(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-17
(45)【発行日】2023-04-25
(54)【発明の名称】電極、電極の製造方法および蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230418BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230418BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2022005598
(22)【出願日】2022-01-18
(62)【分割の表示】P 2017198421の分割
【原出願日】2017-10-12
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮介
(72)【発明者】
【氏名】村井 哲也
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/116533(WO,A1)
【文献】特開2018-160444(JP,A)
【文献】国際公開第2011/036797(WO,A1)
【文献】特開平02-227966(JP,A)
【文献】特開2014-212072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/84
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔と、
前記集電箔上に形成された合剤層とを備え、
前記合剤層は平面部及び傾斜部を有し、
前記傾斜部の少なくとも一部が、第1の絶縁粒子を含む第1の絶縁層に覆われ、
前記平面部の少なくとも一部が、第2の絶縁粒子を含む第2の絶縁層に覆われ、
前記第1の絶縁粒子の平均粒子径が、
前記第2
の絶縁粒子の平均粒子径よりも小さい、電極。
【請求項2】
前記集電箔の前記合剤層が形成されている合剤層形成領域と、
前記集電箔の
前記合剤層が形成されていない合剤層非形成領域との境界近傍において、
前記集電箔の少なくとも一部が、前記第1の絶縁層に覆われている、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記第1の絶縁粒子の平均粒子径が、1.8μm未満である、請求項1または2のいずれかに記載の電極。
【請求項4】
前記第2の絶縁粒子の平均粒子径が、1.8μm以上である、請求項1から3のいずれかに記載の電極。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の電極の製造方法であって、
乾式塗工法により、前記第2の絶縁層を形成することを含む、電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の電極を備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、電極の製造方法および蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池においては、その安全性を高める手法として、活物質を含む合剤層を絶縁層でコートする手法が用いられることがある。絶縁層を設けることにより、セパレータが収縮あるいは破膜した場合にも、正負極間の絶縁性が確保される。より具体的には、集電箔と、集電箔上に設けられた合剤層を有する電極について、電極端部の短絡を防止するため、合剤層の端部と集電箔を絶縁層でコート(エッジコート)し、また、正極と負極との合剤層の短絡を防止するため、少なくとも一方の電極の合剤層の表面を絶縁層でコート(オーバーコート)する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】再公表特許WO2010/116533号公報
【文献】特開2016-225077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、上記絶縁層は絶縁粒子で構成される。このような絶縁層を形成する場合、電解液の絶縁層に対する浸透性に起因する電池性能の向上を図るべく絶縁粒子を大粒径化すると、合剤層の端部に金属コンタミが侵入するリスクが高くなるという問題があり、電池性能の維持と金属コンタミ侵入の防止とを両立することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電極は、集電箔と、該集電箔上に形成された合剤層とを備え、合剤層の端部の少なくとも一部が、第1の絶縁粒子を含む第1の絶縁層に覆われ、合剤層の平面部の少なくとも一部が、第2の絶縁粒子を含む第2の絶縁層に覆われ、該第1の絶縁粒子の平均粒子径が該第2絶縁粒子の平均粒子径よりも小さい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、合剤層の端部と合剤層の平面部において、それぞれ平均粒子径の異なる絶縁粒子を用いて絶縁層を形成することにより、電池性能の悪化を抑制しつつ、金属コンタミの侵入をも防止し得る電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による電極の概略断面図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態による電極の概略部分断面図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態による非水電解質二次電池の概略構成を示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.電極の概要
図1は、本発明の1つの実施形態による電極の概略断面図である。電極101は、集電箔10と、集電箔上に形成された合剤層20とを備える。合剤層20の端部21の少なくとも一部は、第1の絶縁層30に覆われており、合剤層20の平面部22の少なくとも一部は、第2の絶縁層40に覆われている。
【0009】
第1の絶縁層30は、第1の絶縁粒子31を含む。また、第2の絶縁層40は、第2の絶縁粒子41を含む。第1の絶縁粒子31の平均粒子径は、第2の絶縁粒子41の平均粒子径よりも小さい。
【0010】
なお、本明細書において、合剤層20の平面部22とは、電極101において、合剤層20の集電箔10とは反対側の面であり、厚みが略一定である面を意味する。また、合剤層20の端部21は、合剤層20の傾斜部のことであり、平面部の両端において平面部より合剤層の厚さが徐々に小さくなっている部分のことである。
図2(a)は、
図1に示す電極の合剤層の端部を示す概略部分断面図である。この実施形態においては、合剤層20の端部21(傾斜部)全体に第1の絶縁粒子31が付着して、第1の絶縁層が形成されている。
図2(b)は、本発明の別の実施形態による電極の合剤層の端部を示す概略部分断面図である。この実施形態においては、合剤層20の端部21(傾斜部)の一部に第1の絶縁粒子31が付着して、第1の絶縁層が形成されている。
図2(c)は、本発明のさらに別の実施形態による電極の合剤層の端部を示す概略部分断面図である。この実施形態においては、合剤層20の端部21(傾斜部)および合剤層20の平面部22の周辺近傍に第1の絶縁粒子31が付着して、第1の絶縁層が形成されている。第2の絶縁層が、平面部22の少なくとも一部に付着していることは上記のとおりであるが、
図2(b)に示すように、第2の絶縁層は端部21の少なくとも一部にも付着していてもよい。また、
図2(b)で例示されるように、第1の絶縁層と第2の絶縁層とは、重なりあっていてもよい。1の絶縁層と第2の絶縁層とが重複していることで、確実に合剤表面の全体を絶縁層で覆うことができる。1つの実施形態においては、合剤層の端部において、第1の絶縁層と第2の絶縁層とが重なりあう。合剤層の平面部より厚みの薄い合剤層の端部で重複させることで、電極が厚くなるのを防ぐことができる。好ましくは、重なりあう部分において、第2の絶縁層は第1の絶縁層上に配置される。なお、上記「平面部の周辺近傍」とは、平面部と傾斜部との境界から5mm以内(好ましくは2mm以内)の範囲にある領域を意味する。
【0011】
絶縁層を備える本発明の電極を用いて非水電解質二次電池を構成すれば、セパレータが収縮、あるいは破膜した場合にも、正負極間の絶縁性が確保される。本発明においては、粒子径が比較的小さい第1の絶縁粒子を用いることにより、絶縁粒子間の隙間を狭くして第1の絶縁層を形成することができる。その結果、第1の絶縁層は、コンタミ(特に、金属コンタミ)の合剤層への侵入を有効に防止する。一方、粒子径が比較的大きい第2の絶縁粒子を用いることにより、絶縁粒子間の隙間を広くして第2の絶縁層を形成することができる。その結果、第2の絶縁層では、優れた電解液の浸透性が得られる。本発明においては、コンタミ侵入の可能性が高い合剤層の端部に、第1の絶縁粒子が密に存在する第1の絶縁層を形成し、かつ、対極に対向して配置するためにコンタミが侵入し難い合剤層表面に、電解液浸透性に優れる第2の絶縁層を形成することにより、電池性能の悪化を抑制しつつ、金属コンタミの侵入をも防止し得る電極を得ることができる。
【0012】
1つの実施形態においては、
図1に示すように、電極101は、合剤層20が形成されている合剤層形成領域11と、合剤層が形成されていない合剤層非形成領域12とを有する(すなわち、集電箔10は、合剤層形成領域11および合剤層非形成領域12から構成される)。1つの実施形態においては、合剤層形成領域11と合剤層非形成領域12との境界近傍において、集電箔10(合剤層非形成領域)の少なくとも一部が、第1の絶縁層30に覆われている。換言すると、この実施形態において、第1の絶縁層30は、合剤層20の端部21の少なくとも一部と集電箔10の少なくとも一部とを連続して覆う。第1の絶縁層30をこのような構成とすることにより、絶縁効果およびコンタミの侵入を防止する効果が顕著となる。
【0013】
合剤層形成領域と合剤層非形成領域との境界近傍に第1の絶縁層が形成される場合、集電箔(合剤層非形成領域)上に第1の絶縁層が形成される範囲は、合剤層形成領域と合剤層非形成領域との境界近傍から2mm~10mmの範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明の電極は、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池の正極または負極として用いられる。1つの実施形態においては、本発明の電極は、非水電解質二次電池の正極として用いられる。絶縁層が形成された正極を用いれば、セパレータと正極合剤層との接触を回避することができ、セパレータが酸化することを防止し得る。
【0015】
B.第1の絶縁層
上記のとおり、第1の絶縁層は、第1の絶縁粒子から構成される。
【0016】
上記第1の絶縁粒子の平均粒子径は、好ましくは1.8μm未満であり、より好ましくは0.2μm~1.2μmであり、さらに好ましくは0.2μm~0.8μmである。このような範囲であれば、粒子間の隙間を小さくすることができるので、コンタミがより侵入し難い第1の絶縁層を形成することができる。
【0017】
本明細書において、「平均粒子径」とは、JIS-Z-8815(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0018】
上記第1の絶縁粒子は、D10、D50およびD90が、好ましくは(D90-D10)/D50≧0.7の関係を満たし、より好ましくは(D90-D10)/D50≧0.85の関係を満たす。なお、D10は、上記粒径分布において体積基準積算分が10%となる値を意味し、D50は、当該体積基準積算分布が50%となる値(すなわち、上記平均粒子径)を意味し、D90は、当該体積基準積算分布が90%となる値を意味する。上記のD10、D50およびD90の関係は、粒度分布の広いことを示す。このような関係を満たしていれば、大きい粒子の粒子間に小さい粒子が入り込み易くなり、コンタミがより侵入し難い第1の絶縁層を形成することができる。なお、第1の絶縁粒子の(D90-D10)/D50は大きいほど好ましいが、その上限は、例えば1.5である。
【0019】
上記第1の絶縁粒子を構成する材料としては、絶縁性を有する限り、任意の適切な材料を用いることができる。第1の絶縁粒子を構成する材料としては、例えば、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、シリカ、ジルコニア、マグネシア等の金属酸化物が挙げられる。また、炭化珪素等の珪化物、窒化アルミニウム等の窒化物等を用いてもよい。上記第1の絶縁粒子の形状は特に限定されないが、塗工性や電解液の浸透性の観点から、球状または塊状が好ましい。ここで、球状または塊状とはアスペクト比が1.5以下の形状のことを示す。
【0020】
1つの実施形態においては、第1の絶縁層は、第1のバインダをさらに含む。第1のバインダは、第1の絶縁粒子同士を結着させる機能を有し、第1のバインダを用いることにより、第1の絶縁粒子が脱離し難い第1の絶縁層を形成することができる。
【0021】
上記第1のバインダとしては、本発明の効果が得られる限り、任意の適切な材料を用いることができる。第1のバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリメタクリル酸メチルなどのポリアクリル酸樹脂、ポリイミドおよびポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム等が挙げられる。
【0022】
上記第1のバインダの含有量は、上記第1の絶縁層100重量部に対して、好ましくは1重量部~30重量部であり、より好ましくは1重量部~15重量部であり、さらに好ましくは3重量部~10重量部である。このような範囲であれば、第1の絶縁粒子が脱離し難い第1の絶縁層を形成することができる。なお、後述の乾式塗工法により第1の絶縁層を形成する場合は、第1のバインダの含有量は、第1の絶縁層100重量部に対して、10重量部~30重量部であることが好ましい。
【0023】
上記第1の絶縁層の面積は、上記合剤層の端部(傾斜部)の総面積に対して、好ましくは20%以上であり、より好ましくは30%以上である。
【0024】
C.第2の絶縁層
上記のとおり、第2の絶縁層は、第2の絶縁粒子から構成される。好ましくは、第2の絶縁層は、第2のバインダをさらに含む。第2のバインダは、第2の絶縁粒子同士を結着させる機能を有し、第2のバインダを用いることにより、第2の絶縁粒子が脱離し難い第2の絶縁層を形成することができる。
【0025】
上記第2の絶縁粒子の平均粒子径は、好ましくは1.8μm以上であり、より好ましくは1.8μm~5.0μmであり、特に好ましくは1.8μm~3.5μmである。このような範囲であれば、絶縁粒子間の隙間を大きくできるので、電解液の浸透性に優れる第2の絶縁層を形成することができる。また、第2の絶縁粒子が、合剤層の活物質粒子間に容易に入り込むことを防止することができる。
【0026】
上記第1の絶縁粒子の平均粒子径に対する上記第2の絶縁粒子の平均粒子径の比(第2の絶縁粒子の平均粒子径/第1の絶縁粒子の平均粒子径)は、好ましくは1.2~8であり、さらに好ましくは1.5~6である。このような範囲であれば、合剤層への電解液の浸透性向上と、合剤層への金属コンタミ侵入防止とが高度に両立した電極を得ることができる。
【0027】
上記第2の絶縁粒子は、D10、D50およびD90が、好ましくは(D90-D10)/D50≦0.8の関係を満たし、より好ましくは(D90-D10)/D50≦0.7の関係を満たす。上記のD10、D50およびD90の関係は、粒度分布が狭く粒子径の揃っていることを示す。同じ程度の粒子径の粒子であることから粒子間に隙間が発生しやすく、D10、D50およびD90が上記関係を満たしていれば、電解液浸透性に顕著に優れる第2の絶縁層を形成することができる。なお、第2の絶縁粒子の(D90-D10)/D50は小さいほど好ましいが、その下限は、例えば0.5である。
【0028】
上記第2の絶縁粒子を構成する材料としては、絶縁性を有する限り、任意の適切な材料を用いることができる。第2の絶縁粒子を構成する材料としては、例えば、上記B項で説明した材料が用いられ得る。
【0029】
上記第2のバインダを構成する材料としては、本発明の効果が得られる限り、任意の適切な材料を用いることができる。第2のバインダを構成する材料としては、例えば、上記B項で説明した材料が用いられ得る。
【0030】
上記第2のバインダの含有量は、上記第2の絶縁層100重量部に対して、好ましくは1重量部~30重量部であり、より好ましくは1重量部~15重量部であり、さらにより好ましくは3重量部~15重量部である。このような範囲であれば、第2の絶縁粒子が脱離し難い第2の絶縁層を形成することができる。後述の乾式塗工法により第2の絶縁層を形成する場合は、第2のバインダの含有量は、第2の絶縁層100重量部に対して、10
重量部~30重量部が好ましい。
【0031】
上記第2の絶縁層の厚みは、好ましくは2μm~15μmであり、より好ましくは3μm~10μmである。
【0032】
上記第2の絶縁層の厚みの第2の絶縁粒子の平均粒子径に対する比(厚み/平均粒子径)は、好ましくは1~8あり、より好ましくは1.2~5であり、さらに好ましくは1.2~3である。このような範囲であれば、電池性能への悪影響が小さく、絶縁性に優れる第2の絶縁層を形成することができる。また、後述の乾式塗工法を用いれば、合剤層の抵抗が高くなるのを防止しつつ、第2の絶縁粒子の平均粒子径に対する厚み比を小さくすることができる。第2の絶縁層の厚みを小さくした分、合剤層の質量を大きくできるので、電池のエネルギー密度を高くすることができる。
【0033】
上記第2の絶縁層の面積は、上記合剤層の平面部の総面積に対して、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、特に好ましくは100%である。
【0034】
上記第2の絶縁層の空隙率は、好ましくは10%~50%であり、より好ましくは15%~35%である。電池性能への悪影響が小さく、絶縁性に優れる第2の絶縁層を形成することができる。
【0035】
D.集電箔
上記集電箔としては、非水電解質二次電池に常用される任意の適切な集電箔が用いられ得る。上記電極が負極として構成される場合、集電箔としては、例えば、銅箔等の金属箔が用いられる。上記電極が正極として構成される場合、集電箔としては、例えば、アルミニウム箔等の金属箔が用いられる。
【0036】
E.合剤層
1つの実施形態においては、上記電極が負極として構成される場合、合剤層は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛)、コークス類、活性炭の炭素材料、アルミニウム、ケイ素とリチウムとの合金、金属リチウム、LiFe2O3、WO2、MoO2、SiO、CuO等の金属酸化物等が挙げられる。負極活物質は、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
別の実施形態においては、上記電極が正極として構成される場合、合剤層は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む。正極活物質としては、組成式LixMO2、LiyM2O4、NaxMO2(ただし、Mは1種類以上の遷移金属、0≦x≦1、0≦y≦2)で表される複合酸化物、トンネル構造または層状構造の金属カルコゲン化物、金属酸化物等の、リチウムを吸蔵放出する遷移金属酸化物を用いることができる。その具体例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1/2Mn1/2O2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiCoxNi1-xO2、LiMn2O4、Li2Mn2O4等が挙げられる。
【0038】
上記合剤層は、結着剤、導電剤、増粘剤、フィラー等の添加剤をさらに含み得る。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエン・ゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、フッ素ゴム、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。導電剤としては、例えば、アセチレンブラックやカーボンブラックの炭素材が挙げられる。
【0039】
F.電極の製造方法
上記電極は、集電箔と合剤層とから構成される積層体に、第1の絶縁粒子および第2の絶縁粒子のそれぞれをバインダと共に塗工し、第1の絶縁層および第2の絶縁層を形成することにより製造され得る。第1の絶縁粒子は、合剤層の端部(傾斜部)に塗工される。1つの実施形態においては、第1の絶縁粒子は、合剤層形成領域と合剤層非形成領域との境界近傍に塗工され、その結果として、合剤層の端部の一部および集電箔(合剤層非形成領域)の少なくとも一部に第1の絶縁層が形成される。また、第1の絶縁粒子が合剤層の平面部の周辺近傍にも付着するように、第1の絶縁粒子を塗工してもよい。第2の絶縁粒子は、対極と対向している合剤層の平面部に塗工される。第2の絶縁層は合剤層の平面部の全面に塗工することが好ましい。そうすることで、セパレータが収縮又は破膜した際に、正極および負極の短絡を防ぐことができる。また、第2の絶縁粒子は、合剤層の端部の一部にも付着するようにして、塗工されてもよい。
【0040】
第1の絶縁粒子を合剤層の端部に塗工した後、第2の絶縁粒子を合剤層の平面部に塗工することが好ましい。このようにして第1の絶縁層および第2の絶縁層を形成することにより、第1の絶縁粒子と合剤層とが接することとなる。その結果、第1の絶縁粒子やバインダが合剤層表面の凹凸に入り込み易くなり、一部の活物質粒子間を塞ぐので、より一層コンタミの侵入を防止することができる。
【0041】
上記第1の絶縁層および第2の絶縁層を形成する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、絶縁粒子、バインダおよび溶媒(例えばNMP)を含むスラリー状の絶縁層形成材料を塗工する湿式塗工法や、溶媒を用いずに絶縁粒子とバインダ粒子とを複合化させて塗工する乾式塗工法などにより、集電箔と合剤層とから構成される積層体に、絶縁粒子およびバインダを塗工して、絶縁層を形成することができる。ここで、乾式塗工とは、溶媒を用いずに塗工する方法である。
【0042】
1つの実施形態においては、第1の絶縁層は湿式塗工法により形成され、第2の絶縁層は乾式塗工法により形成される。第1の絶縁層を湿式塗工法で形成することで、溶媒と共にバインダが合剤層の端部に浸透し、活物質粒子間をバインダで塞ぐことができる。よって、よりコンタミの侵入を防止することができる。一方、第2の絶縁層を乾式塗工法により形成することで、合剤層の平面部においてバインダが活物質粒子間に浸透することを防ぐことができる。よって、合剤層への電解液の浸透性が低下することなく、抵抗が高くなるのを防ぐことができる。さらに、乾式塗工法を用いれば、粒子径の大きい絶縁粒子を均一に薄く塗工することができるため、乾式塗工法は、比較的粒径の大きい第2の絶縁粒子から構成される第2の絶縁層の形成に好適である。
【0043】
第1の絶縁層と第2の絶縁層とは、合剤層の端部で重なっていることが好ましい。第1の絶縁層と第2の絶縁層とが重複していることで、確実に合剤表面の全体を絶縁層を覆うことができる。また、合剤層の平面部より厚みの小さい合剤層の端部で重複させることで、電極が厚くなるのを防ぐことができる。
【0044】
乾式塗工法の1つの実施形態として、絶縁粒子およびバインダ粒子の複合体を、静電引力により、集電箔と合剤層とから構成される積層体に付着させる静電塗工が挙げられる。より具体的には、(i)絶縁粒子と、粒子状のバインダ(以下、バインダ粒子ともいう)とを混合して複合体を得る工程、(ii)静電塗工により、その複合体を、集電箔と合剤層とから構成される積層体に付着させる工程、(iii)その複合体を加熱する工程を経て、絶縁層が形成される。第2の絶縁層を乾式塗工により形成する場合、上記(ii)の工程において、上記複合体(第2の絶縁粒子と第2のバインダ粒子とから構成される複合体)は、合剤層の平面部(および、必要に応じて端部の一部)に付着される。
【0045】
第2のバインダ粒子の平均粒子径(上記加熱前の平均粒子径)は、好ましくは0.1μm~0.5μmであり、より好ましくは0.15μm~0.3μmである。このような範囲であれば、絶縁性および電解液浸透性に優れる第2の絶縁層を形成することができる。バインダ粒子の平均粒子径(上記加熱前の平均粒子径)は、第2の絶縁粒子の平均粒子径よりも小さいことが好ましい。
【0046】
静電塗工では、静電塗工用電極を備えた塗工ブース内に、上記集電箔と合剤層とから構成される積層体および絶縁粒子とバインダ粒子との複合体を投入し、これら積層体および複合体を帯電させ、静電引力により集電箔と合剤層とから構成される積層体に複合体を付着させる。このとき、絶縁層の形成が所望されない箇所には、マスク等して上記複合体の付着を防ぐことが好ましい。例えば、集電箔(合剤層非形成領域)をマスクする等の方法により、集電箔(合剤層非形成領域)に第2の絶縁層が形成されないようにすることができる。
【0047】
静電塗工の後、上記複合体が付着した上記積層体を加熱することで、バインダ粒子が融着して、絶縁粒子およびバインダ粒子を固定化する。加熱温度は、バインダ粒子の種類に応じて任意の適切な温度とされ得る。加熱方法としては、上記複合体が付着した上記積層体を加熱炉に投入する方法、加熱ロールを用いて上記複合体が付着した上記積層体をプレスしながら加熱する方法等が挙げられる。
【0048】
電極の製造方法に関する実施形態の一例を以下に示す。
1.正極活物質、正極合剤層用のバインダ、導電助剤および溶媒を所定の割合で混合することで、スラリー状の正極合剤層形成材料を作製する。その正極合剤層形成材料を帯状の集電箔上に帯状の長手方向に塗工する。この塗工では、集電箔の幅より狭い幅で正極合剤層形成材料を集電箔上に塗工する。正極合剤層形成材料を加熱して溶媒を揮発させることで正極合剤層を形成させる。
2.第1の絶縁粒子、第1のバインダおよび溶媒を所定の割合で混合することで、スラリー状の第1の絶縁層形成材料を作製する。そのスラリー状の第1の絶縁層形成材料を正極合剤層の合剤層形成領域と合剤層非形成領域との境界近傍に集電箔の長手方向に沿って塗工する。つまり、集電箔の一部と正極合剤層の端部の一部に第1の絶縁層形成材料を塗工する。塗工後、加熱して溶媒を揮発させることで第1の絶縁層を形成する。なお、正極合剤層形成材料を加熱する前に第1の絶縁層形成材料を塗工して、その塗工後に加熱することで正極合剤層形成材料の溶媒と第1の絶縁層形成材料の溶媒とを同時に揮発させてもよい。
3.第2の絶縁粒子と第2のバインダの粒子とをメカノフュージョン等により混合することで、第2の絶縁粒子の表面に第2のバインダ粒子を付着させた複合体を形成させる。その複合体を上記の静電塗工により、正極合剤層の平面部に付着させる。その付着後に加熱することで第2の絶縁層を形成する。
【0049】
G.非水電解質二次電池
図3は、本発明の1つの実施形態による非水電解質二次電池の概略構成を示す一部破断斜視図である。非水電解質二次電池110は、集電箔および正極合剤層を備える正極100と、集電箔および負極合剤層を備える負極200とを備える。代表的には、
図3に示すように、非水電解質二次電池110は、正極100と負極200とがセパレータ300を挟んだ状態で巻回されて構成される発電要素111を備える。発電要素111は、セパレータ300に非水電解質を含浸させた状態で、電池ケース112内に収納される。電池ケース112は、例えば、上面側に開口を有する略箱型である。当該開口は板状の電池蓋113によって塞がれている。電池蓋113には正極端子114および負極端子115が設けられており、正極端子114は正極リード116を介して正極100と、負極端子11
5は負極リード117を介して負極200と、それぞれ電気的に接続されている。
【0050】
非水電解質としては、任意の適切な非水電解質が用いられる。非水電解質は、非水溶媒と電解質塩を含む。非水溶媒としては、例えば、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジフェニルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、スチレンカーボネート、等が挙げられる。これらの非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiPF2(C2O4)2、LiPF3(CF2CF3)3、LiPF4(C2O4)、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、等のイオン性化合物が挙げられる。
【0051】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を主成分とする微多孔膜等が用いられる。微多孔膜は、単独で単層膜として用いてもよいし、複数を組み合わせて複合膜として用いてもよい。また、微多孔膜は、各種の可塑剤、酸化防止剤、難燃剤等の添加剤を適量含有していてもよい。
また、正極と負極間の絶縁性を確保できる場合はセパレータなしでも用いることができる。
【0052】
上記の実施形態では、正極に第1の絶縁層および第2の絶縁層を形成したが、負極にそれぞれの絶縁層を形成してもよい。また、正極および負極の両方に絶縁層を形成してもよい。
上記の実施形態では、第1の絶縁層を湿式塗工法で、第2の絶縁層を乾式塗工法で形成したが、これには限らない。第1の絶縁層および第2の絶縁層ともに湿式塗工法で形成してもよいし、第1の絶縁層および第2の絶縁層ともに乾式塗工法で形成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 集電箔
20 合剤層
30 第1の絶縁層
31 第1の絶縁粒子
40 第2の絶縁層
41 第2の絶縁粒子