(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】車両のサスペンション装置の組立て方法及び組立て装置並びに混流生産ライン
(51)【国際特許分類】
B62D 65/12 20060101AFI20230418BHJP
B60G 9/00 20060101ALI20230418BHJP
B23P 21/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B62D65/12 A
B60G9/00
B23P21/00 306C
B23P21/00 303B
(21)【出願番号】P 2020019897
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田代 学
(72)【発明者】
【氏名】遠山 典明
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 知己
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107148325(CN,A)
【文献】特開2016-074318(JP,A)
【文献】特開平06-155178(JP,A)
【文献】特開2001-062749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 65/12
B60G 9/00
B23P 21/00
B25B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に弾力的に揺動可能に支持され、車輪を支持するサスペンション部材と、
上記車体と上記サスペンション部材の間に介装され、圧縮荷重を受けるコイルスプリングとを備えた車両のサスペンション装置の組立て方法であって、
張力がかかると一定の長さに延びた張り状態になる繋止部材を歪めた状態にして、該繋止部材によって、上記車体に弾力的に揺動可能に支持されたサスペンション部材と上記車体又は該車体に組み付けられた車両部品とを繋ぎ、
上記車体と上記サスペンション部材の間の当該コイルスプリングを介装する部位の間隔が広がるように、上記車体に対する上記サスペンション部材の姿勢を強制的に変化させ、
上記車体との相対的関係での上記サスペンション部材の姿勢の過度の変化を、上記サスペンション部材の姿勢変化による上記間隔の拡大に伴って一定長さに延びた張り状態となる上記繋止部材によって規制して、上記車体と上記サスペンション部材の間に上記コイルスプリングを挿入
し、
上記サスペンション部材が、ゴムブッシュによって上記車体に弾力的に揺動可能に支持され、
上記サスペンション部材における上記コイルスプリングが介装される部位を挟んで上記ゴムブッシュの反対側において、上記車体又は上記車両部品と上記サスペンション部材とを上記繋止部材によって繋ぎ、
上記サスペンション部材が、トーションビーム式サスペンション部材であり、該サスペンション部材のスイングアームに上記コイルスプリングを配置するスプリングシートが設けられており、
上記車体と上記スイングアームを連結するダンパーを上記車両部品として備え、
上記ダンパーが上記車体に結合され且つ上記スイングアームには結合されていない状態で、上記スイングアームの姿勢を強制的に変化させるものであり、
上記ダンパーの上記スイングアームに対する結合部に上記繋止部材を繋ぐ
ことを特徴とする車両のサスペンション装置の組立て方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記サスペンション部材の姿勢を上記繋止部材が上記張り状態になるまで変化させた状態で、上記コイルスプリングを上記車体と上記サスペンション部材の間に挿入することを特徴とする車両のサスペンション装置の組立て方法。
【請求項3】
請求項2において、
上記サスペンション部材の姿勢を上記繋止部材が上記張り状態になるまで変化させたときに、上記車体と上記サスペンション部材の間の当該コイルスプリングを介装する部位の間隔が、上記コイルスプリングを圧縮させることなく当該部位に挿入することができる大きさに広がることを特徴とする車両のサスペンション装置の組立て方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項
3のいずれか一において、
複数車種の混流生産ラインにおいて、上記サスペンション装置の組立てを行なうことを特徴とする車両のサスペンション装置の組立て方法。
【請求項5】
車体に弾力的に揺動可能に支持され、車輪を支持するサスペンション部材と、
上記車体と上記サスペンション部材の間に介装され、圧縮荷重を受けるコイルスプリングとを備えた車両のサスペンション装置の組立て装置であって、
上記コイルスプリングの介装のために、上記車体と上記サスペンション部材の間の当該コイルスプリングを介装する部位の間隔が広がるように、上記車体に対する上記サスペンション部材の姿勢を強制的に変化させる姿勢変更機構と、
上記車体又は該車体に組み付けられた車両部品と上記サスペンション部材を繋ぎ、上記サスペンション部材の姿勢変化による上記間隔の拡大に伴って一定長さに延びた張り状態となって、上記サスペンション部材の姿勢の上記車体に対する相対的関係における過度の変化を規制する繋止部材とを備えて
おり、
上記サスペンション部材は、ゴムブッシュによって上記車体に弾力的に揺動可能に支持され、
上記繋止部材は、上記サスペンション部材における上記コイルスプリングを介装する部位を挟んで上記ゴムブッシュの反対側において、上記車体又は上記車両部品と上記サスペンション部材を繋ぎ、
上記サスペンション部材が、トーションビーム式サスペンション部材であり、該サスペンション部材のスイングアームに上記コイルスプリングを配置するスプリングシートが設けられており、
上記車体と上記スイングアームを連結するダンパーを上記車両部品として備え、
上記ダンパーが上記車体に結合され且つ上記スイングアームには結合されていない状態で、上記姿勢変更機構によって上記スイングアームの姿勢が強制的に変化されるものであり、
上記繋止部材が、上記ダンパーの上記スイングアームに対する結合部に繋がれることを特徴とする車両のサスペンション装置の組立て装置。
【請求項6】
請求項
5において、
上記サスペンション部材の姿勢を上記繋止部材が上記張り状態になるまで変化させたときに、上記車体と上記サスペンション部材の間の当該コイルスプリングを介装する部位の間隔が、上記コイルスプリングを圧縮させることなく当該部位に挿入することができる大きさに広がることを特徴とする車両のサスペンション装置の組立て装置。
【請求項7】
請求項
5又は請求項6に記載の車両のサスペンション装置の組立て装置を備え、複数車種の車両の組立てが行なわれる混流生産ライン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のサスペンション装置の組立て方法及び組立て装置並びに混流生産ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
車体を吊り下げて移送する工程において、サスペンション装置を車体に組み付ける方法が特許文献1に記載されている。この方法は、車体に仮止めされてフルリバウンド位置にあるサスペンション部品にリフト部材を接触させ、その接触によってフルリバウンド位置を検知し、この検知位置を起点としてサスペンション部品を所定量だけ上昇させ、その状態でサスペンション装置における弾性部品(ゴムブッシュ)の締付けを完了させるというものである。すなわち、サスペンション部品の持ち上げ量を常に一定にすることにより、フルリバウンド位置が車体毎に異なる場合でも、サスペンション部品を車体に対して適正な位置に戻して弾性部品の締付けを行なうというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、車体とサスペンション部材の間へのコイルスプリングの介装に関する。
【0005】
その介装方法として、サスペンション部材にコイルスプリングをマウントした状態でそのサスペンション部材を持ち上げて車体に取り付けるやり方が知られている。しかし、この方法の場合、コイルスプリングの反発力によって車体が浮き上がるので、車体に治具をかけて浮上りを阻止する必要がある。そのとき、スプリングの反発力に抗する大きな力が治具を介して車体に加わる。そのため、車体が歪まないようにその強度を高める必要がある。車体の強度アップのためには、車体の板厚を大きくしたり、車体に補強部材を設けたりする必要があり、車体の軽量化に不利になる。また、本発明を限定する意味ではないが、混流生産をするケースでは、車種毎に治具の取付け部の形状や、その高さが異なるから、車種毎に専用の浮上り防止装置を準備する必要があり、円滑な混流生産の支障になり、装置コストも上昇する。
【0006】
そこで、本発明者は、サスペンション部材を車体に弾力的に揺動可能に支持した後に、そのサスペンション部材と車体の間にコイルスプリングを挿入する方法を検討した。すなわち、車体とサスペンション部材の間のコイルスプリングを介装する部位の間隔が広がるように、車体に対するサスペンション部材の姿勢を強制的に変化させて、当該部位にコイルスプリングを挿入するという方法である。しかし、サスペンション部材の姿勢を強制的に変化させるといっても、どこまでも変化させることができるわけではない。サスペンションを構成する部材が他の車両構成品、例えば、燃料タンクとの干渉しないようにする必要があり、或いは他の車両構成品に構造的な無理が加わらないようする必要がある。
【0007】
他の車両構成品に構造的な無理が加わるケースとしては、例えば、四輪駆動車において、車体側に固定したデフギヤ(デファレンシャルギヤ)とサスペンション部材のキャリアを結ぶドライブシャフトが、サスペンション部材の姿勢を過度に変化させたときに、デフギヤから抜けるケースが考えられる。いわゆる脱臼である。さらには、サスペンション部材を車体に揺動可能に支持する支持部の損傷防止、サスペンション部材や車体の変形防止の観点からも、サスペンション部材の姿勢の変更には限界がある。
【0008】
これに対して、サスペンション部材の姿勢を変える姿勢変更装置にストッパを設けて、サスペンション部材が所定位置まで変化したら、それ以上は変化しないようにすることも考えられる。しかし、実際の生産ラインでは、車体搬送装置の摩耗のために車体の高さにずれが出ることがあり、また、車種によっては、車体が前上がり状態になったり、後ろ上がり状態になることがあり、車体のサスペンション部材の位置は必ずしも一定ではない。従って、姿勢変更装置によるサスペンション部材の姿勢変化をストッパ等で規制しても、サスペンション部材の車体に対する姿勢変化量は一定にはならない。換言すれば、サスペンション部材の姿勢が過度に変化して、サスペンション装置が他の車体構成品と干渉したり、サスペンション装置や他の車体構成品に無理がかかったりするおそれがある。
【0009】
本発明は、上述の如きサスペンション装置が他の車体構成品と干渉したり、サスペンション装置や他の車体構成品に無理がかかることを避けながら、コイルスプリングを車体とサスペンション部材の間に介装できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、サスペンション部材の姿勢を変化させて車体との間にコイルスプリングを挿入するにあたり、その姿勢変化を車体に対する相対的関係で規制するようにした。
【0011】
ここに開示する、車体に弾力的に揺動可能に支持され、車輪を支持するサスペンション部材と、上記車体と上記サスペンション部材の間に介装され、圧縮荷重を受けるコイルスプリングとを備えた車両のサスペンション装置の組立て方法は、
張力がかかると一定の長さに延びた張り状態になる繋止部材を歪めた状態にして、該繋止部材によって、上記車体に弾力的に揺動可能に支持されたサスペンション部材と上記車体又は該車体に組み付けられた車両部品とを繋ぎ、
上記車体と上記サスペンション部材の間の当該コイルスプリングを介装する部位の間隔が広がるように、上記車体に対する上記サスペンション部材の姿勢を強制的に変化させ、
上記車体に対する相対的関係での上記サスペンション部材の姿勢の過度の変化(換言すれば、上記間隔の過度の拡大)を、上記サスペンション部材の姿勢変化による上記間隔の拡大に伴って一定長さに延びた張り状態となる上記繋止部材によって規制して、上記車体と上記サスペンション部材の間に上記コイルスプリングを挿入し、
上記サスペンション部材が、ゴムブッシュによって上記車体に弾力的に揺動可能に支持され、
上記サスペンション部材における上記コイルスプリングが介装される部位を挟んで上記ゴムブッシュの反対側において、上記車体又は上記車両部品と上記サスペンション部材とを上記繋止部材によって繋ぎ、
上記サスペンション部材が、トーションビーム式サスペンション部材であり、該サスペンション部材のスイングアームに上記コイルスプリングを配置するスプリングシートが設けられており、
上記車体と上記スイングアームを連結するダンパーを上記車両部品として備え、
上記ダンパーが上記車体に結合され且つ上記スイングアームには結合されていない状態で、上記スイングアームの姿勢を強制的に変化させるものであり、
上記ダンパーの上記スイングアームに対する結合部に上記繋止部材を繋ぐことを特徴とする。
【0012】
また、ここに開示する、車体に弾力的に揺動可能に支持され、車輪を支持するサスペンション部材と、上記車体と上記サスペンション部材の間に介装され、圧縮荷重を受けるコイルスプリングとを備えた車両のサスペンション装置の組立て装置は、
上記コイルスプリングの介装のために、上記車体と上記サスペンション部材の間の当該コイルスプリングを介装する部位の間隔が広がるように、上記車体に対する上記サスペンション部材の姿勢を強制的に変化させる姿勢変更機構と、
上記車体又は該車体に組み付けられた車両部品と上記サスペンション部材を繋ぎ、上記サスペンション部材の姿勢変化による上記間隔の拡大に伴って一定長さに延びた張り状態となって、上記車体に対する相対的関係での上記サスペンション部材の姿勢の過度の変化(換言すれば、上記間隔の過度の拡大)を規制する繋止部材とを備えており、
上記サスペンション部材は、ゴムブッシュによって上記車体に弾力的に揺動可能に支持され、
上記繋止部材は、上記サスペンション部材における上記コイルスプリングを介装する部位を挟んで上記ゴムブッシュの反対側において、上記車体又は上記車両部品と上記サスペンション部材を繋ぎ、
上記サスペンション部材が、トーションビーム式サスペンション部材であり、該サスペンション部材のスイングアームに上記コイルスプリングを配置するスプリングシートが設けられており、
上記車体と上記スイングアームを連結するダンパーを上記車両部品として備え、
上記ダンパーが上記車体に結合され且つ上記スイングアームには結合されていない状態で、上記姿勢変更機構によって上記スイングアームの姿勢が強制的に変化されるものであり、
上記繋止部材が、上記ダンパーの上記スイングアームに対する結合部に繋がれることを特徴とする。
【0013】
この組立て方法又は組立て装置では、コイルスプリングを車体とサスペンション部材の間に挿入するべく、サスペンション部材の姿勢を強制的に変化させて当該コイルスプリングを介装する部位の間隔を拡大させる。このとき、サスペンション部材と車体又は車両部品を繋ぐ繋止部材は、サスペンション部材の上記姿勢変化に伴って、歪んだ状態から延ばされていく。車体に対するサスペンション部材の姿勢変化が所定量になると、繋止部材は張り状態になり、サスペンション部材の姿勢をそれ以上に変化させることができなくなる。すなわち、車体との関係でのサスペンション部材の相対的な姿勢変化量を繋止部材によって規制することができる。
【0014】
このようにサスペンション部材の姿勢変化量が車体との相対的関係で規制されるから、車体搬送装置の摩耗等によって車体の位置や姿勢が常に一定ではなくても、サスペンション部材の姿勢を変化させたときに、サスペンション装置が他の車体構成品と干渉したり、サスペンション装置や他の車体構成品に無理がかかることは避けられる。すなわち、そのようなトラブルを招くことなく、サスペンション部材の姿勢を変化させて、車体とサスペンション部材の間にコイルスプリングを挿入することができる。
【0015】
上記方法の一実施形態では、上記サスペンション部材の姿勢を上記繋止部材が上記張り状態になるまで変化させた状態で、上記コイルスプリングを上記車体と上記サスペンション部材の間に挿入する。これにより、車体とサスペンション部材の間のコイルスプリングを介装する部位の間隔が最大限広がるから、当該部位へのコイルスプリングの挿入が容易になる。
【0016】
上記組立て方法及び組立て装置の一実施形態では、上記サスペンション部材の姿勢を上記繋止部材が上記張り状態になるまで変化させたときに、上記車体と上記サスペンション部材の間の当該コイルスプリングを介装する部位の間隔が、上記コイルスプリングを圧縮させることなく当該部位に挿入することができる大きさに広がる。従って、コイルスプリングを当該挿入前に圧縮させる必要がないから、当該組立て工程のサイクルタイムの短縮が図れ、生産性向上に有利になり、圧縮治具等によるコイルスプリングの損傷も防止される。
【0017】
上記組立て方法及び組立て装置では、上記サスペンション部材をゴムブッシュによって上記車体に弾力的に揺動可能に支持し、上記サスペンション部材における上記コイルスプリングが介装される部位を挟んで上記ゴムブッシュの反対側において、上記車体又は上記車両部品と上記サスペンション部材とを上記繋止部材によって繋ぐ。
【0018】
これによれば、繋止部材によるサスペンション部材の姿勢の過度の変化の規制に有利になるとともに、車体とサスペンション部材の間へのコイルスプリングの挿入においても、繋止部材が妨げにならず、その挿入が容易になる。
【0019】
上記組立て方法及び組立て装置では、上記サスペンション部材が、トーションビーム式サスペンション部材であり、該サスペンション部材のスイングアームに上記コイルスプリングを配置するスプリングシートが設けられている。
【0020】
上記組立て方法及び組立て装置では、上記車体と上記スイングアームを連結するダンパーを上記車両部品として備え、上記ダンパーが上記車体に結合され且つ上記スイングアームには結合されていない状態で、上記スイングアームの姿勢を強制的に変化させるものであり、上記ダンパーの上記スイングアームに対する結合部に上記繋止部材を繋ぐ。
【0021】
これによれば、ダンパーのスイングアームに対する結合部を利用して、繋止部材を配設することができる。すなわち、車体側には繋止部材を繋ぐ部分を新たに設ける必要がなく、製品コストの軽減に有利になる。
【0022】
上記組立て方法は、複数車種の車両の組立てが行なわれる混流生産ラインにおいて、実施することができ、上記組立て装置は混流生産ラインにおいて使用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、サスペンション部材の姿勢を強制的に変化させて、車体とサスペンション部材の間のコイルスプリングを介装する部位の間隔を拡大させたとき、サスペンション部材と車体又は車両部品を繋ぐ繋止部材が張り状態なることによって、上記姿勢の過度の変化が規制される。すなわち、サスペンション部材の姿勢変化量が車体との相対的関係で規制される。従って、車体搬送装置の摩耗等によって車体の位置や姿勢が常に一定ではなくても、サスペンション装置が他の車体構成品と干渉したり、サスペンション装置や他の車体構成品に無理がかかるというトラブルを招くことなく、サスペンション部材の姿勢を変化させて、車体とサスペンション部材の間にコイルスプリングを挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】トーションビーム式サスペンション部材の底面図。
【
図2】サスペンション部材が組み付けられた車体の側面図。
【
図3】車両のサスペンション組立て装置を示す斜視図。
【
図5】車体に組み付けられたサスペンション部材にサスペンション組立て装置を係合した状態を車両側方側から見た斜視図。
【
図7】繋止部材が張り状態になるまでサスペンション部材の姿勢を変化させた状態を車両後方側から見た斜視図。
【
図8】同状態を車両後方側から別の角度で見た斜視図。
【
図9】車体及びサスペンション部材のスプリングシート間にコイルスプリングを挿入した状態を車両後方側から見た斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
<サスペンション装置>
図1は車両のサスペンション装置を構成するトーションビーム式サスペンション部材の一部を示す。同図は当該部材をその下方から見た底面図である。サスペンション部材は、車幅方向に延びるトーションビーム1と、トーンションビーム1の両側に配置されたスイングアーム2を備えている。
図1では、片側のスイングアーム2のみを示すが、反対側のスイングアームも当該片側のスイングアーム2と同様に形成されている。スイングアーム2は車両前後方向に延びている。左右のスイングアーム2各々の前端寄りの部分がトーションビーム1によって連結されている。
【0027】
スイングアーム2の前端には、該スイングアーム2を車体に連結するためのゴムブッシュ3が設けられている。ゴムブッシュ3は、スイングアーム2の前端の固定された外筒とその内側に設けられた内筒の間にゴム弾性体を介装したものである。スイングアーム2はゴムブッシュ3によって車体に対して弾力的に上下揺動可能に支持される。スイングアーム2の後端寄りには、車輪を支持するアクスル装置4がフランジ部材4a及びブラケット5を介して固定されている。
【0028】
トーションビーム1とスイングアーム2のなすコーナー部にはスプリングシート6が固定されている。このスプリングシート6と車体との間に圧縮荷重を受けるコイルスプリングが介装される。
【0029】
<サスペンション装置の組立て装置>
図2に示すように、サスペンション装置は、スイングアーム2をゴムブッシュ3によって車体7に支持した後、車体側のスプリングシート8とスイングアーム2側のスプリングシート6の間にコイルスプリング9を介装することによって組み立てられる。すなわち、サスペンション部材の車体への組付けが行なわれる。車体側のスプリングシート8は車両前後方向に延びるリヤサイドフレーム10に固定されている。
【0030】
スイングアーム2をゴムブッシュ3によって車体7に支持した状態では、ゴムブッシュ3に弾性復元力があるため、
図2に示すように、スプリングシート6,8の間隔はコイルスプリング9を自由状態で介装することができる広さにはなっていない。そこで、当該組立て装置は、コイルスプリング9の介装を容易にするべく、スプリングシート6,8の間隔が広がるようにスイングアーム2の姿勢を強制的に変化させること、すなわち、スイングアーム2を強制的に下方に回動させることに利用される。
【0031】
図3に示すように、サスペンション装置の組立て装置は、組立て機器11と、車体7の搬送ライン(複数車種の車両の組立が行なわれる混流生産ラインにおける車体搬送ライン)の傍らに設けられた組立て機器走行装置12及び組立て機器位置合わせ装置13を備えている。図示は省略しているが、車体7はオーバーヘッドコンベア(ハンガー式搬送装置)によって搬送される。
【0032】
組立て機器走行装置12は、組立て機器11を車体7と同期させて走行させるものであり、車体7の搬送ラインに沿って延びる2本の平行なガイドレール14と、ガイドレール14に支持されて走行するトロリー15と、このトロリー15に支持された走行体16とを備えている。トロリー15が車体7と同期して走行するように制御される。走行体16にはポール17が固定されて下方に延びている。
【0033】
組立て機器位置合わせ装置13は、旋回アーム18、第1旋回部21及び第2旋回部22を備えてなる。旋回アーム18は、ポール17に第1旋回部21によって垂直軸回りに旋回自在に支持されている。組立て機器11は、アーム18の先端に第2旋回部22によって垂直軸回りに旋回自在に支持されている。第1旋回部21による旋回アーム18の旋回と、第2旋回部22による組立て機器11の旋回によって、当該組立て機器11の後述する係合部材31がスイングアーム2に対して位置決めされる。
【0034】
組立て機器13は、スイングアーム2の姿勢を強制的に変化させる姿勢変更機構25と、姿勢変更機構25によるスイングアーム2の過度の姿勢変更を規制するための
図4に示す繋止部材26とを備えている。
【0035】
姿勢変更機構25は、スイングアーム2に係合する係合部材31と、この係合部材31を支持する支持部材32と、係合部材31を支持部材32と共に第2旋回部22に上下動可能に支持する平行リンク機構33と、該平行リンク機構33を作動させる駆動シリンダ34とを備えている。
【0036】
平行リンク機構33は、第2旋回部22の旋回する旋回部材35に固定された基板36と、上記係合部材31の支持部材32に固定された可動板37とを、上下に平行に設けられたリンク38,39とを備えてなる。駆動シリンダ34は、そのシリンダ部の基端が下リンク39の基端寄りに設けられたブラケットに枢支され、ピストンロッドの先端が上リンク38の先端寄りに設けられたブラケットに枢支されている。この例では、ピストンロッドが後退するように駆動シリンダ34が作動するときに、可動板37が下降する。すなわち、係合部材31が下降する。
【0037】
係合部材31は、スプリングシート6を挟んでゴムブッシュ3の反対側である閉断面形状のスイングアーム2の後端開口41(
図2参照)に嵌入されることで、該スイングアーム2に係合する。
【0038】
図4に示すように、係合部材31は、その基端が支持部材32に車幅方向に延びる支軸42によって上下揺動自在に枢支されて前方に突出している。係合部材31の側面には、
図2に示すスイングアーム2の後端部側面に開口した孔43に対応するピン孔(図示省略)が開口しており、この両孔に抜け止めピンを差し込むことによって、スイングアーム2と係合部材31の係合が外れないようにされる。
【0039】
本例の繋止部材26は、ワイヤーよりなり、その基端が支持部材32の支軸42に結ばれ、その先端がスイングアーム2を車体側に繋止するための繋止具45に結ばれている。繋止具45は、基板46と、連結ピン47を固定したL字部材48と、L字部材48を基板46に係合する係合ピン49とを備えてなる。基板46には、長孔46aとピン孔46bが設けられている。L字部材48は基板46の長孔46aに通される。連結ピン47は基板46のピン孔46bに通される。基板46の背面側に突出したL字部材48に係合ピン49を係合させることによって、L字部材48と連結ピン47が基板46に保持される。繋止部材26は繋止具45のL字部材48に結び付けられている。
【0040】
後に詳述するが、繋止部材26は、繋止具45が車体側に結合された状態で、スイングアーム2が強制的に下方に回動させられたとき、張り状態になることにより、車体7に対する相対的関係でのスイングアーム2の姿勢の過度の変化を規制する。すなわち、繋止部材26が張り状態になるまでスイングアーム2の姿勢が変化したときに、スプリングシート6,8の間隔が、コイルスプリング9を圧縮させることなく当該スプリングシート6,8の間に挿入することができる大きさに広がる。
【0041】
スイングアーム2は、繋止部材26が張り状態になるまで姿勢が変化すると、それ以上の姿勢変更が繋止部材26によって規制される。従って、スプリングシート6,8の間隔が上記大きさ以上に過度に広がることがない。
【0042】
繋止部材26の基端が結ばれる支軸42は、先に述べたように、スイングアーム2の後端開口41に嵌入される係合部材31の支持部材32に設けられている。このことは、繋止部材26は、スプリングシート6を挟んでゴムブッシュ3の反対側において、スイングアーム2と車体7とを繋ぐことを意味する。
【0043】
本実施形態では、繋止具45は、
図5等に示すスイングアーム2と車体7とを連結する車両部品としてのダンパー49の下端に結合される。この点は後述する。
【0044】
<サスペンション装置の組立て方法>
上記組立て装置を用いてサスペンション装置の組立てを行なう。
【0045】
図5に示すように、スイングアーム2は、その前端が車体7のサイドシル51からホイールハウス52の内部に延設されたブラケット53に支持される。具体的な図示は省略するが、スイングアーム2のゴムブッシュ3の内筒に挿入した支軸がブラケット53に固定される。
【0046】
左右のスイングアーム2各々をゴムブッシュ3によって車体7に支持した後、走行装置12の作動によって車体7と同期して走行する組立て機器11をスイングアーム2に対して位置決めする。すなわち、第1旋回部21による旋回アーム18の旋回動と第2旋回部22による組立て機器11の旋回動を利用して、作業者が組立て機器11の係合部材31をスイングアーム2の後端開口41の位置に合わせる。この係合部材31を当該後端開口41からスイングアーム2内に差し込み、抜け止めピンによる係合部材31の抜け止めをする。
【0047】
また、
図6に示すように、繋止部材26の繋止具45をダンパー49の下端に結合する。ダンパー49はその上端が予め車体7に枢着されている。ダンパー49は、コイルスプリング9が介装された後に、その下端のブッシュ54が、
図7等に示すスイングアーム2の後端部上面に固定された支持部材55にピン56によって枢着されるものである。コイルスプリング9の介装にあたっては、繋止部材26を歪めた状態にして、繋止具45のピン48をダンパー49の下端のブッシュ54に通して該繋止具45をダンパー49に結合する。
【0048】
この状態で、駆動シリンダ34を作動させてそのピストンロッドを後退させることにより、平行リンク機構33の可動板27を下降させる。これにより、
図7及び
図8に示すように、可動板27に固定された支持部材32が係合部材31と共に下降して、スイングアーム2が下方へ回動する。すなわち、車体7に対するスイングアーム2の姿勢が、該スイングアーム2側のスプリングシート6と車体側のスプリングシート8の間隔が広がるように変化する。
【0049】
スイングアーム2の上記姿勢変化に伴って、繋止部材26は、歪みがとれていき、スイングアーム2とダンパー49との間で張力がかかった張り状態になる。スイングアーム2は、繋止部材26が張り状態になるまで姿勢が変化すると、駆動シリンダ34の出力に拘わらず、それ以上に姿勢が変化することが繋止部材26によって規制される。
【0050】
繋止部材26が張り状態になるまでスイングアーム2の姿勢が変化したとき、
図9に示すように、スプリングシート6,8の間隔は、コイルスプリング9を圧縮させることなく、当該スプリングシート6,8間に挿入することができる大きさに広がる。従って、スプリングシート6,8間へのコイルスプリング9の挿入が容易になる。なお、
図9では、アクスル装置4、繋止部材26、係合部材31等の図示を省略している。
【0051】
コイルスプリング9の上記挿入後に、駆動シリンダ34の出力を解除すると、スイングアーム2は、ゴムブッシュ3の弾性復元力により、コイルスプリング9を圧縮させながら、ゴムブッシュ3の弾力とコイルスプリング9の弾力が釣り合う姿勢になるまで、上方に回動する。その後、係合部材31をスイングアーム2の後端開口41から抜き取る。
【0052】
上述の如く、コイルスプリング9の介装を行なうためのスイングアーム2の姿勢変化は、スイングアーム2と車体7(車体7に結合されたダンパー49)を繋ぐ繋止部材26によって規制している。このことは、スイングアーム2は、絶対的な姿勢の変化ではなく、車体7に対する相対的関係での姿勢の変化が規制されるということである。
【0053】
従って、車体搬送装置の摩耗等によって、或いは混流生産における車種の違いによって、搬送される車体7の位置や姿勢が常に一定ではなくても、コイルスプリング9の介装のためにスイングアーム2の姿勢を変化させたときに、スイングアーム2を含むサスペンション装置が他の車体構成品と干渉したり、サスペンション装置や他の車体構成品に無理がかかることは避けられる。すなわち、そのようなトラブルを招くことなく、スイングアーム2の姿勢を変化させて、スイングアーム2と車体7の間にコイルスプリング9を挿入することができる。
【0054】
また、繋止部材26が張り状態になるまでスイングアーム2の姿勢を変化させたときにスプリングシート6,8の間隔がコイルスプリング9を圧縮させることなく挿入できる大きさに広がる。従って、コイルスプリング9を当該挿入前に圧縮させる必要がないから、当該組立て工程のサイクルタイムの短縮が図れ、生産性向上に有利になる。さらに、コイルスプリング9の圧縮治具等による損傷も防止される。
【0055】
また、上記実施形態では、スプリングシート6を挟んでゴムブッシュ3の反対側において、スイングアーム2とダンパー49とを繋止部材26によって繋ぐ。従って、繋止部材26によるスイングアーム2の姿勢の過度の変化の規制に有利になるとともに、スプリングシート6,8間へのコイルスプリング9の挿入においても、繋止部材26が邪魔にならず、その挿入が容易になる。
【0056】
また、上記実施形態では、繋止部材26をスイングアーム2に対するダンパー49の結合部(ダンパー49の下端のブッシュ54)に繋ぐから、車体側には繋止部材26を繋ぐ部分を新たに設ける必要がなく、製品コストの軽減に有利になる。
【0057】
なお、上記実施形態では、姿勢変更機構25における係合部材31を上下動させる手段として平行リンク機構33を採用したが、これに限らず、駆動シリンダや駆動モータ等の駆動手段で直接又はリンク機構を利用して間接的に係合部材31を上下動させることができる。
【0058】
上記実施形態では、姿勢変更機構を車体と同期走行させるようにしたが、姿勢変更機構は定置式としてもよい。
【0059】
上記実施形態では、繋止部材としてワイヤーを用いたが、これに限らず、例えば、チェーンを繋止部材として採用することもでき、要するに、繋止部材は、張力がかかると一定の長さに延びた張り状態になってサスペンション部材の姿勢変化を規制し得るものであればよい。
【符号の説明】
【0060】
1 トーンションビーム
2 スイングアーム
3 ゴムブッシュ
5 アクスル装置
6 スプリングシート
7 車体
8 スプリングシート
9 コイルスプリング
25 姿勢変更機構
26 繋止部材
49 ダンパー(車両部品)
52 ブッシュ(ダンパーの結合部)