(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】コンクリート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230417BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20230417BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20230417BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20230417BHJP
E21D 11/08 20060101ALN20230417BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/02 Z
C04B16/06 A
C04B16/06 E
B28C7/04
E21D11/08
(21)【出願番号】P 2022058579
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2022-06-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505389695
【氏名又は名称】首都高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠
(72)【発明者】
【氏名】天野 幹久
(72)【発明者】
【氏名】石田 征男
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明也
(72)【発明者】
【氏名】田場 祐道
(72)【発明者】
【氏名】藤田 仁
(72)【発明者】
【氏名】武久 弦
(72)【発明者】
【氏名】石田 高啓
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 啓一郎
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-034158(JP,A)
【文献】特開2016-204251(JP,A)
【文献】米国特許第10494302(US,B1)
【文献】特開2006-038465(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112897951(CN,A)
【文献】図解コンクリート用語辞典,日本,2000年05月20日,234ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B28B 1/00- 1/54
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,000kg/m
3以上の単位容積質量を有するコンクリートであって、
セメントを含む結合材と、
表乾密度が3.3g/cm
3
以上の重量細骨材と、
表乾密度が3.2g/cm
3
以上の重量粗骨材と、セメント分散剤と、増粘剤と、水と、有機繊維と、膨張材とを含み、
上記コンクリート中の上記増粘剤の単位量が0.02~1.0kg/m
3であり、
上記コンクリート中の上記有機繊維の割合が0.05~0.80体積%であり、
上記コンクリート中の上記膨張材の単位量が5~40kg/m
3であることを特徴とするコンクリート。
【請求項2】
上記コンクリートの単位容積質量が、3,200kg/m
3以下である請求項1に記載のコンクリート。
【請求項3】
上記コンクリートが、フライアッシュを含まない請求項1又は2に記載のコンクリート。
【請求項4】
上記コンクリート中、上記水の単位量が、165~220kg/m
3である請求項1~3のいずれか1項に記載のコンクリート。
【請求項5】
上記結合材100質量部に対する上記セメント分散剤の量が、0.5~4.0質量部である請求項1~4のいずれか1項に記載のコンクリート。
【請求項6】
水結合材比が、22~45%である請求項1~5のいずれか1項に記載のコンクリート。
【請求項7】
上記コンクリートの未硬化状態におけるスランプが、2~24cmである請求項1~6のいずれか1項に記載のコンクリート。
【請求項8】
上記コンクリートの未硬化状態におけるスランプフローが、35~70cmである請求項1~7のいずれか1項に記載のコンクリート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のコンクリートを製造するための方法であって、
上記コンクリートを構成する、上記有機繊維以外の材料を混練し、上記有機繊維を含まない混練物を調製する第一の混練工程と、
上記有機繊維を含まない混練物に、上記有機繊維を添加して混練し、上記コンクリートを調製する第二の混練工程、
を含むことを特徴とするコンクリートの製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のコンクリートからなる本体部を含むことを特徴とするプレキャストコンクリート製品。
【請求項11】
上記プレキャストコンクリート製品が、シールドトンネル用セグメントである請求項10に記載のプレキャストコンクリート製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シールド工法によって、シールドトンネルと呼ばれるトンネルを施工することが知られている。
シールド工法では、筒状のシールドマシンの内部で、複数のセグメント(コンクリートが主な材料である成形部材)を組み立てることによって、円筒状のシールドトンネルの一部を形成させ、次いで、シールドマシンを工事の進行方向(トンネルが延びる方向)に移動させながら、順次、上述の作業と同じ作業を繰り返すことによって、最終的にシールドトンネルを完成させることができる。
シールド工法で用いられるセグメント(本明細書中、シールドトンネル用セグメントともいう。)としては、耐火性に優れるとともに、セグメントの製造の容易性等の観点から、セグメントの本体部の材料であるコンクリートの施工性に優れることが、望ましい。
また、シールドトンネル用セグメント以外のコンクリート構造物に用いられるプレキャストコンクリート製品についても、特に、優れた耐火性が求められるコンクリート構造物に適用される場合には、シールドトンネル用セグメントと同様に、耐火性及び施工性に優れることが望ましい。
【0003】
コンクリートの耐火性を向上させるための技術として、コンクリートの中にポリプロピレン繊維を配合することが、知られている。
例えば、特許文献1に、ポルトランドセメント、BET比表面積が5m2/g以上のポゾラン質混和材、火成岩からなる細骨材、火成岩からなる粗骨材、ポリプロピレン繊維、水、及び、セメント分散剤を含む水硬性組成物であって、上記ポゾラン質混和材が、シリカフューム、メタカオリン、又は、沈殿法シリカであることを特徴とする水硬性組成物が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シールドトンネルの周囲に、多量の地下水が存在する場合、シールドトンネルに浮力が生じうるため、シールドトンネルの位置の安定性を良好に維持しうることが、重要である。
この対策として、シールドトンネルの構成部材であるセグメントの密度(特に、コンクリートの単位容積質量)を高めるために、セグメントの材料であるコンクリート中の骨材として、重量骨材を用いることが考えられる。
【0006】
しかし、セグメントの耐火性の向上のために上述のポリプロピレン繊維を用いるとともに、セグメントの密度を高めるために重量骨材を用いると、流動性が著しく低下してしまい、セグメントの製造が困難になるという問題がある。
また、流動性の低下を抑制するために、セメント混和剤の量を増大させると、コンクリートの材料分離が生じるという問題がある。
本発明の目的は、大きな単位容積質量を有するコンクリート(重量コンクリート)であって、硬化前に、材料分離が生じることなく、適切な流動性を有するコンクリート(施工性が優れたコンクリート)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント及び水に加えて、重量細骨材、重量粗骨材、セメント分散剤、及び、増粘剤の各材料を用いるとともに、増粘剤の量を特定の範囲内に定めれば、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の[1]~[10]を提供するものである。
【0008】
[1] 3,000kg/m3以上の単位容積質量を有するコンクリートであって、セメントを含む結合材と、重量細骨材と、重量粗骨材と、セメント分散剤と、増粘剤と、水とを含み、上記コンクリート中の上記増粘剤の単位量が0.01~1.0kg/m3であることを特徴とするコンクリート。
[2] 上記コンクリートが、有機繊維を含み、上記コンクリート中の上記有機繊維の割合が、0.05~0.80体積%である、上記[1]に記載のコンクリート。
[3] 上記結合材が、膨張材を含み、かつ、上記コンクリート中、上記膨張材の単位量が5~40kg/m3である、上記[1]又は[2]に記載のコンクリート。
[4] 上記コンクリート中、上記水の単位量が、165~220kg/m3である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のコンクリート。
[5] 上記結合材100質量部に対する上記セメント分散剤の量が、0.5~4.0質量部である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のコンクリート。
[6] 水結合材比が、22~45%である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のコンクリート。
[7] 上記コンクリートの未硬化状態におけるスランプが、2~24cmである、上記[1]~[6]のいずれかに記載のコンクリート。
[8] 上記コンクリートの未硬化状態におけるスランプフローが、35~70cmである、上記[1]~[7]のいずれかに記載のコンクリート。
[9] 上記[1]~[8]のいずれかに記載のコンクリートを製造するための方法であって、上記コンクリートが、有機繊維を含むものであり、上記コンクリートを構成する、上記有機繊維以外の材料を混練し、上記有機繊維を含まない混練物を調製する第一の混練工程と、上記有機繊維を含まない混練物に、上記有機繊維を添加して混練し、上記コンクリートを調製する第二の混練工程、を含むことを特徴とするコンクリートの製造方法。
[10] 上記[1]~[8]のいずれかに記載のコンクリートからなる本体部を含むことを特徴とするプレキャストコンクリート製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリートは、大きな単位容積質量を有するので、例えばシールドトンネル用セグメントの材料として用いた場合、シールドトンネルの周囲に、多量の地下水が存在しても、シールドトンネルに生じうる浮力に影響されることなく、位置の安定性を良好に維持することができる。
本発明のコンクリートは、硬化前に、材料分離が生じることなく、適切な流動性を得ることができるので、シールドトンネル用セグメント等のプレキャストコンクリート製品を、容易にかつ効率良く、製造することができる。
本発明のコンクリートは、有機繊維を含む場合、硬化後に、優れた耐火性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンクリートは、3,000kg/m3以上の単位容積質量を有するコンクリートであって、セメントを含む結合材と、重量細骨材と、重量粗骨材と、セメント分散剤と、増粘剤と、水とを含み、かつ、該コンクリート中の増粘剤の単位量が0.01~1.0kg/m3のコンクリートである。
本発明において、「単位容積質量」とは、「JIS A 1116:2019」(フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量試験))に準拠して算出される、フレッシュコンクリート(未硬化の製造直後のコンクリート)における値をいう。
本発明のコンクリートの単位容積質量は、3,000kg/m3以上、より好ましくは3,050kg/m3以上、特に好ましくは3,100kg/m3以上である。
単位容積質量の上限値は、特に限定されないが、製造可能性の観点から、通常、3,200kg/m3である。
【0011】
本発明において、結合材は、セメント、及び、必要に応じて配合可能な混和材(例えば、膨張材)を含む。
セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
中でも、強度発現性および流動性の観点から、普通ポルトランドセメントまたは中庸熱ポルトランドセメントが好ましく、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
セメントの単位量(コンクリートの単位体積1m3当たりの配合量)は、好ましくは380~900kg/m3、より好ましくは400~850kg/m3である。
該値が380kg/m3以上であると、コンクリートの強度がより大きくなる。該値が900kg/m3以下であると、コンクリートの流動性がより向上する。
なお、本明細書中、「単位量」とは、コンクリートの単位体積1m3当たりの配合量をいう。
【0012】
セメントと共に配合可能な混和材(粉状の結合材)としては、膨張材、石灰石粉末等が挙げられる。
中でも、コンクリートのひび割れを抑制する観点から、膨張材が好ましい。
膨張材としては、石灰系膨張材等が挙げられる。
石灰系膨張材としては、遊離した酸化カルシウム(CaO)を主成分(例えば、40質量%以上の含有率)として含むものが挙げられる。このような石灰系膨張材の例として、CaOの含有率が60質量%以上、SiO2の含有率が5~15質量%、Al2O3の含有率が0.5~5質量%、Fe2O3の含有率が0.2~3質量%、SO3の含有率が1~25質量%、強熱減量(ig.loss)が0~2質量%であるものが挙げられる。このような組成を有する市販品としては、太平洋マテリアル社製の「太平洋N-EX」(商品名)等が挙げられる。
【0013】
膨張材を用いる場合、膨張材の単位量は、好ましくは5~40kg/m3、より好ましくは10~30kg/m3である。該値が5kg/m3以上であると、ひび割れの抑制の効果をより高めることができる。該値が40kg/m3以下であると、コンクリートの強度(例えば、圧縮強度)をより高めることができる。
混和材の単位量(複数の種類の混和材を用いる場合、合計量)は、好ましくは5~100kg/m3、より好ましくは10~50kg/m3である。該値が5kg/m3以上であると、混和材を用いることによる効果をより高めることができる。該値が100kg/m3以下であると、コンクリートの強度(例えば、圧縮強度)をより高めることができる。
【0014】
本発明において、重量細骨材は、コンクリートの単位容積質量を大きくするために用いられる。
重量細骨材としては、特に限定されるものではなく、電気炉酸化スラグ細骨材や、重晶石からなる細骨材や、鉄鉱石からなる細骨材等が挙げられる。
ここで、電気炉酸化スラグ細骨材とは、電気炉から排出された溶融状態の酸化スラグを冷却した後、破砕し、分級して得られるもの(細粒分)をいう。なお、後述の電気炉酸化スラグ粗骨材は、分級によって得られる粗粒分(電気炉酸化スラグ細骨材よりも大きな粒度を有するもの)である。
重量細骨材の表乾密度は、好ましくは3.3g/cm3以上、より好ましくは3.5g/cm3以上、特に好ましくは3.7g/cm3以上である。
該表乾密度の上限値は、特に限定されないが、入手可能性の観点から、通常、4.5g/cm3である。
重量細骨材の単位量は、好ましくは900~1,500kg/m3、より好ましくは1,000~1,400kg/m3である。該値が900kg/m3以上であると、コンクリートの密度が大きくなることに加えて、コンクリートのひび割れの発生の抑制効果を、より高めることができ、かつ、コンクリートのワーカビリティーをより向上させることができる。該値が1,500kg/m3以下であると、コンクリートの単位水量が過大になるのを避けることができる。
【0015】
本発明において、重量粗骨材は、コンクリートの単位容積質量を大きくするために用いられる。
重量粗骨材としては、特に限定されるものではなく、電気炉酸化スラグ粗骨材や、重晶石からなる粗骨材や、鉄鉱石からなる粗骨材等が挙げられる。
重量粗骨材の表乾密度は、好ましくは3.2g/cm3以上、より好ましくは3.4g/cm3以上、特に好ましくは3.6g/cm3以上である。
該表乾密度の上限値は、特に限定されないが、入手可能性の観点から、通常、4.4g/cm3である。
なお、重量粗骨材としては、通常、重量細骨材に比べて、密度が0.15g/cm3程度小さいものが、用いられる。
重量粗骨材の単位量は、好ましくは800~1,300kg/m3、より好ましくは850~1,200kg/m3である。該値が900kg/m3以上であると、コンクリートの密度が大きくなることに加えて、コンクリートのひび割れの発生の抑制効果を、より高めることができる。該値が1,300kg/m3以下であると、コンクリートのワーカビリティーをより向上させることができる。
【0016】
本発明において、細骨材率は、好ましくは50~60%、より好ましくは52~58%である。該値が50%以上であると、コンクリートのワーカビリティーをより向上させることができる。該値が60%以下であると、コンクリートの単位水量が過大になるのを避けることができる。
本発明において、細骨材率とは、重量細骨材と重量粗骨材の合計量中の重量細骨材の体積割合をいう。
【0017】
本発明で用いられるセメント分散剤としては、例えば、高性能減水剤、減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤等が挙げられる。
中でも、減水効果が優れているなどの観点から、高性能減水剤が好ましい。
セメントを含む結合材100質量部に対するセメント分散剤の量は、好ましくは0.5~4.0質量部、より好ましくは0.6~3.0質量部、特に好ましくは0.6~2.5質量部である。該値が0.5質量部以上であると、コンクリートの流動性(スランプ)をより向上させることができる。該値が4.0質量部以下であると、コンクリートにおける材料分離の発生を、より確実に抑えることができる。
【0018】
本発明で用いられる増粘剤としては、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、バイオポリマー系増粘剤、グリコール系増粘剤、アミノ酸系増粘剤等が挙げられる。
中でも、コンクリートの材料分離抵抗性をより向上させる観点から、セルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤の主成分としては、水溶性セルロースエーテル等が挙げられる。
増粘剤の単位量は、0.01~1.0kg/m3、好ましくは0.02~0.7kg/m3、より好ましくは0.03~0.5kg/m3、さらに好ましくは0.04~0.4kg/m3、さらに好ましくは0.05~0.3kg/m3、さらに好ましくは0.06~0.2kg/m3、特に好ましくは0.08~0.15kg/m3である。
該値が0.01kg/m3未満であると、コンクリートに材料分離が生じて、コンクリートの成形が困難になることがある。該値が1.0kg/m3を超えると、コンクリートの流動性が低下して、コンクリートの使用が困難になることがある。
【0019】
本発明のコンクリートは、有機繊維を含むことができる。
有機繊維を配合することによって、コンクリートの耐火性を向上させることができる。
本発明で用いられる有機繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)等が挙げられる。
中でも、入手の容易性等の観点から、ポリプロピレン繊維が好ましい。
本発明において、有機繊維を含むことによって、高温の環境下において、コンクリート中の有機繊維が溶けて、コンクリート中に空洞が生じ、該空洞を通じて、コンクリートの内部に発生した水蒸気が、コンクリートの外部に放出されるため、コンクリートの損傷を防止することができる。
有機繊維の長さ(繊維長)は、有機繊維同士の絡み合いを抑制し、コンクリート中に有機繊維を均一に分布させるなどの観点から、好ましくは2~30mm、より好ましくは4~25mm、さらに好ましくは6~20mm、特に好ましくは8~16mmである。
有機繊維のアスペクト比(長さ/直径)は、有機繊維同士の絡み合いを抑制し、コンクリート中に繊維を均一に分布させるなどの観点から、好ましくは40~260、より好ましくは80~240、さらに好ましくは120~220、特に好ましくは160~200である。
本発明のコンクリート中の有機繊維の割合は、好ましくは0.05~0.80体積%、より好ましくは0.10~0.60体積%、さらに好ましくは0.15~0.40体積%、特に好ましくは0.15~0.35体積%である。
該割合が0.05体積%以上であると、有機繊維を配合することによるコンクリートの耐火性をより向上させることができる。該割合が0.80体積%以下であると、コンクリートの流動性(スランプ)をより向上させることができる。
【0020】
本発明において、水の単位量(単位水量)は、好ましくは165~220kg/m3、より好ましくは170~215kg/m3、さらに好ましくは175~210kg/m3、特に好ましくは180~205kg/m3である。
該値が165kg/m3以上であると、コンクリートの流動性(スランプ)をより向上させることができる。該値が220kg/m3以下であると、コンクリートの強度(例えば、圧縮強度)をより高めることができ、また、コンクリートの単位容積質量として、3,000kg/m3以上の値が得られやすくなる。
本発明において、水結合材比は、好ましくは22~45%、より好ましくは25~42%、さらに好ましくは28~39%である。
該比が22%以上であると、コンクリートの流動性(スランプ)をより向上させることができる。該比が45%以下であると、コンクリートの強度(例えば、圧縮強度)をより高めることができる。
ここで、水結合材比とは、[水の質量]×100÷「結合材の質量」、の式で算出される値をいう。
【0021】
本発明のコンクリートの製造方法の一例は、有機繊維以外の材料を混練し、有機繊維を含まない混練物を調製する第一の混練工程と、第一の混練工程で得られた混練物に、有機繊維を添加して混練し、コンクリートを調製する第二の混練工程を含む。
ここで、第一の混練工程の一例として、セメント、他の結合材(例えば、膨張材)、増粘剤(粉末)、重量細骨材、及び、重量粗骨材を混合(空練り)して、混合物(粉末及び骨材を含む固体物)を得た後、この混合物に、水及びセメント分散剤(液体)を添加して混練し、目的とする混練物を得る方法が挙げられる。
第一の混練工程の他の例として、セメント、他の結合材(例えば、膨張材)、増粘剤(粉末)、及び、重量細骨材を混合(空練り)して、混合物(粉末及び細骨材を含む固体物)を得た後、この混合物に、水及びセメント分散剤を添加して混練し、混練物を得て、さらに、この混練物に重量粗骨材を加えて、目的とする混練物を得る方法が挙げられる。
【0022】
本発明の未硬化状態のコンクリート(フレッシュコンクリート)のスランプは、「JIS A 1101:2020」(コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して測定される値として、好ましくは2~24cm、より好ましくは3~20cm、さらに好ましくは4~19cm、さらに好ましくは5~18cm、特に好ましくは6~17cmである。
該値が2cm以上であると、コンクリートの流動性が良好であるため、コンクリートを型枠内に供給する作業を、容易にかつ効率良く、行うことができる。該値が24cm以下であると、コンクリートの材料分離をより確実に抑えることができる。
本発明の未硬化状態のコンクリート(フレッシュコンクリート)のスランプフローは、「JIS A 1150:2020」(コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠して測定される値として、好ましくは35~70cm、より好ましくは37~68cmである。
該値が35cm以上であると、コンクリートの流動性が良好であるため、コンクリートを型枠内に供給する作業を、容易にかつ効率良く、行うことができる。該値が70cm以下であると、コンクリートの材料分離をより確実に抑えることができる。
本発明のコンクリートの好ましい圧縮強度は、「JIS A 1108:2018」(コンクリートの圧縮強度試験方法)に準拠して算出される値として、材齢1日で15N/mm2以上であり、また、水中もしくは気中養生を行う場合、材齢28日で48N/mm2以上、あるいは、蒸気養生を行う場合、材齢14日で48N/mm2以上である。
本発明のコンクリートの用途としては、シールドトンネル用セグメント等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(2)膨張材:石灰系早強性膨張材(商品名:太平洋N-EX;粉状;太平洋マテリアル社製)
(3)水:上水道水
(4)重量細骨材:電気炉酸化スラグ細骨材(表乾密度:3.79g/cm3)
(5)重量粗骨材:電気炉酸化スラグ粗骨材(表乾密度:3.75g/cm3)
(6)増粘剤:水溶性セルロースエーテルを主成分として含むもの(粉末;商品名:太平洋エルコン;太平洋マテリアル社製)
(7)セメント分散剤:高性能減水剤(ポリカルボン酸系;液体;商品名:マスターグレニウム8000S;ポゾリスソリューションズ社製)
(8)有機繊維A:ポリプロピレン繊維(繊維長:12mm;アスペクト比:185;商品名:バルチップPW・Jr;バルチップ社製)
(9)有機繊維B:ポリプロピレン繊維(繊維長:6mm;アスペクト比:141;商品名:バルチップF13-6HNK;バルチップ社製)
(10)空気量調整剤:ポリアルキレングリコール誘導体を主成分として含むもの(液体;商品名:マスターエア404;ポゾリスソリューションズ社製)
【0024】
[実施例1]
表1に示す材料を用いて、以下のとおり、コンクリートを調製した。
まず、セメント、膨張材、増粘剤、及び、重量細骨材(表1の「細骨材」)を、30秒間、空練りして、混合し、セメント含有混合物を得た。
一方、水、セメント分散剤(表1中の「分散剤」)、及び、空気量調整剤を混合して、セメント分散剤含有水を得た。
なお、実施例1及び後述の他の実施例及び比較例において、空気量調整剤の量は、後述の繊維含有重量コンクリート(硬化前のフレッシュコンクリート)中の空気量が2.5±0.7%になる量に定めた。
上述のセメント含有混合物に、上述のセメント分散剤含有水を添加して、120秒間、混練して、混練物を得た後、この混練物に、重量粗骨材(表1の「粗骨材」)を添加して、混練し、粗骨材含有混練物を得た。
この粗骨材含有混練物に有機繊維A(表1中の「繊維」)を添加して、120秒間、混練し、目的とするコンクリート(繊維含有重量コンクリート)を得た。
得られた繊維含有重量コンクリートについて、以下の方法によって、硬化前の性状(フレッシュコンクリートの物性)を評価した。
【0025】
(a)スランプ
「JIS A 1101:2020」(コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して、フレッシュコンクリートのスランプを測定した。
(b)単位容積質量
「JIS A 1116:2019」(フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量試験))に準拠して、フレッシュコンクリートの単位容積質量を算出した。
(c)材料分離の有無
フレッシュコンクリートを目視で観察し、材料分離が全く生じていないものを「◎」(非常に良好)、材料分離がわずかに生じたが、コンクリートとしての使用に問題がないものを「〇」(良好)、材料分離が生じたため、コンクリートとして使用することができないものを「×」(劣る)として、評価した。
(d)スランプフロー
「JIS A 1150:2020」(コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠して、フレッシュコンクリートのスランプフローを測定した。
【0026】
[実施例2~3]
表1に示すとおり、増粘剤の単位量を、実施例1の「0.10kg/m3」から、「0.02kg/m3」(実施例2)または「0.30kg/m3」(実施例3)に変え、かつ、実施例3において、セメント分散剤の量を「0.8質量部」から「2.5質量部」に変えた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[実施例4~7]
増粘剤の単位量、有機繊維の配合量等を、表1に示すように定めた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[実施例8~11]
水の単位量(単位水量)を、実施例1の「200kg/m3」から、「165~220kg/m3」(表1参照)に変え、かつ、定めた単位水量に応じて、セメント等の他の材料の配合量を、表1に示すように定めた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[実施例12~16]
有機繊維の配合割合を、実施例1の「0.30体積%」から、「0.05~0.80体積%」(表1参照)に変え、かつ、セメント等の他の材料の配合量を、表1に示すように定めた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
実施例1~16の結果を表1に示す。
【0027】
[実施例17~19]
膨張材の単位量を、実施例1の「20kg/m3」から、「5~40kg/m3」(表1参照)に変え、かつ、セメント等の他の材料の配合量を、表1に示すように定めた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[実施例20~22]
水結合材比を、実施例1の「35%」から、「22~45%」(表1参照)に変え、かつ、定めた水結合材比に応じて、セメント等の他の材料の配合量を、表1に示すように定めた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[実施例23]
有機繊維の種類を「有機繊維A(繊維長:12mm)」から「有機繊維B(繊維長:6mm)」に変え、かつ、かつ、セメント等の他の材料の配合量を、表1に示すように定めた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
[実施例24~27]
有機繊維を用いず、かつ、セメント等の他の材料の配合量を、表1に示すように定めた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。ただし、実施例24~25においては、スランプの測定に代えて、スランプフローを測定した。
[実施例28~29]
有機繊維の配合量を「0.10%」(実施例28)または「0.20%」(実施例29)に定め、かつ、セメント等の他の材料の配合量を、表1に示すように定めた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。ただし、スランプの測定に代えて、スランプフローを測定した。
[比較例1]
増粘剤の単位量を、実施例1の「0.10kg/m3」から、「0.01kg/m3」に変えた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
なお、実施例1~29及び比較例1において、細骨材率(全骨材中の細骨材の体積割合)は、いずれも、55%であった。
また、実施例1~29及び比較例1の各コンクリートにおいて、「JIS A 1108:2018」(コンクリートの圧縮強度試験方法)に準拠して算出された圧縮強度は、いずれも、材齢28日で、48N/mm2以上であった。
【0028】
以上の結果を表1~表2に示す。
表1~表2から、実施例1~29のコンクリートが、4.0~20.0cmのスランプ値または39.5~67.0cmのスランプフロー値(適切な流動性)と、3,000kg/m3以上の単位容積質量(重量コンクリートとして用い得る大きな密度)と、良好な材料分離抵抗性を兼ね備えているのに対し、比較例1のコンクリートは、材料分離抵抗性が劣るため、重量コンクリートとして用いることができないことが、わかる。
【0029】
【0030】
【要約】
【課題】大きな単位容積質量を有するコンクリート(重量コンクリート)であって、硬化前に、材料分離が生じることなく、適切な流動性を有するコンクリート(施工性が優れたコンクリート)を提供する。
【解決手段】3,000kg/m3以上の単位容積質量を有するコンクリートであって、セメントを含む結合材と、重量細骨材と、重量粗骨材と、セメント分散剤と、増粘剤と、水とを含み、コンクリート中の増粘剤の単位量が0.01~1.0kg/m3である、コンクリート。コンクリートは、例えば0.05~0.80体積%の割合で、有機繊維を含むことができる。コンクリートは、例えば5~40kg/m3の単位量で、膨張材を含むことができる。
【選択図】なし