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  • 特許-誘導加熱装置およびその製造方法 図1
  • 特許-誘導加熱装置およびその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】誘導加熱装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/04 20060101AFI20230418BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
H05B6/04 301
H05B6/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020113880
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012218
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】井藤 大輔
【審査官】宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-018807(JP,A)
【文献】実用新案登録第2502133(JP,Y2)
【文献】特開2004-048823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00-6/80、11/00
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱コイルと、この加熱コイルに電気を供給するインバータと、前記加熱コイルと前記インバータとの間に接続されていて前記加熱コイルに供給される電気の電圧を昇圧する昇圧ユニットとを備える誘導加熱装置において、
前記インバータと前記昇圧ユニットとの間に接続されていて環状に形成されて且つ一対の部材で構成されるブスバーと、このブスバーに対して互いに並列となる状態で接続される複数の前記インバータと、前記ブスバーに対して互いに並列となる状態で接続される複数の前記昇圧ユニットとを備えていて、
前記昇圧ユニットが、前記ブスバーと前記加熱コイルとを接続する一対の電線と、この電線にそれぞれ配置される一対の第一コンデンサとを備えていて、
前記昇圧ユニットに設置されている一対の前記第一コンデンサのうち一方の前記第一コンデンサの容量に対する他方の前記第一コンデンサの容量の容量誤差が予め定められる閾値以下に設定されていることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記昇圧ユニットに設置されている一対の前記第一コンデンサのうち一方の前記第一コンデンサの実測値の容量に対する他方の前記第一コンデンサの実測値の容量の容量誤差が予め定められる閾値以下に設定されている請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記閾値が5.0%に設定されている請求項1または2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記昇圧ユニットに設置されている前記第一コンデンサと、この昇圧ユニットとは別の前記昇圧ユニットに設置されている前記第一コンデンサとの容量誤差が前記閾値を超えている請求項1~3のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
加熱コイルと、この加熱コイルに電気を供給するインバータと、前記加熱コイルと前記インバータとの間に接続されていて前記加熱コイルに供給される電気の電圧を昇圧する昇圧ユニットとを備える誘導加熱装置の製造方法において、
前記インバータと前記昇圧ユニットとの間に接続されていて環状に形成されて且つ一対の部材で構成されるブスバーを予め準備して、このブスバーに対して互いに並列となる状態で複数の前記インバータを接続するとともに、前記ブスバーに対して互いに並列となる状態で複数の前記昇圧ユニットを接続して、
前記昇圧ユニットが一対の電線とこの電線にそれぞれ配置される一対の第一コンデンサを備えていて、前記ブスバーと前記加熱コイルとを一対の前記電線で接続することを特徴とする誘導加熱装置の製造方法。
【請求項6】
予め準備される複数のコンデンサの中から、一方の前記コンデンサに対する他方の前記コンデンサの容量誤差が予め定められる閾値以下となる状態で一対の前記コンデンサが選択されて、このコンデンサが一対の前記第一コンデンサとして一つの前記昇圧ユニットに組み込まれる請求項5に記載の誘導加熱装置の製造方法。
【請求項7】
予め準備される複数のコンデンサの中から、一方の前記コンデンサに対する他方の前記コンデンサの実測値の容量誤差が予め定められる閾値以下となる状態で一対の前記コンデンサが選択されて、このコンデンサが一対の前記第一コンデンサとして一つの前記昇圧ユニットに組み込まれる請求項5に記載の誘導加熱装置の製造方法。
【請求項8】
前記昇圧ユニットに設置されている前記第一コンデンサと、この昇圧ユニットとは別の前記昇圧ユニットに設置されている前記第一コンデンサとの容量誤差が前記閾値を超えている請求項6または7に記載の誘導加熱装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータから供給される電気の電圧を昇圧ユニットで昇圧して加熱コイルに供給する誘導加熱装置およびその製造方法に関するものであり、詳しくは製造コストを抑制できる誘導加熱装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
棒状のビレットを加熱する誘導加熱装置が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、電源から供給される電気の電圧を単相トランスで昇圧して加熱コイルに供給する誘導加熱装置が開示されている。従来の誘導加熱装置に設置される単相トランスは、高周波に対応した専用品であるため高価であり比較的大型となる不具合があった。誘導加熱装置の製造コストを抑制することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国実開平06-070192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は製造コストを抑制できる誘導加熱装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための誘導加熱装置は、加熱コイルと、この加熱コイルに電気を供給するインバータと、前記加熱コイルと前記インバータとの間に接続されていて前記加熱コイルに供給される電気の電圧を昇圧する昇圧ユニットとを備える誘導加熱装置において、前記インバータと前記昇圧ユニットとの間に接続されていて環状に形成されて且つ一対の部材で構成されるブスバーと、このブスバーに対して互いに並列となる状態で接続される複数の前記インバータと、前記ブスバーに対して互いに並列となる状態で接続される複数の前記昇圧ユニットとを備えていて、前記昇圧ユニットが、前記ブスバーと前記加熱コイルとを接続する一対の電線と、この電線にそれぞれ配置される一対の第一コンデンサとを備えていて、
前記昇圧ユニットに設置されている一対の前記第一コンデンサのうち一方の前記第一コンデンサの容量に対する他方の前記第一コンデンサの容量の容量誤差が予め定められる閾値以下に設定されていることを特徴とする。
【0006】
上記の目的を達成するための誘導加熱装置の製造方法は、熱コイルと、この加熱コイルに電気を供給するインバータと、前記加熱コイルと前記インバータとの間に接続されていて前記加熱コイルに供給される電気の電圧を昇圧する昇圧ユニットとを備える誘導加熱装置の製造方法において、前記インバータと前記昇圧ユニットとの間に接続されていて環状に形成されて且つ一対の部材で構成されるブスバーを予め準備して、このブスバーに対して互いに並列となる状態で複数の前記インバータを接続するとともに、前記ブスバーに対して互いに並列となる状態で複数の前記昇圧ユニットを接続して、前記昇圧ユニットが一対の電線とこの電線にそれぞれ配置される一対の第一コンデンサを備えていて、前記ブスバーと前記加熱コイルとを一対の前記電線で接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、昇圧ユニットをコンデンサで構成できる。誘導加熱装置の製造コストを抑制するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】昇圧ユニットの構成を例示する説明図である。
図2】複数の昇圧ユニットの接続状態を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、誘導加熱装置およびその製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1に例示するように誘導加熱装置1は、加熱コイル2と、この加熱コイル2に電気を供給するインバータ3と、加熱コイル2とインバータ3との間に接続される昇圧ユニット4とを備えている。図1では説明のため昇圧ユニット4の範囲を破線で示している。
【0011】
昇圧ユニット4は、加熱コイル2とインバータ3とを接続する一対の電線5を有している。一対の電線5にはそれぞれ第一コンデンサ6が配置されている。二つの第一コンデンサ6により、インバータ3から出力される電気を昇圧して加熱コイル2に供給できる。
【0012】
一対の電線5の間には第二コンデンサ7が配置されている。具体的には一対の電線5どうしを接続する第二電線8に、第二コンデンサ7が配置されている。第二コンデンサ7および第二電線8は、インバータ3と第一コンデンサ6との間となる位置に接続されている。第二コンデンサ7は、力率を改善するために接続されている。昇圧ユニット4が第二コンデンサ7を備えない構成としてもよい。
【0013】
インバータ3から出力される交流の電気は、昇圧ユニット4で電圧を昇圧された後に加熱コイル2に供給される。加熱コイル2は誘導加熱により例えば薄板を加熱する。
【0014】
昇圧ユニット4はコンデンサで構成できるので、従来の単相トランスで構成される昇圧ユニットよりも安価となる。誘導加熱装置1の製造コストを抑制するには有利である。
【0015】
従来の単相トランスはインダクタンス成分の影響が大きかった。そのため誘導加熱装置1の設計時に、このインダクタンスの影響を考慮しなくてはならず、設計作業が煩雑となる不具合があった。設計時の工数が比較的多くなるため、誘導加熱装置1の製造コストを抑制することが困難であった。
【0016】
これに対して昇圧ユニット4を構成するコンデンサはインダクタンス成分の影響がないため、誘導加熱装置1の設計時の工数を従来より抑制できる。誘導加熱装置1の製造コストを抑制するには有利である。
【0017】
図2に例示するように加熱コイル2に供給する電流量を増加させるために、複数の昇圧ユニット4を並列となる状態で接続して加熱コイル2に電気を供給する構成とすることがある。この実施形態では環状に形成されるブスバー9を介して、八台のインバータ3と、十二台の昇圧ユニット4とを接続している。複数のインバータ3は互いに並列となる状態でブスバー9に接続されている。また複数の昇圧ユニット4は互いに並列となる状態でブスバー9に接続されている。
【0018】
ブスバー9は、環状に形成される主経路9aと、この主経路9aから複数のインバータ3にそれぞれ延設される副経路9bと、主経路9aから複数の昇圧ユニット4にそれぞれ延設される副経路9cとで構成されている。ブスバー9を構成する主経路9aおよび副経路9b、9cは、交流の電気が流れるため一対の電線や銅板等で構成される。図2では説明のため副経路9b、9cを一点鎖線で示している。インバータ3と昇圧ユニット4とはブスバー9により接続される構成に限定されない。電線など従来の構成を利用してインバータ3と昇圧ユニット4とが接続されてもよい。
【0019】
複数の昇圧ユニット4は、加熱コイル2と例えば第二ブスバー10で接続されている。第二ブスバー10もブスバー9と同様に主経路および副経路で構成されている。図2では説明のため第二ブスバー10の副経路を一点鎖線で示している。昇圧ユニット4と加熱コイル2とは第二ブスバー10により接続される構成に限定されない。電線など従来の構成を利用して昇圧ユニット4と加熱コイル2とが接続されてもよい。
【0020】
図1に例示する昇圧ユニット4において、二つの第一コンデンサ6のうち一方の第一コンデンサ6の容量に対する他方の第一コンデンサ6の容量の容量誤差が予め定められる閾値以下となる状態で一対の第一コンデンサ6のそれぞれの容量が決定されている。
【0021】
容量誤差とは、一方の第一コンデンサ6の容量を基準として、二つの第一コンデンサ6の容量の差の絶対値の割合を百分率で示すものである。具体的には一方の第一コンデンサ6の容量をC1として、他方の第一コンデンサ6の容量をC2とすると、容量誤差d=(C1-C2)/C1で示すことができる。C1=11.0μF、C2=10.5μFとすると、容量誤差dは約4.5%となる。基準となる第一コンデンサ6を入れ替えてC1=10.5μF、C2=11.0μFとすると、容量誤差dは約4.8%となる。一対の第一コンデンサ6のうちいずれを基準とした場合であっても予め定められる閾値以下となる状態で、一対の第一コンデンサ6の組み合わせを決定する。なお容量C1およびC2はいずれもコンデンサの容量の実測値である。
【0022】
容量誤差dの閾値は例えば5%に設定することができる。望ましくは2%以下、更に望ましくは1%以下となる値に閾値を設定する。
【0023】
容量誤差dを抑制することで、並列に接続される昇圧ユニット4の間で異常電流が発生する不具合を抑制できる。図2に例示する実施形態では、インバータ3と昇圧ユニット4との間に接続されているブスバー9に大電流が流れてブスバー9が高温になる不具合を抑制できる。
【0024】
誘導加熱装置1の製造時に、容量誤差dが大きいとブスバー9を循環する大電流が発生することを発見した。また容量誤差dを抑制することでこの異常電流を防止できることを、シミュレーションおよび誘導加熱装置1を用いた実験の両方において発見した。
【0025】
第一コンデンサ6の容量Cや第一コンデンサ6どうしを接続する方法に応じて、閾値は適宜設定できる。例えばシミュレーションにより異常電流が発生しない範囲の閾値を確認した上で、閾値を適宜設定することができる。
【0026】
複数の昇圧ユニット4のうち、ある昇圧ユニット4の第一コンデンサ6の容量Cと、別の昇圧ユニット4の第一コンデンサ6の容量Cとの容量誤差dは、異常電流の発生に影響しないことをシミュレーションおよび実験の両方において発見した。つまり異なる昇圧ユニット4に設置されている第一コンデンサ6どうしの容量誤差dは、閾値を超える範囲であっても許容される。
【0027】
誘導加熱装置1を製造する際には、この誘導加熱装置1の回路図を利用してシミュレーションを行い容量誤差dの閾値を予め設定しておく。また複数のコンデンサを予め準備しておく。
【0028】
複数のコンデンサの中から容量誤差dが設定された閾値以下となる組を作り、一対の第一コンデンサ6として昇圧ユニット4に組み込む。例えばコンデンサの容量Cが、10.1μF、10.3μF、10.5μF、10.6μFの場合、10.1μFと10.3μFのコンデンサを組として一つの昇圧ユニット4に組み込む。このとき容量誤差dは約2.0%および約1.9%となる。また10.5μFと10.6μFのコンデンサを組として上記とは別の昇圧ユニット4に組み込む。このとき容量誤差dは約0.95%および約0.97%となる。
【0029】
一対の第一コンデンサ6の容量誤差dが、閾値以下で且つ可能な限り小さくなる状態でコンデンサを組み合わせると更によい。ブスバー9に流れる異常電流をより小さくできるためである。
【0030】
異なる昇圧ユニット4に組み込まれている第一コンデンサ6どうしの容量誤差dは異常電流の原因にならない。そのため予め準備される全てのコンデンサの容量が精度良く揃っている必要はない。同じ昇圧ユニット4に組み込まれる一対の第一コンデンサ6の容量誤差dが閾値以下であればよい。多数のコンデンサを準備する際のコストを抑制するには有利である。また予め準備した多数のコンデンサを有効に利用できる。
【0031】
第一コンデンサ6や第二コンデンサ7が故障した場合には、昇圧ユニット4ごと交換すればよいため、メンテナンス性を向上できる。一つの昇圧ユニット4の中で一対の第一コンデンサ6の容量誤差dが閾値以下に設定されていれば、昇圧ユニット4の交換に伴い異常電流が発生する不具合を抑制できる。
【0032】
誘導加熱装置1はブスバー9を備える構成に限定されない。電線等を利用して複数の昇圧ユニット4が設置される構成を誘導加熱装置1が備えていてもよい。この場合であってもそれぞれの昇圧ユニット4の中で一対の第一コンデンサ6の容量誤差dが閾値以下となる状態に設定されていれば、一方の昇圧ユニット4から他方の昇圧ユニット4に想定外の電流が流れる不具合を抑制できる。
【0033】
昇圧ユニット4の間で異常電流が発生することを抑制できるので、昇圧ユニット4から加熱コイル2に電力を正常に供給するには有利である。
【符号の説明】
【0034】
1 誘導加熱装置
2 加熱コイル
3 インバータ
4 昇圧ユニット
5 電線
6 第一コンデンサ
7 第二コンデンサ
8 第二電線
9 ブスバー
9a 主経路
9b 副経路
9c 副経路
10 第二ブスバー
C、C1、C2 コンデンサの容量
d 容量誤差
図1
図2