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特許7263851地山評価方法、地山評価システム及び地山評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】地山評価方法、地山評価システム及び地山評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20230418BHJP
   E21B 45/00 20060101ALI20230418BHJP
   G01V 9/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
E21B45/00
G01V9/00 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019043953
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020147923
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】奥澤 康一
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-020897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0323495(US,A1)
【文献】国際公開第2010/078615(WO,A1)
【文献】特開2017-201074(JP,A)
【文献】特開2008-156824(JP,A)
【文献】特開2016-125296(JP,A)
【文献】特開2017-179725(JP,A)
【文献】特開2016-217791(JP,A)
【文献】国際公開第2011/094817(WO,A1)
【文献】特開2004-346573(JP,A)
【文献】特開2015-067957(JP,A)
【文献】特開2018-49390(JP,A)
【文献】特開2018-84076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
E21B 45/00
G01V 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力部に接続された制御部を用いて、トンネルが形成される地山の地山等級を評価する方法であって、
前記制御部が、
トンネルの切羽面から、前記トンネルの周囲領域を含んで延在するように掘削された複数の孔のフィード圧及び削孔速度を取得し、
前記フィード圧及び前記削孔速度を取得した計測座標群における前記フィード圧及び前記削孔速度から算出される正規化削孔速度比とガウス過程回帰モデルとを用いて、前記周囲領域の空間において前記計測座標群とは異なる座標の正規化削孔速度比を推定し、
前記推定した正規化削孔速度比に対応する地山等級を、正規化削孔速度比に対応する地山等級が関連付けられた地山分類テーブルに適用して特定することにより、前記周囲領域の空間における前記座標の地山等級を特定し、この特定した地山等級を前記出力部に出力することを特徴とする地山評価方法。
【請求項2】
前記制御部が、
前記トンネルのロックボルトを配置するロックボルト孔のフィード圧及び削孔速度を取得し、
前記ロックボルト孔の前記フィード圧及び前記削孔速度から算出される正規化削孔速度比を用いて、前記地山等級を推定することを特徴とする請求項1に記載の地山評価方法。
【請求項3】
出力部に接続された制御部を備え、トンネルが形成される地山の地山等級を評価する地山評価システムであって、
前記制御部が、
トンネルの切羽面から、前記トンネルの周囲領域を含んで延在するように掘削された複数の孔のフィード圧及び削孔速度を取得し、
前記フィード圧及び前記削孔速度を取得した計測座標群における前記フィード圧及び前記削孔速度から算出される正規化削孔速度比とガウス過程回帰モデルとを用いて、前記周囲領域の空間において前記計測座標群とは異なる座標の正規化削孔速度比を推定し、
前記推定した正規化削孔速度比に対応する地山等級を、正規化削孔速度比に対応する地山等級が関連付けられた地山分類テーブルに適用して特定することにより、前記周囲領域の空間における前記座標の地山等級を特定し、この特定した地山等級を前記出力部に出力することを特徴とする地山評価システム。
【請求項4】
出力部に接続された制御部を用いて、トンネルが形成される地山の地山等級を評価するプログラムであって、
前記制御部を、
トンネルの切羽面から、前記トンネルの周囲領域を含んで延在するように掘削された複数の孔のフィード圧及び削孔速度を取得し、
前記フィード圧及び前記削孔速度を取得した計測座標群における前記フィード圧及び前記削孔速度から算出される正規化削孔速度比とガウス過程回帰モデルとを用いて、前記周囲領域の空間において前記計測座標群とは異なる座標の正規化削孔速度比を推定し、
前記推定した正規化削孔速度比に対応する地山等級を、正規化削孔速度比に対応する地山等級が関連付けられた地山分類テーブルに適用して特定することにより、前記周囲領域の空間における前記座標の地山等級を特定し、この特定した地山等級を前記出力部に出力する手段として機能させることを特徴とする地山評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの周囲の地山の性状を評価する地山評価方法、地山評価システム及び地山評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルを掘削する場合、切羽前方の地山の性状を把握することにより、支保工等の掘削工事を効率的に行なうことができる。このトンネル切羽の前方探査を行なう技術として、従来から、ノンコア掘削による穿孔探査システムが知られている。穿孔探査システムでは、穿孔時(削孔時)の機械データから、トンネル切羽前方の地山の性状を探査する。この場合、ドリルジャンボ(パーカッション型削孔機)やノンコア先進ボーリングマシン(ロータリー・パーカッション型削孔機)、水圧ハンマ等を用いる(例えば、特許文献1,2及び非特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、ドリルジャンボを用いた切羽前方予測方法が記載されている。この予測方法では、地山の削孔時のフィード圧と削孔速度とを計測する。そして、複数地点におけるフィード圧の変動量とこの変動量に対応する削孔速度の変動量とを算出し、変動量の組み合わせを回帰分析して生成した相関曲線を用いて予測を行なう。更に、非特許文献1においても、地山の性状を把握するために、削孔速度とフィード圧とを用いて算出した正規化削孔速度比を用いて、地山の性状を把握できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、水圧ハンマを用いた前方地山探査方法が記載されている。この探査方法では、削孔時の一定時間における水圧ハンマへの送水圧と、この水圧ハンマによる打撃が行われている時間割合に応じた水圧ハンマの平均打撃数とを算出する。そして、水圧ハンマで単位長さ当たりを削孔するために要したエネルギー指標を算出し、このエネルギー指標を用いて前方地山の地盤性状を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-156824号公報
【文献】特開2016-125296号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】桑原徹・中西隆司・関山健一・三橋賢久著 「ノンコア削孔トンネル切羽前方探査システム「トンネルナビ」による軟弱地山の前方探査」、[online]、[平成31年2月18日検索]、インターネット〈URL:http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00984/2010/2010-0221.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
孔の削孔時の計測値から、孔における地山性状を特定した後、複数の孔の間の領域における地山性状を推定することがある。この場合、地球統計学を用いて空間的補間を行なうことが一般的に行なわれている。しかし、この地球統計学を用いて空間的補間を行なう場合には、計算条件(パラメータ)を現場毎に個別に設定する必要があり、トンネル周囲の地山評価に手間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する地山評価方法は、出力部に接続された制御部を用いて、トンネルが形成される地山を評価する方法であって、前記制御部が、トンネルの切羽面から、前記トンネルの周囲領域を含んで延在するように掘削された複数の孔の掘削情報を取得し、前記掘削情報を取得した計測座標群における指標値とガウス過程回帰モデルとを用いて、前記周囲領域の空間において前記計測座標群とは異なる座標の地山評価情報を推定し、前記推定した地山評価情報を含む前記周囲領域の地山評価情報を前記出力部に出力する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トンネル周囲の地山を効率的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態におけるトンネルの構成を説明する説明図であって、(a)は斜視図、(b)は上面図。
図2】第1の実施形態における地山評価システムの構成を説明する概略構成図。
図3】第1の実施形態における掘削情報記憶部に記憶された情報の構成図。
図4】第1の実施形態における各処理の処理手順を説明する流れ図であって、(a)は地山評価処理、(b)はガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理。
図5】第1の実施形態において3次元空間の地山等級の推定結果を示し、(a)は地球統計学を用いて推定した空間の斜視図、(b)は(a)の平面断面図、(c)はガウス過程回帰を用いて推定した空間の斜視図、(d)は(c)の平面断面図。
図6】第2の実施形態における地山評価処理の処理手順を説明する流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
以下、図1図5を用いて、地山評価方法、地山評価システム及び地山評価プログラムを具体化した第1の実施形態を説明する。ここでは、掘削した孔の掘削情報を用いて、指標値として正規化削孔速度比を算出し、この正規化削孔速度比とガウス過程回帰とを用いて地山等級を特定し、この地山等級によってトンネルの周囲の地山を評価する。
【0012】
図1(a)及び図1(b)は、掘削途中のトンネル15の周囲の構造を説明する斜視図及び上面図である。本実施形態では、これらに示すトンネル15の前方の掘削予定領域16及びその外周を含めた評価対象領域10の地山評価を行なう。
【0013】
この地山評価においては、同一面内に含まれない複数(3本)の孔hn1,hn2,hn3の掘削情報を用いる。孔hn1~hn3は、ノンコアボーリングにより形成される孔であって、切羽面15fから、掘削予定領域16を通って評価対象領域10に延在する。本実施形態では、各孔hn1~hn3は、ドリルジャンボを用いて掘削される。そして、各孔hn1~hn3を掘削したときに取得した掘削情報は、地山を評価するために用いられる。
【0014】
更に、トンネル15の側壁から径方向外側に延在するようにロックボルト孔hr1が形成される。各ロックボルト孔hr1には、複数のロックボルトがそれぞれ設置される。本実施形態では、このロックボルト孔hr1は、ドリルジャンボを用いて掘削され、各孔hn1~hn3と同様に、地山を評価する掘削時の掘削情報として用いられる。
【0015】
図2に示すように、地山を評価する地山評価システムは、地山評価装置20、掘削情報取得部35、入力部36及び出力部37を用いる。
掘削情報取得部35は、ノンコア削孔切羽前方探査システム30からの計測値を取得する。ノンコア削孔切羽前方探査システム30は、先端にドリフタ31を設けたドリルジャンボ32、油圧センサ33及び油量計34を備える。油圧センサ33は、フィード圧等を計測する。油量計34は、削孔距離及び削孔速度等を計測する。掘削情報取得部35は、油圧センサ33から計測値(フィード圧等)を取得し、油量計34から計測値(削孔距離及び削孔速度等)を取得し、地山評価装置20に供給する。
【0016】
入力部36は、キーボードやマウス等を含み、評価開始の指示等の入力を取得する。
出力部37は、ディスプレイ等を含み、推定した評価対象領域10の地山評価結果を表示する。
【0017】
地山評価装置20は、制御部21、掘削情報記憶部22及び3次元地山情報記憶部23を備える。
制御部21は、CPU、RAM、ROM等から構成された制御手段として機能し、後述する処理(情報管理段階、3次元推定段階及び地山等級特定段階等を含む処理)を行なう。このための地山評価プログラムを実行することにより、制御部21は、情報管理部211、3次元推定部212及び地山等級特定部213等として機能する。
情報管理部211は、掘削情報等の管理処理を実行する。
【0018】
3次元推定部212は、複数の孔部における掘削状況の指標値から、3次元の評価対象領域10における指標値を推定する。この3次元推定部212は、各孔の測定位置(計測座標)における正規化削孔速度比とガウス過程回帰とを用いて、評価対象領域10全体の各算出点における正規化削孔速度比を推定する。具体的には、3次元推定部212は、各孔の正規化削孔速度比と、これを取得した地点(座標)とを、例えばMATLAB(登録商標)等の数値解析ソフトウェアに代入して、ガウス過程回帰モデルを生成する。このガウス過程回帰モデルにおいて、座標Xoは、分散共分散行列Kの逆行列K-1と、共分散行列kの転置行列kと出力yとを乗算した値で表現される。本実施形態では、出力yとして正規化削孔速度比を用いる。そして、3次元推定部212は、推定する各算出点における座標Xoを、ガウス過程回帰モデルに代入して、その座標における正規化削孔速度比(y)を推定する。
【0019】
地山等級特定部213は、3次元推定部212が推定した3次元の評価対象領域10における指標値(正規化削孔速度比)を用いて、評価対象領域10における地山等級を特定するための処理を実行する。このため、地山等級特定部213は、第1地山分類テーブルを記憶している。この第1地山分類テーブルは、正規化削孔速度比に対応する地山等級が関連付けられた対応データである。
【0020】
図3に示すように、掘削情報記憶部22には、ノンコアボーリングにおける掘削情報220が記憶される。この掘削情報220は、掘削情報取得部35から各孔hn1~hn3の掘削時の計測値を取得した場合に記録される。掘削情報220には、孔識別子、座標及び掘削状況に関するデータが記憶される。
【0021】
孔識別子データ領域には、各孔を特定するための識別子に関するデータが記憶される。
座標データ領域には、掘削状況を取得したときの地山における位置(3次元の計測座標)に関するデータが記憶される。
【0022】
掘削状況データ領域には、この孔のこの座標における掘削状況に関する情報が記憶される。この掘削状況は、地山等級を算出するために必要な掘削時に取得した情報である。ここで、ノンコア削孔切羽前方探査システム30を用いて孔hn1~hn3を形成した場合、この掘削情報として、フィード圧、削孔距離、削孔速度等が記録される。また、ドリルジャンボを用いてロックボルト孔hr1を形成した場合も、この掘削情報として、計測したフィード圧、削孔距離及び削孔速度等が記録される。
【0023】
3次元地山情報記憶部23には、トンネル15の周囲の地山情報(3次元地山情報)が記録される。3次元地山情報は、後述する3次元分布の推定処理を実行した場合に記録される。この3次元地山情報として、評価対象領域10を表すメッシュ交点(算出点)の各位置(3次元座標)に関連付けられた地山等級が記録される。具体的には、3次元地山情報には、各算出点の座標(位置)及び地山等級に関するデータが記録される。
【0024】
座標データ領域には、各算出点の位置(3次元座標)に関するデータが記憶される。
地山等級データ領域には、この座標において特定した地山等級に関するデータが記録される。ここで、地山等級には、B、CI、CII、DI、DII等がある。
【0025】
<地山評価処理>
次に、図4及び図5に従って、上述した地山評価装置20を用いた地山評価処理について説明する。本実施形態では、例えば、入力部36から評価指示を受信した場合に実行する。
【0026】
まず、図4(a)に示すように、地山評価装置20の制御部21は、掘削情報の取得処理を実行する(ステップS1-1)。具体的には、制御部21の情報管理部211は、入力部36を介して、掘削予定領域16及び評価対象領域10の座標を取得する。そして、情報管理部211は、掘削予定領域16の座標と、掘削情報220の座標とを比較して、評価に用いる孔を特定する。ここでは、情報管理部211は、評価に用いる孔として、例えば掘削予定領域16を通過するすべての孔(孔hn1~hn3及びロックボルト孔hr1)を特定する場合を想定する。そして、情報管理部211は、特定した孔の孔識別子を含む掘削情報220を掘削情報記憶部22から抽出する。
【0027】
次に、地山評価装置20の制御部21は、正規化削孔速度比の算出処理を実行する(ステップS1-2)。具体的には、制御部21の情報管理部211は、取得した掘削情報220のフィード圧及び削孔速度を用いて、各座標における正規化削孔速度比を算出する。この場合、孔の配置に対応する1次元(線状)に延在する各位置(座標)の正規化削孔速度比が算出される。
【0028】
次に、地山評価装置20の制御部21は、ガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理を実行する(ステップS1-3)。この処理により、評価対象領域10を表すメッシュ交点(算出点)の各位置(3次元座標)における正規化削孔速度比を推定する。この処理の詳細については、後述する。
【0029】
次に、地山評価装置20の制御部21は、正規化削孔速度比からの地山等級の推定処理を実行する(ステップS1-4)。具体的には、制御部21の地山等級特定部213は、各算出点の正規化削孔速度比に対応する地山等級を、第1地山分類テーブルを用いて特定する。
【0030】
次に、地山評価装置20の制御部21は、3次元地山等級の出力処理を実行する(ステップS1-5)。具体的には、制御部21の地山等級特定部213は、ステップS1-4において算出した各算出点における地山等級を、3次元空間の各座標に対応させて表示した3次元モデルとして出力部37に出力する。
【0031】
その後、掘削を進めて、新たな切羽面を得た場合には、新たに生成した孔の掘削情報を用いて、上述した地山評価処理を実行する。これにより、トンネル15の前方の掘削予定領域16やその外周を含めた評価対象領域10における地山情報を取得することができる。
【0032】
(ガウス過程回帰を用いて3次元分布の推定処理)
次に、図4(b)に従って、ガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理(ステップS1-3)の詳細について説明する。
【0033】
まず、制御部21の3次元推定部212は、分散共分散行列の要素の生成処理を実行する(ステップS2-1)。具体的には、3次元推定部212は、掘削情報220の各座標と正規化削孔速度比とを、図4(b)の式(1)に代入して、分散共分散行列Kの要素K[Xi,Xj]を生成する。
【0034】
ここで、式(1)において、Xi,Xjは、それぞれ計測値「i」,「j」の座標、dは、計測値「i」と計測値「j」との距離である。計測値「i」,「j」は、任意の値であって、異なる計測値を示している。また、2σは、カーネル関数のパラメータであって、与えられたデータ(ここでは計測値)に基づいて設定される値である。
【0035】
次に、制御部21の3次元推定部212は、分散共分散行列の逆行列の生成処理を実行する(ステップS2-2)。具体的には、3次元推定部212は、ステップS2-1において生成した各要素を行列に並べて分散共分散行列Kを生成する。更に、3次元推定部212は、生成した分散共分散行列Kの逆行列K-1を生成する。
【0036】
次に、制御部21の3次元推定部212は、共分散行列の要素の生成処理を実行する(ステップS2-3)。具体的には、3次元推定部212は、掘削情報220の各座標と正規化削孔速度比とを、図4(b)の式(2)に代入して、共分散行列kの要素k[Xo,Xi]を生成する。
【0037】
ここで、式(2)において、Xoは、算出する算出点の座標,Xiは、任意の計測値「i」の座標、d’は、算出点と計測値「i」との距離である。また、2σ’は、経験に基づいて予め設定したカーネル関数のパラメータである。
【0038】
そして、制御部21の3次元推定部212は、共分散行列kの転置行列kの生成処理を実行する(ステップS2-4)。具体的には、ステップS2-1において生成した各要素を行列に並べて共分散行列kを生成する。更に、3次元推定部212は、生成した共分散行列kの行と列を入れ替えて転置行列kを生成する。
【0039】
次に、制御部21の3次元推定部212は、ガウス過程回帰モデルの生成処理を実行する(ステップS2-5)。具体的には、3次元推定部212は、ステップS2-2で生成した分散共分散行列Kの逆行列K-1と、ステップS2-4で生成した共分散行列kの転置行列kとを乗算することにより、ガウス過程回帰モデルを生成する。
【0040】
そして、制御部21の3次元推定部212は、各算出点の正規化削孔速度比の推定処理を実行する(ステップS2-6)。具体的には、各算出点の座標Xoを、ステップS2-5において生成したガウス過程回帰モデルに代入することにより、その座標(位置)における正規化削孔速度比(y)を推定する。
【0041】
<シミュレーション結果>
上述した実施形態に具現化された本発明は、従来の地球統計学による推定方法とガウス過程回帰モデルによる推定方法との結果が、ほぼ同じになるという本発明者の知見に基づいて行なわれたものである。
【0042】
ここで、従来の地球統計学を用いた推定方法によるシミュレーション結果と、ガウス過程回帰モデルを用いた推定方法によるシミュレーション結果とを比較する。
図5(a)及び(b)には、従来の地球統計学を用いた推定方法による地山等級のシミュレーション結果、図5(c)及び(d)には、本発明のガウス過程回帰モデルを用いた推定方法による地山等級のシミュレーション結果を示す。ここで、図5(a)及び(c)は、評価対象領域10の斜視図を示し、図5(b)及び(d)は、評価対象領域10の平面断面図を示す。図5(b)及び(d)の平面断面図における地山等級は、ほぼ同じ結果を得ることができた。また、図5(a)及び(c)の斜視図における地山等級は、平面断面図より違いがあるが、ほぼ同じになった。従って、ガウス過程回帰モデルを用いた推定方法により、従来の地球統計学を用いた推定方法とほぼ同じ地山評価を行なうことができる。
【0043】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1-1)本実施形態では、地山評価装置20の制御部21は、ガウス過程回帰モデルを用いて、地山評価処理を実行する。これにより、従来の地球統計学を用いた推定方法に比べて、パラメータの調整の手間を簡略化することができ、地球統計学と同等の精度で、地山を3次元的に評価することができる。
【0044】
(1-2)本実施形態では、地山評価装置20の制御部21は、ガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理(ステップS1-3)及び正規化削孔速度比からの地山等級の推定処理を実行する(ステップS1-4)。これにより、推定した正規化削孔速度比に基づいて地山等級を算出することができる。
【0045】
(1-3)本実施形態では、地山評価装置20の制御部21は、地山評価処理において、評価に用いる孔としてロックボルト孔hr1も用いる。これにより、ロックボルト孔hr1の位置に応じたトンネル15外周の地山等級を把握することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、図6に従って、地山評価方法、地山評価システム及び地山評価プログラムを具体化した第2の実施形態を説明する。第1の実施形態では、正規化削孔速度比(1種類の指標値)とガウス過程回帰とを用いて、3次元空間における地山等級を推定した。本実施形態では、異なる種類(複数種類)の指標値から特定した地山等級とガウス過程回帰とを用いて、3次元空間における地山等級を推定する。異なる種類の指標値としては、ドリルジャンボによる削孔時に取得した掘削情報から算出した正規化削孔速度比と、水圧ハンマによる削孔時に取得した掘削情報から取得したエネルギー指標値とを用いる。
【0047】
本実施形態では、水圧ハンマを用いたノンコア削孔切羽前方探査システム30により形成された孔の削孔時において掘削状況を取得し、孔識別子及び座標(計測座標)に関連付けて掘削情報220として掘削情報記憶部22に記憶する。この場合、掘削状況としては、送水圧、削孔速度及び加速度等を取得する。
【0048】
そして、本実施形態の3次元推定部212は、複数の孔部の地点(計測座標)において特定した地山等級とガウス過程回帰とを用いて、評価対象領域10全体の各算出点における地山等級を推定する。具体的には、3次元推定部212は、各孔の地山等級と、これを取得した地点(座標)とを数値解析ソフトウェアに代入して、出力yを推定するガウス過程回帰モデルを生成する。本実施形態では、出力yとして地山等級を用いる。
【0049】
更に、本実施形態の地山等級特定部213は、複数の孔部の地点(座標)における指標値(正規化削孔速度比又はエネルギー指標値)を用いて、評価対象領域10における地山等級を特定するための処理を実行する。このため、地山等級特定部213は、第1地山分類テーブルと、エネルギー指標値に対応する地山等級を特定する第2地山分類テーブルとを記憶している。
【0050】
そして、図6に示すように、本実施形態における地山評価処理においては、ステップS1-1と同様に、まず、地山評価装置20の制御部21は、掘削情報の取得処理を実行する(ステップS3-1)。
【0051】
次に、地山評価装置20の制御部21は、正規化削孔速度比、エネルギー指標値の算出処理を実行する(ステップS3-2)。具体的には、制御部21の情報管理部211は、評価に用いる孔の掘削情報220の掘削状況に、フィード圧及び削孔速度等が記憶されている場合には、ドリルジャンボによって形成した孔の掘削情報220であるとして、正規化削孔速度比を算出する。更に、情報管理部211は、評価に用いる孔の掘削情報220の掘削状況に、送水圧、削孔速度及び加速度等が記憶されている場合には、水圧ハンマによって形成した孔の掘削情報220であるとして、エネルギー指標値を算出する。
【0052】
次に、地山評価装置20の制御部21は、地山等級の特定処理を実行する(ステップS3-3)。具体的には、制御部21の地山等級特定部213は、第1及び第2地山分類テーブルを用いて、ステップS3-2において算出した正規化削孔速度比又はエネルギー指標値に対応する地山等級を、孔の座標毎に特定する。
【0053】
次に、地山評価装置20の制御部21は、ステップS1-3と同様に、ガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理を実行する(ステップS3-4)。本実施形態では、出力yとして地山等級を算出する。具体的には、制御部21の3次元推定部212は、掘削情報220の各座標(計測座標)と地山等級とを用いて生成した分散共分散行列の要素K[Xi,Xj]を並べて生成した分散共分散行列Kの逆行列K-1を生成する。次に、3次元推定部212は、掘削情報220の各座標と地山等級とを用いて生成した共分散行列kの要素k[Xo,Xi]を並べた共分散行列kの転置行列kを生成する。そして、3次元推定部212は、生成した分散共分散行列Kの逆行列K-1と生成した共分散行列kの転置行列kとを乗算して、ガウス過程回帰モデルを生成する。次に、3次元推定部212は、このモデルの座標Xoに、評価対象領域10を表すメッシュ交点(算出点)の各位置(3次元座標)を代入することにより、各算出点の座標(位置)における地山等級(y)を推定する。
【0054】
次に、地山評価装置20の制御部21は、ステップS1-5と同様に、3次元地山等級の出力処理を実行する(ステップS3-5)。
【0055】
本実施形態によれば、上記(1-1)及び(1-3)と同様な効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(2-1)本実施形態では、地山評価装置20の制御部21は、地山等級の特定処理(ステップS3-3)及びガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理(ステップS3-4)を実行する。これにより、異なる種類の掘削情報を用いて、地山を評価することができる。
【0056】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記第1の実施形態においては、ガウス過程回帰を用いて、周囲領域の空間における正規化削孔速度比(y)を推定した後、この正規化削孔速度比から地山等級を特定した。上記第2の実施形態においては、各座標の地山等級を特定した後、これら地山等級とガウス過程回帰とを用いて、周囲領域の空間における地山等級(y)を推定した。ガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理は、指標値又は地山評価情報を用いて推定する場合に限られず、例えば、掘削情報とガウス過程回帰とを用いて周囲領域の空間における掘削情報を推定した後、正規化削孔速度比を算出し、地山等級を算出してもよい。
【0057】
・上記第1の実施形態において、ドリルジャンボ32を用いた掘削時の掘削情報を用いて地山評価を行ない、上記第2の実施形態においては、ドリルジャンボ32及び水圧ハンマを用いた掘削時の掘削情報を用いて地山評価を行なった。地山評価に用いる掘削情報を取得する孔は、ドリルジャンボや水圧ハンマによって形成した孔に限られない。地山評価を行なうために掘削情報を取得できる孔であればよく、他の削孔掘削機械、例えばロータリー・パーカッション型削孔機を用いて形成した孔であってもよい。更に、コアボーリングで形成した孔から取得した掘削情報(例えばコア観察情報等)から地山等級を特定できる場合には、この地山等級と座標とを用いて、ガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理を実行してもよい。
【0058】
制御部21は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。例えば、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御部21は、以下の(α)~(γ)のいずれかの構成であればよい。(α)上記処理の全てをプログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(β)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(γ)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。
【0059】
・上記各実施形態において、地山評価装置20の制御部21は、ロックボルト孔hr1の地山等級を用いて地山評価処理を実行した。地山評価に用いる孔は、これに限られない。例えば、切羽面15fよりも前方の地山評価を行なう場合には、掘削予定領域16を含む孔hn1~hn3の地山等級のみを用いて3次元分布の推定処理を実行してもよいし、これらの地山等級に加えて、切羽面15fに近いロックボルト孔hr1(切羽面15fから所定範囲のロックボルト孔hr1)の地山等級を用いてもよい。更に、装薬を設置するための装薬孔の掘削状況から特定した地山等級を用いてもよい。
【0060】
・上記各実施形態においては、地山評価装置20の制御部21は、ガウス過程回帰を用いた3次元分布の推定処理(ステップS1-3,S3-4)を実行する。推定する分布は3次元に限らず、2次元(平面的)な分布であってもよい。この場合には、より少ない孔(例えば2本以上)の掘削情報220を用いて算出してもよい。
【0061】
・上記各実施形態において、地山評価装置20の制御部21は、地山を評価する地山評価情報として地山等級を特定した。地山評価情報は、地山等級に限定されず、地山を評価できる他の値、例えば、エネルギー指標値や削孔速度等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
hn1,hn2,hn3…孔、hr1…ロックボルト孔、10…評価対象領域、15…トンネル、15f…切羽面、16…掘削予定領域、20…地山評価装置、21…制御部、22…掘削情報記憶部、23…3次元地山情報記憶部、30…ノンコア削孔切羽前方探査システム、31…ドリフタ、32…ドリルジャンボ、33…油圧センサ、34…油量計、35…掘削情報取得部、36…入力部、37…出力部、211…情報管理部、212…3次元推定部、213…地山等級特定部、220…掘削情報。
図1
図2
図3
図4
図5
図6