(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】揺動かしめ装置、ハブユニット軸受の製造方法および車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 9/02 20060101AFI20230418BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20230418BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230418BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20230418BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20230418BHJP
B21K 1/05 20060101ALI20230418BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B21J9/02 A
B60B35/02 L
F16C19/18
F16C19/38
F16C43/04
B21K1/05
B21D39/00 D
(21)【出願番号】P 2019132030
(22)【出願日】2019-07-17
(62)【分割の表示】P 2019513857の分割
【原出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2017223090
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信行
(72)【発明者】
【氏名】鴨田 剛
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-021153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 9/02
B60B 35/02
F16C 19/18
F16C 19/38
F16C 43/04
B21K 1/05
B21D 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブ本体を支持することと、
内輪が取り付けられた前記ハブ本体をかしめ加工することと、
を含み、
前記かしめ加工は、
押型が揺動運動する状態で前記押型を前記ハブ本体に押し付けることと、
アダプタを介して前記ハブ本体の軸周りに外輪を動かすことと、
を含み、
前記アダプタは、
アダプタ本体と、
前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックであり、前記アダプタ本体から軸方向に突出した部分が前記外輪のフランジに対して前記軸周りの方向の動力を伝達可能に係合される、前記少なくとも1つのブロックと、
を有し、
前記ブロックの少なくとも一部が樹脂材料からなる
、
ハブユニット軸受の製造方法。
【請求項2】
ハブ本体を支持することと、
内輪が取り付けられた前記ハブ本体をかしめ加工することと、
を含み、
前記かしめ加工は、
押型が揺動運動する状態で前記押型を前記ハブ本体に押し付けることと、
アダプタを介して前記ハブ本体の軸周りに外輪を動かすことと、
を含み、
前記アダプタは、
アダプタ本体と、
前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックであり、前記アダプタ本体から軸方向に突出した部分が前記外輪のフランジに対して前記軸周りの方向の動力を伝達可能に係合される、前記少なくとも1つのブロックと、
を有し、
前記ブロックの少なくとも一部が自転自在に前記アダプタ本体に支持されている、
ハブユニット軸受の製造方法。
【請求項3】
ハブ本体を支持することと、
内輪が取り付けられた前記ハブ本体をかしめ加工することと、
を含み、
前記かしめ加工は、
押型が揺動運動する状態で前記押型を前記ハブ本体に押し付けることと、
アダプタを介して前記ハブ本体の軸周りに外輪を動かすことと、
を含み、
前記アダプタは、
アダプタ本体と、
前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックであり、前記アダプタ本体から軸方向に突出した部分が前記外輪のフランジに対して前記軸周りの方向の動力を伝達可能に係合される、前記少なくとも1つのブロックと、
を有し、
前記ブロックの少なくとも一部が樹脂材料からなる、及び、前記ブロックの少なくとも一部が自転自在に前記アダプタ本体に支持されている、
ハブユニット軸受の製造方法。
【請求項4】
ユニット本体と内輪と外輪とを備える軸受ユニットの製造に用いられる揺動かしめ装置であって、
前記ユニット本体を支持するベースと、
前記内輪が取り付けられた前記ユニット本体に対してかしめ運動する押型と、
それを介して前記ユニット本体の軸周りに前記外輪が動く、アダプタと、
を備え、
前記アダプタは、
アダプタ本体と、
前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックであり、前記アダプタ本体から軸方向に突出した部分が前記外輪のフランジに対して前記軸周りの方向の動力を伝達可能に係合される、前記少なくとも1つのブロックと、
を有し、
前記ブロックの少なくとも一部が樹脂材料からなる
、、
揺動かしめ装置。
【請求項5】
前記ブロックの先端部に、転がり軸受が設けられている、請求項
4に記載の揺動かしめ装置。
【請求項6】
前記転がり軸受が、合成樹脂により構成されている、請求項
5に記載の揺動かしめ装置。
【請求項7】
ユニット本体と内輪と外輪とを備える軸受ユニットの製造に用いられる揺動かしめ装置であって、
前記ユニット本体を支持するベースと、
前記内輪が取り付けられた前記ユニット本体に対してかしめ運動する押型と、
それを介して前記ユニット本体の軸周りに前記外輪が動く、アダプタと、
を備え、
前記アダプタは、
アダプタ本体と、
前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックであり、前記アダプタ本体から軸方向に突出した部分が前記外輪のフランジに対して前記軸周りの方向の動力を伝達可能に係合される、前記少なくとも1つのブロックと、
を有し、
前記ブロックの少なくとも一部が自転自在に前記アダプタ本体に支持されている、
揺動かしめ装置。
【請求項8】
ユニット本体と内輪と外輪とを備える軸受ユニットの製造に用いられる揺動かしめ装置であって、
前記ユニット本体を支持するベースと、
前記内輪が取り付けられた前記ユニット本体に対してかしめ運動する押型と、
それを介して前記ユニット本体の軸周りに前記外輪が動く、アダプタと、
を備え、
前記アダプタは、
アダプタ本体と、
前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックであり、前記アダプタ本体から軸方向に突出した部分が前記外輪のフランジに対して前記軸周りの方向の動力を伝達可能に係合される、前記少なくとも1つのブロックと、
を有し、
前記ブロックの少なくとも一部が樹脂材料からなる、及び、前記ブロックの少なくとも一部が自転自在に前記アダプタ本体に支持されている、
揺動かしめ装置。
【請求項9】
ユニット本体と内輪と外輪とを備える軸受ユニットの製造に用いられる揺動かしめ装置であって、
前記ユニット本体を支持するベースと、
前記内輪が取り付けられた前記ユニット本体に対してかしめ運動する押型と、
それを介して前記ユニット本体の軸周りに前記外輪が動く、アダプタと、
を備え、
前記アダプタは、
アダプタ本体と、
前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックであり、前記アダプタ本体から軸方向に突出した部分が前記外輪のフランジに対して前記軸周りの方向の動力を伝達可能に係合される、前記少なくとも1つのブロックと、
を有し、
前記ブロックの先端部に、滑り軸受が設けられている、揺動かしめ装置。
【請求項10】
前記滑り軸受が、合成樹脂により構成されている、請求項
9に記載の揺動かしめ装置。
【請求項11】
ハブユニット軸受を備える車両の製造方法であって、
前記ハブユニット軸受を、請求項1
から3のいずれか一項に記載のハブユニット軸受の製造方法により製造する、車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪および制動用回転体を懸架装置に対して回転可能に支持するためのハブユニット軸受の製造方法に関する。
本願は、2017年11月20日に出願された特願2017-223090号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪および制動用回転体は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、懸架装置に対し、支持固定された外輪の内径側に、車輪および制動用回転体を支持したハブを、複数個の転動体を介して回転自在に支持することにより構成されている。ハブは、内輪をハブ本体に支持固定することにより構成されている。ハブ本体は、車輪および制動用回転体を支持するための回転フランジを有する。ハブ本体の外周面に、別体の内輪が外嵌される。ハブ本体の軸方向内端部に設けられたかしめ部により、内輪の軸方向内端面が抑え付けられる。かしめ部は、ハブ本体の軸方向内端部に設けられた円筒部を径方向外方に塑性変形させることにより形成される。
【0003】
特許文献1(特開2003-21153号公報)には、円筒部を径方向外方に塑性変形させてかしめ部を形成する方法が記載されている。この方法において、ハブ本体(軸部)の中心軸に対し傾斜した中心軸を有する押型(かしめ治具)の先端部を、円筒部(円筒部分)に押し付けた状態で、押型を、ハブ本体の中心軸回りに振れ回り運動させる。特許文献1に記載の方法では、かしめ部の加工中に、外輪を回転させることで、転動体である玉を自転および公転させている。これにより、内輪および外輪に圧痕が形成されることを防止している。
【0004】
特許文献1に記載の構造では、外輪を回転させるための回転駆動手段(回転補助治具)は、環状板の円周方向複数箇所にピンを取り付けることにより構成されている。かしめ部を加工する際には、ピンを、外輪の静止フランジ(フランジ)に設けられた支持孔(ボルト取付孔)内に挿入するか、あるいは、ピンを静止フランジの外周面に引っ掛けた状態で、モータにより回転駆動手段を回転させることにより、外輪を回転駆動するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の構造では、回転駆動手段のピンを、静止フランジの支持孔内に挿入するか、あるいは静止フランジの外周面に引っ掛けるようにしている。したがって、静止フランジに回転駆動手段(回転補助治具)を組み付ける際には、円周方向に関する位相合わせが必要となり、その分、生産性が低下する。また、回転駆動手段と静止フランジとの円周方向に関する位相合わせの作業の際に、外輪が、回転駆動手段とともに回転する(共回りする)ことを防止するために、外輪を抑えロッドにより抑えておく必要がある。このような抑えロッドは、かしめ部を加工する際には、退避させなければならず、外輪に対する遠近動を可能とするためのアクチュエータを備える必要があり、製造装置のコストが嵩んでしまう。
【0007】
本発明は、回転駆動手段と静止フランジとの円周方向に関する位相合わせの必要がなく、生産性の向上およびコストの低減を図れる、揺動かしめ装置およびハブユニット軸受の製造方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様における揺動かしめ装置は、支持部と、回転駆動手段と、押型とを備える。前記支持部は、基準軸を有する。前記回転駆動手段は、前記支持部に対する遠近動を可能に支持され、かつ、前記基準軸と同軸の中心軸を中心とする回転駆動が可能な環状の支持プレートと、該支持プレートの円周方向1乃至複数箇所に軸方向変位を可能に支持されたブロックとを有する。前記押型は、前記基準軸と同軸の主軸を中心とする振れ回り運動を可能に、かつ、前記主軸に対し傾斜した自転軸を中心とする自転を自在に支持されている。
【0009】
前記ブロックが、前記支持プレートの円周方向複数箇所に支持されていることが好ましい。
【0010】
前記ブロックに、軸方向に関して前記支持部に向かう方向の弾力が付与することができる。この場合、前記支持プレートと前記ブロックとの間に弾性部材を設置することができる。
【0011】
前記ブロックの先端部に、転がり軸受または滑り軸受を設けることが好ましい。この場合、転がり軸受または滑り軸受を、たとえばポリアミド樹脂やポリ四フッ化エチレン樹脂などの合成樹脂により構成することができる。
【0012】
本発明の別の態様における揺動かしめ装置は、軸受ユニットの製造に用いられる。揺動かしめ装置は、前記軸受ユニットのユニット本体を支持するベースと、内輪が取り付けられた前記ユニット本体に対してかしめ運動する押型と、それを介して前記ユニット本体の軸周りに外輪が動く、アダプタと、を備える。前記アダプタは、アダプタ本体と、前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックを有する。前記少なくとも1つのブロックは、前記アダプタ本体に対して前記ユニット本体の軸方向に移動可能に配される。
【0013】
本発明の別の態様におけるハブユニット軸受の製造方法は、ハブ本体を支持することと、内輪が取り付けられた前記ハブ本体をかしめ加工することと、を含む。前記かしめ加工は、押型が揺動運動する状態で前記押型を前記ハブ本体に押し付けることと、ダプタを介して前記ハブ本体の軸周りに外輪を動かすことと、を含む。前記アダプタは、アダプタ本体と、前記アダプタ本体に保持される少なくとも1つのブロックを有する。前記少なくとも1つのブロックは、前記アダプタ本体に対して前記ハブ本体の軸方向に移動可能に配される。
【0014】
本発明の別の態様において、ハブユニット軸受の製造方法の対象となるハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体とを備える。前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有し、かつ、径方向外方に突出した静止フランジを有する。前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有する。前記複数個の転動体は、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に配置されている。前記静止フランジは、径方向外方に突出した複数の突出部を有する。前記ハブは、ハブ本体と内輪とを備え、前記内輪を前記ハブ本体の軸方向片端寄り部分に外嵌するとともに、前記ハブ本体の軸方向片端部に設けられた円筒部を径方向外方に塑性変形させてなるかしめ部により、前記内輪の軸方向片端面を抑え付けている。
【0015】
ハブユニット軸受の製造方法は、前記ハブ本体を、該ハブ本体の中心軸が前記基準軸と同軸になるように、前記支持部に支持する工程と、前記回転駆動手段を軸方向に変位させることにより、前記ブロック(ブロックが複数個の場合には、少なくとも1個のブロック)の先端部を、前記静止フランジに、回転方向の動力を伝達可能に係合させる工程と、前記回転駆動手段を回転駆動することにより、前記外輪を回転駆動する工程と、前記押型を、前記主軸を中心に振れ回り運動させつつ、前記押型の先端部を前記円筒部に押し付けることにより、該円筒部を径方向外方に塑性変形させて前記かしめ部を形成する工程とを備える。
【0016】
本発明の別の態様における車両の製造方法では、上述のような本発明のハブユニット軸受の製造方法により、ハブユニット軸受を造る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の揺動かしめ装置およびハブユニット軸受の製造方法によれば、回転駆動手段と静止フランジとの円周方向に関する位相合わせの必要がなく、生産性の向上およびコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、ハブユニット軸受(軸受ユニット)を備える車両の部分的な模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態の第1例の対象となるハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態の第1例に係る揺動かしめ装置を示す断面図である。
【
図4】
図4は、ブロックを取り出して示す拡大側面図である。
【
図5】
図5は、ガイド部材の形状の第2例を示す端面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態の第1例について、揺動かしめ装置により、かしめ部を形成する様子を工程順に示す断面図である。
【
図7】
図7は、ブロックの先端部と、静止フランジとの係合状態の第3例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、ブロックの別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、ハブユニット軸受(軸受ユニット)1を備える車両100の部分的な模式図である。本発明は、駆動輪用のハブユニット軸受、及び従動輪用のハブユニット軸受のいずれにも適用することができる。
図1において、ハブユニット軸受1は、駆動輪用であり、外輪2Aと、ハブ3Aと、複数の転動体4Aとを備えている。外輪2Aは、ボルト等を用いて、懸架装置のナックル101に固定されている。車輪(および制動用回転体)102は、ボルト等を用いて、ハブ3Aに設けられたフランジ(回転フランジ)9Aに固定されている。また、車両100は、従動輪用のハブユニット軸受1に関して、上記と同様の支持構造を有することができる。
【0020】
図2は、従動輪用のハブユニット軸受(軸受ユニット)1を示している。ハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4とを備える。外輪2は、内周面に複列の外輪軌道5を有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外方に突出した静止フランジ(フランジ)6を有する。静止フランジ6は、円周方向複数箇所に支持孔7を有している。外輪2は、支持孔7に挿通あるいは螺合されたボルトにより、懸架装置のナックルに結合固定される。このような静止フランジ6は、円輪板状の基部8と、この基部8の外周面の円周方向複数箇所(図示の例では4か所)から径方向外方に突出した突出部(耳部)9とを有する。支持孔7のそれぞれは、突出部9に、この突出部9を軸方向に貫通するように設けられている。突出部9は、軸方向と交差する面(上面、支持面)6aを有する。
【0021】
ハブ3は、外輪2の内径側に、この外輪2と同軸に配置されている。また、ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道10を有する。また、ハブ3は、外輪2の軸方向外端面よりも軸方向外方に突出した軸方向外側部に、径方向外方に突出した回転フランジ11を有する。回転フランジ11は、円周方向複数箇所に取付孔12を有している。車輪および制動用回転体は、取付孔12に圧入固定されたスタッドと、これらのスタッドの先端部に螺合されたナットとにより、回転フランジ11に対し支持固定される。
【0022】
なお、軸方向に関して「外」とは、ハブユニット軸受1を懸架装置に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる、
図2の左側をいい、反対に、車両の幅方向中央側となる、
図2の右側を、軸方向に関して「内」という。
【0023】
複数個の転動体4は、複列の外輪軌道5と複列の内輪軌道10との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。なお、図示の例では、転動体4として、円すいころを使用している。他の例において、転動体4として、玉を使用することもできる。
【0024】
図示の例では、ハブ3は、ハブ本体(ユニット本体)13と、1対の内輪14a、14bとを有する。複列の内輪軌道10は、1対の内輪14a、14の外周面に1つずつ設けられている。ハブ本体13は、軸方向外側部に回転フランジ11を有する。また、ハブ本体13は、外周面のうちの軸方向中間部から軸方向内側部にかけての範囲に、円筒状の嵌合面部15を有する。ハブ3において、1対の内輪14a、14bがハブ本体13の嵌合面部15に外嵌されている。ハブ本体13の軸方向内端部にかしめ部16が設けられている。かしめ部16により、軸方向内側の内輪14aの軸方向内端面が抑え付けられる。1対の内輪14a、14bがハブ本体13に結合固定されることによりハブ3が構成されている。
【0025】
図3は、揺動かしめ装置17を示している。かしめ部16を形成する以前のハブ本体(ユニット本体)13z(
図6(A)および
図6(B)参照)において、軸方向片端部(軸方向内端部。
図6(A)および
図6(B)の上端部)は、円筒形状(円筒部31)を有する。揺動かしめ装置17は、円筒部31(円筒部31の軸端部分)を径方向外方に塑性変形(鍛造、圧造、加圧成型、曲げ加工)させることにより、かしめ部16を形成する。揺動かしめ装置17は、ハブ本体13zを載置するための支持部(ベース)18と、外輪2を回転駆動するための回転駆動手段19と、押型20とを備える。
【0026】
支持部(ベース)18は、上下方向の基準軸Cを有する。ハブ本体13zは、軸方向他端部(軸方向外端部。
図6(A)および
図6(B)の下端部)が下側となるように、かつ、自身の中心軸が基準軸Cと同軸となるように、支持部18の上面に載置される。
【0027】
回転駆動手段19は、不図示の駆動源と、アダプタ(回転駆動冶具)80とを備える。アダプタ80を介してハブ本体13zの軸周りに外輪2が動く。アダプタ80は、支持プレート(アダプタ本体)21と、複数個(図示の例では8個)のブロック22とを備える。支持プレート21は、支持部18の基準軸Cと同軸の中心軸を中心とする円輪板状に構成される。また、支持プレート21(アダプタ本体)は、支持部18の上方に昇降可能に、すなわち、支持部18に対する遠近動を可能に支持されている。また、支持プレート21は、基準軸Cと同軸の中心軸を中心とする回転可能に支持され、電動モータなどの不図示の駆動源により回転駆動されるように構成されている。また、支持プレート21は、下面の円周方向複数箇所に、上方に凹んだ座部23を有する。このような座部23により、後述する弾性部材(付勢部材)27の位置決め、および、座屈防止を図っている。
【0028】
一例において、ブロック22のそれぞれは、少なくとも一部が樹脂材料からなる。他の例において、ブロック22は、樹脂以外の材料からなる。例えば、
図4にしめすように、ブロック22は、ブロック本体24と、合成樹脂製のガイド部材25とを備える。本例では、ブロック本体24は、段付円柱状に構成されている。ガイド部材25は、ブロック本体24の先端部(下端部)に外嵌支持されている。本例では、ガイド部材25は、
図5(A)のような、軸方向から見た形状が円形の転がり軸受または滑り軸受である。本例のように、ブロック本体24の段付円柱状とした場合、ブロック本体24が自転可能である。他の例において、ガイド部材25は、軸方向から見た形状を、たとえば、
図5(B)に示すような正六角形などの多角形(好ましくは、正多角形。)とすることもできる。なお、ブロック22を、断面形状が、正方形や正六角形などの正多角形である、角柱状に構成することもできる。この場合には、ブロックの先端部に、外周面が円筒面である、転がり軸受または滑り軸受を外嵌支持することができる。
【0029】
なお、ガイド部材25として転がり軸受を使用する場合には、外輪の外周面を、ウレタン、シリコン、ポリアセタール、ポリアミド樹脂の一種であるMCナイロン(登録商標)などの合成樹脂により覆うことが好ましい。外輪の外周面を合成樹脂で覆うことで、ガイド部材25の外周面により、静止フランジ6の突出部9の円周方向側面を押す際に、金属同士が衝突することを防止でき、静止フランジ6に傷が生じることを防止できる。なお、必要に応じて、内輪に予め回転軸が支持固定された軸付き転がり軸受をガイド部材25として使用することもできる。すなわち、軸付き転がり軸受の回転軸を、ブロック本体24の先端部に、締り嵌めや螺合などにより支持固定することで、ブロック本体24の先端部にガイド部材25を設けることもできる。
【0030】
複数のブロック22は、支持プレート21に対して、ハブ本体13zの軸方向に移動可能に配される。支持プレート21は、プレート部材(環状プレート部材)21aと、収容部材(カバー、ボス、ボス壁、環状壁)26と、を有する。プレート部材21aと、収容部材26とが一体的に形成されている。あるいは、プレート部材21aに収容部材26が固定されている。収容部材26は、ハブ本体13zを囲うように配されている。収容部材26は、ブロック22の少なくとも一部が収容される空洞(又は切り欠き)26aを有する。複数のブロック22の各々は、ブロック22の少なくとも一部が支持プレート21(アダプタ本体、収容部材26)から軸方向に突出した突出状態と、収納状態との間で、軸方向に移動可能に配される。収納状態において、ブロック22の軸方向の端面が外輪2の静止フランジ6の上面6a(第1面)に当接される。突出状態において、ブロック22の側面(周面)が外輪2の静止フランジ6の側面(突出部9の側面、第2面)に面して配される。支持プレート21(アダプタ80)は、ハブ本体13zに向かう方向の力をブロック22に与える付勢部材(弾性部材)27を有する。
【0031】
例えば、ブロック22は、支持プレート21の下方に、下方に向いた弾力を付与された状態で支持されている。すなわち、支持プレート21の下面に、座部23の開口部を囲むように支持された、円筒状のカバー26内にブロック22が嵌装されている。ブロック22の上端面と、座部23の底面との間に、捩りコイルばねなどの弾性部材(付勢部材)27が設置されている。このような構成により、ブロック22のガイド部材25の先端面(下面)に上方に向かう力が加わっていない状態では、ガイド部材25が、カバー26の下側開口よりも下方に突出するようにしている。なお、ブロック22を角柱状に構成した場合には、カバー26は角筒状に構成することができる。弾性部材27により、支持プレート21に対してブロック22が確実に突出可能である。他の例において、弾性部材27に代えてブロック22を軸方向に移動させるアクチュエータを設けることができる。あるいは、重力又は磁力の利用により、弾性部材27を省略することができる。
【0032】
押型20は、内輪14aが取り付けられたハブ本体13zに対してかしめ運動(揺動かしめ運動、振れ回り運動)するように配される。押型20は、基準軸Cと同軸である、主軸αと、この主軸αに対し所定角度θだけ傾斜した自転軸βとを有する。また、押型20は、先端部(下端部)に、ハブ本体13zの円筒部31を径方向外方に塑性変形させて、かしめ部16を形成するための加工部28を有する。具体的には、押型20の先端部に、凸部29を設け、この凸部29の基端部外周面に断面円弧形の曲面部30を設けることにより、加工部28を構成している。このような押型20は、回転駆動手段19よりも上方に昇降を可能に支持されている。また、押型20は、主軸αを中心とする回転駆動が可能で、かつ、自転軸βを中心とする自転自在となっている。
【0033】
揺動かしめ装置17を用いて、ハブ本体13zの円筒部31を径方向外方に塑性変形させてかしめ部16を形成する方法について、
図2~
図5に加えて、
図6を用いて説明する。まず、
図6(A)に示すように、かしめ部16を形成する前のハブ本体13zを、軸方向他端部が下側となるように、かつ、ハブ本体13zの中心軸が基準軸Cと同軸になるように、揺動かしめ装置17の支持部18に載置する。次に、ハブ本体13zの嵌合面部15の周囲に、1対の内輪14a、14b、複数個の転動体4および外輪2を組み付ける。
【0034】
なお、嵌合面部15の周囲に、1対の内輪14a、14b、複数個の転動体4および外輪2を組み付ける順序は特に問わない。具体的には、たとえば、まず、嵌合面部15の軸方向外半部に、軸方向外側の内輪14bを外嵌し、この軸方向外側の内輪14bの周囲に転動体4を設置する。次に、嵌合面部15の周囲に、外輪2を配置する。そして、軸方向内側の内輪14aの周囲に転動体4を設置してサブアッセンブリとし、このサブアッセンブリを、嵌合面部15の軸方向内半部と、軸方向内側の外輪軌道5との間に挿入する。
【0035】
あるいは、1対の内輪14a、14b、複数個の転動体4および外輪2をあらかじめサブアッセンブリとし、このサブアッセンブリを嵌合面部15の周囲に設置するようにしても良い。
【0036】
嵌合面部15の周囲に、1対の内輪14a、14b、複数個の転動体4および外輪2を組み付けた後、次に、
図6(B)に示すように、回転駆動手段19のアダプタ80を下方に変位させる。これにより、複数のブロック22のうちの少なくとも1個のブロック22と、静止フランジ6の突出部9とが、ハブ本体13zの軸周りの方向(回転駆動手段19による外輪2の回転方向)に関して係合可能な状態(突出状態)となる。
【0037】
すなわち、回転駆動手段19のアダプタ80のブロック22は、支持部18の基準軸Cと同軸の中心軸を中心とする円周方向等間隔複数箇所に配置されている。したがって、
図7(A)~
図7(C)に示すように、ブロック22のうち、一部のブロック22(
図7(A)~
図7(C)中、二点鎖線で表すブロック22)の先端面の少なくとも一部が、静止フランジ6の突出部9の軸方向端面に対向し、残りのブロック22は、突出部9から円周方向に外れた部分に配される。少なくとも1つのブロック22の軸方向の端面(先端面、下面)(及び支持プレート21の下面の一部)が、外輪2の静止フランジ6の上面6a(第1面)に当接される。その結果、その少なくとも1つのブロック22が、支持プレート21に収納された収納状態となる。残りのブロック22は、ブロック22の少なくとも一部が支持プレート21(アダプタ本体、収容部材26)から軸方向に突出した突出状態となる。その結果、ブロック22の側面(周面)が外輪2の静止フランジ6の側面(突出部9の側面、第2面)に面して配される。
【0038】
また、ブロック22には、弾性部材27により、下方に向いた弾力が付与されている。したがって、弾性部材27が弾性変形していない状態で、かつ、突出部9の軸方向内側面に対向するブロック22の先端面(下端面)と、静止フランジ6の軸方向内側面との上下方向位置が一致している状態から、回転駆動手段19のアダプタ80をさらに下方に変位させると、一部の(先端面が突出部9の軸方向内側面に対向する)ブロック22は、弾性部材27を弾性変形させることにより、上下方向におけるそのままの位置にとどまる。一方、残りの(先端面が突出部9から円周方向に外れた部分に対向する)ブロック22は、支持プレート21とともに、下方に変位して、残りのブロック22のガイド部材25が、円周方向において隣り合う突出部9同士の間に配置される。
【0039】
この状態で、回転駆動手段19のアダプタ80を、基準軸Cと同軸の中心軸を中心に、
図7の時計回りに回転駆動させる。すると、ブロック22のうち、少なくとも1個のブロック22(
図7(A)~
図7(C)中、太線で表すブロック22)のガイド部材25の外周面により、突出部9の側面が少なくとも円周方向に押される。この際、例えば、ブロック22の一部が支持プレート21に当接してブロック22の姿勢が維持される。このようにして、外輪2が回転駆動されることにより、転動体4が自転および公転する。後述のように、かしめ部16を形成する際に、外輪軌道5および内輪軌道10に圧痕が形成されることが防止される。
【0040】
次に、押型20の自転軸βを、主軸αを中心に、歳差運動による中心軸の軌跡のごとく振れ回り運動させつつ、押型20を下方に変位させる。この押型20の加工部28が、ハブ本体13zの円筒部31に押し付けられる。例えば、主軸αを中心とする押型20の自転軸βの振れ回り運動の回転数(回転速度)は、回転駆動手段19の回転数(回転速度)と異ならせておく。
【0041】
押型20から円筒部31へは、上下方向に関して下方に、径方向に関して外方に、それぞれ向いた荷重が加えられる。このように荷重が加えられる部分が、円筒部31の円周方向に関して連続的に変化する。これにより、ハブ本体13zは、円筒部31が径方向外方に塑性変形して(かしめ拡げて)かしめ部16が形成されたハブ本体13となる。なお、かしめ部16を形成後のハブユニット軸受1では、かしめ部16により、軸方向内側の内輪14aの軸方向内端面が抑え付けられ、1対の内輪14a、14bが嵌合面部15から抜け出ることが防止されている。
【0042】
かしめ部16を形成後、押型20の振れ回り運動を停止させ、この押型20を上方に退避させる。次いで、回転駆動手段19を停止することにより、外輪2の回転を停止させ、その後、回転駆動手段19のアダプタ80を上方に退避させる。そして、ハブ本体13を支持部18から取り外すことで、ハブユニット軸受1を得る。
【0043】
上述のような本例によれば、回転駆動手段19のアダプタ80と静止フランジ6との円周方向に関する位相合わせの必要がなく、生産性の向上およびコストの低減を図ることができる。
【0044】
すなわち、回転駆動手段19(アダプタ80)には、ブロック22を円周方向等間隔複数箇所に配置されている。また、それぞれのブロック22は、弾性部材27により、下方に向いた弾力が付与されている。このため、先端面が静止フランジ6の軸方向内側面(突出部9の軸方向内側面)に対向するブロック22は、回転駆動手段19を下方に変位させることに伴って、ブロック22の先端面と、静止フランジ6の軸方向内側面とが当接する。回転駆動手段19(アダプタ80)をさらに下方に変位させた場合でも、弾性部材27が弾性変形することにより、そのままの上下方向位置にとどまる。したがって、回転駆動手段19と静止フランジ6との円周方向に関する位相にかかわらず、回転駆動手段19を下方に変位させた状態では、ブロック22のうちの少なくとも1個のブロック22と、静止フランジ6の突出部9とが、回転方向の動力を伝達可能に係合させることができる。
【0045】
また、本例では、ブロック22の先端部に、合成樹脂を用いた転がり軸受または滑り軸受であるガイド部材25が回転自在に支持されている。このガイド部材25の外周面により、静止フランジ6の突出部9の側面が円周方向に押される。これにより、突出部9の円周方向側面に傷などの損傷が生じることを防止するとともに、ガイド部材25の外周面が摩耗するのを防止している。
【0046】
なお、本例のように、支持部18の基準軸Cを上下方向に配置し、かつ、支持部18を下側に、回転駆動手段19を支持部18の上方に、それぞれ配置した構造では、重力の利用により、支持プレート21とブロック22との間に設置した弾性部材27を省略することができる。
【0047】
本発明を実施する場合に、回転駆動手段のブロックの個数や円周方向に関する配置については、回転駆動手段を支持部に近づく方向に変位させた場合に、回転駆動手段と静止フランジとの円周方向に関する位相にかかわらず、回転駆動手段を構成する複数個のブロックのうち、少なくとも1個のブロックと、静止フランジとを、回転方向の動力を伝達可能に係合させられるように、静止フランジの形状に応じて適切に定めることが好ましい。すなわち、少なくとも1個のブロックと、静止フランジとを、回転方向の動力を伝達可能に係合させられるのであれば、複数個のブロックを円周方向に関して不等間隔に配置することもできる。なお、ブロックの個数は、静止フランジの形状に応じて設定可能であり、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11以上にできる。例えば、ブロックの個数は、6個~8個とすることが好ましい。
【0048】
ブロックの個数を、6個以下や1個とすることもできる。回転駆動手段を支持部に近づく方向に変位させた際に、仮に、すべてのブロックの先端面が静止フランジの突出部に当接した状態(すべてのブロックが収納状態)であっても、アダプタの回転によって、少なくとも1つのブロックが突出状態に移行する。すなわち、回転駆動手段のアダプタを回転させると、少なくとも1つのブロックの先端面が突出部の軸方向内側面に対し摺動し、突出部から外れた部分に対向するようになる。すると、ブロックが、支持部に近づく方向に軸方向に変位して、ブロックの先端部外周面により突出部の円周方向側面を押圧可能となる。
【0049】
図8は、ブロック22の別の形態例を示す図である。
図8(a)に示すように、収納状態において、ブロック22のガイド部材25の全体が支持プレート(アダプタ本体)21における収容部材26の内部に配される。
図8(b)に示すように、突出状態において、ブロック22のガイド部材25の一部が支持プレート21に対して突出するとともに、ガイド部材25の残りの一部が支持プレート21における収容部材26の内部に配される。
【0050】
本発明は、ハブ本体が中実である従動輪用のハブユニット軸受だけでなく、ハブ本体の中心部に、駆動軸をトルク伝達可能に係合するためのスプライン孔が設けられた駆動輪のハブユニット軸受に適用することもできる。また、上記では、本発明を、ハブ本体に1対の内輪を外嵌してなるハブを備えた、いわゆる第2.5世代とよばれるハブユニット軸受に適用した場合について説明した。本発明は、軸方向外側の内輪軌道をハブ本体の軸方向外周面に直接形成し、かつ、ハブ本体の軸方向内側に内輪を外嵌してなるハブを備えた、いわゆる第3世代とよばれるハブユニット軸受に適用することもできる。
【符号の説明】
【0051】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4 転動体
5 外輪軌道
6 静止フランジ
7 支持孔
8 基部
9 突出部
10 内輪軌道
11 回転フランジ
12 取付孔
13、13z ハブ本体
14a、14b 内輪
15 嵌合面部
16 かしめ部
17 揺動かしめ装置
18 支持部
19 回転駆動手段
20 押型
21 支持プレート(アダプタ本体)
22 ブロック
23 座部
24 ブロック本体
25 ガイド部材
26 カバー(収容部材)
27 弾性部材
28 加工部
29 凸部
30 曲面部
31 円筒部
80 アダプタ