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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20230418BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230418BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20230418BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20230418BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C1/00 A
B60C9/22 A
C08L21/00
C08K5/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020548480
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036194
(87)【国際公開番号】W WO2020059673
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2018174053
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大坪 茂幹
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 達也
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/001942(WO,A1)
【文献】特開2015-232110(JP,A)
【文献】特開2013-166913(JP,A)
【文献】特開2004-042786(JP,A)
【文献】特開平07-096715(JP,A)
【文献】特開2012-091733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部が、少なくともキャップトレッドおよびジョイントレスバンドを有し、
前記キャップトレッドがキャップトレッド用ゴム組成物からなり、
前記ジョイントレスバンドが繊維コードを繊維コード用被覆ゴム組成物で被覆されてなり、
前記キャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対して老化防止剤を6.0質量部以上含有し、
トレッド主溝底部のサブトレッド厚みが0.1~3.0mmである空気入りタイヤ。
【請求項2】
キャップトレッド用ゴム組成物が、ビスフェノール系老化防止剤を含有する、請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
キャップトレッド用ゴム組成物が、フェニレンジアミン系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、およびキノリン系老化防止剤からなる群から選ばれる2種以上を含有する、請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部が、少なくともキャップトレッドおよびジョイントレスバンドを有し、
前記キャップトレッドがキャップトレッド用ゴム組成物からなり、
前記ジョイントレスバンドが繊維コードを繊維コード用被覆ゴム組成物で被覆されてなり、
前記キャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対して老化防止剤を3.0質量部以上含有し、
トレッド主溝底部のサブトレッド厚みが0.1~3.0mmであり、
前記老化防止剤がビスフェノール系老化防止剤を含有し、
前記ビスフェノール系老化防止剤のゴム成分100質量部に対する含有量が2.5質量部以上である、空気入りタイヤ。
【請求項5】
キャップトレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、HLBが5~12の界面活性剤および/または炭素数が40~70の分岐アルカンを0.10~6.0質量部含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
キャップトレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、フェニレンジアミン系老化防止剤および/またはビスフェノール系老化防止剤を3.0質量部以上含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
キャップトレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、フェニレンジアミン系老化防止剤およびキノリン系老化防止剤を3.1質量部以上含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
繊維コード用被覆ゴム組成物が、フェニレンジアミン系老化防止剤およびビスフェノール系老化防止剤を実質的に含有しない、請求項1~のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤは、天然ゴムやジエン系合成ゴムを原料としたゴム組成物を用いているため、高オゾン濃度、紫外線条件下、また老化防止剤が消失しやすい高温環境下で劣化が促進され、クラック、例えば、トレッドの主溝底部においてTread Groove Cracking(TGC)が生じるおそれがある。
【0003】
近年、タイヤ軽量化のニーズが高くなり、トレッド主溝底部のサブトレッド厚みを薄くすることによりタイヤの軽量化が進められているが、軽量化タイヤを、タイヤディーラー、販売店等で保管していると、TGCが発生しやすいという問題がある。TGCは、タイヤを横積みしたり(10~15本程度)、狭い縦積み棚スペースにタイヤが変形する程タイヤを押し込んだりした場合等、トレッド主溝底部においてゴムに歪みが生じた状態で保管した際や、オゾン濃度が高い環境、例えば乾季、モーター回転時の電気火花やオゾン消臭装置がある付近等に保管した場合に、特に起こりやすい。トレッド主溝底部のサブトレッド厚みを薄くすることにより、トレッド主溝底部においてゴムに歪みが生じやすくなり、保管時にTGCが発生しやすくなるものと推測される。
【0004】
オゾン存在下でのクラックの発生やその進行を抑制するためには、例えば、フェニレンジアミン老化防止剤や石油系ワックス等の添加剤がゴム組成物に配合される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-166913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トレッド主溝底部のサブトレッド厚みを薄くしたタイヤを保管し、タイヤリム組みして車に装着して静置した場合であっても、良好な耐TGC性能有しつつ、ウェットグリップ性能を改善できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、キャップトレッド用ゴム組成物に老化防止剤を所定量配合することで上記課題を解決できること見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕少なくともキャップトレッドおよびジョイントレスバンドを備えたトレッド部を有する空気入りタイヤであって、前記キャップトレッドがキャップトレッド用ゴム組成物からなり、前記ジョイントレスバンドが繊維コードを繊維コード用被覆ゴム組成物で被覆されてなり、前記キャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対して老化防止剤を3.0質量部以上含有し、トレッド主溝底部のサブトレッド厚みが0.1~3.0mmである空気入りタイヤ、
〔2〕キャップトレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、HLBが5~12の界面活性剤および/または炭素数が40~70の分岐アルカンを0.10~6.0質量部含有する、〔1〕記載の空気入りタイヤ、
〔3〕キャップトレッド用ゴム組成物が、ビスフェノール系老化防止剤を含有する、〔1〕または〔2〕記載の空気入りタイヤ、
〔4〕キャップトレッド用ゴム組成物が、フェニレンジアミン系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、およびキノリン系老化防止剤からなる群から選ばれる2種以上を含有する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の空気入りタイヤ、
〔5〕キャップトレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、フェニレンジアミン系老化防止剤および/またはビスフェノール系老化防止剤を3.0質量部以上含有する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の空気入りタイヤ、
〔6〕キャップトレッド用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対して、フェニレンジアミン系老化防止剤およびキノリン系老化防止剤を3.1質量部以上含有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の空気入りタイヤ、
〔7〕繊維コード用被覆ゴム組成物が、フェニレンジアミン系老化防止剤およびビスフェノール系老化防止剤を実質的に含有しない、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の空気入りタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トレッド主溝底部のサブトレッド厚みを薄くしたタイヤを保管し、タイヤリム組みして車に装着して静置した場合であっても、良好な耐TGC性能有しつつ、ウェットグリップ性能を改善できる空気入りタイヤが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態である空気入りタイヤは、少なくともキャップトレッドおよびジョイントレスバンドを備えたトレッド部を有し、前記キャップトレッドがキャップトレッド用ゴム組成物からなり、前記ジョイントレスバンドが、繊維コードを繊維コード用被覆ゴム組成物で被覆されてなり、前記キャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴムを含むゴム成分100質量部に対して老化防止剤を3.0質量部以上含有し、トレッド主溝底部のサブトレッド厚みが0.1~3.0mmを有する。以下、それぞれについて説明する。
【0011】
なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0012】
<トレッド部の構成>
本実施形態に係る空気入りタイヤはトレッド部を有し、該トレッド部は少なくともキャップトレッドおよびジョイントレスバンドを有する。また、該トレッド部は、さらにベーストレッドおよび/またはアンダートレッドを有することが好ましい。
【0013】
キャップトレッドとは、キャップトレッド用ゴム組成物からなる部材であり、多層構造を有するトレッド部の表層部であり、地面に接地する部材である。
【0014】
ベーストレッドとは、ベーストレッド用ゴム組成物からなる部材であり、キャップトレッドと、アンダートレッド、またはジョイントレスバンドとの間に位置する部材である。
【0015】
アンダートレッドとは、アンダートレッド用ゴム組成物からなる部材であり、キャップトレッドまたはベーストレッドと、ジョイントレスバンドとの間に位置し、ジョイントレスバンドまたはブレーカーのタイヤ半径方向外側部分を被覆する部材である。
【0016】
ジョイントレスバンド(以下、JLBと表記することもある)とは、繊維コードを繊維コード被覆用ゴム組成物で被覆されてなる部材であり、車両の走行時のタイヤの遠心力によってトレッド部全体がケーシング(トレッド部より下のパッケージ)から浮き上がるのを抑制するために、ブレーカーのタイヤ半径方向外側に設けられる部材である。
【0017】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、トレッド主溝底部のサブトレッド厚みが0.1~3.0mmであり、0.3~2.5mmが好ましく、0.5~2.0mmがより好ましく、0.6~1.8mmがさらに好ましく、0.7~1.6mmが特に好ましい。トレッド主溝底部のサブトレッド厚みが2.0mmを超えると、タイヤの重量が増大し、低燃費性能が悪化する。一方、サブトレッド厚みが0.1mm未満であると、TGCが発生しやすい傾向がある。
【0018】
本実施形態においては、トレッド主溝底部のサブトレッド厚みを上記範囲内のように薄くしたタイヤを保管した場合であっても、特定の構成の空気入りタイヤであるため、良好なウェットグリップ性能および耐TGC性能を有する。なお、本明細書において、トレッド主溝底部とは、タイヤ周方向にトレッドに形成される排水目的の溝を意味し、例えば、特開2006-069305号公報の図1に記載の空気入りタイヤのトレッドパターンにおける第一縦主溝12や第二縦主溝13がトレッド主溝底部に該当する。また、本明細書において、トレッド主溝底部のサブトレッド厚みとは、トレッド主溝底部の溝底面からジョイントレスバンドが有する繊維コードの表面までのタイヤ半径方向の厚みを意味する。
【0019】
<キャップトレッド>
上述のように、キャップトレッドは、キャップトレッド用ゴム組成物からなる部材である。
【0020】
(ゴム成分)
キャップトレッド用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)等の非ジエン系ゴム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、キャップトレッド用途に好適に適用できるという理由から、ジエン系ゴムが好ましい。また、ジエン系ゴムのなかでも、グリップ性能および耐摩耗性能がバランスよく得られるという理由から、イソプレン系ゴム、SBRおよびBRがより好ましく、SBRおよびBRがより好ましい。これらのゴム成分は、前記のうち1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ゴム成分100質量%中のジエン系ゴムの含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、ジエン系ゴムのみからなるゴム成分であってもよい。ジエン系ゴムは、SBRおよびBRを含有することが好ましく、SBRおよびBRのみからなるジエン系ゴムであってもよく、SBRのみからなるジエン系ゴムであってもよい。また、別の態様として、イソプレン系ゴム(好ましくは天然ゴム)およびBRを含有するジエン系ゴム、イソプレン系ゴム(好ましくは天然ゴム)のみからならジエン系ゴム等も例示される。
【0022】
SBRとしては、特に限定されず、例えば未変性の乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)や溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)、これらを変性した変性乳化重合スチレンブタジエンゴム(変性E-SBR)や変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S-SBR)等の変性SBRが挙げられる。またSBRとしては、伸展油を加えて柔軟性を調整した油展タイプのものと、伸展油を加えない非油展タイプのものとがあるが、このいずれも使用可能である。これらのSBRは、前記のうち1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本実施形態において使用可能なS-SBRとしては、JSR(株)、住友化学(株)、宇部興産(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等によって製造販売されるS-SBRが挙げられる。
【0024】
SBRのスチレン含量は、ウェットグリップ性能および耐摩耗性能の観点から、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、グリップ性能の温度依存性および耐摩耗性能の観点からは、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。なお、該スチレン含量は、1H-NMR測定により算出される値である。
【0025】
SBRのビニル含量は、ウェットグリップ性能の観点から、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、グリップ性能の温度依存性の観点からは、65質量%以下が好ましく、63質量%以下が好ましい。なお、該ビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される値である。
【0026】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、ウェットグリップ性能等の観点から、10万以上が好ましく、15万以上がより好ましく、25万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、150万以下がより好ましい。なお、該Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0027】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、ウェットグリップ性能および耐摩耗性能の観点から、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。また、該含有量は、汎用乗用車用のキャップトレッドの場合には、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。一方、競技車用キャップトレッドの場合には、100質量%であってもよい。なお、SBRとして油展タイプのSBRを用いる場合は、当該油展タイプのSBR中に含まれる固形分としてのSBR自体の含有量をゴム成分中の含有量とする。
【0028】
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率が50%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(変性ハイシスBR、変性ローシスBR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでも、ハイシスBRおよび希土類系BRからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0029】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR150L、JSR(株)製のBR730等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のBUNA-CB25等が挙げられる。
【0030】
希土類系BRは、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴムである。希土類系BRは、シス含有率が高く、かつ、ビニル含有率が低い。希土類系BRは特に限定されず、タイヤ製造において一般的に使用されているものが使用され得る。
【0031】
希土類系BRの合成に使用される希土類元素系触媒は特に限定されないが、ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒等である。これらの中でも、特に耐摩耗性能および発熱性が優れる点から、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジム(Nd)含有化合物を用いたNd系触媒が好ましい。希土類元素系触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
希土類系BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能や低燃費性能の観点から、20万以上が好ましく、25万以上がより好ましい。また、加工性の観点からは、90万以下が好ましく、60万以下がより好ましい。
【0033】
希土類系BRのシス1,4結合含有率は、90質量%以上が好ましく、93質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。シス1,4結合含有率が上記範囲内であることにより、ゴム組成物の破断伸びおよび耐摩耗性能がより向上する。
【0034】
希土類系BRのビニル含有率は、1.8質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。希土類系BRのビニル含有率が上記範囲内であることにより、ゴム組成物の破断伸びおよび耐摩耗性能がより向上する。なお、本実施形態において、ビニル含有率(1,2-結合ブタジエン単位量)およびシス1,4結合含有率は、いずれも赤外吸収スペクトル分析法により測定され得る。
【0035】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617等が挙げられる。
【0036】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性BR)、住友化学工業(株)製のS変性ポリマー(シリカ変性BR)等が挙げられる。
【0037】
ゴム成分中のBRの含有量は、耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、ウェットグリップ性能の観点からは、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0038】
イソプレン系ゴムとしては、合成イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、改質天然ゴム等が挙げられる。NRには、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)も含まれ、改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。また、NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、NR、IRが好ましく、NRがより好ましい。
【0039】
(老化防止剤)
本実施形態に係るキャップトレッド用ゴム組成物は、老化防止剤をゴム成分100質量部に対して3.0質量部以上含有することを特徴とする。アロマオイルと老化防止剤(特にフェニレンジアミン系老化防止剤)とは、類似のブリード挙動示すため、本実施形態においては、老化防止剤を極性可塑剤と考え、通常より多量に使用する。なお、一般に老化防止剤は、残存量として3質量部程度でオゾン劣化性および酸化劣化性の性能が飽和するため、また、トレッドの摩耗に従いフレッシュなゴム層が出現し、耐摩耗性能や耐久性が走行性能に支障がないため、通常3部質量部以上配合されることはまれである。
【0040】
老化防止剤としては特に制限されず、タイヤ工業において通常使用されているものを用いることができ、例えば、フェニレンジアミン系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、キノン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤等が挙げられる。なかでも、フェニレンジアミン系老化防止剤およびビスフェノール系老化防止剤、特にビスフェノール系老化防止剤は、ジエン系ゴム、特にSBR鎖に絡みつき、広い温度範囲においてtanδを大きくしウェットグリップ性能を高める効果があることから、好適に使用される。また、酸化劣化抑制および難揮発性の理由から、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMQ)も好適に使用される。耐TGC性能およびウェットグリップ性能を高度に両立させる観点から、フェニレンジアミン系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、およびキノリン系老化防止剤からなる群から選ばれる2種以上を含有することがより好ましく;フェニレンジアミン系老化防止剤および/またはビスフェノール系老化防止剤とキノリン系老化防止剤とを含有することがさらに好ましく;フェニレンジアミン系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、およびキノリン系老化防止剤を含有することが特に好ましい。
【0041】
フェニレンジアミン系老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。なかでも、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンが好ましい。
【0042】
ジフェニルアミン系老化防止剤としては、例えば、p-イソプロポキシジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)-ジフェニルアミン、N,N-ジフェニルエチレンジアミン、オクチル化ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0043】
フェノール系老化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、1-オキシ-3-メチル-4-イソプロピルベンゼン、2-メチル-4,6-ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系老化防止剤;2,2’-メチレンビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス-(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1’-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロヘキサン等のビスフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のポリフェノール系老化防止剤が挙げられ、ビスフェノール系老化防止剤が好ましく、2,2’-メチレンビス-(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)および4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)がより好ましく、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)がさらに好ましい。
【0044】
キノン系老化防止剤としては、ベンゾキノン系、ヒドロキノン系、カテコール系、キノンジイミン系、キノメタン系、キノジメタン系老化防止剤等が挙げられ、なかでも、キノンジイミン系老化防止剤が好ましい。
【0045】
キノンジイミン系老化防止剤としては、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-キノンジイミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニルキノンジイミン、N,N’-ジフェニル-p-キノンジイミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-キノンジイミン、N-n-ヘキシル-N’-フェニル-p-キノンジイミン、N,N’-ジオクチル-p-キノンジイミン等が挙げられる。なかでも、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニルキノンジイミン(6QDI)が好ましい。
【0046】
キノリン系老化防止剤としては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、6-アニリノ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、ポリ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等が挙げられ、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMQ)が好ましい。
【0047】
老化防止剤のゴム成分100質量部に対する総含有量は、3.0質量部以上であり、3.1質量部以上が好ましく、4.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましく、7.0質量部以上がさらに好ましく、8.0質量部以上が特に好ましい。老化防止剤の含有量を3.0質量部以上とすることにより、耐TGC性能およびウェットグリップ性能が充分に発揮される。また、該含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、18質量部以下がさらに好ましい。
【0048】
フェニレンジアミン系老化防止剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、2.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、3.1質量部以上がさらに好ましく、3.6質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0049】
ビスフェノール系老化防止剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.1質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、2.5質量部以上がさらに好ましく、3.6質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0050】
キノリン系老化防止剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましく、0.7質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。
【0051】
フェニレンジアミン系老化防止剤およびビスフェノール系老化防止剤の合計含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、ゴム成分100質量部に対し、3.0質量部以上が好ましく、3.1質量部以上がより好ましく、4.0質量部以上がさらに好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましく、7.0質量部以上がさらに好ましく、8.0質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、18質量部以下がさらに好ましい。
【0052】
本実施形態に係るキャップトレッド用ゴム組成物は、フェニレンジアミン系老化防止剤およびキノリン系老化防止剤を併用することにより、ドライグリップ性能およびウェットグリップ性能がより改善し、かつドライ路面走行時の酸化劣化抑制にも有効である。フェニレンジアミン系老化防止剤およびキノリン系老化防止剤の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対し、3.0質量部以上が好ましく、3.1質量部以上がより好ましく、4.0質量部以上がさらに好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましく、7.0質量部以上がさらに好ましく、8.0質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、18質量部以下がさらに好ましい。
【0053】
(ワックス)
本実施形態に係るキャップトレッド用ゴム組成物は、ワックスを含むことが好ましい。これにより、良好な耐TGC性能が得られる。ワックスとしては特に限定されないが、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油資源由来のワックスや、ライスワックス、蜜蝋、ソルビタンエステル等の天然ワックスが挙げられる。なかでも、広い温度域で優れた耐オゾン性が得られるという理由から、炭素数40~70の分岐アルカンを含むワックスが好ましい。なお、ワックスは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
炭素数40~70の分岐アルカンは、環境温度が60℃以上でなければブリードを起こさない。そのため、このような分岐ワックスが所定量配合されることにより、ゴム組成物は、夏場の倉庫保管時でも、白色化の原因とはならず、金属離型性が向上し得る。具体的には、このような分岐ワックスは、加硫開始初期において、瞬時にゴム表面にブリードし、金型表面のミクロな凹凸を埋めることにより、金型に対する離型性を向上させていると考えられる。また、このような分岐ワックスは、ゴム表面において、粒状に固化し得る。そのため、このような分岐ワックスが配合される場合であっても、得られるゴム組成物は、硬い膜を形成することがなく、初期グリップを悪化させることもなく、耐オゾン性も損なわれにくい。さらに、このような分岐ワックスのブリード物は、離型時は150~190℃に達するため液状で、金型表面における粘性が小さく、タイヤが金型から外れやすい。分岐アルカンの炭素数が40以上であることにより、加硫温度(例えば150~200℃)において、上記したブリードを生じやすい。また、分岐アルカンの炭素数が70以下であることにより、ゴム組成物は、適度な粘性を示し、金型とタイヤ間における滑り性が向上し、離型しやすい。また、ゴム組成物は、タイヤ使用時でも、適度な膜硬さを示す。なお、炭素数が70を超え、分子量が1000を超えるようなワックスは、融点が高くなり、硬い膜を形成しやすい。一方、上記のとおり、本実施形態の炭素数40~70の分岐アルカンは、硬い膜を形成せず、タイヤ用として好適である。
【0055】
炭素数40~70の分岐アルカンの含有量を特定量とする方法は特に限定されない。一例を挙げると、ゴム組成物は、例えば所定量の炭素数40~70の分岐アルカンを含むワックスをゴム組成物に配合することにより、炭素数40~70の分岐アルカンの含有量を上記範囲となるよう配合し得る。このようなワックスは特に限定されない。一例を挙げると、ワックスは、日本精鑞(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0056】
炭素数40~70の分岐アルカンの含有量は、高温でブリードしやすく、得られるゴム組成物の金型等に対する離型性が優れる点から、ゴム成分100質量部に対し、0.10質量部以上が好ましく、0.12質量部以上がより好ましく、0.15質量部以上がさらに好ましく、0.20質量部以上が特に好ましい。また、初期グリップ性能および白色化が良好である観点からは、6.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、4.0質量部以下がさらに好ましく、3.0質量部以下が特に好ましい。
【0057】
ワックスの融点は、早期にブルームし短時間でワックスが消費されるのを防止する観点から、40℃以上が好ましく、45℃以上が好ましく、50℃以上がさらに好ましい。また、耐オゾン性の観点からは、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましい。なお、融点は、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定した際のピークトップの温度である。例えば、示差走査熱量計(Thermo plus DSC8230、(株)リガク製)を用い、5℃/分で昇温し、得られる融解のピークトップを融点とすることができる。
【0058】
(界面活性剤)
本実施形態に係るキャップトレッド用ゴム組成物は、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤は、ワックスや老化防止剤とともにタイヤ表面にブルームし、それらを溶かし平坦化するため、主に老化防止剤による白変色を軽減できると共に、タイヤ表面に形成される表面保護層の凹凸が減り、乱反射により目立つ茶変色を大幅に軽減できる。また、黒光りの光沢をタイヤ表面に与えることもできる。また、耐オゾン性も改善でき、耐TGC性能も改善することができる。上記の炭素数40~70の分岐アルカンを含むワックスと界面活性剤を併用することも好適な態様として挙げられる。
【0059】
界面活性剤は、親水基と疎水基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸アミドのエステルおよびそれらの混合物;非イオン界面活性剤;連鎖エチレンオキサイド;ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0060】
脂肪酸金属塩および脂肪酸アミドを構成する脂肪酸としては、特に限定されないが、飽和または不飽和脂肪酸(好ましくは炭素数6~28(より好ましくは炭素数10~25、さらに好ましくは炭素数14~20)の飽和または不飽和脂肪酸)が挙げられ、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ネルボン酸等が挙げられる。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。なかでも、飽和脂肪酸が好ましく、炭素数14~20の飽和脂肪酸がより好ましい。
【0061】
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;亜鉛、ニッケル、モリブデン等が挙げられる。なかでも、亜鉛、カルシウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。
【0062】
脂肪酸アミドとしては、飽和脂肪酸アミドでも不飽和脂肪酸アミドでもよい。飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、N-(1-オキソオクタデシル)サルコシン、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等が挙げられる。不飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。
【0063】
脂肪酸金属塩の具体例としては、脂肪酸亜鉛塩であるパフォーマンスアディティブス社製のUltra-Flow440等が挙げられる。脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物の具体例としては、脂肪酸カルシウムと脂肪酸アミドとの混合物であるストラクトール社製のWB16等が挙げられる。脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドのエステルとの混合物の具体例としては、脂肪酸カルシウム塩とアミドエステルの混合物であるラインケミー社製のAflux16等が挙げられる。
【0064】
非イオン界面活性剤としては、例えば、エチレングリコールのモノエステルおよびジエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、プルロニック型非イオン界面活性剤等が挙げられ、プルロニック型非イオン界面活性剤が好ましい。
【0065】
プルロニック型非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物とも呼ばれ、一般的には、下記式(I)で表わされる非イオン界面活性剤である。下記式(I)で表わされるように、プルロニック型非イオン界面活性剤は、両側にエチレンオキシド構造から構成される親水基を有し、この親水基に挟まれるように、プロピレンオキシド構造から構成される疎水基を有する。
【化1】
[式中、a、b、cは整数を表す。]
【0066】
プルロニック型非イオン界面活性剤のポリプロピレンオキシドブロックの重合度(上記式(I)のb)、およびポリエチレンオキシドの付加量(上記式(I)のa+c)は特に限定されない。これらは、使用条件・目的等に応じて適宜選択され得る。ポリプロピレンオキシドブロックの割合が高くなる程、ゴムとの親和性が高く、ゴム表面に移行する速度が遅くなる傾向がある。非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールできる点から、ポリプロピレンオキシドブロックの重合度(上記式(I)のb)は、100以下が好ましく、10~70であることがより好ましい。ポリエチレンオキシドの付加量(上記式(I)のa+c)は、100以下が好ましく、3~65であることがより好ましい。ポリプロピレンオキシドブロックの重合度、ポリエチレンオキシドの付加量が上記範囲内であることにより、ゴム組成物は、非イオン界面活性剤のブルームが好適にコントロールされ得る。
【0067】
プルロニック型非イオン界面活性剤は、BASFジャパン(株)、三洋化成工業(株)、旭電化工業(株)、第一工業製薬(株)、日油(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0068】
プルロニック型非イオン界面活性剤は、加硫後、2~3日程度でブリードし、フェニレンジアミン系等の老化防止剤のブリードを促進し得る。そのため、このような界面活性剤は、例えば上記した分岐アルカン等を含むワックスにより膜が形成されるまでの補完的な役割を果たし得る。また、このような界面活性剤は、非極性である直鎖アルカンワックスを溶解し得る。また、このような界面活性剤は、直鎖アルカンワックスに入り込み、得られる被膜を柔軟にし、割れにくくし得る。そのため、このような界面活性剤が含有されることにより、ゴム組成物は、動的オゾン性が向上し得る。
【0069】
連鎖エチレンオキサイドの具体例としては、例えば、三洋化成工業(株)製の50HB-100、50HB-2000等が挙げられる。
【0070】
界面活性剤のHLBは、ゴムの白変色を抑制する観点から、5.0~12.0が好ましく、5.5~11.5がより好ましく、6.0~11.0がさらに好ましい。なお、本明細書において、HLBとは、親水性-疎水性バランス(HLB)値を意味し、小田法により求められる。小田法は、例えば「界面活性剤入門」〔2007年三洋化成工業(株)発行、藤本武彦著〕212頁に記載されている方法である。HLBの値は前記「界面活性剤入門」213頁に記載の表における有機性の値と無機性の値との比率から、下記式により求めることができる。
(HLB)={(無機性)/(有機性)}×10
【0071】
界面活性剤のSP値は、ゴム成分(特にSBR)との相溶性が優れる点から、7.0~11.5が好ましく、7.5~11.0がより好ましく、8.0~10.5がさらに好ましい。なお、本実施形態において、SP値は、化合物の構造に基づいてHoy法によって算出された溶解度パラメーター(Solubility Parameter)を意味する。Hoy法は、K.L.Hoy “Table of Solubility Parameters”, Solvent and Coatings Materials Research and Development Department, Union Carbites Corp.(1985)に記載された計算方法である。
【0072】
界面活性剤および炭素数40~70の分岐アルカンの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.10質量部以上が好ましく、0.20質量部以上がより好ましく、0.40質量部以上がさらに好ましく、1.2質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、6.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、4.0質量部以下がさらに好ましく、3.0質量部以下が特に好ましい。
【0073】
(フィラー)
本実施形態に係るキャップトレッド用ゴム組成物は、フィラーとして、カーボンブラックおよびシリカを含有することが好ましい。
【0074】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、ゴム工業において一般的なものを適宜利用することができる、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等が挙げられる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、破断時伸びの観点から、50m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0076】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、紫外線クラックの観点から、3質量部以上が好ましく、4質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、カーボンブラックの含有量の上限は特に限定されないが、低燃費性能やウェットグリップ性能の観点から、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましく、25質量部以下が特に好ましい。
【0077】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0078】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、破断時伸びの観点から、100m2/g以上が好ましく、110m2/g以上がより好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、250m2/g以下が好ましく、230m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0079】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、30質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましく、80質量部以上が特に好ましい。また、低燃費性能および耐摩耗性能の観点からは、150質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましく、130質量部以下がさらに好ましい。
【0080】
シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましい。また、該シリカの含有率は、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。
【0081】
シリカとカーボンブラックのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、耐摩耗性能の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および破断時伸びの観点からは、180質量部以下が好ましく、160質量部以下がより好ましく、140質量部以下がさらに好ましい。
【0082】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来シリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤の具体例としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Si363等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシドキシ基を有するシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン等のニトロ基を有するシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロ基を有するシランカップリング剤等が挙げられ、スルフィド基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、およびチオエステル基を有するシランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
シランカップリング剤を含有する場合の含有量は、シリカ100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましい。また、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0084】
フィラーとしては、カーボンブラック、シリカ以外に、さらにその他のフィラーを用いてもよい。そのようなフィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、タルク、クレー等この分野で一般的に使用されるフィラーをいずれも用いることができる。これらのフィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
(軟化剤)
本実施形態に係るキャップトレッド用ゴム組成物は、軟化剤を配合してもよい。軟化剤を配合することにより、老化防止剤、界面活性剤、石油由来ワックスのブルームを好適にコントロールでき、本発明の効果がより良好に得られる。軟化剤としては、オイル、粘着性樹脂、液状ジエン重合体等が挙げられ、老化防止剤やワックスの移行速度等を考慮して適宜選択すればよい。
【0086】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、またはそれらの混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等を用いることができ、アロマ系プロセスオイルが好ましい。パラフィン系プロセスオイルとして、具体的には出光興産(株)製のPW-32、PW-90、PW-150、PS-32等が挙げられる。また、アロマ系プロセスオイルとして、具体的には出光興産(株)製のAC-12、AC-460、AH-16、AH-24、AH-58等が挙げられる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生湯、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
粘着性樹脂としては、タイヤ工業で慣用されるフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン系樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン樹脂、α-メチルスチレン樹脂、α-メチルスチレン/スチレン樹脂、アクリル樹脂、ロジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)等の芳香族炭化水素系樹脂や、C5樹脂、C8樹脂、C9樹脂、C5/C9樹脂等の脂肪族炭化水素系樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂は、水素添加処理を行ったものであってもよい。なかでも、テルペン系樹脂、クマロンインデン樹脂、α-メチルスチレン樹脂、ロジン樹脂、およびジシクロペンタジエン樹脂が好ましく、テルペンスチレン樹脂、クマロンインデン樹脂およびα-メチルスチレン樹脂がより好ましい。樹脂成分は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
テルペン系樹脂は、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、ロジン系樹脂等の他の粘着性樹脂よりもSP値が低く、その値がSBR(SP値:8.9)とBR(SP値:8.2)の間にあり、ゴム成分との相溶性の観点から好ましい。なかでもテルペンスチレン樹脂は、SBRとBRの両方に対して特に相溶性がよく、ゴム成分中に硫黄が分散しやすくなることから、好適に用いられる。
【0089】
ポリテルペン樹脂は、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種を原料とする樹脂である。テルペンフェノール樹脂は、前記テルペン化合物およびフェノール系化合物を原料とする樹脂である。テルペンスチレン樹脂は、前記テルペン化合物およびスチレンを原料とする樹脂である。ポリテルペン樹脂およびテルペンスチレン樹脂は、水素添加処理を行った樹脂(水添ポリテルペン樹脂、水添テルペンスチレン樹脂)であってもよい。テルペン系樹脂への水素添加処理は、公知の方法で行うことができ、また市販の水添樹脂を使用することもできる。
【0090】
テルペン系樹脂は、前記例示のものからいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態では、テルペン系樹脂は市販品が用いられてもよい。このような市販品は、ヤスハラケミカル(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0091】
クマロンインデン樹脂は、クマロンおよびインデンを含む樹脂である。クマロンインデン樹脂は、Ruetger社、日塗化学(株)、新日鉄化学(株)、新日本石油化学(株)等によって製造販売されるものが例示される。
【0092】
α-メチルスチレン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、α-メチルスチレンを含む樹脂を意味し、例えば、α-メチルスチレン単独重合体や、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体等が挙げられる。これらα-メチルスチレン樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態では、α-メチルスチレン樹脂は市販品が用いられてもよい。このような市販品は、具体的には、アリゾナケミカル社等によって製造販売されるものが例示される。
【0093】
粘着性樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性能およびウェットグリップ性能の観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能およびウェットグリップ性能の観点からは、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下がさらに好ましい。
【0094】
粘着性樹脂の軟化点は、グリップ性能が優れる点から、160℃以下が好ましく、145℃以下であることがより好ましく、125℃以下であることがさらに好ましい。また、軟化点は、グリップ性能が優れる点から、0℃以上が好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましい。なお、本実施形態において、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。また、レース用タイヤにおいて好ましく使用されるコレシン(軟化点:145℃、BASF社製)は、グリップ性能に優れる一方、設備との強粘着の問題が生じやすく、本分岐アルカンは、良好な金属離型性を示す。
【0095】
粘着性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、ゴム成分との相溶性が優れる点から、110℃以下が好ましく、105℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。また、ゴム成分との相溶性が優れる点からは、-35℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。
【0096】
粘着性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、揮発しにくく、グリップ性能が良好である点から、300以上が好ましく、400以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。また、該Mwは、15000以下が好ましく、13000以下がより好ましく、11000以下がさらに好ましい。
【0097】
粘着性樹脂のSP値は、ゴム成分(特にSBR)との相溶性が優れる点から、8~11の範囲が好ましく、8.2~10の範囲がより好ましく、8.5~9.0の範囲がさらに好ましい。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することでSBRおよびBRとの相溶性が向上し、耐摩耗性能および破断伸びを改善できる。
【0098】
(その他の成分)
本実施形態に係るトレッド用ゴム組成物は、前記成分以外にも、ゴム工業において一般的に使用される配合剤、例えば、脂肪酸(好ましくはステアリン酸)、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0099】
脂肪酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加工性の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0100】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0101】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0102】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好な隣接ゴムとの加硫接着性を得るという観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化の観点からは、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましい。なお、本明細書において、硫黄の含有量とは、ゴム組成物に配合される加硫剤の純硫黄分の合計含有量を意味する。ここで、純硫黄分とは、例えば、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合には、オイル含有硫黄に含まれる硫黄分を意味し、また、加硫剤として、硫黄原子を含有する化合物(例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)を使用する場合には、該化合物中に含まれる硫黄原子を意味する。
【0103】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200、フレキシス社製のDURALINK HTS(1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス社製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)、式(II):
【化2】
(式中、xは2~6の整数、nは1~15の整数、Rは置換されていてもよい炭素数2~18のアルキレン基または置換されていてもよい炭素数2~18のオキシアルキレン基を含むアルキレン基を示す。)で表される環状ポリスルフィド、鎖状ポリスルフィド(好ましくは、分子量が数千~数万のポリスルフィド)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0104】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、加硫特性に優れ、加硫後のゴムの物性において、低燃費性能に優れるという理由からスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)等が挙げられる。
【0105】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫速度を確保するという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がさらに好ましい。また、ブルーミングを抑制するという観点からは、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0106】
キャップトレッド用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0107】
<ジョイントレスバンド>
上述のように、ジョイントレスバンドは、繊維コードを繊維コード被覆用ゴム組成物で被覆されてなる部材である。
【0108】
繊維コード被覆用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては、キャップトレッド用ゴム組成物に使用できるゴム成分と同様のゴム等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、コード接着性に優れ、ジョイントレスバンド用途に好適に適用できるという理由から、ジエン系ゴムが好ましい。また、ジエン系ゴムのなかでも、良好な操縦安定性、低燃費性能、破断時伸び、耐久性、耐亀裂成長性が得られるという理由から、イソプレン系ゴム、SBR、BRが好ましく、イソプレン系ゴムおよびSBRを併用することがより好ましい。
【0109】
ゴム成分100質量%中のジエン系ゴムの含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、ジエン系ゴムのみからなるゴム成分であってもよい。
【0110】
イソプレン系ゴムおよびSBRとしては、キャップトレッド用ゴム組成物と同様のものを同様の態様で好適に使用できる。
【0111】
イソプレン系ゴムを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、破断時伸びの観点から、30質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。また、該含有量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。
【0112】
SBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上よりが好ましい。また、該含有量は、70質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。
【0113】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムおよびSBRの合計含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。また、イソプレン系ゴムおよびSBRのみからなるゴム成分であってもよい。
【0114】
繊維コード被覆用ゴム組成物中のフェニレンジアミン系老化防止剤の含有量は、加工性およびゴム焼け防止の観点から、繊維コード被覆用ゴム組成物100質量%中、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましく、具体的には、特に好ましくは0.05質量%以下、最も好ましくは0.01質量%以下である。一方、耐TGC性能の観点からは、0.5~1質量%含有することが好ましい。
【0115】
繊維コード被覆用ゴム組成物は、ワックスを含んでいてもよい。ワックスとしては、キャップトレッド用ゴム組成物と同様のものを同様の態様で好適に使用できる。
【0116】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、4.0質量部以下が好ましく、2.0質量部以下がより好ましい。
【0117】
繊維コード被覆用ゴム組成物には、カーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックとしては、キャップトレッド用ゴム組成物と同様のものを同様の態様で好適に使用できる。
【0118】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、20~80質量部が好ましく、25~70質量部がより好ましく、30~60質量部がさらに好ましい。
【0119】
繊維コード被覆用ゴム組成物には、シリカを含むことが好ましい。シリカとしては、キャップトレッド用ゴム組成物と同様のものを同様の態様で好適に使用できる。
【0120】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、5~60質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましい。
【0121】
繊維コード被覆用ゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、軟化剤、樹脂成分、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等を適宜配合できる。
【0122】
繊維コード被覆用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー等のゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0123】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でキャップトレッド等の各タイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し(ジョイントレスバンドの場合は、未加硫の段階で、シート状の繊維コード被覆用ゴム組成物を繊維コードに上下から圧着被覆してジョイントレスバンドの形状とし)、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0124】
繊維コードとしては、ポリエチレン、ナイロン、アラミド、グラスファイバー、ポリエステル、ポリケトン、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート等の繊維により得られるコードが挙げられる。また、複数種類の繊維により得られるハイブリッドコードを使用してもよい。
【実施例
【0125】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。
【0126】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR1:日本ゼオン(株)製のN9548(スチレン含有率:35質量%、ビニル含有率:35質量%、Mw:109万、100質量部に対し、37.5部が油展)
SBR2:日本ゼオン(株)製のNS612(スチレン含有率:15質量%、ビニル含有率:30質量%、Mw:78万、非油展)
BR:ランクセス(株)製のCB25(ネオジム(Nd)系触媒を用いて合成したBR(Nd-BR)、シス含量:97質量%、ビニル含量:0.7質量%、Mw:50万)
カーボンブラック1:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN351H(N2SA:69m2/g)
カーボンブラック2:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(N2SA:111m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のULTRASIL VN3(N2SA:175m2/g)
シランカップリング剤1:エボニックデグサ社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
シランカップリング剤2:モメンティブ社製のNXT-Z45(メルカプト基を有するシランカップリング剤)
粘着樹脂1:アリゾナケミカル社製のSylvatraxx4401(α-メチルスチレン樹脂、軟化点:85℃、Tg:43℃、SP値:9.1、Mw:700)
粘着樹脂2:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジン TO125(テルペンスチレン樹脂、軟化点:125℃、Tg:64℃、SP値:8.7、Mw:800)
粘着樹脂3:Ruetgers Chemicals社製のNOVARES C10(液状クマロンインデン樹脂、軟化点:10℃、Tg:-30℃、SP値:8.8、Mw:350)
界面活性剤1:Schill&Seilacher社製のストラクトールWB16(脂肪酸エステルと脂肪酸金属塩の混合物、HLB:8.3、SP値:10.0)
界面活性剤2:三洋化成工業(株)製のニューポールPE-64(プルロニック型非イオン界面活性剤、HLB:10.9、SP値:9.2)
界面活性剤3:三洋化成工業(株)製のPEG4000N(ポリエチレングリコール、HLB:19.5、SP値:9.6)
界面活性剤4:日油(株)製のステアリン酸「椿」(HLB:4.2、SP値:9.1)
ワックス1:日本精鑞(株)製のオゾエース355(パラフィンワックス、炭素数40~70の分岐アルカン:8.3質量%、融点:70℃)
ワックス2:日本精鑞(株)製Hi-Mic1080(マイクロクリスタリンワックス、炭素数40~70の分岐アルカン:47.0質量%、融点:84℃)
オイル1:H&R社製のvivatec500(TDAEオイル)
オイル2:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH-24(アロマ系プロセスオイル)
フェニレンジアミン系老化防止剤1:ランクセス社製のVulkanox4020(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD))
フェニレンジアミン系老化防止剤2:ランクセス社製のVulkanox4030(N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(77PD))
フェニレンジアミン系老化防止剤3:ランクセス社製のVulkanoxDPPD(N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD))
ビスフェノール系老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のNS-6(2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール))
ビスフェノール系老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製のNS-30(4,4’-ブチリデビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール))
キノリン系老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック224(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMQ))
酸化亜鉛1:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
酸化亜鉛2:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
スミカノール620:田岡化学工業(株)製のスミカノール620(変性レゾルシノール樹脂(変性レゾルシノール・ホルムアルデヒド縮合物))
スミカノール507A:住友化学工業(株)製のスミカノール507A(変性エーテル化メチロールメラミン樹脂(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物)、シリカとオイル35質量%含有)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
硫黄1:10%オイル含有不溶性硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミサルファー(二硫化炭素による不溶物60%以上の不溶性硫黄、オイル分:10質量%)
硫黄2:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5質量%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(ジフェニルグアニジンジフェニルグアニジン(DPG))
【0127】
(実施例および比較例)
表1~3に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼製1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を用いて、キャップトレッドおよびジョイントレスバンドの形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で加硫して試験用タイヤ(205/65R15、8.7kg)を得た。なお、トレッドのパターンは、5本主溝構造とし、サブトレッド構造は、表2および表3に示す仕様にしたがい、繊維コードは、旭化成社製のナイロン6,6(1400d-tex/2 コード径0.54mm)を使用して試験用タイヤを作製した。得られた試験用タイヤの性能を以下の試験により評価した。
【0128】
<加工性試験>
未加硫の各JLBゴム組成物(配合1および配合2)について、繊維コード織物(直径:1.7m)にゴムシートをロールで圧着加工し巻き取り後、コード10本束のテープ状に裁断加工した。目視により外観検査を行い、ゴム取られ、ひきちぎれ、ゴム焼けがないものを良品とし、軽不良率を求めた。得られた軽不良率の逆数の値について、配合1を100として指数表示した。指数が大きいほど、不良発生率が小さいことを示す。
【0129】
<ウェットグリップ性能>
各試験用タイヤを試験用実車(国産FF車、排気量:2000cc)の全輪に装着し、湿潤路面において初速度100km/hからの制動距離を測定した。下記の式により比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど、ウェットグリップ性能に優れることを示す。なお、100以上を性能目標値とし、105以上が好ましい。
(ウェットグリップ性能指数)=
(比較例1のタイヤの制動距離)/(各試験用タイヤの制動距離)×100
【0130】
<耐TGC性能>
得られた試験用タイヤを、大阪地区の倉庫でタイヤを12本横積みにし、3カ月間保管した。上のタイヤの総重量(実質荷重は、8.7kg×11本の荷重が、上のタイヤから伝わる。)によって、下のタイヤ主溝底にオゾン亀裂が生じやすくなるため、3カ月間保管した後、最も変形の激しい、一番下のタイヤの主溝部のTGC発生度合を観察し、比較例1の結果を100として指数表示した。なお、指数が大きいほど、耐TGC性能が高く、TGCを良好に抑制できることを示す。なお、100以上を性能目標値とする。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
表1~表3の結果より、キャップトレッド用ゴム組成物に老化防止剤を所定量配合し、かつトレッド主溝底部のサブトレッド厚みを0.1~3.0mmとした本発明の空気入りタイヤは、良好な耐TGC性能およびウェットグリップ性能を有することがわかる。