(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子、及びコア/シェル型半導体ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 25/14 20060101AFI20230418BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20230418BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230418BHJP
C09K 11/72 20060101ALI20230418BHJP
C09K 11/08 20060101ALN20230418BHJP
C09K 11/70 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
C01B25/14 ZNM
B82Y20/00
B82Y30/00
C09K11/72
C09K11/08 G
C09K11/70
(21)【出願番号】P 2019561589
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046864
(87)【国際公開番号】W WO2019131402
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017253304
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】森山 喬史
(72)【発明者】
【氏名】本吉 亮介
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0306227(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0179338(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03184603(EP,A1)
【文献】国際公開第2017/188300(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/14
B82Y 20/00
B82Y 30/00
C09K 11/72
C09K 11/08
C09K 11/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、In、P、Zn及びSを含む半導体ナノ粒子であって、
前記P、前記Zn、前記S、及び、ハロゲンを、前記Inに対するモル比で、
Pを0.50~0.95、
Znを0.30~1.00、
Sを0.10~0.50、
ハロゲンを0~0.30
の範囲で含む、半導体ナノ粒子。
【請求項2】
前記ハロゲンのInに対するモル比が0.03~0.30である請求項1に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項3】
吸収スペクトルの最大ピークの半値幅(Abs.FWHM)が60nm以下である、請求項1又は2に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の半導体ナノ粒子をコアとし、当該コアの表面の少なくとも一部を被覆するシェルを備えた構造である、コア/シェル型半導体ナノ粒子。
【請求項5】
前記シェルが、下記(a)及び下記(b)から選ばれる1以上から成る、請求項4に記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子。
(a)少なくとも、IIIB族元素から選ばれる1以上の元素とVB族元素から選ばれる1以上の元素とを含むIIIB-VB族化合物
(b)少なくとも、IIB族元素から選ばれる1以上の元素とVIB族元素から選ばれる1以上の元素とを含むIIB-VIB族化合物
【請求項6】
前記シェルが、下記(i)、下記(ii)及び下記(iii)からなる群より選択される何れかを含む多層構造である、請求項5に記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子。
(i)組成の異なる二種以上の前記IIIB-VB族化合物(a)
(ii)組成の異なる二種以上の前記IIB-VIB族化合物(b)
(iii)前記IIIB-VB族化合物(a)と前記IIB-VIB族化合物(b)との組み合わせ
【請求項7】
前記シェルを構成する元素の濃度が当該シェルの厚み方向において変化する、請求項4乃至6の何れか一項に記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子。
【請求項8】
前記IIIB族元素から選ばれる1以上の元素の数、前記VB族元素から選ばれる1以上の元素の数、前記IIB族元素から選ばれる1以上の元素の数、及び、前記VIB族元素から選ばれる1以上の元素の数、の少なくとも1つが複数である、請求項5
、請求項6、請求項5を引用する請求項7、及び、請求項6を引用する請求項7の何れか一項に記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子。
【請求項9】
前記シェルが、少なくともZn、S及びSeを含む、請求項4乃至8の何れか一項に記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子。
【請求項10】
前記シェルが、Zn及びSを含む化合物とZn及びSeを含む化合物とから成る二層構造である、請求項4及至9に記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子。
【請求項11】
量子効率(QY)が70%以上である、請求項4乃至10の何れか一項に記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子。
【請求項12】
発光スペクトルの半値幅(FWHM)が40nm以下である、請求項4乃至11の何れか一項に記載のコア/シェル型半導体ナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子、及び該半導体ナノ粒子をコアとするコア/シェル型半導体ナノ粒子に関する。
本出願は、2017年12月28日出願の日本出願第2017-253304号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
量子閉じ込め効果が発現するほど微小な半導体ナノ粒子は、粒径に依存したバンドギャップを有する。光励起、電荷注入等の手段によって半導体ナノ粒子内に形成された励起子は、再結合によりバンドギャップに応じたエネルギーの光子を放出するため、半導体ナノ粒子の組成とその粒径を適切に選択することにより、所望の波長での発光が得られる。
発光の半値幅(FWHM)は主に粒度分布に起因しており、均一な粒径の粒子を作製することにより色純度を高めることができる。これらの性質はカラーディスプレイや照明、セキュリティインク等に利用される。
可視光での発光にはCdカルコゲナイド半導体ナノ粒子やInPをベースとした半導体ナノ粒子が用いられる。InP系半導体ナノ粒子は有害なCdを含まないため有用であるが、一般的に量子効率(QY)やFWHMはCd系のものに劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2015/0083969号明細書
【文献】米国特許第9334440号
【文献】米国特許第8221651号
【文献】米国特許出願公開第2017/0179338号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sungwoo Kim, et al, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 3804-3809, “Highly Luminescent InP/GaP/ZnS Nanocrystals and Their Application to White Light-Emitting Diodes”
【文献】Heloise Virieux, et al, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 19701-19708, “InP/ZnS Nanocrystals: Coupling NMR and XPS for Fine Surface and Interface Description”
【文献】Shu Xu, et al, J. Mater. Chem., 2008, 18, 2653-2656, “Rapid synthesis of highly luminescent InP and InP/ZnS nanocrystals”
【文献】Liang Li, et al., J. AM. CHEM. SOC. 2008, 130, 11588-11589, “One-pot Synthesis of Highly Luminescent InP/ZnS Nanocrystals without Precursor Injection”
【文献】Aude Buffard, et al, Chem. Mater., 2016,28(16), pp 5925-5934, “Mechanistic Insight and Optimization of InP Nanocrystals Synthesized with Aminophosphines”
【文献】Jaehoon Lim, et al, Chem. Mater. 2011, 23, 4459-4463, “InP@ZnSeS, Core@Composition Gradient Shell Quantum Dots with Enhanced Stability”
【文献】Shu Xu, et al., Sci. Adv. Mater. 1, 125-137, 2009, “Optical and Surface Characterisation of Capping Ligands in the Preparation of InP/ZnS Quantum Dots”
【文献】Derrick W., et al., Chem. Mater., 2005, 17 (14), pp 3754-3762, “Monodispersed InP Quantum Dots Prepared by Colloidal Chemistry in a Noncoordinating Solvent”
【文献】Natalia Mordvinova, et al., Dalton Trans., 2017, 46, 1297-1303, “Highly luminescent core-shell InP/ZnX (X = S, Se) quantum dots prepared via a phosphine synthetic route”
【文献】Francesca Pietra, et al., ACS Nano, 2016,10 (4), pp 4754-4762, “Tuning the Lattice Parameter of InxZnyP for Highly Luminescent Lattice-Matched Core/Shell Quantum Dots”
【文献】Y. Sahoo, et al., J. Phys. Chem. B 2005, 109, 15221-15225, “Chemically Fabricated Magnetic Quantum Dots of InP:Mn”
【文献】Kipil Lim, et al.,Nanotechnology 23 (2012) 485609 (7pp), “Synthesis of blue emitting InP/ZnS quantum dots through control of competition between etching and growth”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
量子ドットと呼ばれる半導体ナノ粒子は一般に樹脂や溶媒に分散させた分散液として調製され利用される。量子ドットはコアである半導体ナノ粒子の表面にシェルを形成させたコア/シェル型半導体ナノ粒子としての構造をとることが多い。コア/シェル型半導体ナノ粒子にすることによって、耐候性を高める、光閉じ込め効果を増大するなどの特性を半導体ナノ粒子に与えることができるためである。
しかしながら、コア/シェル型半導体ナノ粒子の光学特性である発光スペクトルの半値幅(FWHM)、発光波長、さらに量子効率(QY)はコア部分である半導体ナノ粒子の光学特性が大きく起因している。
【0006】
すなわち、コアである半導体ナノ粒子の量子効率(QY)が低ければ、いくら高い光閉じ込め効果を有するシェルをコアの表面に形成したとしても、コア/シェル型半導体ナノ粒子の量子効率(QY)は低いままである。また、コアである半導体ナノ粒子の粒度分布が広ければコア/シェル型半導体ナノ粒子の粒度分布に起因する発光スペクトルの半値幅(FWHM)は広くなる。
【0007】
従って、量子効率(QY)が高く、半値幅(FWHM)が狭い半導体ナノ粒子さえ得られれば、その表面上に適切な方法で適切なシェルを形成することで、量子効率(QY)が高く、半値幅(FWHM)が狭いコア/シェル型半導体ナノ粒子を得ることが可能になる。
【0008】
そこで本発明は、量子効率(QY)が高く、半値幅(FWHM)が狭い半導体ナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはコアである半導体ナノ粒子の組成について鋭意研究を行った結果、高い光学特性を有する半導体ナノ粒子を得ることができ、その結果、シェルの組成や構造に関わらず、コア/シェル型半導体ナノ粒子としても高い光学特性を得ることを可能にした。
本発明の一態様に係る半導体ナノ粒子は、
少なくとも、In、P、Zn及びSを含む半導体ナノ粒子であって、
前記In以外の前記各成分を、Inに対するモル比で、
Pを0.50~0.95、
Znを0.30~1.00、
Sを0.10~0.50、
ハロゲンを0~0.30
の範囲で含む、半導体ナノ粒子、である。
なお、本願において「~」で示す範囲は、その両端に示す数字を含んだ範囲とする。
また、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「半導体ナノ粒子」とは、シェルを有しない半導体ナノ粒子を意味し、「コア/シェル型半導体ナノ粒子」とは、前記「半導体ナノ粒子」をコアとし、このコアの表面にシェルを有する半導体ナノ粒子を意味するものと定義する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学特性の優れた半導体ナノ粒子を提供することができ、その結果、コア/シェル型半導体ナノ粒子としても優れた光学特性を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子(InP系半導体ナノ粒子)の吸収スペクトルの一例の概略を表す図である。
【
図2A】本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子の形態の一例の概略を表す図である。
【
図2B】本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子の形態の一例の概略を表す図である。
【
図2C】本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子の形態の一例の概略を表す図である。
【
図2D】本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子の形態の一例の概略を表す図である。
【
図2E】本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子の形態の一例の概略を表す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子及びコア/シェル型半導体ナノ粒子を製造可能な連続流反応システムの一例の概略を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明により提供される半導体ナノ粒子は、少なくともIn、Zn、P、Sからなる半導体ナノ粒子であり、好ましくは少なくとも1種のハロゲンを含む半導体ナノ粒子である。
【0013】
(コア)
以下に、InP系半導体ナノ粒子の合成に関する例を開示する。
本発明の実施形態に係るInP系半導体ナノ粒子を合成する際には、Zn元素の存在下で行われる。
これにより、粒度の揃ったInP系半導体ナノ粒子が得られ、また、InP系半導体ナノ粒子をコアとし、表面にシェルを形成したコア/シェル型InP系半導体ナノ粒子にした際に比較的高い量子効率(QY)が得られる。その理由として、Zn元素がP源の反応を抑制するため、又は成長するInPナノ結晶表面の欠陥部位となりうる部分に結合し粒子の表面を安定化させるためと発明者らは推測している。
【0014】
本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子においては、Pの含有率がInに対するモル比で0.50~0.95であるときに、適切なシェルを半導体ナノ粒子の表面上に形成することで特に優れた量子効率を達成できる。
In前駆体としては、例えば、酢酸インジウム、プロピオン酸インジウム、ミリスチン酸インジウム及びオレイン酸インジウム等のカルボン酸インジウム、フッ化インジウム、塩化インジウム、臭化インジウム及びヨウ化インジウム等のハロゲン化インジウム、インジウムチオラート、及びトリアルキルインジウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
P前駆体としては、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン、トリス(トリメチルゲルミル)ホスフィン、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン、トリス(ジオクチルアミノ)ホスフィン、トリアルキルホスフィン及びPH3ガス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
P前駆体としてトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを使用した場合、Si元素が半導体ナノ粒子の組成として組み込まれる場合があるが、本発明の作用を害するものではない。なお、その他、本発明においては本発明の作用効果を害さない限り、半導体ナノ粒子中に、In、P、Zn及びS以外の元素が不可避的又は意図的に含まれていてもよく、例えばSi、Geをはじめとする元素が含まれていても良い。半導体ナノ粒子において、In、P、Zn及びS以外の元素の含有率は合計でInに対するモル比で0.001~0.40であればよい。
【0016】
Zn前駆体としては、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛及びオレイン酸亜鉛等のカルボン酸亜鉛、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛及びヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛、亜鉛チオラート、及びジアルキル亜鉛等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。半導体ナノ粒子におけるZnの含有率はInに対するモル比で0.30~1.00であればよく、さらには0.60~0.90であることが好ましい。
【0017】
In前駆体とZn前駆体、溶媒を混合し、金属前駆体溶液を作製する。金属前駆体溶液には、必要に応じて後段で例示する分散剤を追加することができる。分散剤はナノ粒子の表面に配位し、粒子同士の凝集を防ぎ安定的に溶媒中に分散させる働きをもつ。なお、金属前駆体に長鎖の炭素鎖をもつものが含まれる場合、それが分散剤としての役割を果たすのでその場合は必ずしも分散剤を追加する必要はない。
【0018】
分散剤としては、カルボン酸類、アミン類、チオール類、ホスフィン類、ホスフィンオキシド類、ホスフィン酸類及びホスホン酸類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。分散剤は溶媒を兼ねることもできる。
【0019】
溶媒としては、1-オクタデセン、ヘキサデカン、スクアラン、オレイルアミン、トリオクチルホスフィン及びトリオクチルホスフィンオキシドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
InP系半導体ナノ粒子の合成には、さらにS源が添加される。特定量のSがコア粒子に含まれることにより、InP系半導体ナノ粒子のサイズ分布をさらに狭くすることができる。
S源としては、硫化トリオクチルホスフィン、硫化トリブチルホスフィン、チオール類及びビス(トリメチルシリル)スルフィドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。半導体ナノ粒子におけるSの含有率は、Inに対してモル比で0.10~0.50となるようにすればよく、さらには0.20~0.50となるようにすることが好ましい。
【0021】
ここで用いられたZn及びS元素は半導体ナノ粒子内部に組み込まれてもよく、当該粒子の表面のみに存在しても良い。
ある実施形態では、In前駆体、Zn前駆体、S前駆体、及び必要に応じて分散剤を溶媒中に添加した金属前駆体溶液を真空下で混合し、100℃~300℃で6~24時間一旦加熱後、さらにP前駆体を添加して200℃~400℃で3~60分加熱後冷却することで、InP半導体ナノ粒子を含む分散液を得る。
【0022】
従来の技術(特許文献1~4、非特許文献1~12)では、半導体ナノ粒子形時にZn前駆体あるいはS前駆体を添加していない、あるいは、添加していたとしても本発明の範囲外の組成であるため、本発明と比較して光学特性の低い半導体ナノ粒子が得られる。
【0023】
(ハロゲン)
本発明においては、InP系半導体ナノ粒子に、更にハロゲン前駆体を作用させることで、InP系半導体ナノ粒子をコアとし、その表面にシェルを形成したコア/シェル型InP系半導体ナノ粒子にした際に比較的高い量子効率(QY)が得られる。
その理由として、ハロゲンの添加はIn3+とZn2+のつなぎとしてダングリングボンドを埋め、陰イオンの電子に対する閉じ込め効果を増大させる効果を与えると発明者らは推測している。また、ハロゲンは高い量子効率(QY)を与え、コア粒子の凝集を抑える効果があると発明者らは推測している。
【0024】
本発明の実施形態に係る半導体ナノ粒子がハロゲンを含む場合には、半導体ナノ粒子におけるハロゲンの含有率はInに対してモル比で0.03~0.30であることが好ましく、0.10~0.30であることがより好ましい。
ハロゲンは少なくとも1種選択される。2種以上選択される場合は、半導体ナノ粒子におけるハロゲンの合計量がInに対して上記のモル比であればよい。
【0025】
ハロゲン前駆体としてはHF、HCl、HBr、HI、塩化オレオイル及び塩化オクタノイル等のカルボン酸ハロゲン化物、及び、塩化亜鉛、塩化インジウム及び塩化ガリウム等のハロゲン化金属が挙げられるが、これに限定されるものではない。
ハロゲンはハロゲン化インジウムやハロゲン化亜鉛の形で、既出のInやZnの前駆体として同時に添加することもできる。
ハロゲン前駆体の添加は、InP系半導体ナノ粒子の合成前でも合成後でも、さらには合成の途中でも構わず、例えば前記InP系半導体ナノ粒子の分散液に添加してもよい。
ある実施形態ではInP系半導体ナノ粒子分散液にハロゲン前駆体を添加し、25℃~300℃、好ましくは100℃~300℃、より好ましくは170℃~280℃で5分~360分加熱処理することで、ハロゲン添加されたInP系半導体ナノ粒子分散を得る。
【0026】
(測定:半導体ナノ粒子[コア])
こうして得られるInP系半導体ナノ粒子の元素分析は高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)と蛍光X線分析装置(XRF)を用いて行われる。ICP測定では精製した半導体ナノ粒子を硝酸で溶解し加熱後、水に希釈してICP発光分析装置(島津製作所製、ICPS-81000)を用いて検量線法で測定する。XRF測定は分散液を濾紙に含浸させたものをサンプルホルダに入れ蛍光X線分析装置(リガク製、ZSX100e)を用いて定量分析を行う。
【0027】
InP系半導体ナノ粒子の光学特性は紫外可視赤外分光光度計(日本分光製、V-570)を用いて測定できる。得られたInP系半導体ナノ粒子を分散液に分散させ、紫外~可視光をあてて得られた吸収スペクトルより吸収ピーク波長と半値幅(Abs. FWHM)を算出する。分散液は例えばノルマルヘキサンやオクタデセンが挙げられる。
【0028】
図1に、ある実施形態のInP系半導体ナノ粒子の吸収スペクトルを示す。
吸収スペクトルの極大値を吸収ピーク波長とする。吸収スペクトルの半値幅(Abs. FWHM)は以下のように算出する。
吸収スペクトルのピーク波長よりも長波長側のスペクトルのベースラインを基線(
図1中破線)とし、吸収スペクトルの極大値からその基線に下した線(
図1中点線)と基線との交点と、吸収スペクトルの極大値とを2等分した点(点A、
図1中白抜き丸)をとる。点Aを通り、基線に平行な線を引き、吸収スペクトルの長波長側との交点(点B、図中黒丸)とAとの距離A-B(
図1中実直線)を2倍したものを吸収スペクトルの半値幅(Abs. FWHM)として算出する。
【0029】
吸収ピーク波長の半値幅(Abs. FWHM)はInP系半導体ナノ粒子の粒度分布に依存しており、吸収ピークの半値幅(Abs. FWHM)が狭いほど粒度の揃ったInP系半導体ナノ粒子が得られている指標になる。吸収ピークの半値幅(Abs. FWHM)は、好ましくは60nm以下、さらには50nm以下であることが好ましい。
【0030】
さらに、本発明では、上述した半導体ナノ粒子をコアとし、その表面の少なくとも一部を被覆するシェルを備えたコア/シェル型の構造を有することで、より一層高い光学特性を得ることができる。例えば、求められる特性に応じて、このInP系半導体ナノ粒子に適切なシェルを形成すると、発光スペクトルの半値幅が狭いコア/シェル型半導体ナノ粒子を得ることができる。コア/シェル型半導体ナノ粒子の発光スペクトルの測定方法は後述するが、発光スペクトルの半値幅は40nm以下が好ましい。
【0031】
また、同様にInP系半導体ナノ粒子に適切なシェルを形成することで、半導体ナノ粒子に光閉じ込め効果を与えることができ、コア/シェル型半導体ナノ粒子として高い量子効率(QY)を有するものが得られる。コア/シェル型半導体ナノ粒子の量子効率(QY)は好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。これは従来のCdS系半導体ナノ粒子の量子効率(QY)と同程度の値である。
【0032】
なお、特に限定されるものではないが、本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子は粒径が1nm~20nmであることが好ましく、1nm~10nmであることがさらに好ましい。分布としては粒度分布が正規分布をとる場合、ピーク粒径±3nm以内に分布が収まることが好ましい。
【0033】
図2A~
図2Eにコア/シェル型半導体ナノ粒子の実施形態の一例を示す。
図2A~
図2Eに示す実施形態はコア11とシェル12からなり、コアはIn、Zn、P、S、さらに好ましくはハロゲンを主成分として構成され、シェルはIIB族、IIIB族、VB族、VIB族から選択される元素より構成される。ある実施形態では、
図2A及び
図2Bに示されているようなコア/シェル型半導体ナノ粒子であり、シェルはコア表面全体を被覆していることが好ましく、さらには
図2Aに示されているようにシェルが均一にコア表面全体を被覆していることが好ましい。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば
図2Cに示されているようにシェルがアイランド状にコア表面の一部に存在するコア/シェル型半導体ナノ粒子の場合もあり、さらに別の実施形態として
図2Dに示されているようにシェルがナノ粒子としてコア表面に付着しコアを覆うコア/シェル型半導体ナノ粒子の場合もある。さらに別の実施形態としては
図2Eに示されているようにコアが球状でないコア/シェル型半導体ナノ粒子でもよい。
本発明のコア/シェル型半導体ナノ粒子の構造は、コアやシェルを構成している元素及びその濃度変化を走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope;STEM)を用いて、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray Spectrometry;EDS)によって検出することにより確認することができる。
【0034】
(シェル)
前述したInP系半導体ナノ粒子の表面に、さらにIIB族、IIIB族、VB族、及びVIB族からなる群より選択されるいずれか1種以上の元素を含むシェルを形成することにより、量子効率(QY)を高めることができ、さらには半導体ナノ粒子を外的因子から保護し安定性を高めることができる。
ここでIIB族はZn、Cd、及びHgであり、IIIB族はB、Al、Ga、In、及びTlであり、VB族はN、P、As、Sb、及びBiであり、VIB族はO、S、Se、Te、及びPoである。
これらの元素は主に半導体ナノ粒子の表面でIIIB-VB族、IIB-VIB族の単一組成物、複合化合物、あるいはヘテロ構造、アモルファス等の構造を取ることができる。なお、シェルの一部は拡散によりコア粒子の内部に移動することもある。
【0035】
シェル形成時に添加する元素の前駆体としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、ミリスチン酸塩及びオレイン酸塩等のカルボン酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物等のハロゲン化物、及びアルキル塩等の有機化合物などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、シェル形成時に添加する元素がコア作製時に添加する元素と同じ場合、コア合成時に添加した元素源と同じ前駆体でもよいし、異なる前駆体でもよい。
【0036】
シェルは、少なくとも、IIIB族元素から選ばれる1以上の元素とVB族元素から選ばれる1以上の元素とを含むIIIB-VB族化合物、あるいは、少なくとも、IIB族元素から選ばれる1以上の元素とVIB族元素から選ばれる1以上の元素とを含むIIB-VIB族化合物からなることが好ましい。
IIB-VIB族化合物の例としては、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnTeS、CdSeS、CdSeTe、CdTeS、ZnCdS、ZnCdSe、ZnCdTe、ZnCdSeS、ZnCdTeSe及びZnCdHgSeTeS等が挙げられる。
また、IIIB-VB族化合物の例としては、GaN、GaP、GaAs、GaSb、GaBi、InN、InP、InAs、InSb、InBi、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InGaN、InGaP、GaInAs、GaInSb、InGaBi、GaAlN、GaAlP、GaAlAs、GaAlSb、GaAlBi、InAlN、InAlP、InAlAs、InAlSb、InAlBi、GaNP、InNP、AlNP、GaNAs、InNAs、AlNAs、GaNSb、InNSb、AlNSb、GaNBi、InNBi、AlNBi、GaPAs、InPAs、AlPAs、InPSb、GaAsSb、InAsSb、AlAsSb、TlAsSb、InGaNP、GaAlNP、GaTlNP及びInAlNP等が挙げられる。ここに例示した化合物の組成比は実際の実施形態では必ずしも量論比である必要はない。
【0037】
ある実施形態では、InP半導体ナノ粒子にシェルの前駆体としてZn前駆体とSe前駆体を添加し、150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃で加熱し、半導体ナノ粒子の表面にシェルの形成を行う。前駆体はあらかじめ混合し、一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよいし、それぞれ別々に一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよい。シェル前駆体を複数回に分けて添加する場合は、各シェル前駆体添加後にそれぞれ温度を変えて加熱してもよい。
【0038】
本発明において、シェルは単層に限られず、例えばコア/シェル/シェル型のように異なる組成の化合物からなるシェルを複数有する多層構造であってもよい。シェルを構成する化合物は前記したIIIB-VB族化合物、IIB-VIB族化合物から任意に選択できる。シェルは、組成の異なる二種以上の前記IIIB-VB族化合物、組成の異なる二種以上の前記IIB-VIB族化合物、及び前記IIIB-VB族化合物と前記IIB-VIB族化合物との組み合わせからなる群より選択される何れかを含む多層構造をとることもできる。また、シェルは、前記IIIB族元素から選ばれる1以上の元素の数、前記VB族元素から選ばれる1以上の元素の数、前記IIB族元素から選ばれる1以上の元素の数、及び、前記VIB族元素から選ばれる1以上の元素の数、の少なくとも1つが複数であってもよい。
このような構成とすることによって、コアやシェルのダングリングボンドを埋める、コアとシェルの格子不整合を整える等の効果が得られると発明者らは推測している。
【0039】
ある実施形態では、InP系半導体ナノ粒子に第1層目のシェルの前駆体としてZn前駆体とSe前駆体を添加後加熱し、その後第2層目のシェルの前駆体としてZn前駆体とS前駆体を添加後加熱し、多層構造のシェルを有するコア/シェル型半導体ナノ粒子を得ることができる。
シェルの前駆体はあらかじめ混合し、一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよいし、それぞれ別々に一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよい。シェル前駆体を複数回に分けて添加する場合は、各シェル前駆体添加後にそれぞれ温度を変えて加熱してもよい。
【0040】
さらに、シェルは、シェルを構成する少なくとも一つの元素の濃度がシェルの厚み方向において変化する構造をとってもよい。このような構造をとることで、シェル内部の格子定数の変化がなだらかになり、シェル内の格子欠陥を減少させることができる。
ある実施形態では、InP系半導体ナノ粒子にZn前駆体とSe前駆体を添加後加熱し、さらにZn前駆体とSe前駆体の比率を変えて添加後加熱する。こうすることでシェルを構成する少なくとも一つの元素の濃度がシェルの厚み方向において変化する構造であるシェルを得ることができる。この時、各段階の前駆体はあらかじめ混合し、一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよいし、それぞれ別々に一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよい。
【0041】
このような構造の他の例としては、上記のようなZn-Seの組み合わせの他に、例えば、Zn-S、Zn-Te、Cd-S、Cd-Se及びCd-Te等のIIB-VIB族の組み合わせや、例えば、Ga-N、Ga-P、Ga-As、Ga-Sb、Ga-Bi、In-N、In-P、In-As、In-Sb、In-Bi及びAl-N等のIIIB-VB族の組み合わせが挙げられる。
【0042】
さらに別の実施形態では、InP系半導体ナノ粒子にZn前駆体とSe前駆体を添加後加熱し、続いてZn前駆体とSe前駆体とS前駆体を添加後加熱し、さらに続いてZn前駆体とS前駆体を添加後加熱する。
この時、各段階の前駆体はあらかじめ混合し、一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよいし、それぞれ別々に一度で、あるいは複数回に分けて添加してもよい。
【0043】
このような構造の他の例としては、上記のようなZn-Se-Sの他に、例えば、Zn-Se-Te、Zn-Te-S、Cd-Se-S、Cd-Se-Te、Cd-Te-S、Zn-Cd-S、Zn-Cd-Se、Zn-Cd-Te及びZn-Cd-Se-S等のようなIIB-VIB族化合物の組み合わせや、例えば、In-Ga-N、In-Ga-P、Ga-In-As、Ga-Al-N、Ga-Al-P、In-Al-P及びIn-Ga-N-P等のIIIB-VB族化合物の組み合わせが挙げられる。
【0044】
また、前述した多層構造のうちの少なくとも一層以上がこのようなシェルの厚み方向に元素濃度が変化するような構造を有していてもよい。
【0045】
こうして得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子はさらに精製することができる。一実施例において、アセトン等の極性転換溶媒を添加することによってコア/シェル型半導体ナノ粒子を溶液から析出させることができる。固体コア/シェル型半導体ナノ粒子を濾過又は遠心分離により回収することができ、一方、未反応の出発物質及び他の不純物を含む上澄みは廃棄又は再利用することができる。次いで固体をさらなる溶媒で洗浄し、再び溶解することができる。この精製プロセスは、例えば、2~4回、又は所望の純度に到達するまで、繰り返すことができる。他の精製方式としては、例えば、凝集、液液抽出、蒸留、電着、サイズ排除クロマトグラフィー及び/又は限外濾過を挙げることができ、上述の精製方式のいずれか又は全てを単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0046】
(リガンド)
コア/シェル型半導体ナノ粒子を安定にマトリクス中に分散させるために、シェルの表面をリガンドで修飾してもよい。また必要に応じてリガンドを交換し、コア/シェル型半導体ナノ粒子を極性の異なる溶媒に分散させたり、リガンドを通してコア/シェル型半導体ナノ粒子を他の構造物に結合させたりすることもできる。
リガンドはコア/シェル型半導体ナノ粒子の表面全体を覆う量を添加していればよい。
さらに、リガンドにはカルボン酸、アルキルホスフィン、アルキルチオールなどを用いることができ、特にチオール基をもつものは半導体ナノ粒子の表面に強く結合するため安定に被覆することができ好適である。
【0047】
(プロセス)
ある実施形態では、上記プロセスをバッチプロセスで実施することができる。また、別の実施形態では上記プロセスの少なくとも一部を例えば国際特許公報WO2016/194802、WO2017/014314、WO2017/014313、国際出願番号PCT/JP2017/016494に記載されているような連続フロープロセスで行うことができる。
【0048】
以下、国際出願番号PCT/JP2017/016494に記載されている連続フロープロセスに基づき、半導体ナノ粒子の作製方法を説明する。
図2は連続流反応システム26の一例の態様を示している。この連続流反応システムは複数の流体源28(流体源28A~流体源28J)を含み、これらはたとえば圧縮ガスシリンダー、ポンプ、及び/又は液体リザーバーを含むことができる。連続流反応システムは複数の反応装置30及びセグメント化装置32も含んでいる。図示される例では、流体源28B及び28Cに例えばIn源、P源を入れることができる。図示はされていないが、各流体源28は前駆体溶液の種類により1つあるいは複数の流体源を有することができ、更にZn源、S源を入れる流体源を備える。この場合、セグメント化装置の前に前駆体混合装置31を備えてもよいし、備えなくてもよい。混合装置を備えない場合は、複数の流体源はセグメント化装置で混合される。
【0049】
連続流反応システム26は反応混合物の流路を含み、該流路は複数の反応装置30を通過する主導管34を含む。流体源28Aは非反応性流体(たとえば、窒素、アルゴン、又はヘリウムなどの比較的不活性のガス)の供給源であり、セグメント化装置32では流体源28Aから前記非反応性流体が流路に導入されて、反応混合物のセグメント流が形成される。このセグメント流によって下流の反応装置での滞留時間の分布は、セグメント化されない場合よりも狭くなる。前駆体混合装置31及びセグメント化装置32はプロセス制御器44と通信を行い、複数源の流体の混合(例えば攪拌速度)の制御、前記非反応性流体の導入量の制御を行う。
【0050】
セグメント化装置32から、セグメント化された反応混合物及び非混和性流体がエネルギー付与活性化ステージ36に送られ、ここで混合物にはエネルギー源、例えば単一モード、多モード、又は周波数可変のマイクロ波源、高エネルギーランプ又はレーザーなどの光源、高温熱(例えば抵抗加熱)装置、音波処理装置、又はあらゆる適当なエネルギー源の組み合わせによって迅速にエネルギーが付与される。ここで、半導体ナノ粒子は迅速かつ均一に核形成される。形成された核と前駆体の流れは次にインキュベーションステージ38に送られ、ここで熱源によって、連続流条件下でナノ結晶コア材料の核形成された前駆体の成長が促進される。プロセスは、収集ステージ40でクエンチされ、ここで半導体ナノ粒子含有溶液は任意選択的に非混和性非反応性流体から分離することができる。別の実施形態では核形成及び成長を同じ反応ステージで行うことができるため、エネルギー付与活性化ステージ36を省略することができる。
【0051】
図3の例では、分析装置42が、収集ステージ40の流体的に上流に配置されている。分析装置中で、インキュベーションステージ38を出た半導体ナノ粒子について1つ以上の物理的性質を試験し、分析を行うことができる。ある例では、分析装置はプロセス制御器44と通信することができる。プロセス制御器は各流体源28、及び反応装置30の種々の入力を操作可能に連結した電子制御装置を含む。このような入力としては、エネルギー付与活性化ステージ36中のエネルギー流速、インキュベーションステージ38の加熱、及び連続流反応システム26全体に配置された種々の流量制御部品が挙げられる。分析装置中で分析される1つ以上の性質に基づいた閉ループフィードバックを使用して、半導体ナノ粒子のサイズ、組成、及び/又はその他の性質を自動的に最適化又は調整することができる。
【0052】
図3において、つづいて連続流反応システム26は、収集ステージ40の流体的に下流のハロゲン処理ステージ43及びハロゲン処理ステージ43の流体的に下流の中間シェル製造ステージ46及び中間シェル製造ステージ46の流体的に下流の外部シェル製造ステージ48を含んでいる。ハロゲン処理ステージ43に接続された流体源28Jにはハロゲン前駆体を入れることができる。中間シェル製造ステージ46に接続された、流体源28D及び28Eにはそれぞれ例えばZn前駆体及びSe前駆体源を入れることができる。外部シェル製造ステージ48に接続された流体源28F及び28Gにはそれぞれ例えばZn前駆体及びS前駆体源を入れることができる。各ステージに接続された流体源は前駆体の種類に応じて図示されている数に限らず、1つあるいは複数設けることができる。また、ハロゲン処理ステージ43、中間シェル製造ステージ46及び外部シェル製造ステージ48は必ずしもステージ毎に分ける必要はなく、必要に応じて1つにまとめてもよいし、さらに細かくステージを分割してもよい。さらにステージを分割した際はそれぞれのステージに流体源を設置してもよいし、しなくてもよい。
【0053】
図3における連続流反応システム26は外部シェル製造ステージ48の下流に配置された精製ステージ50も含んでいる。精製ステージ50に接続された流体源28H、28Iはそれぞれ例えばアセトン及びオクタデセン等の溶媒を入れることができる。精製ステージ50に接続された流体源は必要な溶媒の種類に応じて図示されている数に限らず、1つあるいは複数設けることができる。半導体ナノ粒子精製の種々の方法が本開示の意図及び範囲に含まれるため、精製ステージ50の構造及び機能は本開示とは別の実施形態で異なるものであってもよい。このような方式としては例として凝集、液液抽出、蒸留及び電着による不純物の除去を上げることができ、上記のいずれか又はすべての精製方式を組み合わせて使用することができる。しかし、ある実施形態では1つの方式を使用して別の方式を排除してもよい。
【0054】
(測定)
こうして得られるコア/シェル型半導体ナノ粒子の光学特性は量子効率測定システム(大塚電子製、QE-2100)を用いて測定できる。得られた半導体ナノ粒子を分散液に分散させ、励起光を当て発光スペクトルを得、ここで得られた発光スペクトルより再励起されて蛍光発光した分の再励起蛍光発光スペクトルを除いた再励起補正後の発光スペクトルより量子効率(QY)と半値幅(FWHM)を算出する。分散液は例えばノルマルヘキサンやオクタデセンが挙げられる。
【0055】
(均等物)
本明細書に記載の構成及び/又は方法は例として示され、多数の変形形態が可能であるため、これらの具体例又は実施例は限定の意味であると見なすべきではないことが理解されよう。本明細書に記載の特定の手順又は方法は、多数の処理方法の1つを表しうる。したがって、説明及び/又は記載される種々の行為は、説明及び/又は記載される順序で行うことができ、又は省略することもできる。同様に前述の方法の順序は変更可能である。
本開示の主題は、本明細書に開示される種々の方法、システム及び構成、並びにほかの特徴、機能、行為、及び/又は性質のあらゆる新規のかつ自明でない組み合わせ及び副次的組み合わせ、並びにそれらのあらゆる均等物を含む。
【実施例】
【0056】
[InP系半導体ナノ粒子の作製]
以下の方法に従って、InP系半導体ナノ粒子の作製を行い、InP系半導体ナノ粒子の組成、吸収スペクトル特性の測定を行った。
【0057】
[実施例1]
酢酸インジウム(0.30mmol)とオレイン酸亜鉛(0.54mmol)を、オレイン酸(0.90mmol)と1-ドデカンチオール(0.11mmol)とオクタデセン(10mL)の混合物に加え、真空下(<20Pa)で約110℃に加熱し、15時間反応させた。真空で反応させた混合物を25℃、窒素雰囲気下にして、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(0.20mmol)を加えたのち、約300℃に加熱し、10分間反応させた。反応液を25℃に冷却し、オクタン酸クロリド(0.53mmol)を注入し、約250℃で30分間加熱後、25℃に冷却して、InP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0058】
[実施例2]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.63mmolに変更した以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0059】
[実施例3]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.72mmolに変更した以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0060】
[実施例4]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.81mmolに変更した以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0061】
[実施例5]
実施例1においてドデカンチオールを0.15mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0062】
[実施例6]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.63mmol、ドデカンチオールを0.15mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.24mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0063】
[実施例7]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.81mmol、ドデカンチオールを0.15mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0064】
[実施例8]
実施例1においてドデカンチオールを0.15mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.18mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0065】
[実施例9]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.63mmol、ドデカンチオールを0.15mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.18mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0066】
[実施例10]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.72mmol、ドデカンチオールを0.15mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.18mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
[実施例11]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.81mmol、ドデカンチオールを0.15mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.15mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0067】
[実施例12]
実施例1においてドデカンチオールを0.15mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.24mmol、オクタン酸クロリドを0.25mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0068】
[実施例13]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.72mmol、ドデカンチオールを0.15mmol、オクタン酸クロリドを0mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0069】
[実施例14]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.81mmol、ドデカンチオールを0.15mmol、オクタン酸クロリドを0mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0070】
[実施例15]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.375mmol、ドデカンチオールを0.07mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.24mmol、オクタン酸クロリドを0mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0071】
[実施例16]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.45mmol、オクタン酸クロリドを0mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0072】
[実施例17]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.81mmol、オクタン酸クロリドを0mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0073】
[比較例1]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.3mmol、ドデカンチオールを0.15mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0074】
[比較例2]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を1.05mmol、ドデカンチオールを0.15mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0075】
[比較例3]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.63mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.11mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0076】
[比較例4]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.63mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.45mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0077】
[比較例5]
実施例1においてドデカンチオールを0.05mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0078】
[比較例6]
実施例1においてドデカンチオールを0.27mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0079】
[比較例7]
実施例1においてドデカンチオールを0.13mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0080】
[比較例8]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0mmol、ドデカンチオールを0mmol、オクタン酸クロリド0mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0081】
[比較例9]
実施例1においてドデカンチオールを0mmol、オクタン酸クロリド0mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0082】
[比較例10]
実施例1においてオレイン酸亜鉛を0.09mmol、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.39mmol、オクタン酸クロリド0mmolにした以外は同じ手順でInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を得た。
【0083】
得られたInP系半導体ナノ粒子について組成分析と吸収スペクトルの測定を行った。
組成分析は前述したとおり、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)と蛍光X線分析装置(XRF)を用いて測定した。
吸収スペクトルは前述したとおり、紫外可視赤外分光光度計を用いて測定した。サンプルへの照射波長は300nm~800nmとした。
【0084】
各InP系半導体ナノ粒子の組成分析と吸収スペクトルの吸収波長、半値幅(Abs. FWHM)について表1に示す。
【表1】
【0085】
[コア/シェル型半導体ナノ粒子の作製]
実施例1~17、比較例1~10で得られた各InP系半導体ナノ粒子をコアとして使用し、コア表面に表2に示す構成のシェルを形成してコア/シェル型半導体ナノ粒子を作製し、光学特性の測定を行った。
シェルの作製にあたって、まずは前駆体の調整を行った。
【0086】
-Zn前駆体溶液の調整-
40mmolのオレイン酸亜鉛と100mLのオクタデセンを混合し、真空化で110℃にて1時間加熱し亜鉛前駆体を調整した。
【0087】
-Se前駆体(セレン化トリオクチルホスフィン)の調製-
22mmolのセレン粉末と10mLのトリオクチルホスフィンを窒素中で混合し、全て溶けるまで撹拌してセレン化トリオクチルホスフィンを得た。
【0088】
-S前駆体(硫化トリオクチルホスフィン)の調整-
22mmolの硫黄粉末と10mLのトリオクチルホスフィンを窒素中で混合し、全て溶けるまで撹拌して硫化トリオクチルホスフィンを得た。
【0089】
得られた前駆体を用いて、次のようにしてシェルの形成を行った。
(ZnSe/ZnSシェル)
実施例1で得られたInP系半導体ナノ粒子の分散溶液を250℃まで加熱した。250℃において0.75mLのZn前駆体溶液と0.3mmolのセレン化トリオクチルホスフィンを添加し、30分間反応させInP系半導体ナノ粒子の表面にZnSeシェルを形成した。さらに、1.5mLのZn前駆体溶液と0.6mmolの硫化トリオクチルホスフィンを添加し、280℃に昇温して1時間反応させZnSシェルを形成した。
得られた半導体ナノ粒子を、STEM-EDSによって観察したところ、コア/シェル構造をしていることが確認された。
実施例3、6~12、15、17、比較例1、2、6~10で得られたInP系半導体ナノ粒子にも同様の方法でZnSe/ZnSシェルを形成した。
【0090】
(GaP/ZnSe/ZnSシェル)
ガリウムアセチルアセトナート(0.30mmol)とオレイン酸(0.90mmol)とオクタデセン(3mL)の混合物を、真空下で110℃に加熱し1時間反応を行い、オレイン酸ガリウムを得た。この容器を窒素充填し、実施例2で得られたInP半導体ナノ粒子の分散溶液を加え280℃まで昇温した。ここに、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン0.15mmolを30分間かけて添加し、InP半導体ナノ粒子の表面にGaPシェルを形成した。
次いで、250℃において0.75mLの亜鉛前駆体と0.14mL(0.3mmol)のセレン化トリオクチルホスフィンを添加し、30分間反応させZnSeシェルを形成した。さらに、1.5mLの亜鉛前駆体と0.27mL(0.6mmol)の硫化トリオクチルホスフィンを添加し、280℃に昇温して1時間反応させZnSシェルを形成した。
実施例13、比較例3で得られたInP系半導体ナノ粒子にも同様の方法でGaP/ZnSe/ZnSシェルを形成した。
【0091】
(ZnSeSシェル)
実施例4で得られたInP半導体ナノ粒子の分散溶液に、1.5mLの亜鉛前駆体溶液、0.3mmolのセレン化トリオクチルホスフィン、及び0.3mmolの硫化トリオクチルホスフィンを添加し、280℃で1時間加熱してZnSeSシェルを形成した。
実施例14、比較例4で得られたInP系半導体ナノ粒子にも同様の方法でZnSeSシェルを形成した。
【0092】
(ZnSeS濃度勾配シェル)
実施例5で得られたInP半導体ナノ粒子の分散溶液に3.0mLの亜鉛前駆体溶液、0.2mmolのセレン化トリオクチルホスフィン、及び0.1mmolの硫化トリオクチルホスフィンを添加し、280℃で30分間加熱した。続いて、0.1mmolのセレン化トリオクチルホスフィン、及び0.2mmolの硫化トリオクチルホスフィンを添加し、280℃で30分間キープした。さらに、0.6mmolの硫化トリオクチルホスフィンを添加し、280℃で1時間反応させ、ZnSeS濃度勾配シェルを形成した。
実施例16、比較例5で得られたInP系半導体ナノ粒子にも同様の方法でZnSeS濃度勾配シェルを形成した。
【0093】
得られたコア/シェル型半導体ナノ粒子について前述した方法で光学特性の測定を行った。励起光は450nmの単一波長とした。
【0094】
【符号の説明】
【0095】
11 コア
12 シェル
26 連続流反応システム
28A 流体源
28B 流体源
28C 流体源
28D 流体源
28E 流体源
28F 流体源
28G 流体源
28H 流体源
28I 流体源
28J 流体源
30 反応装置
31 前駆体混合装置
32 セグメント化装置
34 主導管
36 エネルギー付与活性化ステージ
38 インキュベーションステージ
40 収集ステージ
42 分析装置
43 ハロゲン処理ステージ
44 プロセス制御器
46 中間シェル製造ステージ
48 外部シェル製造ステージ
50 精製ステージ