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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】蛍光標識剤およびリンフタロシアニン
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20230418BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230418BHJP
   C09B 47/06 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C09K11/06
A61K49/00
C09B47/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019231374
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2020105506
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018245349
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】横倉 梨乃
(72)【発明者】
【氏名】皆嶋 英範
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌幸
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-65205(JP,A)
【文献】ZHOU, Yang et al.,Theranostics,2016年,6(5),688-697,DOI: 10.7150/thno.14555
【文献】ISAGO, Hiroaki et al.,Journal of Inorganic Biochemistry,2017年,180,222-229,DOI: 10.1016/j.jinorgbio.2017.12.014
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/
A61K 49/
C09B 47/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または一般式(2)で表されるリンフタロシアニンを含んでなる蛍光標識剤。
一般式(1)
【化1】

(式中、X~Xは、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R~Rは、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R~R12は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。
13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、-P(=O)R1516、-C(=O)R17、-S(=O)18、-SiR192021を表す。R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表す。R17は、水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R18は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R19~R21は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。Y は、アニオンを表す。)

一般式(2)
【化2】


(式中、X~X16は、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R22~R29は、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R30~R33は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。
34は、水素原子、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、-P(=O)R3536、-C(=O)R37、-S(=O)38、-SiR394041を表す。R35及びR36は、それぞれ独立に、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表す。R37は、水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R38は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R39~R41は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
下記一般式(1)または一般式(2)で表されるリンフタロシアニン。

一般式(1)
【化1】


(式中、X~Xは、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R~Rは、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R~R12は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、-P(=O)R1516、-C(=O)R17、-S(=O)18、-SiR192021を表す。R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表す。R17は、水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R18は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R19~R21は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。Y は、アニオンを表す。)

一般式(2)
【化2】


(式中、X~X16は、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R22~R29は、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R30~R33は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。R34は、水素原子、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、-P(=O)R3536、-C(=O)R37、-S(=O)38、-SiR394041を表す。R35及びR36は、それぞれ独立に、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表す。R37は、水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R38は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R39~R41は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識剤と、それに用いられるリンフタロシアニンに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオイメージングは、タンパク質や細胞、組織などを可視化する技術であり、生体内分子・細胞機能の解明や創薬の研究等、生物学、医学の研究領域で幅広く活用されている。 中でも蛍光バイオイメージング法は、現象の動的な観察、多色観察、高感度観察が可能なイメージング法である。さらに、近年では、蛍光バイオイメージング法は非侵襲的に診断可能なイメージング法として注目されており、患者への負担が少ない画像診断や手術中のリアルタイム診断など臨床現場における応用が期待されている。
【0003】
蛍光バイオイメージング法は、主に標的部位に吸着、あるいは、標的部位でのみ発光する蛍光色素を用い、その蛍光色素に紫外~近赤外領域の光を照射した際に色素が発する蛍光を検出することにより、標的を可視化する方法である。
【0004】
蛍光バイオイメージング用の色素(蛍光標識剤)の多くは、可視光領域に吸収を有するものであるが、可視光はエネルギーが強いため、光の照射によって色素が劣化し易いという問題があった。また、可視光領域に吸収や蛍光を示す色素は、色素に由来する蛍光だけではなく、生体の内在物質からの蛍光(自家蛍光)も検出されてしまうため、良好な画質が得られないという問題があった。加えて、可視光はヘモグロビンなどの身体を構成する物質によっても吸収されてしまうため、体内の深部まで光が到達せず、生体が生きている状態で血管や臓器を観察することは困難であるという問題があった。
【0005】
ところで、700~1800nmの波長領域は、生体の窓と呼ばれ、生体透過性の高い領域と言われている。現在は、生体の第1光学窓と言われる波長650~900nmに蛍光を発するインドシアニングリーンが、蛍光バイオイメージングの蛍光標識剤として用いられている。しかし、第1光学窓に蛍光を発する蛍光標識剤は、自家蛍光や光散乱の悪影響を無視することができず、深部に及ぶ鮮明なイメージングを得ることが困難であった。
【0006】
一方、生体の第2光学窓と呼ばれる1000~1400nmの領域での蛍光イメージングは、生体の第1光学窓に比べ、生体組織からの自家蛍光や散乱の悪影響を受けにくいため、生体深部の蛍光イメージングが可能になることが期待されている。したがって、鮮明で深部に及ぶイメージングを実現するためには、生体の第2光学窓に蛍光を示す蛍光標識剤が求められている。しかし、特許文献1に開示されているシアニン色素を用いた蛍光標識剤は、蛍光強度や耐光性が低いため、鮮明なイメージングが得られ難く、光の照射によって蛍光標識剤が劣化し易いという問題があった。
【0007】
一方、フタロシアニン色素は、優れた光学特性、高い蛍光強度、高い耐光性を有する色素として知られている。例えば、特許文献2には、フタロシアニン色素を含む蛍光標識剤が開示されている。しかしながら、いずれも蛍光波長が1000nm未満であり、高感度かつ安定した蛍光バイオイメージングを得ることはできないという問題があった。したがって、蛍光イメージングにおいて、鮮明で深部に及ぶ、安定したイメージングを行うために、生体の第2光学窓に蛍光を示す蛍光標識剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-231488号公報
【文献】特開2016-65205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、生体内で鮮明かつ深部に及ぶ安定したイメージングを行うための、1000nm以上の長波長の波長領域に強い蛍光を発するフタロシアニンとそれを含む蛍光標識剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、フタロシアニンの共役拡張、および中心元素としてリン元素を導入することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるリンフタロシアニンを含んでなる蛍光標識剤に関する。
【0012】
一般式(1)
【化1】

【0013】
(式中、X~Xは、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R~Rは、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R~R12は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、-P(=O)R1516、-C(=O)R17、-S(=O)18、-SiR192021を表す。R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表す。R17は、水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R18は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R19~R21は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。Y は、アニオンを表す。)
【0014】
一般式(2)
【化2】
【0015】
(式中、X~X16は、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R22~R29は、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R30~R33は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。R34は、水素原子、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、-P(=O)R3536、-C(=O)R37、-S(=O)38、-SiR394041を表す。R35及びR36は、それぞれ独立に、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表す。R37は、水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R38は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R39~R41は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。)
【0016】
また、本発明は、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるリンフタロシアニンに関する。
【0017】
一般式(1)
【化1】

【0018】
(式中、X~Xは、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R~Rは、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R~R12は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、-P(=O)R1516、-C(=O)R17、-S(=O)18、-SiR192021を表す。R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表す。R17は、水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R18は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R19~R21は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。Y は、アニオンを表す。)
【0019】
一般式(2)
【化2】
【0020】
(式中、X~X16は、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R22~R29は、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R30~R33は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。R34は、水素原子、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、-P(=O)R3536、-C(=O)R37、-S(=O)38、-SiR394041を表す。R35及びR36は、それぞれ独立に、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換のアルコキシル基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表す。R37は、水素原子、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R38は、水素原子、水酸基、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。R39~R41は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0021】
本発明により、生体内で鮮明かつ深部に及ぶ、安定したイメージングを行う蛍光標識剤を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、一般式(1)および(2)中の基について説明する。はじめに、R~R、R22~R29における無置換の脂肪族炭化水素基および無置換の芳香族炭化水素基について説明する。これらはいずれも一価の脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基を指す。
【0023】
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基等が挙げられる。
ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1~18であることが好ましい。
【0024】
また、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。シクロアルキル基の炭素数は、3~18であることが好ましい。
【0025】
芳香族炭化水素基としては、単環、縮合環、環集合およびこれらの組合せからなる芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0026】
ここで、単環芳香族炭化水素基としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,4-キシリル基、p-クメニル基、メシチル基等が挙げられる。単環芳香族炭化水素基の炭素数は、6~18であることが好ましい。
【0027】
また、縮合環芳香族炭化水素基としては、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナンスリル基、9-フェナンスリル基、1-アセナフチル基等が挙げられる。縮合環芳香族炭化水素基の炭素数は、10~18であることが好ましい。
【0028】
また、環集合芳香族炭化水素基としては、o-ビフェニリル基、m-ビフェニリル基、p-ビフェニリル基等が挙げられる。環集合芳香族炭化水素基の炭素数は、12~18であることが好ましい。
【0029】
次に、R~R12、R30~R33における無置換の芳香族炭化水素環および無置換の複素環について説明する。これらはいずれも一般式(1)または一般式(2)で示されたフタロシアニン環と縮合する環を意味する。ここで、芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環が挙げられる。
【0030】
また、複素環としては、脂肪族複素環、芳香族複素環が挙げられる。ここで、脂肪族複素環としては、イミダゾリジン環、2-イミダゾリン環、ピロリジン環、2-ピロリン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の脂肪族複素環が挙げられる。
【0031】
また、芳香族複素環としては、イミダゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環等の芳香族複素環が挙げられる。
次に、R13~R21、R34~R41における基について説明する。R13~R21、R34~R41において、無置換の脂肪族炭化水素基および無置換の芳香族炭化水素基は、上で説明したR~R、R22~R29における無置換の脂肪族炭化水素基および無置換の芳香族炭化水素基と同義である。
【0032】
アルコキシル基としては、直鎖又は分岐アルコキシル基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3-ジメチル-3-ペンチルオキシ基、n-へキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、ステアリルオキシ基、2-エチルへキシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシル基の炭素数は、1~6が好ましい。
【0033】
アリールオキシ基としては、アリールオキシ基中のアリール基が、単環または縮合環であるアリールオキシ基等が挙げられる。単環のアリールオキシ基であることが好ましい。
【0034】
ここで、単環のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基等が挙げられる。また、縮合環のアリールオキシ基としては、ナフチルオキシ基、アンスリルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基の炭素数は、6~12であることが好ましい。
【0035】
~Xは、第16族元素であり、酸素、硫黄、セレン、テルル等が挙げられる。この内、酸素、硫黄、セレンが好ましく、合成の容易さや安定性の点で酸素、硫黄がより好ましい。
は、一価のアニオンであり、特に限定されないが、ハロゲンイオン、水酸化物イオン、非求核性アニオン等が挙げられる。非求核性アニオンとしては、BF 、PF 、B(C 、B(C 等が挙げられるが、安定性の点でPF が好ましい。
【0036】
上記で説明した、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、芳香族炭化水素環、脂肪族複素環、芳香族複素環、アルコキシル基、アリールオキシ基は、さらに他の置換基によって置換されていても良い。そのような置換基としては、ハロゲン原子や、シリル基、シアノ基、アミノ基や、前述の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシル基、アリ-ルオキシ基等が挙げられる。その他、構造中の一部が、エーテル基(エーテル結合)やカルボニルオキシ基(エステル結合)等の原子団に置換されていても良い。例えば、置換脂肪族複素環としては、以下のようなものを挙げることができる。
【0037】
【化3】

【0038】
また、置換芳香族複素環としては、以下のようなものを挙げることができる。
【0039】
【化4】

【0040】
本発明のリンフタロシアニンは、中心配位元素としてリンを有し、フタロシアニン環のα位に16族元素が結合した構造を有することが特徴である。上記α位に電子供与性基が導入されると、フタロシアニンの最高被占軌道(HOMO)の軌道エネルギーレベルが、α位に電子供与性基を有さないよりも上昇し、フタロシアニンの最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の差(エネルギーギャップ)が小さくなるため、1000nm以上の長波長領域に吸収および蛍光波長を示すようになると考えられる。電子供与性基としては、上記α位に16族元素を直接結合した構造であることが効果的である。このような16族元素としては、酸素、硫黄、セレンが好ましく、合成の容易さや安定性の点で酸素、硫黄がより好ましい。
【0041】
一般式(1)で表されるリンフタロシアニンは、公知の方法で合成された一般式(3)で表される無金属フタロシアニンに、オキシハロゲン化リンを反応した後、アルコールまたは酸性化合物と反応させ、更に、アルカリ金属塩と反応させることにより合成できる。
【0042】
原料であるフタロニトリル誘導体が非対称の構造である場合、得られるフタロシアニンは置換基の位置が異なる異性体の混合物として得られる。本明細書においては、異性体の構造のうち一例を示す。
【0043】
一般式(3)
【化5】

【0044】
(式中、X~Xは、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R~Rは、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R~R12は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。)
【0045】
オキシハロゲン化リンとしては、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン等が挙げられる。オキシハロゲン化リンの使用量は、一般式(3)で表される無金属フタロシアニン1モルに対し、1倍モル~50倍モル、好ましくは5倍モル~30倍モルである。反応温度は0~120℃、好ましくは10~100℃である。反応時間は10分~20時間、好ましくは1時間~5時間である。反応においては、溶媒を使用することが好ましい。反応に使用される溶媒としては、ピリジン、キノリン、トリエチルアミン、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。溶媒の使用量は一般式(3)で表される無金属フタロシアニンの1~200倍容量、好ましくは10~100倍容量である。
【0046】
アルコールまたは酸性化合物の使用量は、一般式(3)で表される無金属フタロシアニン1モルに対し、5倍モル~5000倍モル、好ましくは10倍モル~3000倍モルである。反応温度は0~65℃、好ましくは10~40℃である。 反応時間は5分~10時間、好ましくは15分~2時間である。反応においては、溶媒を使用することが好ましい。反応に使用される溶媒としてはクロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、或いはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒が挙げられる。溶媒の使用量は、一般式(3)で表される無金属フタロシアニンの1~300倍容量、好ましくは5~200倍容量である。アルカリ金属塩の使用量は一般式(3)で表される無金属フタロシアニン1モルに対し、1倍モル~10倍モル、好ましくは1倍モル~5倍モルである。反応温度は0~100℃、好ましくは10~40℃である。 反応時間は5分~24時間、好ましくは1時間~15時間である。
【0047】
一般式(2)で表されるリンフタロシアニンは、公知の方法で合成された一般式(4)で表される無金属フタロシアニンに、オキシハロゲン化リンを反応した後、水と反応させることにより合成できる。その後、アルコールまたは酸性化合物と反応させることで、軸置換基を導入することができる。
【0048】
原料であるフタロニトリル誘導体が非対称の構造である場合、得られるフタロシアニンは置換基の位置が異なる異性体の混合物として得られる。本明細書においては、異性体の構造のうち一例を示す。
【0049】
一般式(4)
【化6】
【0050】
(式中、X~X16は、それぞれ独立に、第16族元素を表す。R22~R29は、それぞれ独立に、置換または無置換の脂肪族炭化水素基、置換または無置換の芳香族炭化水素基を表す。R30~R33は、それぞれ独立に、置換または無置換の芳香族炭化水素環、置換または無置換の複素環を表す。)
【0051】
オキシハロゲン化リンとしては、オキシ塩化リン、オキシ臭化リン等が挙げられる。オキシハロゲン化リンの使用量は、一般式(4)で表される無金属フタロシアニン1モルに対し、1倍モル~50倍モル、好ましくは5倍モル~30倍モルである。反応温度は0~120℃、好ましくは10~100℃である。反応時間は10分~48時間、好ましくは5時間~30時間である。反応においては、溶媒を使用することが好ましい。反応に使用される溶媒としては、ピリジン、キノリン、トリエチルアミン、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。溶媒の使用量は一般式(4)で表される無金属フタロシアニンの1~300倍容量、好ましくは10~150倍容量である。
【0052】
水の使用量は、一般式(4)で表される無金属フタロシアニン1モルに対し、5倍モル~5000倍モル、好ましくは10倍モル~3000倍モルである。アルコールまたは酸性化合物の使用量は、一般式(4)で表される無金属フタロシアニン1モルに対し、5倍モル~5000倍モル、好ましくは10倍モル~3000倍モルである。反応温度は0~65℃、好ましくは10~40℃である。 反応時間は5分~10時間、好ましくは15分~2時間である。反応においては、溶媒を使用することが好ましい。反応に使用される溶媒としてはクロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、或いはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒が挙げられる。溶媒の使用量は、一般式(4)で表される無金属フタロシアニンの1~300倍容量、好ましくは5~200倍容量である。
【0053】
(蛍光標識剤)
本発明の蛍光標識剤は、一般式(1)または一般式(2)で表されるリンフタロシアニンを含んでなることを特徴とする。本発明の蛍光標識剤の用途は特に限定されないが、例えば、タンパク質や生体内の低分子化合物を蛍光ラベルすることで、生体内での挙動を可視化することが挙げられる。これらの用途の場合、水中で蛍光標識剤が蛍光を発光する必要があるが、蛍光標識剤を水溶性とするか、水中に分散させることが好ましい。例えば、リンフタロシアニンにスルホン酸ナトリウム基やポリエチレングリコール基などを導入することにより水溶性とすることができるが、蛍光発光強度や分散安定性、耐光性の観点から、両親媒性物質とリンフタロシアニンを含む粒子を水中に分散させた分散体として使用することが好ましい。
【0054】
さらに、標的選択性を持たせるために、リンフタロシアニンを含む粒子に、ターゲット分子に結合する物質を修飾することが好ましい。ターゲット分子に結合する物質としては、ターゲット分子と特異的に結合する一次抗体、その一次抗体に結合する二次抗体、アビジン、ビオチンあるいは糖鎖などが挙げられる。
【0055】
(両親媒性物質)
水系で非水溶性の有機色素を使用する場合、両親媒性物質等で可溶化する方法が知られている。両親媒性物質とは、一つの分子内に親水基と疎水基を有する分子の総称であり、代表的なものとして界面活性剤やリン脂質等がある。両親媒性物質は一種類のみを使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。本実施形態に関わる両親媒性物質としては、特に限定されることはなく、本発明のリンフタロシアニンを可溶化することができればいかなるものでもよい。
【0056】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等を挙げることができる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60、Tween(登録商標)80等のポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル、Cremophor(登録商標)EL、Cremophor(登録商標)RH60等のポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、Solutol(登録商標)HS15等の12-ヒドロキシステアリン酸-ポリエチレングリコールコポリマー、Triton(登録商標)X-100、Triton(登録商標)X-114等のオクチルフェノールエトキシレート等を挙げることができる。
【0057】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム等のアルキルピリジニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化ポリ(N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム)等のアルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、ジアルキルモリホニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリアルキル、ポリエチレングリコール-ポリ乳酸、ポリエチレングリコール-ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール-ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール-ポリ(ラクチド-グリコリド)等のブロック共重合体等を挙げることができる。
【0058】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、デシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート並びにこれらのナトリウム、カリウム及びアンモニウム塩等が挙げられる。
【0059】
本発明における蛍光標識剤は、本発明のリンフタロシアニンを含有していれば、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、水や両親媒性物質等が挙げられる。
【0060】
(蛍光標識剤の作製方法)
本発明における蛍光標識剤の作製方法は、特に限定されないが、例えば、本発明のリンフタロシアニンと両親媒性物質を有機溶媒中に溶解した後、有機溶媒を留去し、水に再溶解させる方法、あるいは本発明のリンフタロシアニンと両親媒性物質を有機溶媒に溶解した溶液に水を注入し、有機溶媒を留去する方法等を挙げることができる。
【0061】
前者の方法では、有機溶媒の留去が容易であり、本発明のリンフタロシアニンと両親媒性物質の濃度も比較的容易に見積もることができるといった利点がある。有機溶媒の留去には、エバポレーター等による減圧留去装置が好適に用いられる。溶媒留去時の温度は、15℃から有機溶媒の沸点温度の範囲内で任意に設定することができる。水に再溶解させるときは、プロペラ撹拌機、タービン撹拌機、ボルテックスミキサー、撹拌子を用いたマグネティックスターラーによる撹拌、あるいは超音波照射装置による分散等が好適に用いられる。また、コロイドミル等を併用してもよい。
【0062】
後者の方法では、ミセル粒子を均一に調製し易いといった利点がある。有機溶媒に溶解した溶液に水を注入するとき、溶液は撹拌あるいは超音波照射した状態とし、水を短時間で注入することが好ましい。撹拌は上記と同様の装置で行うことができる。水注入時の温度は、15℃から有機溶媒の沸点より5℃低い温度の範囲内で任意に設定することができる。有機溶媒の留去は、撹拌あるいは超音波照射した状態で常圧の下に留去する方法、あるいはエバポレーター等により減圧留去する方法が好ましい。溶媒留去時の温度は、15℃から有機溶媒の沸点温度の範囲内で任意に設定することができる。
【0063】
上記の作製方法で使用される有機溶媒としては、ヘキサン、シクロへキサン、およびヘプタン等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒類、ピリジン誘導体等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。また、上記方法にて作製した蛍光標識剤を透析にかけることで、有機溶媒を除去してもよい。
【0064】
上記の作製方法で使用される水としては、イオン交換水、蒸留水、あるいは超純水を挙げることができる。細胞を扱う場合は、生理条件に近づけるために水に塩を加えた生理食塩水、さらにリン酸緩衝剤を加えたリン酸緩衝生理食塩水等を好適に用いることができる。
【実施例
【0065】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、特に断りのない限り、「部」とは、「モル部」を表し、「%」は「質量%」をそれぞれ表す。
【0066】
(製造例1)フタロニトリル誘導体1の製造
窒素雰囲気下、1,4-ジヒドロキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリル1部と水素化ナトリウム(パラフィン含有純度60%)2.1部を脱水ジメチルアセトアミド50部中25℃にて15分間攪拌した。その後、ヨウ化エチル2部を添加し、80℃にて9時間攪拌した。冷却後、メタノール350部を添加し、析出物をろ過により取り出し、80℃で乾燥させることで、フタロニトリル誘導体1を0.9部得た。
【0067】
(製造例2~23)フタロニトリル誘導体2~23の製造
製造例1で使用した1,4-ジヒドロキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリルおよびヨウ化エチルを、それぞれ表1に示す、Aで挙げた化合物およびBで挙げた化合物に変更した以外は、製造例1と同様に製造して、表1に示す、フタロニトリル誘導体2~23を得た。尚、表1に示す、Aで挙げた化合物およびBで挙げた化合物は、製造例1における1,4-ジヒドロキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリルおよびヨウ化エチルと同モル量使用した。
【0068】
【表1-1】



【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】

















【0069】
(製造例24)フタロニトリル誘導体24の製造
1,4-ジヒドロキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリル1部と炭酸カリウム4部、トシルクロライド2部をアセトン20部中内温55℃にて4.5時間還流した。冷却後、水330部を加え、1時間攪拌し、析出物をろ過により取り出し、60℃で乾燥させることで、1,4-ビス(p-トルエンスルホニルオキシ)-2,3-ナフタレンジカルボニトリルを0.7部得た。1,4-ビス(p-トルエンスルホニルオキシ)-2,3-ナフタレンジカルボニトリル0.7部とベンゼンチオール1.4部、炭酸カリウム2.8部をジメチルスルホキシド100部中25℃にて23時間攪拌した。水330部で反応を停止し、クロロホルム80部で抽出を行った。抽出液を無水硫酸マグネシウムで水分を除去した後、酢酸エチル/ヘキサンでカラムクロマトグラフィーを行い、フタロニトリル誘導体24を0.3部得た。
【0070】
(製造例25~39)フタロニトリル誘導体25~39の製造
製造例24で使用した1,4-ジヒドロキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリルおよびベンゼンチオールを、それぞれ表2に示す、Cで挙げた化合物およびDで挙げた化合物に変更した以外は、製造例24と同様に製造して、表2に示すフタロニトリル誘導体25~39を得た。尚、表2に示す、Cで挙げた化合物およびDで挙げた化合物は、製造例24における1,4-ジヒドロキシ-2,3-ナフタレンジカルボニトリルおよびベンゼンチオールと同モル量使用した。














【0071】
【表2-1】


【表2-2】

【表2-3】
【表2-4】
【0072】
(製造例40)フタロニトリル誘導体40の製造
2,6-ジメトキシ-4,5-ジアミノフタロニトリル1部とパラホルムアルデヒド1部をアセトニトリル20部に溶解させ、30%過酸化水素水30部と濃塩酸10部を添加した。25℃にて2時間攪拌した後、水500部に炭酸水素ナトリウム5部を溶解した水溶液を添加し、析出した固体をろ取し、水170部で洗浄を行った。80℃で乾燥させた後、窒素雰囲気下、脱水ジメチルアセトアミド4部と水素化ナトリウム(パラフィン含有純度60%)0.9部を添加し、25℃にて、15分攪拌した。その後、ヨウ化エチル0.9部を添加し、80℃にて9時間攪拌した。冷却後、水170部を添加し、析出物をろ過により取り出し、80℃で乾燥させることで、フタロニトリル誘導体40を0.8部得た。
【0073】
(製造例41~43)フタロニトリル誘導体41~43の製造
製造例40で使用した2,6-ジメトキシ-4,5-ジアミノフタロニトリル、パラホルムアルデヒド、ヨウ化エチルを、それぞれ表3に示す、Eで挙げた化合物、Fで挙げた化合物、Gで挙げた化合物に変更した以外は、製造例40と同様に製造して、表3に示す、フタロニトリル誘導体41~43を得た。尚、表3に示す、Eで挙げた化合物、Fで挙げた化合物、Gで挙げた化合物は、製造例40における2,6-ジメトキシ-4,5-ジアミノフタロニトリル、パラホルムアルデヒド、ヨウ化エチルと同モル量使用した。
【0074】
【表3】
【0075】
(製造例44)フタロニトリル誘導体44の製造
2,6-ジメトキシ-4,5-ジアミノフタロニトリル1部と1,1’-カルボニルジイミダゾール1部をアセトニトリル20部に溶解させ、30%過酸化水素水30部と濃塩酸10部を添加した。25℃にて2時間攪拌した後、水500部に炭酸水素ナトリウム5部を溶解した水溶液を添加し、析出した固体をろ取し、水170部で洗浄を行った。80℃で乾燥させた後、窒素雰囲気化、脱水ジメチルアセトアミド4部と水素化ナトリウム(パラフィン含有純度60%)2.0部を添加し、25℃にて、15分攪拌した。その後、ヨウ化エチル2.0部を添加し、80℃にて9時間攪拌した。冷却後、水170部を添加し、析出物をろ過により取り出し、80℃で乾燥させることで、フタロニトリル誘導体44を0.8部得た。
【0076】
(製造例45~47)フタロニトリル誘導体45~47の製造
製造例44で使用した2,6-ジメトキシ-4,5-ジアミノフタロニトリルおよびヨウ化エチルを、それぞれ表4に示す、Hで挙げた化合物およびIで挙げた化合物に変更した以外は、製造例44と同様に製造して、表4に示す、フタロニトリル誘導体45~47を得た。尚、表4に示す、Hで挙げた化合物およびIで挙げた化合物は、製造例44における2,6-ジメトキシ-4,5-ジアミノフタロニトリルおよびヨウ化エチルと同モル量使用した。
【0077】
【表4】
【0078】
(製造例48)無金属フタロシアニン1の製造
1-ブタノール1部に金属リチウム7部を溶解させたリチウム溶液に、フタロニトリル誘導体1を1部添加し、内温110℃にて5.5時間攪拌した。メタノール10部と塩酸1部を加え、室温にて3時間攪拌した後、析出物をろ過により取り出し、60℃で乾燥させ、表5に記載した構造を有する無金属フタロシアニン1を0.2部得た。
【0079】
(製造例49~94)無金属フタロシアニン2~47の製造
製造例48で使用したフタロニトリル誘導体1を、表5に示すフタロニトリル誘導体を等モル部に変更した以外は、製造例48と同様に製造して、それぞれ対応する無金属フタロシアニン2~47を得た。
【0080】
【表5-1】

【表5-2】

【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【表5-6】
【表5-7】
【表5-8】
【表5-9】


【表5-10】
【表5-11】
【表5-12】

【表5-13】
【0081】
(実施例1)リンフタロシアニン1の製造
窒素雰囲気下、無金属フタロシアニン1を1部ピリジン10部に溶解させ、リン酸オキシブロミド15.7部を加え、80℃にて3時間攪拌した。冷却後、エバポレーターを用いてピリジンを除去し、エタノール150部とジクロロメタン50部を加え1時間25℃にて攪拌した。その後、ヘキサフルオロリン酸カリウムを15部加え、25℃にて12時間攪拌した。ジクロロメタンとヘキサンを用いて再結晶を行い、表6に示す構造を有するリンフタロシアニン1を0.4部得た。得られたリンフタロシアニン1の構造は、マススペクトル(ブルカーダルトニクス社製、AutoflexII)、によって同定した。マススペクトルでは、m/z(positive)=1187.32(理論値1186.30)、m/z(negative)=143.54(理論値114.96)に分子イオンピークが検出され、表6に記載したリンフタロシアニン1の構造を有することを確認した。
【0082】
(実施例2~47)リンフタロシアニン2~47の製造
実施例1で使用した無金属フタロシアニン1およびエタノールを、それぞれ表6に示す、無金属フタロシアニンおよびJで挙げた化合物に変更した以外は、実施例1と同様に製造して、表6に示すリンフタロシアニン2~47を得た。尚、それぞれ表6に示す、無金属フタロシアニンおよびJで挙げた化合物は、実施例1における無金属フタロシアニン1およびエタノールと同モル量使用した。得られたリンフタロシアニン2~47の構造は、マススペクトルによって同定し、表6に示した構造を有することが確認された。表7にマススペクトルの分析結果を示す。

【表6-1】




【表6-2】

【表6-3】
【表6-4】



【表6-5】
【表6-6】

【表6-7】
【表6-8】
【表6-9】




【表6-10】
【表6-11】
【表6-12】



【表6-13】























【表7-1】
【表7-2】
【0083】
(実施例48)リンフタロシアニン48の製造
窒素雰囲気下、無金属フタロシアニン1を1部ピリジン10部に溶解させ、リン酸オキシブロミド15.7部を加え、80℃にて3時間攪拌した。冷却後、エバポレーターを用いてピリジンを除去し、リン酸ジフェニル10部、ジメチルスルホキシド150部を加え、85℃で3時間反応させた後、反応溶液を水150部に添加した。析出物をろ過し、ジクロロメタン80部に溶解させた。その後、ヘキサフルオロリン酸カリウムを15部加え、25℃にて12時間攪拌した。ジクロロメタンとヘキサンを用いて再結晶を行い、表8に示す構造を有するリンフタロシアニン48を0.1部得た。得られたリンフタロシアニン48の構造は、マススペクトル、によって構造を同定した。マススペクトルでは、m/z(positive)=1595.57(理論値1594.54)、m/z(negative)=143.87(理論値144.96)に分子イオンピークが検出され、表8に記載したリンフタロシアニン48の構造を有することを確認した。
【0084】
(実施例49~73)リンフタロシアニン49~73の製造
実施例48で使用した無金属フタロシアニン1およびリン酸ジフェニル、ヘキサフルオロリン酸カリウムを、それぞれ表8に示す、無金属フタロシアニンおよびK、Fで挙げた化合物に変更した以外は、実施例48と同様に製造して、表8に示すリンフタロシアニン49~73を得た。尚、それぞれ表8に示す、無金属フタロシアニンおよびK、Fで挙げた化合物は、実施例48における無金属フタロシアニン1およびリン酸ジフェニル、ヘキサフルオロリン酸カリウムと同モル量使用した。得られたリンフタロシアニン49~73の構造は、マススペクトルによって同定し、表8に示した構造を有することが確認された。表9にマススペクトルの分析結果を示す。

【表8-1】
【表8-2】

【0085】
【表8-3】
【0086】
【表8-4】

【0087】
【表8-5】


【0088】
【表8-6】
【0089】
【表9】
【0090】
(実施例74)リンフタロシアニン74の製造
窒素雰囲気下、ピリジン10部に無金属フタロシアニン1を1部溶解させ、リン酸オキシブロミド15.7部を添加後、80℃で1時間攪拌を行った。次に、反応物を25℃まで冷却し、水200部を添加し、析出した固体をろ過後、水200部で洗浄を行った。その後、イオン交換水を200部添加し、2時間攪拌を行った。ろ過後、80℃で乾燥し、0.6部の表10に示すリンフタロシアニン74を得た。得られたリンフタロシアニン74の構造は、マススペクトルによって同定した。マススペクトルでは、m/z(positive)=1129.98(理論値1129.18)に分子イオンピークが検出され、表10に記載したリンフタロシアニン74の構造を有することを確認した。
【0091】
(実施例75~77)リンフタロシアニン75~77の製造
実施例74で使用した無金属フタロシアニン1とイオン交換水を、表10に示す、無金属フタロシアニンとGで挙げた化合物に変更した以外は、実施例74と同様に製造して、表10に示すリンフタロシアニン75~77を得た。尚、それぞれ表10に示す、無金属フタロシアニンとGで挙げた化合物は、実施例74における無金属フタロシアニン1及びイオン交換水と同モル量使用した。得られたリンフタロシアニン75~77の構造は、マススペクトルによって同定し、表10に示した構造を有することを確認した。表11にマススペクトルの分析結果を示す。
















【0092】
【表10】






【0093】
【表11】
【0094】
(実施例78)リンフタロシアニン78の製造
窒素雰囲気下、ピリジン10部に無金属フタロシアニン1を1部溶解させ、リン酸オキシブロミド15.7部を添加後、80℃で1時間攪拌を行った。次に、反応物を25℃まで冷却し、水200部を添加し、析出した固体をろ過後、水200部で洗浄を行った。ジメチルスルホキシド150部に溶解させ、リン酸ジフェニル10部を添加後、90℃で6時間反応を行った。その後、反応物を25℃まで冷却し、水200部を添加し、析出した固体をろ過後、水200部で洗浄を行った。80℃で乾燥し、0.6部の表10に示すリンフタロシアニン78を得た。得られたリンフタロシアニン78の構造は、マススペクトルによって同定した。マススペクトルでは、m/z(positive)=1362.24(理論値1361.35)に分子イオンピークが検出され、表12に記載したリンフタロシアニン78の構造を有することを確認した。
【0095】
(実施例79~82)リンフタロシアニン79~82の製造
実施例78で使用した無金属フタロシアニンとリン酸ジフェニルを、表12に示す、無金属フタロシアニンとHで挙げた化合物に変更した以外は、実施例78と同様に製造して、表12に示すリンフタロシアニン79~82を得た。尚、それぞれ表12に示す、無金属フタロシアニン及びHで挙げた化合物は、実施例78における無金属フタロシアニン及びリン酸ジフェニルと同モル量使用した。得られたリンフタロシアニン79~82の構造は、マススペクトルによって同定し、表12に示した構造を有することが確認された。表13にマススペクトルの分析結果を示す。
【表12-1】
【0096】
【表12-2】
【0097】
【表13】
【0098】
(実施例83)リンフタロシアニンを含む蛍光標識剤D-1の調整
リンフタロシアニン1を1質量部、両親媒性物質としてポリエチレングリコール(PEG)・ポリカプロラクトン(PCL)ブロック共重合体(シグマアルドリッチ社製、PEG分子量5000、PCL分子量5000)100質量部をアセトン20000質量部に溶解した。得られたアセトン溶液を25℃で撹拌下、水25000質量部を滴下した。さらに、25℃で12時間撹拌することでアセトンを留去した後、0.45μmナイロン製メンブレンフィルターでろ過して、リンフタロシアニン1がPEG-PCLミセル内に可溶化された分散体からなる蛍光標識剤D-1を作製した。
【0099】
(実施例84~164)リンフタロシアニンを含む蛍光標識剤D-2~D-82の調整
実施例83で使用したリンフタロシアニン1を、表14に示すリンフタロシアニンに変更した以外は、実施例83と同様に作製して、それぞれ対応する分散体D2~D82を得た。尚、リンフタロシアニンは、実施例83におけるリンフタロシアニン1と同モル量使用した。
【0100】
【表14-1】
【0101】
【表14-2】
【0102】
(比較例1)蛍光標識材S-1の調整
1000nm以上の波長領域に蛍光を発する色素として、リンフタロシアニンを比較化合物であるシアニン色素IR1061(2,6-ジフェニル-4-[2-[2-クロロ-3-[2-(2,6-ジフェニル-1-チア-2,5-シクロヘキサジエン-4-イリデン)エチリデン]-1-シクロへキセニル]エテニル]-1-チアベンゼン-1-イウム・テトラフルオロボレート)に変更した以外は、実施例83と同様に作製し、分散体S-1を得た。尚、IR1061は、実施例83におけるリンフタロシアニン1と同モル量使用した。
【0103】
(蛍光標識剤の蛍光強度評価)
HeLa細胞を96ウェルプレートに播種(5×10cell/well)し、10%Fetal Bovine Serum(FBS)および1%ペニシリン―ストレプトマイシンを含ませたMinimum Essential Media(MEM)を用いて、インキュベーター(37℃、5%CO含有Air、加湿環境)内で24時間培養した。その後、培地を取り除き、実施例83~164、比較例1にて作製した各分散体を水で10倍希釈したものを添加し、インキュベーター内に24時間静置した後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。In vivо蛍光イメージングシステム(島津製作所社製、SAI-1000)を用いて、蛍光強度評価を行った。分散体S-1の最大蛍光強度を1とした時の、各々の蛍光標識剤の蛍光強度を算出した。蛍光強度の相対値が2以上である場合、各リンフタロシアニンは蛍光標識剤としての特性が良好であるといえる。表15に蛍光強度評価結果を示す。
△:蛍光強度1以上、2未満(不良)
〇:蛍光強度2以上、4未満(良好)
◎:蛍光強度4以上(極めて良好)
【0104】
(蛍光標識剤の耐光性評価)
作製した分散体D-1~D-82、S-1について、光安定性を評価するため、In vivо蛍光イメージングシステム(島津製作所社製、SAI-1000)を用いて30分間光照射し、光照射前後の吸収スペクトルを分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100)を用いてそれぞれ測定した。光照射前の最大吸収波長の吸光度Iと光照射後の最大吸収波長の吸光度Iを記録し、I/I値を耐光性の指標とした。評価が〇であれば良好である。表11に耐光性評価結果を示す。
〇:I/Iが0.9以上(良好)
×:I/Iが0.9未満(不良)





【0105】
【表15-1】
【0106】
【表15-2】
【0107】
本発明のリンフタロシアニンを用いて作製した分散体D-1~D-82(実施例83164)は、いずれも1000nm以上の長波長領域に強い蛍光を発することが観察され、分散体S-1(比較例1)よりも蛍光強度、耐光性が良好であった。このことから、本発明のフタロシアニンは、優れた蛍光標識剤としての特性を有することが明らかとなった。