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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】リニアソレノイドバルブ
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021566830
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037254
(87)【国際公開番号】W WO2021131213
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019233907
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 建一
(72)【発明者】
【氏名】國分 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】竹田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】星野 諭視
(72)【発明者】
【氏名】栗本 真吾
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-309298(JP,A)
【文献】特開平11-166641(JP,A)
【文献】特許第2649045(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
F16K 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力ポート、ドレンポートおよび前記入力ポートと前記ドレンポートとの間の出力ポートを含むスリーブと、前記スリーブ内に摺動自在に配置されるスプールと、供給電力に応じて前記スリーブ内で前記スプールを移動させるソレノイド部とを含むリニアソレノイドバルブにおいて、
前記スリーブの内部には、前記出力ポートに連通する出力室と、前記ドレンポートに連通するドレン室と、前記出力室と前記ドレン室との間に位置すると共に前記出力室よりも小さい断面積を有する連通室とが画成され、
前記スプールは、前記出力ポートと前記ドレンポートとの連通状態を変化させるランドを含み、
前記ランドの外周面には、前記ランドの前記ドレン室側の端面で開口する少なくとも1つのノッチが形成され、
前記ノッチは、前記ランドの前記ドレン室側の端面から前記入力ポート側の端面に向けて前記スプールの軸方向に延在すると共に前記ランドの前記外周面から前記スプールの軸心側に窪む凹部であり、
前記スプールの移動に応じて、前記ランドの前記ドレン室側の前記端面が前記連通室内に位置して前記ノッチおよび前記連通室を介して前記出力室と前記ドレン室とが連通する状態と、前記ランドの前記ドレン室側の前記端面が前記出力室内に位置して前記連通室を介して前記出力室と前記ドレン室とが連通する状態とが形成され、
前記連通室の内周面と前記ランドの外周面との間のクリアランスの前記軸方向からみた面積に対する前記ノッチの前記軸方向からみた面積の総和の割合は、40%以上かつ153%以下であり、前記ノッチの前記軸方向における長さは、前記ランドの前記軸方向における長さと前記出力室の前記軸方向における長さとの差であるラップ長さの21%以上であるリニアソレノイドバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアソレノイドバルブにおいて、
前記ノッチの前記軸方向における長さは、前記ラップ長さの63%以下であるリニアソレノイドバルブ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリニアソレノイドバルブにおいて、
前記ノッチの前記軸方向における長さと、前記軸方向からみた前記ノッチの深さとが同一であるリニアソレノイドバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、入力ポートおよび出力ポートを含むスリーブと、当該スリーブ内に摺動自在に配置されるスプールと、スリーブ内でスプールを移動させるソレノイド部とを含むリニアソレノイドバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のリニアソレノイドバルブとして、スプールの入力ポートに対向するランドの端縁に形成された円弧状あるいはV字状の入力ノッチ(凹部)と、ドレンポートに対向するランドの端縁に形成された円弧状あるいはV字状のドレンノッチ(凹部)とを含むものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このリニアソレノイドバルブでは、入力ポートに供給された作動油(流体)を入力ノッチを介して出力ポートに導入すると共にドレンノッチを介してドレンポートから排出することで、スプールの移動量に対する出力圧の変化率を比例関係に近づけ、それにより圧力制御の応答性を向上させることができる。一方、上述のようなリニアソレノイドバルブを含む油圧制御装置として、リニアソレノイドバルブの出力圧の脈動を減衰するために、当該リニアソレノイドバルブの出力ポートに連通する油圧ダンパを含むものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-309298号公報
【文献】国際公開第2014/156944号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなリニアソレノイドバルブでは、例えば、ソレノイド部に印加される電圧を制御するためのパルス信号(PWM信号)の周波数(駆動周波数)に応じてスプールが微細に振動することがあり、かかる外的要因によりスプールが微細に振動すると、当該スプールの振動に起因して出力圧に脈動を生じる。また、入力ノッチやドレンノッチを含む特許文献1に記載のリニアソレノイドバルブでは、入力ノッチおよびドレンノッチの少なくとも何れか一方を介して対応するポート同士が連通する際に、出力圧の脈動の振幅がより大きくなってしまう。このため、特許文献1に記載されたリニアソレノイドバルブを使用する際には、当該リニアソレノイドバルブの出力圧の脈動を減衰するために、特許文献2に記載されたような脈動減衰装置(油圧ダンパ)を併用せざるを得なくなることがある。
【0005】
そこで、本開示は、スプールの微細な振動に起因した出力圧の脈動を低減することができるリニアソレノイドバルブの提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のリニアソレノイドバルブは、入力ポート、出力ポートおよびドレンポートを含むスリーブと、前記スリーブ内に摺動自在に配置されるスプールと、供給電力に応じて前記スリーブ内で前記スプールを移動させるソレノイド部とを含むリニアソレノイドバルブにおいて、前記スリーブの内部には、前記出力ポートに連通する出力室と、前記ドレンポートに連通するドレン室と、前記出力室と前記ドレン室との間に位置すると共に前記出力室よりも小さい断面積を有する連通室とが画成され、前記スプールが、前記出力ポートと前記ドレンポートとの連通状態を変化させるランドを含み、前記ランドの外周面には、前記ランドの前記ドレン室側の端面で開口する少なくとも1つのノッチが形成され、前記ノッチが、前記ランドの前記ドレン室側の端面から反対側の端面に向けて前記スプールの軸方向に延在すると共に前記ランドの前記外周面から前記スプールの軸心側に窪む凹部であり、前記スプールの移動に応じて、前記ランドの前記ドレン室側の前記端面が前記連通室内に位置して前記ノッチおよび前記連通室を介して前記出力室と前記ドレン室とが連通する状態と、前記ランドの前記ドレン室側の前記端面が前記出力室内に位置して前記連通室を介して前記出力室と前記ドレン室とが連通する状態とが形成され、前記連通室の内周面と前記ランドの外周面との間のクリアランスの前記軸方向からみた面積に対する前記ノッチの前記軸方向からみた面積の総和の割合が、40%以上かつ153%以下とされ、前記ノッチの前記軸方向における長さが、前記ランドの前記軸方向における長さと前記出力室の前記軸方向における長さとの差であるラップ長さの21%以上とされたものである。
【0007】
本発明者らは、ドレン室側の端面で開口するようにランドの外周面に形成された少なくとも1つのノッチを含むリニアソレノイドバルブにおいて、スプールの微細な振動に起因した出力圧の脈動を低減すべく鋭意研究を行い、その結果、ランドに形成されるドレン室側のノッチの寸法すなわち当該ノッチのスプールの軸方向からみたときの面積や当該軸方向における長さに着目した。そして、本発明者らは、連通室の内周面とランドの外周面との間のクリアランスの上記軸方向からみた面積に対する上記ノッチの当該軸方向からみた面積の総和の割合を40%以上かつ153%以下とし、かつノッチの軸方向における長さを、ランドの軸方向における長さと出力室の軸方向における長さとの差であるラップ長さの21%以上とすることで、ノッチにおける流体の流通性を確保しつつ、スプールの微細な振動に起因した出力圧の脈動を良好に低減し得ることを見出した。すなわち、ドレン室側のノッチの寸法を上記範囲内に定めることで、スプールの移動量(ストローク)に対するノッチの出力室における開口面積の変化を小さくすることが可能となり、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅を小さくすることができる。これにより、本開示のリニアソレノイドバルブによれば、スプールの微細な振動に起因した出力圧の脈動を低減可能となるので、出力圧の脈動を減衰するための脈動減衰装置の省略により当該リニアソレノイドバルブを含む装置全体の低コスト化および小型化を図ることができる。加えて、上記2つの状態を形成するスプールのランドのドレン室側の外周面にノッチを設けることで、ノッチの軸方向における長さ、ひいてはリニアソレノイドバルブの軸長を短縮化しつつ、出力圧の脈動を良好に減衰することが可能となる。なお、1つのノッチの軸方向からみた面積は、上記範囲内に定められた面積の総和をノッチの個数で除した値となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示のリニアソレノイドバルブを示す部分断面図である。
図2】本開示のリニアソレノイドバルブの要部を示す部分断面図である。
図3図3A図3B図3Cおよび図3Dは、本開示のリニアソレノイドバルブの動作を説明するための断面図である。
図4】ランドの外周面における入力側ノッチの開口面積と、リニアソレノイドバルブの出力圧の脈動との関係を示す図表である。
図5】ランドの外周面におけるドレンノッチの開口面積と、リニアソレノイドバルブの出力圧の脈動との関係を示す図表である。
図6】スプールの移動量と、作動油の流通を許容する範囲の面積との関係を示す図表である。
図7】本開示のリニアソレノイドバルブの出力特性を例示するタイムチャートである。
図8】比較例のリニアソレノイドバルブの出力特性を例示するタイムチャートである。
図9】スリーブの連通室の内周面とランドの外周面との間のクリアランスの軸方向からみた面積に対するドレンノッチの軸方向からみた面積の総和の割合と、出力圧の脈動の振幅との関係を示す図表である。
図10】ランドの軸方向における長さと出力室の軸方向における長さとの差であるラップ長さに対するドレンノッチの軸方向における長さの割合と、出力圧の脈動の振幅との関係を示す図表である。
図11】ランドに形成されるノッチの変形態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示のリニアソレノイドバルブ1を示す概略構成図である。同図に示すリニアソレノイドバルブ1は、例えば、車両に搭載される変速機のクラッチやブレーキ、トルクコンバータ、ロックアップクラッチ等への油圧を制御する油圧制御装置のバルブボディに組み込まれるものである。本実施形態において、リニアソレノイドバルブ1は、調圧した作動油をクラッチ等の油室に直接供給する、いわゆるダイレクトリニアソレノイドバルブである。リニアソレノイドバルブ1は、図示するように、ソレノイド部2と、当該ソレノイド部2により駆動されて作動油を調圧するバルブ部3とを含む。また、本実施形態のリニアソレノイドバルブ1は、ソレノイド部2に電力が供給された際に油圧を出力する常閉型リニアソレノイドバルブである。
【0011】
ソレノイド部2は、軸方向に並べて配置される筒状の第1および第2コアと、第1および第2コアを包囲するように配置される筒状のコイルと、第2コア内に軸方向に移動自在に配置されるプランジャと、第1コア内でプランジャに連動して軸方向に移動可能なロッド20と、これらの部材を収容するヨーク(ケース)とを含む(図1には、ロッド20のみを示す)。ソレノイド部2のコイルを電流が流れると、ヨーク、第2コア、プランジャ、第1コアの順に流れる磁束回路が形成される。これにより、プランジャが第1コア側に吸引され、当該プランジャに連動してロッド20が第1コアから突出する方向に移動する。本実施形態において、ソレノイド部2に印加される電圧は、油圧指令値に基づいて生成されるPWM信号により制御される。
【0012】
バルブ部3は、上記バルブボディに組み込まれる略円筒状のスリーブ4と、当該スリーブ4の内部に軸方向に摺動自在(移動自在)に配置されるスプール5とを含む。スリーブ4の一端(図中右端)は、ソレノイド部2(ヨーク)に対して固定され、当該スリーブ4のソレノイド部2側とは反対側の端部(図中左端部)には、当該端部を閉鎖するキャップ6が固定(螺合)される。また、スリーブ4の内部には、スプール5とキャップ6との間に位置するようにスプリング(弾性部材)7が配置される。スプリング7は、本実施形態においてコイルスプリングであり、スプール5をソレノイド部2側に付勢する。
【0013】
スリーブ4は、それぞれバルブボディに形成された対応する油路に連通する入力ポート4i、出力ポート4o、ドレンポート(排出ポート)4dおよびフィードバックポート4fを含む。入力ポート4iには、例えばオイルポンプから吐出された後にレギュレータバルブにより調圧された作動油(ライン圧)が供給される。また、リニアソレノイドバルブ1により調圧された作動油は、出力ポート4oからバルブボディの油圧供給油路に流出する。更に、ドレンポート4dは、バルブボディのドレン油路を介して作動油貯留部に連通し、フィードバックポート4fは、バルブボディに形成された油路を介して出力ポート4oに連通する。本実施形態において、入力ポート4i、出力ポート4o、ドレンポート4dおよびフィードバックポート4fは、ソレノイド部2側からスプリング7(キャップ6)側に向けて、この順番で間隔をおいて軸方向に並ぶようにスリーブ4に形成される。すなわち、入力ポート4iは、出力ポート4oのソレノイド部2側に形成される。また、ドレンポート4dは、出力ポート4oのスプリング7側に形成され、フィードバックポート4f、ドレンポート4dのスプリング7側に形成される。
【0014】
また、スリーブ4の内部には、入力ポート4iに連通する入力室40i、出力ポート4oに連通する出力室40o、ドレンポート4dに連通するドレン室40d、およびフィードバックポート4fに連通するフィードバック室40fが軸方向に間隔をおいて画成されている。更に、スリーブ4の内部には、入力室40iおよび出力室40oの間に位置して両者で開口する第1連通室41と、出力室40oおよびドレン室40dの間に位置して両者で開口する第2連通室42と、ドレン室40dおよびフィードバック室40fで開口する第3連通室43とが画成されている。入力室40i、出力室40o、ドレン室40dおよびフィードバック室40fは、互いに同一の内径(断面積)を有する断面円形状の空間部である。第1から第3連通室41,42,43は、互いに同一かつ入力室40i等の内径(断面積)よりも小さい内径(断面積)を有する断面円形状の空間部である。入力室40i、出力室40o、ドレン室40d、フィードバック室40f、並びに第1から第3連通室41,42,43は、スリーブ4の軸心に沿って互いに同軸に延在する。
【0015】
スプール5は、図1に示すように、4つのランド51,52,53および54と、ランド51および52の間の第1軸部5aと、ランド52および53の間の第2軸部5bと、ランド53および54の間の第3軸部5cとを含む。ランド51,52および53は、互いに同一の外径(断面積)を有する円柱状に形成され、ランド54は、ランド51-53の内径(断面積)よりも小さい内径(断面積)を有する円柱状に形成されている。また、ランド52および53の外径は、スリーブ4の第1から第3連通室41,42,43の内径よりも僅かに小さい値に定められている。更に、本実施形態において、スプール5のランド52は、スリーブ4の出力室40oの軸長よりも長い軸長を有する。第1から第3軸部5a-5cは、少なくともランド51および52の内径(断面積)よりも小さい内径(断面積)を有する円柱状に形成されている。ランド51-54および第1から第3軸部5a-5cは、スプール5の軸心に沿って互いに同軸に延在する。
【0016】
また、スプール5のランド52の外周面52sには、図1および図2に示すように、当該ランド52の入力室40i側(図1における右側)の端面52iで開口する凹部である少なくとも1つの入力側ノッチ55と、当該ランド52のドレン室40d側(図1における左側)の端面52dで開口する凹部である少なくとも1つのドレンノッチ57とが形成されている。本実施形態において、入力側ノッチ55およびドレンノッチ57は、図2に示すように、それぞれ180°間隔で周方向の2カ所に形成される。各入力側ノッチ55は、ランド52の入力室40i側の端面52iから反対側すなわちドレン室40d側の端面52dに向けてスプール5の軸方向に延在すると共にランド52の外周面52sからスプール5の軸心側に窪む凹部である。また、各ドレンノッチ57は、ランド52のドレン室40d側の端面52dから反対側すなわち入力室40i側の端面52iに向けてスプール5の軸方向に延在すると共にランド52の外周面52sからスプール5の軸心側に窪む凹部である。また、本実施形態において、入力側ノッチ55およびドレンノッチ57は、一定かつ互いに同一の深さd(図2参照)を有し、対をなす入力側ノッチ55およびドレンノッチ57は、スプール5の軸心と平行に延びる同一軸線上に配置される。更に、2つ(複数)の入力側ノッチ55同士は、互いに同一の諸元を有し、2つ(複数)のドレンノッチ57同士は、互いに同一の諸元を有する。
【0017】
入力側ノッチ55は、図1に示すように、真横からみて略長方形状の開口部を有する。すなわち、入力側ノッチ55は、端面52iから互いに平行かつスプール5の軸方向に(軸心と平行に)延在する一対の側縁部55aと、当該一対の側縁部55aと交差すると共に端面52iと平行に延在する内縁部55bとを有する。また、入力側ノッチ55は、図2に示すように、スプール5の軸方向からみて(端面52iを正面からみて)略長方形状の開口部を有する。本実施形態において、入力側ノッチ55の端面52iにおける開口面積は、当該入力側ノッチ55の外周面52sにおける開口面積よりも大きく定められている(図2参照)。更に、入力側ノッチ55の各角部(縁部同士の交差部等)には、R形状が付与されている。従って、入力側ノッチ55の外周面52sにおける開口面積(スプール5の軸心に平行かつ入力側ノッチ55の深さ方向に直交する平面に対する当該入力側ノッチ55の投影面積)は、側縁部55aの長さ(入力側ノッチ55のスプール5の軸方向における長さ)Liと内縁部55bの長さWiとの積から角部に付与されたR部の面積αを減じて得られる。
【0018】
ドレンノッチ57も、図1に示すように、真横からみて略長方形状の開口部を有する。すなわち、ドレンノッチ57は、端面52dから互いに平行かつスプール5の軸方向に(軸心と平行に)延在する一対の側縁部57aと、当該一対の側縁部57aと交差すると共に端面52dと平行に延在する内縁部57bとを有する。また、ドレンノッチ57は、図2に示すように、スプール5の軸方向からみて(端面52dを正面からみて)略長方形状の開口部を有する。本実施形態において、ドレンノッチ57の端面52dにおける開口面積は、当該ドレンノッチ57の外周面52sにおける開口面積よりも大きく定められている(図2参照)。更に、ドレンノッチ57の各角部(縁部同士の交差部等)には、R形状が付与されている。従って、ドレンノッチ57の外周面52sにおける開口面積(スプール5の軸心に平行かつドレンノッチ57の深さ方向に直交する平面に対する当該ドレンノッチ57の投影面積)は、側縁部57aの長さLd(ドレンノッチ57のスプール5の軸方向における長さ)と内縁部57bの長さWdとの積から角部に付与されたR部の面積βを減じて得られる。
【0019】
図1に示すように、スプール5のランド51は、ソレノイド部2側で入力室40iに連通するようにスリーブ4に形成された孔部(円孔)内に摺動自在に配置される。また、ランド51の先端(図1における右端)には、ソレノイド部2のロッド20に当接する当接部50とストッパ部5sとが形成されている。更に、スプール5のランド54は、スプリング7(キャップ6)側でフィードバック室40fに連通するようにスリーブ4に形成された孔部(円孔)内に摺動自在に配置され、当該ランド54とキャップ6との間に上記スプリング7が配置される。これにより、スプール5は、スプリング7によりソレノイド部2側に付勢された状態でスリーブ4の内部に摺動自在に配置される。そして、スプール5の移動に応じて、スリーブ4の入力ポート4iと出力ポート4oとの連通状態および出力ポート4oとドレンポート4dとの連通状態が当該スプール5のランド52によって変化させられることになる。
【0020】
上述のように構成されたリニアソレノイドバルブ1において、ソレノイド部2のコイルに電力が供給されていないときには、図1および図3Aに示すように、スプール5(およびロッド20)がスプリング7の付勢力によりソレノイド部2のプランジャに対して押し付けられる。かかる状態をリニアソレノイドバルブ1の取付状態という。リニアソレノイドバルブ1の取付状態では、図3Aに示すように、スプール5のランド52の入力室40i側の端面52iおよび各入力側ノッチ55の全体が第1連通室41内に位置すると共に、ランド52のドレン室40d側の端面52dが出力室40o内に位置する。
【0021】
これにより、取付状態では、ランド52により第1連通室41が実質的に閉鎖され、ランド52の外周面52sと第1連通室41を画成するスリーブ4の内周面との僅かなクリアランスを介して作動油が漏れ出ることがあるものの、入力ポート4iと出力ポート4oとの連通が実質的に遮断される。更に、取付状態では、ランド52の端面52dが出力室40o内に位置することで当該ランド52による第2連通室42の閉鎖が解除され、出力室40oとドレン室40dとが第2連通室42を介して連通する。また、取付状態において、出力室40oからドレン室40dへの作動油の流出を許容する範囲の面積は、ランド52の外周長と、端面52dから出力室40oと第2連通室42との境界までの距離との積値となる。更に、図3Aに示す状態は、ソレノイド部2のコイルへの給電が開始された後にスプール5がある程度移動するまで継続して形成される。以下、ソレノイド部2への給電開始後における図3Aに示す状態をリニアソレノイドバルブ1の非調圧状態(第4状態)という。
【0022】
ソレノイド部2のコイルに電力が供給されてロッド20がプランジャと共にスプリング7側に移動すると、スプール5は、ロッド20により押圧されてスプリング7の付勢力に抗して当該スプリング7(キャップ6)側に移動する。リニアソレノイドバルブ1では、スプール5がスプリング7側に移動していくと、図3Bに示すように、ランド52の入力室40i側の端面52iおよび各入力側ノッチ55の全体が第1連通室41内に残ったまま、ランド52のドレン室40d側の端面52dが出力室40oと第2連通室42との境界を越えて当該第2連通室42内に位置すると共に、各ドレンノッチ57がスリーブ4の径方向からみて出力室40oと第2連通室42との境界と重なり合う。かかる状態をリニアソレノイドバルブ1の微量ドレン状態(第3状態)という。
【0023】
リニアソレノイドバルブ1の微量ドレン状態では、ランド52の各ドレンノッチ57、すなわち各ドレンノッチ57の第2連通室42内で開口する範囲と当該第2連通室42とを介して出力室40oとドレン室40dとが連通する。微量ドレン状態において、出力室40oからドレン室40dへの作動油の流出を許容する範囲の面積は、ドレンノッチ57の内縁部57bから出力室40oと第2連通室42との境界までの距離と、内縁部57bの長さWdと、ドレンノッチ57の数との積値に概ね一致する。
【0024】
リニアソレノイドバルブ1の微量ドレン状態が形成された後、スプール5がロッド20により押圧されて更にスプリング7(キャップ6)側に移動していくと、図3Cに示すように、ランド52のドレン室40d側の端面52dおよび各ドレンノッチ57の全体が第2連通室42内に位置すると共に、ランド52の入力室40i側の端面52iが第1連通室41内に位置したまま、各入力側ノッチ55がスリーブ4の径方向からみて第1連通室41と出力室40oとの境界と重なり合う。かかる状態をリニアソレノイドバルブ1の第1調圧状態(第1状態)という。
【0025】
リニアソレノイドバルブ1の第1調圧状態では、ランド52により第2連通室42が実質的に閉鎖され、ランド52の外周面52sと第2連通室42を画成するスリーブ4の内周面との僅かなクリアランスを介して作動油が漏れ出ることがあるものの、出力ポート4oとドレンポート4dの連通が実質的に遮断される。また、第1調圧状態では、ランド52の各入力側ノッチ55、すなわち各入力側ノッチ55の出力室40o内で開口する範囲と第1連通室41とを介して入力室40iと出力室40oとが連通する。第1調圧状態において、第1連通室41(入力室40i)から出力室40oへの作動油の流入を許容する範囲の面積は、入力側ノッチ55の内縁部55bから第1連通室41と出力室40oとの境界まで距離と、内縁部55bの長さWiと、入力側ノッチ55の数との積値に概ね一致する。
【0026】
リニアソレノイドバルブ1の第1調圧状態が形成された後、スプール5がロッド20により押圧されて更にスプリング7(キャップ6)側に移動していくと、図3Dに示すように、ランド52の入力室40i側の端面52iおよび各入力側ノッチ55の全体が第1連通室41と出力室40oとの境界を越えて当該出力室40o内に位置する。かかる状態をリニアソレノイドバルブ1の第2調圧状態(第2状態)という。リニアソレノイドバルブ1の第2調圧状態では、ランド52の端面52iが出力室40o内に位置することで当該ランド52による第1連通室41の閉鎖が解除され、第1連通室41を介して入力室40iと出力室40oとが連通する。第2調圧状態において、入力室40iから出力室40oへの作動油の流入を許容する範囲の面積は、ランド52の外周長と、第1連通室41と出力室40oとの境界から端面52iまでの距離との積値となる。
【0027】
そして、リニアソレノイドバルブ1では、上記第1および第2調圧状態が形成される間、ソレノイド部2のコイルへの給電により発生するロッド20による押圧力と、スプリング7の付勢力と、フィードバックポート4f(フィードバック室40f)に供給された油圧によりスプール5に作用するソレノイド部2側への推力とをバランスさせることにより出力ポート4oから流出する作動油を所望の圧力に調圧することができる。また、スプール5がロッド20により押圧されてスプリング7に移動してストッパ部5sがスリーブ4の一部に当接すると、スプール5のスプリング7側への移動が規制されることになる。更に、本実施形態のリニアソレノイドバルブ1では、スプール5の移動に応じて微量ドレン状態または第2調圧状態が形成されてから第2調圧状態または微量ドレン状態が形成されるまでの間に、出力室40oが第1および第2連通室41,42の双方と実質的に連通しない状態(ランド52とスリーブ4とのクリアランスを介した作動油の漏れのみが生じる状態)が形成される。
【0028】
ここで、リニアソレノイドバルブ1においても、ソレノイド部2に印加される電圧の駆動周波数(PWM周波数)や作動油中のエアといった外的要因によりスプール5が微細に振動し、当該スプール5の振動に起因して出力ポート4oにおける出力圧に脈動を生じることがある。従って、リニアソレノイドバルブ1において、何ら対策を施さなければ、入力側ノッチ55を介して入力ポート4iおよび出力ポート4oが連通する第1調圧状態の形成時や、ドレンノッチ57を介して出力ポート4oおよびドレンポート4dが連通する微量ドレン状態の形成時に、スプール5の微細な振動に起因した出力圧の脈動の振幅が大きくなってしまうおそれがある。
【0029】
これを踏まえて、本発明者らは、ランド52の外周面52sに形成された入力側ノッチ55およびドレンノッチ57を含むリニアソレノイドバルブ1においてスプール5の微細な振動に起因した出力圧の脈動を低減すべく鋭意研究を行った。そして、本発明者らは、入力側ノッチ55およびドレンノッチ57のランド52の外周面52sにおける開口面積と、リニアソレノイドバルブ1の出力圧の脈動との関係に着目するに至り、例えば元圧を一定にした状態でソレノイド部2への電流を変化させたときの入力側ノッチ55およびドレンノッチ57の開口面積と出力圧の脈動との関係を解析により求めた。図4は、ランド52の外周面52sにおける入力側ノッチ55の開口面積(Li×Wi-α)と、出力圧の脈動の振幅(最大振幅)との関係を示す図表であり、図5は、ランド52の外周面52sにおけるドレンノッチ57の開口面積(Ld×Wd-β)と、出力圧の脈動の振幅(最大振幅)との関係を示す図表である。
【0030】
図4に示すように、本発明者らの解析より、ランド52の外周面52sにおける入力側ノッチ55の開口面積の総和(本実施形態では、2×[Li×Wi-α])を0.09mm2以上かつ0.57mm2以下とすることで、各入力側ノッチ55における作動油の流通性を確保しつつ、スプール5の微細な振動に起因した出力圧の脈動の振幅を最大で20kPa程度に抑えて当該脈動を良好に低減し得ることが判明した。更に、図4に示す解析結果より、ランド52の外周面52sにおける入力側ノッチ55の開口面積の総和を0.13mm2以上かつ0.45mm2以下とすることで、スプール5の微細な振動に起因した出力圧の脈動の最大振幅が15kPa程度に低下することが理解されよう。
【0031】
すなわち、ランド52の外周面52sにおける入力側ノッチ55の開口面積の総和を0.09mm2から0.57mm2までの範囲、より好ましくは、0.13mm2から0.45mm2までの範囲内に定めることで、スプール5の移動量(ストローク)に対する各入力側ノッチ55の出力室40oにおける開口面積の変化を小さくすることが可能となり、スプール5の微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅を小さくすることができる。かかる解析結果を踏まえて、本実施形態のリニアソレノイドバルブ1では、例えば、側縁部55aの長さLiが0.2mm程度に、内縁部55bの長さWiが0.8mm程度にそれぞれ定められる。なお、1つの入力側ノッチ55のランド52の外周面52sにおける開口面積は、上記範囲内に定められた開口面積(総和)を入力側ノッチ55の個数で除した値となる。また、入力側ノッチ55に関する上記数値範囲は、一般に変速機の油圧制御装置に適用されるリニアソレノイドバルブであれば、スプール径等のサイズに拘わらず有用であることが確認されている。
【0032】
更に、各入力側ノッチ55は、上述のように、真横からみて略長方形状に形成され、入力室40i側の端面52iから互いに平行かつスプール5の軸方向に延在する一対の側縁部55aを有する。これにより、図6において実線で示すように、上記第1調圧状態の形成時にスプール5の移動量(ストローク)に対して入力側ノッチ55の出力室40oにおける開口面積を略線形に変化させることができるので、スプール5の微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅の変動を良好に抑えることが可能となる。なお、本実施形態において、スプール5の移動量(ストローク)は、ストッパ部5sがスリーブ4に当接した状態でゼロになり、ソレノイド部2に近づくにつれて増加するものとする。
【0033】
また、図5に示すように、本発明者らの解析より、ランド52の外周面52sにおけるドレンノッチ57の開口面積の総和(本実施形態では、2×[Ld×Wd-β])を0.35mm2以上かつ1.45mm2以下とすることで、各ドレンノッチ57における作動油の流通性を確保しつつ、スプール5の微細な振動に起因した出力圧の脈動の振幅を最大で15kPa程度に抑えて当該脈動を良好に低減し得ることが判明した。更に、図5に示す解析結果より、ランド52の外周面52sにおけるドレンノッチ57の開口面積の総和を0.40mm2以上かつ1.25mm2以下とすることで、スプール5の微細な振動に起因した出力圧の脈動の最大振幅が10kPa程度に低下することが理解されよう。
【0034】
すなわち、ランド52の外周面52sにおけるドレンノッチ57の開口面積の総和を0.35mm2から1.45mm2までの範囲、より好ましくは、0.40mm2から1.25mm2までの範囲内に定めることで、スプール5の移動量(ストローク)に対する各ドレンノッチ57の出力室40oにおける開口面積の変化を小さくすることが可能となり、スプール5の微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅を小さくすることができる。かかる解析結果を踏まえて、本実施形態のリニアソレノイドバルブ1では、例えば、側縁部57aの長さLdが0.5mm程度に、内縁部57bの長さWdが0.8mm程度にそれぞれ定められる。なお、1つのドレンノッチ57のランド52の外周面52sにおける開口面積は、上記範囲内に定められた開口面積(総和)をドレンノッチ57の個数で除した値となる。また、ドレンノッチ57に関する上記数値範囲も、一般に変速機の油圧制御装置に適用されるリニアソレノイドバルブであれば、スプール径等のサイズに拘わらず有用であることが確認されている。
【0035】
更に、各ドレンノッチ57も、上述のように、真横からみて略長方形状に形成され、ドレン室40d側の端面52dから互いに平行かつスプール5の軸方向に延在する一対の側縁部57aを有する。これにより、図6において破線で示すように、上記微量ドレン状態の形成時にスプール5の移動量(ストローク)に対してドレンノッチ57の出力室40oにおける開口面積を略線形に変化させることができるので、スプール5の微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅の変動を良好に抑えることが可能となる。
【0036】
従って、リニアソレノイドバルブ1によりクラッチやブレーキ等への係合油圧を調圧する場合には、図7に示すように、上記第1調圧状態(図3C参照)が形成される係合処理中(係合開始から係合完了までの間)の出力圧の脈動の振幅を、例えば特許文献1に記載されたような円弧状の入力側ノッチを含むリニアソレノイドバルブを用いた場合(図8参照)に比べて大幅に小さくすることができる。また、クラッチ等の係合完了後には、リニアソレノイドバルブ1の上記微量ドレン状態(図3B参照)を形成して係合油圧を保持することで、リニアソレノイドバルブ1の応答性を良好に確保しつつ、係合油圧を保持する間の出力圧の脈動の振幅を円弧状のドレンノッチを含むリニアソレノイドバルブを用いた場合(図8参照)に比べて大幅に小さくすることが可能となる。この結果、リニアソレノイドバルブ1によれば、スプール5の微細な振動に起因した出力圧の脈動を低減することができるので、出力圧の脈動を減衰するための油圧ダンパといった脈動減衰装置の省略により当該リニアソレノイドバルブ1を含む油圧制御装置全体の低コスト化および小型化を図ることが可能となる。
【0037】
また、リニアソレノイドバルブ1において、入力側ノッチ55は、一定の深さdを有し、ランド52の入力室40i側の端面52iにおける入力側ノッチ55の開口面積は、入力側ノッチ55の外周面52sにおける開口面積よりも大きく定められる。同様に、ドレンノッチ57も、一定の深さdを有し、ランド52のドレン室40d側の端面52dにおけるドレンノッチ57の開口面積は、ドレンノッチ57の外周面52sにおける開口面積よりも大きく定められる。これにより、入力側ノッチ55およびドレンノッチ57の外周面52sにおける開口面積のみにより微量ドレン状態および第1調圧状態におけるリニアソレノイドバルブ1の出力特性を規定することが可能となる。この結果、入力側ノッチ55およびドレンノッチ57ひいてはリニアソレノイドバルブ1の設計を容易にすることができる。
【0038】
更に、リニアソレノイドバルブ1は、スプール5を出力室40o側から入力室40i側に付勢するスプリング7を含む常閉型リニアソレノイドバルブである。そして、スプール5がソレノイド部2によりスプリング7の付勢力に抗して移動させられる際には、非調圧状態(第4状態)、微量ドレン状態(第3状態)、第1調圧状態(第1状態)、第2調圧状態(第2状態)がこの順番で形成される。これにより、リニアソレノイドバルブ1では、図6からわかるように、出力室40oが入力側ノッチ55およびドレンノッチ57を介して入力室40i(第1連通室41)およびドレン室40d(第2連通室42)の双方と連通する状態が形成されなくなる。この結果、リニアソレノイドバルブ1では、スプール5の微細な振動に応じた出力圧の脈動をより良好に低減することが可能となる。
【0039】
また、図9に、スリーブ4の第2連通室42の内周面とランド52の外周面52sとの間のクリアランスの軸方向からみた面積(設計値、図2参照)に対するドレンノッチ57の軸方向からみた面積(開口面積)の総和(≒2×Wd×d)の割合γ(=ドレンノッチ57の開口面積の総和/クリアランスの面積)と、出力ポート4oにおける出力圧の脈動の振幅(最大振幅)との関係を示す。図9において、三角印は、第2連通室42の内周面とランド52の外周面52sとの間のクリアランスの軸方向からみた面積が比較的大きい(例えば、0.57mm2程度)ときの割合γと出力圧の脈動の振幅との関係を示す。更に、図9において、丸印は、当該クリアランスの軸方向からみた面積が中程度(例えば、0.46mm2程度)であるときの割合γと出力圧の脈動の振幅との関係を示す。また、図9において、四角印は、当該クリアランスの軸方向からみた面積が比較的小さい(例えば、0.36mm2程度)ときの割合γと出力圧の脈動の振幅との関係を示す。
【0040】
更に、図10に、ランド52の軸方向における長さa(図1参照)と出力室40oの軸方向における長さb(図1参照)との差であるラップ長さLw(=a-b)に対するドレンノッチ57の軸方向における長さLdの割合Ld/Lwと、出力ポート4oにおける出力圧の脈動の振幅との関係を示す。図10において、三角印は、第2連通室42の内周面とランド52の外周面52sとの間のクリアランスの軸方向からみた面積が比較的大きい(例えば、0.57mm2程度)ときの割合Ld/Lwと出力圧の脈動の振幅との関係を示す。また、図10において、丸印は、当該クリアランスの軸方向からみた面積が中程度(例えば、0.46mm2程度)であるときの割合Ld/Lwと出力圧の脈動の振幅との関係を示す。更に、図10において、四角印は、当該クリアランスの軸方向からみた面積が比較的小さい(例えば、0.36mm2程度)ときの割合Ld/Lwと出力圧の脈動の振幅との関係を示す。
【0041】
図9に示すように、割合γが40%以上かつ153%以下である場合、出力ポート4oにおける出力圧の脈動を良好に低減することが可能となる。また、図10に示すように、割合Ld/Lwが21%以上、好ましくは、21%以上かつ63%以下である場合、出力圧の脈動を良好に低減することできる。更に、ランド52の外周面52sにおけるドレンノッチ57の開口面積の総和が0.35mm2から1.45mm2までの範囲内に含まれる場合、割合γが40-153%の範囲内に含まれ、かつ割合Li/Lwが21-63%の範囲内に含まれる。従って、本実施形態において、各ドレンノッチ57は、割合γが40%以上かつ153%以下となり、かつ割合Ld/Lwが21%以上、好ましくは、21%以上かつ63%以下となるように形成される。そして、本発明者らの解析によれば、第2連通室42の内周面とランド52の外周面52sとの間のクリアランスの軸方向からみた面積が例えば0.20mm2から0.80mm2の範囲内にある場合、割合γおよびLi/Lwが上記範囲内に含まれるようにドレンノッチ57を形成(設計)することで、出力ポート4oにおける出力圧の脈動を良好に低減し得ることが確認されている。
【0042】
なお、ランド52の入力室40i側の端面52iおよびドレン室40d側の端面52dの外周には、入力側ノッチ55やドレンノッチ57が形成されていない部分に面取り加工により面取り部が形成されるが、当該面取り部の面取り半径は例えば0.1mm程度と極小さく定められるので、ランド52の端部の面取り部によって出力圧の脈動が低減されることは実質的にない。また、リニアソレノイドバルブ1は、スプール5が移動する間に、出力室40oが入力側ノッチ55およびドレンノッチ57を介して入力室40i(第1連通室41)およびドレン室40d(第2連通室42)の双方と連通する状態が形成されるように構成されてもよい。更に、本開示のリニアソレノイドバルブ1は、常開型のリニアソレノイドバルブとして構成されてもよい。また、スプール5のランド52には、単一あるいは3つ以上の入力側ノッチ55が形成されてもよく、単一あるいは3つ以上のドレンノッチ57が形成されてもよい。更に、入力側ノッチ55およびドレンノッチ57は、真横からみて、長い方の底辺が端面52iまたは52d側に位置する略等脚台形状に形成されてもよい。
【0043】
また、ドレンノッチ57(および入力側ノッチ55)は、図11に示すように、スプール5の軸方向における長さLd(あるいはLi)と、スプール5の軸方向からみたドレンノッチ57(あるいは入力側ノッチ55)の深さdとが概ね同一であると共に凹円柱面状の底面を有する凹部であってもよい。図11に示すドレンノッチ57(および入力側ノッチ55)は、同図に示すような例えば断面略円形(短尺円柱状)の刃具Tを用いて容易かつ短時間で形成可能なものである。かかるドレンノッチ57(および入力側ノッチ55)を採用することで、リニアソレノイドバルブ1の製造コストを低下させることができる。更に、リニアソレノイドバルブ1において、ランド52から入力側ノッチ55が省略されてもよい。
【0044】
以上説明したように、本開示のリニアソレノイドバルブは、入力ポート(4i)、出力ポート(4o)およびドレンポート(4d)を含むスリーブ(4)と、前記スリーブ(4)内に摺動自在に配置されるスプール(5)と、供給電力に応じて前記スリーブ(4)内で前記スプール(5)を移動させるソレノイド部(2)とを含むリニアソレノイドバルブ(1)において、前記スリーブ(4)の内部には、前記出力ポート(4o)に連通する出力室(40o)と、前記ドレンポート(4d)に連通するドレン室(40d)と、前記出力室(40o)と前記ドレン室(40d)との間に位置する共に前記出力室(40o)よりも小さい断面積を有する連通室(42)とが画成され、前記スプール(5)が、前記出力ポート(4o)と前記ドレンポート(4d)との連通状態を変化させるランド(52)を含み、前記ランド(52)の外周面(52s)に、前記ランド(52)の前記ドレン室(40d)側の端面(52d)で開口する少なくとも1つのノッチ(57)が形成され、前記ノッチ(57)が、前記ランド(52)の前記ドレン室(40d)側の端面(52dから反対側の端面(52i)に向けて前記スプール(5)の軸方向に延在すると共に前記ランド(52)の前記外周面(52s)から前記スプール(5)の軸心側に窪む凹部であり、前記スプール(5)の移動に応じて、前記ランド(52)の前記ドレン室(40d)側の前記端面(52d)が前記連通室(42)内に位置して前記ノッチ(57)および前記連通室(42)を介して前記出力室(40o)と前記ドレン室(40d)とが連通する状態と、前記ランド(52)の前記ドレン室(40d)側の前記端面(52d)が前記出力室(40o)内に位置して前記連通室(42)を介して前記出力室(40o)と前記ドレン室(40d)とが連通する状態とが形成され、前記連通室(42)の内周面と前記ランド(52)の外周面との間のクリアランスの前記軸方向からみた面積に対する前記ノッチ(57)の前記軸方向からみた面積の総和の割合(γ)が、40%以上かつ153%以下とされ、前記ノッチ(57)の前記軸方向における長さ(Ld)が、前記ランド(52)の前記軸方向における長さ(a)と前記出力室(40o)の前記軸方向における長さ(b)との差であるラップ長さ(Lw)の21%以上とされたものである。
【0045】
本発明者らは、ドレン室側の端面で開口するようにランドの外周面に形成された少なくとも1つのノッチを含むリニアソレノイドバルブにおいて、スプールの微細な振動に起因した出力圧の脈動を低減すべく鋭意研究を行い、その結果、ランドに形成されるドレン室側のノッチの寸法すなわち当該ノッチのスプールの軸方向からみたときの面積や当該軸方向における長さに着目した。そして、本発明者らは、連通室の内周面とランドの外周面との間のクリアランスの上記軸方向からみた面積に対する上記ノッチの当該軸方向からみた面積の総和の割合を40%以上かつ153%以下とし、かつノッチの軸方向における長さを、ランドの軸方向における長さと出力室の軸方向における長さとの差であるラップ長さの21%以上とすることで、ノッチにおける流体の流通性を確保しつつ、スプールの微細な振動に起因した出力圧の脈動を良好に低減し得ることを見出した。すなわち、ドレン室側のノッチの寸法を上記範囲内に定めることで、スプールの移動量(ストローク)に対するノッチの出力室における開口面積の変化を小さくすることが可能となり、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅を小さくすることができる。これにより、本開示のリニアソレノイドバルブによれば、スプールの微細な振動に起因した出力圧の脈動を低減可能となるので、出力圧の脈動を減衰するための脈動減衰装置の省略により当該リニアソレノイドバルブを含む装置全体の低コスト化および小型化を図ることができる。加えて、上記2つの状態を形成するスプールのランドのドレン室側の外周面にノッチを設けることで、ノッチの軸方向における長さ、ひいてはリニアソレノイドバルブの軸長を短縮化しつつ、出力圧の脈動を良好に減衰することが可能となる。なお、1つのノッチの軸方向からみた面積は、上記範囲内に定められた面積の総和をノッチの個数で除した値となる。
【0046】
また、前記ノッチ(57)の前記軸方向における長さ(Ld)は、前記ラップ長さ(Lw)の63%以下であってもよい。
【0047】
更に、前記ノッチ(57)の前記軸方向における長さ(Ld)と、前記軸方向からみた前記ノッチ(57)の深さ(d)とが同一であってもよい。
【0048】
また、前記ノッチ(57)の前記外周面(52s)における開口面積の総和は、0.35mm2以上かつ1.45mm2以下であってもよい。これにより、スプールの移動量(ストローク)に対するノッチの出力室における開口面積の変化を小さくすることが可能となり、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅を小さくすることができる。
【0049】
更に、前記ノッチ(57)の前記外周面(52s)における開口面積の総和は、0.40mm2以上かつ1.25mm2以下であってもよい。これにより、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅をより小さくすることができる。
【0050】
また、前記ノッチ(57)は、前記ドレン室(40d)側の前記端面(52d)から互いに平行かつ前記スプール(5)の軸方向に延在する一対の縁部(57a)を有するものであってもよい。これにより、スプールの移動量(ストローク)に対してノッチの出力室における開口面積を略線形に変化させることができるので、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅の変動を良好に抑えることが可能となる。
【0051】
更に、前記ノッチ(57)は、一定の深さ(d)を有するものであってもよく、前記ドレン室(40d)側の前記端面(52s)における前記ノッチ(57)の開口面積は、前記ノッチ(57)の前記外周面(52s)における開口面積よりも大きくてもよい。これにより、ノッチひいてはリニアソレノイドバルブの設計を容易にすることが可能となる。
【0052】
また、前記スリーブ(4)の内部には、前記入力ポート(4i)に連通する入力室(40i)と、前記入力室(40i)と前記出力室(40o)との間に位置すると共に前記出力室(40o)よりも小さい断面積を有する他の連通室(41)とが画成されてもよく、前記ランド(52)の外周面(52s)に、前記ランド(52)の前記入力室(40i)側の端面(52i)で開口する少なくとも1つの入力側ノッチ(55)が形成されてもよく、前記入力側ノッチ(55)は、前記ランド(52)の前記入力室(40i)側の端面(52i)から反対側の端面(52d)に向けて前記スプール(5)の軸方向に延在すると共に前記ランド(52)の前記外周面(52s)から前記スプール(5)の軸心側に窪む凹部であってもよく、前記スプール(5)の移動に応じて、前記ランド(52)の前記入力室(40i)側の前記端面(52i)が前記連通室(41)内に位置して前記入力側ノッチ(55)および前記連通室(41)を介して前記入力室(40i)と前記出力室(40o)とが連通する第1状態と、前記ランド(52)の前記入力室(40i)側の前記端面(52i)が前記出力室(40o)内に位置して前記連通室(41)を介して前記入力室(40i)と前記出力室(40o)とが連通する第2状態とが形成されてもよく、前記入力側ノッチ(55)の前記外周面(52s)における開口面積の総和は、0.09mm2以上かつ0.57mm2以下であってもよい。これにより、スプールの移動量(ストローク)に対する入力側ノッチの出力室における開口面積の変化を小さくすることが可能となり、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅を小さくすることができる。
【0053】
更に、前記入力側ノッチ(55)の前記外周面(52s)における開口面積は、0.13mm2以上かつ0.45mm2以下であってもよい。これにより、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅をより小さくすることができる。
【0054】
また、前記入力側ノッチ(55)は、前記入力室(40i)側の前記端面(52i)から互いに平行かつ前記スプール(5)の軸方向に延在する一対の縁部(55a)を有するものであってもよい。これにより、スプールの移動量(ストローク)に対して入力側ノッチの出力室における開口面積を略線形に変化させることができるので、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動の振幅の変動を良好に抑えることが可能となる。
【0055】
更に、前記入力側ノッチ(55)は、一定の深さ(d)を有するものであってもよく、前記入力室(40i)側の前記端面(52i)における前記入力側ノッチ(55)の開口面積は、前記入力側ノッチ(55)の前記外周面(52s)における開口面積よりも大きくてもよい。これにより、入力側ノッチひいてはリニアソレノイドバルブの設計を容易にすることが可能となる。
【0056】
また、前記リニアソレノイドバルブ(1)は、前記スプール(4)を前記出力室(40o)側から前記入力室(40i)側に付勢する弾性部材(7)を含むものであってもよく、前記スプール(4)が前記ソレノイド部(2)により前記弾性部材(7)の付勢力に抗して移動させられる際に、前記第1から第4状態が、前記第4状態、前記第3状態、前記第1状態、前記第2状態の順に形成されてもよい。すなわち、本開示のリニアソレノイドバルブは、常閉型のリニアソレノイドバルブであってもよく、かかるリニアソレノイドバルブにおいて、出力室がノッチを介して入力室およびドレン室の双方と連通する状態が形成されないようにすることで、スプールの微細な振動に応じた出力圧の脈動をより良好に低減することが可能となる。ただし、本開示のリニアソレノイドバルブは、常開型のリニアソレノイドバルブであってもよい。
【0057】
本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示の発明は、リニアソレノイドバルブの製造産業等において利用可能である。
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