(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】鉄道車両用のブレーキ調整装置、制動方法およびブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
(21)【出願番号】P 2021558720
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2020055318
(87)【国際公開番号】W WO2020200598
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】102019108447.4
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503159597
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア シーネンファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Schienenfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80,D-80809 Muenchen,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ フリーゼン
(72)【発明者】
【氏名】マーク-グレゴリー エルストープフ
(72)【発明者】
【氏名】ルーペアト ラング
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ フアトヴェングラー
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-327003(JP,A)
【文献】特開2001-347938(JP,A)
【文献】特開平11-189146(JP,A)
【文献】特表2005-528069(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0244606(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102007017034(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
B61H 1/00 - 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速目標値(a
set)用の入力側(21)と減速実際値(a
train)用の入力側(22)と減速操作変数値(a
out)用の出力側(23)とを有する、鉄道車両用のブレーキ調整装置(2)であって、
前記減速実際値(a
train)と前記減速目標値(a
set)との間の偏差を最小化するために、前記減速操作変数値(a
out)が調整ユニットによって設定されるブレーキ調整装置(2)において、
前記減速操作変数値(a
out)が前記減速目標値(a
set)から、最大で、より小さい値への負の最大調整ストローク(14)の大きさの偏差をするように、または最大で、より大きい値への正の最大調整ストローク(15)の大きさの偏差をするように、前記調整ユニットとは無関係に、前記減速操作変数値(a
out)を制限する制限デバイスが設けられている、
ことを特徴とするブレーキ調整装置(2)。
【請求項2】
2つの前記最大調整ストローク(14,15)のうちの少なくとも1つは、前記減速目標値(a
set)に比例しない、請求項1記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項3】
前記負の最大調整ストローク(14)と前記正の最大調整ストローク(15)との総計は所定の固定値である、請求項1または2記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項4】
前記負の最大調整ストローク(14)は、前記正の最大調整ストローク(15)とは異なっている、請求項1から3までのいずれか1項記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項5】
前記負の最大調整ストローク(14)および/または前記正の最大調整ストローク(15)は、時間に関連している、請求項1から4までのいずれか1項記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項6】
前記負の最大調整ストローク(14)および/または前記正の最大調整ストローク(15)は、所定の制動時間後に低下する、請求項5記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項7】
前記減速目標値(a
set)が所定の境界値を下回っている場合にのみ、前記正の最大調整ストローク(15)は時間に関連している、請求項4または5記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項8】
前記減速目標値(a
set)が別の所定の境界値を上回っている場合にのみ、前記負の
最大調整ストローク(14)は時間に関連している、請求項5から7までのいずれか1項記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項9】
前記2つの最大調整ストローク(14,15)のうちの少なくとも1つは、前記減速目標値(a
set)および/または前記制動時間に関連する特性曲線または特性曲線場によって設定されている、請求項1から8までのいずれか1項記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項10】
前記2つの最大調整ストローク(14,15)のうちの少なくとも1つは、外部の影響変数に関連している、請求項1から9までのいずれか1項記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項11】
前記外部の影響変数は、温度または湿度等の周辺条件である、請求項10記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項12】
前記外部の影響変数は、前記鉄道車両の走行条件であり、特に走行速度、制動圧力、制動力および/または滑走防止システムおよび/または砂まきシステムおよび/または磁石式レールブレーキの作動である、請求項10または11記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項13】
制限に関連して、前記調整ユニットのパラメータに影響を及ぼすために、前記制限デバイスは前記調整ユニットと結合されている、請求項1から12までのいずれか1項記載のブレーキ調整装置(2)。
【請求項14】
鉄道車両のブレーキシステムの動作方法であって、
減速実際値(a
train)と減速目標値(a
set)との間の偏差を最小化するために、減速操作変数値(a
out)を前記減速目標値(a
set)および前記減速実際値(a
train)に関連して調整ユニットによって設定する動作方法において、
前記減速操作変数値(a
out)が前記減速目標値(a
set)から、最大で、より小さい値への負の最大調整ストローク(14)の大きさの偏差が可能であるように、または最大で、より大きい値への正の最大調整ストローク(15)の大きさの偏差が可能であるように、前記調整ユニットとは無関係に、前記減速操作変数値(a
out)を制限する、
ことを特徴とする、鉄道車両のブレーキシステムの動作方法。
【請求項15】
2つの前記最大調整ストローク(14,15)のうちの少なくとも1つは、前記減速目標値(a
set)に比例しない、請求項14記載の動作方法。
【請求項16】
前記2つの最大調整ストローク(14,15)のうちの少なくとも1つを、前記減速目標値(a
set)および/または制動時間および/または周辺条件および/または走行条件に関連して決定する、請求項14または15記載の動作方法。
【請求項17】
請求項1から13までのいずれか1項記載のブレーキ調整装置(2)を有している、鉄道車両用のブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速目標値用の入力側と減速実際値用の入力側と減速操作変数値用の出力側とを有する、鉄道車両用のブレーキ調整装置に関する。ブレーキ調整装置では、減速実際値と減速目標値との間の偏差を最小化するために、操作変数値が調整ユニットによって設定される。本発明はさらに、そのようなブレーキ調整装置を備える、鉄道車両用のブレーキシステムならびにブレーキシステムの動作方法に関する。
【0002】
鉄道車両用のブレーキシステムは、回生ブレーキと、渦電流ブレーキ等の補助ブレーキとに加えて、ディスクブレーキまたは制輪子ブレーキ等の摩擦ブレーキを有している。特に湿気、雪または氷等の環境影響によって、これらのブレーキの摩擦パートナの摩擦値すなわち、たとえばブレーキライニングとブレーキディスクとの間の摩擦値が低下する。摩擦値が変動しても、予測可能な制動結果を得るために、要求され、予期される鉄道車両の減速を実際に得られた減速と比較し、ブレーキシステムの操作変数、たとえば制動力を再調整する調整ループが使用される。
【0003】
そのような調整装置を備えるブレーキシステムは、たとえば、文献、独国特許出願公開第102015110053号明細書から知られている。このようなシステムでは鉄道車両の加速成分が求められ、この際に、下り坂の力の影響を別個に考慮できるように、長手方向の減速に加えて、垂直に作用する減速が特別な機能として求められる。文献、独国特許発明第102011052545号明細書は、同様に、ブレーキシステムの正しい機能に対する安全性を高めるために、減速実際値が冗長的に測定されて、平均化される、ブレーキ調整装置を備えるブレーキシステムを開示している。
【0004】
図5は、従来技術による、そのような、調整されるブレーキシステムのための調整ループの調整対象システムの動作を示している。
【0005】
この図では、進行する時間tが横軸に再現されており、設定された目標値、ここでは設定された加速目標値asetが縦軸に再現されている。曲線11では、行われるべき減速asetに関するブレーキシステムへの要求が時間に関連して示されている。曲線11は、初期値aset=0から中間値を経由して、達成されるべき減速の要求されている最大値まで、2段階で上昇している。すなわち、弱い制動が一定時間実行され、その後、より強い制動が実行されるべき制動状況が再現されている。
【0006】
下方の調整境界12および上方の調整境界13が、曲線11の周りに示されている。これらの2つの境界12、13は、実際に測定された減速で、曲線11に従った、要求されている減速に可能な限り近づくために、従来技術のブレーキ調整装置が要求されている減速を修正することができる調整範囲を示している。示されている状況は、たとえばここでは比例調整器として構築されている、調整ループの調整ユニットの調整動作に起因する。
図4に矢印で示されている正の最大調整ストローク15もしくは負の最大調整ストローク14は、調整境界12、13に対応する。従来技術では、上述の比例調整器の場合、要求されている減速値に対する正の最大調整ストローク15および負の最大調整ストローク14は同じ高さであり、目下要求されている減速値の特定の設定されているパーセンテージに対応する。
【0007】
しかし、実際には、特に湿気、雪または氷等の冒頭で挙げた環境条件では、摩擦パートナ間で、上述の調整ループでは十分に補償することができない影響が発生する。たとえば、上述の環境影響は、制動要求が比較的高い場合よりも、制動要求が比較的低い場合に、より大きな影響を及ぼす。その理由の1つは、たとえば、比較的強い制動の間には、摩擦パートナの加熱(エネルギー入力)によって水分が蒸発し、悪影響が制動中に減少することである(「ドライブレーキング」の作用)。
【0008】
本発明の課題は、特に湿気、雪または氷によって、ブレーキシステムの摩擦パートナ間の摩擦特性が変化しても最適な制動結果をもたらすブレーキ調整装置、ブレーキシステムおよびブレーキシステムの動作方法を提供することである。
【0009】
上述の課題は、独立請求項の各特徴を備えるブレーキ調整装置、ブレーキシステムもしくはブレーキシステムの動作方法によって解決される。有利な構成および発展形態は従属請求項に記載されている。
【0010】
冒頭に述べた様式の本発明のブレーキ調整装置は、調整ユニットとは無関係に、制限デバイスが設けられているということを特徴とする。この制限デバイスは、減速操作変数値が減速目標値から、最大で、より小さい値への負の最大調整ストロークの大きさの偏差をするように、または最大で、より大きい値への正の最大調整ストロークの大きさの偏差をするように減速操作変数値を制限する。
【0011】
本発明の制限装置は、調整ユニットの選択された調整動作とは無関係に、正の最大調整ストロークもしくは負の最大調整ストロークをコントロールすることを可能にする。このようにして、最適な調整パラメータを選択することができるのと同時に、過度に大きい調整ストロークが生じないことを保証することができる。このようにして、特に湿気および/または雪等の困難な条件下で、最適な制動結果を得ることができる。
【0012】
比例調整器を備える制動調整ループが使用される場合、従来技術でも原則的に、最大調整ストロークが制限される調整特性が生じる。しかし、このような動作は、純粋な比例調整器の使用に限定されており、不十分な調整動作しか示さない。さらに、このように設定された調整ストロークの固有の制限は、正および負の両方向における最大ストロークが減速目標値に比例するため、柔軟性がない。しかし、このような動作は、まさに湿気および/または雪の際に、最適な制動結果をもたらさない。したがって、ブレーキ調整装置の有利な構成では、2つの最大調整ストロークのうちの少なくとも1つが、減速目標値に比例せずに選択される。
【0013】
ブレーキ調整装置のさらに有利な構成では、負の最大調整ストロークと正の最大調整ストロークとの総計は所定の固定値である。ここで負の最大調整ストロークは、正の最大調整ストロークとは異なるように選択されていてよい。このようにして、特に、比較的小さい減速目標値、すなわち比較的低い制動要求の場合に、比較的高い制動力が実現され、これは比較的高いエネルギ入力をもたらし、これによって、湿気による制動作用の低下が補償可能であり、ブレーキシステムが調節可能である。
【0014】
ブレーキ調整装置の別の有利な構成では、正の最大調整ストロークおよび/または負の最大調整ストロークは、特に所定の制動時間後に低下するように、時間に関連している。このようにして、ブレーキへの最大エネルギ入力を制限することができ、たとえば、ブレーキの「ドライブレーキング」の影響を考慮することができる。ここで、減速目標値が所定の境界値を下回っている場合にのみ、正の最大調整ストロークが時間に関連するようにされることが設定されていてよい。同様に、減速目標値が別の所定の境界値を上回っている場合にのみ、負の最大調整ストロークが時間に関連するようにされることが設定されていてよい。
【0015】
ブレーキ調整装置の別の有利な構成では、2つの最大調整ストロークのうちの少なくとも1つは、減速目標値および/または制動時間に関連する特性曲線または特性曲線場によって設定されている。さらに、2つの最大調整ストロークのうちの少なくとも1つは、外部の影響変数に関連していてよい。外部の影響変数は、温度または湿度等の(測定されたまたは他の様式で求められた)周辺条件であってよい、または鉄道車両の走行条件、特に走行速度、制動圧力、制動力および/または滑走防止システムの作動であってもよい。
【0016】
ブレーキ調整装置の別の有利な構成では、制限デバイスは調整ユニットと結合されており、これによって制限に関連して、調整ユニットのパラメータに影響を及ぼすことができる。このようにして、制限デバイスの応答の際に、調整ループのより高い安定性を得ることができる。調整ユニットが、たとえば積分調整部分を有している場合、減速実際値と減速目標値との間の差の積分値は上昇(または下降)し続け、他方で、制限デバイスは、出力される減速操作変数値を既に制限している。減速操作変数値が制限されない、変更された制動状況が続く場合には、積分調整部分によって、過度に大きい(または過度に小さい)操作変数値が出力されるだろう。
【0017】
鉄道車両用の本発明のブレーキシステムは、そのようなブレーキ調整装置を特徴とする。このブレーキ調整装置に関連して説明した利点が得られる。
【0018】
本発明の、鉄道車両のブレーキシステムの動作方法では、減速実際値と減速目標値との間の偏差を最小化するために、減速操作変数値が減速目標値および減速実際値に関連して調整ユニットによって設定される。この方法は、減速操作変数値が減速目標値から、最大で、より小さい値への負の最大調整ストロークの大きさの偏差が可能であるように、または最大で、より大きい値への正の最大調整ストロークの大きさの偏差が可能であるように減速操作変数値を制限することを特徴とする。ここで有利には、2つの最大調整ストロークのうちの少なくとも1つは、減速目標値に比例しない。さらに有利には、2つの最大調整ストロークのうちの少なくとも1つは、減速目標値および/または制動時間および/または周辺条件および/または走行条件に関連して決定される。
【0019】
本発明を以降で、図を用いて、実施例に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ブレーキシステムの調整対象システムのブロック図である。
【
図2】本出願のブレーキシステムの調整対象システムの動作を説明する図である。
【
図3】本出願のブレーキシステムの調整対象システムの動作を説明する図である。
【
図4】本出願のブレーキシステムの調整対象システムの動作を説明する図である。
【
図5】従来技術のブレーキシステムの動作を説明する図である。
【0021】
図1には、本出願のブレーキシステムの調整対象システム1がブロック図の形で示されている。調整対象システム1は、ブレーキ調整装置2を含んでおり、ブレーキ調整装置2には、入力側21を介して減速目標値a
setが設定される。減速目標値a
setは、たとえば、上位のブレーキ制御システムによって、鉄道車両の状態から設定される。ブレーキ調整装置2は、実際に測定された減速実際値a
trainが供給される第2の入力側22を有している。測定された減速実際値a
trainは、たとえば、加速度センサおよび/またはGPS(全地球測位システム)を介して提供され得る。
【0022】
ブレーキ調整装置2はさらに、修正された減速値が減速操作変数a
outとして出力される出力側23を有している。ブレーキ調整装置2の正確な機能を以降で、
図2および
図3に関連してより詳細に説明する。
【0023】
ブレーキ調整装置2によって出力された減速操作変数aoutは、操作変数変換器3の入力側31に供給される。操作変数変換器3は、減速操作変数aoutから、出力側32に出力される制動力Fを求める。制動力Fは、ブレーキシステムの他のコンポーネントのための操作変数である。これは、ブレーキシステムの制動によって、累積して達成されるべき力を示しており、とりわけ鉄道車両の質量を考慮して、減速操作変数aoutから求められる。制動力Fに対する値は、入力側41を介して分配器4に伝達され、分配器4は、制動力を、鉄道車両の異なる軸および/または異なるブレーキおよび/または異なるタイプのブレーキに分配し、鉄道車両の異なる軸に対して、対応する出力側、ここではたとえば2つの出力側42、43に軸制動力Faxle 1およびFaxle nを出力する。
【0024】
本出願のブレーキ調整装置2がなければ、設定され、得られるべき減速asetは、操作変数変換器3の入力側31に直接的に導かれるだろう。これは、鉄道車両の質量を考慮して、制御されて、制動力Fを出力するだろう。図示の場合には、設定された、得られるべき減速asetの代わりに、減速操作変数aoutの修正された値が操作変数変換器3に供給されることによって、制動力Fが修正される。操作変数変換器3は相応に、制動力Fに対する修正された値を出力する。本出願のブレーキシステムの択一的な構成では、制動力Fに基づいて調整が行われてもよく、ここでは制動力Fが、減速の代わりに、対応するブレーキ調整装置によって修正される。しかし、提示されたシステムは、調整が減速目標値に作用する場合に、車両質量を考慮した換算が一度だけ実行されればよく、事前制御された部分と調整部分とに対して別個に実行されなくてよいという点で有利である。
【0025】
冒頭で説明した
図5と同じように、
図2は、第1の実施例における本出願のブレーキシステムの調整対象システムの特性を示している。曲線11では、
図4におけるのと同じ制動状況が再現されており、ここでは要求された減速a
setが値0から2段階で上昇するように設定されている。ここにも、下方の調整境界12および上方の調整境界13ならびにそれに対応する各負の最大調整ストローク14および正の最大調整ストローク15が示されている。
【0026】
減速に対する、比較的高い目標値設定a
setが設定されている場合に、正の最大調整ストローク15と負の最大調整ストローク14とが同じ大きさである、従来技術から知られている動作が生じる。
図2の右側に示されている、要求可能な最大減速値については、調整ストローク14、15が、従来技術のブレーキシステムの場合と同様に、同じ大きさになるように選択されていてもよい。
【0027】
しかし、設定された減速目標値a
setが比較的小さい場合(図の左側)、上方の調整境界12と下方の調整境界13との間の間隔は、図の右側にある、要求された減速a
setの最大値の場合と同じ大きさである。したがって、調整範囲の幅は目標値設定に関連しておらず、すなわち、設定範囲全体にわたって一定である。しかし、
図2も示しているように、正の最大調整ストローク15と負の最大調整ストローク14とへの調整範囲の分配は、設定値が比較的小さい場合には、正の最大調整ストローク15がより大きくなるように行われる。したがって調整範囲は、目標値設定が比較的小さい場合には、曲線11を中心にして位置していない。このような調整動作は、まさに、制動過程が小さい減速値で始まるときに、水分が負の影響を与えるという事実を考慮に入れている。これは、より大きい正の最大調整ストローク15によって補償可能である。
【0028】
調整ユニットと制限デバイスとが本出願に相応に分離されていることによって、調整のタイプ(たとえば比例調整および/または微分調整および/または積分調整等)および使用される調整パラメータを、調整境界、すなわち正の最大調整ストローク15もしくは負の最大調整ストローク14とは完全に無関係に選択することができる。
【0029】
図3は、本出願のブレーキシステムの調整対象システムの動作のさらなる実施例を示している。記載および制動状況は、同様に
図2もしくは
図5のそれに対応している。
【0030】
この例では、調整境界は、比較的低い制動要求の(a
setが小さい)場合には、
図2の例のように、絶対的かつ非対称に保たれる。しかしこれは限られた時間だけ起こり、ここでは、ある特定の固定的に規定された時間の後に、もしくは動的に制動過程の間に計算された時間の後にも、
図2に示された調整境界12、13から、遷移領域において、
図4に示された調整境界12、13への変化が生じる。特に、初めは比較的大きい正の最大調整ストローク15が、負の最大調整ストロークの比較的小さい値に戻る。これによって、最初は、湿気または同等の環境影響を排除するために有利な制動動作が可能になるが、その後、制動が比較的長く持続する場合には、エネルギ入力の制限が保証される。そうでなければこれは、過度の制動時に生じるだろう。
【0031】
正の最大調整ストローク15のそのような時間に関連した動作は、負の最大調整ストローク14のでも実行されてよい。これは、
図4の例に示されており、ここでは、両方の調整ストローク14、15が時間関連性を有している。
図4にも示されているように、時間関連性自体はここで、2つの調整ストローク14、15に対して異なっていてよい。時間関連性の形式も、例としてここに示されている線形の時間関連性とは異なっていてよい。
【0032】
ここで
図2~
図4は、設定された減速目標値に厳格には関連しておらず、設定された減速目標値に対して異なった機能関係にある、かつ/または時間に関連している調整境界もしくは調整ストロークの実施例を示しているだけである。
【0033】
設定された減速目標値に対して任意の機能関係を使用できることが自明である。機能関係はここで有利には、制動作用が不十分な場合に、あらゆる所望の減速において、摩擦パートナのできるだけ良好な調節作用、たとえば、存在している水分の乾燥が実現されるように最適化されている。
【0034】
機能関係もしくは機能関係から生じる特性曲線を、付加的に、他の影響変数、たとえば温度および/または湿度等の周辺条件および/または走行速度、車輪回転数、制動圧力もしくは制動力および/または滑走防止システムの作動等の走行条件に関連させることもできる。同様に、
図3および
図4に示されているように、たとえば、最大エネルギ入力を制限するために、時間的な機能関連性を導入することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 調整対象システム
11 要求曲線
12,13 調整境界
14 負の最大調整ストローク
15 正の最大調整ストローク
2 ブレーキ調整装置
21,22 入力側
23 出力側
3 操作変数変換器
31 入力側
32 出力側
4 分配器
41 入力側
42,43 出力側
aset 減速目標値
atrain 減速実際値
aout 減速操作変数
F 制動力
Faxle 1 軸制動力
Faxle n 軸制動力