(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】角栓形成予防・改善剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20230417BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2022005392
(22)【出願日】2022-01-18
(62)【分割の表示】P 2020061444の分割
【原出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】安倉(恒原) 由佳
(72)【発明者】
【氏名】森田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】齊藤(奥田) 奈緒美
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-181423(JP,A)
【文献】特開2015-197337(JP,A)
【文献】特開2015-168628(JP,A)
【文献】飯田年以 ほか,角栓の成長を抑えるケア法の開発,FRAGRANCE JOURNAL,2017年02月,Vol.45, No.2,pp.22-27
【文献】山口弘毅,毛穴の目立ちに関与する角栓の形成と毛包との関連性,FRAGRANCE JOURNAL,2014年,Vol.42, No.7,pp.85-86
【文献】栃尾巧,カンラン葉抽出物の角栓形成抑制効果について,FRAGRANCE JOURNAL,2008年08月15日,Vol.36, No.8,pp.28-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質に、被験物質を添加する工程、
前記タンパク質のニトロ化タンパク質の量を測定する工程、
前記タンパク質のニトロ化タンパク質の量から、被験物質の角栓予防・改善効果を判定する工程を含む、
ニトロ化タンパク質量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は角栓予防・改善効果を有する被験物質のスクリーニング方法および角栓予防・改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
角栓とは、主に小鼻の側面部などに形成される、白色ロウ状の塊のことであり、毛穴の目立ちの原因の一つと考えられている。特に20~30代の若年層のヒトにおける肌悩みとして、角栓形成や毛穴開きといった毛穴に関する悩みが上位を占めている。角栓は、タンパク質と脂質から構成され、その比率は7:3との報告があり、タンパク質が大半を占めている(非特許文献1)。角栓中に含まれるタンパク質としては、角層及び毛包由来のタンパク質や、アクネ菌及び黄色ブドウ球菌由来のタンパク質やリソソーム等の細胞内小器官由来のタンパク質等が挙げられ、角栓は多種多様なタンパク質から構成されている。
【0003】
上記のように、角栓を構成する成分についてはいくつかの研究が報告されているものの、角栓発生のメカニズムについては不明な点が多い。角栓は、周囲の角質や皮脂腺から分泌された皮脂やタンパク質が、毛孔内で凝固、発達したもの(特許文献1、非特許文献2)などと説明されることがあるが、これらは散らばっていた構成成分が集まって固まっているという状態を描写しているに過ぎず、どのような経緯や機構で形成されたのか、その詳細は知られていない。
【0004】
角栓に関する悩みを解決する方法として、粘着性を有するシートを角栓に付着させ、これを引きはがす方法(特許文献2)や、界面活性剤で角栓を溶解除去する方法などがこれまでに発明されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、これらの手法はいずれも、「取り除く」という対症手段であり、一時的に角栓を減少させることはできても、角栓が形成される、という悩みの根本的な解決には繋がらない。よって、既に形成された角栓の除去に加え、角栓形成そのものを予防することができる、根本的な解決策が望まれる。
【0006】
特許文献4では、角栓にはケラチン17というタンパク質が多く含まれていることを明らかにし、培養表皮ケラチノサイトのケラチン17量を低減する効果のある被験物質を選別して、角栓形成抑制効果を有する素材をスクリーニングすることが可能になることが開示されている。しかし、特許文献4は、皮表落屑物である角層由来のタンパク質であるケラチン10ではなく、角栓にはケラチン17が多く存在していることに着目した研究であり、角栓中にはケラチン17以外にも数種のタンパク質が多く含まれることから、ケラチン17量を低減する効果のみでは、角栓形成を予防・改善するには不十分である。
【0007】
特許文献1では、角栓内部にタンパク質分解酵素であるカテプシンVが局在していることを明らかにし、カテプシンVの活性促進により、角栓が分解され、毛穴目立ちが改善することが開示されている。しかし、角栓中に局在する酵素の活性促進によって角栓を分解することに着目していることから、そもそも角栓を形成させないとの着想によるものではなく、角栓の発生を予防することは難しい。加えて、特許文献1は、カテプシンV量と角栓中の細胞接着因子であるコルネオデスモシン量が逆相関の関係にあったことを示し、カテプシンVが角栓分解酵素であるとして、その活性化が本来自然の状態で存在する細胞間接着の分解を促進することで角栓の分解を促進する手段になりうるとするものであり、角栓の形成について、角栓を構成するタンパク質の複合体形成が関与する可能性については全く想定されていない。
【0008】
以上より、角栓が形成されるメカニズムの詳細は全く未知であり、角栓が形成される、という悩みを解決する方法は、存在しなかった。角栓が形成される、という悩みを根本的に解決するには、毛穴内に角栓がない状態から、角栓が形成されるまでの過程を阻害する必要がある。
【0009】
一方でタンパク質のニトロ化は、生体内で発生した活性窒素種によって生じるタンパク質翻訳後修飾のひとつであり、タンパク質中の、芳香族アミノ酸の一種であるチロシン残基、トリプトファン残基中のベンゼン環にニトロ基が付与されたものである。生体内に存在する多くのタンパク質中のトリプトファン残基の含有率はチロシン残基のそれよりもはるかに小さく、タンパク質のニトロ化反応は主にチロシン残基に生じると考えられている(非特許文献3)。チロシンのニトロ化は、ペルオキシナイトライト、二酸化窒素、塩化ニトリルによるチロシン残基の芳香環への攻撃で、タンパク質のチロシン残基に対してニトロ基による共有結合修飾がなされることで生じる(非特許文献4)。
【0010】
タンパク質中のニトロチロシンは加齢に伴い、数々の疾患(動脈硬化や脳虚血疾患など)で蓄積することが知られており、これらの疾患に関与することが報告されている(非特許文献5)。また、肌においては、加齢に伴ってニトロチロシンが蓄積し、黄ぐすみと関連することが報告されている(特許文献5)。一方、タンパク質のニトロ化について、若年層のヒトの悩みである角栓形成との関与は全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-128560号公報
【文献】特開平11-12127号公報
【文献】特開2015-113307号公報
【文献】特開2015-197337号公報
【文献】特開2017-181423号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】日本化粧品技術者会誌 41 巻 (2007) 4 号:262-268
【文献】粧技誌第51巻第1号2017
【文献】Front Chem.2016 Jan7;3:70
【文献】岡山医学会雑誌 第118巻 January2007,pp.225-234
【文献】Science. 2000 Nov 3;290(5493):985-9.
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、上記背景に鑑み、角栓形成に関する研究を進めたところ、角栓が多いヒト程、角栓好発部位では、インターフェロンγが多いことを発見し、また、インターフェロンγが、ケラチノサイトを刺激して一酸化窒素産生を促進することを実証した。さらに、角栓中にはニトロ化タンパク質が存在すること、タンパク質がニトロ化されると複合体を形成することを発見した。そして角栓は、S-S結合、イオン結合、疎水結合のいずれか一種類以上を含む、タンパク質の複合体を含有することを見出した。このタンパク質の複合体形成こそが、毛包内に存在するタンパク質が集まって固まり、毛包内に充満して、毛孔からの自然な脱落や洗浄による除去を困難にする、角栓の形成要因として提示される。
これらの結果から、角栓好発部位では、インターフェロンγにより活性窒素種の一種でニトロ化の原因物質の一つである一酸化窒素の産生が促進されるため、これがタンパク質のニトロ化を引き起こしS-S結合や、イオン結合、疎水結合等が生じて複合体を形成、これが角栓形成につながる、という関係を突き止めた。この事実に基づき、一酸化窒素生成量、ニトロ化タンパク質量、タンパク質の複合体量を指標とすることで、角栓予防・改善剤のスクリーニングを行えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
角栓形成メカニズムを明らかにして角栓が形成されるまでの過程を阻害し、角栓形成そのものを予防することで、角栓が形成される、という悩みを根本的に解決する角栓予防・改善剤をスクリーニングする方法を提供すること、上記スクリーニング方法で得られた角栓予防・改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
培養ケラチノサイトの一酸化窒素生成量、ニトロ化タンパク質量、タンパク質の複合体量を指標とすることで、角栓予防・改善剤のスクリーニング方法を提供できた。また、角栓予防・改善剤として、碁石茶(登録商標)抽出物を提供できた。すなわち、
〔1〕第1発明は、培養ケラチノサイトの一酸化窒素生成量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法である。
〔2〕第2発明は、ニトロ化タンパク質量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法である。
〔3〕第3発明は、タンパク質の複合体量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法である。
〔4〕第4発明は、ニトロ化処理によって生じるタンパク質の複合体量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法である。
〔5〕第5発明は、タンパク質の複合体が、S-S結合、イオン結合、疎水結合の少なくとも一種類以上を有する第3発明または第4発明に記載のスクリーニング方法である。
〔6〕第6発明は、第3発明または第4発明の方法により選別した碁石茶(登録商標)抽出物を含有することを特徴とする角栓予防・改善剤である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、角栓が形成されるまでの過程の阻害により角栓予防・改善効果を有する被験物質をスクリーニングすることで、角栓が形成する問題を解決することができる。加えて短時間、簡便かつ安価なスクリーニングで、効果に優れた角栓予防・改善剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】角栓数とインターフェロンγ量の関係を示す。
【
図3】培養ケラチノサイトにおいて、インターフェロンγを添加した際の亜硝酸イオン産生量を示す。NO2-は、亜硝酸イオンを指し、一酸化窒素量の指標である。NOは一酸化窒素を指す。
【
図4】角栓中にはニトロ化タンパク質が含まれることを示す。
【
図5】ニトロ化処理によってタンパク質が複合体を形成することを示す。
【
図6】角栓中に含まれるタンパク質は複合体を形成していることを示す。
【
図7】ニトロ化によるタンパク質の複合体形成抑制効果を有する被験物質のスクリーニング結果を示す。
【
図8】ニトロ化によるタンパク質の複合体形成抑制効果を有した碁石茶(登録商標)抽出物を配合する化粧水を、20日間連用した結果、角栓増加数が減少したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は角栓予防・改善効果を有する被験物質のスクリーニング方法および角栓予防・改善剤に関する。
【0019】
本発明の角栓予防・改善は、角栓予防および改善のどちらか一方、あるいは両方を含む。
本発明の角栓予防とは、角栓がない状態から、角栓が形成されるまでの過程を抑制することで角栓の発生を予防することを意味する。また、本発明の角栓予防には、角栓がある状態から、角栓の増加を抑制することも含む。
また、すでに角栓がある状態であっても、角栓の形成を継続的に予防することにより、毛孔からの自然な脱落や洗浄による除去に伴い角栓が漸減するため、角栓が多い肌から、角栓が少ない肌に導く、すなわち、角栓改善にもつながる。さらに、本発明の角栓改善は、すでに形成されていた角栓について、角栓が形成されるに至った要因を取り去ることで、角栓の構成要素を離散させ毛孔からの自然な脱落や洗浄による除去を容易にし、角栓が多い肌から、角栓が少ない肌に導くことも含む。
例えば、角栓がない状態から、角栓が形成されるまでの過程において、ニトロ化タンパク質発生の要因である一酸化窒素を減らすこと、ニトロ化タンパク質の生成を抑制すること、既存のニトロ化タンパク質を減らすこと、タンパク質の複合体形成を抑制することは、角栓の形成を抑制するため、本発明の角栓予防である。また、同角栓予防を継続的に行うことで角栓が多い肌から、角栓が少ない肌に導くため、本発明における角栓改善にもつながる。さらに、角栓が形成された以降において、ニトロ化タンパク質を減らす方法、複合体を減らす方法は、すでに形成されていた角栓を減少させることで、本発明の角栓改善に相当する。
【0020】
本発明の培養ケラチノサイトの一酸化窒素生成量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、培養ケラチノサイトを被験物質の存在下あるいは非存在下で培養し、被験物質の存在下における一酸化窒素生成量が被験物質非存在下の一酸化窒素生成量に比べて少ない被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択する。
【0021】
本発明の培養ケラチノサイトの一酸化窒素生成量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法は、
培養ケラチノサイトに被験物質を添加する工程、
一酸化窒素生成量を測定する工程、
一酸化窒素生成量から、被験物質の角栓予防・改善効果を判定する工程を含む。
【0022】
本発明の培養ケラチノサイトの一酸化窒素生成量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、さらに、培養ケラチノサイトの一酸化窒素生成量をあげるために、培養ケラチノサイトにインターフェロンγを添加する工程を含んでもよい。インターフェロンγを添加する工程は、ケラチノサイトを播種後、被験物質を添加する工程と同時でもよいし、被験物質を添加する前後でもよい。ここでいうインターフェロンγとは、サイトカインの一種である分子を指す。
【0023】
本発明で用いる培養ケラチノサイトは、表皮の約95%を構成する細胞種であるケラチノサイトの培養物であって、一酸化窒素を生成する、あるいは適用されたインターフェロンγに応答して一酸化窒素を生成する性質を有するケラチノサイトであれば、由来や状態等は問わない。培養ケラチノサイトとして、正常表皮から分離・培養された正常ケラチノサイトの他、株化されたケラチノサイトも用いることができる。培養ケラチノサイトは、好ましくはヒト由来であり、正常ケラチノサイトとしては、市販品であるEpidercell Human Epidermal Keratinocyte(クラボウ社)や、HEK(東洋紡社)など、株化されたケラチノサイトとしてはHaCaTなどが使用できる。培養に用いる培地は、文献や販売者によってそれぞれの細胞種に対して推奨されている培地を使用して差し支えない。培養ケラチノサイトは継代数が1~3までが増殖活性が高いため好ましいが、それ以降のものであっても増殖が見られ、定量できるレベルの一酸化窒素生成量を示す場合は使用できる。
【0024】
本発明の一酸化窒素生成量は、培養ケラチノサイトの細胞内あるいは培養上清中に含まれる一酸化窒素量を測定することによって求められる。一酸化窒素量の測定方法は、細胞内あるいは培養上清中に含まれる一酸化窒素量を把握することができれば特に限定されず、直接的に一酸化窒素量を測定する方法、一定の様式で一酸化窒素が変化して得られた生成物を定量し、間接的に一酸化窒素量を把握する方法のどちらでも使用することができる。直接的に一酸化窒素を定量する方法としては、例えば、5-methoxy-2-(1H-naphtho[2,3-d]imidazol-2-yl)phenol(MNIP)のCu(II)錯体が一酸化窒素と選択的に反応して青色の蛍光を発することを利用して一酸化窒素量を測定する方法が挙げられ、間接的に一酸化窒素量を把握する方法としては、一酸化窒素が培地中で加水分解を受けることで生じる最終生成物亜硝酸イオンと硝酸イオンのうち、硝酸イオンを亜硝酸イオンに還元して亜硝酸イオンを定量することで一酸化窒素量を把握する市販のキット、例えば、NO2/NO3 Assay Kit-FX(Fluorometric)~2,3-Diaminonaphthalene Kit~(DOJINDO社)を用いることができる。
【0025】
本発明の培養ケラチノサイトの一酸化窒素生成量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、被験物質の存在下における一酸化窒素生成量が被験物質非存在下の一酸化窒素生成量に比べて少ない被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択するが、例えば、被験物質非存在下での一酸化窒素生成量を100%としたとき、被験物質存在下での一酸化窒素生成量が10%以上、好ましくは20%以上減少している場合に、被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択する。より好ましくは、インターフェロンγを添加した状態で、被験物質非存在下での一酸化窒素生成量を100%としたとき、被験物質存在下での一酸化窒素生成量が10%以上、好ましくは20%以上減少している場合に、被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択する。
【0026】
本発明のニトロ化タンパク質量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法は、角栓好発部位において産生が促進されている一酸化窒素によるタンパク質のニトロ化が角栓形成の一過程であるとの発明者らの発見に基づく発明であり、被験物質のニトロ化タンパク質に対する作用を把握することが、被験物質の角栓予防・改善作用を評価することにつながるとの着想に基づく。本発明のニトロ化タンパク質量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、タンパク質に被験物質を適用し、被験物質の存在下におけるニトロ化タンパク質量が被験物質非存在下におけるニトロ化タンパク質量に比べて少ない被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択する。本発明において角栓予防・改善効果があるとして選択される被験物質は、ニトロ化タンパク質の新規生成を抑制するもの、または既存のニトロ化タンパク質を分解することでそれらの存在量を減少させるもののどちらか一方、あるいは両方でありうる。
【0027】
本発明のニトロ化タンパク質量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法は、
タンパク質に、被験物質を添加する工程、
ニトロ化タンパク質の量を測定する工程、
ニトロ化タンパク質の量から、被験物質の角栓予防・改善効果を判定する工程を含む。
【0028】
本発明のニトロ化タンパク質の量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、さらに、タンパク質をニトロ化処理する工程を含んでもよい。タンパク質をニトロ化処理する工程は、被験物質を添加する工程と同時でもよいし、被験物質の添加工程の前後でもよい。また、被験物質によるニトロ化の程度の変化が検出できるレベルにすでにニトロ化されたタンパク質を利用することで、それらをニトロ化処理する工程を省いてもよい。
【0029】
本発明でいうタンパク質は、タンパク質を構成しうる単体のペプチドやアミノ酸も含む概念で用い、一般概念としてのタンパク質を意味する場合は蛋白質と記載する。例えば、市販品であるケラチンやアルブミン、カゼイン、スキムミルク等の蛋白質試薬、ニトロ化が生じやすいとされる芳香族アミノ酸である、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニンやそれらの誘導体、またはそれらを含むペプチドの合成品等を用いることができる。また、テープストリッピングや研磨剤等により収集した角層や、シートパックやピンセット等により収集した角栓、ケラチノサイト等の培養細胞の細胞破砕物等であってもよい。
【0030】
本発明でいうニトロ化タンパク質は、ニトロ基を有するタンパク質を指す。例えば、ニトロチロシン、3,5-ジニトロチロシン、ニトロトリプトファン、ニトロフェニルアラニン、2,4-ジニトロフェニルアラニン等や、これらニトロ化アミノ酸を構成物中に含むペプチドまたは蛋白質が挙げられる。
【0031】
本発明のタンパク質は、被験物質やニトロ化処理によりニトロ化タンパク質含量に変化が生じるものであれば特に限定されない。例えば、被験物質による既存のニトロ化タンパク質の存在量の減少を測定の対象とする視点に立てば、既にニトロ化されたタンパク質であるニトロ化タンパク質を利用することが好ましく、また、被験物質によるニトロ化タンパク質の新規生成の抑制を測定の対象とする視点に立てば、ニトロ化が生じやすいとされる芳香族アミノ酸残基を有するタンパク質が好ましいが、ニトロ化タンパク質含量が試験可能なレベルに変化するのであれば、上記どちらの視点に立った場合でも、ニトロ化タンパク質とニトロ化処理によってニトロ化タンパク質となるタンパク質が混合していてもよい。
【0032】
タンパク質のニトロ化処理の方法としては、公知の手法を用いることができ、各スクリーニングに応じて、適宜選択すればよい。例えば、タンパク質にペルオキシナイトライト等の活性窒素種を作用させる方法の他、一酸化窒素とスーパーオキシドアニオンを混合する、またはミエロペルオキシダーゼ(MPO)とNaNO2、過酸化水素等と混合し、試験系中に活性窒素種を発生させてこれを作用させる方法などを用いることができる。また、ニトロニウムイオンを発生させるテトラニトロメタンや硝酸などの試薬等を用いてニトロ化してもよいし、塩化ニトロイルやニトロソペルオキシカルボキシレート、またアジ化ナトリウムおよびカタラーゼ等の処理によりニトロ化してもよい。
【0033】
ニトロ化タンパク質量の測定は、公知の方法で行うことができる。例えば、特に限定されないが、吸光度法、免疫染色法、放射免疫測定(Radioimmunoassay)、ELISA、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析法、NMR法、ウェスタンブロッティング等を用いて測定することができる。ニトロ化タンパク質量については、直接的に測定してもよいし、例えば、ニトロ化タンパク質を酵素処理等にて分解し、得られたニトロ基の量やニトロ化ペプチド、あるいはニトロ化アミノ酸残基の量を測定してニトロ化タンパク質量としてもよい。さらに、本発明のスクリーニング方法において、タンパク質をニトロ化処理する工程を加えた場合には、反応後に系中に残存するニトロ化処理に用いたニトロ化試薬の存在量や、被験物質とニトロ化試薬が反応して生成した反応副産物の存在量を測定することで、間接的にニトロ化物量を推定することもできる。例えば、被験物質非存在下よりも被験物質存在下において、系中にニトロ化試薬の存在量が多い場合、被験物質存在下における未反応のニトロ化試薬が多く、反応生成物であるニトロ化タンパク質の存在量が少ないことが推定できる。また、被験物質存在下、被験物質とニトロ化試薬が反応することにより生成する反応副産物が生じ、これが定量可能な場合、この反応副産物の存在量を測定することでニトロ化物量の存在量を推定することができる。例えば、被験物質非存在下よりも被験物質存在下において、系中に反応副産物が多い場合、反応生成物であるニトロ化タンパク質の存在量が少ないことが推定できる。
【0034】
本発明のニトロ化タンパク質量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、被験物質の存在下におけるニトロ化タンパク質量が被験物質非存在下におけるニトロ化タンパク質量に比べて少ない被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択するが、例えば、被験物質非存在下のニトロ化タンパク質量を100%とし、被験物質存在下のニトロ化タンパク質量が10%以上少ない、好ましくは20%以上少ない場合に、被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択する。
【0035】
本発明のタンパク質の複合体量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法は、角栓中に見出されるニトロ化タンパク質によるタンパク質の複合体形成が角栓形成の一過程であるとの発明者らの発見に基づく発明であり、被験物質のタンパク質の複合体量に対する作用を把握することが、被験物質の角栓予防・改善作用を評価することにつながるとの着想に基づく。本発明のタンパク質の複合体量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、タンパク質に被験物質を適用し、被験物質の存在下におけるタンパク質の複合体量が被験物質非存在下におけるタンパク質の複合体量に比べて少ない被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択する。本発明において角栓予防・改善効果があるとして選択される被験物質は、タンパク質の複合体の新規生成を抑制するもの、または既存のタンパク質の複合体を分解することでそれらの存在量を減少させるもののどちらか一方、あるいは両方でありうる。
【0036】
本発明のタンパク質の複合体量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法は、
タンパク質に被験物質を添加する工程、
タンパク質の複合体量を測定する工程、
タンパク質の複合体量から、被験物質の角栓予防・改善防効果を判定する工程を含む。
【0037】
本発明のタンパク質の複合体量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、さらに、タンパク質の複合体を形成する工程を含んでもよい。タンパク質の複合体を形成する工程は、被験物質を添加する工程と同時でもよいし、被験物質の添加工程の前後でもよい。また、被験物質による複合体形成の程度の変化が検出できるレベルにすでに複合体が形成されたタンパク質を利用することで、それらの複合体を形成する工程を省いてもよい。複合体を形成する方法としては、ニトロ化処理を含む方法であれば特に限定されないが、糖化処理、カルボニル化処理、加熱処理、酸処理、紫外線照射処理等をさらに含んでもよい。
【0038】
本発明のタンパク質の複合体は、タンパク質が単純に集まった物質を指すのではなく、タンパク質分子内や分子間の化学結合によって形成されたタンパク質の複合体を指す。化学結合の具体例としては、S-S結合のような共有結合、イオン結合、疎水結合等の非共有結合によるものが挙げられる。S-S結合は、タンパク質のシステイン残基間に生じる共有結合であり、イオン結合はタンパク質の電荷間に生じる静電引力による非共有結合、疎水結合は水などの極性溶媒中においてタンパク質の非極性領域間に生じる引力による非共有結合である。本発明のタンパク質の複合体には、蛋白質やペプチド、アミノ酸が混在しうる。また、本発明のタンパク質の複合体は、単一または複数種のタンパク質からなるものを含む。
【0039】
本発明のタンパク質は、被験物質や複合体の形成による複合体含量の変化が生じるものであれば特に限定されない。具体的には〔0029〕〔0030〕で例示したものが使用できる。
【0040】
本発明のタンパク質の複合体量の測定方法は、特に限定されないが、例えば、タンパク質の分子サイズや分子量をゲル浸透クロマトグラフィーや、限外濾過フィルター、光散乱法、質量分析法、電気泳動等、で測定することで、複合体を形成する工程の有無、被験物質の有無の間での比較において、分子サイズや分子量が大きい分子を含む量が多いほど、複合体量が多いとして把握する。分子サイズや分子量の違いが相対的には把握できれば、比較の方法は特に限定されないが、タンパク質の分子サイズや分子量が単一の値を示さない場合、例えば、構成が同一であるタンパク質試料A、Bがある際、相対的に複合体の量が少ないタンパク質(試料A)の分子サイズあるいは分子量の最小値から最大値(分布域A)とこの間に含まれる分子の量(量A)をもとめ、相対的に複合体の量が多いタンパク質(試料B)の分子サイズあるいは分子量の最小値から最大値(分布域B)とこの間に含まれる分子の量(量B)をもとめて、分布域Bから分布域Aを除いた分布域(分布域BA)における試料Bの分子の量(量BA)と分布域Bにおける分子の量(量B)の比(量BA/量B)を複合体量として用いることができる。他にも例えば、分子サイズの分布の中央値や平均値をもとめて上記比較に用いてもよいし、中央値や平均値あるいは予備試験等に基づいてあらかじめ設定した値からの一定の標準偏差内に収まる分子の量を用いて、試料間の比を求めることで比較を行ってもよい。さらに、予備試験等に基づいてあらかじめ設定したポアサイズを有する限外濾過フィルターに一定量の試料溶液を適用し、フィルター通過画分に含まれるタンパク質を定量することで、複合体量の比較を行ってもよい。また、上記のように直接的に複合体量を把握する方法の他、非複合体量を把握することによって複合体量を算出し間接的に複合体量を把握する方法のどちらでも使用することができる。
【0041】
本発明のタンパク質の複合体量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング方法では、被験物質の存在下におけるタンパク質の複合体量が被験物質非存在下におけるタンパク質の複合体量に比べて少ない被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択するが、例えば、被験物質非存在下のタンパク質の複合体量を100%とし、被験物質存在下のタンパク質の複合体量が2%以上少ない、好ましくは5%以上少ない場合に、被験物質を角栓予防・改善効果があるとして選択する。
【0042】
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質は、特に制限はない。植物・動物由来エキス、菌類の培養物、又はこれらの酵素等処理物、化合物又はその誘導体等であっても被験物質として用いることが出来、液状の他、粉末状、ジェル状等であっても差し支えない。また、そのままではタンパク質溶液中に溶解しない場合は、界面活性剤等の可溶化剤を適宜使用することにより溶解させることで被験物質として用いることができる。本発明により、角栓予防・改善剤として選択された物質は、化粧品、医薬部外品または医薬品へと適用することができる。化粧品としては、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、美容液、軟膏、ファンデーションなどに適用可能であるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明で使用する碁石茶(登録商標)は、チャノキ(Camellia sinensis)の葉を収穫後、蒸して自然発酵を停止させ、その後、むしろの中で寝かす間に好気性カビ、桶に浸ける間に嫌気性バクテリアによって発酵を行う、二段発酵茶である。高知県で伝統的に製造されているので、市販品を使用することができる。
【0044】
碁石茶(登録商標)抽出物の調製は特に限定されないが、例えば種々の適当な有機溶媒を用いて、低温下から加温下で抽出される。抽出溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種または2種以上を用いることが出来る。就中、水、エチルアルコール、1,3-ブチレングリコールの1種または2種以上の混合溶媒が特に好適である。
【0045】
本発明に用いることのできる碁石茶(登録商標)抽出物の抽出方法は特に限定されないが、例えば乾燥したものであれば重量比で1~1000倍量、特に10~100倍量の溶媒を用い、常温抽出の場合には、0℃以上、特に20℃~40℃で1時間以上、特に3~7日間行うのが好ましい。また、60~100℃で1時間、加熱抽出してもよい。また、10℃以下の抽出溶媒が凍結しない程度の温度で、1時間以上、特に1~7日間抽出を行なってもよい。
【0046】
以上のような条件で得られる碁石茶(登録商標)抽出物は、抽出された溶液のまま用いてもよいが、さらに必要により、濾過等の処理をして、濃縮、粉末化したものを適宜使い分けて用いることが出来る。
【0047】
本発明の各剤における碁石茶(登録商標)抽出物の配合量は、蒸発乾燥分に換算して0.00001~20.0重量%が好ましく、特に0.001~10.0重量%の範囲が最適である。
【0048】
本発明の各剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他成分を併用することができる。
【0049】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
実験例1:角栓量と角栓好発部位のインターフェロンγ量の関連性
10名の健常男性から、角栓好発部位である小鼻周辺に、樹脂製の円筒(直径7 mm、筒長10 mm)を押し当て、円筒の内側の皮膚表面を、カルシウム、マグネシウムを含まないリン酸緩衝液(PBS(-))に0.1%ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(20E.O.)を添加した溶媒0.3mLにてピペッティングしながら洗い、その洗浄液を回収した。この洗浄液中に含まれるインターフェロンγ量を、High Sensitivity ELISA kit(Invitrogen)を用いて測定した。
【0051】
続いて、角栓数を測定した。角栓に含まれる物質が、紫外線照射下で白色に光る特性を利用した。具体的には、肌測定機器VISIA(登録商標)Evolution(Canfield Scientific)を用いて紫外線照射下、全顔の写真を撮影した。その後、ViX(K_OKADA)を用いて小鼻部の一定面積の画像を切り出し、画像解析ソフトImageJ(NIH)で白色に光っている角栓部分を抽出し、一定面積あたりの角栓数の計測を行った。
【0052】
図2は、角栓数とインターフェロンγ量を示した図である。インターフェロンγ量が多い群では、角栓量が多いことが示された。本実験によって、角栓好発部位である小鼻周辺では、角栓が多いヒト程、インターフェロンγが多いことが推測された。
【0053】
実験例2:ケラチノサイトにインターフェロンγを添加したときの一酸化窒素量の測定
試験には、ヒト新生児由来表皮ケラチノサイト(クラボウ)を用いた。増殖用培地として、Humedia-KG2(クラボウ)を用い、培養環境は、37℃、5%CO2/95%空気加湿条件で行った。25cm2培養フラスコに増殖用培地を入れ、3~4日間培養してほぼ飽和状態となった継代回数2回の細胞を用いた。48穴培養プレートに1.0×105 Cells/mLとなるように300μL播種し、24時間インキュベート後、1.2mMのカルシウムを含み、フェノールレッドを添加していないHumedia KG2 GC別添(クラボウ)で培地交換した。その後、インターフェロンγを1000U/mLとなるように加えた。コントロールには水を加えた。30時間インキュベート後、培養上清を回収し、NO2/NO3 Assay Kit-FX(Fluorometric)~2,3-diaminophthalene Kit~(DOJINDO)で一酸化窒素量を測定した。
【0054】
図3は、ケラチノサイトにインターフェロンγを添加した際の亜硝酸イオン量を示す。亜硝酸イオン量は、一酸化窒素量の指標であり、インターフェロンγの添加区で、ケラチノサイト培養上清中の亜硝酸イオン量が多いことが示された。本実験により、インターフェロンγが、ケラチノサイトを刺激して一酸化窒素産生を促進することを実証した。
【0055】
実験例3:角栓のニトロチロシン抗体による免疫染色
角栓をO.C.Tコンパウンド(サクラファインテックジャパン)に包埋して凍結し、クリオスタットで8 μmの切片を作製し、スライドガラスに付着させ、100%エタノールに浸漬して固定した。その後、0.3%過酸化水素加メタノールに30分処理した。続いて、Vectastain ABC kit(Vector社)を用いて免疫染色を行った。一次抗体は、anti-nitro tyrosine antibody (Stressmarq Bioscience)を用い、3,3‘ -Diaminobenzidine (DAB; VECTOR LABORATORIES)で可視化した。その後、染色した切片を顕微鏡で観察した。
【0056】
図4は角栓の、ニトロチロシン抗体による免疫染色の結果を示す。ニトロチロシン抗体を用いた免疫染色は、ニトロチロシンおよびタンパク質中のニトロチロシン残基を認識して検出し、認識対象が存在する部分が茶色に染色される。
図4より、角栓の切片中に茶色に染色される部分が含まれることが分かった。本実験によって、角栓中には、ニトロチロシンおよび/またはニトロチロシンをアミノ酸残基として含むニトロ化タンパク質が含まれることが分かった。
【0057】
実験例4:ニトロ化処理によるタンパク質複合体形成検討
限外濾過フィルターを用いた手法でタンパク質のニトロ化と、複合体形成との関係を検討した。1.5mL容マイクロチューブに10mg/mL牛血清アルブミン水溶液500μL、蒸留水を50μL添加して混合した。続いて、1%テトラニトロメタン加エタノールを50μL添加し、10分間振盪混和した。その後、5M 尿素水溶液を400μL添加して混合した。これを、ニトロ化処理溶液とした。コントロールには、1%テトラニトロメタン加エタノールの代わりに、エタノールを50μL添加し、同様の工程を経た。これらのサンプルを、限外濾過フィルター(Amicon Ultra 100 kDa、メルク) に入れて、14000×gで30分遠心分離した。濃縮液のタンパク質量をBradford法で測定しタンパク質の複合体含量を求めた。また、フロースルー液のタンパク質量をBradford法で測定しタンパク質の非複合体量を求めた。また、フロースルー液のタンパク質量から濃縮液中のタンパク質量を算出し複合体量を求めた。これを用いて処理の有無における複合体量比(%)、非複合体量比(%)を評価した。
【0058】
複合体量比(%)は以下の式で求めた。
【0059】
【0060】
非複合体量比(%)は以下の式で求めた。
【0061】
【0062】
ニトロ化処理によるタンパク質複合体形成検討の結果として、複合体量比(%)と、非複合体量比(%)を算出したが、
図5では、非複合体量比(%)を記す。ニトロ化処理すると、コントロールに比較して、非複合体量比が50%減少することが分かった。本実験により、タンパク質がニトロ化されると複合体を形成することが分かった。
【0063】
実験例5:角栓の状態検討
市販されているシートパックによる小鼻周辺部の角栓を採取し、ピンセットで注意深く回収してチューブに入れた。続いて、1%Sodium dodecyl sulfate,0.2mol/L Dithiothreitol,8mol/L Ureaを含む0.2mol/L Tris-HCl buffer(pH9.0)を、角栓の重量で20mg/mLとなるように添加した。その後、4日間37℃で振盪し、角栓を溶解させたものを角栓溶解液として得た。角栓溶解液は、タンパク質量が10mg/mLとなるように蒸留水で希釈し、分子量をSDS-PAGEとBlue native-PAGEを用いて評価した。
【0064】
SDS-PAGEとBlue native-PAGEを実施すると、タンパク質の分子量を評価することができる。SDS-PAGEは、タンパク質を変性させ、S-S結合をはじめ、イオン結合、疎水結合等を切断し、SDSの疎水部がタンパク質と結合して、タンパク質を一本鎖にして泳動するが、Blue native-PAGEは、タンパク質を未変性の状態で泳動するため、S-S結合、イオン結合、疎水結合を保った状態の分子量を確認することができる。Blue native-PAGEで確認できるタンパク質の分子量の方が、SDS-PAGEで確認できるタンパク質の分子量より大きい場合、そのタンパク質はS-S結合、イオン結合、疎水結合による複合体を形成していると言える。
【0065】
図6は、角栓中に含まれるタンパク質の複合体形成状態を示す。Blue native-PAGEでは、146kDaと242kDaの間、及び242kDaと480kDaの間にバンドが見られ、SDS-PAGEでは50kDa付近にバンドが生じた。よって、角栓中に含まれるタンパク質は、S-S結合、イオン結合、疎水結合等によって複合体を形成している状態であると言える。
【0066】
実施例1:タンパク質の複合体を指標としたスクリーニング方法
被験物質は、碁石茶(登録商標)抽出物とアボカードオイル(株式会社シバハシケミファ)を使用した。碁石茶(登録商標)抽出物は、乾燥植物原体に10倍の重量の50V/V%エタノール水溶液を加えて60℃、4時間加熱抽出し、抽出物の乾燥残分に対して、1,3-ブチレングリコール、水を重量比で1:30:69となるように加えて希釈して調製した。
【0067】
牛血清アルブミン水溶液500μLに、モノラウリンサンポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)を6%含む蒸留水もしくは被験物質を50μL添加して混合した。続いて、1%テトラニトロメタンエタノール溶液50μL添加し、10分間振盪混和した。その後、5M 尿素水溶液を400μL添加して混合した。これを、ニトロ化処理溶液とした。コントロールには、1%テトラニトロメタンエタノール溶液の代わりに、エタノールを50μL添加した。これらのサンプルを、アミコンウルトラ(Amicon Ultra) 100 kDaに入れて、14000×gで30分遠心した。フロースルー液のタンパク質量をBCA法で定量し濃縮液中のタンパク質量を求め、これを用いて複合体量比(%)を評価した。
複合体量比(%)は以下の式で求めた。
【0068】
【0069】
図7は、複合体形成抑制試験結果を示す。碁石茶(登録商標)抽出物においては複合体量が96%であり、碁石茶(登録商標)抽出物を添加した際の複合体量が、未添加時の非複合体の4%以上減ったため、碁石茶(登録商標)抽出物には二トロ化によるタンパク質複合体形成が抑制されている結果が確認できた。一方、アボカドオイルは、複合体量が100%以上となり、ニトロ化によるタンパク質複合体形成抑制効果はないことが分かった。
【0070】
本発明におけるタンパク質は、タンパク質を構成しうるペプチドやアミノ酸も含む概念であるが、実施例1に関して、ペプチドまたはアミノ酸と、それらの複合体を分離するのに適した分子量サイズの限外ろ過フィルターを選択すれば、タンパク質を構成しうるペプチドやアミノ酸を用いても、「タンパク質の複合体量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング」ができることは言うまでもない。
【0071】
実施例2:ニトロ化タンパク質複合体形成抑制による角栓予防評価試験
処方例1と2の比較を目的として、3名の被験者に、市販されているシートタイプのパックによる小鼻周辺部の角栓除去を行い、その後1日2回、洗顔後に左右の小鼻で処方例1もしくは比較例1に示した製剤を塗布してもらった。角栓数の測定は、試験開始時の角栓除去後および、20日間の処方例1(テスト区)、比較例1(プラセボ区)塗布後に行った。
【0072】
角栓増加数は「式」に示す計算式で算出した。
【0073】
【0074】
【0075】
図8は、碁石茶(登録商標)抽出物を含む化粧水の角栓予防効果を示した図である。本発明のスクリーニング法により選択された、ニトロ化タンパク質複合体形成抑制効果を持つ碁石茶(登録商標)抽出物を含む化粧水を用いた処方例1では角栓予防・改善効果が認められた。以上より、ニトロ化処理によるタンパク質の複合体を指標にすることにより、角栓予防・改善効果のある成分のスクリーニングを行うことが出来ることが分かる。
【0076】
実施例3:タンパク質のニトロ化量を指標にしたスクリーニング方法
牛血清アルブミン水溶液500μLに、被験物質を50μL添加し、振盪混和した。続いて、1%テトラニトロメタンエタノール溶液50μL添加し、10分間振盪混和した。その後、5M 尿素水溶液を400μL添加して混合した。これを、ニトロ化処理溶液とした。コントロールには、1%テトラニトロメタンエタノール溶液の代わりに、エタノールを50μL添加した。この溶液中の3-ニトロチロシン量をNWLSSTM Nitrotyrosine ELISA(NorthwestLifeScienceSpecialities) を用いて定量した。被験物質を添加しなかったコントロールのニトロチロシン量を100%とし、被験物質を添加した際のニトロチロシン量の割合からニトロ化量を算出した。コントロールと比較してニトロチロシン量が10%以上減少したものを効果有として選択した。
【0077】
実施例3では、ニトロ化タンパク質量の測定にニトロチロシン抗体のELISAを用いたが、ニトロチロシン以外のニトロ化タンパク質に含まれる物質、例えばニトロトリプトファン、ニトロフェニルアラニン等、に適した抗体を選択しても、「ニトロ化タンパク質量を指標とする角栓予防・改善剤のスクリーニング」ができることは言うまでもない。
【0078】
実施例4:一酸化窒素量を指標にしたスクリーニング方法
ヒト新生児由来表皮ケラチノサイト(クラボウ)を、1.0×105 Cells/mLとなるように、1.2mMのカルシウムを含み、フェノールレッドを添加していないHumedia KG2 GC別添培地(クラボウ)に懸濁し、48穴培養プレートに300μLを播種した。5%のCO2下、37℃のインキュベーター内で24時間培養した。その後、被験物質を添加した。コントロールには、被験物質の溶媒を添加した。その後、インターフェロンを1000U/mLとなるように加えた。30時間インキュベート後、培養上清を回収し、NO2/NO3 Assay Kit-FX(Fluorometric)~2,3-diaminophthalene Kit~(DOJINDO)で一酸化窒素量を測定した。被験物質を添加していないコントロール区の一酸化窒素量を100%とし、被験物質添加区の一酸化窒素量の割合を算出した。コントロールと比較して、一酸化窒素量が10%以上減少した被験物質を効果有として選択した。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、角栓が形成されるまでの過程の阻害により角栓予防・改善効果を有する被験物質をスクリーニングすることで、角栓が形成する問題を解決することができる。加えて短時間、簡便かつ安価なスクリーニングで、効果に優れた角栓予防・改善剤を提供できる。したがって、角栓の予防・改善用の化粧品や、治療用の医薬品の開発に有用である。