(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】作業車両及び作業車両の位置検出方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/14 20100101AFI20230418BHJP
G01S 19/53 20100101ALI20230418BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20230418BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
G01S19/14
G01S19/53
E02F9/20 M
B66C13/22 Z
(21)【出願番号】P 2019045295
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】神田 真輔
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087752(JP,A)
【文献】特開2016-088655(JP,A)
【文献】特開2006-044932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S 19/00-19/55
E02F 9/20- 9/22
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両座標系における位置座標及び衛星による測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数を用いる作業車両であって、
走行体と、
前記走行体に旋回可能に支持される旋回体と、
前記走行体上に配置されたブームと、
前記ブームの先端部に設けられ、衛星からの電波を受信して測位信号を出力するアンテナと、
前記アンテナから出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいて前記アンテナの設置位置を示す位置信号を出力する受信機と、
前記受信機から出力される位置信号に基づいて前記ブームの先端部の位置を算出する制御部と、
前記アンテナの車両座標系における位置座標を記憶する記憶部と、を備え、
前記走行体が静止している状態において、前記制御部は、オペレータからの操作を受け付けて、単独操作で前記ブームの伸長操作を実行し、
前記測位座標系における前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標と前記ブームの伸長時の前記アンテナの位置座標を取得し、前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標から前記伸長時の前記アンテナの位置座標に向かう方向のベクトルを算出する第1算出処理と、
前記測位座標系において、前記ブームの全縮時の長さと前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標の幾何学的関係に基づいて前記ブームの起伏支点となる位置座標を求める第2算出処理と、
前記作業車両を水平設置した場合に、前記ブームの起伏支点の位置座標から前記旋回体の旋回中心へのオフセット
量を使って前記旋回体の旋回中心を算出する第3算出処理と、を実行することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標から前記ブームの伸長時の前記アンテナの位置座標に向かう方向のベクトルから求めた前記測位座標系における前記ブームの方向角度と、前記車両座標系における前記旋回体の旋回角度から前記測位座標系と前記車両座標系のなす角度を求める第4算出処理をさらに実行することを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記測位座標系は、前記アンテナの設置位置を原点とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
車両座標系における位置座標及び衛星による測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数を用いる作業車両の位置検出方法であって、
前記作業車両は、
走行体と、
前記走行体に旋回可能に支持される旋回体と、
前記走行体上に配置されたブームと、
前記ブームの先端部に設けられ、衛星からの電波を受信して測位信号を出力するアンテナと、
前記アンテナから出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいて前記アンテナの設置位置を示す位置信号を出力する受信機と、
前記受信機から出力される位置信号に基づいて前記ブームの先端部の位置を算出する制御部と、
前記アンテナの車両座標系における位置座標を記憶する記憶部と、を備え、
前記走行体が静止している状態において、オペレータからの操作を受け付けた前記制御部により単独操作で前記ブームの伸長操作を実行する工程と、
前記測位座標系における前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標と前記ブームの伸長時の前記アンテナの位置座標を取得し、前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標から前記伸長時の前記アンテナの位置座標に向かう方向のベクトルを算出する第1算出処理工程と、
前記測位座標系において、前記ブームの全縮時の長さと前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標の幾何学的関係に基づいて前記ブームの起伏支点となる位置座標を求める第2算出処理工程と、
前記作業車両を水平設置した場合に、前記ブームの起伏支点の位置座標から前記旋回体の旋回中心へのオフセット
量を使って前記旋回体の旋回中心を算出する第3算出処理工程と、
前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標から前記ブームの伸長時の前記アンテナの位置座標に向かう方向のベクトルから求めた前記測位座標系における前記ブームの方向角度と、前記車両座標系における前記旋回体の旋回角度から前記測位座標系と前記車両座標系のなす角度を求める第4算出処理工程と、を有することを特徴とする作業車両の位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行体上にブームを備えた作業車両及び作業車両の位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、走行体と、旋回可能に走行体に支持された旋回体と、伸縮及び起伏可能に旋回体に支持されたブームとを備えるクレーンが知られている。このクレーンはブームの先端位置等を監視しながら、旋回体を旋回させ、ブームを伸縮及び起伏させる。しかしながら、近年のクレーンの大型化に伴って、クレーンに設けられたセンサでブームの先端位置を正確に検出することが難しくなっている。
【0003】
そこで、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を用いてブームの先端位置を検出する手法が提案されている。すなわち、クレーンは、GNSSアンテナが受信した測位衛星からの測位信号をGNSS受信機でGNSSアンテナの設置位置を示す位置信号に変換することにより、ブームの先端位置を検出することができる。例えば、特許文献1~3にはGNSSアンテナを取り付けた作業車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-98585号公報
【文献】特開2004-125580号公報
【文献】特開2007-147588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブームの先端位置を測位衛星からの測位信号を使って制御するためには、車両を基準とする車両座標系と緯度、経度及び高度を基準とするGNSS座標系の関係を決定し、座標変換を行う必要がある。つまり、ブームの先端位置をGNSS座標系から車両座標系に変換するときには、変換係数として例えば旋回体の旋回中心の座標等が必要になる。この変換係数となる旋回中心の座標を求める際には、GNSSアンテナにより測位衛星からの測位信号を取得するために、ブームを大きく旋回させる必要があるが、狭い作業現場では実行することができない。
【0006】
本発明は、ブームを旋回させずに衛星からの測位信号を取得し、ブームの先端位置を測位座標系から車両座標系に変換するための変換係数を求めることができる作業車両及び作業車両の位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、本発明は、車両座標系における位置座標及び衛星による測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数を用いる作業車両であって、走行体と、前記走行体に旋回可能に支持される旋回体と、前記走行体上に配置されたブームと、前記ブームの先端部に設けられ、衛星からの電波を受信して測位信号を出力するアンテナと、前記アンテナから出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいて前記アンテナの設置位置を示す位置信号を出力する受信機と、前記受信機から出力される位置信号に基づいて前記ブームの先端部の位置を算出する制御部と、前記アンテナの車両座標系における位置座標を記憶する記憶部と、を備え、前記走行体が静止している状態において、前記制御部は、オペレータからの操作を受け付けて、単独操作で前記ブームの伸長操作を実行し、前記測位座標系における前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標と前記ブームの伸長時の前記アンテナの位置座標を取得し、前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標から前記伸長時の前記アンテナの位置座標に向かう方向のベクトルを算出する第1算出処理と、前記測位座標系において、前記ブームの全縮時の長さと前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標の幾何学的関係に基づいて前記ブームの起伏支点となる位置座標を求める第2算出処理と、前記作業車両を水平設置した場合に、前記ブームの起伏支点の位置座標から前記旋回体の旋回中心へのオフセット量を使って前記旋回体の旋回中心を算出する第3算出処理と、を実行するものである。
【0009】
本発明は、前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標から前記ブームの伸長時の前記アンテナの位置座標に向かう方向のベクトルから求めた前記測位座標系における前記ブームの方向角度と、前記車両座標系における前記旋回体の旋回角度から前記測位座標系と前記車両座標系のなす角度を求める第4算出処理をさらに実行するものである。
【0010】
前記測位座標系は、前記アンテナの設置位置を原点とするものである。
【0011】
本発明は、車両座標系における位置座標及び衛星による測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数を用いる作業車両の位置検出方法であって、前記作業車両は、走行体と、前記走行体に旋回可能に支持される旋回体と、前記走行体上に配置されたブームと、前記ブームの先端部に設けられ、衛星からの電波を受信して測位信号を出力するアンテナと、前記アンテナから出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいて前記アンテナの設置位置を示す位置信号を出力する受信機と、前記受信機から出力される位置信号に基づいて前記ブームの先端部の位置を算出する制御部と、前記アンテナの車両座標系における位置座標を記憶する記憶部と、を備え、前記走行体が静止している状態において、オペレータからの操作を受け付けた前記制御部により単独操作で前記ブームの伸長操作を実行する工程と、前記測位座標系における前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標と前記ブームの伸長時の前記アンテナの位置座標を取得し、前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標から前記伸長時の前記アンテナの位置座標に向かう方向のベクトルを算出する第1算出処理工程と、前記測位座標系において、前記ブームの全縮時の長さと前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標の幾何学的関係に基づいて前記ブームの起伏支点となる位置座標を求める第2算出処理工程と、前記作業車両を水平設置した場合に、前記ブームの起伏支点の位置座標から前記旋回体の旋回中心へのオフセット量を使って前記旋回体の旋回中心を算出する第3算出処理工程と、前記ブームの全縮時の前記アンテナの位置座標から前記ブームの伸長時の前記アンテナの位置座標に向かう方向のベクトルから求めた前記測位座標系における前記ブームの方向角度と、前記車両座標系における前記旋回体の旋回角度から前記測位座標系と前記車両座標系のなす角度を求める第4算出処理工程と、を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ブームを旋回させずに衛星からの測位信号を取得し、ブームの先端位置を測位座標系から車両座標系に変換する際の変換係数を求めることができる。よって、ブームが旋回できない狭い作業現場であっても、変換係数を容易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】吊上作業時におけるクレーンを示す図である。
【
図3】GNSSアンテナの配置を説明するためのクレーンの模式平面図である。
【
図4】ブームの先端位置検出に関する制御系の構成を示す図である。
【
図5】変換係数の算出に関するクレーンの動作及び算出処理を示すフローチャートである。
【
図6】第1算出処理及び第2算出処理を説明するための説明図である。
【
図7】第3算出処理及び第4算出処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では作業車両としてラフテレーンクレーンを例に説明する。なお、作業車両としては、自走可能で且つブームを有していればよく、例えば、オールテレーンクレーン、カーゴクレーン、高所作業車等であってもよい。
【0015】
<クレーンの概要>
まず、クレーン1について簡単に説明する。
図1は、走行時におけるクレーン1を示す図である。
図2は、吊上作業時におけるクレーン1を示す図である。クレーン1は、主に走行体2と旋回体3で構成されている。
【0016】
走行体2は、左右一対のフロントタイヤ21とリヤタイヤ22を備えている。また、走行体2は、吊上作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ23を備えている。また、走行体2は、これらを駆動するためのアクチュエータに加え、エンジン24やトランスミッションを備えている。また、走行体2は、旋回用モータ25を備えている。旋回用モータ25により、走行体2は、その上部に支持する旋回体3を旋回自在としている(
図2の矢印D参照)。
【0017】
旋回体3は、その後部から前方へ突き出すようにブーム31を備えている。ブーム31は、伸縮用シリンダ32によって伸縮自在となっている(
図2の矢印E参照)。また、ブーム31は、起伏用シリンダ33によって起伏自在となっている(
図2の矢印F参照)。また、旋回体3はブーム31の右方にキャビン34を備えている。旋回体3は、走行体2に旋回可能に支持されている。
【0018】
<ブームの先端位置検出に関する構成>
図3は、GNSSアンテナ41の配置を説明するためのクレーン1の模式平面図である。クレーン1は、ブーム31の先端部31aに設けられたGNSSアンテナ41を有している。
【0019】
GNSSアンテナ41は全地球航法衛星システムで使用されるアンテナであり、図示しない測位衛星が出力する電波を受信し、受信電波に基づく測位信号を出力する。
【0020】
図4は、ブームの先端位置検出に関する制御系の構成を示す図である。クレーン1は、制御部51を備えている。制御部51は、ブーム31の伸縮動作や起伏動作のほか、様々な動作を制御できる。制御部51は、例えばCPUによって実現することができる。
【0021】
制御部51には、記憶部52と、GNSS受信機53と、情報取得部54とが接続されている。GNSS受信機53にはGNSSアンテナ41が接続されている。
【0022】
制御部51は、GNSS受信機53から出力される位置信号に基づいてブーム31の先端部31aの位置を算出する。そして、制御部51は算出したブーム31の先端部31aの位置に基づいて、ブーム31の伸縮動作、起伏動作及び旋回操作を制御する。
【0023】
記憶部52は、ブーム31の先端位置を検出するための種々のプログラムやデータ(車両を基準とする車両座標系等)を格納している。その1つとして、記憶部52は後述するブーム31の伸縮操作(ブーム31を伸ばす伸長操作)におけるGNSSアンテナ41の測位座標系(ENU座標系ともいう)における位置座標を記憶する。車両座標系とは、クレーン1の任意の位置(例えば旋回体3の旋回中心)を原点とし、水平方向において互いに直交する方向に延びるx軸及びy軸と、鉛直上方に延びるz軸とで定義される仮想空間である。車両座標系における各座標は(x,y,z)で表現される。
【0024】
GNSS受信機53は、GNSSアンテナ41から出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいてGNSSアンテナ41の設置位置を示す位置信号を制御部51へ出力する。
【0025】
情報取得部54は、クレーン1に設けられた各種センサや操作スイッチから、クレーン1に関する各種の情報を取得する。この情報としては、例えば、クレーン1が走行モードであるかブーム31を使用する作業モードであるかを示すモード情報、クレーンの姿勢情報(ブーム31の起伏角度、伸長長さ、旋回角度、アウトリガ23の張り出し状態等を示す作業状態情報等)がある。情報取得部54としては、例えば、クレーン1の過負荷防止装置(AML)等が挙げられる。情報取得部54は、制御部51にクレーンの姿勢情報を出力する。
【0026】
また制御部51には、操作部56と、アウトリガ23と、旋回用モータ25と、伸縮用シリンダ32と、起伏用シリンダ33とが接続されている。操作部56はキャビン34に設けられ、オペレータからの操作を受け付けるものである。操作部56は受け付けた操作に応じた操作信号を制御部51へ出力する。操作部56はクレーン1を操作するためのレバー、ハンドル、ペダル、操作パネル等を含んでいる。
【0027】
制御部51は操作部56から出力される各種信号に基づいて、アウトリガ23と、旋回用モータ25と、伸縮用シリンダ32と、起伏用シリンダ33の動作を制御する。例えば、制御部51は、アウトリガ23を張出状態に移動させることを指示する張出操作、逆に格納状態に移動させることを指示する格納操作を受け付ける。また制御部51は、旋回用モータ25に旋回体3を旋回させることを指示する旋回操作、伸縮用シリンダ32にブーム31を伸長又は縮小させることを指示する伸長操作又は縮小操作、起伏用シリンダ33にブーム31を起仰又は倒伏させることを指示する起仰操作又は倒伏操作を受け付ける。
【0028】
<クレーンの位置検出方法:ブームの先端位置検出に関する動作及び算出処理>
次に、クレーン1の位置検出方法について説明する。
具体的には、
図5から
図7を参照してブーム31の先端位置検出に関する動作及び算出処理に関する工程を説明する。ここでは、作業現場の作業位置にクレーン1を停止させ、走行体2及び旋回体3が静止している状態でブーム31を伸ばす伸縮操作をすることで変換係数を算出し、この変換係数を用いてブーム31の先端部31aの位置を検出する方法について説明する。
【0029】
図5は、変換係数の算出に関するクレーン1の動作及び算出処理を示すフローチャートである。まず、ステップS10において、制御部51はアウトリガ23の接地が完了したか否かを判別する。具体的には、制御部51は操作部56から張出操作の指示を受け付け、アウトリガ23の動作が終了したことをもってアウトリガ23の接地が完了したと判別することができる。なお、アウトリガ23の張出状態及び格納状態を検出するセンサを設け、制御部51はこのセンサの検出信号からアウトリガ23の接地が完了したか否かを判別してもよい。
【0030】
アウトリガ23の接地が完了すると、ステップS10からステップS11へ進んで、制御部51は、操作部56を介してオペレータからの操作を受け付けて、単独操作としてブーム31を全縮状態から所定長伸ばす伸長操作を実行する。
【0031】
測位座標系とは、GNSSにより決定される座標系のことであり、現在のGNSSアンテナ41の設置位置を原点とし、原点から東方向に延びるE軸と、原点から北方向に延びるN軸と、原点から鉛直上方に延びるU軸とで定義される仮想空間であり、ENU(East-North-Up)座標系である。ENU座標系における各座標は(E,N,U)で表現される。以下では、測位座標系のことをENU座標系とも呼ぶ。
【0032】
ステップS11の伸長操作において、制御部51は、GNSS受信機53からGNSSアンテナ41の位置信号を受信する。すなわち、制御部51は、GNSSアンテナ41の位置を原点とする測位座標系(ENU座標系)において、ブーム31の全縮時(伸長操作開始時)におけるGNSSアンテナ41の位置を示す位置座標P1と、ブーム31を所定長伸ばした伸長時のGNSSアンテナ41の位置を示す位置座標PnをGNSS受信機53から出力される位置信号に基づいて取得する。制御部51は、取得されたGNSSアンテナ41の位置座標P1、Pnを記憶部52に記憶する。
【0033】
以下に説明するステップS12~S15の算出処理工程は、単独操作としてブーム31の伸長操作によって取得されたブーム31の全縮時(伸長操作開始時)におけるGNSSアンテナ41の位置を示す位置座標P
1と、ブーム31を所定長伸ばした伸長時のGNSSアンテナ41の位置を示す位置座標Pn等から、所定の演算により変換係数(Ec,Nc,Uc)、回転角度α(
図7参照)を求める算出方法を具体的に示したものである。ステップS12~S15の算出処理工程では、制御部51は、車両座標系における位置座標及び測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数(Ec,Nc,Uc)、回転角度αを算出する。そして、制御部51は、算出した変換係数(Ec,Nc,Uc)、回転角度αを記憶部52に記憶する。
【0034】
[第1算出処理:ベクトルAの算出]
次に、ステップS11からステップS12へ進んで、制御部51は第1算出処理を実行する。第1算出処理では、制御部51は、ステップS11で記憶部52に記憶されたブーム31の全縮時のGNSSアンテナ41の位置を示す位置座標P
1と、ブーム31を所定長伸ばした伸長時のGNSSアンテナ41の位置を示す位置座標Pnの二つの座標を用いて以下に示すベクトルA=ベクトルP
1Pnを算出する(
図6参照)。
なお、本実施形態では、GNSSアンテナ41の先端の位置は、ブーム31の先端部31aの位置に相当するが、ブーム31の先端部31aの位置をより厳密に求めたい場合は、GNSSアンテナ41の先端の位置座標からブーム31の先端部31aの位置座標へのオフセット量を予め記憶部52に記憶しておき、当該オフセット量を考慮してブーム31の先端部31aの位置座標を算出すればよい。
【0035】
【0036】
また、上記ベクトルAを算出する際に使用する位置座標Pnを複数取得して最小二乗法や多変量解析の一例である主成分分析手法(PCA:Principle Component Analysis)を用いて上記ベクトルAを算出してもよい。これにより、ベクトルAの算出結果の精度を上げることができる。
【0037】
[第2算出処理:点Qの算出]
次に、ステップS12からステップS13へ進んで、制御部51は第2算出処理を実行する。第2算出処理では、制御部51は、ブーム31の全縮時の長さをL
0(
図6参照)として、クレーン1におけるブーム31の全縮時長さL
0と位置座標P
1との幾何学的関係(L
0が直角三角形の斜辺の長さと、位置座標P
1が直角三角形の頂点になる関係)に基づいて点Qの座標を求める。ここで、点Qの座標は、ブーム31の根元支点ピン軸(ブーム31の起伏動作における起伏支点)のENU座標系における位置を示す位置座標である。また、以下の算出処理では、GNSSアンテナ41の長さをLantとして、点QからGNSSアンテナ41の先端までの長さをL
0+Lantと表している。
具体的には、ENU座標系における点Qの位置座標(E
Q,N
Q,U
Q)は、
図6に示す幾何学的関係から、以下に示すように点P
1を始点とするベクトルAuと、当該ベクトルAuの終点を始点とするベクトルArと点P
1の位置座標(E
1,N
1,U
1)の和で表される。
【0038】
【0039】
また、ベクトルAuは、
図6に示す幾何学的関係に基づいて、それぞれ以下のように表すことができる。なお、θ
0は、ブーム31の全縮時の起伏角度である。ブーム31には、ブーム31の起伏角度を検出する起伏用エンコーダ(図示せず)が設けられている。起伏用エンコーダは、制御部51に起伏角度を示す信号を出力する。これにより、制御部51はブーム31の起伏角度を取得することができる。
【0040】
【0041】
また、ベクトルAの点Pnから点Q方向に向かう単位ベクトルは、以下のように表せる。
【0042】
【0043】
よって、ベクトルArは、上記単位ベクトルに基づいて以下のように表せる。
【0044】
【数5】
これにより、点Qの位置座標(E
Q,N
Q,U
Q)は、数2、数3、数5及び点P
1の位置座標(E
1,N
1,U
1)から、以下のように算出することができる。
【0045】
【0046】
[第3算出処理:旋回中心Cの算出]
次に、ステップS13からステップS14へ進んで、制御部51は第3算出処理を実行する。第3算出処理では、クレーン1を水平設置した場合に、制御部51は、ENU座標系における旋回中心の位置座標C(Ec,Nc,Uc)を、点Qからのオフセット量(ΔX,ΔY,ΔZ)を使って以下のように算出する。
具体的には、ΔXは点Q-C間のX軸方向のオフセット量であり、ΔYは点Q-C間のY軸方向のオフセット量であり、ΔZはZ軸方向のオフセット量である。
【0047】
【数7】
上記の式中のベクトルa、ベクトルb、ベクトルcのそれぞれは以下のように表せる。
【0048】
【0049】
こうして、制御部51は、車両座標系における位置座標及び測位座標系(ENU座標系)における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数(回転角度を除く)である旋回中心Cを算出する。そして、制御部51は、算出した変換係数(回転角度を除く)である旋回中心の位置座標C(Ec,Nc,Uc)を記憶部52に記憶する。
【0050】
なお、クレーン1の水平設置が前提ではなく、クレーン1のフレーム平面が傾斜している場合は、起伏操作の単独操作を追加することで、車両(クレーン1)の傾きベクトルを求めて、旋回中心Cを補正することで、正しい旋回中心Cを求めることができる。
【0051】
[第4算出処理:回転角度αの算出]
次に、ステップS14からステップS15へ進んで、制御部51は第4算出処理を実行する。第4算出処理では、制御部51は、ベクトルAから求めたブーム31の方向角度βと、車両座標系におけるブーム31の旋回角度φからENU座標系と車両座標系のなす角である回転角度αを求める。以下に、第4算出処理について説明する。なお、旋回体3には、その旋回位置(旋回角度)を検出する旋回位置検出センサ(図示せず)が設けられている。旋回位置検出センサは、制御部51にブーム31の旋回角度を示す信号を出力する。これにより、制御部51はブーム31の旋回角度φを取得することができる。
【0052】
図7は、変換係数である旋回中心の位置座標C(Ec,Nc,Uc)、回転角度αを用いて車両座標系(XYZ軸)及びENU座標系(ENU軸)の関係を示した図である。変換係数の角度成分である回転角度αは、車両座標系及びENU座標系の対応する軸(x軸とE軸、y軸とN軸、z軸とU軸)のなす角を示す。変換係数である位置座標C(Ec,Nc,Uc)は、車両座標系の原点と、ENU座標系の原点との距離を示す。
【0053】
ベクトルA=(EA,NA,UA)とすると、制御部51は、座標の回転角度αを、方向角度β、及び旋回角度φを用いて以下のように算出する。なお、方向角度βはENU座標系を基準座標とする旋回角度であるため、制御部51は上述した旋回位置検出センサを用いて、ブーム31の方向角度βを取得することができる。
【0054】
【0055】
こうして、制御部51は、変換係数の角度成分である回転角度αを算出する。制御部51は、算出した回転角度αを記憶部52に記憶する。こうして、第3算出処理及び第4算出処理によって、変換係数である旋回中心の位置座標C(Ec,Nc,Uc)、回転角度αが求められる。
【0056】
[変換処理:変換係数による座標系の変換処理]
次に、ステップS15からステップS16へ進んで、制御部51は座標系の変換処理を実行する。変換処理において制御部51は、第3算出処理及び第4算出処理によって求められた変換係数となる旋回中心の位置座標C(Ec,Nc,Uc)、回転角度αを用いて所定の演算(同次変換行列とENU座標の積)を行って、ENU座標におけるGNSSアンテナ41の位置座標を車両座標系における位置座標に変換する。
【0057】
このように、本実施形態に係るクレーン1の位置検出方法においては、クレーン1の位置検出に必要な変換係数である旋回中心の位置座標C(Ec,Nc,Uc)、回転角度αを算出して、当該変換係数を用いてENU座標から車両座標系への変換処理をすることができる。
【0058】
以上のように、本実施形態に係るクレーン1及びクレーン1の位置検出方法によれば、ブーム31を旋回させずに伸縮単独操作で衛星からの測位信号を取得し、ブーム31の先端の位置座標をENU座標系からクレーン1の車両座標系へ変換する変換係数として旋回中心の位置座標C(Ec,Nc,Uc)と、回転角度αを求めることができる。これにより、ブーム31の先端位置及び姿勢を高精度に検出することができる。また、ブーム31を旋回させずに伸縮単独操作で衛星からの測位信号を取得するため、ブーム31が旋回できない狭い作業現場であっても、変換係数を容易に取得することができる。つまり、クレーン1を作業現場で使用するときに、オペレータがブーム31を伸ばす伸長操作だけで車両座標系の設定を容易に行うことができる。
【0059】
また、GNSSアンテナ41はブーム31の先端部31aに設けられているので、上記ステップS17の変換処理によりブーム31の先端部31aのENU座標系における位置座標をクレーン1の車両座標系における位置座標へ変換することができる。
図5の一連の動作を短時間に繰り返すことで、刻々と変化するブーム31の先端部31aの位置を適時検出することができる。そして、制御部51は、検出したブーム31の先端部31aの位置に基づいてブーム31の移動を精度良く制御することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 クレーン(作業車両)
2 走行体
3 旋回体
31 ブーム
31a 先端部
41 GNSSアンテナ
51 制御部
52 記憶部
53 GNSS受信機(受信機)
56 操作部
L0 ブームの全縮時の長さ