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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】電力変換システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230418BHJP
   H02M 7/49 20070101ALI20230418BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02M7/49
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019226908
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021097478
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆一
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-204918(JP,A)
【文献】特開2017-005810(JP,A)
【文献】特開平11-089240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧指令とキャリア信号との振幅比較により、電力変換部のゲート信号を生成するための電圧レベル指令を出力する非同期PWM方式による第1変調部と、
各変調率において電圧位相に応じた電圧レベル指令が定められているパルスパターンを格納したテーブルを有し、変調率指令および制御位相の入力に応じて、前記ゲート信号を生成するための電圧レベル指令を出力する固定パルスパターン方式による第変調部と、
第1,第2変調部の各電圧レベル指令のうち何れかを出力するように切り替えられる切替出力部と、
切替出力部から入力された電圧レベル指令に基づいて前記ゲート信号を生成する信号生成部と、
切替出力部の切り替えの基準となる切替周波数,切替変調率が予め設定されており、周波数指令,変調率指令をそれぞれ当該切替周波数,切替変調率と比較することにより、切替出力部の切替判定を行う切替判定部と、を備え
切替出力部は、切替判定部の切替判定結果に基づいて、各電圧レベル指令のうち何れかを出力することを特徴とする電力変換システム。
【請求項2】
切替判定部は、
周波数指令が切替周波数を超過し、かつ変調率指令が切替変調率を超過している場合には、切替出力部において第2変調部の電圧レベル指令を出力するように判定し、
周波数指令が切替周波数以下、または変調率指令が切替変調率以下の場合には、切替出力部において第1変調部の電圧レベル指令を出力するように判定する、
ことを特徴とする請求項記載の電力変換システム。
【請求項3】
切替判定部は、
下記式(1)を満たすように切替周波数fc0,fc1、切替変調率dc0,dc1が設定されており、
切替判定結果の前回値に基づいて、現在の切替出力部において第1,第2変調部のうち何れが採用されているかを判定し、
現在の切替出力部において第1変調部が採用されていると判定された場合には、
切替周波数fc0および切替変調率dc0を適用し、
周波数指令が切替周波数fc0を超過し、かつ変調率指令が切替変調率dc0を超過している場合には、切替出力部において第2変調部の電圧レベル指令を出力するように判定し、
周波数指令が切替周波数fc0以下、または変調率指令が切替変調率dc0以下の場合には、切替出力部において第1変調部の電圧レベル指令を出力するように判定し、
現在の切替出力部において第2変調部が採用されていると判定された場合には、
切替周波数fc1および切替変調率dc1を適用し、
周波数指令が切替周波数fc1を超過し、かつ変調率指令が切替変調率dc1を超過している場合には、切替出力部において第2変調部の電圧レベル指令を出力するように判定し、
周波数指令が切替周波数fc1以下、または変調率指令が切替変調率dc1以下の場合には、切替出力部において第1変調部の電圧レベル指令を出力するように判定する、
ことを特徴とする請求項記載の電力変換システム。
fc0>fc1
dc0>dc1 ……(1)
【請求項4】
切替判定部の切替周波数,切替変調率は、それぞれ変動して設定することができるものであって、
切替変調率は、
切替周波数が任意の周波数閾値を超過して変動する場合には、当該切替周波数に反比例して変動し、
切替周波数が任意の周波数閾値以下で変動する場合には、一定となる、
ことを特徴とする請求項の何れかに記載の電力変換システム。
【請求項5】
切替判定部は、下記式(2)を満たすように設定されていることを特徴とする請求項の何れかに記載の電力変換システム。
carrier=N・f ……(2)
なお、式(2)においては、切替周波数をf、キャリア信号のキャリア周波数をfcarrier、第2変調部において第1変調部に切り替わる切替境界付近の基本波1周期のパルス数をNとする。
【請求項6】
切替判定部は、下記式(3)を満たすように設定されていることを特徴とする請求項の何れかに記載の電力変換システム。
θfp=θpwm+2πfref・t ……(3)
なお、式(3)においては、第1変調部における電圧指令の位相をθpwm、第2変調部における制御位相をθfp、周波数指令をfref、第2変調部の出力電圧を基準にした場合の第1変調部の出力電圧の遅れ時間をtとする。
【請求項7】
式(3)のtは、下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項記載の電力変換システム。
【数1】
【請求項8】
電力変換部は、4レベル以上のマルチレベル電力変換器であることを特徴とする請求項の何れかに記載の電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換システムに係るものであって、例えば、インバータ等の電力変換器を介して所望の周波数,振幅の交流電圧を負荷に対して出力する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、入力された三相交流電圧をレクティファイア(交流-直流変換器)で直流電圧に変換し、その直流電圧を電力変換部によって所望の周波数,振幅の交流電圧として出力する電力変換システムが検討されてきた。
【0003】
このような電力変換システムでは、電力変換部(例えばインバータ等の電力変換器)の出力について、目標電圧をキャリア信号1周期で平均的に表現するPWM(Pulse Width Modulation)方式が適用されることが多い。このPWM方式のうち、キャリア信号(三角波キャリア等)の周波数が出力周波数と非同期のもの(以下、単に非同期PWM方式と適宜称する)は、スイッチング周波数を一定に保つことができ、低周波数領域でも安定した制御を行いやすい利点があるとされている。
【0004】
その他、出力電圧の最適化を目標として非同期PWM方式以外の変調法が適用される場合もあり、その一例としては固定パルスパターン方式によるものが挙げられる。この固定パルスパターン方式では、評価指標に対して最適なパルスパターンを事前導出してテーブル化し、そのテーブル通りに電圧位相に同期したスイッチングを行う。
【0005】
固定パルスパターン方式は、高調波を増大させずにスイッチング回数を減らすことが可能とされている。しかし、電圧位相のみを考えてスイッチングタイミングを制御するものであるため、例えば低周波数にて用いた場合には、スイッチングとスイッチングとの間隔が開き過ぎてしまい、十分な制御安定性が得られないおそれがある。また、パルスが細くなる低変調率時に安定性が下がることもある。何れの場合も、極小のパルスを基本波1周期に多数出力することにより、制御性が改善する可能性があるが、パルスパターンを事前算出する必要がある関係上、多数のスイッチングに対して良好な解を導出することが難しくなり、かつパルスパターン情報を格納するテーブルサイズも大きくなってしまうおそれがある。
【0006】
このことから、2つの変調法を適宜切り替えて適用する構成、すなわち、例えば低周波数あるいは低変調率の場合には三角波比較を用いた非同期PWM方式を適用し、それ以外の場合には固定パルスパターン方式を適用するような切替構成が検討され始めている。
【0007】
このような切替構成のもとでは、切り替えの基準として予め適宜設定された所望の切替周波数あるいは切替変調率(以下、適宜まとめて単に切替条件と称する)に基づいて、パルス変調法(非同期PWM方式,固定パルスパターン方式)を切り替えることになるが、当該切り替え時に電流衝撃が発生した場合には、運転の安全性が損なわれるおそれがある。そこで、例えば特許文献1,2に示すような切替構成により、パルス変調法を適切に切り替える試みが検討されてきた。
【0008】
特許文献1では、切替前後でスイッチング周波数が大きく変化すると電流衝撃が生じ易いとし、それを避けるように切替設計を行うことが開示されている。この特許文献1の同期PWM方式(固定パルスパターン方式に相当)では、各変調率のパルスパターンのパルス数と当該パルスパターンが使用される周波数から、スイッチング周波数を予想している。そのため、特許文献1の同期PWM方式では、非同期PWM方式とスイッチング周波数が同程度になるように、かつ当該同期PWM方式の利点を十分に得られるように切替条件を設定することが開示されている。
【0009】
特許文献2では、電流衝撃が発生し難い電圧位相で切り替えを行うことが開示されている。また、切り替え前後のスイッチング周波数が急激に変化することで電流衝撃が発生し得るとして、非同期PWM方式におけるキャリア信号周波数を一時的に上昇し、当該切り替え前後でスイッチング周波数が揃うようにすることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-204918号公報
【文献】特開2017-5810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1,2に示したような切替構成においては、例えばマルチレベル電力変換器(例えば後述図1の直列多重インバータ)に適用した場合、以下に示すような課題が考えられる。
【0012】
例えば、非同期PWM方式と固定パルスパターン方式の切り替え前後では、同じ相電圧レベルであったとしても、マルチレベル電力変換部のセルの電圧レベルの指定が適格ではない可能性(すなわちゲート信号が適格ではない可能性)がある。当該電圧レベルの指定が適格ではない場合、当該切り替えの瞬間に多数のスイッチングが行われることとなり、スイッチングリプルによる電流衝撃の増大や、必要のないスイッチングを行うことによるスイッチング損失の増大を招くおそれがある。
【0013】
このため、非同期PWM方式と固定パルスパターン方式とを切り替える場合には、セルの指定、つまり出力しているゲート信号を全て管理し、当該ゲート信号の急激な変化を起こさないようにすることが望まれる。
【0014】
これは、マルチレベル電力変換部に限らず、電圧出力に対してゲート信号指定の自由度がある電力変換部の全てに当てはまるような課題であるとも言える。
【0015】
本発明は、前述のような技術的課題に鑑みてなされたものであって、切替構成において電流衝撃が起こらないように抑制し、負荷に対して所望の交流電圧を出力し易くする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明に係る電力変換システムは、前記の課題の解決に貢献できるものであり、その一態様は、電圧指令とキャリア信号との振幅比較により、電力変換部のゲート信号を生成するための電圧レベル指令を出力する非同期PWM方式による第1変調部と、各変調率において電圧位相に応じた電圧レベル指令が定められているパルスパターンを格納したテーブルを有し、変調率指令および制御位相の入力に応じて、前記ゲート信号を生成するための電圧レベル指令を出力する固定パルスパターン方式による第変調部と、第1,第2変調部の各電圧レベル指令のうち何れかを出力するように切り替えられる切替出力部と、切替出力部から入力された電圧レベル指令に基づいて前記ゲート信号を生成する信号生成部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0017】
前記一態様においては、切替出力部の切り替えの基準となる切替周波数,切替変調率が予め設定されており、周波数指令,変調率指令をそれぞれ当該切替周波数,切替変調率と比較することにより、切替出力部の切替判定を行う切替判定部を、更に備え、切替出力部は、切替判定部の切替判定結果に基づいて、各電圧レベル指令のうち何れかを出力することを特徴とするものでも良い。
【0018】
また、切替判定部は、周波数指令が切替周波数を超過し、かつ変調率指令が切替変調率を超過している場合には、切替出力部において第2変調部の電圧レベル指令を出力するように判定し、周波数指令が切替周波数以下、または変調率指令が切替変調率以下の場合には、切替出力部において第1変調部の電圧レベル指令を出力するように判定する、ことを特徴とするものでも良い。
【0019】
また、切替判定部は、下記式(1)を満たすように切替周波数fc0,fc1、切替変調率dc0,dc1が設定されており、切替判定結果の前回値に基づいて、現在の切替出力部において第1,第2変調部のうち何れが採用されているかを判定し、現在の切替出力部において第1変調部が採用されていると判定された場合には、切替周波数fc0および切替変調率dc0を適用し、周波数指令が切替周波数fc0を超過し、かつ変調率指令が切替変調率dc0を超過している場合には、切替出力部において第2変調部の電圧レベル指令を出力するように判定し、周波数指令が切替周波数fc0以下、または変調率指令が切替変調率dc0以下の場合には、切替出力部において第1変調部の電圧レベル指令を出力するように判定し、現在の切替出力部において第2変調部が採用されていると判定された場合には、切替周波数fc1および切替変調率dc1を適用し、周波数指令が切替周波数fc1を超過し、かつ変調率指令が切替変調率dc1を超過している場合には、切替出力部において第2変調部の電圧レベル指令を出力するように判定し、周波数指令が切替周波数fc1以下、または変調率指令が切替変調率dc1以下の場合には、切替出力部において第1変調部の電圧レベル指令を出力するように判定する、ことを特徴とするものでも良い。
【0020】
fc0>fc1
dc0>dc1 ……(1)
また、切替判定部の切替周波数,切替変調率は、それぞれ変動して設定することができるものであって、切替変調率は、切替周波数が任意の周波数閾値を超過して変動する場合には、当該切替周波数に反比例して変動し、切替周波数が任意の周波数閾値以下で変動する場合には、一定となる、ことを特徴とするものでも良い。
【0021】
また、切替判定部は、下記式(2)を満たすように設定されていることを特徴とするものでも良い。
【0022】
carrier=N・f ……(2)
なお、式(2)においては、切替周波数をf、キャリア信号のキャリア周波数をfcarrier、第2変調部において第1変調部に切り替わる切替境界付近の基本波1周期のパルス数をNとする。
【0023】
また、切替判定部は、下記式(3)を満たすように設定されていることを特徴とするものでも良い。
【0024】
θfp=θpwm+2πfref・t1 ……(3)
なお、式(3)においては、第1変調部における電圧指令の位相をθpwm、第2変調部における制御位相をθfp、周波数指令をfref、第2変調部の出力電圧を基準にした場合の第1変調部の出力電圧の遅れ時間をt1とする。
【0025】
また、式(3)のt1は、下記式(4)を満たすことを特徴とするものでも良い。
【0026】
【数1】
【0027】
また、電力変換部は、4レベル以上のマルチレベル電力変換器であることを特徴とするものでも良い。
【発明の効果】
【0028】
以上示したように本発明によれば、切替構成において電流衝撃が起こらないように抑制し、負荷に対して所望の交流電圧を出力し易くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態による電力変換システムの適用例を示す直列多重インバータの主回路構成図。
図2】電力変換システム30の一例を示す制御構成図。
図3】実施例1による切替判定部71の切替判定構成を示すフローチャート。
図4図3のフローチャートにおける切替設計を示す周波数-変調率特性図。
図5】電力変換システム30に従来構成,実施例1をそれぞれ適用し装置10を駆動させた場合のシミュレーション波形図((A)の波形は、比較例として従来構成を適用した場合、(B)の波形は実施例1を適用した場合)。
図6】実施例2による切替判定部71の切替判定構成を示すフローチャート。
図7図6のフローチャートにおける切替設計を示す周波数-変調率特性図。
図8】実施例3による切替判定部71の切替判定構成の場合の切替設計を示す周波数-変調率特性図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態の電力変換システムは、非同期PWM方式と固定パルスパターン方式とを切り替える切替構成において、ゲート信号や出力電圧レベルの違い等を考慮せずに単なる切り替えを実施するような制御構成(以下、単に従来構成と適宜称する)とは、全く異なるものである。
【0031】
すなわち、本実施形態による電力変換システムは、非同期PWM方式による変調部(以下、単に第1変調部と適宜称する)および固定パルスパターン方式による変調部(以下、単に第2変調部と適宜称する)の各電圧レベル指令のうち何れかを出力するように切り替えられる切替出力部と、当該切替出力部から入力された電圧レベル指令に基づいてゲート信号を生成する信号生成部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0032】
切替出力部の出力においては、例えば当該切替出力部の切り替えの基準となる切替周波数,切替変調率が予め設定された切替判定部の切替判定結果(例えば周波数指令,変調率指令をそれぞれ切替周波数,切替変調率と比較することにより得た切替判定結果)に基づいて、適宜切り替えることが可能である。
【0033】
本実施形態とは異なる構成、例えば従来構成の場合、後述の図1の構成やモジュラーマルチレベル変換器(Modular Multilevel Converter)などの変換器に適用すると、非同期PWM方式と固定パルスパターン方式の切り替え時にゲート信号が急激に変化し、電流衝撃や無用なスイッチング損失を生じるおそれがある。つまり、従来構成では、一般の電力変換部において所望通りに対応できないおそれがある。
【0034】
変調法の本来の目的は、離散的な出力電圧によって連続的な出力電圧を適切に表現することである。つまり、非同期PWM方式,固定パルスパターン方式それぞれの目的は、電圧レベルの指定によって達成することが可能である。したがって、非同期PWM方式,固定パルスパターン方式それぞれの演算については、ゲート信号の指定と切り離して実施しても、特に問題が無いことが判る。
【0035】
一方、本実施形態の電力変換システムの場合、第1,第2変調部においては電圧レベルの決定のみを行う。切替出力部の後段では、第1,第2変調部の共通(非同期PWM方式,固定パルスパターン方式において共通)の信号生成部により、第1,第2変調部のうち何れかの電圧レベルに基づいてゲート信号生成制御を実行できる構成である。
【0036】
このため、たとえゲート信号生成制御の前段(上流)において非同期PWM方式と固定パルスパターン方式とが切り替わっても、無用なゲート信号の変化が起こらないように抑制できることが判る。すなわち、切替構成において電流衝撃が起こらないように抑制でき、負荷に対して所望の交流電圧を出力し易くすることが可能となる。
【0037】
本実施形態の電力変換システムは、前述のように切替判定部の切替判定結果に基づいて、非同期PWM方式および固定パルスパターン方式による各電圧レベル指令のうち何れかを信号生成部に出力できる構成であれば良く、種々の分野(例えば電力変換分野,非同期PWM方式分野,固定パルスパターン方式分野,モータ分野等)の技術常識を適宜適用し、必要に応じて先行技術文献等を適宜参照して設計変形することが可能であり、その一例として以下に示すものが挙げられる。
【0038】
なお、以下に示す説明においては、例えば重複する内容について同一符号を適用する等により、詳細な説明を適宜省略しているものとする。
【0039】
≪本実施形態による電力変換システムの適用例≫
図1の装置10は、本実施形態による電力変換システム(後述の図2では電力変換システム30)を適用することが可能な直列多重インバータの主回路構成を示すものである。なお、図1の装置10は適用例であり、他の構成の直列多重インバータであっても、本実施形態による電力変換システムは適宜適用可能である。また、図1では、直列多重インバータのセル段数をN[段]としている。
【0040】
図1に示す装置10においては、入力電源1と、トランス2と、電力変換部(直列多重インバータ)3と、を主として備えている。電力変換部3は、各相それぞれN(N≧2)個のセルU1~UN,V1~VN,W1~WNが直列接続されている。
【0041】
各セルU1~UN,V1~VN,W1~WNは、ダイオードをブリッジ接続した整流回路13と、コンデンサCを有する直流リンク部14と、スイッチング素子をブリッジ接続した逆変換部15と、を有している。
【0042】
各セルU1~UN,V1~VN,W1~WNの整流回路13側はトランス2に接続され、逆変換部15側は各相直列接続されている。各相のセルU1,V1,W1同士は接続されている。また、各相のセルUN,VN,WNは負荷(モータやLR負荷など)4に接続されている。なお、図1に示すように、U相の相電圧をVUとする。
【0043】
図1のような構成により、セル出力を多重化した相電圧VUが負荷4に印加されることとなる。この構成において、VUを+2レベルとする場合は、例えばU相のうち2つのセルを+1レベル出力、他を0レベル出力とすることが挙げられる。なお、一般的には2つのセルの選び方について制約がなく、例えばU1とU2を+1レベルとしても良いし、U1とU3を+1レベルとすることも挙げられる。
【0044】
≪電力変換システムの制御構成例≫
図2は、本実施形態による電力変換システム30の制御構成例を示すものであり、図外の操作盤などから与えられた指令値(速度指令等)cmdや検出電流idetが入力され、速度制御,電流制御を経て指令電圧に関する情報を出力するような構成となっている。
【0045】
電力変換システム30において、上位制御部5は、後述の信号生成部8より上流側に存在する制御に係るものである。この上位制御部5においては、図外の操作盤等から与えられた指令値(速度指令等)cmdや、電力変換部3の出力側の検出電流idetが入力され、所定の速度制御,電流制御を経て、当該上位制御部5の下流側の第1,第2変調部61,62に対し指令電圧に関する情報を出力するものである。
【0046】
第1変調部61は、非同期PWM方式によるものであって、指令電圧とキャリア信号との振幅比較により、電力変換部3のゲート信号を生成するための電圧レベル指令を出力する構成となっている。これにより、第1変調部61では、キャリア信号(図2では三角波キャリア信号)と比較するための電圧指令(図2では三相電圧指令Vuvw*)が必要となる。
【0047】
また、第2変調部62は、固定パルスパターン方式によるものであって、各変調率において電圧位相に応じた電圧レベル指令が定められているパルスパターンを格納したテーブルを有し、指令変調率および制御位相の入力に応じて、前記ゲート信号を生成するための電圧レベル指令を出力する構成となっている。これにより、第2変調部62では、変調率指令と制御位相が必要となる。
【0048】
以上のような第1,第2変調部61,62を考慮して、図2の上位制御部5においては、三相電圧指令Vuvw*,変調率指令dref,周波数指令frefを、指令電圧に関する情報として出力できる構成となっている。なお、図2の上位制御部5と第2変調部62との間には、周波数指令frefを積分する積分器51が介在している。これにより、積分器51に入力された周波数指令frefは、積分されて固定パルスパターンの制御位相θfpとなって、第2変調部62に入力されるようになっている。
【0049】
第1変調部61では、出力電圧と必ずしも同期しない三角波キャリア信号とVuvw*との両者を比較し、当該両者の大小関係に基づいて、非同期PWM方式による電圧レベル指令Lpwmを定める。
【0050】
第2変調部62では、テーブルを参照してテーブル値と制御位相を比較することにより、固定パルスパターン方式による電圧レベル指令Lfpを定める。なお、使用するテーブルには、事前に作成したパルスパターンの情報が格納されており,変調率,位相の情報に応じた出力電圧レベルが定められているものとする。
【0051】
第1,第2変調部61,62で定められた電圧レベル指令Lpwm,Lfpの両者は、切替出力部7に入力される。この切替出力部7においては、後述の切替判定部71の切替判定結果Selに基づいて、前記入力された電圧レベル指令Lpwm,Lfpのうち何れかを選択(すなわち、非同期PWM方式および固定パルスパターン方式のうち何れかの電圧レベル指令を選択)し、その選択した方を電圧レベル指令L*として信号生成部8に出力するように適宜切り替えられる構成となっている。
【0052】
切替判定部71は、切替出力部7の出力の切り替えの基準となる切替周波数fc,切替変調率dcが予め設定されているものである。この切替判定部71においては、上位制御部5から入力された周波数指令fref,変調率指令drefを、それぞれ切替周波数fc,切替率変調率dcと比較し、切替出力部7において各電圧レベル指令Lpwm,Lfpのうち何れを電圧レベル指令L*として出力すべきかを、判定する。そして、当該判定による切替判定結果Selを切替出力部7に出力する。
【0053】
信号生成部8においては、切替出力部7から入力された電圧レベル指令L*に基づいて、電力変換部3を駆動するためのゲート信号gを生成する。そして、当該生成されたゲート信号gにより電力変換部3が駆動し、当該ゲート信号gに応じた電圧が負荷4に印加されることとなる。
【0054】
図2の電力変換システム30においては、非同期PWM方式と固定パルスパターン方式を用いる電力変換の代表的なシステム構成例を示すものであり、本実施形態の適用対象はこれに限定されるものではない。例えば、電源に回生を行うコンバータ制御において非同期PWM方式と固定パルスパターン方式を用いる構成、モータ位相を検出して制御で用いる構成、単相の構成などでも良い。
【0055】
重要なのは、各変調法(図2では第1,第2変調部61,62)ではそれぞれ電圧レベルの指令までを行ったうえで、各電圧レベル指令のうち何れかを適宜選択して出力(図2では切替判定部71の切替判定結果Selに基づいて切替出力部7から電圧レベル指令L*を出力)し、その後にゲート信号生成制御を実行できる構成で電力変換部3を駆動することである。
【0056】
以上示した電力変換システム30のような制御構成によれば、たとえ切替出力部7の出力が切り替わっても(非同期PWM方式と固定パルスパターン方式とが切り替わっても)、ゲート信号gの無用な変化を抑制できる。これにより、切替構成において電流衝撃が起こらないように抑制でき、例えば負荷4に対して所望の交流電圧を出力し易くなる。
【0057】
≪電力変換システム30の基本的な考え方≫
電力変換システム30の基本的な考え方については、以下の[a]~[c]であると言える。すなわち、[a]第1,第2変調部61,62ではそれぞれ電圧レベル指令Lpwm,Lfpの確定までを行うこと、[b]第1,第2変調部61,62のうち何れを採用するかを周波数指令fref,変調率指令drefに基づいて決定(図2では切替判定部71により決定)すること、[c]信号生成部8を切替出力部7の後段に配置し第1,第2変調部61,62に共通のゲート信号生成制御を行うこと、が挙げられる。
【0058】
前記[a]の第1,第2変調部61,62においては、それぞれ非同期PWM方式,固定パルスパターン方式の演算を行い、電圧レベル指令Lpwm,Lfpを各々出力することになるが、前記[b]の切替判定部71の切替判定結果に基づいて、第1,第2変調部61,62のうち選択されない方の演算を実施しないように設定しても良い。これにより、不要な演算を省略することが可能となる。
【0059】
第1,第2変調部61,62それぞれの具体的な変調法や信号生成部8の具体的なブロック構成については詳述していないが、特に限定されるものではなく、既知の構成を適宜適用することが可能である。
【0060】
なお、一般的には、非同期PWM方式の変調部からゲート信号を直接得る制御方式も存在するが,本実施形態の第1変調部61では、電圧指令とキャリア信号との振幅比較(三角波比較)によって相電圧のレベルのみを確定させるものとする。例えば、非同期PWM方式そのものの構成が変更できない変調部の場合などは、ゲート信号を得てから回路構成を考慮して電圧レベル指令L*に変換して適用できるようにすれば良い。
【0061】
また、切替判定部71の切替判定構成においては、既知の構成を適宜適用することが可能であるが、一例としては以下の実施例1~4が挙げられる。
【0062】
≪実施例1≫
固定パルスパターン方式は、パルスが細くなる低変調率領域やスイッチング周波数の下がる低周波数領域において、制御安定性が低下し易い傾向がある。このような傾向に対策するためには、固定パルスパターン方式の安定性が低下する領域を非同期PWM方式で制御するような切替条件となるように、切替設計を行えば良い。
【0063】
そこで、実施例1の切替判定構成では、図3のフローチャートに示す演算により、切替判定部71に入力された周波数指令fref,変調率指令drefをそれぞれ切替周波数fc,切替変調率dcと比較して判定できるように、切替設計を行った。
【0064】
図3においては、まず変調率判定ステップS1-1により、変調率指令drefが切替変調率dcを超過しているかどうかを判定し、当該超過している場合には周波数判定ステップS1-2に移行し、当該超過していない場合は選択処理ステップS1-4に移行する。
【0065】
周波数判定ステップS1-2では、周波数指令frefが切替周波数fcを超過しているかどうかを判定し、当該超過している場合には選択処理ステップS1-3に移行し、当該超過していない場合は処理ステップS1-4に移行する。
【0066】
選択処理ステップS1-3は、第2変調部62を採用(固定パルスパターン方式を採用)する場合の切替判定結果Sel(例えば図中ではSel=1)を導出するものであって、切替出力部7において電圧レベル指令Lfpを電圧レベル指令L*として出力できるように、当該切替判定結果Selを切替出力部7に出力する。
【0067】
選択処理ステップS1-4においては、第1変調部61を採用(非同期PWM方式を採用)する場合の切替判定結果Sel(例えば図中ではSel=0)を導出するものであって、切替出力部7において電圧レベル指令Lpwmを電圧レベル指令L*として出力できるように、当該切替判定結果Selを切替出力部7に出力する。
【0068】
図3のフローチャートによる演算を行うタイミングについては、必ずしも電圧指令更新や変調法の演算と同期していなくとも良い。例えば、制御位相θfpを参照し、0radの場合など特定の電圧位相でのみ演算を行う構成とすれば、切替出力部7の切り替えに伴う電流衝撃を避けやすいと考えられる。また、電圧指令更新と同期して演算を行い、電圧位相が特定の位相のときに当該演算結果を採用する構成としても良い。
【0069】
また、図3のフローチャートの重要な点は、切替判定部71に入力された周波数指令fref,変調率指令drefをそれぞれ切替周波数fc,切替変調率dcと比較して、切替判定を行う点である。各ステップS1-1~S1-4の順番や内容(例えば図中の不等号の種類等)は、適宜変更しても良い。
【0070】
図3のフローチャートにおける切替設計は、図4の周波数-変調率特性図で示すことができる。なお、図4においては、左下がり斜線で描写した領域Xは第1変調部61が採用される場合であり、空白で描写した領域Yは第2変調部62が採用される場合である。
【0071】
図4に示すように切替条件(切替周波数fc,切替変調率dc)が一定となるように切替設計した場合、切替出力部7における切り替えの境界(非同期PWM方式と固定パルスパターン方式とが切り替わる境界;以下、単に切替境界と適宜称する)は、直線的な境界線L1のようになる。そして、実施例1の切替判定構成によれば、境界線L1を基準にして切替出力部7が切り替わることになる。
【0072】
次に、図5は、電力変換システム30に従来構成,実施例1をそれぞれ適用し、装置10を駆動させた場合のシミュレーション波形を示す。なお、装置10の電力変換部3はセル6段の場合のものとする。また、図5(A)の波形は、比較例として従来構成を適用した場合(ゲート信号gを切り替える構成の場合)の波形であり、図5(B)の波形は実施例1を適用した場合の波形である。また、図5では、第2変調部62から第1変調部61(固定パルスパターン方式から非同期PWM方式)へと切り替わるタイミングの相電圧と、当該相の多重化される前のセル電圧を示した。
【0073】
図5(A)(B)の両者においては、相電圧レベルの推移がほぼ同じであることが読み取れる。しかしながら、従来構成を適用した場合の図5(A)では、各々で生成したゲート信号gが切り替わっているため、当該切り替えのタイミングで多数のセルがスイッチングしていることが読み取れる。これにより、従来構成の場合は、電流衝撃やスイッチング損失の増大が懸念されることが判る。
【0074】
一方、実施例1を適用した場合の図5(B)では、ゲート信号生成制御が共通化しているため、無用なスイッチングが起こっていないことが読み取れる。
【0075】
したがって、以上示した実施例1のような切替判定構成を電力変換システム30に適用することにより、電力変換部3の構成に左右されることなく、非同期PWM方式と固定パルスパターン方式の切替制御を実現できることが判る。
【0076】
≪実施例2≫
実施例1の周波数指令fref,変調率指令drefは、実運用上、切替境界付近(図4の領域X,Yの境界付近)の値になる場合がある。この場合、例えば切替出力部7の切り替え(非同期PWM方式と固定パルスパターン方式の切り替え)が頻繁になり、電流衝撃が生じたり、電力変換システム30における各制御が不安定になるおそれがある。
【0077】
そこで、実施例2の切替判定構成では、実施例1を改良して、ヒステリシスを考慮した切替条件を適宜追加して切替設計を行った。具体的には、図6のフローチャートに示すような演算により、切替判定部71に入力された周波数指令fref,変調率指令drefを、それぞれ切替周波数fc0,fc1、切替変調率dc0,dc1と比較して判定できるように切替設計を行った。なお、切替周波数fc0,fc1、切替変調率dc0,dc1においては、下記式(1)が成り立つものとする。
【0078】
fc0>fc1
dc0>dc1 ……(1)
図6においては、まずヒステリシス判定ステップS2-1により、前回の切替判定において導出された切替判定結果Sel(前回値;切替出力部7の切り替わりの状況)を判定し、現在における切替出力部7の切り替わり状況(第1,第2変調部61,62のうち何れを採用しているか)を判定する。
【0079】
このヒステリシス判定ステップS2-1では、現在の切替出力部7において第1変調部61が採用されていると判定した場合には変調率判定ステップS2-2に移行し、当該切替出力部7において第2変調部62が採用されていると判定した場合には変調率判定ステップS2-6に移行する。
【0080】
変調率判定ステップS2-2では、変調率指令drefが切替変調率dc0を超過しているかどうかを判定し、当該超過している場合には周波数判定ステップS2-3に移行し、当該超過していない場合は選択処理ステップS2-5に移行する。
【0081】
周波数判定ステップS2-3では、周波数指令frefが切替周波数fc0を超過しているかどうかを判定し、当該超過している場合には選択処理ステップS2-4に移行し、当該超過していない場合は処理ステップS2-5に移行する。
【0082】
選択処理ステップS2-4,S2-5は、それぞれ図3の選択処理ステップS1-3,S1-4と同様のものであり、その詳細な説明を省略する。
【0083】
変調率判定ステップS2-6では、変調率指令drefが切替変調率dc1を超過しているかどうかを判定し、当該超過している場合には周波数判定ステップS2-7に移行し、当該超過していない場合は選択処理ステップS2-9に移行する。
【0084】
周波数判定ステップS2-7では、周波数指令frefが切替周波数fc1を超過しているかどうかを判定し、当該超過している場合には選択処理ステップS2-8に移行し、当該超過していない場合は処理ステップS2-9に移行する。
【0085】
選択処理ステップS2-8,S2-9は、それぞれ図3の選択処理ステップS1-3,S1-4と同様のものであり、その詳細な説明を省略する。
【0086】
図6のフローチャートによる演算を行うタイミングについては、図3と同様に、必ずしも電圧指令更新や変調法の演算と同期していなくとも良い。例えば、制御位相θfpを参照し、0radの場合など特定の電圧位相でのみ演算を行う構成とすれば、切替出力部7の切り替えにともなう電流衝撃を避けやすいと考えられる。また、電圧指令更新と同期して演算を行い、電圧位相が特定の位相のときに当該演算結果を採用する構成としても良い。
【0087】
また、図6のフローチャートの重要な点は、ヒステリシス判定ステップS2-1によるヒステリシス判定結果に基づいて、切替判定部71に入力された周波数指令fref,変調率指令drefをそれぞれ切替周波数fc0,切替変調率dc0と比較、または当該周波数指令fref,変調率指令drefをそれぞれ切替周波数fc1,切替変調率dc1と比較して、切替判定を行う点である。各ステップS2-1~S2-9の順番や内容(例えば図中の不等号の種類等)は、適宜変更しても良い。
【0088】
図6のフローチャートにおける切替設計は、図7の周波数-変調率特性図で示すことができる。なお、図7において、右下がり斜線で描写した領域Zは、ヒステリシスが考慮される場合を示すものである。また、図7では、実施例1との比較参考のために、境界線L1も併せて描写している。
【0089】
図7に示すように、ヒステリシスを考慮した切替条件(切替周波数fc0,fc1、切替変調率dc0,dc1)が一定となるように切替設計した場合、切替境界は、2つの直線的な境界線L2a,L2bのようになる。そして、実施例2の切替判定構成によれば、ヒステリシス判定ステップS2-1の判定結果に基づいて、境界線L2a,L2bのうち何れか一方が選択され、当該一方を基準にして切替出力部7が切り替わることになる。
【0090】
以上示した実施例2のような切替判定構成を電力変換システム30に適用することにより、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、ヒステリシスを考慮した切替設計が可能である。このため、電力変換システム30における各制御において、切替境界付近の安定性を向上(例えば、dc0とdc1の差分やfc0とfc1の差分に応じて向上)できる可能性があることが判る。
【0091】
≪実施例3≫
実施例1,2の切替判定構成においては、切替条件が一定で切替境界(境界線L1,L2a,L2b)が直線的になる場合について説明したが、例えば当該切替境界が直線的以外であって切替条件が適宜変動するものであっても、所望の切替判定を実施できるように切替設計すれば良い。また、必要に応じて、特許文献1,2に開示されている切替設計を適宜適用しても良い。
【0092】
そこで、実施例3の切替判定構成では、実施例1,2を改良し、切替変調率dにおいて、切替周波数fに応じて曲線的に変動(後述の図8では切替条件が境界線L3上で変動)するように切替設計した。
【0093】
実施例3の切替設計においては、単に全ての周波数領域で切替変調率dが変動するようにしても良いが、一部の周波数領域では当該切替変調率dが一定となるようにしても良いものとする。
【0094】
具体例としては、後述の図8に示すように、切替周波数fが低周波数領域(後述の図8では切替周波数fが周波数fc2以下)で変動する場合には、切替変調率dが一定となるように切替設計することが挙げられる。また、当該切替周波数fが低周波数領域を超えて変動する場合には、切替変調率dが当該切替周波数fに反比例して変動するように切替設計することが挙げられる。
【0095】
このような切替設計の場合、固定パルスパターン方式の利点、例えば同期駆動による低周波脈動減少や、高調波の減少等の効果が十分に得られ、かつ制御安定性が損なわれないようにすることが挙げられる。
【0096】
また、実施例3の切替設計においては、切替出力部7の切り替え前後においてスイッチング周波数が急激に変わらないようにするために、下記式(2)を満たすように設定され、当該切り替え前後のスイッチング周波数を揃えるようにしても良い。なお、下記式(2)においては、切替周波数をf、キャリア信号のキャリア周波数をfcarrier、第2変調部62において第1変調部61に切り替わる切替境界付近(後述の図8では、例えば領域Yにおける境界線L3付近)の基本波1周期のパルス数をNとする。
【0097】
carrier=N・f ……(2)
式(2)を満たすような切替設計によれば、電流衝撃をより抑制し易くなる。なお、式(2)においては、厳密に満たすようにする必要はなく、また、常に満たすようにする必要もない。例えば、式(2)を近似的に満たすような切替周波数fを適用し、当該切替周波数fに応じて切替変調率dが曲線的に変動するように切替設計しても良い。また、一時的に式(2)を満たすようなfcarrier、あるいはNとなるように適宜調整して切替設計しても良い。
【0098】
図8の周波数-変調率特性図は、実施例3の切替設計を示すものである。図8における切替境界は、図中の境界線L3のように、切替周波数fが周波数fc2以下の領域では直線的であり、当該切替周波数fが周波数fc2を超えている領域では曲線的なものとなっている。そして、実施例3の切替判定構成によれば、図8に示すような境界線L3を基準にして切替出力部7が切り替わることになる。
【0099】
例えば、切替判定部71に入力される周波数指令frefが低周波数領域の場合には、たとえ変調率指令drefが高変調率であっても、第2変調部62が採用(Sel=1)されることとなり、固定パルスパターン方式の利点が得られ易くなる。
【0100】
なお、実施例3の切替設計において、実施例2に示したようなヒステリシスを考慮した切替設計を組み合わせた場合の切替境界は、例えば図8の2つの境界線L3a,L3bのようになる。そして、実施例2のヒステリシス判定ステップS2-1のような判定結果に基づいて、境界線L3a,L3bのうち何れか一方が選択され、当該一方を基準にして切替出力部7が切り替わることになる。
【0101】
したがって、以上示した実施例3のような切替判定構成を電力変換システム30に適用することにより、実施例1,2と同様の作用効果を奏する他に、固定パルスパターン方式の利点を活用することができ、電流衝撃の抑制がより容易になることが判る。
【0102】
≪実施例4≫
実施例1~3では、第1,第2変調部61,62の出力する電圧レベル指令Lpwm,Lfpについて特に制約を設けていない。しかし、第1,第2変調部61,62の出力において電圧位相のズレが生じている場合には、切替出力部7の切り替え時に大きな電流衝撃が生じるおそれがあるため、何らかの対策をすることが好ましい。
【0103】
ここで、非同期PWM方式においては、例えば、キャリア同期のサンプリング・電圧指令更新を行い、電圧指令更新後はキャリア半周期以内に1回、三角波キャリアと電圧指令の交差によるスイッチングを行うという構成が、好適であるとされている。
【0104】
また、固定パルスパターン方式においては、例えば、制御位相がテーブル位相を超えたタイミングでスイッチングを行う必要があるため、周波数指令に基づく積分演算をできる限り短く行い、テーブル値以上の位相となった場合には瞬時に電圧レベル指令を変更できるような構成が、好適であるとされている。
【0105】
このような傾向を踏まえて、実施例4の切替判定構成では、実施例1~3を改良し、下記式(3)を満たすように切替設計を行った。なお、下記式(3)においては、第1変調部61における電圧指令の位相(Vuvw*の位相)をθpwm、第2変調部62における制御位相をθfp、第2変調部62の出力電圧を基準にした場合の第1変調部61の出力電圧の遅れ時間をt1とする。
【0106】
θfp=θpwm+2πfref・t1 ……(3)
例えば、周波数指令frefの場合、式(3)を満たす関係であれば、第1,第2変調部61,62の出力において電圧位相は等しくなる。第1変調部61がキャリア同期で電圧指令を更新し、第2変調部62が高速積分演算を行う位相の変化に対して瞬時にレベルが変化する場合には、式(3)のt1は式(4)で示すとおりとなる。
【0107】
【数1】
【0108】
式(3)(4)の関係を保つように第1,第2変調部61,62の各演算を行うことで、切替出力部7の切り替え時の電圧位相のズレを抑制でき、電流衝撃を抑制した切替制御が達成できる。なお、実施例4の本質は式(3)であり、式(4)においては実際の運用状況と合致するように適宜補正しても良い。
【0109】
したがって、以上示した実施例4のような切替判定構成を電力変換システム30に適用することにより、実施例1~3と同様の作用効果を奏する他に、電流衝撃の抑制がより容易になることが判る。
【0110】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0111】
1…入力電源
2…トランス
3…電力変換部
30…電力変換システム
4…負荷
5…上位制御部
51…積算器
61…第1変調部(非同期PWM方式)
62…第2変調部(固定パルスパターン方式)
7…切替出力部
71…切替判定部
8…信号生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8