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特許7263612きのこ栽培用人工培養基、きのこ栽培用培地、きのこの人工栽培方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】きのこ栽培用人工培養基、きのこ栽培用培地、きのこの人工栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20230417BHJP
【FI】
A01G18/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022205043
(22)【出願日】2022-12-22
【審査請求日】2022-12-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591062146
【氏名又は名称】一般社団法人長野県農村工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 万穂
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆行
(72)【発明者】
【氏名】城石 雅弘
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122352(JP,A)
【文献】特開2021-160957(JP,A)
【文献】特開2016-056075(JP,A)
【文献】特開2004-345940(JP,A)
【文献】特開平09-255377(JP,A)
【文献】特開2002-000069(JP,A)
【文献】特開平01-101823(JP,A)
【文献】特開2021-153416(JP,A)
【文献】特開平11-299346(JP,A)
【文献】特開平03-027280(JP,A)
【文献】後藤逸男,転炉スラグの農業利用技術の開発と普及,植物防疫(2016年),第70巻第4号,日本,2023年01月05日,第209-214頁, http://jppa.or.jp/archive/pdf/70_04_01.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaOを30~60質量%、Alを10~60質量%、SiOを5~40質量%、及びPを100~5,000ppmの質量割合で含有する非晶質アルミノケイ酸カルシウムを含む、きのこ栽培用人工培養基。
【請求項2】
前記非晶質アルミノケイ酸カルシウムが、さらにZrOを100~5,000ppmの質量割合で含有する、請求項1に記載のきのこ栽培用人工培養基。
【請求項3】
前記非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のSiOとPとのモル比(SiO/P)が、20~9,500である、請求項1または2に記載のきのこ栽培用人工培養基。
【請求項4】
請求項1または2に記載のきのこ栽培用人工培養基を含む、きのこ栽培用培地。
【請求項5】
請求項4に記載のきのこ栽培用培地を用いる、きのこの人工栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこ栽培用人工培養基、該きのこ栽培用人工培養基を含むきのこ栽培用培地、該きのこ栽培用培地を用いるきのこの人工栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、きのこの栽培は、くぬぎ、ぶな、及びならなどの原木を利用したほだ木栽培がほとんどであり、そのため気象条件により収穫が左右されることが多いという問題があった。また、ほだ木栽培では栽培期間が長く、種菌の接種からきのこの収穫までに1年半~2年も要するので、生産コストが相当高くつくという問題もあった。
【0003】
近年、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、及びしいたけ等は、鋸屑に米糠を配合した人工培養基を用い、瓶または箱で培養を行う菌床人工栽培方法が確立され、一年を通じて、四季に関係なく安定してこれらのきのこが収穫できるようになっている。すなわち、農家での副業的性格が強く、小規模生産に頼っていた従来のきのこの栽培が、現在では大規模専業生産が可能で、かつ、原料が入手しやすい菌床人工栽培方法に移りつつある。しかしながら、この菌床人工栽培においても、きのこを大量に連続栽培するには、いまだ収率も低く、かつ、栽培期間がかなり長いため、その生産コストは安価とはいえず、これら生産性の改善が切望されている。
【0004】
生産性を改善する方法として培地に特定の組成物を配合する方法が知られている。例えば、カルシウムアルミネート系化合物を含有する組成物(特許文献1)、アルミノケイ酸カルシウム系化合物を含有する組成物やその水和物(特許文献2~4)、アルミノケイ酸マグネシウム系化合物を含有する組成物(特許文献5及び6)等が従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-187762号公報
【文献】特開平11-155364号公報
【文献】特開平11-243773号公報
【文献】特開2003-70351号公報
【文献】特開平3-58716号公報
【文献】特開2002-119133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、短い生育日数で品質の優れたきのこの収率を高くすることが難しかった。
本発明は、上記のような問題を解決するため、短い生育日数でも品質が優れたきのこを高い収率で栽培することを可能にする、きのこ栽培用人工培養基、きのこ栽培用培地、及びきのこの人工栽培方法を提供することを目的とする。なお、品質の優れたきのことは、生産組合が定めた規格に満足するきのこをいう。例えば、ぶなしめじの場合、品質の優れたきのことは、株の接着性が良好で株元の張りが強いものをいう。これにより、軸が太いきのこを一株にまとまっている状態で出荷することができる。また、生産組合が定めた規格によりきのこを出荷することにより、きのこの市場価値を高くすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、CaO、Al、SiO、及びPの含有割合が所定の範囲内にあるアルミノケイ酸カルシウムを含むきのこ栽培用人工培養基を用いることにより、短い生育日数でも品質が優れたきのこを高い収率で栽培することを可能にすることを見出した。
【0008】
[1] CaOを30~60質量%、Alを10~60質量%、SiOを5~40質量%、及びPを100~5,000ppmの質量割合で含有する非晶質アルミノケイ酸カルシウムを含む、きのこ栽培用人工培養基。
[2] 前記非晶質アルミノケイ酸カルシウムが、さらにZrOを100~5,000ppmの質量割合で含有する、上記[1]に記載のきのこ栽培用人工培養基。
[3] 前記非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のSiOとPとのモル比(SiO/P)が、20~9,500である、上記[1]または[2]に記載のきのこ栽培用人工培養基。
[4] 上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のきのこ栽培用人工培養基を含む、きのこ栽培用培地。
[5] 上記[4]に記載のきのこ栽培用培地を用いる、きのこの人工栽培方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短い生育日数でも品質が優れたきのこを高い収率で栽培することを可能にする、きのこ栽培用人工培養基、きのこ栽培用培地、及びきのこの人工栽培方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)を詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書における「部」や「%」は特に規定しない限り質量基準とする。
【0011】
[きのこ栽培用人工培養基]
本発明のきのこ栽培用人工培養基は、CaOを30~60質量%、Alを10~60質量%、SiOを5~40質量%、及びPを100~5,000ppmの質量割合で含有する非晶質アルミノケイ酸カルシウムを含むことを要する。本発明のきのこ栽培用人工培養基を用いてきのこを栽培することにより、短い生育日数でも品質が優れたきのこを高い収率で栽培することを可能にする。本発明のきのこ栽培用人工培養基は、非晶質アルミノケイ酸カルシウムのみを用いてもよく、生産コスト削減等の観点から、後述する基材を用いて希釈してもよい。具体的には、例えば、非晶質アルミノケイ酸カルシウムと、鋸屑等を基材として用いて、ビン等を用いる人工栽培によってきのこを栽培することにより、短い生育日数でも品質が優れたきのこを高い収率で栽培することを可能にする。
【0012】
本発明のきのこ栽培用人工培養基は、きのこ栽培用人工培養基100質量部中、非晶質アルミノケイ酸カルシウムを0.001~10質量部含むことが好ましく、0.005~5質量部含むことがより好ましく、0.01~2質量部含むことがさらに好ましい。これにより、本発明のきのこ栽培用人工培養基を用いることで、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培することを可能としやすい。
【0013】
(非晶質アルミノケイ酸カルシウム)
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムは、例えば、CaO源、Al源、SiO源、及びP源を、電気炉や高周波炉等の加熱炉を用いて加熱溶融して作製したものである。CaO源には、例えば、生石灰や消石灰、石灰石等が挙げられ、Al源には、例えば、アルミナやボーキサイト等が挙げられ、SiO源には、例えばケイ石、ケイ砂、石英等が挙げられ、P源には、例えば、リン酸三カルシウム等が挙げられる。
【0014】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムは、ガラス化率が50質量%以上であり、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。非晶質アルミノケイ酸カルシウムのガラス化率が、上記範囲内であると、きのこの収率をより向上させることができる。非晶質アルミノケイ酸カルシウムのガラス化率は、作製時の加熱溶融温度や冷却方法を調整することによって調整することができ、例えば、電気炉で原料を1200~1900℃で加熱溶融し、急冷することによって高いガラス化率とすることができる。
なお、本発明において、非晶質アルミノケイ酸カルシウムのガラス化率の測定方法は、非晶質アルミノケイ酸カルシウムを1,000℃で2時間加熱後、5℃/分の冷却速度で徐冷し、粉末X線回折測定を実施してメインピークを特定し、定量ソフトを用いてメインピーク面積Sを求め、加熱前の非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粉末X線回折測定によって得られたメインピーク面積Sから、x(質量%)=100×(1-S/S)の式を用いてガラス化率xを求めることができる。なお、定量ソフトには、Sietronics社製の「SIROQUANT」等を用いることが可能である。
【0015】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムにおけるCaOの含有割合は30~60質量%であり、好ましくは32~60質量%であり、より好ましくは35~50質量%である。CaOの含有量が、30質量%未満、または60質量%を超えると、短い生育期間では品質の優れたきのこを高い収率で栽培することができない場合がある。
なお、本発明において、非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のCaOの含有割合は、例えば、JIS R 5202:2010に準拠して測定することができる。
【0016】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムにおけるAlの含有割合は10~60質量%であり、好ましくは12~48質量%であり、より好ましくは15~45質量%である。Alの含有割合が10質量%未満または60質量%を超えると、短い生育期間では品質の優れたきのこを高い収率で栽培することができない場合がある。
なお、本発明において、非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のAlの含有割合は、例えば、JIS R 5202:2010に準拠して測定することができる。
【0017】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムにおけるSiOの含有割合は5~40質量%であり、好ましくは10~35質量%であり、より好ましくは15~30質量%である。SiOの含有量が5質量%未満または40質量%を超えると、短い生育期間では品質の優れたきのこを高い収率で栽培することができない場合がある。
なお、本発明において、非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のSiOの含有割合は、例えば、JIS R 5202:2010に準拠して測定することができる。
【0018】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムにおけるPの含有割合は100~5,000ppmであり、好ましくは150~2,000ppmであり、さらに好ましくは200~1,000ppmである。Pの含有割合が100ppm未満または5,000ppmを超えると、短い生育期間では品質の優れたきのこを高い収率で栽培することができない場合がある。
なお、本発明において、非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のPの含有割合は、例えば、JIS R 5202:2010に準拠して測定することができる。
【0019】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムは、さらにZrOを100~5,000ppmの質量割合で含有することが好ましく、200~2,000ppmの質量割合で含有することがより好ましく、300~1,000ppmの質量割合で含有することがさらに好ましい。非晶質アルミノケイ酸カルシウムにおけるZrOの含有割合が、上記範囲内であると、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培することを可能としやすい。非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のZrOの含有割合は、所望の範囲となるように、例えば、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、有機酸ジルコニウム、ジルコンサンド等といったようなZrO源を原料に添加することによって調整することができる。
なお、本発明において、非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のZrOの含有割合は、例えば、JIS R 5202:2010に準拠して測定することができる。
【0020】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のSiOとのPのモル比(SiO/P)は、20~9,500であることが好ましく、100~7,000であることがより好ましく、200~5,000であることがさらに好ましい。非晶質アルミノケイ酸カルシウム中のSiOとのPのモル比(SiO/P)が、上記範囲内であると、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培することを可能としやすい。
【0021】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムは、さらにアルカリ金属酸化物を0.01~1.5質量%の質量割合で含有することが好ましく、0.1~0.8質量%の質量割合で含有することがより好ましく、0.15~0.3質量%の質量割合で含有することがさらに好ましい。非晶質アルミノケイ酸カルシウムにおけるアルカリ金属酸化物の割合が、上記範囲内であると、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培することを可能としやすい。アルカリ金属酸化物としては、例えば、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが挙げられる。
なお、本発明において、アルミノケイ酸カルシウム中のアルカリ金属酸化物の含有割合は、例えば、JIS R 5202:2010に準拠して測定することができる。
【0022】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粒子径7μm以下の粒子径積算値は30体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることがさらに好ましい。非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粒子径7μm以下の粒子径積算値が、上記範囲内であると、きのこ栽培用人工培養基の分散性を向上させることができ、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培することを可能としやすい。非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粒子径7μm以下の粒子径積算値は、非晶質アルミノケイ酸カルシウム作製時に、粉砕後に分級することにより調整することができる。
なお、本発明において、非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粒子径7μm以下の粒子径積算値は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定器、例えば、HORIBA LA-920(商品名、株式会社堀場製作所製)を使用して、試料分散媒として、エタノールを用い、非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粒度分布を測定し、その粒度分布に基づいて、粒子径7μm以下の粒子径積算値を算出することができる。
【0023】
本発明で使用する非晶質アルミノケイ酸カルシウムのブレーン比表面積値は、3,000~9,000cm/gであることが好ましく、4,000~8,000cm/gであることがより好ましく、6,000~8,000cm/gであることがさらに好ましい。非晶質アルミノケイ酸カルシウムのブレーン比表面積値が、上記範囲内であると、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培することを可能としやすい。
なお、本発明において、ブレーン比表面積値は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載された比表面積試験に基づいて測定することができる。
【0024】
本発明のきのこ栽培用人工培養基は、生産コスト削減の観点から、きのこ栽培用人工培養基をスケールアップするための基材を含むことが好ましい。基材としては、有機質由来の資材が好ましく、例えば、広葉樹鋸屑、針葉樹鋸屑、広葉樹チップ、もみ殻、コーンコブ、バガス、パルプ廃材、ビート粕及びデンプン粕等が挙げられる。本発明のきのこ栽培用人工培養基における基材の含有量は、きのこ栽培用人工培養基中、80~99.99質量部含むことが好ましく、90~99.9質量部含むことがより好ましく、92~99.5質量部含むことがさらに好ましい。
【0025】
本発明のきのこ栽培用人工培養基は、例えば、以下のようにして調製できる。まず、CaO源、Al源、SiO源、及びP源を、電気炉や高周波炉等の加熱炉を用いて加熱溶融して作製した非晶質アルミノケイ酸カルシウムを粉砕し、鋸屑等の基材と混合することで調整できる。なお、ZrO源及びアルカリ金属酸化物は、CaO源、Al源、SiO源、及びP源とともに電気炉や高周波炉等の加熱炉を用いて加熱溶融することで添加することができる。
【0026】
[きのこ栽培用培地]
本発明のきのこ栽培用培地は、本発明のきのこ栽培用人工培養基を含む。これにより、本発明のきのこ栽培用培地を用いることで、短い生育期間でも品質の優れたきのこをより高い収率で栽培できる。
【0027】
きのこ栽培用培地のきのこ栽培用人工培養基の配合量は、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培できるという観点から、きのこ栽培用培地100質量部に対して、好ましくは30~60質量部であり、より好ましくは40~50質量部である。
【0028】
本発明のきのこ栽培用培地は、さらに添加剤を含むことが好ましく、添加剤としては、栄養添加剤、微量添加剤等が挙げられる。栄養添加剤は、主に、きのこ菌の生育に必要な炭素源及び窒素源のうち不足分を補充する。微量添加剤は、主に、きのこ菌の生育に必要な無機塩類をきのこ菌に供給する。
【0029】
栄養添加剤には、例えば、米ぬか、もろこし粉砕物、フスマ、乾燥オカラ、トウモロコシ及び大豆皮等が挙げられ、1種または2種以上を混合したものを使用することができる。
微量添加剤には、例えば、アルミノシリケート系化合物、マグネシウムアルミニウムシリケート系化合物、マグネシウムシリケート系化合物、カルシウムシリケート系化合物、マグネシウムアルミネート系化合物、カルシウムアルミネート系化合物、スラグ粉末、エトリンガイト、リン化合物、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウム等が挙げられる。なお、上記アルミノシリケート系化合物、上記カルシウムシリケート系化合物及び上記カルシウムアルミネート系化合物は、本発明のきのこ栽培用人工培養基に含まれるアルミノケイ酸カルシウムを除いたものである。
【0030】
きのこ栽培用培地中の栄養添加剤の配合量は、特に制限されないが、栽培するきのこの種類、栽培環境、及びその他条件等によって適宜調整することができ、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培できるという観点から、例えば、きのこ栽培用培地100質量部に対して、好ましくは5~200質量部であり、より好ましくは10~150質量部である。
【0031】
きのこ栽培用培地中の微量添加剤の配合量は、特に制限されないが、栽培するきのこの種類、栽培環境、及びその他条件等によって適宜調整することができ、短い生育期間でも品質の優れたきのこをより高い収率で栽培できる観点から、例えば、きのこ栽培用培地100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部であり、より好ましくは、0.1~3質量部であり、さらに好ましくは0.2~1質量部である。
【0032】
本発明のきのこ栽培用培地は、さらに水を含むことが好ましい。きのこ栽培用培地中の水の配合量は、特に制限されないが、栽培するきのこの種類、栽培環境、及びその他条件等によって適宜調整することができ、短い生育期間でも品質の優れたきのこをより高い収率で栽培できる観点から、例えば、きのこ栽培用培地中の水以外の材料の乾燥後の質量の合計100質量部に対して、好ましくは10~300質量部であり、より好ましくは15~250質量部であり、さらに好ましくは20~150質量部である。例えば、本発明のきのこ栽培用人工培養基に、きのこ栽培用培地の含水率が55~70質量%になるように水を加える。
【0033】
本発明のきのこ栽培用培地は、例えば、以下のようにして調製できる。まず、栄養添加剤及び/または微量添加剤をミキサーに所定量入れ、攪拌しながら本発明のきのこ栽培用人工培養基を少量ずつ添加し、十分に混合する。その後、水を所定量ミキサーに入れ、培地内の水分が均一になるまで培地を攪拌する。そして、きのこ栽培用培地が完成する。
【0034】
本発明のきのこ栽培用培地のpHは、品質の優れたきのこをより高い収率で栽培できるという観点から、好ましくは5.8~6.8であり、より好ましくは6.2~6.8である。きのこ栽培用培地のpHは、培地を殺菌することによって調整することができ、培地殺菌の条件は、きのこの種類によって適宜調整することができる。培地の殺菌方法には、例えば、高圧殺菌方法及び条圧殺菌方法がある。高圧殺菌方法は、きのこ栽培用培地を詰めた容器をおよそ120℃の加熱温度で、約1時間から約1時間30分加熱してきのこ栽培用培地を殺菌する方法である。一方、常圧殺菌方法はきのこ栽培用培地を詰めた容器をおよそ100℃の加熱温度で、4時間以上加熱してきのこ栽培用培地を殺菌する方法である。なお、本発明において、きのこ栽培用培地のpHは、100gの水の中に、20gの採取した培地を入れ、3分間混合して混合物を作製し、pH計(例えば、株式会社堀場製作所製pHメータ D-51)を用いて測定することができる。
【0035】
[きのこの人工栽培方法]
本発明のきのこの人工栽培方法は、本発明のきのこ栽培用培地を用いる。これにより、短い生育日数でも品質の優れたきのこをより高い収率で栽培することができる。
【0036】
本発明のきのこの人工栽培方法は、本発明のきのこ栽培用培地を用いてきのこを栽培するものであれば、特に限定されない。また、本発明のきのこの人工栽培方法は、栽培環境や状況等に応じて任意に変えることができる。例えば、本発明のきのこの人工栽培方法は、本発明のきのこ栽培用培地を調製する工程、本発明のきのこ栽培用培地を容器に詰める工程、容器に詰めた、本発明のきのこ栽培用培地を殺菌する工程、殺菌した、本発明のきのこ栽培用培地を冷却する工程、冷却した、本発明のきのこ栽培用培地にきのこの種菌を接種する工程、接種した種菌を培養及び熟成する工程、菌かきを行う工程、芽出し工程、きのこを生育させる工程及びきのこを収穫する工程を含む。
【0037】
例えば、ブナシメジの栽培の場合、きのこ栽培用培地に接種した種菌を22~25℃の温度で約10~20日培養し、22~25℃の温度で15~30日熟成する。その後、菌かきを行い、14~17℃の温度及び95~100%の湿度の条件下15~25日間、ブナシメジの芽出し及び育成を行い、そして、ブナシメジを収穫する。
また、シイタケの栽培の場合、接種した種菌を20~25℃の温度で約20日培養し、26~30℃の温度で20~25日熟成する。その後、13~17℃の温度及び90~95%の湿度の条件下10日間シイタケを発生させ、シイタケを収穫する。なお、1回目の収穫後、13~17℃の温度及び90~95%の湿度の条件下10日間シイタケを発生させ、2回目のシイタケの収穫を行うことも可能である。
【0038】
本発明のきのこの人工栽培方法により栽培できるきのこは、人工栽培できるきのこであれば特に限定されない。本発明のきのこの人工栽培方法に好適なきのこには、例えば、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、ぶなしめじ、まいたけ、きくらげ、さるのこしかけ及びしいたけ等が挙げられ、特に好適なきのこはブナシメジである。
【実施例
【0039】
以下、実施例、比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
<実験例1>
(きのこ栽培用人工培養基の調製)
表1に示す割合となるように、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、リン酸カルシウム、酸化ジルコニウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムを配合及び混合して原料混合物を作製し、高周波炉を使用して、1,600℃の加熱温度で原料混合物を30分間溶融した後、急冷して、非晶質アルミノケイ酸カルシウムを合成した。合成した非晶質アルミノケイ酸カルシウムを粉砕して、ブレーン比表面積値を6,000cm/gに調整し、ガラス化率を測定した。
広葉樹鋸屑250g、針葉樹鋸屑250gを基材とし、きのこ栽培用人工培養基全体100質量部に対して、非晶質アルミノケイ酸カルシウムが0.2質量部となるように混合し、きのこ栽培用人工培養基を調製した。
【0041】
(きのこ栽培用培地の調製)
米ぬか500gをミキサーに入れ、攪拌しながら調製したきのこ栽培用人工培養基500gを少量ずつ添加し、十分混合した。その後、水140mLをミキサーに入れ、水分が均一になるまで攪拌し、きのこ栽培用培地を調製した。
【0042】
(使用材料)
・炭酸カルシウム:試薬1級、関東化学株式会社製
・酸化アルミニウム:試薬1級、関東化学株式会社製
・二酸化ケイ素:試薬1級、関東化学株式会社製
・リン酸三カルシウム:食品添加物、関東化学株式会社製
・酸化ジルコニウム:試薬、関東化学株式会社製
・炭酸ナトリウム:試薬1級、関東化学株式会社製
・炭酸カリウム:試薬1級、関東化学株式会社製
・広葉樹鋸屑:ぶな材の鋸屑
・針葉樹鋸屑:すぎ材の鋸屑
・米ぬか:市販品、農業共同組合製
・水:純水
【0043】
(きのこの人工栽培)
プラスチック製850ml広口瓶に、調製したきのこ栽培用培地を圧詰めした。その後、120℃飽和蒸気圧下で、瓶詰めした培地を加熱殺菌した。瓶詰めした培地を冷却した後、ブナシメジの菌を瓶詰めした培地に植え付け、暗所、温度25℃、湿度55%の条件下で1ヶ月間かけて菌を培養及び熟成した。菌の培養及び熟成後、広口瓶の中央に直径1cm程度の穴を開け(菌かき)、培地を充分に吸水させた後、15℃、湿度95%、照度20ルックスの条件下で4日間、菌を培養して子実体原基を形成し、芽出しを行った。そして、照度を200ルックスに上げて2週間程度培養を続け、きのこを生育させた。その後、きのこを収穫して子実体の収量および品質を評価した。結果を表1に併記する。なお、参考例として、広葉樹鋸屑250g、針葉樹鋸屑250gを基材としたきのこ栽培用人工培養基を用い、調製したきのこ栽培用人工培養基500gに、米ぬか500g及び水140mLをミキサーで混合して調製したきのこ栽培用培地を用いてきのこの人工栽培を行った例を実験No.1-1とした。
【0044】
(測定方法)
・ブレーン比表面積値:JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載された比表面積試験に基づいて測定した。
・ガラス化率:非晶質アルミノケイ酸カルシウムを1,000℃で2時間加熱後、5℃/分の冷却速度で徐冷し、粉末X線回折測定を実施してメインピークを特定し、定量ソフトを用いてメインピーク面積Sを求め、加熱前の非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粉末X線回折測定によって得られたメインピーク面積Sから、x(質量%)=100×(1-S/S)の式を用いてガラス化率xを求めた。なお、定量ソフトには、Sietronics社製の「SIROQUANT」等を用いた。
・粒子径積算値:レーザー回折・散乱法による粒度分布測定器(HORIBA LA-920(商品名、株式会社堀場製作所製)を使用して、試料分散媒として、エタノールを用い、非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粒度分布を測定し、その粒度分布に基づいて、粒子径7μm以下の粒子径積算値を算出した。
・子実体収量:収穫したきのこの総重量を測定した。
・付着性:収穫したきのこを下記基準に基づいて目視及び触手検査により評価した。なお、株の接着がよく株元の張りが強いきのこ程、きのこの品質はよい。
優:株の接着がよく株元の張りが強い。
良:「優」の評価のきのこに比べて、株の接着もしくは株元の張りが若干劣るものの、きのこの品質として問題ないレベルである。
不可:株の接着が悪く、株元の張りも弱い。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、CaOを30~60質量%、Alを10~60質量%、SiOを5~40質量%、及びPを100~5,000ppmの質量割合で含有する非晶質アルミノケイ酸カルシウムを含むきのこ栽培用人工培養基を用いてきのこを栽培することで、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高収率で栽培することが可能であることを確認した。
【0047】
<実験例2>
きのこ栽培用人工培養基中の非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粒子径7μm以下の粒子径積算値を、表2に記載の値となるように分級したこと以外は実験例1と同様にして、きのこの人工栽培を行った。結果を表2に併記する。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、非晶質アルミノケイ酸カルシウムの粒子径2μm以下の粒子径積算値が、5~30体積%の範囲内であることで、きのこの品質及び収率をより向上させることを確認した。
【0050】
<実験例3>
きのこの栽培用培地中のきのこ栽培用人工培養基中の非晶質アルミノケイ酸カルシウムの含有量を、表3に記載の値とし、残部を基材としたこと以外は実験例1と同様にして、きのこの人工栽培を行った。結果を表3に併記する。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、非晶質アルミノケイ酸カルシウムを所定量含むきのこ栽培用人工培養基を用いることによって、きのこの収率を向上させることができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のきのこ栽培用人工培養基またはきのこ栽培用培地をきのこの人工栽培に使用すると、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、ぶなしめじ、まいたけ、きくらげ、さるのこしかけ及びしいたけ等の広範な種類のきのこについて、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培できる。また、本発明のきのこの人工栽培方法によれば、えのきたけ、ひらたけ、なめこ、ぶなしめじ、まいたけ、きくらげ、さるのこしかけ及びしいたけ等の広範な種類のきのこについて、短い生育期間でも品質の優れたきのこを高い収率で栽培できる。
【要約】
【課題】短い生育日数でも品質が優れたきのこを高い収率で栽培することを可能にする、きのこ栽培用人工培養基、きのこ栽培用培地、及びきのこの人工栽培方法を提供することを目的とする。
【解決手段】CaOを30~60質量%、Alを10~60質量%、SiOを5~40質量%、及びPを100~5,000ppmの質量割合で含有する非晶質アルミノケイ酸カルシウムを含む、きのこ栽培用人工培養基である。
【選択図】なし