(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】コントローラ、ブーム装置、及びクレーン車
(51)【国際特許分類】
B66C 23/82 20060101AFI20230418BHJP
B66C 23/88 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B66C23/82 F
B66C23/88 Q
(21)【出願番号】P 2019139872
(22)【出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】谷井 悟
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-172775(JP,A)
【文献】特開平8-127491(JP,A)
【文献】登録実用新案第3209342(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00-23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座と、
当該台座に支持され、倒伏位置と起立位置との間で起伏動作可能なブームと、
ワイヤドラムに巻き取られ、上記ブームの先端部に巻きかけられたワイヤを有するウインチと、
上記ワイヤの先端に設けられた吊荷用フックと、
上記ブームを起伏させる第1駆動源と、
上記ウインチを駆動し、上記ワイヤを上記ワイヤドラムに対して繰り出し或いは巻き取る第2駆動源と、
上記台座に設けられ、上記起立位置にある上記ブームの先端部から吊り下げられた上記吊荷用フックが着脱自在に係合する係合部材と、
上記ブームの起伏角度を検出する起伏角センサと、
上記ブームの先端部からの上記ワイヤの繰り出し長さを検出する長さセンサと、を備えるブーム装置に用いられ、
上記ブームの長さ及び上記ブームの起伏の支点に対する上記係合部材の位置に応じた指定値を記憶するメモリを有しており、
上記起伏角センサが検出した上記ブームの起伏角度と、上記メモリから読み出した上記指定値と、に基づいて、上記ブームの先端部から上記係合部材までの変位距離を算出し、当該変位距離が、上記長さセンサが検出した長さに応じた距離となるように、或いは、算出した前記変位距離に基づいて前記ワイヤの繰り出し或いは巻き取り速度であるワイヤ速度を算出し、算出したワイヤ速度が、前記長さセンサの検出値から算出した検出ワイヤ速度に応じた速度となるように、上記吊荷用フックが上記係合部材と係合した状態で、上記倒伏位置と上記起立位置との間で上記ブームを起伏させつつ上記ウインチを駆動させるブーム自動駆動処理を実行するコントローラ。
【請求項2】
上記第1駆動源は、伸縮するシリンダであり、
上記ブーム自動駆動処理において、上記シリンダの伸縮速度を一定に保つ請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
上記ブーム自動駆動処理において、起伏する上記ブームの角速度を一定に保つ請求項1に記載のコントローラ。
【請求項4】
上記ブーム自動駆動処理において、上記ウインチの回転速度を一定に保つ請求項1に記載のコントローラ。
【請求項5】
上記ブーム装置は、上記ワイヤに加わる張力を検出する張力センサをさらに備え、
上記メモリは、上記変位距離と、上記長さセンサが検出した上記ワイヤの繰り出し長さとの差の許容範囲を決める閾値を予め記憶しており、
上記ブーム自動駆動処理において、上記変位距離と、上記長さセンサが検出した長さとの差が、上記閾値内になるように、上記倒伏位置と上記起立位置との間で上記ブームを起伏させつつ上記ウインチを駆動させ、
上記張力センサが検出した張力の大きさに応じて、上記閾値を補正する請求項1から4のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項6】
上記変位距離と、上記ワイヤの繰り出し長さとの差が安全値の範囲内であるか否かを判断する判断処理と、
上記変位距離と上記繰り出し長さとの差が安全値の範囲内でないと判断したことに応じて、上記第1駆動源及び上記第2駆動源の駆動を停止させる駆動停止処理と、をさらに実行する請求項1から5のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項7】
上記指定値は、
上記ブームの長さと、
上記ブームの起伏の支点と上記係合部材との間の離間距離と、である請求項1から6のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項8】
上記指定値は、
上記ブームの長さと、
上記ブームの起伏の支点と上記係合部材との間の水平方向における第1離間距離と、
上記ブームの起伏の支点と上記係合部材との間の垂直方向における第2離間距離と、である請求項1から6のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項9】
上記メモリは、上記起伏角度及び上記ワイヤの繰り出し長さから上記変位距離を算出する関数を生成するクラスを記憶しており、
上記メモリから読み出した上記指定値を用いて上記クラスから上記関数を生成する請求項1から8のいずれかに記載のコントローラ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のコントローラを備えるブーム装置。
【請求項11】
請求項10に記載のブーム装置と、
上記ブーム装置を搭載する走行体と、を備えたクレーン車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブーム及びウインチを有するブーム装置を制御するコントローラ、ブーム装置、並びに当該ブーム装置を備えたクレーン車に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーン車は一般にブーム装置を搭載している(特許文献1参照)。特許文献1に開示されたブーム装置は、伸縮可能なブーム、ブーム駆動部、ワイヤが巻回されたワイヤドラムを有するウインチ、ウインチ駆動部、上記ワイヤの先端に設けられた吊荷用フック、及びフック固定環を備えている。ブームは、旋回台に起伏可能に支持されている。ブーム駆動部は、ブームを伸縮及び起伏させる。上記ワイヤは、ワイヤドラムから引き出されてブームの先端に巻き掛けられ、当該ワイヤの端部に吊荷用フックが設けられている。ウインチ駆動部はウインチを駆動し、上記ワイヤは、ワイヤドラムに巻き取られ、或いはワイヤドラムから繰り出される。フック固定環は旋回台に設けられており、クレーン走行時(非作業時)に、上記吊荷用フックはフック固定環に掛けられ、固定される。
【0003】
特許文献1に開示されたブーム装置は、作業終了時のブーム格納作業、作業開始時のブーム展開作業を安全に行うため、ブーム駆動部及びウインチ駆動部を制御する制御装置を備える。この制御装置は、ブームの格納作業において、ウインチ駆動部の駆動を制御する。具体的には、格納作業において、作業者は、まず、ブームを縮小且つ起立させ、吊荷用フックをフック固定環に掛ける。次に、作業者は、ブーム駆動装置を操作してブームを倒伏させる。制御装置は、ワイヤが弛まないように、ブームの倒伏に合わせてウインチ駆動部を自動制御しつつワイヤを巻き取る。
【0004】
制御装置は、ワイヤの長さを検出するセンサが検出したワイヤ長さSと、起伏角センサが検出したブームの起伏角θとに基づき、これらが理想的な対応関係D(ワイヤが弛み過ぎず、張り過ぎず)となるように、ウインチの駆動を制御する。この理想的な対応関係Dは、実機による実験やシミュレーションによって求められ、予め記憶部に記憶される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
理想的な対応関係Dは、縮小状態におけるブームの長さ、ワイヤが巻き架けられる先端位置、起伏支点の位置や、フック固定環の位置などによって構成されるジオメトリにより変化する。そうすると、ブーム装置の種類ごとに固有の理想的な対応関係Dが決定され、制御装置は、種々のブーム装置ごとに設計されなければならない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ブームを自動で格納或いは起立させることができ、かつ、種々のブーム装置に共通で使用可能なコントローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係るコントローラは、台座と、当該台座に支持され、倒伏位置と起立位置との間で起伏動作可能なブームと、ワイヤドラムに巻き取られ、上記ブームの先端部に巻きかけられたワイヤを有するウインチと、上記ワイヤの先端に設けられた吊荷用フックと、上記ブームを起伏させる第1駆動源と、上記ウインチを駆動し、上記ワイヤを上記ワイヤドラムに対して繰り出し或いは巻き取る第2駆動源と、上記台座に設けられ、上記起立位置にある上記ブームの先端部から吊り下げられた上記吊荷用フックが着脱自在に係合する係合部材と、上記ブームの起伏角度を検出する起伏角センサと、上記ブームの先端部からの上記ワイヤの繰り出し長さを検出する長さセンサと、を備えるブーム装置に用いられる。本発明に係るコントローラは、上記ブームの長さ及び上記ブームの起伏の支点に対する上記係合部材の位置に応じた指定値を記憶するメモリを有する。本発明に係るコントローラは、上記起伏角センサが検出した上記ブームの起伏角度と、上記メモリから読み出した上記指定値と、に基づいて、上記ブームの先端部から上記係合部材までの変位距離を算出し、当該変位距離が、上記長さセンサが検出した長さに応じた距離となるように、或いは、算出した前記変位距離に基づいて前記ワイヤの繰り出し或いは巻き取り速度であるワイヤ速度を算出し、算出したワイヤ速度が、前記長さセンサの検出値から算出した検出ワイヤ速度に応じた速度となるように、上記吊荷用フックが上記係合部材と係合した状態で、上記倒伏位置と上記起立位置との間で上記ブームを起伏させつつ上記ウインチを駆動させるブーム自動駆動処理を実行する。
【0009】
コントローラは、ブーム自動駆動処理を実行することにより、ブームを起こす作業、或いは、ブームを格納する作業を自動で行うことができる。したがって、ブームを起こす作業或いはブームを格納する作業において、作業者の作業が容易になる。また、コントローラは、ブームの先端部から係合部材までの変位距離を算出し、算出した変位距離が、長さセンサが検出した長さに応じた距離となるように、或いは、算出した変位距離に基づいて算出したワイヤ速度が、長さセンサの検出値から算出した検出ワイヤ速度に応じた速度となるように、ブームを起伏させつつウインチを駆動させる。したがって、コントローラは、ワイヤに弛みが生じることを抑制でき、また、ブーム装置に破損等が生じることを抑制することができる。さらにまた、コントローラは、メモリに記憶されたブームの長さ及びブームの起伏の支点に対する係合部材の位置に応じた指定値に基づいてブームの先端部から係合部材までの変位距離を算出するので、ブーム装置の種類によって、メモリから読み出される指定値が変更されることにより、種々のブーム装置に共通してコントローラを使用することができる。
【0010】
(2) 上記第1駆動源は、伸縮するシリンダであってもよい。本発明に係るコントローラは、上記ブーム自動駆動処理において、上記シリンダの伸縮速度を一定に保つ。
【0011】
コントローラは、シリンダの伸縮速度を一定に保ってブームを起伏させるので、変位距離に応じて駆動を制御する対象を第2駆動源に限定することができる。その結果、コントローラによるブーム装置の制御が容易になる。また、シリンダが一定速度で伸縮されるので、作業者が容易に視認可能なブームの起伏速度が小刻みに変動することがなく、作業者に安心感を与えることができる。
【0012】
(3) 本発明に係るコントローラは、上記ブーム自動駆動処理において、起伏する上記ブームの角速度を一定に保ってもよい。
【0013】
コントローラは、ブームの起伏の角速度を一定に保ってブームを起伏させるので、変位距離に応じて駆動を制御する対象を第2駆動源に限定することができる。その結果、コントローラによるブーム装置の制御が容易になる。また、ブームの角速度が一定に保たれるので、変位距離に応じてブームの角速度が小刻みに変動する場合に比べ、作業者に安心感を与えることができる。
【0014】
(4) 本発明に係るコントローラは、上記ブーム自動駆動処理において、上記ウインチの回転速度を一定に保ってもよい。
【0015】
コントローラは、ウインチの回転速度を一定に保つので、変位距離に応じて駆動を制御する対象を第1駆動源に限定することができる。その結果、コントローラによるブーム装置の制御が容易になる。
【0016】
(5) 上記ブーム装置は、上記ワイヤに加わる張力を検出する張力センサをさらに備えていてもよい。上記メモリは、上記変位距離と、上記長さセンサが検出した上記ワイヤの繰り出し長さとの差の許容範囲を決める閾値を予め記憶する。上記コントローラは、上記ブーム自動駆動処理において、上記変位距離と、上記長さセンサが検出した長さとの差が、上記閾値内になるように、上記倒伏位置と上記起立位置との間で上記ブームを起伏させつつ上記ウインチを駆動させる。上記張力センサが検出した張力の大きさに応じて、上記閾値を補正する。
【0017】
例えば、張力センサが検出した張力が大き過ぎる場合、張力が小さくなるように閾値が補正される。また、張力センサが検出した張力が小さ過ぎる場合、閾値が大きくなるように閾値が補正される。
【0018】
(6) 本発明に係るコントローラは、上記変位距離と、上記ワイヤの繰り出し長さとの差が安全値の範囲内であるか否かを判断する判断処理と、上記変位距離と上記繰り出し長さとの差が安全値の範囲内でないと判断したことに応じて、上記第1駆動源及び上記第2駆動源の駆動を停止させる駆動停止処理と、をさらに実行してもよい。
【0019】
コントローラは、変位距離と繰り出し長さとの差が安全値の範囲内でないと判断したことに応じて、第1駆動源及び第2駆動源の駆動を停止させる。すなわち、ウインチによるワイヤの巻き取りに不具合が生じた場合、ブームの起伏及びウインチの回転が停止される。その結果、ブーム装置やワイヤに支障が生じることが抑制される。
【0020】
(7) 上記指定値は、上記ブームの長さと、上記ブームの起伏の支点と上記係合部材との間の離間距離と、であってもよい。
【0021】
(8) 上記指定値は、上記ブームの長さと、上記ブームの起伏の支点と上記係合部材との間の水平方向における第1離間距離と、上記ブームの起伏の支点と上記係合部材との間の垂直方向における第2離間距離と、であってもよい。
【0022】
(9) 上記メモリは、上記起伏角度及び上記ワイヤの繰り出し長さから上記変位距離を算出する関数を生成するクラスを記憶していてもよい。本発明に係るコントローラは、上記メモリから読み出した上記指定値を用いて上記クラスから上記関数を生成する。
【0023】
コントローラは、クラスを用いて関数を生成する。したがって、コントローラは、ブーム装置の種類に応じた関数を容易に生成することができる。
【0024】
(10) 本発明は、上述のコントローラを備えたブーム装置として捉えることもできる。
【0025】
(11) 本発明は、上述のコントローラを備えたブーム装置と、当該ブーム装置が搭載された走行体と、を備えたクレーン車として捉えることもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ブームを自動で格納或いは起立させることができ、かつ、種々のブーム装置に共通で使用可能なコントローラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るクレーン車10の概略図であって、ブーム32が格納位置にある状態を示す図である。
【
図2】
図2は、ブーム42が起立位置にある状態のクレーン車10を示す図である。
【
図3】
図3は、クレーン車10の機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、ブーム起こし処理のフローチャートである。
【
図5】
図5は、ブーム格納処理のフローチャートである。
【
図6】
図6は、変位距離X(θ)を説明する説明図である。
【
図7】
図7は、変位距離X(θ)を説明する他の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態が、適宜図面が参照されつつ説明される。なお、本実施形態は、本発明の一態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは、言うまでもない。
【0029】
図1は、本実施形態に係るクレーン車10を示す模式図である。クレーン車10は、走行体11と、走行体11に搭載されたブーム装置12と、キャビン13と、を主に備える。
【0030】
走行体11は、車体20と、車軸21と、エンジン22(
図4)と、バッテリ23(
図4)と、を備える。
【0031】
車体20は、車軸21を回転可能に支持している。車輪が、車軸21の両端に取り付けられている。エンジン22は、車軸21を回転駆動する。また、エンジン22は、バッテリ23を充電する。
【0032】
また、エンジン22は、後述の油圧供給装置24が備える不図示の油圧ポンプを駆動させる。油圧ポンプは、所定圧力の作動油を吐出し、
図4が示す旋回モータ25、起伏シリンダ36、伸縮シリンダ37、及び油圧モータ38や、その他のアクチュエータ(以下、旋回モータ25等とも記載する)を駆動する。
【0033】
車体20は、
図4が示す油圧供給装置24を搭載している。油圧供給装置24は、電磁弁などを備えている。電磁弁は、後述のコントローラ50(
図4)から入力される駆動信号によって開閉される。電磁弁が開閉されることにより、旋回モータ25等が駆動される。すなわち、コントローラ50は、電磁弁を開閉させる駆動信号を出力することにより、旋回モータ25等の駆動を制御する。なお、本実施形態では、旋回モータ25等が油圧アクチュエータである例が説明されるが、旋回モータ25等の全部或いは一部は、電動アクチュエータなどであってもよい。
【0034】
キャビン13は、
図1が示すように、ブーム装置12の旋回台31に搭載されている。キャビン13は、クレーン車10の運転を行う運転装置14(
図3)と、ブーム装置12の操縦を行う操縦装置15(
図3)と、を有する。すなわち、クレーン車10は、いわゆるラフテレーンクレーンであって、クレーン車10の運転及びブーム装置12の操縦が1つのキャビン13で行われる。但し、クレーン車10は、運転装置14を有するキャビンと、操縦装置15を有するキャビンとの2つのキャビンを備えたオールテレーンクレーンであってもよい。
【0035】
操縦装置15は、ブーム装置12を操作する操作レバーや操作ボタン等を有する。操縦装置15は、操作レバーの操作の向きや操作量を示す操作信号や、操作ボタンの操作の有無を示す操作信号を出力する。操縦装置15が出力した操作信号は、コントローラ50(
図3)に入力される。
【0036】
また、キャビン13は、不図示の制御ボックスを有する。制御ボックスは、制御基板を備える。制御基板は、マイクロコンピュータや抵抗やコンデンサやダイオードや種々のICを実装されており、
図3が示すコントローラ50及び電源回路17を構成している。
【0037】
ブーム装置12は、
図1が示すように、車体20に旋回可能に支持された旋回台31と、旋回台31に支持されたブーム32と、を備える。ブーム32は、基端ブーム33、単一又は複数の中間ブーム34、及び先端ブーム35を有する。基端ブーム33、中間ブーム34、及び先端ブーム35は、入れ子状に配置されており、ブーム32は、伸縮可能である。また、基端ブーム33は、旋回台31に起伏可能に支持されている。すなわち、ブーム32は、起伏可能、かつ、伸縮可能である。旋回台31は、本発明の請求項の「台座」に相当する。
【0038】
ブーム32は、
図1に示される縮小状態と、不図示の拡張状態との間で伸縮される。また、ブーム32は、
図1に示される倒伏位置と、
図2に示される起立位置との間で起伏する。クレーン車10は、ブーム32を縮小状態かつ倒伏位置にした格納状態で走行される。
【0039】
図3が示すように、ブーム装置12は、旋回モータ25と、ブーム32を起伏させる起伏シリンダ36と、ブーム32を伸縮させる伸縮シリンダ37と、をさらに備える。
【0040】
旋回モータ25は、車体20に設けられている。旋回モータ25は、上述の油圧供給装置24から作動油を供給されて回転し、旋回台31を旋回させる。
【0041】
起伏シリンダ36は、旋回台31に設けられている。伸縮シリンダ37は、ブーム32に設けられている。起伏シリンダ36及び伸縮シリンダ37は、油圧供給装置24から作動油を供給され、伸縮する。伸縮する起伏シリンダ36は、ブーム32を起伏させる。伸縮する伸縮シリンダ37は、ブーム32を伸縮させる。なお、不図示のスイベルジョイントが、車体20と旋回台31との間に設けられている。車体20に設けられた油圧供給装置24は、スイベルジョイントを通じて起伏シリンダ36及び伸縮シリンダ37に作動油を供給する。起伏シリンダ36は、本発明の請求項の「第1駆動源」及び「シリンダ」に相当する。
【0042】
ブーム装置12は、油圧モータ38、ウインチ39、吊荷用フック40、及び係合部材41をさらに備える。油圧モータ38は、油圧供給装置24から上記スイベルジョイントを介して作動油を供給され、回転する。油圧モータ38の回転速度は、コントローラ50によって制御される。回転する油圧モータ38は、ウインチ39が有するワイヤドラム29を回転させる。回転するワイヤドラム29は、ワイヤ42を巻き取り、或いは、ワイヤ42を繰り出す。油圧モータ38は、本発明の請求項の「第2駆動源」に相当する。
【0043】
ワイヤ42は、吊荷用フック40と繋がれている。吊荷用フック40は、ブーム32の先端からワイヤ42によって吊下される。吊荷用フック40は、ウインチ39が回転することによって昇降する。
【0044】
係合部材41は、吊荷用フック40と係合して吊荷用フック40を固定する部材である。係合部材41は、旋回台31に固定されている。係合部材41は、起立位置にあり、且つ縮小された状態のブーム32の先端の直下に位置する。係合部材41は、クレーン車10の走行中において吊荷用フック40が移動しないように、吊荷用フック40を固定する。
【0045】
ブーム32は、ワイヤ42の繰り出し長さを検出する長さセンサ26と、ブーム32の起伏角度を検出する起伏角センサ27と、をさらに備える。なお、
図3が示す張力センサ28は、変形例において説明される。
【0046】
長さセンサ26及び起伏角センサ27は、後述のブーム起こし処理及びブーム格納処理に用いられる。
【0047】
長さセンサ26は、例えば、ウインチ39の回転量を検出するロータリエンコーダである。長さセンサ26は、ウインチ39の回転に応じて電圧値が変化するパルス信号を出力する。長さセンサ26は、ケーブルなどの信号線によってコントローラ50と接続されている。コントローラ50は、長さセンサ26から入力するパルス数によって、ワイヤ42の繰り出し長さを算出する。但し、ワイヤ42の繰り出し長さを検出可能であれば、どのような種類のセンサが長さセンサ26に用いられてもよい。
【0048】
ブーム32の起伏角度に応じた電圧値を出力する光学式や磁気式の既存のセンサや、ロータリエンコーダが、起伏角センサ27として用いられる。起伏角センサ27は、ケーブルなどの信号線によってコントローラ50と接続されている。コントローラ50は、起伏角センサ27が出力した信号電圧に基づいて、ブーム32の起伏角度を算出する。例えば、コントローラ50は、格納位置におけるブーム32の位置を基準として、ブーム32の起伏角度を算出する。以下では、コントローラ50が算出したブーム32の起伏角度を「検出起伏角度」とも記載する。
【0049】
電源回路17は、コントローラ50等に供給する電力を生成する回路である。電源回路17は、例えばDC-DCコンバータである。電源回路17は、バッテリ23から供給された直流電圧を、安定した所定の電圧値の直流電圧に変換して出力する。
【0050】
コントローラ50は、中央演算処理装置であるCPU51と、メモリ52と、を備える。メモリ52は、例えば、ROM、RAM、EEPROM等によって構成されている。
【0051】
メモリ52は、オペレーティングシステムであるOS53と、ブーム装置12の駆動を制御する制御プログラム54と、指定値と、第1閾値と、第2閾値と、安全値と、を記憶している。OS53及び制御プログラム54は、いわゆるマルチタスク処理により、疑似的に並行してCPU51によって実行される。
【0052】
指定値は、
図6に示される「L」、「D」、「φ」である。「L」は、ブーム32の基端から先端までの長さである。ブーム32の基端は、ブーム32の起伏の支点Pの位置である。ブームの先端は、例えば、ワイヤ42が架け回された部材の取付位置である。「D」は、ブーム32の起伏の支点Pから吊荷用フック40までの距離である。「φ」は、ブームの32の起伏の支点Pを基準とした吊荷用フック40の俯角である。指定値は、ブーム装置12の種類に応じて、予めメモリ52に記憶される。「D」は、本発明の請求項の「離間距離」に相当する。
【0053】
第1閾値、第2閾値、及び安全値は、後述のブーム起こし処理及びブーム格納処理における判断処理に用いられる。詳しくは後述される。第1閾値及び第2閾値は、本発明の請求項の「閾値」に相当する。
【0054】
なお、CPU51、メモリ52、上述の長さセンサ26、及び起伏角センサ27等は、不図示の通信バスに接続されている。CPU51によって実行される制御プログラム54は、通信バスを通じて、メモリ52から関数や第1閾値や第2閾値を読み出し、長さセンサ26や起伏角センサ27が出力した検出信号の入力を受け付け、情報やデータをメモリ52に書き込んで記憶させる。
【0055】
制御プログラム54は、クラスを有する。すなわち、クラスは、メモリ52に記憶されている。クラスは、インスタンス(オブジェクト)を生成するものである。具体的には、クラスは、メモリ52に記憶された指定値を与えられることにより、インスタンスとして、関数X(θ)を生成する。関数X(θ)は、ブーム32の検出起伏角度θを用いて、ブーム32の先端から吊荷用フック40までの距離である変位距離X(θ){θ:検出起伏角度}を算出する計算式である。制御プログラム54は、変位距離X(θ)と、センサ26が検出したワイヤ42の繰り出し長さSとの差が第1閾値以上第2閾値未満となるように、ブーム装置12の駆動をフィードバック制御する。詳しくは後述する。なお、関数X(θ)を生成する手法は、クラスを用いたものに限られない。指定値に基づいて関数X(θ)を生成可能であれば、他の手法が用いられてもよい。
【0056】
制御プログラム54は、格納状態(
図1)で格納されたブーム32を起立位置(
図2)まで自動で起立させるブーム起こし処理と、起立位置にあるブーム32を格納状態まで自動で倒伏させてブーム32を格納するブーム格納処理と、を実行するプログラムである。ブーム起こし処理は、ブーム自動駆動処理の一例である。ブーム格納処理は、ブーム自動駆動処理の一例である。
【0057】
詳しく説明すると、クレーン車10が作業現場に到着した後、作業者は、ブーム起こし処理を制御プログラム54に実行させる。すなわち、ブーム起こし処理は、作業現場においてクレーン車10が作業を開始するために実行される処理である。
【0058】
作業者は、クレーン車10を走行させて作業現場から離れるため、ブーム格納処理を制御プログラム54に実行させる。すなわち、ブーム格納処理は、作業現場においてクレーン車10が作業を終了させるために実行される処理である。
【0059】
ブーム起こし処理は、従来、作業者が操縦装置15を用いて手動で行っていたブーム32を起こす作業を制御プログラム54が自動で行う処理である。ブーム格納処理は、従来、作業者が操縦装置15を用いて手動で行っていたブーム32を格納する作業を制御プログラム54が自動で行う処理である。以下、ブーム起こし処理及びブーム格納処理について、
図4及び
図5を参照して詳しく説明する。なお、制御プログラム54が、ブーム起こし処理及びブーム格納処理において実行する各ステップの実行順序は、本発明の要旨を変更しない範囲において、変更されてもよい。
【0060】
作業者は、クレーン車10が作業現場に到着した後、操縦装置15を用いて、ブーム起こし処理の実行を指示する操作を行う。なお、
図1が示すように、クレーン車10が作業現場に到着した状態において、ブーム32は、縮小かつ倒伏されており、かつ、吊荷用フック40は、係合部材41に固定されている。ブーム起こし処理において吊荷用フック40が移動しないように、吊荷用フック40が係合部材41に固定されたまま、ブーム起こし処理が実行される。
【0061】
制御プログラム54は、操縦装置15から、ブーム起こし処理の実行を指示する操作信号が入力されたことに応じて、
図4が示すブーム起こし処理の実行を開始する。まず、制御プログラム54は、起伏シリンダ36を一定速度で伸長させる(S11)。或いは、制御プログラム54は、ブーム32が一定の角速度(dθ/dt=一定)で起こされるように、起伏シリンダ36を伸長させる。詳しく説明すると、制御プログラム54がフィードバック制御の対象とする駆動系が2つあると、制御が複雑になる。制御プログラム54は、制御を容易にするため、起伏シリンダ36を一定速度或いは一定の角速度で伸長させる。起伏シリンダ36が一定速度、一定の角速度で伸長されることにより、ブーム32が徐々に起き上がる。
【0062】
次に、制御プログラム54は、ウインチ39を初期回転速度V1で回転駆動させる(S12)。ウインチ39の回転の向きは、ワイヤ42が繰り出される向きである。すなわち、ブーム32が徐々に起き上がりつつ、ワイヤ42が徐々に繰り出される。
【0063】
次に、制御プログラム54は、指定値L、D、φをメモリ52から読み出し、読み出した指定値と、メモリ52に記憶されたクラスとを用いて、インスタンスである関数X(θ)を生成する(S13)。そして、制御プログラム54は、生成した関数X(θ)を時間tで微分し、関数X(θ)の時間変化、すなわち、ワイヤ42の繰り出し速度V(t)を算出する。なお、関数X(θ)の微分は、オペアンプを用いた微分回路で行われてもよい。
【0064】
関数X(θ)を時間tで微分したd(X(θ))/dtを
図6に示す。図における「dθ/dt」は、ブーム32の起伏角θの時間変化、すなわち、ブーム32の角速度である。制御プログラム54がブーム32を一定の角速度で起こす場合、図における「dθ/dt」は、定数となる。定数である「dθ/dt」は、メモリ52に予め記憶される。また、制御プログラム54が起伏シリンダ36を一定速度で伸長させる場合も、「dθ/dt」は、メモリ52に予め記憶され、或いは制御プログラム54によって算出される。制御プログラム54は、メモリ52に記憶された、或いは算出した「dθ/dt」を用いて、ワイヤ42の繰り出し速度V(t)を算出する。
【0065】
次に、制御プログラム54は、長さセンサ26から入力した検出信号に基づいて、ワイヤ42の繰り出し速度dS/dtを算出する(S15)。例えば、制御プログラム54は、単位時間ごとに、長さセンサ26が出力した検出信号を取得し、取得した検出信号が示すワイヤ42の長さの差分を算出する。当該差分は、単位時間当たりのワイヤ42の長さ、すなわち、ワイヤ42の繰り出し速度dS/dtである。制御プログラム53は、上記差分を算出することにより、ワイヤ42の実際の繰り出し速度dS/dtを算出する。
【0066】
そして、制御プログラム54は、演算値として算出したワイヤ42の繰り出し速度V(t)と、ワイヤ42の実際の繰り出し速度dS/dtとの差Z=「V(t)-dS/dt」を算出し、算出したZが第1閾値未満であるか否かを判断する(S16)。すなわち、ステップS16では、ワイヤ42の繰り出し速度が速すぎるか否かが判断される。
【0067】
制御プログラム54は、Zが第1閾値未満であると判断すると(S16:Yes)、すなわち、ワイヤ42の繰り出し速度が速すぎると判断すると、ウインチ39の回転速度を低下させる(S17)。具体的には、制御プログラム54は、Zの値の大きさに応じて油圧モータ38の回転速度を初期値V1から低下させる。一方、制御プログラム54は、Zが第1閾値以上であると判断すると(S16:No)、ステップS17の処理をスキップする。
【0068】
次に、制御プログラム54は、Zの値が第2閾値以上か否かを判断する(S18)。すなわち、ステップS18では、ワイヤ42の繰り出し速度が遅すぎるか否かが判断される。
【0069】
制御プログラム54は、Zの値が第2閾値以上であると判断すると(S18:Yes)、すなわち、ワイヤ42の繰り出し速度が遅すぎると判断すると、ウインチ39の回転速度を増加させる(S19)。具体的には、制御プログラム54は、Zの値の大きさに応じて油圧モータ38の回転速度を初期値V1から増加させる。一方、制御プログラム54は、Zの値が第2閾値未満であると判断すると(S18:No)、ステップS19の処理をスキップする。
【0070】
第1閾値及び第2閾値は、ブーム32が徐々に起き上がりつつ、ワイヤ42が徐々に繰り出される過程において、ワイヤ42に加わる張力Tが所定の値未満となり、かつ、ワイヤ42が弛まないような値にされる。すなわち、制御プログラム54は、ワイヤ42に加わる張力Tが所定の値未満となり、かつ、ワイヤ42が弛まないように、起伏シリンダ36及び油圧モータ38をフィードバック制御する。
【0071】
次に、制御プログラム54は、Zの絶対値が、メモリ52に記憶された安全値未満であるか否かを判断する(S20)。安全値は、第1閾値や第2閾値よりも大きな値である。すなわち、ステップS20では、ウインチ39において、ワイヤ42の繰り出しに不具合が生じたか否か、或いは、ウインチ39の回転に不具合が生じたか否かが判断される。ステップS20の処理は、本発明の請求項の「判断処理」に相当する。
【0072】
制御プログラム54は、Zの絶対値が、メモリ52に記憶された安全値以上であると判断すると(S20:No)、起伏シリンダ36及び油圧モータ38の駆動を停止させる(S21)。すなわち、制御プログラム54は、ブーム32及びウインチ39を停止させる。そして、制御プログラム54は、報知処理を実行する(S22)。例えば、制御プログラム54は、スピーカから警告音を出力させ、或いは、操縦装置15に設けたモニタに警告画面を表示させる。ステップS21の処理は、本発明の請求項の「駆動停止処理」に相当する。
【0073】
次に、制御プログラム54は、検出起伏角度θがα以上であるか否かを判断する(S23)。αは、ブーム32が起立位置にあるときのθの値であって、メモリ52に予め記憶される。すなわち、ステップS23では、ブーム32が起立位置に到達したか否かが判断される。制御プログラム54は、ブーム32が起立位置に到達して検出起伏角度θがαに到達するまで(S23:No)、ステップS16からS20までの処理を繰り返し実行する。
【0074】
制御プログラム54は、ブーム32が起立位置に到達して検出起伏角度θがαに到達したと判断すると(S23:Yes)、起伏シリンダ36及び油圧モータ38の駆動を停止させ(S24)、ブーム起こし処理を終了する。
【0075】
次に、
図5を参照して、ブーム格納処理について説明する。なお、ブーム起こし処理と同じ処理については、ブーム起こし処理に付されたステップ番号と同一のステップ番号を付して説明が省略される。
【0076】
作業者は、クレーン車10の作業を終了させる場合、まず、操縦装置15を用いて、
図2が示すように、ブーム32を縮小状態にし、かつ、ブーム32を起立位置にする。そして、作業者は、吊荷用フック40を係合部材41に係合させて、吊荷用フック40を係合部材41で固定する。その後、作業者は、操縦装置15を用いて、ブーム格納処理の実行を指示する操作を行う。
【0077】
制御プログラム54は、操縦装置15から、ブーム格納処理の実行を指示する操作信号が入力されたことに応じて、
図5が示すブーム格納処理の実行を開始する。まず、制御プログラム54は、起伏シリンダ36を一定速度で収縮させる(S31)。起伏シリンダ36が一定速度で収縮されることにより、ブーム32が徐々に倒伏する。
【0078】
次に、制御プログラム54は、ウインチ39を初期回転速度V2で回転駆動させる(S32)。ウインチ38の回転の向きは、ワイヤ42を巻き取る向きである。すなわち、ブーム32が徐々に倒伏しつつ、ワイヤ42が徐々に巻き取られる。なお、初期回転速度V2は、初期回転速度V1と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0079】
次に、制御プログラム54は、ブーム起こし処理と同様に、ステップS13からS22までの処理を実行する。すなわち、制御プログラム54は、ワイヤ42に加わる張力Tが所定の値未満となり、かつ、ワイヤ42が弛まないようにフィードバック制御を行って、ブーム32を徐々に倒伏させつつ、ワイヤ42を徐々に巻き取る。
【0080】
次に、制御プログラム54は、検出起伏角度θがβ以下であるか否かを判断する(S33)。βは、ブーム32が倒伏位置にあるときのθの値であって、メモリ52に予め記憶される。βは、例えば「0」である。すなわち、ステップS33では、ブーム32が倒伏位置に到達したか否かが判断される。制御プログラム54は、ブーム32が倒伏位置に到達して検出起伏角度θがβに達するまで(S33:No)、ステップS16からS20までの処理を繰り返し実行する。
【0081】
制御プログラム54は、ブーム32が倒伏位置に到達して検出起伏角度θがβに到達したと判断すると(S33:Yes)、起伏シリンダ36及び油圧モータ38の駆動を停止させ(S24)、ブーム格納処理を終了する。
【0082】
[実施形態の作用効果]
【0083】
本実施形態では、制御プログラム54がブーム起こし処理及びブーム格納処理を実行することにより、ブーム32を起こす作業と、ブーム32を格納する作業とを自動で行うことができる。したがって、ブーム32を起こす作業と、ブーム32を格納する作業とにおいて、作業者の作業が容易になり、ウインチ39において、いわゆる「乱巻き」が生じることを抑制でき、さらに、ブーム装置12に破損等が生じることを抑制することができる。詳しく説明すると、ブーム32を起こす作業と、ブーム32を格納する作業とを手動で行う場合、作業者は、ブーム32と、ウインチ39との2つの操作対象を操作しなければならない。すなわち、作業者は、ブーム32を起伏させつつ、ワイヤ42の張り具合を監視しながら、ウインチ39を操作する。この作業は、作業者の熟練の技術を必要とする。作業者が操作を誤ると、ワイヤ42に過度な張力が作用し、係合部材41やウインチ39が破損するおそれが生じる。また、作業者が操作を誤ると、ワイヤ42が弛み、ウインチ39において、いわゆる「乱巻き」が生じる。本実施形態では、制御プログラム54がブーム起こし処理及びブーム格納処理を実行することにより、作業者の作業が容易になり、ウインチ39において、いわゆる「乱巻き」が生じることを抑制でき、さらに、ブーム装置12に破損等が生じることを抑制することができる。
【0084】
また、制御プログラム54は、メモリ52に記憶された指定値を用いて関数X(θ)を生成し、生成した関数(θ)を用いて、ブーム32の先端部から係合部材41までの変位距離X(θ){θ:検出起伏角度}を算出する。そして、制御プログラム54は、算出した変位距離X(θ)を用いてフィードバック制御を行う。したがって、ブーム装置12の種類によって、メモリ52から読み出される指定値を変更することにより、種々のブーム装置12に共通してコントローラ50を使用することができる。その結果、汎用性の高いコントローラ50を実現することができる。
【0085】
また、本実施形態では、制御プログラム54は、起伏シリンダ36を一定速度で伸縮させるので(S11、S31)、フィードバック制御の対象をウインチ39の油圧モータ38に限定することができる。その結果、制御プログラム54によるブーム装置12の制御が容易になる。また、作業者が容易に視認可能なブーム32において、起伏速度が小刻みに変動すると、作業者に不安を生じさせるおそれがある。本実施形態では、起伏シリンダ36が一定速度で伸縮されるので、ブーム32の起伏速度が小刻みに変動することがなく、作業者に安心感を与えることができる。
【0086】
また、本実施形態では、制御プログラム54は、変位距離X(θ)とワイヤ42の繰り出し長さSとの差の絶対値が安全値以上であると判断したことに応じて、ブーム32及びウインチ39を停止させる。したがって、ブーム装置12に故障が生じたり、ワイヤ42にダメージが生じることが抑制される。
【0087】
また、本実施形態では、制御プログラム54は、メモリ52から読み出した指定値L、D、φとクラスとを用いて関数X(θ)を生成し、生成した関数X(θ)を用いて変位距離X(θ){θ:検出起伏角度}を算出する。したがって、ステップS14において、メモリ52から指定値L、D、φを読み出さなくても、変位距離X(θ)を算出することができる。したがって、メモリ52から指定値L、D、φを読み出す回数を低減することができる。その結果、ステップS14からS19までの処理が速くなる。処理が速くなるので、メモリ52から指定値L、D、φを逐次読み出して変位距離X(θ)を算出する場合に比べ短い時間でフィードバック制御を行うことができる。その結果、ウインチ39において、いわゆる「乱巻き」が生じることをさらに抑制でき、また、ブーム装置12に破損等が生じることをさらに抑制することができる。
【0088】
[変形例]
【0089】
本変形例では、ワイヤ42に加わる張力Tを検出し、検出した張力Tに基づいて、第1閾値や第2閾値を補正する例を説明する。
【0090】
ブーム装置12は、
図3が示す張力センサ28をさらに備える。張力センサ28は、ワイヤ42に加わる張力Tに応じた電圧値の検出信号を出力するセンサである。張力センサ28は、例えば、ロードセルである。
【0091】
張力センサ28は、ケーブルなどの信号線によってコントローラ50と接続されている。張力センサ28が出力した検出信号は、コントローラ50に入力される。コントローラ50は、張力センサ28から入力した検出信号により、ワイヤ42に加わる張力Tを決定する。そして、コントローラ50は、決定した張力Tに基づいて、メモリ52に記憶された第1閾値や第2閾値を補正或いは再決定する。具体的には、メモリ52は、張力Tから第1閾値や第2閾値を補正する補正式や、張力Tと第1閾値、及び、張力Tと第2閾値とが対応付けられた対応テーブルを予め記憶する。コントローラ50は、決定した張力Tと、上記補正式とを用いて、或いは、決定した張力Tと、上記対応テーブルとを用いて、第1閾値及び第2閾値を補正或いは再決定する。なお、第1閾値及び第2閾値を再決定することも、第1閾値及び第2閾値の補正に含まれる。
【0092】
例えば、張力センサ28が検出した張力Tが、メモリ52に記憶された第1判断値よりも大きい場合、第2閾値が小さくなるように、第2閾値が補正或いは再決定される。第2閾値が小さくなることにより、ワイヤ42に加わる張力Tが低減する。また、張力センサ28が検出した張力Tが、メモリ52に記憶された第2判断値より小さくて、ワイヤ42が十分な張力で張られていない場合、第1閾値が大きくなるように、第1閾値が補正或いは再決定される。第1閾値が大きくなることにより、ワイヤ42が適度な張力Tで張られる。
【0093】
コントローラ50は、補正或いは再決定した第1閾値及び第2閾値を用いて、ステップS16やステップS18の判断処理を実行する。その他の処理は、実施形態と同じである。
【0094】
[変形例の作用効果]
【0095】
本変形例では、張力センサ28が検出したワイヤ42の張力によって第1閾値及び第2閾値を補正することにより、ワイヤ42に加わる張力Tの大きさを、さらに適切に制御することができる。
【0096】
[その他の変形例]
【0097】
上述の実施形態では、指定値が「L」、「D」、「φ」である例が説明された。しかしながら、指定値は、「L」、「D」、「φ」に限られない。指定値は、
図7に示されるように、「L」、「φ」、「a」、「b」であってもよい。指定値「D」は、指定値「a」、「b」に置き換えられる。具体的には、「Dの二乗」=「aの二乗」+「bの二乗」として、「D」が「a」、「b」に置き換えられる。「a」は、本発明の請求項の「第1離間距離」に相当する。「b」は、本発明の請求項の「第2離間距離」に相当する。
【0098】
上述の実施形態及び変形例では、「φ」が指定値に含まれる例が説明された。しかしながら、起伏角度θを、係合部材42からの仰角として、「φ」を指定値から外すこともできる。すなわち、θ+φを新たなθとして、「φ」が指定値から外される。
【0099】
上述の実施形態では、ステップS11、S31において、起伏シリンダ36が一定速度で伸縮される例が説明された。しかしながら、ブーム32が一定速度で起伏するように、起伏シリンダ36の駆動が制御されてもよい。
【0100】
上述の実施形態では、起伏シリンダ36が一定速度で伸縮され、ウインチ39の油圧モータ38がフィードバック制御される例が説明された。しかしながら、ウインチ39が一定の回転速度で回転され、ブーム32の起伏シリンダ36がフィードバック制御されてもよい。
【0101】
上述の実施形態では、ワイヤ42の繰り出し速度と、長さセンサ26が検出したワイヤ42の実際の繰り出し速度との差Zが、第2閾値が示す範囲内となるように、ウインチ39の駆動がフィードバック制御される例を説明した。しかしながら、ワイヤ42の繰り出し長さと、長さセンサ26が検出したワイヤ42の実際の繰り出し長さとの差が、閾値範囲となるように、ウインチ39の駆動がフィードバック制御されてもよい。この場合も、ウインチ39において、いわゆる「乱巻き」が生じることを抑制でき、さらに、ブーム装置12に破損等が生じることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0102】
10・・・クレーン車
11・・・走行体
12・・・ブーム装置
26・・・長さセンサ
27・・・起伏角センサ
31・・・旋回台
32・・・ブーム
36・・・起伏シリンダ
38・・・油圧モータ
39・・・ウインチ
40・・・吊荷用フック
41・・・係合部材
42・・・ワイヤ
50・・・コントローラ
52・・・メモリ