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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】電気絶縁ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20230418BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/18 C
H01B7/18 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020540142
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028491
(87)【国際公開番号】W WO2020044851
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2018158425
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 友多佳
(72)【発明者】
【氏名】田中 成幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小堀 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅之
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-191883(JP,A)
【文献】特開平11-121223(JP,A)
【文献】特開2014-220043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と前記導体を覆う絶縁層とを含む少なくとも1本の絶縁線よりなるコア電線と、
前記コア電線を覆う被覆層とを備える電気絶縁ケーブルであって、
前記コア電線と前記被覆層との間に、前記コア電線を覆うように配置された被覆材を備え、
前記被覆材と前記絶縁層との間の-30℃での動摩擦係数が、0.20以下であり、
前記被覆材が、テープ部材であり、
前記テープ部材が、ポリエステル製のペーパー又はポリエチレンテレフタラートフィルムであり、
前記絶縁層を形成する樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である電気絶縁ケーブル。
【請求項2】
前記被覆材の厚みが3μm以上200μm以下である、請求項1に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項3】
前記テープ部材が、前記被覆層を形成する材質の融点より高い融点を有する熱可塑性樹脂からなる請求項1又は請求項2に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項4】
前記被覆層が、前記被覆材を覆う第1の被覆層と、前記第1の被覆層を覆う第2の被覆層からなる請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項5】
前記コア電線が、互いに略同一の直径をそれぞれ有し、その断面積が1.5~3.0mmである導体を含む絶縁線を2本以上含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項6】
車載用の電気絶縁ケーブルである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電気絶縁ケーブル。
【請求項7】
電動パーキングブレーキ用の電気絶縁ケーブルである請求項6に記載の電気絶縁ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気絶縁ケーブルに関する。本出願は、2018年8月27日に出願した日本特許出願である特願2018-158425号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される電動パーキングブレーキ(EPB)システムには、ホイールハウス内のキャリパーと車体側の電子制御ユニットを電気的に接続する電気絶縁ケーブル(EPB用ケーブル)が用いられている。特許文献1(特開2015-156386号公報)には、導体及びこれを覆う絶縁層からなる絶縁線と、前記絶縁線が複数本撚り合されて形成されたコア電線(撚り線)と、前記コア電線を覆う第1の被覆層と、前記第1の被覆層を覆う第2の被覆層とを備える電気絶縁ケーブルが開示されており、EPB用ケーブルとしての用途も開示されている(段落0020)。特許文献1に開示されているケーブルは、前記コア電線と前記第1の被覆層との間に、前記コア電線を被覆するテープ部材を配置することを特徴とし、テープ部材の除去により、コア電線と第1の被覆層とを分離してコア電線を露出させることを容易にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-156386号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明者は検討の結果、電気絶縁ケーブル内部のコア電線を、ケーブルの屈曲時にケーブル内で拘束されずに動きやすくすれば、耐屈曲性が向上することを見出した。そして、コア電線の外周を、コア電線を構成する絶縁線の絶縁層との摩擦抵抗が小さい被覆材で覆えば、ケーブルの屈曲時にコア電線がケーブル内で動きやすくなり、ケーブルの耐屈曲性が向上することを見出し、下記の構成からなる本開示を完成した。
【0005】
本開示の一態様に係る電気絶縁ケーブルは、
導体と前記導体を覆う絶縁層とを含む少なくとも1本の絶縁線よりなるコア電線と、
前記コア電線を覆う被覆層とを備える電気絶縁ケーブルであって、
前記コア電線と前記被覆層との間に、前記コア電線を覆うように配置された被覆材を備える。
前記被覆材と前記絶縁層との間の-30℃での動摩擦係数が、0.20以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の例の構成を示す断面図である。
図2図2は、本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の他の例の構成を示す断面図である。
図3図3は、実施例における動摩擦係数の測定方法を模式的に示す図である。
図4図4は、実施例における屈曲試験の方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
EPB用ケーブル等の車載ケーブルには、コア電線の露出しやすさとともに、自動車の走行中の石跳ねに対する耐性(耐衝撃性:ダメージの受けにくさ)等が要望される。さらに、走行中のケーブルの屈曲の繰り返しによる劣化(断線等)が生じにくいとの性質(優れた耐屈曲性)も望まれている。EPB用ケーブルについては、-40℃程度の低温から120℃程度の高温に至る環境での使用を想定する必要があり、屈曲の繰り返しによる断線等は特に低温で生じやすい。そこで、特に低温での耐屈曲性の向上が望まれる。
【0008】
本開示は、導体と前記導体を覆う絶縁層とを含む少なくとも1本の絶縁線からなるコア電線と、前記コア電線を覆う被覆層からなり、EPB用ケーブルや車輪速センサ(WSS)用ケーブル等として用いることができる電気絶縁ケーブルであって、従来よりも耐屈曲性に優れる電気絶縁ケーブル、特に低温での耐屈曲性に優れる電気絶縁ケーブルを提供することを課題とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、耐屈曲性に優れる電気絶縁ケーブル、特に低温での耐屈曲性に優れる電気絶縁ケーブルを提供することができる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
以下、本開示を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲内及び請求の範囲と均等の意味、範囲内での全ての変更が含まれる。
【0011】
本開示の一態様に係る電気絶縁ケーブルは、
導体と前記導体を覆う絶縁層とを含む少なくとも1本の絶縁線よりなるコア電線と、
前記コア電線を覆う被覆層とを備える電気絶縁ケーブルであって、
前記コア電線と前記被覆層との間に、前記コア電線を覆うように配置された被覆材を備える。
前記被覆材と前記絶縁層との間の-30℃での動摩擦係数が、0.20以下である。
【0012】
本開示の電気絶縁ケーブルでは、コア電線の外周を、絶縁線を構成する絶縁層との間の-30℃での動摩擦係数が0.20以下である被覆材で被覆する。コア電線と被覆層との間にコア電線との摩擦が小さい被覆材を配置することにより、ケーブルの屈曲時にコア電線はケーブル内での動きが拘束されず動きやすくなる。その結果、低温でも耐屈曲性が向上し、走行中のケーブルの屈曲の繰り返しによるケーブルの劣化(断線等)が抑制される。
【0013】
先ず、本開示の電気絶縁ケーブルを構成する各要素について説明する。
(1)コア電線
コア電線は少なくとも1本の絶縁線よりなる。コア電線が1本の絶縁線からなる場合は、絶縁線自体がコア電線である。また、コア電線が2本以上(複数本)の絶縁線からなる場合は、複数本の絶縁線の集合体がコア電線である。コア電線が複数の絶縁線の集合体である場合、コア電線は、例えば、複数の絶縁線を撚り合せてなる撚り線であってもよい。例えば、電気絶縁ケーブルがEPB用ケーブルである場合は、断面積が約1.5mm~3.0mmの範囲にある導体を有し、互いに略同一の直径をそれぞれ有する2本以上の絶縁線を撚り合わしてコア電線を形成することができる。車輪速センサ(WSS)用ケーブル等の信号またはアース用のケーブルの場合は、EPB用ケーブルの場合より断面積が小さい導体を有する1本の絶縁線がコア電線であってもよく、又は互いに略同一の直径をそれぞれ有する2本以上の絶縁線(EPB用ケーブルの場合より断面積が小さい導体を有する絶縁線)を撚り合わせてコア電線を形成してもよい。
【0014】
1本のコア電線が、2種類以上の用途の絶縁線を含むこともできる。例えば、断面積が約1.5mm~3.0mmの範囲にある導体をそれぞれ有し、互いに略同一の直径を有するEPB用としての2本以上の絶縁線と、断面積が前記の範囲より小さい導体をそれぞれ有し、互いに略同一の直径を有する信号またはアース用ケーブルとしての1本以上の絶縁線と、を撚り合わして、1本のコア電線を形成することもできる。
【0015】
(2)絶縁線
コア電線を構成する少なくとも1本の絶縁線は、導体と前記導体を覆う絶縁層を有する。
導体は、銅、アルミニウム、銅合金、アルミニウム合金等の導電性と柔軟性を有する材料からなる線であり、外径0.1mm程度の細い素線を数十本から数百本撚り合せた撚り線が用いられる場合が多い。導体の断面積(複数本の素線の合計断面積)は、給電用途に用いられる電源線(例えばEPB用ケーブル)の場合には、好ましくは1.5mm~3.0mmの範囲、より好ましくは1.6mm~2.5mmの範囲である。電源線に比べて断面積が小さい信号線用途に用いられるケーブル(例えばWSS用ケーブル)の場合には、好ましくは0.13mm~0.5mmの範囲、より好ましくは0.18mm~0.35mmの範囲の撚リ線が用いられる場合が多い。
【0016】
絶縁線は、通常の絶縁電線と同様の方法、例えば、前記のような導体の外周に、絶縁層を形成する樹脂を溶融押出して被覆することにより形成することができる。被覆後、電離放射線照射等により樹脂を架橋してもよい。
【0017】
絶縁層を形成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂を例示することができ、好ましくは、難燃性のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。例えば、難燃剤を配合することで難燃性を付与した難燃性ポリエチレンで絶縁層を形成することができる。難燃性のポリオレフィン系樹脂で絶縁層を形成することにより、被覆層やテープ部材等の被覆材が除去されてコア電線(絶縁線)の一部が露出した状態においても、コア電線(絶縁線)の難燃性や絶縁性を確保することができる。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、エチレン-メチルアクリレート共重合樹脂(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂(EEA)等を挙げることができるが、これらの例に限定されない。絶縁層を形成する材料としては、フッ素系樹脂等の他の材料も挙げることができる。
【0019】
EPB用ケーブルに用いられるEPB用の絶縁線の場合、絶縁層の厚さは好ましくは0.2mm~0.8mmの範囲であり、より好ましくは0.25mm~0.7mmの範囲である。絶縁層の外径は、好ましくは2.5mm~4.0mmの範囲であり、より好ましくは2.5mm~3.8mmの範囲である。
【0020】
(3)被覆材
被覆材は、絶縁線を構成する絶縁層との間の-30℃での動摩擦係数が0.20以下である被覆材(例えば、膜状の被覆材)であり、コア電線と被覆層の間に配置され、コア電線の外周の全体を覆うものである。特許文献1に記載の電気絶縁ケーブルでも、コア電線の外周は被覆材(テープ部材)で被覆されているが、このテープ部材は、パルプ原料の薄紙やポリエステル等の樹脂材料で形成された人工繊維等から形成されるものであり、絶縁層との間の-30℃での摩擦係数が0.20より大きいものであった。従って、コア電線は屈曲時にケーブル内でその動きが拘束されて動きにくくなりその結果優れた耐屈曲性は得られなかった。
本態様は、被覆材として、絶縁層との間の-30℃での動摩擦係数が0.20以下の材質からなるものを使用してケーブルの優れた耐屈曲性を達成したものである。なお、-30℃での耐屈曲性に優れるとの結果から、-40℃~0℃の範囲で耐屈曲性が優れることも明らかと言える。
【0021】
被覆材としては、被覆の容易さ等の観点からテープ状のテープ部材が好ましく用いられ、このテープ部材を、コア電線の外周に巻回して外周全体を覆う方法が好ましく採用される。
【0022】
前記テープ部材には屈曲の繰り返しにより破損しにくい強度が望まれる。テープ部材は、通常、コア電線の外周に巻回されるのでこの場合は巻回しやすさが望まれる。テープ部材の厚さや形状(幅等)、形成材料は、強度や巻回しやすさを考慮して選択されることが好ましい。
【0023】
以上の観点から、テープ部材を形成する材料としては、紙、不織布、ポリエステルペーパー、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、フッ素樹脂フィルム等を挙げることができる。中でも、ポリエステル製のペーパー又はフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタラート(PET)等のポリエステルからなる不織布であるポリエステルペーパーやPETフィルムが特に好ましい。また、摩擦係数の低減やフィルム強度向上等の目的で、表面に離型剤や高硬度樹脂等を塗布する、金属をめっきや蒸着する、金属箔を貼り合わせる等の加工を行うことも可能である。
【0024】
テープ部材などの被覆材の厚さは3μm~200μmの範囲が好ましい。厚さが3μmより薄い場合にはコア電線の外周への巻き付け工程でテープが伸び、取り扱いが困難となることがある。厚さが200μmより厚い場合は、テープの剛性が高く巻き付けてもテープが広がりやすくなり、巻回後に被覆される被覆層の外径が安定しなくなる場合がある。
【0025】
又、被覆材による被覆後、その外周に被覆層が、その形成材料である樹脂の溶融押出等により形成される場合、テープ部材等の被覆材が、溶融押出の加熱により溶融や変形をしないことが望まれる。そこで、テープ部材等の被覆材は、被覆層を形成する材質の融点より高い融点を有する材質により形成されることが好ましい。具体的には、160℃以上の融点を有する材質、例えば熱可塑性樹脂により形成されていることが好ましい。160℃未満の融点の場合は、外周に被覆層を形成する過程で被覆材が溶融や変形することがある。
【0026】
(4)被覆層
本開示の電気絶縁ケーブルは、コア電線を保護するため、テープ部材(コア電線)の外周を覆う被覆層(シース)を備える。被覆層には、自動車走行中の石跳ね等に対する耐性(耐衝撃性)、ケーブルの柔軟性を確保するための柔軟性、走行時の屈曲の繰り返しによっても導体の断線や抵抗の増大等の劣化を生じさせない優れた耐屈曲性等が求められる。
【0027】
被覆層は、2以上の層から構成されていてもよい。EPB用ケーブルやWSS用ケーブル等の車両に搭載される電気絶縁ケーブルは、通常、被覆層は、前記テープ部材で覆われたコア電線を覆う第1の被覆層(内側シース層)と、前記第1の被覆層を覆う第2の被覆層(外側シース層)からなる2層構造である。
【0028】
ケーブルの柔軟性を向上させるため、第1の被覆層(内側シース層)を構成する材料としては、柔軟性に優れたものが好ましい。特に、第1の被覆層(内側シース層)の低温での弾性率が大きい場合、ケーブルの低温での耐屈曲性が低下するので、低温での耐屈曲性を向上させるため、低温で柔軟な材料が好ましく使用される。車両に搭載されるケーブルには、さらに、耐摩耗性に優れること、耐熱性に優れること等も望まれ、難燃性が望まれる場合も多い。
【0029】
(A)第1の被覆層(内側シース層)
第1の被覆層を形成する材料としては、ポリエチレンやエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、又はこれらを混合した樹脂等を挙げることができる。第1の被覆層をポリオレフィン系樹脂から形成することにより、ケーブルの低温での柔軟性を向上させ、耐屈曲性を向上させることができる。第1の被覆層をポリウレタンエラストマーから形成することにより、ケーブルの耐摩耗性を向上させることができる。また、第1の被覆層をポリエステルエラストマーから形成することにより、ケーブルの耐熱性を向上させることができる。前記例示の樹脂の中でも、価格等の観点からポリエチレン系が特に好ましい。
【0030】
第1の被覆層を形成する材料としては、VLDPEを主成分とし低温と高温での弾性率の比が小さい樹脂を用いることもできる。このような樹脂を用いることで、室温から低温までの広い温度範囲で優れた耐屈曲性を有するケーブルを製造することができる。VLDPEを主成分とした樹脂には、本開示の趣旨を損ねない範囲で、EVA、EEA、酸変性VLDPE等のその他の樹脂をブレンドしてもよい。
本開示の趣旨を損ねない範囲であれば、上記の第1の被覆層を形成する材料には、酸化防止剤や着色剤、難燃剤等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0031】
給電用途に用いられる電源線(例えばEPB用ケーブル)の場合、第1の被覆層の厚さは、通常、0.3mm~1.5mmの範囲が好ましく、より好ましくは0.45mm~1.2mmの範囲である。
【0032】
(B)第2の被覆層(外側シース層)
第2の被覆層は、ケーブルの外側シース層である。EPB用ケーブル等の車両に搭載されるケーブルの場合は、走行中の石跳ね等によるダメージを受けやすいので、ダメージを抑制するため、第2の被覆層を形成する材料には耐外傷性や耐摩耗性に優れた樹脂が望まれる。又、ケーブルを柔軟にするため、柔軟性に優れた材料が望まれる。さらに又、ケーブルに難燃性が望まれる場合は、第2の被覆層には高い難燃性が望まれる。
【0033】
そこで、第2の被覆層を形成する材料としては、耐外傷性、柔軟性等の観点から、ポリウレタン系樹脂が好ましく用いられ、例えば難燃性のポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。給電用途に用いられる電源線(例えばEPB用ケーブル)の場合、第2の被覆層の厚さは、通常、0.3mm~0.7mmの範囲が好ましい。
【0034】
(5)本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の例
(A)実施形態の例1
図1は、本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の1例の断面図である。図1に示す電気絶縁ケーブルは、EPB用ケーブルとして用いられるケーブルであり、2本の絶縁線を撚り合せてなるコア電線を有し、被覆層が2層からなる。
【0035】
図1中、1は導体である。導体1は銅合金からなり外径0.1mm程度の素線を約400本より合わせて形成された撚り線であって、その外径は2mm~3mm程度である。導体1の外周を、難燃性ポリエチレンからなり厚さ0.5mm程度の絶縁層2で被覆して、絶縁線3が形成される。このようにして形成された2本の絶縁線3を撚り合して、コア電線4が形成されている。
【0036】
コア電線4の外周には、テープ部材5が螺旋状に巻回されており、コア電線4の外周全体を覆っている。テープ部材5は、絶縁層2との動摩擦係数が0.19であるポリエステルペーパーから形成されており、幅5mm程度、厚さ0.033mm程度のテープである。テープ部材5としては、ポリエステルペーパーからなるテープの代わりに、絶縁層2との動摩擦係数が0.20以下である他の材料からなるテープを用いることもできる。当該他の材料としては、PET、PBT等のポリエステル樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム等を挙げることができるが、絶縁層2との動摩擦係数を0.20以下とする材料であれば特に限定されない。ただ、容易な巻回を可能にする柔軟性を有し、ケーブルの屈曲等により破損しにくい強度や、被覆層を形成(樹脂の溶融押出)する際の熱により溶融や変形等をしない材料が好ましく用いられる。
【0037】
図1に示される実施形態の電気絶縁ケーブルでは、テープ部材5(コア電線4)の外周を被覆する被覆層は、第1の被覆層(内側シース層)と第2の被覆層(外側シース層)からなる2層構造である。図1中、6は第1の被覆層であり、7は第2の被覆層である。
【0038】
第1の被覆層6は、ポリエチレンからなり、その厚さは0.6mm程度である。第2の被覆層7は、ポリウレタンからなり、その厚さは0.5mm程度である。第1の被覆層6を形成する材料としては、ポリエチレンに限定されないが、ケーブルの難燃性、耐摩耗性、耐屈曲性(柔軟性)を向上させる樹脂が好ましく用いられる。第2の被覆層7を形成する材料としては、ポリウレタンに限定されないが、難燃性、耐外傷性、耐屈曲性(柔軟性)に優れる樹脂が好ましく用いられる。
【0039】
(B)実施形態の例2
図2は、本開示の電気絶縁ケーブルの実施形態の他の1例の断面図である。図2に示す電気絶縁ケーブルは、EPB用及びWSS用として用いられるケーブルであり、4本の絶縁線を撚り合せてなるコア電線を有し、被覆層が2層からなる。
【0040】
図2を参照して、導体11は銅合金からなり外径0.1mm程度の素線を約400本より合わせて形成された撚り線であって、その外径は2mm~4mm程度である。導体11の外周を、難燃性ポリエチレンからなり厚さ0.4mm程度の絶縁層21で被覆して絶縁線31が形成される。絶縁線31によりEPB用の送電がされる。導体12は銅合金からなり外径0.1mm程度の素線を48本より合わせて形成された撚り線であって、その外径は1.5mm~2.5mm程度である。導体12の外周を、難燃性ポリエチレンからなり厚さ0.4mm~0.8mm程度の絶縁層22で被覆して絶縁線32が形成される。絶縁線32によりWSS用の送電がされる。このようにして形成された2本の絶縁線31及び2本の絶縁線32を撚り合して、コア電線41が形成される。
【0041】
コア電線41の外周には、絶縁層21及び22を形成する難燃性ポリエチレンとの動摩擦係数が0.19であるポリエステルペーパーからなるテープ部材51が螺旋状に巻回されており、コア電線41の外周全体が覆われている。テープ部材51は、実施形態の例1のテープ部材5と同様な幅、厚さのテープを用いることができ、又、その形成材料もテープ部材5と同様なものを用いることができる。
【0042】
図2に示される実施形態の電気絶縁ケーブルでは、テープ部材51(コア電線41)の外周を被覆する被覆層は、第1の被覆層(内側シース層)と第2の被覆層(外側シース層)からなる2層構造であり、図2中の61は第1の被覆層であり、71は第2の被覆層である。
【0043】
第1の被覆層61の厚さは、実施形態の例1の第1の被覆層6と同様な厚さとすることができ、又その形成材料も第1の被覆層6と同様なものを用いることができる。第2の被覆層71の厚さは、実施形態の例1の第2の被覆層7と同様な厚さとすることができ、又その形成材料も第2の被覆層7と同様なものを用いることができる。
【0044】
(6)本開示の電気絶縁ケーブルの製造方法
次に、本開示の電気絶縁ケーブルを製造する方法について説明する。
絶縁線は、前記のような導体の外周を、絶縁層を構成する材料である絶縁性樹脂で被覆して製造することができる。絶縁性樹脂の被覆は、公知の絶縁電線の製造の場合と同様な方法、例えば絶縁性樹脂の溶融押出により行うことができる。絶縁層が形成された後、絶縁層の耐熱性向上のため、電離放射線照射等により絶縁層を形成する樹脂を架橋してもよい。
【0045】
コア電線は、絶縁線の1本からなる場合もあるが、2本以上の絶縁線からなる場合は、前記のようにして製造された絶縁線の2本以上を撚り合わして形成される。絶縁線の撚り合わせは、例えば、絶縁線が巻き付けられた2以上のサプライリールのそれぞれから絶縁線を、撚り合せ手段(複数本の絶縁線を撚り合せる装置)に供給して行うことができる。
【0046】
このようにして形成されたコア電線は、被覆材で被覆される。例えば、テープサプライリール(テープ部材が巻き付けられたリール)から供給されてきたテープ部材を巻き付けて、テープ被覆コア電線(テープ部材により外周が被覆されたコア電線)が形成される。テープ部材は、例えば、コア電線の外周に螺旋状に巻き付けられる。
【0047】
テープ被覆コア電線は、第1の樹脂被覆部に送られて、その外周にポリエチレン等の樹脂材料が被覆されて第1の被覆層(内側シース層)が形成される。樹脂材料の被覆は、例えば、樹脂材料をテープ被覆コア電線の外周に溶融押出することにより行うことができる。第1の被覆層の形成後、電線は第2の樹脂被覆部に送られて、第1の被覆層の外周に外側シース層形成のための樹脂材料が被覆されて第2の被覆層(外側シース層)が形成され、被覆層が内側シース層と外側シース層の2層からなる本開示の電気絶縁ケーブルが製造される。第2の被覆層が形成された後、被覆層の樹脂を架橋して耐傷性等を向上させるため、ケーブルに電子線照射等を行ってもよい。
【実施例
【0048】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(1)屈曲試験用電気絶縁ケーブルの形成材料
下記の材料を使用して、屈曲試験用の電気絶縁ケーブルを作製した。
1)絶縁層の形成材料:難燃性のポリエチレン系樹脂
2)第1の被覆層(内側シース層)の形成材料:非難燃性のポリエチレン系樹脂
3)第2の被覆層(外側シース層)の形成材料:非難燃性のポリウレタン
4)テープ部材の形成材料
・PETテープ:厚さ6μm(東レ社製、ルミラー)
・ポリエステルペーパー:厚さ33μm(天間特殊製紙社製)
・薄紙:厚さ30μm(大王製紙社製)
・テフロン(登録商標)テープ:厚さ50μm(ニチアス社製、ナフロンPTFEテープ)
・離型PETテープ:厚さ100μm(三井化学東セロ社製)
・アルミ箔PET複合フィルム:厚さ62μm(パナック社製、アルペット)
・PETテープ:厚さ25μm(三菱ケミカル社製、ダイアホイル)
・ポリエステルペーパー:厚さ25μm(東洋紡社製)
【0050】
(2)テープ部材の動摩擦係数の測定
上記のテープ部材について、次に示す方法で絶縁層の形成材料(難燃性のポリエチレン)との間の-30℃での動摩擦係数を測定した。
上記のテープ部材の形成材料により幅15mm×長さ30mmのシートを作製し摩擦材とした。
絶縁層の形成材料により、幅20mm×長さ120mm×厚さ1mmのシートを作製し被摩擦材とした。
図3に模式的に示すように、被摩擦材の上に摩擦材を載せ、摩擦材の上に100gのおもりを載せて、0.98Nの荷重を摩擦材に加えた。この状態で、摩擦材、被摩擦材を-30℃にした後、摩擦材を100mm/分の試験速度で図3に示すように引張り移動させた。引張りに要する力(試験力)を測定し、移動距離10mm~20mmまでの試験力の平均値を摩擦力とした。このようにして得られた摩擦力を荷重(0.98N)で除して、動摩擦係数を計算した。このようにして測定された各テープ部材の動摩擦係数を表1に示す。
【0051】
(3)屈曲試験用電気絶縁ケーブルの作製
銅合金からなり外径0.08mの素線を52本撚り合されて形成された撚り線7本を、さらに撚り合わせた外径2.0mmの撚り撚り線を導体として用いた。その導体の外周に難燃性のポリエチレンを溶融押出し厚さ0.4mmの絶縁層を形成して絶縁線を作製した。
【0052】
作製された前記絶縁線を2本撚り合してコア電線を作製した。作製された前記コア電線の外周に表1に記載のテープ部材のそれぞれを巻き幅3mmで螺旋状に1層に巻いてコア電線の外周を被覆した。テープ部材が巻かれた前記コア電線の外周に、非難燃性のポリエチレン系樹脂を溶融押出して被覆し、厚さ0.5mmの第1の被覆層を形成した。その後、非難燃性のポリウレタンを溶融押出して被覆し、厚さ0.5mmの第2の被覆層を形成し屈曲試験用電気絶縁ケーブルのサンプルを作製した。
【0053】
(4)屈曲試験
上記で得られた屈曲試験用電気絶縁ケーブルについて、JIS C 6851:2006(光ファイバ特性試験方法)に準ずる方法にて屈曲試験を行った。
具体的には、図4に示すように、水平かつ互いに平行に配置された直径60mmの2本のマンドレルA、Bの間に、屈曲試験用電気絶縁ケーブルを鉛直方向に配置して挟み、上端を一方のマンドレルAの上側に当接するように水平方向に90°屈曲させた後、他方のマンドレルBの上側に当接するように水平方向に90°屈曲させることを-30℃の恒温槽内で繰り返した。この繰り返しは、ケーブル中の2本の導体を接続して抵抗値を測定しながら行い、初期抵抗値の10倍以上まで抵抗が上昇したときの回数(右側に曲げてから、左側に曲げた後、右側に戻ってくるまでを屈曲回数1回とする)を耐屈曲性の指標値とした。その結果を表1の「屈曲回数」の欄に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示されるように、-30℃での動摩擦係数が0.20以下のテープ部材を用いた場合(試料1~5)では、屈曲回数は大きく、優れた耐屈曲性が得られている。一方、-30℃での動摩擦係数が0.20を超えるテープ部材を用いた場合(試料6~8)では、屈曲回数は小さく耐屈曲性は低い。この結果より、テープ部材として-30℃での動摩擦係数が0.20以下のものを用いることにより、電気絶縁ケーブルの優れた耐屈曲性が得られることが示されている。
【符号の説明】
【0056】
1,11,12 導体、2,21,22 絶縁層、3,31,32 絶縁線、4,41 コア電線、5,51 テープ部材、6,61 第1の被覆層(内側シース層)、7,71 第2の被覆層(外側シース層)。
図1
図2
図3
図4