらに含む上記[13]又は[14]に記載の複合樹脂組成物。
[16]前記澱粉系化合物(B)は、水酸基価が30~1500mgKOH/gの範囲である澱粉の分解物であるDE70~100の糖類を再縮合させた難消化性グルカン、及びその処理物の少なくとも一方を含む上記[11]~[15]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[17]前記ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)100質量部に対する前記金属キレート化合物(C)の含有量が1~50質量部である上記[11]~[16]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[18]前記金属キレート化合物(C)は、水溶性チタンキレート化合物及び水溶性ジルコニウムキレート化合物の少なくとも一方を含む上記[11]~[17]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
[19]前記金属キレート化合物(C)は、チタントリエタノールアミネート及びジルコニウムラクテートアンモニウム塩の少なくとも一方を含む上記[11]~[18]のいずれかに記載の複合樹脂組成物。
【実施例
【0157】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の一実施形態の複合樹脂組成物及びガスバリア性フィルムをさらに具体的に説明するが、それらは以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の文中において、「部」及び「%」との記載は、特に断らない限り、質量基準(それぞれ「質量部」及び「質量%」)である。以下に示す実施例1-3及び実施例2-3は参考例である。
【0158】
[合成例1:環状カーボネート構造を有する化合物(a11)の合成]
エポキシ当量187のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「エポトート YD-128」、日鉄ケミカル&マテリアル社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)20部と、N-メチル-2-ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。そして、反応終了後の溶液に300部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別した。得られた白色粉末をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部(収率42%)を得た。
【0159】
上記で得られた化合物を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR;商品名「IRAffinty-1」、島津製作所社製)を用いて分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収(ピーク)は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基由来の吸収(ピーク)が確認された。また、高速液体クロマトグラフ(HPLC;商品名「LC-2000」、日本分光社製、カラム:FinePakSIL C18-T5、移動相:アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定の結果、融点は178℃であり、融点の範囲は±5℃であった。
【0160】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記化学式(a11)で表される2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と確認された。これを化合物(a11)と記す。この化合物(a11)中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、20.6%であった(化学構造式上の分子量からの計算値である)。
【0161】
【0162】
[合成例2:環状カーボネート構造を有する化合物(a12)の合成]
合成例1で使用したビスフェノールA型エポキシ樹脂を、エポキシ当量115のハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX203」、ナガセケムテックス社製)に変更したこと以外は、合成例1と同様の方法により、下記化学式(a12)で表される、2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(a12)を合成した(収率55%)。得られた化合物(a12)は、白色の結晶であり、融点は141℃であった。FT-IR分析の結果は、合成例1で得られた化合物(a11)と同様に910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基由来の吸収が確認された。HPLC分析による純度は97%であった。化合物(a12)中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、28.0%であった(計算値)。
【0163】
【0164】
[製造例1-1:ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A1)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、合成例1で得た化合物(a11)を42.8部、ジエチレントリアミン(東京化成工業社製)を9.86部、さらに、反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を79.0部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行った。反応後の溶液の一部をサンプリングして上記FT-IRで分析した。その結果、1800cm-1付近のカーボネート基のカルボニル基に由来する吸収(ピーク)が消失していることを確認して反応を終了した。次いで、この樹脂溶液にテトラヒドロフラン124部を加えて希釈した後に、無水マレイン酸(東京化成工業社製)9.4部を加え、室温(25℃;以下の室温も同じ。)にて反応を行った。上記FT-IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液(溶媒:THF)を得た。
【0165】
上記ポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得た反応容器内に、トリエチルアミン9.7部を仕込んだ。そして、室温にて撹拌しながらイオン交換水144部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器内を50℃に加温、減圧し、THFを留去した。その後、固形分が30%となるようにイオン交換水で調整し、水中に、一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)に該当するポリヒドロキシウレタン樹脂(1A1)が分散した水分散体を得た。この水分散体は、外観上均一であった。動的光散乱方式の粒度分布測定装置(商品名「UPA-EX150」、日機装製)を用いて、上記水分散体中のポリヒドロキシウレタン樹脂(1A1)の粒度分布を測定したところ、体積基準のメディアン径(d50)は0.02μmであった。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し、評価したところ、良好な安定性を示した。
【0166】
[製造例1-2:ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A2)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、合成例2で得た化合物(a12)を32.7部、ジエチレントリアミン(東京化成工業社製)を9.86部、さらに、反応溶媒としてTHFを64.4部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行った。反応後の溶液の一部をサンプリングして上記FT-IRで分析した。その結果、1800cm-1付近のカーボネート基のカルボニル基に由来する吸収(ピーク)が消失していることを確認して反応を終了した。次いで、この樹脂溶液にTHF124部を加えて希釈した後に、無水マレイン酸(東京化成工業社製)9.4部を加え、室温にて反応を行った。上記FT-IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液(溶媒:THF)を得た。その後は製造例1-1で述べた方法と同様にして、転相乳化などを行い、一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)に該当するポリヒドロキシウレタン樹脂(1A2)が水中に分散した水分散体を得た。この水分散体は、外観上均一であった。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し、評価したところ、良好な安定性を示した。
【0167】
[製造例1-3:ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A3)の合成]
製造例1-1で使用した無水マレイン酸9.4部を、無水フタル酸14.2部に変更したこと以外は、製造例1-1と同様の方法及び分析を経て、一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)に該当するポリヒドロキシウレタン樹脂(1A3)が水中に分散した水分散体を得た。この水分散体は、外観上均一であった。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し、評価したところ、良好な安定性を示した。
【0168】
[製造例1-4:ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A4)の合成]
製造例1-1で使用したジエチレントリアミン9.86部を、トリエチレンテトラミン13.98部に変更したこと以外は、製造例1-1と同様の方法及び分析を経て、一般式(1.1)で表される繰り返し単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(1A)に該当するポリヒドロキシウレタン樹脂(1A4)が水中に分散した水分散体を得た。この水分散体は、外観上均一であった。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し、評価したところ、良好な安定性を示した。
【0169】
[製造例2-1:ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A1)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名「jER828」、三菱ケミカル社製)10部、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業社製)30.1部、さらに反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)99部を加え、60℃の温度で撹拌しながら12時間の反応を行った。このようにして、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとヘキサメチレンジアミンとの反応物として上述の一般式(a2-2)に該当する化合物と、未反応で残ったヘキサメチレンジアミンとの混合物を得た。次にその混合物に、合成例1で得た化合物(a11)を100部投入し、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行い、樹脂溶液を得た。反応後の樹脂溶液をFT-IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定したアミン価は、樹脂分100%の換算値として20.1mgKOH/gであった。
【0170】
次いで、上記樹脂溶液にTHF124部を加え希釈した後に、無水マレイン酸(東京化成工業社製)5.2部を加え、室温(25℃;以下の室温も同じ。)にて反応を行い、FT-IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液(溶媒:THF)を得た。
【0171】
上記ポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得た反応容器内に、トリエチルアミン5.3部を仕込んだ。そして、室温にて撹拌しながらイオン交換水339部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器内を50℃に加温、減圧し、THFを留去した。その後、固形分が30%となるようにイオン交換水で調整し、水中に、一般式(1.2)で表される構造単位及び一般式(1.3)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)に該当するポリヒドロキシウレタン樹脂(2A1)が分散した水分散体を得た。この水分散体は、外観上均一であった。動的光散乱方式の粒度分布測定装置(商品名「UPA-EX150」、日機装製)を用いて、上記水分散体中のポリヒドロキシウレタン樹脂(A1)の粒度分布を測定したところ、体積基準のメディアン径(d50)は0.02μmであった。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し、評価したところ、良好な安定性を示した。
【0172】
[製造例2-2:ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A2)の合成]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、ハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX203」、ナガセケミテックス社製)8.2部、ヘキサメチレンジアミン41.6部、さらに反応溶媒としてTHF100部を加え、60℃の温度で撹拌しながら12時間の反応を行った。このようにして、ハイドロキノンジグリシジルエーテルとヘキサメチレンジアミンとの反応物として上述の一般式(a2-2)に該当する化合物と、未反応で残ったヘキサメチレンジアミンとの混合物を得た。次にその混合物に、合成例2で得た化合物(a12)を100部投入し、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行い、樹脂溶液を得た。反応後の樹脂溶液をFT-IRにて分析したところ、製造例2-1で述べたことと同じ結果が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定したアミン価は、樹脂分100%の換算値として26.2mgKOH/gであった。
【0173】
次いで、上記樹脂溶液にTHF125部を加え希釈した後に、無水マレイン酸7.0部を加え、室温にて反応を行い、FT-IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了し、ポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液(溶媒:THF)を得た。このポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液を、製造例2-1で述べた方法と同様にして、転相乳化などを行い、一般式(1.2)で表される構造単位及び一般式(1.3)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)に該当するポリヒドロキシウレタン樹脂(2A2)が水中に分散した水分散体を得た。この水分散体は、外観上均一であった。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し、評価したところ、良好な安定性を示した。
【0174】
[製造例2-3:ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A3)の合成]
製造例2-1で使用した無水マレイン酸5.2部を、無水フタル酸7.9部に変更したこと以外は、製造例2-1と同様の方法及び分析を経て、一般式(1.2)で表される構造単位及び一般式(1.3)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)に該当するポリヒドロキシウレタン樹脂(2A3)が水中に分散した水分散体を得た。この水分散体は、外観上均一であった。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し、評価したところ、良好な安定性を示した。
【0175】
[製造例2-4:ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A4)の合成]
製造例2-1で使用したヘキサメチレンジアミン30.1部を、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)35.3部に変更したこと以外は、製造例2-1と同様の方法及び分析を経て、一般式(1.2)で表される構造単位及び一般式(1.3)で表される構造単位を含むポリヒドロキシウレタン樹脂(2A)に該当するポリヒドロキシウレタン樹脂(2A4)が水中に分散した水分散体を得た。なお、転相乳化する前、及び無水マレイン酸によるカルボキシ基導入前の樹脂溶液を用いて測定したアミン価は、樹脂分100%の換算値として19.4mgKOH/gであった。
【0176】
[実施例1-1]
製造例1-1で得たポリヒドロキシウレタン樹脂(1A1)の水分散体に、その水分散体の固形分(樹脂(1A1))100部に対し、澱粉系化合物(B)として難消化性グルカン(商品名「フィットファイバー#80」、日本食品化工社製)を100部添加し、さらに、金属キレート化合物(C)として水溶性チタンキレート化合物であるチタントリエタノールアミネート(チタンジイソプロポキシ-ビストリエタノールアミネート;商品名「オルガチックス TC-400」、マツモトファインケミカル社製)を15部添加した。そして、総固形分が30%になるように水で希釈して、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A1)、澱粉系化合物(B)、及び金属キレート化合物(C)を含有する複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。
【0177】
基材としての厚さ25μmのコロナ処理PETフィルムに、上記塗工液を乾燥膜厚が20μmとなるようにバーコーターで均一に塗布し、100℃で20分間乾燥を行い、金属キレート化合物(C)をポリヒドロキシウレタン樹脂(1A1)及び澱粉系化合物(B)に架橋させた。このようにして、基材(PETフィルム)上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0178】
[実施例1-2]
実施例1-1における難消化性グルカンの使用量を100部から50部に変更したこと以外は、実施例1-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例1-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0179】
[実施例1-3]
実施例1-1におけるチタントリエタノールアミネートの使用量を15部から5部に変更したこと以外は、実施例1-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例1-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0180】
[実施例1-4]
実施例1-1におけるチタントリエタノールアミネートの使用量を15部から30部に変更したこと以外は、実施例1-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例1-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0181】
[実施例1-5]
実施例1-1におけるチタントリエタノールアミネート15部を、水溶性ジルコニウムキレート化合物であるジルコニウムラクテートアンモニウム塩(商品名「オルガチックス ZC-300」、マツモトファインケミカル社製)30部に変更したこと以外は、実施例1-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例1-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0182】
[実施例1-6]
実施例1-1における難消化性グルカンの使用量を100部から300部に変更したこと以外は、実施例1-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例1-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0183】
[実施例1-7~1-9]
実施例1-1で使用したポリヒドロキシウレタン樹脂(1A1)の水分散体を、以下に述べる水分散体に変更したこと以外は、実施例1-1と同様の方法で、実施例1-7~1-9のそれぞれの複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、これら塗工液を用いて、実施例1-7~1-9のそれぞれについて、実施例1-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
実施例1-7では、ポリヒドロキシウレタン樹脂(1A2)の水分散体を用いた。実施例1-8ではポリヒドロキシウレタン樹脂(1A3)の水分散体を用いた。実施例1-9ではポリヒドロキシウレタン樹脂(1A4)の水分散体を用いた。
【0184】
[比較例1-1]
実施例1-1において金属キレート化合物(C)として使用したチタントリエタノールアミネートを使用しなかったこと以外は、実施例1-1と同様の方法で、塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例1-1と同様の方法で、基材上に、上記塗工液で形成された塗膜(フィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0185】
[比較例1-2]
実施例1-1において澱粉系化合物(B)として使用した難消化性グルカンを使用しなかったこと以外は、実施例1-1と同様の方法で、塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例1-1と同様の方法で、基材上に、上記塗工液で形成された塗膜(フィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0186】
[実施例2-1]
製造例2-1で得たポリヒドロキシウレタン樹脂(2A1)の水分散体に、その水分散体の固形分(樹脂(2A1))100部に対し、澱粉系化合物(B)として難消化性グルカン(商品名「フィットファイバー#80」、日本食品化工社製)を100部添加し、さらに、金属キレート化合物(C)として水溶性チタンキレート化合物であるチタントリエタノールアミネート(チタンジイソプロポキシ-ビストリエタノールアミネート;商品名「オルガチックス TC-400」、マツモトファインケミカル社製)を15部添加した。そして、総固形分が30%になるように水で希釈して、ポリヒドロキシウレタン樹脂(2A1)、澱粉系化合物(B)、及び金属キレート化合物(C)を含有する複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。
【0187】
基材としての厚さ25μmのコロナ処理PETフィルムに、上記塗工液を乾燥膜厚が20μmとなるようにバーコーターで均一に塗布し、100℃で20分間乾燥を行い、金属キレート化合物(C)をポリヒドロキシウレタン樹脂(2A1)及び澱粉系化合物(B)に架橋させた。このようにして、基材(PETフィルム)上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0188】
[実施例2-2]
実施例2-1における難消化性グルカンの使用量を100部から50部に変更したこと以外は、実施例2-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例2-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0189】
[実施例2-3]
実施例2-1におけるチタントリエタノールアミネートの使用量を15部から5部に変更したこと以外は、実施例2-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例2-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0190】
[実施例2-4]
実施例2-1におけるチタントリエタノールアミネートの使用量を15部から30部に変更したこと以外は、実施例2-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例2-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0191】
[実施例2-5]
実施例2-1におけるチタントリエタノールアミネート15部を、水溶性ジルコニウムキレート化合物であるジルコニウムラクテートアンモニウム塩(商品名「オルガチックス ZC-300」、マツモトファインケミカル社製)30部に変更したこと以外は、実施例2-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例2-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0192】
[実施例2-6]
実施例2-1における難消化性グルカンの使用量を100部から300部に変更したこと以外は、実施例2-1と同様の方法で、複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例2-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0193】
[実施例2-7~2-9]
実施例2-1で使用したポリヒドロキシウレタン樹脂(2A1)の水分散体を、以下に述べる水分散体に変更したこと以外は、実施例2-1と同様の方法で、実施例2-7~2-9のそれぞれの複合樹脂組成物(ポリヒドロキシウレタン樹脂-澱粉ハイブリッド組成物)である塗工液を得た。また、これら塗工液を用いて、実施例2-7~2-9のそれぞれについて、実施例2-1と同様の方法で、基材上に、上記複合樹脂組成物で形成された塗膜(複合樹脂製のフィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
実施例2-7ではポリヒドロキシウレタン樹脂(2A2)の水分散体を用いた。実施例2-8ではポリヒドロキシウレタン樹脂(2A3)の水分散体を用いた。実施例2-9ではポリヒドロキシウレタン樹脂(2A4)の水分散体を用いた。
【0194】
[比較例2-1]
実施例2-1において金属キレート化合物(C)として使用したチタントリエタノールアミネートを使用しなかったこと以外は、実施例2-1と同様の方法で、塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例2-1と同様の方法で、基材上に、上記塗工液で形成された塗膜(フィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0195】
[比較例2-2]
実施例2-1において澱粉系化合物(B)として使用した難消化性グルカンを使用しなかったこと以外は、実施例2-1と同様の方法で、塗工液を得た。また、この塗工液を用いて、実施例2-1と同様の方法で、基材上に、上記塗工液で形成された塗膜(フィルム)を得た。この基材と、基材に設けられた塗膜とを備える積層体を後述する評価に用いた。
【0196】
[バイオマス度]
実施例及び比較例で得られた各塗膜(フィルム)のバイオマス度を、日本有機資源協会のバイオマスマークの認定方法にしたがって、乾燥時の全固形分の質量に対する澱粉系化合物(B)の質量割合(%)で算出した。
【0197】
[評価]
(酸素透過度)
実施例及び比較例で得られた各積層体(基材と塗膜とを備える積層体)、及び基材(PETフィルム)のそれぞれについて、JIS K7126-1に準拠した方法によって、温度23℃及び相対湿度65%RHにおける酸素透過度(mL/m・day・atm)を測定した。そして、積層体についての測定値から、基材についての測定値を差し引くことで、塗膜の酸素透過度を求めた。酸素透過度の測定には、酸素透過率測定装置(商品名「OX-TRAN2/21ML」、MOCON社製)を使用した。酸素透過度の値が低いほど、酸素を透過し難いこと、したがって、ガスバリア性が高いことを表す。
【0198】
(耐水性)
実施例及び比較例で得られた各積層体(大きさ:5cm四方)の塗膜上に水を1滴(約40μL)滴下し、25℃で1時間静置した後、ウエスで軽く拭き取り、塗膜(フィルム)の外観を目視で観察し、以下の評価基準にしたがって、塗膜の耐水性を評価した。
A:塗膜にほとんど変化はなかった。
B:塗膜に若干の白化が確認された。
C:塗膜に目立つ白化が確認された。
【0199】
以上の評価結果を、実施例及び比較例で使用した各塗工液の固形分組成(単位:部)とともに表1(表1-1及び表1-2)並びに表2(表2-1及び表2-2)に示す。
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
【0204】
表1に示す通り、実施例の複合樹脂組成物は、バイオマスである澱粉系化合物を使用した環境対応型の材料でありながら、耐水性を損ない難く、良好なガスバリア性を有するフィルムを形成することが可能であることが確認された。
【0205】
以上の実施例の結果から、本発明の一実施形態のガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)によるガスバリア性の機能だけでなく、良好な耐水性の機能をもたらすことが期待できる。そのため、ガスバリア性フィルム及び複合樹脂組成物の実用性がより向上し、それらの有効利用が期待される。