(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 71/00 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
A01B71/00
(21)【出願番号】P 2019141763
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2021-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 潤
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-212941(JP,A)
【文献】特開2011-239741(JP,A)
【文献】特開2018-061470(JP,A)
【文献】特開2016-045198(JP,A)
【文献】実開昭51-058006(JP,U)
【文献】実開昭63-023645(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置を備え、後部に作業機を取替自在に連結可能な走行車体と、
前記走行車体に搭載され、前記走行装置および前記作業機の駆動源となるエンジンと、
前記エンジンからの動力を前記作業機へ出力可能なPTO軸と、
前記PTO軸へ伝達される動力の接続および接続解除となる入り切り動作を行うPTOクラッチと、
前記PTOクラッチの入り切り動作を切り替えるPTOスイッチと、
前記作業機の作動油の油温を検出する油温センサと、
前記走行車体の走行制御と、前記作業機の動作制御とを実行する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記油温が所定温度以上であり、かつ前記PTOスイッチが入り状態である時間を積算対象時間として積算する積算部と、
前記積算部による積算時間が所定時間に達すると、前記作業機のメンテナンスを促す報知信号を出力する報知部と、
を備えることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記油温センサは、
前記作業機を識別する識別情報を出力可能であり、
前記制御装置は、
前記識別情報毎に前記積算対象時間を積算する
ことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記油温センサは、前記作業機に設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記メンテナンスは、少なくとも作動油交換を含み、
前記走行車体は、
前記作動油交換
の時期を表示する表示装置を備える
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記積算を実行する際に、前記油温センサの検出値が100~120℃の範囲に含まれる場合、
前記積算対象時間に1よりも大きい所定の係数を掛け合わせる補正処理を行う
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記油温センサの検出値が50℃未満の場合は前記積算対象時間に加えず、検出値が50℃以上の場合に前記積算対象時間として積算する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記油温センサの検出値が120℃以上の場合、前記PTOクラッチを切る
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンからの動力を、走行車体に連結した作業機へ伝達するPTO軸と、PTO軸の回転センサと、車速センサと、作業機の負荷センサとを備え、回転センサの検出結果に基づく第1の記録方法、車速センサの検出結果に基づく第2の記録方法、負荷センサの検出結果に基づく第3の記録方法によって作業機の累積作業時間を記録可能とした作業車両がある。
【0003】
かかる作業車両において、特定した作業機の種類に応じて、上記の3つの記録方法のうちからいずれかを選択し、累積時間が所定時間に達するとメンテナンス時期であることを報知可能としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の作業車両は、記録したり処理したりするデータ量や、データを取得するために必要なセンサの数や種類が多く、車両のコストを増大させるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安価な構成でありながら、作業機の作業時間を簡便に管理することのできる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の作業車両(1)は、走行装置(5)を備え、後部に作業機(60)を取替自在に連結可能な走行車体(2)と、前記走行車体(2)に搭載され、前記走行装置(5)および前記作業機(60)の駆動源となるエンジン(E)と、前記エンジン(E)からの動力を前記作業機(60)へ出力可能なPTO軸(11)と、前記PTO軸(11)へ伝達される動力の接続および接続解除となる入り切り動作を行うPTOクラッチ(55)と、前記PTOクラッチ(55)の入り切り動作を切り替えるPTOスイッチ(25)と、前記作業機(60)の作動油の温度を検出する油温センサ(20)と、前記走行車体(2)の走行制御と、前記作業機(60)の動作制御とを実行する制御装置(40)とを備え、前記制御装置(40)は、前記油温が所定温度以上であり、かつ前記PTOスイッチ(25)が入り状態である時間を積算対象時間として積算する積算部(44)と、前記積算部(44)による積算時間が所定時間に達すると、前記作業機(60)のメンテナンスを促す報知信号を出力する報知部(45)と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の作業車両によれば、安価な構成で作業機の作業時間を簡便に管理することができる。
【0009】
請求項2に記載の作業車両によれば、請求項1に記載の効果に加え、異なる作業機を付け替えた場合でも作業機毎の作業時間を正確かつ簡便に管理することができる。
【0010】
請求項3に記載の作業車両によれば、走行車体側には油温センサを設ける必要がないので、請求項1または2に記載の効果に加え、車両本体のコストを低減することができる。
【0011】
請求項4に記載の作業車両によれば、請求項1から3のいずれかに記載の効果に加え、作動油の交換時期を把握しやすく、適切な時期に作動油を交換することができるため、作業機の寿命を延ばすことも可能となる。
【0012】
請求項5に記載の作業車両によれば、請求項1から4のいずれかに記載の効果に加え、メンテナンス時期の導出をより正確に行うことができる。
【0013】
請求項6に記載の作業車両によれば、請求項1から5のいずれかに記載の効果に加え、例えば、作動油の劣化が進んでいないにも拘わらず作動油の交換を促してしまうおそれがなくなる。
【0014】
請求項7に記載の作業車両によれば、請求項1から6のいずれかに記載の効果に加え、駆動系に異常があると判断される作業機の使用を停止することで、作業機の故障を未然に防止できるとともに、作業の安全を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る作業車両であるトラクタの概略側面図である。
【
図2】同上のトラクタの制御装置を中心とするブロック図である。
【
図3】同上のトラクタの制御装置と作業機との接続関係を示すブロック図である。
【
図4】同上のトラクタにおける作業機のメンテナンス時期検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】同上のメンテナンス時期検出処理における積算処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本願の開示する作業車両の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
まず、
図1を参照して実施形態に係る作業車両であるトラクタ1の全体構成について説明する。
図1は、トラクタ1の説明図であり、トラクタ1の概略側面図である。
【0018】
トラクタ1は、自走しながら圃場などで作業を行う農業用トラクタである。また、トラクタ1は、操縦者(作業者ともいう)が搭乗して圃場内を走行しながら所定の作業を実行することができる。
【0019】
なお、以下において、トラクタ1の前後方向とは、トラクタ1の直進方向を指す。そして、トラクタ1の前進方向とは、トラクタ1の直進方向において、操縦席8からステアリングホイール9へ向かう方向へ進むことであり、その反対を後進(後退)方向とする。また、トラクタ1の前後は、前進方向を基準とする。
【0020】
また、左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。ここでは、前後方向の「前」側へ向けて左右を規定する。すなわち、オペレータが操縦席8に着いて前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。さらに、上下方向とは、前後方向および左右方向に対して直交する方向である。したがって、前後方向、左右方向および上下方向は、互いに3次元で直交する。
【0021】
図1に示すように、トラクタ1は、走行車体2と、作業機60とを備える。走行車体2は、車体フレーム3と、操舵輪4と、走行装置5と、ボンネット6と、エンジンEと、操縦部7と、ミッションケース10とを備える。車体フレーム3は、走行車体2のメインフレームである。
【0022】
操舵輪4は、左右一対であり、走行車体2の前部に位置し、車軸に回転自在に連結されている。走行装置5は、履帯を有するクローラ式に構成されており、左右一対であり、走行車体2の後部に位置する。走行装置5は、駆動軸に連結された駆動スプロケットと複数の張設輪との間にゴムクローラを張設している。
【0023】
走行装置5の上部は、フェンダ22で覆われており、このフェンダ22の後部には、作業者(操縦者)が乗降時に把持することのできるグリップ28が設けられている。また、フェンダ22におけるグリップ28の下方位置には、PTOスイッチ25が設けられている。このPTOスイッチ25の操作により、後述するPTOクラッチ55(
図2参照)の入り切り動作を切り替えることができる。
【0024】
なお、トラクタ1は、クローラ式の走行装置5に代えて、駆動輪となる車輪を設けて構成してもよい。また、この場合、操舵輪4についても駆動輪とする四輪駆動(4WD)とすることもできる。
【0025】
ボンネット6は、走行車体2の前部において開閉自在に設けられる。ボンネット6は、後部を回動中心として上下方向に回動(開閉)可能である。ボンネット6は、閉じた状態で、車体フレーム3上に搭載されたエンジンEを覆う。エンジンEは、トラクタ1の駆動源であり、ディーゼル機関やガソリン機関などの熱機関である。
【0026】
操縦部7は、走行車体2の上部に設けられ、操縦席8やステアリングホイール9などを備える。本実施形態に係るトラクタ1の操縦部7は、キャビンなどを備えない解放型であり、後部に安全バー29が傾倒自在に設けられている。当然ではあるが、走行車体2上に設けたキャビン内に操縦部7を設けてもよい。
【0027】
操縦席8は、操縦者の座席である。ステアリングホイール9は、操縦者により操作されることで操舵輪4を操舵することができる。なお、操縦部7は、ステアリングホイール9の前方に、各種情報を表示する表示装置100を備える。
【0028】
また、操縦部7は、ブレーキペダル70の他、アクセルペダル、クラッチペダルなどの各種操作ペダルや、前後進レバー、アクセルレバー、主変速レバー、副変速レバーなどの各種操作レバーを備える。操縦者がブレーキペダル70を踏み込むことで、制動装置53(
図2参照)が作動して、操舵輪4および走行装置5の回転を停止するブレーキ操作が可能となっている。
【0029】
ミッションケース10は、トランスミッション(変速機構)を収容している。トランスミッションは、エンジンEから伝達される動力(回転動力)を適宜減速して走行装置5や後述するPTO(Power Take-off)軸11へ伝達する。
【0030】
走行車体2の後部には、圃場内で作業を行う作業機60が連結され、作業機60を駆動する動力を伝達するPTO軸11がミッションケース10から後方へ突出している。PTO軸11は、トランスミッションによって適宜減速された回転動力を、走行車体2の少なくとも後部に装着された作業機60へ伝達する。本実施形態における作業機60は、圃場内で作業を行う対地作業機であって、後述するロータリ耕耘機としているが、各種の作業機60を取替自在に連結することができる。
【0031】
また、走行車体2の後部には、作業機60を昇降させる昇降装置12が設けられる。昇降装置12は、作業機60を上昇させることで、作業機60を非作業位置に移動させる。また、昇降装置12は、作業機60を下降させることで、作業機60を対地作業位置に移動させる。昇降装置12は、油圧式の昇降シリンダ(不図示)と、リフトアーム122と、リフトロッド123と、ロアリンク124と、トップリンク125とを備える。
【0032】
リフトアーム122は、昇降シリンダに作動油が供給されると、回動支点となる軸まわりに作業機60を上昇させるように回動し、昇降シリンダから作動油が排出されると、軸まわりに作業機60を下降させるように回動する。なお、リフトアーム122の基部には、リフトアーム122の回動角度を検知するリフトアームセンサ26(
図2参照)が設けられる。作業機60の高さは、リフトアームセンサ26の検知結果に基づいて算出される。
【0033】
また、リフトアーム122は、リフトロッド123を介してロアリンク124に連結される。このように、昇降装置12は、ロアリンク124とトップリンク125とで、走行車体2に対して作業機60を昇降可能に連結する。
【0034】
作業機60であるロータリ耕耘機は、PTO軸11から伝達された動力によって、後部をリヤカバー62によりカバーされた耕耘爪61が回転して圃場面(土壌)を耕耘する。
【0035】
また、作業機60は、図示するように、ギヤやチェーンなどを含む伝動機構を収納するとともに、作動油が充填された伝動ケース63を備える。この伝動ケース63の下部にはドレン孔が形成され、このドレン孔にドレンボルトが取付けられている。
【0036】
本実施形態においては、このドレンボルトとケース本体との間に、作動油の温度を検出することのできる油温センサ20(
図2参照)が取付けられている。かかる油温センサ20の検出結果、すなわち作動油の油温を検出することによって、作業機60の状態をある程度、把握することが可能となる。
【0037】
次に、
図2を参照してトラクタ1の制御系について説明する。
図2は、トラクタ1の制御装置40を中心とするブロック図である。
図2に示すように、制御装置40は、エンジンECU(Electronic Control Unit)41と、走行系ECU42と、作業機系ECU43とを備える。また、制御装置40は、積算部44と報知部45とを備える。
【0038】
エンジンECU41は、エンジンEの回転数などを制御する。走行系ECU42は、操舵装置51、変速装置52、制動装置53を制御することで、走行車体2(
図1参照)の走行全般を制御する。作業機系ECU43は、昇降装置12を制御して作業機60の昇降制御を行う他、PTOクラッチ55を入り切りするソレノイドバルブ54を制御して、作業機60の駆動全般を制御する。
【0039】
また、積算部44は、油温センサ20が検出した油温が所定温度以上であり、かつPTOスイッチ25が入り状態である時間を積算対象時間として積算する。報知部45は、積算部44による積算時間が所定時間に達すると、作業機60のメンテナスを促す報知信号を出力する。本実施形態では、具体的は、作動油の交換時期を報知する。
【0040】
制御装置40は、電子制御によって各部を制御することが可能であり、CPU(Central Processing Unit)などを有する処理部をはじめ、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などで構成され、各種のプログラムやデータ類を記憶する記憶部などを備える。
【0041】
図2に示すように、制御装置40には、エンジン回転センサ23、車速センサ24、油温センサ20、リフトアームセンサ26、PTOセンサ27などの各種センサ類が接続されるとともに、PTOスイッチ25が接続されている。
【0042】
エンジン回転センサ23は、エンジンEの回転数を検知する。車速センサ24は、走行車体2の走行速度(車速)を算出するためのもので、ここでは、車軸の回転数を検出し、制御装置40によって車速を算出するようにしている。また、リフトアームセンサ26は、リフトアーム122の回動角度を検知する。また、PTOセンサ27は、PTO軸11の回転を検出する。
【0043】
油温センサ20は、作業機60の伝動ケース63内の作動油の温度(油温)を検出して制御装置40に出力することができる。本実施形態における油温センサ20は、作業機60毎に割り当てられた固有の識別情報21を、検出温度と共に制御装置40へ出力するようになっている。
【0044】
また、PTOスイッチ25からは、作業者の操作に応じて、PTOクラッチ55を接続するか否かのオン・オフ信号が出力されて制御装置40に入力される。
【0045】
このように、制御装置40は、エンジンEを制御するとともに、ステアリングホイール9の操作をアシストするパワーステアリング機構などを含む操舵装置51、およびブレーキペダル70を含む制動装置53を制御することで、走行車体2の走行を制御する。さらに、制御装置40は、昇降装置12を制御して作業機60の昇降動作をはじめ、PTOスイッチ25からの信号に応じてソレノイドバルブ54の駆動を制御することでPTOクラッチ55を入り切りすることで作業機60の動作を制御する。
【0046】
また、本実施形態に係るトラクタ1は、作業機60のメンテナンスに関し、作動油の交換時期を報知することができる。すなわち、制御装置40は、上述した油温センサ20により検出した油温が所定温度以上であり、かつPTOスイッチ25が入り状態である時間を積算対象時間として積算し、その積算時間が所定時間に達すると、作業機60の作動油の交換を促す表示を、操縦部7に設けた表示装置100に表示するようにしている。なお、具体的な表示の態様は適宜設定することができる。
【0047】
このとき、油温センサ20は、作業機60が有する固有の識別情報を制御装置40に出力するため、制御装置40は、本実施形態であれば、ロータリ耕耘機の作動油の適切な交換時期を報知することができる。また、たとえば作業機60を、ロータリ耕耘機からプラウなどに付け替えた場合、プラウにおける作動油の検出温度および積算稼働時間(PTOスイッチ25が入り状態)に基づいて、プラウの作動油の交換時期を報知することができる。
【0048】
すなわち、本実施形態に係るトラクタ1は、異なる種類の複数の作業機60を、付け替え自在に取付けることができる。そこで、本実施形態では、油温センサ20を、各作業機60にそれぞれ設けることとし、油温センサ20からは、作業機60を識別する識別情報を出力可能としている。
【0049】
図3は、実施形態に係るトラクタ1の制御装置40と作業機60との接続関係を示すブロック図である。図示するように、トラクタ1の走行車体2は、たとえば、作業機A~作業機Nの複数の作業機を連結可能であり、各作業機60は、走行車体2に連結されると、通信部30を介して識別情報が制御装置40に出力される。
【0050】
通信部30は、有線方式でも無線方式でも構わないが、通信結果は、操縦部7に設けられた表示装置100(
図1参照)に表示される。たとえば、表示装置100には、作業機60の種類、現在の油温が表示される。そして、この表示装置100には、制御装置40が積算した当該作業機60の稼働時間が表示されるとともに、稼働時間が作動油の交換時間に達した場合は、作動油の交換を促すサインについても表示される。かかるサインは、ランプの発光(点滅を含む)などでももよいし、液晶パネルなどにデジタル表示されるものであってもよい。
【0051】
制御装置40は、入力された識別情報毎に、油温が50℃以上であり、かつPTOスイッチ25が入り状態である時間を積算対象時間として積算するのである。
【0052】
ところで、制御装置40は、油温センサ20の検出値が50℃未満の場合は積算対象時間には加えることはせず、検出値が50℃以上の場合に積算対象時間として積算するようにしている。通常、作業機60の作動油では、油温が50℃未満であれば油質の劣化がそれほど進まないからである。
【0053】
また、制御装置40は、油温センサ20の検出値が120℃以上の場合、PTOクラッチ55を切るようにソレノイドバルブ54を制御することとしている。すなわち、作業機60の作動油では、油温が120℃以上となれば、作業機60に何らかの異常が発生していると考えられるため、速やかに停止することで、大きな故障につながらないようにするとともに、作業の安全を保つようにしている。
【0054】
このように、制御装置40は、作動油の油温が50℃~120℃の場合に、PTOスイッチ25が入り状態である時間を積算するようにしているが、たとえば、作動油の油温が100℃~120℃の場合は、積算対象時間に1よりも大きい所定の係数を掛け合わせる補正処理を行うようにしている。係数としては、温度と劣化との関係に関する経験値などから適宜決定することができる。これにより、作動油の劣化が早まる温度における時間の重み付けがなされるため、作動油交換時期の導出をより正確に行うことができる。
【0055】
ここで、
図4および
図5を参照しながら、トラクタ1におけるメンテナンス時期検出処理の流れについて説明する。
図4及び
図5は、
図4は、トラクタ1における作業機60のメンテナンス時期検出処理の一例を示すフローチャート、
図5は、メンテナンス時期検出処理における積算処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図4に示すメンテナンス時期検出処理は、トラクタ1による作業中、所定間隔で常に繰り返し実行される。
【0056】
トラクタ1におけるメンテナンス時期検出処理では、
図4に示すように、制御装置40は、先ず、油温が60℃以上であり、かつPTOスイッチ25が入り状態である時間の積算時間が所定時間に達したか否かを判定する(ステップS110)。なお、所定時間は、作業機60の種類などに応じて予め定められている。
【0057】
積算時間が所定時間に達すると(ステップS110:Yes)、制御装置40は、表示装置100に作動油の交換時期が来たことを表示し(ステップS120)、本メンテナンス時期検出処理を終了する。
【0058】
一方、積算時間が所定時間に達していないと判定した場合(ステップS110:No)、制御装置40は、油温が所定温度以上であるか否かを判定する(ステップS130)。
【0059】
そして、油温が所定温度以上であると判定すると(ステップS130:Yes)、制御装置40は、PTOスイッチ25がON状態であるか否かを判定する(ステップS140)。なお、ステップS130とステップS140の処理は、順序を逆にしても構わない。
【0060】
ステップS140において、PTOスイッチ25がON状態であると制御装置40が判定すると(ステップS140:Yes)、積算処理を実行する(ステップS150)。その後、制御装置40は、油温が120℃以上であるか否かを判定し(ステップS160)、120℃以上であると判定すると(ステップS160:Yes)、PTOクラッチ55を切断して(ステップS170)、本メンテナンス時期検出処理を終了する。
【0061】
他方、ステップS130で油温が所定温度以上ではないと判定した場合(ステップS130:No)、ステップS140でPTOスイッチ25がON状態ではないと判定した場合(ステップS140:No)、さらに、ステップS160で油温が120℃以上ではないと判定した場合(ステップS160:No)、制御装置40は、処理をステップS110に戻す。
【0062】
図5は、メンテナンス時期検出処理における積算処理の一例を示すフローチャートである。
図4に示したメンテナンス時期検出処理において、ステップS150で実行される積算処理は、
図5に示すように、先ず、制御装置40は、油温が100℃から120℃の間にあるか否かを判定する(ステップS151)。
【0063】
そして、制御装置40は、油温が100℃から120℃の間にある場合は(ステップS151:Yes)、積算対象時間に1よりも大きい所定の係数を掛け合わせる補正処理を行って積算する(ステップS152)。
【0064】
一方、油温が100℃から120℃の間にはない場合(ステップS151:No)、制御装置40は、通常の積算を行う(ステップS153)。
【0065】
本実施形態では、上述したメンテナンス時期検出処理について、走行車体2に付け替え自在である複数の作業機60について個別に行うようにしている。したがって、作業機60が変わっても、各作業機60の作業時間を正確かつ簡便に管理することができ、作動油の交換時期を正確に知ることができる。
【0066】
上述してきたトラクタ1において、作動油の交換時期などについては、操縦部7に設けられた表示装置100に表示することとしたが、たとえば作業者が携行するタブレット端末に表示させるようにすることもできる。また、タブレット端末に代えてスマートフォンなどの携帯端末装置を利用することもできる。
【0067】
また、少なくとも油温センサ20の検出結果を含む各種センサの検出結果を、たとえば農業支援用の専用端末装置に送信し、外部にて作動油の油温管理を行うこともできる。
【0068】
農業支援用の専用端末装置に蓄積された油温のデータから、作動油の交換時期が到来したと判定された場合、専用端末装置からトラクタ1の表示装置100に作動油交換時期を割り込み処理によって随時報知させるとよい。割り込みによる報知の場合は、ランプの点滅やアラームのような警告音、あるいは音声を発するような態様が考えられる。
【0069】
また、作動油交換時期を報知させる指示信号を、農業支援用の専用端末装置からトラクタ1の表示装置100に送信する際に、たとえば、作業機60のメーカーや販売店などのサービススタッフとなるメンテナンス管理者に作動油の交換時期や作業機60の異常を報知可能なシステムを構築することもできる。
【0070】
勿論、表示装置100の報知から作動油の交換時期や、作業機60の異常を知見した作業者が、スマートフォン、タブレット端末を用いてサービススタッフへ連絡することもできる。あるいは表示装置100の近傍に、サービススタッフと直通で無線接続される専用の通信ボタンなどを設けて、作動油の交換や作業機60の修理依頼が行えるようにすることもできる。
【0071】
また、PTOを変速するPTO変速スイッチ(図示せず)を設け、PTOスイッチ25が入り状態であり、かつPTO変速スイッチが入り状態である場合に、現在の作動油の油温を表示装置100に表示するとともに、作業機60の実際の稼働時間として積算するようにしてもよい。すなわち、作業機60の作動油の油温は、作業を止めた後もしばらくは下がらないため、実際に稼働する場合に入り(オン)操作されるPTO変速スイッチの状態を、稼働時間として積算する条件に加えるものである。
【0072】
上述してきた実施形態により、以下のトラクタ1が実現する。
【0073】
(1)走行装置5を備え、後部に作業機60を取替自在に連結可能な走行車体2と、走行車体2に搭載され、走行装置5および作業機60の駆動源となるエンジンEと、エンジンEからの動力を作業機60へ出力可能なPTO軸11と、PTO軸11へ伝達される動力の接続および接続解除となる入り切り動作を行うPTOクラッチ55と、PTOクラッチ55の入り切り動作を切り替えるPTOスイッチ25と、作業機60の作動油の油温を検出する油温センサ20と、走行車体2の走行制御と、作業機60の動作制御とを実行する制御装置40とを備え、制御装置40は、油温が所定温度以上であり、かつPTOスイッチ25が入り状態である時間を積算対象時間として積算する積算部44と、積算部44による積算時間が所定時間に達すると、作業機60のメンテナンスを促す報知信号を出力する報知部45とを備えるトラクタ1。
【0074】
かかるトラクタ1によれば、安価な構成で作業機60の作業時間を簡便に管理することができ、適切な時期に作動油の交換などを行うことができる。
【0075】
(2)上記(1)において、油温センサ20は、作業機60を識別する識別情報を出力可能であり、制御装置40は、識別情報毎に積算対象時間を積算するトラクタ1。
【0076】
かかるトラクタ1によれば、(1)の効果に加え、異なる作業機60を付け替えた場合でも、作業機毎の作業時間を正確かつ簡便に管理することができる。
【0077】
(3)上記(1)または(2)において、油温センサ20は、作業機60に設けられているトラクタ1。
【0078】
かかるトラクタ1によれば、走行車体2側には油温センサを設ける必要がないので、(1)または(2)の効果に加え、トラクタ1の車体コストを低減することができる。
【0079】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、メンテナンスは、少なくとも作動油交換を含み、走行車体2は、作動油交換の好適な時期を表示する表示装置100を備えるトラクタ1。
【0080】
かかるトラクタ1によれば、上記(1)から(3)のいずれかの効果に加え、作動油の交換時期を把握しやすく、適切な時期に作動油を交換することができるため、作業機60の寿命を延ばすことも可能となる。
【0081】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、制御装置40は、積算を実行する際に、油温センサ20の検出値が100~120℃の範囲に含まれる場合、積算対象時間に1よりも大きい所定の係数を掛け合わせる補正処理を行うトラクタ1。
【0082】
かかるトラクタ1によれば、上記(1)から(4)のいずれかの効果に加え、メンテナンス時期の導出をより正確に行うことができる。
【0083】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、制御装置40は、油温センサ20の検出値が50℃未満の場合は積算対象時間に加えず、検出値が50℃以上の場合に積算対象時間として積算するトラクタ1。
【0084】
かかるトラクタ1によれば、上記(1)から(5)のいずれかの効果に加え、例えば、作動油の劣化が進んでいないにも拘わらず作動油の交換を促してしまうようなおそれがなくなる。
【0085】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、制御装置40は、油温センサ20の検出値が120℃以上の場合、PTOクラッチ55を切るトラクタ1。
【0086】
かかるトラクタ1によれば、上記(1)から(6)のいずれかの効果に加え、駆動系に異常があると判断される作業機60の使用を停止することで、作業機60の故障を未然に防止できるとともに、作業の安全を図ることができる。
【0087】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
E エンジン
1 トラクタ(作業車両)
2 走行車体
5 走行装置
11 PTO軸
20 油温センサ
25 PTOスイッチ
40 制御装置
44 積算部
45 報知部
55 PTOクラッチ
60 作業機
100 表示装置