IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中西金属工業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】ころ軸受用保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/54 20060101AFI20230418BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20230418BHJP
   B21D 53/12 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
F16C33/54
F16C19/36
B21D53/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019020466
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2019163855
(43)【公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018052551
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】薮林 康樹
(72)【発明者】
【氏名】深田 将吾
(72)【発明者】
【氏名】細川 朋美
(72)【発明者】
【氏名】亀田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 建治
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-76809(JP,A)
【文献】特開2009-47294(JP,A)
【文献】実公昭45-12483(JP,Y1)
【文献】特開2007-170562(JP,A)
【文献】特開2017-44281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/54,19/36,19/46,43/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ころ軸受の転動体であるころを所定間隔に案内して回転自在に保持する、前記ころを収容する複数のポケット孔が周方向に等間隔に形成されたころ軸受用保持器であって、
軸方向に離間した一対のリング部を複数の柱部により繋いだ形状を成し、
隣り合う前記ポケット孔の間に位置する前記柱部が、
前記ころのピッチ円直径よりも外径側で前記柱部の軸方向中央に位置し、前記ころを案内する中央案内部、
並びに、
前記中央案内部に繋がり、前記中央案内部よりもさらに外径側で前記リング部に繋がる、一対の端部からなり、
前記柱部の一対の端部に、
一つの前記ポケット孔において、その対角に、抜止め突部を一つずつ設けてなり、
前記ポケット孔の前記抜止め突部を設けた対角に軸方向逃がし部を設けるとともに、
前記ポケット孔の前記抜止め突部を設けない対角に周方向逃がし部を設けてなることを特徴とする、
ころ軸受用保持器。
【請求項2】
隣り合う前記柱部の前記中央案内部の間隔を前記ころの対応する直径よりも大きく設定してなる、
請求項に記載のころ軸受用保持器。
【請求項3】
前記柱部の前記中央案内部に、
前記ポケット孔を打抜き加工したときに発生するせん断面である、前記ころの側面に接触する接触面、又は、
前記せん断面を押圧加工してなる、前記ころの側面に接触する接触面
を形成してなる、
請求項1又は2に記載のころ軸受用保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐ころ又は円筒ころを収容する複数のポケット孔が周方向に等間隔に形成されたころ軸受用保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジアル荷重及びスラスト荷重を支持可能な軸受として、各種産業機械の駆動装置、歯車減速装置及び動力伝達装置等の回転支持部に円錐ころ軸受が広く使用されている。
このような円錐ころ軸受は、内輪の円錐外面状軌道面の軸方向両側部に大径側の大鍔及び小径側の小鍔を設け、内輪の円錐外面状軌道面及び外輪の円錐内面状軌道面間に複数の円錐ころを配置するとともに、これらの円錐ころを周方向等間隔に保持するための円錐ころ軸受用保持器を備える。
円錐ころ軸受用保持器として、冷間圧延鋼板又は熱間圧延鋼板等の鋼板製のプレス保持器が一般的に用いられる。
【0003】
円錐ころ及び保持器を内輪に組み込む際には、内輪の小径側の小鍔と円錐ころとの干渉を避ける必要がある。そのため、保持器を、プレス加工により正規の形状・寸法に一旦成形した後、保持器の柱部の小径リング部側部分を押し拡げる底拡げ工程(底押し工程)を行い、この状態の保持器と円錐ころを内輪に組み付けた後に、保持器を加締めて正規形状に復元する加締め工程を行う必要がある(例えば、特許文献1の段落[0004]参照)。
【0004】
また、転動体として円筒ころが組み込まれた円筒ころ軸受は、高速回転に適しているので、旋盤、フライス盤及びマシニングセンタ等の工作機械主軸等の回転支持部に、それぞれ広く使用されている。
円筒ころ軸受用保持器として、円筒ころ(6,13)のピッチ円直径より大径の中央環状部(1a,14a)を含む柱部の両側に内径側に向けて円筒ころ(6,13)のピッチ円直径と概ね同径の側方環状部(1b,14b)を折曲成形してなる内輪案内方式の保持器がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
この内輪案内方式の保持器では、柱部の中央環状部(1a,14a)に、円筒ころ(6,13)の直径より小さな距離を隔てて互いに対向するころ抜け止め(2,2,…、又は15,15,…)を突設している。そして、ポケット(3,16)内で周方向に対向するころ抜け止め(2,2、又は15,15)を弾性変形させながら、円筒ころ(6,13)を径方向外方から組み込むようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-266063号公報
【文献】実公平3-2733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2のようなころ軸受用保持器では、ポケット孔の径方向外方からのころの挿入がし難く、ころ軸受の組立作業性が悪いという問題点がある。
その上、特許文献2の円筒ころ軸受用保持器では、ピッチ円直径より大径の中央環状部まで段押し加工した柱部の中央にころ抜け止めを形成するので、対向するころ抜け止めの間隔のばらつきが大きくなる。それにより、内輪に組み付けた円筒ころに外接する円の直径のばらつきが大きくなる。よって、特許文献2の第4図及び第8図のような、内輪、円筒ころ及び保持器を一体にした円筒ころ軸受の中間組立品に対して、外輪を組み付け難いという問題点がある。
その上さらに、ころ軸受の内輪に転動体であるころを組み付けた状態では、ころを取り出すことが困難であるので、ころ軸受のメンテナンス性が悪いという問題点がある。
【0008】
特許文献1のような円錐ころ軸受用保持器では、円錐ころ及び保持器を円錐ころ軸受の内輪に組み込むために、保持器を所定の寸法に成形した後に、保持器の柱部を底拡げ及び加締めにより、2回にわたって塑性変形させる必要がある。
よって、調整に工数が掛かる上に保持器の精度、強度に悪影響を及ぼすおそれがある。
特に大型の円錐ころ軸受においては、底拡げや加締め加工の金型が大型化するとともに、加工に必要なプレス機械も大型のものが必要となるので、製造コストが増大する。
【0009】
特許文献2のような内輪案内方式の保持器を円錐ころ軸受に応用して円錐ころ軸受用保持器とする場合、円錐ころを保持器と内輪で案内することになる。したがって、円錐ころ軸受用保持器におけるポケット孔の形成を打抜き加工により行おうとした場合、パンチ及びダイを用いてポケット孔を打ち抜く方向がカップ状の保持器の側面に対して直交しない。
よって、円錐ころ軸受用保持器のポケット孔を打抜き加工により形成するのは困難であるので、製造コストが増大する。
【0010】
特許文献2のような内輪案内方式の保持器を円錐ころ軸受に応用した円錐ころ軸受用保持器、及び特許文献2のような円筒ころ軸受用保持器において、保持器の柱部がピッチ円直径より大径の中央環状部を含むことから、柱部がころのピッチ円直径を跨ぐことになる。
よって、ころ軸受用保持器の柱部が細くなるので、強度面から問題になるおそれや成形不能となるおそれがある。
その上さらに、柱部の中央環状部に突設したころ抜け止めにより、ころの抜け止めを行う場合、段押し加工や打抜き加工時の変形によって、ころ抜け止め間の寸法がばらつき易く、特に大型のころ軸受においては、ポケット孔の径方向外方からのころの挿入が困難になるおそれがある。
【0011】
そこで本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、ころ軸受の組立作業性及びンテンス性が良く、柱部が細くなって強度面等の問題が生じることがなく、円錐ころ軸受用保持器である場合には、調整に工数が掛かるとともに保持器の精度に悪影響を及ぼすおそれがある底拡げや加締め加工を不要にできる、ころ軸受用保持器を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るころ軸受用保持器は、前記課題解決のために、ころ軸受の転動体であるころを所定間隔に案内して回転自在に保持する、前記ころを収容する複数のポケット孔が周方向に等間隔に形成されたころ軸受用保持器であって、
軸方向に離間した一対のリング部を複数の柱部により繋いだ形状を成し、
隣り合う前記ポケット孔の間に位置する前記柱部が、
前記ころのピッチ円直径よりも外径側で前記柱部の軸方向中央に位置し、前記ころを案内する中央案内部、
並びに、
前記中央案内部に繋がり、前記中央案内部よりもさらに外径側で前記リング部に繋がる、一対の端部からなり、
前記柱部の一対の端部に、
一つの前記ポケット孔において、その対角に、抜止め突部を一つずつ設けてなり、
前記ポケット孔の前記抜止め突部を設けた対角に軸方向逃がし部を設けるとともに、
前記ポケット孔の前記抜止め突部を設けない対角に周方向逃がし部を設けてなることを特徴とする(請求項1)。
【0014】
ような構成によれば、対角に位置する抜止め突部を避けるようにころを傾けながらポケット孔の径方向外方から挿入して、内輪にころを容易に組み付けることができるので、ころ軸受の組立作業性を向上できる。
その上、内輪にころを組み付けた状態でも、外輪を外せば、対角に位置する抜止め突部を避けるようにころを傾けて取り出すことができるので、ころ軸受の分解及びメンテナンスが容易になる。
【0015】
その上さらに、柱部を構成する、中央案内部、及び一対の端部が、ころのピッチ円直径よりも外径側に位置することから、柱部が細くならないので、強度面から問題になるおそれや成形不能となるおそれがない。
その上、柱部が、中央案内部、及び中央案内部よりもさらに外径側の一対の端部からなることから、このような柱部の段付き形状により、通常形状の保持器と比較してころとの接触面積が小さくなる。
よって、潤滑油が通りやすく潤滑性がアップするので、低トルク化を図ることができる。
【0016】
その上さらに、円錐ころ軸受用保持器である場合に、底拡げ工程及び加締め工程が不要であるとともに調整に工数が掛からないので、製造コストを低減でき、保持器の精度を高くすることが容易であるとともに精度のばらつきを小さくできる。
その上、特に大型の円錐ころ軸受用の大型の保持器である場合に、底拡げや加締め加工用の大型の金型やプレス加工機械が不要になるので、製造コストをより一層低減できる。
その上さらに、底拡げによる窓長さの変化が無いので、軸方向隙間を詰めて適正な隙間にすることができる。
【0017】
また、隣り合う前記柱部の前記中央案内部の間隔を前記ころの対応する直径よりも大きく設定してなるのが好ましい実施態様である(請求項)。
このような構成によれば、隣り合う柱部の中央案内部の間隔がころの対応する直径よりも大きいことから、ポケット孔の径方向外方からころを挿入する際に中央案内部により挿入抵抗が増大することがない。
よって、特に大型のころ軸受用の大型の保持器である場合であっても、ポケット孔の径方向外方からころを容易に挿入できる。
【0018】
また、前記柱部の前記中央案内部に、
前記ポケット孔を打抜き加工したときに発生するせん断面である、前記ころの側面に接触する接触面、又は、
前記せん断面を押圧加工してなる、前記ころの側面に接触する接触面
を形成してなるのが一層好ましい実施態様である(請求項)。
このような構成によれば、ころの側面に接触する、柱部の中央案内部の接触面が、平滑な面であるせん断面、又はせん断面のエッジ部で接触しないように押圧加工した押圧加工面であるので、ころの安定性を向上できる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係るころ軸受用保持器によれば、主に以下に示すような効果を奏する。
(1)対角に位置する抜止め突部を避けるようにころを傾けながらポケット孔の径方向外方から挿入して、内輪にころを容易に組み付けることができるので、ころ軸受の組立作業性を向上できる。
(2)内輪にころを組み付けた状態でも、外輪を外せば、対角に位置する抜止め突部を避けるようにころを傾けて取り出すことができるので、ころ軸受の分解及びメンテナンスが容易になる。
(3)柱部がころのピッチ円直径よりも外径側に位置することから、柱部が細くならないので、強度面から問題になるおそれや成形不能となるおそれがない。
(4)柱部が、中央案内部及び一対の端部からなる段付き形状であることから、通常形状の保持器と比較してころとの接触面積が小さくなり、潤滑油が通りやすく潤滑性がアップするので、低トルク化を図ることができる。
(5)円錐ころ軸受用保持器である場合に、底拡げ工程及び加締め工程が不要であるとともに調整に工数が掛からないので、製造コストを低減でき、保持器の精度を高くすることが容易であるとともに精度のばらつきを小さくできる。
(6)特に大型の円錐ころ軸受用の大型の保持器である場合に、底拡げや加締め加工用の大型の金型やプレス加工機械が不要になるので、製造コストをより一層低減できる。
(7)円錐ころ軸受用保持器である場合に、底拡げによる窓長さの変化が無いので、軸方向隙間を詰めて適正な隙間にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態1に係るころ軸受用保持器の斜視図であり、円錐ころ軸受用保持器を示している。
図2】前記保持器により円錐ころを保持して内輪に組み付けた状態を示す斜視図である。
図3】3個の円錐ころを内輪に組み付けた状態を示す斜視図である。
図4図3の状態で内輪を省略して前記保持器及び円錐ころのみを示した斜視図である。
図5】内輪に円錐ころを組み付ける方法を示す要部拡大部分縦断面正面図である。
図6図2の内輪並びに円錐ころ及び前記保持器のセットを外輪に組み付けた状態を示す要部拡大部分縦断面正面図である。
図7A】保持器のポケット孔に円錐ころを傾けながら挿入している途中の状態を示す要部拡大正面図である。
図7B】保持器のポケット孔に円錐ころの挿入が完了した状態を示す要部拡大正面図である。
図8】円錐ころの挿入方向から見たポケット孔の概略図であり、ポケット孔まわりの諸元を示している。
図9】挿入解析における保持器の応力コンター図である。
図10図2の状態から1個の円錐ころを取り出した状態を示す斜視図である。
図11】前記保持器と円錐ころの関係を示す要部拡大斜視図である。
図12】同じく要部拡大正面図である。
図13】同じく要部拡大部分縦断面正面図である。
図14】(a)は柱部を大径側端部の抜止め突部の位置で切断した要部拡大横断面平面図、(b)は柱部を中央案内部の位置で切断した要部拡大横断面平面図である。
図15】(a)はポケット孔を打抜き加工したときに発生するせん断面を円錐ころの側面に接触する接触面にする場合を示す、柱部の中央案内部の要部拡大水平切断面端面図であり、(b)はさらに拡大して示す拡大図である。
図16】(a)はポケット孔を打抜き加工したときに発生するせん断面を押圧加工して円錐ころの側面に接触する接触面にする場合を示す、柱部の中央案内部の要部拡大水平切断面端面図であり、(b)はさらに拡大して示す拡大図である。
図17】本発明の実施の形態2に係るころ軸受用保持器の斜視図であり、円筒ころ軸受用保持器を示している。
図18】4個の円筒ころを内輪に組み付けた状態で内輪を省略して前記保持器及び円筒ころのみを示した斜視図である。
図19】内輪に円筒ころを組み付ける方法を示す要部拡大部分縦断面正面図である。
図20図19のように組み付けた内輪並びに円筒ころ及び前記保持器のセットに対して外輪を組み付けた状態を示す要部拡大部分縦断面正面図である。
図21A】保持器のポケット孔に円筒ころを傾けながら挿入している途中の状態を示す要部拡大正面図である。
図21B】保持器のポケット孔に円筒ころの挿入が完了した状態を示す要部拡大正面図である。
図22】円筒ころの挿入方向から見たポケット孔の概略図であり、ポケット孔まわりの諸元を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
以下の実施形態において、ころ軸受の軸方向、径方向、及び周方向を、「軸方向」、「径方向」、及び「周方向」という。
【0022】
[実施の形態1]
<円錐ころ軸受>
図1の斜視図に示す本発明の実施の形態1に係るころ軸受用保持器は、円錐ころ軸受用保持器1Aである。円錐ころ軸受用保持器1Aは、図6の要部拡大部分縦断面正面図に示す円錐ころ軸受10Aに用いる。
円錐ころ軸受10Aは、内輪11及び外輪12、並びに、転動体である複数の円錐ころ15A,15A,…を備える。
内輪11は、円錐外面状軌道面11Aを有し、大径側端部に大鍔13を有するとともに小径側端部に小鍔14を有する。
外輪12は、円錐内面状軌道面12Aを有する。
円錐ころ15A,15A,…は、円錐外面状軌道面11A及び円錐内面状軌道面12A間を転動する。
【0023】
<円錐ころ軸受用保持器>
図1及び図2の斜視図に示すように、円錐ころ軸受用保持器1Aは、軸方向に離間した一対の大径リング部2及び小径リング部3を複数の柱部4,4,…により繋いだ形状を成し、円錐ころ15A,15A,…を収容する複数のポケット孔P,P,…が周方向に等間隔に形成される。
図1の斜視図、及び図5の要部拡大部分縦断面正面図に示すように、隣り合うポケット孔P,Pの間に位置する柱部4は、中央案内部5、並びに、リング部2,3に繋がる一対の端部である、大径側端部6、及び小径側端部7からなる。
中央案内部5は、柱部4の軸方向中央に位置して円錐ころ15Aを案内する。
大径側端部6は、傾斜部8により中央案内部5の上部に繋がり、中央案内部5よりも外径側で大径リング部2に繋がる。
小径側端部7は、傾斜部9により中央案内部5の下部に繋がり、中央案内部5よりも外径側で小径リング部3に繋がる。
【0024】
柱部4の大径側端部6、及び柱部4の小径側端部7には、一つのポケット孔Pにおいて、その対角に、抜止め突部6A及び抜止め突部7Aを一つずつ設ける。
また、ポケット孔Pを、後述するように、ポケット孔Pの径方向外方から円錐ころ15Aを挿入して内輪11に組み付ける際に、対角に位置する一対の抜止め突部6A,7Aを避けるように円錐ころ15Aを傾けながら挿入できる形状とする。
すなわち、図7A及び図7Bの要部拡大正面図に示すように、例えば、ポケット孔Pの抜止め突部6A,7Aを設けた対角に軸方向逃がし部6B,7Bを設けるとともに、ポケット孔Pの抜止め突部6A,7Aを設けない対角に周方向逃がし部6C,7Cを設けている。
【0025】
よって、図5の要部拡大部分縦断面正面図に示すようにポケット孔Pの径方向外方から円錐ころ15Aを挿入して内輪11に組み付ける際に、図7Aの要部拡大正面図に示す挿入途中の状態のように、対角に位置する一対の抜止め突部6A,7Aを避けるように円錐ころ15Aを傾けながら(挿入時に円錐ころ15Aが許容される、ポケット孔Pを正面から見たときの法線まわりの傾きの角度α参照)、ポケット孔Pに挿入できる。
そして、図7Bの要部拡大部分縦断面正面図に示すポケット孔Pへの円錐ころ15Aの挿入が完了した状態(図6の要部拡大部分縦断面正面図のように内輪11に円錐ころ15Aを組み付けた状態)では、内輪11の円錐外面状軌道面11Aに円錐ころ15Aの側面が当接し、抜止め突部6A,7Aを避けるように傾けながら挿入した円錐ころ15Aの傾きが修正され、抜止め突部6A,7Aにより円錐ころ15Aが抜け止めされる。
ここで、抜け止め部6A,7Aは、保持器1Aの半径方向の動きを制御する機能も有する。
【0026】
次に、図8の円錐ころの挿入方向から見たポケット孔の概略図に示す諸元により、ポケット孔Pまわりの寸法について説明する。ここで、円錐ころ15Aの寸法を、長さをRL、大径側半径をR1、小径側半径をR2とする。
【0027】
(1)窓高さLは、円錐ころ15Aの長さRLよりも若干大きく、要求仕様に応じて設定する。
(2)ころ案内部の窓幅は、対応する円錐ころ15Aの半径よりも0.5~3.5%大きく設定する。例えば、ポケット孔Pの高さ方向中央の窓幅Wは、(R1+R2)/2よりも0.5~3.5%大きく設定する。
(3)軸方向逃がし量L1、L2は、内輪11の溝長さとの関係で円錐ころ15Aの長さRLの1~5%に設定する。
(4)大径側ころ抜止め部長さL3、及び小径側ころ抜止め部長さL4は、円錐ころ15Aが抜けないように、円錐ころ15Aの長さRLの5%以上とする。
(5)大径側ころ抜止め部窓幅は、対応する円錐ころ15Aの半径よりも2~10%小さくなるように設定する。例えば、窓高さLの上端に対応する位置におけるポケット孔Pの窓幅W1は、円錐ころ15Aの大径側半径R1よりも2~10%小さくなるように設定する。
(6)小径側ころ抜止め部窓幅は、対応する円錐ころ15Aの半径よりも2~10%小さくなるように設定する。例えば、窓高さLの下端に対応する位置におけるポケット孔Pの窓幅W2は、円錐ころ15Aの小径側半径R2よりも2~10%小さくなるように設定する。
(7)大径側ころ非抜止め部窓幅W3は、ポケット孔Pに円錐ころ15Aを挿入する工程で抜止め突部6Aとの間で締め代を持たないように設定する。
(8)小径側ころ非抜止め部窓幅W4は、ポケット孔Pに円錐ころ15Aを挿入する工程で抜止め突部7Aとの間で締め代を持たないように設定する。
以上のように円錐ころ軸受用保持器1Aのポケット孔Pまわりの寸法を設定することにより、円錐ころ軸受用保持器1Aの強度を確保でき、円錐ころ15Aの傾きを最小限にできるとともに、円錐ころ15A挿入時の応力を降伏応力以下にすることができる。
【0028】
<挿入解析>
次に、円錐ころ軸受用保持器のポケット孔に円錐ころを挿入する際に、前記保持器の降伏応力以内で挿入可能であることを確認するために行った挿入解析について説明する。
【0029】
(形状モデル)
(1)円錐ころ軸受用保持器
3D要素でモデリングした。
(2)円錐ころ
剛体として定義した。
(3)円錐ころの寸法
長さをRL、大径側半径をR1、小径側半径をR2とした。
(4)ポケット孔の寸法(図8の諸元)
・窓高さL=RL×1.02
・ころ案内部の窓幅は、対応する円錐ころの半径よりも0.9%大きい。例えば、ポケット孔Pの高さ方向中央の窓幅W=(R1+R2)/2×(1+0.009)
・軸方向逃がし量L1,L2=RL×0.025
・大径側ころ抜止め部長さL3=RL×0.125
・小径側ころ抜止め部長さL4=RL×0.125
・大径側ころ抜止め部窓幅W1=R1×(1-0.04)
・小径側ころ抜止め部窓幅W2=R2×(1-0.04)
・大径側ころ非抜止め部窓幅W3=cos(α)×(2×R1)-W1
・小径側ころ非抜止め部窓幅W4=cos(α)×(2×R2)-W2
ここで、αは、挿入時に円錐ころが許容される、ポケット孔Pを正面から見たときの法線まわりの傾きの角度(図7A参照)である。
大径側角度:atan(L1/W1)と小径側角度:atan(L2/W2)を比較して、角度が小さい方をαとする。
【0030】
(材料モデル)
SPCC材とし、塑性域までを考慮した。
【0031】
(条件)
(1)円錐ころは1個ずつ挿入するものとしてモデル化した。
(2)円錐ころの解析開始位置(挿入前)は、ポケット孔に、円錐ころが挿入された状態(円錐ころ軸受が完成した状態)の姿勢のままポケット孔を正面から見たときの法線方向に沿って外径側に保持器と干渉しないように移動させた位置とする。
(3)挿入前の状態から前記法線に沿って円錐ころをポケット孔に向かって移動させながらポケット孔に挿入する。
(4)このとき円錐ころは前記法線に対して回転自由である(傾けながら挿入できる)。
【0032】
(結果)
図9の応力コンター図に示すように、円錐ころ軸受用保持器のポケット孔に円錐ころを挿入した際に前記保持器に発生する最大応力は、ポケット孔の隅R部CRに発生し、その値は降伏応力の約50%であり弾性範囲内であった。
【0033】
<試験用保持器による挿入試験>
前記挿入解析と同じ寸法で試験用に製作した円錐ころ軸受用保持器において、ポケット孔の径方向外方から円錐ころを挿入して円錐ころ軸受の内輪に取り付ける作業を実際に行った。
その結果、前記挿入解析と同様に、前記円錐ころ軸受用保持器は塑性変形していなかった。
【0034】
<内輪への円錐ころの組付け作業>
図2の斜視図に示すように内輪11に円錐ころ15A,15A,…を組み付ける際には、図3の斜視図、及び図3において内輪11を省略して保持器1A及び円錐ころ15A,…のみを表示した図4の斜視図に示すように、周方向に離間した適宜箇所、例えば周方向等分の3箇所の円錐ころ15A,…を保持器1AのポケットPの径方向外方から挿入して内輪11に取り付ける。それにより、保持器1Aの位置を内輪11に対して定めることができる。
その状態で、図3に示す円錐ころ15A,15Aの間のポケットP,P,…に対して円錐ころ15A,15A,…を径方向外方から挿入することにより、図2のように内輪11に対して全ての円錐ころ15A,15A,…を組み付けることができる。
【0035】
以上のような円錐ころ軸受用保持器1Aの構成によれば、対角に位置する抜止め突部6A,7Aを避けるように円錐ころ15Aを傾けながらポケット孔Pの径方向外方から挿入して、内輪11に円錐ころ15A,15A,…を容易に組み付けることができるので、底拡げや加締め加工をする必要がない。
よって、底拡げ工程及び加締め工程が不要であるとともに調整に工数が掛からないので、製造コストを低減でき、保持器1Aの精度を高くすることが容易であるとともに精度のばらつきを小さくできる。
また、保持器1Aが、特に大型の円錐ころ軸受用で大型である場合に、底拡げや加締め加工用の大型の金型やプレス加工機械が不要になるので、製造コストをより一層低減できる。
さらに、底拡げによる窓長さの変化が無いので、軸方向隙間を詰めて適正な隙間にすることができる。
【0036】
さらにまた、柱部4を構成する、中央案内部5、並びに大径側端部6及び小径側端部7が、円錐ころ15A,15A,…のピッチ円直径PCDよりも外径側に位置する(前記ピッチ円直径PCDを跨がない)。特に中央案内部5,5,…が円錐ころ15A,15A,…のピッチ円直径PCDよりも外径側に位置しているので、円錐ころ15A,15A間の隙間がピッチ円直径PCD上よりも広くなる。
よって、柱部4の幅(周方向長さ)を比較的大きく確保できることから、柱部4が細くならないので、強度面から問題になるおそれや成形不能となるおそれがない。
また、柱部4が、中央案内部5、並びに中央案内部5よりもさらに外径側の大径側端部6及び小径側端部7からなることから、このような柱部4の段付き形状により、通常形状の保持器と比較して円錐ころ15Aとの接触面積が小さくなる。
よって、潤滑油が通りやすく潤滑性がアップするので、低トルク化を図ることができる。
さらに、内輪11に円錐ころ15A,15A,…を組み付けた状態でも、外輪12を外せば、対角に位置する抜止め突部6A,7Aを避けるように円錐ころ15A,15A,…を傾けて取り出すことができるので、円錐ころ軸受10Aの分解及びメンテナンスが容易になる。
例えば、図10の斜視図に示すように、図2の状態から1個の円錐ころ15Aを取り出した状態で、円錐ころ15Aを取り出したポケット孔Pから内輪11の軌道面11A(図5参照)を目視確認できる。
【0037】
<保持器の形状と円錐ころとの関係>
次に、円錐ころ軸受用保持器1Aの形状と円錐ころ15Aとの関係について説明する。
図5並びに図7A及び図7Bのように保持器1のポケットPの径方向外方から円錐ころ15Aを挿入して内輪11に組み付けた状態で、内輪11を省略したものを、図11の要部拡大斜視図、図12の要部拡大正面図、図13の要部拡大部分縦断面正面図、並びに、図14(a)及び図14(b)の要部拡大横断面平面図に示す。
【0038】
図12並びに図14(a)及び図14(b)に示すように、隣り合う柱部4,4の中央案内部5,5の間隔は、円錐ころ15Aの周方向隙間の規定範囲内になるように設定する。具体的には、中央案内部5,5の間隔は、前記のとおり、円錐ころ15Aの対応する直径よりも0.5%~3.5%大きく設定する。
【0039】
したがって、中央案内部5,5には円錐ころ15Aを抜け止めする機能は無く、中央案内部5,5の間隔により円錐ころ15Aの周方向隙間を設定して円錐ころ15Aを案内する。
また、隣り合う柱部4,4の中央案内部5,5の間隔が円錐ころ15Aの対応する直径よりも大きいことから、ポケット孔Pの径方向外方から円錐ころ15Aを挿入する際に中央案内部5,5により挿入抵抗が増大することがない。
よって、保持器1Aが、特に大型の円錐ころ軸受用である場合であっても、ポケット孔P,P,…の径方向外方から円錐ころ15A,15A,…を容易に挿入できる。
【0040】
図14(b)の要部拡大横断面平面図、並びに図15(a)の要部拡大水平切断面端面図、及び図15(b)の拡大図に示すように、ポケット孔Pを保持器内径側から打抜き加工した場合、破断面A,Aと、平滑な面であるせん断面B,Bが発生し、このせん断面B,Bを接触面5A,5Aとしている。この場合、同一ポケット内の対向する接触面5A,5Aは平行であり、接触面5A,5Aは円錐ころ15Aの中心を通る径方向Rとも平行である。
【0041】
図16(a)の要部拡大水平切断面端面図、及び図16(b)の拡大図に示すように、中央案内部5,5,…をさらに外径側に形成する場合には、図15(b)のようなせん断面B,Bだけでは、柱部4,4,…のエッジ部が円錐ころ15Aの側面と接触して前記側面に傷が付いてしまう。そこで、図16(b)に示すように、ポケット孔を打抜き加工した後に柱部4,4の中央案内部5,5にプレス加工で押圧加工を施して押圧加工面C,Cを形成し、この押圧加工面C,Cを接触面5A,5Aとする。この場合、同一ポケット内の対向する接触面5A,5Aは、外径側に行くにしたがって円錐ころ15Aの中心を通る径方向Rに近づく方向に傾斜する。
【0042】
図15(a)及び図15(b)、並びに図16(a)及び図16(b)のような接触面5A,5A,…により、円錐ころ15Aの側面に接触する、隣り合う柱部4,4の中央案内部5,5の接触面5A,5Aが、平滑な面であるせん断面B,B、又はせん断面B,Bのエッジ部で接触しないように押圧加工した押圧加工面C,Cであるので、円錐ころ15Aの安定性を向上できる。
【0043】
図13に示すように、大径リング部2の下面及び小径リング部3の上面は、円錐ころ15Aの端面と平行である。
また、図6及び図14(b)に示すように、柱部4の中央案内部5は、円錐ころ15Aのピッチ円直径PCDよりも外径側に位置する。
よって、図11に示すように、柱部4の大径側端部6及び小径側端部7は、前記位置の中央案内部5よりもさらに外径側に位置する。
【0044】
ここで、円錐ころ軸受用保持器1Aにおける、円錐ころ15A,15A,…のピッチ円直径PCDよりも外径側で柱部4の軸方向中央に位置して円錐ころ15Aを案内する中央案内部5、並びに、中央案内部5よりもさらに外径側の大径側端部6及び小径側端部7からなる、柱部4の形状及び位置から、カップ状の保持器1Aの側面に対してパンチ及びダイを用いてポケット孔Pを打ち抜く方向を直交させるように保持器1Aの形状を設定することが容易である。その結果、大径リング部2の下面及び小径リング部3の上面は、図13のように円錐ころ15Aの端面と平行になる。
よって、前記のように保持器1の形状を設定することにより、ポケット孔Pの形成を打抜き加工により容易に行うことができるので、製造コストを低減できる。
【0045】
[実施の形態2]
<円筒ころ軸受>
図17の斜視図に示す本発明の実施の形態2に係るころ軸受用保持器は、円筒ころ軸受用保持器1Bである。円筒ころ軸受用保持器1Bは、図20の要部拡大部分縦断面正面図に示す円筒ころ軸受10Bに用いる。
円筒ころ軸受10Bは、内輪11及び外輪12、並びに、転動体である複数の円筒ころ15B,15B,…を備える。
内輪11は、円筒外面状軌道面11Aを有し、軸方向の端部に鍔13,14を有する。
外輪12は、円筒内面状軌道面12Aを有する。
円筒ころ15B,15B,…は、円筒外面状軌道面11A及び円筒内面状軌道面12A間を転動する。
【0046】
<円筒ころ軸受用保持器>
図17及び図18の斜視図に示すように、円筒ころ軸受用保持器1Bは、軸方向に離間した一対のリング部2,3を複数の柱部4,4,…により繋いだ形状を成し、円筒ころ15B,15B,…を収容する複数のポケット孔P,P,…が周方向に等間隔に形成される。
図17の斜視図、及び図19の要部拡大部分縦断面正面図に示すように、隣り合うポケット孔P,Pの間に位置する柱部4は、中央案内部5、並びに、リング部2,3に繋がる一対の端部6,7からなる。
中央案内部5は、柱部4の軸方向中央に位置して円筒ころ15Bを案内する。
端部6は、傾斜部8により中央案内部5の上部に繋がり、中央案内部5よりも外径側でリング部2に繋がる。
端部7は、傾斜部9により中央案内部5の下部に繋がり、中央案内部5よりも外径側でリング部3に繋がる。
【0047】
柱部4の端部6,7には、一つのポケット孔Pにおいて、その対角に、抜止め突部6A及び抜止め突部7Aを一つずつ設ける。
また、ポケット孔Pを、後述するように、ポケット孔Pの径方向外方から円筒ころ15Bを挿入して内輪11に組み付ける際に、対角に位置する一対の抜止め突部6A,7Aを避けるように円筒ころ15Bを傾けながら挿入できる形状とする。
すなわち、図21A及び図21Bの要部拡大正面図に示すように、例えば、ポケット孔Pの抜止め突部6A,7Aを設けた対角に軸方向逃がし部6B,7Bを設けるとともに、ポケット孔Pの抜止め突部6A,7Aを設けない対角に周方向逃がし部6C,7Cを設けている。
【0048】
よって、図19の要部拡大部分縦断面正面図に示すようにポケット孔Pの径方向外方から円筒ころ15Bを挿入して内輪11に組み付ける際に、図21Aの要部拡大正面図に示す挿入途中の状態のように、対角に位置する一対の抜止め突部6A,7Aを避けるように円筒ころ15Bを傾けながら(挿入時に円筒ころ15Bが許容される、ポケット孔Pを正面から見たときの法線まわりの傾きの角度β参照)、ポケット孔Pに挿入できる。
そして、図21Bの要部拡大部分縦断面正面図に示すポケット孔Pへの円筒ころ15Bの挿入が完了した状態(図20の要部拡大部分縦断面正面図のように内輪11に円筒ころ15Bを組み付けた状態)では、内輪11の円筒外面状軌道面11Aに円筒ころ15Bの側面が当接し、抜止め突部6A,7Aを避けるように傾けながら挿入した円筒ころ15Bの傾きが修正され、抜止め突部6A,7Aにより円筒ころ15Bが抜け止めされる。
ここで、抜け止め部6A,7Aは、保持器1Bの半径方向の動きを制御する機能も有する。
【0049】
次に、図22の円筒ころの挿入方向から見たポケット孔の概略図に示す諸元により、ポケット孔Pまわりの寸法について説明する。ここで、円筒ころ15Bの寸法を、長さをRL、半径をR1とする。
【0050】
(1)窓高さLは、円筒ころ15Bの長さRLよりも若干大きく、要求仕様に応じて設定する。
(2)ころ案内部の窓幅は、対応する円筒ころ15Bの半径よりも0.5~3.5%大きく設定する。例えば、ポケット孔Pの高さ方向中央の窓幅Wは、R1よりも0.5~3.5%大きく設定する。
(3)軸方向逃がし量L1は、内輪11の溝長さとの関係で円筒ころ15Bの長さRLの1~5%に設定する。
(4)ころ抜止め部長さL3は、円筒ころ15Bが抜けないように、円筒ころ15Bの長さRLの5%以上とする。
(5)ころ抜止め部窓幅W1は、円筒ころ15Bの半径R1よりも2~10%小さくなるように設定する。
(6)ころ非抜止め部窓幅W3は、ポケット孔Pに円筒ころ15Bを挿入する工程で抜止め突部6A,7Aとの間で締め代を持たないように設定する。
以上のように円筒ころ軸受用保持器1Bのポケット孔Pまわりの寸法を設定することにより、円筒ころ軸受用保持器1Bの強度を確保でき、円筒ころ15Bの傾きを最小限にできるとともに、円筒ころ15B挿入時の応力を降伏応力以下にすることができる。
【0051】
以上のような円筒ころ軸受用保持器1Bの構成によれば、対角に位置する抜止め突部6A,7Aを避けるように円筒ころ15Bを傾けながらポケット孔Pの径方向外方から挿入して、内輪11に円筒ころ15B,15B,…を容易に組み付けることができるので、円筒ころ軸受10Bの組立作業性を向上できる。
その上、内輪11に円筒ころ15B,15B,…を組み付けた状態でも、外輪12を外せば、対角に位置する抜止め突部6A,7Aを避けるように円筒ころ15B,15B,…を傾けて取り出すことができるので、円筒ころ軸受10Bの分解及びメンテナンスが容易になる。
【0052】
その上さらに、柱部4を構成する、中央案内部5、及び一対の端部6,7が、円筒ころ15B,15B,…のピッチ円直径PCDよりも外径側に位置することから、柱部4が細くならないので、強度面から問題になるおそれや成形不能となるおそれがない。
その上、柱部4が、中央案内部5、及び中央案内部5よりもさらに外径側の一対の端部6,7からなることから、このような柱部4の段付き形状により、通常形状の保持器と比較して円筒ころ15Bとの接触面積が小さくなる。
よって、潤滑油が通りやすく潤滑性がアップするので、低トルク化を図ることができる。
【0053】
その上さらに、円筒ころ15Bを抜け止めする抜止め突部6A,7Aを、柱部4の根元部に設けていることから、特許文献2のようなピッチ円直径より大径の中央環状部まで段押しした柱部の中央に設けるころ抜け止めと比較して、抜止め突部6A,7Aの寸法精度が大幅に高くなる。それにより、円筒ころを挿入する際における間隔のばらつきが大幅に小さくなる。
よって、内輪に組み付けた円筒ころに外接する円の直径のばらつきが小さくなるので、内輪、円筒ころ及び保持器を一体にした円筒ころ軸受の中間組立品に対して、外輪を組み付け易くなる。
【0054】
以上の実施の形態の記載はすべてすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0055】
1A 円錐ころ軸受用保持器
1B 円筒ころ軸受用保持器
2 大径リング部、リング部
3 小径リング部、リング部
4 柱部
5 中央案内部
5A 接触面
6 大径側端部、端部
6A 抜止め突部
6B 軸方向逃がし部
6C 周方向逃がし部
7 小径側端部、端部
7A 抜止め突部
7B 軸方向逃がし部
7C 周方向逃がし部
8,9 傾斜部
10A 円錐ころ軸受
10B 円筒ころ軸受
11 内輪
11A 円錐外面状軌道面、円筒外面状軌道面
12 外輪
12A 円錐内面状軌道面、円筒外面状軌道面
13 大鍔、鍔
14 小鍔、鍔
15A 円錐ころ
15B 円筒ころ
A 破断面
B せん断面
C 押圧加工面
CR 隅R部
P ポケット孔
PCD ピッチ円直径
R 円錐ころの中心を通る径方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22