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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/16 20060101AFI20230418BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20230418BHJP
   A61B 3/15 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A61B3/16 300
A61B3/10
A61B3/15
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021526102
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2020022740
(87)【国際公開番号】W WO2020250903
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2019110531
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】小林 城久
(72)【発明者】
【氏名】中屋敷 勇介
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-196303(JP,A)
【文献】特開2016-221075(JP,A)
【文献】特開2014-113175(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0195750(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の眼に検査軸を一致させた状態で前記眼を検査する眼科装置であって、
筐体と、
前記被検者の顔に対する前記筐体の相対位置を移動させる移動部と、
前記筐体の被検者対向面から、前記検査軸に沿って前記被検者側に突出する検査用突出部と、
前記筐体の前記被検者対向面のうち、前記検査用突出部の前記検査軸から左右のいずれかにずれた位置に配置される顔撮影部と、
制御部と、
を備え、
前記顔撮影部の撮影範囲に、前記検査用突出部の少なくとも一部が含まれており、
前記筐体の左右方向のうち、前記検査軸に対して前記顔撮影部がずれている方向を第1方向、前記第1方向とは反対の方向を第2方向とした場合に、前記被検者の左眼および右眼のうち、前記筐体から見て前記第2方向側に位置する眼を、他方の眼よりも先に検査を行う第1検査眼とし、
前記制御部は、
前記顔撮影部の左右方向における位置が、前記被検者の左眼と右眼の間となる初期位置に、前記筐体の前記相対位置を移動させた状態で、少なくとも前記第1検査眼を含む撮影範囲を前記顔撮影部によって撮影する顔撮影ステップと、
前記顔撮影ステップにおいて撮影された画像に基づいて前記移動部の駆動を制御することで、前記初期位置にある前記筐体の前記相対位置を、前記検査軸が前記第1検査眼に一致する第1位置に移動させる第1移動ステップと、
前記第1検査眼の検査の終了後に、前記第1位置にある前記筐体の前記相対位置を、前記第1検査眼とは反対側の第2検査眼に前記検査軸が近付く第2位置に移動させる第2移動ステップと、
を実行することを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
請求項1に記載の眼科装置であって、
前記制御部は、
前記顔撮影ステップにおいて、前記筐体の前記相対位置を前記初期位置に移動させた状態で、前記被検者の前記第1検査眼および前記第2検査眼を共に含む撮影範囲を前記顔撮影部によって撮影し、
前記第2移動ステップにおいて、前記顔撮影ステップで撮影された画像から検出される前記第2検査眼の位置に基づいて、前記筐体の前記相対位置を前記第2位置に移動させることを特徴とする眼科装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の眼科装置であって、
検査対象とする被検者グループの瞳孔間距離の平均値をDとした場合に、前記検査軸と、前記顔撮影部の対物レンズの中心との間の左右方向の距離が、D/2より大きいことを特徴とする眼科装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の眼科装置であって、
前記筐体の前記相対位置が前記初期位置である場合に、前記顔撮影部の左右方向における位置は、前記被検者の左眼と右眼の中心よりも前記第1方向側にずれることを特徴とする眼科装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の眼科装置であって、
前記筐体の前記初期位置は、前記検査軸に沿う方向において、前記検査用突出部を使用して眼の検査を実行する際の前記筐体の位置よりも前記被検者の顔から離間していることを特徴とする眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の検査を行うための眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の検査を行うために、種々の眼科装置が使用される。眼科装置には、例えば、眼圧測定装置、眼屈折力測定装置、角膜曲率測定装置、眼底カメラ、OCT装置、走査型レーザ検眼鏡(SLO)等が存在する。
【0003】
眼科装置の一例として、顔撮影部によって被検者の顔を撮影し、撮影した画像に基づいて、被検者の眼(被検眼)に対する検査部の位置合わせを実行する装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の眼科装置では、検査部の検査軸よりも左右のいずれかにずれた位置に、顔撮影部の撮影光軸が配置されている。眼科装置は、顔撮影部によって撮影された画像に基づいて、検査部と被検眼の間の相対位置を移動させることで、検査部の検査軸を被検眼に一致させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-196305号公報
【発明の概要】
【0005】
撮影した画像に基づいて検査軸を被検眼に一致させる場合、顔撮影部による撮影が行われる位置から、先に検査を行う第1被検眼に検査軸が一致する位置までの移動距離(以下、単に「移動距離」という)が長い程、移動中に被検眼の位置が変化して位置合わせが適切に実行されない可能性が高くなる。また、移動距離が長い程、検査時間を短縮することも困難となる。
【0006】
検査軸に対する顔撮影部の左右方向のずれ量を、検査対象とする被検者グループの瞳孔間距離の平均値Dに基づいて設定することで、移動距離を短縮することも考えられる。一例として、被検者の左眼と右眼の中心から前方に真っ直ぐ延びる位置に、顔撮影部を位置させた状態で、第1被検眼を撮影する場合を想定する。この場合、検査軸に対する顔撮影部の左右方向のずれ量を、瞳孔間距離の平均値Dの2分の1とすれば、検査軸を第1被検眼に合わせるための移動距離は短くなる場合が多い。
【0007】
しかし、眼科装置における顔撮影部の位置は、種々の事情によって制限される場合がある。例えば、一部の眼科装置は、筐体から被検者側に突出する検査用の突出部(一例として、被検眼に圧縮空気を噴射させるためのノズル等)を備える必要がある。この場合、突出部を通過する検査軸に対して、顔撮影部の位置を近づける程、顔撮影部の撮影範囲に写り込む突出部の割合が大きくなる。撮影範囲に写り込む突出部の割合が大きすぎると、撮影された画像に基づいて被検眼の位置を検出することが困難となる。一方で、撮影範囲に突出部が写り込まない位置に顔撮影部を配置すると、前述した移動距離を短縮させることが困難となる。
【0008】
本開示の典型的な目的は、検査用の突出部が被検者側に突出している場合でも、被検者の撮影画像に基づいて適切に検査軸を被検眼に合わせることが可能な眼科装置を提供することである。
【0009】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼科装置は、被検者の眼に検査軸を一致させた状態で前記眼を検査する眼科装置であって、筐体と、前記被検者の顔に対する前記筐体の相対位置を移動させる移動部と、前記筐体の被検者対向面から、前記検査軸に沿って前記被検者側に突出する検査用突出部と、前記筐体の前記被検者対向面のうち、前記検査用突出部の前記検査軸から左右のいずれかにずれた位置に配置される顔撮影部と、制御部と、を備え、前記顔撮影部の撮影範囲に、前記検査用突出部の少なくとも一部が含まれており、前記筐体の左右方向のうち、前記検査軸に対して前記顔撮影部がずれている方向を第1方向、前記第1方向とは反対の方向を第2方向とした場合に、前記被検者の左眼および右眼のうち、前記筐体から見て前記第2方向側に位置する眼を、他方の眼よりも先に検査を行う第1検査眼とし、前記制御部は、前記顔撮影部の左右方向における位置が、前記被検者の左眼と右眼の間となる初期位置に、前記筐体の前記相対位置を移動させた状態で、少なくとも前記第1検査眼を含む撮影範囲を前記顔撮影部によって撮影する顔撮影ステップと、前記顔撮影ステップにおいて撮影された画像に基づいて前記移動部の駆動を制御することで、前記初期位置にある前記筐体の前記相対位置を、前記検査軸が前記第1検査眼に一致する第1位置に移動させる第1移動ステップと、前記第1検査眼の検査の終了後に、前記第1位置にある前記筐体の前記相対位置を、前記第1検査眼とは反対側の第2検査眼に前記検査軸が近付く第2位置に移動させる第2移動ステップと、を実行する。
【0010】
本開示に係る眼科装置によると、検査用の突出部が被検者側に突出している場合でも、被検者の撮影画像に基づいて適切に検査軸が被検眼に合わせられる。
【0011】
本開示で例示する眼科装置は、被検者の眼に検査軸を一致させた状態で眼を検査する。眼科装置は、筐体、移動部、検査用突出部、顔撮影部、および制御部を備える。移動部は、被検者の顔に対する筐体の相対位置を移動させる。検査用突出部は、筐体の被検者対向面から、検査軸に沿って被検者側に突出する。顔撮影部は、筐体の被検者側対向面のうち、検査用突出部の検査軸から左右のいずれかにずれた位置に配置される。
【0012】
顔撮影部の撮影範囲には、検査用突出部の少なくとも一部が含まれている。筐体の左右方向のうち、検査軸に対して顔撮影部がずれている方向を第1方向、第1方向とは反対側の方向を第2方向とする。被検者の左眼および右眼のうち、筐体から見て第2方向側に位置する眼を、他方の眼よりも先に検査を行う第1検査眼とする。被検者の左眼および右眼のうち、第1検査眼とは反対側の眼を第2検査眼とする。
【0013】
制御部は、顔撮影ステップ、第1移動ステップ、および第2自動ステップを実行する。顔撮影ステップでは、制御部は、被検者の顔に対する筐体の相対位置を初期位置に移動させた状態で、少なくとも第1検査眼を含む撮影範囲を顔撮影部によって撮影する。初期位置では、顔撮影部の左右方向における位置が、被検者の左眼と右眼の間となる。第1移動ステップでは、制御部は、顔撮影ステップにおいて撮影された画像に基づいて移動部の駆動を制御することで、初期位置にある筐体の相対位置を、検査軸が第1検査眼に一致する第1位置に移動させる。第2移動ステップでは、制御部は、第1検査眼に終了後に、第1位置にある筐体の相対位置を、検査軸が第2検査眼に近づく第2位置に移動させる。
【0014】
顔撮影部は、被検者の眼の位置を検出するために使用される。従って、顔撮影部の撮影範囲に検査用突出部が含まれないように、検査用突出部(検査軸)に対する顔撮影部の位置を設定するのが通常であると考えられる。これに対し、本開示で例示する眼科装置では、顔撮影部の撮影範囲に、検査用突出部の少なくとも一部が敢えて含まれるように、顔撮影部の位置が設定されている。従って、顔撮影部の撮影範囲から検査用突出部が除外されるように、顔撮影部の位置を設定する場合に比べて、より検査軸に近い位置に顔撮影部が設置される(この効果については後述する)。また、筐体が初期位置にある場合に、少なくとも第1検査眼が顔撮影部の撮影範囲に含まれるように(つまり、第1検査眼が検査用突出部によって遮蔽されないように)、検査軸と顔撮影部の位置関係が設定されている。よって、眼科装置は、筐体を初期位置に移動させることで、検査軸に極力近い位置に設置された顔撮影部によって、被検者の第1検査眼を含む画像を適切に撮影することができる。
【0015】
制御部は、顔撮影部による撮影を実行した後、初期位置にある筐体の相対位置を第1位置へ移動させて、検査軸を第1検査眼に一致させる。筐体の相対位置が初期位置にある場合、顔撮影部から見て、第1検査眼と検査軸は、共に第2方向(左方または右方)に位置する。また、前述したように、顔撮影部の位置は、第1検査眼が検査用突出部に遮蔽されない程度に検査軸から離間しているものの、検査用突出部の一部が撮影範囲に含まれるまで検査軸に近づけられている。従って、初期位置から第1位置までの移動距離が短くなり易い。その後、第1検査眼の検査が終了すると、筐体の相対位置が第1位置から第2位置へ移動され、検査軸が第2被検眼に近づけられる。よって、検査用突出部が被検者側に突出している場合でも、被検者の撮影画像に基づいて適切に検査軸が被検眼に合わせられる。
【0016】
なお、移動部は、検査用突出部と顔撮影部を備えた筐体を移動させることで、被検者の顔に対する筐体の相対位置を移動させてもよい。また、移動部は、被検者の顔(例えば、被検者の顔を支持する顔支持部等)を移動させることで、相対位置を移動させてもよい。また、移動部は、筐体と被検者の顔の両方を移動させることで、相対位置を移動させてもよい。
【0017】
また、顔撮影部は1つのカメラであってもよいし、複数のカメラを含んでいてもよい。複数のカメラが用いられる場合、各々のカメラの撮影領域を重複させて、重複させた領域に被検眼(少なくとも第1被検眼)を含めることで、撮影光軸に交差する二次元方向(XY方向)における被検眼の位置と共に、撮影光軸に沿う方向(Z方向)における被検眼の位置も検出されてもよい。
【0018】
制御部は、顔撮影ステップにおいて、被検者の第1被検眼および第2被検眼(つまり、左眼と右眼)を共に含む撮影範囲を顔撮影部によって撮影してもよい。制御部は、第2移動ステップにおいて、顔撮影ステップで撮影された画像から検出される第2被検眼の位置に基づいて、筐体の相対位置を第2位置に移動させてもよい。この場合には、眼科装置は、第1被検眼の位置のみを画像から検出する場合に比べて、より正確に検査軸を左眼と右眼の各々に一致させることができる。
【0019】
ただし、顔撮影ステップの撮影範囲に第2被検眼が含まれていなくてもよい。また、撮影範囲に第2被検眼が含まれているか否かに関わらず、第2移動ステップでは、第2被検眼の位置の検出結果を用いずに相対位置が移動されてもよい。例えば、第2移動ステップでは、検査対象とする被検者グループの瞳孔間距離の平均値Dに基づいて、筐体の相対位置が左右方向に移動されてもよい。この場合でも、前述した技術を適用することで、初期位置から第1位置への相対位置の移動距離は適切に削減される。
【0020】
また、検査軸が延びる方向は適宜選択できる。例えば、被検者を椅子に座らせた状態で、被検者の眼前に眼科装置が配置されてもよい。この場合、検査軸は水平方向に延びていてもよい。また、被検者を仰向けに寝かせた状態で、被検者の顔の上方に眼科装置が配置されてもよい。この場合、検査軸は上下方向に延びていてもよい。
【0021】
検査対象とする被検者グループの瞳孔間距離の平均値をDとした場合に、検査軸と、顔撮影部の対物レンズの中心との間の左右方向の距離が、D/2より大きくてもよい。一例として、瞳孔間距離が平均値Dである被検者の検査を行う場合を想定する。この場合、検査軸と顔撮影部の左右方向の距離をD/2とし、且つ、顔撮影部の左右方向における位置を、被検者の左眼と右眼の間の中心として撮影を実行すれば、初期位置から第1位置までの左右方向の移動距離は0となる。しかし、検査軸と顔撮影部の左右方向の距離をD/2とすると、顔撮影部の撮影範囲に写り込む検査用突出部の割合が大きくなり、左眼または右眼が遮蔽され易い。従って、検査軸と顔撮影部の左右方向の距離をD/2よりも大きくすることで、左眼または右眼が検査用突出部によって遮蔽されることを抑制することができる。この状態で、前述した構成を眼科装置に含めることで、被検眼の位置検出と、初期位置から第1位置までの移動距離の短縮が共に適切に実現される。
【0022】
なお、本開示における眼科装置では、瞳孔間距離の平均値Dが67mmに設定されたうえで、各種構成が配置されている。しかし、瞳孔間距離の平均値Dは、検査対象とする被検者グループに応じて適宜設定できる。例えば、日本人の成人男性の瞳孔間距離の平均値を約64mmとするデータも存在する。このデータに基づいて、瞳孔間距離の平均値Dが64mmに設定されてもよい。また、検査対象とする被検者グループの人種、国籍、年齢、性別等に応じて、瞳孔間距離の平均値Dが適宜設定されてもよい。
【0023】
筐体の初期位置は、顔撮影部の左右方向における位置が、被検者の左眼と右眼の中心よりも第1方向側にずれる位置であってもよい。例えば、顔撮影部を用いて被検者の左眼および右眼を共に検出する場合には、顔撮影部の左右方向の位置を、被検者の左眼と右眼の中心に配置して撮影を行うことが通常であると考えられる。しかし、初期位置における顔撮影部の位置を、左眼と右眼の中心よりも敢えて第1方向側にずらすことで、初期位置から第1位置までの移動距離がさらに短縮され易くなる。
【0024】
ただし、筐体の初期位置を変更することも可能である。例えば、筐体の初期位置は、顔撮影部の左右方向における位置が、被検者の左眼と右眼の中心に一致する位置であってもよい。
【0025】
筐体の初期位置は、検査軸に沿う方向において、検査用突出部を使用して眼の検査を実行する際の筐体の位置(以下、「検査位置」という)よりも被検者の顔から離間していてもよい。この場合には、検査軸に沿う方向における筐体の初期位置と検査位置が同一である場合に比べて、顔撮影部による被検者の顔の撮影範囲が広くなる。さらに、顔撮影部による撮影時に、検査用突出部等が被検者に接触する可能性も低くなる。よって、より適切に被検者の眼の位置が検出される。
【0026】
制御部は、第1接近ステップ、第1離間ステップ、および第2接近ステップをさらに実行してもよい。第1接近ステップでは、制御部は、第1移動ステップの実行後且つ第1被検眼の検査前に、筐体を第1検査眼に近づける。第1離間ステップでは、制御部は、検査用突出部による第1検査眼の検査の終了後、且つ第2移動ステップの実行前に、筐体を第1検査眼から遠ざける。第2接近ステップでは、制御部は、第2移動ステップの実行後に、筐体を第2検査眼に近づける。この場合、顔撮影部による左眼および右眼の撮影、第1検査眼および第2検査眼の検査、および、第1検査眼から第2検査眼への検査軸の移動が、一連の動作で円滑に実行される。
【0027】
顔撮影部は、筐体における被検者対向面のうち、検査用突出部の検査軸よりも被検者の頭上側にずれた位置に配置されていてもよい。この場合、被検者に対する筐体の上下方向の相対的な移動量を減少させるために、検査軸の高さを被検者の眼の高さに近づけた状態でも、被検者の左眼および右眼が検査用突出部の斜め上方から適切に撮影される。つまり、顔撮影部による撮影を実行する際に、検査用突出部、顔撮影部、左眼、および右眼の全てが同一の高さにある場合に比べて、顔左眼および右眼が検査用突出部によって遮蔽され難い。よって、眼科装置は、筐体の左右方向の移動量を抑制しつつ、より適切に左眼および右眼の位置を検出することができる。
【0028】
顔撮影部の対物レンズの中心を通り、且つ、検査用突出部に接して検査軸に交差する直線を、接線Tとする。対物レンズの中心を通り、検査軸に対して平行に延びる直線を、直線SOとする。接線Tと直線SOが成す角度は40度以上であってもよい。この場合、顔撮影部の撮影範囲に写り込む検査用突出部の割合が大きくなりすぎることが抑制される。よって、左眼および右眼が共に適切に顔撮影部によって撮影される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】眼科装置1の概略構成を示す左側面図である。
図2】眼科装置1の電気的構成を示すブロック図である。
図3】筐体3が初期位置にある際の、被検者の顔に対する筐体3の位置関係を示す平面図である。
図4】筐体3が第1位置にある際の、被検者の顔に対する筐体3の位置関係を示す平面図である。
図5図3に示す状態で顔撮影部20によって撮影される画像の一例を示す図である。
図6】眼科装置1が実行するフルオート検査処理の一例を示すフローチャートである。
図7】筐体3が第1被検眼の検査位置にある際の、被検者の顔に対する筐体3の位置関係を示す平面図である。
図8】筐体3が第2位置にある際の、被検者の顔に対する筐体3の位置関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(概略構成)
以下、本開示に係る典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。眼科装置1は、被検者の眼(被検眼)Eに検査軸IOを一致させた状態で、被検眼Eを検査する。本実施形態で例示する眼科装置1は、検査軸IOに沿って被検者側に突出する検査用突出部(本実施形態ではノズル)10を備え、検査用突出部10から被検眼Eの角膜に流体を吹き付けることで、角膜の変形形状から被検眼Eの眼圧を測定する。つまり、本実施形態で例示する眼科装置1は、非接触式の眼圧測定装置である。しかし、本開示で例示する技術を適用できる眼科装置は、眼圧測定装置に限定されない。つまり、検査用突出部を備えた各種の眼科装置(例えば、画角を広げるアタッチメントを検査用突出部として備えた眼科撮影装置、および、検査のための光を出射する検査用突出部を備えた眼科装置等)に、本開示で例示する技術の少なくとも一部を適用できる。本開示で例示する技術を適用できる眼科装置の一例として、眼屈折力測定装置、角膜曲率測定装置、眼底カメラ、OCT装置、走査型レーザ検眼鏡(SLO)等が挙げられる。本開示における「検査」には、被検眼Eの測定および撮影が共に含まれる。
【0031】
図1を参照して、眼科装置1の概略構成について説明する。以下の説明では、図1における紙面左右方向をZ方向(前後方向)とし、紙面上下方向をY方向(上下方向)とし、紙面奥行方向をX方向(左右方向)とする。詳細には、図1における紙面左側(被検者側)を眼科装置1の前側とし、紙面右側を眼科装置1の後側とする。図1における紙面上側を眼科装置1の上側とし、紙面下側を眼科装置1の下側とする。図1における紙面手前側を眼科装置1の左側とし、紙面奥側を眼科装置1の右側とする。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の眼科装置1は、基台2、筐体3、移動部4、および顔支持部5を備える。基台2は、設置場所に載置され、眼科装置1の全体を支持する。筐体3は、被検眼Eの検査を実行するための各種構成を備える(詳細は後述する)。筐体3は、移動部4を介して基台2に支持されている。顔支持部5は、被検者の顔を支持して位置決めする。本実施形態では、顔支持部5として顎台および額当てが使用されている。被検者が、顎を顎台に乗せ、且つ額を額当てに当てることで、顔が位置決めされる。移動部4は、顔支持部5によって位置決めされた被検者の顔に対する、筐体3の相対位置を移動させる。
【0033】
一例として、本実施形態の移動部4は、モータ等のアクチュエータによって、基台2に対して筐体3を前後方向、上下方向、および左右方向(三次元方向)に移動させることで、被検者の顔に対する筐体3の相対位置を移動させる。しかし、移動部の構成を変更することも可能である。例えば、移動部は、顔支持部5を移動させることで、被検者の顔に対する筐体3の相対位置を移動させてもよい。また、移動部は、筐体3と顔支持部5を共に移動させてもよい。例えば、移動部は、筐体3を前後方向および左右方向に移動させると共に、顔支持部5を上下方向に移動させることで、被検者の顔に対する筐体3の相対位置を移動させてもよい。
【0034】
筐体3は、検査用突出部10、顔撮影部20、表示部7、および操作部8を備える。検査用突出部10は、筐体3のうち、被検者の顔が位置決めされる側(本実施形態では前側)の面である被検者対向面3Aから、検査軸IOに沿って被検者側に突出する。検査軸IOは、検査を実行する際に被検眼Eに合わせられる。一例として、本実施形態の検査用突出部10は、被検眼Eの角膜に流体(例えば圧縮空気)を吹き付けるノズルである。しかし、検査用突出部の具体的な構成は、眼科装置が実行する検査の種類等に応じて適宜選択できる。例えば、撮影画角を切り替えるために筐体3に着脱可能に装着されるアタッチメント、検査のための光または超音波等を先端から被検眼Eに出射する突出部等を、検査用突出部として使用してもよい。
【0035】
顔撮影部20は、筐体3の被検者対向面3Aのうち、検査用突出部10の検査軸IOから左右のいずれかにずれた位置に配置されている(詳細は後述する)。また、本実施形態の顔撮影部20は、図1に示すように、筐体3における被検者対向面3Aのうち、検査用突出部10の検査軸IOよりも被検者の頭上側(本実施形態では上方)にずれた位置に配置されている。この効果については後述する。
【0036】
表示部7は各種画像を表示する。本実施形態では、表示部7は、筐体3のうち検者に対向する後側に配置されている。操作部8には、ユーザによる各種操作指示が入力される。一例として、本実施形態では、表示部7の表示面に設置されるタッチパネルが操作部8として使用されている。しかし、ジョイスティック、マウス、キーボード、ドラックボール、ボタン、リモートコントローラ等の少なくともいずれかが、操作部8として使用されてもよい。なお、筐体3の内部には、被検眼Eの検査を行うための検査部40(図2参照)も内蔵されている。
【0037】
(電気的構成)
図2を参照して、本実施形態の眼科装置1の電気的構成について説明する。眼科装置1は、制御ユニット30を備える。制御ユニット30には、CPU(コントローラ)31、RAM32、ROM33、および不揮発性メモリ(Non-volatile memory:NVM)34を備える。CPU31は、眼科装置1の各種制御を司る。RAM32は、各種情報を一時的に記憶する。ROM33には、各種プログラム、初期値等が記憶されている。不揮発性メモリ34は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、および着脱可能なUSBメモリ等を不揮発性メモリ34として使用してもよい。本実施形態では、後述するフルオート検査処理(図6参照)を実行するための検査処理プログラム等が、不揮発性メモリ34に記憶される。
【0038】
制御ユニット30は、前述した移動部4、表示部7、操作部8、および顔撮影部10に接続されている。また、制御ユニット30は、被検眼Eの検査を行うための検査部40に接続されている。前述したように、本実施形態で例示する眼科装置1は、被検眼Eの角膜に流体を吹き付けることで、角膜の変形形状から被検眼Eの眼圧を測定する。従って、検査部40には、角膜に流体を噴射するための構成、および、角膜の変形形状を検出するための構成が含まれる。
【0039】
本実施形態の検査部40は、流体噴射部41、圧力センサ42、アライメント用光源43、アライメント用撮影部44、変形検出用光源45、および変形検出用受光素子46を備える。流体噴射部41は、シリンダ内の空気をソレノイド等のアクチュエータによって圧縮することで、検査用突出部10の先端から検査軸IOに沿って空気を噴射させる。圧力センサ42は、シリンダ内の気体の圧力を検出する。アライメント用光源43は、被検眼Eに対する検査軸IOのアライメントを行うための光(本実施形態では赤外光)を出射する。なお、アライメント用光源43は、顔撮影部20による撮影を行う際の照明光源として用いられてもよい。アライメント用撮影部44の撮影光軸は、検査軸IOに一致している。CPU31は、アライメント用撮影部44によって撮影された画像に基づいて、被検眼Eに対する検査軸IOのアライメントを実行する。変形検出用光源45は、検査軸IOに対して傾斜した光軸に沿って、略平行光束を被検眼Eの角膜に投光する。変形検出用受光素子46は、角膜が偏平されたときに受光量が最大となるように配置されている。
【0040】
なお、検査部40の構成には従来の眼科装置の構成を使用できるので、検査部40の構成の配置等の説明は省略する(例えば、特開2002-17683等参照)。また、眼科装置が実行する検査の内容に応じて、検査部40の構成を変更してもよいことは言うまでもない。
【0041】
(顔撮影部と検査軸の位置関係、および、検査の動作の概要)
図3図5を参照して、筐体3における顔撮影部20と検査軸IOの位置関係、および、検査の動作の概要について説明する。図3は、顔支持部5によって位置決めされた顔に対する筐体3の相対的な位置(以下、単に「筐体3の位置」という場合もある)が初期位置にある際の、被検者の顔と筐体3の位置関係を示す平面図である。初期位置とは、顔支持部5によって位置決めされた被検者の顔(本実施形態では、左眼ELおよび右眼ERを共に含む)を、顔撮影部20によって撮影する際の、筐体3の位置である。また、図3図4図7、および図8に示す被検者の瞳孔間距離(左眼ELの瞳孔中心と、右眼ERの瞳孔中心の間の距離)は、眼科装置1が検査対象とする被検者グループの瞳孔間距離の平均値Dに一致している。瞳孔間距離の平均値Dは、被検者グループに応じて適宜設定されればよい。一例として、本実施形態では、瞳孔間距離の平均値Dが67mmに設定されている。
【0042】
眼科装置1は、被検者の左眼ELと右眼ERを共に1回の撮影動作で撮影し、撮影された画像に基づいて左眼ELと右眼ERの位置を適切に検出することで、検査時間を短縮することができる。従って、図3に示すように、眼科装置1は、顔撮影部20の左右方向の位置を、被検者の左眼ELと右眼ERの間に合わせた状態で撮影を行う。その後、眼科装置1は、撮影された画像に基づいて、左眼ELと右眼ERの各々の位置(詳細には、各々の瞳孔の位置)を検出する。
【0043】
次いで、眼科装置1は、検出結果に基づいて移動部4の駆動を制御することで、被検者の左眼ELおよび右眼ERのうち先に検査を行う眼(以下、「第1検査眼」という)に、検査用突出部10の検査軸IOを一致させる。検査軸IOが第1検査眼に一致する際の、被検者の顔に対する筐体3の相対位置を、第1位置という。図4は、筐体3の位置が第1位置にある際の、被検者の顔と筐体3の位置関係を示す平面図である。
【0044】
図3および図4に示すように、検査用突出部10は、筐体3の被検者対向面3Aから検査軸IOに沿って被検者側(前方)に突出している。左眼ELと右眼ERを同時に撮影するための顔撮影部20を、検査用突出部10と同一の位置に配置することは、機構上困難である。また、顔撮影部20と検査用突出部10の左右方向の位置を一致させると(例えば、検査用突出部10の鉛直上方に顔撮影部20を配置すると)、眼科装置1は、顔撮影部20による撮影を実行した後、検査軸IOを一方の眼に一致させるために、筐体3を左右のいずれかに大幅に移動させる必要がある。従って、本実施形態の顔撮影部20は、被検者対向面3Aのうち、検査用突出部10の検査軸IOから左右のいずれかにずれた位置に配置される。本実施形態では、顔撮影部20は、検査軸IOから右方にずれた位置に配置されている。しかし、顔撮影部20が検査軸IOから左方にずれた位置に配置されてもよいことは言うまでもない。
【0045】
ここで、筐体3の左右方向のうち、検査軸IOに対して顔撮影部20がずれている方向(本実施形態では右方向)を、第1方向とする。筐体3の左右方向のうち、第1方向とは反対の方向(本実施形態では左方向)を、第2方向とする。
【0046】
眼科装置1は、被検者の左眼ELおよび右眼ERのうち、筐体3から見て第2方向側に位置する眼(本実施形態では、筐体3から見て左側に位置する右眼ER)を、他方の眼よりも先に検査を行う第1検査眼とする。左眼ELおよび右眼ERのうち、第1検査眼とは反対の眼(本実施形態では左眼EL)を、第1検査眼の検査の後に検査を行う第2検査眼とする。顔撮影部20から見て、第1検査眼と検査軸IOは、共に第2方向(本実施形態では左方)に位置する。従って、第2方向側に位置する眼を第1検査眼とすることで、他方の眼を第1検査眼とする場合に比べて、初期位置(図3参照)から第1位置(図4参照)までの筐体3の左右方向の移動量が削減される。
【0047】
また、検査軸IOと顔撮影部20の対物レンズ22の中心の間の左右方向の距離Lを、瞳孔間距離の平均値Dの半分(D/2)に設定することで、初期位置から第1位置までの移動量をさらに削減することも考えられる。つまり、距離LをD/2とすれば、眼科装置1は、瞳孔間距離がDである被検者の検査を行う際に、左眼ELと右眼ERの中心Cから前方に真っ直ぐ延びる位置で顔撮影部20による撮影を行った後、筐体3を左右方向に移動させずに第1検査眼の検査を実行できる。しかし、検査用突出部10を備えた眼科装置1では、距離LをD/2に設定できない場合が多い。以下、その理由の一例について説明する。
【0048】
本実施形態では、被検眼Eの検査(眼圧測定)を実行する場合、検査用突出部10を被検眼Eに接近させた状態で検査を行う必要がある。従って、顔撮影部20の被検者側(前方)の端部を、検査用突出部10の被検者側の端部(先端部)と同様に被検者側に近い位置とすると、被検眼Eの検査を実行する際に、顔撮影部20が被検者の顔(例えば鼻等)に当たってしまう。よって、顔撮影部20の被検者側の端部は、検査用突出部10の先端部よりも、被検者の顔から遠い側(後方)に配置される必要がある。
【0049】
顔撮影部20の被検者側の端部を、検査用突出部10の先端部よりも後方に配置する場合、検査用突出部10の検査軸IOと顔撮影部20の位置関係によっては、顔撮影部20の撮影範囲に検査用突出部10が写り込む場合がある。検査軸IOに対する顔撮影部20の距離が短い程、撮影範囲に写り込む検査用突出部10の割合が大きくなる。特に、図3に示す距離LをD/2以下とすると、顔撮影部20の撮影範囲内で、被検者の左眼ELおよび右眼ERの少なくとも一方(本実施形態では右眼ER)が検査用突出部10によって遮蔽される可能性が高くなり、眼の位置を検出することが不可能になり易い。よって、本実施形態の眼科装置1では、距離LがD/2よりも大きくなるように、検査軸IOに対する顔撮影部20の位置が設定されている。その結果、眼が検査用突出部10によって遮蔽されることが抑制されている。
【0050】
また、眼の位置の検出精度を向上させることを考えると、顔撮影部20の撮影範囲に検査用突出部10が全く写り込まないように、検査軸IOに対する顔撮影部20の設置位置を設定しようとするのが通常であると考えられる。顔撮影部20の対物レンズ22の中心Pと、検査用突出部10の検査軸IOの間の左右方向の距離Lを非常に大きくすれば、顔撮影部20の撮影範囲に検査用突出部10が写り込まなくなる。しかし、前述したように、眼科装置1は、顔撮影部20の左右方向の位置を、被検者の左眼ELと右眼ERの間に合わせた状態で撮影を行う必要がある。従って、図3に示す距離Lを大きくする程、初期位置(図3参照)から第1位置(図4参照)までの筐体3の移動距離が長くなってしまう。
【0051】
これに対し、本実施形態の眼科装置1では、図5に示すように、顔撮影部20の撮影範囲21に、検査用突出部10の少なくとも一部(例えば先端部)が敢えて含まれるように、検査軸IOに対する顔撮影部20の位置が設定されている。従って、顔撮影部20の撮影範囲21から検査用突出部10が除外されるように、顔撮影部20の位置が設定される場合に比べて、より検査軸IOに近い位置に顔撮影部20が設置される。よって、初期位置(図3参照)から第1位置(図4参照)までの筐体3の移動距離が削減され易い。さらに、筐体3が初期位置にある場合に、被検者の左眼ELおよび右眼ERが共に撮影範囲21に含まれるように(つまり、左眼ELおよび右眼ERの少なくとも一方が検査用突出部10によって遮蔽されないように)、検査軸IOと顔撮影部20の位置関係が設定されている。よって、本実施形態の眼科装置1は、初期位置から第1位置までの筐体3の移動距離を削減しつつ、適切に被検眼(本実施形態では両眼)の位置を検出することができる。
【0052】
また、前述したように、顔撮影部20は、筐体3における被検者対向面3Aのうち、検査用突出部10の検査軸IOよりも被検者の頭上側にずれた位置に配置されている(図1参照)。従って、被検者に対する筐体3の上下方向の相対的な移動量を削減するために、初期位置(図3参照)における検査軸IOの高さを眼Eの高さに近づけた際に、被検眼(本実施形態では左眼ELおよび右眼ERの両方)が検査用突出部10の斜め上方から適切に撮影される(図5参照)。つまり、顔撮影部20による撮影を実行する際に、検査用突出部10、顔撮影部20、左眼EL、および右眼ERの全てが同一の高さにある場合に比べて、眼が検査用突出部10によって遮蔽され難い。
【0053】
図3に示すように、顔撮影部20の対物レンズ(最も被検者側に位置するレンズ)22の中心Pを通り、検査用突出部10に接して検査軸IOに交差する直線を、接線Tとする。また、対物レンズ22の中心Pを通り、且つ検査軸IOに対して平行に延びる直線を、直線SOとする。本実施形態の眼科装置1では、接線Tと直線SOが成す角度θは40度以上(一例として、本実施形態では46度)に設定されている。その結果、顔撮影部20の撮影範囲21に写り込む検査用突出部10の割合が大きくなりすぎることが抑制されている。
【0054】
また、顔撮影部20の撮影画角は、縦方向、横方向のいずれも100度以上に設定されている。従って、被検者の左眼ELおよび右眼ERが、共に適切に1度の撮影動作で撮影される。
【0055】
図3を参照して、本実施形態における筐体3の初期位置についてさらに説明を行う。図3に示すように、筐体3の相対位置が初期位置である場合、顔撮影部20(詳細には、対物レンズ22の中心P)の左右方向における位置は、顔支持部5(図1参照)によって位置決めされた被検者の左眼ELと右眼ERの中心Cよりも、第1方向側(本実施形態では右側)にずれる。本実施形態のように、顔撮影部20を用いて左眼ELと右眼ERを共に検出する場合、顔撮影部20の左右方向の位置を、中心Cに配置して撮影を行うことが通常であると考えられる。しかし、本実施形態では、初期位置における顔撮影部20の位置を、中心Cよりも敢えて第2方向側にずらすことで、初期位置(図3参照)から第1位置(図4参照)までの移動距離がさらに短縮されている。
【0056】
なお、本実施形態では、顔撮影部20の撮影光軸が検査軸IOと平行となるように、顔撮影部20が配置されている。つまり、本実施形態における顔撮影部20の撮影光軸は、前述した直線SOに一致する。しかし、顔撮影部20の撮影光軸の向きを変更することも可能である。例えば、本実施形態では、筐体3が初期位置(図3参照)にある場合の顔撮影部20の左右方向の位置が、左眼ELと右眼ERの中心Cよりも第1方向側にずれる。従って、被検者側に延びる撮影光軸が第2方向側に傾くように、顔撮影部20が配置されていてもよい。また、本実施形態では、初期位置(図3参照)における検査軸IOの高さを眼Eの高さに近づけた際に、顔撮影部20の位置は眼Eよりも高くなる。従って、被検者側に延びる撮影光軸が下方に傾くように、顔撮影部20が配置されていてもよい。これらの場合、撮影範囲内に左眼ELおよび右眼ERがバランスよく収まり易い。
【0057】
(フルオート検査処理)
図6等を参照して、本実施形態の眼科装置1が実行するフルオート検査処理の一例について説明する。眼科装置1は、顔撮影部20による撮影画像に基づいて両眼の検査を自動的に実行するフルオートモードと、被検眼Eに対する検査軸IOの大まかな位置合わせを検者が手動で実行する手動モードを、検者から入力される指示に応じて切り替える。眼科装置1のCPU31は、フルオートモードの実行指示が入力されると、不揮発性メモリ34に記憶されたプログラムに従って、図6に例示するフルオート検査処理を実行する。
【0058】
まず、CPU31は、移動部4の駆動を制御することで、筐体3の相対位置を初期位置(図3参照)に移動させる(S1)。検査の開始指示が検者によって入力されるまで(S2:NO)、待機状態となる。検者が操作部8を操作し、検査の開始指示を入力すると(S2:YES)、CPU31は、顔撮影処理を実行する(S3)。顔撮影処理では、CPU31は、筐体3が初期位置(図3参照)にある状態で、少なくとも第1被検眼(本実施形態では左眼ELおよび右眼ERの両方)を含む撮影範囲を顔撮影部20によって撮影する。その結果、図5に例示する画像が撮影される。
【0059】
次いで、CPU31は、眼位置検出処理を実行する(S4)。眼位置検出処理では、CPU31は、顔撮影処理で撮影された画像に基づいて、顔支持部5によって位置決めされている被検者の少なくとも第1被検眼(本実施形態では左眼ELおよび右眼ERの各々)の位置を検出する。本実施形態では、CPU31は、機械学習アルゴリズムによって訓練された数学モデルに、S3で撮影された画像を入力することで、左眼ELおよび右眼ERの各々の位置が取得される。数学モデルは、左眼ELおよび右眼ERを撮影範囲に含む画像のデータを入力用訓練データとし、左眼ELおよび右眼ERの各々の位置を示すデータを出力用訓練データとする多数の訓練データセットに基づいて、予め訓練されている。数学モデルを実現するためのプログラムは、予め不揮発性メモリ34に記憶されている。数学モデルは、S3で撮影された画像が入力されると、左眼ELおよび右眼ERの各々の位置を示す情報を出力する。機械学習アルゴリズムが利用されることで、撮影画像に基づく眼の位置検出の精度が向上する。ただし、撮影画像から眼の位置を検出する方法を変更することも可能である。例えば、CPU31は、撮影画像に対して公知の画像処理を行い、処理結果に基づいて眼の位置を検出してもよい。
【0060】
次いで、CPU31は、第1移動処理を実行する(S5)。第1移動処理では、CPU31は、眼位置検出処理による第1被検眼(本実施形態では右眼ER)の位置の検出結果に基づいて移動部4の駆動を制御することで、初期位置(図3参照)にある筐体3の相対位置を、第1位置(図4参照)に移動させる。前述したように、第1位置では、検査軸IOが第1被検眼(本実施形態では右眼ER)に一致する。本実施形態の眼科装置1は、前述した種々の構成を備えることで、初期位置(図3参照)から第1位置(図4参照)への筐体3の左右方向の移動距離を削減している。
【0061】
次いで、CPU31は、第1接近処理を実行する(S6)。第1接近処理では、CPU31は、第1移動処理(S5)の実行後且つ第1被検眼の検査前に、筐体3を第1被検眼に近づける。その結果、図3および図4で離間していた筐体3と被検眼EL,ERの間の距離B1が、図7に示すように、距離B2まで接近する。図7に示す状態では、検査用突出部10と第1被検眼ERの距離が、検査に適切な距離となる。この状態で、CPU31は、検査部40(図2参照)の駆動を制御して、第1被検眼の検査を実行する(S7)。
【0062】
つまり、本実施形態では、筐体3の初期位置(図3参照)は、検査軸IOに沿う方向(本実施形態では前後方向)において、検査用突出部10を使用して被検眼Eの検査を実行する際の筐体3の位置(図7参照)よりも、被検者の顔から離間している。従って、検査軸IOに沿う方向における筐体3の初期位置と検査位置が同一である場合に比べて、顔撮影部20による被検者の顔の撮影範囲が広くなる。さらに、顔撮影部20による撮影時に、検査用突出部10等が被検者に接触する可能性も低くなる。
【0063】
なお、CPU31は、第1接近処理(S6)を実行する際に、アライメント用光源43およびアライメント用撮影部44(図2参照)を使用して、第1被検眼に対する検査軸IOの厳密なアライメントを実行する。その結果、検査の精度がさらに向上する。
【0064】
次いで、CPU31は、第1離間処理を実行する(S8)。第1離間処理では、CPU31は、移動部4の駆動を制御することで、検査位置(図7参照)から第1位置(図4参照)まで筐体3を移動させる。その結果、筐体3が第1被検眼から遠ざかる。次いで、CPU31は、第2移動処理を実行する(S9)。第2移動処理では、CPU31は、眼位置検出処理(S4)による第2被検眼(本実施形態では左眼EL)の位置の検出結果に基づいて移動部4の駆動を制御することで、第1位置(図4参照)にある筐体3を、第2位置(図8参照)に移動させる。第2位置では、検査軸IOが第2被検眼(本実施形態では右眼EL)に一致する。第1離間処理(S8)が実行された後に第2移動処理(S9)が実行されることで、第2移動処理中に検査用突出部10が被検者に接触し難くなる。
【0065】
次いで、CPU31は、第2接近処理(S10)、第2被検眼検査処理(S11)、および第2離間処理(S12)を順に実行する。第2接近処理(S10)では、CPU31は、筐体3を第1被検眼に近づけることで、検査用突出部10を第2被検眼に接近させる。また、CPU31は、第2接近処理(S10)を実行する際に、S6と同様のアライメントを実行する。第2被検眼検査処理(S11)では、CPU31は、第2被検眼の検査を実行する。第2離間処理(S12)では、CPU31は、移動部4の駆動を制御することで、筐体3を第2被検眼から遠ざける。その後、処理はS1へ戻り、筐体3が初期位置(図3参照)に戻される。第2離間処理(S12)が実行された後に、筐体3が初期位置に戻されることで、検査用突出部10が被検者に接触し難くなる。
【0066】
上記実施形態の開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態で例示した複数の技術の一部のみを採用してもよい。一例として、上記実施形態では、筐体3が初期位置にある場合に、顔撮影部20の左右方向の位置は、左眼ELと右眼ERの中心Cよりも第1方向側にずれている。しかし、眼科装置1は、顔撮影部20を左右方向の位置を、左眼ELと右眼ERの中心Cに一致させた状態で、被検者の顔の撮影を実行してもよい。この場合でも、上記実施形態で例示した技術の少なくともいずれかを採用することで、初期位置から第1位置への筐体3の移動量は減少する。
【0067】
なお、図6のS3に示す顔撮影処理は、「顔撮影ステップ」の一例である。図6のS4に示す眼位置検出処理は、「眼位置検出ステップ」の一例である。図6のS5に示す第1移動処理は、「第1移動ステップ」の一例である。図6のS9に示す第2移動処理は、「第2移動ステップ」の一例である。図6のS6に示す第1接近処理は、「第1接近ステップ」の一例である。図6のS8に示す第1離間処理は、「第1離間ステップ」の一例である。図6のS10に示す第2接近処理は、「第2接近ステップ」の一例である。
【符号の説明】
【0068】
1 眼科装置
3 筐体
3A 被検者対向面
4 移動部
5 顔支持部
10 検査用突出部
20 顔撮影部
21 撮影範囲
31 CPU
IO 検査軸
T 接線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8