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特許7263657下げ孔の化学物質注入適用のための高温高圧シール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】下げ孔の化学物質注入適用のための高温高圧シール
(51)【国際特許分類】
   F16K 1/36 20060101AFI20230418BHJP
   F16K 1/42 20060101ALI20230418BHJP
   F16K 15/06 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
F16K1/36 A
F16K1/42 A
F16K15/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018561943
(86)(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 US2017028761
(87)【国際公開番号】W WO2017204958
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-04-02
(31)【優先権主張番号】15/164,969
(32)【優先日】2016-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517318263
【氏名又は名称】ベイカー ヒューズ ホールディングス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】レイ・チャオ
(72)【発明者】
【氏名】チィユエ・スー
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4732364(US,A)
【文献】特表2001-519868(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0089648(US,A1)
【文献】国際公開第2016/060765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 1/00-1/54
F16K 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入システムであって、
流体制御部材(11)と、
往復動部材(13)と
を含み、
前記流体制御部材(11)は、圧縮力(15)の適用に応じて前記往復動部材(13)との炭素複合体-金属シールを形成するように構成され、
前記炭素複合体は、少なくとも2つの炭素微細構造前記少なくとも2つの炭素微細構造の間に配置される結合相、及び補強要素を含み、前記炭素微細構造は10~500のアスペクト比及び1~200μmの厚さを有し、前記結合相は結合剤を含み、前記結合剤は以下のSiO、Si、B、B、結合剤金属、または前記結合剤金属の合金の1つ以上を含む結合剤を含み、前記補強要素は金属、炭化物、セラミックス、またはガラスの1つ以上を含み、
前記結合剤金属は、以下のアルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、錫、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンの1つ以上を含み、
前記補強要素は、前記炭素複合体の総重量に基づいて、0.01wt%~20wt%の量で存在し、内部よりも前記補強要素の濃度が高い前記炭素複合体の表面を有する勾配分布を有する、前記注入システム。
【請求項2】
前記流体制御部材(11)が前記往復動部材(13)と係合解除しているときに、流体が前記往復動部材(13)を過ぎて流れることを可能にするように構成されている、請求項1に記載の注入システム。
【請求項3】
前記流体制御部材(11)が炭素複合体部(10)と金属部(12)とを含み、前記炭素複合体部(10)が前記往復動部材(13)と前記炭素複合体-金属シールを形成する、請求項1に記載の注入システム。
【請求項4】
結合層が、前記炭素複合体部(10)と前記流体制御部材(11)の前記金属部(12)との間に存在する、請求項3に記載の注入システム。
【請求項5】
前記流体制御部材(11)及び前記往復動部材(13)がさらに金属-金属シールを形成する、請求項1に記載の注入システム。
【請求項6】
前記流体制御部材(11)は、炭素複合体部(10)と金属部(12)とを備え、
前記流体制御部材(11)の前記炭素複合体部(10)は、前記往復動部材(13)と炭素複合体-金属シールを形成し、
前記流体制御部材(11)の前記金属部(12)は、前記往復動部材(13)と金属-金属シールを形成する、
請求項5に記載の注入システム。
【請求項7】
前記流体制御部材(11)が金属部分であり、
前記往復動部材(13)が、炭素複合体部(10)と金属部(12)とを備え、
前記往復動部材(13)の前記炭素複合体部(10)及び前記金属部(12)が前記流体制御部材(11)とシールを形成する、
請求項5に記載の注入システム。
【請求項8】
前記流体制御部材(11)に隣接して配置される付勢部材(14)をさらに備える、請求項1に記載の注入システム。
【請求項9】
前記結合相は、結合剤層と、前記少なくとも2つの炭素微細構造の1つを前記結合剤層に結合する界面層とを含み、前記界面層は、以下のC-金属結合、C-B結合、C-Si結合、C-O-Si結合、C-O-金属結合、または金属炭素溶液の1つ以上を含み、
前記炭素複合体に含まれる炭素は黒鉛を含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の注入システム。
【請求項10】
前記炭素複合体は、粉末、繊維、メッシュ、フィラメント、無頭釘、またはマットの形態の補強要素をさらに含み、前記補強要素は、以下の金属、炭化物、セラミックス、またはガラスの1つ以上を含む、請求項9に記載の注入システム。
【請求項11】
化学組成物を注入する方法であって
往復動部材(13、35、43、53)から流体制御部材(11、32、41、51)を係合解除するのに十分な圧力で前記化学組成物を注入して、前記化学組成物が前記往復動部材(13、35、43、53)を過ぎて流れるようにすること、
前記化学組成物の前記圧力を低減または排除すること、
前記流体制御部材(11、32、41、51)を前記往復動部材(13、35、43、53)に係合させて炭素複合体-金属シールを形成すること、
前記炭素複合体は、少なくとも2つの炭素微細構造前記少なくとも2つの炭素微細構造の間に配置される結合相、及び補強要素を含み、前記炭素微細構造は10~500のアスペクト比及び1~200μmの厚さを有し、前記結合相は結合剤を含み、前記結合剤は以下のSiO、Si、B、B、結合剤金属、または前記結合剤金属の合金の1つ以上を含む結合剤とを含み、前記補強要素は金属、炭化物、セラミックス、またはガラスの1つ以上を含むこと、及び
前記結合剤金属が、以下のアルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、錫、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンの1つ以上を含むこと、及び
前記補強要素は、前記炭素複合体の総重量に基づいて、0.01wt%~20wt%の量で存在し、内部よりも前記補強要素の濃度が高い前記炭素複合体の表面を有する勾配分布を有すること
により特徴付けられる、前記方法。
【請求項12】
前記流体制御部材(11、32、41、51)を前記往復動部材(13、35、43、53)に係合させることは、前記流体制御部材(11、32、41、51)に隣接して配置された付勢部材(14)を介して、前記流体制御部材(11、32、41、51)に力を加えることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記流体制御部材(11、32、41、51)は、炭素複合体部(10、30、40、50)及び金属部(12、33、42、52)を含み、前記炭素複合体部(10、30、40、50)は、前記往復動部材(13、35、43、53)との前記炭素複合体-金属シールを形成する、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記流体制御部材(11、32、41、51)及び前記往復動部材(13、35、43、53)がさらに金属-金属シールを形成する、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記流体制御部材(11、32、41、51)が金属部分であり、
前記往復動部材(13、35、43、53)が炭素複合体部(10、30、40、50)と金属部(12、33、42、52)とを含み、
前記往復動部材(13、35、43、53)の前記炭素複合体部(10、30、40、50)及び前記金属部(12、33、42、52)は、前記流体制御部材(11、32、41、51)とシールを形成する、
請求項11または請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2016年5月26日に出願された米国特許出願公開第15/164,969号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
沖合作業者がより深部の水域に入り、いっそう複雑な井戸構造を用いてより熟成した油田及びガス田を開発するにつれて、坑井内のスケール形成またはアスファルテン沈殿などの課題を処理するための化学物質の下げ孔注入がいっそう必要とされるようになっている。典型的には、化学物質は、インジェクションチェックバルブを含む化学物質注入システムを介して注入する。インジェクションバルブは、通常、井戸の深部に設置されているので、それらは常に高温高圧に曝されている。インジェクションバルブはまた、異なる化学的及び物理的特性を有する様々な化学物質に曝される。これらの過酷な作業条件は、ポリマー材料が高温で機械的強度を失ったり、耐摩耗性/耐衝撃性が低いものであったり、注入する流体に対する化学的安定性が低いものであったりするために、ポリマー材料で作られたシールを有するインジェクションバルブの漏れまたは完全な不具合を引き起こす可能性がある。したがって、当技術分野は、良好な耐圧性、耐熱性、及び耐化学性を有する代替のインジェクションバルブを受け入れる。
【発明の概要】
【0003】
注入システムは、流れ制御部材と往復動部材とを備え、流体制御部材は、圧縮力の適用に応じて往復動部材との炭素複合体-金属シールを形成するように構成されている。
【0004】
化学組成物を注入する方法は、往復動部材から流れ制御部材を係合解除するのに十分な圧力で化学組成物を注入して、化学組成物が往復動部材を過ぎて流れるようにすること、化学組成物の圧力を低減または排除すること、流れ制御部材を往復動部材に係合させて炭素複合体-金属シールを形成することを含む。
【0005】
上記のインジェクションバルブシステム及び方法における炭素複合体は、炭素と、以下のSiO、Si、B、B、溶加材、または溶加材の合金の1つ以上を含む結合剤を含み、溶加材は、以下のアルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、錫、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンの1つ以上を含む。
【0006】
以下の説明は、決して限定するものとみなされるべきではない。添付の図面を参照すると、同様の要素に同じ番号が付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】例示的な実施形態による、閉位置にある注入システムの部分的な断面図を示す。
図2】開位置にある、図1の注入システムの部分的な断面図を示す。
図3】例示的な実施形態による注入システムの部分的な断面図を示す。
図4】別の例示的な実施形態による、閉位置にある注入システムの部分的な断面図を示す。
図5】開位置にある、図4の注入システムの部分的な断面図を示す。
図6】さらに別の例示的な実施形態による、注入システムの部分的な側面図を示す。
図7】さらに別の例示的な実施形態による、注入システムの部分的な側面図を示す。
図8】応力サイクル試験前の炭素複合体試料と強化炭素複合体試料の写真の画像である。
図9】応力サイクル試験後の図8の炭素複合体試料と強化炭素複合体試料の写真の画像である。
図10】応力サイクル試験の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、改善された機械的強度及び耐化学性を有する注入システムを提供する。エラストマー材料を含む注入システムと比較して、本明細書に開示している注入システムは、高圧及び高温の環境で使用する場合でさえ、寿命が延びる可能性がある。
【0009】
注入システムは、流体制御部材と往復動部材とを備えている。流体制御部材は、圧縮力の適用に応じて往復動部材との炭素複合体-金属シールを形成するように構成されている。任意選択で、流れ制御部材は、往復動部材との金属-金属シールを形成することもできる。
【0010】
図1を参照すると、注入システムは、流れ制御部材11と往復動部材13とを備える。流れ制御部材11は、炭素複合体部10と金属部12とを有する。往復動部材13は、ハウジングまたは管類16に取り付けまたは固定することができる。往復動部材13は、ハウジングまたは管類16の一部であってもよい。
【0011】
図1に示すように、流れ制御部材11に圧縮力15が加えられると、流れ制御部材11は、往復動部材13と共に炭素複合体-金属シール18を形成する。圧縮力は、流れ制御部材11に隣接して配置された付勢部材14によって生成することができる。付勢部材14は、コイルバネの形態をとってもよい。圧縮力はまた、下げ孔の圧力によって生成される力を含むことができる。シールは、炭化水素の流れが注入システムのA側からB側へ流れるのを防止する。注入システムのA側は下げ孔の環境に接続できる。注入システムのB側は、化学物質注入ライン(図示せず)に接続できる。システムは、ハウジングまたは管類16に取り付けまたは固定された保持部材19を含むことができる。保持部材19はまた、ハウジングまたは管類16の一部であってもよい。保持部材19は、付勢部材14が押されたときに付勢部材14がその場に在り続けながらも、同時に、保持部材19が力を受けたときに流体制御部材が11を動かすことを可能にするよう構成される。保持部材19は、流体を通すための1つ以上の開口部を有する。
【0012】
化学組成物は、表面の位置や他の下げ孔の位置のような遠隔の位置に至る注入ラインから送出でき、注入用の化学物質の供給源にアクセスする。様々な化学物質は様々な理由で様々な時間に利用され、その各々は化学物質注入ラインに送ることができる。注入システムは、流体制御部材が往復動部材と係合解除されたときに、流体などの化学組成物が往復動部材を過ぎて流れるのを可能にするように構成されている。
【0013】
図2を参照すると、一旦注入システムの内部に入ると、化学組成物の圧力は、流体制御部材11を、往復動部材13から遠ざける方向に押す。化学組成物の圧力が流体制御部材11に及ぼされる反対の力よりも大きいとき、流体制御部材は往復動部材13から離れるように移動し、化学組成物が往復動部材13を過ぎて流れて注入システムのA側に入ることを可能にする。
【0014】
図3図7は、本開示の様々な例示的実施形態による注入システムの一部分の断面図を示す。図3において、流れ制御部材11は、炭素複合体部10と金属部12とを有し、その炭素複合体部はテーパ面を有する。流れ制御部材において、炭素複合体部と金属部との間に結合層(図示せず)が任意選択に存在する。
【0015】
図4に示すように、流体制御部材32は金属の部分であり、往復動部材35は炭素複合体部30と金属部33とを有する。往復動部材35の炭素複合体部30と金属部33とは、流れ制御部材32とシールを形成する。このシールは、炭素複合体-金属シール38及び金属-金属シール39を含む。
【0016】
図5は、開位置の図4の注入システムを示す。図5に示すように、十分な圧力の下では、流体制御部材32は往復動部材35から離れるように移動し、化学組成物が往復動部材35を過ぎて流れることを可能にする。
【0017】
図6を参照すると、流れ制御部材41は、炭素複合体部40と、金属部42とを備えている。炭素複合体部40は、往復動部材43と炭素複合体-金属シール48を形成している。
【0018】
図7を参照すると、流れ制御部材51は、炭素複合体部50と金属部52とを備えている。流れ制御部材51の炭素複合体部50は、往復動部材53と炭素複合体-金属シール58を形成することができ、流れ制御部材51の金属部52は、往復動部材53との金属-金属シール59を形成することができる。
【0019】
注入システムは、下げ孔製造用管類ストリングに設置することができる。複数の注入システムを使用することができる。スケール、ワックス、アスファルテン、または他の問題に取り組むために、様々な組成及び特性の多様な化学物質を注入することができる。流れ制御部材及び往復動部材に使用される材料は、注入される化学物質の特性に従ってカスタマイズすることができる。具体的には、リン酸塩、界面活性剤、及びポリアクリルアミドが挙げられるが、これらに限定されない腐食性の少ない水ベースの化学溶液に対して使用する場合には、往復動部材、流体流制御部材、または往復動部材もしくは流体制御部材の金属部の材料として、CuNi合金、ステンレス鋼、インコネル合金などを用いることができる。往復動部材、流体制御部材、または往復動部材もしくは流体制御部材の金属部の材料として、Ni、Ti、Mo、Ag、Auまたはその合金などの高耐食性金属または金属合金、BN、BC、SiC、SiOなどのセラミックスを用いることができる。
【0020】
流れ制御部材または往復動部材に使用される炭素複合体は、炭素及び無機結合剤を含む。炭素は黒鉛であってもよい。本明細書で使用する場合、黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張性黒鉛、または膨張化黒鉛の1つ以上を含む。天然黒鉛は、自然によって形成された黒鉛である。それは、「鱗片状」黒鉛、「塊状」黒鉛、及び「土状」黒鉛に分類することができる。人造黒鉛は、炭素材料から作られた製造品である。熱分解黒鉛が人造黒鉛の一形態である。膨張性黒鉛は、天然黒鉛または人造黒鉛の層間に挿入されるインターカラント材料を有する黒鉛を示す。様々な化学物質が黒鉛材料をインターカレーションするために使用されてきた。これらには、酸、酸化剤、ハロゲン化物などが含まれる。例示的なインターカラント材料には、硫酸、硝酸、クロム酸、ホウ酸、SO、またはFeCl、ZnCl及びSbClなどのハロゲン化物が含まれる。加熱すると、インターカラントは液体または固体の状態から気相に変換される。気体の生成は圧力を発生させ、隣接する炭素層を押して離し、膨張化黒鉛を生じる。膨張化黒鉛粒子は外観が蠕虫状であり、そのため一般にワーム(蠕虫)と呼ばれる。
【0021】
実施形態では、炭素複合体は、炭素微細構造の間にインタースティシャルスペースを有する炭素微細構造を含み、それにおいて結合剤がインタースティシャルスペースの少なくとも一部に配置されている。実施形態では、炭素微細構造は、炭素微細構造内の充填されていない空隙を含む。別の実施形態では、炭素微細構造の間のインタースティシャルスペースと、炭素微細構造内の空隙の両方が結合剤またはその誘導体で充填される。
【0022】
炭素微細構造は、黒鉛を高凝縮状態に圧縮した後に形成される黒鉛の微細構造である。これらは、圧縮方向に沿って積み重ねられた黒鉛基底面を含む。本明細書で使用される場合、炭素基底面は、炭素原子の実質的に平坦で平行なシートまたは層を示し、各シートまたは層は単一の原子の厚さを有する。黒鉛基底面は、炭素層とも呼ばれる。炭素微細構造は、一般に平坦で薄い。それらは様々な形状を有することができ、マイクロフレーク、マイクロディスクなどと呼ぶこともできる。実施形態では、炭素微細構造は互いに実質的に平行である。
【0023】
炭素複合体には、2つのタイプの空隙が存在する。炭素微細構造の間の空隙またはインタースティシャルスペース、及び個々の炭素微細構造内の空隙である。炭素微細構造の間のインタースティシャルスペースは、約0.1~約100ミクロン、具体的には約1~約20ミクロンのサイズを有するが、炭素微細構造内の空隙は、はるかに小さく、一般に約20ナノメートル~約1ミクロン、具体的には約200ナノメートル~約1ミクロンである。空隙またはインタースティシャルスペースの形状は特に限定されない。本明細書で使用する場合、空隙またはインタースティシャルスペースのサイズは、空隙またはインタースティシャルスペースの最大の寸法を示し、高分解能電子顕微鏡または原子間力顕微鏡の技術によって判定することができる。
【0024】
炭素微細構造の間のインタースティシャルスペースは、マイクロまたはナノサイズの結合剤で充填される。例えば、結合剤は、炭素微細構造の間のインタースティシャルスペースの約10%~約90%を占めることができる。実施形態では、結合剤は個々の炭素微細構造に浸透してはおらず、炭素微細構造内の空隙は非充填である、すなわちいずれかの結合剤で充填されてはいない。したがって、炭素微細構造内の炭素層は結合剤によって一緒に固定されてはいない。このメカニズムにより、炭素複合体、特に、膨張化炭素複合体の柔軟性を維持することができる。別の実施形態では、高強度を達成するために、炭素微細構造内の空隙に結合剤またはその誘導体を充填する。炭素微細構造内の空隙を充填する方法には、蒸着が含まれる。
【0025】
炭素微細構造は、約1~約200ミクロン、約1~約150ミクロン、約1~約100ミクロン、約1~約50ミクロン、または約10~約20ミクロンの厚さを有する。炭素微細構造の直径または最大寸法は、約5~約500ミクロンまたは約10~約500ミクロンである。炭素微細構造のアスペクト比は、約10~約500、約20~約400、または約25~約350であり得る。実施形態では、炭素微細構造の炭素層間の距離は、約0.3ナノメートル~約1ミクロンである。炭素微細構造は、約0.5~約3g/cm、または約0.1~約2g/cmの密度を有することができる。
【0026】
炭素複合体では、炭素微細構造は結合相によって一緒に保持される。結合相は、機械的連結によって炭素微細構造を結合する結合剤を含む。任意選択で、界面層が結合剤と炭素微細構造との間に形成される。界面層は、化学結合、固溶体、またはそれらの組合せを含むことができる。存在する場合、化学結合、固溶体、またはそれらの組合せは、炭素微細構造の連結を強化し得る。炭素微細構造は、機械的連結と化学結合の両方によって一緒に保持されてもよいことが理解される。例えば、化学結合、固溶体、またはそれらの組合せは、いくつかの炭素微細構造と結合剤との間に、または特定の炭素微細構造のために炭素微細構造の表面上の炭素の一部と結合剤との間にのみ、形成され得る。化学結合、固溶体、またはそれらの組合せを形成しない炭素微細構造または炭素微細構造の部分に関しては、炭素微細構造が、機械的連結によって結合され得る。結合相の厚さは、約0.1~約100ミクロンまたは約1~約20ミクロンである。結合相は、炭素微細構造を一緒に結合する連続的または不連続的なネットワークを形成することができる。
【0027】
例示的な結合剤には、非金属、金属、合金、または上記の少なくとも1つを含む組合せが含まれる。非金属は、SiO、Si、B、またはBの1つ以上である。金属は、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、錫、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンの少なくとも1つとすることができる。合金は、以下のアルミニウム合金、銅合金、チタン合金、ニッケル合金、タングステン合金、クロム合金、鉄合金、マンガン合金、ジルコニウム合金、ハフニウム合金、バナジウム合金、ニオブ合金、モリブデン合金、錫合金、ビスマス合金、アンチモン合金、鉛合金、カドミウム合金、またはセレン合金の1つ以上を含む。実施形態では、結合剤は、以下の銅、ニッケル、クロム、鉄、チタン、銅の合金、ニッケルの合金、クロムの合金、鉄の合金、またはチタンの合金の1つ以上を含む。合金の例としては、スチール、INCONELなどのニッケル-クロム系合金、及びモネル合金などのニッケル銅系合金が挙げられる。ニッケル-クロム系合金は、約40~75%のNiと約10~35%のCrを含むことができる。ニッケル-クロム系合金はまた、約1~約15%の鉄を含むことができる。少量のMo、Nb、Co、Mn、Cu、Al、Ti、Si、C、S、P、Bまたはこれらの少なくとも1つを含む組合せもニッケル-クロム系合金に含めることができる。ニッケル-銅系合金は、主にニッケル(約67%まで)及び銅からなる。ニッケル-銅系合金はまた、少量の鉄、マンガン、炭素及びシリコンを含むことができる。これらの材料は、粒子、繊維、及びワイヤなどの様々な形状であり得る。材料の組合せを使用することができる。結合剤の組成は、注入される化学物質の特性に従って調整することができる。
【0028】
炭素複合体を作るために使用される結合剤は、マイクロまたはナノサイズであり得る。実施形態では、結合剤は、約0.05~約250ミクロン、約0.05~約50ミクロン、約1~約40ミクロン、具体的には約0.5~約5ミクロン、より具体的には約0.1~約3ミクロンの平均粒子サイズを有する。理論に縛られることを望むものではないが、結合剤がこれらの範囲内のサイズを有する場合、それは炭素微細構造の中に均一に分散すると考えられる。
【0029】
界面層が存在する場合、結合相は、結合剤を含む結合剤層と、少なくとも2つの炭素微細構造のうちの1つを結合剤層に結合する界面層とを含む。実施形態では、結合相は、結合剤層、炭素微細構造の1つを結合剤層に結合する第1の界面層、及び微細構造の他方を結合剤層に結合する第2の界面層を含む。第1の界面層及び第2の界面層は、同じまたは異なる組成を有することができる。
【0030】
界面層は、以下のC-金属結合、C-B結合、C-Si結合、C-O-Si結合、C-O-金属結合、または金属炭素溶液の1つ以上を含む。結合は、炭素微細構造及び結合剤の表面上の炭素から形成される。
【0031】
実施形態では、界面層は結合剤の炭化物を含む。炭化物は、以下のアルミニウムの炭化物、チタンの炭化物、ニッケルの炭化物、タングステンの炭化物、クロムの炭化物、鉄の炭化物、マンガンの炭化物、ジルコニウムの炭化物、ハフニウムの炭化物、バナジウムの炭化物、ニオブの炭化物、またはモリブデンの炭化物の1つ以上を含む。これらの炭化物は、対応する金属または金属合金結合剤を炭素微細構造の炭素原子と反応させることによって形成される。結合相はまた、SiOまたはSiを炭素微細構造の炭素と反応させることによって形成されたSiC、またはBまたはBを炭素微細構造の炭素と反応させることによって形成されたBCを含むことができる。結合剤の材料の組合せを使用する場合、界面層はこれらの炭化物の組合せを含むことができる。炭化物は、炭化アルミニウムなどの塩型炭化物、SiCやBCなどの共有結合性炭化物、4族、5族及び6族の遷移金属の炭化物などの侵入型炭化物、または中間遷移金属炭化物、例えばCr、Mn、Fe、Co及びNiの炭化物があり得る。
【0032】
別の実施形態では、界面層は、黒鉛などの炭素の固溶体と結合剤とを含む。炭素は、特定の金属マトリックスまたは特定の温度範囲での溶解性を有し、金属相の湿潤及び炭素微細構造への結合の両方を促進することができる。熱処理により、金属中の炭素の高い溶解性を低温で維持することができる。これらの金属には、Co、Fe、La、Mn、Ni、またはCuの1つ以上が含まれる。結合剤層はまた、固溶体と炭化物との組合せを含むことができる。
【0033】
炭素複合体は、炭素複合体の総重量を基準にして、約20~約95wt%、約20~約80wt%、または約50~約80wt%、炭素を含んでいる。結合剤は、炭素複合体の総重量を基準にして、約5%~約75wt%、または約20wt%~約50wt%の量存在している。炭素複合体は、結合剤に対する炭素の重量比が、約1:4~約20:1、または約1:4~約4:1、または約1:1~約4:1である。
【0034】
炭素複合体は、米国特許出願公開第2016/0089648号明細書に記載されている方法によって製造することができる。
【0035】
流れ制御部材及び往復動部材の機械的特性をさらに改善するために、炭素複合体は補強要素をさらに含むことができる。例示的な補強要素は、以下の金属、炭化物、セラミックス、またはガラスの1つ以上を含む。補強要素の形態は限定されず、粉末、繊維、メッシュ、フィラメント、無頭釘、またはマットを含むことができる。補強剤は、炭素複合体の総重量に基づいて、約0.01wt%~約20wt%、または約1wt%~約10wt%の量で存在することができる。補強剤は、流体制御部材または往復動部材の炭素複合体部全体にわたって均一に分布させることができる。代替的に、補強剤は、改善された耐摩耗性、耐食性及び硬度を提供するために、内部よりも補強要素の濃度が高い炭素複合体部の表面を有する勾配分布を有することができる。
【0036】
流体制御部材または往復動部材が金属部と炭素複合体部とを有する場合、金属部と炭素複合体部とを溶接またはろう付けによって接合することができる。流体制御部材または往復動はまた、成形、焼結、ホットプレス、ワンステップの成形及び焼結のプロセスによっても作ることができる。
【0037】
流体制御部材または往復動部材の炭素複合体部は、改善された機械的強度を有することができる。図8は、応力サイクル試験前の炭素複合体試料66及び強化炭素複合体試料68の写真の画像である。図9は、図10に示す状態下での応力サイクル試験後の炭素複合体サンプル66及び強化炭素複合体サンプル68の写真の画像である。図8図9と比較して、炭素複合体または強化炭素複合体試料を少なくとも3回の試験サイクルにわたって9000psiまでの圧力に供した後に顕著な変化が観察されていないことを示している。
【0038】
化学組成物を注入する方法は、往復動部材から流れ制御部材を係合解除するのに十分な圧力で化学組成物を注入して、化学物質が往復動部材を過ぎて流れるようにすること、化学組成物の圧力を低減または排除すること、流れ制御部材を往復動部材に係合させて炭素複合体-金属シールを形成することを含む。
【0039】
本明細書に開示されたすべての範囲は端点を含み、端点は互いに独立して組合せ可能である。「または」は、「及び/または」を意味する。すべての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
以下に、前述の開示のいくつかの実施形態を示す。
【0041】
実施形態1.注入システムであって、流体制御部材と、往復動部材とを含み、前記流体制御部材は、圧縮力の適用に応じて前記往復動部材との炭素複合体-金属シールを形成するように構成され、前記炭素複合体は、炭素と、以下のSiO、Si、B、B、溶加材、または前記溶加材の合金の1つ以上を含む結合剤を含み、前記溶加材は、以下のアルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、錫、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンの1つ以上を含む、前記注入システム。
【0042】
実施形態2.前記流体制御部材が前記往復動部材と係合解除しているときに、流体が前記往復動部材を過ぎて流れることを可能にするように構成されている、実施形態1の注入システム。
【0043】
実施形態3.前記流体制御部材が炭素複合体部と金属部とを含み、前記炭素複合体部が前記往復動部材と前記炭素複合体-金属シールを形成する、実施形態1または実施形態2の注入システム。
【0044】
実施形態4.結合層が、前記炭素複合体部と前記流体制御部材の前記金属部との間に存在する、実施形態3の注入システム。
【0045】
実施形態5.前記炭素複合体部がテーパ面を有する、実施形態3または実施形態4の注入システム。
【0046】
実施形態6.前記炭素複合体部材及び前記往復動部材がさらに金属-金属シールを形成する、実施形態1~5のいずれか1つの注入システム。
【0047】
実施形態7.前記流れ制御部材は、炭素複合体部と金属部とを備え、前記流れ制御部材の前記炭素複合体部は、前記往復動部材と炭素複合体-金属シールを形成し、前記流れ制御部材の前記金属部は、前記往復動部材と金属-金属シールを形成する、実施形態6の注入システム。
【0048】
実施形態8.前記流れ制御部材が金属部分であり、前記往復動部材が、炭素複合体部と金属部とを備え、前記往復動部材の前記炭素複合体部及び前記金属部が前記流れ制御部材とシールを形成する、実施形態6の注入システム。
【0049】
実施形態9.前記流れ制御部材に隣接して配置される付勢部材をさらに備える、実施形態1~8のいずれか1つの注入システム。
【0050】
実施形態10.前記炭素複合体が、少なくとも2つの炭素微細構造、及び前記少なくとも2つの炭素微細構造の間に配置される結合相を含む、実施形態1~9のいずれか1つの注入システム。
【0051】
実施形態11.前記結合層が、結合剤層と、前記少なくとも2つの炭素微細構造の1つを前記結合剤層に結合する界面層とを含み、前記界面層は、以下のC-金属結合、C-B結合、C-Si結合、C-O-Si結合、C-O-金属結合、または金属炭素溶液の1つ以上を含む、実施形態10の注入システム。
【0052】
実施形態12.前記炭素が黒鉛を含む、実施形態10または実施形態11の注入システム。
【0053】
実施形態13.前記炭素複合体が補強要素をさらに含む、実施形態10~12のいずれか1つの注入システム。
【0054】
実施形態14.前記補強要素が粉末、繊維、メッシュ、フィラメント、無頭釘、またはマットの形態である、実施形態13の注入システム。
【0055】
実施形態15.前記補強要素は、以下の金属、炭化物、セラミックス、またはガラスの1つ以上を含む、実施形態13または実施形態14の注入システム。
【0056】
実施形態16.化学組成物を注入する方法であって、往復動部材から流れ制御部材を係合解除するのに十分な圧力で前記化学組成物を注入して、前記化学組成物が前記往復動部材を過ぎて流れるようにすること、前記化学組成物の前記圧力を低減または排除すること、前記流れ制御部材を前記往復動部材に係合させて炭素複合体-金属シールを形成すること、前記炭素複合体が、炭素と、以下のSiO、Si、B、B、溶加材、または前記溶加材の合金の1つ以上を含む結合剤とを含むこと、及び前記溶加材が、以下のアルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、錫、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンの1つ以上を含むことを含む、前記方法。
【0057】
実施形態17.前記流れ制御部材を前記往復動部材に係合させることは、前記流れ制御部材に隣接して配置された付勢部材を介して、前記流れ制御部材に力を加えることを含む、実施形態16の方法。
【0058】
実施形態18.前記流れ制御部材は、炭素複合体部及び金属部を含み、前記炭素複合体部は、前記往復動部材との前記炭素複合体-金属シールを形成する、実施態様16または実施態様17の方法。
【0059】
実施形態19.前記流れ制御部材及び前記往復動部材がさらに金属-金属シールを形成する、実施形態16または実施形態17の方法。
【0060】
実施形態20.前記流体制御部材が金属部分であり、前記往復動部材が炭素複合体部と金属部とを含み、前記往復動部材の前記炭素複合体部及び前記金属部は、前記流体制御部材とシールを形成する、実施形態16または実施形態17の方法。
【0061】
本発明を説明する文脈(特に、以下の特許請求の範囲の文脈において)において「a」及び「an」及び「the」という用語ならびに同様の指示対象を使用している場合、本明細書において別段の指示がない限り、または文脈が明確に矛盾していない限り、単数形と複数形の両方を包含していると解釈するべきである。量に関連して使用される「約」という修飾語は、記載された値を含み、文脈によって指示される意味を有する(例えば、特定の量の測定に関連する誤差の程度を含む)。
【0062】
例示の目的で典型的な実施形態を説明したが、前述の説明は本明細書の範囲を限定するものとみなすべきではない。したがって、本明細書の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な改変、適合、及び代替を当業者が想到し得る。
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