(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】非粘着性表面を有する非粘着塗膜、該非粘着塗膜が形成された基材及び非粘着塗膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20230418BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230418BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20230418BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230418BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20230418BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230418BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20230418BHJP
C09D 175/02 20060101ALI20230418BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230418BHJP
【FI】
C09D201/00
B05D7/24 301V
B05D7/24 303A
B05D3/12 Z
B05D7/24 301U
B05D5/00 Z
B05D3/02 A
B32B27/00 B
C09D175/04
C09D175/02
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2019135192
(22)【出願日】2019-07-23
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】尾上 大介
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-316584(JP,A)
【文献】特開昭60-229962(JP,A)
【文献】特開2015-178560(JP,A)
【文献】特開2005-023277(JP,A)
【文献】特開2009-149824(JP,A)
【文献】特開2017-128624(JP,A)
【文献】特開平02-158337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
B05D 7/24
B05D 3/12
B05D 5/00
B05D 3/02
B32B 27/00
C09D 175/04
C09D 175/02
C09D 7/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温硬化性樹脂と、室温で固体、且つ、融点が70℃以下の非粘着性付与剤とを含む非粘着性表面を有
し、
前記非粘着性付与剤が、フッ素樹脂である非粘着塗膜。
【請求項2】
前記常温硬化性樹脂が、樹脂成分としてポリウレタン及び/又はポリウレアに由来する成分を含む請求項
1に記載の非粘着塗膜。
【請求項3】
前記常温硬化性樹脂が、二液混合硬化樹脂である請求項1
又は2に記載の非粘着塗膜
。
【請求項4】
請求項1~
3の何れか一項に記載の非粘着塗膜が表面に形成された成型品。
【請求項5】
請求項1~
3の何れか一項に記載の非粘着塗膜が表面に形成されたプラント用ホッパー。
【請求項6】
基材と、基材の表面に形成された請求項1~
3の何れか一項に記載の非粘着塗膜とを含む積層構造。
【請求項7】
常温硬化性樹脂と、室温で固体、且つ、融点が70℃以下の非粘着性付与剤とを含む非粘着性表面を有する非粘着塗膜の製造方法であって、
前記非粘着性付与剤を、その融点以上の温度で、前記常温硬化性樹脂の硬化前の硬化性成分と混合し、前記非粘着性付与剤を硬化性成分中に分散させる工程を含
み、
前記非粘着性付与剤が、フッ素樹脂である、非粘着性表面を有する非粘着塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非粘着性表面を有する非粘着塗膜、該非粘着塗膜が形成された基材及び非粘着塗膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種基材の表面に耐候性、耐衝撃性、耐水性、非粘着性、撥水性、耐薬品性等の特性を付与するために、基材表面にフッ素樹脂を含む表面層を形成することが広く行われている。このような表面層の形成には、例えば、フッ素樹脂をコーティングする方法(特許文献1)、粉体塗料を用いて基材表面に下地層とフッ素を含む表面層を形成する方法(例えば、特許文献2、3参照)、基材表面にフッ素樹脂及びその他の樹脂等を含む組成物を塗布することで基材表面にフッ素樹脂を含む表面層を形成する方法(特許文献4、5)等が知られている。
【0003】
特許文献1には、米飯ホッパーと、該米飯ホッパーから供給される米飯を所定厚さの略板状に成形しつつ搬出する米飯搬出装置と、搬出された米飯を所定長さに切り分ける米飯カッターと、複数枚の矩形状板が筒型に屈折可能に連接される米飯包板、及び、その駆動機構とからなり所定長さに切り分けられた米飯を巻包して略柱状に成形する米飯巻包装置と、を含んで構成される自動巻寿司製造装置において、前記米飯ホッパー、米飯搬出装置、米飯カッター、米飯巻包装置の少なくとも米飯が接触する面には、フッ化炭素樹脂のコーティングが夫々施されていることが記載されている。これにより、米飯がへばりつくことが低減するため、装置の作動がより安定し、また、装置の使用後の手入れが簡単になるとされている。
【0004】
特許文献2には、アルミ建材の表面に、非相溶性にして熱溶融温度高低異温度のポリエステル塗料とフッ素塗料のドライブレンド粉体塗料の粉体塗装によって形成された粉体塗膜を施すことが記載されている。このような粉体塗料を用いることで、膜厚方向表面側にフッ素塗料成分を高密度に分布させ、膜厚方向下地側にポリエステル塗料成分を高密度に分布させ、測定角度60°の光沢度を25~40%としたマット調表面が形成されることが記載されている。そして、塗膜の表面側にフッ素塗料に基づき耐候性が付与され、塗膜の下地側にポリエステル塗料に基づき耐衝撃性が付与され、マット調表面により良好な外観が付与されるとされている。
【0005】
特許文献3には、特定のフッ素樹脂(A1)、特定のポリエステル重合体(B)、イソシアネート系硬化剤および特定の紫外線吸収剤(D)を含有する粉体塗料組成物を170~210℃で焼付けて、その溶融物からなる塗膜を形成し、粉体塗料組成物中の反応成分を反応させ、次いで、溶融状態の塗膜を室温まで冷却して固化させ、フッ素樹脂層及びポリエステル層の2層構造の硬化膜を形成することが記載されている。そしてこのような硬化膜は、耐水性、耐薬品性、および耐候性に優れているとされている。
【0006】
特許文献4には、梱包資材の表面に粘着性貼付体の剥離層を形成するコーティング剤であって、ウレタン樹脂を基剤として粉末状のフッ素樹脂の剥離剤を添加したことを特徴とするコーティング剤が記載されている。そしてこのようなコーティング剤により、梱包資材の表面に適当な粘着強度を維持しながら、粘着剤や破片を残留させることなくテープ等を引き剥がすことができる剥離層を形成することできるとされている。
【0007】
特許文献5には、発光塗料に多孔質表面形状を生成するための直径が数10μm以下のフッ素樹脂の粒子を混合し、それを基盤に定着させるためのバインダーとしてメチル基を有する分子全体間の凝集力の小さいメチル系シリコーンを用いたものを基盤に塗布したものである超撥水性面発光センサーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-243775号公報
【文献】特開2012-40503号公報
【文献】特許第6431765号公報
【文献】特開2012-1600号公報
【文献】特開2014-6166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明では、フッ素樹脂により米飯と接触する部分をコーティングすることで、米飯の付着を防止している。しかし、特許文献1にはコーティングの構成が明示されておらず、また、一般にフッ素樹脂は接着性が低く、一般的なフッ素樹脂のコーティングは、剥離し易く、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。また、米飯は粘着性を有するため、フッ素樹脂のコーティングであっても、米飯の付着をさらに防止するには、改良の余地がある。また、本発明者の検討によると、米飯以外の水等の液体、水分を含む粉体やスラリー等の場合も、米飯と同様に付着しやすい場合があることが判明し、それの付着を防止するには、改良の余地がある。
【0010】
特許文献2のような粉体塗料を用いることで、所定の特性の塗膜が形成され得る。しかし、特定成分のドライブレンド粉体塗料を溶融させ、マット調の表面が形成されるため、表面粗さが大きすぎ、各種の液体、粉体等の付着を抑制するには更なる改良の余地がある。また、熱溶融するポリエステル塗料とフッ素塗料とは相溶性がないため、表面のフッ素塗料成分の層がポリエステル塗料成分の層から剥離し易く、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。
【0011】
特許文献3に記載の粉体塗料組成物を用いることで、フッ素樹脂層とポリエステル層とが化学結合により固着され得る。しかし、フッ素樹脂及びポリエステル重合体等の粉体塗料組成物を1回のコート塗装で形成された塗膜で、粉体塗料組成物の溶融、硬化過程でフッ素樹脂層とポリエステル層が層分離して2層構造を形成しているため、耐久性が高いことが推定されるものの、フッ素樹脂層は層分離しで形成されたものに過ぎず、各種の液体、粉体等の付着を抑制するか否かは不明である。
【0012】
特許文献4記載に記載の発明では、ウレタン樹脂基材に粉末状のフッ素樹脂を剥離剤として添加することが開示されているが、ウレタン樹脂に粉末状のフッ素樹脂を単に添加した場合、均一にフッ素樹脂を分散させることは困難である。そのため、特許文献4に記載のコーティング剤により形成された剥離層はウレタン樹脂単独の場合に比べて機械的強度が大きく低下する可能性が高い。また、表面の特性にばらつきが生じる可能性も高く、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。さらに、粉末状のフッ素樹脂は剥離剤として機能するに過ぎず、各種の液体、粉体等の付着を抑制するには更なる改良の余地がある。
【0013】
特許文献5には水・氷・雪の付着を防止する超撥水性面の発光センサーが記載されているが、やはりフッ素樹脂の粒子が剥離し易く、耐摩耗性や耐久性に欠ける恐れがある。
【0014】
以上のように、例えば特許文献1~4に記載の発明では、水等の液体、乾燥粉体等の固体、水分を含む粉体やスラリー等の付着を防止するには改良の余地がある。また、特許文献1、2、4、5に記載の発明では、耐摩耗性や耐久性に欠ける、フッ素樹脂の存在により機械的強度が大きく低下する、等の恐れがある。
【0015】
そこで、本発明の目的は、水等の液体、乾燥粉体等の固体、水分を含む粉体やスラリー等で付着しやすい傾向を有するものであっても、その付着を抑制可能な非粘着性を有し、且つ、フッ素樹脂を含む塗膜の剥離が抑制され、良好な機械的強度を有し、耐摩耗性に優れた非粘着性表面を有する非粘着塗膜を提供することである。また、他の目的は、このような非粘着性表面を有する非粘着塗膜を簡便に形成可能な非粘着塗膜の製造方法を提供することである。また、他の目的は、このような非粘着性表面を有する非粘着塗膜が形成された成型品、或いは、基材とその表面に形成された非粘着性表面を有する非粘着塗膜とを含む積層構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、前述の課題解決のために、鋭意検討を行った。その結果、常温硬化性樹脂と、室温で固体、且つ、融点が70℃以下の非粘着性付与剤とを用い塗膜を形成することで、前述の課題が解決可能であることを見出した。
【0017】
本発明の第一は、常温硬化性樹脂と、室温で固体、且つ、融点が70℃以下の非粘着性付与剤とを含む非粘着性表面を有する非粘着塗膜に関する。
【0018】
本発明の実施形態では、前記非粘着性付与剤が、フッ素樹脂であってもよい。
【0019】
本発明の実施形態では、前記常温硬化性樹脂が、樹脂成分としてポリウレタン及び/又はポリウレアに由来する成分を含んでもよい。
【0020】
本発明の実施形態では、前記常温硬化性樹脂が、二液混合硬化樹脂であってもよい。
【0021】
本発明の第二は、前記非粘着塗膜が表面に形成された成型品に関する。
【0022】
本発明の第三は、前記非粘着塗膜が表面に形成されたプラント用ホッパーに関する。
【0023】
本発明の第四は、基材と、基材の表面に形成された前記非粘着塗膜とを含む積層構造に関する。
【0024】
本発明の第五は、常温硬化性樹脂と、室温で固体、且つ、融点が70℃以下の非粘着性付与剤とを含む非粘着性表面を有する非粘着塗膜の製造方法であって、前記非粘着性付与剤を、その融点以上の温度で、前記常温硬化性樹脂の硬化前の硬化性成分と混合し、前記非粘着性付与剤を硬化性成分中に分散させる工程を含む、非粘着性表面を有する非粘着塗膜の製造方法に関する。
【0025】
ここで、上記塗膜とは、常温硬化性樹脂の硬化反応が起こる前のモノマー等の硬化性成分が硬化反応により硬化し、固化したものを意味する。常温とは、5℃~40℃の範囲を意味する。
【発明の効果】
【0026】
本願発明によれば、水等の液体、乾燥粉体等の固体、水分を含む粉体やスラリー等で付着しやすい傾向を有するものであっても、その付着を抑制可能な非粘着性を有し、且つ、フッ素樹脂を含む塗膜の剥離が抑制され、良好な機械的強度を有し、耐摩耗性に優れた非粘着性表面を有する非粘着塗膜を提供することができる。また、このような非粘着性表面を有する非粘着塗膜を簡便に形成可能な非粘着塗膜の製造方法を提供することができる。また、このような非粘着性表面を有する非粘着塗膜が形成された成型品、或いは、基材とその表面に形成された非粘着性表面を有する非粘着塗膜とを含む積層構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1、比較例1、2の塗膜の引張試験の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係る非粘着性表面を有する非粘着塗膜(以下、単に「非粘着塗膜」と称する場合がある。)は、常温硬化性樹脂と、室温で固体、且つ、融点が70℃以下の非粘着性付与剤とを含む。
【0029】
このような特定の非粘着性付与剤を用いることで、常温硬化性樹脂中に非粘着性付与剤を良好に分散させることが可能になる。その結果、塗膜の表面に非粘着性付与剤が均質に分散した状態で存在させることができるため、良好な非粘着性を塗膜表面に付与することができる。また、非粘着性付与剤が常温硬化性樹脂中に良好に分散されているため、応力集中を抑制することができる。そのため、常温硬化性樹脂単独の場合に対する機械的強度の低下を抑制することができ、塗膜の剥離が抑制される。その結果、非粘着性付与剤による非粘着性の効果を持続させることができるため、耐摩耗性に優れる塗膜を形成可能である。
【0030】
前記常温硬化性樹脂は、常温で硬化反応が進行する硬化性樹脂であればよい。もっとも、必要に応じて合成に際して加熱してもよいことは言うまでもない。例えば、予め加熱した成分を外部からの加熱を行うことなく反応させることで、基材に塗布された硬化性成分を硬化させ非粘着塗膜を形成することができるものであってもよい。常温環境で硬化反応が進行可能であることにより、生成する常温硬化性樹脂の熱劣化防止、塗膜形成工程の簡便性の点で有利である。このような常温硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、イソシアネート基を有する化合物と活性水素を有する化合物との反応生成物であるポリマー等が挙げられる。このうち、耐衝撃性の観点からは、イソシアネート基を有する化合物と活性水素を有する化合物との反応生成物であるポリマーが好ましい。このような常温硬化性樹脂は、1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0031】
イソシアネート基を有する化合物としては、例えば、芳香族イソシアネート、脂環式イソシアネート、脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネートの水添物等が挙げられる。より具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)等のジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートとの付加体(アダクト)、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また、イソシアネート基を有する化合物は、イソシアネート基を一次的に保護基で保護して不活性にしたブロック化イソシアネートであってもよい。保護基は熱等によって除去され、イソシアネート基を再生させて使用することができる。保護基となり得る保護剤は、例えば、フェノール、カプロラクタム、オキシム、アルコール等が挙げられる。
【0032】
活性水素を有する化合物としては、例えば、ポリオール、水、アミン、尿素誘導体、ウレタン誘導体等が挙げられる。このうち、耐衝撃性の観点からは、ポリオール、アミンが好ましい。イソシアネート類とポリオールとの反応生成物がポリウレタン、イソシアネート類とアミンとの反応生成物がポリウレアである。また、ポリウレタンとポリオールとに由来する成分を含む共重合体とすることも可能である。したがって、常温硬化性樹脂としては、樹脂成分としてポリウレタン及び/又はポリウレアに由来する成分を含むものが好ましい。このような樹脂成分としては、例えば、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンのブロックとポリウレアのブロックを有する共重合体等、及び、これらから選択される2種以上の混合物等が挙げられる。
【0033】
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ヒマシ油等が挙げられる。アミンとしては、ポリアミン等が挙げられる。ポリアミンは、アミノ基を2つ以上有する化合物であればよい。アミンは、ポリオールより、イソシアネートとの反応が速い。また、アミノ基とイソシアネート基との反応で生成される尿素結合は、水酸基とイソシアネート基との反応で生成されるウレタン結合より硬い。そのため、活性水素を有する化合物としては、アミンが好ましく、ポリアミンがより好ましい。即ち、熱硬化性樹脂としては、樹脂成分としてポリウレアに由来する成分を含むものがより好ましく、樹脂成分がポリウレアであるのがさらに好ましい。また、ポリウレアは脂肪族系、芳香族系何れでもよいが、芳香族系ポリウレアが好ましい。もっとも、非粘着塗膜の用途に応じて、尿素結合とウレタン結合の比率を調整することで、非粘着塗膜の硬度等を調整することもできる。この場合は、非粘着塗膜の硬度等を容易に調整する観点からは、活性水素を有する化合物として、ポリオールとアミンが含まれるもの、例えば、ポリオールとポリアミンが含まれるものを用いることができる。即ち、常温硬化性樹脂としては、樹脂成分としてポリウレタン及びポリウレアに由来する成分を含むものを用いることができる。ポリウレタン及びポリウレアに由来する成分としては、例えば、ポリウレタンのブロックとポリウレアのブロックを有する共重合体のみからなるもの、この共重合体とポリウレア又はポリウレタンの混合物等が挙げられる。尿素結合を含む単位とウレタン結合を含む単位の混合比は、用途等に応じて決定することができる。
【0034】
イソシアネート基を有する化合物と活性水素を有する化合物との混合比は、一般的にはイソシアネート基と活性水素とが等モルになるように混合することができるが、厳密に等モルである必要なく、いずれかが多くてもよい。
【0035】
常温硬化性樹脂の分子量は、その種類、用途に応じて適宜決定することができる。
【0036】
常温硬化性樹脂は、常温硬化性樹脂を合成する際に用いる硬化性成分の反応特性に応じて、所定の硬化性成分の混合による常温硬化、吸湿による常温硬化等により合成され得る。前述のように、予め調製した硬化性成分を含む塗料組成物を加熱して、硬化反応を常温で行ってもよい。
【0037】
常温硬化性樹脂は、非粘着塗膜を形成する際の施工性の観点から、常温硬化性樹脂を合成する際に用いる硬化性成分として、二液を用いて混合することで硬化反応させる二液混合硬化樹脂であるのが好ましい。例えば、非粘着塗膜を形成する際に、原料となる各液を加熱して、二液混合後は外部から加熱処理を行わず、常温で硬化反応を行う場合に有効である。
【0038】
常温硬化性樹脂は、市販のものを使用することができる。例えば、NUKOTE社製のNUKOTE ST、XT-Plus、JF-HM、BG、PA等が挙げられる。
【0039】
前記非粘着性付与剤は、室温で固体、且つ、融点が70℃以下の特性を有し、塗膜表面に非粘着性を付与することが可能な物質である。室温では固体である、即ち、融点が室温より高いことにより、室温時にブリードアウト等による溶出を防止することができる。融点は、室温より高ければよいが、40℃以上が好ましい。また、融点が70℃以下であることにより、例えば、塗膜を形成する際に塗膜の原料となる組成物を非粘着性付与剤の融点以上に加熱して組成物中に均一に分散せることが容易になる。また、この融点は、常温硬化性樹脂の硬化反応前の硬化性成分の熱分解温度より低い温度であるのが好ましい。融点がこのような温度であることで、耐剥離性や機械的特性の良好な塗膜を形成することができる。このような物質としては、例えば、フッ素樹脂、ワックス等が挙げられる。
【0040】
フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)等のフルオロアルキル基を有するフッ素系ポリマー等が挙げられる。このようなフッ素樹脂は市販のものを使用することができる。フルオロアルキル基を有するフッ素系ポリマーとしては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイフリーFB-962等が挙げられる。
【0041】
ワックスとしては、室温で固体、且つ、融点が70℃以下であるものであれば限定はない。例えば、このような条件を満足する石油系ワックス、シリコーン系ワックス等が挙げられる。
【0042】
石油系ワックスとしては、例えば、JIS K 2235に規定される、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスが挙げられる。シリコーン系ワックスとしては、例えば、アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンからなるグラフト共重合体等が挙げられる。
【0043】
以上のような非粘着性付与剤は、1種含んでもよいし、2種以上含まれてもよい。また、以上のような非粘着性付与剤のうち、フッ素系樹脂が特に好ましい。
【0044】
非粘着性付与剤の含量は、特に限定はないが、非粘着塗膜表面の非粘着性、耐摩耗性、機械的強度の観点から、常温硬化性樹脂100重量%に対して、3~10重量%含まれるのが好ましい。
【0045】
非粘着塗膜中には、必要に応じて各種の添加剤が所定量含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、補強材等が挙げられる。但し、非粘着性付与剤の分散性を阻害しないものや、それを阻害しない含量範囲で含まれるのが望ましい。
【0046】
以上のような非粘着塗膜は、各種の基材の表面に設けられる。つまり、基材と、この基材の表面に形成された非粘着塗膜とにより積層構造が形成される。このような基材を構成する材質としては、積層構造の適用される各種の用途に応じて、適宜選択することができる。このような材質としては、鉄、鋼、アルミニウム、銅、金、銀等の金属、セラミック、コンクリート、ガラス、合成樹脂、天然樹脂、木材、紙、ダイヤモンド等が挙げられる。鋼としては、2.0%以下の含有量の炭素を含み、他の元素を含んでもよい鉄の合金であればよく、例えば、ステンレス等が挙げられる。合成樹脂には、炭素繊維強化樹脂、ガラス繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂が含まれる。このうち、耐腐食性や重量、汎用性の観点からステンレス、アルミ、鉄が好ましい。
【0047】
基材の形状は特に限定はない。基材としては、例えば、(i)原材料等を搬送する搬送機械に設けられているホッパー、シュート、フライト、バケット等の表面を構成する部材、(ii)ブルドーザー、ショベルカー等の建設機械に設けられ、粘土等の掘削物や原材料を入れて運搬する容器であるバケットの表面を構成する部材、(iii)ダンプトラック等に設けられる車両荷台の表面を構成する部材、(iv)除雪車、一般車両(自動車、鉄道等を含む)、船舶、家屋、橋等における着雪箇所を構成する部材、(v)樋の表面を構成する部材、(vi)(i)~(v)の各部材の表面に設置可能なシート状の部材等が挙げられる。これらのうち、メンテナンス性及び非粘着性が特に要望される(i)の部材へ、前述の非粘着塗膜が適用されるのが好ましく、プラント用ホッパーがより好ましい。また、(i)~(vi)の部材は、何れも、成型品であるのが好ましい。
【0048】
非粘着塗膜の厚みは、用途等に応じて適宜設定可能である。耐久性の観点からは、1~3mmが好ましい。
【0049】
非粘着塗膜の表面の水接触角は、高い撥水性を発揮する観点から100°以上であるのが好ましい。
【0050】
本発明の実施形態に係る非粘着塗膜の製造方法は、前述の非粘着性付与剤を、その融点以上の温度で、前術の常温硬化性樹脂の硬化前の硬化性成分(以下、単に「硬化性成分」と称する場合がある。)と混合し、前記非粘着性付与剤を硬化性成分中に分散させる工程を含む。このように、非粘着性付与剤を、その融点以上の温度で、前術の常温硬化性樹脂の硬化前の硬化性成分と混合することで、非粘着性付与剤を硬化性成分中に分散させることが可能になる。その結果、硬化物である常温硬化性樹脂中にも非粘着性付与剤が均一に分散される。そのため、非粘着塗膜に良好な非粘着性、耐剥離性、機械的特性を付与することができる。
【0051】
以下では、前述の基材の表面に非粘着塗膜を形成する場合を例に説明する。
【0052】
基材への塗布前に、必要に応じて、基材表面を、脱脂等の洗浄処理を行ってもよい。また、必要に応じて、基材と非粘着塗膜との固着性を向上させるために、基材の表面に対してブラスト処理、エッチング処理等の表面処理を行ってもよい。
【0053】
硬化性成分と非粘着性付与剤を、非粘着性付与剤の融点以上の温度で混合し、非粘着性付与剤を硬化性成分中に分散させる。
【0054】
常温硬化性樹脂は、前述のものを用いることができる。耐衝撃性、施工性の観点から、常温硬化性樹脂が、イソシアネート基及び活性水素を有する化合物を含有するのが好ましい。また、施工性の観点から、常温環境下で良好な反応性を有する2液を混合するものが好ましい。このような観点からも、イソシアネート基及び活性水素を有する化合物を含有するのが好ましい。
【0055】
非粘着性付与剤は、前述のものを用いることができる。分散性の観点から、フッ素樹脂が好ましい。常温硬化性樹脂が二液混合硬化樹脂である場合、非粘着性付与剤の添加の方法に限定はない。二液のうちの両方に添加してもよいし、一方のみに添加してもよい。また、一方のみに添加した場合、加熱は非粘着性付与剤が添加されていない硬化性成分に対して行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0056】
非粘着性付与剤を含む硬化性成分の基材への塗布方法は、基材の形態、硬化性成分等に応じて適宜選択することができる。例えば、スキージや刷毛による塗布、浸漬、スプレー塗布等が挙げられる。塗布量は、非粘着塗膜の特性や非粘着塗膜が形成された基材の用途等に応じて適宜決定することができる。
【0057】
以上のような実施形態に係る非粘着塗膜及びその製造方法は、前述の(i)~(v)に示した各種部材の表面に直接適用することができる。即ち、基材としてこれらの部材を採用し、非粘着塗膜を設けることができる。また、前述の(vi)に示したように、前述の(i)~(v)に示した各種部材の表面に、別途、シート状の基材の表面に非粘着塗膜を設けた非粘着性積層体を設置することで、各種の既存の部材の表面に、非粘着機能を付与することができる。
【0058】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態を説明する。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
常温硬化性樹脂(NUKOTE社製、NUKOTE ST、2液混合硬化型、常温硬化型、芳香族系ポリウレア)の硬化前のジイソシアネートを含む液状の硬化性成分と非粘着性付与剤(フッ素樹脂、ダイキン工業株式会社製、ダイフリーFB962、融点60℃、常温で固体)とを混合し60℃に加熱した。これと、60℃に加熱したジアミン成分を含む液状の硬化性成分とを混合して、基材(材質:SS400、大きさ:310×110×5mm、成型品)の表面に膜厚1.5mmになるよう、二液塗料用の衝突混合スプレーガンにより塗布した。非粘着性付与剤の含量は、常温硬化性樹脂100重量%に対して、5重量%とした。常温環境下で静置して、表面に非粘着塗膜が形成された基材を得た。
【0060】
(比較例1)
非粘着性付与剤として、室温で液状のフッ素樹脂(AGC株式会社製、ルミフロン(登録商標)S-651)を、常温硬化性樹脂100重量%に対して、5重量%とした以外は、実施例1と同様にして、表面に塗膜が形成された基材を得た。
【0061】
(比較例2)
非粘着性付与剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、表面に塗膜が形成された基材を得た。
【0062】
(評価)
<付着試験>
実施例1、比較例1、2で得られた、表面に塗膜が形成された基材を試験片として用いて、以下のようにして、評価を行った。塗膜表面が水平面に対して30°になるように傾斜させ、鉛直方向上側5cmの位置から、メッシュ開口部の大きさが3.35mmを通過する石炭3gと水1gの混合物であるスラリー4gを塗膜表面に落下させ、スラリーが流れた長さをノギスにより測定した。
【0063】
<接触角>
実施例1、比較例1、2で得られた、表面に塗膜が形成された基材を試験片として用い、JIS R 3257に基づき、1/2θ法により行った。試験片の表面に注射器により所定量の精製水(TRUSCO精製水W-20、トラスコ中山株式会社)を静置して1分以内に、接触角測定装置(株式会社エキシマ製、SImage mini7)により測定した。
【0064】
<テーバー摩耗試験>
実施例1、比較例1、2で得られた、表面に塗膜が形成された基材を試験片として用い、JIS K 6264に準拠して行った。試験機として、株式会社安田精機製作所製、テーバー式アブレーションテスター N0.101-HSを用い、条件は、摩耗輪:H-22、荷重:1000g×2個、回転数:1000回転、回転速度:60rpm、温度:23℃、とした。
【0065】
<引張強度>
<<試験片の作製>>
離型剤を塗布した基材(SUS製の金属板)の表面に実施例1、比較例1、2と同様にして塗膜を形成した後、基材から塗膜を剥離して、JIS K 6251に準拠する3号ダンベルを試験片として作製した。
【0066】
<<測定>>
得られた試験片を用いて、JIS K 6251に準拠して引張試験を行った。引張試験機は、株式会社島津製作所製、オートグラフAG-20kN×Dplusを用いた。速度は500mm/minとし、環境温度は23℃であった。測定結果を、引張応力[MPa]とひずみ[%]の関係でまとめたものを
図1に示す。
【0067】
付着試験、接触角、テーバー摩耗試験の結果を表1に示す。引張強度の測定結果を
図1に示す。
【0068】
【0069】
表1及び
図1より、所定の特性を有する非粘着性付与剤を用いることで、良好な非粘着性、耐摩耗性、機械的特性を有する塗膜を簡便に形成することができることが分かる。