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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】二重硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20230417BHJP
   C08K 5/37 20060101ALI20230417BHJP
   C08G 75/045 20160101ALI20230417BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K5/37
C08G75/045
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022506761
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 US2020044708
(87)【国際公開番号】W WO2021026054
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】62/883,141
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リュウ、ジュンイン
(72)【発明者】
【氏名】オルターゴット、デイヴィッド エム.
(72)【発明者】
【氏名】スウィアー、スティーブン
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/005393(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第113248715(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113087911(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/045
C08G 77/00- 77/62
C08L 83/00- 83/16
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.2つ以上のメルカプト基を含みケイ素を含まないメルカプト化合物と、
b.1分子当たり、1つ以上の末端不飽和アルケニル基、ケイ素原子のモル数に対して40モルパーセント以上のフェニル基、及び少なくとも1つのアルコキシシリル基を含有する、1つ以上の直鎖状ポリオルガノシロキサンを含有する直鎖状ポリオルガノシロキサンと、
c.少なくとも1つの末端不飽和アルケニル基及びケイ素原子のモル数に対して20モルパーセント以上のフェニル基を含有する樹脂状ポリオルガノシロキサンと、
d.光開始剤と、
e.湿気硬化型触媒と、
を含む組成物であって、前記組成物中のメルカプト基の末端不飽和アルケニル基に対するモル比が、0.3~2.0の範囲にあり、
a.前記ケイ素を含まないメルカプト化合物が、組成物重量に基づいて、5~45重量パーセントの濃度で存在し、
b.前記直鎖状ポリオルガノシロキサンが、以下の式を有し、(RSiO1/2)(R SiO2/2a’(PhRSiO2/2(XRSiO1/2)、
式中、Rは、各出現において独立して、C2~8末端不飽和アルケニル基、C1~8アルキル基、C1~8置換アルキル基、及びフェニル基からなる群から選択され、
は、C2~8末端不飽和アルケニル基から選択され、
は、各出現において独立して、C2~8末端不飽和アルケニル基、C1~8飽和アルキル基及びXからなる群から選択され、Phは、フェニル基であり、Xは、アルコキシシリル基であり、
下付き文字aは、1分子当たりの(PhRSiO2/2)単位の平均数であり、2~800の範囲の値を有し、
下付き文字a’は、1分子当たりの((RSiO2/2)単位の平均数であり、0以上かつ200以下の値を有し、
但し、1分子当たりのフェニル基の平均濃度が、1分子当たりのケイ素原子のモル数に対して40モルパーセント以上であることを条件とし、前記直鎖状ポリオルガノシロキサンの濃度が、前記組成物重量の10~80重量パーセントであり、
c.前記樹脂状ポリオルガノシロキサンが、以下の式を有し、(R SiO1/2(R SiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2
式中、Rは、各出現において独立して、C2~8末端不飽和アルケニル基、C1~8アルキル基、フェニル基、アルコキシ基及びアルコキシシリル基からなる群から選択され、下付き文字w、x、y及びzは、分子中のシロキサン単位のモルに基づいて、対応するシロキサン単位の平均モルパーセントに対応し、下付き文字wは、0~75の範囲の値であり、xは、0~70の範囲の値であり、yは、0~100の範囲の値であり、及びzは、0~60の範囲の値であり、但し、(w+x+y+z)は、100であり、(y+z)は、20以上であり、(x+w)は、10以上であり、1分子当たりのフェニル基の平均濃度は、ケイ素原子のモル数に対して20モルパーセント以上であり、及び(R SiO1/2)単位の少なくとも1つのRは、C2~8末端不飽和アルケニル基であることを条件とし、前記樹脂状ポリオルガノシロキサンの濃度は、前記組成物重量の30~70重量パーセントであり、
d.光開始剤が、組成物重量に基づいて、0.01~5.0重量パーセントの濃度で存在し、
e.湿気硬化型触媒が、組成物重量に基づいて、0.1~3.0重量パーセントの濃度で存在する、
組成物。
【請求項2】
前記ケイ素を含まないメルカプト化合物が、3つ以上のメルカプト基を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、ジメルカプト化合物を含みケイ素を含まないメルカプト化合物と、3つ以上のメルカプト基を有しケイ素を含まないメルカプト化合物との組み合わせを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ケイ素を含まないジメルカプト化合物が、次の構造:HS-(CHCHO)CHCHSHを有し、式中、下付き文字eは、1分子当たりのエトキシ単位の平均数であり、1~5の範囲の値である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、組成物重量に基づいて、0.5重量%以上かつ20重量%以下のアルコキシシラン化合物を更に含み、前記アルコキシシラン化合物が、請求項1に定義される成分bの直鎖状ポリオルガノシロキサンでなく、かつ、請求項1に定義される成分cの樹脂状ポリオルガノシロキサンでない、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の分野
本発明は、2つ以上のチオール官能基を有しケイ素は含まないメルカプト化合物と、末端不飽和アルケニル基、アルコキシシリル基及びフェニル基を含有する直鎖状ポリオルガノシロキサンと、末端不飽和アルケニル基及びフェニル基を含有する樹脂状ポリオルガノシロキサンと、を含有する組成物に関する。
【0002】
序論
光及び湿気二重硬化性組成物は、例えば、コーティングの全ての部分を露光することは困難であるがコーティングの急速な硬化が望ましいコーティング、カプセル化、ポッティング及び接着剤の用途において有用である。湿気硬化の機構は、光への曝露からブロックされた組成物(「影領域」)を硬化させるのに役立つ。二重硬化機構は、光がコーティングの全ての領域にアクセスできない場合に、湿気硬化により完全に硬化させるコーティングにおいて価値がある。
【0003】
二重硬化性組成物は、(メタ)アクリレート系硬化システムを含むことができる。しかしながら、(メタ)アクリレート系システムは、酸素に感受性であり、酸素によって阻害されるため、少なくとも組成物表面では硬化中に不活性条件が必要である。必要な不活性雰囲気を用意すると、硬化プロセスに望ましくないコスト及び複雑さが追加される。
【0004】
エラストマー及びシリコーンゴム用途の場合、二重硬化性組成物は、(メタ)アクリレート系硬化システムの代わりに、光開始硬化に関与するチオール-エン反応性成分(チオール-エンシステム)を含むことができる。チオール-エンシステムは、チオール含有反応物及び炭素-炭素二重結合不飽和反応物を含有する。光に曝露されると、チオール官能基は、不飽和反応物の二重結合と反応し、不飽和反応物の二重結合にわたって付加する。チオール-エン化学物質を利用する二重硬化性システムは、典型的には、チオール含有シロキサン反応物及び不飽和シロキサン反応物を含有する。チオール-エン反応性成分の混和性は、硬質及び耐スクラッチ性の硬化組成物のために高度に十分な架橋密度を達成するには不十分であるため、チオール-エン反応物は、エラストマー及びシリコーンゴムの用途に限定されている。硬質な硬化組成物を達成するのに十分な架橋性官能基が存在する場合、組成物が不均一であることで耐スクラッチ性が低下する。加工中及び加工後に他の物体に接触する際に、硬化組成物中に欠陥を発生させることを避けるために、硬質及び耐スクラッチ性の両方である硬化組成物を形成することは価値がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硬質(ショアA硬度が少なくとも50、好ましくは少なくとも60)及び耐スクラッチ性(少なくとも4B鉛筆の耐スクラッチ性)の両方である硬化シリコーン組成物を生成するチオール-エン系二重硬化性組成物を特定することは、当技術分野を進歩させることになる。
【0006】
本発明は、硬質(ショアA硬度が少なくとも50、好ましくは少なくとも60)及び耐スクラッチ性(少なくとも4B鉛筆の耐スクラッチ性)の両方である硬化シリコーン組成物を生成するチオール-エン系二重硬化性組成物を提供する。
【0007】
本発明は、チオール成分及びアルケン成分をより相溶性のあるものにする方法を発見した結果であり、この方法により、これらの成分は特定の硬度を有するコーティングを生成するのに十分な濃度で存在することができ、かつ、耐スクラッチ性コーティングを得るのに十分に相溶性であることができる。シロキサンチオール及びシロキサンアルケンは、典型的には、硬質及び耐スクラッチ性の両方である組成物を作製するのに十分な相溶性がない。しかしながら、本発明の一部として、ケイ素を含まないチオール含有成分は、1つ以上の末端不飽和アルケニル基及び1つ以上のアルコキシシリル基(特に1つ以上のジ-及び/又はトリアルコキシシリル基)を有するフェニル含有ポリオルガノシロキサンと十分に混和して、硬質で耐スクラッチ性であるコーティングに二重硬化することができる組成物を形成することが今や発見された。
【0008】
更に、本発明は、ケイ素を含まないジメルカプト材料と、3つ以上のメルカプト基を有しシリコーンは含まないメルカプト材料との組み合わせを含有する組成物は、加工のし易さのために低い粘度を有することができ、かつ、特に高い硬度及び/又は耐スクラッチ性を有する硬化組成物に硬化することができる、ことを発見した。
【0009】
なお更に、本発明は、当該組成物から作製された硬化組成物の透明度、硬度及び/又は耐スクラッチ性のうちの1つ以上を増加させる一方で、組成物の粘度を低下させる反応性希釈剤としてアルコキシシランを含めることができることを発見した結果である。
【0010】
第1の態様では、本発明は、(a)2つ以上、好ましくは3つ以上のメルカプト基を含みケイ素は含まないメルカプト化合物と、(b)1分子当たり、1つ以上の末端不飽和アルケニル基、ケイ素原子のモル数に対して40モルパーセント以上のフェニル基、及び少なくとも1つのアルコキシシリル基を有する、直鎖状ポリオルガノシロキサンと、(c)1つ以上の末端不飽和アルケニル基及びケイ素原子のモル数に対して20モルパーセント以上のフェニル基を含有する樹脂状ポリオルガノシロキサンと、(d)光開始剤と、(e)湿気硬化型触媒と、を含む組成物であって、当該組成物中のメルカプト基の末端不飽和アルケニル基に対するモル比が、0.3~2.0の範囲にある、組成物である。
【0011】
本発明の組成物は、例えば、コーティング及びカプセル化材料として使用するための硬質で耐スクラッチ性の硬化組成物を作製するのに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
試験方法は、日付が試験方法番号と共に示されていない場合、本文書の優先日現在での直近の試験方法を指す。試験方法への言及は、試験の協会及び試験方法番号への参照の両方を含む。本明細書では、以下の試験方法の略語及び識別子が適用される。ASTMは、ASTMインターナショナル(ASTM International)を指し、ENは欧州規格(European Norm)を指し、DINは、ドイツ規格協会(Deutsches Institut fuer Normung)を指し、ISOは国際標準化機構(International Organization for Standardization)を指す。
【0013】
「複数の」とは、2つ以上を意味する。「及び/又は」とは、「及び、又は代替として」を意味する。全ての範囲は、特に指示がない限り、端点を含む。商品名で識別される製品は、本明細書に別途記載のない限り、本文書の優先日において、それらの商品名でサプライヤーから入手可能な組成物を指す。
【0014】
本明細書で使用される最も広い範囲の「光」は、電磁放射を指す。好ましくは、本明細書で使用される光は、可視光及び/又は紫外(UV)光を指す。
【0015】
「有機化合物」は、炭素を含有する化学化合物である。
【0016】
「ポリオルガノシロキサン」は、複数のシロキサン単位(「ポリシロキサン」)を含有する化合物であり、そのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つのケイ素原子に結合した有機基を有する。ポリシロキサンは、複数のシロキサン結合(Si-O-Si)を含み、典型的には、シロキサン結合を構成するシロキサン単位によって特徴付けられる。シロキサン単位は、M型、D型、T型及びQ単位からなる群から選択することができる。慣例により、M単位は式(CHSiO1/2を有し、D単位は式(CHSiO2/2を有し、T単位は式(CH)SiO3/2を有し、及びQ単位は式SiO4/2を有する。M型、D型及びT型単位は、従来の単位を指しており、その従来の単位は、水素、又はいくつかの他の部分で置き換えられる1つ以上のメチル基を有することができ、また、多くの場合、メチル基を置き換えている部分を識別する上付き文字を用いてシロキサン単位を文字で指定(siloxane unit letter designation)することによって識別される。例えば、DPhは、メチル基の1つがフェニル基で置き換えられたD単位を指し、DPhPhは、2つのメチル基の各々がフェニル基で置き換えられたD単位を指す。本明細書では、樹脂状ポリオルガノシロキサン配合物で使用される下付き文字は、分子中の全てのシロキサン単位を基準とした関連シロキサン単位の平均モルパーセントを示し、一方、直鎖状ポリオルガノシロキサンで使用される下付き文字は、分子中の関連シロキサン単位の平均絶対数を示す。
【0017】
「メルカプト」基は、硫黄-水素結合(-SH)を含有する基である。チオール基は、有機基(R)がメルカプト基(R-SH)に結合されているメルカプト基の例である。
【0018】
「アクリル化合物」(メタ)アクリレート基を含有する材料。「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート、アクリレート及びこれらの組み合わせを指す。
【0019】
「アルキレン」は、二価飽和脂肪族ラジカルである。アルキルは、炭素-炭素二重結合を開裂することによって、又は異なる炭素原子から2つの水素原子を除去することによって、形成することができる。
【0020】
「末端不飽和アルケニル基」とは、対応するアルケン基からアルケニル基を形成するために水素原子が除去されたであろう位置から離れた炭素鎖の末端の炭素と隣接する炭素との間に炭素-炭素二重結合を有するアルケニル基を意味する。例えば、アリル基は、末端不飽和アルケニル基である。疑義を避けるために、ビニル基もまた、末端不飽和アルケニル基とみなされる。
【0021】
式中、x及びyが数字である「Cx~y」の形式の表現は、xからyまでの炭素原子を有する成分を指す。
【0022】
室温(「R.T.」)は摂氏25度(℃)である。
【0023】
CPA-42Zコーンスピンドルを使用するBrookfield DV1粘度計を使用して、25℃での材料の粘度を特性評価する。
【0024】
ショアA硬度によって硬化組成物の硬度を特性評価する。2ジュール/平方センチメートル(J/cm)のUVA+UVBを照射することによって、800マイクロメートルの厚さの膜を硬化させ、続いて、摂氏23度(℃)で7日間硬化させることができる。層膜を一緒にして、6.5ミリメートル(mm)厚のスタックを得、そのスタックを使用してショアA硬度を測定する。ASTM D2240に従って、当該スタックに関するショアA硬度を測定する。
【0025】
組成物の889マイクロメートル(35ミル)膜をポリテトラフルオロエチレンシート上に引き出し、Colight UV-6を使用して、1平方センチメートル当たり300ミリワットの強度で、3ジュール/平方センチメートルのUV照射、続いて7日間の25℃での硬化によって、硬化組成物の引張強度を特性評価した。5mmのゲージ幅及び2.54cmの肩部の長さを有するDrakeダイを使用して、得られた硬化膜からドッグボーン形状の試験片を切り出した。Instron 5566で引張試験を行い、少なくとも3回の繰り返しの結果を平均した。
【0026】
次の鉛筆スクラッチ試験によって、硬化組成物の耐スクラッチ性(鉛筆硬度測定)を特性評価する:FR4ボード(ガラス強化エポキシ積層シート)上に60マイクロメートルの厚さの組成物のコーティングをキャストし硬化させることによって、組成物の硬化コーティングを準備し、2J/cmのUVA+UVB放射線を照射し、続いて23℃で7日間硬化させる。Derwentグラフィック鉛筆を備えるBYK-Gardner 5800 Wolf-Wilburn Pencil Hardness Testerを使用して特性評価を行う。ドラフトマンタイプシャープナー(draftsman-type sharpener)で各鉛筆を鋭利にする。各鉛筆の鋭利な芯先端点(lead point)を、400番研磨紙で水平に90度の角度で保持して、芯先端(lead tip)上に滑らかで平坦な円形断面を得る。最も硬いグレードの芯から開始して、鉛筆の芯の先端を、コーティングの表面に対して45度の角度で、しっかりと位置決めしたコーティング上に置く。膜をスクラッチしたり、又は芯の縁を揉んだりするのに十分な圧力を加えながら、鉛筆を、コーティングの上に少なくとも3mm押し込む。次のより柔らかいグレードの芯を用いて硬化コーティングの損傷していない部分で試験を繰り返し、コーティングをスクラッチしないグレードの芯で試験を行うまで、より柔らかいグレードの芯で繰り返し試験を続ける。コーティングをスクラッチしない芯の最も硬いグレードは、硬化コーティングの耐スクラッチ性のレベルに対応している。試験のための芯のグレードは、最も硬いグレードから最も柔らかいグレードの順で、9H、8H、7H、6H、5H、4H、3H、2H、H、F、HB、B、2B、3B、4B、5B、6B、7B、8B、9xxBである。
【0027】
厚さ60マイクロメートルの膜をFR4ボード上に引き込み、UV及び湿気硬化させて硬化膜を形成することによって、摩擦係数(CoF)を特性評価する。硬化膜をテクスチャアナライザーの試験面上に置き、その上に1056グラムのスレッド及び重りを置き、スレッドと膜との間に2.54センチメートル(cm)×1.54cmの紙片を挟む。スレッドを膜に沿って42mmの距離で、毎秒2.5mmの速度で移動させることによって試験を実行する。動摩擦係数(CoKF)は、試験中の10~15秒の力の平均であり、試験の3~5回の繰り返しの平均である。
【0028】
分子量は、特に明記しない限り、重量平均分子量を指す。Waters 515ポンプ、Waters 717オートサンプラー、及びWaters 2410示差屈折計を使用した三重検出ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、重量平均を測定した。分離は、PLgel 5μmガードカラム(50mm×7.5mm)によって先行された、2つの(300mm×7.5mm)Polymer Laboratories PLgel 5マイクロメートル(μm)混合Cカラム(分子量分離範囲200~2,000,000ダルトン)を用いて行った。溶離液として1.0ミリリットル(mL)/分で流れるHPLCグレードのトルエンを使用し、カラム及び検出器を用いて45℃で分析を行う。5ミリグラム/mLの濃度でトルエン中試料を調製し、適宜振盪しながら、室温で約3時間、溶媒和させ、0.45μmのポリテトラフルオロエチレンシリンジフィルターを通して濾過し、次いで分析した。75マイクロリットルの注入量を使用し、データを25分間収集する。ThermoLabsystems Atlas chromatography software及びPolymer Laboratories Cirrus BPC softwareを使用して、データ収集及び分析を行う。580~2,300,00ダルトンの分子量範囲にわたってポリスチレン標準を使用して作成した較正曲線(3次)を基準として、平均分子量を決定する。
【0029】
ポリシロキサンの場合、29Si、13C及びH核磁気共鳴分光法を使用して、シロキサン単位の数又はモル比に関する下付き文字の値を決定する(例えば、The Analytical Chemistry of Silicones,Smith,A.Lee,ed.,John Wiley & Sons:New York,1991,p.347ff.を参照されたい)。
【0030】
本発明の組成物は、アクリル化合物を含有する場合、又は含まない場合がある。(メタ)アクリル系硬化システムは、それらが酸素に感受性であり、酸素によって阻害されることに悩まされている。本発明の組成物は、アクリル化合物を含めなくてもよく、それらの硬化に伴い酸素を回避する必要を回避することができる。
【0031】
本発明の組成物は、例えば、光及び湿気によって硬化して、硬質(少なくとも50、好ましくは少なくとも60のショアA硬度)かつ耐スクラッチ性(少なくとも4B、好ましくは少なくとも3Bの鉛筆耐スクラッチ性)の硬化材料を形成することができるコーティング、カプセル化材料、ポッティング及び接着材料として有用である。
【0032】
本発明の組成物は、(a)ケイ素を含まないメルカプト化合物と、(b)フェニル及び末端不飽和アルケニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンと、(c)フェニル及び末端不飽和アルケニル基を有する樹脂状ポリオルガノシロキサンと、(d)光開始剤と、(e)湿気硬化型触媒と、(f)任意選択で、アルコキシシラン化合物と、を含む。
【0033】
望ましくは、成分(a)、(b)及び(c)の合計重量は、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、98重量%以上、更に99重量%以上であり、同時に、当該組成物重量の100重量%未満である。望ましくは、組成物を作製するために使用される配合から成分(a)、(b)及び(c)の重量%を決定する。
【0034】
組成物におけるメルカプト基の末端不飽和アルケニル基に対するモル比は、望ましくは0.03以上、0.5以上、1.0以上、1.5以上、2.0以上であり、同時に、望ましくは2.0以下である。組成物を作製するために使用される成分から、組成物中のメルカプト基対不飽和基のモル比を決定する。
【0035】
成分(a)-ケイ素を含まないメルカプト化合物
本発明の組成物は、2つ以上、好ましくは3つ以上のメルカプト基(成分(a))を含みケイ素は含まないメルカプト化合物を含む。成分(a)は、組成物が硬化するときに架橋剤として機能し、メルカプト基は、成分(b)のポリオルガノシロキサン上の末端不飽和アルケニル基とのチオール-エン反応に関与する。
【0036】
ケイ素を含まないメルカプト化合物は、「ケイ素フリー」であり、化合物がケイ素原子を含有していないことを意味する。しかしながら、1分子当たり、ケイ素を含まないメルカプト化合物は、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、更には10以上のメルカプト基を含有し、同時に、ケイ素を含まないメルカプト化合物が含有することができるメルカプト基の数に既知の技術的上限は存在しないが、ケイ素を含まないメルカプト化合物は、典型的には、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下のメルカプト基を含有し、また、5以下、更には4以下のメルカプト基を含有する場合がある。メルカプト基の数は、ケイ素を含まないメルカプト化合物の全ての分子に関する平均値である。ケイ素を含まないメルカプト化合物の1分子当たりのメルカプト基の数を、好ましくは、組成物を調製するために使用される成分の構造に関する知識から決定する。組成物の作製に使用される材料が不明な場合は、核磁気共鳴(NMR)分光法及び元素分析を使用して、成分(a)に関する1分子当たりのメルカプト基の数を決定する。
【0037】
成分(a)は、組成物の重量に基づいて、5重量パーセント(重量%)以上、6重量%以上、7重量%以上、8重量%以上、9重量%以上、10重量%%以上、12重量%以上、13重量%以上、14重量%以上、16重量%以上、18重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上又は更には40重量%以上の濃度で組成物中に存在し、同時に、典型的には、45重量%以下、40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、19重量%以下、18重量%以下、17重量%以下、16重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、又は更に8重量%以下の濃度で存在する。組成物中の成分(a)の重量%は、好ましくは、組成物を作製するために使用される配合から決定される。組成物を作製する際に各成分がどれだけ含まれていたかが不明である場合、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、NMR及び元素分析によって成分(a)の重量%を決定する。
【0038】
成分(a)は、ジメルカプト化合物(2つのメルカプト基を含有する化合物である)及び3つ以上のメルカプト基を有するメルカプト化合物の両方を含みケイ素は含まないメルカプト化合物の組み合わせを、望ましくは、含むことができる、又はそれからなることができる。
【0039】
好適なケイ素を含まないジメルカプト化合物の例としては、以下の構造:
HS-(CHCHO)CHCHSH
(式中、下付き文字「e」は、1分子当たりのエトキシ基の平均値であり、1~5の範囲の値を有する)を有するものが挙げられる。
【0040】
3つ以上のメルカプト基を有しケイ素は含まないメルカプト化合物の例としては、トリメチロールプロパントリス(3-メルクトオポプロプリネート)及びペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロプリオネート)からなる群から選択される2つ以上の化合物のうちの任意の1つ又は任意の組み合わせが挙げられる。
【0041】
成分(b)-直鎖状ポリオルガノシロキサン
本発明の組成物は、1つ以上の末端不飽和アルケニル基、1つ以上のアルコキシシリル基、及びケイ素原子に対して40モルパーセント以上のフェニル基を含有する直鎖状ポリオルガノシロキサンを含む(成分(b))。他のシロキサン単位と比較して、主にD型シロキサン単位を含む直鎖状ポリオルガノシロキサン。好ましくは、直鎖状ポリオルガノシロキサンは、M型及びD型シロキサン単位からなる。しかしながら、直鎖状ポリオルガノシロキサンは、1分子当たり平均して、ゼロ、1つ又は2つのT型又はQ型シロキサン単位を含むことができる。
【0042】
末端不飽和アルケニル基.成分(b)は、1分子当たり、平均して、1以上、好ましくは2以上有し、また、3以上、4以上、5以上、6以上、8以上、9以上、又は更には10以上を有することができ、同時に、典型的には、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は更には2以下の末端不飽和アルケニル基を有することができる。成分(b)の1分子当たりの末端不飽和アルケニル基の平均数を、好ましくは、組成物を調製するときに成分(b)のために使用される化合物の構造の同一性から決定する。組成物を調製する際にどんな化合物が成分(b)に使用されたことが不明である場合、成分(b)の1分子当たりの末端不飽和アルケニル基の数を、H、13C及び29Si NMR分光法によって決定する。
【0043】
末端不飽和アルケニル基は、典型的には、ポリオルガノシロキサンのM型又はD型、好ましくはM型シロキサン単位のケイ素原子に結合されている。
【0044】
望ましくは、成分(b)のポリオルガノシロキサンは、1つ以上の、場合によっては2つ以上の末端ケイ素原子上に末端不飽和アルケニル基を有する。末端ケイ素原子は、ポリオルガノシロキサン中のM型単位の一部である。望ましくは、末端不飽和アルケニル基は、それ自体末端であり、不飽和が、基中の末端炭素原子と隣接炭素原子との間にあることを意味する。例えば、末端不飽和アルケニル基は、望ましくはビニル基である。末端不飽和アルケニル基は、好ましくは、ケイ素原子に直接結合されている。
【0045】
アルコキシシリル基.成分(b)のポリオルガノシロキサンはまた、1つ以上のアルコキシシリル基も含有する。アルコキシシリル基は、湿気硬化反応に関与するために必要である。アルコキシシリル基は、ケイ素原子から外に延びているアルコキシ基(-OR)を有し、式中、Rは、C1~8飽和ヒドロカルビル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル及びオクチル基)からなる基から選択される。成分(b)は、1分子当たり、1以上、2以上、3以上、4以上、更には5以上のアルコキシシリル基を有することができ、同時に、典型的には、1分子当たり、10以下、更に5以下のアルコキシシリル基を含有する。アルコキシシリル基の数は、1分子当たりのアルコキシシリル基の平均数である。望ましくは、本発明の組成物を作製するために使用される材料からアルコキシシリル基の平均数を決定する。組成物を作製するために使用される材料が不明である場合、NMR分光法及び赤外分光法によってアルコキシシリル基の平均数を決定する。
【0046】
アルコキシシリル基は、ケイ素原子に結合した単一のアルコキシを有することができ(モノアルコキシシリル)、又は単一のケイ素原子に結合した2つのアルコキシ基を有することができ(ジアルコキシ基)、又は単一のケイ素原子に結合した3つのアルコキシ基を有することができる(トリアルコキシ基)。成分(b)のポリオルガノシロキサンは、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基及びトリアルコキシシリル基の任意の組み合わせを有することができる。例えば、成分(b)は、必要なアルコキシシリル基としてトリアルコキシシリル基のみを有することができる。代替例として、成分(b)は、必要なアルコキシシリル基としてジアルコキシシリル基のみを有することができる。更に別の代替例として、成分(b)は、ジアルコキシシリル基とトリアルコキシシリル基との組み合わせを含有することができる。
【0047】
望ましくは、アルコキシシリル基は、ポリオルガノシロキサンの末端であり、硬化反応に関与するためにアルコキシシリル基が最もアクセス可能である(例えば、最も立体障害が少ない)。アルコキシ基(複数可)は、ポリオルガノシロキサンの末端M型シロキサン単位の一部であることができる。
【0048】
フェニル基.成分(b)の直鎖状ポリオルガノシロキサンは、好ましくはポリオルガノシロキサン骨格のケイ素原子に結合したフェニル基を含有する。ポリオルガノシロキサン上のフェニル基の存在は、本組成物が硬質な硬化組成物だけでなく耐スクラッチ性のある組成物へも硬化できるように、成分(a)及び成分(b)を十分に相溶性にするものであると考えられる。成分(a)及び(b)が互いと十分に相溶性ではない場合、硬質硬化組成物に硬化するのを可能にするには不十分な各々の濃度が組成物中に存在することになる、又は低い耐スクラッチ性によって証明される硬化組成物における脆弱性を引き起こす程度まで組成物において相分離が生じることになるかのいずれかである。
【0049】
ケイ素を含まないメルカプト化合物(成分a)と直鎖状ポリオルガノシロキサン(成分b)との間の好適な相溶性を達成するために、成分bは、成分(b)中のケイ素原子に対して40モルパーセント(モル%)以上のフェニル基を含有する。望ましくは、成分(b)は、成分(b)のケイ素原子に対して、40モル%以上、45モル%以上、50モル%以上、55モル%以上、60モル%以上、65モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、99モル%以上、100モル%以上、110モル%以上、120モル%以上、130モル%以上、140モル%以上、更には150モル%以上のフェニル基を含有し、同時に、成分(b)は、典型的には、成分(b)のケイ素原子に対して、200モル%以下のフェニル基を含有し、また190モル%以下、180モル%以下、170モル%以下、160モル%以下、150モル%以下、140モル%以下、130モル%以下、120モル%以下、110モル%以下、100モル%以下、95モル%以下、更には90モル%以下のフェニル基を含有することができる。成分(a)と(b)との間の相溶性を高めるために、より高い濃度のフェニル基が望ましいと考えられる。フェニル基は、置換又は非置換であることができる。非置換フェニル基は、式-C(1個の水素原子が除去されたベンゼン)を有する。置換フェニル基は、水素原子の1つ以上が、ハロゲン化物、アルキル、ヒドロキシル、又はビニル不飽和基(例えば、ビニル)などの別の化学部分で置き換えられているフェニル基である。特に、組成物は、全体として、上記のモル%のケイ素原子に対して、平均モル%のフェニル基を有することができ、好ましくはそれを有する。望ましくは、本発明の組成物を作製するために使用される材料からのケイ素原子に対してフェニル基のモル%を決定する。組成物を作製するために使用された材料が不明な場合は、H、13C及び29Si NMR分光法を使用して、ケイ素原子に対するフェニル基のモル%を決定する。
【0050】
直鎖状ポリオルガノシロキサンは、望ましくは以下の構造を有する:
(RSiO1/2)(R SiO2/2a’(PhRSiO2/2(XRSiO1/2
式中、
Rは、各出現において独立して、C2~8末端不飽和アルケニル基、C1~8アルキル基、C1~8置換アルキル基、及びフェニル基からなる群から選択される。望ましくは、Rは、各出現において独立して、メチル基及びフェニル基からなる群から選択される。
【0051】
は、C2~8末端不飽和アルケニル基からなる基から選択されます。好適なC2~8末端不飽和アルケニル基の例としては、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル及びオクテニルが挙げられる。好ましくは、R’は、ビニル基、アリル基及びヘキセニル基からなる群から選択される。
【0052】
は、各出現において独立して、C2~8末端不飽和アルケニル基、C1~8飽和アルキル基(例えば、メチル(-CH)、エチル(-CHCH)、プロピル(-CHCHCH)、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基など)及びXからなる群から選択される。好ましくは、Rは、メチル及びビニル基から選択される。
【0053】
Phは、フェニル基である。
【0054】
下付き文字aは、1分子当たりの(PhRSiO2/2)単位の平均数であり、典型的には、2以上、好ましくは4以上、6以上、8以上、10以上、12以上、14以上、16以上、18以上、更には20以上であり、同時に、典型的には、800以下であり、また、600以下、400以下、200以下、180以下、160以下、140以下、120以下、100以下、80以下、60以下、50以下、40以下、25以下、更には20以下であることができる。
【0055】
下付き文字a’は、1分子当たりの((RSiO2/2)単位の平均数であり、ゼロ以上の値であり、また2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上であることができ、同時に、一般的には200以下であり、また、180以下、160以下、140以下、120以下、100以下、80以下、60以下、40以下、及び20以下である。望ましくは、下付き文字a’は、下付き文字aよりも小さい数である。
【0056】
典型的には、直鎖状ポリオルガノシロキサンは、ゼロ以上を含有し、2以上、2以上、4以上、4以上、6以上、7以上、8以上、9以上、更には10以上のX基を含有する(R SiO2/2)単位を含有することができ、同時に、典型的には、40以下、20以下、10以下、更には5以下のX基を含有する(R SiO2/2)単位を含有することができる。
【0057】
Xはアルコキシシリル基である。Xの各出現は、独立して、アルコキシシリル基から選択され、分子中の2つのX基は、同じ又は異なるアルコキシシリル基であり得ることを意味する。アルコキシシリル基は、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、又はトリアルコキシシリル基であることができる。
【0058】
好適なアルコキシシリル基の一例は、以下の構造を有する:
-RSiR[(OSiR-R-SiR (OR3-c3-d
式中、R及びRは上で定義したとおりであり、Rは、各出現において独立して、C1~8飽和アルキレン基からなる群(例えば、メチレン(-CH-)、エチレン(-CHCH-)、プロピレン(-CHCHCH-)、ブチレン(-CH(CHCH-)、ペンチレン(-CH(CHCH-)、ヘキシレン(-CH(CHCH-)、ヘプチレン(-CH(CHCH-)、及びオクチレン(-CH(CHCH-)基など)から選択され、Rは、C1~8アルキル基、C1~8置換アルキル基から選択され、下付き文字cは、ゼロ、1又は2であり、下付き文字dは、ゼロ、1又は2の値であり、下付き文字eは、1~3の範囲の値である。望ましくは、X基は、次の特徴を有する:すなわち、Rは、メチルであり、Rは、各出現において、エチレンであり、Rは、各出現において独立して、メチル及びエチルからなる群から選択され(好ましくは、各出現においてRはメチルである)、下付き文字cは、ゼロの値を有し、下付き文字dは、1又は2つの値を有する(好ましくは、下付き文字dは1である)。
【0059】
成分(b)として使用するための好適なポリオルガノシロキサンの例は、各Rがメチルであり、Rがビニルであり、下付き文字aが20であり、Xが:
-CHCH-Si(CHOSi(CH-CHCH-Si(OCH
である上記の構造を有する。
【0060】
直鎖状ポリオルガノシロキサンは、典型的には、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、更には60重量%以上の濃度で組成物中に存在し、同時に、典型的には、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、更には50重量%以下の濃度で組成物中に存在する。
【0061】
成分(c)-樹脂状ポリオルガノシロキサン
硬化組成物において所望の硬度を達成するために、本組成物はまた、樹脂状ポリオルガノシロキサン(成分c)を含む。成分cは、1つ以上の末端不飽和アルケニル基と、ケイ素原子に対して20モルパーセント以上のフェニル基とを含有する。
【0062】
末端不飽和アルケニル基.樹脂状ポリオルガノシロキサンは、1分子当たり、平均して、1以上、好ましくは2以上有し、また、3以上、4以上、5以上、6以上、8以上、9以上、又は更には10以上の末端不飽和アルケニル基を有することができ、同時に、典型的には、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は更には2以下の末端不飽和アルケニル基を有することができる。樹脂状ポリオルガノシロキサンの1分子当たりの末端不飽和アルケニル基の平均数は、好ましくは、組成物を調製するときに、樹脂状ポリオルガノシロキサンに使用される化合物の構造の同一性から決定する。組成物を調製する際に樹脂状ポリオルガノシロキサンに使用された化合物が不明である場合、樹脂状ポリオルガノシロキサンの1分子当たりの末端不飽和アルケニル基の数を、H、13C及び29Si NMR分光法によって決定する。末端不飽和アルケニル基は、典型的には、ポリオルガノシロキサンのM型、D型、及び/又はT型シロキサン単位、好ましくはポリオルガノシロキサンのM型シロキサン単位のケイ素原子に結合される。
【0063】
望ましくは、樹脂状ポリオルガノシロキサンのポリオルガノシロキサンは、1つ以上の、場合によっては更には2つ以上の末端ケイ素原子上に、末端不飽和アルケニル基を有する。末端ケイ素原子は、ポリオルガノシロキサン中のM型単位の一部である。望ましくは、末端不飽和アルケニル基は、それ自体末端であり、不飽和が、基中の末端炭素原子と隣接炭素原子との間にあることを意味する。例えば、末端不飽和アルケニル基は、望ましくはビニル基である。末端不飽和アルケニル基は、好ましくは、ケイ素原子に直接結合されている。
【0064】
フェニル基.樹脂状ポリオルガノシロキサンは、好ましくはポリオルガノシロキサン骨格のケイ素原子に結合したフェニル基を含有する。ポリオルガノシロキサン上のフェニル基の存在は、本組成物が硬質な硬化組成物だけでなく耐スクラッチ性のある組成物へも硬化できるように、成分(a)及び成分(c)を十分に相溶性にするものであると考えられる。成分(a)及び(c)が互いと十分に相溶性ではない場合、硬質硬化組成物への硬化を可能にするのに不十分な各々の濃度が組成物中に存在することになる、又は低い耐スクラッチ性によって証明される硬化組成物における弱さを引き起こすような程度まで組成物において相分離が生じることになるかのいずれかである。
【0065】
ケイ素を含まないメルカプト化合物(成分a)と樹脂状ポリオルガノシロキサンとの間の好適な相溶性を達成するために、樹脂状ポリオルガノシロキサンは、樹脂状ポリオルガノシロキサン中のケイ素原子に対して40モルパーセント(モル%)以上のフェニル基を含有する。望ましくは、樹脂状ポリオルガノシロキサンは、樹脂状ポリオルガノシロキサンのケイ素原子に対して、20モル%以上、25モル%以上、30モル%以上、35モル%以上、40モル%以上、45モル%以上、50モル%以上、55モル%以上、60モル%以上、65モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、99モル%以上、100モル%以上、110モル%以上、120モル%以上、130モル%以上、140モル%以上、及び更には150モル%以上のフェニル基を含有し、同時に、樹脂状ポリオルガノシロキサンは、典型的には、樹脂状ポリオルガノシロキサンのケイ素原子に対して、200モル%以下のフェニル基を含有し、また190モル%以下、180モル%以下、170モル%以下、160モル%以下、150モル%以下、140モル%以下、130モル%以下、120モル%以下、110モル%以下、100モル%以下、95モル%以下、及び更には90モル%以下のフェニル基を含有することができる。成分(a)と(c)との間の相溶性を高めるために、より高い濃度のフェニル基が望ましいと考えられる。フェニル基は、置換又は非置換であることができる。非置換フェニル基は、式-C(1個の水素原子が除去されたベンゼン)を有する。置換フェニル基は、水素原子の1つ以上が、ハロゲン化物、アルキル、ヒドロキシル、又はビニル不飽和基(例えば、ビニル)などの別の化学部分で置き換えられているフェニル基である。特に、組成物は、全体として、前述のモル%のケイ素原子に対して、平均モル%のフェニル基を有することができ、好ましくはそれを有する。望ましくは、本発明の組成物を作製するために使用される材料からのケイ素原子に対してフェニル基のモル%を決定する。組成物を作製するために使用された材料が不明な場合は、H、13C及び29Si NMR分光法を使用して、ケイ素原子に対するフェニル基のモル%を決定する。
【0066】
望ましくは、樹脂状ポリオルガノシロキサンは、以下の構造を有する:
(R SiO1/2(R SiO2/2(RSiO3/2(SiO4/2
式中、
は、各出現において独立して、C2~8アルケニル基、C1~8アルキル基、フェニル基、アルコキシ基及びアルコキシシリル基からなる群から選択される。好ましくは、アルケニル基は、末端不飽和アルケニル基である。望ましくは、少なくとも1つのR、好ましくは(R SiO1/2)単位及び/又は(R SiO2/2)単位の少なくとも1つのRは、C2~8末端不飽和アルケニル基である。
【0067】
下付き文字w、x、y及びzは、分子中のシロキサン単位のモル数に基づく対応するシロキサン単位の平均モル%に対応し、wは、ゼロ以上、10以上、15以上、20以上、25以上、更には30以上、35以上、40以上、45以上、更には50以上であり、同時に、典型的には、75以下、50以下、45以下、40以下、35以下、30以下、25以下、20以下、15以下、又は更には10以下であり、xは、ゼロ以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上、更には50以上であり、同時に、典型的には、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下又は更には10以下であり、yは、ゼロ以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、75以上、更には80以上であり、同時に、典型的には、100以下、90以下、80以下、又は更には75以下であり、zは、ゼロ以上、5以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上、更には50以上であり、同時に、典型的には、60以下、50以下、40以下、30以下、20以下又は更には10以下であり、但し、(w+x+y+z)が100に等しく、(y+z)が20以上、(x+w)が10以上であり、成分cについて上記のフェニル基及びアルケニル基の必要な濃度が満たされている場合に限る。
【0068】
重量平均分子量は、典型的には、350ダルトン(Da)を超え、また500Da以上、750Da以上、1,000Da以上、2,000Da以上、2,500Da以上、5,000Da以上、10,000Da以上、20,000Da以上、30,000Da以上、更には40,000Da以上であることができ、同時に、典型的には100,000Da以下であり、また45,000Da以下、40,000Da以下、30,000Da以下、20,000Da以下、10,000Da以下、5,000Da以下、更には2,500Da以下であることができる。
【0069】
成分(c)として使用するための好適な樹脂状ポリオルガノシロキサンの例は、以下の構造を有する:
((CHViSiO1/225(PhSiO3/275
式中、Viは、ビニル基であり、Phは、フェニル基であり、当該分子は、1590Daの重量平均分子量を有する。
【0070】
典型的には、樹脂状ポリオルガノシロキサンの濃度は、組成物重量に基づいて、30重量%以上であり、また、40重量%以上、更には50重量%以上であることができ、同時に、一般的に70重量%以下、好ましくは60重量%以下であり、また、50重量%以下であることができる。
【0071】
成分(d)-光開始剤
本発明の組成物、光開始剤(成分(d))光開始剤は、光に曝露されたときにフリーラジカルを生成する。望ましくは、光開始剤は、可視光光開始剤、UV光光開始剤、又はこれらの組み合わせである。最も好ましくは、光開始剤は、UV光光開始剤である。
【0072】
可視光光開始剤は、可視光(波長390~700ナノメートルの範囲の波長)に曝露されるとフリーラジカルを発生させる分子である。好適な可視光光開始剤としては、カンホキノンペルオキシエステル開始剤、非フルオレンカルボン酸ペルオキシエステル開始剤、及びアルキルチオキサントン、例えば、イソプロピルチオキサントンからなる群から選択される2つ以上の化合物のうちの任意の1つ又は任意の組み合わせが挙げられる。
【0073】
UV光光開始剤は、紫外線への曝露時にフリーラジカルを発生させる分子である。好適なUV光開始剤としては、ベンゾフェノン、置換ベンゾフェノン、アセトフェノン、置換アセトフェノン、ベンゾイン、及びそのアルキルエステル、キサンタン、及び置換キサントンからなる群から選択される2つ以上の化合物のうちの任意の1つ又は任意の組み合わせが挙げられる。特に望ましいUV光開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン(DEAP)、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ジエトキシキサントン、クロロ-チオキサントン、アゾ-ビスイソブチロニトリル、N-メチルジエタノールアミンベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
典型的には、光開始剤は、組成物重量に基づいて、0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%以上、2.0重量%以上、2.5重量%以上、3.0重量%の濃度で存在し、また、同時に、望ましくは5.0重量%以下、好ましくは4.0以下、3.0以下、又は2.0以下である。
【0075】
成分(e)-湿気硬化型触媒
本発明の組成物は、湿気硬化型触媒(成分(e))を含む。湿気硬化型触媒は、ポリオルガノシロキサン上のアルコキシシリル基が湿気と反応して硬化する速度を高める。好適な湿気硬化型触媒としては、チタン化合物、スズ化合物、及びジルコニウム化合物からなる群から選択される2つ以上の有機金属触媒のうちの任意の1つ又は組み合わせが挙げられる。好適なチタン化合物の例としては、テトライソプロピルオルトチタネート、テトラブトキシオルトチタネート、ジ(イソプロポキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ(イソプロポキシ)ビス(メチルアセトアセテート)チタン、ジ(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)チタンが挙げられる。好適なスズ化合物の例としては、ジブチルスズジラウレート及びジブチルスズジオクトエートが挙げられる。好適なジルコニウム化合物の例としては、テトラ(イソプロポキシ)ジルコニウム、テトラ(n-ブトキシ)ジルコニウム、テトラ(t-ブトキシ)ジルコニウム、ジ(イソプロポキシ)ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ(イソプロポキシ)ビス(メチルアセトアセテート)ジルコニウム、及びジ(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)ジルコニウムが挙げられる。
【0076】
典型的には、湿気硬化型触媒の濃度は、組成物重量に対して、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、及び更には3重量%以上であり、また、同時に、一般的に、3重量%以下、2重量%以下、又は更には、1重量%以下である。
【0077】
成分(f)-アルコキシシラン
本発明の組成物は、任意選択で、アルコキシシランを更に含むことができる。アルコキシシランは、反応性希釈剤として役立つ。反応性希釈剤は、反応性希釈剤を含まない組成物と比較して、組成物の粘度を低下させるのに役立つ。しかしながら、非反応性希釈剤とは異なり、反応性希釈剤は、組成物の硬化反応に関与し、結果として生じる硬化組成物に結合し、それらを硬化反応から抽出可能な成分であることを妨げる。
【0078】
驚くべきことに、アルコキシシランは、反応性希釈剤として機能し、また、おそらく組成物成分の相溶性を高めることによって、硬化組成物の最終的な特性も高めることが見出された。驚くべきことに、アルコキシシラン反応性希釈剤が組成物中に存在する場合、組成物は、アルコキシシランを含まない同一の組成物と比較して、より高い耐スクラッチ性及び/又はより高い硬度を有する硬化組成物へと硬化する。望ましくは、アルコキシシランは、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、又はジアルコキシとトリアルコキシシランとの組み合わせである。最も好ましくは、アルコキシシランは、トリアルコキシシランである。
【0079】
アルコキシシラン化合物は、望ましくは以下の構造を有する:
Si(OR4-f
式中、下付き文字fは、1、2又は3(好ましくは1又は2、最も好ましくは1)、及びRは、各出現において独立して、メチル、エチル、プロピル及びブチル基からなる群から選択される。好適なアルコキシシラン化合物の例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、及びジメチルジメトキシシランから選択される任意の1つ又は2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0080】
本発明の組成物は、組成物重量に基づいて、ゼロ重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上、4重量%以上、5重量%以上、6重量%以上、7重量%以上、8重量%以上、9重量%以上、更には10重量%以上を含有することができ、同時に、典型的には、20重量%以下、19重量%以下、18重量%以下、17重量%以下、16重量%以下、15重量%以下、14重量%以下、13重量%以下、12重量%以下、11重量%以下、又は10重量%以下のアルコキシシラン化合物を含有する。
【0081】
硬化組成物の特性における特定の利益は、驚くべきことに、アルコキシシランが、組成物重量に基づいて、2重量%以上、3重量%以上、4重量%以上、及び更には5重量%以上の濃度で存在し、同時に、10重量%以下、又は更には8重量%以下の濃度で存在するときに、明らかである。
【実施例
【0082】
材料:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート);テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート;トリメチロールプロパン、及びブチル化ヒドロキシトルエンは、Aldrichから購入され;1,8ジメルカプト-3,6-ジオキサンオクタンは、Arkemaから入手可能であり;フェニル系シリコーン樹脂及びポリマーは、米国特許第7527871(B2)号の教示に従って作製され/作製することができ;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンは、IGM樹脂、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)から入手可能であり;Pt触媒;メチルトリメトキシシラン、ジメチルメチル(メルカプトプロピル)シロキサン、及びジメチルビニル化シロキサンは、Gelestから市販されている。
【0083】
化合物A.2リットルのAtlasバッチ反応器において、500gのビニル末端-メチルフェニルシロキサンポリマー(MVi Ph 20)を、47.3gのHMeSiOSiMeSi(OMe)と混合した。その混合物を、350回転/分(rpm)で10分間撹拌し、次いで0.27gのPt触媒(トルエン中の2.15重量%のPt触媒)を混合物に添加した。反応混合物を窒素下、室温で3時間撹拌した。試料の赤外スペクトルは、2170cm-1でのSiHピークの完全な消失了を示すものであった。シロキサン上のビニル基の一部は、湿気硬化型トリアルコキシ含有官能基に変換され、化合物A、すなわち、MViPh 20{式中、A=-CH-CH-SiMeOSiMeCHCHSi(OMe)}が得られた。
【0084】
ブレンドB.500gのAtlasバッチ反応器で、MVi Phの組成を有する30gのシロキサンを、70gのシリコーン樹脂(MVi 25Ph 75)に添加し、次いで0.066gのPt触媒(トルエン中の2.15重量%のPt触媒)を、その混合物に添加した。その混合物を350rpmで10分間撹拌し、次いで42gのHMeSiOSiMeSi(OMe)を添加漏斗によって混合物に20分でゆっくりと添加した。その混合物を窒素下で室温で30分間撹拌し、次いで80℃に加熱し、80℃で1時間撹拌した。次いで、反応を室温付近まで冷却した。試料の赤外スペクトルは、2170cm-1でのSiHピークの完全な消失を示し、これはヒドロシリル化反応の完了を示すものであった。得られた混合物は、ブレンドB、すなわち、30重量%のMVi Ph (m+n=3)と混合された70重量%のMVi Ph 75 (x+y=25)であり、式中、A=-CH-CH-SiMeOSiMeCHCHSi(OMe)である。
【0085】
化合物C.トルエン中163.6gの55重量%シロキサン樹脂MVi 25Ph 75を、500mLの丸型ボトルに添加し、次いで、60gの化合物Aを、撹拌速度350rpmでシロキサン樹脂にゆっくりと添加した。添加後、トルエンをロータリエバポレータでストリップし、化合物C{40重量%のMViPh 20と混合された60重量%のMVi 25Ph 75(式中、A=-CH-CH-SiMeOSiMeCHCHSi(OMe))}が得られた。
【0086】
実施例1.100ミリリットル(mL)の歯科用カップに、60グラム(g)の化合物C及び9.2gのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を入れて、SHとビニルのモル比を1:1とし、その混合物を、1000rpmで20秒間、次いで2000rpmで30秒間、歯科用ミキサーで混合した。次いで、0.7gのメチルトリメトキシシラン及び0.21gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.11gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで30秒間混合した。次いで、その試料を30mLのシリンジに詰め、脱気した。その試料について上記の機械的試験を行った。硬化材料は、一平方ミリメートル当たり1.4ニュートン(N/mm)の引張強度、66±2のショアA硬度、及びBの鉛筆スクラッチ硬度を有する。
【0087】
実施例2(実施例1と比較して、XリンカーとしてSH有機物の異なる構造もまた、硬質な耐スクラッチ性コーティングを導き得る)100mLの歯科用カップに、60グラム(g)の化合物C及び4.6gのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)及び4.3gのペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を入れて、SHとビニルのモル比を1:1とし、その混合物を、1000rpmで20秒間、次いで2000rpmで30秒間、歯科用ミキサーで混合した。次いで、0.7gのメチルトリメトキシシラン及び0.21gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.11gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで30秒間混合した。次いで、その試料を30mLのシリンジに詰め、脱気した。材料を硬化させ、本明細書で上記したように、ショアA硬度、引張強度及び鉛筆スクラッチ硬度について試験する。硬化材料は、72±3のショアA硬度、2.29N/mmの引張強度、及びHの鉛筆スクラッチ硬度を有する。
【0088】
実施例3(実施例1及び2との比較;配合中の異なるフェニルシロキサン組成物も、硬質の耐スクラッチ性コーティングを提供する).100mLの歯科用カップに、10グラムの化合物B、40gの化合物C、及び9.4gのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を入れて、SHとビニルのモル比を1:1とし、その混合物を、1000rpmで20秒間、次いで2000rpmで30秒間混合した。次いで、0.7gのメチルトリメトキシシラン及び0.21gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.11gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで30秒間混合した。次いで、その試料を30mLのシリンジに詰め、脱気した。材料を硬化させ、本明細書で上記したように、ショアA硬度、引張強度及び鉛筆スクラッチ硬度について試験する。硬化材料は、72±2のショアA硬度、2.21N/mmの引張強度、及びHの鉛筆スクラッチ硬度を有する。
【0089】
実施例4.60mLの歯科用カップに、30gの化合物C及び3.82gの1,8ジメルカプト-3,6-ジオキサンオクタンを入れた。その混合物を、2000rpmで30秒間、歯科用ミキサーで混合し、次いで、0.106gのブチル化ヒドロキシトルエンと1.42gのメチルトリメトキシシランとの混合物を添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.271gの2-ヒドロキシ-メチルプロピオフェノン及び0.068gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、その混合物を2000rpmで60秒間混合した。次いで、その試料を30mLのシリンジに詰め、脱気した。材料を硬化させ、本明細書で上記したように、ショアA硬度、引張強度及び鉛筆スクラッチ硬度について試験する。その硬化材料は、54±2のショアA硬度、1.17N/mmの引張強度、及び3Bの鉛筆スクラッチ硬度を有する。
【0090】
比較例A(実施例1と比較して、フェニルビニルシリコーンが、SH官能化メチル系シリコーンと相溶性ではないことを実証する)。40mLの歯科用カップに、10gの化合物C、及び3.5重量%のSHを含有する12.7gのジメチルメチル(メルカプトプロピル)シロキサンを添加し、SHとビニルとの比を1:1とした。その混合物を1000rpmで20秒間混合し、次いで、2000rpmで30秒間混合した。歯科用混合後、依然として完全に混合されない。次いで、メチルトリメトキシシラン中0.219gの予め作製された0.17重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、0.079gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に0.041gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで30秒間混合し、次いで、更に2000rpmで120秒間混合した。その混合物は混合することができなかった。最終混合物は、非常に厚いフェニルシリコーン樹脂ポリマー相と、他の組成物との非常に希薄な相とを含有する。試料は、分離したビニルポリマー/樹脂相とメルカプタンシリコーン相とに起因して、UV照射下では硬化しなかった。
【0091】
比較例B.(実施例1と比較して、ビニルメチル系シリコーンがSH官能化有機物と相溶性ではないことを実証する)40mLの歯科用カップにおいて、0.45重量%のビニルを含有する6.8gのジメチルビニル化シロキサン(MViVi)、1.2重量%のビニルを含有する7gのジメチルビニル化シロキサン、及び0.45重量%のビニル含有量と0.8重量%のトリアルコキシ基とを有する4gのトリアルコキシ及びビニル官能性シロキサン、ヘキサメチルジシラザンで処理した3.2gのヒュームドシリカを、1000rpmで20秒間混合した。その混合物は半透明である。次いで、0.68グラムのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を添加して、SHとビニルとの比を1:1にした。その混合物を2000rpmで30秒間混合した。完全に混合すると、混合物は白色になる。次いで、メチルトリメトキシシラン中0.219gの予め作製された0.17重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、0.075gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に0.040gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで30秒間混合した。最終的な配合物は乳白色である。テフロンシート上へのドローダウン処方によって作製された35ミルの湿潤膜次いで、Colight UV-6で、2J/cmの紫外線を300mW/cmの強度で照射し、コーティングを行った。コーティングは、UV照射後、液体のままであった。
【0092】
比較例C.(実施例1と比較して、メチル系ビニル及びSH官能化シリコーンは相溶性であるが、低架橋密度及び低硬度となることを実証する)100mLの歯科用カップに、3.5重量%のSHを含有する4.6gのジメチルメチル(メルカプトプロピル)シロキサン、0.45重量%のビニルを含有する6.8gのジメチルビニル化シロキサン、1.2重量%のビニルを含有する7gのジメチルビニル化シロキサン、及び0.45重量%のビニル含有量と0.8重量%のトリアルコキシ基とを有する4gのトリアルコキシ及びビニル官能性シロキサン、ヘキサメチルジシラザンで処理した3.2gのヒュームドシリカを、SHとビニルとの比が1:1になるように添加した。その混合物を1000rpmで20秒間混合し、次いで2000rpmで30秒間混合した。メチルトリメトキシシラン中0.219gの予め作製された0.17重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、0.075gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に0.040gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで30秒間混合した。次いで、その試料を30mLのシリンジに詰め、脱気した。材料を硬化させ、本明細書で上記したように、ショアA硬度、引張強度及び鉛筆スクラッチ硬度について試験する。硬化材料は、25±1のショアA硬度、0.61N/mmの引張強度を有する。
【0093】
比較例D.(メチルシリコーン中のSH含有量が増加すると、ビニルシリコーンポリマー/樹脂と架橋剤とは不相溶性となる)100mLの歯科用カップに、7.0重量%のSHを含有する2.3gのジメチルメチル(メルカプトプロピル)シロキサン、0.45重量%のビニルを含有する6.8gのジメチルビニル化シロキサン、1.2重量%のビニルを含有する7gのジメチルビニル化シロキサン、及び0.45重量%のビニル含有量と0.8重量%のトリアルコキシ基とを有する4gのトリアルコキシ及びビニル官能性シロキサン、ヘキサメチルジシラザンで処理した3.2gのヒュームドシリカを、SHとビニルとの比が1:1になるように添加した。その混合物を1000rpmで20秒間混合し、次いで2000rpmで30秒間混合した。混合物は白っぽく混濁した。メチルトリメトキシシラン中0.219gの予め作製された0.17重量%のブチル化ヒドロキシトルエン及び0.075gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンを添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に0.040gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで30秒間混合した。材料を硬化させ、本明細書で上記したように、ショアA硬度及び引張強度について試験する。硬化材料は、20±1のショアA硬度を有する。
【0094】
【表1】
【0095】
化合物D.250mLのAtlasバッチ反応器において、84gのビニル末端メチルフェニルシロキサンMVi Ph 20及び16gのビニル末端メチルフェニルシロキサンMVi Phを、25gのHMeSiOSiMeSi(OMe)と混合した。その混合物を、350rpmで10分間撹拌し、次いで、0.116gのPt触媒(トルエン中の2.15重量%のPt触媒)を、混合物に添加した。反応混合物を、窒素下で室温で2時間、次いで、45℃で更に2時間、撹拌した。試料の赤外スペクトルは、2170cm-1でのSiHピークの完全な消失を示し、これはヒドロシリル化反応の完了を示すものであった。シロキサン上のビニル基の一部は、湿気硬化型トリアルコキシ含有官能基に変換され、化合物D、すなわち、{16重量%のM ViPh と混合された84重量%のMViPh 20、式中、x+y=3;A=-CH-CH-SiMeOSiMeCHCHSi(OMe)である}が得られた。
【0096】
化合物E.トルエン中255gの55重量%シロキサン樹脂MVi 25T7Ph 75(分子量1690Da)を、500mLの丸型ボトルに入れ、次いで、60gの化合物Dを、撹拌速度350rpmでシロキサン樹脂にゆっくりと添加した。添加後、トルエンをロータリエバポレータでストリップすると、化合物E{33.6重量%のMViPh 20及び6.4重量%のM ViPh と混合された60重量%のMVi 25Ph 75、式中、x+y=3、A=-CH-CH-SiMeOSiMeCHCHSi(OMe)である}が得られた。
【0097】
実施例5.20mLの歯科用カップに、10gの化合物E及び0.66gの1,8ジメルカプト-3,6-ジオキサンオクタンを入れ、その混合物を、歯科用ミキサーにおいて2000rpmで30秒間混合し、次いで、1.32gのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を添加し、その混合物を、2000rpmで60秒間混合した。次いで、0.05gのブチル化ヒドロキシトルエン及び0.25gのメチルトリメトキシシラン混合物を添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.10gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン及び0.37gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで60秒間混合した。本明細書で上記したように、材料を硬化させ、ショアA硬度及び引張強度について材料を試験する。その硬化材料は、1.12N/mmの引張強度及び72±2のショアA硬度、並びにHの鉛筆硬度を有する。
【0098】
実施例6.20mLの歯科用カップに、10gの化合物E及び0.77gの1,8ジメルカプト-3,6-ジオキサンオクタンを入れ、その混合物を、歯科用ミキサーにおいて2000rpmで30秒間混合し、次いで、1.15gのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を添加し、その混合物を、2000rpmで60秒間混合した。次いで、0.05gのブチル化ヒドロキシトルエン及び0.25gのメチルトリメトキシシラン混合物を添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.10gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン及び0.03gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテートを添加し、2000rpmで60秒間混合した。本明細書で上記したように、材料を硬化させ、ショアA硬度及び引張強度について材料を試験する。その硬化材料は、1.93N/mmの引張強度及び70±2のショアA硬度、並びにHの鉛筆硬度を有する。
【0099】
実施例7.20mLの歯科用カップに、10gの化合物E及び0.92gの1,8ジメルカプト-3,6-ジオキサンオクタンを入れ、その混合物を、歯科用ミキサーにおいて2000rpmで30秒間混合し、次いで、0.92gのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を添加し、その混合物を、2000rpmで60秒間混合した。次いで、0.05gのブチル化ヒドロキシトルエン及び0.25gのメチルトリメトキシシラン混合物を添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.10gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン及び0.03gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで60秒間混合した。本明細書で上記したように、材料を硬化させ、ショアA硬度及び引張強度について材料を試験する。その硬化材料は、1.81N/mmの引張強度及び68±2のショアA硬度、並びにHBの鉛筆硬度を有する。
【0100】
実施例8.20mLの歯科用カップに、10gの化合物E及び2.27gのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を入れ、その混合物を、2000rpmで45秒間混合した。次いで、0.05gのブチル化ヒドロキシトルエン及び0.25gのメチルトリメトキシシラン混合物を添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.10gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン及び0.03gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで60秒間混合した。本明細書で上記したように、材料を硬化させ、ショアA硬度及び引張強度について材料を試験する。硬化材料は、73±2のショアA硬度、2.34N/mmの引張強度、及びHの鉛筆スクラッチ硬度を有する。
【0101】
実施例9.20mLの歯科用カップに、10gの化合物E及び1.55gの1,8ジメルカプト-3,6-ジオキサンオクタンを入れ、その混合物を、2000rpmで30秒間混合した。次いで、0.05gのブチル化ヒドロキシトルエン及び0.25gのメチルトリメトキシシラン混合物を添加し、2000rpmで30秒間混合した。最後に、その混合物に、0.210gの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン及び0.03gのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテートを添加し、2000rpmで60秒間混合した。本明細書で上記したように、材料を硬化させ、ショアA硬度及び引張強度について材料を試験する。その硬化材料は、1.14N/mmの引張強度及び50±2のショアA硬度、並びに3Bの鉛筆硬度を有する。
【0102】
【表2】
【0103】
実施例10.40mLの歯科用カップに、20グラムの化合物C及び3.74グラムのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を入れ、その混合物を2000rpmで60秒間混合した。得られた混合物は混濁している。次いで、0.47グラムのメチルトリメトキシシランを添加し、2000rpmで60秒間混合した。混合物はわずかに混濁した。最後に、その混合物に、0.16グラムの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン及び0.048グラムのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで60秒間混合した。硬化させ、その材料を、本明細書で上記したようにショアA硬度及び引張強度について試験する。硬化材料は、76±2のショアA硬度、3.01N/mmの引張強度、及びHの鉛筆スクラッチ硬度を有する。
【0104】
実施例11.40mLの歯科用カップに、20グラムの化合物C及び3.74グラムのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を入れ、その混合物を2000rpmで60秒間混合した。得られた混合物は混濁している。次いで、1.9グラムのメチルトリメトキシシランを添加し、2000rpmで120秒間混合した。混合物は透明に変わる。最後に、その混合物に、0.16グラムの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン及び0.048グラムのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)を添加し、2000rpmで60秒間混合した。硬化させ、その材料を、本明細書で上記したようにショアA硬度及び引張強度について試験する。硬化材料は、80±2のショアA硬度、3.92N/mmの引張強度、及びHの鉛筆スクラッチ硬度を有する。
【0105】
実施例12.40mLの歯科用カップに、20グラムの化合物C及び3.74グラムのトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を入れ、その混合物を2000rpmで60秒間混合した。得られた混合物は混濁している。次いで、2.61グラムのメチルトリメトキシシランを添加し、2000rpmで120秒間混合した。混合物は透明に変わる。最後に、0.16グラムの2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン及び0.048グラムのジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテートを混合物に添加し、2000rpmで60秒間混合した。硬化させ、その材料を、本明細書で上記したようにショアA硬度及び引張強度について試験する。硬化材料は、80±2のショアA硬度、3.85N/mm(559psi)の引張強度、及びHの鉛筆スクラッチ硬度を有する。
【0106】
【表3】