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特許7263622Lactobacillus paracasei 207-27およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-14
(45)【発行日】2023-04-24
(54)【発明の名称】Lactobacillus paracasei 207-27およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20230417BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20230417BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230417BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20230417BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20230417BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20230417BHJP
   A23C 19/032 20060101ALI20230417BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20230417BHJP
   A23G 3/36 20060101ALI20230417BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61K35/747
A61K45/00
A61P29/00
A61P37/02
A61P31/12
A61P31/04
A61P37/08
A61P27/02
A61P17/00
A61P11/04
A61P1/04
A61P15/02
A61P15/00
A61P3/10
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P11/06
A61P13/02 105
A23L33/135
A23C9/123
A23C19/032
A23L2/38 G
A23G3/36
A23L2/00 F
A23L2/52
C12N1/20 E
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022513601
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 CN2021074672
(87)【国際公開番号】W WO2022041656
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】202010858415.8
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】GDMCC  GDMCC 60960
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521165585
【氏名又は名称】バイヘルス・カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】ジャーン,シュウグワーン
(72)【発明者】
【氏名】ゼ,シヤオレイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘ,ルイクン
(72)【発明者】
【氏名】ヘ,ファーン
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107916236(CN,A)
【文献】中国特許第104894021(CN,B)
【文献】カナダ国特許出願公開第03099668(CA,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02581461(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0150838(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
A61K 35/747
A61K 45/00
A61P 29/00
A61P 37/02
A61P 31/12
A61P 31/04
A61P 37/08
A61P 27/02
A61P 17/00
A61P 11/04
A61P 1/04
A61P 15/02
A61P 15/00
A61P 3/10
A61P 19/02
A61P 11/06
A61P 13/02
A23L 33/135
A23C 9/123
A23C 19/032
A23L 2/38
A23G 3/36
A23L 2/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lactobacillus paracaseiまたはその子孫、これに関し、該Lactobacillus paracaseiは、Guangdong Microbial Culture Collection Centerに寄託されており、GDMCC番号60960の受託番号を有し、ここで、子孫とは、増殖によってLactobacillus paracaseiにより産生される子孫細胞をさし、子孫は由来するLactobacillus paracaseiの機能を依然として保持するものである、Lactobacillus paracaseiまたはその子孫
【請求項2】
(i)請求項1に記載のLactobacillus paracaseiまたはその子孫、および
(ii)細菌、真菌、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される微生物、を含む組成物。
【請求項3】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項2に記載の組成物:
(1)微生物はプロバイオティクスである;
(2)細菌は、Lactobacillus spp.、Bifidobacterium spp.、Bacillus spp.、Propionibacterium spp.、Streptococcus spp.、Lactococcus spp.、Pediococcus spp.、Enterococcus spp.、Staphylococcus spp.、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される;
(3)真菌は酵母である;ならびに
(4)真菌は、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces boulardii、Kluyveromyces marxianus、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【請求項4】
Lactobacillus spp.の細菌が、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus jensenii、Lactobacillus iners、Lactobacillus casei、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus curvatus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus sakei、Lactobacillus salivarius、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項3または4に記載の組成物:
(1)Bifidobacterium spp.の細菌が、Bifidobacterium animalis、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium adolescentis、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され
(2)Bacillus spp.の細菌が、Bacillus subtilis、Bacillus coagulans、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され
(3)Propionibacterium spp.の細菌が、Propionibacterium shermanii、Propionibacterium freudenreichii、Propionibacterium acidipropionici、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され
(4)Streptococcus spp.の細菌が、Streptococcus thermophilus、Streptococcus salivarius、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され
(5)Lactococcus spp.の細菌が、Lactococcus lactisであならびに
(6)Enterococcus spp.の細菌が、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Enterococcus mundtii、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【請求項6】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項2~5のいずれか一項に記載の組成物:
(1)組成物が追加的な添加剤をさらに含む;
(2)組成物が栄養素をさらに含む
(3)組成物は、スターター培養物として使用され
(4)組成物中のLactobacillus paracaseiは、発酵プロセスに関与するためのスターター培養物として使用されならびに
(5)Lactobacillus paracaseiは10 ~10 12 CFU/用量の量で組成物中に存在する。
【請求項7】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項6に記載の組成物:
(1)栄養素は食物繊維、プレバイオティクス、タンパク質、脂質、ミネラル、ビタミン、植物抽出物、無機塩、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される;
(2)栄養素は植物ポリフェノールである;
(3)スターター培養物は、植物発酵製品のためのスターター培養物または乳製品のためのスターター培養物である;ならびに
(4)Lactobacillus paracaseiは10 ~10 12 CFU/用量の量で組成物中に存在する。
【請求項8】
請求項1に記載のLactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または請求項2~のいずれか一項に記載の組成物を含む、食品製品または栄養補助食品。
【請求項9】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項8に記載の食品製品または栄養補助食品
(1)食品製品は、固形飲料、キャンディ、もしくは果汁からなる群より選択されるか、または食品製品は乳製品である;
(2)食品製品は、ヨーグルト、フレーバー発酵乳、乳酸菌飲料、およびチーズからなる群より選択される;
(3)栄養補助食品は、経口投与のために製剤化されている;
(4)栄養補助食品は、丸剤、粉末、カプセル剤、錠剤、顆粒粉末、オペルキュラム、経口溶解顆粒、サシェ剤、糖衣錠または液体の形態にある;
(5)食品製品または栄養補助食品中のLactobacillus paracaseiは、10 ~10 12 CFU/用量の量で存在する;ならびに
(6)食品製品または栄養補助食品中のLactobacillus paracaseiは、10 ~10 12 CFU/用量の量で存在する。
【請求項10】
請求項1に記載のLactobacillus paracaseiまたはその子孫、および医薬的に許容しうるキャリアを含む医薬組成物。
【請求項11】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項10に記載の医薬組成物:
(1)医薬組成物はLactobacillus paracaseiの製剤を含む;
(2)医薬組成物は経口投与のために製剤化されている;
(3)医薬組成物は、丸剤、粉末、カプセル剤、錠剤、顆粒粉末、オペルキュラム、経口溶解顆粒、サシェ剤、糖衣錠または液体の形態にある;
(4)医薬組成物中のLactobacillus paracaseiは、10 ~10 12 CFU/用量の量で存在する;ならびに
(5)医薬組成物中のLactobacillus paracaseiは、10 ~10 12 CFU/用量の量で存在する。
【請求項12】
請求項1に記載のLactobacillus paracaseiまたはその子孫を含み、栄養提供成分を含んでもよい、培養物。
【請求項13】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項12に記載の培養物:
(1)培養物は、細菌、真菌、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される微生物をさらに含む;
(2)培養物は、酵母をさらに含む;
(3)栄養提供成分は、固体または液体培地、フィーダー細胞層、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される;
(4)栄養提供成分は、タンパク質、炭水化物、脂質、プロバイオティクス、酵素、ビタミン、免疫調節剤、代用乳、ミネラル、アミノ酸、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される;
(5)培養物は、Lactobacillus paracaseiの無細胞培養濾液をさらに含む;
(6)培養物は、Lactobacillus paracaseiの誘導体をさらに含み、誘導体は、代謝産物、酵素、細胞構造構成要素、細胞外多糖、バクテリオシン、免疫原性構成要素を含有する化合物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されてもよい;
(7)栄養提供成分はさらにLactobacillus paracaseiまたはその子孫の細胞壁またはその構成要素を含む;ならびに
(8)微生物は、生存または死滅した状態で、溶解物もしくは抽出物として、または細菌産物として、または上清として存在することができる。
【請求項14】
請求項1に記載のLactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または請求項2~7のいずれか一項に記載の組成物、または請求項10もしくは11に記載の医薬組成物、または請求項12もしくは13に記載の培養物の、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品の製造における使用、ここで、該医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、被験体において炎症を抑制するか、または炎症性疾患を緩和するために、あるいは被験体の免疫を改善するために、あるいは被験体における細菌性もしくはウイルス性感染症または自己免疫疾患を予防するために、あるいは被験体におけるアレルギー反応またはその症状を改善または緩和するために使用される、使用
【請求項15】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項14に記載の使用:
(1)炎症性疾患は、網膜炎症によって引き起こされる疾患、皮膚炎症によって引き起こされる疾患、気道炎症によって引き起こされる疾患、および消化管炎症によって引き起こされる疾患からなる群より選択される;
(2)細菌性またはウイルス性感染症は、細菌性インフルエンザ、ウイルス性インフルエンザ、尿路感染症、膣炎および子宮頸管炎からなる群より選択される;
(3)自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、糖尿病、関節リウマチ、および自己免疫性脳炎からなる群より選択される;
(4)アレルギー反応またはその関連症状は、湿疹、アトピー性皮膚炎、喘息、および食物アレルギーからなる群より選択される;
(5)医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、免疫細胞の活性化を促進するか、またはサイトカインの産生を促進する;
(6)医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、IgEレベルを低下させて、かつIgE媒介アレルギー反応を阻害することができる;
(7)医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、単独で、または追加的な抗真菌薬、鎮痛薬、抗炎症薬、治癒薬、もしくは保湿剤と組み合わせて使用される;
(8)被験体は哺乳類である;ならびに
(9)被験体はヒトである。
【請求項16】
以下のうちの1以上を特徴とする、請求項15に記載の使用:
(1)網膜炎症によって引き起こされる疾患が、網膜炎、または角膜炎である;
(2)皮膚炎症によって引き起こされる疾患が、皮膚炎、または湿疹である;
(3)気道炎症によって引き起こされる疾患が、上気道感染症である;
(4)消化管炎症によって引き起こされる疾患が、炎症性腸疾患である;
(5)サイトカインは、IL-10、IL-6、IL-12、TNF-α、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される;ならびに
(6)サイトカインは、IL-10である。
【請求項17】
請求項1に記載のLactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または請求項2~7のいずれか一項に記載の組成物、または請求項12もしくは13に記載の培養物の、スターター培養物の製造における使用、ここで、該スターター培養物は、固体食品または液体食品の発酵に使用される、使用
【請求項18】
以下のうちの1つまたは両方を特徴とする、請求項17に記載の使用:
(1)固体食品はチーズである;ならびに
(2)液体食品は、ヨーグルト、フレーバー発酵乳、乳酸菌飲料およびそれらの任意の組み合わせである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、Lactobacillus paracaseiまたはその子孫に関する。具体的には、本出願は、Lactobacillus paracasei 207-27およびそれを含む組成物、培養物、食品製品または栄養補助食品に関する。本出願はまた、医薬品またはヘルスケア製品の製造における、Lactobacillus paracasei 207-27およびそれを含む組成物、培養物、食品製品または栄養補助食品の使用にも関連する。
【背景技術】
【0002】
人体の免疫細胞の70%~80%はヒト腸に存在する。同時に、ヒト腸内の細菌の総数は100兆に達する可能性があり、全ヒト微生物の約78%を占める。したがって、腸は宿主免疫系が微生物と相互作用するための重要なプラットフォームを提供する。国際連合食糧農業機関(FAO)および世界保健機関(WHO)は、プロバイオティクスは、適切な量で投与されると宿主に健康上の利益を与える生きた微生物であると考えている。多数のin vitro試験および臨床試験により、プロバイオティクスは宿主の腸の健康および免疫調節において良好な適用効果を有することが示されている。
【0003】
プロバイオティクスは、さまざまな機序を介して宿主の免疫機能を調節することができる。粘膜バリア機能の点では、プロバイオティクスは粘膜細胞上の付着部位に関して侵入生物と競合することができ、それによって、細菌が粘膜を貫通して深部組織に入るのを防ぎ;腸上皮細胞間の密着結合を調節して、粘膜細胞のバリア機能を増強し;腸粘膜細胞の溶解およびアポトーシスを抑制し、消化管粘膜の完全性を維持する。プロバイオティクスは、貪食細胞、DCなどの抗原提示細胞(APC)の貪食活性を高め、NK細胞の殺傷能力を高め、そして、炎症応答の強度を制御するためにサイトカイン(例えば、IL-12、IFN-γ、TNF-αなどの炎症誘発性因子およびTGF-β、IL-10などの抗炎症性因子)の発現レベルを高めることによって、先天性免疫機能を高めることもできる。同時に、プロバイオティクスは、適応免疫を増強することができる。腸粘膜でコロニーを形成したプロバイオティクスは抗原刺激に対するTおよびBリンパ球の応答性を促進し、腸粘膜の関連リンパ系組織を刺激し、sIgAの分泌を誘発することができる。抗原物質としてのプロバイオティクスは、M細胞に貪食される可能性がある。M細胞の抗原はすぐに放出され、DCに取り込まれる。DCはナイーブCD4+ Tリンパ球に抗原を提示し、Th1またはTh2細胞を活性化してTh1の反応とTh2の反応の比率のバランスをとる。
【0004】
さらに、乳酸菌などのプロバイオティクスが上記の健康上の利益を身体に発揮できるかどうかは、菌株が、胃液中の低pH環境や小腸内の胆汁酸など、体内の消化管の防御機構を忍容しうるかどうかにも依存する。それらは、生きたまま腸に到達し、腸上皮細胞に接着し、腸内でコロニーを形成するときにのみ、有益な代謝産物を産生し、宿主と相互作用することができる。
【0005】
したがって、腸に入り、高い生存力を有することができる乳酸菌の選別は、プロバイオティクスの開発のための主要な考慮事項である。高い生存率のほか、宿主の免疫機能および抗アレルギー機能を調節する能力を有するプロバイオティクスは、いまだに開発されていない。
【発明の概要】
【0006】
本発明では、特に指定のない限り、本明細書で使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。同時に、本発明をより良く理解するために、関連する用語の定義および説明を以下に提供する。
【0007】
本明細書中で使用される場合、「子孫」という用語は、増殖(例えば、培養培地中での培養による増殖)によって微生物により産生される子孫細胞をさす。微生物、特に細菌の増殖および培養において、特定の変化(例えば、1つまたはいくつかの塩基の変異)が遺伝物質において生じる可能性があり、これらの変化は、自然に起こり得るか、あるいは化学的および/もしくは物理的因子(例えば、変異原)および/または当該分野で公知の組換えDNA技術での変異誘発の結果であり得ることは、容易に理解される。したがって、本明細書中のLactobacillus paracaseiの子孫は、遺伝物質が本発明のLactobacillus paracaseiと比較して変化していないかまたは変化している子孫を包含することが意図される。言うまでもなく、子孫は、それらが由来する菌株の機能を依然として保持する(例えば、免疫を増強すること、アレルギー反応を改善することなどが可能である)。
【0008】
本明細書中で使用される場合、「医薬的に許容しうるキャリア」という用語は、被験体および活性成分と薬理学的および/または生理学的に適合するキャリアをさし、これは、当該分野で周知であり(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences。Gennaro AR編集、第19版。ペンシルベニア州:Mack Publishing Company、1995年参照)、以下を包含するが、これらに限定されない:pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤。例えば、pH調整剤としては、限定されるものではないが、リン酸緩衝液が挙げられ;界面活性剤としては、限定されるものではないが、カチオン性、アニオン性、または非イオン性界面活性剤、例えばTween-80が挙げられ;イオン強度増強剤としては、限定されるものではないが、塩化ナトリウムが挙げられる。
【0009】
本明細書で使用される場合、「栄養補助食品」という用語は、消費者に有益な効果(例えば、栄養学的効果、予防効果、治療効果、または他の有益な効果)を提供することができる食用製品をさす。この文脈において、栄養補助食品は、ヘルスケア製品、栄養製品、サプリメントおよび他の製品を包含する。
【0010】
本明細書中で使用される場合、「医薬品」という用語は、ヒト医学および獣医学においてヒトおよび動物の両方において使用される医薬品、ならびに動物飼料(例えば、家畜飼料および/またはペットフード)に組み込むために使用される医薬品を包含する。さらに、本明細書で使用される「医薬品」という用語は、治療効果、予防効果、および/または有益な効果を提供する任意の物質を意味する。本明細書で使用される「医薬品」という用語は、必ずしも販売承認を必要とする物質に限定されるわけではなく、化粧品、ヘルスケア製品、食品(例えば、飼料および飲料を含む)、プロバイオティック培養物、および栄養補助食品に使用することができる材料を包含する。
【0011】
本明細書で使用する場合、「CFU(コロニー形成単位)」という用語は、製品中の細菌、真菌および酵母などの微生物コロニーの総数をさし、通常、生菌数の計算に使用される。
【0012】
本明細書中で使用される場合、「CFU/用量」という用語は、被験体に毎日または毎回提供される組成物/食品製品または栄養補助食品/医薬組成物中に存在する細菌の量をさす。例えば、特定の態様において、食品製品または栄養補助食品中のLactobacillus paracaseiは、10~1012CFU/用量(例えば、10~1012CFU/用量)の量で存在する。この態様において、Lactobacillus paracaseiが食品製品(例えば、固形飲料、ヨーグルト)中に適用される場合、被験体に毎日または毎回提供される食品製品(例えば、固形飲料、ヨーグルト)は、約10~1012CFUのLactobacillus paracaseiを含有することができる。あるいは、言うまでもなく、このような細菌の量は、複数のバッチに分けて投与することもできる。被験体が任意の特定時間(例えば、24時間毎の期間)に受け取るLactobacillus paracaseiの総量が約10~約1012CFUである限り、上記食品製品または栄養補助食品の要件である、Lactobacillus paracaseiが10~1012CFU/用量(例えば、10~1012CFU/用量)の量で存在するということに合致する。
【0013】
本出願の発明者らは、多数の実験により、健康な新生児の腸管に由来する265菌株から、顕著な菌株特異的プロバイオティクス能力を有するLactobacillus paracaseiの菌株を選択した。本願発明者らは、多数の実験により、Lactobacillus paracaseiが胃液および胆汁酸塩の酸性環境に対して良好な忍容性を有し、腸管への接着能が高く、免疫を増強してアレルギー症状を改善または緩和することができることを確認し、本発明を完成させた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、プレート上で培養したLactobacillus paracasei 207-27のコロニー形態を示す。
図2図2は、グラム染色したLactobacillus paracasei 207-27の顕微鏡図を示す。
図3図3は、Lactobacillus paracasei 207-27での処置を受けた、または受けなかったOVAモデルマウスの血清IgEレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
したがって、第1の観点において、本出願はLactobacillus paracaseiまたはその子孫を提供し、該Lactobacillus paracaseiは、Guangdong Microbial Culture Collection Centerに寄託されており、GDMCC番号60960の受託番号を有する。
【0016】
第2の観点において、本出願は、Lactobacillus paracaseiまたはその子孫を含む組成物を提供する。
特定の態様において、組成物は、細菌、真菌(例えば、酵母)、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される微生物をさらに含む。
【0017】
特定の態様において、Lactobacillus paracaseiは、1以上の他の微生物種と組み合わせて使用することができ、該他の微生物種は、それが投与される宿主の健康に有益な効果を有することができる。
【0018】
特定の態様において、微生物はプロバイオティクスである。
特定の態様において、プロバイオティクスは、プロバイオティクス細菌、酵母、またはそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「プロバイオティクス細菌」という用語は、任意の非病原性細菌として定義され、生きた細菌として宿主に十分な量で投与される場合、宿主の健康に対し有益な効果を有することができる。
【0020】
特定の態様において、細菌は、Lactobacillus spp.、Bifidobacterium spp.、Bacillus spp.、Propionibacterium spp.、Streptococcus spp.、Lactococcus spp.、Pediococcus spp.、Enterococcus spp.、Staphylococcus spp.、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0021】
いくつかの態様において、Lactobacillus spp.の細菌は、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus jensenii、Lactobacillus iners、Lactobacillus casei、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus curvatus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus sakei、Lactobacillus salivarius、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0022】
特定の態様において、Bifidobacterium spp.の細菌は、Bifidobacterium animalis、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium adolescentis、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0023】
特定の態様において、Bacillus spp.の細菌は、Bacillus subtilis、Bacillus coagulans、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0024】
特定の態様において、Propionibacterium spp.の細菌は、Propionibacterium shermanii、Propionibacterium freudenreichii、Propionibacterium acidipropionici、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0025】
特定の態様において、Streptococcus spp.の細菌は、Streptococcus thermophilus、Streptococcus salivarius、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0026】
特定の態様において、Lactococcus spp.の細菌は、Lactococcus lactisである。
特定の態様において、Enterococcus spp.の細菌は、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0027】
特定の態様において、酵母は、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces boulardii、Kluyveromyces marxianus、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0028】
特定の態様において、組成物は、追加的な添加剤をさらに含む。
当業者なら、必要に応じて追加的な添加剤を選択し、調整することができる。特定の態様において、追加的な添加剤は、他の栄養素、ミネラル、ビタミン、またはそれらの任意の組合せからなる群より選択される。
【0029】
特定の態様において、追加的な添加剤は、それが投与される宿主の健康に対し有益な効果を有することができる。
特定の態様において、他の栄養素は、食物繊維、プレバイオティクス、タンパク質(例えば、酵素)、炭水化物、脂質(例えば、脂肪)、ミネラル、ビタミン、植物成分(例えば、植物抽出物)、アミノ酸、免疫調節剤、代用乳、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0030】
特定の態様において、ミネラルは、鉄、亜鉛、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
特定の態様において、ビタミンは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される。
【0031】
いくつかの態様において、組成物は、スターター培養物(例えば、植物発酵製品のためのスターター培養物、乳製品のためのスターター培養物)として働く。このような態様において、組成物中のLactobacillus paracaseiは、発酵プロセスに関与するためのスターター培養物として使用される。例えば、ヨーグルトを調製するプロセスにおいて、プロバイオティクスとしてのLactobacillus paracaseiは、ヨーグルトを調製するために新鮮な牛乳と一緒に発酵される。
【0032】
特定の態様において、組成物は、食品製品および/または栄養補助食品(例えば、ヘルスケア食品)を調製するために使用される。
特定の態様において、食品製品は、固形飲料、キャンディ、もしくは果汁からなる群より選択され;または、食品製品は乳製品(例えば、ヨーグルト、フレーバー発酵乳、乳酸菌飲料、チーズ)である。
【0033】
特定の態様において、栄養補助食品は、経口投与のために製剤化されている。
特定の態様において、栄養補助食品は、丸剤、粉末、カプセル剤、錠剤、顆粒粉末、オペルキュラム(operculum)、経口溶解顆粒、サシェ剤、糖衣錠または液体の形態にある。
【0034】
いくつかの態様において、好ましくは、Lactobacillus paracaseiは10~1012CFU/用量(例えば、10~1012CFU/用量)の量で組成物中に存在する。
【0035】
第3の観点において、本出願は、上記Lactobacillus paracaseiもしくはその子孫または上記組成物を含む食品製品または栄養補助食品を提供する。
文脈において、「食品」という用語は、ヒト用の食品および飲料、ならびに動物用の食品および飲料(すなわち、飼料)を含む広義である。特定の態様において、食品製品はヒトの消費に適しており、ヒトの消費のために設計されている。
【0036】
使用、適用様式または投与様式に応じて、本出願の食品製品は、液体、固体、懸濁液または粉末の形態にあることができることを、理解することができる。
特定の態様において、食品製品は、固形飲料、キャンディ、もしくは果汁からなる群より選択されるか、または、食品製品は乳製品(例えば、ヨーグルト、フレーバー発酵乳、乳酸菌飲料、チーズ)である。
【0037】
特定の態様において、栄養補助食品は、経口投与のために製剤化されている。
特定の態様において、栄養補助食品は、丸剤、粉末、カプセル剤、錠剤、顆粒粉末、オペルキュラム、経口溶解顆粒、サシェ剤、糖衣錠または液体の形態にある。
【0038】
特定の態様において、食品製品または栄養補助食品はまた、以下の物質のうちの1つまたは任意の組み合わせを含むことができる(ただし、これらに限定されない):プロバイオティクス(例えば、プロバイオティクス細菌)、食物繊維、プレバイオティクス、タンパク質(例えば、酵素)、炭水化物、脂質(例えば、脂肪)、ビタミン、ミネラル、植物成分(例えば、植物抽出物)、アミノ酸、免疫調節剤、代用乳、またはBifidobacterium breveもしくはその子孫の代謝産物もしくは抽出物。いくつかの態様において、本発明の組成物はまた、食品において許容され得るさまざまな甘味料または香味剤、調色物質、安定剤、流動促進剤、充填剤および他の補助材料と組み合わせることができる。
【0039】
特定の態様において、Lactobacillus paracaseiまたはその子孫は濃縮物の形態で存在する。
特定の態様において、食品製品または栄養補助食品中のLactobacillus paracaseiは、10~1012CFU/用量(例えば、10~1012CFU/用量)の量で存在する。
【0040】
第4の観点において、本出願は、上記Lactobacillus paracaseiまたはその子孫を含む医薬組成物を提供する。
本明細書中で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、ヒトにおいて使用される医薬組成物、ならびに動物において使用される医薬組成物(例えば、獣医学的適用)を包含する。特定の態様において、医薬組成物は、ヒトにおける使用のためのものである。
【0041】
特定の態様において、医薬組成物はLactobacillus paracaseiの製剤を含む。
特定の態様において、医薬組成物は医薬的に許容しうるキャリアを含む。
【0042】
特定の態様において、医薬組成物は経口投与のために製剤化されている。
特定の態様において、医薬組成物は、丸剤、粉末、カプセル剤、錠剤、顆粒粉末、オペルキュラム、経口溶解顆粒、サシェ剤、糖衣錠または液体の形態にある。
【0043】
特定の態様において、医薬組成物中のLactobacillus paracaseiは、10~1012CFU/用量(例えば、10~1012CFU/用量)の量で存在する。
【0044】
第5の観点において、本出願は、上記Lactobacillus paracaseiまたはその子孫を含む培養物を提供する。
特定の態様において、培養物は、細菌、真菌(例えば、酵母)、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される微生物をさらに含む。
【0045】
特定の態様において、培養物は栄養提供成分(例えば、固体または液体培地、フィーダー細胞層)をさらに含む。
いくつかの態様において、栄養提供成分は、プレバイオティクス、タンパク質(例えば、酵素)、炭水化物、脂質(例えば、脂肪)、プロバイオティクス、ビタミン、免疫調節剤、代用乳、ミネラル、アミノ酸、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0046】
特定の態様において、培養物はLactobacillus paracaseiまたはその子孫の無細胞培養濾液をさらに含む。
特定の態様において、培養物はLactobacillus paracaseiの誘導体またはその子孫をさらに含む。
【0047】
特定の態様において、誘導体は、代謝産物、酵素、細胞構造構成要素(例えば、細胞壁またはその構成要素)、細胞外多糖、バクテリオシン、免疫原性構成要素を含有する化合物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0048】
特定の態様において、微生物は、任意の形態で、例えば、生存または死滅した状態で、溶解物もしくは抽出物として、または細菌産物として、または上清として存在することができる。
【0049】
第6の観点において、本出願は、上記Lactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または上記組成物、または上記医薬組成物、または上記培養物の、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品の製造における使用を提供し、ここで、該医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、被験体において炎症を抑制するか、または炎症性疾患を緩和するために、あるいは被験体の免疫を改善するために、あるいは被験体における細菌性もしくはウイルス性感染症または自己免疫疾患を予防するために、あるいは被験体におけるアレルギー反応または関連症状を改善または緩和するために使用される。
【0050】
特定の態様において、炎症性疾患は、網膜炎症(例えば、網膜炎、角膜炎)によって引き起こされる疾患、皮膚炎症(例えば、皮膚炎、湿疹)によって引き起こされる疾患、気道炎症(例えば、上気道感染症)によって引き起こされる疾患、および消化管炎症(例えば、炎症性腸疾患)によって引き起こされる疾患からなる群より選択される。
【0051】
特定の態様において、細菌性またはウイルス性感染症は、細菌性インフルエンザ、ウイルス性インフルエンザ、尿路感染症、膣炎および子宮頸管炎からなる群より選択される。
特定の態様において、自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、糖尿病、関節リウマチ、および自己免疫性脳炎からなる群より選択される。
【0052】
特定の態様において、アレルギー反応または関連症状は、湿疹、アトピー性皮膚炎、喘息、および食物アレルギーからなる群より選択される。
いくつかの態様において、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、免疫細胞の活性化を促進し、サイトカインの産生を促進し、炎症を抑制し、または炎症性疾患を緩和することができる。
【0053】
特定の態様において、サイトカインは、IL-10、IL-6、IL-12、TNF-α、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
特定の態様において、抗炎症性サイトカインはIL-10である。
【0054】
いくつかの態様において、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、IgEレベルを低下させて、IgE媒介アレルギー反応を抑制することができる。
いくつかの態様において、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、単独で、または追加的な抗真菌薬、鎮痛薬、抗炎症薬、治癒薬(healing agent)、もしくは保湿剤と組み合わせて使用される。
【0055】
特定の態様において、被験体は哺乳類である。
特定の態様において、被験体はヒトである。
第7の観点において、本発明は、炎症を抑制するか炎症性疾患を緩和するため、あるいは細菌性もしくはウイルス性感染症または自己免疫疾患を予防するため、あるいはアレルギー反応またはその症状を改善または緩和するための方法を提供し、ここで、該方法は、上記Lactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または上記組成物、または上記医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0056】
特定の態様において、炎症性疾患は、網膜炎症(例えば、網膜炎、角膜炎)によって引き起こされる疾患、皮膚炎症(例えば、皮膚炎、湿疹)によって引き起こされる疾患、気道炎症(例えば、上気道感染症)によって引き起こされる疾患、および消化管炎症(例えば、炎症性腸疾患)によって引き起こされる疾患からなる群より選択される。
【0057】
特定の態様において、細菌性またはウイルス性感染症は、細菌性インフルエンザ、ウイルス性インフルエンザ、尿路感染症、膣炎および子宮頸管炎からなる群より選択される。
特定の態様において、自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、糖尿病、関節リウマチ、自己免疫性脳炎などからなる群より選択される。
【0058】
特定の態様において、アレルギー反応またはその関連症状は、湿疹、アトピー性皮膚炎、喘息、および食物アレルギーからなる群より選択される。
特定の態様において、上記Lactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または上記医薬組成物は、経口投与、注射投与(例えば、静脈内注射または筋肉内注射)、局所適用(例えば、塗抹)、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される方法によって投与される。
【0059】
特定の態様において、上記Lactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または上記医薬組成物は、単独で、または他の抗真菌薬、鎮痛薬、抗炎症薬、治癒薬、もしくは保湿剤と組み合わせて投与される。
【0060】
特定の態様において、被験体は哺乳類である。
特定の態様において、被験体はヒトである。
第8の観点において、本発明は被験体の免疫を改善するための方法を提供し、該方法は、上記Lactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または上記組成物、または上記医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0061】
特定の態様において、上記Lactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または上記医薬組成物は、経口投与、注射投与(例えば、静脈内注射または筋肉内注射)、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される方法によって投与される。
【0062】
特定の態様において、被験体は哺乳類である。
特定の態様において、被験体はヒトである。
第9の観点において、本発明は、上記Lactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または上記組成物、または上記培養物の、スターター培養物の製造における使用を提供し、ここで、スターター培養物は、固体食品(例えば、チーズ)または液体食品(例えば、ヨーグルト、フレーバー発酵乳、乳酸菌飲料)の発酵に有用である。
【0063】
有益な効果
本出願のLactobacillus paracaseiは、胃液および胆汁酸塩の酸性環境に対して良好な忍容性を有し、腸管への接着能が高く、マクロファージの活性を活性化してサイトカインの発現を促進することができる。とりわけ、本出願のLactobacillus paracaseiは、抗炎症因子IL-10の発現を著しく増加させることができ、炎症を抑制するか、炎症性疾患を緩和することができ、免疫を改善することができる。これに加えて、本出願のLactobacillus paracaseiは、血清IgEのレベルを低下させ、アレルギー反応を改善することができる。
【0064】
本発明の態様について、添付の図面および実施例と関連させて以下に詳細に記載する。しかしながら、当業者であれば、以下の図面および実施例は、本発明を例示するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するためには使用されないことを理解するであろう。添付の図面および以下の好ましい態様の詳細な説明に照らして、本発明のさまざまな目的および有利な観点が、当業者には明らかになるであろう。
【実施例
【0065】
生物学的材料の寄託に関する注記
Lactobacillus paracasei 207-27は、広州Xianlie Middle Roadのビルディング59、No.100の5階に位置するGuangdong Microbial Culture Collection Center(GDMCC)に寄託されている。これは受託番号GDMCC No.60960を有し、寄託時点は2020年1月15日である。
【0066】
発明を実施するための具体的モデル
ここで、本発明を以下の実施例を参照して説明する。実施例は、本発明を限定するのではなく、本発明を例示することを意図している。
特記しない限り、実施例に記載する実験および方法は、基本的に、当技術分野で周知であり、さまざまな参考文献に記載されている従来の方法に従って行われる。例えば、本発明において使用される免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス、および組換えDNAのような従来の技術は、以下に見出すことができる:Sambrook、FritschおよびManiatis、「MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL」、第2版(1989);「CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY」、F.M. Ausubel et al.編集、(1987);「METHODS IN ENZYMOLOGY」(シリーズ、Academic Publishing Company):「PCR 2:A PRACTICAL APPROACH」、M.J. MacPherson、B.D. Hames、およびG.R. Taylor編集(1995);およびANIMAL CELL CULTURE、R.I. Frescheni編集(1987)。
【0067】
これに加えて、実施例において具体的な条件が明記されていない場合、従来の条件または製造業者が推奨する条件に従って実施するべきである。使用した試薬または器具で、製造業者を示していないものは、すべて商業的に購入することができる従来の製品であった。当業者なら、態様は例示として本発明を説明するものであり、本発明によって特許請求される保護範囲を限定することを意図したものではないことがわかる。本明細書で言及されるすべての刊行物および他の参考文献は、その全体を参考として本出願で援用する。
本明細書は以下の発明の態様を包含する。
[項目1] Lactobacillus paracaseiまたはその子孫、これに関し、該Lactobacillus paracaseiは、Guangdong Microbial Culture Collection Centerに寄託されており、GDMCC番号60960の受託番号を有する。
[項目2] 項目1に記載のLactobacillus paracaseiまたはその子孫を含む組成物;
好ましくは、該組成物は、細菌、真菌(例えば、酵母)、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される微生物をさらに含み;
好ましくは、微生物はプロバイオティクスであり;
好ましくは、細菌は、Lactobacillus spp.、Bifidobacterium spp.、Bacillus spp.、Propionibacterium spp.、Streptococcus spp.、Lactococcus spp.、Pediococcus spp.、Enterococcus spp.、Staphylococcus spp.、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
好ましくは、酵母は、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces boulardii、Kluyveromyces marxianus、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
[項目3] Lactobacillus spp.の細菌が、Lactobacillus paracasei、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus jensenii、Lactobacillus iners、Lactobacillus casei、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus curvatus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus sakei、Lactobacillus salivarius、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、項目2に記載の組成物。
[項目4] Bifidobacterium spp.の細菌が、Bifidobacterium animalis、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium
adolescentis、またはそれらの任意の組み合わせ下からなる群より選択され;
好ましくは、Bacillus spp.の細菌が、Bacillus subtilis、Bacillus coagulans、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
好ましくは、Propionibacterium spp.の細菌が、Propionibacterium shermanii、Propionibacterium freudenreichii、Propionibacterium acidipropionici、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
好ましくは、Streptococcus spp.の細菌が、Streptococ
cus thermophilus、Streptococcus salivarius、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
好ましくは、Lactococcus spp.の細菌が、Lactococcus lactisであり;
好ましくは、Enterococcus spp.の細菌が、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Enterococcus mundtii、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される、
項目2に記載の組成物。
[項目5] 組成物が追加的な添加剤をさらに含む、項目2に記載の組成物、
好ましくは、追加的な添加剤は、他の栄養素(例えば、食物繊維、プレバイオティクス、タンパク質、脂質、ミネラル、ビタミン、植物成分(例えば、抽出物およびポリフェノール)、無機塩、ビタミン、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
好ましくは、組成物は、スターター培養物(例えば、植物発酵製品のためのスターター培養物、乳製品のためのスターター培養物)として使用され;
好ましくは、組成物中のLactobacillus paracaseiは、発酵プロセスに関与するためのスターター培養物として使用され;
好ましくは、組成物は、食品製品および/または栄養補助食品(例えば、ヘルスケア食品)を調製するために使用され;
好ましくは、食品製品は、固形飲料、キャンディ、もしくは果汁からなる群より選択されるか、または食品製品は乳製品(例えば、ヨーグルト、フレーバー発酵乳、乳酸菌飲料、チーズ)であり;
好ましくは、栄養補助食品は、経口投与のために製剤化されており;
好ましくは、栄養補助食品は、丸剤、粉末、カプセル剤、錠剤、顆粒粉末、オペルキュラム、経口溶解顆粒、サシェ剤、糖衣錠または液体の形態にあり;
好ましくは、Lactobacillus paracaseiは10 ~10 12
FU/用量(例えば、10 ~10 12 CFU/用量)の量で組成物中に存在する。
[項目6] 項目1に記載のLactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または項目2~5のいずれか一項に記載の組成物を含む、食品製品または栄養補助食品;
好ましくは、食品製品は、固形飲料、キャンディ、もしくは果汁からなる群より選択されるか、または食品製品は乳製品(例えば、ヨーグルト、フレーバー発酵乳、乳酸菌飲料、チーズ)であり;
好ましくは、栄養補助食品は、経口投与のために製剤化されており;
好ましくは、栄養補助食品は、丸剤、粉末、カプセル剤、錠剤、顆粒粉末、オペルキュラム、経口溶解顆粒、サシェ剤、糖衣錠または液体の形態にあり;
好ましくは、食品製品または栄養補助食品中のLactobacillus paracaseiは、10 ~10 12 CFU/用量(例えば、10 ~10 12 CFU/用量)の量で存在する。
[項目7] 項目1に記載のLactobacillus paracaseiまたはその子孫を含む医薬組成物;
好ましくは、医薬組成物はLactobacillus paracaseiの製剤を含み;
好ましくは、医薬組成物は医薬的に許容しうるキャリアを含み;
好ましくは、医薬組成物は経口投与のために製剤化されており;
好ましくは、医薬組成物は、丸剤、粉末、カプセル剤、錠剤、顆粒粉末、オペルキュラム、経口溶解顆粒、サシェ剤、糖衣錠または液体の形態にあり;
好ましくは、医薬組成物中のLactobacillus paracaseiは、10 ~10 12 CFU/用量(例えば、10 ~10 12 CFU/用量)の量で存在する。
[項目8] 項目1に記載のLactobacillus paracaseiまたはその子孫を含む培養物;
好ましくは、培養物は、細菌、真菌(例えば、酵母)、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される微生物をさらに含み;
好ましくは、培養物は、栄養提供成分(例えば、固体または液体培地、フィーダー細胞層)をさらに含み;
好ましくは、栄養提供成分は、タンパク質、炭水化物、脂質、プロバイオティクス、酵素、ビタミン、免疫調節剤、代用乳、ミネラル、アミノ酸、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
好ましくは、培養物は、Lactobacillus paracaseiまたはその子孫の無細胞培養濾液をさらに含み;
好ましくは、培養物は、Lactobacillus paracaseiの誘導体またはその子孫をさらに含み;
好ましくは、誘導体は、代謝産物、酵素、細胞構造構成要素(例えば、細胞壁またはその構成要素)、細胞外多糖、バクテリオシン、免疫原性構成要素を含有する化合物、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
好ましくは、微生物は、任意の形態で、例えば、生存または死滅した状態で、溶解物もしくは抽出物として、または細菌産物として、または上清として存在することができる。
[項目9] 項目1に記載のLactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または項目2~5に記載の組成物、または項目6に記載の医薬組成物、または項目7に記載の培養物の、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品の製造における使用、ここで、該医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、被験体において炎症を抑制するか、または炎症性疾患を緩和するために、あるいは被験体の免疫を改善するために、あるいは被験体における細菌性もしくはウイルス性感染症または自己免疫疾患を予防するために、あるいは被験体におけるアレルギー反応またはその症状を改善または緩和するために使用され;
好ましくは、炎症性疾患は、網膜炎症(例えば、網膜炎、角膜炎)によって引き起こされる疾患、皮膚炎症(例えば、皮膚炎、湿疹)によって引き起こされる疾患、気道炎症(例えば、上気道感染症)によって引き起こされる疾患、および消化管炎症(例えば、炎症性腸疾患)によって引き起こされる疾患からなる群より選択され;
好ましくは、細菌性またはウイルス性感染症は、細菌性インフルエンザ、ウイルス性インフルエンザ、尿路感染症、膣炎および子宮頸管炎からなる群より選択され;
好ましくは、自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス、糖尿病、関節リウマチ、および自己免疫性脳炎からなる群より選択され;
好ましくは、アレルギー反応またはその関連症状は、湿疹、アトピー性皮膚炎、喘息、および食物アレルギーからなる群より選択され;
好ましくは、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、免疫細胞の活性化を促進し、サイトカインの産生を促進し、炎症を抑制し、または炎症性疾患を緩和することができ;
好ましくは、サイトカインは、IL-10、IL-6、IL-12、TNF-α、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
好ましくは、抗炎症性サイトカインはIL-10であり;
好ましくは、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、IgEレベルを低下させて、IgE媒介アレルギー反応を抑制することができ;
好ましくは、医薬品または栄養補助食品またはヘルスケア製品は、単独で、または追加
的な抗真菌薬、鎮痛薬、抗炎症薬、治癒薬、もしくは保湿剤と組み合わせて使用され;
好ましくは、被験体は哺乳類であり;
好ましくは、被験体はヒトである。
[項目10] 項目1に記載のLactobacillus paracaseiもしくはその子孫、または項目2~5に記載の組成物、または項目7に記載の培養物の、スターター培養物の製造における使用、ここで、該スターター培養物は、固体食品(例えば、チーズ)または液体食品(例えば、ヨーグルト、フレーバー発酵乳、乳酸菌飲料)の発酵に使用される。
【0068】
実施例1. 菌株の分離および同定
本出願では、四川大学のWest China Women’s and Children’s Hospitalで出生した正期産新生児の大便試料から265株を分離し、そこからLactobacillus paracaseiの1株を選別し、Lactobacillus paracasei 207-27と命名した。そのうち、新生児の組み入れ基準は以下であった:成都5地区に居住、在胎期間37~42週、出生時体重2500~4000g、赤ちゃんは先天性異常または出産時欠陥を有していなかった。除外基準は以下であった:出産前1ヶ月以内に母親が抗生物質を使用していた;両親がエイズ、結核、B型肝炎などの感染症を有していた、および、新生児が、新生児肺炎などの重症疾患のため便の収集に適していなかった。
【0069】
生後1~4ヵ月の乳児から新鮮な便を収集し、無菌の便収集管に入れた。サンプリング後、それを4℃で一時保管し、サンプリング担当者が低温で研究室に送付し、大便試料の希釈および培養を行った。直ちに操作できない場合は4℃の嫌気性条件下で保存し、同日中に培養した。
【0070】
0.5gの便を秤量し、4.5mLの便希釈液(4.5gのKHPO、6.0gのNaHPO、0.5gのL-システイン塩酸塩、0.5gのTween-80、1.0gの寒天を1000mLの蒸留水と混合し、後で使用するために121℃で15分間オートクレーブ滅菌した)を加え、十分に振り混ぜた後、連続して10倍に希釈した。適した希釈度の便混合物100μLをL字型の棒で採取してLactobacillus選択寒天(84.0gのLBS選択培地、8.0gのLab-lemco粉末(Oxoid)、15.0gの酢酸ナトリウム・3HO、1000mLの純水、3.7mLの酢酸)表面上に広げ、37℃で48時間にわたり嫌気性培養を行った。LBSプレート上の疑わしいLactobacillusコロニー(通常、白色またはわずかに透明、滑らかな縁を有する円形)を採取し、MRS培地(Beijing Luqiao)上で二次培養し、好気性条件下、37℃で48時間培養した。好気性条件下でMRS上で増殖しうる菌株についてグラム染色および顕微鏡観察を行い、その結果を図2に示した。細菌(通性嫌気性タイプ)の酸素必要量および細菌形態(グラム陽性、多形性桿菌:長いまたは細長い棒状、湾曲した短い棒、棒状、きれいに切断され、概して鎖状に配置され、胞子はない)にしたがって、あらかじめLactobacillusであると判断された。それのプレート上での培養形状を図1に示した。
【0071】
分離株の蘇生および精製後、MerieuxのAPI 50 CHおよび16S rDNA配列決定を用いて、分離したLactobacillusをLactobacillus paracaseiと同定した。
【0072】
さらに、Lactobacillus paracasei 207-27の全ゲノムをPacBio Sequel2配列決定プラットフォームを用いて決定したところ、そのゲノム長は3151091bpであり、GC含量はそれぞれ46.33%(GC含量は、DNAの4つの塩基におけるグアニンおよびシトシンの比をさす)であり、染色体ゲノムは3149のコード遺伝子、59のtRNA遺伝子、15のrRNA遺伝子(5s rRNA、16s rRNAおよび23s rRNAを含む)、および35の他のタイプのRNA遺伝子を含有していた。
【0073】
上記PCR同定および全ゲノム配列決定実験の結果に基づいて、本出願は新規菌株、すなわち、Lactobacillus paracasei 207-27を得た。これを、2020年1月15日に寄託した。
【0074】
実施例2. Lactobacillus paracasei 207-27のプロバイオティクス特性に関する研究
1. Lactobacillus paracasei 207-27の酸および胆汁酸塩忍容性に関する実験的選別
1.1 試験細菌懸濁液の調製:Lactobacillus paracasei 207-27をMRS培地により蘇生させ、後で使用するために2回の継代に付した。48時間のMRS培養の後、細菌を2mLの便希釈液中にこすり落とし、ボルテックスしてよく混合し、濃度を大まかに10~10CFU/mLに調整した。
【0075】
1.2 模擬的な胃酸および胆汁酸塩培養液の調製
模擬胃酸培養液の調製:MRSブロス培養液を調製し、滅菌後、1mol/LのHCLで3.0のpH値に調整し、これにより模擬胃酸培養液を調製した。
模擬胆汁酸塩培養液の調製:MRSブロス培養液を調製し、滅菌後、ウシ胆汁酸塩を0.1%の濃度まで添加し、1mol/LのHCLで8.0のpHに調整した後、0.22μmの微孔質膜で濾過滅菌し、これにより胆汁酸塩培養液を調製した。
【0076】
1.3 胃酸および胆汁酸塩の忍容試験
Lactobacillus paracasei 207-27の酸忍容試験:0.9mLの模擬胃酸培養液をEP管に入れ、調製した細菌懸濁液0.1mLを加え、ボルテックスしてよく混合した後、嫌気性インキュベーターに入れ、37℃で2時間培養した。試験は0時間目および2時間目に行い、各時点での株について3つの平行試験を設定した。pHを調整していないMRSブロス(pH=7)を対照として使用し、細菌の増殖を観察し、他の因子によって引き起こされる細菌の死を除外した。
【0077】
Lactobacillus paracasei 207-27の胆汁酸塩忍容試験:0.9mLの胆汁酸塩培養液をEP管に入れ、調製した細菌懸濁液0.1mLを加え、ボルテックスしてよく混合した後、嫌気性インキュベーターに入れ、37℃で24時間培養した。試験は0時間目および24時間目に行い、各時点での株について3つの平行試験を設定した。胆汁酸塩を含まないMRSブロス(pH=7)を対照として使用し、細菌の増殖を観察し、他の因子によって引き起こされる細菌の死を除外した。
【0078】
上記培養終了後、直ちに10倍勾配希釈を行い、適切な希釈度の希釈液をMRSプレートにスポット接種し、嫌気性条件下、37℃で24~48時間培養し、計数に付した。0時間目の希釈接種の計数結果を初期細菌濃度として使用した。結果を、以下の式に従って算出した生存率と比較した:
生存率(%)=培養後の生菌濃度(CFU/mL)/0時間目の生菌濃度(CFU/mL)×100
実験結果は、pH=3の模擬胃酸培養溶液中での2時間消化後のLactobacillus paracasei 207-27の生存率は81.3%であり;胆汁酸塩培養溶液中での24時間培養後の生存率は78.9%であることを示した。したがって、Lactobacillus paracasei 207-27は胃酸および胆汁酸塩に対し良好な忍容性を有し、上部消化管の極限環境に効果的に抵抗して、結腸などの下部消化管に到達して健全な機能を発揮できることがわかった。したがって、Lactobacillus paracasei 207-27は、プロバイオティクスとしての基本的要件を満たしている。
【0079】
2. Lactobacillus paracasei 207-27の腸粘膜への接着能
2.1 接着試験法:MESプレート上で3世代にわたりLactobacillus paracasei 207-27を蘇生および二次培養した後、細菌懸濁液のOD600吸光度を0.597±0.005(1×10CFU/mLの濃度)に調整した。市販株Bifidobacterium animalis subsp.Lactis BB-12およびLactobacillus rhamnosus LGGを、平行実験のための対照株として使用し、それらの細菌懸濁液を、上記と同じ方法に従って調製した。
【0080】
500μg/mLのムチン溶液を1ウェル当たり100μLで96ウェルのMaxisorpプレート(Nunc)に加え、4℃の冷蔵庫で一晩インキュベートした。それを取り出し、1ウェル当たり200μLのPBSで3回洗浄した後、1%のTween 20を含有する1ウェル当たり100μLのPBSで1時間にわたり遮断した。調製した細菌懸濁液100μLを採取し、マイクロウェルに添加し、各株について3つの平行物を設定した。同時に、添加する細菌懸濁液の代わりにPBSをブランク対照として使用し、3つの平行物を設定した。4℃の冷蔵庫でインキュベーションを一晩行った。インキュベーション後、それを取り出し、0.05%のTween 20を含有するPBSで3回洗浄して、未接着細菌を除去した。その後、60℃のオーブンで1時間乾燥した。乾燥したマイクロプレートに1ウェル当たり100μLの1%クリスタルバイオレット溶液を加え、45分間染色した。次いで、PBSで6回洗浄し、無水エタノールを加え、10分間そのまま放置して染色液を放出させた。最後に、590nmの波長における各ウェルの吸光度をマイクロプレートリーダーにより測定した。
【0081】
2.2 Lactobacillus paracasei 207-27の接着の結果:Lactobacillus paracasei 207-27の接着試験の結果を表1に示した。
【0082】
【表1】
【0083】
ムチンは、多量の粘液を産生する腸上皮細胞の主要構成要素である。粘液は病原性微生物との接触から腸粘膜細胞を保護し、病原性細菌が上皮細胞に侵入するのを防ぎ、それによって上皮細胞の正常な機能を保護することができる。プロバイオティクスは、腸粘膜の付着点を占拠することによって、腸上皮細胞に、腸粘膜表面にバイオフィルムを形成するムチンを分泌させて、外来細菌が腸粘膜に付着するのを防ぐことができることが、研究により示されている。ムチンのオリゴ糖鎖は、さまざまなプロバイオティクスに結合する多数の特異的部位を含有し、特に糖鎖末端のエピトープは、腸内プロバイオティクスのフローラを選別および同定し、腸内プロバイオティクスのコロニー形成を補助することもできる。
【0084】
本実験の結果は、Lactobacillus paracasei 207‐27が、市販株Bifidobacterium animalis BB12およびLactobacillus rhamnosus LGGと比較して、同様のムチン結合能を有することを示した。したがって、出願人は、Lactobacillus paracasei 207-27は腸粘膜に効果的に付着することができ、優れたコロニー形成能を有すると考えている。これに基づき、それは、腸粘膜の表面を占拠し、プロバイオティクスのバリアを形成し、有害細菌のコロニー形成および侵入を抑制し、これにより、腸内フローラを効果的に調節し、腸免疫細胞の正常な免疫機能を保護する。
【0085】
実施例3. 細胞実験によるLactobacillus paracasei 207-27の免疫特性
1. 実験方法
マウスマクロファージRAW264.7(5×10/mL)を培養し、Lactobacillus paracasei 207-27懸濁液を10CFU/mLの濃度を有するように調整し、10倍希釈して細胞と共培養し、実験群として用いた;PGNを陽性対照として用い(PGNはグラム陽性菌のペプチドグリカンであり、グラム陽性菌は宿主免疫細胞の炎症を刺激および誘導する主要物質であるため、本実験の陽性対照として用いた)、市販株Lactobacillus rhamnosus LGGをLactobacillusの標準株対照として用い、RPMI1640培地をブランク対照として用い、各群につき3つの平行試料を設定した。24時間の共培養後、細胞上清を収集し、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により、表2に示すサイトカイン発現タンパク質の分泌レベルを検出した。
【0086】
2. マウスマクロファージRAW264.7の実験結果および解析
2.1 酵素結合免疫吸着測定法の結果および解析
Lactobacillus paracasei 207-27とマウスマクロファージRAW264.7の共培養物のELISA実験の結果を表2に示した。
【0087】
【表2】
【0088】
結果は、対照群と比較して、Lactobacillus paracasei 207-27はサイトカインIL-6、IL-10およびTNF-αの遺伝子の発現レベルの上昇を刺激することができ、マクロファージの活性化を誘導することを示した。
【0089】
実施例4. Lactobacillus paracasei 207-27の免疫調節能試験
1. 実験方法:
6週齢、体重18~20gの雄BALB/Cマウスを合計18匹選択した。それらを、対照群の6匹、動物実験および臨床試験において最も顕著な免疫調節能を有することが証明されている商業的プロバイオティクス株LGGの介入対照群の6匹、およびLactobacillus paracasei 207-27の介入対照群の6匹の3群に分けた。対照群の動物には1日当たり0.2mLの生理食塩水を与え、プロバイオティクス介入群の動物には1日当たり0.2mLの細菌液を与えた(細菌含量は10cfuであった)。各群の動物を4週間飼育した後、屠殺した。
【0090】
試料収集:経管投与実験の開始前日に、すべてのマウスの体重を測定し、それらの糞を収集した。実験14日目に、すべてのマウスの体重を測定し、それらの糞を収集した。実験28日目に、すべてのマウスの体重を測定し、糞を収集した後、屠殺し、臓器(脾臓、肺、胸腺、肝臓)を収集し、秤量した。
指標の測定:脾臓および胸腺の臓器係数を、秤量法の使用により決定した;脾臓組織におけるサイトカイン遺伝子の発現はRT‐PCR法により決定した。
【0091】
2. 実験結果:
介入前後で各群の体重に顕著な差はなく、Lactobacillus paracasei 207-27はマウスの正常発育に悪影響を及ぼさないことが示された。群間で脾臓係数および胸腺係数に顕著な差はなく、プロバイオティクスの免疫調節効果の発揮が臓器の正常機能に影響しないことが示された。動物実験は、Lactobacillus paracasei 207-27がマクロファージを活性化して、さまざまな関連するサイトカインの分泌を刺激し、その活性化能が市販株LGGよりも高いことを示した(表3)。とりわけ、IL‐10は著しく増加した。IL-10は、多機能性の負の調節性サイトカインであった;プロバイオティクスが炎症誘発性応答(IL-6およびTNF-αの産生)を活性化した場合、大量の抗炎症因子IL-10の分泌が促進されたことから、Lactobacillus paracasei 207-27は炎症性応答のバランスをとり、細胞性免疫の恒常性を維持できることが示された。動物実験の結果は、細胞実験の結果と一致した。
【0092】
【表3】
【0093】
実施例5. Lactobacillus paracasei 207-27のアレルギー反応抑制試験
1. 実験方法:
本実験では、卵白アルブミン(OVA)を用いてマウス血清IgE過敏症モデルを樹立した。動物実験および臨床試験において顕著なアレルギー反応抑制能を有することが示されていた市販のプロバイオティクス株LGGを対照として用いて、アレルギー反応の抑制に対するLactobacillus paracasei 207-27の効果を試験した。
【0094】
実験群分け:6週齢、18~20gの雄BALB/Cマウスを合計60匹選択し、表4に示すように群分けした:
【0095】
【表4】
【0096】
介入:OVA試薬は、40ugのOVA+0.2mLのAL(OH)アジュバント(絶対用量は4mgのAL(OH)であった)であった。プロバイオティクス群の絶対用量は10CFUであり、経管投与量は0.2mL/動物/日であった。42日間の給餌後、4回の腹腔内OVA注射介入をそれぞれ7日目、21日目、28日目、35日目に実施した。
試料の収集および検出:42日目に動物を屠殺し、血清IgE含量および脾臓サイトカインの発現を決定した。
【0097】
2. 実験結果:
IgEはI型過敏症の主要メディエーターであり、I型過敏症はほとんどのアレルギー疾患の主要な生理学的機序である。結果は、Lactobacillus paracasei 207-27がアレルギーマウスモデルにおいて血清IgE値を低下させ、IgE媒介アレルギー反応を抑制し、アレルギー疾患を緩和することができることを示した(図3)。また、本実験は、Lactobacillus paracasei 207-27の血清IgE低減能が市販株LGGよりも高いことを示した。
【0098】
脾臓サイトカインの検出結果は、Lactobacillus paracasei 207-27が脾臓における抗炎症因子IL-10の発現を顕著に増加させることを示した(表5)。IL-10がTH1およびTH2の調節に関与し得ることを示す報告がある。上記結果の解析に基づいて、本出願のプロバイオティクスはIL-10の発現を誘導し、それによってTH1およびTH2細胞の活性を抑制し、身体の免疫応答レベルをダウンレギュレートし、それによってアレルギー反応を達成し得ると考えられる。
【0099】
【表5】
図1
図2
図3